2025.06.23 TEAM

15 年におよぶ海外経験と事業経営を経て投資の世界へ

——林さんはAngel Bridgeの立ち上げに参画されるまで、どのようなキャリアを歩んでこられたのですか?

大学卒業後、入社した伊藤忠商事では鉄鋼部門に配属され、ドイツに9年、アメリカに6年駐在していました。鉄鋼は基礎産業のひとつに数えられ、建設や自動車、機械など、非常に多様な用途があります。そのためいろいろな業種の方とお付き合いする機会に恵まれました。

——鉄鋼部門ではどのようなお仕事を?

ドイツでは、東ヨーロッパで製造した鉄鋼をアフリカ市場向けに販売したり、自動車用鋼板を製造する工場を建て、ヨーロッパに進出した日本の自動車メーカー向けに販売したりしていましたね。アメリカでも引き続き自動車産業向けに鋼板を製造する会社で経営管理に携わっていたので、仕事人生の前半は鉄鋼一筋でした。

——その後、それまでとは違う業界へ転身され、1部上場企業取締役などを務められました。

はい。長らく鉄鋼畑でしたし、海外駐在歴も15年を超えようとしていましたから、これまでとはまったく違う環境でチャレンジしたくなり、日本の食品会社に転職したんです。扱う商品も鉄から食品に変わり、これまで培った経験がすべて生かせるわけではありません。でもそれがかえってよかったんです。食品製造や販売に関する知識が身につき仕事の幅が格段に広がりましたし、いまにつながる人脈もたくさんできたからです。

——2015年にAngel Bridgeを設立するまで、個人会社を設立されエンジェル投資家として活動していたそうですね。なぜスタートアップに関心を?

駐米時代、MBAを取るために自費で通いはじめたノースウエスタン大学ケロッグ経営大学院で、当時学部長を務めていたドナルド・ジェイコブス氏の言葉がきっかけです。「アメリカの原動力は起業にあり、アントレプレナーシップにある」といわれ感化されました。ただ、伊藤忠という大きな会社の一員だったせいか、入学当初はその言葉にあまりピンときていなかったんです。それでも大学院で学ぶうち、スタートアップが産業のなかで果たす役割や、社会に与える影響の大きさを知り、自分もこの世界に関わりたいと考えるようになりました。

——支援側にご自身の役割を見出されたわけですか?

ええ。もちろん自らの手でスタートアップを興そうと思った時期もありましたが、私には到底できないだろう大きな困難が伴う社会課題の解決にチャレンジしている起業家を見て、少し考えが変わりました。こうしたすばらしい起業家のために自分の経験や能力を使うことも、アリなのではないかと思ったからです。実は私がエンジェル投資家として初期投資に関わった1社に2020年に東証マザーズ市場に上場を果たしたグルメプラットフォームのRettyもありました。

——その後、Angel Bridgeの設立に参加し、エンジェル投資家からベンチャーキャピタルリストに転じました。どのような心境の変化があったんでしょうか?

投資を通じて人の輪が広がりスタートアップ支援への情熱が高まるにつれ、ひとりでできることの限界を感じるようになりました。投資先によっては、高度な知識を要する事業分野もありますし、個人投資では資金にも限界があります。ちょうどそんなタイミングで出会ったのが、当時PEファンドに在籍しながら、投資の目利き力を磨くためエンジェル投資を行っていた河西です。一緒に手がけた投資案件の目処が立ち、さらに2社目の投資をどうするかという話の流れのなかで、彼からPEファンドを辞めてVCを立ち上げたいと聞きました。1社目の投資で河西に全幅の信頼が置けると感じていましたし、彼の熱意に応えたいという思いもあってAngel Bridgeの立ち上げに加わることに決めたんです。

——河西さんのどんな点を評価されたのですか?

最初の投資案件を通して、河西の投資判断の確かさやビジネスに対する見識の高さ、バイオ領域など、非常に尖った領域への知見、そして彼の人柄のよさですね。一方で私には国内外での事業経験や経営経験があります。河西と私とでは出身母体はもちろん、カバーしている知見も違えば、年齢もキャラクターも違いますが、スタートアップへの支援を通して日本からメガベンチャーを生み出したいという思いは同じです。だからこそ、一緒に組む価値があると思いました。

 

さまざまな取り組みを通じて広がる信用の輪

——林さんがスタートアップ投資やハンズオン支援において大事にされていることは何ですか?

投資にあたっては、起業家が「どんな考えをお持ちで、どんな課題に向き合っているか」、その次に「手がける事業を通じてどれだけ大きいビジョンを描いているか」「諦めず定めた目標に向かって走りきれるか」を吟味します。もちろん事業の将来性を知るための指標も大事なのですが、事業を構想している段階や立ち上げ直後には、世に問うべきプロトタイプも、見るべき数字もないことがしばしばです。また、企業経営においては、思いも寄らないトラブルや想像を超える課題に直面することがよくあります。こうした試練を乗り越えられるかどうかは、組織を率いるトップの資質に委ねられる部分が大きいので、起業家のお考えや人となりについてはとくに注意深く見るようにしています。

——だとすると、何をもとに起業家の資質を推し量るのでしょう?

主観的な判断では、どうしても人によって見るべきポイントがブレてしまいます。そのため、より客観的にその方の価値観や能力を知るために、構造化された質問がとても有効です。われわれは相手方がどんな志向をお持ちで、どういったことに好奇心が惹かれるかといった質問を手がかりに、あらかじめ決めておいた質問に沿って「胆力」「影響力」「分析力」「洞察力」の有無や程度を見極めます。Angel Bridgeメンバーは全員がこのメソッドを体得しているので、メンバー間でビジネスの将来性や細かい数字をどう評価すべきかについて議論になることはあっても、起業家の資質についての評価が大きくブレることはほとんどありません。

——Angel Bridgeの投資先の方々にお話を聞くと「林さんの紹介で新規顧客の開拓に成功した」「よい方を採用できた」という話をよく聞きます。人脈づくりのため取り組んでいることはありますか?

Angel Bridge全体での取り組みとしては、各人が​​出身校やゼミのメンバー、出身企業の方々を集めたフットサルやゴルフ、スカッシュ、またバーベキューや飲み会といったレクリエーションイベント、また、われわれの投資先を招いて定期的に開催している「クロスラーニングの会」などの勉強会を通じて、参加者と親睦を深め、起業や転職への意欲などの1次情報に触れやすい環境づくりを行っています。こうした日々の取り組みを通じて人の輪を広げているんです。

——林さんが個人的に取り組まれていることもあるそうですね。

はい。実はプライベートで、年に3、4回、毎回テーマを決め、ユニークな活動をされている方をお呼びする交流会を開いているんです。参加者は普段私が仕事を通じて出会う方だけでなく、古典芸能やお笑い、料理など、各分野のエキスパートに大勢集まっていただく大変賑やかな会です。私を含め、みなさん純粋に楽しむことを目的にいらしているのですが、ときとして仕事につながることもあります。異業種交流会のようなビジネスを前面に押し出していないことが、かえって人間関係の広がりにいい影響を与えているのかも知れません。

——大事にしていることは?

こうした場にひとつでも多く立ち会うためには、やはり信用は欠かせません。人間関係はブロックチェーンのようなもので、1度でも毀損してしまえばその影響は後々まで残ってしまうもの。ですから仕事はもちろんプライベートでも信用を何よりも大切にしています。

 

築き上げたエコシステムをさらに大きくしていきたい

——ベンチャーキャピタリストとしての林さんは、どんなときに仕事のやりがいを感じますか?

投資先が株式上場を果たすような大きな節目に、支援に携わったひとりとして達成感や喜びを感じるのはもちろんなのですが、私の場合はむしろ、投資先の方々から「組織がこれだけ大きくなりました」とか「目標にしていた売上が達成できました」とか、こうした日々の成長を実感するような言葉をかけていただいたときに、より大きなやりがいを感じるタイプです。

——Angel Bridgeの立ち上げから2025年で丸10年です。林さんはAngel BridgeをこれからどのようなVCにしたいですか?

創業から10年経ち、われわれに資金を提供してくださる投資家のみなさんや、アントレプレナーシップを持つ起業家のみなさんを含むエコシステムをつくることができました。幸いAngel Bridgeには、代表パートナーの河西を筆頭に、若く優秀なメンバーが在籍しています。順調に成長している手応えを感じますが、この状況に満足せずこれからもスタートアップ投資やハンズオン支援に意欲を持った仲間を集め、この10年で築いたエコシステムをさらに大きくしていきたいですね。個人的な思いとしては、河西をNo.1ベンチャーキャピタリストにすることが私の夢であり目標です。

——ありがとうございます。では、最後に志あるスタートアップ起業家や投資家志望のみなさんにメッセージをお願いします。

成功の定義はさまざまですが、まずは最初の1歩を踏み出さなければ何もはじまりません。歩を止めず、真摯に前に進み続ければきっと成功に近づけます。人生は1度きりです。もしキャリアの選択肢に「スタートアップ」が含まれるなら、悔いを残すことのないよう勇気を持ってチャレンジしていただきたいと思います。新たな挑戦には困難がつきものです。ハードシングスもあれば迷いが生じるときもあるでしょう。でも、みなさんのそばにはわれわれがいます。プロフェッショナリズムと熱いハートで支えることをお約束しますから、みなさん安心して飛び込んでいただきたいですね。

2025.06.18 INTERVIEW

セールスイネーブルメントで「日本の受注率を上げる」

——amptalkはどのようなサービスを提供する企業なのでしょうか?

猪瀬:端的に申し上げると「日本の受注率を上げる」SaaSを提供する会社です。「受注率を上げる」といってもその方法はいくつもあるわけですが、われわれは「セールスイネーブルメント」領域に特化し、商談解析ツール「amptalk analysis」とAI商談ロープレ「amptalk coach」を通じて、その目的を果たそうとしています。

——「セールスイネーブルメント」が求められる背景を教えてください。

猪瀬:多くの企業がセールス業務の効率化を狙い、SFA(Sales Force Automation)の活用に取り組んでいますが、データ入力など間接業務の増加や、入力データの正確性をいかに担保するかに頭を悩ませているのが実情です。さらに少子高齢化によってセールスの担い手が減り人材の流動化も高まっています。OJTに依存したぶっつけ本番型の人材育成手法では、営業ノウハウの属人化や営業プロセスのブラックボックスの解消はなかなか進みません。こうしたセールスを取り巻く構造的な課題を解決するため、われわれは強靱な営業組織を育てる「セールスイネーブルメント」に着目。音声認識技術や生成AIを活用した商談解析技術とSFAへの自動入力、商談トレーニングによる営業力強化によって「日本の受注率」を高めようとしています。

——事業の状況はいかがですか?

猪瀬:amptalkを創業した2020年はコロナ禍の影響で、商談が一気にリモートにシフトした時期です。この出来事を契機に以前より商談の音声データが格段に収集しやすくなり、分析環境の土台が一気に整いました。その後、生成AIの急速な普及も追い風となり、われわれのプロダクトへの注目度はますます高まっています。現在はさまざまなお客様からお引き合いいただいている状況です。

——セールスイネーブルメントという言葉は、日本でも最近耳にするようになりましたが、一般にはまだ耳馴染みのない言葉です。いつごろからセールスイネーブルメントに関心を持つようになったのですか?

猪瀬:「セールスイネーブルメント」という言葉を知ったのは、前職時代に米国のヘルスケアカンパニーに出向していた2017年のことです。セールスプロセスのDXプロジェクトに携わっていた当時、米国では、営業力強化を謳う「セールスイネーブルメント」の注目度が急速に高まっており、いずれこの波が日本にもやってくると感じました。起業するにあたってセールスイネーブルメントをテーマに選んだのは、日米で営業やマーケティングに携わった経験を生かしたかったのもさることながら、日本では未開拓であり将来性の高さを感じたからです。

——どのような顧客をターゲットにしたサービスですか?

猪瀬:先ほど申し上げた営業現場の課題は、企業の大小を問いません。強いていえば、営業成績が事業成長に与えるインパクトが大きいだけに、大企業の危機感の高さが際立ちます。そのため現在amptalkでは、とくにエンタープライズ企業に重点を置いた顧客開拓を急いでいるところです。

Angel Bridgeは、スマートさと気合いを兼ね備えたVC

——黒田さんは、戦略コンサルタントでの経営支援経験とVCでの投資経験をお持ちだそうですね。

黒田:はい。大学時代は弁護士になるつもりで法学部で学んでいたのですが、過去の判例や既存の法律を拠り所にする法曹の世界よりも、新しい価値が生まれるビジネスの世界に身を置きたくなり、さまざまな業界と接点を持つ戦略コンサルティングファームに入りました。それから仕事を通じ大企業とお付き合いを深めるなかで、ゼロから価値を生み出すスタートアップに関心が向くようになり、米国のVCが日本拠点を開くにあたって、コンサルティングファームからVCに転じました。

——amptalkとはどんな縁で?

黒田:VC時代に計15社の投資案件に携わったのですが、amptalkはそのなかの1社だったんです。

——VC時代からお付き合いのあった投資先に入社されたんですね。なぜamptalkにジョインされたのでしょう?

黒田:amptalkの人、そしてタイミングに惹かれました。経理や人事のようにデータを集めやすいバックオフィス領域と違い、セールス領域はデータの取得と蓄積が非常に難しかったのですが、コロナ禍で状況が一変しました。amptalkは絶妙なタイミングで事業を立ち上げ、国内では未成熟なセールスイネーブルメント領域に果敢にチャレンジしているスタートアップです。もちろんVCの目線から非常に魅力的だったからこそ投資したわけですが、ほかの投資先との兼ね合いもあり、コミットできる時間は限られます。常々、いつか自分もスタートアップの経営に直接携わりたいという思いもありましたから、2023年の夏、猪瀬と会食した際、思い切って当事者として腰を据えたいと申し出て、amptalkの一員になりました。

——amptalkとAngel Bridgeの関わりはどのような形ではじまったのですか?

小林:2023年3月ごろ、有望なスタートアップがリストアップされているデータベースを検索しているときに存在を知り、私からお声がけさせていただきました。セールスイネーブルメントに着目された先見性と、想定されるビジネスインパクトの大きさに興味を惹かれてご連絡を差し上げたんです。

猪瀬:確かメッセンジャー経由でご連絡いただきましたよね。

小林:はい。猪瀬さんとはこの件で初めてお会いしましたが、実は私と黒田さんは大学時代のインターン先が同じだったり、黒田さんの前職時代に投資案件でご一緒したことがあったりと、接点があったんです。

黒田:そうですね。Angel Bridgeさんは、投資先の定例会で的確な質問をされたり議論されたりするのを見ていたので、その当時からとてもスマートな印象を持っていました。いまもその印象は変わりませんが、お付き合いが深まるなかで、起業家の苦労や悩みに寄り添い、親身になってご支援くださる「伴走者」のイメージが加わりました。

猪瀬:私の印象はスマートさと気合いを兼ね備えたVCですね。メンバーのみなさんはすばらしいご経歴をお持ちで、かつ投資先を成長させようという意欲と熱意を強く感じます。そこがAngel Bridgeさんのすばらしさであり、ユニークさだと思います。

林:ありがとうございます。われわれにとって投資先へのハンズオン支援は重要なバリューのひとつですし、起業家のみなさんのご要望があれば、かなり踏み込んで支援するのがAngel Bridgeのスタイルです。「ヘッズ・イン」とでもいうのでしょうか。起業家のみなさんと同じ目線を大切にしながらも、知恵と勇気を持って難しい課題に頭から飛び込んでご支援する。それがAngel Bridgeの強みだと自負しています。

猪瀬:ヘッズ・インですか(笑)。まさにいい得て妙ですね。

林:ありがとうございます(笑)。それほど前のめりになって支援しているつもりですから、この取り組みを評価していただけるのは、われわれにとってとても嬉しいことなんです。

適度な距離感を保ちつつ、踏み込むべきときは踏み込む支援

——2024年12月にシリーズAラウンドで10億円の資金調達を実施されました。これ以降Angel Bridgeからはどのような支援を受けていらっしゃいますか?

猪瀬:日頃からさまざまなご支援をしていただいていますが、主だったところでいうと、林さんには大手企業を中心とした顧客紹介、小林さんには黒田とともに、KPIの設計からレポーティングまでのKPIモニタリングの仕組みづくりにご尽力いただきました。このほかにも毎週のように管理部門や経営管理系の人材をご紹介いただくなど、営業面でのご支援から社内体制の整備まで非常に幅広いご支援をいただいています。

林:私が担当している顧客紹介に関していいますと、猪瀬さんや営業部門の責任者の方を交えてアプローチすべき企業にあたりをつけ、どのポジションの方とお話しすべきかを検討した上でアポイントを取り、商談の場に同席させていただくようにしています。セールスの定着や育成、SFAの活用に苦戦している大企業は少なくありませんから、私としてもご紹介のしがいがあるんです。

猪瀬:私のほうから戦略的にアプローチしたい業界や企業を挙げると、林さんはたいていキーマンをご存じです。そういった意味でも非常に頼りになる存在です。

林:ありがとうございます!

——黒田さんと小林さんが担当されたというKPIモニタリングの仕組みづくりについても教えていただけますか?

黒田:小林さんにお手伝いいただきながら、KPIモニタリングに必要な一連のプロセスを構築しました。当然のことながら、意志決定の精度を高めるには適切なKPIモニタリングの仕組みが大切なのはわかっていたのですが、日々の業務に忙殺されなかなか手が回らなかったので、小林さんにお願いしたわけです。ただ、本当にここまでお願いしていいのかどうか、考える時間が必要でした。

——なぜ、躊躇されたのですか?

黒田:経営の核心に迫る部分を社外に委ねてしまうと、解像度が低いものになるかもしれない懸念と、投資家のみなさんにはできるだけいい姿を見せたいという、スタートアップ特有の欲があったからです。とはいえ背に腹は代えられません。今考えてみれば、その心配は杞憂に過ぎませんでした。小林さんは戦略コンサル出身なので、われわれの事情や状況を理解された上で、努めて丁寧かつ迅速に進めていただき、プロセスもアウトプットも当初の期待をはるかに超えるものになったからです。

小林:ありがとうございます。先ほど林が申し上げたように、ハンズオン支援は投資先のご要望があってはじめて成り立つものです。この件に関しては、黒田さんからのたってのご要望なのはわかっていましたから、かなり気合いを入れて取り組ませてもらいました。とくにこだわったのは、型どおりにこなすのではなく「実効性を担保する」ことです。現在の事業ステージや状況において、私が猪瀬さんや黒田さんの立場だったらどんな指標が見たいか、どういう運用なら無理がないか、自分なりに考え尽くしました。KPIはなんでも見たい気持ちになる一方で運用の手間とのバランスを取ることが重要であり、苦心しました。

黒田:こちらこそありがとうございます。投資家と起業家は同じ船に乗ってはいるとはいえ、ビジネスパートナーである以上、自分たちの内情を詳らかに見せることにはどうしても躊躇が伴います。しかしAngel Bridgeさんは、日頃から親身になってご支援いただいていますし、われわれに不要なプレッシャーやストレスをかけたりしないよう配慮してくださっているからこそ、安心して託すことができました。

猪瀬:KPIモニタリングをつくる過程で、投資家として突っ込みがいのありそうなポイントが、たくさんあったのではないですか?

小林:amptalkさんに限らず、成長過程にあるスタートアップは、人手がいくらあっても足りないのが普通です。重箱の隅をつつくような指摘より、実効性がある重要な取り組みに集中すべきなのは明らかですし、そもそも、われわれが気にするポイントを起業家のみなさんが気づいていないはずがありません。もちろんご相談を受ければ知恵を絞るのを惜しみませんし、重要な課題であればわれわれからも指摘させていただきますが、基本的には起業家のみなさんを信頼すべきだと思っています。

猪瀬:なるほど。ご配慮いただきありがとうございます。実際に普段コミュニケーションを取っている際もAngel Bridgeさんは、投資先との間合いの取り方が絶妙な気がしますね。適度な距離感で接していただいてるからこそ、深い信頼関係が育まれるのだと思います。

林:Angel Bridgeでは、毎年春と夏に行う合宿で、各自が担当する投資先への支援内容をレビューする機会があるのですが、昨年は小林のamptalkさんへのご支援が高く評価されて支援大賞を受賞したんですよ。

猪瀬:そうだったんですか!

黒田:それはうれしいですね!ではぜひ次回もわれわれへの支援で優勝を狙ってください(笑)

小林:はい、ありがとうございます(笑)。ぜひそうなるよう頑張らせていただきます!

セールスイネーブルメントで、日本経済の再生に貢献したい
——猪瀬さん、黒田さんにうかがいます。今後Angel Bridgeに何を望みますか? 

猪瀬:これからも引き続き、顧客紹介と採用、社内体制の強化にご尽力いただければうれしいですね。実は毎月の株主報告資料にAngel Bridgeさんから受けた支援内容を記載しているのですが、すでにその数はどのVCよりも多い状況です。これはみなさんのご期待の表れだと思うので、これまでのご支援に報いるよう、結果を残したいと思っています。

黒田:Angel Bridgeさんは、以前から投資先を集めたイベントなどを通じて、起業家コミュニティづくりにとても積極的です。起業家ならではの悩みを共有し、先輩起業家の体験談に耳を傾ける機会はとても貴重なので、これからも継続していただければと思います。いままではタイミングが合わずなかなか出席できなかったのですが、今後は折に触れて参加するつもりです。

林:改めてうれしいお言葉をありがとうございます。amptalkさんの事業フェーズが上がれば、資本施策のアップデートやIPO準備など、これまでの支援メニューにはなかった課題が増えていくことでしょう。Angel Bridge全員でご支援する所存なので、お困り事や相談事がありましたらいつでもお知らせください。みなさんの期待に添えるようAngel Bridge一丸となって最善を尽くします。

——これからamptalkをどんな組織にしたいですか?

猪瀬:日本はGDPランキングの順位を落とし続けており労働人口も減る一方です。こうした状況に少しでも抗うために、amptalkの各サービスを通じて日本の受注率を高め、お金が回る世の中の一助になりたいですね。現行の「amptalk analysis」、「amptalk coach」に留まらず、営業の課題を解決する新たなプロダクトを生み出していく計画もあります。さまざまなアプローチでセールスイネーブルメントを実現し、営業現場の生産性向上に貢献していきます。

黒田:戦略コンサルタント時代は大企業、VC時代にはスタートアップと数多く交流してきましたが、両者に共通して感じていたのが「営業の課題」でした。営業力はビジネス成長のドライバーであり増幅器です。日本経済が少しでも上向くよう、われわれにできるチャレンジを続けてきます。

——最後に、Angel Bridgeのおふたりからamptalkのおふたりにエールをお願いします。

小林:まさに日本はこれからが正念場。日本が抱えるさまざまな課題を解決するためには、スタートアップ業界を含めたイノベーションを起こすチャレンジが必要なのはいうまでもありません。セールス領域はあらゆる企業で優先度が高い課題でもあるので、amptalkを必要とするすべての企業がセールスイネーブルメントを高度化できるよう、これからも後押しさせていただくことをお約束します。

林:今日のお話を聞いて、改めてVCと投資先は一心同体であるべきだと感じました。これからハードシングスに直面することがあるかもしれませんが、猪瀬さんや黒田さんのような優秀なみなさんなら必ず乗り越えられるはずです。Angel Bridgeとしてもそのための支援は惜しみません。本日はお話を聞かせていただきありがとうございました。今後ともよろしくお願いいたします!

猪瀬・黒田:こちらこそよろしくお願いいたします!

2025.06.17 ACADEMY

本日は、スタートアップ企業が投資家からの出資を受け入れる際に締結する契約書に関して解説させていただきます。

投資契約書とは?

起業家にとって投資契約書が重要な理由は、投資契約書に記載された契約内容次第で将来の経営の自由度やエグジット時の創業者の金銭の取り分が大きく左右されるためです。契約内容を十分理解せずに署名してしまうと、後々起業家が大きな不利益を被るリスクがあります​。投資契約は投資家が作成することが多く、また一般的には投資家の方がファイナンス知識も豊富であるために投資家有利の契約書が締結されるケースも存在します。契約書はとっつきにくいように感じる方も多いですが、起業家としても契約書の重要事項については内容をしっかり理解した上で、必要に応じて契約締結時に交渉を行うことが必要です。本記事では投資契約書の中でも特に重要な条項をいくつか取り上げ、解説を行っていきます。

投資に関する契約書は最大で4つの契約から構成されており、それぞれで定義されていることが異なります。


図1 投資契約書の構成要素

投資契約書における重要事項

投資契約書には、一般に以下のような項目が盛り込まれます。

  • 投資の前提条件に関する条項:表明保証
  • 会社のサポート/コントロールに関する条項:取締役/オブザーバーの指名権、事前承諾事項
  • 株式移転のコントロールに関する条項:優先引受権/先買権、共同売却権/譲渡参加権、同時売却請求権
  • 投資の撤退などに関する条項:株式買取請求権

以下でそれぞれについて詳しく見ていきます。

投資の前提条件に関する条項

表明保証条項

  • 概要:会社および創業者が契約時点で自社の状況等について真実かつ正確であることを表明し保証する条項です。具体的には、「会社が適法に設立・存続している」「財務諸表に重大な虚偽がない」「訴訟や債務不履行が存在しない」等、投資の前提となる事実を明文化し保証するものです。
  • 目的:必要事項を明らかにすることで投資家が負う必要のあるリスクを軽減することが目的です。また投資検討の範囲を限定して投資家の速やかな投資意思決定を行う副次的な効果も存在します。重大な隠れ負債や法令違反などが発生した場合に、投資家は契約違反として救済措置を講じることができます。
  • 起業家側の対応:通常の会社経営を行っている場合は抵触しない内容であり、一般的には投資検討をスムーズに進めるために表明を行う必要があります。一方で表明が難しい事項が含まれていないかの確認は必要です。

会社のサポート/コントロールに関する条項

取締役/オブザーバーの指名権

  • 概要:取締役指名権とは、投資家が出資先企業の取締役を指名(または推薦)できる権利です。また、オブザーバー指名権とは、投資家が取締役会などの重要な会議にオブザーバーとして参加できる人物を派遣する権利です。オブザーバーは取締役ではないため、議決権は持ちませんが、取締役会や主要経営会議に出席し、資料を受け取り、場合によっては意見を述べたり質問したりすることができます。
  • 目的:投資家が企業のガバナンスに一定の影響力を持ち、投資先の成長をサポート・見守るために設けられます。
  • 起業家側の対応:起業家としては経営権と投資家関与のバランスを取ることが重要です。ガバナンスの観点では独立性を維持するために自社側取締役が過半数を維持できるよう、投資家派遣の取締役の人数を抑えることが一般的です。一方で企業成長の観点において投資家派遣の取締役は重要です。自社にない新たな視点をもたらしてくれる取締役の派遣を受けることで大きな成長に繋がるケースもあります。起業家としては投資家から派遣される取締役が自社の成長に貢献してくれるか、事前に取締役として派遣される人物の経験や能力などを十分リサーチし、適切な取締役の派遣を依頼することが重要です。

事前承諾事項

  • 概要:会社が将来行う重要な行為について、投資家の事前同意を必要とする条項です​。例えば、新株の発行、重要な資産の処分、大口の借入れや第三者への株式譲渡、事業の譲渡やM&Aなどが該当します。
  • 目的:起業家が投資家の利益を損なうような重大決定を一方的に行うことを防ぐ狙いがあります。裏を返せば、起業家にとっては経営上の自由度に一定の制約が加わることになります。
  • 起業家側の対応:一般的には経営の自由度を担保する観点で事前承諾事項の範囲は必要最小限に絞った方が起業家としては有利です。また同意のプロセスが必要になることでオペレーションの負担が増加するというデメリットもあります。したがって例えば同意が必要な事項を増資やM&Aなど重要なものに限定し、日々の契約や採用などは除外するよう求めることが必要です。一方で起業家と投資家のモチベーションが企業成長の方向で一致している場合には強制的に外部の適切な意見を取り入れることで、重要な意思決定を間違えづらくする効果もあります。

株式移転のコントロールに関する条項

優先引受権/先買権

  • 概要:ある株主が保有株式を第三者に売却しようとする際、他の既存株主がその株式を第三者と同じ条件で優先的に買い取ることができる権利です​。
  • 目的:投資家側の狙いは大きく二つあります。
    • 既存株主である投資家にとって、自らの持株比率を維持・引き上げる追加投資の機会を確保すること​。
    • 会社の株式が見知らぬ第三者へ流出してしまうのを防ぎ、予期せぬ株主構成の変化を避けて経営の安定性を保つこと​。要するに、株主間で事前に合意したメンバー以外が株主になる事態を防ぎ、コントロール権の希薄化や経営方針の揺らぎを防止する効果があります。
  • 起業家側の対応:起業家にとって優先引受権は、自社の株式を譲渡する相手を自由に決定できないリスクを伴います。既存の株主を優先する必要があるため、条件次第では新規の投資家を招き入れづらいケースも存在します。

共同売却権/譲渡参加権(タグアロング)

  • 概要:大株主が第三者に株式を売却する際に、少数株主もその売却に乗じて、自分の持ち株を同じ買い手に同条件で売却できる権利です​。例えば創業者など主要株主が株式を売却する場合、少数株主である投資家も希望すればその取引に売り手として参加し、自らの株式を売却できます。
  • 目的:主要株主だけが有利な条件で株式を売却して先に利益を得てしまうのを防ぎ、少数株主にも同じ条件を受ける機会を保障することにあります​。特にVCなど少数株主の投資家にとって、自分だけ未上場株を持ち続けて取り残されるリスクを避けるための重要な手当てです。

同時売却請求権(ドラッグ)

  • 概要:会社の買収(M&A)に際し、一定の要件(例えば優先株主の議決権総数の3分の2以上の賛成など)を満たした場合に、他の全ての株主にもその買収に応じて株式を売却するよう強制できる権利です​。簡単に言えば、多数決で決まった会社売却に少数株主も従わせる条項です。
  • 目的:M&Aにおいて少数株主の反対で取引が頓挫する事態を防ぐことです。

投資の撤退などに関する条項

株式買取請求権

  • 概要:投資家が自らの持つ株式を買い取るよう会社や経営者に請求できるという条項です。請求先は主に発行会社ですが、会社側に買い取る財源がない場合に備え、経営株主個人にも請求できると規定されることが日本では一般的です。
  • 目的:起業家側に悪質な違反事項などがあった際に、投資家にエグジットのセーフティーネットを用意することが目的です。一般的な会社経営をしている場合に発動することは稀ですが、起業家の法令違反などがあった場合、出資金の回収を行います。
  • 起業家側の対応:先述の通り一般的な会社経営をしている場合に問題になる条項ではありません。一方で悪質な投資家はこの権利を悪用しているケースも存在するので発動の条件は確認する必要があります。

種類株式

種類株式とは、普通株式とは異なる権利内容を持つ複数の株式クラスの総称です(A種優先株、B種優先株など)。会社法108条に基づき発行されるもので、配当や残余財産分配の優先権、議決権の制限など特別な条件を付与できます。投資家にとっては、希薄化防止対策や残余財産の優先分配などの権利を付与することで出資のリスクを軽減でき、ハイリスクなスタートアップ投資でも一定の保護を得られます。

以下では、種類株式の条項の中でも起業家にとって特に重要な、希薄化防止対策と残余財産の優先分配についてそれぞれ見ていきます。

希薄化防止対策

種類株式には資金調達、IPO、M&Aなどの希薄化事由が発生した際に既存株主に不利になりすぎないよう、取得株式の価格に一定の調整を行うための「取得価額調整式」が存在します。主にはダウンラウンドでの資金調達、IPO、M&Aのために存在している取り決めです。以下では投資家有利な順にそれぞれの取得価額調整式について説明していきます。

  • フルラチェット方式:
    • 調整前取得価額を下回る払い込み価額での新株発行等があった場合には、その払い込み価額をもって調整後取得価額とする方式。
    • ただし普通株主(創業者)の持ち株比率も大きく低下します。起業家に対して非常に厳しい方式であるため、実務ではこの方式はほとんど使われません​。
  • 加重平均方式:
    • ナローベース方式:
      • 資金調達額や発行株式数を考慮して調整取得価額を計算する方式。
      • フルラチェットよりも転換価額の下落幅が小さく抑えられます。ストックオプションなどを含まない顕在株式のみでの計算となるので、ブロードベース方式より優先株主の希薄化防止効果が強いです。


図2 ナローベース方式の計算式

    • ブロードベース方式:
      • 資金調達額や発行株式数を考慮して調整取得価額を計算する方式。
      • フルラチェットよりも転換価額の下落幅が小さく抑えられます。ストックオプションなどの潜在株式含めての計算となるので、ナローべース方式より優先株主の希薄化防止効果が弱いです。


図3 ブロードベース方式の計算式

残余財産の優先分配

残余財産優先分配権には、参加型と非参加型の2つの種類があります。参加型では、図4のように、M&Aなどによる会社売却益を分配する際に、まず最初に優先株主にその投資額を分配します。その上で、まだ分配できる売却益が残っている場合には、優先株主を含む全株主がその持分比率で分け合います。一方で非参加型は、優先株主に投資額を分配した後、まだ分配できる売却益が残っている場合でも、優先株主には分配せずに普通株主だけで分け合うというものです。


図4 残余財産の分配方式

日本での一般的な方針

米国では日本とは違い、スタートアップにとって有利な非参加型とするのが常識となっていますが、日本では参加型が一般的な契約条件となっています。結果的にスタートアップが発行した優先株式の97%が参加型であるといわれている状況です。本論点のみを考えると非参加型の方が起業家フレンドリーですが、日本の資金調達環境においては参加型がメジャーであり、非参加型にすることによって次回以降のラウンドに影響が出ることも考えられます。また非参加型の投資契約にする代わりにバリュエーションが抑えられたり、より強力なガバナンスが求められたるするケースも存在するため、一般的に日本においては、M&Aエグジットを前提する場合を除いては参加型での投資が推奨されます。起業家としては自社にとってより優先度が高い論点を整理し、投資契約書全体を踏まえた総合的な判断が必要です。

投資契約における落とし穴

調達額vs希薄化

追加資金調達のたびに創業者の持株比率は低下し、会社経営における議決権やエグジット時のリターンに大きく影響します。ベンチャーでは各ラウンドで20%弱の希薄化が生じるのが一般的とも言われ​、累積すると創業者の持株は当初の過半数からエグジット時には十数%まで低下することも珍しくありません。大型調達を行うことで事業の推進に大きく有利になるのは間違いないですが、希薄化を許しすぎてしまうとその後の会社経営に影響が出てしまう可能性があり、適切な水準を守る必要があります。

おわりに

今回は投資契約書における重要事項と投資契約における落とし穴について見てきました。スタートアップ企業が投資家から出資を受ける際、契約内容次第で会社経営が大きく左右されることから、起業家としては条項の意味を理解し、必要に応じて投資家と交渉することが不可欠です。スタートアップの資本政策は、一度間違えると修正が極めて困難です。本記事をきっかけに、投資契約や優先株式の条項を改めて確認し、将来のエグジットを見据えたうえで慎重に検討していただければ幸いです。

Angel Bridgeはシード〜アーリー期のスタートアップを中心に投資しているVCであり、手厚いハンズオン支援を特徴としています。今回解説した資本政策についても、投資先起業の経営陣とディスカッションを行い、投資家目線のアドバイスをしています。事業戦略の壁打ちや資金調達のご相談などありましたら、お気軽にご連絡ください!

参考文献

「投資契約書のひな型」AZX総合法律事務所(URL
「スタートアップ投資契約条件の日米比較:優先株式の参加型・非参加型」一般社団法人スタートアップ協会(URL

2025.05.20 INVESTMENT

2025年5月にPLAINER株式会社(以下PLAINER社)が、シリーズAの資金調達を発表し、資金調達額が累計5.7億円に到達しました。Angel Bridgeも本ラウンドにおいてリード投資家として出資しています。

PLAINER社は、シンプルで優れたUI/UXのプロダクトデモをノーコードで作成できるB2B特化のSaaS『PLAINER』を提供する企業です。

今回の記事では、Angel BridgeがPLAINER社に出資した背景について、特にプロダクトデモ市場の発展背景と課題、及びPLAINER社の強みに焦点を当てて解説します。

  1. プロダクトデモ市場の発展背景と課題
  2. PLAINER社の事業概要と強み
  3. 経営陣
  4. おわりに

1. プロダクトデモ市場の発展背景と課題

プロダクトデモとは、プロダクトの魅力や使用方法をユーザーに体験してもらう機会を提供するもので、直感的にプロダクトを理解するための手段として用いられます。プロダクトデモは、従来のカタログや静的な資料と異なり、インタラクティブな体験を提供することで、製品理解を深め、導入意欲を高める効果があります。

近年、SaaS市場の急成長と競争の激化、及びB2B市場における購買プロセスの変化により、プロダクトデモの役割が重要性を増しています。同じカテゴリーのソフトウェアが次々と登場する中、テキストや営業説明だけで自社プロダクトの価値を十分に伝え、競合と差別化することが難しくなっています。こうした背景から、単なる機能紹介ではなく「ユーザーが実際に製品価値を体験できる」プロダクトデモの活用が増えているのです。

加えて、B2B購買プロセスのデジタルシフトもプロダクトデモ市場の発展を後押しする一因になっています。近年は、B2Bの購買の意思決定に関与する人数も増えており、1人の担当者だけを説得してもプロダクトの導入が決まりずらくなっています。これにより、営業が1人に対して商談を行うのではなく、複数の関係者がプロダクトデモに基づいて意思決定を行う営業モデルが主流になりつつあります。また、経済産業省によると2019年に31.7%だったB2B取引におけるEC化率は、2023年には40.0%まで上昇しており、ユーザーが営業を介さずに自ら検討・購買できる環境の整備が、ますます求められるようになっています。これらの理由により、ウェブ上で複数人に対してプロダクトの価値を訴求できるプロダクトデモの必要性が増しています。

一方で、従来のプロダクトデモ手法には、プロダクト更新時の工数やコストの高さ、営業品質のバラつき、導入効果の定量化ができないなど、様々なペインが存在します。

① プロダクト更新の手間とコスト
企業が新機能の追加やUIを変更する度に、デモコンテンツの更新が必要になります。特に、従来のデモ動画やスライド形式のプロダクトデモでは、更新作業が煩雑で制作コストが高いため、最新情報を即時に反映させるのが難しく、結果として実際のプロダクトとデモの内容にズレが生じ、誤った期待を生むリスクがあります。

② 営業プロセスの属人化
従来の対人営業活動は、営業担当者の知識やスキルに依存する形でデモが行われるため、営業の説明内容やクオリティにばらつきが生じます。特に、機能更新の頻度が高いSaaS企業や、複雑なソリューションを提供する企業では、営業チーム全体で一貫した説明を行うことが困難になります。また、社内トレーニングにおいても、標準化されたデモがない場合、新規メンバーの即戦力化が難しくなります。

③ 導入効果の定量化が困難
従来のプロダクトデモでは、「誰が」「どの部分を」「どれだけの時間閲覧したか」という詳細なデータを取得する手段が限られていました。そのため、マーケティング・営業チームが「どの機能に興味を持っているのか」「どのリードがより成約可能性が高いのか」といった情報を基にアプローチを最適化することができませんでした。最近では、ファーストパーティーデータの活用が重要視されており、プロダクトデモの閲覧データを詳細に分析し、営業施策やマーケティング戦略に活かすことが求められています。

図1. 従来のプロダクトデモ手法ペイン

これらのペインを解消するのが、PLAINER社が提供するプロダクトデモをノーコードで作成できるSaaS『PLAINER』です。誰でもノーコードで素早く簡単に、実際のプロダクトを疑似体験できるコンテンツが製作可能になります。グローバル市場においても、プロダクトデモの自動化は急成長領域とされ、北米では「Reprise」「Demostack」「Storylane」などのスタートアップがBain Capital Ventures、Bessemer Venture Partners、Y Combinatorなどの著名VCから大型調達を実施し、市場拡大を進めています。日本国内でも同様のニーズが高まりつつあり、『PLAINER』のようなソリューションが今後の市場成長を牽引することが期待されています。

図2. プロダクトデモ市場の主要海外企業

2. PLAINER社の事業概要と強み

続いて、PLAINER社の事業概要について説明します。

図3. PLAINER社のプロダクト

PLAINER社は、プロダクトデモをノーコードで作成できるSaaSを提供する企業です。最大の特徴は、プロダクトの画面をキャプチャするだけで、誰でも直感的にデモを制作できる点にあります。これにより、営業やマーケティング担当者がエンジニアのリソースを割くことなく、自らプロダクトデモを作成/運用できるため、技術的な負担を大幅に軽減できます。

また、『PLAINER』ではデモのカスタマイズも柔軟に行うことが可能です。デモのカスタマイズも自由自在で、ガイドの追加、表示されるデータの変更、画像の変更などが簡単に行えるため、プロダクトの新機能追加やUI変更があっても、リアルタイムで最新のデモを提供できるようになります。加えて、アクセス解析機能も備わっており、ユーザーの興味/関心に関するデータを取得することが可能です。このデータを活用することで、営業やマーケティングの精度を向上させ、各ユーザーに合ったより効果的なフォローアップが可能となります。

投資検討の際には、『PLAINER』を導入している企業へのインタビューも複数行いました。各企業は、プロダクトのマーケティングにおいて、「顧客にプロダクトの価値を伝えきれてない」「新機能に合わせてデモ動画を更新できていない」といった課題を抱えていました。このような課題に対して、『PLAINER』を利用することで頻繫なデモの更新が可能になり、定量的にWAU(Weekly Active User)やCVR(Conversion Rate)の向上も確認できました。 企業によっては、デモを活用したオンライン商談の成約率が大幅に改善されたケースもあり、実際の売上向上にも寄与する結果が得られています。

図4. 顧客インタビュー

投資判断にあたっては、『PLAINER』が一過性の便利ツールではなく、現場業務に定着するプロダクトかどうかを重視しました。特に注目したのは、既存ユーザーにおける継続率と拡張性です。
導入済顧客における『PLAINER』の活用状況を分析した際に、導入初期と比較して、アクセス数・アカウント数・コンテンツ数などの指標はいずれも複数倍の水準にまで増加しており、導入部署から他部署への展開や、機能ごとの利用深化が進んでいることが確認できました。
実際に、契約更新を迎えたユーザーの多くにアップセルが実現出来ており、Net Revenue Retention(NRR)は高水準で推移しています。これは、部署横断でのアカウント拡張や、利用用途の拡大によって自然に実現されているものであり、将来的なARPU向上の余地を示唆しています。

加えて、プロダクトのユースケースが、マーケティング・セールスにとどまらず、カスタマーサクセスや社内教育などにも広がっています。こうした用途の広がりから、『PLAINER』は柔軟性の高いプロダクトであり、より幅広い業種・企業群へと展開可能で、市場拡張性が高いと判断しました。

さらに、一部のユーザー企業では、マニュアル代替やオンボーディング支援などへの転用も進んでおり、1社内の複数ユースケースで活用される構図が形成されています。例えば、営業担当者の育成として、自社プロダクトの新機能デモを社内で展開し、新入社員や営業担当者が短期間で製品理解を深められる仕組みを構築しているケースがあります。また、テキストベースのマニュアルでは伝わりづらかった操作説明を、プロダクトデモに置き換えることで、顧客の自己解決率を向上させて、システムの定着化を実現している企業もあります。このように、『PLAINER』は単なるプロダクトデモ作成ツールにとどまらず、営業プロセスの効率化や社内教育、カスタマーサポートの強化にも活用できる柔軟なソリューションとなっています。

図5. 社内の各事業部におけるユースケース

3. 経営陣

PLAINER社には、事業領域のペインを深く理解し、事業立ち上げ経験に富んだバランスの良い経営陣が集まっています。

図6. PLAINER社の経営陣

小林CEOは、新卒でfreeeに入社し、インサイドセールスチームで50名中トップの成績を残した後、事業戦略の策定から実行まで幅広く担当されていました。その後、モバイル版freeeの事業責任者として、YoY300%以上の成長を達成するなど、事業の立ち上げも経験されています。freee時代にSaaS営業担当者/購買担当者の双方を経験した時に感じたプロダクトの提供価値を正しく理解することが難しいという原体験をもとにPLAINER社を創業されました。小林CEOは、ユーザーのペインを深く理解しており、ファウンダーマーケットフィットしている事業領域において、高い推進力と巻き込み力を発揮しています。

佐野CXOは、新卒で野村総合研究所に戦略コンサルタントとして入社し、大企業向けの新規事業立ち上げ支援や事業戦略策定に従事されました。その後、イグニション・ポイントにて新規事業創出支援やアクセラレータープログラムを担当し、2020年にPLAINER社に参画されました。佐野CXOは、豊富な事業の立ち上げ経験を活かし、PLAINER社では豊富な事業開発経験を活かし、主にプロダクトとUXの向上を担当されてます。

4. おわりに

DXの進展やデジタルマーケティングの普及により、企業の営業・マーケティング活動は急速にオンライン化が進んでいます。その中で、製品の魅力をシンプルかつ直感的に訴求する手段として、『PLAINER』のようなプロダクトデモ作成ツールの重要性は飛躍的に高まっています。

PLAINER社は、誰でも簡単にデモを作成/更新できる操作性に加えて、顧客の関心を可視化するアクセス解析機能や、社内の様々な部署で活用できる汎用性を強みとして、市場の開拓を進めています。小林CEOと佐野CXOで構成されファウンダーマーケットフィットした経営陣の下で、大きな成長を遂げるとAngel Bridgeは確信しています。

Angel Bridgeは社会への大きなインパクトを創出すべく、難解な課題に果敢に挑戦していくベンチャーを応援しています。ぜひ、事業戦略の壁打ちや資金調達のご相談など、お気軽にご連絡ください!

2025.04.15 ACADEMY

今回はスタートアップのM&Aについて、具体的な事例に基づいて説明していきます。

スタートアップにおけるM&Aとは

スタートアップ企業にとって、エグジット戦略は持続的な企業成長を遂げるための重要な経営判断です。エグジットとは、創業者や投資家が事業に投資した資本を回収する出口戦略を指します。事業の売却や株式の公開、資産の売却など、事業の成果を現金化する形式は様々ですが、一般的には企業が更なる成長機会を得るための手段とされています。

代表的なエグジットの手法として挙げられるのが、M&A(Mergers and Acquisitions:企業の合併・買収)とIPO(Initial Public Offering:新規株式公開)です。M&Aは、スタートアップ企業が他社に買収されることで株式が現金化される手法です。買収企業にとっては、新技術や市場シェアの獲得が目的であり、スタートアップにとっては、買収を通じた成長戦略の広がりや短期間での利益実現が可能になります。一方、IPOは株式市場に株式を公開し、一般投資家から資金を調達する方法です。企業の知名度向上や成長資金の確保につながる一方で、上場企業としての高いガバナンスや情報開示義務が求められるようになります。

近年、国内におけるスタートアップのM&Aエグジット数は、緩やかな上昇傾向にあります。また、スタートアップ同士のM&Aも増えており、成長フェーズが異なる企業同士が事業シナジーを求めて統合するケースも多く見られます。従来はIPOエグジットに偏重していた国内のスタートアップですが、昨今ではその流れも徐々に変化しています。特に、不確実性が高い市場環境下では、成長機会を確保しながら安定したキャッシュを得られるM&Aが、現実的な選択肢として存在感を増しています。


図1 スタートアップのエグジット数の推移

スタートアップがM&Aを活用するメリット

まず、スタートアップがM&Aを活用するメリットについて、買い手側と売り手側の視点から説明します。

① 買い手側のメリット

買い手側にとって、M&Aは短期間で成長戦略を加速させる有効な手段となります。自社で一から技術開発や人材採用を進めるよりも、既に実績を上げているスタートアップを取り込むことで、スピーディーに新技術や優秀な人材を確保することができます。また、競合他社に先んじて市場シェアを拡大できる可能性もあります。自社単独で開発・成長させるよりも、買収を通じてコストを抑えながら効率よく事業拡大を図れるメリットもあります。

特に、近年ではスタートアップ同士のM&Aも増加しています。急成長を目指すスタートアップが、同業や隣接領域のスタートアップを買収することで、短期間での事業拡大を実現するケースが見られます。例えば、ブランドの企画や電子商取引(EC)サイトの構築などを手掛けるAnyMind Groupは、2016年に設立し、2023年3月の東証グロース市場への上場までに、累計7件のM&Aを実施しています。これらの戦略的M&Aにより、アジアを中心に事業領域と顧客基盤を拡大し、2024年通期の海外売上比率は60%に達しています。

② 売り手側のメリット

一方で、売り手側であるスタートアップにとってもM&Aには大きなメリットがあります。まず、創業者や投資家にとっては、短期間で資金回収を実現し、早期にリターンを得るチャンスとなります。特にIPOまでの道のりが長期化しやすい現状において、IPOと比較して市況の影響を抑えられるM&Aによるエグジットは現実的な選択肢として魅力を増しています。

また、買い手企業の傘下に入ることで、事業の成長性や継続性が高まるケースもあります。買い手企業の持つ経営資源やネットワークを活用することで、単独では難しかった顧客基盤の拡大や新技術の開発を加速できる可能性も広がります。例えばロボアドバイザー国内最大手のウェルスナビ株式会社は、2024年11月に三菱UFJ銀行に996億円で買収されました。この買収によりウェルスナビは、三菱UFJ銀行の広範な顧客ネットワークを活用することで、サービスをより多くの潜在顧客に届けることが可能になります。加えて従来提供していた資産運用サービスにとどまらず、保険・年金・住宅ローンなども含めた、より総合的な資産管理サービスの提供が可能となります。このように、売り手側のスタートアップは、M&Aにより単独では実現が難しい事業基盤の拡大が可能になります。

スタートアップのM&Aが増えている理由

続いて、スタートアップのM&Aが増えている背景について、直近の事例と共に説明します。

① 買い手側がスタートアップのケース

顧客基盤の拡充/マルチプロダクト化

近年、スタートアップにおけるM&Aが増加している背景には、顧客基盤の拡充やマルチプロダクト化を目的としたケースの増加が挙げられます。多くの初期フェーズのスタートアップは、特定領域に特化したプロダクトやサービスを起点に成長しますが、ARR(年間経常収益)が一定規模に到達すると、自社プロダクト単体のオーガニック成長だけでは限界があり、M&Aによって顧客基盤や提供サービスを非連続的に拡大する必要があります。そこで重要になるのが、既存顧客に対して周辺サービスも含めて販売(クロスセル)するマルチプロダクト戦略です。しかし、自社開発でゼロから新サービスを立ち上げるには、時間とコストがかかる上、競争環境も激しく、スピード感のある市場導入の難易度は高くなります。そこで既に顧客基盤やサービスモデルを確立している企業をM&Aで取り込む動きが加速しています。

Angel Bridgeの投資先である株式会社PeopleX(以下PeopleX)もマルチプロダクト化に向けた買収を行っています。PeopleXは、社員のスキルアップやエンゲージメント向上を支援するためのエンプロイーサクセス事業を展開しています。主に、エンプロイーサクセスHRプラットフォーム『PeopleWork』、人材紹介サービス『PeopleAgent』、及び人事向け総合型コンサルティングサービス『PeopleConsulting』を提供しています。PeopleXは、2024年11月に外国籍ITエンジニアの採用支援を手掛けるアクティブ・コネクター株式会社を子会社化しました。この買収により、『PeopleAgent』の機能を強化し、IT・Web・DX領域における外国籍人材紹介サービスを一層推進する体制を整えています。

このようにスタートアップは、買収という手段を用いて顧客基盤の拡充やマルチプロダクト化を推進し、多角的な事業展開による成長を遂げるのです。

ロールアップ戦略

スタートアップにおけるM&Aが活発化している背景として、ロールアップ戦略を採用する企業が増えていることも挙げられます。ロールアップ戦略とは、同業種または周辺領域の複数企業を次々と買収・統合し、事業規模の拡大やシナジー効果を狙う成長戦略です。個々では競争力が限られる企業群を束ねることで、業界内でのプレゼンスを高め、コスト効率や収益力を改善していく狙いがあります。

代表的な事例が、アミューズメント業界で存在感を高める株式会社GENDA(以下GENDA)です。同社は、ゲームセンターやクレーンゲーム事業を展開する企業を次々と買収し、市場でのシェアを拡大させることで、スケールメリットを活かした事業基盤の強化に成功しています。2020年には、セガサミーホールディングス傘下のセガエンタテインメント(現株式会社GENDA GiGO Entertainment)を買収し、一気に約200店舗を傘下に収めました。その後も地方や海外のゲームセンター、プライズ景品企画会社、カプセルトイ専門店、映画配給を行うギャガ株式会社などを次々と買収し、エンタメ領域でバリューチェーンを拡張しています。買収後は、景品調達やオペレーションの効率化、プライズ機増設などにより収益改善を早期に実現し、投資回収期間を短縮。このサイクルを回しながら継続的にM&Aを進め、シェア拡大と収益性向上を両立させる戦略を展開しています。

図2 株式会社GENDAのM&A及び資本取引トラックレコード(決算発表資料より)

一方で、ロールアップ戦略を実行するには、単に買収を重ねるだけでなく、財務分析やバリュエーション、資金調達、買収後の収益改善など、一連のプロセスを適切に運用する高度な金融リテラシーが求められます。まず、金融的な視点で考えると、ロールアップ戦略は、「マルチプルアービトラージ」という概念に基づいています。マルチプルアービトラージとは、低いマルチプルで買収した企業を、自社のより高いマルチプルで市場評価させることによって、買収時点で企業価値を押し上げる手法を指します。例えば、買収対象企業をEBITDA3倍で取得し、自社株が上場市場でEBITDA10倍で評価されている場合、買収によって増えたEBITDA分が市場で10倍の価値として反映されます。このギャップにより、買収した瞬間に時価総額が上昇する仕組みです。マルチプルアービトラージを達成するには、①買収対象企業を割安(低マルチプル)で取得すること ②自社の株式市場でのマルチプルが高いこと、③買収によって自社のマルチプルが低くならないことが前提になります。そのため、ロールアップ戦略を実行する企業には、適切な買収対象を多数発掘できる強力なソーシングチームや、買収先を速やかに高いマルチプルで評価してもらうためのバリューアップ機能に加えて、銀行借入の活用に伴うALM(Asset Liability Management)や高いマルチプルを保つIR戦略など、高度な金融リテラシーが求められます。

株式会社GENDAや株式会社SHIFTは、金融リテラシーに長けた経営陣の下でロールアップ戦略を推進し、スタートアップ領域におけるM&A活用の新たな潮流を形成しています。

② 売り手側がスタートアップのケース

大企業によるイノベーション獲得の必要性の向上

スタートアップを売り手とするM&Aが増えている背景の一つに、大企業によるイノベーション獲得ニーズの高まりがあります。少子高齢化や国内市場の成熟化が進む中、多くの大企業は従来の延長線上にある事業成長に限界を感じ、イノベーション創出が経営上の喫緊の課題となっています。デジタル化の進展によりイノベーションサイクルが急速に短縮する中、自社開発だけでは市場の変化に追いつけなくなっており、この結果、外部のスタートアップと連携し、必要な技術やサービスを取り込む「オープンイノベーション」が経営のトレンドになりつつあります。特に近年では業務提携や資本業務提携だけでなく、M&Aを通じてスタートアップの経営権を取得し、完全に自社グループ内に取り込む動きが加速しています。上述の三菱UFJ銀行によるウェルスナビ株式会社の買収がその好例です。大企業とスタートアップ、双方の利害が一致する場面が増えたことで、スタートアップを売り手とするM&Aが拡大しているのです。

M&A巧者のメガベンチャーの出現

スタートアップの買収が増えている背景として、成長過程でM&Aを積極的に活用し、自社の競争力を高める「M&A巧者」のメガベンチャーが台頭してきたことも挙げられます。近年、上場済みのメガベンチャーがスタートアップの買収を通じて事業拡大を図るケースが増えています。特に、テクノロジーを基盤としたプラットフォーム企業にとっては、顧客基盤やデータ活用領域で競争優位性を築くため、外部から必要なプロダクト・サービスを取り込み、早期にシェアを獲得する戦略が有効とされています。こうしたメガベンチャーは、スタートアップを自社グループ内に統合し、多事業のクロスセルや顧客データの活用を通じて、買収後に更なる事業拡大を目指す成長モデルを確立しています。

代表的な事例として、LINEヤフー株式会社(以下LINEヤフー)が挙げられます。LINEヤフーは、検索・広告・EC・金融・通信など幅広い事業を手掛ける一方で、M&Aを活用して自社のプロダクト群を拡充しながら成長してきた企業です。特に2010年代後半以降、スタートアップの買収を通じた事業拡大を積極的に進めています。象徴的な事例として、2019年に行った株式会社ZOZO(以下ZOZO)の約4,000億円の買収があります。ZOZOは、ファッションECサイト『ZOZOTOWN』を運営し、若年層を中心に高いブランド力を持つ企業でした。この買収により、LINEヤフーは自社のEC事業とのシナジーを生み出し、購買データを活用した広告・金融サービスとの連携強化にもつなげています。その他にも、個人向けクラウド会計ソフトを提供するフリー株式会社への出資(2015年)や、スマホ向け動画広告会社ファイブ株式会社の買収(2017年)など、成長分野のスタートアップに対して柔軟に資本参加・買収を行ってきました。後者のファイブ株式会社は、Angel Bridgeの投資先であるgoooodsの共同創業者である菅野CEOと松本CTOが起業したスタートアップであり、約70億円で事業を売却した後にPMI(Post Merger Integration)まで携わっています。※LINEヤフーのM&A実績には経営統合前のヤフー社、LINE社のものを含んでいます

スタートアップ側にとっても、LINEヤフー傘下に入ることで大規模な顧客基盤や広告ネットワークを活用し、単独では難しかったスケールアップを実現できるため、近年では「IPO一択」ではなく、「メガベンチャー傘下での成長」を選択肢とする企業も増えてきました。こうしたメガベンチャーが出現し、スタートアップにとって買収が成長加速の手段となるケースが増えたことも、M&A件数増加を後押しする大きな要因となっているのです。

スイングバイIPOを見据えた売却

最後に、近年注目されている「スイングバイIPO」についてご説明します。スイングバイIPOとは、一度大企業やメガベンチャーの傘下に入ることで、事業基盤を強化し、成長スピードを加速させた後に、再度独立してIPOを目指す戦略です。スタートアップにとって、単独でIPOに至る道のりは長く、事業拡大とともに資金調達や人材確保、顧客基盤の開拓といった課題に直面します。そうした中で、大企業やメガベンチャーの経営資源を活用することで、一段階成長ステージを引き上げた上で、自社の企業価値をより高くした状態でIPOに踏み切るという選択肢が認知されるようになっています。

この流れを象徴するのが、レシピ動画メディア『クラシル』を運営するdely株式会社(以下dely)の事例です。delyは、2018年に当時のヤフー株式会社(以下ヤフー)の連結子会社となりました。当時、『クラシル』は急成長を遂げていたものの、更なるユーザー獲得や広告収益基盤の強化には、資本力や営業力が必要とされていました。ヤフー傘下に入ることで、ヤフーのメディアネットワークや広告販売力を活用できるようになり、クラシルの成長速度は更に加速しました。その後、2024年1月にdelyはヤフーから独立し、同年12月に東証グロース市場に約410億円で上場しました。2024年3月には、KDDI株式会社傘下で、IoT通信を手掛ける株式会社ソラコムもスイングバイIPOを活用して約600億円の時価総額でグロース市場に上場しています。

スイングバイIPOは、特に単独では成長の限界に直面しやすいメディアやプラットフォーム型ビジネス、あるいは膨大な開発投資が必要なスタートアップにとって、有力な選択肢となりつつあります。このように売却を成長加速の通過点と捉え、より高い企業価値で再スタートを切るスイングバイIPOという道筋が示されたことで、スタートアップ経営者がM&Aを前向きに捉えやすくなってきたことも近年の傾向として挙げられます。

おわりに

スタートアップを取り巻く環境は急速に変化しており、M&Aはもはや「売ったら終わり」ではなく、「成長戦略の一環」として定着しつつあります。買い手側にとっては、技術・人材・顧客基盤を短期間で獲得し、競争優位性を築くための手段であり、売り手側にとっても、単独では難しい事業拡大や資金回収を実現する重要な経営判断となっています。

特に近年は、スタートアップ同士のM&Aやロールアップ戦略、スイングバイIPOといった多様なエグジットモデルが登場し、選択肢は広がっています。この流れは、スタートアップと大企業・メガベンチャー双方にとってメリットがあり、今後も加速していくことが予想されます。本記事を通じて、スタートアップにおけるM&Aの役割や可能性について理解を深めていただくとともに、自社の成長を加速させるための新たな選択肢について考えるきっかけになれば幸いです。

Angel Bridgeはシード〜アーリー期のスタートアップを中心に投資しているVCであり、手厚いハンズオン支援を特徴としています。事業戦略の壁打ちや資金調達のご相談などありましたら、お気軽にご連絡ください!

参考文献

「令和5年度産業経済研究委託事業(スタートアップの成⻑のための調査)調査報告書 – スタートアップのM&A活⽤に関する調査 – 」経済産業省(URL

「MUFG、資産運用のウェルスナビ完全子会社化へ – 997億円でTOB」Bloomberg(URL

2025.04.04 COLUMN

前回の「Angel Bridge USベンチャー記事#12」は、核融合発電の実用化を目指すアメリカのユニコーン企業Commonwealth Fusion Systemsについて紹介しました。
Angel Bridge USベンチャー研究#12

今回紹介するSnykはソフトウェアの脆弱性管理をサポートし、エンジニアの負担を軽減するツールを提供しています。

ソフトウェア開発の世界ではセキュリティの重要性が日々高まっています。「脆弱性」とは、システムやソフトウェアにおいて、セキュリティを脅かす可能性のある欠陥や弱点のことを指し、プログラムの誤りにより生じる不具合である「バグ」がその代表例とされます。「脆弱性管理」は、企業や政府といった組織において、そのような脆弱性情報を調査・分析し、脆弱性を解消するという一連の流れを指します。

本記事では、脆弱性管理ツールの市場環境、Snykの特徴をはじめ、下記のような内容について詳しく見ていきます。

市場環境

Webアプリの利用増加に伴い、ソフトウェアの脆弱性をついた攻撃が増加しています。こうしたサイバー攻撃は、機密情報や個人情報の漏洩、企業活動の停止などを招きます。例えば、2024年5月、積水ハウスは会員サイト「積水ハウス Net オーナーズクラブ」に登録されていた会員・従業員約83万人分の個人情報が漏洩した可能性があると発表しました。同じく2024年5月、サーバー攻撃に起因するシステム障害によりJR東日本が運用するモバイルSuicaアプリへのログインや、オンライン切符購入サイトえきねっとへの接続が一時的に難しくなる事態が発生しました。

近年、企業のDX推進やリモートワークの普及によりビジネスアプリケーションの導入・整備が進み、多くの企業が、システムの脆弱性を利用したサイバー攻撃やシステム障害のリスクにさらされており、セキュリティすなわち「脆弱性管理」の需要は特に増大しています。

脆弱性管理の世界市場*1は2024年の145億USDから2029年には217億USDに成長し、CAGRは7.5%とされています。日本市場*2では、2022年から2027年のCAGRは15.0%とされるなど、世界的に高い成長を遂げている領域で、世界市場を上回る速度での市場成長が見込まれています。

日本市場の成長を後押しする大きな要因は、地域性と国家戦略です。

まず、地域性についてです。大量の個人情報を扱う金融サービス業界はサイバー攻撃時の被害額が大きくなりやすいことから、ターゲットになりやすく、セキュリティ対策が叫ばれている業界です。その対策が進んでいる欧州や米国と異なり、日本を含むアジア太平洋地域の金融サービス業界はデジタルテクノロジーを急速に導入していますが、セキュリティ対策には後れを取っており、早急な対応が求められています。

そして、国家戦略についてです。日本では2021年9月にデジタル庁が設置され、「Cybersecurity for all」というスローガンのもと、官民が一体となってサイバーセキュリティ戦略を推進しています。こうした社会潮流から、日本でのサイバーセキュリティ需要は世界的に見ても大きく成長すると考えられます。

 

*1Morder Intelligence Industry Reports「セキュリティと脆弱性管理市場の規模とシェア分析・成長動向と予測(2024年~2029年)
*2ITR「ITR Market View:サイバー・セキュリティ対策市場2024

 

会社について

図1: Snykについて

Snykはイスラエル国防軍で信号情報収集や暗号解読を行う精鋭部隊「8200部隊」に所属し、複数のソフトウェア会社でのCEO経験を有するGuy Podjarny氏によって、2015年に設立されました。共同創業者のAssaf Hefetz氏はソフトウェア会社での豊富な開発経験を持ち、同じく共同創業者のDanny Grander氏も「8200部隊」の出身で、政府向けセキュリティツールを提供するGita社のCTO経験を有するなど、創業時から開発力が強みでした。

その創業経緯はソフトウェア開発の体制変化と密接に関係しています。

計画、設計、実装、テスト、リリースといった各フェーズを分業体制で行う「ウォーターフォール型」、開発チームと運用チームに分かれて開発サイクルを少人数かつ短期間で回す「アジャイル型」、開発チームと運用チームを1つにしてインテグレーションを自動化する「DevOps型」と移り変わり、開発サイクルは年々高速化を遂げてきました。

こうした開発サイクルの短期化が進み、従来のように社内のセキュリティチームが外部ベンダーに依頼をする形では、工数がかかりリリースまでのスケジュールに間に合わせることが難しくなっていました。

そこで、創業者であるPodjarny氏は、社内の開発者向けのセキュリティツールを提供できれば、開発段階で脆弱性をチェックし、業務の効率化が図れるのではないかと考え、Snykを創業しました。

こうした発想は「DevSecOps」と呼ばれ、開発や運用と並行しながらセキュリティ対策を行うことが可能であり、Snykはその先駆的企業となっています。

設立から現在に至るまで、累計調達額は11億USDにのぼり、最新ラウンドであるCorporate Roundでは、調達後評価額は74億USDとなっています。

サービスの特徴

Snykは、コード、オープンソースライブラリ、コンテナ、インフラストラクチャーなど、クラウドネイティブアプリケーション開発の重要コンポーネントすべてをカバーする包括的なサービスを提供しています。具体的には、下記の4つのプロダクトをまとめてセキュリティプラットフォームとして提供しています。

①Snyk Open Source
SDLC(ソフトウェア開発ライフサイクル)の初期段階または全体にわたり、オープンソースに依存する脆弱性を検知し優先順位をつけて修正
②Snyk Container
コンテナやその運用管理ツールの脆弱性を検出し、修正に関する具体的なアドバイスを提供
③Snyk IaC
開発者やチームがデプロイする前にコード内の脆弱性を特定し、開発者に特化したアドバイスを提供
④Snyk Code
開発中のアプリケーションコードに存在する脆弱性をリアルタイムで発見、修正。AIを駆使して、数百万行のコードでも数分でスキャン可能

図2: セキュリティプラットフォームのイメージ(出所:Snyk社HP)

Snykの特徴は、膨大な情報を処理しながらセキュリティを高める必要がある開発者にとって、わかりやすく使いやすいUIを有していることです。コードの脆弱性を可視化するのみならず、セキュリティの改善についても、どのようにコードを修正し、どのようにセキュリティが改善されたのかを数値化して出力することで、業務効率化と品質の向上を同時に達成できるようになっています。

SnykはDevSecOpsの先駆的企業として、脆弱性管理ツールが開発者の間ではまだなじみのなかったころ、販売戦略においても工夫をしていました。ただ企業に売り込みに行くのではなく、無償で公開され、利用や改良が誰に対しても許可されるソフトウェアであるオープンソースライブラリにSnykを活用してもらうことで、開発に携わる人であれば誰でもSnykを目にすることができる状況を作り、セキュリティに関心を持つ開発者たちの注目を浴びました。

開発体制の変革に合わせた斬新なプロダクトや工夫された販売戦略をもとに、Snykは目覚ましい成長を遂げてきました。

トラクション

Snykのセキュリティプラットフォームは、GoogleやSalesforceといった世界有数のエンタープライズをはじめ、全世界で2,500社以上で導入が進んでいます。

また、2024年10月の公式発表によると、Snyk全体のARRの約3分の1を占める「Snyk Code」は、2024年にARR1億ドルを達成しました。Snyk全体においても、ARRが前年比で40%増加するなど、順調に事業規模を拡大しています。

競合

 

図3: 脆弱性管理ツール市場のプレイヤー

マイクロソフト傘下のGitHub社やFortune100企業の40%を含む1,800社にサービスを提供するCheckmarx社など、脆弱性管理ツール市場で包括的なプラットフォームを提供する競合企業は数多く存在します。

そうした中、Snykの強みは大きく2つあります。

一つ目は設計思想です。カスタムコード、オープンソースライブラリ、コンテナ、IaCというアプリケーションを構成するすべてのレイヤーで脆弱性管理を行うことができます、Snykは5つのコア製品から構成されており、顧客企業は必要な製品のみを選択して利用できるので、過不足なくサービスを活用することができます。

二つ目は品質の高い脆弱性データベースです。他と比べて3倍以上のデータ量、脆弱性登録のスピード、低い誤検知率を誇り、ソフトウェアの開発期間の短期化に大きく寄与しています。

これらは「デベロッパーファースト」を掲げて技術力を武器に、サービスの使いやすさを追求してきたSnykならではの強みと言えます。

日本市場

2025年3月に経済産業省が「クレジットカード・セキュリティガイドライン」を改訂し、EC加盟店のシステムおよびWebサイトの脆弱性対策実施を求めるなど、日本でも年々脆弱性管理の必要性は高まっています。

Snykは2022年から日本での提供を本格的に開始し、IT系グロースベンチャーであるGunosyやZ会グループ、三菱電機などの大企業などで導入が進みつつあります。大量のデータを扱うIT企業や、より厳重なセキュリティ対策が求められる大企業では、今後ますますSnykのような脆弱性管理ツールの導入が進んでいくでしょう。

SnykやGitHubなどの米国系企業をはじめ、様々な企業がひしめく脆弱性管理市場ですが、国産ツールが日本市場で勝ち抜くには、そのような競合優位性が必要なのでしょうか。

国産の脆弱性管理ツールには、Visionalグループの一角である株式会社アシュアードが提供する「yamory」や、株式会社スリーシェイクが提供する「Securify」などがあります。

考えられる差別化として、海外の脆弱性管理ツールは、グローバルで収集したサイバー攻撃やセキュリティホールのデータに基づいたサービスが提供されていますが、国産であれば、厳格な予算管理や稟議制度を有する日本の大企業特有の意思決定スタイルにそった機能設計や、日本語でローカライズした丁寧なカスタマーサポートなどが考えられます。

おわりに

Snykは、開発者中心のアプローチと包括的なセキュリティプラットフォームを提供し、急成長する脆弱性管理ツール市場を牽引しています。

開発体制の変革に合わせた斬新な事業の切り口や工夫された販売戦略など、プロダクト開発力だけに依存しない多角的な強みの創出が、こうした急激な成長を支えているのだとわかりました。
また、国産の脆弱性管理ツールが国内市場においてどのように競争優位性を構築していくのか、注目していきたいと思います。

最後になりましたが、Angel Bridgeは様々な業態の業務効率化を支えるSaaS企業に積極的に投資しています。事業の壁打ちや資金調達のご相談など、お気軽にご連絡ください!

2025.03.28 INVESTMENT

2025年3月にemole株式会社(以下emole社)が、シリーズAの資金調達を発表し、資金調達額が累計11.6億円に到達しました。Angel Bridgeも本ラウンドにおいて出資しています。

emole社は、1話1~3分程度で視聴できる話課金型ショートドラマアプリ「BUMP(バンプ)」を提供するスタートアップです。

この記事では、Angel Bridgeがemole社に出資した背景について、ショートドラマ業界を取り巻く環境と、emole社の強みに焦点を当てて解説します。

  1. ショートドラマ業界の動向
  2. emole社の事業概要と強み
  3. 経営陣
  4. おわりに

1.ショートドラマ業界の動向

ショートドラマは1~3分で視聴できるドラマで、通勤や休憩時間などの隙間時間に手軽に楽しめるよう設計されています。課金形態はマンガアプリと同様で、最初の数話は無料で視聴可能、それ以降は1話ごとに課金(100円程度)する仕組みになっています。タイムパフォーマンスを重視するZ世代を中心に人気を集めており、日本では恋愛ジャンルが多く、海外では幅広いジャンル(恋愛、ミステリー、アクションなど)の作品が存在します。

 図1:ショートドラマについて

近年、ショートドラマ市場は注目を浴びつつあり、特に海外市場は大きな成長を遂げています。YHリサーチによるとグローバル市場は2029年に8.7兆円規模に成長すると見込まれており、国内だけで見ても2026年に1,500億円規模に達すると予測されています。

 

図2:グローバルのショートドラマの市場規模

図3:国内のショートドラマの市場規模

ではなぜ、ショートドラマが注目を浴びるようになったのでしょうか。その社会的背景は大きく2つあります。

1つ目は、ショート映像の登場によりコンテンツを短時間で消費する魅力がユーザーに普及したことです。

  1. ショート動画市場の開拓
    TikTok、YouTube ショート、Instagramリールなどがショート動画の提供を始め、隙間時間でエンタメを消費する魅力がユーザーに拡がりました。
  2. 消費者の行動変化
    再生時間が短いコンテンツの人気が定着してきた中で、タイムパフォーマンスを意識しながらコンテンツを消費するユーザーが増加しました。動画の「倍速視聴」、「切り抜き視聴」、他の作業と並行してコンテンツを視聴する「ながら見」などがZ世代の主流のコンテンツ消費手法となっています。

2つ目は、ショートドラマの低い制作コストや高い収益ポテンシャルを理由に様々なコンテンツプロバイダー(CP)がショートドラマを制作するために市場に参入してきたことです。

  1. 低い制作コスト
    テレビドラマと映画の制作予算は億円単位ですが、ショートドラマは数百万円単位と非常に低予算で作品を制作することが可能です。このため、CPはスポンサーの援助なしで自らの資金でコンテンツを制作することができます。
  2. ヒット作品創出による高い収益ポテンシャル
    CPが自ら出資を行って制作するショートドラマは、スポンサーから援助を受けるテレビドラマや映画と異なり、作品の権利をCP自身が保有することができます。そのため、ヒット作品を生むことが出来れば、CPは大きな収益を得ることが見込めます。

2.emole社の事業概要と強み

今回Angel Bridgeが投資させていただいたemole社は、1話1~3分で視聴できるショートドラマ配信プラットフォーム「BUMP」を提供する企業です。1話100円程度の課金で視聴が可能で、1 タイトル 10〜30話のショートドラマを配信しています。

ショートドラマ市場が国内で立ち上がる前にサービスを2022年12月にリリースしており、emole社はパイオニアとしていち早く国内のショートドラマ市場に参入しています。

「BUMP」は自社で制作した作品と外部のCPが制作した作品をプラットフォーム上で配信しているため、全ての作品を自社制作する必要がありません。プラットフォーマーとして外部作品の掲載も行うことで、全ての作品を自社制作する負担を軽減できることに加え、マンガ等で既にヒットした原作を基に制作された、注目される確度の高い作品の掲載を可能にしています。

作品のジャンルに関して現在は恋愛関連の作品が多く掲載されていますが、一部ミステリーやアクション関連の作品も存在しており、徐々にジャンルの拡充が進んでいます。

図4:「BUMP」の概要

「BUMP」は様々なCPから高い評価を得ており、実際にインタビューを実施したところ、「売上が期待以上」、「海外プラットフォームと比較して作品の質が高い」、「積極的にBUMPと連携したい」といった声が寄せられています。

図5:CPによるBUMPの評価

一部中国発の競合も国内市場に参入していますが、作品がローカライズされていないため国内のユーザーに受け入れられにくい点、カルチャー・言語の壁により国内CPの信頼獲得に苦戦していることを鑑みると、国内ユーザーに特化した良質な作品を提供している「BUMP」は国内No.1ショートドラマプラットフォームに成長する可能性が高いと考えています。

3.経営陣

emole社の経営チームは、全体として高いレベルでの経営や事業の執行ができており、少数精鋭のチームで高い成果を実現しています。

澤村CEOは立教大学経営学部卒業後、個人事業主として独立し、2018年にemole社を創業。大手からスタートアップまで様々なプロダクトの受注開発を行い、その後YouTube番組やミュージックビデオ、短編映画のプロデューサーを務める等、クリエイターの思考を解像度高く理解されています。また、高いビジョンを掲げ、組織を推し進めていく情熱や巻き込み力も併せ持っています。

また、水谷COOは慶応義塾大学商学部卒業後、テレビ朝日に入社。コンテンツビジネス戦略部にて、ドラマ・アニメ・特撮など幅広いコンテンツの制作に従事し、サイバーエージェントに出向した際にはアニメチャンネル責任者を担当。その後REALITY(グリーグループ)でも取締役に就任するなど、コンテンツビジネスに非常に知見が深い人材です。

現経営陣二名がそれぞれの強みを持って補完しあい、全体として高いレベルでの経営が実現できており、emole社の強みの源泉の一つとなっています。

図6:emole社の経営陣

4.おわりに

ショートドラマ市場はタイムパフォーマンスを重視するZ世代を中心に近年大きな躍進を遂げており、2029年にはグローバルで8.7兆円に達すると見込まれている成長市場です。

一方で、日本においては未だ国内大企業の参入が進んでいないことに加え、海外競合も作品のローカライズ化に苦戦している状況です。emole社はパイオニアとしていち早く国内のショートドラマ市場に参入し、作品制作能力の高さと優良なCPを囲い込む力で実績を積み上げ、国内の市場を切り開いてきました。

また、emole社がベンチマークとしているマンガアプリ企業は数千億円規模の時価総額に達しており、資本市場から高い評価を得ています。emole社が国内No.1ショートドラマプラットフォームとしてのポジションを築くことにより日本発のメガベンチャーに成長できる可能性があると考えています。

図7:マンガアプリの資本市場からの評価

今後も優秀な経営陣の元、より一段と事業を拡大し、大きな成長を遂げていけると弊社も期待しております。

Angel Bridgeは社会への大きなインパクトを創出すべく、難解な課題に果敢に挑戦していくベンチャーを応援しています。ぜひ、事業戦略の壁打ちや資金調達のご相談など、お気軽にご連絡ください!

 

2025.03.25 COLUMN

前回の「Angel Bridge USベンチャー記事#11」は、法人向けの大規模言語モデルを開発するユニコーン企業Cohereについて紹介しました。
Angel Bridge USベンチャー研究#11

今回は、エネルギー分野において夢の技術として期待されている核融合発電について、その概要と、有望な企業の一社であるアメリカのCommonwealth Fusion Systems社(以下CFS社)というユニコーン企業をご紹介します。

核融合発電が今注目されている背景

カーボンニュートラルを求める世界的な潮流の中で、直近では電化社会の進展やAIによる消費電力の拡大などから、クリーンかつ大規模な電力供給への期待が高まっています。

実際に、IEA(国際エネルギー機関)の2024年のレポート「World Energy Outlook 2024」では、2050年に世界の最終エネルギー消費量に占める電力の割合は今の2倍になると見込まれています。

図1:最終エネルギー消費量に占める電力の割合の展望(出所:国際エネルギー機関)

増加する電力需要を賄うための手段として、近年大きくコストダウンしつつある太陽光発電や風力発電などの再生可能エネルギーが有力視されてはいるものの、その特性から安定供給には懸念があることに加え、消費電力の拡大を補える程の発電量は見込めていないのが現状です。事実、2010年から2023年までの間で再生可能エネルギーや原子力などの従来よりもCO2の排出量が少ない発電手法による供給量の増加分は4,800TWhでしたが、同期間で増加した電力消費量は8,400TWhと、供給量の増加分を大幅に上回っています。

こうした状況の中で、二酸化炭素を排出しない、効率的な電力供給方法として再度注目を集めているのが原子力発電です。2023年の国連気候変動枠組条約の締約国会議(COP28)では気候変動への解決策の1つとして初めて合意文書に明記されるなど、その有用性にスポットライトが当たっていることが伺えます。さらに、同COP28期間中の2023年12月2日には、日本を含む22カ国による「2050年までに2020年比で世界全体の原子力発電容量を3倍にする」との野心的な目標に向けた協力方針を掲げた共同宣言も発表されました。しかし原子力発電は建設コストが高いことに加え、事故や放射性廃棄物といった安全面への懸念が大きいことが課題となっています。日本においても若年層を中心に原発再稼働を容認する声が増加傾向にあるものの、未だ原発に対しては抵抗感が根強いのが現状です。こうしたコストや安全面での課題を克服する手段として、直近ではSMR(小型モジュール炉)の開発が進められています。従来の大型原子炉と比較して、SMRは小型で出力が抑えられていること、またシンプルな構造によって安全性の確保が比較的容易だとされています。さらに部材を工場で標準化・モジュール化して製造し、現地で組み立てるという効率的な建設プロセスを採用しているため、建設コストを大幅に削減できる可能性があります。

この特長により、エネルギー需要の多様化に対応しながら、離島や遠隔地など従来型では難しかった場所でもマイクロ/ミニグリッド(小規模な発電施設)として設置が可能になると見込んで、近年世界中でSMRの実用化に向けた研究と開発が加速しています。SMRの発電の原理自体は核分裂反応を活用するということでこれまでの原子力発電と同様の技術を用いています。

一方で、よりクリーンかつ安全、そしてエネルギー効率が高い発電手法として注目を集めているのが核融合発電です。

元々核融合発電は1920年代から研究がされているものの、その技術的難度の高さから「夢の技術」と称されてきました。それが近年、新しい材料や技術の開発が進んだことやAI/シミュレーション技術の進展によって急速に現実味を帯びてきたのです。

核融合発電の概要

核融合反応とは、水素のような軽い原子核同士が合体し、ヘリウムのようなより重い原子核に変わる科学反応のことで、非常に大きな熱エネルギーの発生を伴います。

その中で最も核融合反応が起きやすいのが重水素と三重水素によるものであり、多くの核融合発電はこの反応を用いて発生したエネルギーを用いて発電することを試みます。

図2: 核融合反応の中で仕組み(出所:量子科学技術研究開発機構)

核融合発電の特徴は大きく以下の3つです。

1.エネルギー効率が大きい

重水素と三重水素で構成される燃料1gから発生する熱は、約8トンの石油の燃焼エネルギーに匹敵します。

(参考:核分裂の場合、ウラン燃料1gは石油1.8トンに相当)

2.クリーンでサステナブル

核融合反応は二酸化炭素を排出しないことに加え、一般的な燃料である重水素と三重水素は海水中にほぼ無尽蔵に含まれており、枯渇の懸念が小さいため、化石燃料を用いた発電方法よりも地球環境に与える影響が小さいとされています。

3. 優れた安全性

核分裂反応を用いる原子力発電とは異なり、核融合発電では少量の中性子が発生するものの、高レベルの放射性廃棄物は発生しません。また、後ほどご説明しますが、核融合反応の成立条件が厳しいが故に、反応を維持・制御できない事態が起きても暴走せず、自然停止する性質を有しています。

以上の特徴から、核融合発電は夢の技術と称され、期待を寄せられてきました。

しかし、その実現にあたっては多様な課題が山積しているのが現状です。

最大の技術課題として、一般にローソン条件と呼ばれる、核融合反応を連続発生させ、エネルギー収支をプラスにするための条件が非常に厳しいことが挙げられます。

代表的なローソン条件としては、温度・密度・閉じ込め時間の3つの要素を一定以上にするものです。具体的には温度1億度、密度100兆個/c㎥、閉じ込め時間1秒という値が取り上げられることが多く、非常に厳しい条件になっています。

そのプラズマ閉じ込めを実現する有力なアプローチとして、磁場を用いた磁場閉じ込め方式と、レーザーなどを用いて燃料を圧縮する慣性閉じ込め方式の2つが存在します。

図3:プラズマ閉じ込めに対する有力なアプローチ

磁場閉じ込め方式は大きく以下の2つに分類されます。

  • トカマク/ヘリカル型

図4 :トカマク型の炉心イメージ(出所:Commonwealth Fusion Systems社HP)

トカマク/ヘリカル型はドーナツ状の超電導電磁石によって強力な磁場を形成する手法です。

技術的な蓄積が豊富で、最も実用化に近いとされていること、またプラズマの閉じ込め性能が高く、安定的な発電が見込めることから、国際的な研究プロジェクトであるITER*でも採用されているアプローチです。

(*「International Thermonuclear Experimental Reactor(国際熱核融合実験炉)」の略称で、フランスで実験炉の建設が進められている。)

しかし、その強力な磁場を形成するためには大型の核融合炉が必要となるため、非常に建設コストが高いことが課題となっています。事実、ITERの総建設費用は250億ドル以上、2010年から開始された建設は2030年代中ごろまで完了しない見込みです。

またトカマク/ヘリカル型の違いはドーナッツ状のらせん構造の形状にあります。トカマク型はトロイダル磁場コイルと呼ばれるリング型のいくつものコイルがドーナッツの周りに置かれるような形状です。一方でヘリカル型はコイルがドーナッツの周りでらせん状にねじれている構造になっています。結果としてプラズマ性能の優劣や運転時間に差分が生じます。

  • FRC型

図5: FRC型の炉心イメージ(出所:TAE Technologies社HP)

FRC型は近年急速に研究が進んでいるアプローチです。FRC型も外部コイルによって磁場を発生させることは変わりませんが、装置内でプラズマに流れる電流が外部コイルと逆向きの磁場を発生させ、相互作用することで、プラズマを高密度で閉じ込めるという特徴があります。

長所としては主に小型化が可能な点と発電効率が高い点の2つが挙げられます。

強力な磁場を必要としないことから核融合炉の小型化が可能であることに加え、発生したエネルギーを蒸気タービンを介さずに直接発電することに活用できるため、理論上発電効率が非常に高いことが見込まれます。

一方で、磁場構造が反転していることによって磁場が乱れやすく、プラズマの維持時間が短いことが課題として挙げられます。また、FRC型は他の手法に比べて技術的蓄積が少なく、プラズマの平衡や安定性に関して従来の磁気流体学では説明がつかないなど、懐疑的な見方をする研究者が多いのも実情です。

  • レーザー型

図6:レーザー型の炉心イメージ(出所:東京科学大学HP)

この方式は高出力レーザーや粒子ビームを用いて燃料を瞬間的に高温/高密度に圧縮します。その中でも前者を用いるレーザー型の研究が最も進んでおり、核融合炉の小型化や発電量の柔軟な調整ができることが主要なメリットとして挙げられます。

一方で、反応を起こすには数十~数百本のレーザー光を燃料のあらゆる面に寸分の狂いなく同時に照射することが必要であるため、非常に精密なレーザー制御が求められます。また、商用化にはこの精密で高出力な照射を1秒間に数十回行う必要がある点にも技術的ハードルが存在します。2022年に世界で初めて点火に成功したとして大きく注目を集めた米ローレンス・リバモア国立研究所も、照射に必要なエネルギーの大きさから1日に1回程度しか照射できないというのが現状です。

このように、現段階ではどのアプローチが明確に優れている、ということはなく、いずれも一長一短な手法であることが伺えます。では、今最も有望とされる企業の一つであるCommonwealth Fusion Systems社はこのような課題に対してどう取り組んでいるのか、以下で説明していきます。

Commonwealth Fusion Systems社概要

図7: Commonwealth Fusion Systems社概要

CFS社は2018年にMITプラズマ科学及び核融合センターのスピンオフとして現CEOのBob Mumgaardらによって共同設立された企業です。これまでに累計$2Bを調達しており、主要投資家には著名VCのTiger Global Managementをはじめとして、Googleやビル・ゲイツ氏が名を連ねます。

続いて、CFS社の事業内容と強みについて説明します。

CFS社は最も技術的根拠が強いとされているトカマク型を採用しています。

商業化に向けた事業進捗としては二番手*とされており、現在は実証炉である「SPARC」の開発を試みています。

(*一番手はOpenAI CEOのサム・アルトマン氏も出資するHelion Energy社(米)とされます。2028年からMicrosoft社に電力供給を行う契約を2023年に締結し、注目を集めました。)

図8: 現在建設中の「SPARC」の写真(出所:Commonwealth Fusion Systems社HP)

CFS社は以下の2つを強みとして開発を進めています。

  • 優れた技術による革新的な経済性

これまでのトカマク型の技術では、ローソン条件を満たし続けるための強力な磁場を作るのに巨大な装置が必要となるため、多額のコストが見込まれていました。

この点において、SPARCは装置の小型化に成功し、革新的な経済性の実現を見込んでいます。同じ実験炉であるITER(国際熱核融合実験炉)に比べると同等の出力を保ちながらも炉の体積と建設費用を大きく圧縮しています。具体的には炉の体積は1/40、建設費用はITERの250億ドルに対してわずか4億ドル程度です(2018年時点)。

CFS社がこの小型化を成功させた背景には、磁場を作り出す超電導磁石に従来の低温超電導磁石ではなく、先進的な高温超電導電磁石を用いていることが挙げられます。

トカマク型の核融合炉の場合、発電性能は炉の体積とプラズマを閉じ込める磁場の強さの4乗に比例しますが、後者の磁場の強さを高温超電導コイルを用いて2倍程度に底上げすることで、小型でも大型のITERと同等の発電性能を得られると推定しています。

この高温超電導磁石の活用に関しては、CFS社の母体であるMITが約半世紀にもわたって積み上げた超小型炉に関する研究が土台にあり、現時点でCFS社が最も実用化に近いとされています。

図9: 高温超電導磁石(出所:Commonwealth Fusion Systems社HP)

  • 高い資金調達能力

次に、高い資金調達能力です。経済性に優れた開発手法を用いているとはいえ、依然として核融合発電の実現には莫大な資金が必要です。

CFS社はMITで積み上げられた研究をベースとするその技術力の高さと実績によって信頼を獲得し、多額の資金を調達してきました。核融合スタートアップの資金調達額ランキングでトップに立っており、2位のTAE Technologiesに8億ドルの差をつけ、これまでに約20億ドルを調達しています。

図10: 2023年時点の核融合スタートアップの調達額順位(出所:Fusion Industry Association(米))

これらの強みによって建設にかかる工期/コストを大幅に短縮したCFS社は、2021年末の建設開始からわずか5年後の2026年に「SPARC」の稼働を開始して最初のプラズマを生成、2030年代初頭には商用炉「ARC」による送電網への電力供給を開始する計画を公表しています。

一方で、未だローソン条件を達成するには至っていないことや、核融合反応で発生した熱を効率的に電力に変換して供給するなどの技術課題が残されています。したがって商用化に向けてこれからも計画が遅延することは十分に想定されます。

しかし、永遠に実用化されないとされてきた核融合発電の実現に向けて大きく踏み出していることは確実だといえるでしょう。

核融合発電の市場動向

次に、核融合発電の市場動向について説明します。近年CFS社などによって核融合発電に関する技術的進捗が公表されるにつれて、核融合発電は世界中で大きな注目を集めており、国家的なプロジェクトが多数推進されている他、民間でも多くのメガベンチャーが誕生しており、官民が連携して実現を試みています。

それに伴い、核融合発電のグローバルにおける市場規模は2030年に約60兆円、2040年に約118兆円と推定されるなど、急速な拡大が見込まれています。

また、核融合産業に対する累計投資金額についても欧米を中心に急増しております。特に米国は早期からエネルギー省などを中心に大規模な投資を行っており、2024年時点で累計34億ドルの資金を投入する計画です。英国やドイツもそれぞれ19億ドル、17億ドルの予算を見込んでいます。

民間に視点を向けると、投資団体数は未だその8割程度を金融・投資機関が占めており、未だアーリーステージであることが伺えます。一方で、直近では今後消費電力が拡大することを見込んだGAFAMやNVIDIAなどのテックジャイアントを中心として、事業会社からの投資も増加しており、今後技術開発が進むにつれてより一層の投資主体の多様化、および金額の集中が見込まれるでしょう。

 

日本の核融合発電に対する向き合い方

日本は核融合先進国である

日本においては1950年代から京都大学などを中心に核融合分野の研究が進められており、世界規模で見ても技術的には先進国の部類に入ります。

実際に、2034年までに定常状態核融合炉の稼働を目指す計画を発表して注目を集めたHelical Fusionや、2023-2024年で計29億円を調達したEX-Fusionなど、 競争力のあるスタートアップが誕生しつつあります。

また、核融合反応を如何に起こすか、という領域だけではなく、その周辺分野でも事業機会が生まれており、例えば2024年に105億円の資金調達を発表して話題を呼んだ京都フュージョニアリングは、核融合炉からの熱回収技術など核融合の周辺領域に注力しています。

核融合反応の起こし方は異なっても、そこから熱を取り出し、発電に至るまでのプロセスに大きな違いはないことに着目し、同社はその部分に特化することで核融合分野で不可欠なプレイヤーになることを試みています。

その他、三菱重工業や日立製作所、フジクラなど数多くの製造業に核融合炉の部材の供給実績があり、日本はサプライチェーンの観点でも先進国と位置づけられるでしょう。

一方、国家単位での開発体制支援は未だ不十分

2030年代の実証を目標に掲げ、国家単位での枠組みとしては、2023年4月に日本初の核融合国家戦略である「フュージョンエネルギー・イノベーション戦略」が策定されたことに加え、それに基づいて官民連携組織である一般社団法人フュージョン・エネルギー産業協議会(J-Fusion)が設立されるなど、一定の取り組みが進められています。

一方で、資金投下については前述した米国の34億ドルや英国の19億ドル、ドイツの17億ドルに対して日本の政府資金の累計投下金額はわずか3億ドルと大きく劣後することに加え、民間からのリスクマネーの供給金額も先行する欧米には遠く及ばないのが現状です。

宇宙産業が好例として挙げられるように、ディープテック領域における技術開発には資金面での充実が極めて重要な要素となります。今後日本が欧米や中国に追随するためには、政府資金のより集中的な投入に加え、セカンダリーマーケットの整備や核融合領域における規制緩和などを通じてグローバル規模で投資家の関心を高め、積極的な資金流入を促す取り組みを一層加速させる必要があるのではないでしょうか。

おわりに

今回は、核融合発電の実現に取り組むCommonwwealth fusion sysytems社について紹介しました。 

核融合発電は革新的なエネルギー効率、環境に与える影響の少なさ、優れた安全性といった性質を併せ持つ画期的な発電手法であり、特に日本においては資源安全保障の観点でも非常に重要な意味を持つ技術です。

当然足元の太陽光発電や風力発電といった再生可能エネルギーの推進や送電網の整備に目を向けることも重要ですが、核融合発電の実用化が現実的となった今、将来的に技術的な自立性を確保するためにも、より一層国家単位で開発体制が充実化されるべきです。

最後になりましたが、Angel Bridgeは核融合発電のようなディープテックに取り組む企業にも積極的に投資しています。事業の壁打ちや資金調達のご相談など、お気軽にご連絡ください!

2025.03.12 COLUMN

前回の第3弾に続き、今回はAngel Bridgeにて2024年6月から2025年1月まで約半年間インターンを経験したインターン生の体験記事をお送りします。

自己紹介

Angel Bridgeでインターンとして勤務している東京大学経済学部4年の野島です!

Angel Bridgeでは2024年6月から2025年1月まで、約半年勤務させていただきました。

2025年4月からは総合商社に就職する予定です。

今回はこの半年間の業務内容や、インターンとして勤務する中で得られた学びを共有させていただければと思います。

近年政府がスタートアップエコシステムの拡充を進めるに伴ってVCは急速にそのプレゼンスを高めていますが、学生の間でVCの知名度はまだ高いとは言えず、その全体像や実際の働き方が見えにくい業界だと思っています。

本記事を通して、VCにおける業務の全体像やその面白さ、その中でもAngel Bridgeでインターンとして働くことの魅力を少しでもお伝えすることができれば幸いです。

Angel Bridgeのインターンに応募した経緯

元々私は大学で体育会ラクロス部に所属しており、社会人1年目でスタートダッシュを切るために、引退後の1年間で本格的に取り組むことができる長期インターンを探していました。

軸は以下の2つです。

「俯瞰的な立場」

大学の4年間は部活動に打ち込んでいたため、ビジネスにおける自分の興味関心がどこにあるかについて確信を持てずにいました。そういった観点で特定の業界にコミットするのではなく、一歩引いた立場から様々な業界に接点を持てる場所で働きたいと考えました。

「スタートアップへの関心」

大学で所属していた経営系のゼミ(東京大学俯瞰経営塾)において、革新的な技術やビジネスモデルで世界を席巻するスタートアップについて研究する機会があり、そのダイナミックさや社会的意義の大きさに感銘を受け、より深くスタートアップに関わりたいと思いました。

こうした観点でVCに関心を持っていたところ、ゼミに社会人ティーチングアシスタント(TA)として来ていたAngel Bridgeディレクターの八尾、アソシエイトの山口と出会うご縁をいただきました。

Angel Bridgeは戦略コンサルや投資銀行などのプロフェッショナルファームで活躍されていたキャピタリストで構成されており、業務の遂行レベルが非常に高いです。インターン生に対しても要求水準が高く、いい意味で学生扱いをされないことから、ストレッチのかかる環境で、自身の成長を最大化できると考えました。

また、面接でお会いしたパートナーの河西、林をはじめ、キャピタリストの方々の人柄の良さに惹かれたことも入社の決め手となりました。

実際、入社後も社内イベントのみならず、プライベートでも飲み会に多数参加させていただくなど非常に親しくしてくださり、とても楽しく過ごすことができました。

 

Angel Bridgeでの業務内容

Angel Bridgeのインターンは全ての投資業務に関わっています。

ソーシング

ソーシングとは投資先候補を発掘する業務のことです。インターン生はデータベースを活用し、候補となる企業をまとめたロングリストの作成や軸に照らしたカテゴライズを行います。

また起業家との面談に同席し、社内報告用の議事録作成も担当します。この際、担当キャピタリストとそのスタートアップのビジネスの本質は何で、それに照らして現状はどう評価できるか、また投資した際のリターンはどうか、などについて議論します。

これらの業務によって、投資家としてスタートアップへの投資検討をはじめへの投資検討をはじめる上で重要な視点や、情報を短時間で構造的に整理する力が付きます。

投資検討

ソーシング面談の結果、有望で投資の可能性があるスタートアップは投資検討のプロセスに移ります。

まずは簡易的に市場(規模・ペイン・トレンドなど)や競合状況をリサーチした後、スタートアップから共有いただいた事業実績/計画を元に基本的なKPIや顧客のプロダクト利用状況などの分析を行うデューデリジェンスに進みます。

Angel Bridgeでインターンすることの大きな魅力は、この本格的なデューデリジェンスのプロセスに深く関わることができる点です。

Angel Bridgeではキャピタリストと共に自らデータを分析し、投資検討しているスタートアップを評価するための資料に落とし込むプロセスを経験することができます。

そしてAngel Bridgeが最も強みとしているのがこの投資検討のプロセスです。

デューデリジェンスにおける分析の質を投資検討先の経営陣に評価いただき、投資後も伴走させていただくパートナーとして選んでいただけるケースも多いです。

私が関わったデューデリジェンスにおいても、「ここまで短期間で事業を理解してくれたVCはなかなかいない」「分析資料の質が大変高いので営業資料に活用してもよいか」といったお声をいただきました。

将来プロフェッショナルファームで働きたいと考えている人にとっては、その思考法や分析手法を学ぶことができる点で素晴らしい環境だと思います。

マーケティング

①オウンドメディア記事作成

なぜAngel Bridgeが投資したかを説明する「投資の舞台裏」や、海外で大きく成長しているスタートアップを特集する「USベンチャー記事」などの記事執筆を担当します。

USベンチャー記事に関しては、自分の興味ある企業について、日本との市場環境の違いや、日本で同じ事業をするとしたらどのような戦略を取るべきか、ということを考えることが非常に面白かったです。

②マーケティング数値分析

投稿した記事の閲覧状況やキーワードごとの流入などを分析し、Angel Bridge全体のマーケティング施策を検討します。

また、より広い視点で、VC業界全体の中でのAngel Bridgeのポジショニングをどこに置くか、それに照らして現在のマーケティング施策やHPのデザインは適切か、などの議論も行いました。

インターンでの学び

マインドセット

「オーナーシップを持つ」

基本的にインターン生はキャピタリストから指示を受けたタスクをベースに仕事を進めますが、作業者としてタスクを実行するだけでなく、常にキャピタリストの視座に立ち、自分の頭で必要なことを考えるようにしていました。

特にデューデリジェンスにおいて、インターン生はリサーチ/分析を担当することが多く、キャピタリスト以上に生の情報に触れる機会も多いです。だからこそキャピタリストの考える論点に沿ってリサーチ/分析を遂行するのではなく、もっと違った見方ができるのではないか、こういった論点があるのではないか、など触れた文献やデータを元に自ら考えて行った追加検証は、例えその仮説が外れたとしても大きなバリューになります。

作業に追われている時など、気を抜くと疎かになってしまう部分ではありますが、自分の頭で考えた内容をキャピタリストにぶつけ、そこに対してフィードバックをいただいくことが重要だと考えています。このサイクルを回すことこそが、作業の効率向上だけでなくより本質的な成長に繋がる、やりがいのある工程だと感じました。

ハードスキル/仕事の進め方

「Excel/Power Pointなどの基本的なツールの使い方」

Angel Bridgeはしっかりとしたオンボーディングの上で投資検討のデータ分析や投資委員会資料に非常に深く関わることができるため、ExcelやPower Pointの使い方もしっかりと叩き込まれました。

また社内には過去作成したものを含め、手本となる資料が目を通しきれないほど存在するため、戦略コンサルや投資銀行流の資料作成術も深く学ぶことができ、非常に勉強になりました。

「仕事の進め方」

最終アウトプットを解像度高く把握し、その期待値から逆算した必要十分な作業工程の設計をすること、そして自分のキャパシティと依頼者のスケジュールから、どのタイミングでどこまでの作業を終えて中間報告に行くか、というタイムマネジメントなど、効率的な仕事の進め方も学ぶことができました。

知識

多くのスタートアップの投資検討に関わる中で、多様な業界の構造やペインについての知見や、その中でスタートアップが勝っていくにはどうしたらいいか、またVCから調達する際の重要論点は何か、などスタートアップに関する経営の論点について学ぶことができました。

また、個人として将来的に関わりたい領域が複数見つかったことも、ビジネスにおける自身の興味関心がどこにあるかを探るというインターンを始めた当初の目的が達成されたという観点で非常に有意義でした。

インターンをお勧めしたい人物像

Angel Bridgeのインターンは以下のような人に特におすすめです。

①コンサル/投資銀行などプロフェッショナルファームに内定している、もしくは興味がある人

Angel Bridgeのキャピタリストはプロフェッショナルファームで活躍していた方で構成されており、業界内でもトップクラスに高い水準でのデューデリジェンスを経験することができます。

それによってExcelやPower Pointなどのハードスキルはもちろん、コンサル/投資銀行流の問題解決の思考法や分析の手法を深く学ぶことができるため、これからプロフェッショナルファームの面接を受ける/内定後に働くまでの準備をしたいという人にとってはこの上ない環境です。

②起業・VCを将来のキャリアとして検討している人

Angel Bridgeではリサーチ業務に留まらず、ソーシングやDDなど本格的なVC業務に携わることができるため、投資家としての視点やスタートアップの経営論点など、より本質的な学びを得ることができます。

③学生時代に集中的に取り組めることを探している人

Angel Bridgeでは業務内容に制限がなく、手を挙げればなんでも取り組むことができる環境であることに加え、週3日以上の出勤がマストとなっている(テストや旅行での休暇はもちろんOKです)ことで、非常にやりがいのある、密度の濃い時間を過ごすことができます。

最後に

Angel Bridgeの皆様にはこの半年間でマインドセットからハードスキル、仕事の進め方など、本当に様々なことを教えていただきました。また、業務外でも合宿やゴルフなどの社内イベント、飲み会に多数参加させていただき、公私ともに非常に充実した日々を過ごさせていただきました。

最初で最後のインターン先としてAngel Bridgeを選んでよかったと心から思っています。

この記事を読んでAngel Bridgeのインターンに興味を持った方はぜひホームページTwitterから応募してみてください!

2025.02.25 TEAM

VC投資は「アート」ではなく「サイエンス」

——「Angel BridgeとはどんなVCですか?」と聞かれたら、どのように答えますか?

ひと言で、といわれたら「コンサルティングファームや投資銀行など、プロフェッショナルファーム出身者からなるハンズオン支援を得意とするVCです」と答えます。

——投資スタイルの特徴は?

投資においてもっとも重要なのは、投資先がポテンシャルを最大限発揮出来ることです。その実現のためにはファクトの分析に基づいた目利き力と、手厚く行き届いた支援が欠かせません。ベンチャー投資を勘や経験に基づく「アート」といわれることもありますが、われわれは投資先を選ぶ際も、投資先を支援する際も、事実や数字の裏付けを重視するため投資を「サイエンス」だと捉えています。

——投資を「サイエンス」だとおっしゃる理由について、もう少し詳しく聞かせていただけますか?

事実や数字によって対象の持つポテンシャルを可視化し、課題解決や目標達成を目指し最善の方策を考え、実践と検証を繰り返しながら真理に近づく。こうした営みはまさに自然科学の研究アプローチそのもの。だからこそわれわれは「ベンチャー投資はサイエンスだ」というのです。

遺伝子研究の徒がなぜ投資の世界に進んだのか

——河西さんは大学院で遺伝子の研究をされた後、投資銀行やPEファンドを経て、2015年にAngel Bridgeを創業されました。そもそもなぜバイオサイエンスの世界から投資の世界へ?

大学院でイネの遺伝子組み換えの研究をしていた人間が「なぜ投資の世界へ?」とよく聞かれますが、私自身は、研究対象が「イネ」から「企業」に変わっただけだと思っているんです。研究職も投資家も真理を追求するのが仕事。むろん分野は違いますが、本質的な部分では重なるところが多いと思っています。

——「真理を探究したい」という思いはどこから?

両親や祖父が大学の教授だったせいか、幼少期から物事を深く考えたり、分析したりするのが好きでした。それもあって研究者を目指し大学院に進学したのですが、アカデミアの世界はビジネスの世界と比べると、純粋な真理の探究の側面が強く、それによって社会を動かす意識があまり強くありません。もちろん例外はあります。ただ、これからの人生について考えたとき、象牙の塔にこもって研究に没頭するより、社会に出て探究した真理を世に還元するほうが自分の性分に合うと思い、金融の世界に足を踏み入れました。

——それで、投資銀行を選ばれた?

はい。企業価値をシビアに算定する姿勢に、研究に通じる論理性や厳密さを感じたからです。また、プロフェッショナルファームも研究者と同様、「個人技」が評価される職業でもあります。自らの手でキャリアを切り拓きたいという思いもあり、この世界に舵を切りました。

——投資銀行に入られた後、PEファンドにいかれたのはなぜですか?

投資銀行の本分は、あくまでも顧客への的確なアドバイスであり、サポートを提供すること。実務を通じて、真理の探究より顧客のために尽くす立場という側面が強いのを投資銀行で知りました。投資銀行からPEファンドに転じることを選んだのは、企業が成長する根拠をファクトに求めつつ、自ら手を汚す覚悟を持って投資先の経営に関与する姿勢に魅力を感じたからです。投資銀行時代にご一緒したPEファンドの方の仕事ぶりを見て「これこそ私がしたかった仕事なのかもしれない」と感じ転職しました。

——その後、PEファンドをもう1社経てAngel Bridgeを創業されました。稀なキャリアパスでは?

そうですね、PEファンド2社で7年間実務を経験した後、VCを立ち上げた日本人は、私が知る限りほかにいないのではないでしょうか。そういう意味でAngel Bridgeは、PEファンド的なアプローチを採る日本で唯一のVCといってもいいのではないかと思います。

日本経済再興のためにPEファンドではなくVCで勝負したい

——これまでの経験を踏まえれば、PEファンドを立ち上げてもよかったはずです。なぜVCだったのでしょう?

MBA留学から帰国して、日本は経済規模の割にVCの存在感が薄いことに気付きました。少子高齢化が加速するなか、政財界を中心に「日本も新産業を生み出さなければ」という機運が高まりつつあったとはいえ、米国などに比べると、まだまだ世に出る起業家の数が足りません。PEファンドで学んだ理論や手法をVCに持ち込もうと決めたのは、有力なメガベンチャーを世に送り出し日本経済の衰退を食い止めたい、新産業を創出し経済のパイを大きくして、豊かな社会を築きたいという思いからです。

——VCを立ち上げるにあたって周囲の反応はいかがでした?

「PE投資とVC投資はまったく違う。無理では?」と、よくいわれたものです。「成功に必要なノウハウも人脈も違うから」というのがもっぱらの意見でした。もっともな反応だとは思いますが「基本的にエクイティ投資なのは同じ。通用するはずだ」という考えが揺らぐことはなかったですね。もちろん異なる部分がない訳ではありません。しかし、経営者を見て、事業を見て、競合を見て、成長の余地を見極め、企業の価値を最大化するために手を打ち続ける点で、何ら変わるところはありませんでした。

——とはいえ、PE投資とVC投資は似て非なる世界です。ご苦労も多かったのでは?

確かにPE投資は一定の実力と実績を備えた企業を丸ごと買収し、経営改善を通じてさらに伸ばそうとするビジネスに対し、VC投資は立ち上げ間もない企業のポテンシャルを見極め、いち投資家として事業成長を後押しするビジネスです。オーナーシップを発揮するというよりも、経営陣やほかの投資家と手を携えて会社を伸ばす立場なので、似て非なる点があるのも確かです。先に申し上げたように、私は日本経済の衰退を食い止める一助になりたくてVCを立ち上げました。ゼロからコツコツ積み上げられたのは人生を賭ける覚悟を決めたからこそ。「儲かりそうだから」という軽い気持ちで参入していたら、おそらく続けられなかったでしょう。

——ある程度実績がある企業ではなく、立ち上げ間もないベンチャーを分析するのは難しいのでは?

確かに「VCにPEファンド的なアプローチが採れるんですか?」と、よく聞かれるのですが、プレシリーズAに手が届く段階になれば、一定のプロダクトがあり、それを支持する顧客が存在します。市場規模や将来性もファクトを積み上げれば見えてきますし、プロダクトが顧客の心に刺さる理由についても、当事者にインタビューさせていただければ明らかです。確かにシード期のスタートアップになると深掘りできる要素は限られますが、それでも目をこらせばビジネスモデルの妥当性や起業家のポテンシャルを確かめる方法がないわけではありません。お膳立てが整っていなくても、結果を出すためにあらゆる手を尽くす。それがプロの仕事だと思います。

——河西さんもVCを立ち上げた起業家です。だからこそ起業家と通じ合える部分が多いのかもしれません。

そうですね。起業家の心情はよくわかりますし、ゼロから事を成すのが好きな点など、気持ちが通じ合うポイントは多いかもしれません。前職のPEファンドにもベンチャーキャピタル機能はありましたが、対象となるのはあくまでレイターステージのベンチャーでした。いまはシード、アーリーステージのベンチャー経営者と接する機会が多いので、より当事者に近い目線で仕事と向き合えている気がします。

VC投資の成否を分ける「目利き力」の重要性

——VC投資を成功させるために重要なポイントは何でしょう。やはり強みとされている「ハンズオン支援」ですか?

投資先を選ぶ「目利き力」と「ハンズオン支援」のどちらが重要かと問われれば、迷わず目利き力だと答えます。おそらく目利き力が成功要因の7割以上を占めるのではないでしょうか。ポテンシャルの乏しい企業にいくら手厚い支援をしたとしても、うまくいく可能性はほぼありません。ハンズオン支援に成長のスピードを上げる効果はあっても、成功確率を高める効果は期待できないからです。

——ハンズオン支援はAngel Bridgeの強みかもしれませんが、だからといって、それありきではないんですね。

はい。もちろん投資先のニーズがあればできる限り手を尽くしますし、不要であれば当然見守り役に徹します。しかし、VCの最大の役割は大型の資金を継続的に供給していくことですから、「何が何でも、すべての投資先を支援します」というスタンスは、投資家のエゴでしかありません。ですから投資先に対しては、日頃から「何かお手伝いできることはありませんか?」と、お声がけし、相談を持ちかけていただいたら、全力で支えるようにしています。VCはどこまでいっても外部の株主ですから、応援団という立場から経営者の夢の実現に向かって全力でサポートしていくというスタンスを忘れてはいけません。

——繰り返し言及されている「目利き力」についてもう少し詳しく聞かせていただけませんか。要素に分解するとどんな力といえるのでしょう?

別の言葉で表現するなら「さまざまな角度から対象を分析する力」になるでしょうね。分析というと、どうしても数字を読み解くことに気を取られがちですが、たとえば「この経営者は途中で投げ出さず最後までやりきる人物か」を見極めるのも分析の範疇に入ります。経営者の経歴や過去の実績を調べるだけでなく、当時の関係者に会って裏を取るのも分析の精度を高めるため。数字はもちろん、数字に表れない要素を加味して分析する力をもって、私は「目利き力」と呼んでいます。

——よく河西さんは、投資先の経営者との対談で「この人にかけて駄目だったら仕方がないと思った」といった意味のことをおっしゃいます。目利き力に力を注いでいるからこそ、おっしゃるセリフなのかもしれませんね。

もちろん最後は「この起業家を何としても応援したい」というエモーショナルな気持ちが大事になりますが、それは、社会に正のインパクトを与えられるビジネスになるという確信があってのこと。投資家の責任として、目利きに力を注ぐべきだという気持ちに変わりありません。Angel BridgeのDDではスタートアップのポテンシャルをシビアに見させていただきますが、だからこそ投資後に全力で応援できるのだと考えています。

投資先の企業価値向上のために尽くすことこそ、ハンズオンVCの真価

——投資先に喜ばれる支援とはどのような取り組みでしょう?

プレシリーズAの前後のスタートアップですと、会社が進むべき方向感を明確にするための「壁打ち」相手になることが多いですね。次に多いのが「資金調達」に関する相談です。たとえば「シリーズAラウンドにあたって、どんなエクイティストーリーを描くべきか」「どんな順番でどの投資家にあたるのが得策か」といった、個別具体的な悩みにお答えする機会が多くなります。シリーズAラウンド投資が終わると、今度は優秀な執行役人材や営業先をご紹介したり、IPOを念頭にシリーズB以降のエクイティをどうするかといった、さらに一段視座を上げた課題に向き合ったりすることになります。

——冒頭、Angel Bridgeは「真理を追究するVC」とおっしゃいました。投資先への支援において大切にしていることは何ですか?

定期的な経営会議や株主報告会を通じて、将来のメガベンチャーに必要不可欠な、経営の「OS」を投資先にインストールすることを心がけています。戦略の立案、戦術の妥当性の検討はもちろん、細かいところではKPIの設定やプロダクトのプライシングなど、その時々の課題に対して適切なアドバイスやアウトプットを提供するだけでなく、われわれが手を下さなくても自走できるよう知見の移転に努めます。投資先の企業価値を上げるために、継続的に必要な資金や知見を惜しまず提供することこそ、ハンズオン支援を謳うVCの提供価値だと信じるからです。

——ありがとうございます。Angel Bridgeは今後どのようなVCになっていくのでしょうか。今後の展望をお聞かせください。

プロの株主として経営会議で議論するような大きな枠組みだけでなく、広報や人事など、執行にまつわる課題解決にも貢献できるよう支援メニューを増やしていきたいですね。投資家として数々の業界、数々の企業を支援してきた経験をもとに、「どの山にどんなルートで登るべきか」といったマクロな戦略から「どんなメンバーを集め、どんな装備で登るべきか」といったミクロな戦術まで、一気通貫で提供できる組織にしたいと思っています。VC投資に情熱を持つ優秀なメンバーが全力で支えます。

——最後にこの記事をお読みの読者にメッセージをお願いします。

私は日本再興の秘訣はスタートアップにしかないと考えております。少子高齢化、右肩下がりというこの状況を打破するには新しい企業がどんどんと生まれてその企業が雇用を生み出し、外貨を稼ぎ、経済をけん引するということが必要です。このような大きな事業を生み出していきたいと考える起業家の方は、是非とも共にその夢を追いかけて行けたらと考えております。また、このような想いに共感しプロフェッショナルファームで培った経験をスタートアップ領域に投じて投資先の成長に貢献したい方、もしわれわれの仕事に興味を持ってくださるなら、ぜひご一報ください。力を合わせ、1社でも多く日本から世界に羽ばたくメガベンチャーを創出していきましょう!

 

2025.02.12 COLUMN

前回の「Angel Bridge USベンチャー記事#10」は、後払い決済(BNPL)を提供する世界的にも有名なデカコーン企業klarnaについて紹介しました。
Angel Bridge USベンチャー研究#10

今回は、法人向けの大規模言語モデルを開発するユニコーン企業Cohereについて紹介します。

生成AI市場の全体像

2022年11月にChatGPTが公開されてから、生成AIを用いたプロダクトが次々と登場し生成AI市場は非常に盛り上がっています。ボストン コンサルティング グループは生成AIの市場規模が27年に世界で1210億ドル(約17兆円)に達する可能性があると予測しています。足元ではChatGPT deep researchが話題であり、毎日のように生成AIの精度は向上しています。

図1:生成AIの市場規模予測(※ボストン コンサルティング グループ)

生成AI市場は大きく以下の3レイヤーに分類することができます。

①アプリケーション
②基盤モデル
③インフラストラクチャー
それぞれを詳しく説明していきます。①アプリケーション概要:生成AIをプロダクトに組み込んだユーザー向けアプリケーションのこと。基盤モデルを基にしたAIアプリケーション(ex ChatGPT)と、外部APIを用いて自社でモデルを開発せずAIアプリケーションを提供する企業があります(ex Jasper)。基盤モデルを基にしたAIアプリケーション vs 外部API活用のAIアプリケーション

基盤モデルを基にしたのと外部APIを活用するアプリケーションの対比では、AIモデルの優位性だけでいえば、基盤モデルを基にしたアプリケーションに軍配が上がるでしょう。理由の一つとして挙げられるのはAIモデルの差別化です。外部API依存のアプリケーションを提供する企業は参入障壁が低く圧倒的な優位性を築けている企業が少ないのに対し、独自の基盤モデルを基にアプリケーションを提供する企業は優位性を築けています。

既存SaaS vs AI-nativeアプリケーション

既存SaaSとAIを主軸に構築されたAI-nativeアプリケーションの置かれている状況を対比します。AI-nativeアプリケーションは、既存SaaS企業による生成AIの導入に対抗しなければいけません。生成AIは過去のテック革命(ネット革命、クラウド革命、スマホ革命)と比較して、Distribution Channelに変化がないという特徴があります。具体的に説明するとスマホ革命では、スマホファーストなアプリを提供したUberなどがタクシーなどの既存企業をディスラプトしました。一方で、AI革命ではチャネルの変化はありません。AI-native 基盤モデルはAPI経由でのアクセスが可能です。よって、既存SaaS企業がAPI経由で生成AIを実装することが可能となっており、AI-native アプリケーションは既にチャネルを抑えている既存のSaaS企業からシェアを獲得しなければいけない難しさがあります。

アプリケーションレイヤーでの勝ち筋

一方で外部APIを活用したアプリケーションにも十分に勝機があります。AIモデル自体は外部のものをベースとするものの、特に業界などに特化したデータセットの構築や、エンタープライズ企業をはじめとした特定顧客へのカスタマイズ、カスタマーサクセスなどアプリケーション提供のオペレーションなどで優位性を構築するAIアプリケーションスタートアップは数多く存在します。日本の市場は産業ごとに障壁があるケースも多く、日本におけるAI企業の多くがこの領域で勃興すると考えています。

②基盤モデル

概要:AIアプリケーションを動かす、基盤となるモデルのこと。大規模言語モデル(LLM)や画像生成モデルなどが存在します。また、権限を持つユーザーのみアクセス可能なクローズドソース(ex GPT4o)と誰でもアクセス可能なオープンソース(ex Stable Diffusion)の形態が存在します。

クローズドソースvsオープンソース

クローズドソースとオープンソースの勢力を対比します。基盤モデルはこれまで、クローズドソースが優位とされ、外部からの資金調達も含め膨大な資本投下のもと、技術開発が集中的に行われてきました(ex OpenAI)。しかし、近年ではオープンソースの基盤モデルが急速に注目を集めています。例えば、Metaが公開したオープンソースのLlaMaモデルは、世界中のエンジニアによるチューニングにより、わずか数週間でChatGPTと同等レベルのアプリケーションが開発されました。このような「オープンソースコミュニティ」の存在により、従来のクローズドソースモデルが持つ独占的な優位性が揺らぎ始めています。

基盤モデルレイヤーの勝ち筋

汎用的な基盤モデルのプレイヤーは基本的には資本力がものをいう世界であり、後発企業がこの領域で勝つのは難しいといえるでしょう。ただ一方で、汎用的な基盤モデルの課題として企業の具体的なニーズに個別に答えるのが難しいという課題が存在し、業界やユースケースに合わせてカスタマイズしたバーティカル基盤モデルは一定の参入余地はあると考えられます。

例えば企業内にある独自データの活用やモデルの微調整など(ex RAG、Fine-tuning)、個社ごとにカスタマイズして活用する必要が出てきます。そのため特に金融業界など特殊なユースケースが存在する業界ではバーティカル基盤モデルの参入余地がありそうです。

③インフラストラクチャー

概要:AIモデルの学習や推論に必要な計算リソースを提供する基盤のこと。この層には、クラウドサービスプロバイダー(ex Amazon)や、AI向けGPUを提供するハードウェアメーカー(ex NVIDIA)が含まれます。

AI特需の恩恵を受けるインフラ事業者

アプリケーションレイヤーや基盤モデルレイヤーのスタートアップが競争を繰り広げる中で、最もAI特需の恩恵を享受しているのはインフラ事業者です。AIモデルの学習や推論には、膨大な計算資源が必要であり、それを提供するインフラ事業者への需要が急増しています。

実際、AI向けGPUを供給するNVIDIAは、直近の決算(2024年10月)で、売上高・利益が倍増するなどAI企業の設備投資の恩恵を受けています。AI市場の拡大に伴い、インフラ事業者は今後も重要な役割を担い続けると予想されます。

インフラストラクチャーレイヤーでの勝ち筋

Amazonなどのクラウド事業者やNVIDIAなどのGPUメーカーなど、ビッグテックが競合となるのでスタートアップの入り込む余地はほとんど考えられない領域ではありますが、省電力データセンターなどニッチな領域での参入余地があるかもしれません。

図2: レイヤー別企業例

Cohere概要

Cohereは、2019年にカナダのトロントで設立された法人向けの大規模言語モデルと生成AIサービスを提供する会社です。大規模言語モデルを開発するスタートアップの中では、GPTモデルを開発するOpenAI、Claudeモデルを開発するAnthropicと並び称される企業であり、先ほどの生成AI市場の3つの分類のうち、②基盤モデルと①基盤モデルを基にしたアプリケーションを提供するスタートアップです。

Aidan Gomez CEOはトロント大学在学中にGoogle Brainにインターンとして勤務し、2017年に投稿された機械学習における著名な論文である”Attention Is All You Need”論文の共著者として、OpenAIの開発するGPTモデルの原型にもなったTransformerアーキテクチャを提案しています。

2024年までに合計4回の資金調達を行っており、合計調達金額は$942.9M、評価額は$5.5Bのユニコーン企業です。主要投資家には、Index Ventures、Tiger Global Managementがいます。

図3: Cohere概要

サービス内容と技術優位性

CohereはLLM(大規模言語モデル)プロバイダーの中でもエンタープライズに特化したLLMを開発しています。2024年4月に最新モデルであるCommand R+を発表しています。

特徴は以下の3つです。

①10の主要言語による多言語対応
②RAGの精度が高くハルシネーションが軽減されている
③使いやすいユーザビリティを持つここでRAG技術について説明します。RAGとは、社内文書などの内部情報、外部の最新情報を信頼できるデータを検索して情報を抽出し、それに基づいて大規模言語モデル(LLM)に回答させる方法のことです。汎用的なLLMだけだと企業のごとの文脈に沿った回答を出すことができません。そこでRAG(検索拡張生成)を用いて社内文書を読み込むことで、企業ごとに異なる独自の情報を活用し、その企業に特化した回答を生成することが可能になります。

図4: RAG概要

下図のように、Cohere が提供するモデルのCommand R+は、Mistral AIが提供するモデルのMistral-Large、OpenAIが提供するモデルのGPT4-turboと比較しても、①翻訳性能、②RAGの精度の高さ、③使いやすいユーザビリティ、の3つの技術優位性を持ちます。

5 : Command R+の性能(※Cohere社HP

以上のような特徴を持つLLMをAPIベースで提供しており、API使用コストは上記2社と比較しても大幅に低いです。

図6: Command R+の価格

LLMに加えて、RAGを用いて社内文書を読み込むことで、精度高く、社内外の資料検索やカスタマーサポートに活用することができます。

競合

Cohereの競合であるOpenAIとAnthropicをファイナンス、特徴、トラクションの観点から比較しました。組織規模の面では劣るものの他2社と比較してto Bのエンプラに特化する戦略を取ることで、一定のポジションを獲得しています。

汎用的な基盤モデル(ex OpenAI GPT4o)だと個社ごとの具体的なユースケースに当てはめづらいという課題があります。そこで、CohereはRAG技術を強化し、個社ごとにカスタマイズするアプローチをとることで、OpenAIやAnthropicなどの汎用的な基盤モデルと差別化しています。

図7: 競合比較

トラクション

2024年3月末の時点でCohereは数百社の顧客基盤を持ち、年間収益は$35Mで、2023年末の約$13Mから増加しています。

また、Oracleや富士通と提携し、CohereのLLM技術を用いたアプリケーションを開発し、エンプラ機能を強化しています。

おわりに

今回は生成AI特集の第一弾として、エンタープライズに特化したLLMを開発するCohereを紹介しました。世界では基盤モデルを開発するAIスタートアップが盛り上がっておりその中でもCohereはエンタープライズに特化し存在感を放っています。インフラストラクチャーは既にビッグテックが大量の資金を投下している領域でありスタートアップの参入は難しいです。基盤モデルに関してもCohereのように他社と異なるポジショニングを取ることで優位性を構築できる可能性がありますが、基本的には資本力・高度な技術力が必要であり、参入は容易ではありません。一方で日本のスタートアップとしては、AIモデル自体で差別化をせずとも、データ・オペレーションを差別化することで強固な参入障壁を築けるケースが多々あり、このような戦い方でメガベンチャーが生まれることが期待されます。特にVertical、エンタープライズ特化等の戦い方は非常に相性の良い戦略で、既にメガベンチャーが生まれつつある領域だと考えています。

次回以降も生成AIのスタートアップの事例を取り上げていきたいと思いますので乞うご期待ください。

 

参考資料

2025.01.30 COLUMN

前回の「Angel Bridge USベンチャー記事#9」は、ECサイト内に高性能な検索アルゴリズムをAPIとして提供することでCVRを向上させるalgoliaについて紹介しました。
Angel Bridge USベンチャー研究#9

今回は、後払い決済(BNPL)を提供する世界的にも有名なデカコーン企業Klarnaについて紹介します。

Klarnaの概要

Klarnaは、2005年にスウェーデンのストックホルムで設立されたEC向けの後払い決済(BNPL)サービスを提供する会社です。2024年までに合計34回の資金調達を行っており、合計調達金額は$4.6B、評価額は$14.6Bに及びます。また、2024年11月に米国市場への上場申請を発表し、上場時の時価総額は$15~20Bになると予想されており、FinTechを代表するベンチャー企業の1つです。

Klarnaは、どのようにしてこれほどの成長を遂げることができたのでしょうか。まずは、ビジネスモデルについてご紹介します。

Klarnaが解決するペイン

①消費者側のペイン

消費者のペインとしては、購入時の決済が面倒、クレジットカードが使えない、といったことが挙げられます。

Klarnaが提供しているBNPLは、クレジットカードを持てない若者を主な対象顧客としており、手数料無料の一括払いや分割払いを提供しています。高金利なクレジットカードの分割払いに比べて、審査の簡便性や手数料等が無料であるといった点で消費者フレンドリーであり、「クレジットカードを持てない/持ちたくない」という若者から支持を得てきました。

②マーチャント側のペイン

販売者(マーチャント)側のペインとしては、即日入金ではないことによる資金繰りの悪化や煩雑な支払い手続きによる顧客の取りこぼし(カゴ落ち)が挙げられます。

BNPLは、ユーザー側に対して無利子・手数料ゼロで後払いサービスを提供し、マーチャント側から月額利用料と決済金額に応じた手数料を受け取るビジネスモデルです。マネタイズする方法はクレジットカードと同じですが、手数料が低く、購買費用が即日入金であるという点でマーチャント側にもメリットがあります。加えて、リスクが伴わない分割払い/後払いオプションでユーザー側に対して購入を後押しし、カゴ落ち率を低下させる効果もあり、このことがマーチャントの売上増加に繋がるポイントであり、彼らがBNPLを導入する大きな理由です。

Klarnaが提供するBNPLは、消費者側とマーチャント側の両方に導入メリットがあり、簡便で円滑な取引を実現しています。

サービス内容

Klarnaは、主に3つの分割払い・後払いプランを提供しています。

① 4回払いプラン(Pay in 4)

購入した商品の決済を4回に分割して無利子で支払うことができる支払いプランで、KlarnaアプリやVisaが使えるEC事業者で利用できます。

② 30日以内後払いプラン(Pay Later)

ユーザーが注文を受け取り、30日以内に支払うことで無利子で購入することができるプランです。

③ 即時ファイナンスプラン(Financing)

購入代金を6ヶ月から24ヶ月の分割払いで返済することができる貸付プランで、ユーザーは住所や電話番号などの諸情報を入力するだけで即時に与信枠を利用することができます。

以上3つの決済手段に加えて、支払いプランの管理や配送状況の確認などを全てアプリ「Klarna App」で管理することができます。煩雑な手続きを無くしたシームレスな支払いプロセスがKlarnaの強みだと言えます。

トラクション

Klarnaは、2024年時点で1.5億人のアクティブユーザーを誇り、45ヵ国で60万以上の加盟店と提携しています。2023年の年間売上高は$2,260M、2024年3Q終了時点の年間売上高は$1,847M(前年同期比+23%)、粗利益は$882M(前年同期比+16%)を記録しています。一方で、事業全体としてはまだ赤字であり、AIの活用による人件費の削減や米国市場の開拓を通じて黒字転換を狙います。

Klarnaの競合優位性

Klarnaの成長戦略として、ミレニアル世代やZ世代をはじめとする若者に特化したブランディングが挙げられます。FinTechとしてBNPL市場が立ち上がった2010年頃、BNPLの主要ターゲットはクレジットカードを持たない若者や低所得者でした。Klarnaも例に漏れず若者受けを重視したブランディングに率先して取り組みました。例えば、2019年に打ち出した「Get Smoooth」キャンペーンでは、若者に絶大な人気を誇るラッパーSnoop Dogg氏を起用し、Klarnaのシームレスな決済体験を強調しました。また、加盟店に関しても、ZARA、NIKE、ASOS、Sephoraなど、若者向けのファッションや化粧品ブランドと優先的に提携し、若者が利用しやすい決済環境の整備を進めてきました。

その後、順調にユーザー数を増やしてきたKlarnaは、現在業種を問わず幅広い加盟店との提携を拡大し、マルチプロダクト戦略によるBNPLエコシステムの構築を進めています。例えば、Klarnaは加盟店のオンラインストアを一元的に閲覧・購入できるショッピングアプリや対人決済で利用できるKlarna Cardを提供しています。これらの周辺機能を拡充することで、BNPLを軸としたKlarnaエコシステムを構築し、オンラインとオフラインの両方でシームレスな決済体験を提供しています。

下図は、Klarnaの主な競合を示しています。BNPL業界では、サービス自体の差別化がしずらいため、事業者は地域ごとに加盟店を増やし、UI・UX等の差別化を通じてユーザーを獲得する必要があります。そんな中Klarnaは、ブランディングや独自エコシステムの構築により、欧州を中心に最も多くのアクティブユーザーを獲得しており、スティッキネスの高いサービスを提供しています。

最近の取り組み

Klarnaの共同創業者でCEOを務めるSiemiatkowski氏は、AIの導入に対して極めて積極的な人物として知られています。その一例として、同社は2024年1月にOpenAIと提携して開発したAIアシスタントを発表し、ChatGPTのプラグインをローンチした世界初のFinTech企業となりました。

特筆すべき点はその実績です。KlarnaのAIアシスタントは、導入からわずか1ヶ月で230万件の会話を処理し、同社のカスタマーサポートチャットの約3分の2を占めるほどのインパクトがありました。同社によると、これは約700人分の従業員がこなす仕事量であり、問題解決時間が従来の11分から2分未満に短縮し、問題解決の正確性が向上したことにより再問い合わせが25%減少したと言います。

UI・UXの向上にとどまらず、Klarnaは社内用AIアシスタント「Kiki」の導入やマーケティングにおけるアイデア出し、画像の生成、翻訳作業など、幅広い領域でAIを活用しています。2024年9月には、営業パイプラインと人事業務の管理のために契約していたSalesforceとWorkdayを解約し、自社開発のAIで置き換えることを発表しました。Siemiatkowski CEOは、今後も積極的にSaaS企業との契約を見直し、AI活用によるコスト削減を進める意向を示しています。Klarnaの情報セキュリティガバナンスを懸念する声も上がっている中で、今後どのようにFinTech x AIの領域をリードしていくのか注目したいと思います。

日本のBNPL市場

最後に日本のBNPL市場についてご説明します。日本のBNPL市場も順調に拡大しており、2017~2022年で0.4兆円から1.3兆円までCAGR 24%で成長しました。2027年には、2.4兆円規模へ成長すると予想されており、Paidyや弊社が出資するSmartpayなど、スタートアップが業界を牽引しています。

一方で、日本におけるBNPL普及率は海外と比べてまだ低く、導入率上位10カ国の平均値をベンチマークにすると約4倍の拡大余地があります。クレジットカードの普及率が高い日本や米国において、従来は若者や低所得者がBNPLのコアユーザーでした。しかし、近年では支出管理や現金を残しておきたいニーズが30代以上やクレジットカードを所有する中高所得層にも一定存在しており、BNPLが新たな決済習慣として広まっています。

おわりに

今回は、EC向けの後払い決済(BNPL)サービスを提供するデカコーン企業Klarnaについて紹介しました。2024年11月に米国市場への上場申請を正式に発表し、AIの活用においても世間を賑わせています。クレジットカードの普及率や決済習慣の違いがある中で、今後米国のEC決済市場に浸透させられるか注目していきたいと思います。

最後になりましたが、Angel BridgeはCVR向上を目的としたEC周辺サービスにも積極的に投資しています。事業の壁打ちや資金調達のご相談など、お気軽にご連絡ください!

参考資料

  • 「Klarna Plus soars to 100,000 subscribers in the US」Klarna(URL
  • 「Klarna AI assistant handles two-thirds of customer service chats in its first month」Klarna(URL
  • 「OpenAI お客様の事例 Klarna」OpenAI(URL
  • 「クラーナ、 AI 導入でコスト37%削減Vol.1:効率化とパーソナライズの向上」DIGIDAY編集部(URL
  • 「Klarna-Salesforce-Workday Partnership Called Off Amidst Major Gen-AI Overhaul」Thomas Morgan from SF BEN(URL
  • 「2022年度のEC決済サービス市場は28兆円超、2027年度に49兆円規模へ成長すると予測」矢野経済研究所(URL

2025.01.29 INVESTMENT

2025年1月に株式会社パートナープロップ(以下パートナープロップ社)が、シリーズAの資金調達を発表し、資金調達額が累計9.0億円に到達しました。Angel Bridgeも本ラウンドにおいて出資しています。

パートナープロップ社は、パートナービジネスを成功させるためにパートナー企業の管理・育成を行うSaaSを提供するスタートアップです。

今回の記事では、Angel Bridgeがパートナープロップ社に出資した背景について、特にパートナービジネスを取り巻く環境と、パートナープロップ社の強みに焦点を当てて解説します。

  1. パートナービジネスを取り巻く環境と課題
  2. パートナープロップ社の事業概要と強み
  3. 経営陣
  4. おわりに

1.パートナービジネスを取り巻く環境と課題

パートナービジネスとは、企業が自社の製品やサービスの営業を第三者の企業(パートナー)に委託する顧客獲得手法です。

企業がパートナーを活用する目的として、自社でリーチが難しい顧客に対してアプローチを行うことや、社内のリソースが不足している場合に効率的な営業を行うことが挙げられます。例えば、地方への営業拡大を行う際には、地銀とパートナーシップを組んで地場顧客へのアプローチを行うことで、これまで自社ではアプローチできなかった顧客に対して営業を行うことができます。

パートナービジネスは、BtoB取引の約75%を占めるという試算(※1)もある大きなチャネルであり、SaaSを含むITシステム、人材、メーカーなどの業種で多く活用されています。その背景として、多売モデルでパートナービジネスとの相性が良いことに加え、労働人材の減少による営業人材不足や企業の成長による顧客ターゲットの拡大によって、社外のリソースを利用するニーズが拡大していることが挙げられます。

図1:パートナービジネスを利用する目的と構造

直販セールスの領域は日本でも多くのセールステック企業が出現してDXが進んでいます。しかしパートナービジネスの市場は大きい一方で旧態依然としており、強いペインが残存しています。パートナーの稼働状況が可視化されておらず管理ができないことに加え、適切なインセンティブ設計/商材の学習システムがないために「パートナーが稼働してくれない」という悩みを持った企業が多く、パートナービジネスを活用する企業が多いのにもかかわらず、成功している企業はほとんどいない課題の大きな領域になっています。

図2:パートナービジネスにおける課題

これらのペインを解消するのが、パートナープロップ社が提供するパートナー・リレーションシップ・マネジメント(PRM)ツールです。ベンダーとパートナー間の情報共有や連携促進により、パートナーを適切に稼働させることを目的としています。世界的に見てもPRM市場は高い成長が見込まれており、2028年には157 Billion USD(※2)に達する見込みで、impact.comやImpartnerなどのユニコーン企業も出現しています。

 

図3:グローバルにおけるPRM市場

※1 アクセンチュア「B2BCX – 企業間取引における顧客体験調査2017」

※2 Grand View Research「Partner Relationship Management Market Report, 2021-2028」

2.パートナープロップ社の事業概要と強み

そんなPRM市場にパートナープロップ社はどのように切り込んでいるのでしょうか。続いて、パートナープロップ社の事業概要について説明します。

図4:パートナープロップ社のプロダクト

パートナープロップ社は、パートナー管理・育成を簡単に行えるツールを提供しています。ベンダー/パートナー間での案件状況やパートナー企業の各営業の稼働状況を独自プラットフォームで一括管理し、チャット機能を用いて円滑にコミュニケーションを取ることができます。また、「パートナーを稼働させる」「パートナーを育成する」ための商材のラーニング機能、パートナーへの段階的なインセンティブ付与機能などを搭載しており、競合企業と比較しても高い完成度を誇るプロダクトです。

投資検討の際には、『パートナープロップ』を導入している企業へのインタビューも複数行いました。パートナービジネスを既に実施している企業は「パートナーが稼働してくれない。稼働状況が可視化できずPDCAが回せない」といった課題を抱えており、パートナービジネスを始めたばかりの企業は「パートナービジネスの立ち上げ方がわからない」といった課題を抱えていました。このような課題に対して、『パートナープロップ』を利用することでパートナーと双方向のコミュニケーションが可能となり、さらにはeラーニングによるパートナー育成環境の整備やインセンティブ付与の仕組化を行うことができました。また、導入から一定期間が経過している顧客では毎日のように『パートナープロップ』を使用しているなど使用頻度の高さから顧客の満足度の高さを伺えます。

図5:顧客インタビュー

提供価値が高く、優れたUI・UXを誇るプロダクトが高く評価され、2024年3月のプロダクト正式ローンチから1年弱(2025年1月時点)にも関わらず多数のエンプラ企業や急成長しているベンチャー企業が利用しており、順調にMRRを伸ばしています。

海外で複数のメガベンチャーが生まれており、日本におけるペインも深い市場なので、先行するプレイヤーも複数存在しておりますが、パートナープロップは初期フェーズのスタートアップであるのにも関わらずパートナーの管理に留まらず「パートナーを稼働させること」にフォーカスした完成度の高いプロダクトを提供し、業界のことを熟知したメンバーによる丁寧な営業/CSによってリプレイス商談/コンペでの勝率も非常に高く、シェアを急速に獲得しています。

足元ではSaaS、プラットフォーム、人材、ITシステム企業などのニーズが強いですが、金融、メーカー、営業マーケティング代理店などの顧客も拡大しており、今後このような領域も本格的に開拓することで非常に大きな市場を攻めることができ、更なる成長が期待できます。

3.経営陣

パートナープロップ社には、パートナービジネスの知見が豊富なバランスの良い経営陣が集まっています。

図5:パートナープロップ社の経営陣

井上CEOは、リクルートに営業として入社後、事業企画として『Airペイ』におけるパートナービジネスを立ち上げてパートナー経由の顧客獲得が数10件~約6,500件のフェーズを経験されました。その後最年少でリクルートのSaaS事業である『Air事業』のPdMに異動し、事業立ち上げから全体戦略の策定・推進までを担当されていました。リクルートでのご経験に加え、海外先行企業の徹底的なリサーチなども相まって、パートナービジネスに対して非常に高い解像度をお持ちの「パートナービジネスのエキスパート」ともいえる人物です。投資検討プロセスを通して、高い戦略構築能力と事業に対する熱量も感じさせていただきました。

福森CTOは、スタートアップの1人目エンジニアとして新規プロダクトの開発や開発組織の立ち上げを経験した人物であり、プロダクトのイメージを開発に落とし込んでいく重要な役割を担われています。学生時代からの豊富なエンジニア経験を活かし、パートナープロップ社の強みであるプロダクト開発を支えている中心人物です。

金田COOは、リクルートの営業として金融事業セールス部門の立ち上げにも携わり、通期MVPを受賞されるなどトップセールスとして活躍された人物です。SaaS事業部アライアンスグループではパートナービジネスの立ち上げも経験されています。パートナービジネスへの深い理解と細かな顧客ニーズの吸い上げを踏まえた営業/CSはもちろん、社内コミュニケーションやオペレーションなどCOOとして広範にパートナープロップ社を支えられています。

宮下CISOは、新卒からIoTヘルスケアの研究開発やセキュリティ診断プロジェクトに従事した後、ヤフーに入社し、プラットフォームエンジニアとして全社へのセキュリティプロダクトの導入や運用を担当されていました。パートナープロップ社のプロダクトは多数のパートナーとプロダクトを接続する必要があり、セキュリティが重要ですが、宮下CISOが技術エキスパートとして、高いセキュリティを実現されています。

4.おわりに

パートナービジネスは、BtoB取引の約75%を占める大きなチャネルである一方で、パートナーが稼働しない、パートナーの稼働状況が可視化されていない、パートナーが育成できないなど、複数の強いペインが存在します。

こういった強いペインが存在する中で、パートナープロップ社は事業領域にフィットした優秀な経営陣と完成度が高く、競合優位性の強いプロダクトで市場に切り込んでいます。今後も日本ひいてはアジアのPRM市場を牽引し、Partner Driven Marketingという概念と共に大きな成長を遂げるとAngel Bridgeも確信しています。

Angel Bridgeは社会への大きなインパクトを創出すべく、難解な課題に果敢に挑戦していくベンチャーを応援しています。ぜひ、事業戦略の壁打ちや資金調達のご相談など、お気軽にご連絡ください!

 

2024.12.17 INVESTMENT

2024年12月に匠技研工業株式会社(以下匠技研工業社)が、シリーズAラウンドにおいて総額5億円の資金調達を発表しました。Angel Bridgeも本ラウンドにおいて出資しています。

匠技研工業社は、製造サプライヤー向け工場経営DXのSaaSを提供するスタートアップです。

今回の記事では、Angel Bridgeが匠技研工業社に出資した背景について、特に製造サプライヤー市場の動向と匠技研工業社がその中で発揮する強みに焦点を当てて解説します。

  1. 製造サプライヤー市場の動向と課題
  2. 匠技研工業社の事業概要と強み
  3. 経営陣
  4. おわりに

1.製造サプライヤー市場の動向と課題

まず、製造業界の全体像を説明します。

製造業界にはメーカーとサプライヤーの二つのプレイヤーが存在します。

メーカーには自動車などを製造する完成品メーカーや装置・生産ラインを製造する設備メーカーが存在し、サプライヤーには部品やユニットを製造するための機械加工/板金加工などを行う加工業者が存在します。

メーカーは設計/調達業務を請け負い、複数のサプライヤーに見積を依頼し、相見積を経て受発注先を決定します。

一方、サプライヤーは見積/製造業務を請け負い、メーカーに依頼された見積依頼に回答し、受注後の製造/納品を行います。

その中でも、匠技研工業社は製造サプライヤー向けに注力して事業展開しています。

図1:製造業界の受発注構造

次に、製造サプライヤーを取り巻く環境と課題について見ていきます。

近年、サプライヤーの利幅は減少傾向にあり、中には仕入れ値より売り値が低い逆ザヤになってしまうケースもあります。要因としては大きく二つあります。

一点目は、コストダウン要求があり、長年に渡る商慣習の影響や取引停止の恐れからメーカーが強い交渉力を保有していることが背景にあります。

二点目は、原価高騰があり、情勢不安や円安の進行による材料費/エネルギーコストの上昇により利益が圧迫されています。

図2:製造サプライヤーの利幅減少傾向

このようにサプライヤーを取り巻く環境が厳しい中、交渉力の向上や利幅確保に向けて、データ/ロジックに基づいた最適な見積価格の算定が必要となってきています。

一方で、サプライヤーの見積業務は旧態依然としており、ペインを抱えています。

見積業務の課題として、非効率性/属人性が挙げられます。

見積業務を担える人が限られており、工数や時間も多くかかるため、捌ける案件数が限定的という非効率性を抱えている中で、担当者は受注の数倍にもおよぶ数の見積を毎日残業で対処しています。また、少人数の見積担当者に依存・属人化しているのに加え、見積業務の後継者が不足しています。

同様に、メーカーの見積業務にもサプライヤーとは異なった課題が存在します。課題として、取引先の評価・管理/業務の標準化が挙げられます。サプライヤー各社の見積の価格整合性が不明なのに加え、取引先が多く案件の管理が煩雑で取引先の評価・管理が困難です。また、図面をアナログで管理していたり、都度の相見積・価格交渉・トラブル対応等のノウハウがデータとして残らないなど発注業務の標準化が遅れています。

以上のように、見積業務はサプライヤー/メーカーの双方にとってペインのある領域ですが、それぞれが抱えているペインの広さや深さは異なっています。

多くの企業はメーカーの課題から解決しようとしている中、匠技研工業社は製造サプライヤーの課題である見積業務の非効率性と属人化を解決するべく、見積業務にフォーカスした、工場経営DXシステムを展開しています。もちろん、サプライヤー向けに事業を展開している企業もいますが、図面管理や工程管理に留まり、最も根深いペインがある見積業務の解決には至っていません。匠技研工業社は丁寧な現場ヒアリングを経て、各社様々で複雑な原価計算ロジックをカスタマイズして実装することを強みに、もっとも顧客への提供価値の高い見積業務の効率化から着手し、そこで得た図面データをベースに製造サプライヤーの製造工程の一気通貫したDXに取り組んでいます。

図3:サプライヤー/メーカーのペイン

2.匠技研工業社の事業概要と強み

続いて、匠技研工業社の事業について説明します。

提供するプロダクト「匠フォース」は3つの大きな強みを持っています。

1つ目は、誰もが直感的に操作できるUIを持つことです。部品の図面情報をアップロードするだけで、図面番号・品名・材質などの情報を自動で入力できます。また、図面をドロップするだけで独自AIを用いた類似図面検索ができ、過去の図面との類似性から見積金額を試算できます。

2つ目は、手厚いサポート体制です。現場でのヒアリングをベースに専門スタッフが顧客に合わせた原価計算ロジックを構築し、試験運用やフィードバックなど導入支援を行います。また、ロジックの随時修正や新機能の活用支援は永年サポート付きとなっています。

3つ目は、社内ナレッジのデータベース化による属人性の解消です。原価計算ロジックの実装による見積業務の標準化に加え、進行中の案件情報や図面情報などの一元管理を通じて、ものづくりのノウハウ蓄積/品質管理/社員教育等が可能であり、見積を担当できる人材を育成し、増やすことができます。

図4:匠技研工業社のプロダクト概要

このような強みを突き詰めることで、匠技研工業社にしかできない価値を生み出せており、すでに製造現場のオペレーションやシステムに深く組み込まれ、ユーザーから高く評価されています。具体的には、社員が現場と膝を突き合わせて約3ヶ月間にわたって丁寧に導入支援をするなど、優れたオンボーディング体制によって、パソコン慣れしていない顧客も含めて総じて高く評価されています。

また、見積管理で蓄積した図面データをもとに後工程まで含めて一気通貫でDXを実現していく戦略の上、足元で新規プロダクトの開発を進めています。

 

3.経営陣

Angel Bridgeが匠技研工業社に投資するにあたり、経営チームへの理解も深めました。

図5:匠技研工業社の経営陣

匠技研工業社には、製造業の現場を深く理解して泥臭く真面目に向き合える優秀な経営陣が集います。経営陣の3人は、東京大学運動会ラクロス部男子BLUE BULLETSの同級生であり、創業時から強い結束力を持っています。

前田CEOは、東京大学法学部卒であり、ラクロス部で培った高い理念と行動力を持ち合わせ、経営陣や従業員を巻き込んで強固な組織文化を醸成しています。

また、東京大学院工学系研究科にて医療機器の研究開発を経験したシステム開発の核を担う井坂CTOや、同じく東京大学院工学系研究科にて半導体関連の研究開発を経験した原CBOをはじめ、優秀な経営陣が集います。

プロダクトの品質のみならず丁寧な顧客へのオンボーディング体制が高い評価を受けるなど、組織全体としても、 誠実に事業やクライアントと向き合う姿勢が浸透しており、匠技研工業社の成長を支えています。

4.おわりに

製造業界は日本のGDPの約20%を占める約108兆円(2022年度国民経済計算年次推計より)と非常に大きな市場です。一方で、サプライヤーを取り巻く環境に目を向けると、メーカーからのコストダウン要求、原価高騰などにより苦戦を強いられています。その中で、データ/ロジックに基づいた最適な見積価格の算定が必要となる中、依然として見積作業は非効率性と属人性の課題を抱えています。こうした課題の解決には、製造業の現場を深く理解して泥臭く真面目に向き合うことが求められますが、前田CEO率いる匠技研工業社は、現場に寄り添う強固な組織文化を醸成して顧客から高い評価を得ています。匠技研工業社は、見積作業の効率化を起点に製造サプライヤーの課題を解決し、製造業界から日本全体のGDPの成長に大きく貢献する企業になると弊社も期待しており、しっかりと伴走してまいりたいと思います。

Angel Bridgeは社会への大きなインパクトを創出すべく、難解な課題に果敢に挑戦していくベンチャーを応援しています。ぜひ、事業戦略の壁打ちや資金調達のご相談など、お気軽にご連絡ください!

 

2024.12.12 INTERVIEW

【参考記事】

再生医療の扉を開く(Heartseed株式会社)福田惠一 代表取締役

https://angelbridge.jp/insight/interview/heartseed/

660億円ディールの裏側(Heartseed株式会社) 安井季久央 取締役 COOインタビュー

https://angelbridge.jp/insight/interview/heartseed_yasui/

専門性を育むため、三井物産からバイオベンチャーの世界へ

——キャリアのスタートは三井物産だったとうかがっています。どのようなキャリアを歩んでこられましたか?

高野:新卒入社した三井物産では、フロント、ミドル、バックエンド業務を一通り経験させてもらいました。具体的に申しますと、リスク管理を皮切りに、原油タンカーの販売、中国での語学研修を経て、北京で経営企画業務に携わり、日本に戻ってからは、企業投資部の一員としてベンチャーキャピタルやバイアウトファンド業務、ジョイントベンチャーの設立に従事。さらに米国の投資子会社に移ってからは、現地のバイオベンチャーや医療ベンチャーへの投資業務に取り組み、帰国後は同社の東京支店長として支店経営と並行しながら、投資担当として投資先のハンズオン支援実務にも関与し、忙しい毎日を送っていました。私のように2年ごとにキャリアが目まぐるしく変わるのは、三井物産でも珍しかったようです。

——そもそも、なぜ商社を目指したのですか?

高野:亡くなった父が、原子力発電所の配電盤を設計する技師だったこともあり、自分もいつかプラントに関わる仕事がしたいと思い、三井物産に入りました。私はどちらかというと、自分の描くキャリアプランを達成しようとするタイプというよりは、与えられた目の前の仕事に一生懸命取り組んでいった結果としてキャリアが積み上がっていったタイプです。期せずしてバイオベンチャーのCFOになりましたが、入社当時はこんな未来がくるとは想像すらしていませんでした。 

——様々なポジションを経験されたのは、三井物産としてもそれだけ将来を嘱望されていたからなのでしょう。それにもかかわらず、なぜ三井物産をお辞めになったのですか?

高野:三井物産では非常に充実した12年間を過ごしました。とはいえ、これらはどれも商社に軸足を置いた上での経験に過ぎません。確かに守備範囲は広がりましたが、現場の方が好きだった自分にとって、専門性を掘り下げる時間は限られていました。私が転職を志すようになったのは、このまま広く浅く経験を重ねることが自分の生き方とは合わずに、ある種のリスクになるかも知れないと思ったからです。家族からはずいぶん反対されましたし、私自身も悩みましたが、最終的に当時手がけていた投資先のひとつで、日本拠点の開設を検討していたベルギーのバイオベンチャーに日本支社長として参画することに決めました。同社は海外企業ながらも東京証券取引所へのクロスボーダー上場を目指しており、そのチャレンジに中核人材のひとりとして携われるチャンスがあったからです。

——以前から医療や創薬に関心があったのですか?

高野:新卒入社の際、製薬会社に入るかどうか悩んだくらいでしたから、以前から関心がありました。私の母は重度の喘息持ちで、ふたりの子を育てながらパートから部長に上り詰めた人でした。父も体が弱く、私もそれほど強いほうではありません。もしよく効く医薬品がなければ、生活がたちいかなかったかも知れません。ですから医療や創薬業界には、自分なりに深い思い入れがありました。

2度目の正直で、念願だったHeartseedのCFOへ

——その後、遺伝子検査会社のCFOを挟んで2020年にHeartseedに入社されました。このあたりの経緯についてもお聞かせください。

高野:三井物産を退職後、日本支社の立ち上げから関わったベルギーのバイオベンチャーでは、長らく日英の株式市場で同時IPOを目指し準備を進めていたのですが、コロナ禍と株式市況の低迷により無期延期になってしまいました。さらに組織体制に大幅な見直しが入ることになり、今後の身の振り方を考えはじめたタイミングで、サーチファーム経由で、河西さんから「HeartseedのCFOにどうか」と打診をいただいたのが入社のきっかけです。再生医療という非常に先進的な取り組みをされているHeartseedへの興味は尽きませんでしたが、お話をいただいたタイミングでは、前職との兼ね合いがあり、残念ながら入社は断念せざるを得ませんでした。

——河西さんにうかがいます。高野さんにHeartseedのCFOを打診した理由を聞かせてください。

河西:私はHeartseedの立ち上げから約2年間にわたり代表取締役として同社を支えました。在職中から必要に応じて、CFO的な立ち回りをすることもありましたが、私の本分は投資家であり、あくまで一時的な措置に過ぎません。いずれ適任者を見つけなければと、経営陣と話していたのですが、なかなか適任者がみつかりませんでした。そんなとき、以前からお付き合いのあるサーチファーム経由で高野さんの存在を知り、お声がけしたわけです。高野さんは三井物産で経営企画経験や投資経験があり、英語や中国語に堪能な上、前職ではバイオベンチャーでCFOを務めた経験の持ち主です。ご経歴に不足はありません。高野さんほど、世界市場での成功を目指すHeartseedのCFOにうってつけの方はいないと感じてお声がけしました。

——残念ながらお声がけされてすぐの入社には至らなかったわけですが、その後急転直下、Heartseedにお入りになりましたね。

河西:高野さんから「CFOを退くことになりました」とご連絡をいただき、改めてHeartseedのCFOに打診したところ、快くお引き受けいただきました。多額の開発資金を要するバイオテック企業にとって、ファイナンスが重要なのはいうまでもありません。そのファイナンス戦略と実務を司る要職に、高野さんをお迎えできればこれ以上心強いことはありません。ご快諾いただいたときは、とてもうれしかったのをいまも覚えています。

——当時、HeartseedはIPO準備中だったそうですね。

高野:はい。ちょうどこれから中間審査に入ろうかというタイミングだったので、ベルギーの会社で準備していた、上場に必要な知見や人脈がそのまま活かせるというのも決断の決め手になりました。きっかけをくださった河西さんをはじめ、経営陣の期待に応えたかったですし、一度は諦めたIPOに再チャレンジできる貴重な機会でもあります。Heartseedには私なりの覚悟を持って入社したつもりです。

IPO準備の過程で立ちはだかった、ふたつの山場

——今年7月Heartseedは東証グロース市場に上場を果たしました。ご入社からの4年間、どんなご苦労がありましたか?

高野:市況が大きく変わる中で対応を求められた4年間でした。入社後1年半くらいまでは、新型コロナウイルスに苦しむ経済を回すために世界中で利下げが積極的に行われた時期で、結果としてバイオベンチャーへの投資が活発に行われていましたが、直近2年間では逆に利上げ基調となった結果、上場・未上場問わずバイオベンチャーにとっての資金調達はどんどん厳しくなっていきました。

全世界の市況の変化が、自社の生存やIPO準備に直接影響していく怖さは常にあり、上場手法や主幹事証券団の構成にしても、修正や変化を求められたことが多々ありました。このような中で、当社を支えて頂いている多様なステークホルダーに対して、当社の決断に賛同いただく難しさもありました。

——かいつまんで解説していただけますか?

高野:グローバルに市況や投資家目線が悪化する状況を踏まえて、元々取り組んでいたグローバルオファリング方式によるIPOの成立にリスクがあったため、まずこれを止めて、日本の法制度に従って調達をする旧臨報方式に切り替え、そのタイミングで主幹事証券も変更となりました。また、投資家の目線がそのように非常に厳しい中でも、上場タイミングと資金調達額の確保は同時に両立させなければならない、Heartseedに秘められたポテンシャルを大きく毀損するようなIPOにはできない、ということで、新しい主幹事証券と入念にエクイティーストーリーを練って投資家向けの説明資料をつくり直しました。

満足いく状況ではないわけですから、苦渋の決断となることもありました。トップ外交を重ね、立場を異にするステークホルダーの合意を取り付けたりするのは、想像以上に大変でしたが、Heartseedを適切に評価いただくために必要なことだと割り切って、やりきりました。今年の夏、無事株式上場を実現できたのは、河西さんをはじめ多くのみなさんにサポートいただいたおかげです。

河西:高野さんとはバリュエーションの算定について、一時期かなり突っ込んだ議論をしましたね。

高野:はい。CFOとして迎え入れていただいた以上、なんとしてもHeartseedのIPOを成功させたいと思っていましたし、この20年、バイオテックのIPOは成功しないという国内市場関係者の定説をなんとしても覆したいという思いもあったので、おのずと議論に熱が入ったのだと思います。幾度となく辛い局面に直面しましたが、いまとなってはチャレンジしてよかったと思わずにはいられません。

——IPOを成功させた率直な感想を聞かせてください。

高野:安堵感はありましたが達成感はありません。IPOしたとはいえ、バランスシートの右側に大きな数字が入っただけに過ぎないからです。得た資金を適切に執行しなければなりませんし、次のフェーズに向けてやるべきことは山積しています。IPOはゴールではなくあくまで通過点なので、満足感に浸っている暇はないというのが正直なところです。

一次情報にこだわるのは、正しい判断を下すため

——IPOを通じてどんな学びを得ましたか?

高野:すべての仕事に通じることですが、相手方の気持ちや考えに照らして対策を練ったり、アプローチしたりする大切さを改めて感じました。投資家のスタンスによってファイナンスの基準は異なりますし、カウンターパートの立場やバックグラウンド、個性によっても取るべき対応は違ってきます。バイオベンチャーを取り巻く市況や構造的な変化を踏まえて、理想的な状況を生み出すために何をなすべきか、吟味して実行する大切さと難しさを痛感させられました。

——IPOを推進するにあたって、CFOとしてどんなことを心がけましたか?

高野:脚色された情報で判断を誤るようなことがあってはなりません。ですから、二次情報や三次情報ではなく、常に一次情報に接するよう心がけました。常にオープンかつ率直に意見してくださる河西さんをはじめ、ほかのVCや証券会社など、われわれのIPOを応援してくださったみなさんの協力を得ながら、鮮度のいい確かな情報を集めるよう心がけたつもりです。判断を見誤り、社員やその家族を路頭に迷わすわけにはいきませんから。

——河西さんは、高野さんの奮闘ぶりをどのように見ていましたか?

河西:CFOはいうまでもなく、予算や財務戦略の立案と執行の責任者であり、投資家や証券会社、監査法人との合意形成をリードする非常にハードな要職です。その点、高野さんは真摯にステークホルダーマネジメントに取り組まれており、安心感がありました。

——河西さんは、困難に立ち向かう高野さんをどのようなスタンスで支えましたか?

河西:Heartseedの経営陣はいずれもその道のプロであり、むろん高野さんも同様です。経営の舵取りは安心してお任せできるので、私が唯一心がけたのは、会社が「右に進むべきか、左に進むべきか」という大局観が求められるタイミングで判断を誤らないことでした。私自身の過去の経験やベンチャー経営のベストプラクティスを踏まえ、適時的確な助言を心がけたつもりです。

高野:私は河西さんをHeartseedの「ピント調節機能」だと思っているんです。不透明で複雑な状況下で大きな意志決定するにあたって大事なのは、いろいろな角度から検討を重ねて、課題の解像度を上げることです。その点、河西さんはバイオテックをはじめ、さまざまな業界についての知見をお持ちですし、もちろん投資経験も豊富です。過去の成功事例や失敗事例を踏まえ、進むべき方向にピントを合わせてくださる。その安心感は何ものにも代えがたいものでした。

河西:そういっていただけるのはうれしいですね。Heartseedは福田CEOと一緒に立ち上げた会社ですから、当然内実をよく知っています。だからといって、一挙手一投足についてあれこれ口出しするのはやり過ぎですし、かといって我関せずを貫き通すのも無責任です。適度な距離感を保ちつつ、言うべきだと判断したときは躊躇せず指摘し、停滞感が漂うようなことがあれば叱咤激励するよう心がけていました。いうなれば、子を育てる親の気持ちに近いかも知れません。

高野:確かに投資家と投資先は親子の関係に似ているかも知れませんね。河西さんをはじめAngel Bridgeのみなさんは、相談しやすい雰囲気をつくってくださるのがとても上手ですし、打てば響く対応には感銘を受けるほどです。これからもみなさんがお持ちの知見をフル活用させていただきたいと思っています。

河西:もちろんです。それがAngel Bridgeの強みであり特徴ですから、気兼ねなくおっしゃってください。

高野:ありがとうございます。経営もファイナンスも真剣勝負の積み重ねであり、毎日のように課題解決に取り組まなければなりません。Heartseedが経営面で一流企業と肩を並べるには、積み上げた経験や知見を再現性のある形で残し、仕組み化していくことが重要です。Angel Bridgeさんには、今後そういった面でもご協力いただけたらうれしいですね。

河西:もちろんです。よろこんで協力させていただきます。

大切なのは「相手目線」「相手基準」で動くこと

——高野さんは、これからHeartseedをどんな会社に育てたいですか?

高野:Heartseedが取り組む再生医療は、バイオテック先進国の米国に先行して人への臨床試験に進んでいる数少ない分野です。まずは1つ目の開発パイプラインを成功させグローバルマーケットを押さえるのが当面の目標です。二の矢、三の矢を放つためにも、着実にファーストパイプラインを育て、しっかりした収益基盤を築きたいと考えています。

——最後の質問です。かつての高野さんのように、企業に在籍しながらベンチャーやスタートアップ領域でのキャリア形成に興味をお持ちの読者にアドバイスをお願いします。

高野:「とにかくチャレンジしてみて」とは言いません。大企業でいくら場数を踏んだからといって、必ずしも成功できるとは限らないからです。それでもなお、挑戦する意志が固いのであれば、まずいまご自分がいる環境で「相手目線」「相手基準」で仕事に取り組むようにしてみることをお勧めします。私の場合は、自分より優れた知見を持つ、医薬品や医療機器のスペシャリストや学識経験者が集まる会を運営することで自分の視野の狭さ、知識の浅さを痛感し「相手目線」「相手基準」で考え、行動するようになりました。自身の現状を認識する勇気を持ち、そこから学んでいける方ならベンチャーで活躍できる確率は高まるのではないかと思います。

河西:バイオテックは国内市場を飛び越え、一気に世界市場を取りにいける非常にダイナミックな領域です。Heartseedは、その先駆けになり得る貴重な存在であるのは間違いありません。バイオテック領域には、高野さんのような素晴らしいキャリアを持つ方を受け止めるだけのポテンシャルは十分にあります。意欲ある方にはぜひ挑戦してほしいですね。

2024.12.04 INVESTMENT

2024年12月にamptalk株式会社(以下amptalk社)が、シリーズAラウンドにおいて総額10億円の資金調達を発表しました。Angel Bridgeも本ラウンドにおいて出資しています。

amptalk社は、セールステック領域のひとつであるセールスイネーブルメントに着目した商談解析SaaSを提供するスタートアップです。

今回の記事では、Angel Bridgeがamptalk社に出資した背景について、特にセールスイネーブルメント市場の動向とamptalk社がその中で発揮する強みに焦点を当てて解説します。

 

  1. セールスイネーブルメント市場の動向と課題
  2. amptalk社の事業概要と強み
  3. 経営陣
  4. おわりに

 

1.セールスイネーブルメント市場の動向と課題

セールスイネーブルメントとは

まず、セールスイネーブルメントについて説明します。企業による営業活動は図1のように「リード生成~商談化」「営業」「契約」「CS(カスタマーサポート)」の4つに分けられ、各領域においてITによる効率化を目指すものがセールステックです。中でもセールスイネーブルメントは、「営業」領域における人材育成やオペレーションを仕組みにしていくアプローチを意味しており、営業の量と質、受注率の向上を目指します。

図1:セールステックの領域分類とアプローチ

いま注目を浴びる理由

近年、セールスイネーブルメントは注目を浴びつつあり、特に海外市場は大きな成長を遂げています。Global Industry Analysis社のレポート(※1)によると、グローバル市場は2023年から2030年にかけて、30億ドルから120億ドルへ拡大するとされ、年率21%ペースで成長する見込みです。海外市場の主要プレイヤーとして、米国のGONG社やClari社、Salesloft社などが台頭しています。こうした急成長を遂げるセールスイネーブルメント領域は、今後日本でも大きく伸びると予想されます。

ではなぜ、セールスイネーブルメントが注目を浴びるようになったのでしょうか。その社会的背景は大きく2つあります。

1つ目は、セールステック市場のトレンド推移です。図2で示すように、2000年代にSFA(Sales Force Automation)やCRM(Customer Relationship Management)ツールを活用した営業活動の可視化が進み、2010年代にはインサイドセールスやCSといったThe model型(※2)の普及による効率的なオペレーションによるリード獲得量の向上、2020年代前半にはセールスBotなどの工数削減やインテントデータを活用した質の高いリードの獲得へと移り変わってきました。そして、質が高く十分な量のリード獲得が可能となった2020年代後半においては、リードを確実に受注につなげるための「受注率の向上」が重要なファクターになると考えています。受注率の向上の実現のためには、「優秀な営業人材」が「ハイレベルな営業」を行う組織を作る必要があり、営業資料最適化・管理に加えてセールスイネーブルメントが着目されているのです。

図2:セールステック市場のトレンド推移

 

2つ目は、コロナ禍で急速に進んだ営業活動のオンライン化です。2020年から世界的に猛威を振るった新型コロナウイルスによりリモートワークが浸透し、商談は急速にオンライン化が進みました。その影響で営業活動全般のデジタル化が進展し、フィジカルな営業同行ができないために営業人材の育成が難しくなったことに加え、オンライン商談は音声データを取得しやすいという特徴も合わさって、商談の音声データを活用した商談解析・トレーニングが積極的に行われるようになりました。パンデミック終息後もこうした流れは続き、欧米を中心とした企業で、セールスイネーブルメントの重要性が叫ばれ導入が進んでいます。

日本では、こうした世界的な潮流に加えて、労働人口の減少や離職率の増加、働き方改革による残業規制などが進展し、より一層セールスイネーブルメントに取り組む緊急性が高まっているとと言えます。

 

※1 https://www.marketresearch.com/Global-Industry-Analysts-v1039/Sales-Enablement-Platforms-36899830/

※2 「The Model」(ザ・モデル)とは、マーケティングから営業、カスタマーサクセスに至るまでの情報を可視化・数値化し、営業効率の最大化を図る、 セールスフォース・ジャパンで活用されてきた営業プロセスモデルhttps://www.salesforce.com/jp/resources/articles/sales/the-model/

 

大企業ほど効果的なセールスイネーブルメントが必要

こうした動向の中、各社効果的なセールスイネーブルメントの実現が求められますが、大企業ほどその重要性と難易度が高くなります。

まず重要性についてです。創業初期の企業であれば、個人の力量に業績が依存しており、営業人材の育成に関する組織的な課題はあまり表出しません。しかし、会社規模の拡大に比例して、マネージャーを複数人置きながら営業人員の育成や組織的な管理といったマネジメント業務が求められます。

続いて難易度についてです。セールスイネーブルメントには営業人員が行う商談情報とその社内共有が必要になります。大企業ほど営業人員数は増加しますが、従来のSFAやCRMツールを用いた組織的な商談管理体制の構築には大きなハードルが存在します。例えば、商談後の情報入力の量や質が社員によってバラついていたり、多忙な業務の中で不十分なものになってしまうという声もあります。また、部門間連携が不十分で、受注率や顧客体験に影響が出ている企業もあります。こうした入力工数や商談のブラックボックス化により、多くの大企業で精度の高い商談管理とそれに基づくセールスイネーブルメントが困難になっています。

図3:企業の規模ごとの営業組織の特徴と課題

 

2.amptalk社の事業概要と強み

今回Angel Bridgeが投資させていただいたamptalk社は、セールスイネーブルメントのための商談解析SaaSを提供する企業です。

提供するプロダクト「amptalk analysis」は3つの大きな強みを持っています。

1つ目は入力工数の大幅削減です。amptalkの大きな提供価値は「営業の育成」ですが、その前段階である「SFA/CRMツールを適切に活用すること」に課題がある企業は多数存在します。amptalkは電話やウェブ、対面のあらゆるタイプの商談で精度が高い書き起こしができます。また会議後にSFA/CRMツールと連携し、商談記録や要約を自動で入力することも可能です。SlackやTeamsとの連携も行うことができ、既存の社内ツールと合わせて一層の業務効率化が進みます。

2つ目は、他社比較で半額以下の価格で提供されており、コストメリットが大きいことです。企業の売上に直結する営業部隊において、ツール価格の安さは魅力的であり、優位性となっています。営業シーンを考えると、コロナ禍以降に急速に商談のオンライン化が進展しZOOM/Teamsなどによる商談が一般化しました。セールスイネーブルメントの領域では自社IP電話を提供するプレイヤーも存在しますが、世の中に高品質で安価なコミュニケーションツールが続々と登場する状況ではむしろ、他のツールと連携することで高品質と低価格を両立しているamptalkのアプローチの方がより適切だと考えています。そしてこの点にこそ、継続的な事業成長を実現する構造的なポテンシャルがあると確信しています。

3つ目は、営業人材のパフォーマンス解析です。商談中の話し方やトピック、質問への切り返しといった営業会話を自動解析し、営業メンバーの型や傾向を可視化することが可能です。顧客はこのデータを活用して、新人やローパフォーマーの営業人材を育成することができます。特に話者分離を精度高く行う技術はハードルが高く、日本語の書き起こしは高い精度を出すのが難しい中、amptalkの書き起こし・解析の精度は競合と比較しても高く、リプレイス商談/コンペでのamptalkの勝率が高いことの大きな要因になっています。

こうした強みにより、従来の営業生産性や人材育成といった大きな課題を乗り越え、営業人員・マネジメント層双方の業務効率化および質の向上に寄与することができます。

図4:amptalk社のプロダクト概要

 

また実際に「amptalk analysis」はマネーフォワード、ラクス、Sansanなどの大手SaaS企業やユーザベース、ビザスクなどのグロースベンチャーに加え、富士通やイトーキなどの大手企業にも導入が進み、ユーザー企業からは「書き起こしの精度が高い」、「ハイパフォーマーの商談をベースに営業パーソン育成ができる」、「amptalkがないと社内が回らない」といった高い評価が寄せられています。

図5:顧客インタビューの結果

 

今後は既にリリースを行っている「amptalk assist」だけでなく、「amptalk analysis」を起点とした様々なプロダクトを創出する”マルチプロダクト構想”を掲げています。amptalkは商談の一次情報である音声データを獲得していることに加え、精度の高い独自AI技術も保有しています。両者を掛け合わせることで競合が模倣することが困難な付加価値の高いプロダクトを創出することが可能です。

 

3.経営陣

Angel Bridgeがamptalk社に投資するにあたり、経営チームへの理解も深めました。

図6:amptalk社の経営陣

 

猪瀬CEOは、旭化成にて営業とマーケティングに従事され、特に営業ではトップの成績を継続的に収めるなど、営業やその現場課題に精通しています。また出向先の米国医療機器メーカーではマネージャーとして活躍されるなど、チームの先頭に立ち売上向上に大きく貢献してきました。ビジョナリーかつ戦略構築力が大変高く、また目標に対するやり切り力と行動力がとても強い方で、営業現場で起きている課題を明確にとらえ、着実にアプローチし「人と人が向き合う時間を最大化する。」というミッションの実現に向けて邁進されています。

また、豊富な開発経験に裏打ちされた技術力とビジネス感度の高さを併せ持ち、システム開発の核を担う鈴木CTOや、機械学習や音声認識のエンジニアリングに特化し自身での起業経験も持つ髙信VPoD、PwC Strategy&を経て外資系VCであるScrum Venturesの日本拠点立ち上げおよび国内投資責任者を務めた黒田VPをはじめ、優秀な経営陣が集います。

組織全体としても、プロダクトの品質のみならず丁寧なCSが高い評価を受けるなど、誠実に事業やクライアントと向き合う姿勢が浸透しており、amptalk社の成長を支えています。

 

4.おわりに

セールスイネーブルメントは国内でも今後大きな成長が見込まれている領域です。SFAやCRMといったセールステックプロダクトの活用が進む中で、商談数や営業人材を多く抱える大企業では、商談管理のブラックボックス化が生じ、十分な営業情報にもとづく適切な営業人材の育成が難しくなってしまうという課題を抱えています。

こうした課題の解決には、高い技術力と実行力が求められますが、猪瀬CEO率いるamptalk社はクライアント企業に寄り添い、質の高いプロダクトの提供を通じて、ヒトが中心となる営業現場でより営業にコミットできる環境を作り出そうとしています。時代の潮流を見極めながら、企業の売上向上に貢献し、セールステックの新たな国内トレンドを必ずやリードする企業になると弊社も期待しており、しっかりと伴走してまいりたいと思います。

Angel Bridgeは社会への大きなインパクトを創出すべく、難解な課題に果敢に挑戦していくベンチャーを応援しています。ぜひ、事業戦略の壁打ちや資金調達のご相談など、お気軽にご連絡ください!

2024.11.28 INTERVIEW

遺伝性希少疾患に的を絞り、RNA創薬に挑むバイオベンチャー

——リボルナバイオサイエンスはどのような事業を手がける会社ですか?

富士:リボルナバイオサイエンスは、タンパク質合成を司るRNA(リボ核酸)を標的とした経口医薬品の創薬研究に取り組むバイオベンチャーです。注射によって投与する高分子医薬品ではなく、経口摂取可能な低分子医薬品でRNAを狙い撃ちできるようになれば、患者さんのQOLは確実に高まります。これまで有効な治療法がなかった遺伝性希少疾患に苦しむ患者さんと、そのご家族の苦痛を少しでも和らげたいという思いで創業しました。

——なぜこれまでの低分子医薬品ではRNAを標的にできなかったのでしょうか?

富士:以前から低分子化合物によるRNA創薬の研究が進められていましたが、製剤化は容易ではありませんでした。2万数千種ある人間の持つRNAは構造が似たり寄ったりで、低分子医薬品では標的となるRNAを見分けることが難しかったからです。

——この課題をクリアして起業された?

はい。私自身、RNAをターゲットにした低分子医薬品開発の黎明期から関わってきました。企業研究者時代にRNAをピンポイントで見分けるスクリーニング技術の確立に目処が立ち、新薬の候補となるリード化合物を見つけられたので、この技術にさらに磨きをかけるべく起業しました。

——なぜ、RNAをターゲットにした低分子医薬品による創薬を目指したのですか?

富士:低分子医薬品と同じく、RNAを標的にした創薬分野に「核酸医薬品」があるのですが、こちらは新しいタイプの薬剤であるため創薬のハードルが非常に高い一方、低分子医薬品の歴史は長く、開発プロセスも確立されています。RNA創薬と低分子医薬品を掛け合わせれば、多くの患者さんに希望を届けられ、かつビジネスとしても大きなインパクトがあると考えました。

研究者から起業家への転身を支えた強い信念の原点とは?

——以前お務めだった大手製薬会社によるカーブアウト(※)プログラムに参加されて起業に至ったと聞きました。創業するにあたって不安はありましたか?

富士:当時は不安よりも「とにかくアイデアを実現させたい」という意気込みが優っていましたね。「この技術が世に出ないはずがない」という自負心もありました。

※カーブアウトとは企業が子会社や自社の事業の一部を切り出し新会社として独立させること

——恵まれた環境に未練はなかったのですか?

富士:研究者なら誰しも、自分の技術を世に出したいという思いがあるものです。私はその思いが人一倍強かったのだと思います。当時勤めていた製薬会社で一度はプロジェクトを立ち上げたものの、事業ポートフォリオの見直しにより研究継続が困難になってしまったため、研究者の独立を支援するカーブアウトプログラムを利用して起業しました。このプログラムに採択していただいたおかげで、資金や環境面でかなり手厚いサポートを受けられました。前職にはとても感謝しています。

——とはいえ研究の成果はあっても経営のご経験はありません。起業のモチベーションはどこから得たのでしょうか?

富士:起業に対して前向きになったのは、2013年にアメリカのサンディエゴにある子会社に出向した経験が大きかったように思います。現地でまず驚いたのは、バイオベンチャーを取り巻く環境の豊かさでした。大手製薬会社や大学、VCを巻き込む一大コミュニティができあがっていたからです。人もお金も日本では考えられないほどダイナミックに動いており、とても刺激を受けました。もうひとつ起業の志を後押ししてくれたことがあります。それはアメリカから帰国後に読んだ、あるイギリス人女性のブログです。この女性は脊髄性筋萎縮症に苦しむ幼い娘さんを抱えておられ、遺伝性疾患で苦しむ人たちを救いたいという思いの原点になりました。こうした出来事が幾重にも重なって起業や経営への不安を払拭してくれたように思います。

4年間の努力が実を結び勝ち取った高い評価と投資機会

——リボルナバイオサイエンスとAngel Bridgeのお付き合いはどのような形ではじまったのでしょうか?

河西:富士さんと最初にお会いしたのは、たしか創業間もない2019年ごろでしたよね。

富士:そうですね。アイデアと夢はありましたが、当時はまだ誇れるような成果も実績もない状態でした。

河西:当時リボルナさんはRNA創薬の基礎技術はお持ちで将来性は感じたものの、今後の創薬市場においてどのようなポジショニングが狙えるのか確信が持てず、投資を見送らせていただいた経緯があります。再会したのはそれから4年後でしたね。

富士:はい。一昨年、改めてお付き合いのある証券会社を介して改めて河西さんに面会を申し出て、お会いできました。

 

——なぜ改めて面会を申し入れたのでしょうか?

富士:河西さんは、大学院で遺伝子工学を修め、バイオをはじめディープテック領域に関して豊富な知見と投資経験をお持ちです。前回お会いしたとき、河西さんから「技術的にはすごく面白いし、可能性も感じるけれどもう少し進捗がほしい」とおっしゃっていただいていたので、この4年でわれわれがどの程度前進したかぜひご報告したいと思い、お声がけしました。

河西:その後リボルナさんは、米バイオジェン社と創薬研究ステージでは国内最大クラスの中枢神経系疾患領域での共同研究契約を結ばれるなど、RNAをターゲットにした低分子医薬品開発は世界的な製薬企業からも注目を集めるようになりました。富士さんの粘り強い努力と先見の明を目の当たりにして、「この人ならきっと最後までやり抜くだろう」と感じ、2023年5月に実施された総額6.7億円の第三者割当増資への参加を決めました。

ほかのVCとは一線を画すAngel Bridgeの魅力

——改めてAngel Bridgeに対してはどのような印象をお持ちですか?

富士:帰国後、さまざまなVCに出会いましたが、Angel BridgeはほかのVCとは一線を画す印象がありますね。技術に対する造詣が深く投資判断までのスピードが速いのは、アメリカのVCに近い印象です。ただ完全にアメリカ的というわけではなく、コミュニケーションを大切にし、関係者と協調する姿勢はむしろ日本的な印象すらあります。

河西:私はAngel Bridgeを創業するまで、長年外資系企業のカルチャーのなかで育ちました。仕事はプロフェッショナルに進めますし、言うべきことをちゃんと言うよう教育されてきましたが、魂はやはり日本人です。自分の主張を押し通そうとするより、立場の異なる人たちの意見を聞きながら合意形成を図る重要性は理解しているつもりなので、ステークホルダー間の関係や機微には敏感かも知れませんね。

富士:経営会議で同席すると感じるのは、VCという立場を超えて、意見を押すべきタイミングと、引くべきタイミングを見極めていらっしゃるのを感じます。もしかすると、投資家と経営者の両面をお持ちだからこそ見えるものがあるのかも知れません。いつも勉強させてもらっています。

河西:そう言っていただけるのはうれしいですね。

 

経営者の見識を育むAngel Bridgeのハンズオン支援

——Angel Bridgeからの支援で印象に残っている取り組みを聞かせてください。

富士:私がすごく楽しみにしているのは、Angel Bridgeの投資先が集まる「クロスラーニングの会」ですね。私はこれまで2回参加しましたが、私を含め参加者のみなさんが「今回は自分のために企画してくれたのではないか?」と感じるほど、スタートアップ起業家にとって身近なテーマを採り上げてくださるので、スタートアップ経営者にとってとてもありがたい機会です。

河西:クロスラーニングの会は、スタートアップが直面する「採用」と「組織構築」と「ファイナンス」の3つの悩みを共有し、解決の糸口をつかんでもらうために企画している勉強会です。そういっていただけるのは運営側としてうれしいですね。

富士:厳しい状況を乗り越えた起業家から、直接、経験談やアドバイスをうかがえるのはとても貴重な機会ですし、業界は違えど同じ悩みを抱える経営者同士、同じ時間を共有できるだけでも励みになります。明日からすぐ実践できるようなヒントもたくさんいただけるので、継続して参加するつもりです。

——ほかに、どのような支援を受けていますか?

富士:私は研究者出身のせいか、どうしても技術的な説明に力を入れてしまいがちなクセがあります。ときに、相手が求めるポイントからずれた回答をしてしまうことがあったのですが、河西さんから「こっちの伝え方の方が相手に刺さりますよ」と改善点を具体的に指摘いただいたことで、以前より円滑にコミュニケーションが図れるようになりました。

河西:立場や役割、フェーズによって物事の捉え方や興味の範疇が異なりますからね。それに私自身、かつて研究者を目指したこともあるので、富士さんの気持ちは痛いほどよくわかるんです。

富士:河西さんの一つひとつの言動には研究に対するリスペクトを感じるので、素直に受け止められるのかも知れません。

河西:経営者が納得しないとことは何事もうまくいきませんし、それはほかの利害関係者も同じです。仮に富士さんが首を縦に振りたくないであろうことでも、客観的に見てやるべきだと思えばそのようにお伝えしますし、その逆も同じです。どんなときもフラットであることを心がけているので、富士さんのように聞く耳を持ってくださる方だとアドバイスのしがいがあります。壁の向こうに、きっと支援してくれる人たちがいる

——改めてこれからの目標を聞かせてください。

富士:日本にもバイオベンチャーが続々と増えていますが、いまのところ医薬品の上市を実現したバイオテック企業はまだありません。日本のバイオベンチャーシーンを盛り上げるためにも、誰もがうなずけるような成功事例が必要です。日本のバイオベンチャーの存在意義を確かなものとするためにも、少しでもはやく優れた医薬品を社会に届けたいと思っています。

 河西:バイオテック領域は最初からグローバル市場を狙える数少ない領域です。リボルナさんにはまずは日本発のグローバルベンチャーとして名乗りを上げてもらい、ゆくゆくは世界的な製薬会社になっていただきたいですね。切に願っています。

富士:そういっていただけて光栄です。これからも河西さんをはじめAngel Bridgeのみなさんには、忖度なく意見していただきたいと思っていますので、今後ともよろしくお願いいたします。

河西:もちろんです!

——最後に環境が整った大企業を卒業しスタートアップを起業したい方にメッセージをお願いします。

富士:もし、どうしても実現したいアイデアがあるなら、それを世に問うことを恐れないでほしいですね。いま勤めている会社では実現できなくても、その信念が正しいのであれば、組織の壁を乗り越えた向こうに、きっと支援してくださる方がいるはずです。ですから諦めず、業界の有識者やオピニオンリーダーに夢や目標を語り続けてください。仮に否定されても落ち込む必要はありません。ブラッシュアップのいいチャンスだからです。諦めない気持ちと続ける勇気を持って取り組めば、きっと道は拓けます。ぜひ頑張って挑戦してください。

河西:バイオベンチャーが成功を収めれば、日本でも後を追う人は必ず増えるはずです。そういう意味でもリボルナさんにはぜひ成功していただきたいと思います。研究者が学術的な賞賛に加え、経済的な恩恵を受けられるようになれば、日本の創薬市場も大きく変わるはずです。頑張ってロールモデルになってください。期待しています。

富士:ありがとうございます。「研究者」が再び日本の子どもの憧れの職業になるよう、これからも努力を続けるつもりです。

 

2024.11.19 INTERVIEW

goooodsは、売り手と買い手をつなぐ卸売プラットフォーム

——goooodsはどのような顧客に対しサービスを提供する企業なのでしょうか?

菅野:端的にいいますと、goooodsは卸売産業にチャレンジしている企業です。具体的には、ユニークで素敵な製品をつくられているメーカーやブランドと、厳選した商品を仕入れ販売する小売店やEC事業者の間を取り持つマーケットプレイス事業に取り組んでいます。

——特徴は?

菅野:マーケットプレイスとして取引の場を設けるだけでなく、与信請求業務などの煩雑で手間のかかる作業を軽減し、取引先管理・受発注業務・書類発行業務まで事業者のみなさんのバックオフィス負担を減らす機能を備えている点です。このほかにもブランドイメージに忠実なウェブページ生成機能の提供や、成功報酬型の料金体系を採用するなど、ネットを介した卸売取引に慣れていないみなさまの不安やお悩みをワンストップで解消できるサービスと自負しています。

——小規模卸売産業の現況についてお聞かせください。

菅野:国内のファッション・雑貨の卸売市場の規模は全体で約38兆円あり、そのうち小規模事業者による取引は約5兆円を占めるといわれています(出典: 経産省; 平成28年経済センサスなど)。しかし、その大半が電話やファックスを通じたやりとりなど非効率的な業務の上に成り立っており、狭義のEC化率はわずか5%程度(出典: 経産省; 令和二年度電子商取引に関する市場調査)に過ぎないとされています。一方、卸売取引のEC化で先行する米国や欧州に目をやると、それぞれのリージョンで複数のプラットフォーマーがしのぎを削っているにもかかわらず、日本にはいまだ業界を牽引するリーダーが存在しない状況です。goooodsは現在、この空白を埋めるべく利用者の獲得と取引拡大に挑んでいます。

——どんなアプローチでマーケットリーダーを目指しますか?

菅野:ここ数年でメーカーが直接消費者に商品を販売する DtoC(Direct to Consumer)が広がり取引環境がかなり整備されました。私たちは、DtoCから卸売で販路を拡げたいブランドと個性的な商品を求める小売店が出会い、新規取引を増やすだけでなく、以前からお付き合いのある取引関係も、goooodsに集約すると便利な状況をつくることで、この分野におけるマーケットリーダーを目指しています。

身近な課題を解決するインパクトの大きなビジネスへの挑戦

——菅野さんはスマートフォン動画広告のFIVEの起業に続き、goooodsが2社目の起業になります。なぜ小規模卸売産業にチャレンジされたのですか?

菅野:最初の起業は、Googleでの広告マーケティングの経験をもとに一定の見通しを立てた上での起業でした。goooodsではまったく経験のない卸売の領域でのチャレンジです。なぜ卸売産業に挑もうと思ったのかといえば、手触りのある身近な課題と、それが解決されたときの裾野が大きい領域に挑戦してみたかったからです。以前に経営していたアドテクノロジー分野は、人間の認知に働きかけるいわば「首から上のビジネス」の領域でしたが、より物理的・身体的な「首から下のビジネス」に挑戦しようと考えました。情報技術は加速度的に発達していきます。その技術の恩恵を受けていない産業にアプローチすることに価値があると思っています。

——変革が期待される産業はたくさんあります。卸売領域に着目したきっかけを教えてください。

菅野:実は妻がハーブティの小売販売業を営んでいるのですが、彼女が慣れない卸売に苦労している姿を見たのがきっかけでした。普段個人のお客様相手に販売しているサイトに、年商を上回る卸売の依頼が舞い込んだことで、受注から納品まで数カ月にわたり悪戦苦闘している姿を目の当たりにして、事業者にとって卸売取引が持つポテンシャルとハードルの高さを知りました。そこから卸売取引の主な手法が昔から変わっていないこと、潜在的な市場規模の大きさ、海外での成功事例を知り、卸売取引で成長したい意欲のある売り手と、ほかにはない商品を求める買い手に卸売の新しいスタンダードを提供したいと思い、この領域にターゲットを絞りました。

——河西さんにうかがいます。goooodsや菅野さんとの出会いのエピソードを聞かせてください。

河西:はじめてお会いしたときの印象は、ビジネスの酸いも甘いも知っている方だと感じました。そもそも菅野さんは、最初の事業を70億円で売却され、売却後も買収先に籍を移して3年間で売上を100億円にまで引き上げた実績の持ち主です。そうした経験を持つ方が、古くからある卸売産業をアップデートするというのですから興味を持たずにはいられませんでした。

菅野:卸売産業には既存のプレイヤーが無数にいるうえ、私自身、新たに学ばなければならないことも多く、簡単に成功できるような甘いビジネスではないことは当初からわかっていました。しかし、業務効率化の立ち後れが目立つ領域であり、きちんとシナリオを描き、立てた仮説を一つひとつ泥臭く証明していけば、必ず勝機が開けるはずと考えて挑戦することにしたんです。

河西:われわれがgoooodsへの投資を決めたのは、菅野さんをはじめ創業メンバーの顔ぶれや実績、海外での成功事例や成功すれば社会的インパクトは計りしれない大きさになると判断したからですが、理由はそれだけではありません。一度の成功に満足せず、新しい領域に果敢にチャレンジしようという姿勢に惹かれた面が少なからずあったのは確かです。とりわけ菅野さんの事業に対するパッションの強さには驚かされました。

——どんなときにそれを感じたのですか?

河西:デューデリジェンスに先立って、当社から菅野さん宛に質問事項をお送りしたときのことです。回答の密度に強い熱意と意欲を感じました。本気でコミットしていなければ出てこないような詳細かつ的確な回答ぶりを見て「この人なら古い業界の慣習を切り崩せる」と確信したのを覚えています。参入障壁が決して低いとはいえない業界ですが、これほどまでのパッションがある方なら夢を託しても後悔はないだろうと思い投資を決めました。

プロフェッショナルでありながら親しみやすいAngel Bridge

——菅野さんはAngel Bridgeに対してどんな印象をお持ちですか?

菅野:お声がけしたVCのなかで一番早くお返事をいただいたのはAngel Bridgeさんでした。そしてAngel Bridgeさんのミーティングでの発言はもちろん、頂戴する資料の質も際立っていました。いま、当社で経営管理用に利用しているKPIシートは、実はデューデリジェンスの過程でAngel Bridgeさんに共有していただいたものをひな形にして使っているんです。Angel Bridgeさんには6.7億円を集めたシリーズAのファーストクローズでリードをとっていただきましたが、それ以降もさまざまな面で手厚いサポートをいただき、とても感謝しています。

——どのようなサポートなのでしょうか?

菅野:目下私たちが課題に感じていることや経営上の悩みに対して、集中的な討議の場を設けていただいたり、マーケットの状況や戦略面での整理をしていただいたりしています。戦略面では膨大なスタートアップ事例を組織的に蓄積したパターン認識と、投資先個別の事業特性や指向性を踏まえたアドバイスをいただけると感じています。実行面での支援では、メガベンチャーのSO付与状況から最適なSO運用方法についてインプットをいただいたり、製品開発面での市場リサーチをご一緒いただいたこともありました。Angel Bridgeさんがユニークなのは、仕事はプロフェッショナルでありながら、親しみやすく相談しやすい雰囲気がある点です。私たちが向き合う卸売産業は、相応の投資があってはじめて打席に立てる難しい領域です。この領域に向き合うにあたってファイナンスだけでなく、プロフェッショナルファームクラスの経営支援を受けられるのは、とてもありがたいことだと思っています。

意欲ある市井の人たちを勇気づけるビジネスを手がけたい

——創業から丸3年が経ちました。これからAngel Bridgeにどんな支援を期待しますか?

菅野:プロダクト戦略やファイナンス戦略の面で、引き続きサポートしていただけたらと思っています。また、現在CFOがいないため、河西さんのファイナンス面での知見は積極的に借りていきたいと思っています。

河西:経営資源を正しい場所に正しくアロケートするのがハンズオン支援を自負するわれわれの仕事です。Angel Bridgeにできるサポートはこれからも最大限提供するつもりなので安心してください。

菅野:ありがとうございます。事業に関わるお客様、社員、投資家はそれぞれのお金や時間を期待をかけて投じてくれています。後世から振り返ったときに、goooodsの仕組みが存在して良かったと関わった全員が思えるような傑出した事業を目指していきます。その道のりの過程では、誠実に説明責任を果たしていくことも重要だと考えています。よろしくお願いします。

河西:もちろんです!

——最後にうかがいます。菅野さんはgoooodsを通じてどんな世界を実現したいですか?

菅野:僕らは「Everyone Entrepreneur」をミッションとして掲げており、これからも意欲ある市井の人たちを支援し勇気づけるようなビジネスを手がけていきたいと考えています。資金繰りの大変さや商売の厳しさを感じることはあっても、常に前を向いて一歩踏み出せるサービスを社会にお届けし、チャレンジしやすい世の中を実現したいと願っています。

河西:今日はとてもいい話をうかがえました。これからも一緒に頑張っていきましょう。

菅野:はい、こちらこそよろしくお願いいたします!

2024.11.12 INVESTMENT

2024年11月に、Angel Bridgeの投資先であるシンプルフォーム株式会社(以下シンプルフォーム社)が、40億円の資金調達を発表しました。Angel BridgeもシリーズBラウンドにおいて出資しています。

シンプルフォーム社は、法人取引における審査を支える情報基盤の提供、運用支援を行うスタートアップです。法人取引における審査体制の構築・運用支援を行うプロフェッショナルサービスをはじめ、金融犯罪防止や業務生産性の向上を支援するプロダクトは金融機関やカード会社などで採用されています。

この記事では、Angel Bridgeがシンプルフォーム社に出資した背景について、法人審査市場を取り巻く環境と、シンプルフォーム社の強みに焦点を当てて解説します。

  1. 法人審査市場の動向と課題
  2. シンプルフォーム社の事業概要
  3. 経営陣
  4. おわりに

1.法人審査市場の動向と課題

まず、法人審査市場の全体像を説明します。

法人審査とは、法人を顧客とする企業が取引先、あるいは提携先の企業について、その実態性や信用度などを審査することを指します。また、その会社自体の審査に加えて、複数の会社の関係性やネットワークも含めた調査も含まれます。また、金融機関など社会基盤を構成する企業は犯罪収益移転防止法(犯収法)等の法律を遵守する必要があり、より厳格な審査が求められます。

法人審査においては、会社そのものだけでなく、社長などの代表者やその会社と関係性のある会社まで調査が必要で、その調査内容や方法も多岐にわたります。また、取引先となる全ての企業に対して調査が必要です。国内には企業が500万社ほど存在します。規模の大きい企業に関しては、調査機関からの情報が使用可能ですが、規模の小さい中小企業、創業間もない企業に関しては探しても情報が少ないのが現状です。

図1 法人審査とは

通常、法人審査は社内外での調査や現地に赴いての実地調査、調査機関への依頼など多様な手法で実施しています。

①社内調査
取引履歴のある企業の場合、営業部や審査部が情報を保管している可能性があります。こうした社内情報を収集して、調査に活用します。
②外部調査
商業登記簿や不動産登記簿といった官公庁で取得できる情報や、インターネットで収集できる情報などをもとに調査を行います。
③直接調査
訪問、電話、FAX、メールといった手段で、取引先の企業を直接調査します。
④依頼調査
信用調査会社など、第三者に調査を依頼します。

また、報道やSNS、インターネット掲示板などでの情報などもチェックする必要があり、1社を調査するだけでも最大で2~3日かかることがあります。また、中小企業は情報がないことも多く、現地に赴いての調査や、外部の第三者への依頼調査は、費用対効果も悪いことが課題となっています。

そのような中で、コロナ禍の影響もあって非対面取引が増加し、詐欺被害額は増えています。20年には詐欺の被害額が約600億円であったのが、23年には1,600億円へと約2.7倍へと急増しました。こうした被害は日本のみならず、海外諸国でも増加傾向にあり、23年のG7安全担当相会合では、初めて組織的詐欺についての議論が行われました。

こうした犯罪や不当な取引で得られた資金は、多数の金融機関を経由して出所をくらませ、犯罪組織やテロ組織に渡り、さらなる活動の資金源となる危険性が高いと言われています。国際的に組織犯罪の脅威が増す中、AML/CFT等をはじめとする金融犯罪対策の重要性が高まっています。国際的にマネロン等対策の中心的な役割を担っている機関から、有効な対策が行われているかについて審査を受け、2021年8月に結果が公表されました。この結果、国内金融機関等は2024年3月末までに、金融庁の示すガイドラインに沿った対応が求められました。リスクの特定・評価のため、顧客情報や口座の利用目的の定期的な確認を行うなど、形式的ではない、審査の実効性を向上させる取り組みが不可欠となります。

一方で、特に審査業務に対する人材不足も課題で、効率化に対するニーズが大きくなっています。また、審査人員の審査に対するばらつきもあり、組織全体としての審査の高度化へのニーズも高まっております。結果として、法人審査市場は年々拡大しており、今後も成長が見込まれます。

2.シンプルフォーム社の事業概要と強み

煩雑で時間がかかるのに加え、情報の少ない中小企業の審査を含めた、審査業務の効率化・高度化を進めるべく、シンプルフォーム社は大手金融機関で求められる高い水準での審査が実現できるプロダクトを複数展開しています。

図2 シンプルフォーム社のプロダクト

特に、国内全法人をカバーする情報の高い網羅性と価値の高い独自データを多数保有していること、それらの情報を統合し短時間で審査レポートを作成できる点がシンプルフォーム社の強みになります。具体的には、全国に散らばる紙データ等を、足で稼いで収集し、実体性の確認を人手をかけて行うことで、価値の高い独自データを有しています。

このような強みを突き詰めることで、シンプルフォーム社にしかできない価値を生み出せており、すでに金融機関の審査現場のオペレーションやシステムに深く組み込まれ、高い価値を実現しています。

現場ではなくてはならない存在になっており、導入前の10倍以上の数をさばけるようになっている顧客も現れています。

顧客に対して高い価値を提供できていることから、足元ではゆうちょ銀行、みずほ銀行をはじめ、ネット銀行や地銀も含めた大手銀行に数多く導入されており、楽天グループ、リクルートやDGファイナンシャルテクノロジーなど、銀行以外の大手顧客にも導入されています。

また、現行のプロダクトに加え、全国500万社に関する独自性の高いデータと生成AI技術を基盤として、新プロダクトを順次展開していくことで市場を拡大することを見込んでいます。

3.経営陣

シンプルフォーム社には、銀行業界での豊富な経験やAIに関して高い技術力を持つ優秀な経営陣が集います。
田代CEOは、DBJ(日本政策投資銀行)に9年間在籍し、銀行やファンドでの経験があり、金融業界に対する知見が深く、法人審査業界に対してファウンダー・マーケット・フィットのある起業家です。また、ビジョナリーでやり切り力が高く、巻き込み力や組織構築力に長けています。金融業界の未来を数十年単位で見据えた上で、業界変革の道のりを描けており、大手銀行の経営陣の方々からも信頼されています。また、「面倒を愛する」という価値観を醸成し、素晴らしいメンバーを集め、強力な組織体制や文化を構築できています。

また、NTTデータの研究開発部門にて人工知能の社会実装研究に従事した経験を持ち、大規模なシステムの構築・運用や、最先端のAI技術に詳しい小間CTOや、DBJにて多数の投資業務に従事し、強固な推進力を持つ中野COO・執行役員など、優れた経営人材が集まっています。また、組織全体としても顧客の業界や現場課題への深い理解や高い技術開発力を有しており、優秀な人材もシンプルフォーム社の強みの源泉の一つとなっています。

図3 シンプルフォーム社の経営チーム

4. おわりに

法人審査市場は、今後成長が見込まれる大きな市場である一方で、いまだアナログ作業が多い業界です。また中小企業に関するデータも十分でないため、生産性の低さやリスクの検知漏れが課題となっています。シンプルフォーム社はこうした課題を的確に捉え、顧客から熱烈な支持を得るプロダクトを開発し、導入や活用支援の事業開発も実現できています。

シンプルフォーム社が全国津々浦々で泥臭くかき集めた独自データは価値が高く、今後の生成AI技術の進展に伴い、さらに強いMOATを実現可能になっています。

また、田代CEOを含めた優秀な経営チームのもと、力強い組織を構築できており、顧客に伴走しながら課題を深く理解した上で、課題解決を粘り強く実現できています。また、AIに関して第一線で研究してきた小間CTOのもと、拡張性・安定性が高い優れたプロダクトを開発できており、これからの新プロダクト開発も加速化が期待されます。

現在は、大手金融機関を中心に導入が進んでおり、審査現場のオペレーションやシステムに深く組み込まれていますが、今後は他業界の法人調査における隣接領域の業務の効率化や、審査の高度化を行うプロダクトを次々と投入することでさらなる成長を見込みます。

その流れの中で、シンプルフォーム社は法人審査を起点に金融をシンプルにし、金融業界から日本全体のGDPの成長に大きく貢献することを目指しています。田代CEO率いる強固で粘り強い組織と独自価値の高いデータを基にした優れたプロダクトにより、必ずや業界変革を成し遂げられると弊社も期待しております。

Angel Bridgeは社会への大きなインパクトを創出すべく、難解な課題に果敢に挑戦していくベンチャーを応援しています。ぜひ、事業戦略の壁打ちや資金調達のご相談など、お気軽にご連絡ください!

2024.09.10 INVESTMENT

2024年9月に将来宇宙輸送システム株式会社(以下将来宇宙輸送システム社)が、総額3.6億円の資金調達を発表しました。Angel Bridgeも本ラウンドにおいて出資しています。

将来宇宙輸送システム社は、宇宙往還において機体を再使用することで、従来の使い捨て型ロケットよりも低コストで高頻度な打ち上げを可能にする再使用型ロケットを開発するスタートアップです。

今回の記事では、Angel Bridgeが将来宇宙輸送システム社に出資した背景について、特に再使用型ロケットを取り巻く環境と、将来宇宙輸送システム社の強みに焦点を当てて解説します。

  1. 再使用型ロケットの市場動向
  2. 将来宇宙輸送システム社の事業概要と強み
  3. 経営陣
  4. おわりに

1.再使用型ロケットの市場動向

まず、宇宙産業全体の市場動向について説明します。

宇宙産業では冷戦以後、それまでの国家主導での技術開発から民間での技術・サービス開発への移行が徐々に進み、多数のメガベンチャーが誕生し産業を牽引しています。グローバルでは2023年のロケットの打ち上げ本数は2020年比で倍増、宇宙産業全体の市場規模も2023年の約54兆円から2040年に140兆円に達することが見込まれるなど、その市場規模は急速な拡大が見込まれます。

日本でもこれまではJAXAが宇宙開発における中心でしたが、2023年4月のispaceを皮切りに宇宙系スタートアップの上場が相次ぐなど、宇宙領域のスタートアップも複数生まれており、非常に注目度の高い領域となっております。

図1 宇宙産業の市場状況

宇宙産業の拡大に伴って各種サービスを提供するために衛星などの構造物を打ち上げる必要があります。その需要を満たすために、低コスト/高頻度で運用可能なロケットの開発が求められ、その解決手段として再使用型ロケットが近年注目を集めています。

ここからは、再使用型ロケットとその市場動向について説明していきます。

再使用型ロケットとは、機体の一部、又は全てを再使用するロケットのことです。機体の全てを再使用する完全再使用型は技術難度が高いため、現在は1段目のブースターを再使用するロケットの開発が先行しています。

図2 再使用型ロケットのイメージ画像

メリットは以下の2つです。

  • コストの削減

1段目のブースターは打ち上げコストの多くを占める(例えばSpaceXのFalcon9では全体のコストの60%)ため、回収/再使用することで大きなコストダウンが見込めます

  • 高頻度の打ち上げが可能に

使い捨て型よりも製造のリードタイムを短縮できるため、打ち上げ頻度を増やすことができます

開発をリードする米国では再使用型ロケットの技術が確立されつつあり、イーロン・マスクが設立したSpaceXが1段目を再使用する「Falcon9」を2017年に、ジェフ・ベゾスが設立したBlue Originが、軌道投入能力はない観光用であるものの、完全再使用型の「New Shepard」を2015年に打ち上げ成功させました。

特にSpaceXはFalcon9で低コストかつ高頻度な宇宙空間へのアクセスを可能にしたことで、全世界のロケット打ち上げ本数のうち65%のシェアを獲得するまでに成長を遂げました。

日本政府としても、日本企業による同様な宇宙空間へのアクセスの実現を国防、世界規模でのルールメイキングの観点から国策として重要視しており、前述のメリットに鑑みて再使用型ロケットの開発を促す補助金制度の充実や宇宙活動法の改正を行う動きを見せています。

しかし、未だ再使用型ロケットの実用化に成功した日本企業は存在せず、将来宇宙輸送システム社をはじめとした数社が開発を競っている状況です。

2.将来宇宙輸送システム社の事業概要と強み

続いて、将来宇宙輸送システム社の事業について説明します。

図3 将来宇宙輸送システム社の事業概要と強み

将来宇宙輸送システム社は再使用型ロケットの開発を行っており、足元は人工衛星の打ち上げ等に用いる貨物輸送用の1段目再使用型のロケットを開発中です。また、2030年代を実現目標として段階的に有人宇宙輸送/完全再使用型に挑戦していく構想です。

将来宇宙輸送システム社は以下の3つを強みとして開発を進めています。

  • 高い資金調達能力

宇宙ビジネスは開発に莫大な資金が必要であり、CEOの資金調達能力は非常に重要です。将来宇宙輸送システム社のCEOを務める畑田さんは経産省/内閣府にてベンチャー支援や宇宙ビジネスに携わり、その後デジタルハーツプラス(デジタルハーツホールディングスの子会社)の代表取締役も務められた結果、官民双方への豊富な人脈を有しています。
畑田CEOのこれまでの実績や人脈は補助金の獲得に向けてポジティブであり、実際に3段階に分けて審査が行われ、全て採択されれば最大140億円/社の支給が行われる補助金制度の「SBIRフェーズ3」において、将来宇宙輸送システム社は既にフェーズ1に採択されて20億円を調達した他、フェーズ2以降に向けても業界有識者から高評価を獲得しています。また複数のベンチャーキャピタルからのエクイティ調達も成功させており、非常に高い資金調達能力があります。

  • 優れた技術を持つ企業との連携

将来宇宙輸送システム社は全てを自社開発することにこだわらず、プロジェクトリーダーのような立ち位置で優れた技術を持つ企業と連携し、それらを組み合わせる開発手法を採っています。
中でもロケット製造のカギとなるエンジンや機体製造に関しては海外の実績ある企業とも提携を進め、高度かつ効率的な開発を可能にしています。

図4 将来宇宙輸送システム社と連携する主要な企業群

  • IT企業のようにアジャイルな開発手法

将来宇宙輸送システム社は、独自の研究/開発プラットフォームである「P4SD」を構築し、開発速度の向上と開発コストの抑制を実現しています。
このプラットフォームの活用により、将来宇宙輸送システム社は日本初の水素・メタン・酸素の3種類の推進剤を用いた「トリプロペラント方式エンジン」の燃焼試験を企画から3か月で成功(エンジンの燃焼試験は通常は6か月~9か月程度必要)させたほか、飛行解析ソフトウェアを構築し、シミュレーションを活用することで通常は繰り返し実験を行う必要がある飛行実験プロセスの大幅な効率化に成功しています。

以上3つの強みに加え、実際のロケット開発状況も概ね当初の計画通りに進んでいることから、今後の将来宇宙輸送システム社の成長に対して大きな可能性が感じられます。

3.経営陣

Angel Bridgeが将来宇宙輸送システム社に投資するにあたり、経営チームへの理解も深めました。

図5 将来宇宙輸送システム社の経営チーム

代表取締役CEOの畑田さんは京都大学大学院を修了後、経済産業省にてエネルギー政策・事業再生支援・ベンチャー支援等を経験されました。内閣府時代には宇宙開発戦略推進事務局にて宇宙活動法策定等に携わられ、デジタルハーツプラスの代表取締役を経て将来宇宙輸送システム社を起業されています。官民の豊富な人的ネットワークを有し、業界随一のガバメントリレーション能力があるとの話を複数の業界有識者から伺うことができました。また理系のバックグラウンドから技術者とのコミュニケーション力も優れ、高いアントレプレナーシップを併せ持っていることも複数のリファレンスインタビューにて伺いました。投資検討における議論の中でも、何としてでも日本の宇宙産業を立ち上げるという想いの強さ、業界に深く入り込まれているが故の宇宙ビジネスに対する知見の深さを感じることができ、宇宙ベンチャーのCEOとしてこれ以上にない優秀な人物だと確信しています。

野村COOは名古屋市立大学在学中にIT企業を設立してWebサービスの開発をされ、卒業後も複数IT企業のCTOを歴任。現在は将来宇宙輸送システム社のCOOに加え、エンタメ領域を中心に受託開発を行う株式会社エスト・ルージュのCEOを兼任されています。学生時代からの豊富なシステムエンジニアとしての経験を活かし、将来宇宙輸送システム社の強みであるアジャイルな開発手法を支えている中心人物です。

嶋田CBOは早稲田大学商学部卒業後、パナソニック、電通、日本IBM、R/GA等で事業責任者や経営者を経験されました。これらの経験からスタートアップ連携、先端ソリューション創出、新サービス事業創出を得意とし、世界最高峰の広告賞であるカンヌ・ライオンズでの受賞や世界で最も影響力のあるテクノロジーイベントであるCESのInnovation Awardなど幅広く受賞。さらに、クリエイティブやイノベーション分野における審査員、約40か国で開催されるテックカンファレンスでの150回を超える講演、といった実績からもビジネスの領域において希少性の高い人材であることがわかります。

多様なバックグラウンドを持つ経営陣が宇宙産業の立ち上げに高いモチベーションを持って結束し、全体として高いレベルでの経営が実現できていることが将来宇宙輸送システム社の強みの源泉となっています。

4.おわりに

宇宙産業は2040年までに140兆円まで市場拡大が見込まれる巨大産業であり、中でも再使用型ロケットは低コスト/高頻度に宇宙空間にアクセスするためのインフラとして注目が集まる成長産業です。

一方で、海外ではSpaceXやBlue Originに代表されるメガベンチャーが市場を牽引しているものの、日本で実用化した企業は未だ存在せず、日本政府も国策として再使用型ロケットの開発を後押ししている状況です。

こういった強いニーズが存在する中で、将来宇宙輸送システム社は高い資金調達能力や優れた技術を持つ企業との連携、アジャイルな開発手法という3つの強みで高効率に事業を推進し、補助金制度「SBIRフェーズ3」に採択される等、高い評価を受けています。今後もスピード感のある開発を推進し、日本、そして世界の宇宙産業のインフラを担う存在として大きな成長を遂げていけるとAngel Bridgeも確信しています。Angel Bridgeは社会への大きなインパクトを創出すべく、難解な課題に果敢に挑戦していくベンチャーを応援しています。ぜひ、事業戦略の壁打ちや資金調達のご相談など、お気軽にご連絡ください!

2024.08.19 INTERVIEW

当事者のペインから生まれたLoglass 経営管理

——ログラスの事業内容を教えてください。どのようなサービスを手がけていますか?

布川:ログラスは2019年に創業した経営管理SaaSを提供するスタートアップです。主力の「Loglass 経営管理」のほか、同じLoglassブランドで「人員計画」「販売計画」「IT投資管理」を提供しています。さらに今年から、経営企画業務の一部を代行する「Loglass サクセス パートナー」というBPO・コンサルティングサービスをスタートさせました。現在は大企業を主なターゲットとし、サービスを提供しています。

——経営管理SaaS事業に参入した経緯を教えてください。

布川:きっかけは、私がSMBC日興証券の投資銀行部門を退職し、GameWithの経営戦略室にて経営管理をひとりで担っていたときの体験がベースとなっています。GameWithは創業4年で株式上場を果たしたこともあり、私が入社した直後は、上場会社にふさわしい経営管理体制が整っていませんでした。ゼロから仕組みを作り、なんとか運用可能な管理体制ができたものの、悩みのタネは尽きませんでした。

——どのような悩みがあったのでしょう?

布川:たとえば経営戦略室が予実管理に使うスプレッドシートを「親シート」、各部門の予算担当者が管理するシートを「子シート」とします。当時、親シートに連動する子シートが数十個あり、誰かが子シートを書き換えてしまうと、履歴を追えない状態でした。これではガバナンスを利かせられません。みなさんどうしているのかと思い、経営企画部門やファイナンス部門で働く人のためのFacebookグループを立ち上げ、聞いてみたところ、大きな企業でも私と同じ悩みを抱えている人がいることがわかりました。その後、国内外の経営管理サービスを利用してみたのですが、どうもしっくりくる製品がありません。それなら自分で作ったほうが早いのではないかと思い、経営管理システムの開発を考えはじめました。 

——以前から起業志向があったのですか?

布川:実は大学時代、学生ながら人材系ベンチャーでフルタイム勤務していたころから、ずっと起業に関心がありました。社会に出てからもその気持ちは変わらず、経営管理システム以外の可能性を探った時期もあったのですが、この課題に気づいた自分がサービスを作らなければ、経営企画で働く人たちの悩みは解消されないだろうと思い一念発起して起業しました。

——「しっくりくるサービスがなかった」とおっしゃっていましたが、新規参入の妨げになる障壁があったのでしょうか?

布川:とくにありません。経営管理システムのアメリカの市場規模は約4,000億円といわれるなか、経済規模がアメリカの1/5といわれる日本の市場規模は800億円ほどの市場があってもおかしくないはずです。しかし、いまだ200億円規模に留まっているのは、参入障壁があるからというよりも、エンジニアリングやマーケティング、セールスに一定の資本を投資しサービスを提供する企業が少なかったからだと考えています。市場を分析すればするほど、正しいところに正しく投資をすれば、必ず成功するという確信が高まったので、その可能性に賭けてみることにしました。

強力な経営陣を集めるための秘策

——ログラスの強みはどこにあると思われますか?

布川:プロダクトの質以外の面で申し上げると役員の陣容でしょうね。共同創業者でCTOの坂本龍太はビズリーチやサイバーエージェントでサービスをゼロから立ち上げてきたエンジニアで、技術力もさることながら仲間をインスパイアすることに長けた人物です。また、COOの竹内將人はセキュリティ関連会社の取締役経験者ですし、プロダクトを見ているCBDOの斉藤知明はスタートアップの共同創業経験の持ち主です。ちなみにfreeeやREADYFORでエンジニアとして活躍していたVPoEの伊藤博志は河西さんの新卒時代の同期なんですよね。

河西:そうなんです。奇遇なことにゴールドマン・サックスで同期でした。

——そんなご縁があったんですね。ところで、どうしてこれほどまで優秀な人材を集められたのでしょうか?

布川:採用にコミットし続けたからだと思います。毎朝欠かさず最低1時間、採用に充てると決めていまも実践しているんです。具体的にはFacebookで転職を考えている人はいないか探してみたり、スカウト媒体で見つけた人にスカウトを自ら送ったり、知人や知人のつてで知り合った人に毎朝メッセージを書いたりしています。もはや毎日歯を磨くのと同じ感覚ですね(笑)。その甲斐あって、経営陣の7割はリファラルで獲得できました。もちろん人材エージェントに頼んでもいいのですが、トップが特別な思いを持って声をかけたほうが印象に残るはずですし、心が動くと思うんです。毎日の積み重ねが、ボードメンバーの布陣につながっていると自負しています。

——そもそもAngel Bridgeとログラスの接点はどんなきっかけで生まれたのですか?

河西:3年前のIndustry Co-Creation®(ICC)サミットにいった際、布川さんがピッチイベントに出られていて名刺交換させていただいたのが最初です。それまでは幅広い業界にサービスを提供するHorizontal SaaSは、もう開拓の余地がないくらいやり尽くされていると思っていたのですが、布川さんの話を聞いてこんなに大きな市場が残されたのかと思って興味を惹かれました。

布川:覚えています。その後、しばらく経ってミーティングをすることになり、河西さんのSNSアカウントを拝見していたら、ご友人のなかにぜひ口説き落としたいと思っていた会社社長の名前を見つけたので、ミーティングの議論の後にぜひ紹介してほしいとお願いしました。

河西:そうでした。採用に対する意気込みからもわかる通り、布川さんの経営に対する真摯な姿勢とコミット力の高さをうかがわせる出来事だったので印象に残っています。弁えるべき部分はしっかりと弁えつつ、必要なことはしっかり投資家にリクエストされる姿勢。しかも熱意が伝わってくる。がぜん興味が湧いたのを覚えています。

布川:その節は失礼しました。(笑)

河西:いえいえ(笑)。ちゃんと調べられた上でのご依頼でしたから、逆にうれしいくらいでしたよ。本格的にお付き合いがはじまったのは、今年の2月ごろでしたね。当社のディレクターの八尾が出席した経営者が集まる会に布川さんもいらしていて、シリーズBに向けた実務的なお話が一気に進みました。

布川:はい。個人的には、検討期間がとても短かったのが印象的でした。たしか1カ月半ぐらいでお返事をいただきましたよね。

河西:お話をいただいてから間を置くことなくお返事できたのは、先ほど申し上げた通り、布川さんの着眼点の素晴らしさやビジネスに賭ける熱意に心打たれていたからです。しかも、シリーズBのリード投資家は世界的に著名なSequoia Heritageさんと既存株主のALL STAR SAAS FUNDさんです。VC間の競争も激しくなりそうだったので、いち早く手を挙げました。

人材がハイレベルなAngel Bridgeの魅力

——Angel Bridgeが他のVCと違うところはどんな点ですか?

布川:人材のレベルが間違いなくトップクラスだと思います。河西さんをはじめ、先ほども話に出た八尾さんはもちろん、ほかの方々も含め、これだけ優秀な方がギュッと集まっているファンドはなかなかありません。しかも経歴にたがわず実務レベルが非常に高い。投資検討段階でお送りいただいたディスカッションペーパーを拝見して強く感じました。分析や議論テーマが非常に洗練されていてムダがなかったんです。

河西:何事においてもそうなのですが、Angel Bridgeは、メンバー全員で何度も検討を重ねた上でアウトプットをお出しするが常なので、そこを感じ取っていただけたのはうれしいですね。

布川:その後も、どうしても調べたい競合他社について調査・分析をお願いしたことがあるのですが、即座に「ぜひやらせてください」とおっしゃっていただけたのも印象的でした。投資家の責任範囲の外にあるので断られても仕方ないと思っていたので、正直言って驚きましたね。アウトプットの質は高く、短期間で戦略策定の参考になる貴重な情報と示唆を提供いただけました。投資先を「必ずグロースさせるぞ」という気迫を感じました。

河西:エンタープライズセールスのベストプラクティスやプロダクト多角化戦略についての調査・分析でしたね。すごくやりがいのあるテーマをいただき「われわれが提供できる価値を感じていただくチャンスだ」と思いお引き受けしました。Angel Bridgeにとっても勉強になったので、逆にいいチャンスをいただけたと思っています。

布川:その節は本当にありがとうございました。

リスクを取ったからこそ掴んだ、組織の「勝ちぐせ」

——創業から5年が経ちました。この間、経営者として一番大変だったことを教えてください。

布川:私には、2歳、1歳、0歳の子どもがいるんですが、2人目の子が生まれたときに、仕事と家庭のバランスに悩んだ時期がありました。自分の家族に加え、社員とその家族、投資家のみなさんも含めたらもの凄い数の人生を背負っているわけです。家庭と仕事のどちらかひとつを選ぶのではなく、両立した上で最大のパフォーマンスを発揮するにはどうしたらいいか、悩んでいた時期はそれなりにしんどかったですね。

——どうやって克服を?

布川:妻やメンバーに無理をいって1週間、家庭からも仕事からも離れる時間をもらって何とか持ち直しました。結局変えられるところから変えていくほかないんですよね。いまは、強力な経営チームを構築することができて自分が抱えていた業務の権限移譲が行えていたり、ベビーシッターを利用したり、妻の両親にも家事や育児を手伝ってもらったりしながら、なんとかやりくりしています。家族や会社のみんなには感謝しかありません。

河西:素晴らしい業績の後ろでそんな大変な時期があったんですね。

布川:はい。実はそんなことがあったんです。

——大変な時期を経て今回の資金調達に至ったのですか?

布川:2023年の10月前後のことです。設定した高い目標に対して売上が追いつかず、社内がどんよりした空気に包まれていたちょうどそのころ、米国の著名な機関投資家であるSequoia Heritageさんから「来期の売上を達成できるのであればぜひ投資したい」とオファーをもらい、社内の空気が一変しました。何としても投資を勝ち取るため、売上を着実に積み上げるための戦略を練り「セコイア決戦」と名付け、全社を挙げて取り組みはじめました。しかしその一方でリスクも感じていたんです。

——どんなリスクですか?

布川:売上施策を徹底した際の副作用として考えたのは、カルチャーの希薄化、オペレーションの混乱といった組織崩壊が起こるリスクです。しかし千載一遇のチャンスを逃すわけにはいきません。経営陣と膝を詰めて議論し、もし万全の体制で臨んでダメなら、またゼロから積み上げればいいという結論に達し、あえてリスクを取ることにしました。

河西:それが功を奏して今回の出資につながったわけですね。

布川:そうです。もちろんリカバリープランを考えた上での取り組みでしたが、結果的に事業戦略と関係者の努力が噛み合っていい成果を残すことができました。この決戦を無事乗り切ったことで、会社全体に「勝ちぐせ」がついたように思います。

河西:リスクを取った結果、世界的な投資家を頷かせ、しかも組織の成長も手にしたわけですからね。

布川:そうなんです。以前読んだ、データクラウドのSnowflakeを経営したフランク・スルートマンが書いた「AMP IT UP~最高を超える~」という本にも、基準を上げに上げて組織が壊れそうになったとしても、最後になんとかるというようなことが書かれていたのを思い出し、励みにしました。

日本のGDPにインパクトを与える存在になりたい

——経営者として大事にしているポリシーを教えてください。

布川:子どものころ恩師や親友の死が重なった時期があって、人生は長いようで短いと感じるようになりました。経営哲学というとおこがましいかもしれませんが、その短くて貴重な人生を共に過ごしてくれた社員が、のちに自分の人生を振り返ったときに、ログラスで働いた時間が無駄ではなかったと思ってもらえるような経営を行っていきたいと思っています。まだまだ、経営者として至らない面がありますが、できる限りみなさんと誠心誠意向き合うことをポリシーとしています。

——布川さんはログラスを通じて、どんな社会を実現したいですか?

布川:ログラスは「良い景気を作ろう。」というミッションを掲げ、日々のビジネスに取り組んでいます。多くのみなさんが成長の実感を持って、明るい未来を描けるような社会作りに貢献したいと思っています。具体的にいうと、日本のGDPを押し上げている上位10社にログラスが入っているような状況にしたいですね。

河西:Angel Bridgeも、GDPにインパクトを与えるようなメガベンチャーの創出を目指しているので、とても共感を覚えます。

布川:ありがとうございます。世の中に素晴らしい価値を提供できるような会社であり続けたいと思っています。

——これからAngel Bridgeに期待することは?

布川:河西さん、担当の八尾さんや山口さん、ほかのメンバーのみなさんからは戦略面のサポートに加え事業執行レイヤーの強化、またパートナーの林さんには営業の面で手厚いサポートをいただいているので、今後も引き続きご支援をお願いできたらうれしく思います。

河西:日本経済の再興はスタートアップの成否にかかっています。布川さんがおっしゃったように、ログラスには日本のGDPにインパクトを与えるくらいのスケールになってほしいと願っています。そのための支援なら我々は力を惜しみません。

——最後にスタートアップに興味がある読者にメッセージをお願いします。

布川:スタートアップは数少ない成長分野のひとつです。安定した大企業に飽き足らないのであれば、ぜひThink Bigなスタートアップに挑戦して人生をよりよい方向に変えてほしいですね。もしそれがログラスであればこれに勝る喜びはありません。

2024.08.08 INVESTMENT

2024年8月にペイトナー株式会社(以下ペイトナー社)が、シリーズCラウンドにおいて累計12億円の資金調達を発表しました。Angel Bridgeも本ラウンドにおいて出資しています。
ペイトナー社は、フリーランスや個人事業主向けのオンライン2者間ファクタリングサービス、ならびに請求書処理SaaSを提供するスタートアップです。
今回の記事では、Angel Bridgeがペイトナー社に出資した背景について、特にファクタリング業界を取り巻く環境と、ペイトナー社の強みに焦点を当てて解説します。

  1. ファクタリング業界の動向と課題
  2. ペイトナー社の事業概要と強み
  3. 経営陣
  4. おわりに

1.ファクタリング業界の動向と課題

ファクタリングとは、保有する売掛債権をファクタリング事業者に売却し、現金を調達する資金調達方法です。特に資金繰りに課題を抱える中小企業、フリーランス、個人事業主などによく利用されています。通常、入金まで一か月~数か月かかる売掛債権をすぐに現金化できることが特徴になっています。
フリーランス、個人事業主の資金調達方法としては、ファクタリング以外にも消費者金融からの融資と銀行からの無担保フリーローンがありますが、ファクタリングはそれらの方法に対して以下の3つのメリットがあります。

  • 利用金額に総量規制が適用されない
    消費者金融や無担保フリーローンは規制上年収の1/3までしか借入出来ませんが、ファクタリングにはその制限がありません。最大で売掛債権の範囲内での資金調達が可能となっています。
  • ノンリコース型
    ファクタリングの場合、売掛債権が回収不能になった際には利用者はファクタリング事業者に利用金額を支払う義務がありません。
  • 期間に応じて手数料が増えない
    借入の場合は、借入期間に応じて金利の負担額が上昇しますが、ファクタリングの手数料は契約時から変化しません

       

      図1 個人の資金調達方法

      以上の観点からファクタリングは独自価値の高い資金調達手法となっています。
      続いて、より詳しくファクタリングの仕組みについて解説していきます。
      ファクタリングは大きく分けると、「3者間ファクタリング」と「2者間ファクタリング」の2種類があります。

      3者間ファクタリングは、利用者、ファクタリング事業者、取引先企業の3者で契約を結ぶ方法です。取引先の企業も巻き込むため契約に時間がかかる傾向にありますが、売掛金の支払いが取引先の企業から行われ、ファクタリング事業者としては回収の手間や未回収のリスクが減るため、手数料が比較的安めになるケースが一般的です。一方で、利用にあたり取引先企業の調査も必要になり、時間がかかったり、資金繰りが必要なことを取引先に知られてしまうといったデメリットも存在します。

      次に2者間ファクタリングですが、こちらは利用者とファクタリング事業者の2者間で契約を結ぶ方法です。取引先の企業を介さないため、最短即日での入金が可能なケースもあり、早急に資金が必要な場合に適しています。また、取引先の企業に通知がされないため、資金繰りに不安があるなどの懸念を与えなくて済むことがメリットです。しかし、回収リスクが高まる観点から回収リスク分を手数料に含める場合が多いことには注意が必要です。

      図2 3者間ファクタリングと2者間ファクタリングの取引構造(ペイトナー社HPより引用)

      さて、このようなファクタリング市場ですが、今後も大きな成長が見込まれます。主な要因はフリーランス人口の増加です。昨今働き方が多様化する中で、2020年に1,062万人だったフリーランス人口は2022年に1,577万人と2年で1.5倍弱、労働人口全体に占めるフリーランスの割合も22%に上るなど、顕著な増加がみられます。
      フリーランスの平均年収の約7割が年収400万円ほど、さらにアンケートで資金繰りに困った経験があると回答した割合が2割に上ることに鑑みると、柔軟に資金調達が可能なファクタリングサービスに対するニーズは堅調に成長していくことを見て取ることができます。これを踏まえて、Angel Bridgeではファクタリング市場規模はおよそ3,275億円に上ると試算しています。特に建設業や運輸業などは業界構造上、コストを先払いする文化が多く、資金繰りのニーズが高い業界で、ファクタリングに対する需要も大きく存在する業界になっています。

       

      図3 フリーランス・個人事業主向けの業界別ファクタリングの市場規模

      図4 フリーランスの資金調達ニーズ

      また、法規制や原材料高騰による物価高の観点からも追い風が吹いています。
      法規制に関しては、1998年債権譲渡特例法の緩和による2者間ファクタリングの解禁、2020年債権譲渡禁止特約の改正により、債権譲渡禁止特約付きの債権の譲渡も可能になるなど、年々緩和傾向です。加えて、原材料も高騰しており、過去10年で資材価格が5%上昇しています。建設業界や運輸業界など、慣習上立替え金額が多い業界は資金繰りが厳しい状況に陥りやすく、ますます資金調達ニーズが高まる可能性があります。

      図5 ファクタリング業界の動き

      こういった市場環境の変化を受け、ファクタリングを活用した資金調達へのニーズが今後も高まっていくことが予想されます。

      2.ペイトナー社の事業概要と強み

      続いて、ペイトナー社の事業について説明します。

      ペイトナー社は大きく成長が見込まれるファクタリング市場において、フリーランスや個人事業主向けのオンライン2者間ファクタリングサービスを提供しています。特に、もともと対面で行われていた2者間ファクタリングサービスをオンライン化しており、審査の手軽さと現金化までの素早さを実現しています。ペイトナー社では、AIを用いた独自の与信アルゴリズムや審査オペレーションの高度化を強みの源泉として、以下の価値を提供しています。

      1. 最短10分で現金化
      2. 提出書類が少なく、審査が簡単
      3. オンラインで取引が完結し、どこからでも手軽に手続き可能
      4. 手数料が一律10%で分かりやすい料金体系

       

      図6 プロダクトの特徴

      図7 ペイトナー社の競合優位性

      また、従来のファクタリングに比べて、審査が手軽であり、実態の審査時間や利用開始時間も競合他社の1/3と早いことから、利用者にとっても利便性が高く、高いリピート率と満足度を誇っています。また、利用実績が増えることによって信頼性が向上し、認知度も高まるため、より利用者が安心して使用できるという観点でも好循環を生み出せるビジネスモデルとなっています。加えて、マーケティングにおけるエキスパートも数多く在籍しており、業界に適したマーケティングによって、ユーザー数を拡大できており、創業以来、累計取扱件数も右肩上がりに成長し続けております。

      図8 ペイトナーファクタリングの取扱い件数の推移

      さらに、ペイトナー社はこの革新的な手軽さでありながら、未払い率も大手の消費者金融と近い水準に抑えられていることも大きな特徴の一つです。
      この手軽さによってプロダクト利用の障壁を低減し、大量の審査データを解析可能にする。それによって審査の精度がさらに高度化し、未払い率が下がっていく、という好循環を回していくことができます。結果として、ユニットエコノミクスも良好な水準を実現できており、投下する運転資本に対して利回りのよい金融事業のモデルとなっています。

      このように消費者獲得、及び収益性の観点から規模が拡大すればするほどより強固になっていくビジネスモデルを構築でき、成長に拍車がかかる状況を実現できております。

      3.経営陣

      ペイトナー社の経営チームは、全体として高いレベルでの経営や事業の執行ができており、少数精鋭のチームで高い成果を実現しています。

      阪井CEOは大阪教育大学卒業後、新卒でNTTドコモの法人事業部に入社。その後、コイニー(現STORES)でクレジットカードの決済サービス事業のBizDev.として個人事業主や中小規模の顧客を対象に事業を開発するなど、個人事業主、中小規模の顧客を解像度高く理解されています。また、高いビジョンを掲げて、組織を推進していける力も併せ持っています。
      また、野呂COOは 高い論理的思考力や問題解決力を持っており、実現可能性を踏まえて戦略を活動計画へ落とし込む緻密さとそれを実行しきる推進力を持ち合わせています。三浦CTOも、エンジニアとしての経験も豊富なことに加えて、事業開発の経験も持ち合わせるなど事業への理解も高く、希少性の高い人材です。

      現経営陣の三名がそれぞれの強みを持って補完しあい、全体として高いレベルでの経営が実現できており、ペイトナー社の強みの源泉の一つとなっています。

      図9 ペイトナー社の経営チーム

      4.おわりに

      ファクタリング業界は、現金化までの時間や利便性を武器に世界的にも利用者数が増えている領域で、フリーランス、個人事業主向けだけでも3,000億円の潜在市場規模を持つ成長市場です。一方で、いまだ審査に時間がかかる、必要な書類が多くて面倒など、手軽かつ早急に資金を手に入れたいニーズに十分対応ができておらず、ペイトナー社はこうした課題を的確に捉え、顧客から強い支持を得るプロダクトの開発に成功しました。
      また、優れた与信モデルによって未払率を上手くコントロールすることで、良好な水準でのユニットエコノミクスを実現できており、投下資本に対して利回りのよい事業モデルを構築できています。さらに優れたマーケティング人材を擁し、業界に応じた適切なマーケティングを実施することで、高い認知度を実現できており、これまでの利用実績データやAIを活用した与信モデルを活用することで素早い審査を実現し、利用者に対して高い利便性も提供できています。
      結果として、創業6年で累計20万件のファクタリングを取扱い、創業以来右肩上がりの成長を実現できており、リピート率も高く、顧客満足度も高いサービスを実現しています。

      資金繰りは事業や生活に関わる根幹であり、ペイトナー社は金融の観点からフリーランス、個人事業主の方々の日々の悩みを解決しています。そういったニーズの強さを的確にとらえ、ペイトナー社は創業以来、右肩上がりの成長をし続けてきました。今後もより一段と事業を拡大し、大きな成長を遂げていけると弊社も期待しております。

      Angel Bridgeは社会への大きなインパクトを創出すべく、難解な課題に果敢に挑戦していくベンチャーを応援しています。ぜひ、事業戦略の壁打ちや資金調達のご相談など、お気軽にご連絡ください!

       

      2024.08.02 INTERVIEW

       

      中堅・中小企業にフォーカスした契約書レビューサービス

      ——リセの事業について聞かせてください。どのような課題を解決する会社ですか?

      藤田:リセを起業するまで、私は弁護士として数々の企業間紛争の解決に従事していました。この経験を踏まえ、立ち上げたサービスが、弁護士の知見とAI技術を掛け合わせた契約書レビューサービスの「LeCHECK(リチェック)」です。LeCHECKが想定する主なユーザーは、弁護士に契約書のレビューを依頼するのが費用の問題から難しい一方、不利な契約が会社に与えるダメージが大きくなりがちな中堅・中小の法務部門のみなさんです。AIの力で中堅・中小企業を不利な契約から守り、正当な企業活動を法的に支えるのが、われわれのミッションです。

      ——法律や契約に関するサービスは参入障壁が高そうに感じます。実際のところはいかがでしょうか?

      藤田:リーガルテック領域にはさまざまなサービスが存在しますが、そのなかでも契約書の内容を精査し、注意すべきポイントを喚起するレビューサービスは、比較的参入障壁が高いサービスといえます。なぜなら、経験豊富な弁護士に依頼するのと同等の品質でレビューがされる必要があるからです。また、LeCHECKは中堅・中小向けに特化したサービスなので、専門の法務組織を持っていることも多い大企業向けのサービス以上のホスピタリティを提供することを意識しています。弁護士クオリティの信頼性に加え、法務知識が不足していても使いこなせるユーザビリティの両面が求められるのも、参入障壁を高くしている要因のひとつといえます。

      ——中堅・中小企業向けサービスならではの難しさはありますか?

      藤田:中堅・中小企業の法務担当者の多くは、他の業務と兼任しているケースが多く、必ずしも契約や法務について詳しい方ばかりではありません。こうした現実を踏まえると、単に確認すべき項目を明示するだけでは機能としては不十分です。指摘すべき項目を網羅するのはもちろん、付帯する関連項目に関しても漏れなく分析を行い、具体的に何をどうすべきかを明示してこそ、中堅・中小企業を支えるサービスだと胸を張れるわけですが、実は言葉で表すより、実現するのはかなり難しいことなんです。

      ——どのような点が難しいのでしょう?

      藤田:LeCHECKはAIを使っていると申し上げましたが、コメント生成にはAIを使わず、指摘すべき問題箇所の抽出と弁護士によるコメントをつき合わせるのに活用しています。注意すべき項目を見つけ、的確なコメントを表示するだけでも大変なのですが、ひとつの項目から分岐を重ね、留意すべき項目を洗い出すだけでなくさらなる分析を行うため、的確なコメントを表示するだけでも計算量は膨大な数に上ります。最初は指摘箇所とコメントのマッチング精度にかなり苦戦を強いられました。仮に8割の精度が出せたとしても、2割外せば契約書レビューの役割を果たしているとはいえません。その点が非常に難しかったですね。

      ——どうやって精度を高めていったのですか?

      藤田:精度を出すには、膨大な数の契約書に基づき学習させつつ、ひたすらチューニングを重ねる以外に方法はありません。満足いくレベルに達するまでには、かなりの時間を要しましたが、その苦労を乗り越えたからこそ、競争優位性を確立できたのも事実です。現在、多くのお客様に喜んでいただけているのは、地道なチューニングの賜物だと考えています。

      プロダクトにフィットした経歴と明確なビジョンに惹かれ投資を決断

      ——Angel Bridgeとの出会いはどのような形ではじまったのでしょうか?

      藤田:2021年の秋だったと思います。Facebook Messengerでご連絡をいただいたのが最初でした。

      河西:そうでしたね。最初、当社のディレクターである八尾からご連絡を差し上げたのですが、ちょうどシリーズAの調達を終えられた直後で、資金需要は当面ないというお話でしたが、それ以来、定期的な意見交換をするようになりました。

      藤田:本格的なお付き合いがはじまったのは、2023年の年明けからですね。その年の夏を目処にシリーズBの資金調達を実施することになり、改めてこちらからご連絡を差し上げてから、頻繁にやりとりするようになりました。

      ——シリーズBに向けて不安だったことは?

      藤田:当時はスタートアップの資金調達市場が芳しくなく、どのような評価を受けるか少し不安はありました。ただ、業績自体は好調でしたし、サービスの品質にも手応えを感じていたので「ここで存在感を示さなければ」という思いに迷いはありませんでした。

      ——藤田さんのお話を聞いていかがでしたか?

      河西:最初にご連絡を差し上げた当時から、リーガルテックは残された数少ない有望なHorizontal SaaS領域だと思っていたので、お声がけしました。そのなかでもとくにリセに着目したのは、18年にわたる弁護士としての勤務経験をお持ちの藤田さんのご経歴に加え、契約書レビューサービスのなかでも中堅・中小企業に特化したサービスという立ち位置に興味を持ったからです。藤田さんは、激務で知られるトップファームでパートナーを務めていたほどの方。しかも4人のお子さんを育てる母親としての顔もお持ちです。そんな方が敢えてスタートアップを創業されたのであれば、魂を込めてプロダクトを開発しているはずですし、必ずや成功されると確信しました。

      ——即断即決だったのですか?

      河西:たまたま、競合となる契約書レビューサービスが大型調達を実施した直後だったので、投資の意思決定において二の足を踏むようなタイミングでもありました。しかし、詳しく見ていくと、顧客ターゲットも異なりますし、サービス設計が非常に的確かつ目指すべき目標についても明確なビジョンを描いていらしたので、投資すること自体に不安や迷いはありませんでした。プロダクト開発の指揮を執っている藤田さんご自身のポテンシャルもさることながら、日本有数の弁護士の方々とも協力関係を築かれており、お金では買えない無形の資産をお持ちです。確信に加えて期待が高まりました。

      藤田:そういっていただけて光栄です。お声がけしてから2カ月足らずでご判断いただけるとは思っていませんでしたから、そのスピード感に驚くと同時に期待の高さを感じずにはいられませんでした。

      経験豊富な弁護士がスタートアップ起業家に転身した理由

      ——改めてお伺いします。そもそもなぜ弁護士からスタートアップ起業家に転身しようと思われたのですか?

      藤田:パートナー時代に、海外のリーガルテック企業から営業を受け、テクノロジーで法曹の世界が変わると確信したのが一番のきっかけでした。せっかく時代が変わるタイミングに立ち会えるなら、変える側に立ちたいと思ったんです。弁護士時代から、中堅・中小企業が置かれている状況をなんとかしたいという思いもありましたから、何としてもこのチャンスをものにしたいと思いました。

      ——飛び込んでみていかがでしたか?

      藤田:テクノロジーについて詳しいわけでもありませんし、起業や経営経験もありませんから、「なぜそんなリスクを冒す必要があるのか」と、心配してくださる方は少なくありませんでした。その一方で、テック領域に詳しい方々や、スタートアップ界隈のみなさんからは「やるならいましかない」といってくださる方が多かったのも確かです。理解者や協力者のみなさんに支えていただきながら、なんとかここまで辿り着けました。

      河西:私もVCというスタートアップを経営しているのでよくわかります。まずやってみなければ状況を変えられませんからね。

      藤田:そうですね。朝令暮改を恐れず、状況に応じて常に見直しを図る気持ちがなければスタートアップの経営はできません。数々の失敗を繰り返してようやくその境地に達することができたように思います。

      事業戦略への的確な助言と公私にわたる交流が支えに

      ——その後、Angel Bridgeからはどのような支援を受けていますか?

      藤田:主に事業戦略について相談に乗っていただく機会が多いですね。自社の状況とビジネスを取り巻く環境を踏まえ、いまアクセルを踏むべきか、それともいったんブレーキを踏むべきか判断するにあたっては、できるだけご意見を頂戴するようにしています。Angel Bridgeさんには河西さんを筆頭にプロフェッショナルファーム出身の方々が揃っており、当然のことながらスタートアップ投資経験も豊富です。しかもご相談しやすいよう気遣ってもいただけるので、その点でとても助かっています。

      ——Angel Bridgeの特徴を感じることはありますか?

      藤田:Angel Bridgeさんは、より身近な存在ですね。おそらく、投資先を集めた勉強会やバーベキューなどのイベントなどを通じて、交流の場を設けていただけているからでしょうね。Angel Bridgeのみなさんや、投資先の起業家の方々と親しくさせていただきながら、ときに楽しく、ときに膝を詰めて話せる機会をいただけるのは、ひと味違う点だと思います。

      河西:こうした機会を設けることによって、起業家コミュニティが生まれ、先輩起業家からのアドバイスが得られたり、相互扶助の雰囲気が生まれたりするのではないかと思ってはじめた取り組みなので、そういっていただけるのは嬉しいですね。企画しがいがあります。

       ——藤田さんはこれから、社会にどのような価値を届けたいと思われますか?

      藤田:企業活動において契約書は非常に重要な役割を担っています。契約書レビューサービスを通じて、中堅・中小企業が争いに巻き込まれたり、本来主張できたはずの権利を失ったりするような不幸をなくしたいですね。こうした社会に一日も早くなるようこれからも貢献するつもりです。

      ——これからAngel Bridgeに期待することがあれば教えてください。

      藤田:すでに十分過ぎるほどのご支援をいただいているので、これ以上望むことはありません。これからも、多角的な視点で物事を判断したいときに、いつでも気軽に相談できるような存在でいていただけたら嬉しく思います。

      河西:われわれとしても、いつでも困ったとき最初にご相談いただけるような身近な伴走者でありたいと思っています。いつでもお声がけください。

      藤田:心強いお言葉、ありがとうございます。日頃から身近に接している方でなければできない相談もあるので、それを引き受けてくださっているAngel Bridgeさんはかけがえのない存在です。これからも引き続きよろしくお願いいたします。

      ——最後にスタートアップ経営や起業に関心をお持ちの読者にアドバイスをいただけますか?

      藤田:これまで、ブランドもなければ実績もない状態からビジネスを立ち上げる難しさを何度感じたかわかりません。それでも諦めずに続けることで、少しずつサービスがよくなり、率先して仕事を拾ってくれる社員にも恵まれ、サービスを使ってくださるお客様も増えていきました。すべてが整った世界に留まったままだったら、そうした経験はできなかったでしょう。そう思うと思い切って挑戦してよかったと思いますね。「やり直しはいつだってできる」。そう思えば、きっと壁は乗り越えられるはずです。もし心の底から解決したい社会課題があるなら、その気持ちが熱いうちにぜひ挑戦してほしいですね。

      河西:藤田さんのような優秀な方が、スタートアップの世界に入ることが増えれば、きっと日本経済も好転するはずです。不退転の覚悟で挑戦される起業家を支援するのがわれわれの仕事。ぜひリスクを恐れずチャレンジしていただきたいですね。われわれはそんなみなさんを全力で支えるつもりです。藤田さん、本日はお話を聞かせていただきありがとうございました。これからもよろしくお願いいたします。

      藤田:こちらこそよろしくお願いいたします。

       

      2024.08.01 INVESTMENT

      2024年7月に株式会社ログラス(以下ログラス社)が、シリーズBラウンドにおいて累計約70億円の資金調達を発表しました。Angel Bridgeも本ラウンドにおいて出資しています。

      ログラス社は、経営企画向けのクラウドシステム『Loglass 経営管理』の開発・提供を行うスタートアップです。従来のExcelベースの経営管理は、作業の属人化や人為的なミスの温床となるだけでなく、経営の意思決定を複雑にしていました。ログラス社は、このペインにアプローチするため、データの集計作業を自動化した、誰もが直感的に操作できる経営管理ソリューションを提供しています。

      この記事では、Angel Bridgeがログラス社に出資した背景について、経営管理ソリューションを取り巻く環境と、ログラス社の強みに焦点を当てて解説します。

      1. 経営管理ツールの市場構造
      2. ログラス社のプロダクトと高い成長性
      3. 経営陣
      4. おわりに

      1.経営管理ソリューションの市場構造

      まず、経営管理ソリューション市場の全体像を説明します。

      企業の経営管理とは、経営目標を達成するために戦略・計画を策定し、その遂行のために社内リソースの管理・調整や設定した経営指標に対する実績のモニタリングを行うことを意味します。従来は経営管理のために活用するツールと言えばExcelでしたが、データの統合コスト・ファイル保守コストの大きさや、タイムリーな経営判断を行いづらいといった課題が存在し、経営企画担当/経営層の双方にとって課題が存在する領域でした。

      図1.従来の経営管理のペインとログラス社のアプローチ

      そんな市場の中で、データの統合や即時性の高い共有を可能にするソリューションが複数登場しており、導入が進んでいます。経営管理の業務はどの会社でも存在する業務ですが、企業規模によって管理するべきデータの量や複雑性が異なることもあり、市場は業界トップ企業、エンタープライズ〜ミドル、個人事業主や中小企業(SMB)で概ね棲み分けられています。具体的には、業界トップ企業向けのツールは、細分化されたデータ管理や高度な分析機能、各部門の特定のニーズ(管理体系や、勘定科目/明細ベースといったデータの粒度)に対応できるカスタマイズ性など、豊富な機能性に加えて、データ量への高耐久性などが求められます。SMB向けのツールは、高い操作性と導入の簡単さを実現するために、機能を絞って作られていることが多いです。

      図2.経営管理ソリューション市場における棲み分け

      ログラス社は、上記の分類の中で、主にエンタープライズ〜ミドル企業をメインターゲットにし、必要十分な機能を、操作性の高いUIで提供することで、独自のポジショニングを築いています。

      ログラス社がメインターゲットにしているエンタープライズ〜ミドル企業だけでも4.6万社、市場規模にして数千億/年が存在し、Horizontal SaaSである経営管理ソリューションには巨大な市場があることがわかります。

      2.ログラス社のプロダクトと高い成長性

      ここからは、ログラス社が提供するクラウドシステム『Loglass 経営管理』と、その高い成長性について詳しく説明していきます。

      『Loglass 経営管理』は、従来のExcelベースの経営管理で生じていた、手作業での集計によるミスや、管理作業の属人化、といったペインにアプローチしたプロダクトです。あらゆる集計作業を自動化する事でデータ収集時間を最大85%削減するだけでなく、システム上でのバージョン管理や、細かな閲覧権限の設定など、充実した機能を提供しています。

      図3.『Loglass 経営管理』の基本機能と特徴

      また、収集したデータの加工・分析機能にも優れており、多段階・複雑な配賦ルールへの対応や、複数の分析軸に基づいた予実確認など、「かゆいところに手の届く」システムを実現しています。更には、財務情報やKPIなどの経営の意思決定に必要なデータをダッシュボード上で可視化して管理することも可能であり、まさに、「経営管理に寄り添ったプロダクト」です。

      Angel Bridgeにおける投資検討の際には、『Loglass』を導入した複数企業へのインタビューも行いました。Excelやスプレッドシートから『Loglass』に乗り換えることで、大幅な工数の削減・属人化の解消・経営意思決定の精度向上などの効果が出ている様子を定性的に伺うことができました。また定量的にもチャーンレート・NRR・GRRなどの各種指標が非常に優秀な値であり、定性/定量の両面から顧客の満足度の高さを確認することができました。

      図4.ユーザー導入事例

      このような提供価値の高いプロダクトに加え、元経営企画やコンサル出身のメンバーが多く、顧客の課題解決能力に優れた質の高いカスタマーサクセスなど含めたCXの高さも評価され、結果としてMRRが急速に成長しています。

      更に、先述したログラス社のメインターゲットであるエンタープライズ~ミドル企業のみならず、KDDIグループ様、アサヒグループ様、関西電力様などの日本を代表するような業界トップ企業への導入事例も増えていること、2024年の2月にローンチした新規プロダクト『Loglass 人員計画』や『Loglass サクセスパートナー』においても順調にリードが獲得できていることからも、今後のログラス社の成長に対して大きな可能性を感じております。

      3. 経営陣

      Angel Bridgeがログラス社に投資するにあたり、経営チームへの理解も深めました。

      図5.ログラス社経営チーム

      代表取締役CEOの布川さんは、慶應義塾大学経済学部を卒業し、SMBC日興証券に入社。PE、総合商社によるM&Aや投資先IPOアドバイザリー業務を担当した後、GameWith経営戦略室にて、IR・投資・経営管理などを担当されていました。事業会社の経営企画での経験から、課題を深く理解し、その解決に情熱を持たれています。複数のリファレンスインタビューからも非常に高いやり抜く力をお持ちであることに加え、組織マネジメント力の高さもお伺いすることができました。

      CTOの坂本さんは、中央大学商学部を卒業し、新卒一期生としてビズリーチに入社されました。同社が急成長する中で責任者として新規SaaS事業の開発に携われるなど新規事業を中心に経験されました。その後サイバーエージェントでもエンジニアをされた後、2019年に布川さんとログラス社を共同創業されました。経営管理ドメインの特殊性を理解し、技術的負債を負わずにプロダクトの品質を最初から高く保つなど、新規事業に携わった経験を大いに活用されています。

      また、ココン(現GMOサイバーセキュリティ byイエラエ株式会社)のグループCOOとして、約10社のM&AとPMIを主導された経験豊富な竹内COOや、SMBC日興証券の元トップバンカーである伊藤CFO、複数社の創業経験がある斉藤CBDOなど、優れた経営陣が揃っています。

      4.おわりに

      最後に、Angel Bridgeの今回の投資のポイントをまとめます。

      1つ目は、巨大な市場があることです。経営管理ソリューションはHorizontal SaaSであり、巨大な市場が狙えます。その中でも、ログラス社はエンタープライズ〜ミドル企業をコアターゲットにしており、コアターゲットだけでも数千億円/年の市場が存在します。また足元でも業界超トップ企業へのプロダクト導入や、新規プロダクトのリード獲得が順調であり、今後さらに市場を広げていくことが見込めます。

      2つ目は、優れた経営管理プロダクトがPMF(プロダクトマーケットフィット)していることです。ログラス社の提供する経営管理プロダクト『Loglass』のトラクションは順調に伸びており、サービス提供開始から4年足らずにも関わらず、CARR、導入企業数、チャーンレートを始めとした各種指標が良好な数字を示しています。ログラス社では「お客様の業務理解をもとにプロダクトを設計する」ことを徹底されており、「経営管理に寄り添った」プロダクトを作り続けていることが数字によって証明されていることがわかります。

      3つ目は、直接の競合がいない独自のポジショニングを確立している点です。ログラス社が対象とする経営管理ソリューションの市場は、一見すると多数のプレイヤーが存在しています。しかし、エンタープライズ〜ミドル企業に対して必要十分な機能を使いやすいUI/UXで提供するポジショニングは十分に差別化されています。また一度導入されるとスイッチングが難しく、先行優位が働くプロダクトである点においても競合優位性が高いと認識しています。

      最後に優秀な経営チームです。代表の布川さんは、経営管理業務への深い知見をお持ちで、CEOとしてのビジョンを体現する力、問題解決能力、やり抜く力に優れた人物です。さらに、0から1を生み出す仕事に長けた坂本CTOや、他社でもCOO経験のある竹内COO、SMBC日興証券の元トップバンカーである伊藤CFOなどの採用にも成功しており、強い経営チームを構築しています。

       

      以上の観点から、ログラス社が、経営企画向けの経営管理SaaSを中心に「テクノロジーで経営をアップデート」するだけでなく、日本企業、ひいては日本経済全体の成長を支えることで、良い景気を作り出し、ログラス社がメガベンチャーとなる可能性が非常に高いと考え、投資の意思決定をしました。

      Angel Bridgeは、社会への大きなインパクトを創出すべく、難解な課題に果敢に挑戦していくベンチャーを応援しています。ぜひ、事業戦略の壁打ちや資金調達のご相談など、お気軽にご連絡ください!

      2024.07.09 ACADEMY

      今回はスタートアップ企業が活用できる補助金・融資について説明していきます。

      スタートアップ支援に対する国の動向

      2022年11月に、岸田内閣は日本のスタートアップエコシステムを強化する「スタートアップ育成5か年計画」を掲げました。スタートアップ育成5か年計画では、2027年までの5年間でスタートアップへの投資額を10兆円規模に拡大し、ユニコーンを100社、スタートアップを10万社創出することを目指しています。この目標は岸田内閣の「新しい資本主義」政策の中で、日本経済を牽引していくことを目的として作成されました。

      現在のスタートアップの調達手段の中心はエクイティ(株式)です。しかし、他にも手段としては、補助金やデット(融資)なども存在します。国を挙げてスタートアップを創出・成長させようとするマクロ環境が追い風となって、ここ数年ではスタートアップが活用できる補助金や融資の制度が増えつつあります。それぞれ詳しく見ていきましょう。

      補助金・融資の違い

      企業が受けられる金銭的支援として、主に補助金や融資などがあり、それぞれに違いがあるため注意が必要です。

      まず補助金についてです。経産省や国立の機構などが主体となり、事業の成長が期待できる企業にお金を支給します。返済義務はありませんが、その分一定の基準を満たしたうえで採択される必要があり、倍率が高いものも数多く存在します。

      次に融資についてですが、こちらは銀行や日本政策金融公庫等の金融機関が提供しているものに加え、各都道府県・自治体が金融機関と連携してお金を貸し付けているものも存在します。返済義務はありますが、条件によっては保証人がいらなかったり、無利子・低利子で借りられたりする制度もあります。また、最近ではエクイティとデット(融資)の両方の性格を持つ「ベンチャーデット(新株予約権付融資)」の利用も広まっています。

      今回はスタートアップ向けの補助金と融資に絞り、スタートアップが活用できる制度の中でも代表的なものをご紹介します。


      表1 スタートアップの調達手段比較

      補助金

      まず一例として挙げられるのが、NEDOによる「ディープテック・スタートアップ支援基金(DTSU)」です。

      ディープテック企業は一般に技術の確立や事業化・社会実装までに長期の研究開発と大規模な資金を必要とするため、事業化に向けたリスクが高く、従来は積極的な投資対象となっていませんでした。しかし、これらのディープテック企業は国や世界全体で対処すべき経済社会課題解決のポテンシャルが大いにあり、可能性を秘めた革新的なビジネスであるため、徐々に政府が重点的な支援を行うようになったという背景があります。本基金は1,000億円と大規模で、最大6年間で30億円の大型支援が可能な制度であり、自身の会社のフェーズによって、3つの異なる部門のうちの一つに応募することが可能です。

      図1 NEDO公式HPよりディープテック・スタートアップ支援基金の説明

      また、技術を活かした別の補助金の例として、経産省による「SBIRフェーズ3基金」も挙げられます。こちらは宇宙(宇宙輸送等)、核融合、防災の3つの分野のうちいずれかに取り組んでいるスタートアップが対象で、分野によって受け取れる補助額も変わってきます。

      また一般的に想像されるような専門度の高い技術に取り組んでいなくとも、生産性の向上や新製品・サービスの開発のための設備投資等に取り組みたい企業に対し、中小企業庁は「ものづくり補助金」も提供しています。こちらは本来は中小企業が対象ですが、3つ申請枠があるうちの「製品・サービス高付加価値化枠」はスタートアップとの相性が良く、過去にもスタートアップの採択事例もあります。

      他にもNEDOが主体となって提供している補助金である「官民による若手研究者発掘支援事業」や「グリーンイノベーション基金事業」、科学技術振興機構が主体である「ディープテック・スタートアップ国際展開プログラム(D-Global)」など、多くの補助金の制度があります。

      政府や自治体による補助金のスタートアップ支援の対象は主にロボティクス、バイオ、ヘルスケアといった深い技術力が必要な研究開発型ベンチャーが多いように見えます。しかし、このような研究開発型のベンチャーだけでなく、AIを活用したIT系のスタートアップであっても独自のAI技術の強みの観点などから補助金の対象になる可能性もあります。特に経産省のスタートアップ支援策の検索ページは大いに活用できるものなので、ぜひ応募できるものがないか積極的に確認してみてください!

      融資

      次に、最近多くの注目を集めているデット(融資)ファイナンスの事例に入っていきます。デットファイナンスは、金利上昇や日本のIPO環境の悪化など、エクイティファイナンスの冷え込みと共に、スタートアップの間でも注目されるようになりました。スタートアップが活用することにより、株式の希薄化がないなどのメリットもあります。

      融資は政府系金融機関のみならず、民間の銀行や自治体なども提供しています。

      <公的機関による融資>

      まずは政府系金融機関による融資をご紹介します。

      最初に例として挙げられるのは、日本政策金融公庫による「新創業融資制度」です。2024年4月から、新たに事業を始める人または事業開始後税務申告を2期終えていない人が無担保・無保証人で利用する場合、融資限度額が3,000万円から2倍超の7,200万円まで引き上げられました。女性や若者、シニア、廃業歴などがあり創業に再チャレンジする人、中小会計を適用する人は、通常よりも有利な条件で制度を活用することができます。

      また、同じく日本政策金融公庫による「スタートアップ支援資金」では、日本の経済成長及び社会課題の解決を先導することが見込まれるスタートアップの成長を支援しています。

      表2 日本公庫のスタートアップ向け融資制度(新旧制度の比較)

      さらに東京都など、都道府県レベルでの自治体の機関がスタートアップ向けの融資を提供している場合もあります。例えば東京都創業ネットは、「女性・若者・シニア創業サポート2.0」に取り組んでおり、都内での女性・若者・シニアによる地域に根ざした創業を支援しています。この制度では、信用金庫・信用組合を通じた低金利・無担保の融資が提供される他、地域創業アドバイザーによる経営サポートも受けることが可能です。

      他にも政府と民間団体が共同で出資する商工組合中央金庫は、スタートアップ向け融資に積極的です。新事業に取り組んだり、成長分野に進出したりするスタートアップ企業に対し、10億円の融資を実施しています。

      各都道府県や、より小さな市区町村レベルでもスタートアップの支援に力を入れているところもありますので、ぜひチェックしてみてください。

      <民間機関による融資>

      民間の機関を見てみると、近年は大手銀行もスタートアップの融資を強化しています。例えば三井住友銀行は2023年10月よりミドル・レイターのスタートアップに向けた新株予約権付き協調融資(複数の金融機関による融資)を開始しました。また、みずほ銀行は2022年4月より「イノベーション企業審査室」を新設し、事業や成長性をより深く把握し、迅速に融資することを目標としています。足元の業績が赤字の企業でも、経営陣の資質や将来の事業計画の蓋然性、資金繰りなどの「ヒト・モノ・カネ」の観点を総合して返済能力を見極めています。加えて、三菱UFJ銀行は2017年より担保・保証に依存しない融資制度を導入しました。また、りそな銀行は2023年10月よりベンチャーデット(新株予約権付融資)に100億円投じることを宣言し(1件あたり1億円前後が目安)、貸し倒れリスクの高い「アーリー期」も融資対象としています

      大手銀行だけでなく、地銀でもスタートアップに力を入れている銀行があります。具体例として、静岡銀行は2021年6月にベンチャーデットに力を入れることを公表し、2027年までにベンチャーデット残高を1,000億円にすることを目標としています(2022年度の30倍)。実際に2023年3月までの1年半で46件、72億円を投じており、赤字企業に対しても融資を行っています。静岡銀行の場合は、県内の事業者とスタートアップとの協業を促進するオープンイノベーションプログラム「TECH BEAT Shizuoka」を開催しており、スタートアップの支援に本気で取り組んでいることが伺えます。

      銀行のスタートアップ支援策は政府や自治体の機関と異なり、通常の融資ではなく、ベンチャーデットとして提供していることも多いです。ベンチャーデットは従来の融資に加え、新株予約権(ワラント)が付随します。通常の銀行融資と比べた時の資金調達のハードルを抑えつつ、エクイティよりも株式の希薄化を抑えることができるため、スタートアップにとっては活用しやすい制度となっています。一方で、銀行側にとってはリスクの高い投資を行っているため、利率や返済条件が厳しいケースもあり、利用にあたっては十分に確認する必要があります。

      最近では金融機関だけでなく、スタートアップ企業が新しい形の融資を提供しているケースも存在します。Fivotは主にD2CやSaaSなどの事業を行うスタートアップを中心に、レベニュー・ベースド・ファイナンスやベンチャーデットを提供しています。最短30分のデータ連携で審査が完結し、2週間で審査結果がわかるなど、成長企業の資金繰りをサポートし、更なる成長を生み出すためのファイナンスを提供しています。Siiibo証券は従来の公募債よりもオンラインで短期間に社債を発行することができ、クイックな資金調達を可能にする私募社債というファイナンスを提供しています。どちらも新しいファイナンススキームであり、企業の多様な成長を後押しするために非常に有効な手段です。Angel Bridgeとしても非常に注目している企業です。

      まとめ

      日本政府のスタートアップ支援に対する姿勢が積極的になったこともあり、近年はエクイティ以外にも、補助金やデット(融資)などの、スタートアップに対する多様な支援の制度が拡充されてきました。今回ご紹介したのは数多くある制度のうちの一部の補助金や政府・自治体・民間企業による融資に過ぎませんが、他にも数多くの制度が存在します。起業家の皆さんは、もしかするとご自身の事業領域や活動拠点の所在地(都道府県・自治体など)、属性やバックグラウンドによって有利に受けられる支援もあるかもしれません。本記事が他にも支援制度を探索してみるきっかけづくりになっていれば幸いです。

      Angel Bridgeはシード〜アーリー期のスタートアップを中心に投資しているVCであり、手厚いハンズオン支援を特徴としています。今回解説した資本政策についても、投資先起業の経営陣とディスカッションを行い、投資家目線のアドバイスを行ってまいりました。事業戦略の壁打ちや資金調達のご相談などありましたら、お気軽にご連絡ください!

      2024.07.01 INTERVIEW

      微生物を活用することで、数年かけて抽出していた成分を数日で作り出せる

      ファーメランタの事業内容や競合状況を教えてください

      柊崎:ファーメランタは微生物を活用して有用な物質を作り出すバイオ系のスタートアップです。医薬品や化粧品、健康食品の原料には植物を栽培して抽出した成分が使われていて、なかには年単位の時間をかけて栽培し抽出する成分もあります。私たちはこうした成分の微生物を活用することで、数日で作り出せる技術の研究開発を行っています。

      事業としては大きく2つあります。1つ目は化学メーカーのように成分の製造販売を行うこと、2つ目は企業のニーズに合わせて微生物を設計することです。

      弊社は微生物に多数の新たな遺伝子を導入したり、元々もっている遺伝子を潰したりすることで、狙った物質を作り出せる微生物にしていきます。この技術は共同創業者である南と中川が20年近く続けてきた研究によるもので、同じことを実現できる競合は日本にほぼ存在しません。海外には一部競合にあたる会社があるものの、シンプルな化学的構造をもつ成分を対象としているため、弊社のほうがより難易度の高いことを実現しています。

      ファーメランタの強みはどこにあるとお考えですか?

      柊崎:一番の強みは技術力です。ひとつの細胞に複数の遺伝子を導入することは技術的に難しいですが、弊社は20以上の遺伝子をひとつの細胞に入れる技術力をもっています。

      これは研究開発を重ねた結果として実現できたことで、最初は十数個の細胞を入れるのに2年ほど時間がかかっていました。現在では技術的な課題はクリアしていますが、遺伝子を入れた後にうまく遺伝子が発現して機能し、細胞として統合的に制御できるようにするプロセスは非常に難易度が高いです。こうした細胞の培養は、現時点では弊社のラボにある卓上の培養装置で行っています。

      コミュニケーションに駆け引きがなく、フェアで気楽なディスカッションができた

      Angel Bridgeの存在を知ったのはいつ、どのようなきっかけでしたか?

      柊崎:2023年2月に、Angel Bridgeのキャピタリストの方との共通の知人から紹介されたことがきっかけです。

      河西:Angel BridgeがLogomix(東工大発の合成生物学スタートアップ)に投資したという告知をFacebookでしたところ、共通の知人が「こんな面白いことをやっている人がいるよ」と柊崎さんの話をしてくれたんです。その話を伺いファーメランタに興味をもったので紹介してもらうことにしました。

      Angel Bridgeならびに河西さんにどのような印象を持ちましたか?

      柊崎:コミュニケーションに駆け引きがなかったことが印象的でした。投資する側と投資してもらう側は条件面のすり合わせが必要なので、どうしても壁のあるコミュニケーションになりがちですが、Angel Bridgeにはそれが一切なかったのです。また、Angel Bridgeのキャピタリストはプロフェッショナルファームのバックグラウンドをもつ方が多く、私も同じ業界の出身なので話しやすいと感じました。

      投資を受けるにあたって期待されたこと、懸念されたことを聞かせください。

      柊崎:期待していたことは、コミュニケーションの円滑さと対等な関係性が作れることでした。Angel Bridgeとはフェアでかつ気楽にディスカッションができたため、投資検討のプロセスを通して投資後に協力的な関係を築いていけるイメージが湧き、投資を受けることにしました。

      資金調達をするのが初めてだったので、当初はプレッシャーをかけられるのではないかという点を懸念していました。しかし実際にはそんなことはなくAngel Bridgeは寄り添っていただける、温かいVCだと感じています。

      世界的に競争力のある技術と、やりきる力をもったビジネス人材がいることが投資の決め手

      投資家の立場から、ファーメランタを評価したポイント、投資の決め手を振り返ってください。

      河西:ファーメランタは大学発ベンチャーであり、大学にある技術をビジネスとして成功させるスタートアップです。私自身、大学発ベンチャーをこれまで数多く見てきて、成功する企業を見分ける自分なりの見極めポイントをもっています。1つ目はその企業がもつサイエンス、テクノロジーに世界的な競争力があること、2つ目は事業を預かるビジネス人材がサイエンスのことを理解されているだけでなく、事業を推進する能力に長けていることです。

      1つ目のサイエンスについては、石川県立大学の南先生、中川先生の20年の研究に優位性があり、世界的な雑誌であるネイチャーコミュニケーションズにも論文が掲載されているなど、レベルの高いものであると感じました。

      2つ目のビジネス人材つまり柊崎さんは、これまでサイエンスを専門にされていたわけではありませんが、正しく深くサイエンスを理解されていました。これまでに相当学び、先生方と議論されてきたのだろうと思います。そして、柊崎さんは投資銀行での経験があり、ファイナンスのバックグランドをお持ちです。バイオベンチャーは研究開発のために大きな金額を集める必要があるため、そのバックグランドは大きな武器になると考えました。

      実際は、一度目は柊崎さんにお会いし、二度目に先生方にお会いし、三度目にお会いしたときには投資を決めていました。おそらく2週間くらいで投資の意思を固めたので、スピード感のある投資決定でした。

      柊崎さんおよび創業メンバーにどのような印象を持たれましたか?

      河西:柊崎さんは目がキラキラしていて、まっすぐ生きてこられた人だと思います。世の中はこうあるべきだという考えがあり、その世界観を実現するために何が何でもやりきるんだという強い意志を感じました。大学発ベンチャーは調達すべき金額も大きいので、大変なことは色々とあるでしょう。でも、柊崎さんなら最後までやりきるだろうと思えました。

      Angel Bridgeは投資の際に、企業の社長に関してさまざまなレファレンスを取ります。共通の友人などを通じて柊崎さんの話を聞きましたが、さまざまなエピソードを聞いても物事をやりきる力がある人だと思いました。

      そして、柊崎さんはお父さんが宮崎県の外食チェーンを一代で築き上げた経営者であり、幼い頃から「将来は自分のビジネスを作りたい、世の中に価値を生み出していきたい」と思っていたことも聞きました。こうしたDNAに刻まれた運命も含め、柊崎さんの強い意志も確認でき、首尾一貫した方であると思いましたね。

      また、先生方にお会いしたときに、非常に柊崎さんを信頼していることが伝わってきました。大学発ベンチャーの場合、先生方が自分で経営もできると考えていたりするとビジネス側の人材が疎外されてしまうこともあります。ファーメランタではそういったことは起きないだろうと思いました。

      柊崎さんは、経営者であるお父様の影響を受けていますか?

      柊崎:影響はありますね。実は、父だけでなく父方・母方の祖父も共に一代で事業を立ち上げている経営者です。ある意味、それが働き方なんだと子供の頃から刻み込まれてきました。ただ、経営者として教育されたというわけではなく、好きなことを好きなようにやりなさいと育てられてきました。

      起業家同士の横のつながりを作りやすいAngel Bridge主催のイベント

      Angel Bridgeから受けた支援で、とくに印象的だった取り組みを聞かせてください。

      柊崎:     Angel Bridgeは起業家同士の横のつながりをつくれるさまざまなイベントを開催されています。例えば、BBQやゴルフ、フットサル、スカッシュなどのイベントです。毎回30〜40名ほどの参加者がいて、Angel Bridgeの関係者が10名ほど、他はスタートアップの経営者です。

      また、Angel Bridgeの人脈で銀行から大型の融資を受けることができたのもありがたかったです。助成金を使うことが多いのですが後払いになるので、つなぎで銀行融資を受ける必要があるからです。

      河西:ファーメランタが石川県初のベンチャー企業で、北陸銀行を紹介することができたので、エリア的にも相性がよく前向きに話が進みましたよね。

      他の取り組みとしては、さまざまなテーマで勉強会を開催しています。投資先の皆さんに集まっていただいて起業家に話してもらう形式です。起業家が集まるので刺激があっていいという声をいただいています。

      柊崎さんはAngel Bridgeと他のVCを比較したときどのような違いを感じますか?

      柊崎:経営者を信頼してフェアに接していただいています。一番お世話になっているのは河西さんですが、河西さん以外の方とコミュニケーションを取る機会も多くあり、会社全体として関わってくださると感じます。

      河西:Angel Bridgeでは、担当者であるか否かによらず、各々ができることを積極的に投資先の皆様に提供し、弊社支援を行っていくという考えです。誰かがイベントを企画したときに「柊崎さんも誘ってみたら」と伝えることや、何かのイベントで柊崎さんと話した社員がまた別のイベントに誘うようなこともあります。

      ディープテックのバイオ領域の事業をやりたいという想いがあった

      起業はいつ頃から考えていたのでしょうか?

      柊崎:中学・高校の頃からぼんやりと起業したいと考えていました。大学生のとき周囲に起業する人がいたこともあって、ビジネスアイデアを考えたことがあります。しかし、どれも世の中が変わるほどのインパクトはありませんでした。

      ただ、その頃に今の起業につながる経験をしていました。私はケニアでボランティアをしたことがあり、途上国開発に関心をもっていました。そして、微生物が植物由来の成分をつくり、それがマラリアの薬になったというニュースを聞いたのです。ケニアはマラリアが多く、その薬はケニアにとって大きな助けになるので、すごい技術だと思いました。しかし、自分自身が技術力をもっていないのでビジネスにしようという発想には至りませんでした。

      結局、学生起業には限界があると感じて就職することにしました。外資系金融を選んだのはハードな環境だからです。限界まで自分が頑張れる環境に身を置くことで成長したいと考えました。

      就職後は食品系の企業と働く機会が多く、発酵工業という大きな産業があることを知りました。そして、技術をもつ人と一緒なら起業できるのではないかと思うようになったんです。

      共同創業者である南CSO、中川CTOとの出会いから、起業に至った経緯をお聞かせください。

      柊崎:起業する領域をディープテックでかつバイオ領域にしようと決め、共同創業できる研究者を探すためさまざまな関係者に聞きまわりました。そこで、国のプロジェクトであるSBIR制度のプログラムを紹介されたのです。私が参加した農水省生研支援センターによるSBIRは研究シーズの事業化を支援するプロジェクトで、研究者とビジネスパーソンをマッチングする機能があります。SBIRを通じて共同創業者である南、中川と出会いました。

      創業したのは出会いから1年ほど経過してからです。先生たちの研究対象は既に市場があるので、製造販売をすることができればビジネスとしても成立します。ただ、うまくいかない場合も想定して、研究費用を出してもらうことができる共同研究先を見つけようと考えました。創業前からさまざまな会社にコンタクトしてディスカッションし、共同研究に進んだものもあります。先生方の技術にニーズがあることも確認ができたため、会社の設立に至りました。

      先生方の研究レベルの高さを理解するための知識を、柊崎さんはどのように身につけたのでしょうか?

      柊崎:特別な勉強をした感覚はないのですが、関心の高い分野の本や論文を知的好奇心を持って読み、吸収していました。

      ディープテックは技術がベースだからこそ、実現できた時のインパクトが大きい

      創業後、最もハードだった出来事をお聞かせください。

      柊崎:あまりハードだと思っていないのですが、2023年3月頃は資金調達前で従業員もいなかったので、すべてを自分でやる必要があり少しハードだったかもしれません。ただ、自分が本当にやりたいことに取り組み始めたタイミングで、ゼロからイチを生み出していたので、知的好奇心が満たされていて楽しかったという印象です。

      共同研究先やクライアントを探すのは大変ではありませんでしたか?

      柊崎:弊社の技術はかなり尖っているので、他社では実現が難しいです。そのため営業活動はそこまで大変ではありませんでした。多売するビジネスモデルではないので大きな仕事を獲得していくという感じです。技術や研究開発力を伸ばしていくことが、営業の優位性につながります。

      過去のご経験が活きる場面はあるでしょうか? それはどのような場面でしょうか?

      柊崎:スタートアップの経営はタスクが非常に多いので、前職で膨大な量のタスクをスピード感をもってこなした経験は役立っています。そして、資金調達や助成金などのお金関連のことがある程度わかるというのも前職の経験が生きている部分です。

      ディープテックスタートアップにビジネス人材として参画することの難しさややりがいを教えてください

      柊崎:ディープテックはサイエンスがベースになっているビジネスなので、技術が実現できなければ先がないというリスクがあります。しかし、うまくいけば技術は国境を超えますし、尖っている技術であるほど世の中に与えるインパクトも大きいです。そういった意味で、大きな未来に向かっていける点がやりがいです。

      経営者として大切にしている信念をお聞かせください。

      柊崎:自分がイニシアティブを取って、全責任をもってやりぬくことです。立場上、自分がやっていないことも含めてすべてが自分の責任なので、それを引き受ける覚悟はもっています。会社内で何が起きているかわかっていない状態は危険だと思っているので、細かなところまで緻密に把握することが大切です。

      マイクロマネジメントはしていませんが、社内のオペレーションはすべて理解しています。また、共同創業者である先生方とはバックグラウンドが違うのですが、お互いの深い理解が事業にもよい影響をもたらすと考えており、プライベートな話も含めて積極的にコミュニケーションしています。

      Angel Bridgeと末長くいい関係でいたい

      ファーメランタの今後の展望について教えてください。

      柊崎:一番の強みである技術に、お金や人的リソースを投資し大事にしていきたいと考えています。一方、どれだけ技術が優れていても世の中に提供できなければ会社の存在意義がなくなってしまうので、実際にビジネスを生み出していくことにもこだわっています。

      植物から抽出されている成分を使用している医薬品には、例えば鎮痛剤や抗がん剤などがあります。鎮痛剤は90%以上が先進国で消費されていると言われていて、価格の高い医薬品は途上国に行き渡りにくいです。弊社の技術によって、より広い地域に届けられるようになればと思っています。

      柊崎さんはこれからAngel Bridgeにどのような役割を期待されますか?

      柊崎:一回目の資金調達ではまだ会社もシード期で最もリスクのあるフェーズでした。Angel Bridgeはそのような時期にファーメランタ社への投資をコミットいただき、とても感謝しています。ベンチャーキャピタルはスタートアップのフェーズによって分かれている印象がありますが、Angel Bridgeとは長くお付き合いをしたいと考えています。

      河西:資金面で言えば、二回目、三回目の投資もしていきたいと考えています。また、柊崎さんの伴走役として、うまくいっているときにはたしなめ、うまくいっていないときは励まし、仲間として柊崎さんの精神的な心の支えでありたいです。

      ディープテックは、プロフェッショナルファーム出身者が活躍できる場

      ビジネスサイドの人材が、ディープテックスタートアップで活躍するには何が必要でしょうか?

      柊崎:ディープテックは基本的なビジネス能力の高い人が活躍できる場であり、故にプロフェッショナルファームで経験を積まれた方が活躍できる場だと思っています。深く技術を理解してどのようにビジネスとして成立させるかを描ければ、オペレーションを実行していくだけです。その点、ビジネスのスキルセットを高いレベルで持たれているプロフェッショナルファーム出身者が得意とするところだと思っています。

      スタートアップ志向や起業志向をお持ちの読者にアドバイスやメッセージをお願いします。

      柊崎:ディープテックにもっとビジネスサイドの人材が入ってきたらと思います。日本には優れた技術が多いにも関わらず大学の中に埋もれている状況です。あとは経営やオペレーションをまわす人がいれば、ディープテックは国境を越えて大きな社会的インパクトを出せます。大志をもった人がやりたいことを実現できるので、ぜひ恐れず飛び込んでいただきたいです。

      河西:柊崎さんに同感です。ディープテックの大学発ベンチャーに優秀なビジネスパーソンが飛び込んできてほしいです。ディープテックは早い段階から世界市場での勝負になるので、大きな事業を作れる可能性があり、ダイナミックな経験ができると思います。

       

      2024.06.03 INVESTMENT

      2024年6月に、Angel Bridgeの投資先である株式会社PeopleX(以下PeopleX社)が、シードラウンドにおいて累計16.1億円の資金調達を発表しました。Angel Bridgeも本ラウンドにおいて出資しています。

      PeopleX社は、市場の転換期を迎えるHRTech市場において、会社と従業員の双方にとって望ましい組織の構築のため、「エンプロイーサクセス プラットフォーム」と呼ぶSaaSプロダクト群『PeopleWork』の提供を行うコンパウンドスタートアップです。

      この記事では、Angel BridgePeopleX社に出資した背景について、HRTech市場を取り巻く環境と、PeopleX社の強みに焦点を当てて解説します。

      1. HRTech市場の市場構造

      まず、HRTech市場の全体像を説明します。

      日本のHRTech市場は、人材不足やITテクノロジーの急速な発展などを背景に、年平均成長率 32% で市場規模が急拡大していく事が予想されている注目市場です。

      この市場は、「育成/定着」「労務管理」「人事/配置」「採用管理」の大きく四つの領域に分類されており、現在PeopleX社がサービスを展開しようとしている「育成/定着」領域は、2030年時点で約1,050億円の市場規模に成長すると予測されています。

      図1. HR Tech市場の分類
      図2. 国内HR Tech市場の市場規模

      従前、他の先進国と比較して、日本企業の人材投資額は著しく低い水準をとっていました。古いデータではありますが、2010年から2014年における、能力開発費が実質GDPに占める割合の5か年平均は、アメリカの約1/20と極めて低い値となっています。

      図3. 人材投資の国際比較(2010~2014年)

      その結果、育成/定着どちらの領域においても、事業部主導で属人的な施策が実施されるのみにとどまってしまい、全社的な取り組みに昇華できていない場合が多く、人事部/事業部/社員のそれぞれにペインが存在した状態のままになってしまっています。

      図4. 育成/定着領域におけるペイン

      こういった状況もあいまって、日本企業は

      • 時間当たり労働生産性:OECD加盟国38か国中30位
      • 従業員エンゲージメント:OECD加盟国38か国中最下位タイ

      と、国際的に極めて悪い評価を受けています。

      図5. 時間当たり労働生産性の国際比較
      図6. 従業員のエンゲージメント割合の国際比較

      特に従業員エンゲージメントは、グローバル平均が年々上昇している一方で下降しており、日本のエンゲージメント領域への意識の低さが伺えます。

      しかし、以下の様に、日本の労働市場は大きな転換期を迎えており、今後はエンゲージメント領域への関心や投資が従前よりも高まっていくと考えられます。

      • 上場企業などにおける人的資本の情報開示が義務化されたことなどを背景に、官民を挙げての「人材投資」への機運が高まる
      • 中途採用比率は約40%まで高まり、新卒一括採用から中途・キャリア採用へと大きくシフトしている
      • 政府が2022年に「個人のリスキリング支援に5年で1兆円を投じる」と表明しており、所得の高い成長分野への転職を促すなど、社会全体で人材の流動性を高める動きがある

      日本では、「育成/定着」領域における確固たるSaaSプラットフォーマーは未だ確立していません。この流れを捉えることで、LatticeHiBobCulture Ampといった海外のユニコーン企業に名を連ねるチャンスが大いにある領域だと判断しています。

      本社 アメリカ イギリス オーストラリア
      設立年 2015 2015 2009
      時価総額 $3.0 B
      20221月時点)
      $2.7 B
      20239月時点)
      $1.5 B
      20227月時点)

       

      2. PeopleX社の事業概要

      続いて、PeopleX社の事業についてです。

      PeopleX社は、大きな変化を迎えるHR市場で、「エンプロイーサクセス プラットフォーム」と呼ぶSaaSプロダクト群『PeopleWork』をコンパウンドスタートアップとして提供します。

      直近で解決していく課題は、従業員のスキルアップとエンゲージメントの向上ですが、今後20近い新規SaaSアプリケーションを早期に展開していく予定のため、共通コンポーネント/基盤開発に注力しています。これは、PeopleX社がベンチマークとして参考にしている、コンパウンドスタートアップのパイオニアであるデカコーン企業、Ripplingと同様の戦略です。

      図7. Ripplingの事例

      また、管理者だけでなく従業員にも光をあてたものであるため、PeopleX社のプロダクトにはBtoC製品のようなわかりやすく操作性に優れたUI/UX設計がされています。コンパウンドスタートアップにおいて極めて重要な、データの整合性、全体として共通化された技術基盤に加え、UI/UXの洗練さが創業初期から意識されていることで、質の高いプロダクト群となる事が期待されます。

      図8. エンプロイーサクセスHRプラットフォーム『PeopleWork』

      3. 経営者

      Angel BridgeがPeopleX社に投資するにあたり、創業者である橘CEOへの理解も深めました。

      図9. 橘CEOの経歴

      CEOは、前職の弁護士ドットコムにて事業責任者として『クラウドサイン』を立ち上げました。そして『クラウドサイン』をARR約60億円にまで押し上げ、弁護士ドットコムを牽引する事業にまで成長させた実績を持つ経営者です。

      図10. 弁護士ドットコムの売上高の推移

      『クラウドサイン』は下図のように、時価総額300億円を超える国内上場SaaS企業の中でも早い速度でARR60億円に到達しており、現在も対前年比30%で継続して成長しているSaaSです。

      図11. 上場SaaS企業のARR推移

      また、橘CEO「日本の働き方の変革」をミッションに約8年間在籍してきた弁護士ドットコムの取締役としての地位を捨てて創業に至っており、本事業に対する高い情熱と覚悟を有している事が伺えます。視座が高く巻き込み力の高い起業家でもあるため、先述したコンパウンドスタートアップ戦略を取る上で重要なCXOクラスの人材採用もうまくいっています。

      株式会社PeopleXを創業致しました。今後新たな時代に適応した総合型HRカンパニーを目指していきたいと考えております。

      これに伴い、弁護士ドットコム株式会社クラウドサイン管掌取締役、MeetingBase事業責任者を退任する事になりまし…

      橘 大地さんの投稿 2024年3月31日日曜日

      市場の転換期を迎えるHRTech市場において高い情熱と覚悟を有しているだけでなく、コンパウンドスタートアップ戦略を着実に進める視座の高さ、また、それを実現するだけの巻き込み力、シード期に16億円という大規模な資金を調達できる能力を持ち合わせている橘CEOは、日本の労働市場を取り巻く環境を一変させる上でこれ以上ない人物であると考えました。

      4. おわりに

      最後に、Angel Bridgeの今回の投資のポイントをまとめます。

      1つ目は、転換期を迎えているHRTech市場です。世界的に巨大で成長が予測されている市場である一方、従前、日本企業の人材投資は低く、全社的な取り組みが不足しているため、労働生産性や従業員エンゲージメントの国際評価も低い状況でした。しかし、最近では人的資本の情報開示義務化やリスキリング支援など、政府や企業による人材投資の動きが活発化しており、変革の兆しが見え始めています。日本の「育成/定着」領域には、まだ確固たるSaaSプラットフォーマーが存在していないため、成長余地が大きく、海外のユニコーン企業に並ぶ大きなチャンスがあります。

      2つ目は、優れたプロダクト戦略を持ち、最初からコンパウンド型のプロダクト設計をとっている事です。PeopleXは、管理者だけでなく従業員にも光をあてたプロダクトを多面的に提供していく事で会社と従業員の双方にとって望ましい組織のあり方を構築することを目指しています。データの整合性や全体としての統一感から、UI/UXの極めて良好な、完成度の高いプロダクトになる事を確信しています。

      3つ目は、優秀な経営者です。創業者である橘CEOは、『クラウドサイン』を通じて日本の判子文化を変革してきた、実績ある経営者です。また、日本の働き方の変革という大きな社会課題の解決に高い使命感を抱いている人物でもあります。実際に、橘CEOの実力やHRTechへの熱い想い、人柄に惹かれ、多くの優秀なメンバーがPeopleX社に集っています。コンパウンドスタートアップ戦略を実現するにあたり、橘CEOの採用力も高く評価しました。

       

      以上の観点から、PeopleX社が、転換期にあたる日本のHRTech市場において変革しつつある日本の「育成/定着」領域において、管理者と従業員の双方に焦点を当てた高品質のプロダクト群を多面的に早期展開することで、日本の従業員エンゲージメント指数の向上に多大な貢献をするとともに、メガベンチャーへと成長する可能性が非常に高いと考え、投資を決定しました。

      Angel Bridgeは、社会への大きなインパクトを創出すべく、難解な課題に果敢に挑戦していくベンチャーを応援しています。ぜひ、事業戦略の壁打ちや資金調達のご相談など、お気軽にご連絡ください! 


      2024.05.20 INTERVIEW

      気軽に海外株投資ができるスマホアプリを提供

      ブルーモ証券の事業内容を教えてください。

      中村:ブルーモ証券は、個人向けの投資アプリを提供している会社です。スマートフォンから米国株や海外のETF(投資信託)に投資ができるアプリです。これまでの投資アプリと違うのは、自分で資産運用を考えたい方にとってとにかく使いやすいところ。金融リテラシーが乏しかったり、面倒な手続きが嫌な方でも簡単にはじめられる点が挙げられます。

      その「使いやすさ」とは、どんなところに表れているのでしょうか。類似サービスとの違いは?

      中村:まず、口座開設の申し込み手続きはおよそ2分で完了します。また口座に入金するだけで、自分で選んだ複数の米国株・ETFに対して両替、買い付けができます。著名な投資家や他のユーザーのポートフォリオをそのままコピーできるので、投資経験が浅い方でも迷わず分散投資を行うことが可能です。当社の「Bloomo」は、海外株による長期分散投資をより多くの人の手に届けるために開発したアプリなので、投資に対する敷居を下げるためにも使いやすさにはこだわりました。

      個人投資への注目が集まっています。現在の市況についてはどう見ていらっしゃいますか?

      中村:日本ではこれまで金融資産は預金に偏り、投資に対して慎重な方が少なくありませんでした。しかし、過去5年ほどの間に状況は大きく様変わりし、コロナ禍による生活を見直す機運の高まりや金融庁の報告書をきっかけに「老後2,000万円問題」が話題になるなど投資への関心が高まりを見せています。2024年からは新NISAがはじまり、証券口座の年間開設数が大幅に増えており、個人投資サービス全体に非常に強い追い風が吹いている状況です。

      経営陣についても教えてください。どんな方が集まっていますか?

      中村:CTOを務める小林悟史は、東大のコンピュータサイエンス出身で、オンラインレンディングや株式投資型クラウドファンディングシステムをスクラッチ開発した経験を持つエンジニアです。またバックオフィスの業務責任者を務める吉岡龍弥は、マッキンゼー時代の同僚で証券会社に必要なバックエンドシステムの仕様策定、業務の設計や運用を担ってくれています。私自身は、過去財務省に在籍していたこともあり法規制に明るく、スタンフォードMBAでの留学中に最先端のテクノロジービジネスとデザイン思考を学んだ経験を活かし、経営とプロダクトマネジメント全般を統括しています。スタートアップながらお客様のために最善を尽くせる体制を築けたと自負しています。

      Angel Bridgeとの出会いのきっかけは?

      中村:創業から間もなく、Angel Bridgeの八尾さんから声がかかったのがきっかけです。八尾さんは私と吉岡と同じくマッキンゼーのご出身で、私たちが起業したのを耳にされた八尾さんから吉岡にアプローチがありお付き合いがはじまりました。その後パートナーの河西さんやほかのメンバーを紹介していただき、いまに至っています。

      Angel Bridgeに対する最初の印象はいかがでしたか?

      中村:プロフェッショナルファーム出身者が多く、仕事に対するマインドや組織カルチャーが似ており、共通言語が多い印象でした。お声がけいただいた当時は、まだ個人投資家から調達した資金で賄えていたので「すぐにでも」という話にはなりませんでしたが、近い将来、VCから調達する時期がやってくるのはわかっていましたから、それ以降、定期的に連絡を取らせていただいていただくようになりました。

      河西さんにうかがいます。中村さんやブルーモ証券への第一印象を聞かせてください。

      河西:日本において長期分散投資の有用性を多くの方に広げたいという志の高さに共感を覚えたのと、中村さんの輝かしいキャリアに加え、創業初期にもかかわらず小林さんや吉岡さんをはじめ、非常に優秀なメンバーを迎えられていることに大変驚いたのを覚えています。それがブルーモ証券の第一印象でした。

      Enjoy your journey,  not outcome.

      その後はAngel Bridgeとはどのようなお付き合いをされてきましたか?

      中村:最初にお話させていただいてから半年ほど経ったころ、いよいよ本格的に証券会社としての体裁を整えるにあたり、改めて「ぜひ投資していただけないか」とお話しさせていただきました。それから投資を決定いただくまで、わずか2週間ほどだったのがいまも印象に残っています。意志決定のスピードには驚かされました。

      河西:はじめてお会いしたときから、ぜひ応援させてもらいたいと思っていましたからね。最初にお目にかかってから半年ほどの間に、第一種金融商品取引業免許の取得に向けたプロセスを踏んでおり、やるべきことを着実に実現していく手堅さも感じたので、迷わず投資を決めることができました。

      Angel Bridgeから支援を受けるなかで、どんなところがほかのVCと異なると感じますか?

      中村:投資先に対するコミットメント力が半端ないところですね。何としても付加価値を提供したいという強い意欲を感じますし、反応速度が非常に速い上にとにかく泥臭い(笑)。その献身ぶりは目を見張るほどです。

      河西:投資先のバリューアップにつながるなら、気合と根性でやり遂げるのがチームとして大事にしていることなので、そのお言葉は大変光栄です。われわれは投資先の応援団。どんなに泥臭いことでも率先してやらせていただきます。

      中村:先日も三好さんが気を利かせてくれて、ある採用候補者のリファレンスを取ってくださったのですが、そもそも彼は当社の担当ではないんです。そんなことはほかのVCではありえないこと。そのホスピタリティは、ほかのVCとは一線を画すレベルだと思います。

      起業家、経営者としてやりがいを感じる瞬間は?

      中村:ひとつは優秀なメンバーがチームにジョインしてくれたときですね。「この人がきてくれたら、きっとこれまでとは違う景色が見られる」と思えるのはうれしいことですし、経営者としてのモチベーションが高まります。もうひとつは、お客さまの存在です。ローンチから間もないスタートアップにお金を預けていただけること自体、私たちに価値を感じてくださっているわけですし「毎朝アプリを開くのが楽しみです」「ほかの方のポートフォリオを見ながら勉強しています」といった前向きな言葉を頂戴すると励まされます。このビジネスにチャレンジしてよかったと感じる瞬間です。

      経営者として大切にされている信念を教えてください。

      中村:自分たちが本来やろうとしたこと、やりたいことを決してぶらさず、大きな目標に向かって、やるべきことを愚直に取り組むことですね。かつて物理学者のアインシュタインは「Learn from yesterday, live for today, hope for tomorrow. The important thing is not to stop questioning(過去から学び、今日を生き、明日への希望をつなげよう。もっとも大切なことは、問うことをやめないことだ)」と述べており、私も日々の積み重ねが偉業につながると信じています。また、スタンフォード留学中に出会ったシリアル起業家の恩師からは成長企業経営の名物授業で、起業家という仕事について「Enjoy your journey,  not outcome(結果ではなく旅路を楽しめ)」といわれ、いまも心に残っています。どちらも、自分の意志で選んだ道を信じ、真摯に経営と向き合い続けることの大切さを教えてくれました。

      少子高齢化の一途を辿る日本の若者が希望を持てる社会にしたい

      これからブルーモ証券をどんな会社にしたいですか?

      中村:当面は、期待が高い新NISA口座の開設に向けた対応や積立投資機能の整備を急ぎつつ、海外株での資産形成に必要な金融機能を順次拡張していくつもりです。長期分散投資を通じて、資産形成のパートナーとして多くの方に認知していただくために、ブルーモ証券をみなさんのご期待に応えるビジネスに成長させたいと思っています。

      今後、Angel Bridgeに期待することは?

      中村 : 今後も信頼関係を保ちながら同じ夢を見続けられたらいいなと思っています。これからも最高の応援団でいてください。

      河西 : もちろん、私たちもそのつもりです。中村さんは苦学の末、Angel Bridgeのオフィスからもほど近い都立日比谷高校を出られ、さらに東大、財務省、マッキンゼーを経て、今日に至るまで、数々の困難に直面されたはずですが、それをものともせずことごとくクリアしてこられた。私たちはそんな中村さんのガッツに期待しているんです。

      中村 : ありがとうございます。財務省に入省したのも、その後MBAを経てマッキンゼーに入り、さらにブルーモ証券を創業したのも、少子高齢化の一途を辿る中で日本を若者が希望を持てる社会にしたかったからです。その思いは大学時代から15年以上変わりません。これからもその目標を達成するため最善を尽くすつもりなので、ぜひご支援のほどよろしくお願いいたします。

      河西 : もちろんです。

      最後に、プロフェッショナルファームご出身者や在職者のなかで、とりわけスタートアップでのキャリアに関心がある読者に対しメッセージをお願いします。

      中村 : もし、スタートアップに関心をお持ちなら、健全なメタ認知を持ってチャレンジしてほしいですね。プロフェッショナルファームは待遇もいいし世間からの評価も総じて高い。そのため、どうしても自らの実力を高く見積もりがちです。スタートアップをはじめ、プロフェッショナルファームとは大きく異なる領域にチャレンジするのであれば、その領域で見た場合の自分の市場価値をフェアに見積もり、どうすれば会社の看板なしに実力を発揮できるか、足りない部分があるとしたらそれは何かを把握し補う努力が欠かせません。プライドや世間の評価に惑わされず、正しい決断をするためにもメタ認知を持って立ち向かっていただければと思います。

      河西 : 中村さんのように官僚経験者やプロフェッショナルファーム在職者のなかにも、スタートアップで活躍しうる適性を持つ方は大勢いるはずです。こうした方々がスタートアップの世界に参入してくだされば、日本によりよい変化をもたらせると信じています。ぜひチャレンジしていただきたいと切に願っています。中村さん、本日はありがとうございました。

      中村 : こちらこそありがとうございました。

      2024.05.09 TEAM

      グローバルファームからVCへの転身を促したもの

      ——山口さんは毎日どのようなスケジュールでお仕事をされているのでしょうか?

      仕事の割合でいうと、新たな投資先を探すソーシングに3割、新たな投資先を選定するためのデューデリジェンスに5割、残りの時間はWebサイトの更新やSNSアカウントの運用、社内イベントの企画や実行など、自社のブランディングにまつわるマーケティング活動に費やしています。今後、担当する投資先が増えればバリューアップ支援の割合が増えていく見込みです。

      ——Angel Bridge入社前はどのようなキャリアを歩んできたのでしょうか?

      慶應義塾大学にて数理モデルの構築・分析によって意思決定の最適化を行う「オペレーションズリサーチ」という学門を学び、さらに東京大学大学院で国際物流の最適化シミュレーションの研究をした後、ボストン コンサルティング グループ(以下、BCG)に入社しました。Angel Bridgeに入社したのは2024年2月のことです。

      ——なぜ新卒でBCGに入社しようと思ったのですか?

      そもそもコンサルタントを志すようになったのは、大学3年生のころ、海外インターン交流を支援する学生団体の代表を経験したのが最初のきっかけです。学内だけでも100人にもおよぶメンバーを束ね、団体の将来や戦略を考えるうちに、経営戦略立案に興味を持ちました。理系の学生でしたので「制約がある中でどのように効用を最大化するか」という観点で、オペレーションズリサーチや国際物流の最適化の研究を行った後、戦略コンサルタントとして経営戦略の策定に携わることに決めました。数あるコンサルファームの中でもBCGを選んだのは、BCGが日本で一番成功している戦略ファームだからです。経験できる案件の幅が広く、日本を代表する企業のために働くことで、日本経済の成長に貢献できると考えました。

      ——BCGではどんなお仕事を?

      在職中は、消費財・通信・メーカー・PEファンドなどのクライアントに対し、中期成長戦略・新規事業戦略・M&A戦略・ターンアラウンド戦略の策定などを支援するプロジェクトを経験しました。グローバルなプロジェクトメンバーやクライアントの社員様など、バックグラウンドが異なるメンバーと協働し、価値ある成果を出す難しさや醍醐味とともに、定量的に経営を捉え戦略に落とし込む面白さを体験できたのは、いま思い返しても貴重な経験だったと思います。

      ——かつての同僚で、山口さんと同じようにVCをセカンドキャリアに選ぶ方はいらっしゃいましたか?

      身近な先輩のなかにも何人かいらっしゃいます。いまは国を挙げてスタートアップ投資を増やしていこうという流れがありますし、スタートアップへの投資環境が成熟するなかで、コンサルタントとしてスタートアップビジネスに関わる機会も少なくありません。何よりコンサルタントは好奇心旺盛な方が多いので、「コンサルとしては支援しづらいスタートアップビジネスに関わりたい」という方も多く、また投資判断のプロセスや投資後のご支援などで戦略コンサルタントが持つビジネス分析力や戦略立案力に対するニーズが高まっているのも一因だと思います。

      ——山口さんはどのような思いでVC業界に転身しようと?

      学生のころから起業したりスタートアップで活躍する友人が多く、新しい価値を世の中に届けようと努力する人たちを応援したい、強い思いを持って起業に臨んだ経営者をサポートしたいと思うようになりました。スタートアップエコシステムの中でもセカンドキャリアとしてVCを選んだのは、多くの熱量のある起業家と関わりながら、一つの会社だけでなくスタートアップを取り巻くエコシステム全体を盛り上げられたら、きっと日本経済への貢献にもなりますし、投資判断のプロセスや投資後のご支援の中でBCGで培った経験やノウハウを活かせそうだと思ったからです。

       

      アットホームでありながらプロフェッショナルな社風

      ——数あるVCのなかからAngel Bridgeを選んだ理由は?

      実は1号社員でAngel Bridgeに入社した八尾は大学院の学科の先輩にあたり、パートナーの河西についても八尾を通じて面識があったので、以前からAngel Bridgeの社風を知っていたことが、転職を後押ししてくれました。いずれ日本を代表するメガベンチャーを創出するんだという大きなビジョンを掲げつつ、自らも日本を代表するVCになろうという成長意欲の高さにも共感しましたし、Angel Bridgeにはプロフェッショナルファーム出身者が多くカルチャーフィットが期待できそうなのもAngel Bridgeを選んだ理由です。

      ——入社されていかがですか? 率直な感想を聞かせてください。

      実際働いてみて感じるのは、投資先と一緒に知恵を絞り「どうしたらその理想を実現できるか」という観点で、前向きな議論を尽くせるのは非常に楽しいですしやりがいを感じます。それと同時に経営者の思いや人柄に寄り添いながらみなさんのご期待に応える難しさも感じるので、それについては今後の課題になりそうです。Angel Bridgeのメンバーのアウトプットのクオリティの高さや、投資先に対して主体的に貢献しようとするマインド、オーナーシップを持って仕事に取り組む姿勢は想像通りでした。仕事に対する前向きな姿勢と最後までやりきるプロフェッショナルな意識は、すべてのメンバーから感じるところです。

      ——社風についてはいかがでしょう?

      Angel Bridgeはオンもオフもどちらも楽しくやろうという人たちの集まりなので、仕事に全力で取り組む一方で飲み会やバーベキュー、ゴルフなど、社内イベントも盛んです。社員同士はもちろん投資先同士も非常に仲がよく、アットホームな社風だと思います。

      ——Angel Bridgeのパートナー陣は山口さんにとってどんな存在ですか?

      河西は深い知見に基づいた分析力や決断力に学ぶところが多く、林については豊富なビジネス経験に基づいた人脈の広さや人望の厚さで定評があります。2人とも投資先のビジネスはもちろん、起業家の人柄や想いの丈をよく理解した上で、確信を持って投資しているからこそ、迷いなくコミットできるんでしょうね。パートナー自ら投資先に対してここまで多くの時間を割いているVCは、おそらくAngel Bridge以外にないのではと思うほどです。

      ——投資先との信頼関係を紡ぐためには何が必要だと思いますか?

      Angel Bridgeに入って、相手の立場に立ってプロフェッショナルファーム品質の価値を提供し続けることが、信頼を勝ち取る唯一の道だと思うようになりました。それは投資を検討させて頂く段階においても変わりません。経営課題の改善や成長に資する示唆を少しでも出し、起業家のみなさんに喜んでいただけるよう全力を尽くすこと。それがみなさんにAngel Bridgeを選んでいただく強い原動力になるはずです。投資先と手を携え、同じ目的に向かって走るには、常に相手の立場や気持ちに思いをはせ、ロジカルかつハートフルに振る舞うことが欠かせないと考えています。

      ——山口さんはどんな人と働きたいですか?

      Angel Bridgeで活躍するにはオーナーシップの強さが求められます。投資先を支援する上で必要になるのはもちろん、Angel Bridge自身もまたスタートアップフェーズにあるからです。いわれたことだけをしっかりとこなすだけで満足せず、自ら積極的に提案する人が重宝されるのはスタートアップならではでしょう。努力を惜しまず能動的に動ける方とご一緒したいと思います。

       

      起業家の支援を通じてメガベンチャー創出を目指す

      ——これからAngel Bridgeで成し遂げたい目標を聞かせてください。

      一社でも多くスタートアップの成長に寄与するのが当面の目標です。中長期的な目標は、個人の名前で仕事ができるようになることと、投資先のみなさんに「この人と一緒にいると成功できる気がする」という安心感や希望を与えられる存在になりたいですね。その上でメガベンチャーの創出に携われたらこれ以上の喜びはありません。そのためにもこれから多くの経験を通して成長したいと思っています。

      ——最後に山口さんが大切にしている信念を教えてください。

      私自身、尖ったアイデアと実行力を伴った強い信念をお持ちの方を支援するのが好きですし、自分にない感性や能力を持つ方に頼られるのはありがたいことだと感じます。そんな方々に気軽に声をかけていただくには、「何色にも染まる」余地を常に残しておくのは大事なことではないでしょうか。VCである以上、ベンチャーファイナンスの専門家として価値を出すことはもちろんですが、どんなことであっても最初に頼られ、価値を出せる人になりたいです。「何色にも染まる」には、普段からのインプットやそれを基にした思考に加え、人間としての懐の深さが欠かせません。相手の想像を超えるような成果を届けられるようなビジネスパーソンになるためにも、養っていきたい能力だと思います。

      2024.04.25 INVESTMENT

      2024年4月に株式会社XAION DATA(以下XAION DATA社)は、シードラウンドにおいて累計4.5億円の資金調達を発表しました。Angel Bridgeも本ラウンドにおいて出資しています。

      XAION DATA社は、オープンデータを活用したダイレクトリクルーティングSaaSをメインにサービスを提供するテックスタートアップです。オープンデータを活用したビジネスは、海外でZoomInfoをはじめとしたメガベンチャーが複数提供しており、注目度が高い市場です。そこでXAION DATA社はコア技術であるオープンデータ取得/構造化技術を用いた独自データベースを強みとし、HR領域でサービスを展開しています。既にエンタープライズ企業やメガベンチャー企業への導入が進んでおり、今後の期待が大きいスタートアップです。

      今回の記事では、Angel BridgeXAION DATA社に出資した背景について、ダイレクトリクルーティング市場を取り巻く環境とXAION DATA社の強みに焦点を当てて解説します。

      1.ダイレクトリクルーティングの市場構造・動向・課題

      ダイレクトリクルーティングとは、企業の採用担当者が候補者に直接アプローチをする採用手法です。具体的には、企業はビズリーチやLinkedInなどのプラットフォームを活用しながら、望ましい候補者を自らの手で探しアプローチします。候補者が企業にアプローチをかけるなどの従来の他の採用手法と比べ、企業側の採用工数がかかるものの人材のマッチング精度が高いことが特徴です(図1)。

       

      図1 各人事採用手法の特徴と比較

      ダイレクトリクルーティング市場は海外を中心に拡大している巨大市場であり、今後は日本においても急成長することが見込まれています。実際に市場規模は毎年31%で伸びており、足元では市場規模が1,000億円を超えています(2)。また、足元でプロフェッショナル人材の流動性が高まっており、特に年収の高いミドル/ハイレイヤー人材へのニーズが強いことも理由の一つです(3)。ミドル/ハイレイヤー人材はリファラルのみで採用が決定することも多いために、既存サービスでは発見することが難しく、能動的にアプローチをかけるダイレクトリクルーティングの必要性が高まりました。実際にビズリーチに続く形でリクルートやオープンワークなどの人材採用サービス各社もダイレクトリクルーティングサービスへ新規参入しています。

       

      図2 急成長するダイレクトリクルーティング市場

      しかし、ビズリーチなどの既存サービスにはまだ課題が残っています。既存のサービスでは、若手層などの転職意欲が高い候補者がプラットフォームに登録し、マッチングが行われることから、短期間で採用に繋げられる候補者へのアプローチには適しています。一方で、スペシャリスト人材やミドル/ハイレイヤー人材は既存サービスには少なく、アプローチしにくいというペインが存在しています(図3)。そこでXAION DATA社はこのようなペインを解決すべく、オープンデータを活用して、既存の登録型サービスには登録されておらずアプローチが難しいスペシャリスト人材やミドル/ハイレイヤー人材などの転職潜在層も含めた候補者へのアプローチが可能なサービスを提供しています。このサービスの提供を開始した背景には、202210月の職業安定法の改正(オープンデータを採用に利活用する事業に関するルールを整備する内容を含有)があり、時流を捉えたサービスとなっています。XAION DATA社は米国を始めとした海外でのオープンデータの利活用の潮流に着目し、日本における今後の法律改正を睨み、事業を創ってきていました。その結果、202210月の法律改正後いち早くサービスを展開しています。また、2023年には、厚生労働省の優良企業者認定制度発足にむけた有識者ヒアリングに招集されるとともに、2024年3月には厚生労働省の定める「優良募集情報等提供事業者認定制度」において、国内初で唯一の4号優良認定事業者に認定される等、リーディングカンパニーとしての立ち位置を確立しています。

      図3 ダイレクトリクルーティング業界の課題

      以上のように、ダイレクトリクルーティング市場は大きな需要の拡大が予想されておりポテンシャルがあるものの、そのニーズに応えられているプレイヤーは少なく、XAION DATA社にとっては非常に魅力的な市場環境と考えています。

      2.XAION DATA社の事業概要

      XAION DATA社が提供しているサービス/プロダクトは主に3つあります(図4)。

      1つ目はSaaS事業で、足元ではXAION DATA社の独自データベースとAIモデルを活用したダイレクトリクルーティングSaaSである「AUTOHUNT」を提供しています(図5)。SNSやメディアなどのオープンデータから集めた430万人以上の転職潜在層も含めた人材データベース(推定年齢/職歴/学歴/スキルなどの情報を含有)を構築しており、顧客企業の求人情報に合致する候補者の特定とアプローチが可能です。

      2つ目は人材紹介事業で、自社独自のデータベースや「AUTOHUNT」を活用した人材紹介支援サービスを顧客に向けて提供しています。

      3つ目はソリューション事業で、XAION DATA社の保有データと顧客保有のクローズドデータを掛け合わせ、顧客のニーズに合わせた独自のAI/Dataソリューション(コンサルティングなど)を提供します。

      図4 XAION DATA社事業全体像

       

      図5 「AUTOHUNT」プロダクト画面

      3.XAION DATA社の競合優位性

      ダイレクトリクルーティングサービスを提供している会社は複数社ありますが、その中でも情報が表に出てこない転職潜在層に焦点を当て、ミドル/ハイレイヤー人材にもアプローチが可能なサービスを提供している企業はあまり存在しません。しかし、XAION DATA社はオープンデータを活用しながら転職潜在層を探すという新しくユニークな人材紹介アプローチに取り組んでいます。

      XAION DATA社の強みは、大きく分けて2つあります。

      1つ目は、圧倒的な技術力の高さです。XAION DATA社は様々なオープンデータを収集/統合する独自アルゴリズムを構築しており、他社でも入手困難なデータにアクセスし、一つのデータベースに統合しています。ユーザーデータや各企業のクローズドデータとの統合や連携も可能なため、オープンデータと掛け合わせることで独自のデータベースを構築することが可能です。他社が模倣して同様のデータベースを構築することは困難なため、参入障壁が非常に高いサービスだといえます。

      2つ目は、事業拡張のポテンシャルの高さです。XAION DATA社独自のデータベースは汎用性が高く、このデータベースを活用して足元ではダイレクトリクルーティングSaaSの「AUTOHUNT」を提供しています。今後も独自データベースを基にマーケティング/認証領域などの関連領域においても、様々なプロダクトを提供していくことも期待できます。

      4.経営陣

      XAION DATA社には高いプロダクト開発力と事業推進力を有する、非常に優秀で強力な経営陣が集まっています。佐藤CEO/石崎CTOは、米国シリコンバレーのAIスタートアップにて採用プロセスと求職プロセスをAIによって効率化/最適化するサービスの責任者として事業展開/開発に従事した経験があり、当事業領域において解像度と開発力の高さを持ち合わせています。また、ゴールドマン・サックス証券の投資銀行部門(IBD)やインベスコ・アセット・マネジメントで活躍してきた金谷CFOをチームに迎え入れており、佐藤CEOがいかに高い巻き込み力を有しているかが伺えます。(図6)。

       

      図6 XAION DATA社経営陣

      5.おわりに

      最後に、Angel Bridgeの今回の投資のポイントをまとめます。

      1つ目は、オープンデータを活用した転職潜在層のダイレクトリクルーティングには巨大な市場ニーズがある点です。企業規模に関わらず、プロフェッショナル人材の採用ニーズは高く、転職潜在層に効果的にアプローチするソリューションは今後急速に伸びていくことが考えられます。一方でオープンデータを活用したダイレクトリクルーティングサービスを提供している企業は少なく、先行者優位を活かして独自のポジショニングを構築することで大きな市場を狙えるポテンシャルがあります。

      2つ目は、優秀な経営陣です。米国シリコンバレーのAIスタートアップで経営陣として組織を率いた経験を有しており高いリーダーシップ能力やマネジメント能力を持っている佐藤CEOに加え、オープンデータを収集/統合する独自アルゴリズムを開発するなど高い技術力を有しておりCTOとしてのマネジメント能力も兼ね備える石崎CTO、戦略的な思考力を発揮しながら卓越した営業力でエンタープライズ企業やメガベンチャー企業を獲得する金谷CFOがそれぞれ違う強みを持ち合い、強いコミットメント力で一丸となってこの事業に挑戦していることが最大の武器となっています。

      3つ目は、他社には模倣困難な高い技術力を有しており、その技術を用いて構築した独自のデータベースを他の事業領域にも応用できるポテンシャルがある点です。他社が入手困難なデータも含めて広範にオープンデータを収集/統合した独自のデータベースはそれ自体に価値があり、汎用性の高さから足元で提供しているダイレクトリクルーティングSaaS以外にも様々な事業領域でプロダクトを開発して提供していくことが期待できます。

      4つ目は、急速に立ち上がるトラクションです。「AUTOHUNT」は正式リリース後、約1年の短期間で複数のエンタープライズ企業やメガベンチャー企業がサービスを導入しており、既に売上高が積み上がってきています。初期からこれだけ多くのエンタープライズ企業やメガベンチャー企業にサービスを導入できるスタートアップはそう多くはありません。XAION DATA社の技術/ビジネス両面でのケイパビリティの高さを示す何よりの証拠です。

      以上の観点から、XAION DATA社が新しくユニークなダイレクトリクルーティング市場の開拓を行い、GDP向上に大きく寄与する存在となることを信じ、またその想いに共感し、投資の意思決定をしました。

      Angel Bridgeは社会への大きなインパクトを創出すべく、難解な課題に果敢に挑戦していくベンチャーを応援しています。ぜひ、事業戦略の壁打ちや資金調達のご相談など、お気軽にご連絡ください!

      2024.04.18 INVESTMENT

      2024年4月にAngel Bridgeの投資先である、goooods株式会社(以下goooods社)が6.7億円の資金調達を発表しました。Angel Bridgeも本ラウンドでリード投資家として出資しています。

      goooods社は、連続起業家である菅野CEOと松本CPO/CTOら計4名で創業した、雑貨・アパレル、美容品などの業界におけるB to B卸ECプラットフォーム『goooods/グッズ』の提供を行うスタートアップです。

      「Everyone, entrepreneur」をミッションとして掲げ、情熱を追い求めてプロダクトを作るブランドオーナーや、小売店の経営者、次のトレンドを発掘するバイヤーなど、自身の情熱を追いかけて日々挑戦する人々を支援しています。

      『goooods/グッズ』は、販路拡大や商品発掘で課題を抱えている、主に中小規模のバイヤー(小売店・EC)とセラー(ブランドメーカー)向けのECプラットフォームで、魅力的な商品の発掘や拡販、受発注業務の効率化、資金繰りまでを一貫してサポートします。
      『goooods/グッズ』を使用することで、バイヤーの趣向に合わせた全国の魅力的な製品の発掘が容易になり、書類作成や取引・入出金管理などの受発注業務の効率化や資金繰りの改善も可能となります。また、セラー側も業務効率化に加えて、入金漏れの防止や全国や海外への販路拡大も可能になります。

      今回の記事では、Angel Bridgeがgoooods社に出資した背景について、巨大かつ生産性改善の余地が大きいB to B卸業界を取り巻く環境と、goooods社の強みに焦点を当てて解説します。

      goooods株式会社 | 資金調達特設サイト

      今回の資金調達にあわせて『goooods/グッズ』の魅力をお伝えする 特設サイト を開設しています。

      プラットフォームの魅力、裏側の技術、導入事例、採用ポジションなどを掲載しておりますので、こちらも併せてご覧ください!

      1. B to B卸業界の動向と中小事業者の抱える課題

      goooods社が対象とする雑貨・アパレル、美容品などのB to B卸業界の流通総額は全体で38兆円、中小企業の取引のみでも5兆円の規模がある巨大な市場です。その中で卸事業者などの中間業者の収益は15~20%を占めており、中小企業の取引だけでも約1兆円近い収益規模が存在します。

      現状、卸業務は対面やメール、FAXを通じた取引が多く、EDIを除くEC化率は11%と拡大余地が大きく残っています。一方で、コロナによってオンライン取引に対する事業者の認知度合いや意識の変化もあり、EC化率は成長基調になっています。(図1)

      また、従来の卸業者も各業界で社数が減少傾向にあり、これまで提供してきたきめ細かいサービスが行き届かなくなりつつあります。現状、B to C領域においては生活雑貨・家具、ファッションは20~30%ほどのEC化率である一方で、B to Bでは15%にとどまっており、goooods社が対象とする雑貨、ファッションなどの業界ではEC化率が伸びる余地が十分存在すると考えられます。

      1. B to B卸業界の動向

      海外でも同様の課題感から雑貨やアパレルなどを扱うB to BEC市場が立ち上がっており、米国ではFAIRE、欧州ではAnkorstoreなど、デカコーン、ユニコーンが誕生しています。両社ともに中小企業向けに雑貨・アパレル商品を対象にECプラットフォームサービスを展開しており、今後日本でも同様のサービスへの需要が高まっていくと想定されます(図2

      2 海外の類似企業

      現状、日本のB to B卸業界では、大企業と中小の事業者で取引におけるシステムの活用状況が異なっています。
      大企業では、投資体力やその仕入れの種類・数量の大きさから受発注システムへの投資が進んでおり、EDIと呼ばれる大量かつ、繰り返しの多い受発注を自動的に行えるシステムを用いて受発注業務を効率化しています。

      一方で、中小の事業者においては一部の業務に特化した効率化ツールの導入が進む一方で、商品の発掘・販売から受発注、入出金管理までを一貫して行えるプラットフォームが少なく、セラー側とバイヤー側でそれぞれ課題が発生しています。

      セラー側の課題

      • 受発注業務: 売上向上につながる営業やマーケティングに時間をかけたい一方で、注文処理から発送処理、入金管理の業務に追われ、深夜まで作業する場合もあり
      • 入出金管理: また、現状紙やエクセルで取引管理しているため、作業の非効率性に加えて入金漏れが発生し、確認漏れへの不安からバイヤー側への催促もしづらく、売上損失も発生
      • 商品拡販: 商品を全国に拡販したいが、営業人員不足や展示会への参加費用や時間をねん出できない。また、こだわりのあるブランドをこだわりを持って陳列・販売してくれる質の高いバイヤーを探すのが難しい

      バイヤー側の課題

      • 商品発掘: 魅力的なブランドや売場のテイストに合った商品、売れ筋商品を仕入れたいニーズがあるが、展示会での参加には時間や費用が掛かり、またオンラインでは情報が十分でなく、探しきれない
      • 受発注業務: 問い合わせや取引条件の交渉が手間。発注・経理作業が手間
      • 資金繰り: 発注管理や経理業務に時間がかかる上に、業界構造上前払いが多く、資金繰りにも苦労

      各業界の卸事業者の減少を踏まえると、当該課題に対する意識はより大きくなっていくと考えられます。

      図3. B to B取引における中小事業者(セラー、バイヤー)の課題

      2.プロダクト概要とgoooods社の強み

      前述したペインを解決すべく、goooods社は中小事業者を主な対象に、魅力的なブランドのマッチングから受発注DX、資金繰りまでをワンストップで支援するB to BECプラットフォーム『goooods/グッズ』を提供しています。

      主な特徴は以下の3つであり、卸業務における各プロセスのペインに対して一貫して解決可能なECプラットフォームを提供しています。

      1.エッジのある魅力的なブランドの発掘 / 拡販

      バイヤー

      • AIを活用し、バイヤーのセンスや店舗のテイストに合うブランドの発掘が可能
      • 新規購入ブランドであれば、30日間お試し可能

      セラー

      • 魅力的なブランドストーリーや豊富な商品説明
      • 全国や海外も含めた新しいバイヤーの獲得

      2.受発注管理業務の効率化

      • 取引先とのコミュニケーションや取引関連書類の発行や管理が一元化でき、付加価値の高い業務(商品発掘、接客やマーケティングなど)に注力可能
      • 顧客に応じた取引条件のルール化ができ、条件のきめ細かい設定が可能

      3.資金繰り支援

      • 支払・入金状況の可視化により、入金や支払い漏れを防止
      • バイヤー側は支払い期間を最大60日間まで延伸可能

      4. goooods/グッズ』のウェブサイトイメージ

      また、goooods社は非常に開発力の高いチームのもと、UI/UXやデザインの優れたプラットフォームを構築できています。加えて、AI/MLを活用したアルゴリズムによって、バイヤーのセンスを元にした商品提案が可能になり、バイヤー側の訪問頻度も非常に高く、根強いユーザーの獲得に成功しています。

      ECプラットフォームは、構造的にセラーとバイヤーを獲得するにつれてプラットフォームの価値が高まる事業モデルであり、一度軌道に乗れば急速な成長を実現し、winner-take-allになる可能性を秘めています。実際に海外の類似企業であるFAIREAnkorstoreでもネットワーク効果が働き、加速度的な成長を実現しています。

      3.経営陣

      goooods社には有数のテック企業での経験を持ち、スタートアップの創業からExitまでの経験がある経営陣が集っています。

      菅野CEOは、前職FIVE社を2014年に起業し、わずか3年でLINE社に大型売却した優秀な連続起業家です。FIVE社は、現在公開されている20142023年のスタートアップの売却額でも上位に位置するなど、成功したM&Aの一つになっています(図6)。
      菅野CEOは、非常にロジカルである上に、創業初期に泥臭く営業に同行するなど、行動力も高い優秀な経営者です。

      また、ワークスアプリケーションズや動画DSPスタートアップのリードエンジニアを経てFIVE社を共同創業した松本CPO/CTOや、PwCおよびBooz Allen Hamiltonで戦略コンサルタントとして従事し、GoogleAmazonなどのテック企業を経た埜々内 CCOなど。優れた経営陣がそろっています。経営チーム以外のメンバーに関しても、FIVE社のコアメンバーが在籍しており、スタートアップでの経験が豊富なチームとなっています。

      5. goooods社経営チーム

      6. 過去10年間のスタートアップのM&A額上位15社(非公開案件除く)

      4.おわりに

      B to Bの卸市場は、非効率なオフライン取引、アナログな作業が中心で、EC取引やDXによる生産性の向上余地が大きく残る市場です。また、コロナを契機に、特に中小事業者を中心に商品発掘・販路開拓や受発注効率化、資金繰りに対する課題がますます浮き彫りになりました。上記の課題感からECでの取引や受発注業務のDXは今後加速していくと考えられ、B to Bの取引においても、ECプラットフォームが今後重要性をさらに増していくと考えられます。

      goooods社は、LINE社に前職のFIVE社を売却した経験をもつ連続起業家の菅野CEOを筆頭に有数のテック企業やスタートアップでの経験が豊富な経営陣のもと、巨大なB to B卸業界の変革を粘り強く成し遂げていけると、我々も期待しています。

      Angel Bridgeは社会への大きなインパクトを創出すべく、難解な課題に果敢に挑戦していくベンチャーを応援しています。
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      2024.04.10 COLUMN

      自己紹介

      第1弾第2弾に続き、今回はAngel Bridgeにて2022年12月から2024年1月まで約1年間インターンを経験した、二人のインターン生がインターン体験記事をお送りします。

      河村こんにちは。東京大学法学部4年の河村有里子です。2024年4月から外資系投資銀行に入社予定です。

      瀬川皆さん、こんにちは!瀬川と申します。東京大学経済学部に所属し、同じく2024年4月から外資系投資銀行に入社予定です。

      今回は私たちがAngel Bridgeでの1年間のインターンについて、業務内容やインターンを通した学びを共有しようと思います。近年は長期インターンがポピュラーとなっている一方で、インターンがどのような業務内容でどんな学びが得られるのかが見えにくく、不安を持っている方もいらっしゃるのではないかと思います。この記事を通して、Angel Bridgeのインターンについて興味を持っていただけると幸いです。

      Angel Bridgeのインターンに応募した経緯

      河村

      まずAngel Bridgeに応募したきっかけについて話していきたいと思います。
      私は、就職後の足腰を鍛える、スタートアップへの理解を深めるという2軸でインターンを探していました。

      第一に「就職後の足腰を鍛える」ですが、これはプロファームで仕事をするにあたってのマインドセットを鍛えることが主な目的でした。

      そのためには、「優秀なメンバーのいるチーム」で「責任感を持って働くこと」が重要だと考えていました。その点、Angel Bridgeは他の企業と比べて、少数精鋭で戦略コンサルや投資銀行出身の方が多いVCであったこと、インターン生に対する要求水準が高く、良い意味で学生扱いされないように感じたことが、印象的でした。また、過去のインターン生が実際にコンサルファーム等で活躍している話を聞き、ジョインしたいと思うようになりました。

      実際に入社してみても、主要な会議に全て参加できたり、タスクベースではなく課題ベースで仕事を依頼されたりと、会社の全体像を把握しながら、自分の頭で考えて業務を遂行する必要があり、まさに期待通りの環境でした。自分が取り組みたい業界や案件があれば、ある程度自由に手を挙げて関わることができた点も良かったです。

      第二に「スタートアップへの理解を深める」ことについてです。周囲に起業したり、ベンチャー企業・VCでインターンする人が増え、多くの資金が流入している業界や技術トレンドの話を耳にすることがあり、自分も最先端の領域についての見識を深めたいと思うようになりました。情報の流れが速いスタートアップの世界は、しっかりと内部に入らなければ詳しくなれないと考え、学生生活の残り1年はベンチャーキャピタルで働こうと決意しました。

      瀬川

      Angel Bridgeのインターンに応募したきっかけはサークルの知人の紹介でした。実際に応募した理由は次の2点です。

      第一に既に投資銀行に内定しており、入社前に社会人としての基本的なスキルを身に付けたかったためです。Angel Bridgeは代表パートナーの河西を中心に、プロファーム出身のキャピタリストが在籍しており、プロファームの働き方を学べそうだと感じていました。

      第二に以前マーケティング企業でインターンをしていた際に、営業活動でスタートアップの方と話す機会が多く、スタートアップビジネスに興味を持っていたためです。大企業が腰を据えて取り組めないニッチ分野を掘り起こして大きなビジネスに育て上げる過程に興味がありました。様々な業界のスタートアップに触れてみたかったのでVCは最適な環境だと考えました。

      インターンを通じて身につけたいことや知りたいことを明確に考えることが、インターンでの学びを最大化する秘訣ではないかと思います。応募を考えている方はインターンを通じて何を学びたいのか考えておくと良いでしょう。

      Angel Bridgeでの業務内容

      Angel Bridgeのインターンは全ての投資業務に関わっています。

      ソーシング

      ソーシングとは投資先候補を探すことを指します。具体的にはスタートアップのロングリストを作成し、話を聞いてみたい企業をピックアップします。私たちはインターンとして、ロングリストの作成や企業の評価付けを行いました。初めはビジネスモデルを理解するのに時間がかかり大変でしたが、慣れてくると強弱をつけて情報を見ることができました。

      また最新のトレンドを知り、投資に生かすために、高いリターンを出している海外VCの投資先を調べ、業界トレンドや先進的なビジネスモデルの勉強も行います。

      他にはスタートアップとの面談にも同行します。インターンの業務としては議事録をとり、社内報告用のメモにまとめます。この際に担当キャピタリストと議論を行いながら、どのような点が評価できるか、一方で懸念点は何かなどを考えます。このような経験を通して、短期間でビジネスモデルの本質を見抜き、まとめる力がつきます。

      投資検討

      次のステップとして、業界リサーチを行います。キャピタリストから依頼された調査事項を元に、市場環境は魅力的なのか、競合は誰でどのくらい脅威かなどを定性/定量的に調べていきます。

      簡易なリサーチやスタートアップの経営陣との議論の中で投資の確度が高まってくると、本格的な投資検討(デューデリジェンス)に入ります。スタートアップの経営陣から貰ったデータを元に、エクセルでKPIを計算し、考察を行います。それらをパワーポイントやワードなどでビジュアライズし、投資会議に向けた論点の整理/検証を進めていきます。

      検証の結果、ぜひ投資したいスタートアップに巡り合うと、投資の妥当性を説明するための投資委員会資料を作成します。インターンは担当キャピタリストが作ったストーリーを元に、根拠となる分析やチャートを作成します。市場環境や競合リサーチなど自分が特に注力して調べたスライドは、何を書くべきかについてゼロベースで考え、キャピタリストと議論を行います。

      図1 不動産の売買仲介市場の構造

      マーケティング

      記事作成

      ベンチャーキャピタルについての理解を深める記事(スタートアップアカデミー)や、なぜAngel Bridgeが投資したかを説明する記事(投資の舞台裏)を書いています。キャピタリストにベンチャーキャピタルの業務についてインタビューをしながら記事を書くので、ベンチャーキャピタルにおける投資の意思決定への解像度が上がります。

      マーケティング数値分析

      記事は作成するだけで終わりではなく、どれだけ読まれたのかを分析/改善することでPDCAを回していきます。具体的にはPV数などの各種KPI数値を時系列で取得し、数字が変化した要因は何か検討したり、その要因を踏まえた上で次はどんなテーマで記事を書くのか議論を行ったりしています。

      インターンでの学び

      仕事への姿勢

      自分で仕事を獲得する

      主要なMTGに参加し常に会社の全体像を把握できるため、自分で仕事を見つけやすいです。先回りしながら自分ができる業務はないか、面白そうな仕事はないかを見渡していました。

      定期的に実施されるキャピタリストとの1on1などで最近注目しているスタートアップ・業界をヒアリングし、自分の興味がある業界であれば、ぜひリサーチやデューデリジェンスに参加したいという意思表示をするよう心がけていました。もちろん会社の為に何ができるのかを考える事は必要ですが、主体的に自分がやりたいことを見つけ、楽しく仕事ができるかも等しく重要だと思っています。

      また、自分がイベントで出会った企業の中で、良いと思った企業の投資検討も行いました。それまでにサポートした投資検討での経験を活かし、社内メンバーに企業の概要や投資すべき理由を説明したり、貰ったデータを元にKPIを分析しました。結果的に投資には至りませんでしたが、手探りの中、自分で主導権を握って仕事を進める良い経験になりました。

      さらに、面白そうな仕事を探すだけでなく、やるべき仕事に気づくという観点もあります。マーケティングはインターンが主導する場面も多く、それ故に課題に気づくことが多くありました。HPの改変や記事のヘッダー作成など、細かい点をアップデートしていきました。次期のインターンがスムーズに業務を理解できるようなマニュアルの作成など、投資業務の合間に自分が見つけた課題を少しずつ潰していきました。

      タイムスケジュール管理 ・マルチタスク 

      インターン中は常に複数のプロジェクトにジョインしていたため、マルチタスクをこなすスキルが身につきました。仕事の工数を推測し、社員とのタッチポイントを自分からセッティングし、求められるクオリティのものを期限内に出す。当たり前のことですが、複数のプロジェクトに入っていると最初のうちは慣れなくて大変でした。インターンを続ける中で、優先順位の付け方や自分のキャパシティの見極め方が徐々に分かるようになり、マルチタスクができるようになりました。社会人になる上で必須の力なのでAngel Bridgeで鍛えることができてよかったです。

      知識

      リサーチする中での業界理解 

      IT企業は複雑な構造をしている業界も多く、パッと見ただけではビジネスモデルの本質が見抜けないことも多々あります。Angel Bridgeのキャピタリストはコンサルティングファーム出身者が多いため、どのような項目を検証すべきかなどの見立てが上手く、短時間で深い示唆を出すことができていました。そのような方のリサーチをサポートすることで、ビジネスモデルのどの部分を見るべきか、どうしたら短時間で検証項目の結論を導き出せるかを学ぶことができました。

      起業に関する知識

      スタートアップとの面談や社内議論に参加することで、実際に投資家が何を見ているかを知ることができました。また、投資委員会に向けた資料作成やVCファイナンスに関する記事執筆を通してVCファイナンスについて知識を得ることができました。起業に対しての解像度が上がり、将来起業することやスタートアップで働くことへのハードルが下がったように感じます。

      図2 キャピタリストとのディスカッション

      その他

      ハードスキル 

      初めにエクセル講座やパワーポイント講座を開催していただいたので、ショートカットをすぐに習得することができました。また業務を通して膨大なエクセルとパワーポイントを作成し、都度フィードバックを受けるので投資銀行やコンサルに就職する方にはとても有用だと思います。

      起業家と話す機会 

      Angel Bridgeでは、BBQやフットサルなど多くの社内イベントがあります。インターン生も毎回参加し、多くの起業家と話します。どういう経緯で起業したか、会社をやっていく中で辛かったことは何かなど、リアルな経験談を気軽に伺うことができます。

      図3 投資先の皆様との懇親会の様子

      優秀な社員やインターン生との交流

      Angel Bridgeの社員は優秀でフレンドリーな方ばかりです。社員の方から伺う仕事への思い入れや、プロフェッショナルファーム時代の体験談は今後社会人として働く中で大きな糧になると思います。また、インターン生も意識の高い学生ばかりなので良い刺激をたくさん受けました。

      図4 インターン卒業時の送別会

      インターンに応募してほしい人

      Angel Bridgeのインターンは以下のような人に特におすすめです。

      ①コンサル・外銀などプロフェッショナルファームに入社予定がある、または目指している方:Angel Bridgeのキャピタリストはプロフェッショナルファームで活躍していた経験を持つ方ばかりです。エクセルやパワーポイントなどのハードスキルから、仕事の進め方やプロフェッショナルとしての心構えなどソフトスキルまで、ビジネスマンとしての素養を磨く素晴らしい機会となるはずです。

      ②起業・VCを将来のキャリアとして検討している方:Angel Bridgeのインターンでは、他VCに比べ、より投資業務の本質的な部分に関わることができます。インターン生はキャピタリストと共にDDを進め、投資検討のための会議に参加することで投資家としての目線を培うことができます。

      ③学生時代に本気で取り組めることを探している方:Angel Bridgeのインターンは原則週3以上の出勤がマストとなっております。(試験・旅行の際は事前に申請すれば調節可能です)業務内容も本格的で取り組みがいがあるものばかりなので、インターンに本腰を入れて取り組みたい方におすすめです。

      最後に

      Angel Bridgeでは本格的にVC業務に関わることができ、優秀なキャピタリストからプロフェッショナルとして働く心構えやスキルを学ぶことができます。エクセル講習など研修プログラムもしっかりとしているため、これまでインターンをしたことが無い方でも安心して応募してくださいね。

      また、社員の方は皆さんフレンドリーでランチや飲み会もよく誘ってくれ、1on1などでは親身に相談に乗ってくれます。こうしたAngel Bridgeならではのネットワークもインターンの大きな魅力です。

      この記事を読んでAngel bridgeのインターンに興味を持った方はぜひホームページTwitterから応募してみてください!

      2024.04.09 INVESTMENT

      2023年9月に、Angel Bridgeの投資先であるクラフトバンク株式会社(以下クラフトバンク社)が、シリーズAラウンドにおいて累計14.2億円の資金調達を発表しました。Angel Bridgeも本ラウンドにおいて出資しています。

      クラフトバンク社は、専門工事会社向けの経営管理SaaS 『CraftBank Office』 の提供を行う建設テックスタートアップです。従前、アナログで非効率なツールを組み合わせて行っていた事務作業を一元管理し、スマホで完結するプロダクトを提供しており、職人や経営者の事務作業負担の削減によって、専門工事会社の売上成長を目指します。

      建設業界では、高齢化や労働人口の減少に伴う人材不足の深刻化により、長時間労働が常態化しており、改善の困難さから「働き方改革関連法(2019年4月施行)」の適用に5年間の猶予期間が取られていました。

      2024年4月より適用が開始された事から、「2024年問題」と称して労働環境の是正が目指されましたが、思うように解決されていないのが現状です。今回の投資が、クラフトバンク社の成長を促進し、建設業界の作業効率化、働き方改革の一助になる事を期待しています。

      この記事では、Angel Bridgeがクラフトバンク社に出資した背景について、専門工事会社を取り巻く環境と、クラフトバンク社の強みに焦点を当てて解説します。

      建設業界の市場構造

      まず、建設業界の全体像を説明します。

      建設業界は、下図のように大きなピラミッド構造となっており、実際の工事実務を担うのは、二次請け以下の専門工事会社になります。専門工事会社では、大工や左官などの職人を中心とした10-20人程度の規模の会社が多く存在しています。クラフトバンク社は、この専門工事会社向けに、事務作業の効率化サービスを提供しています。

      建設業界の市場構造

      次に、市場の概要を見ていきましょう。

      上図で表されているように、専門工事会社の数は非常に多く、巨大な市場となっています。
      建設業の会社数から見ると、コアターゲットとなる会社(個人事業主ではない資本金3,000万円未満の企業)だけでも22万社あり、社会基盤を支えている工事実務は、実は専門工事会社に下支えされています。また、下請完成工事高(国土交通省「建設工事施工統計調査報告」の定義に準拠)の事務作業市場から見ても、事務作業市場の規模は3兆円と、巨大な市場となります。

      クラフトバンク社の事業概要

      ここからは、クラフトバンク社の事業について詳しく説明していきます。

      先ほど見た、巨大な市場における大きなペインは、「事務作業負担が重く、職人・経営者共に本業に集中できないこと」です。多くの工事会社は、アナログで非効率なツールを複数組み合わせて管理せざるを得ず、職人の労働時間のうち31%を事務作業が占めています。

      建設業界では、長らく労働環境が厳しく、長時間労働や危険な作業環境、過重労働が懸念されてきました。これに加えて、若手労働者の離職率が高まり、同時に技術者層が高齢化しているため、新たな人材確保が難しく労働力不足が顕著になっています。

      政府は、この問題を解決するため、2019年に施行した「働き方改革関連法」において建設業界も対象とし、「時間外労働の規制」を5年の猶予を付けて実施しました。しかし、ほとんどの企業でこれに対応する取り組みが進まず、建設業界はいわゆる「2024年問題」に直面しています。執行猶予の期限である2024年3月末までに、建設業界が働き方改革に本格的に取り組む必要が求められていました。

      このような状況下で、事務作業の効率化などを提供するサービスへの需要は高まっており、職人、経営者の双方が本業に専念するための支援が一層必要とされています。クラフトバンク社は、専門工事会社における様々な事務作業(案件管理、見積書・請求書作成、勤怠打刻など)をスマホ完結で一元管理できるサービス『CraftBank Office』を提供しています。事務作業の効率化と業務のスムーズな進行を実現するこのサービスは、2024年問題を解決する一助となるため、そのニーズは高まる一方です。

      CraftBank Officeは、現場向けと経営向けにそれぞれ提供されており、優れたUIで職人も使いこなせる上に、クラウドで情報を一元管理できることによって、現場ごとのデータを自動的にレポート化することが可能です。

      リリース以来、プロダクトのラインナップも急速に拡大しており、ユーザーの利便性を高めてきました。 CraftBank Officeは、SaaSでありながら、カスタマイズして提供しているという特徴もあります。中小企業が主体となる専門工事会社は、案件管理や見積書・安全書類など、百社百様の書類と業務フローが組まれており、さらに歴史のある企業では数十年前からの自社のオペレーションがなじんでいるという一般的なSaaSには不向きな市場と言えます。

      それゆえに、SaaSに合わせて業務フローを変えるのではなく業務フローに準拠した形でSaaSを提供するということに着眼しました。「SaaS」と「カスタマイズ」という一見矛盾するコンセプトを実現するため、CraftBank Officeの開発基盤は実装難易度が高い一方で、ローコードで非エンジニアでもカスタマイズ可能な設計で開発されています。CSがユーザーの業務フローや要望を要件整理した上で各社に合ったプロダクトを提供している点が CraftBank Officeの最大の特徴であり、DXが進んでいなかった専門工事の業界に風穴を開けるカギだと考えています。

      投資検討の際には、CraftBank Officeの導入後、活用度合いが高い会社とあまり利用していない会社の両方に複数社ずつインタビューを行いました。初期はPMFの検証のために、専門工事会社以外にも導入が進んでいたこと、それによって適合しにくい業態があることを理解しました。一方で、直近に獲得したユーザーでは優れたUIによる導入のしやすさ、カスタマイズ性の高さが強く評価され、満足度高く利用されていました。

      事業の強み

      続いて、クラフトバンク社の優位性に関してです。

      建設業向けに業務効率化・ソフトウェアを提供している企業という観点では、多くの素晴らしい企業があります。その多くは設計や工事管理を中心とした元請企業を対象としています。近年の建設DX気運の高まりも相まって、元請側の業務効率化は相当進んだと認識しています。

      一方で、工事実務を行う専門工事会社は、SMBを中心とした市場ということもあり、なかなか業務効率化が進まなかった市場です。クラフトバンク社は、この市場に着目し、工事会社の現場と経営を中心としたSMB市場にサービスを提供していることから、プロダクトの設計が全く異なります。

      米国の市場を見ても、元請け向けのプロダクトと工事会社向けのプロダクトは別のものとして棲み分けがなされており、日本国内においても両者が競合することはなく、今後も棲み分けがなされていくものと考えています。

      建設業界向けにソフトウェアを提供している会社という観点では、ANDPAD、SPIDERPLUSなど多くの企業が活躍されていますが、どちらも元請の会社を対象としたツールを提供していることから、クラフトバンク社とは対象としている市場が異なると考えています。

      SMB市場に着眼を置いた戦略設計を行っているということから、クラフトバンク社では、オンライン工事マッチング「Craft-bank.com」や全国30都道府県で週2回以上・計100回以上開催しているオフラインイベント「職人酒場」を展開しています。
      これにより、地域都市の建設工事会社との強固な繋がりを構築していることは、Webマーケティングが通用しないこの業界でユーザー獲得を進めるにあたって、非常に大きな強みです。

      これらの理由から、先行する建設DX企業が将来的に競合する可能性は高くはなく、むしろ連携を図っていくことで建設業界全体の業務効率化が一気に進んでいくものと考えています。

      経営陣/メンバー

      Angel Bridgeがクラフトバンク社に投資するにあたり、経営チームへの理解も深めました。

      Founder/代表取締役の韓さんは、東京大学 大学院 建設学専攻を修了し、リクルートに入社。SUUMO事業・経営企画・国内新規事業を経て非HR領域の東南アジア・欧州展開を主導し、自ら買収ディールを行ったQuandoo GmbHでMDを務めます。その後、内装工事会社・ユニオンテックに経営参画し代表取締役を経験され、そこからIT部門をMBOして設立したのがクラフトバンクという会社です。事業経験、経営経験が豊富で、かつ内装工事会社の当事者として業界にも深く入り込んで解像度高く顧客を理解していることが強みとなっています。

      各業界で経験を積んだ強力なメンバーも多数参画しています。CPOの武田さんや、VP Partner Salesの田久保さんといった若い経営陣が事業を主導していることからも、優秀な若手を巻き込む力も持ち合わせていることがわかります。

      複雑で参入障壁の高い建設業界において、頭脳明晰で事業推進力が高いのはもちろんのこと、業界の当事者としての経験を併せ持ち、ウェットな関係性を構築し信頼を得ることのできる韓さんは、まさにこの業界にフィットした経営者であり、本事業を進める上でこれ以上ない人物であると考えました。

      おわりに

      最後に、Angel Bridgeの今回の投資のポイントをまとめます。

      1つ目は、巨大な市場があり、その中で独自のターゲット層にアプローチできていることです。建設業界という非常に大きなピラミッド構造の中で、クラフトバンク社は二次請け以下の専門工事会社向けにサービスを展開しています。この層の会社数は多く、コアターゲットとなる会社(22万社)の事務作業市場で3兆円のTAMが存在します。クラフトバンク社は、この層をターゲットとして領域横断型のプロダクトを提供することでポジションを確立しています。2024年問題に代表されるように、建設業における事務作業の効率化ニーズは急増しており、旧態依然とした働き方の変革を求める現場からの声は大きいです。このペインを解決する意義は大きいですし、今後成長が見込まれる魅力的な市場だと考えています。

      2つ目は、優れたプロダクトで急速に市場に受け入れられていることです。CraftBank Officeは、SaaSでありながら、カスタマイズして提供しているという特徴があります。これは、簡単に業務フローを変更できない一方で、業務効率化したい専門工事会社の内実に沿った設計になっています。また、プロダクトのカスタマイズはローコードで行えるため、各社へのカスタマイズ工数が各段に少なくなります。こういった使い勝手の良さに加え、充実したCSによるカスタマイズ性の高さによって、DX化の進んでいなかった専門工事の市場に風穴を開けたプロダクト力を、高く評価しました。

      3つ目は、優秀な経営チームです。代表の韓さんは、経営者としての豊富な経験に加え、建設工事会社の当事者として経営された経験も持ち合わせています。故に、「職人酒場」のような業界特性にマッチした戦略設計を行い、業界からの信頼を得ることに成功しています。複雑で参入障壁の高い建設業界に、これ以上なくフィットした人物だと判断しました。CPOの武田さんや、VP Partner Salesの田久保さんなどの若手経営陣に韓さんが思い切った権限移譲ができていることも評価しています。組織を俯瞰して考えることのできる優秀な若者が育っていることは、今後組織が拡大していく上での大きな強みとなります。

      以上の観点から、クラフトバンク社が専門工事会社向けのSaaSを中心に建設業のDX化を推進し、専門人材活用・生産性向上を果たすとともに、メガベンチャーとなる可能性が非常に高いと考え、投資の意思決定をしました。

      Angel Bridgeは、社会への大きなインパクトを創出すべく、難解な課題に果敢に挑戦していくベンチャーを応援しています。ぜひ、事業戦略の壁打ちや資金調達のご相談など、お気軽にご連絡ください!

      2024.04.03 INVESTMENT

      2024年4月に株式会社GenerativeX(以下GenerativeX)は、シードラウンドにて1.2億円の資金調達を発表しました。Angel Bridgeも本ラウンドにおいて出資しています。

      GenerativeXは大企業における生成AI活用に特化したコンサルティングやDX支援を提供するスタートアップです。生成AIの市場は急速に立ち上がっており、生成AIを活用した業務効率化ニーズは大企業も含めて大きいといえます。GenerativeXは生成AIネイティブなプロファームとして、創業1年で各業界のトップ企業と取引を行うなど急速にビジネスを展開しています。

      今回の記事では、Angel BridgeGenerativeXに出資した背景について、企業の生成AI活用を取り巻く環境とGenerativeXの強みに焦点を当てて解説します。

      企業の生成AI活用の動向と課題

      生成AIとは、学習済みのデータを活用し、文章や画像・音声など様々なコンテンツを作り出すことができる人工知能技術の一種です。精度・スピード・使いやすさが劇的に向上したことで注目が高まり、本領域で多くのユニコーン企業が誕生しています。例えばテキストから画像を生成するStable Diffusionを提供するstability.ai社や、SEOに最適化されたコンテンツなど、高品質な文章作成が可能なサービスを提供するJasper社などが挙げられます。直近では202211月にOpenAI社がChatGPT-3.5を公表したことにより、全世界的に生成AIに対する注目度が高まりました。

      生成AIは今後も急速な需要の拡大が予想されており、特に大企業においては非常に関心が高い状況です。比較的先進的なITの活用が進むIT系の企業のみならず、銀行や自治体などIT系以外でも既に生成AIを活用した業務効率化の取り組みがはじまっています。社内文書の作成やプログラミングコードの自動生成、営業が用いるセールストークスクリプトのアイデア出しなど幅広い分野での活用が想定されており、各社で生成AIを活用することで得られる効率化について試算がなされています。

      しかし、生成AIの活用が十分に進んでいる企業はまだまだ少数派です。既存のDXプレイヤーであるSIerAI受託開発企業、学生ベンチャーなどでは、生成AIに関するサービス提供価格・スピード・クオリティに課題があり、結果として大企業における生成AIの活用は進んでいません。そこでGenerativeXは既存プレイヤーのこのようなボトルネックを解決すべく、生成AI分野に特化して組織構築を進め、安価でスピーディ、そして高品質なサービスを提供しています(1)

      1 既存のAI開発・コンサル企業の課題

      以上のように、生成AIを活用した大企業DXは大きなポテンシャルがあるものの、そのニーズに応えられているプレイヤーは少なく、GenerativeXにとっては非常に魅力的な市場環境と考えています。

      GenerativeXの事業概要

      GenerativeXは生成AIに特化した受託開発やコンサルティングを企業向けに提供しています。環境整備から要件定義、ユースケースの洗い出し、PoC実施、その後の運用改善まで一気通貫したサービスとしてプロジェクトを遂行することで、顧客と長い接点を構築しDXを実現しています。具体的にはプロンプトの研修やDX企画・コンサルティング、そしてPoC開発・検証・システム化のメニューを企業のニーズに合わせて提供しています(2)。結果としてGenerativeXは創業から1年という短期間で各業界トップクラスの大企業をクライアントに持つに至りました。

      2 GenerativeX提供サービスの特徴

      このように事業を成功させつつあるGenerativeXは、生成AIネイティブな組織構築とマーケティングへの積極投資を通して、①安価で安く提供できる機動力、②大企業向けの営業力、③既存ソフトウェアと融合させる技術力、④豊富な導入事例の4つの強みを発揮しています(3)

       

      3 GenerativeXの競合優位性

      AI受託開発やコンサルティングを行う会社は複数ありますが、その中でも巨大な市場ニーズが見込まれる生成AI市場に焦点を当て、大企業のニーズに応えられるハイレベルなサービスを提供できる企業はあまり存在しません。その中でも特にGenerativeXは技術とビジネスの両方を理解したメンバーによるプロフェッショナルサービスを提供できる稀有な企業であり、既に大企業への豊富な導入事例があることも相まって、多くのクライアントを獲得しています。

      トップ企業からの受託・コンサル型の事業を起点として、今後は各業界・業務に即したSaaSの展開や海外展開、生成AIが広く浸透した後に必要となるインフラを提供していくことも視野に入れています。

      経営陣

      GenerativeXには技術面とビジネス面の双方の専門性を兼ね備えた、非常に優秀で強力な経営陣が集まっています。荒木CEOは投資銀行出身のビジネスマンでありつつテクノロジーにも明るく自らコードも書きます。さらに、過去に一度スタートアップを起業しており、経験も踏まえ、自分の強みや弱み、ベンチャー運営に対する勘所も押さえられているシリアルアントレプレナーです。共同創業者の上田CSOはコンサルティングファーム出身のビジネスマンでありつつ、直近は松尾研究所の経営企画のコアメンバーとして新規技術の社会実装についての戦略策定や社内事業の改善を経験した人物です。小坂CTOはリタリコやByteDanceなど優秀なエンジニアが揃う組織でのエンジニア経験が豊富な人物です。小坂CTOは荒木CEOの前回起業時も1人目社員として参画しており、荒木CEOのリーダーシップと周りの人の巻き込み力が伺えます。この優秀な経営チームがGenerativeXの強みの源泉となっています。

      3人は同じ大学院出身ということもあり、学生時代から10年来の付き合いを経て企業に至っています。非常に優秀なだけではなく強い信頼関係がチームの強みの源泉となっていると考えています。

      4 GenerativeX経営チーム

      おわりに

      最後に、Angel Bridgeの今回の投資のポイントをまとめます。

      1つ目は、優秀な経営チームです。シリアルアントレプレナーならではの強みを持ち、能力の高さと強いリーダーシップを兼ね備えられた荒木CEOに加え、事業戦略の策定経験が豊富な上田CSO、エンジニアとして多数のキャリアを積まれた小坂CTOがそれぞれ違う強みを持ち合い、一丸となって強いコミットメントでこの事業に挑戦していることが最大の武器となっています。これだけ強力なメンバーが創業初期から揃っていることはそう多くはないと思いました。

      2つ目は、生成AIを活用した企業のDXには巨大な市場ニーズがある点です。生成AIの市場は足元で急速に立ち上がり、大企業を中心に生成AIを活用した業務効率化などに強いニーズがあります。一方で十分な生成AIの活用が行えている企業は少なく、大きな市場を狙えるチャンスがあります。

      3つ目は、急速に立ち上がるトラクションです。創業から1年の短期間で業界トップクラスの大企業から複数案件を受注し、既に一定の売上高を見込んでいます。初期からこれだけ大手企業と取引できるスタートアップはそうはありません。GenerativeXの技術/ビジネス両面でのケイパビリティの高さを示す何よりの証拠だと考えています。

      以上の観点から、GenerativeXが大企業の生成AI活用/生産性向上のエネーブラ―となり、GDP向上に大きく寄与する存在となることを信じ、またその想いに共感し、投資の意思決定をしました。

      Angel Bridgeは社会への大きなインパクトを創出すべく、難解な課題に果敢に挑戦していくベンチャーを応援しています。ぜひ、事業戦略の壁打ちや資金調達のご相談など、お気軽にご連絡ください!

      2024.02.21 INVESTMENT

      2024年2月21日にAngel Bridgeの投資先である、株式会社Facilo(以下Facilo社)がシリーズAラウンドにおいて12億円の資金調達を発表しました。Angel Bridgeも本ラウンドにおいて出資しています。

      Facilo社は不動産売買仲介会社向けの業務効率化SaaS『Facilo』の提供を行う不動産テックスタートアップです。物件の提案から内見調整、顧客コミュニケーションまでの業務を一貫して効率化できるプロダクトを開発・提供しており、生産性と顧客体験の向上によって不動産売買仲介会社の売上成長を目指します。

      今回の記事では、Angel BridgeがFacilo社に出資した背景について、不動産売買の代理・仲介業界を取り巻く環境とFacilo社の強みに焦点を当てて解説します。

      不動産売買の代理・仲介業界の動向と課題

      土地・住居・商業利用を含む不動産代理・仲介業の市場は、不動産価格の高騰や東京五輪需要により、過去10年で2倍近くに成長し数兆円規模で安定的に推移しています。

      不動産代理・仲介業は売買と賃貸に区分されており、さらにその中でも建物と土地に分類され、各々の市場が異なる市場特性を持っています。Facilo社が対象とする売買仲介の領域は約1.2兆円規模であり、最も大きいカテゴリとなっています。

      また不動産売買の代理・仲介業界は上位30社程度の大手企業で市場規模の半分以上を占める構造である一方で、Facilo社のプロダクトの対象となりうる中小企業も2万社以上と多く存在しています。(図1)

      図 1 不動産売買仲介市場の構造

      不動産営業の過酷さ・難しさは人気漫画『正直不動産』などでも描かれており、広く認識されてきました。主な課題としては、長時間労働・残業の慢性化とそれに伴う人材不足が挙げられます。特に長時間労働・残業の慢性化については、パーソル総合研究所の調査において、サービス残業の月平均時間が調査対象の14業種のうちワースト2位(10.3時間)と深刻な状態です。

      このような状況に加えて、近年は働き方改革への意識の高まりやコロナの影響もあり、不動産業界においても業務効率化の機運が高まっています。集客の効率化や契約の電子化など、一部の業務においてDX化が進んでおりますが、提案・内見調整業務はまだ生産性が低く、DXによる改善効果が最大化できていない状況です(図2)。

      前述した大手企業や中小企業それぞれ同様の課題を抱えており、Facilo社はこうした不動産業界のボトルネックを解決すべく、大手企業にも訴求可能なプロダクトを提供しています。

      図 2 不動産売買仲介業界の課題

       

      プロダクト概要

      Facilo社は不動産仲介の煩雑な情報を一元化・可視化できるコミュニケーションクラウド「Facilo」を開発・提供しています。
      現場課題を深く理解し、それを解決する機能を素早くプロダクトに落としこむことで、ユーザーのエンゲージメントが極めて高く、誰でも使いやすいUI/UXを実現しています。結果として、大手企業ではトライアルから全店導入につながっており、高い付加価値の証左になっています。

      主な特徴は以下の4つになります。    

      図3 コミュニケーションクラウド「Facilo」の特徴

      こうした機能により、Faciloは物件の提案から内見調整に至るまでの業務を一貫してサポートします。他社製品では特にCRM(Customer Relationship Management; 顧客関係管理)に主眼が置いてある場合が多いのに対し、Faciloは実際の顧客とのコミュニケーションに焦点を当て、新規顧客への対応も含めたタスクを一気通貫で効率化できる点が特長です。

      Faciloは現在大手企業を含む様々な企業で導入されていますが、使用した営業担当者から熱烈な支持を得ています。例えば大手仲介会社のトライアル事例や顧客へのインタビューでは、

      「毎日使っており、革新的でかなり便利。業務を効率化できるし、成約も上がると思う。周りも評判がよい。帯替えと内覧予約が特に効果を実感している」

      (大手不動産会社、営業担当)

      「現場も便利だし、マネージャー機能で活動を見られるのもうれしい。これは正式導入してもらわないと困るから、ちゃんと現場に使わせるようにする」

      (大手不動産会社、店長)

      など、現場の担当者から管理職に至るまで非常に高い評価を得ています。

      こうした評価はFaciloが不動産仲介営業の課題に真に寄り添ったプロダクトであることの証と言えるでしょう。

      経営陣

      Facilo社には不動産テック業界、及び有数のテック企業での経験が豊富な優秀な経営陣が集います。
      特に市川CEOは、数多くの優秀な起業家を輩出しているリクルート出身であり、不動産業界における深い知見や経営経験を持つ、きわめて優秀な経営者です。リクルート時代はSUUMOのプロダクト・経営企画マネージャー・新規事業開発部長として活躍し、米国の不動産テックMovoto社をCFOとして米国4位の不動産ポータルに成長させ、ターンアラウンドまで行いました。

      また、Google、サイバーエージェント、SmartNewsでエンジニアとして活躍した梅林CTOや、リクルート入社後、SUUMOを経てGoogleで最年少女性部長を務めた浅岡COOなど、優れた経営人材が揃っています。業界や現場課題の深い理解や機動性の高い優れたプロダクト開発力を有しており、優秀な経営チームがFacilo社の強みの源泉の一つとなっています。

      図4 Facilo社経営チーム

      おわりに

      不動産売買の代理・仲介業は大規模な市場を持ち、また現在も長時間労働や人員不足などの根深い課題を抱えています。Facilo社はこうした課題を的確に捉え、顧客から熱烈な支持を得るプロダクトの開発に成功しました。

      現在はエンプラ企業を中心に導入が進んでおり、現状の顧客層だけでも十分な規模になると予想されますが、今後中小企業にも拡大すればさらに大規模な市場を狙えます。また、優秀な経営陣も集い、不動産代理・仲介業界においてさらなる事業拡大に成功し、大きな成長を遂げると期待しています。

      Angel Bridgeは社会への大きなインパクトを創出すべく、難解な課題に果敢に挑戦していくベンチャーを応援しています。ぜひ、事業戦略の壁打ちや資金調達のご相談など、お気軽にご連絡ください!

      2024.02.14 INTERVIEW

      前身は内装工事会社のIT部門。MBOを経て生まれたクラフトバンク

      クラフトバンクの事業内容を教えてください。

      韓:クラフトバンクは主にふたつの事業を手がけています。ひとつは工事マッチングプラットフォーム「クラフトバンク」およびリアルイベント「職人酒場」を通じた元請・協力会社同士の出会いの場の提供、そしてもうひとつが中小建設工事会社向けの経営管理SaaS「クラフトバンクオフィス」の提供です。

      サービスの特徴と競合状況はいかがですか?

      韓:まず、僕たちの事業の根底にあるのは、日本が世界に誇る建設職人さんや建設工事会社がより儲かる仕組みをつくり、元気にしたいという想いです。ですので、どちらの事業も主なターゲット層を30人以下の建設工事会社(SMB)に絞っています。ここ数年、建設業DXを掲げる素晴らしいスタートアップが続々と誕生していますが、その多くは投資余力があり、人的資源も豊富な比較的大規模な建設会社(元請企業)を対象としたもの。結果的に工事発注者側の業務効率はかなり上がったのですが、その一方で受注側である中小建設工事会社の業務効率化はあまり進んでいません。しかもその多くは慢性化する人手不足や利益率の低さ、工事代金を全額回収するまで長い期間を要するなど、厳しい経営環境にさらされており、効率化の必要性は桁違いです。しかし中小建設工事会社の方々は現場を飛び回っている時間が長く、インターネットをあまり使わない層。なのでどうしても顧客獲得コストが非常に高くなりがちで、エコノミクスが成立しづらい特徴がありました。しかしそうした状況のなかでも、僕らには前身の内装会社から構築してきた工事マッチングプラットフォームがあります。毎月多くの企業が新規登録してくださる圧倒的な集客基盤によりエコノミクスが合う構造を生み出せたんです。このように、そもそも他の建設DX系サービスとは顧客ターゲットがまったく異なるため、競合視しておらずむしろ将来的にはパートナーシップを組む可能性もあると思っています。

       

      そもそもなぜ中小建設工事会社向けに経営管理SaaSを提供することになったのでしょう?

      韓:マッチングプラットフォームとしてのクラフトバンクは、もともと内装工事会社のユニオンテックが提供していたサービスでした。仕事柄、個人事業主である職人さんや中小工事会社と深いお付き合いを通じて案件獲得だけでなく、経営の効率化につなげてほしいと考えたのが開発のきっかけです。中小建設工事会社の皆さんも、印刷した紙にペンでチェックを入れるような案件管理が非効率なのは重々承知されていますが、本業が忙しい上、専任者を置く余裕もないのが実情です。そこでマッチングプラットフォームに集まっている2万9000社以上にのぼる顧客基盤を活かし、事務作業の効率化を実現するサービスを構築すれば職人さんの生産性が上がるのではないかと考え、検討をはじめました。

      2021年2月にユニオンテックのIT部門をMBOしクラフトバンクを設立し、クラフトバンクオフィスの開発に着手したそうですね。なぜMBOという手段を選ばれたのでしょう?

      韓:事業戦略や財務戦略、組織戦略等、いろいろとあるのですが、本質的には2つの理由があります。1つはコロナ禍が襲ったことで、全世界の全産業が急に10年後の世界にタイムスリップしてしたかのように激変してしまったことです。僕たちの市場でいえば、これまで職人さんとは電話や対面でやりとりするのが当たり前でした。しかしコロナ禍を機に多くの職人さんがZoomを使うようになり、レガシー産業にありがちな変化のスピードの遅さが格段にスピードアップし、僕らのようなベンチャー企業の成長戦略と歩調が合うようになったのが1つ。2つ目はサービスの中立性を保つためです。内装業として工事に携わる当事者が、発注者、受注者双方の情報を握ってしまうのはサービスを利用する側にとっての懸念材料になりかねません。遅かれ早かれ、利益相反の恐れが高まるのであれば、名実ともに中立的な立場でサービスを提供しようと考えMBOを選びました。

      創業後、どのようなアプローチでユーザー数を広げていかれたのでしょうか?

      韓:いわゆるスタートアップ然とした態度だとチャラチャラした印象を持たれてしまいますので、人と人とのつながりやクチコミを重視して認知を広げる戦略を採りました。業界の特徴として、会社同士、個人同士の密なつながりがビジネスの基盤を支えているからです。ですから、派手な打ち出しよりも「使ってみたら意外とよかったよ」「あそこが使っているならウチもやってみるか」と、クチコミでバイラルに広げていったほうが確実に効くだろうと考え、あえて表立ってアピールするのは避けていたほどです。

      2023年9月に正式版のリリースを発表したのはなぜですか?

      韓:実は正式公開の2年前には、すでにクラフトバンクオフィスのβ版を公開していたのですが、上記の戦略があったことから、むやみやたらにサービスを打ち出すことを避けてきました。この時期に公表に踏み切ったのは、物流業界同様、建設業界にも「2024年問題」の影響が広がることを見越してのことです。2024年問題とは、2024年4月以降、時間外労働に上限規制が加わることによって起こりうるさまざまな問題を指すのですが、ルールが大きく変わる直前に照準を合わせたほうが、需要の掘り起こしや時流に沿った形でサービス展開できると考え、14.2億円にのぼるエクイティ調達の報告と合わせてあのタイミングで発表しました。

      シリーズAラウンドでAngel Bridgeをリードインベスターに選んだ理由

      Angel Bridgeとの付き合いはいつからですか?

      韓:いまお話したシリーズAラウンドで14.2億を調達するにあたって、公にはリードインベスターを引き受けていただいたのが最初のお付き合いになります。

      林:数多くの起業家を輩出しているリクルートご出身者が経営するスタートアップをリサーチするなかで韓さんの存在を知りました。共通の知人を介してアプローチさせていただき、最初にお会いしたのは2022年1月でしたね。

      韓:はい。当時はβ版のリリースから間もなく、ファイナンスについて考えるよりもプロダクトの磨き込みに注力すべき時期でしたから「すぐに」とはなりませんでしたが、それ以降、定期的にお会いするようになり情報交換するようになりました。

      お互いの印象について聞かせてください。

      林:オンラインでお話した後、DeNAご出身で執行役員CPOを務めている武田源生さんを交えてお食事にいかせてもらったのですが、ご経歴の素晴らしさもさることながら、非常に戦略的かつ地に足のついた経営をされているのがわかり非常に感銘を受けた覚えがあります。

      韓:代表パートナーの河西さんは僕と同年代で、投資銀行やPEファンドなど長年投資畑を歩んでこられており、林さんは伊藤忠商事をはじめ実業での豊富なキャリアをお持ちです。「面白いキャスティングをされるVCだな」というのが第一印象でしたね。しかも、ディレクターの八尾さんを含め、皆さんスマートさとロジカルさはもちろん、偉そうないい方になってしまいますが、後発の独立系VCの立ち位置をご理解されているのか、人柄で優るといいますか、ある種、懐かしさを感じさせる泥臭さのようなものも感じました。フロントに立つ人が柔和に見えるときは、後ろに控えている人はたいてい怖かったりするものなのですが、その点についてはいい意味で裏切られましたね(笑)

      Angel Bridgeと正式にお付き合いしようと思われた決め手は?

      韓:以前から多くの投資家と薄く広くつながるより、限られた投資家と深く密に付き合うべきだと考えていたので、新規の投資家を迎えるのは実は慎重でした。でも林さんをはじめAngel Bridgeの皆さんと定期的にお会いするうち、起業家Firstのスタンスで親身になって相談に乗ってくださるスタンスが心地よく、前回の投資ラウンドではリードを取っていただくことにしました。

      林:しかも光栄なことに新規のVCはわれわれだけでした。

      韓:ええ。嬉しいことに既存の株主が引き続きフォローしてくださったので、新規の株主はAngel Bridgeさんだけでした。林さんはすでにお気づきだと思いますが、うちに投資してくださっているVCには共通点があります。すべて独立系なんです。

      林:そうですね。

      なぜ独立系VCを選ぶのでしょうか?

      韓:VCさんを招き入れるというのは多くのケースで不可逆的な判断になるので、特にアーリーフェーズでは「人で選ぶ」のが基本だと思っています。お互いに背中を預け合ってコミットし、成長を喜んでくださる方がいいと思っているからです。独立系VCさんは、大手どころより規模が小さいぶんパートナーが視座高く、よく面倒をみてくださるケースが多いですし、定期異動などを理由に担当者がコロコロ変わることもありません。とくにアーリーフェーズでは事業上の変数が多く、こと株主との関係性においてアンコントローラブルな変数を少なくし事業を伸ばすことに集中すべきだと思っていることもあります。なかでもAngel Bridgeは、短期の収益をうんぬんするより、長期的な視点で僕たちの成長を信じていただいている印象があり、コミットメントのレベルも非常に深い。僕たち経営陣に対するリスペクトと愛を感じるほどです。

      林:スタートアップに限らず、どんな企業でも月次や四半期で山谷はあるものですから、それに一喜一憂するより、韓さんが見ている未来を信じようというのがAngel Bridgeの一貫したスタンスです。われわれVCは、経営者に成り代わることはできませんが支えることならできます。ですから韓さんにそう感じていただけるのはとても嬉しいですね。

      韓:経営はロジックとアートの融合だといいますが、林さんをはじめ、お世話になっているAngel Bridgeの面々と接していると、自分のなかの「アート」の部分を試されている気がするんです。たとえば、目の前にある材料と道具を使って「韓さんはどう料理するんだろうか?」と、試されながらも温かく見守っていただいている印象がありますね。この高い視座で経営が目指す方向を徐々にクリアにしていく、というのはものすごく健全で、僕自身も成長実感を感じています。

      林:韓さんの経営手腕を信頼していますからね。おっしゃるように、常に韓さんの傍らで控えているような気持ちで見守らせていただいています。

      Angel Bridgeから、具体的にどのような支援を受けていますか?

      韓:林さんからは、まだ創業3年のベンチャーだとなかなか接点を持てない大手建設会社のほか、有力な営業先をご紹介いただいています。また、河西さんには人材採用やファイナンス戦略面からのご支援、八尾さんからはプライシングや顧客分析、CS体制の構築など、さまざまな課題に対して、直接的なご支援をいただいています。Angel Bridgeの皆さんは、常日頃から人脈や知見を惜しみなく共有してくださるので、社員にとってはプロフェッショナルファームや一流企業のトッププレーヤーからOJTで直接手ほどきを受けているようなもの。社員に対する成長機会の提供にもなるので、人材育成面でも価値ある支援だと感じています。

      林:そういっていただけると、われわれも励みになります。

      韓:Angel Bridgeも新興の独立系VC、僕たちも新興ベンチャーですからケミストリーが合うんでしょうね。当社のことをよくご理解いただいている上に細かな相談事を持ち込みやすく、しかもアウトプットも素晴らしい。非常にありがたい存在です。

       

      中小建設工事会社向けDXマーケットに秘められた知られざる魅力

      韓さんはさまざまな経験を経て起業に至りました。ご自分のキャリアについてはどう自己評価されますか?

      韓:リクルート時代、6年にわたってCVCとして企業投資や海外企業のM&A、PMIなどにも携わり、相応の知識は身につけられたと思います。でも、ベンチャーを起業して思うのは、当時はまだアマチュアだったなと。あくまでもリクルートという大看板あっての経験だったからです。

      林:そうした経験を経られて、リーダーシップスタイルがだいぶ変わったという話を以前うかがいました。

      韓:ええ。30代まではどちらかというと横暴でトップダウン気質なタイプでしたし、物事を強引に進めていくのがウリだったのですが、40代に入ってからずいぶん変わりました。その道のプロに任せるべきことは任せようと腹を決め、権限をどんどん委譲するようになったからです。

      林:冒頭の話にも出たCPOの武田さんに寄せる信頼感の高さがその表れかも知れません。

      韓:はい。彼はまだ27歳ですからね。もしかしたら彼を見つけ、僕にはできない圧倒的なプロダクト基盤を作ってくれていること自体、僕がこの会社にもたらした最大の功績なんじゃないかって思うほどです(笑)。短期的な戦術についてはデジタルネイティブである彼らZ世代に任せ、僕は中長期的な構想やトップリレーションづくりに徹する。いまはそれが理想的な役割分担ではないかと思っています。

      Angel Bridgeとして、今後どのような支援を提供されますか?

      林:われわれから「こうした支援が必要だろう」と先回りして提案するより、韓さんからの要請があればいつでもお応えできるよう構えを崩さずにいたいと思っています。ですから、ヒトモノカネの側面で必要リソースがあればいつでもおっしゃってください。できる限り手を尽くします。

      韓:そう言っていただけて心強いです。目的達成のためにどのファクトを重視すべきか、また誰と話し、何からはじめるべきか、客観的に物事を判断するには複眼的な視点が欠かせません。やはり経営者ひとりだけでは戦略の切れ味を保ち続けることに限界があるので、ぜひとも継続的なご支援に期待を寄せています。

      韓さんは今後、クラフトバンクをどのようにしたいとお考えですか?

      韓:建設市場は50兆から60兆円の規模があり、建設業に携わる中小企業のもとで働く職人さんの数はおよそ300万人といわれています。そのなかで僕たちのサービスを利用してくださっているユーザーはそのうちわずか0.1%に過ぎません。6年前に内装工事会社としてこの建設業界に転身し、中小建設工事会社の方々に的を絞ったのには理由があります。攻略難易度が高い反面、競合がほぼおらずマーケットが巨大だからです。そんなマーケットにひとつでも鋭い楔を打ち込めれば、いずれ勝機が巡ってくるだろうと考え参入を決めました。

      林:困難を乗り越えられる決意があったからこその選択でしょうね。韓さんは、ビジネスパーソンとしての華麗なご経歴に胡座をかくことなく、職人さんの間にも積極的に入り込んでいく人懐っこさもあります。だからこそお話に説得力があるんです。以前、デューデリジェンスの一環で職人酒場に足を運んだ八尾が、現場で韓さんの振る舞いを見て感動していたといっていたのを思い出しました。

      韓:ありがとうございます(笑)。この世界に身を投じた当初は「リクルートでグローバルな仕事をしていたのにいきなり国内の内装会社に行くなんて大丈夫か?」といわれたこともありました。でも、職人をリスペクトし、職人の声をひたすら聞き続けてきたからこそ、マッチングプラットフォームを足がかりにSaaSに進出できました。今後も引き続きクラフトバンクの成長のために地に足ついた努力を重ねていきます。

      林:人手不足に喘ぐ中小建設工事会社の方々の窮状を救う取り組みは、建設業界全体にとって大きな意味があります。韓さんたちが全力を傾けられるよう、われわれも積極的に支援していくつもりです。

      最後にスタートアップでのキャリアに関心がある若手優秀層にメッセージをお願いします。

      韓:若いうちからプロフェッショナルファームなどで鍛えられた人は、おそらくどこにいっても通用するでしょうし、重用されるのは間違いないでしょう。皆さんには明るい人生が待っています。仮にキャリアの選択を間違ったとしても、いつでも軌道修正できるはずです。ビジネスはロジックとロマンでできています。プロフェッショナルファームでロジックを突き詰めたのであれば、次は「日本の産業発展」を主語に、ぜひビジネスのロマンを追いかけてほしいですね。当社を含めスタートアップではロジカルシンキングとハードワーク耐性は大歓迎されるはず。自分の武器を存分に活かし、日本の産業発展のために現職ではつかめない成長の手応えを感じていただきたいと思っています。

      2024.02.07 ACADEMY

      今回は資本政策策定の鉄則について説明していきます。

      資本政策とは?創業期から必須!

      まず資本政策の意味について見ていきましょう。

      資本政策とは、一般的には株式移動、第三者割当増資、組織再編などの手法により、資金調達、資本構成の最適化、インセンティブプラン、創業者利潤、事業承継対策といった目的を実現することです。

      引用:PwCコンサルティング 『資本政策コンサルティング』

      シード期のスタートアップにとっては、主に資金調達を達成するためのファイナンス面の計画であることが多く、事業計画と照らし合わせて作成します。

      事業計画に比べ、創業期の経営者は資本政策の重要性を見逃しがちですが、資本構成は一旦固まると後戻りができないため(不可逆性)、注意が必要です。例えば無計画にエクイティ(株式)での調達を進めた結果、経営陣の意思決定力が弱まり、最悪の場合、退陣に追い込まれる可能性もあります。それとは逆に希薄化を恐れて資金調達に過度に慎重になった結果、急成長を遂げられないケースも考えられます。

      こうした事態を避けるためにも、創業段階から資本政策をきちんと作成しておくことは非常に重要です。

      資本政策表を書いてみよう

      資本政策表作成の鉄則 ①テンプレートに頼るべし

      資本政策を考える際には、資本政策表という表を使ってまとめていきます。資本政策表は1から自分で作らなくても、ネット上にテンプレートがたくさん載っているためぜひ活用してください。参考までにプライマルキャピタルの佐々木氏が紹介している資本政策フォーマットを紹介します。

      https://medium.com/@hrssk/資本政策表-雛形-を公開します-3f4b5361e29

      他にもテンプレートはたくさんあるので様々探してみて、信頼できるものを使用してください。テンプレートを用意したところで早速作成していきましょう。

      それでは、各ラウンドの概要を決めていきましょう。具体的には、以下のポイントを押さえることが肝要です。

      • 調達時期
      • 想定バリュエーション
      • 調達金額
      • 調達の手段
      • 投資家の属性(エンジェル投資家か、VCか、事業会社か)
      • 株主構成
       資本政策表作成の鉄則 ②調達概要は事業計画と照らし合わせて算出せよ

      調達時期、バリュエーション、調達金額については、事業計画と照らし合わせて、いつどのくらい資金が必要なのか算出するのが原則です。目安として、次回ラウンドの調達までの期間は1〜2年が良いとされています。これ以上短期の場合、経営者のリソースが資金調達に取られてしまい、これ以上長期の場合、大型調達が必要となり調達が難しくなります。

      また、調達の手段や参加する投資家の属性も事業フェーズによって異なるため、こちらも事業計画を見つつ考えてみましょう。

      調達の手段については、デット調達、エクイティ調達に大別できます。デットとエクイティでは性質が大きく異なります。両者のメリットとデメリットを正確に理解したうえで計画を立てることが非常に重要です。詳細は以前執筆したスタートアップアカデミー#1のコラムにて詳しく解説しておりますので、ぜひご覧ください。

      スタートアップアカデミー#1(VC視点で見た資金調達の考え方)

      また、エクイティ投資の中でもどんな投資家に投資してもらうかということについて検討をする必要があります。事業ステージや事業領域により株主として迎え入れるべき投資家の属性は変わってくるはずです。詳細はスタートアップアカデミー#2のコラムにて解説しているので、ぜひ参考にしてください。

      スタートアップアカデミー#2(起業家がVCを見る際の視点)

       

       資本政策表作成の鉄則 ③強すぎる外部投資家には注意

       特定の外部投資家の持分が大きくなり、会社の意思決定に影響を及ぼすようになると、経営陣が経営のイニシアチブを取りにくくなるだけでなく、他の投資家の意見が反映されにくい状況になってしまいます。

      特に次のラウンドの投資家にとって、投資ステージの異なる投資家が大きな力を持っていることは懸念材料になり、次回の調達が難しくなるかもしれません。投資ステージが異なる場合、投資家同士で同じインセンティブ構造にならない可能性があるためです。

      例えば、小規模なM&Aでのイグジットを検討する際などは、初期の投資家が利益を確定させたい一方で、最近のラウンドで加わった投資家はより大規模なイグジットを望む状況が考えられます。そのため、投資家は特定の投資家の持分が多すぎる株主構成を警戒します。

      調達が困難になった結果、事業の成長が阻害されることのないよう、株主構成には気を配りましょう。

       

      資本政策表作成の鉄則 ④経営陣の持分を担保せよ

      経営者の持分が重要な理由は、会社法の規定により、経営陣の意思決定の及ぶ範囲が株式保有率に応じて決まるためです。極端なことを言ってしまえば、経営陣の株式保有率が下がりすぎた場合、会社の決議事項に経営陣の意向が反映されにくくなる恐れがあります。株主構成の目安として以下の指標を抑えましょう。

      • 株式(議決権)の50.1%(過半数)
        • 取締役・監査役の選任、取締役の解任、役員報酬の決定、剰余金の配当などを単独で決定可能
      • 株式(議決権)の3分の1以上
        • 募集株式の募集事項の決定等、定款の変更、組織再編行為の承認、事業譲渡の承認、解散に関して、決議を単独で阻止可能

      事業が大きくなり、外部株主の割合が増えたとしても1/3以上は保てるとベターです。しかし、業種によってはこれらの水準を超えているケースも多くあります。固執せずあくまで目安として捉えておきましょう。

      実際に近年上場したスタートアップのIPO時の株主構成を見てみましょう。2023年3月に1,717億円で上場したカバー株式会社は上場時以下のような構成となっていました。

      出典:みんかぶ

      創業者でもあり、代表取締役の谷郷氏が個人の持分と代表取締役を務めるバレー株式会社の持分を合わせて約40%を保有しており、取締役CTOの福田氏が約5%を保有しています。経営陣の保有株主は過半数には満たないものの、谷郷氏が3分の1以上を保有しており、重要事項の決定について拒否権を発動できる体制であったことがポイントです。

      経営陣の持ち分比率を考える際は、一回の資金調達当たりの希薄化率に注意すると良いでしょう。

      「希薄化」とは「通常、新株発行などの増資を行った場合、発行済み株数が増えることにより、1株当たりの価値が低下する」ことです。

      引用:SMBC日興証券「初めてでもわかりやすい用語集」

      希薄化率の計算は以下のようになります。

      希薄化率(%)=新規発行株式の総数÷増資後の発行済株式総数×100

      一般的に、希薄化率は20-25%以内に収めるべきとされていますが、急成長を遂げるスタートアップにおいては例外も数多く存在します。以下に二つ例を挙げておきます。

      • カバー株式会社
      • 株式会社ispace

      出典:INITIAL

      カバーに関してはシリーズA、Bで大きな希薄化を許しており、シードからアーリーに転換する時期において事業拡大のために思い切った投資をしたことが分かります。一方でispaceはディープテックであることもあり、初期投資が莫大であるためシード〜Aでは大きな希薄化を許したものの、その後は希薄化率を25%に抑えています。このように業種や成長フェーズに応じて希薄化率の目安は多少変わります。

      事業計画と資本政策は表裏一体

      資本政策表作成の鉄則 ⑤事業計画に合わせて修正せよ

      事業計画と資本政策は表裏一体です。事業が進むにつれ、事業計画に変更が生じた場合、資本政策も一緒に見直しましょう。こうした計画がしっかり練られているか、投資家は見ています。

      まとめ

      最後に資本政策表作成の鉄則をまとめます。

      資本政策表作成の鉄則

      ①テンプレートに頼るべし 

      ②調達概要は事業計画と照らし合わせて算出せよ

      ③強すぎる外部投資家には注意

      ④経営陣の持分を担保せよ

      ⑤事業計画に合わせて修正せよ

       

      資本政策表は事業計画と比較するとどうしても後手後手に回ってしまう経営者も多いです。しかし、スタートアップの原動力が資金にあることを忘れてはなりません。事業計画と資本政策の組み合わせによって、ビジョンは現実の事業となり得、投資家は間違いなくその点を見ているはずです。

      さて、事業計画と資本政策を練ったところで、投資家に向けてピッチを行いましょう!

      ということで、次回はピッチ資料の作り方、ピッチをする際の注意点について解説予定です。

      Angel Bridgeはシード〜アーリー期のスタートアップを中心に投資しているVCであり、手厚いハンズオン支援を特徴としています。今回解説した資本政策についても、投資先起業の経営陣とディスカッションを行い、投資家目線のアドバイスを行ってまいりました。事業戦略の壁打ちや資金調達のご相談などありましたら、お気軽にご連絡ください!

      2024.01.16 ACADEMY

      今回はシードラウンドの資金調達、特に創業者間契約や事業計画書について説明していきます。

      シードラウンドの位置づけ

      まずシードラウンドとは、起業して最初の資金調達のことを指します。ビジネスアイデアはあるが、まだ売上が全く立っていない、またはプロダクトがまだ出来ていない状態で行うことも多くあります。

      調達資金はIT企業の場合、エンジニアの人件開発費に使われることが多いです。プロトタイプは一人で自己資金のみで行うことも可能ですが、いざプロダクトを本格的に作るとなるとエンジニアを雇う必要があり、その際にシードラウンドとして外部資金調達が必要になります。

      シードラウンドのデータ集

      2022年に調達したことが判明している1,907社のシードラウンド状況を見ると、調達額の中央値は5,500万円、調達後評価額の中央値は4.1億円でした。
      参照:INITIAL Japan Startup Finance 2022

      上記水準はシード調達をする際の一つの目安になると思いますが、注意も必要です。一口にシードラウンドと言っても様々な状態があります。プロダクトがあるかどうか、すでに顧客がいるかどうか、チーム組成されているかどうか等でバリュエーションは大きく変動します。
      また、ここで注意しておきたいのが、ハイバリュエーション(企業の評価額が高い状態)だから良いという訳では必ずしもないという事です。ハイバリュエーションで調達することは一見会社にとって良い事のように思えますが、将来的な資金調達でのハードルが上がり、新たな資金調達が難しくなる可能性もあります。自社のステージに応じた適切なバリュエーションでの資金調達を目指すことが基本方針となります。

      シードラウンドとシリーズAとの比較

      シードラウンドの次の資金調達であるシリーズAと違いを比べてみましょう。

      シリーズAの資金調達はPMFを達成した状態で行うことが一般的です。つまり、一定数初期のユーザーがいて、提供するサービスがしっかりニーズに応えており、熱量高く使ってくれている状態です。シリーズAで得た資金は開発に加えてこれから一気に拡販していくための資金としてマーケティングや広告宣伝費に使用されることも多いです。
      こちらも2022年の中央値では資金調達額は1.6億円程度、調達後評価額は15億円程度となっています。
      参照:INITIAL Japan Startup Finance 2022

      シードラウンド資金調達のステップ

      資金調達のステップは次の5ステップです。
      ①  事業計画の作成
      ②  資本政策作成・必要資金の特定
      ③  ピッチ資料の作成
      ④  投資家へのコンタクト・デューデリジェンス対応
      ⑤  契約書締結・着金
      今回は①について詳しく説明していきます。

      シードラウンドの資金調達前に必要な契約書

      ここで経営チームの観点から資金調達前に準備することを考えます。メンバー構成ですが2-3名の共同創業でビジネス系とエンジニア系のコンビネーションがより良いとされています。「どんなメンバーで起業すると成功しやすいか」については、過去記事スタートアップアカデミー#0にて詳しく記載しています。

      スタートアップアカデミー#0(起業の市場選定方法と共同創業メンバーの探し方)

      では、いざ共同創業者と起業するとなったとしましょう。最初に忘れてはいけないのは、創業者間契約です。創業時に締結するのが一般的です。ここで締結していない場合でも、資金調達の際に投資家から創業者間契約を締結することを求められる場合があります。

      では、なぜ創業者間契約が必要なのでしょうか。起業後状況が変わり、メンバーの方向性の違いが顕在化したり、仲違いすることもあるでしょう。メンバーが会社を途中でやめた時に、そのまま多くの株を持ったままでいられては安定的な会社運営ができません。会社に株を戻してもらい、トラブルを回避するためにあらかじめ創業者間契約を結んでおくことが得策です。

      一方で創業初期にとても貢献したメンバーが辞める時、株を全部会社に戻さなければならないのはフェアではないという考え方もあります。そこで創業者間契約にベスティング条項を入れるケースも多くあります。ベスティングとは一般的に「一定期間経過後に権利行使ができる」という条件の事を指します。創業者間契約におけるべスティング条項としては、在籍した期間に応じて退職時にも保有し続けられる株式の割合を設定します。一例として、創業から1年以内に辞めると保有できる株式は0%で辞めると全ての株式を会社に置いていかなければならない。1年経過後から2年までは20%、2年経過後から3年までは40%保有できるというように設定していきます。

      また買取価格は、「当初取得時の価額」としておくことが一般的です。これはトラブルになった時に備えて、買取時の価額については一意である必要があるからです。「買取時の時価」のように決めてしまうと、未上場企業の場合値付けが難しく買取が困難を極めます。

      初めからどちらかが辞めることを想定した契約を締結するのは気が引ける部分もありますが、いざ辞めることになってからでは議論ができないため、最初から腹を割ってこのあたりの議論をしておくことは非常に重要です。後回しにしていいことはありませんし、このような話ができない関係であれば共同創業のパートナーとしては不安が残るかもしれません。投資家から求められているから、という理由で議論を切り出すのも手かもしれません。

      シードラウンド調達前の事業計画書の策定

      投資家とコミュニケーションする前に、自社に投資する魅力を投資家にどう伝えるかを考えなければいけません。事業計画の策定はその手段の1つです。重要なのは投資家に事業のポテンシャルを理解してもらうことですから、シードラウンドの段階で精度高く事業計画を立てていなくても問題ありません。
      ベンチャーキャピタルは事業計画を見ながら、何年後にどれくらいのバリュエーションでイグジットするかを考えます。そしてそこから逆算して投資のリスクリターンを考えています。日本国内では、M&Aで大きなバリュエーションがになる事例が少ないため(※今後は大きく状況が変わる可能性もありますが)基本的にIPOを目指すベンチャーを投資対象とします。したがって事業計画を策定した際には投資家が魅力的に感じるバリュエーションでのIPOが実現できる数字になっていることが望ましいです。

      数字の根拠についてもある程度説得力のあるものになっていることが重要です。売上高、営業利益の分解したときに各KPIの水準が実現可能なものであることは説明できるようにしておきましょう。例えば決済ビジネスの場合、「売上高=顧客数×1顧客あたりの単価×手数料」のようになります。顧客数や手数料が現実離れした数値になっていないかは統計データや先行企業のKPIなどから確認しておくべきでしょう。
      それぞれのKPIをどう実現するかの蓋然性あるストーリーを説明できるよう準備しておくことが望ましいです。

      VCが投資の際に何を見ているのかについては、過去記事スタートップアカデミー#3にて詳しく記載しています。

      スタートアップアカデミー#3(VCがベンチャー企業を見る際の視点)

      まとめ

      今回は、シードラウンドの説明、創業者間契約、事業計画書について説明しました。次回もシードラウンドの資金調達で必要な準備についてお話していきます。

      VCと言っても投資先企業とのかかわり方は、多種多様です。最近ではSNSやブログ記事、イベントなどで積極的に情報発信しているVCも多いので、簡単にチェックすることができます。投資先の企業から評判を聞いたり、知人のツテを使うなど情報収集を行いましょう。アプローチ方法としてはツイッターアカウントへのDM・オフィスアワーへの申し込み・HPへの問い合わせ・人づての紹介・イベントへの参加など様々考えられます。後悔のない資金調達ができるよう、最大限活用していきましょう。

      2024.01.10 INVESTMENT

      2024110日、Angel Bridgeの投資先である株式会社リセ(以下リセ)がシリーズBにて18億円の資金調達を発表しました。

      リセは、中小規模の事業者向けに契約書レビュー支援AIクラウド「LeCHECK(リチェック)」を提供する企業です。創業者の藤田CEOは西村あさひ法律事務所で国内外の企業間紛争を専門に担当する弁護士でした。当時、中小企業が弁護士にレビューを依頼しないまま不利な契約を締結し、結果として悔しい想いをする場面を多く目の当たりにしたそうです。紛争を事前に防ぐためには適切にリーガルチェックを行う必要がありますが、特に中小企業ではコストの観点からチェックを十分に行わずに締結してしまっているケースも多いことに課題を感じていました。藤田CEOは「契約書をレビューして助言してくれるサービスがあれば、多くの中小企業が救われる。良質な法務サービスを、テックを用いて合理的な価格で提供しよう」という思いから2018年にリセを創業しました。

      今回は、リセへAngel Bridgeが投資した理由を解説します。

      リーガルテックの市場環境

      まずリーガルテックの全体像を説明します。リーガルテックは以下のように分類され、領域ごとにプレイヤーが細分化されています。リセが属するAI契約書レビュー領域は参入ハードルが非常に高く、現状ではサービス提供できているプレイヤーは3社のみです。

      AI契約書レビューの参入障壁は弁護士の確保です。精度の向上にはデータ量に加え専門家のマンパワーによる地道なチューニングが鍵となります。リセでは藤田CEO自身が弁護士として第一線で18年経験していることもあり、創業当初から専属の弁護士約30名が磨きこみを継続して実施することができています。条件分岐ごとに回答を作成する作業は地道で骨の折れる作業であり、コミットしてくれる弁護士を確保することは困難です。実際にリセ以外でAI契約書レビューサービスを提供している2社も、母体が弁護士事務所だからこそ実現できており、この参入障壁の高さが魅力の一つと考えました。

      次にAI契約書レビューの市場規模を見てみましょう。

      エンタープライズ向けにはLegalOn Technologiesがリーガルフォースを提供しており、未上場ながらも時価総額が880億円とメガベンチャーになっています。LegalOn Technologiesがエンタープライズ向けのサービスを高単価で提供しているのに対し、リセは従業員が20人から299人の中堅中小企業をメインターゲットとして使い勝手の良い機能を提供しています。対象企業は日本国内で55万社となっており、メガベンチャーを目指すのに十分な市場規模があると考えています。さらに市場をよく見た時にはエンタープライズと中堅中小企業でニーズが明確に異なり、棲み分けができるという点も魅力の1つとして捉えています。

      また、リーガルテック領域において課題となる弁護士法第72条の論点についても精査しました。弁護士法第72条は、非弁護士による法律事務の取扱い等を禁止する法律です。AI契約書レビューサービスがこの弁護士法第72条に抵触する可能性があると指摘があり、適法性に関する議論が2022年になされていました。202212月に内閣府のガイドラインで「既存サービスは適法」と認める判断を示す方針であると報じられていました。投資実行時点では各省庁からの発表から、法的問題は十分軽減されている判断でしたが、結果として20238月に法務省からガイドラインが出され、正式に適法性が確認されました。

      リセの事業概要と高い成長性

      ここからはリセの事業について詳しく説明していきます。

      上記の機能が基本機能となっています。中小企業の法務部門は法務非専門家も多いため、法務非専門家にとても使い勝手の良いプロダクト設計となっています。よって網羅的にまんべんなく指摘するのではなく、重要箇所や揉めやすい箇所について要点を絞ってコメントしています。単に気づきの指摘を提示するだけではなく、さらに深く分析を行い、顧客が法的知識を持たなくても修正できる範囲まで、内容を複層的に分析し、具体的な修正例まで提示します。このような機能面の特徴によって他社サービスとは棲み分けがなされています。

      実際に投資検討の際には競合サービスと比較したうえでリセを選択しているユーザーにも複数インタビューを行いました。業界を問わず少人数の法務部で契約書業務を支援するために導入されています。合理的な価格であることも魅力ですが、機能的にも十分で使いやすく、たとえ価格が同じだとしてもリセを選ぶという、ユーザーからの高い評価を確認しました。中には非専門家の法務部1人で年間700件の契約書を見ているような中堅企業もあり、強いニーズがあることを感じました。

      さらに、今後は周辺サービスとの連携も計画しており、会計システムや電子契約サービスなどとAPI接続をすることで利便性が向上する予定です。また連携によって、利便性に加えて顧客基盤の獲得も見込まれており、一気に面を取っていく戦略の実現可能性が高いと考えています。

      これらの独自性と市場規模が巨大であることを勘案すると、競合と棲み分けながら今後も事業を拡大していけるのではないかと考えています。

      リセは過去の実績データも十分に蓄積しているため、KPIに関しても詳細に分析を行いました。様々な角度からベンチマークと比較し、成長性や収益性の面で非常に高い水準であることを確認しました。急速な成長と安定した実績が投資を決める一因となりました。

      また価格設定においてアップセルが見込めるとも考えています。AIレビューの機能面でLeCHECKは現時点で既にリーガルフォースと遜色ないレベルであり、リーガルフォースが単価15-20万円であることを考慮すると、LeCHECKにはアップセルのポテンシャルがあると考えられます。

      一方、今後リーガルフォースがLeCHECKと同じSME向けの領域に参入してくる可能性については、自社のARPUを下げるリスクが伴うために低いと判断しました。また継続性の高いサービスのため、LeCHECKが先に面を取ることでSME市場における先行優位を維持することができると考えています。

      経営陣

      次に経営陣について見ていきましょう。

      代表の藤田CEOは、東京大学法学部から西村あさひ法律事務所に入り、パートナー弁護士にまでなっています。ビジネスパーソンとしての能力も高く、非常に高い情熱とエネルギーを持っているというリファレンスを得られました。

      リセの三宮取締役も「芯の強さや、物事を進めていく力は並々ならぬものがある。マインドセットとして常にトップにいくという発想を持っている。決めたことは必ず実現させる。」というように藤田CEOを高く評価していました。

      他の取締役についても、経営企画、営業、開発と役割分担が明確にされており、各領域で実績を積んだバランスの良いチーム体制となっています。

      また藤田CEOをはじめ、複数人の取締役がリセに自ら出資をしていることからも強いコミットメントを感じました。

      各メンバーとお話させていただく中で、このチームであれば『争いのない「滑らかな」企業活動の実現』というリセのミッションを実現してくれるに違いないと思い、自信をもって投資の意思決定をしました。

      おわりに

      最後にAngel Bridgeの今回の投資のポイントを改めてまとめます。

      1つ目は巨大な市場があり、その中で独自のポジショニングを取れていることです。すべての中堅中小企業が対象となる事業でありその市場規模が大きいことは想像しやすいところです。実際にメガベンチャーも生まれています。AI契約書レビューは参入障壁が高くプレイヤーが少ない中で、さらにリセは明確に中堅中小企業向けにベストなプロダクトを提供することでポジションを確立し棲み分けがなされています。さらに弁護士法上の懸念が解消されたことも追い風となり今後成長が見込まれる魅力的な市場環境となりました。

      2つ目は実際にプロダクトが多くの企業で導入され、各KPIが良好な水準で推移していることです。本記事中では具体的なKPIには触れていませんが、SaaS企業として各KPIを詳細に分析し、またベンチマークとの比較で評価を行いました。定量的にも今後の成長性と収益性が強く見込めると判断しています。

      3つ目はやはり優秀な経営チームです。弁護士として経験豊富で強いパッションを持つ藤田CEOに加えて、三宮取締役、古田取締役、寄合取締役がそれぞれ違う強みを持ち合って、強いコミットメントでこの事業に向き合っていることが最大の強みとなっています。

      以上のような観点でリセがビジョンを実現し社会に大きなインパクトを与えると共にメガベンチャーとなる可能性が非常に高いと考え、投資の意思決定をしました。

      Angel Bridgeは社会に大きなインパクトをもたらすために、難しいことに果敢に取り組むベンチャーを応援しておきたいと考えています!事業の壁打ちや資金調達のご相談など、お気軽にご連絡ください!

      2023.12.18 INTERVIEW

      医療現場の効率化を実現する機器管理システムに加え、新たなツールをリリース予定

      HITOTSUの事業内容や競合状況を教えてください。

      田村:医療業界の旧態依然とした業務を効率化し、医療従事者が本来の仕事に向き合えるプロダクトを展開しています。現在は臨床工学技士が使用する医療機器のデータ管理や点検、修理業務などを管理する『HITOTSU Asset』というクラウド型のシステムを提供しています。
      医療機器管理システムの競合は存在しますが、HITOTSUは医療現場に寄り添ったUI・UXが強みです。私自身が臨床工学技士としての実務経験があり、その経験をベースにシステム開発を行っています。クラウド型のサービスであるため、日々システムのupdateをしたり、インターネットを経由してPMDA(独立行政法人 医薬品医療機器総合機構)が発出する回収情報や添付文書にタイムリーかつスムーズにアクセスできたり、外部の取引先などとやり取りができる点も特徴です。

      佐藤:2024年1月には、医療施設と外部の企業とのコミュニケーションを効率化するためのコミュニケーションツールをリリース予定です。
      本サービスは、病院と取引のあるメーカーや卸の企業、院内の臨床工学技士や看護師、管理課などを巻き込んで、医療現場の業務効率化を進めていきます。こちらのツールにおいては、医療業界に特化した特筆すべき競合プレイヤーはいません。

      HITOTSU

      HITOTSUの強みはどこにあるとお考えですか?

      田村:現場から評価いただいているポイントは、システム内に設置したチャットボットから病院側が質問や要望をコメントでき、カスタマーサポートチームがすぐに確認してシステムの改善サイクルに活かしていることです。要望にスムーズに応えることができる開発体制は大きな強みです。

      佐藤:根源的な強みは、経営陣が三者三様の強みをもっていることだと思っています。創業者であり取締役会長の田村は医療現場をよく知っている。代表取締役CEOの私はヘルスケア領域での長い経営コンサルティング経験とベンチャー経営に関わった経験がある。もう1名のCTOの宮は、金融機関の基幹システムに携わった経験からセキュリティに強みをもち、UIに優れたサービスを提供する企業でテックリードの経験もある。経営陣3名がそれぞれの強みを活かし、互いを尊重しあっている関係性がHITOTSUのあらゆる強みに繋がっていると思います。

      起業の理由は、医療現場の非効率な現状を変えたかったから

      田村さんがHITOTSUを創業した経緯を教えてください。

      田村:私は大阪の総合病院で臨床工学技士として7年間医療現場に携わったのですが、そのときに、医療従事者や医療機器業界に関わる人々が、非効率な業務によって疲弊している現状を知ったのです。医療機器をExcelや紙で管理していたり、外部とのやり取りは基本的に電話だったりする。医療従事者が本来注力すべきである、患者さんの対応以外の部分に時間を取られていました。
      こうした課題は外部からはわからず、臨床工学技士にしか気づけない。それならば課題に気づいた自分が変えていくべきだと考え、HITOTSUの起業に至りました。

      HITOTSU

      事業運営をしていく中で、特に大切にされていることを教えてください。

      田村:仲間づくりです。起業したときは私1人しかいない状況から、約1年前に宮・佐藤が次いで入社したことで会社としての屋台骨ができて、開発・事業ともに大きく前進し、他のメンバー達も入社してくれて今や正社員で16名にまで拡大しました。一緒に働く仲間選びは非常に慎重に行いました。
      仲間づくりをする上で大事にしてきたのは、HITOTSUがどんな事業をしていて、何を成し遂げたいのかをリアルに伝えることです。

      まだその芽は見えないが、将来大きくなる ”匂い” のするアーリースタートアップで経営に携わりたかった

      佐藤さんのご経歴や、HITOTSUに入社した経緯を教えてください。

      佐藤:大学・修士課程ではアルツハイマー病の研究をしており、ヘルスケアや医療分野に強い興味をもっていました。卒業後は日系の保険会社でアクチュアリー(保険数理の専門職)業務を経験した後、ボストンコンサルティンググループ(以下BCG)に転職。製薬企業、医療機器メーカー、医療機関などへのコンサルティングに従事し、プロジェクトリーダーという所謂マネージャーの経験までさせていただきました。その後、バイオベンチャーにCOOとして入社し、その後CEOを務めました。
      そして、そのバイオベンチャー時代に一緒に働いたHITOTSUの古くからの株主に誘われたことをきっかけに、2022年11月にHITOTSUにCOOとしてジョインし、2023年12月14日からCEOを務めることになりました。

      HITOTSUに入社するとき、重視したことを教えてください。

      佐藤:HITOTSUに入社を決めた理由は三つあります。
      一つはスタートアップ経営に携われること。前職のバイオベンチャーでスタートアップ経営の面白さを体感し、自分に適性があると感じたからです。
      ミッションとビジョンの実現に向けてチーム一丸となり取り組むこと、スピードとコミットメントとプロダクト愛の三つでエッジを立てて、社会にインパクトを生み出すことが非常に面白いと感じていました。
      二つめは片手で数えられるくらいの人数しかいないアーリースタートアップに入社することです。スタートアップは人がすべてなので、早く入社できればその後のメンバーの採用に関われるため、いいチームを作れると考えました。
      三つめは、何か将来伸びるのではないかという匂いを感じたからです。HITOTSUは医療現場のデータをもっていて、臨床工学技士さんとの接点がある。この点を生かして、医療現場の声を聞いていけば、今はまだ大きく跳ねる出口が見えていなくても、何か見つけられるのではないかと直感しました。

      HITOTSUへの入社は、話を聞いてすぐに決意されたのでしょうか?

      佐藤:きっかけは、HITOTSUに投資いただいているベンチャーキャピタルの方から、「プレA資金調達を終えたHITOTSUというヘルスケアスタートアップがCOOを探している」と声掛けいただいたことでした。COOに求める要件は、大きな戦略が描けて、パッションに溢れていること。ヘルスケア領域の経験があればさらに良いとのことでした。「佐藤さんしかいないでしょ?」とお声がけいただき、その日に田村とメッセンジャーで繋がりました。

      田村:投資家の方から佐藤の事前情報を聞いたときに「HITOTSUが求めているのは、この人だ」という運命的なものを感じ、ワクワクして面談したのを覚えています。
      さっそくその日にオンラインで、医療業界の課題や想いを伝えたところ、非常に盛り上がって1時間半ほど話しました。そこで「今度飲みに行きませんか?」と誘ったんです。
      お互いにスケジュールを確認したら当日の夜が二人とも空いていたので、新宿のイタリアンの店で待ち合わせました。CTOの宮もオンラインで参加し、そこでも2時間くらい話し込んだんです。佐藤に対しては、能力はもちろんのこと、この人なら任せられるし、つらい時もやっていけるという印象をもちました。

      佐藤:田村の第一印象は、自分が経験した社会課題の解決に全身全霊でエネルギーを注いでいる人だと思いました。課題を感じていても起業というリスクを取れる人はなかなかいません。そこにポンと踏み込む度胸にも惹かれました。
      そして、田村がもっていないビジネス経験は私が補える。一緒にやれたら面白いんじゃないかと感じ、HITOTSUへのジョインを決めました。

      CEOの交代が、事業を最大化するための最善の選択だった

      CEOを田村さんから佐藤さんへと交代する背景を教えてください。

      田村:CEO交代という最終着地は、私にもHITOTSUにとっても、非常にいい意思決定でした。私は医療現場の課題を知っているからこそ、解決したいという強い想いがあります。
      しかし、事業が広がっていく中で、私が経験のない事業戦略のウェイトがどんどん大きくなり、自分の実行力とのギャップを感じ始めていました。
      佐藤とディスカッションを重ねていく中で、「人にはそれぞれ強みがあり、強みを発揮できる場所がそれぞれにある」という言葉を聞いたときに、非常に腹落ちしたと同時に救われた気持ちになりました。
      強い使命感をもってこれまでやってきましたが、よく考えればHITOTSUには私以外にも優秀なメンバーがいるわけです。このタイミングで佐藤にCEOというバトンをパスするのがHITOTSUの事業成長を最大化するのに最適であると決意しました。この「事業成長の最大化」というのは経営メンバー3人で合言葉にしているフレーズです。

      CEO交代の話があったときに、佐藤さんはどう感じましたか?

      佐藤:田村の医療現場での実体験は、今となっては事業戦略の一部なので、田村がキャップになってしまうと会社としての成長も止まってしまいます。会社を非連続的に成長させるためには、CEOを変えるべきだと私も思っていました。
      ただ、創業者として自分がやり続けるという意思決定も十分にありえることです。しかし、最終的には事業を最大化するための意思決定をするという合意ができ、CEOを交代することになりました。自分の立場のためでなく、会社が社会課題を解決するために意思決定をした田村は素晴らしいと思いました。

      Angel Bridgeの強みは、ファイナンスとベンチャー投資に強いツートップとコンサルファーム出身のメンバー

      Angel Bridgeは、他のVCとどのような違いがありますか?

      佐藤:投資の検討段階から非常に密なやり取りをさせていただきました。他のベンチャーキャピタルと比較した特徴として、会社の座組が非常にいいと思っています。TOPのお二人がそれぞれファイナンスとベンチャー投資という専門知識をお持ちで、メンバーの方はコンサルファーム出身で、事業戦略や分析に長けています。そのため、土地勘の無い事業でも、この会社は投資に値するかというジャッジを精度高く実行されている印象です。

      Angel Bridgeメンバーにどのような印象をお持ちですか?

      佐藤:担当の八尾さんは、我々の生命線となるような事業戦略について深く質問してくださって、ディスカッションを通して我々の戦略もブラッシュアップされていきました。コンサルとVCの経験をお持ちであることが非常に心強かったです。また、DDのプロセスで本当にハンズオンで伴走してくれることを感じました。

      Angel Bridgeに対して、どのようなことを期待していますか?

      佐藤:八尾さんにはスキルセットという貢献をしていただいたので、今後は林さんから業界のキーパーソンを紹介いただき、さまざまな会社さんにアプローチしてパートナーシップを広げていけたらと思っています。もう1つは採用支援ですね。アーリースタートアップは本当に「人が全て」ですので。

      業界のエキスパートとプロのビジネスマンという最強のコンビネーション

      HITOTSUへ投資するに至った経緯を振り返ってください。

      八尾:オンラインでさまざまな会社を調べていたところ、医療機器管理の領域のサービスを展開しているHITOTSUを見つけました。海外で類似の企業を見たことがありポテンシャルを感じて、既存の投資家さん経由でコンタクトをとりました。2023年8月に佐藤さんと面談をして何度かお話しするうちに10月頃から本格的に投資を検討することになりました。
      投資に至った大きな柱は経営陣です。やり取りする中で、佐藤さんは非常に優秀な方だと感じました。議論の内容が非常に的確で、質問したときのレスポンスの速さや返答のクオリティが尋常ではありませんでした。将来的な展開まで見据え、本当に深く事業について考えられているのだなと実感しました。
      さらに、創業者である田村さんが臨床工学技士を経験した業界のエキスパートである点も大きな強みです。営業の現場において、臨床工学技士を経験された立場として懐に入っていけますし、プロダクトの作りこみの観点でも現場を知り尽くした田村さんの経験が遺憾なく発揮されています。HITOTSUのビジネスモデルにおいては、業界のエキスパートとプロのビジネスマンというコンビネーションは最強だと考えました。
      また、事業としての広がりも感じています。祖業である医療機器管理にはじまり、コミュニケーションツールへの展開が実現すれば、その先にはさまざまな事業展開が想像でき、メガベンチャーのポテンシャルを感じました。
      さらに、既存プロダクトがユーザーにしっかり評価されている点にも注目しました。導入後に満足度高く使っていただいていることが、コメントや数値面からわかりました。
      これらを総合して、中長期的にお付き合いしたい会社であり、非常によい投資になるだろうと考えました。

      田村さん、佐藤さんにどのような印象を持たれましたか?

      林:私たちは投資の意思決定をするときに食事会をさせていただいています。そのときに佐藤さんの頭脳の明晰さとパッションを感じました。田村さんは地方に行って1日病院10件くらいを訪問し、様々な医療現場から生の声を聞くことを大事にしていて、素晴らしいと思いました。想いがあるから地道な活動を続けられるのだと思います。

      HITOTSU

      八尾:CEO交代という意思決定はなかなかできることではありません。トラブルがあって交代することはあっても、会社の成長のために交代する決断をするという話はあまり聞いたことがありません。こうした意思決定をできる田村さんと任される佐藤さん2人の信頼関係を感じます。投資を決定する場合は経営者が大事だという想いをもっていますが、HITOTSUは素晴らしい経営陣が揃っていることが特筆すべき点です。

      HITOTSU

      医療業界との接点とデータをテコにして、日本の医療の黒字化を目指す

      HITOTSUの今後の展望について教えてください。

      佐藤:医療機器管理を起点として、医療業界のアナログな業務を変えていきたいと考えています。我々のミッションは「日本の医療を黒字化する」という壮大なものです。しかし、クラウドやデータで医療業界が外部とつながることができれば、実現できるミッションだと考えています。
      我々の強みである、医療業界との接点とデータをテコにして、ミッションを実現していきたいです。

      Angel Bridgeとしては、今後どのようなサポートをしていきますか?

      林:私たちは投資先の会社さまには、ヒト・モノ・カネという点で応援をしています。重要な役割やポジションの方の紹介や、事業面では課題解決のサポート、営業面では営業先や提携先の紹介などをしていきたいです。そして次回のファイナンスなどの準備もお手伝いしていきます。DDの過程でも、医療業界でネットワークをお持ちの方々に話を聞いたうえで、HITOTSUさんに投資を決めました。そういった方々とも連携する機会を提供できればと考えています。

      変化を楽しめる、成長志向のあるチームプレイヤーにジョインしてほしい

      HITOTSUでは採用を強化していくそうですが、どのような職種や経験の方を求めていますか?

      佐藤:現在、正社員は16名ですが、1年後には40名まで拡大したいと考えています。特に求めている職種は三つあります。一つはエンジニアで、メンバーレベルからテックリード、VPoEクラスまで、幅広く募集しています。二つめはプロダクトを統括するプロダクトマネージャー、三つめは経営企画です。現在は私がCEO経営企画・経営管理ロールをやりながら、事業開発・カスタマーサクセスを統括しているため、経営企画・社長室として活躍できるコンサルティング経験のある若手メンバーを求めています。経営の根幹をCEOと共に担っていくポジションのため、さまざまな経験を通じてスキルアップができます。

      求める人物像について教えてください。

      佐藤:まずはチームプレイヤーであること。そして会社と個人両面での成長を主体的に目指せる人です。現状維持で業務をこなすのではなく成長志向のある人を求めています。そして、アーリースタートアップなので日々刻々と変化する状況を楽しめることも重要です。
      HITOTSUは来年1月に新しいプロダクトのリリースを控え、ここから事業や組織がどんどん変化して大きくなっていくフェーズです。2ヶ月単位で違う会社になっていくような状況で今が一番面白い転換点なので、多くのメンバーにジョインしてほしいです。

      HITOTSU

      2023.12.18 INVESTMENT

      2023年12月、Angel Bridgeの投資先であるHITOTSU株式会社がA1ラウンドにて2億円の資金調達を発表しました。

      HITOTSUは医療機器管理SaaSのHITOTSU AssetとコミュニケーションDXサービスのHITOTSU Linkを提供しております。前者は医療機器管理に関するペインを解決するプロダクトで、クラウドベースで院内のあらゆる機器・資産を一括管理・情報共有し、医療DXを実現します。後者は今回新たにリリースされる新サービスで、臨床工学技士と販売業者やメーカー間のコミュニケーションを効率化するプロダクトです。医療業界に特化したUIにより医療DXを実現します。

      今回は、HITOTSUへAngel Bridgeが投資した理由を解説します。

      医療機器業界の市場構造

      医療機器はメーカーから販売業者を通して医療機関に提供され、医療機関内では臨床工学技士が点検、修理、在庫管理を担っています。メーカー(約600社)や販売業者(2,000社以上)は取り扱う医療機器の種類や地域で細分化され、中規模事業者が多数存在しており、SaaSによる効率化余地の残された市場となっています。

      また、HITOTSUが最初のターゲットとしている臨床工学技士は病院内で23,000人が勤務しています。臨床工学技士は生命維持装置を取り扱う医療機器のスペシャリストで、病院内の医療機器やシステムに関して意思決定権を持っているケースも多いです。そんな重要度の高い臨床工学技士だからこそ、業務の効率化やコミュニケーションの接点を増やすことに高いニーズがあると考えています。

      医療機器の管理業務における課題

      現状は多くの場合アナログで非効率な方法で医療機器を管理しており、病院、臨床工学技士、販売業者それぞれにペインが存在しています。実際にこれらのペインは現場の声として、HITOTSUの導入事例の中で複数の病院から確認したほか、業界エキスパートへのヒアリングを通して販売業者側のペインも確認することができました。

      病院のペイン

      • 医療機器が院内のどこに何台あるかを把握できていない(把握するのに多くの工数がかかる)
      • 医療機器の稼働率に基づいた保有台数の最適化ができていない

      臨床工学技士のペイン

      • 膨大な紙による事務作業で記入や管理などに工数を取られ業務がひっ迫している
      • 販売業者やメーカーとはメール、FAX、口頭伝達など複数の手段でコミュニケーションが発生しており、効率悪化とトラブル発生の原因となっている

      販売業者のペイン

      • 他社販売業者との差別化として経営改善のアドバイスをしたいができることが少ない
      • 臨床工学技士との接点が少なく、関係性を深めることが十分にできていない

       HITOTSUはクラウド型の医療機器管理SaaSとコミュニケーションツールを提供しこれらのペインを解消します。

      サービス概要

      では、HITOTSUの提供するサービス内容をご紹介します。

      HITOTSUは現在二つのプロダクトを展開しています。

          医療機器管理SaaS HITOTSU Asset

      医療機器の購買・管理・使用におけるアナログな事務作業を一つのツールで効率化します。特徴は3つあります。特徴1: クラウドならではの利便性

      • あらゆる場所・端末からアクセス可能
      • 強固なセキュリティ

      特徴2: かゆい所に手が届き業務効率を劇的に改善

      • 臨床工学技士の視点をもとに開発された豊富な機能
      • 徹底的に磨きこんだUI(Chatbotを介した改善要望に基づき年間103回(2022年実績)もの改善活動を実施)

      特徴3: 現場にとどまらず経営改善のインパクトを創出

      コミュニケーションDX HITOTSU  Link

      医療業界特化のコミュニケーションツールを提供し、業界課題である非効率なコミュニケーションを解決します。まずは臨床工学技士と販売業者間のコミュニケーションを効率化します。

      特徴は3つあります。

      特徴1: 情報共有の効率化

      • グループに招待すれば過去のやり取りも閲覧可能で、引継ぎや新人教育に活用可能
      • チャット形式のUIや既読機能でコミュニケーションが活発化、言った言わないのトラブルを削減できる

      特徴2: 医療機器管理システムとの連携

      • HITOTSU Asset 登録の機器管理番号をLink上で入力すると、自動でデータ連携。修理・見積依頼の煩わしさを大幅低減
      • Link上でやり取りした電子ファイルが医療機器管理システムHITOTSU Assetにも自動連携

      特徴3: 医療業界に特化した病院ならではの機能

      業務日報、リマインダー、発注、入館管理など、医療業界フィットしたUIで提供することが可能

      これらのプロダクトが本当にニーズに応えられているかどうかという観点で導入実績の精査を行いました。ローンチから間もないとは言え、初期の導入先においてしっかり活用されているかどうかは非常に重要なポイントだと考えています。個社ごとのアクティブ率や、非アクティブな先については背景にある定性的な状況についても詳しく理解を進めました。結果としてしっかりニーズを掴んだプロダクトであることが分かり、検討を進めることができました。

      こういったプロダクトは、「業界標準プラットフォームをとれるかどうか」が成否を分けますが、そこに向けて今後の各種戦略が練り込まれており、投資意思決定に至りました。

      競合

      HITOTSU Assetの競合についてです。

      まず下図の低価格だが利便性が低いカテゴリに属するものを見ていきます。

      Excel+紙、自作ソフトを利用するケース

      最も多いのがこのケースです。外部コストはゼロに抑えられますが、実際には構築するのに人的コストがかかっているうえに、機能や使い勝手が良くなく、業務効率が低下しています。さらに担当技士の離職時にメンテナンスが困難でリスクが高いです。

      低価格クラウド

      低価格のクラウドで提供されているものを活用している病院もあります。基本的には非専業のメーカーが他領域で作成したシステムを転用して提供しており、機能が不足しています。また、クラウド型ではありますが、UIも前時代的で使い勝手も良くないことが多く、安かろう悪かろうの状態になっています。

      次に下図の利便性は高いが高価格なカテゴリに属するものを見ていきます。

      オンプレミス型で提供している中価格帯or高価格帯のサービス

      オンプレミス型は高価だが使い勝手が悪いというところにペインが存在します。5年で500万-2,000万円の費用が掛かり、初期費用負担が重く、大規模病院でないと導入が難しい規模感です。機能が多すぎる、UIが悪いなどの理由で現場では使いこなせていないケースも多く存在します。

      以上のように競合サービスは存在するものの、魅力的なサービスを提供できれば十分勝ち目のある市場だと捉えています。

      実際にHITOTSUは低価格と利便性の高さを同時に達成できており、導入病院数も急速に増加しています。

      経営陣

      Angel BridgeがHITOTSUに投資するにあたり、経営チームへの理解を深めました。佐藤CEOは東京大学総合文化研究科広域科学専攻を修了。三井住友海上、ボストンコンサルティング(医療ヘルスケア領域を主に担当)、バイオベンチャーにてCEOを務めるなど経営経験豊富で、医療領域の知見も持ち合わせる稀有な人材です。また田村会長は臨床工学技士としての原体験を持ち、創業者としてビジョンを掲げてチームを率い、エキスパティーズをプロダクトに注入してきました。

      業界のエキスパートである田村会長と経営経験豊富な佐藤CEOのコンビネーションはこの領域で事業展開していくにはこれ以上ない経営チームであると考えました。

      まとめ

      最後にAngel Bridgeの今回の投資のポイントを改めてまとめます。

      1つはやはり経営陣の強みです。Angel BridgeではVertical SaaS業界を突破する秘訣は業界専門家と優れたビジネスマンのコンビネーションだと考えています。Verticalに勝負する上では非常に高い解像度でペインを理解することが重要、かつ営業面でも業界内部の人間であることは強みとなります。これらの観点で業界専門家が経営陣にいることが重要です。一方で業界専門家は必ずしもビジネスに明るいわけではありません。ニッチになってしまいがちなVerticalビジネスモデルで大きな構想を描いて事業を推進していくにはやはり優れたビジネスマンとタッグを組むことが重要だと考えています。HITOTSUはまさにこのコンビネーションが実現されており、非常に魅力的に感じたポイントでした。

      2つ目は中長期的に強力なMoatを築けるビジネスモデルです。HITOTSUはVerticalにマルチプロダクトをすごいスピードで出していく構想を持っています。シングルプロダクトのベンチャーと比較して開発や営業などハードルは高いとは思うものの、それぞれの業界プレーヤに刺さるプロダクトを通じて巻き込み、エコシステムを構築し、利便性を一気に向上し・・・というサイクルが回り始めれば、結果としての非常に強い参入障壁を築くことができます。

      結果としてHITOTSUには業界スタンダードとして高いペネトレーションを実現し、医療業界に変革をもたらしメガベンチャーとなるポテンシャルがあると考え、投資意思決定をしました。

      今後はHITOTSUがビジョンを実現し医療業界にとって欠かせない存在となるために、Angel Bridgeとして全方位でご支援していきます。

      Angel Bridgeは社会に大きなインパクトをもたらすために、難しいことに果敢に取り組むベンチャーを応援していきたいと考えています!事業戦略の壁打ちや資金調達のご相談など、お気軽にご連絡ください!

      2023.11.09 INTERVIEW

      ゲノム解析技術がもたらす恩恵を多くの人に届けたい

      改めまして、齊藤さんのお言葉でVarinosの事業内容を解説いただけますか?

      齊藤:Varinosはゲノム解析技術をもとに各種臨床検査サービスを提供するスタートアップです。現在は不妊治療の一環として行われる子宮内フローラ検査、着床前ゲノム検査、次世代POCゲノム検査のほか、妊娠中や妊娠に備える女性のためのサプリメントの提供も行っています。いずれも不妊治療に費やす時間や経済的負担を減らし、不妊に悩む女性やご家族の苦しみを和らげるために開発したサービスです。

      齊藤さんの管掌範囲と職務内容を教えてください。

      CSOとCOOを兼務しています。CSOとしての役割は全社戦略や事業戦略の全体像から、各戦略を実現してくための事業プランを策定することで、もう一方のCOOとしての役割ではそれら戦略や事業プランに基づき、組織やオペレーション構築から、プロジェクトマネジメントを含めた実行・運用部分を統括しています。さらに最近、管掌範囲に広報・PRも加わって、戦略策定から実行フェーズまで幅広い業務にコミットしている状況です。

      齊藤さんは北大獣医学部を卒業された後、アステラス製薬で臨床開発に携わり、その後、戦略コンサルティングのドリームインキュベータ、医療ITのエムスリー、AI開発のPreferred Networks(以下、プリファード)で活躍されました。これまでどのような基準でキャリアを選択してこられましたか?

      齊藤:新卒で入社したアステラス製薬で医薬品の臨床開発と社会人としてのイロハ、特に事業会社的なウェットな仕事の進め方などを学び、次に選んだのが戦略コンサルティングファームのドリームインキュベータでした。製薬企業での仕事は、ビジネスや経営といった企業活動の上流部分とは無縁だったので、まったくの素人から大局的な思考やビジネスの上流設計を身に着けていくには戦略コンサルティングが一番近道だと考えたからです。その後、戦略構築だけでなく、そこで身に着けたスキルや思考力で事業を実際に立ち上げて成長させてみたいと思い、エムスリーとプリファードという分野の異なる事業会社に進みました。いまVarinosにいるのはこれまでの経験を活かして、創業間もないスタートアップをどこまで成長させていけるかにチャレンジしてみたいと思ったからです。

      優れたサービス品質とそれを裏付ける確かな技術力

       齊藤さんはVarinosのどこに将来性を感じたのでしょう?

      齊藤:まずはシンプルにサービスと市場を見たときに、これはきっとうまくやれば勝てると思ったことです。市場の特性や、その市場におけるアンメットニーズと提供するサービスバリューのマッチングが明確で、かつバリューを支える品質と技術力の確かさ全てが揃っているなと。不妊治療における体外受精成功率が残念ながら高いとは言えない状況の中で、Varinosが提供する子宮内フローラ検査にはその課題を解決するという明確なバリューがありました。かつ、超微量の菌量を測定するという難易度の高い解析においても、解析結果が出ない割合はわずか1%程度に過ぎないという高い性能を誇っています。きちんとしたエビデンスがあることや、細かい精度の差が医師や患者さんにとって大きな価値となりうる医療業界の中で、この製品力はこの上ない大きな強みであり、スタートアップでもこの業界で十分戦っていけると確信したので、このサービスの成長に貢献しようと決めました。

      入社後、とくに大変だったことについて聞かせてください。

      齊藤:そもそも勝ち筋とアプローチ方法に関しては、入社前にある程度想定できていたので、正直、事業面で苦労した記憶はあまりありません。強いて言えば、入社時に、余りにも何も整ってなかったので、これを1から整えていくのは大仕事だなあと思ったことくらいでしょうか。自分は事業活動の中で見出したファクトをベースにPDCAを回して行く事が基本スタンスなのですが、当時は顧客リストも案件管理も整備されておらず、過去のファクトなども洗えない状況でした。そのため、現状を把握し業務プロセスをイチから整えるのはそれなりに手間がかかりましたが、優秀な元同僚に声をかけてVarinosに参画いただき、短期間でインフラを整備できました。また事業面のみならず財務面や経営管理などでも、すぐにでもやるべきことが山積みの状態だったので、自分だけでは手が回らないかも、と思いはじめていた矢先に、河西さんが現CFO兼経営管理本部長の平川を引っ張ってきてくれたんです。おかげでずいぶん気が楽になりましたし、会社活動全体もうまく回るようになりました。河西さんにはいくら感謝しても足りません。本当に助かりました。

      河西:齊藤さんと平川さんが入社されてからVarinosの売上が大きく伸びたので、私としてもご紹介した甲斐がありました。齊藤さん、平川さんを往年の時代劇「水戸黄門」にたとえるとすると、CEOの桜庭さんが黄門様で、おふたりは黄門様を支える家臣の助さんと格さんといったところではないでしょうか。どちらも非常に心強い存在です。

      齊藤:結果を残すのが私たちのミッションですからそう言っていただけて嬉しいですね。

      河西:齊藤さんはさまざまな業界で経験を積まれています。異なる環境下で常に結果を出し続けるため心がけていることはありますか?

      齊藤:結果を出すのは、特に現場で数字を上げてくれるフロントメンバーや、バックでサポートいただいてるメンバーの尽力あってのことという前提があっての話ですが、私の立場で心がけているのは、戦略立案はもちろん、結果を出すまでのロードマップやそれらが順調に進んでいるかを評価するためのKPIの作り込みと、実行した際の評価と改善を徹底することですね。勘や楽観的な解釈、妄想と大差ない思い込みなどはできるだけ排除し、常にファクトに基づいて施策や活動を評価し、成功事例は拡大させて、うまくいかないものは改善するなり、切り捨てるなりする。それを成果を出すまで繰り返していくというのが私のやり方です。要は愚直に当たり前のことを当たり前に突き詰めるというだけなのですが。これは決して唯一解ではないと思いますが、少なくともVarinosではこういった取り組みがいまのところ功を奏しているのかなと思います。

      河西:確かに。齊藤さんの仕事ぶりを間近で見ているのでよくわかります。

      齊藤:ありがとうございます。いまお話しした結果とは、要は売上や利益です。個人的には、当然経営者として追求すべき指標であると同時に、事業活動に対する公正な評価指標だと思ってます。たとえば、自分ではうまくやったつもりでも売上が全然上がってなかったら、その活動成果は意味がないと同時に着目すべき課題がほかにあるという示唆にもなるでしょう。また、逆に何もしてないのに売上が上がってたら未知の外部要因による可能性を示唆しているので、さらに事業をレバレッジさせる成功要因を見つけるきっかけにもなります。このような形で徹底的に知恵を絞って客観的に出てきた数字を評価をして、課題を特定・対処可能なサイズにまで分解して、勝ち筋を見つけ徹底的にやりきることが、成功に繋がる道なのかなと思います。ですからどんなに泥臭いことでも取り組むスタンスは重要でした。

      経営者の孤独を癒やす「クロスラーニングの会」

      話は遡りますが、おふたりが出会ったのはいつですか?

      齊藤:私がプリファードにいたころでしたね。

      河西:そうでした。私はVarinosと創業直後からかかわっており、当時からVarinosをサイエンティストの集団として高く評価していました。しかし、サイエンティスト集団であるがゆえ、事業を回しスケールさせる人材が足りないという弱点も抱えていました。そこで以前からお付き合いのあった人材エージェントに相談をもちかけたところ、紹介していただいたのが齊藤さんでした。

      齊藤:河西さんにお会いしたころはまだ会社を辞める予定はなかったのですが、はじめてお会いした後も、3カ月に1度くらいのペースで定期的にお会いしてましたね。

      河西:ええ。判で押したように定期的にお会いするよう働きかけたのは、齊藤さんが転職したいと思われるタイミングを逃したくなかったからなんです。

      齊藤:そうだったんですね。おかげさまでいまの自分にあった環境に巡り合えました。ありがとうございます(笑)

      ところで河西さんは、なぜ齊藤さんがVarinosの経営陣にふさわしいと感じたのでしょうか? 白羽の矢を立てた理由を聞かせてください。

      河西:齊藤さんは獣医学部出身で獣医師免許もお持ちで、サイエンスもわかるし製薬の経験もおありです。それに加え、戦略コンサルや事業会社で新規事業の立ち上げもある。レジュメをひと目見てこの人が必要だと思いましたね。

      齊藤:Varinos以外にも何社か投資先をご紹介いただきましたね。私の目にとりわけ魅力的に映ったのがVarinosでした。

      河西:それで早速、桜庭さんに引き合わせたところ意気投合し、その後トントン拍子に話が進み入社が決まりました。齊藤さんは経験も実力も兼ね備えており、かつ当事者意識も強い方です。当時からバランスのよさが際立っていました。桜庭さんとの相性もバッチリでしたしね。齊藤さんがVarinosにジョインされるまで1年半から2年はかかったと思います。ようやく口説き落とせました。

      齊藤:エムスリーやプリファードで、イチから事業を立ち上げ、手離れするところまで経験できたので、次はより小さなスタートアップで、自身の管掌範囲を広げて会社の成長にコミットしたいと思っていたんです。将来性のあるアイデアや技術をビジネス化しスケールするようなフェーズが自分の得意領域なので、その点、当時のVarinosの状況にもピッタリ符合していましたね。加えて、当時体外受精は自由診療だったため、医療業界における他の領域に比べて戦略変数が多く、会社規模や累積経験といった点でディスアドバンテージがあったとしても、大企業と戦いうる数少ない領域です。チャレンジしがいがあるテーマだと感じて入社しました。

      齊藤さんは、河西さんにどんな印象をお持ちでした?

      齊藤:経営者のウェットな部分に触れることを恐れず、暖かく見守るようなケアをしてくださる印象がありますね。「あれやれ」「これやれ」と上からモノを申すようなことがなく、経営者であるわれわれをリスペクトしてくださった上で、必要なケアを提供してくださる方だと思っています。

      どんな支援が印象に残っていますか?

      齊藤:いろいろありますが、とくに私はAngel Bridgeが投資先を集めて主催している「クロスラーニングの会」がとても気に入っています。

      どんなところがお好きなんでしょう?

      齊藤:クロスラーニング会はAngel Bridge投資先の経営者が集まり企業運営のノウハウや成功体験、失敗体験をざっくばらんに共有し合う場です。経営者は孤独な存在だとよく言われますが、実際、目の前にある課題に深く入り込めば入り込むほど視野狭窄に陥ってしまいます。でもこうした会合に参加することによって「悩んでいるのは自分だけじゃないんだ」「こんなやり方があるのか」と、実践した人しか語れない説得力のある話が聞ける。視野が開かれるようで、とてもありがたいんですよ。これまで2度参加しましたが、その都度、目から鱗が落ちるような経験をさせてもらいました。

      河西:人事制度や評価制度をどうすべきかといったテクニカルな話から、経営者のメンタルケアについてまでいろいろな話題が出ますよね。

      齊藤:そうですね。毎回ためになる話が聞けるので、お金をお支払いしたほうがいいのではと思うほどです(笑)。経営者同士が開襟を開いて話せる場ってなかなかありませんから、ぜひこれからも続けてください。

      河西:私は投資先も含めてAngel Bridgeファミリーだと思っているので、それは嬉しい言葉ですね。身内同士で学び合えるのは相互扶助につながりますし、もちろん成長意欲を高める刺激にもなりますからね。私も長く続けていくべき取り組みだと思っています。

       

      学び直す気概でスタートアップに飛び込んでほしい

      齊藤さんは今後、Varinosをどんな会社にしたいですか?

      齊藤:これまでは業界内でのポジショニングの確立を急いでいましたが、その取り組みが一定の評価を得る段階まできたので、今後は海外進出を含め新たな取り組みを加速させます。他の業界同様、医療業界も大きく変わりつつある一方で、まだまだレガシーな側面があるのは否めません。新たな手法やアプローチで業界の常識を打ち破り、Varinosを各界からベンチマークされるような企業にする。それが私の目標です。

      河西:私たちとしても、困ったときにはいつでも手を差し伸べるつもりでいるので、これからも常に本音で話し合えるような関係を保っていきましょう。

      齊藤:そうですね。これからもよろしくお願いいたします。

      最後に、プロフェッショナルファームで積んだ経験をスタートアップで活かしたいと考える方にメッセージをお願いします。どんなことに注意するべきでしょうか?

      齊藤:プロフェッショナルファーム経験者は、仕事の進め方や思考のフレームワークが共通するだけに、同質性が高い者同士でやりとりすることに慣れているように感じます。しかし、そのやり方をそっくりそのまま事業会社に持ち込んでも、すぐにはうまくいかないことが多いのではないでしょうか。業界ごとや職種ごとにそれぞれ考え方や仕事の仕方に特質があるからです。とくにスタートアップは成長途上にあり、その点も踏まえた上での環境作りからはじめる必要もあります。大所高所から経営を見渡すのも大事ですが、現場では普段何が起こっているのか、どんなモチベーションで働いているのか、まずはそれを知ることからはじめることをお薦めします。そうして既存のメンバーを巻き込み、スタートを切るのが重要です。個人的にはこれまで身に付けてきた常識を一旦忘れ、学び直すくらいの気概で飛び込むべきだと思います。もしそれだけの覚悟がありやり切れるのであればきっといい成果が残せるのではないでしょうか。

       

      2023.09.08 TEAM

      幼少期からドバイで暮らし、カナダ留学を経て投資銀行へ

      髙橋さんの仕事内容を教えてください。どんなスケジュールで動いていますか?

      仕事の割合でいうと、新規案件の目利きとソーシング活動に6~7割、既存の投資先への支援に1割、社内イベントやマーケティング活動に残りの2~3割を費やしています。1日のスケジュールとしては、朝9時に出社、国内外のスタートアップ動向をチェックした後に、投資先候補の方々との面談や検討案件の目利き、既存の投資先定例会への参加、社内マーケティング作業などを経て、退社するのは18時過ぎになることが多いです。その日にVC業界の交流会や飲み会があれば退社後に参加しますが、特にない日はジムやサウナにいって1日を終えます。

      実は日本より海外に住んだ期間が長いようですね?

      埼玉県で生まれて、小学校に上がるタイミングで親の仕事の都合でドバイに移住しました。小学校から高校卒業までの12年間をドバイで過ごした後に、カナダのトロント大学に留学しました。カナダには約5年間住んでいたので、日本より圧倒的に長い期間を海外で過ごしていますね(笑)。

      投資銀行に入った背景を聞かせてください。

      トロント大学に入学して最初の1年は数学と統計学のダブルメジャーを選考していました。しかし卒業後のキャリアがなかなかイメージできず、入学2年目に数学と経済学の要素が揃っていたFinancial Economicsに進路を変更しました。当時学内で実施されていた金融関係のセミナーに参加したところ、ハードワークである一方、若手のうちからM&Aや資金調達などの重要案件に携われる投資銀行の存在を知りました。自分を鍛えるにはもってこいの環境だと思い、サマーインターンでお世話になったBofA証券に入社しました。

      BofA証券ではどんな案件にかかわっていたましたか?

      入社1年目はいわゆる営業部隊であるカバレッジチームに配属され、再生エネルギー、自動車、テクノロジー業界を対象としたM&Aや資金調達の提案資料の作成や、案件執行のサポートに従事していました。2年目からは実際に案件を執行するM&Aチームの一員として、企業評価を算出するバリュエーション業務などに携わる機会が多かったです。

      投資銀行出身者は、どんなセカンドキャリアを選ぶことが多いですか?

      プライベートエクイティファンド(PE)やヘッジファンド(HF)など、金融業界におけるバイサイドに転職する人が一番多い印象です。その次に事業会社やスタートアップへ転職する方が多いイメージです。今まではベンチャーキャピタル(VC)に転職する人はあまり多くなかった印象ですが、最近はベンチャーキャピタルに転職する人が増えているように感じます。私が前職からAngel Bridgeに転職した年に、同期を含め数名の方々がベンチャーキャピタルに転職したと聞いています。

      髙橋さんはどうしてベンチャーキャピタルに惹かれたのでしょう?

      一番のきっかけは前職の同期のひとりがベンチャーキャピタルに転職を決めたことになります。その前まではベンチャーキャピタル業界について詳しくなかったので、積極的に話を聞いて勉強しました。創業間もないスタートアップの将来性を見抜き、リスクをとって投資した企業がメガベンチャーに育っていく姿を間近で見れたら面白いだろうなと。そのダイナミックさや社会的意義の大きさに惹かれました。大企業を相手にすることが大半の投資銀行ではそういった経験はできないと思い、転職を決めました。

      信頼関係の構築なくして投資はできない

      ベンチャーキャピタルといっても、規模や個性はいろいろです。なぜAngel Bridgeを選んだのですか?

      Angel Bridgeの存在を知ったのはヘッドハンターからの紹介です。一度、情報交換しませんかといわれお会いしたのがパートナーの河西でした。話した際に凄く優秀だと思いましたし、何より人柄のよさが際立っていました。その後もパートナーである林を筆頭に、メンバーの皆さんとお目にかかる機会を作っていただき、Angel Bridgeのカルチャーに対して強いフィット感を感じました。皆さんプロフェッショナルファーム出身者で、仕事の進め方やカルチャーに馴染みがありましたし、少数精鋭で個人の裁量が大きいのも魅力的でした。Angel Bridgeはまだ少人数なこともあり、これから組織を大きくしていく段階なので、自社の組織作りにも関与できるのは貴重な経験だと思い、入社を決めました。

      入社後、具体的にはどんな仕事に携わっていますか?

      シニアアソシエイトの八尾とペアを組んで、既存投資先の支援や新規投資検討案件を通じて、ディールの全体の流れ、投資先の支援方法、検討案件の目利きの方法などについて幅広く学ばせてもらっています。私が自分でソーシング、目利きを行い投資まで至った案件はまだないので、はやく独り立ちできるようになりたいですね。

      入社から3ヶ月(取材時)。率直な感想を聞かせてください。

      前職とベンチャーキャピタルの一番の違いは、人と話す機会が非常に多いことですね。優れた起業家や有望なベンチャーと出会うには、ピッチイベントに出かけたり、人を介して紹介していただいたりとプロアクティブな行動が欠かせません。私は以前から人と話すのが好きなので、その点はまったく苦になりません。もうひとつ違いを感じるのは仕事のスパンですね。投資銀行時代はM&Aや資金調達(エクイティ、デット)など数ヶ月単位の仕事が多かったので、比較的短期間で案件がクロージングまで至ります。それに比べてベンチャー投資は息の長い仕事です。シード案件だとプロダクトも未完成、売上もゼロの状態から、ビジネスをつくり経営者が自走できるまで伴走します、フェーズやマイルストーンはあっても明確なゴールはありません。同じ金融の世界でも、見ている景色も、大事にしているものもまったく違う印象です。

      投資銀行での経験が、いまの仕事に活きていると感じることはありますか?

      複数案件を同時にこなしながら限られた期間内にアウトプットを仕上げること、また、開示されている財務数値から対象企業の分析をしてきた経験はとても役立っています。ただその一方で、起業家と一緒に事業戦略を検討したり、定性的な情報を見ただけで起業家やビジネスのポテンシャルを見極めたりする部分については投資銀行で経験してこなかった業務なのでまだまだです。経営や事業に対する解像度はまだそこまで高くないので、引き続き色んな案件を経験して、自分のスキルアップを目指そうと思っています。

      いつかメガベンチャーの創出に携わりたい

      Angel Bridgeの魅力は?

      Angel Bridgeは、社員同士の仲が非常によく、社内イベントを開いて盛り上がることもしばしばです。バーベキューやゴルフ、フットサル、スカッシュなど、投資先を招いたイベントを通じて親睦を深めており、チームワークや団結力は非常に高いです。公私にわたる付き合いを通じて信頼関係を醸成できるのは、前職にはなかった魅力だと思います。Angel Bridgeのメンバーは、それぞれが別の強みをもつプロフェッショナルでありながら、互いに支え合う仲間でもあります。
      私が入社した直後にチーム全体で歓迎会を主催してくれたり、誕生日をサプライズで祝ってくれたりもしたので、非常にチームを大事にしてくれているのもAngel Bridgeの魅力です。

      髙橋さんにとって、ふたりのパートナーはどんな存在ですか?

      人柄、仕事の両面でも尊敬できるロールモデルです。河西は事業の精査や分析に長けており、特にバイオ分野に強いです。面倒見もとても良く、チーム全員が成長できるようにコミットしてくれています。林はあらゆる業界に通じているだけでなく、人間的な魅力に溢れています。厚い人望があり、林が主催する会には業種問わず色々な方々が集まります。お二人とも気さくで話しやすく、自然と人が集まる魅力的な先輩方です。知見や経験、人脈の広さに加え、リーダーシップや面倒見のよさ、チームワークを尊ぶ姿勢——そのどれをとっても学ぶことばかりです。

      どんな人と働きたいですか?

      好奇心が旺盛でコミュニケーション力が高い人ですね。好機は向こうからやってくるわけではありませんし、どんなに優秀であっても相手から信頼されなければ投資は実現しません。ベンチャーキャピタルは色々な起業家、他ベンチャーキャピタリストなどと話す機会が非常に多いので、そういったコミュニケーションを楽しめる人が向いている職業だと思います。

      今後の目標を聞かせてください。

      まずは、自分でソーシングした案件を社内で通し、投資実行まで持っていくことが当面の目標です。投資実行後に、自分がかかわったベンチャーの成長に貢献できればと思っています。究極の目標は、自分の英語力や海外人脈を活かし、海外の機関投資家をLPとして巻き込んだり、必要に応じて投資先を海外事業会社や海外VCと繋げたりして、世界に誇るメガベンチャーの創出を実現すること。少し先の話になると思いますが、いつか実現させたいですね。

      最後に髙橋さんが大事にしている信念を教えてください。

      人生一度きりです。何事に対しても妥協せずやりきることを信念にしています。それをひと言で表すなら「妥協なき人生」になります。
      カナダ留学中に、ニューヨークで投資銀行で働きたいと考えた時期がありました。あるとき現役のバンカーに相談しようと思い立ち、LinkedInでピックアップしたバンカーたちに自己紹介とプレゼン資料をメールで送ったことがあります。最終的に300人以上にメールを送り、返事がいただけたのは15人で、実際にニューヨークでお会いできたのは5人でした。結果的にはビザの関係で日本での就職を選びましたが、とても有益なアドバイスをいただけました。これまでにやったことがないことであっても、妥協せずやり抜けば価値あるものが得られる。それを知れただけでもやってよかったと思います。これからも妥協せず貪欲に挑戦し続けるつもりです。

      2023.09.05 INTERVIEW

      最新の研究成果をいち早く医療現場に届ける

      Varinosの事業内容を教えてください。

      平川:Varinos​は、高速でDNA配列を解読する次世代シークエンサーを用いたゲノム検査サービスを提供するバイオベンチャーです。現在は医療機関から送られてくる検体を自社ラボで解析し、その結果を不妊治療に活かしていただく一方、妊活に役立つサプリメントや検査キットの提供なども行っています。

      競合の状況はいかがですか?

      平川:現在、海外に類似サービスを手掛けている企業が1社ありますが、いまのところ国内の競合もその1社のみとなります。(2023年8月現在)。

      ゲノム検査を手掛ける企業は数多くあります。なぜ競合が少ないのでしょう?

      平川:最新の研究成果をもとにしたサービスだから、というのが大きな理由です。それまで無菌とされていた子宮内に細菌叢が存在することがわかったのが2015年で、子宮内の細菌叢に善玉乳酸菌の比率が低い場合、体外受精の成功率が下がるという研究結果を発表されたのが翌年の2016年のことでした。Varinosは2017年2月に創業し、その年の12月に子宮内フローラ検査の実用化に成功しています。最新の研究成果を圧倒的なスピード感で実用化に漕ぎ着けられたのは、創業者である桜庭喜行と長井陽子がゲノム研究のエキスパートであったからです。さらにサービスの実用化をいち早く実現したことにより、検査数はすでに2万検体を突破しており、いち早く先行優位性を獲得できたことも競合の少なさにつながっていると思います。

      予備校の恩師の助言で監査法人からベンチャーへ

      そもそも平川さんは、なぜ公認会計士になろうと思われたのですか?

      平川:高校時代は剣道一筋で、インターハイで8位入賞するくらい入れ込んでいました。当時は剣道の強豪校に進もうと思っていたのですが、推薦を受けられず大学進学を諦めざるを得なかったんです。それで給料のよかった地元のパチンコホールに就職し、5年ほどたったころだったでしょうか。「このままでいいのかと」と考えるようになり、パチンコホールを辞め資格予備校に通い出しました。高校時代に簿記2級を取っていたので、1級を取ってからその先の人生を考えようと思ったんです。予備校に通い出してしばらくたったころ、先生から「予備校でバイトすれば学費が免除になる」と教えてもらい、それなら簿記よりも難しい公認会計士資格を目指そうと思ったのが資格を取るきっかけになりました。

      平川さんは、公認会計士試験合格者として監査法人PwCあらたでご活躍後、3社のベンチャー企業を経てVarinosに参画されました。なかでも、2015年から19年まで在籍された不動産テックのGA technologies社では、取締役経営管理本部長としてIPOの実現をリードし、いまや同社は売上高1,000億円を超える大企業です。結果からすると素晴らしい成果だと思いますが、監査法人での安定したキャリアを捨てるのは勇気が必要だったのでは?

      平川:安定志向で監査法人に入ったのであればそう感じたかもしれません。でも私の場合、いずれベンチャーにいくつもりで監査法人に入りました。公認会計士の資格を取るために通っていた予備校の先生からの影響です。

      予備校の先生から、どんな言葉をかけられたのですか?

      平川:公認会計士の知識が活きるのは監査法人だけではないといわれたんです。公認会計士資格を取るには4科目の短答式試験と5つの論文式試験をクリアしなければなりません。会社法に至っては弁護士資格並の知識が求められるのに、監査法人で主に使うのは会計学と監査論のふたつだけ。その先生から、企業のバックオフィスを支えるほうがはるかに公認会計士の実力が磨かれるし、ダイナミックで面白い世界が体験できるといわれて、なるほどなと。事業会社のなかでも組織が小さく、ひとり一人の裁量が大きいベンチャーならさらに面白い経験ができそうだと思いました。

      監査法人ではどんなお仕事をされていたのですか?

      平川:将来、事業会社のバックオフィスを支えるとしたら、財務会計だけでなく適切な業務プロセスやリスク管理などについても熟知しておく必要があります。そのためメガバンクを顧客とする内部統制の評価支援業務プロジェクトを通じて、ベンチャーでも活かせる知識や経験を育みました。

       

      求めていたのはイノベーションを起こすベンチャー

      目指していかれたとはいえ監査法人とベンチャーでは環境がまったく異なりますよね。理想と現実のギャップに苛まれたこともあったのでは?

      平川:そうですね。でも、それは入る前からわかっていたことですから、環境が違うことに憤ったり、仕事を選り好みしたりするつもりはありませんでした。CFOは決算書を語るのではなく決算書をつくる責任者です。組織をどう動かせば決算書にいい変化が起こせるか考え実行するのが仕事でもあります。日々の帳簿付けから経費精算、請求書の発行、入金や振込確認など経理実務に加え、営業同行に忙殺された時期もありましたが、それでもあまり苦にせずやりきれたのは、それをやることが組織のなかで必要だと思ったからに過ぎません。たまたま仕事を通じて知り合った公認会計士資格をお持ちのCFOからも「ベンチャーに入ったからには、会社の成長に必要なことは何でもやるべき」といわれていたので、それが当たり前だと思っていたというのもあります。

      平川さんは、GA technologiesを皮切りに、その後もキャスターやRecro、そしてVarinosとベンチャーのCFOとしてキャリアを重ねてこられました。平川さんはどんな基準でご自身がコミットするベンチャーを選ばれてきたのですか?

      平川:自分では「リノベーションではなく、イノベーションを起こすベンチャー」を選んできたつもりです。世の中を便利にするだけでは飽き足らず、これまでにないものを生み出そうと意気込んでいる企業を支えるのが自分の使命だと思っているので、そうした志がある企業かどうかで判断してきました。

      Varinosに参画されたのは改めてIPOを目指したいと思われたからですか?

      平川:そうですね。株式上場を経験後、複数のベンチャーで各種規程の策定や運用、M&Aや資金調達などにかかわる機会を得て、CFOとしてのキャリアに厚みを持たせることができました。ここで改めてIPOを達成すれば、これまでの経験を整理できるだけでなく、再現性のある取り組みだったことを証明できます。だからこそ先駆的な取り組みを行っているベンチャーで経験を積んできたわけです。もちろんVarinosを選んだのは、文字通りイノベーティブな事業を手掛けているからにほかなりません。

       

      希有な経歴と実績に惹かれ、贈られたラブコール

      Varinosとの出会いについて教えていただけますか?

      平川:前職のプロジェクトが一段落したタイミングで、エージェントに相談したところ河西さんを紹介されました。それがVarinosとの出会ったきっかけです。

      河西さんはいつからVarinosとお付き合いがあるのですか?

      河西:以前から桜庭さんの評判を聞いており、ゲノム解析の領域で起業すると聞き「あの桜庭さんが起業するなら」ということで早々に投資を決め、私自身、いまも社外取締役にも名を連ねています。創業間もなくからのお付き合いですから、もはや身内のような立場です。

      そんな経緯もあって、平川さんにお会いすることになったわけですね。

      河西:はい。投資先支援の一環として普段からエージェントの皆さんとお付き合いしており、そのなかで平川さんをご紹介いただきました。ご経歴をひと目見るなり「VarinosのCFOにぴったりな人材」だと思いましたね。平川さんは公認会計士試験に合格された経緯もさることながら、創業間もないベンチャーをIPOに導き、1,000億円企業への礎を築かれました。監査法人での経験に加え、ベンチャーにおける財務会計、経理の実務に通じており、しかもIPOを成功させている。CFOとしてはかなり希有な存在といえます。ぜひCEOの桜庭さんと引き合わせたいと思って、私からラブコールを送りました。

      平川:私自身、以前から少子高齢化問題を通じて、医療やヘルスケアテック領域に関心があったので、お声がけいただいたときはとてもうれしかったですね。でも、河西さんとお会いするのは正直躊躇しました。東大大学院で遺伝子工学を学ばれ、ゴールドマン・サックスやベインキャピタル、ユニゾン・キャピタルを経て、ご自身でAngel Bridgeを立ち上げた投資の専門家です。とても緊張したのを覚えています。

      実際にお会いになっていかがでしたか?

      河西:実際にお会いしてみた第一印象は、ご経歴から受ける印象とはまったく違って、とても温和で接しやすい方でした。CFOは数字を管理する能力に長けているだけではダメで、社内外の人たちと健全な人間関係を築けなければ務まりません。その点、平川さんはベンチャーの現実を踏まえた上できちんと理想を追求できる人とお見受けしました。ここまでバランスがいい人材にはそうそう出会えませんから、面談後、桜庭CEOに「ぴったりの方を見つけました!」と、興奮気味にメールを送ったのを覚えています。

      平川さんはいかがでしたか?

      平川:私も河西さんもご経歴から受ける印象とは違い、すごく話しやすい方だなというのが第一印象でしたね。バイオや資本施策に関する知識が豊富であるにもかかわらず、押し付けがましいことは一切なく、常に私たちの考えや希望を聞いた上で的確なアドバイスをくださいます。その印象はいまも変わりません。だからこそ長くお付き合いできるのでしょうね。

      Angel Bridgeにしかできない相談がある

      普段、Angel Bridgeとはどんなお付き合いを?

      平川:毎月の役員会や定例ミーティングで、さまざまな課題を一緒に検討して頂いています。Angel BridgeがほかのVCと違う点があるとすれば、直近の数字や実績についてだけではなく、不確実性の高い中長期的な戦略や課題などについて、腹を割って話せるところですね。IPOがゴールだと考える投資家が多いなか、その先を見据えて必要な情報や知見を提供してくださるので、Angel Bridgeにしか相談できない相談事は実はたくさんあるんです。先ほど河西さんから「身内」という言葉が出ましたが、まさにおっしゃる通りで、最近も営業資料に手を入れていただいたり、新オフィスへの移転を記念して投資家向けの内覧会を勧めて下さったりと、微に入り細に入りさまざまな面で助けていただいています。

      河西さんはどんなことを意識して支援されているのですか?

      河西:創業期から一緒に歩んできているので、我が子の成長を見守るような気持ちで接しています。褒めるべき点は褒めますし、耳の痛い話であってもオブラートに包むことなく率直に話せるのは、しっかりとした人間関係が確立されているからです。良いときも悪いときもずっとそばにいるつもりですので、本音で話し合える仲間だと思っています。

      平川:私たちもファミリーの一員として迎えてくださっている感覚がありますね。フォーマルなミーティングだけでなく、ゴルフやフットサル、バーベキューなどAngel Bridgeの投資先を交えたイベントも頻繁に企画してくださったり、COO兼CSOの齊籐のように河西さん経由で優秀な人材を紹介してくださったりと、公私にわたるご支援には本当に感謝しています。

      河西:Varinosのような将来性のある企業に対し、資金だけでなく人的貢献ができるのは私たちにとってもうれしいことです。今後も引き続き成長の過程で必要なリソースを提供できるよう末永く支援を続けていければと思っています。

      VarinosからAngel Bridgeに期待することは?

      平川:私自身、IPO後の成長をどう牽引すべきか未知数な部分があるため、河西さんを筆頭にAngel Bridgeの皆さんには、資本施策への助言はもちろん、事業展開やサービスの拡充、さらには組織拡大など、IPOの先の成長を見据えた支援に期待しています。

      平川さんご自身はVarinosをどんな会社にしていきたいですか?

      平川:子宮内フローラ検査の普及をきっかけに、オーダーメイド医療の発展に貢献していきたいですね。業界のパイオニアとしてしっかり利益を出し、持続可能なビジネスを確立しなければと思っています。個人的には国内外の有望なバイオベンチャーを集め、CVC(コーポレートベンチャーキャピタル)を組成し、この業界を盛り上げられたらと思っています。

      監査法人など、プロフェッショナルファームにいらっしゃる方にメッセージをお願いできますか?

      平川:ベンチャーはリスクが大きい選択だと思われる方がいるかもしれませんが、それはもはや過去のものになりつつあります。むしろ国家資格という強い武器があるからこそ選択できるキャリアがあるはずです。この世界に興味があるならぜひチャレンジしていただきたいですね。

      河西:実際、平川さんのように監査法人からベンチャーをはじめとする成長企業のCFOに転身されるケースが目に付くようになりました。しかしその一方で、志半ばで諦めてしまう方も一定数おられます。ベンチャーで成功するには何が必要ですか?

      平川:一番大事なのは変化への対応力でしょう。もちろんプロフェッショナルとして知識や経験を駆使して我を通さなければならない局面はあります。しかし社会情勢の変化に対して大胆な選択を迫られることが多く、朝令暮改すら日常茶飯事なのがベンチャーです。その変化に翻弄されてしまうとツラいでしょうが、変化を受け入れ楽しめる人にとっては、これほどダイナミックで面白い環境はありません。

      河西:平川さんを見ていると、自分が決めた役割や肩書きに固執しないことも重要だと感じますね。

      平川:おっしゃる通りですね。ベンチャーのCFOはデスクの前にふんぞり返っていては役割は果たせません。企業によって程度の差こそあるでしょうが、泥臭い仕事を厭わない覚悟は必要でしょう。自分の役割の範囲を決めず何でもトライしてやろうという気概をもって、会社の屋台骨を支えるのは難しくもあり、楽しい仕事なのは間違いありません。

      2023.07.21 INTERVIEW

      2019年創業の社債専門のネット証券会社「Siiibo証券」

      Siiibo証券の事業内容を教えてください。

      宮崎:Siiibo証券は社債に特化したネット証券会社です。資金調達のために社債を発行する企業と投資家を結ぶオンラインプラットフォームを運営しています。

      他の証券会社で扱っている株式や社債との違いは?

      宮崎:社債も株式も、企業にとって重要な資金調達の手段ですが、その位置づけは似て非なるものです。株式がエクイティファイナンスの手段であるのに対し、社債はデットファイナンスの一種。とくに私たちが扱っているのは社債のなかでも、不特定多数の投資家から数百億から数千億円規模の資金を集める「公募債」ではなく、49人までの限定された投資家から数千万から数億円規模の資金を募る「私募社債」です。公募債に比べ、手続き面や金銭的コストを抑えられるため、大企業でなくても利用しやすいというメリットがあります。Siiibo証券は、伸び盛りの成長企業に資金調達の手段を提供し、個人投資家には新たな投資先の選択肢を提供するため、2019年に創業されました。

      競合状況はいかがですか?

      社債に特化したネット証券会社はいまのところ当社のみで、直接的な競合は存在していないと認識しています。ただ、企業の資金調達手段という広い意味の競合では、株式投資型クラウドファンディングやソーシャルレンディング、デットファンド、レベニュー・ベースド・ファイナンスなどが挙げられます。私募社債は、多様化する資金調達手段における選択肢のひとつという位置づけです。

      なぜ直接競合が存在しないのですか?

      宮崎:まず、私募社債を取り扱うにあたって必要な「第一種金融商品取引業」に登録する難しさが挙げられます。とくに新興FinTech企業にとって事業の先行きが見通しづらいなか、登録要件に定められた自己資本比率規制を満たし、組織体制を整えるのはかなり厳しいハードルです。一方、すでに一種業登録が済んでいる証券会社がなぜ積極的に注力しないかというと、既存の公募債事業に比べて規模の小さい私募債は、短期的には収益の上がりにくいビジネスだから。個人的にはこうした構造が事実上の参入障壁になっていると思います。

      なぜ、高いハードルがあるにもかかわらずSiiibo証券は参入障壁を突破できたのでしょう?

      宮崎:一言で申し上げれば「やりきると決めたから」ですね。そもそもスタートアップ市場の盛り上がりや、分散投資に対する関心の高まりを見れば、社債の活用はもっと広がってしかるべき。発行企業、投資家の双方にメリットがあるのは明らかですし、テクノロジーを活用すれば、コストを抑えながらも法規制に則った形で、発行企業と投資家をつなぐオペレーションが実現できる。それなら、登録完了までは本業で売上を立てられないというリスクを取ってでもやりきろうという意志があったからこそ、ハードルを乗り越えられたのだと思います。

      VCの代表を務める河西さんの目にはSiiibo証券の魅力はどう映りますか?

      河西:Siiibo証券は企業と投資家双方のニーズをマッチさせるこれまでにない金融プラットフォームです。これだけスタートアップが増えているにもかかわらず、事実上、一部の企業や投資家にしかアクセスできない私募債の市場をより多くの人たちに開くことになるわけですから、非常に有意義な取り組みだと感じています。社会的にも大きな意味があると感じ投資させていただきました。

      マッキンゼーで体得した、スタートアップ経営に欠かせない力

       宮崎さんは、東大大学院の工学系研究室を修了し、マッキンゼーを経て、Siiibo証券にジョインされたと聞いています。

      宮崎:中学高校時代は天文部に所属しており理系学部を志望していたのですが、興味関心と得意科目が合わず、悩んだ末に法学部に進学しました。入学してはみたもののやはり法学にはあまり興味が持てず。思い切って後期過程で理系に転じ、大学院では、シミュレーションとビッグデータ解析の研究室で計算社会科学を学びました。研究対象は社会、つまり人間の集団行動なので、文系的なテーマに理系のアプローチで取り組めるのを面白そうに感じたこと、またものづくりへの憧れもあったので、ソフトウェアの力で社会に貢献できるかもしれないと思い選んだ研究室でした。ただ、結局職業としてエンジニアは向いていないと感じ、社会に出てからどのような分野で価値を出すことを目指すべきなのか、なかなか方向性が定まりませんでした。

      マッキンゼーに入ったのはなぜですか?

      宮崎:企業やビジネスを通して人間と向き合うコンサルの世界に興味を持ちましたが、面接で出会った方もクライアントのため、後進の育成のために自己研鑽を怠らない方ばかりで魅力的だったのが一番の理由です。幼い頃から要領がよく、与えられた課題を解くのが得意だった一方、テストでいい点を取るような人生に疑問も感じていたので、企業という人間の社会的行動の中から発生する課題への解決策を導くコンサルタントに惹かれたのだと思います。

      マッキンゼー時代に身につけたスキルや経験で、いまの仕事に活きると思われるものは?

      宮崎:一筋縄では解けない難題であっても、何度も仮説検証サイクルを回して粘り強くブラッシュアップし続ければ、解決策が見つかることを身を持って体験できたことですね。このほかにも、知見がない状態から情報をキャッチアップする力、不確実な状況のなかでも一度形にする力、トライしてダメでも新しいアプローチを試みるフットワークの軽さや変化に対する耐性、適応力などもマッキンゼーで体得したスキルです。どれもスタートアップの経営にも共通するスキルだと感じます。

      河西:調査したり検討したりする時間も大事ですが、実際にやってみなければわからないことが大半です。まさに、仮説を立ててアクションを起こし、もしダメでも諦めず別の道を探るというのはまさに成功するスタートアップのあるべき姿とも重なります。マッキンゼーで素晴らしい経験をされたんですね。

      宮崎:はい。ある程度形にできたら走り出して走りながら考えるというのは、スタートアップやコンサルに共通する価値観でありマインドだと思います。

      そんな宮崎さんがマッキンゼーのあとに選んだのはSiiibo証券でした。理由を聞かせてください。

      宮崎:あるとき大学院時代の同級生で弊社の代表を務める小村(和輝)から「週末だけでも手伝ってほしい」といわれたのが、Siiibo証券に入るきっかけでした。

      河西:いずれ入社する心づもりで手伝いはじめたのですか? それとも手伝ううちに徐々に気持ちが変化してお入りになった?

      宮崎:それで申し上げると完全に後者ですね。私はどちらかといえばゼネラリストで裏方気質。自分で起業するよりも誰か熱いパッションを持った人を支える立場の方が役立てるだろうなという思いは以前から持っていました。でも小村と違い私には金融のバックグラウンドはありません。小村のやろうとしているビジネスが本当に解くべき課題かどうか最初のうちは判断がつかなかったんです。しばらくの間、仕事の合間を縫ってミーティングの議事をまとめたりタスクの進捗を管理したりするうち、徐々に個人向け社債市場の小ささや、需給の間を取り持つシステムの必要性を痛感して考えが固まりました。

      公私にわたるお付き合いで深まる信頼関係

      改めて、現在、宮崎さんはSiiibo証券でどんな職務を担っていらっしゃいますか?

      宮崎:代表と協力して経営方針の策定にも関われば、採用や社内制度・プレゼン資料作りにも携わりますし、ときには関係当局との対応を行ったり、関連法規を読み込んでエンジニアと一緒にシステムの仕様を考えたりすることもあります。スタートアップのCOO(最高執行責任者)は、社内における最後の砦。それだけに業務範囲は多岐にわたります。今の事業ステージだと、同じCOOでも「チーフ・オペレーティング・オフィサー」というより、何でも屋に近い「チーフ・アザーズ・オフィサー」なのかもしれません。

      Angel Bridge との出会いについて教えてください。

      宮崎:2021年の夏にお会いしたのが最初でしたね。

      河西:はい。Siiibo証券さんのメンバーと私どもの投資先のメンバーに共通の知人がいらして、その紹介でお会いすることになりました。実は面会のお約束をいただく前からSiiibo証券の存在は耳にしており、近々ぜひお会いしたいと思っていたんです。実に絶妙なタイミングでの出会いでした。

      宮崎:河西さんは「われわれのことも知っていただきたいので」とおっしゃって、早々にメンバーの皆さんを伴ってオフィスを訪ねてくださいましたよね。お会いした3か月後にはシリーズBラウンド投資にも参加してくださいましたし、意志決定はどのVCよりも早かったのが印象に残っています。

      河西:そうでしたね。ネット証券会社をゼロから立ち上げるのは並大抵のことではありません。それにもかかわらず、すでに第一種金融商品取引事業者登録も済ませておられましたし、代表の小村さん、宮崎さんをはじめとした、経営チームの皆さんの優秀さに惹かれました。困難をものともせず課題に真正面から向き合っている姿を見て「決して途中で投げ出すことはない」と、確信しました。これはご支援しないわけにはいきません。そんな気持ちが、意志決定の早さに表れたのだと思います。

      Angel Bridgeからはどんな支援を受けていますか?

      宮崎:取締役会の運営についてご支援いただいたのが最初です。シリーズAからシリーズBに移るタイミングは、カルチャーや制度を含め、アーリーステージからの脱却が課題になります。河西さんをはじめ、Angel Bridgeの皆さんには、アジェンダの設計、報告すべき内容、KPI、討議すべき課題の優先順位など、他社の事例を交えながら丁寧にレクチャーしていただきました。現在は引き続き定例ミーティングで助言をいただいているほか、代表の小村の相談相手として力強いサポートをしていただいています。

      Angel Bridgeが、他のVCと違うと感じる点があれば教えてください。

       宮崎:バーベキューやお食事会を開いてくださったり、フィンテック業界以外の起業家を交えた勉強会にお誘いいただいたりと、相互理解を深めることに気を配ってくださってくださるおかげで、私たちのことを人間性を含めて一番よくご存じのVCという印象です。プロフェッショナリズムには信頼できる人間関係が欠かせないと思われているからこそ、公私にわたるコミュニケーションを大切にされているのだと感じます。

      河西さんは宮崎さんのお人柄をどう見ていらっしゃいますか?

       河西:代表の小村さんがグイグイとビジネスを引っ張っていくタイプに対して、宮崎さんはコミュニケーション能力高く社内の潤滑油のような存在だと思っております。小村さんのアイデアや構想を受け止め、周囲を巻き込みながら着実に実務に落とし込み実行に移していく。そんな実務家でありながら、一方で周囲に気配りができる方。そんな印象を持っています。

      宮崎さんは河西さんの人となりを、どんなふうにとらえているんですか?

      宮崎:河西さんはバイタリティがあり投資の目利き力がありながら、投資先に対して課題や問題点を指摘するにしても相手にストレスを与えずフランクにアドバイスしてくださるので、不安が先立つことが多いスタートアップの経営陣には良きメンター的な存在です。

      「社債といえばSiiibo証券」といわれる会社に

      宮崎さんはこれからSiiibo証券を通じて、どんな社会を実現したいですか?

       宮崎:貯蓄から投資へと日本人の資産形成のあり方が大きく変わりつつあります。これからも引き続きSiiibo証券を通じて、社債のメリットを広く社会にお伝えしながら、発行企業、投資家双方に有望な資金調達・投資の選択肢を提供したいと思っています。その結果「社債といえばSiiibo証券」といわれるようになれたらうれしいですね。

      Angel Bridgeは、これからどんなバックアップを提供されますか?

       河西:これまで通り資金面や事業面でのご支援はもちろん、精神的な面からも積極的にサポートを提供しながら、より深いレベルで信頼関係を築ければと思います。宮崎さんがおっしゃるように「社債といえばSiiibo証券」といわれるよう、私たちも助力を惜しまないつもりです。

      最後に現在プロフェッショナルファームや投資銀行などにお勤めで、スタートアップに関心をお持ちの読者にメッセージをお願いします。

       宮崎:スタートアップに飛び込んだ途端、会社の看板がなくなり、自分の身ひとつで課題と向き合うことになります。きらびやかで華やかなイメージがあるかもしれませんが、むしろ泥臭いことのほうがはるかに多いので、ゼロから学び直す気持ちでチャレンジしたほうがいいように思います。スタートアップは細かい失敗と挫折の連続です。特に経営者としてくじけずやりきるには「この人たちのためなら、どれだけしんどくても頑張れる」と思えるテーマや信頼し合えるメンバーでビジネスをすべきではないでしょうか。もしそんな人と出会えたら、スタートアップにジョインするチャンスかもしれません。

      河西:答えが見えない大きな課題に挑むのは、コンサルをはじめプロフェッショナルファームもスタートアップも同じです。取り組むべき課題を見つけたなら、宮崎さんのようにどんどんチャレンジしてほしいですね。Angel Bridgeはこれからもアグレッシブな起業家マインドを持ったビジネスパーソンを応援し続けます。

      2023.07.03 ACADEMY

      前回のスタートアップアカデミー#5-1では、Angel Bridgeが行うハンズオン支援の「組織」についてご紹介しました。

      本記事では、Angel Bridgeが行うハンズオン支援の「事業・ファイナンス・経営のPDCAサイクル」について詳しく説明していきます。

       

      1. 事業支援

      「事業(モノ)」に関する支援では、企業の戦略策定に向けた壁打ちと顧客紹介を主に実行しています。

      戦略策定の壁打ちでは何をしているのか?

      月次定例会の中で戦略策定の議論を行い、事業戦略やIPO、資金調達などの様々な経験を生かしたアドバイスをします。Angel Bridgeのメンバーはコンサル・投資銀行出身者が多く、その経験を活かして経営課題の特定やKPI設計のサポートを行います。

      具体例として、価格感度分析を行ったLocusBlueの事例があります。
      以前LocusBlueの宮谷CEOにインタビューした時、次のようにおっしゃっていました。

      宮谷:以前、価格体系を見直すにあたって、何を基準に妥当な価格を決めるべきかわからず悩んでいたとき、Angel Bridgeさんから「価格感度分析をやってみませんか」と提案いただいたことがありました。顧客に送る調査項目のリストアップから分析資料の作成までテキパキと進めてくれたおかげで、私は調査票をお客様に送って結果を聞くだけ(笑)。以前から数値分析に強い方々とは聞いていましたが、そのクオリティの高さはまさに戦略ファーム品質で感動を覚えるほどでした。

      (参考記事:元エアバスの技術者が狙う建設DX [ローカスブルー宮谷聡代表 × Angel Bridge 林])

      このような形でAngel Bridgeは戦略策定において投資先企業に対し、豊富な経験を活かしてプロジェクトベースで様々なアドバイスやサポートを提供しています。

       

      顧客先の紹介事例

      顧客先の紹介では、製品・サービスの営業先など、今後の事業拡大に役立つ可能性のある企業を紹介します。ベンチャー企業はまだ信頼が不足しており、ネットワークも脆弱で自社でリーチできないケースも多いため、VCが補っていくことが必要でしょう。

      Angel Bridgeが行った営業先の紹介の一例として、飲食店DXサービスを手掛けるベンチャー企業であるGoalsの新たな導入先への営業支援が挙げられます。Angel Bridgeでは、自身のネットワークを活用してGoalsに対して飲食店の営業先を紹介しました。数十~数千の店舗を持つチェーン店でも、食材発注システムの内製化は難しくDX化がまだまだ進んではいないというのが現状です。以前Goalsの佐崎CEOにインタビューした時、次のようにおっしゃっていました。

      佐崎:経営に関する課題についてご助言いただいているのに加えて、食品業界に豊富な人脈を持っていらっしゃる、パートナーの林さんのご助力で、大手外食チェーンの経営陣にお引き合わせいただくなど、特に営業活動の面で多大な支援をいただいています。

      河西:林からはお客様候補をご紹介させていただき、私からは共有いただいた経営指標をもとにした数値分析や業界分析など、主に経営や営業戦略の面からサポートさせてもらっています。経営のPDCAサイクルを回す上で必要な支援は可能な限り行うというのが私たちの方針です。

      佐崎:毎回、大所高所に立った視点でアドバイスしていただけるので、発見や気づきが多く、いつもディスカッションの時間が楽しみです。おかげさまで、当初は和食チェーンを運営するお客様が1社のみという状況でしたが、現在は上場企業を中心に20社ほどのお客様にご利用いただくまでになりました。Angel Bridgeさんのご支援にはとても感謝しています。

      (参考記事:AIで食品業界の未来を変える [Goals 佐崎CEO× Angel Bridge 河西])

      このような形でAngel Bridgeは顧客先支援も積極的に行っています。商談成功のためには、取締役や経営企画室の方に直接アプローチする事が重要となります。スタートアップだけではなかなかアプローチできない経営層の方を多数お繋ぎし、1,000店舗を超す大手飲食チェーン店の成約にも成功しました。MRRでは300万円と大きく売上に貢献しました。

      2. ファイナンス

      実践的な調達支援

      Angel Bridgeは資本政策の策定や追加の資金調達支援も行います。特に、シードアーリー段階で投資を受けたベンチャー企業にとっては、次の成長段階での資金調達計画が重要です。具体的にはベンチャー企業と協力し、適切な資金調達の時期・金額を検討します。事業計画やピッチ資料の作成をサポートしたり、相性が良さそうなVCや事業会社をリストアップし、ベンチャー企業のニーズに合わせてお繋ぎします。

      バイオベンチャーのHeartseedがその一例です。次ラウンドの出資先を探すにあたって、まずリード投資家となり得るVCを探しました。特にHeartseedは大規模な資金調達が必要なため、次のラウンドでも投資が可能なディープポケットのVCに優先的にアプローチしました。次に事業シナジーがある事業会社などもHeartseedに紹介し、大手製薬会社、医療機器メーカー、医療系卸売企業から資金調達を行いました。これまで計5回、累計102億円の資金調達に貢献しました。

       

      IPO支援とは何をするのか?

      Angel Bridgeは、ベンチャー企業のIPO支援も行っています。ベンチャー企業はIPOの経験がないことが多いため、成功確度を高めるために必要なノウハウやベストプラクティスを提供します。IPOの際には、適切な主幹事証券や監査法人を選ぶことが必要です。そのため、複数の証券会社から提案書をピッチしてもらい、証券会社のチームやエクイティストーリーに基づいて決定します。さらに主幹事証券の決定の手助けに加えて、その後のエクイティストーリーの作成においてもサポートを行います。このようにAngel Bridgeはベンチャー企業のIPOを成功に導くため、幅広い支援を提供しています。

       

      3. 経営のPDCAサイクル

      経営のPDCAとは

      「経営のPDCAサイクル」に関する支援はヒト・モノ・カネをどう回すかといった経営のOS(オペレーティングシステム)のようなものです。取締役会を起点に株主も巻き込んだ年12回の大きなPDCAサイクルを回す体制の構築を支援します。会社の羅針盤となるKPIの設計や経営の見える化など、組織としての運営体制を経営陣と共に作り上げていきます。

      図のように会社内のピラミッド構造に基づいた会議体を設計し、現場と経営陣の間、および経営陣同士のフィードバックを円滑に行うことを促進します。

      Angel Bridgeは、このような形で経営のPDCAサイクルを確立するための取り組みを行い、ベンチャー企業の成長を支援しています。

       

      経営のPDCAサイクルはなぜ重要か?

      経営のPDCAサイクルは、経営陣が組織を適切に統率し、持続的な成長を実現するために不可欠なツールです。組織の人数の観点から経営のPDCAサイクルの重要性を深掘りしましょう。

      組織人数が30人未満のシード期の場合、事業スピードが重視されるため、経営者と従業員の距離は近く従業員は比較的横並びの組織構造をしています。しかし、このままでは人的リソースが制限されるため、組織を大きくしていく必要があります。ここでよく言われるのは、「30人の壁」問題です。なんとなくで上手く従業員をまとめ上げてた経営者の多くは従業員が30人になった時に躓きます。乗り越えるためには、仕組みで支えられた経営へ早期に移行する必要があるのです。

      KPIの設定と会議体の設計が適切に行われていると、執行の細部までマイクロマネジメントを行わなくても企業全体の状況が把握できます。社内メンバーに「権限移譲」ができ、経営者が一人で全てを見る必要が無くなるため、今後の成長戦略など特に経営者が取り組むべきことにリソースを注力できます。

      さらに、経営のPDCAサイクルが上手く回っていると、IPOを達成した後の株主に対する適切な情報開示も円滑に行うことができます。

       

      4. ステージごとの支援内容

      Angel Bridgeはシード期からIPOまで一貫した支援メニューを提供しています。これまでに説明したハンズオン支援を、企業のステージごとに振り返りっていきましょう。

      まずシード期は事業戦略の壁打ちを行ったり、実証実験の相手先のご紹介を行います。アーリーステージに差し掛かり、次の資金調達が近づくとそのサポートを行います。さらに調達した資金を使って事業が成長してくると、経営人材採用支援や事業提携先の紹介を行います。ミドル/レイターに入るとIPOに向けての人材採用支援、そして引き続き資金調達支援も行います。IPOが数年後に見えてきた際には、監査法人の選定・主幹事証券会社の選定・エクイティストーリー構築支援も行っていきます。

      さらに、これまで行っていた定例会がIPO準備のタイミングになると取締役会へと移行していきます。取締役会に移行してからも経営のPDCAサイクルがより一層回るよう支援します。

      このような形で投資したタイミングからIPOまで一貫したサポートをAngel Bridgeは実施しています。

      5. まとめ

      前回から引き続き、組織、事業、ファイナンス、経営のPDCAサイクルの4つの側面からAngel Bridgeのハンズオン支援を説明してきました。Angel Bridgeは単なる資金提供に留まらず、豊富な経験とネットワークを活かし、ベンチャー企業と共に走り抜けるパートナーとしてサポートしています。

      VCと言っても投資先企業とのかかわり方は、多種多様です。最近ではSNSやブログ記事、イベントなどで積極的に情報発信しているVCも多いので、簡単にチェックすることができます。投資先の企業から評判を聞いたり、知人のツテを使うなど情報収集を行いましょう。アプローチ方法としてはツイッターアカウントへのDM・オフィスアワーへの申し込み・HPへの問い合わせ・人づての紹介・イベントへの参加など様々考えられます。後悔のない資金調達ができるよう、最大限活用していきましょう。