2022.04.27 INTERVIEW

ソフトウェアの開発をもっと効率的に

まずMagicPodの事業内容を教えてください。

伊藤:私たちはノーコードでソフトウェアテストを自動化するプラットフォームを作っています。ウェブサイトやモバイルアプリを作る時には、作ったものがきちんと動くかテストをする必要があって、これをソフトウェアテストといいます。ボタンを押してみてエラーが出ないかなど、画面操作により想定通りの動作となっていることを確認していく作業があります。それらの作業はほとんどエンジニアの手作業や目視で行われていて、すごく手間がかかるので、MagicPodではこれを自動化するサービスを開発しています。
私たちが扱うE2E(End to End)テストはシステム全体を通して行うテストで、ユーザーと同じように操作を行って、きちんと動くかを見るものです。テストの中でも一番重要で、ニーズが高いものを自動化することに取り組んでいます。

ノーコードでの自動化ということですが、ノーコードとはどういうものなのですか?

伊藤:これまでソフトウェアの自動化をするには、それぞれの手順についてプログラムを書かなければいけなかったので、専門のスキルを持った自動化エンジニアが必要でした。しかし、ノーコードサービスを使えばプログラムを書かなくても、画面上で項目を選んでいくだけで簡単にテストができます。
世界的にエンジニアが足りない一方でITの需要が増えていて、「プログラムを書かない人でもシステムを作れるようにしよう」というトレンドが来ているので、私たちのサービスにちょうどマッチしているなと感じています。

同じような事業を行っている企業はあるんでしょうか?

伊藤:ノーコードでの同様なシステムを提供している会社は国内、海外にいくつかありますが、これらの会社はウェブサイトでのテストを主に扱っています。一方でMagicPodはウェブサイトとモバイルアプリの両方で使うことができ、その点は他社と比べて非常に大きな強みですね。モバイルアプリは歴史が浅くてノウハウがない上に、変化も多いので、技術としては圧倒的に難しいのです。

伊藤さんはどのような経緯で起業したのですか?

ソフトウェアの開発をもっと効率的に

伊藤:私はもともとワークスアプリケーションズという、会計のERPソフトを作る会社でエンジニアをしていました。エンジニアとして働く中で、ソフトウェアの品質管理がスピード感のある開発をする上で、大きなボトルネックになっていることに気付きました。テストをより効率化して、時間がなくてもシステムの品質を担保できるようにすることが重要だと思って、そこから社内向けのテストツールを作り始めました。ベースのエンジンから自分で設計をして、ひたすら試行錯誤の日々でした。結果、会社全体がそのツールを使うようになって、業務が大きく改善されたんです。この功績を評価していただき、その年は約3,000人の会社で3名ほどしかもらうことができない、社長賞をもらうことができました。
その時に自動化という技術に魅力を感じて、社内だけでなく世界中で使われるような製品を作りたいと思い起業しました。

起業してからはどのように取り組んでいきましたか?

伊藤:日本でテスト自動化というもの自体があまり普及していなかったので、まずは無料で使えるオープンソースのツールについてまとめた本を書きました。市場がそもそもなかったので、作るところから始めました。
普及活動の一環としてコミュニティを作ったり、イベントを企画したりもしましたが、それらのノウハウがなかったのでとても苦労しましたね。頑張って企画した第一回の勉強会のゲストが直前で来られなくなってしまうというアクシデントなんかもありました(笑)。

理想的なツールの作成に挑む

市場を開拓するとなると、大きな壁もたくさんあったと思います。その中で伊藤さんを突き動かしていたのはどういった思いでしたか?

伊藤:世の中には良い技術もテスト自動化の需要もあるのに、なかなかユーザーには使ってもらえないというギャップを埋めたい気持ちが大きかったです。ソフトウェアの品質の問題はみんなが困っていたのですが、なかなか良い解決策がなくて諦めていたんです。自動テストというものもありましたが、もっと使いやすくしないと世界中に使ってもらえるものにはならないと感じていました。
最初は既存のツールを普及しようと考えましたが、やはりノーコードで誰でも簡単に扱えるものでないと取り入れてもらうのが難しく、理想的なツールを自分たちで作りたいと思って「MagicPod」という製品を作り始めましたね。

伊藤さんのほかには、どのようなメンバーがいらっしゃるのですか?

伊藤:会社や製品の方針などについてはテックリードの玉川と主に2人で考えています。玉川はもともと東大の情報学研究科で機械学習の研究をしていて、卒業後は自動化や開発効率化、自動テスト技術の普及活動を行っていました。
運営していた自動テストのコミュニティに顔を出してくれていたのがきっかけで、当時からとても優秀な方だと感じていました。お誘いして最初は断られちゃいましたが、その後無事に加わってくれました。よくぞ来てくれたなと、うれしく思っています。

AngelBridgeとはどのように出会いましたか?

伊藤:もともとシードラウンドではIncubate Fundから出資してもらっていました。当時は製品の出来が悪く、ユーザーもつかず、投資を受けるまでに苦労したのを覚えています。シリーズAの調達のときにパートナーの河西さんがFacebookでメッセージをくださったのがAngel Bridgeとの出会いでしたね。お話するうちに、私たちに足りないファイナンスやビジネスサイドを補完してもらえそうだと感じました。これからラウンドを進めていく中でもスピード感を持って進めていけそうだなと思って、投資を受けることを決めました。

理想的なツールの作成に挑む

河西さんはなぜMagicPodに出資をしようと思ったのですか?

河西:まず伊藤さんの技術力の高さですね。チーム全体を見ても、類い稀な優れた技術を持っているところに惹かれました。特にモバイルアプリでのテストを自動化する技術は、誰に聞いても非常に難しいと言っていて、このチームの技術は相当なものなのだと確信しましたね。
また伊藤さんとお話していく中で、ソフトウェアの品質テストというものが長期にわたってエンジニアの方々にとっての大きなペインであったことが分かって、そこを解決に導いていることにも感銘を受けました。

投資検討を進めていく中でよく覚えているエピソードはありますか?

河西:伊藤さんは京都大学の数学科出身とスーパー優秀な印象だったので、投資するにあったって唯一の心配事として、もしかしたら技術を磨きこむことができれば満足してしまうのではないかと思っていたんです。そこで一度、「IPOへのこだわりはありますか?」と質問したことがあるんですよ。そのときに伊藤さんが、「私は学生時代、ノーベル賞を目指して研究をしていました。今、ベンチャーを始めたからには同じくらいのパッションをもって事業を成功させたいですし、同様にIPOを目指したいです。」とおっしゃっていたのがすごく印象的です。伊藤さんから、技術開発だけでなくベンチャー企業としての成功を追及していきたいという強い気持ちを感じました。起業をするうえで、そういった気持ちはとても大事だと思うんですよね。

伊藤:私もその会話はよく覚えています。お寿司を一緒に食べていたときでしたよね(笑)これまでエンジニアとしては、本や海外での講演、社長賞など、一般的に見るとトップレベルとされる成果を出しました。ただ自分の中ではこれらにあまり満足していなくて、やはり達成感を得るには事業として成功させるしかないなと、起業してからずっと思っていますね。

河西:伊藤さんには秘めたる闘志をいつも感じますね。毎月定例会議を行っていても毎回着実に進歩していますし、ひとつひとつ地道にくじけずにやっていくところがすごいなと思います。

伊藤:私は得意じゃないことをするのが得意なのかもしれないですね(笑)。元来、営業やプレゼンテーション、イベント企画などは一番苦手な分野なんですが、会社のために必要であれば何でも頑張ろうと思っています。

投資実行後、Angel Bridgeからはどんな支援がありましたか?

伊藤:まず月一の定例会では毎回アドバイスをいただいていますね。プロファーム出身のエキスパートからコンサルティングを受けられる機会はとてもありがたく思っています。担当の八尾さんは、実際のお客さんの声を集めて製品に足りないところをフィードバックしてくれるなど、親身にご支援いただいています。最近ではストックオプションの設計を始めているのですが、そこについてもとても良いアドバイスをいただきました。

Angel BridgeはどんなVCだと思いますか?

伊藤:投資を受けてみて感じたのは、とても勢いのあるVCだなと思っています。優秀な方々でありつつ、例えばバーべキューを一緒にしたときはとても愉快な方々だと感じました(笑)。
あと、他の投資先を見ていると、VCとしての目利き力が特に優れているなと思いました。キラリと光るベンチャーを見つけてきて伸ばすのが上手いんじゃないかと思います。

最終的には銀行を目指していく

世界に愛されるプロダクトを

後輩起業家に向けて、起業にあたってアドバイスはありますか?

伊藤:最近は昔と比べて資金調達の選択肢も増えていますし、スタートアップのビジネスをするハードルがかなり下がってきているように感じています。日本でもベンチャービジネスに流れる資金が増え始めていますし、今後数年間は起業のチャンス期間になるかもしれないですね。例えば、会社で10人の部下がいるっていうことは、ある意味10人ぐらいのベンチャーを経営できるノウハウがあるってことだと思うんです。そういったビジネススキルがある人は、ぜひチャレンジしてみるといいんじゃないかなと思います。

MagicPodをどのような会社にしていきたいですか?

伊藤:「MagicPod」を世界中の人が使うサービスにしていきたいですね。特にエンジニア向けのサービスは法律や文化にあまり依存しないので、日本の市場から海外に持っていくのはあまり難しくないんです。そういう面で私たちのサービスは日本のスタートアップの中でもかなりグローバル進出しやすい領域だと思っています。
会社としての在り方でいうと、やっぱりユーザーさんに愛されるようなプロダクトを作る会社であり続けたいと思います。ユーザーの声はすごく大事にしていて、「これ欲しい!」みたいなリクエストをいただいた際はかなり注力して、積極的に機能追加をしています。今後会社が大きくなっても、そういった心を失わないようにしたいですね。

社会に届けたいことはありますか?

伊藤:会社の新しいミッションとして、「ソフトウェア開発の常識を一変させる」ということを掲げたいと考えています。ソフトウェアの開発もテストもですが、本当は面倒くさいなと思いながら我慢してやっていることがたくさんあると思います。私たちはそういう、みんなが当たり前だと思って我慢していることを、自動化やAIといったテクノロジーを使ってどんどん変えていきたいです。ソフトウェア開発というプロセスの中から、楽しくないものをなくして、本当に楽しいことだけをやっていられるような環境にしていきたいと思っています。ソフトウェアに携わる全ての人たちが幸せに、より楽しく開発できるように、技術革新を進めていきたいです。

2022.04.21 COLUMN

こんにちは!Angel Bridgeインターンの山田です。

前々回はアメリカのEC領域特化SaaS紹介の第2弾として、ECでの返品業務を効率化するReturnlyについて紹介しました。

今回は、同じくECの返品領域において、返品された商品の検品・保管から再販までを効率化するOptoroについて紹介します。

参考:EC×APIサービスの全体像

Optoro

Optoro概要

Optoroは2010年に、eBayの出品代行サービスであるE-Spotの元創業者、Tobin Mooreによって設立されました。2021年までに合計10回の資金調達を行っており、合計調達額は$270M、評価額は約$1Bです。

Optoroの最大の特徴は、「返品された商品を検品・保管し、最も高値で売れる二次流通チャネルで再販する」という、返品におけるEC事業者の業務のほぼ全てを効率化するソリューションを展開していることです。

Optoro概要

続いてOptoroのビジネスモデルについて紹介します。

OptoroはEC事業者と提携し、返品された商品の検品・在庫管理と、最高値で売れるチャネルの特定・再販を行います。

Optoro概要

マネタイズは在庫管理の月額費用と、再販の手数料として売上の一部をもらうことで行なっています。

また、前回紹介したReturnlyなどの返品効率化SaaSと連携することで、返品における消費者とのやりとりも効率化することが可能です。

参考:ReturnlyとOptoroの返品における業務範囲イメージ

Optoro概要

解決しているペイン

アメリカのEC小売業の返品率は25% ~ 40%で、2020年の返品額は$500B(約60兆円)にものぼります。加えて、返品された商品のうち毎年約26億kgもの商品が廃棄されており、大きな環境問題となっています。

一部の大企業では、返品された商品を中古商品として再販することで廃棄を減らすという取り組みが行われていますが、ほとんどの中小規模のEC企業は、商品の管理コストや輸送コストの背景から再販しても利益が出ないため、再販を行うことができないというペインを抱えていました。

Optoroのサービス内容

Optoroは自社で倉庫と再販用の二次流通マーケットの両方を抱えることで在庫管理と流通のコストを抑え、中小規模のEC企業でも再販から利益を得られるようにします。

以下、在庫管理と再販のそれぞれの機能について紹介します。

①在庫管理
返品された商品が契約企業から全米にあるOptoroの倉庫に運ばれると、画像認識AI搭載のスキャンシステムによって、返品された商品を瞬時に検品しデータベース化します。
参考:検品を行うスキャナー
Optoroのサービス内容
そして、再販商品として出荷されるまではSmartRTV®テクノロジーによって効率的に在庫管理されます。SmartRTV®はAPIでクライアントの在庫管理システムと連携することも可能です。
参考:Smart RTV®テクノロジーによる在庫のデータベース化
Optoroのサービス内容
②再販
SmartDisposition®テクノロジーによって、倉庫に管理されている商品がどのチャネルで最も高く販売できるかを瞬時に割り出します。
再販される主なチャネルは、Optoroが運営している二次流通マーケットである「BLINQ(BtoC向け)」と「BULQ(BtoB向け)」の二つのチャネルの他、AmazonやeBayなどが挙げられます。
参考:SmartDisposition®テクノロジーによる収益予想と、BULQのイメージ
Optoroのサービス内容 Optoroのサービス内容
また、SmartDisposition®テクノロジーによって再販できないと判断された場合も、廃棄に回すのではなく慈善団体へ寄付を行うことで、できる限り廃棄を減らす取り組みを行なっています。
この場合は再販による利益を得ることができませんが、それでもEC事業者にとっては商品の管理費用や処分費用が浮くため、非常にニーズの高いサービスとなっています。

Optoroを支える技術

Optoroを支える最大の技術は、前述のSmartDisposition®テクノロジーです。

SmartDisposition®テクノロジーには大量の商品情報を用いて学習させたAIが搭載されており、返品された商品をどのチャネルで販売すれば良いかをわずか数秒で判断することが可能です。

この他にも、倉庫で用いるスキャナーには画像認識AIが搭載されており、検品とデータベース化を同時に行うことができる点など、Optoroはロジスティクス企業でありながら高い技術力を有しています。

実際に、現CTOであるDouglas Bemis氏はUber AI Labs*のCTOを務めていた人物であり、その他にも精鋭エンジニアが多数Optoroに在籍しています。
*Uber AI Labs:Geometric IntelligenceをUberが買収して設立された人工知能の研究部門。自動運転技術の開発などを行う。

トラクション

Optoroの提携企業は、以下のような大規模ブランドから中・小規模のブランドまで多岐に渡ります。

参考:代表的なOptoroの提携ブランド

トラクション

日本市場

日本においても返品領域は盛り上がり始めており、前回の記事で紹介したReturnlyのような返品の受付業務を効率化するSaaS企業は日本でも登場しています。

しかし、Optoroのような在庫管理から再販まで返品の領域全般をカバーする企業はまだ現れていません。

この理由として、アメリカでは以前から返品された商品を取り扱う二次流通マーケットが盛んなのに対し、日本ではまだそういったマーケットが盛り上がっていないことが挙げられます。

というのも、初期のOptoroは最高値で販売できる二次流通マーケットを選定して出品するソリューションのみを手掛けており、そこから自社で倉庫を構えたり、運送業者と提携したりすることで現在のビジネスモデルに至るからです。

よって、日本でもまず初めに、返品された商品の二次流通マーケットを手掛ける企業が現れ、市場が盛り上がった後にOptoroのような企業が現れるのではないかと考えられます。

おわりに

今回はEC領域特化SaaS紹介の第三弾として、返品領域全般をカバーするOptoroを紹介しました。「返品された商品の再販を最適化する」という日本にはまだないコンセプトを持っており、日本の返品市場の今後の展開を考察するうえで重要な企業なのではないかと思いました。日本でもOptoroのような企業が現れるのか、それともアメリカには存在しないビジネスモデルの企業が登場するのか、これからもECの返品領域に注目していきたいです。

最後になりましたが、Angel BridgeはCVR・LTV向上を目的としたEC周辺サービスにも積極的に投資しています。 事業の壁打ちや資金調達のご相談など、お気軽にご連絡ください!

2022.04.09 INVESTMENT

Siiibo証券は社債に特化した唯一のネット証券会社です。企業情報の閲覧から社債の購入・管理まですべてオンラインで完結するプラットフォーム「Siiibo」を運営しています。
社債は決まった期間で一定の利息が入る金融商品で、企業が投資家から直接資金調達するための手段です。従来社債の発行には高いハードルがあり、実際に活用できる企業は限られていましたが、Siiibo証券は私募の仕組みを利用することでそのハードルを下げ、未上場企業を含む多くの企業が社債を発行できる環境を作り上げています。
では、Angel BridgeがSiiibo証券に投資する前にどのような検討を行ったかについてご紹介します。

サービス概要

まずSiiibo証券のサービス内容をご紹介します。
Siiibo証券は社債に特化したネット証券会社として、オンラインで簡単に社債を発行・購入できるプラットフォーム「Siiibo」を運営しています。「Siiibo」では発行企業と投資家の間に立ち、IR情報のやり取り、募集、入金、社債発行などを行うサービスを提供中です。 サービス概要 特にSiiibo証券が扱う社債は「少人数私募社債」というもので、広く一般に募集する公募債と異なり、募集先が50人未満に限られます。一方で発行企業、投資家の双方に様々なメリットをもたらします。 サービス概要

発行企業側の主なメリットとして以下の2点があります。

①短期間、低コストでの資金調達が可能
通常の公募社債の発行には格付機関による投資適格の格付けが一般に求められるほか、煩雑なドキュメンテーションが求められます。上場企業で管理部門が整った組織でない限り、現実的には社債を発行することは極めて困難でした。期間としても通常3-4か月程度の準備期間を要します。それに対してSiiibo証券では、私募の仕組みを活用することによって財務諸表の監査意見取得等を含む、数週間~1ヶ月程度の審査を通過すると募集可能となり、格段に低いコスト・業務負担で社債を発行することが可能です。
②調達手段の多角化
これまで社債を検討できなかった未上場企業もSiiibo証券を活用することで調達の手段を多角化することができます。スタートアップがなかなか銀行から融資が引けない中、社債発行というデット性の資金調達手段を得られることの意義は非常に大きいと言えます。
投資家側の主なメリットは以下の5点です

①”社債”という一般的でシンプルな商品
社債はシンプルで透明性の高い商品であるため、ソーシャルレンディングよりも充実した情報開示によって自ら投資判断をすることができます。また未上場企業などの、リスク・リターンの観点から魅力的な案件を見つけることが可能です。
②リターンが分離課税
Siiibo証券で得たリターンはソーシャルレンディングと異なり、総合課税ではなく分離課税になります。確定申告の対象外となり、特に高所得者層からは魅力的なポイントとなっています。
③分散投資に適切
株式はキャピタルゲインを主な目的としているのに対して、社債はインカムゲイン型であるため分散投資先として適しています。ポートフォリオに組み込むことで、より柔軟にリスク・リターンの比率調整が可能です。
④投資家保護の取り組み
Siiibo証券は第一種金融商品取引業者として登録の上、私募社債を取り扱っています。そのため、分別管理や投資者保護基金の加入といった、一種業者に義務付けられる倒産隔離の仕組みが導入されており、投資家を保護する取り組みがなされています。
⑤企業を直接応援できる
自ら社債の発行企業を選び、購入することは直接的にその企業を応援することにつながります。自分が共感する事業に取り組むスタートアップを直接応援できる機会は投資家にとって魅力となります。

これらのメリットが評価され、サービスローンチ以来、実際に株式会社Wells Partners、yup株式会社、五常・アンド・カンパニー株式会社、琉球アスティーダスポーツクラブ株式会社、株式会社ツクルバ、Siiibo証券株式会社といった上場企業を含む6社の社債を発行しています(2022年3月25日時点)

マーケット

次にマーケットについて説明します。
資産運用サービスは昨今注目を集めていますが、ビジネス環境が整うまでには大きな変遷がありました。

2008年maneoにより、日本で初めてとなるソーシャルレンディングが個人融資を中心として開始され、企業融資への転換を経て、一躍成長ジャンルとして注目を集めました。しかし2014年になり、融資先保護のため借り手の詳細情報を隠す匿名化が義務化されたことで、不透明な資金使途の募集が可能になり、複数の会社が行政処分を受けることになりました。

2019年に融資先の匿名化が解除され、再び借り手の詳細情報を開示できるようになったことで、ソーシャルレンディング市場には融資先・資金使途を開示することを特徴として打ち出す透明性の高いプレーヤーが誕生しました。

資産運用サービス全般についてもビジネス環境が整備され、実際に2015年に会社設立後、一気に預かり資産を拡大して2020年に上場を果たしたWealthNaviをはじめとして数々のメガベンチャーが生まれています。

Siiibo証券の詳細な情報開示と高い透明性を重視した仕組みは以上の流れを汲んでおり、ユーザーのニーズにマッチしたものだと考えています。

競合

Siiibo証券の競合についてです。

最近では人々の資産運用意欲の高まりが明確なトレンドとなり、これまでになかった個人向け資産運用サービスが数々登場しました。これらのサービスは仕組みや投資対象によって以下のような棲み分けがなされています。 競合 新たな個人向け資産運用サービスには株式投資型クラウドファンディングやソーシャルレンディング、ロボアドバイザー等があり、それぞれに多くのプレーヤーが存在しています。一方で、私募社債についてはSiiibo証券が唯一のプレーヤーとなっています。

では、私募社債を扱う上での参入障壁にはどのようなものが挙げられるでしょうか。

私たちが考えた大きな障壁は、私募社債を運用するためのプラットフォームの構築です。
私募社債を扱うためには第一種金融商品取引業者としての登録が必要ですが、これはベンチャー企業にとって大きなハードルになります。その上、煩雑な社債発行手続きを簡便にするための仕組み作りには金融規制等に対する深い理解と工数が必要であるため、大企業であっても簡単には参入できないと予想しています。

さらに今後投資家と発行企業を集めることでプラットフォームバリューが高まり、一層の参入障壁を作ることができるのではないかと考えました。

経営陣

Angel BridgeがSiiibo証券に投資するにあたり、経営する皆様への理解を深めました。 経営陣 まず代表の小村氏は東京大学大学院工学系研究科を卒業後、ドイツ証券やBlackRockで社債の取り扱いを経験。「社債というシンプルな金融商品を世に広めたい」という想いから創業されました。

周囲の方々へのインタビューからは、小村氏が枠にとらわれない独自の発想と強い信念をもって本事業に取り組んでいることが分かりました。優良な人材を巻き込む力も強く、Siiibo証券には金融・コンサルタント・エンジニアの第一線で活躍してきた極めて優秀かつ業界知見のあるメンバーが集結しています。特に小村氏と宮崎COO、松澤CTOは大学院の同じ研究室出身であり、とても結束が強いチームです。

おわりに

最後にSiiibo証券の今後の展開について私たち想定していることをお話します。

ご紹介してきた通り、Siiibo証券は少人数私募に特化したサービスを提供していますが、このビジネスにはプロ私募や自己募集などの、より市場の大きい近接領域にも拡大していくポテンシャルがあると考えています。 おわりに 少人数私募では比較的信用力の高い企業と一般投資家をマッチングするために一定の審査・営業コストが必要ですが、プロ私募や自己募集では企業の信用力等の制限が緩和されるので、それらのコストが大きく軽減されることが見込めます。

Angel Bridgeは社会に大きなインパクトをもたらすために、あえて難しいことに挑戦していくベンチャーこそ応援しがいがあると考えており、こういった領域に果敢に取り組むベンチャーを応援していきたいです事業の壁打ちや資金調達のご相談など、お気軽にご連絡ください!

2022.04.01 COLUMN

こんにちは!Angel Bridgeインターンの黒田です。

アメリカの未上場Fintech企業についての調査結果をシリーズ化して発信しています。

今回は第6弾として、子ども向けのデビットカードを提供し、金融教育を支援するGreenlightを紹介します。

Greenlight概要

Greenlightは2014年に連続起業家のJohnson CookとReachable創業者のTimothy Sheehanによって設立されました。2021年までに5回の資金調達を行っており、直近のシリーズDでは時価総額$2.3Bで$260Mを調達しています。リード投資家にはAndreessen Horowitzが入っており、大注目企業となっています。

Greenlight概要

Greenlightは子ども向けのデビットカード、口座アプリを提供しています。子どもはアプリ上でお金を使う、貯める、稼ぐ、投資することができます。親はこれらの行動を細かく管理できるようになっていて、子どもに家事を割り当ててお小遣いを渡したり、お金を使ったときに通知を受け取ったりすることができます。つまり、このアプリを通じて子どもに金融教育を行うことができるわけです。

サービス内容

アプリ内で子どもはお金を「使う」「貯める」「稼ぐ」「投資する」ことができます。
では、それぞれについて解説していきましょう。

①使う
子どもはデビットカードを用いてお店で商品を購入したり、ATMで現金を引き出したりできます。Apple PayとGoogle Payに支払い機能を追加することも可能です。このとき、使った金額の1%がボーナスとして還元されます。
また、親は子どもがお金を使う店舗や現金を引き出すATMを指定できる上、カードが使用されたときは通知を受け取れるようになっていて、過去の使用履歴もすべて確認することができます。
サービス内容
②稼ぐ
親は子どもに家事を割り当て、それに対する報酬金額を設定、送金できます。1回限りの家事や繰り返される家事など、さまざまな設定にカスタマイズすることが可能です。また、お小遣いを設定すると、毎月または毎週自動で子どものアカウントに送金されるので、親がわざわざATMに行く必要がありません。10代で仕事をしている子どもたちは、給料の受け取りをGreenlightのアカウントに設定することもできます。
サービス内容
③貯める
アプリ内で貯金の目標額を設定し、それに向けて貯金することができます。親は子どもの収益の中から何%を貯金に回すかを設定管理できます。また、貯金に対しての利子を設定し、実際に親のアカウントから子どもへ利子分のお金を送ることが可能です。
サービス内容
④投資する
このサービスは2021年に新しく始まったプラン「Greenlight Max」で利用できます。子どもはまず、アプリ内で投資について勉強し調査します。さらに親が承認すれば、実際に1株から株式を購入でき、その銘柄は4000以上になります。AppleやTesla, Amazonなどの銘柄が人気なようです。
サービス内容

これらの機能を通じて実際にお金を動かすことで、子どもは金融について様々なことを学べます。具体的には、節約して貯金することの大切さ、複利の偉大さ、投資する意義などです。また、アプリ内では金融についての動画やクイズなどの教育コンテンツも充実しており、そこでも金融についての知識を得ることができます。

サービス内容

親が細かく管理できることもGreenlightの特徴のひとつです。すべての機能において親は子どもの動向を細かくチェックできるようになっています。万が一カードを紛失してしまっても、カードを即座に止めたり、ATMの引き出しをブロックできたりするので安全性の面でも安心です。また、オンラインゲームサイトなど、あまり多くの金額を使うことが望ましくない特定のサービスでは、カードの利用を制限することもできます。

トラクション

2017年のサービスローンチ以来、5年間でアカウント数は450万、年間収益は$100M以上と素晴らしい成長速度です。月額料金はベーシックプランで$5/月、投資機能がついたGreenlight Maxプランは$9.98/月です。これは一家族分の料金で、子どもは5人まで使えます。送金や決済に手数料をかけるのではなく、アカウントごとの月額課金制なので収益が安定しています。

2020年10月にはJPモルガンとの提携が発表され「Chase First Banking」という子ども向けの銀行口座サービスがリリースされました。

競合

このようなサービスはうまく普及すれば、一つの世代をまるまる自分の金融プラットフォームに取り込めるため、リターンの大きいビジネスだと考えられます。そのため、アメリカ国内だけでなく各国にも同様のサービスを提供する企業は数多く存在します。アメリカ国内ではCurrent, Step, イギリスではgoHenry, RoosterMoney, Revolut, フランスではVybe, Pixpay, Xaalys, Kard, スペインではMitto, メキシコではMozperがいます。下にカオスマップとしてまとめました。

競合

日本市場

日本では、まだ子ども用に特化したファイナンスサービスはありません。この背景として、日本は子どもへの金融教育が諸外国に比べて遅れており、家庭でのお金の教育に関する意識も高くないことが考えられます。金融広報中央委員会の調査によると、金融教育の経験がある人の割合はアメリカ21%に対して日本は7.2%と1/3の低さとなっていて、金融に関する問題の正答率は30か国中22位と低い順位にあります(2020年調査時)。

日本では「お金=汚い」、「投資=危ない、怖い」というイメージが未だ根付いているために、金利が低い昨今でも預金が増え続け、株式や投資信託による資産は全体の15%に及ばないという状況です。

では、このような金融教育サービスは普及しないのかというとそうではないと考えられます。2019年に金融庁が「高齢社会における資産形成・管理」という報告書の中で「老後資金は2000万円不足する」と発表し、国内で大きな議論を呼びました。金融教育の重要性が認識され始め、2022年度からは高校の新指導要領に「資産形成」が追加されました。このような金融リテラシーが低い現状を打破しようという流れに乗ることができれば、金融教育サービスにもメガベンチャ―誕生の可能性があるのではないでしょうか。

おわりに

今回の記事では子ども用のデビットカードと口座アプリを提供するGreenlightを紹介しました。お金に関するすべての動きを網羅していて、サービスを通じて子どもが金融を学べるという素晴らしいサービスでした。日本と海外では金融教育事情が異なるものの、時代の流れから考えると十分に可能性のあるサービスなのではないかという結論でした。

最後になりましたが、Angel Bridgeは世の中を大きく変えるフィンテック企業に積極的に投資しています。 事業の壁打ちや資金調達のご相談など、お気軽にご連絡ください!

2022.04.01 INVESTMENT

今回は、SaaS事業者やEC事業者向けにRevenue Based Financing(以下RBF)を提供する株式会社Fivotへ投資した理由を解説します。

まずRBFとは資金調達を行った企業が投資家に対して、その売上高に応じて返済を行うという資金調達方法です。この手法によって企業は株式を希薄化することなく、またスピード感を持って資金調達を行うことができます。

RBFは先行投資が必要かつ、将来の売上高の見通しが立ちやすいSaaS企業やEC事業者が対象です。これらの企業が成長している現在、RBFの需要もますます大きくなると考えられます。そのような背景から、日本でRBFを提供する数少ないベンチャーの一つであるFivotに可能性を感じ、投資に至りました。

それではAngel BridgeがFivotに投資する際にどのような点を検討したのかについて、ご紹介します。

RBFとは ニーズと市場の成長

RBFとはどのような資金調達方法なのかについては以下の記事で詳しく解説しているので、ぜひご覧ください。
Angel Bridge USベンチャー研究#3資金調達プラットフォームを提供する「Pipe」の事例

簡単にいうと、RBFとは資金調達した企業が毎月の売上高から一定の割合で返済するという仕組みの資金調達方法です。

RBFとは ニーズと市場の成長

RBFでは従来の資金調達方法でベンチャー企業が感じていたペインを解決することができるため、強いニーズがあります。
(下の表を参照)

RBFとは ニーズと市場の成長

環境の変化もRBF市場の成長を加速させています。

まず、RBFの対象となるSaaS企業やEC事業者は増加しています。これらの企業の成長には先行投資が欠かせません。親和性の高いRBFの需要はこれらの企業の成長と共に今後さらに大きくなると予想されます。

また、RBFの特長のひとつとして資金調達までの速さがありますが、これには審査に必要なデータを取得する環境の整備が寄与しています。SquareやStripe, Shopifyなどの決済サービスの普及により、審査に必要な詳細な取引データやKPI(Key Performance Indicator:重要業績評価指標)の取得が容易になったことでRBFが広がっています。

実際に海外ではRBF市場が大きく成長しています。複数のユニコーンが誕生し、2019年には市場規模は9億ドルでしたが、2027年には423億ドルに到達すると予想されています。

RBFとは ニーズと市場の成長

ビジネスモデル

Fivotはまず、RBFを提供するための原資として銀行からの融資を含めた複数のデットファイナンスに加え、現状はVCなどからエクイティ(株主資本)で調達した資金も原資として活用しています。将来的には、ファシリティファイナンスや債権の流動化を活用し、より大規模な流動性調達の手段を実行していくことを予定しています。

次に、調達した資金を原資として、将来の売上高を見通しやすいSaaS企業やEC企業に対してRBFを提供します。この時のRBFの金利と、Fivotの調達金利の差がFivotの利益となります。

ビジネスモデル

競合

日本でRBFを提供するプレイヤーはFivotのほかには1~2社のみです。この領域に先行する競合は存在しておらず、Fivotが先行優位を築くことができると考えています。

ただし近接領域として、既に発生している売掛債権を買い取ることで資金提供を行うファクタリングサービスが存在し、上場企業やスタートアップがひしめく熾烈な競合環境となっています。将来的にはこの領域のプレイヤーがRBF領域に進出してくることも想定されます。しかし、そもそもRBFの市場が大きいため複数社の共存が可能であり、さらに先行優位を築いておくことで一定のシェアを確保できると考えています。

経営陣

Angel BridgeがFivotに投資するにあたり、経営陣への理解を深めました。

代表の安部氏は一橋大学卒業後、メリルリンチ日本証券で経験を積んでいます。投資銀行部門の中でも金融セクターを担当しており、金融や規制に関する知識は深く、銀行を変革することへのパッションと事業領域との強いフィットを感じました。

CFOである佐保氏もメリルリンチ出身です。両者相互の信頼も厚く、性格的には相互補完的な面もあり、このチームなら最後まで事業をやりきることができるだろうと考えています。

また、その他のチームメンバーへのインタビューからもマネジメントの二人がチームに信頼されていること、マネジメント二人の間の信頼関係が強いことを確認することができました。メリルリンチ時代の同僚へのインタビューでは二人の前職での評価の高さ、コンビネーションの良さを確認できました。

経営陣

トラクション

トラクションとしては、すでに多数のRBF実施実績があり、対象企業にはSaaS, D2C企業が含まれていました。また、RBF利用の具体的な相談を受けている企業のパイプラインが大量に積みあがっており、RBFを提供する原資さえあれば急速に拡大できる状況でした。企業がRBFで借り入れる資金の使い道としては採用、商品の仕入れ、広告などが挙げられます。ベンチャー企業の先行投資資金として、RBFには強いニーズがあると考えられます。

おわりに

海外ではすでにポテンシャルが示されているRBFという事業領域、その事業領域とフィットしている経営陣など、Fivotにはメガベンチャーになる要素が詰まっていると考えています。

Angel Bridgeは社会に大きなインパクトをもたらすために、あえて難しいことに挑戦していくベンチャーこそ応援しがいがあると考えており、こういった領域に果敢に取り組むベンチャーを応援していきたいです事業の壁打ちや資金調達のご相談など、お気軽にご連絡ください!