2022.10.26 INTERVIEW

7回のピボットを経て見つけたサービスの可能性

まずはプレカルの事業内容をご紹介いただけますか?

大須賀:端的に申し上げるとプレカルは薬局のDXを支援する企業です。専任の事務スタッフがいない薬局では、多くの場合、薬剤師自身が事務作業を担っています。プレカルが目指すのは、業務効率化を通じて薬剤師にしかできない、調剤業務や患者さんへの服薬指導に専念していただく環境を整えること。現在はその手始めとして、オンラインによる処方箋の入力代行サービス「precal(プレカル)」を提供しています。

7回のピボットを経て見つけたサービスの可能性

処方箋の入力代行とは、具体的にはどのようなサービスなのですか?

大須賀:受付時にスキャンした処方箋データを遠隔地にいるスタッフがオンラインで受け取り、40項目以上ある処方箋情報をわずか数分で入力。薬局のタブレットに送信するサービスです。健康保険組合などへの請求に必要なレセプトコンピュータへの入力、患者さんの薬歴管理、お薬と同時に患者さんにお渡しする書類の印刷まで、一通りの事務作業が自動化できるので、薬局業務の作業効率化にお役立ていただいています。

precalに類似するサービスはあるのでしょうか?

大須賀:OCRと呼ばれる光学式の自動文字認識技術を活用したサービスは複数ありますが、訓練された専任スタッフに比べると、どうしても認識精度が劣るのが現状です。むろんprecalもOCR技術を一部利用し、入力スピードの向上を図っていますが、最終的なチェックは人間の目を通して精度を担保しているため、入力精度とスピードの両立が可能となっています。

大須賀さんは薬剤師資格をお持ちで、薬局を経営されていたそうですね。なぜサービス開発を手掛けようと思われたのですか?

大須賀:もともとは自分たちで使うシステムを作るために、プログラミングを覚えWebシステムの内製化にチャレンジしたのがきっかけではあったのですが、時間が経つにつれ薬局業界を変えるサービスを提供したいという思いが強まり、薬局経営からサービス開発に鞍替えする決断をしました。

最初から処方箋の入力代行サービスの開発に取り組まれたのですか?

大須賀:サービスの方向性を何度も見直して、ようやく見つけたのが現在の処方箋の入力代行サービスです。サービス開発にあたっては、不足していたビジネス知識を補うため、スタートアップアクセラレーターのOpen Network Lab(以下オンラボ)のプログラムに参加したのですが、なかなか事業の方向を定められませんでした。実際、プログラムへの参加から2、3日後には最初のピボット(路線変更)に踏みきり、都合7回の見直しを経て、ようやくいまのサービスに辿り着きました。

最初はどのような事業を想定されていたのでしょう?

大須賀:プログラムに参加したタイミングでは、薬局の比較サービスを作ろうとしていました。同じ薬でも調剤薬局ごとに価格が違うという事実を逆手に取り、より安く薬を処方してくれる薬局の情報を世間に知らしめれば、多くの方に喜んでいただけるだろうと考えたのですが、メンターの方からいただいたもっともなご指摘で諦めました。事業化の根拠としては浅はかだったと悟ったからです。

どんな指摘だったのですか?

大須賀:そもそも薬局によって薬の値段が違うといってもその差はごくわずかに過ぎません。本当に患者はこのサービスを求めているのか、また、すでに価格を抑えて薬を処方している薬局が果たしてサービスに魅力を感じ利用料を支払ってくれるのか、甚だ疑問というご指摘でした。

その指摘を受けてどうされましたか?

大須賀:これまで私たちがどれだけ、自分たちが作りたいもの、作れるものだけに捕らわれていたのだと思い至り反省しました。それ以来、私たちは薬局のスタッフ、患者さんの双方に必要とされるサービスを見つけるため、100店舗以上の薬局を訪ね歩き、アンケートやヒアリングを通して検証を重ねました。自分たちが立てた仮説や課題設定が正しいかどうかは、想定される利用者の声に耳を傾けるまで分からないと痛感したからです。

処方箋の入力代行にした決め手は何だったのですか?

大須賀:私たちを担当してくれたメンターの方から、オンラボ卒業生でもあるSmartHRさんは11回のピボットを経てようやく進むべき道を見つけたと聞きました。その話のなかで、当事者の方々にサービスの内容をお話して、5人連続で「使いたい」「ほしい」と言っていただけるサービスには見込みがあると聞き、愚直に仮説検証を繰り返した結果、唯一この条件をクリアしたのが処方箋の入力代行だったんです。

謙虚になれたからこそ見つけられた提供価値

サービスの立ち上げにあたってはどんな苦労がありましたか?

大須賀:そもそも、オンラボに参加したばかりのころはスタートアップ界隈では当たり前に使われている言葉すら知らない状態からのスタートでしたから、たとえば「ピボット」とか「グロース」とか言われても何のことかさっぱり分かりません。最初のころはメンターや同期の話にもなかなかついていけず戸惑ったのですが、いまにして思えば自分たちの未熟さを痛感させられた経験が、かえって良い結果につながったのではないかと思うことがあります。

なぜそう思われるのですか?

大須賀:自分たちはビジネスの初心者だと謙虚な気持ちになれたからです。私を含め当時のメンバー全員、薬剤師経験者でしたから、薬局の実務はもちろん、薬剤師の悩みも知り尽くしているつもりでした。しかし実際は、個人経営の薬局で働く薬剤師と大手チェーン店で働く薬剤師では働く環境も業務上の悩みも異なります。つまり同じ薬局というカテゴリーのなかでも、事業のセグメントによってフォーカスすべき課題は違うわけです。井の中の蛙のままでいたらサービスを立ち上げることすら難しかったかもしれないと思うと、最初の戸惑いにも意味があったんだなと思わずにはいられません。

Angel Bridgeとの出会いについて教えてください。

大須賀:確か2021年の1月ごろだったと思います。Angel Bridgeさんにはオンラボさん経由でお声がけいただき、お会いしたのが最初でしたね。

林:そうでした。私たちは日々、データベースやメディアなどを通じて有望な事業家を探しています。ここ数年、店舗DXに取り組むスタートアップが増えていますが、薬局をターゲットにしている起業家はまだ多くありません。代表の大須賀さんご自身、薬剤師資格をお持ちできっと業界のペインにも精通していらっしゃるはず。サービスに秘められたポテンシャルにも興味を惹かれたので面会を申し込みました。

謙虚になれたからこそ見つけられた提供価値

初対面の印象を聞かせてください。

林:印象的だったのは、とても精緻にビジネスを組み立てようとされている姿勢でした。資金調達について考える前に、いまはまだサービスのユニットエコノミクス、つまり事業の経済性に目処を付けなければならない段階なので具体的な話は待ってほしいと言われ、事業に対してとても真摯な起業家だと感じたのを覚えています。

大須賀:お声がけいただいた当時は、まだ安定したサービスを届けるための体制作りの真っ最中で、どうすれば作業効率を上げつつ採算が取れるか試行錯誤していたところでしたから、林さんをはじめAngel Bridgeの皆さんからの示唆に富んだアドバイスは、とてもありがたかったです。

林:そう言っていただけるのは、こちらとしても本望です。投資を実行する直前、改めてprecalのデモを見せてもらったのですが、処方箋の入力がわずか1分程度で終わるのを見て、これが全国に6万店舗ある薬局の大部分に導入されたら、どれだけ大きな社会的インパクトを起こせるのだろうかとさらに期待が膨らみました。日本国内で処方箋の年間発行数はおよそ8.4億枚にのぼるそうですね。

大須賀:その通りです。

林:サービスとしてのprecalはもちろん、プレカルを率いる大須賀さんにもこれだけの大きな市場を相手にするだけのポテンシャルを感じるからこそ、ぜひ資金の面からもプレカルさんを応援すべきだと考え、投資させていただいたんです。

課題検証は泥臭くとも丁寧に取り組む。それが未来を拓くカギ

資金調達以降、Angel Bridgeとはどのようなお付き合いをされていますか?

大須賀:定例ミーティング以外では、Angel Bridgeさんの投資先が集まる異業種勉強会を通じて、先輩起業家の皆さんにお引き合わせいただいたり、正しい経営数字のまとめ方や経営資料作りのイロハをご指導いただいたりするなど、きめ細やかなご支援をいただいています。最近はフットサルやゴルフにお誘いいただくこともあるので、文字通り公私にわたるお付き合いをさせていただいています。

林:大須賀さんは新しいこと、未知の事柄に対しても柔軟に対応してくださいます。打てば響くと言うと僭越ですが、実際、優れた経営者の素養をお持ちの方だと感じるので、こちらとしても提案やお誘いしがいがあるんです。

大須賀:私自身、経営者としてはまだまだだと思っているので、多岐にわたるご支援にはとても感謝しています。おかげさまで、ここ数カ月、定例会の場で以前より議論に集中できるようになったのも林さんをはじめAngel Bridgeさんのサポートがあったからこそ。日々学ばせていただいています。

Angel Bridgeは今後、プレカルにどのような支援を提供されていきますか?

林:引き続き経営面、事業面でのご支援を続けながら今後はドラッグストアチェーンのご紹介など、営業面からも積極的な支援ができたらと思っています。

大須賀:ありがとうございます。ドラッグストアチェーンと接点をお持ちのベンチャーキャピタルは非常に貴重です。いまちょうどプロダクトの大幅なアップデートに取り組んでいるところなので、それに目処が付き次第、改めて営業に力を入れていくつもりです。改めてご支援のほどよろしくお願いします。

林:もちろんです。一緒に頑張って参りましょう。

大須賀さんは、これからプレカルをどんな会社にしていきたいですか?

大須賀:薬局で行われている事務作業は処方箋入力だけではありません。保険請求業務や薬品の在庫管理、スタッフの雇用回りを含めると膨大な数にのぼります。ゆくゆくはこうした煩雑で時間を要する事務作業から薬局を解放したいですし、将来的には薬局内に蓄積されたままになっている処方箋データを活用した新サービスを立ち上げ、社会に還元できたらと思っています。

現時点では、どんな新サービスを構想されているのですか?

大須賀:たとえば薬の処方データと製薬会社が持つデータを掛け合わせれば、これまで有効な治療薬がなかった希少疾患向けの創薬に弾みを付けられるかもしれません。少し先の話になりますが、患者さんに近い立場にある薬局を起点としたデータビジネスの創出を視野に入れつつ、当面はprecalの普及に努めていくつもりです。

林:少子高齢化で勢いの衰えばかりが目立つ日本ですが、そんな時代だからこそプレカルさんのようなスタートアップが求められるのだとつくづく感じます。Angel Bridgeの理想は、資金提供だけでなくハンズオン支援を通じて世界に誇れるメガベンチャーを生み出すこと。プレカルさんとは今後も一緒に夢の実現に向けて頑張っていきたいですね。

課題検証は泥臭くとも丁寧に取り組む。それが未来を拓くカギ

大須賀さん、最後に後進の起業家にメッセージをお願いします。

大須賀:自分たちが成し遂げようとしているビジネスが、本当に世の中の役に立つかどうかは、客観的な事実を積み重ねた先にしかありません。視点を変えながら想定されるユーザーに何度もインタビューしたり、アンケートを取ったりしてようやくその片鱗が見えてくるものだからです。実際、私自身の経験からも検証してみなければ気付けなかったことが少なくありませんでした。価値あるサービスを作りたければ、課題検証は丁寧に取り組む。こればかりは避けられないプロセスだというのが正直な実感です。もちろん林さんのように、ビジネスに精通した投資家や先達の起業家の力を借りるのも有効な手立てなのは間違いありません。ビジネスに優れた知見を持つ方と知り合えたら好機と思い、恐れず自分の考えをぶつけてみるのもお勧めです。泥臭い検証作業を厭わず、有識者からの助言に耳を傾ける気持ち、そして変化を恐れず行動する勇気さえあればきっと道は開ける。私はそう思います。

2022.10.17 ACADEMY

前回のスタートアップアカデミー#3では、VCが投資検討時にベンチャーをどのような視点で見ているのかをご紹介しました。スタートアップアカデミー#3

今回はステージを大きく前に進めて、ベンチャー企業がIPOに向けて準備すべきこと、またその際に陥りがちな落とし穴について解説します。

起業家にとってIPOは初めての経験であることが多いのに対して、多くのVCは投資先のIPOを経験しています。そのため、起業家は経験のあるVCに頼ることで比較的スムーズにIPO準備を進めることができます。Angel Bridgeも投資先ベンチャー企業のIPO準備の際には多方面で手厚い支援を行っています。

まずは全体のプロセスの理解から始めましょう。IPO準備は大きく社内業務と社外業務に分けることができます。社内業務には「IPO準備チームの立ち上げ」「ガバナンス体制の構築」「事業計画構築」「エクイティストーリー構築」が挙げられます。社外業務には「監査法人の選定」「主幹事証券の選定」が挙げられます。IPO準備の期間にはそれぞれの業務を同時並行的に進めていかなければなりません。

スタートアップアカデミー#4 ※Angel Bridge作成

時間軸はIPO申請期をN期として、そこから1期さかのぼるごとにN-1期、N-2期…と数えます。N-1期は直前期と呼ばれ、上場企業と同程度のコーポレート・ガバナンスでの企業運営が求められます。N-2期はN-1期のための準備期間です。この間に内部管理体制を整備し、N-1期に備えなければなりません。そしてそのための体制の土台づくりをN-3期で行います。

では、それぞれの業務についてどのような流れで進めていくのか、そしてその際に陥りがちな落とし穴について解説していきます。
IPO準備チームの立ち上げ
IPO準備にかかる業務は多岐にわたるため、N-3期には「IPO準備チーム」の立ち上げが必要になります。通常はCFOが最高責任者となり、IPOに関する業務の舵取りを行います。IPOにおけるCFOと管理部長の役割は異なっており、求められるスキルは異なります。Angel Bridgeとしてはそれぞれの役職に異なる人物を採用することをお勧めしています。
どちらの選任も非常に重要で、ここでの失敗はIPOの落とし穴となります。適切な人材を選任できなければ、IPOに大きな影響が出てしまいます。多くのベンチャー企業では、最初からCFOや管理部長がいることはないため、新たに採用する必要があります。どちらの役職も非常に専門性が高く、経験豊富なことが不可欠です。それぞれの役職の特性について解説します。
CFO

CFOの役割は社外業務が主となります。証券会社・監査法人とのコミュニケーションや開示資料の作成、資金調達を行います。メガベンチャーを目指すのであれば、CFOを採用するにあたって望ましい経歴として外資系証券会社の投資銀行部門・プライベートエクイティファンドが挙げられます。投資銀行は企業の株式や証券、債券の発行やM&Aの際に支援やアドバイスをすることが主な業務です。企業の資金調達を支援するという点でCFOの業務と深く関連しています。プライベートエクイティファンドでは企業に投資し、さらに投資先企業に入り込んで企業価値を上げるべく支援します。彼ら自身、投資家としての経験があるので、ベンチャー企業に入ってCFOとして資金調達を行う際も投資家の立場を理解して動くことができます。

管理部長

一方の管理部長は社内業務が主となります。IPOに向けて実際に社内の体制を整えていくのが管理部長の役割で、内部統制の整備やガバナンス体制の構築、監査業務を主に行います。監査法人出身で監査業務に精通する人物を採用するのがベストです。

繰り返しになりますが、資金調達、IPOを行うベンチャー企業にとってCFO・管理部長の採用はとても重要です。そのためAngel BridgeではIPO支援の一環として、CFO・管理部長の採用支援を行っています。
ガバナンス体制の構築
IPOするためにはガバナンス体制の構築が必須です。ガバナンス体制は「規程類の整備」「機関設計」「内部監査の実施」の3つに分けられます。今回は「規程類の整備」の中でも特に落とし穴となりやすい「労務規程」と「反社会勢力規程」について触れたいと思います。IPO上問題となる労務リスクの中でも特に未払い残業問題は最重要です。もし、ここで問題が発生した場合は精算までIPO審査が止まってしまいます。次に反社checkですが、経営陣、株主、取引先に至るまで反社会勢力との関係を一切絶たなければなりません。Angel BridgeとしてはIPO準備前から、株主や取引先について反社checkを行う体制を整えておくことをおすすめします。
事業計画構築/予実管理
IPOの際は3~5年先を見据えた中期事業計画が審査の対象となります。この事業計画が信頼されるに足ると証明するためには、適切な予実管理が必須になります。上場企業は決算において予算計画と実績の乖離が大きい場合は、その内容の開示が求められますが、IPO準備企業においてもそれと同等の水準が求められます。ここも落とし穴になりがちで、もし予実対比が大きくかけ離れてしまうと、投資家や市場に悪影響を与える可能性があると考えられ、上場できなくなってしまいます。自社のビジネスモデルや市場、リスクを考えたうえでの適切な予実管理が必要です。
Angel Bridgeは普段から投資先企業と定例会を行い、会社の羅針盤となるKPIの設計や、それを活用してPDCAサイクルを回す体制構築の支援をしています。これは正しく会社の経営をするために必要なことであると同時に、IPO準備の観点でも取締役会の運営や予実管理に結び付いています。
エクイティストーリーの構築
エクイティストーリーとは、投資家に向けて企業の強みや成長戦略をわかりやすく伝えるためのストーリーです。東京証券取引所のグロース市場では以下のような項目の開示が求められます。

エクイティストーリーの構築 出典:経済産業省「スタートアップの成長に向けたファイナンスに関するガイダンス」
優れたエクイティストーリーとは

優れたエクイティストーリーとは、投資家が期待して出資したくなるように事業を魅力的に伝えながら、実現できる説得力を持ったものです。説得力のあるエクイティストーリーを構築することが投資家からの高評価、ひいては高いvaluationにつながります。また、そのようなエクイティストーリーを構築することは経営者自身が自社の強みを自覚し、中長期の成長戦略を考える上でも重要です。

優れたエクイティストーリー構築における重要なポイント

企業によって事業を魅力的に伝えるために強調するポイントは異なりますが、今回は不可欠な3点を挙げたいと思います。一つ目は「参入市場(TAM)が大きいこと」ということ、二つ目は「足元で安定した成長をしている」ということ、そして三つめは「将来的に事業が急成長・グロースする可能性がある」ということです。この3点をはっきり示すことで、投資家も投資しやすくなります。わかりやすい図を用いることも説得力を高めるために必要になります。今回は、実際にAngel BridgeがIPO支援を行った株式会社オンデックを例にとって解説します。オンデックは2020年12月にIPOを果たした、国内中小企業を対象としたM&A仲介事業を行う企業です。Angel BridgeはIPOの約2年前に投資しています。IPO準備時にはエクイティストーリーのブラッシュアップを支援しました。

以下の図ではオンデックの参入する国内M&A市場が大きいこと、そしてそれが将来的に拡張していくことをわかりやすく伝えています。

エクイティストーリーの構築 出典:新株式発行並びに株式売出届出目論見書の訂正事項分 株式会社オンデック

また、中長期の成長戦略として、「大阪ではすでにM&A仲介業者として地位を築いており、堅調な成長をしている」という足元の安定した成長性を示しつつ、「東京やその他全国の国内企業へのターゲットの拡大」と「開発中のM&Aプラットフォーム構築による潜在顧客の獲得」という2点で事業のグロースの可能性を示しました。

エクイティストーリーの構築 出典:株式会社オンデック 2020年11月期決算説明資料

監査法人の選定
IPOには監査法人による監査証明が必須となっています。そしてそれはN-1期(直前期)だけではなくN-2期も必要です。そのためには、N-3期までに監査法人に接触してショートレビューを受けなければいけません。
金融庁の2020年の資料によると、現在IPOを希望する企業は増加傾向にあるのに対して、監査法人の数はそれほど増えていません。このため監査法人側が監査対象とするベンチャーを選定する立場にあり、「IPOを目指したいのに監査法人が見つからない」といういわゆる監査法人難民企業が増えています。このため、IPOを希望する経営者は監査法人へ適切な時期に適切なルートで適切にコミュニケーションすることが大切です。
主幹事証券会社の選定
幹事証券会社はIPOの際に企業が発行する株式を投資家に販売する役割を担います。複数ある証券会社の中でリーダーを務めるのが主幹事証券会社です。主幹事証券会社は投資家への株式の販売だけでなく、IPOスケジュールの策定やIPO申請書類の作成支援、また事業面でのサポートも積極的に行います。原則的には、N-2期に主幹事証券会社を選定します。
選定する際のポイント

一度主幹事証券会社を決めてしまうと簡単には変更できません。Angel Bridgeでは複数の証券会社に提案書をプレゼンしてもらい、それらを比較したうえで決定することをおすすめしています。提案書の見るべきポイントとしては、「アサインされたチーム」と「エクイティストーリー」です。

アサインされたチームの質が良いかどうか、上の役職の人を巻き込めているかなどで証券会社の本気度がわかります。本気度によっては、ファイナンス面だけでなく事業面でのシナジーあるサポートを期待することができ、自社の事業成長にもつなげることができます。

提案されたエクイティストーリーに説得力があるかどうかで、証券会社の事業への理解度がわかります。自社の事業をよく理解している証券会社に、事業内容と成長戦略を適切に投資家に伝えてもらうことは、投資家から高い評価を受ける上で重要です。また、事業への理解度が高い証券会社の方がIPO後のIRやファイナンス支援もより質の高いものを期待できます。

共同主幹事

主幹事を複数の証券会社に引き受けてもらうことを共同主幹事といいます。共同主幹事でのIPOは、IPO準備企業側にとってのメリットが大きく、IPO時の想定時価総額にもよりますが可能であれば共同主幹事にしたほうが良いとAngel Bridgeは考えています。メリットとしては「複数の証券会社の強みを活かすことができる」「複数の証券会社が競い合い、投資家により高く株式を売ろうというインセンティブが働く」という2点が挙げられます。一方でCFOは両社とのやり取りが発生するため業務負担が大きくなってしまうというデメリットもあります。

今回は企業がIPOする際にやるべきことと、その際に陥りがちな落とし穴について解説しました。冒頭でも述べましたが起業家の皆さんにとっては、IPO準備が初めての経験であることが多く、経験が豊富なVCに頼ることが大切です。

Angel BridgeはIPO人材の採用、監査法人の選定、主幹事証券会社の選定、エクイティストーリーの構築など投資先ベンチャー企業のIPOを強力にサポートしています。事業の壁打ちや資金調達のご相談など、お気軽にご連絡ください!

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