2022.03.24 INTERVIEW

新しい金融手法、RBF

Fivotはどのような事業を行っているのですか?

安部:Fivotは2つの事業を行っていて、法人向け、特にスタートアップに対してデットファイナンスを提供するFlex Capitalというサービスと、個人に対して積み立てにより欲しかったものを購入できるプリペイドカードを使ったサービス、IDAREを提供しています。

RBF (Revenue Based Financing) はどういったプロダクトなのですか?

安部:RBFは端的に言うと、将来発生する売上から支払いをしてもらうというスタイルです。分かりやすい例としては、手元の請求書を第三者に売却して現金を得る手法であるファクタリングというものがあるのですが、これの将来版と考えてください。

ファクタリングは売上が既に成立しているものを1-2か月前倒しで入金してもらえるサービスである一方、RBFでは、まだ売上が成立しておらず、これから発生するであろう将来債権を買い取るものになっています。過去を見ているファクタリングなのか将来を見ているRBFなのかという大きな違いがあります。

日本にFivotのような事業を行っている企業はありますか?

新しい金融手法、RBF

安部:個別にみると類似のサービスを行っている企業はあります。Flex Capitalについては、広くみるとVCや銀行も類似のサービスになりますし、スタートアップでも僕らと似たコンセプトでサービスを提供しようとしている会社もあります。

ただ、RBFは売上に完全に連動した新しいファイナンス手法になっているので、そこに限定していくとほとんど競合はいないのが現状です。欧州、欧米などではある程度確立されてきた手法なのですが、日本では当社が先駆者としてやっています。

IDAREに関しては、プリペイドカードに関連する事業をやっているところはたくさんありますが、残高を積み立てて「貯めること」にフォーカスしたプリペイドカードサービス、特に残高に対してポイントバックがされるのは日本でも当社だけです。

最終的には銀行を目指していく

安部さんがFivotを起業するまでの経緯を教えてください。

安部:私は元々メリルリンチ日本証券(現BofA証券)の投資銀行部門でM&Aのアドバイザリー業務や株式債券の引受業務をやっていて、特に金融法人グループで銀行や保険会社のお客様にサービス提供をしておりました。欧州だと2016年くらいからチャレンジャーバンクという新しいベンチャーが銀行免許をとって銀行サービスを始めることが流行っていたのですが、日本にはそのような流れが来ておらず、新規参入による業界のアップデートに可能性を感じていました。

既存の銀行ではどうしても過去のアセットやしがらみに縛られてしまう部分があるので、身軽にゼロから金融を考え直してサービスを作ることが出来れば、海外のチャレンジャーバンクに匹敵するような新しい金融サービスが作れるのではないかと考えました。新しい金融サービスを日本で自分の手で作りたいという気持ちで起業を決意しました。

河西:チャレンジャーバンクといえば、NuBankが上場して話題になりましたが、安部さんはどう見ていますか?

安部:すごいです、素晴らしいですよね。一方で、ブラジルだからできる部分も多いと思っています。既存の銀行インフラが日本に比べると整っておらず、金利も高く、マージンが取れる市場に対して、モバイルオンリーで個人が簡単に安く使えるサービスなので、こういうものができたらいいなと思いますが、日本だと同じモデルでは不可能と考えています。日本の銀行インフラは便利で整備も行き届いているので、単にモバイルで便利に使える新しい銀行では魅力が弱いと見ています。マーケットの違いはしっかり考えながらやっていかないといけないと思います。

河西:チャレンジャーバンクは色々な形がありますからね。日本だからこそのチャレンジャーバンクもあると思うので、RBFを皮切りに色々な形に広げていけたらいいですよね。

安部:べンチマークしているところにイギリスのOakNorthというチャレンジャーバンクがあるのですが、主に起業家や中小企業へのローンを提供していて、少し金利は高いですが凄いスピードで融資の意思決定をしています。データ処理にはAIを使っていますが、AIだけでなく優秀な人間の目でも判断していることを同時に売りにしています。我々も同様のモデルだと思うので、機械と人間のかけ合わせをきちんとやっていかないといけないなと思っています。

起業にあたり安部さんを突き動かしたものは何でしたか?

最終的には銀行を目指していく

安部:そうですね。アドバイザリー業務は第三者的な立場なので、「何かもっとできることがあるんじゃないか」と歯がゆさを感じていたんです。自分が意思決定者になって、自分が考える「これがあればもっとよくなる」というものを作れたら面白そうだなという気持ちでした。自分が中心に立ってサービスを作りたいという気持ちですね。

起業するにあたって悩みはなかったですか?

安部:悩みはなかったです。あまりリスクも感じていませんでした。万が一うまくいかなくても、得られた経験や能力を生かして新しいものを生み出せる可能性を考えると、むしろチャレンジしないリスクの方が大きいと思いました。

河西:フィンテックって他の分野に比べて起業するのが大変そうですが、不安にはならなかったですか?

安部:不安には思わなかったですね。起業する時はだれしも自信過剰になっている部分があると思うんです(笑)。今考えると当時の自信は実力に対して過剰であったなと思いますが、その時はそういった根拠のない自信がありました。

創業時はどのようなメンバー構成でしたか?

安部:創業時は私とCFOの佐保の2名でした。佐保は前職が一緒でして、一時期は一緒にFIG案件を担当していました。次のキャリアとして新しく金融を作ることを打ち明けた時に「ぜひ一緒にやりましょう」と言ってくれたんです。

河西:CTOの方と2名で起業というのは良く見かけますが、似たようなバックグラウンドで起業するというケースは珍しいようにも思えます。このような意思決定をしたのはなぜでしょうか?

安部:佐保はバックグラウンドは近いのですが、考え方は結構違いますね。僕はどちらかというと突き進むタイプで、佐保は一歩下がって客観的に物事を見て、冷静に意見をくれることが多いです。僕がアクセル、佐保がブレーキといった感じでうまく釣り合いが取れていて相性がいいと思ったのでこの2名で起業をすることにしました

その後、メンバーはどのように増やしていきましたか?

安部:2人ともプログラマーではないので、まずエンジニアを採用しようということになりました。フィンテックはお金を扱うのでプログラムのミスはあり得ません。システムが肝なんです。人づてなどで適した知見がある人を探していました。

そんな時に、とあるエンジニア向けの雑誌を読んでいると、フィンテックに関連する記事を寄稿しているエンジニアが目に留まりました。記事の書きぶりを見て、この人は信頼できるなと思いました。早速Facebookで名前を検索して、ものすごく長文のメッセージを送りました(笑)。そのとき彼は転職する気はないと言っていたのですが、ランチに誘ってひたすら口説き、無事Fivotにジョインしてくれることになりました。

シードラウンドの出資はどのようなVCから受けましたか?

安部:最初はEast Venturesから出資を受けました。次のラウンドでDeepcore、ANOBAKAに新しく入っていただきました。

Angel Bridgeとはどのように出会いましたか?

安部:初めはお問い合わせフォームからメッセージをいただいたのがきっかけです。当時別のVCをリード候補で進めようとしていたところでしたが、お話させてもらうことにしました。
もともとAngel Bridgeを知っていた訳ではないのですが、非常に仲が良い知人も出資を受けていたことが分かって、信頼できそうだなと感じました。話を重ねていく中で、特に河西さんにはスタートアップ向けのデッドファイナンスの将来性や必要性をすごく理解していただけました。投資までの意思決定もめちゃくちゃ早かったですね。この人たちと一緒だったらスピード感をもって進められそうだと思いましたね。

河西:初めてお話してから意思決定までどれくらいかかりましたっけ? すごく早く意思決定したのを覚えてます(笑)。

安部:2週間ぐらいですよ。本当に早くてびっくりしました(笑)。それだけこの事業に対して将来性を感じてくれているんだなと思って、すごく嬉しかったです。経営陣に対する期待も強く感じ、必ず成功させようと思いました。

河西さんは投資にあたってどのようなことを検討しましたか?

最終的には銀行を目指していく

河西:まずRBFというプロダクトがすごくいいなと思いました。ベンチャーがデッドを借りづらい状況の中で、将来発生するであろう売掛債権をディスカウントで買うというやり方があるのに驚きました。最近はStripe、Shopify経由など、売上のデータはいろんなやり方で連携できるので、そのデータをみて素早い意思決定ができるというようになって来ています。アメリカでは既に盛り上がっているので金融商品として定着しうるものであるという感覚を持ちました。ほとんどコンセプトと経営チームだけで意思決定しましたね。安部さん、佐保さん、この2人が真面目に命賭けてやるんだったらいっちょ賭けてみるかと!

河西さんが投資検討を進めていく中でよく覚えているエピソードはありますか?

河西:オフィスがベンチャーっぽくて、非常に好感度が高かったですね。外は古くても中がすごくきれいになっていて。

安部:外見はボロボロなんですが、中はリノベしてあったんですよね。ビルの外観だけみると取引先に驚かれることもあります。

Angel Bridgeからはこれまでどんな支援・取り組みがありましたか?

安部:いろいろご支援いただいていまして、継続的なところで言うと月次定例では毎回アドバイスをいただいています。採用面でも優秀な人材を紹介していただき、ありがたかったです。その中で一番プラスになっているのは、富裕層の方をご紹介いただいて、その方から資金面でのバックファイナンスを一部いただいていることですね。これは事業面の直接のインパクトがある支援なので本当にありがたいです。

Angel BridgeはどんなVCだと思いますか?

安部:支援の濃度が特に高いと感じています。VCによってサポートの方法は様々なのですが、Angel Bridgeさんにはゴルフに誘っていただくなどプライベート含めて密度濃くお世話になっていますね。先日のディナーもすごく盛り上がりましたよね(笑)。

河西:若干飲みすぎましたが楽しかったです(笑)。

最終的には銀行を目指していく

お金で未来の経済を救う

後輩起業家に伝えたい、起業にあたって気を付けるポイントはありますか?

安部:そうですね。反省点として挙げられるのは、あれもこれもやってみたいという気持ちがあったので方向性が定まらなかった時期があったことです。結果的には、仮説を持ってやってみたので少しやった段階でダメなことが分かったのは良かったですね。

ただ、もう少し仮説の数は最初から絞れたかなと思っています。一度に打つ仮説の数を思い切って減らした上で、じっくり1つ1つの検証を進めてもよかったかなと。具体的に言いますと、個人に対しての融資サービスやABL(Asset Based Lending:顧客の流動資産を担保として活用する金融手法)などもやっていたのですが、これらについてはプロダクトとしてのシャープネスをもっと磨くべきだったなと思います。構想段階で進めてしまうと労力含め大変でしたね。

結果論ではあると思います。やらないよりは良かったですが、絞り込みの段階でまだできることがあったなと思います。

Fivotをどんな会社にしていきたいですか?

安部:私たちは既存の金融機関では埋められていないスペースを埋めるための新しい金融を目指しています。そのスペースを埋めなければならないと考える理由として、そもそも金融はお金があれば成長できるのにお金が足りなくて成長できないところにお金を融通するためにあると思っています。特にベンチャーについては、現在はGDPに占める割合は微々たるものですが、今後の経済の新陳代謝や構造変化の中でその割合は増えることが予測されるので、今から資金を融通する仕組みを作っていかないと経済が滞ると感じています。
将来的にFivotがいたから経済が促進されて、色々なベンチャーや成長企業が生まれたと思ってもらえたら本望ですね。

何を社会に届けたいですか?

安部:直接的に社会に何を届けるかと言えばお金になると思うのですが、これを必要な企業に届けることで企業が成長して、消費者に付加価値がより大きく届けられるという循環を実現したいですね。社会の成長を助けることにつながるのではないかと思います。

2022.03.17 INTERVIEW

タグの自動登録で商品を発見されやすく

LISUTOはどのような事業を行っているのですか?

プラテック:我々はAIを使って、ECモールにおける消費者の商品の発見しやすさを自動的に大幅に改善できるソリューションを提供しています。商品のテキスト情報はEC事業者がフリーテキストで自由に作っていますが、そこからAIが商品の属性などを自動的に抽出し、サイトの絞り込み検索のためのタグ情報と自動的に紐づけています。

まず商品の検索方法には、キーワードで検索するパターンと、サイト側から提案された商品の絞り込み(カテゴリー、色、サイズなど)に沿って検索する2種類があります。そして、ECでのショッピングの割合がPCからスマホに移行し画面のスペースが狭くなっている中、文字の入力が面倒なので入力は最低限にし、どんどん条件を絞り商品を見つけたいというニーズが高まっています。

一方で、ECモールには必ず絞り込み検索の機能がありますが、例えばTシャツの色/ネックの形/素材/色/サイズをフリーテキストで書いて検索した商品数と、絞り込み検索のタグで絞り込んだ場合の商品数を比べると、実は絞り込み検索ではフリーテキストで検索した場合の約30%しか商品が出てこないのです。要するに、商品情報の中にはちゃんと情報が入っているのにも関わらず、タグ付けをしていないので7割は絞り込み検索では商品が出てこないということです。リアルのショップでいうと、裏の倉庫にモノがあるのに、ディスプレイされていないのでお客さんはその商品がお店にあるのかないのか分からない状態です。これと同じことがECモールの商品の7割に起こっているのです。

タグの自動登録で商品を発見されやすく

ニーズは高いのになぜ3割しかタグ付けがされていないかというと、単純にタグ付けが非常に大変な作業だからです。ECサイトごとに独自の商品の構造やカテゴリーごとの属性の構造があり、それに対して紐づけを手動でやろうとするとかなりの時間と人力が必要です。そのためなかなかタグ付けまで手が回らないというのが現状としてあります。

そこで、私たちはこの問題を解決するためにAIで完全自動でタグ付けができるサービスを開発しています。例えば100時間かかる作業が1分で終わってしまうぐらいのレベルなので、人力の問題が一気に無くなります。非常にインパクトのあるソリューションだと思っています。

他にLISUTOのような自動タグ付け事業を行っている企業はあるのでしょうか?

プラテック:自動タグ付けをどんなサイトでも使えるシステムとして提供している会社は、私が知る限りLISUTOが日本初であり世界初です。ただ、我々は商品のテキスト情報に注目していますが、画像から商品の情報を抽出して絞り込み検索に使えるようにしているサービスはいくつかあります。

画像の情報からタグを付けるのと、テキストの情報からタグを付けるのは何が違うのですか?

プラテック:まず商品情報のほとんどはテキストの情報にあります。サイズや素材など、写真だけ見てもわからない情報が沢山あり、ファッションに限らず電気製品も写真だけだと違いが分かりません。そのためテキストのほうがタグ付けに対応でき、画像よりはるかにマーケットが大きいのです。また画像はデータが重いですし、技術的にもテキストの方が効率よくできます。LISUTOは画像の情報からタグを付ける技術も実は持っていますが、まずはテキスト情報からのタグ付けに注力しています。

テキスト情報からタグを付ける方が難しいのですか?

プラテック:画像は言語関係なく抽出できますが、テキストからタグを付ける場合はまず言語の分析から始まり、言語から単語を抽出し、それをAIでラーニングさせ構造データと紐づけるというプロセスが必要です。この技術は画像の情報からタグを付けるよりもはるかに難しいです。

タグの自動登録で商品を発見されやすく

また、私たちはその中でも難易度の高い日本語からスタートしています。英語やヨーロッパ言語は単語が分かれているのですが、日本語は単語がつながっており漢字とひらがなもあるので、まずテキストを単語ごとに分けていく必要があり更にハードルが高いです。私たちはこの一番難しい日本語からチャレンジしています。

なぜLISUTOはこのような難しい技術を実現できているのでしょうか?

プラテック:LISUTOは日本のベンチャーですが、私たちの開発の舞台はイスラエルにあります。私はもともと国籍がイスラエルですし、共同創業者のパベルはLISUTOのイスラエルオフィスを統括しています。パベルはもともと世界初の価格比較サイトであるShopping.comのカタログを作っていたシニアマネージャーであり、商品の構造のスーパーエキスパートです。その後Shopping.comがeBayに買収され、eBayがイスラエルに商品のカタログセンターを作った時もパベルが一から立ち上げを担っていました。商品の構造の仕組み等について、彼ほど優れた人は世界に数人しかいないと思います。

ではどこにLISUTOのアドバンテージがあるのかと言いますと、ただテキストデータを抽出するだけであれば広い範囲で色々な会社があると思いますが、我々は各サイトの属性の構造を分析し、かつそれをAIとコンビネーションするところに他の会社が真似できないレベルのノウハウの蓄積があり、具体的なコードに対する紐づけまで出来てしまう点が強みだと考えています。

イスラエルのベンチャーエコシステムを日本へ

なぜ起業をしようと思ったのですか?

プラテック:私はもともとエンジェル投資をしており、その後1990年代後半にVCを設立しました。その時に感じたこととしては、投資も面白いですが、創業者は自分の意志が強いので投資家としてアドバイスをしても結局は創業者の想いの方向に事業は進んで行くということでした。そういった背景から、自分のアイデアで自分自身で事業をしたいという想いが高まりました。

ちょうど私が起業した時は世界中にインターネットが普及し、EC市場が大きくなり始めた時期だったので、ECのポテンシャルをとても感じていました。私は元々日本生まれなので日本への想いが強く、またイスラエルのベンチャーエコシステムを見ている中でこれと同じことを日本でもやりたいなと思い、起業家としてECのサービスを日本で作ろうと強く決心しました。

なぜAIタッガーの事業をやろうと思ったのですか?

プラテック:私はイスラエル人ですが、もともと日本でドメスティックなECの事業をやっていました。そんなある日、eBayという海外向けに商品を出品するサービスからのアプローチがありました。その時、自動的に日本語のデータを構造化し多言語に変換することで、日本語で出品したものを海外向けに販売できるようなソリューションを開発したところ、沢山の商品が海外で売れ始めたんですね。そこでこのソリューションをEC事業者の方に提供するのが良さそうだと思い、LISUTOを設立するきっかけとなりました。そこからビジネスを始めたのですが、やっているうちに分かったことが2つあります。

イスラエルのベンチャーエコシステムを日本へ

1つ目としては、EC事業者の方は皆さん越境ECに興味を持ち始めてはいたものの、やはりまずは日本の目の前のモールの販売がすごく重要で、越境ECもやりたいがまだ手を出せていない状態であるということです。既に国内向けに在庫の管理や出品のシステムを導入しているなかで、海外向けの別のシステムを更に連携させるというのが実はすごくハードルが高く、商談がすぐ決まらないということが分かりました。ベンチャーにとって商談がすぐ決まらないというのは非常に辛かったですね。

しかし同時に分かったこととしては、日本のモールではタグ付けに非常に大きなペインがあり、かつ私たちの技術をそのまま応用できるということです。日本のドメスティックなEC事業者の多数がタグ付けに興味を持っていたので、AIタッガーのようなサービスを開発すればすぐに利用してもらえるということに気づきました。また、今はまだ日本国内でのみサービス展開していますが、eBayのような世界中のどのモールでもそのモール中でタグ付けのニーズがあるので、グローバルのどのEC事業者もターゲットになります。そこで越境ECのサービスからPivotし、現在のAIタッガーの事業に行きついたのです。

グローバルで戦うチームとして

シリーズAまでの出資はどのようなVCや事業会社から調達を受けたのですか?

プラテック:LISUTO設立の段階から、銀行系のファンドや物流会社、倉庫会社の方から出資をいただいていました。また去年佐川急便様と業務提携させていただき、一気にお客様を紹介していただく仕組みを作りました。

なぜAngel Bridgeから投資を受けようと思ったのですか?

プラテック:私は海外のVCを経験していますが、Angel Bridgeはメンバーの方々が優秀で、かつ外資系ファーム経験者やバイリンガルの方が多いため、今後グローバル展開した時も海外の投資家とのコミュニケーションが円滑に取れ、また考え方もグローバルなので海外展開における良いパートナーであると感じました。

なぜLISUTOに投資しようと思ったのですか?

河西:まず我々はLISUTOに出資をする前から、BNPLのようなECのCVRを上げるサービスが非常に面白いと思っていました。またその中でもAIタッガーはペインに対してちゃんと答えているなと思いましたし、この経営陣なら日本発かつ世界初のベンチャーとしてグローバルに戦っていけるのではないかと強く感じました。

グローバルで戦うチームとして

また、プラテックさんが日本語ペラペラなのも驚きました(笑)。お話を聞いてみると、日本で生まれて10歳まで日本で育ち、その後イスラエルに帰ったけれども日本が好きだという話があって、そこまでプラテックさんが日本に思い入れがあるというのがすごく嬉しかったですし、日本に拠点を持っているというのもすごく納得感がありました。

資金調達後にAngel Bridgeとどんな取り組みをしましたか?

プラテック:毎月定例の取締会にご参加いただきながらも、それとは関係なく色々と密にミーティングし、会社の課題や方向性に関してディスカッションをさせていただいていて、期待していた通りのコミュニケーションができているなと感じています。また次の資金調達に関しても、一緒にお話しさせていただきながら進めています。

ニーズの強さとハードルの低さ

越境ECのサービスもかなり作りこんでいらっしゃったので、Pivotするにはとても勇気が必要だったと思いますがどのように決断されたのでしょうか?

ニーズの強さとハードルの低さ

プラテック:越境ECのサービスでやっていたこと自体は間違っていなくて、ただ時期が早かったんだと思っています。私は起業家を何回もやっているので、自分のアイデアがマーケットより早かったケースを何度も経験しています。マーケットより早すぎるのは非常にベンチャーにとって危険なのです。今のままの事業を今のままの計画で続けるのか、それとも同じコア技術を使った3倍の速さで伸ばしていける別の商品を開発するかを何回も合理的に考えた結果、後者の方が現在はニーズが強くすぐに売上が伸びるためPivotしたというのが現実です。

河西:現在のAIタッガーの事業をリリースしてみて、ニーズがやはり強かったというのが決め手になったのでしょうか? 実際今は佐川急便さん含め全社的に取り組み売上も順調に伸びているということで、その決断は正しかったのだと思います。

プラテック:1つ目と2つ目の商品の違いは、1つ目はEC事業者の反応がとても良かったとしても契約にはなかなか繋がりませんでしたが、2つ目は商談してから平均2週間で契約がスタートしていたことです。当日契約がスタートする場合もありましたし、やはりニーズが強くてハードルが低いというこの組み合わせが大事なのだと気づきました。

世界のEC事業者が使えるサービスへ

LISUTOをどんな会社にしていきたいですか?

プラテック:個人的には、私の国籍との組み合わせでLISUTOを日本発のグローバルな会社にするというのが一つの夢です。これからグローバル展開をして世界中のEC事業者が使うサービスになる可能性は十分あると思いますので、世界中のECの販売をお手伝いできるようになることを目指したいです。

私がECを始めたときはまだPCしかなかった時代でしたが、そんな時代から今はスマホの時代になって、5Gが出てきて、誰でもECができる時代へとどんどん変わってきました。また今後更にメタバースなどの新しい変化が訪れ、まだまだECは変わっていくと思っています。文字での検索や画像での検索等色々な検索方法がでてきていますが、どんな場合でも商品の情報と構造は変わらないんです。メタバースで商品を買っても商品は商品で、その情報は変わらない。そうなると商品の発見というニーズは必ずあるわけなので、それに対して我々の技術を発展させ、世界ナンバーワンのプレイヤーになりたいと思っています。

LISUTOの事業を通して何を社会に届けたいですか?

プラテック:コロナ禍になって経済や社会を支えてきた一つの分野はやはりECですよね。どんなに状況が悪くて家から出られなくても、食べ物など必要なものをECで家に届けることが世界中でできている。インターネットとECがなかったらこのパンデミックは今の何百倍も大変だったと思います。ECは絶対必要である上で、それを更に簡単に出来るようにすることが皆さんのQOLの向上に繋がっており、社会にも貢献出来ているのかなと思います。

河西:インターネット領域で日本発の技術が世界に進出した例ってあんまりないじゃないですか。LISUTOの技術であればそれを達成できると思っています。

2022.03.11 COLUMN

こんにちは! Angel Bridgeインターンの山田と申します。
前回はアメリカのEC領域特化SaaS紹介の第1弾として延長保証をAPIで提供するExtendについて紹介しました。
今回は第2弾として、EC事業者に対して返品効率化SaaSを提供するReturnlyを紹介します。

EC事業者に対して返品効率化SaaSを提供する「Returnly」の事例 参考:EC×APIサービスの全体像

Returnly概要

Returnlyは2014年にEduardo Vilarによって設立されました。2020年までに3回の資金調達を行なっており、合計調達額は$30Mです。

そして、2021年4月にBNPLのトップ企業であるAffirmによって$300Mで買収されました。

Returnlyの最大の特徴は、返品が完了する前に顧客にストアクレジット(購入ECサイトでのみ使えるポイント)を前払いで提供し、同時に類似商品のレコメンドをすることで、返品を介してEC事業者に追加の収益をもたらすことができる点です。

Returnly概要

続いてReturnlyのビジネスモデルについて説明します。

Returnlyは配送業者と提携し、消費者からの返品申請を処理するプラットフォームをAPIとしてEC事業者に提供します。

Returnly概要

マネタイズはAPIの使用料と、返品される商品の金額に応じた手数料で行なっています。

補足として、消費者がストアクレジットを用いて商品を購入した場合はReturnlyがストアクレジット分の代金をEC事業者に支払います。ストアクレジットを超える分の代金は消費者が支払う必要があります。

返品が注目される背景

①アメリカの返品率の高さ
Forbesの調査によれば、アメリカのEC小売業の返品率は25- 40%が標準となっており2020年の返品額は$500B(約60兆円)に上ると言われています。
日本の平均返品率は5%程度なので、その分アメリカ企業では返品の業務負担が大きくなっており効率化が求められています。
※Forbes「Many Unhappy Returns: E-commerce’s Achilles Heel」より
②LTV・CVR向上のための施策としての返品
アメリカにおいて顧客は頻繁に返品を行うため、快適な返品体験を顧客に提供することができればLTV向上につながります。
また、フェデックスの調査では返送料無料の返品を実施することでECサイトのCVRが平均1%向上するという結果も出ています。
これらの事実より、返品をECにおけるCVR・LTV向上のための施策と捉える企業が増加しています。

解決しているペイン

①EC事業者側のペイン
返品業務は工数が多く、返品完了までに多くの時間・人手がかかってしまいます。
EC事業者側のペイン
②消費者のペイン
上記の返品業務の手間によって、消費者が商品を返品してから商品の代金が支払われるまでに最大で2~3週間もかかってしまいます。

サービス内容

上記の返品業務にまつわる問題を解決し、顧客に快適な返品体験を提供するためにReturnlyは以下のようなサービスを提供しています。

<事業者に対する機能>

先程紹介した返品業務フローのうちReturnlyが効率化する部分は以下のようになります。

サービス内容

以下それぞれの機能を詳しく見ていきます。

A. 返品申請の自動処理
従来はカスタマーサポート部門が顧客から送られてくる返品申請のフォームと自社の返品ポリシーとを照らし合わせ、返品申請を許可または却下するかを決めていました。
しかし、Returnlyは顧客からの返品申請を自動で処理することができるので業務を大きく減らすことができます。
B. 在庫管理(検品・再販以外)
EC事業者の倉庫のデータベースとReturnlyを連携することで、Returnlyを用いて返品された商品のIDや配送ステータス、検品結果などをReturnly上で一括管理することが可能です。尚、返品された商品の検品や再販などはEC事業者側で行う必要があります。
C. 返金の自動処理
返品申請が承認されるとReturnlyが消費者にストアクレジットを付与してくれるため、返金業務の負担が無くなります。

<消費者に対する機能>

①スムーズな返品申請
消費者はECサイト上に埋め込まれたReturnlyの返品ページから返品申請を行うことが可
能です。過去の購入履歴から商品を選択し、返品理由や商品の状態などいくつかの項目を
記載するだけですぐに完了します。
スムーズな返品申請
参考:返品理由を選ぶ画面
②ストアクレジットの即時付与
返品が承認された場合、返品した商品の代金分のストアクレジットが即座に付与されます。ちなみに、返品申請から承認・ストアクレジット付与までは最短24時間以内に完了します。
そして、消費者はストアクレジットを使用してすぐに新しい商品を買うことが可能です。
スムーズな返品申請
参考:返品承認と同時にストアクレジットで新しい商品を注文する場面
③返品・購入した商品の追跡
返品申請が許可されると、Returnlyと提携している配送業社をECサイト内で手配することが可能です。そして、返品した商品及び上記のストアクレジットで購入した商品の配送状況をECサイト内で確認することもできます。

トラクション

2019年時点でのReturnlyの発表によれば、消費者の90%がストアクレジットを受け取った際に同じECサイトで新しい商品を購入しており、購入した商品の金額は返品した商品の金額に比べて23%ほど高い傾向があったとのことです。

また、提携ブランドはD2Cブランドが中心で200社以上と提携しています。

トラクション 参考:代表的な提携ブランド

API接続できるECプラットフォームはShopifyのみで、その他複数の運送会社や3PL(サードパーティー・ロジスティクス)企業と提携して配送の効率化を実現しています。

トラクション 参考:提携運送会社
トラクション 提携3PL企業
荷主企業や運送会社に代わって効率的な物流戦略や物流システムの構築などを提案し、荷主企業のロジスティクス全体を包括的に請け負う企業のこと

日本市場

日本でのECにおける返品率は5%程度でアメリカの25~45%に比べてかなり低くなっています。この数字の低さは日本人の性質というよりも、返品ポリシーが厳しい企業や、そもそもECで購入した商品の返品を受けつけていない企業が多いためだと思われます。

しかし、2016年からAmazonが出品者に対して返品無料を義務付けていることや、ZARAをはじめ返品無料ポリシーを掲げている海外企業が日本に進出していることから、国内企業でも返品を無料化し、快適な返品体験を顧客に提供することでCVR・LTV向上につなげる動きが生まれつつあります。

そうした背景から、日本でも既に数社が返品効率化SaaSを提供しており、今後更に返品領域は盛り上がっていくのではないかと考えられます。

おわりに

今回はEC領域特化SaaS紹介の第二弾として返品効率化SaaSを手がけるReturnlyを紹介しました。返品を効率化することで顧客のLTV向上を目指すことはもちろん、返品完了前に返金を行うことで、返品を通じて追加の収益を発生させることのできる面白いビジネスモデルだと思いました。また、Returnly自身は返品された商品の検品や再販の効率化は行いませんが、Optoroという企業と提携することで検品や再販の効率化も行っています。

ここで登場したOptoroは、返品された商品の在庫管理から再販まで全てを行う、ネクストユニコーンと称される注目企業です。次回の記事はOptoroについて紹介したいと思います。

最後になりましたが、Angel BridgeはCVR・LTV向上を目的としたEC周辺サービスにも積極的に投資しています。事業の壁打ちや資金調達のご相談など、お気軽にご連絡ください!

2022.03.04 TEAM

理想の未来に向けて挑戦を続ける

理想の未来に向けて挑戦を続ける

三好さんは毎日どのようなタイムスケジュールで過ごしているのですか?

現在はキャピタリストの仕事の全体感を掴むために、投資検討や既存投資先のハンズオンに大半の時間を使っています。投資検討やハンズオンの経験を通じて、ベンチャー企業経営に対する理解がより一層深まっていると実感しています。他には、Angel Bridgeの体制構築にも時間を使っています。まだ入社間もなくフレッシュな視点を持っていることを生かして、取り入れるべき新しい制度や今後の戦略について提案しています。今後はVCやCVC、起業家の方とのネットワーク構築にも積極的に時間を使っていきたいと考えています。

Angel Bridge入社前はどのようなキャリアを歩んできたのでしょうか?

慶應義塾大学経済学部を卒業後、JR西日本で約4年半、Bain&Companyで約2年、キャリアを積んだ後にAngel Bridgeに入社しました。
JR西日本では、最初の2年間で広島駅員、新卒採用、用地管理等を経験しました。2年目の時に社内事業アイデア公募制度に提案したCVCの立ち上げに関するアイデアが最優秀賞を受賞したことをきっかけに、新規事業創出を行うビジネスプロデュース部に異動しました。その後、JR西日本のCVCであるJR西日本イノベーションズへの出向という形で、創設時初期メンバーとしてソーシングからハンズオンまで担当者として一貫して担当していました。
Bain&Companyでは、金融業界や小売業界、家電業界等の様々な業界に対して、コスト削減、収支構造改革、ビジネスDD、等のプロジェクトを経験しました。毎回異なる業界/テーマのプロジェクトでキャッチアップが大変な部分もありましたが、その分新しい学びがあって常に成長出来る環境でした。

なぜ新卒でJR西日本に入社しようと思ったのですか?

JR西日本への入社を決めた理由は大きく2つあります。
1つ目の理由は、日本発のビジネスを創出したかったためです。日本は過疎化や高齢化等の社会課題に他国よりも早く直面している課題先進国ですが、これをチャンスと捉えて、世界に先んじて社会課題を解決するビジネスを創出すれば、世界経済における日本のプレゼンスを向上させることが出来るのではないか、と考えていました。私の入社当時、JR西日本は沿線価値向上や鉄道事業に次ぐ新たな収益源を創出するために新規事業に注力し始めており、意欲さえあれば若手であってもチャンスをつかんで挑戦できる環境がありました。1日当たり500万人の利用客や地域ネットワーク等のJR西日本が持つアセットを有効活用して新規事業を創出したい、という意気込みで入社を決めたことを今でも覚えています。
2つ目の理由は、自分に向いている領域を見つけるのに良い環境であると考えたためです。JR西日本は鉄道事業を主軸にホテルや百貨店、金融等の人々の生活に関わる様々な関連事業に着手していました。まずは、特定の領域に絞らずに自分の視野を広げて興味や適性がある領域を特定していきたいと考えていたため、事業のすそ野が広いJR西日本は魅力的でした。

なぜBain&Companyに転職しようと思ったのですか?

まず、コンサル業界に転職しようと考えた理由は大きく2つあります。
1つ目の理由は、経営課題の解決を通じて企業の成長を支えたいと思ったためです。JR西日本ではグループ会社含めて様々な企業との出会いがありましたが、社会や人々のためになりたいという強い想いや優れた技術/アイデアがあるにも関わらず、思うように成長出来ていない企業がたくさん存在している事を改めて認識しました。経営課題解決のプロフェッショナルとなって、企業が本来持つフルポテンシャルを最大限引き出して成長を支えたいと徐々に思うようになり、コンサルに魅力を感じるようになりました。
2つ目の理由は、コンフォートゾーンから抜け出して成長したいと考えたためです。JR西日本で新規事業開発やハンズオン支援等を行っていましたが、やりたい事とできる事のギャップが大きく、自分のビジネススキルが圧倒的に足りないと感じていました。JR西日本は自分にとって居心地が良い環境だったのですが、それ故に甘えもあると思い、コンサルのような厳しい世界に身を置いて徹底的にマインドセット改革/スキルギャップの解消を行う必要があると考えました。

次に、コンサルの中でもBain&Companyに入社することを選んだ理由は大きく2つあります。
1つ目の理由は、Bain&Companyの価値観や働いている社員に魅力を感じたためです。多彩で優秀な仲間達と根底で価値観を共有しながら働くことが出来るのは理想的な環境だと思いました。
2つ目の理由は、成長環境が整っていると感じたためです。Bain&Companyには、「A Bainie never lets another Bainie fail」という助け合いのカルチャーやPD Chatという制度が確立しており、成長へのコミットメントが高いと感じました。コンサル業界は未経験の中途入社が成果を出すのが難しい世界という話を聞いていたので、なるべくオンボーディングしやすい風土がある会社が良いと考えていました。

Bain&Companyでの経験はVCの業務にどう活きていますか?

投資検討やハンズオン支援等、VCの業務の至る所で活きています。
投資検討における、市場構造や競争環境等のアウトサイドインでの調査、業界知見者へのインタビュー等は、DDのプロジェクトに似ています。また、ハンズオン支援のアプローチはまさしくコンサルティング業務といえると思います。キークエスチョンを特定して、仮説を構築して検証していく、という一連のアプローチはスタートアップに対するハンズオン支援でも共通しています。むしろ限られたリソースの中でスピードが求められるため、スタートアップへの支援は論点をクリアにしてアクションに落としこむことがより一層求められているかと思います。

コンサルを経験して良かったと思うことはありますか?

まず、プロフェッショナルとして働く上での基礎となる土台ができた気がします。ソフト/ハードスキルといったスキル面での学びも大きいですが、特にマインドセットが醸成されたのも大きいですね。マインドセットは机上では学べない要素で、厳しい環境で働くうちに身に刻まれました。
あとは、様々な視点が身についたのも良かったです。あの人だったら何て言うだろう。どこか見落としている部分はないか。等、自分の頭の中に上司が出来た感じです。Angel Bridgeでの仕事でも頭の中の仮想上司に助けられています(笑)。

三好さんはなぜVCに転職しようと思ったのですか?

スタートアップ環境の発展を通じて日本経済の停滞感を打破したいと考えたからです。
平成元年の世界時価総額ランキングでは50位以内に日本企業が32社ランクインしていたのに対して、平成30年の世界時価総額ランキングでは50位以内に日本企業はトヨタ1社のみ。入れ替わってランクインしたのはGAFAをはじめとする企業で、日本が世界経済に遅れを取っていることは明らかです。現在はまだ世界第3位の経済大国に位置していますが、経済成長の勢いは衰えており、中長期的には他国に追い抜かれていくのではないかと危機感を覚えています。
将来の日本経済を牽引していく主役はスタートアップだと考えていますが、現在のスタートアップを取り巻く環境は世界で戦える程の成熟度は持っていません。実際に、世界では1,000社を超える多数のユニコーン企業が生まれていますが、日本のユニコーン企業は数えるほどしか生まれていません。世界と戦えるレベルに日本のスタートアップ環境を発展させていくためのカギとなるのがリスクマネーを提供して、成長支援を行っていくVCだと考えて、転職をすることにしました。

起業家のフルポテンシャルを実現したい

起業家のフルポテンシャルを実現したい

なぜ数あるVCの中からAngel Bridgeに決めたのですか?

最終的に入社を決めた理由は大きく3つあります。
1つ目の理由は、ミッション・ビジョン・バリュー等の企業哲学/文化が自分の価値観と重なったからです。日本からメガベンチャーを生み出すという力強いメッセージに共感しました。実際に全投資メンバーが根底に同じ価値観を持っていて徹底されたカルチャーがあると感じました。
2つ目の理由は、Angel Bridgeがこれから組織を大きくしていく段階で、組織構築という貴重な機会に携わることが出来るためです。JR西日本イノベーションズでも組織立ち上げの際に大きな学びがあり、このタイミングで入社するのはこれ以上ない良い機会だと考えました。
3つ目の理由は、最適な成長環境があると感じたためです。これまで自分が成長できていた環境を振り返ると素晴らしい人達に囲まれる環境がありました。Angel Bridgeはプロフェッショナルバックグラウンドを持ったメンバーで構成されており、切磋琢磨する中で多くのことが学べると考えました。

Angel Bridge入社後は具体的にどういった支援をしましたか?

いくつか支援をさせていただいていますが、具体例としてスキャン・エックス株式会社株式会社BluAgeを挙げて説明します。
スキャン・エックス株式会社には、SaaS事業の新たなサービスプラン設計やプライシングに関する支援を実施しました。他社事例の調査、サーベイ設計/分析等を行って、顧客から求められている機能や顧客の受容価格帯等を分析し、サービスプランやプライシングに関する提案をしました。
株式会社BluAgeには、Canary Cloudの営業体制構築、CS体制構築に関する支援等を実施しました。他社事例調査、営業社員へのインタビュー、顧客データ分析等を通じて課題を特定し、ヘルススコアの設計や営業資料の改定等に関する提案、実行支援をしました。
どちらの支援についてもAngel Bridgeに入社してすぐに取り組んだのですが、コンサルティングでの経験が活きたと思います。

Angel Bridgeのパートナー陣は三好さんにとってどのような存在ですか?

「獅子はわが子を千尋の谷に落とす」ということわざがありますが、お二人(河西)とも親ライオンみたいな感じですね。やってみな、と背中を押しつつ、見守ってもくれる。そんな素晴らしい方ですね。非常に面倒見がよく、リーダーシップに溢れています。
河西と林は強みにしている分野が異なっていて補完関係にあるのも良いですね。河西が事業計画の精査や分析、ファイナンス面の支援を行う一方で、林はネットワークを駆使して業界知見者へのヒアリングや顧客先や提携先のご紹介実行する、といった形で、良いタッグが組めていると思います。お互いをリスペクトしているのがヒシヒシと伝わってくるので、雰囲気も良く一緒に働きやすいです。

Angel Bridgeに入社して良かったと思うことはありますか?

何個も思い浮かんでくるので、難しい質問ですね(笑)。3つに絞って紹介すると、1つ目はアットホームな雰囲気、2つ目は徹底したハンズオン支援、3つ目は成長環境でしょうか。
1つ目について、Angel Bridgeは社内イベントも多く、フラットな関係性が築かれています。合宿へ行ってAngel Bridgeの中長期戦略についてみっちりと議論をしたり、月1-2回程の頻度でランチ会を行ったり、週末にはゴルフに行ったりもしています。最近はゴルフ部が立ち上がり、今後は投資先等も交えて積極的に活動していく予定です。
2つ目について、投資先との信頼関係が構築出来ている理由はひとえにこれまでに徹底したハンズオン支援によって実績を積み重ねてきたためだと考えています。手前味噌にはなりますが、Angel Bridgeほど入り込んでハンズオン支援をする会社は、そこまで多くないのではないでしょうか。投資先がフルポテンシャルを発揮できるように支援するのは、簡単な事ではありませんが、その分達成感や学びも多いです。
3つ目について、先ほど入社理由で話した通り、Angel Bridgeはプロフェッショナルバックグラウンドを持つメンバーで構成されており、学びの多い環境になっています。まだ組織の規模も小さいこともあり、1人1人が行う仕事内容が入社前に想定していた以上に多岐に渡っていて、VCでありながらベンチャー感を感じられる場面が多くあります。

今後どんな人と一緒に働いていきたいですか?

まずは当たり前な部分でもありますが、Angel Bridgeのミッション・ビジョン・バリューに共感する方ですね。少人数の組織ということもあって、同じ方向性を向いて一緒に仕事が出来るかどうかは重要だと思っています。
あとは、素直な心を持った誠実な方ですね。オープンに他の人の意見も取捨選択しながら受け入れられる素直な心を持っている人とは、建設的な議論を通じて一緒に最適解を導き出すことが出来ると考えています。また、キャピタリストはLP投資家からお預かりしたお金をベンチャー企業に投資してリターンを出すことで成り立っている職業で、LP投資家や投資先等のステークホルダーとの信頼関係が不可欠なため、何事にも誠実に向き合うことが出来る人が向いていると考えています。

社会への感謝と恩返しを忘れず、より良い社会を目指して

社会への感謝と恩返しを忘れず、より良い社会を目指して

今後Angel Bridgeで働きながらどんなことを叶えていきたいですか?

ベンチャー企業への投資を通じて、人々のライフスタイルや価値観等が今よりも豊かで自由になる未来を創っていきたいです。特に、夢や熱意を持てるものにまっすぐ向き合い、個性を最大限発揮しながら自分らしく活躍する人を増やしていきたいですね。
あとは、少し壮大に聞こえるかもしれませんが、世界を変える日本発ベンチャーを創出していきたいと考えています。先ほどお話した内容と重複する部分がありますが、世界経済における日本のプレゼンスを向上させていきたいと考えています。
また、自分自身が起業するという道も見えてきました。起業家の話を聞いていると、尊敬の念と同時に自分自身も挑戦したいというやる気が湧いてきます。まだ具体的な起業アイデアを持っていないので当分先かもしれませんが、選択肢としては持ち続けたいと思います。

三好さんが大切にしている信念についてお伺いしたいです。

ノブレス・オブリージュですね。ノブレス・オブリージュはフランス語で「高貴たるものの義務」という意味で、身分の高い者はそれに応じて果たさねばならぬ社会的責任と義務があるという、欧米社会に浸透する基本的な道徳観です。まだまだ本来のノブレス・オブリージュの意味には遠く及んでいませんが、私の中では「自分が受けてきた恩恵を社会に還元する使命」という解釈のもと信念としています。私は幸運にも、自分の努力だけでは到底享受出来ない恩恵を周囲の人や環境から受けてきました。そのため、私には社会を少しでも良くするために自分が受けてきた恩恵を何かしらの形で社会に還元していく使命があると思っています。今後も社会に今まで以上に多くのことを還元していくためにも、更に精進していきたいと思います。

2022.03.03 INVESTMENT

今回は、EC事業者向けに自動タグ付けツール「AIタッガー」を提供している、LISUTO株式会社への投資に至った背景について解説したいと思います。

タグ付けとは、EC事業者が商品にタグを付けることで、ECモールでの商品検索/絞り込みの際に商品を表示させることが出来るというものです。元々EC市場は成長していましたが、コロナ禍における消費者行動の変化を背景に更に急激に成長しています。またBNPL(Buy Now Pay Later)をはじめとしたEC周辺領域はグローバルで注目度が高く、メガベンチャーが多数生まれています。

画像タグ付けは比較的容易に実現可能であり海外にはいくつかのプレイヤーが存在しています。一方で文章タグ付けは高い技術力を必要とし、世界でも成熟したソリューションとして製品化できているプレイヤーはLISUTO以外に存在していません。こういった背景から、日本発でグローバルに市場を取っていける可能性のある領域だと考え、投資に至りました。

それでは今回はAngel BridgeがLISUTOに投資する際にどのような点を検討したかについて、ご紹介します。

市場

EC周辺領域は、EC化率の上昇/提供API機能の増加を背景に急成長しています。EC周辺サービスを提供するグローバルメガベンチャーも多く誕生し、非常に多くの資金が集まっています。この中でもLISUTOは顧客へのリーチ拡大/コンバージョン率向上に取り組んでいます。

市場

国内にEC店舗は2021年時点で約400万店舗(※)存在し、そのうちLISUTOが対象としているモール店舗数は約4割です。さらにそのうちLISUTOが公認を得ている楽天・Yahooショッピングはモール店舗数の約7割を占め、これらのGMVがモールGMV全体の約4割の約8兆円を占めます。※累計登録店舗数、当社試算

市場

EC化の流れは世界共通であり、日本発でもグローバルメガベンチャーを目指せる領域だと考えています。こういった顕在化した市場ニーズやEC周辺領域への注目の高まりを背景としてLISUTOに注目し、投資検討を進めました。

サービス概要

次にLISUTOのサービス内容について説明します。

ECモールではタグを付けることで商品検索・絞り込みの際に商品を表示させることができるため、タグは売上高向上のために非常に重要な情報です。商品検索の際にはユーザーの9割がキーワード検索をしており、また 7割が色・サイズ等で絞込検索をしていることから、商品の関連キーワード/属性のタグが必要であることが分かります。

サービス概要

一方で出品数に比例してタグ付けには膨大な工数とコストがかかるため、特に出品数が多いEC事業者はタグ付けを諦めていました。

サービス概要

そういったペインを解消しているのが、LISUTOが開発している「AIタッガー」です。

サービス概要

AIタッガーを利用すると、EC事業者は既存の業務フローをほとんど変えることなく、より高速で自動タグ付けが可能になります。

自動タグ付け手順

AIタッガーを活用したタグ付け手順は以下の通りです。

商品CSVを準備し、AIタッガーにアップロードした後ECモールにタグ情報を反映することで、EC事業者は既存の業務フローをほとんど変えることなく自動でタグ付けが可能です。

自動タグ付け手順

LISUTOは2021年4月に佐川急便と資本業務提携を締結し、OEM版を佐川急便の商品として販売しています。その結果サービスインが加速し、契約社数が急増しています。

自動タグ付け手順

また、今後は佐川急便同様の戦略的パートナーモデルで海外にも展開し、各地域のECモール向けにAIタッガーを販売していく予定です。2022年前半にはeBayや、オランダ最大のECモールであるBOLへの導入を開始予定です。

競合

次にLISUTOの競合についてです。まず自動タグ付けには、「画像読み取りタグ付け」と「文章読み取りタグ付け」があります。

画像読み取りタグ付けは商品画像からそのまま分析できるため商品CSVの解析は必要ありません。また機械学習を利用して画像から商品を様々なカテゴリーに分類するためのオープンソースなどが公開されているため、比較的容易に実現可能であり多くのプレイヤーが存在しています。一方で、商品画像の解析だけでは読み取れない生産国やサイズなどのデータが欠落してしまったり、画像を読み取らせるオペレーションは業務フローの改変が必要で導入ハードルが高いなどの理由から十分にペインを解決できておらず、実現性は低いのが現状です。

一方で、文章読み取りタグ付けは画像読み取りタグ付けと比較して圧倒的に実現が困難です。

まず、ECモールのカテゴリーを構造化して処理できるデータベース構築と、常に最新の状態を保つ管理システムが必要であり、更にAIによるフリーテキストの自然言語・多言語処理も必要です。共同創業者のパベル氏はEC業界に対する高い専門性と、技術力の両方を持ち合わせているため、この組み合わせが実現できています。

文章読み取りタグ付けでは商品の詳細情報が載っている商品CSVを解析するため、画像読み取りタグ付けでは抽出できない情報も含めて高精度でタグ付けができます。そのため業務フローも変えずに導入でき、運用負担も軽いです。

こういった難易度の高さから、世界でもLISUTO以外に成熟した文章読み取りタグ付けのサービスを提供できているプレイヤーは存在しませんが、文章読み取りタグ付けの実用性は高く、ニーズは非常に強いです。

競合

このような市場環境の中で、LISUTOは画像読み取りタグ付けと文章読み取りタグ付け両方に対応した、ノーコードで非エンジニアでも扱えるツールというユニークなポジションを確立しています。文章タグ付けは画像タグ付けより高度ですが、LISUTOの高い専門性と技術力を持ったチームで必要な技術ハードルを乗り越えることができています。

AIタッガーはEC事業者への導入実績も多数あり、投資検討をするにあたり実際に複数の導入企業にインタビューを行いました。その結果、「毎週200点の新商品のタグ付けに手作業で3-4日かけていたが、AIタッガーを使うことで15分に短縮できた」「18万件の商品のタグ付けに手作業で6年かかると計算していたが、AIタッガーを使うことにより3日で完了した」といった声が多く上がり、自動タグ付けのニーズは強く、LISUTOは高い評価を得ていることがわかりました。

経営陣

Angel BridgeがLISUTOに投資するにあたり、経営する皆様への理解を深めました。

まず代表のニール氏はEC業界で過去にも1度起業経験があり、EC領域に高い専門性と経営者としての経験を持っています。またテルアビブ育ちで日本語・英語・ヘブライ語のトライリンガルであり、グローバル市場を目指して事業を展開できる稀有な人物です。

また共同創業者のパベル氏はeBay、Shopping.comでの部門責任者・シニアマネージャーとしての経験があり、EC業界に対する高い専門性を持つ人物です。

経営陣

二人のバックグラウンドや起業の想いを聞く中で非常に強い覚悟を感じることができました。また、EC領域での起業歴や海外大手EC企業での開発歴があり、経営陣と事業領域の強いフィットがあるということで、こういった難しい領域でも勝っていけるのではないかと感じました。

おわりに

EC周辺領域はグローバルで注目度が高く、メガベンチャーが多数生まれている領域です。文章読み取りタグ付けは高い技術力が必要ですが、LISUTOの経営チームはEC業界への理解が深く、またグローバルなバックグラウンドを持つメンバーが結集しており、この難易度の高い領域で戦っていけると信じています。

繰り返しになりますが、Angel Bridgeは社会に大きなインパクトをもたらすために、あえて難しいことに挑戦していくベンチャーこそ応援しがいがあると考えており、こういった領域に果敢に取り組むベンチャーを応援したいと考えています。事業の壁打ちや資金調達のご相談など、お気軽にご連絡ください!