2023.12.18 INTERVIEW
医療現場の効率化を実現する機器管理システムに加え、新たなツールをリリース予定
HITOTSUの事業内容や競合状況を教えてください。
田村:医療業界の旧態依然とした業務を効率化し、医療従事者が本来の仕事に向き合えるプロダクトを展開しています。現在は臨床工学技士が使用する医療機器のデータ管理や点検、修理業務などを管理する『HITOTSU Asset』というクラウド型のシステムを提供しています。
医療機器管理システムの競合は存在しますが、HITOTSUは医療現場に寄り添ったUI・UXが強みです。私自身が臨床工学技士としての実務経験があり、その経験をベースにシステム開発を行っています。クラウド型のサービスであるため、日々システムのupdateをしたり、インターネットを経由してPMDA(独立行政法人 医薬品医療機器総合機構)が発出する回収情報や添付文書にタイムリーかつスムーズにアクセスできたり、外部の取引先などとやり取りができる点も特徴です。
佐藤:2024年1月には、医療施設と外部の企業とのコミュニケーションを効率化するためのコミュニケーションツールをリリース予定です。
本サービスは、病院と取引のあるメーカーや卸の企業、院内の臨床工学技士や看護師、管理課などを巻き込んで、医療現場の業務効率化を進めていきます。こちらのツールにおいては、医療業界に特化した特筆すべき競合プレイヤーはいません。
HITOTSUの強みはどこにあるとお考えですか?
田村:現場から評価いただいているポイントは、システム内に設置したチャットボットから病院側が質問や要望をコメントでき、カスタマーサポートチームがすぐに確認してシステムの改善サイクルに活かしていることです。要望にスムーズに応えることができる開発体制は大きな強みです。
佐藤:根源的な強みは、経営陣が三者三様の強みをもっていることだと思っています。創業者であり取締役会長の田村は医療現場をよく知っている。代表取締役CEOの私はヘルスケア領域での長い経営コンサルティング経験とベンチャー経営に関わった経験がある。もう1名のCTOの宮は、金融機関の基幹システムに携わった経験からセキュリティに強みをもち、UIに優れたサービスを提供する企業でテックリードの経験もある。経営陣3名がそれぞれの強みを活かし、互いを尊重しあっている関係性がHITOTSUのあらゆる強みに繋がっていると思います。
起業の理由は、医療現場の非効率な現状を変えたかったから
田村さんがHITOTSUを創業した経緯を教えてください。
田村:私は大阪の総合病院で臨床工学技士として7年間医療現場に携わったのですが、そのときに、医療従事者や医療機器業界に関わる人々が、非効率な業務によって疲弊している現状を知ったのです。医療機器をExcelや紙で管理していたり、外部とのやり取りは基本的に電話だったりする。医療従事者が本来注力すべきである、患者さんの対応以外の部分に時間を取られていました。
こうした課題は外部からはわからず、臨床工学技士にしか気づけない。それならば課題に気づいた自分が変えていくべきだと考え、HITOTSUの起業に至りました。
事業運営をしていく中で、特に大切にされていることを教えてください。
田村:仲間づくりです。起業したときは私1人しかいない状況から、約1年前に宮・佐藤が次いで入社したことで会社としての屋台骨ができて、開発・事業ともに大きく前進し、他のメンバー達も入社してくれて今や正社員で16名にまで拡大しました。一緒に働く仲間選びは非常に慎重に行いました。
仲間づくりをする上で大事にしてきたのは、HITOTSUがどんな事業をしていて、何を成し遂げたいのかをリアルに伝えることです。
まだその芽は見えないが、将来大きくなる ”匂い” のするアーリースタートアップで経営に携わりたかった
佐藤さんのご経歴や、HITOTSUに入社した経緯を教えてください。
佐藤:大学・修士課程ではアルツハイマー病の研究をしており、ヘルスケアや医療分野に強い興味をもっていました。卒業後は日系の保険会社でアクチュアリー(保険数理の専門職)業務を経験した後、ボストンコンサルティンググループ(以下BCG)に転職。製薬企業、医療機器メーカー、医療機関などへのコンサルティングに従事し、プロジェクトリーダーという所謂マネージャーの経験までさせていただきました。その後、バイオベンチャーにCOOとして入社し、その後CEOを務めました。
そして、そのバイオベンチャー時代に一緒に働いたHITOTSUの古くからの株主に誘われたことをきっかけに、2022年11月にHITOTSUにCOOとしてジョインし、2023年12月14日からCEOを務めることになりました。
HITOTSUに入社するとき、重視したことを教えてください。
佐藤:HITOTSUに入社を決めた理由は三つあります。
一つはスタートアップ経営に携われること。前職のバイオベンチャーでスタートアップ経営の面白さを体感し、自分に適性があると感じたからです。
ミッションとビジョンの実現に向けてチーム一丸となり取り組むこと、スピードとコミットメントとプロダクト愛の三つでエッジを立てて、社会にインパクトを生み出すことが非常に面白いと感じていました。
二つめは片手で数えられるくらいの人数しかいないアーリースタートアップに入社することです。スタートアップは人がすべてなので、早く入社できればその後のメンバーの採用に関われるため、いいチームを作れると考えました。
三つめは、何か将来伸びるのではないかという匂いを感じたからです。HITOTSUは医療現場のデータをもっていて、臨床工学技士さんとの接点がある。この点を生かして、医療現場の声を聞いていけば、今はまだ大きく跳ねる出口が見えていなくても、何か見つけられるのではないかと直感しました。
HITOTSUへの入社は、話を聞いてすぐに決意されたのでしょうか?
佐藤:きっかけは、HITOTSUに投資いただいているベンチャーキャピタルの方から、「プレA資金調達を終えたHITOTSUというヘルスケアスタートアップがCOOを探している」と声掛けいただいたことでした。COOに求める要件は、大きな戦略が描けて、パッションに溢れていること。ヘルスケア領域の経験があればさらに良いとのことでした。「佐藤さんしかいないでしょ?」とお声がけいただき、その日に田村とメッセンジャーで繋がりました。
田村:投資家の方から佐藤の事前情報を聞いたときに「HITOTSUが求めているのは、この人だ」という運命的なものを感じ、ワクワクして面談したのを覚えています。
さっそくその日にオンラインで、医療業界の課題や想いを伝えたところ、非常に盛り上がって1時間半ほど話しました。そこで「今度飲みに行きませんか?」と誘ったんです。
お互いにスケジュールを確認したら当日の夜が二人とも空いていたので、新宿のイタリアンの店で待ち合わせました。CTOの宮もオンラインで参加し、そこでも2時間くらい話し込んだんです。佐藤に対しては、能力はもちろんのこと、この人なら任せられるし、つらい時もやっていけるという印象をもちました。
佐藤:田村の第一印象は、自分が経験した社会課題の解決に全身全霊でエネルギーを注いでいる人だと思いました。課題を感じていても起業というリスクを取れる人はなかなかいません。そこにポンと踏み込む度胸にも惹かれました。
そして、田村がもっていないビジネス経験は私が補える。一緒にやれたら面白いんじゃないかと感じ、HITOTSUへのジョインを決めました。
CEOの交代が、事業を最大化するための最善の選択だった
CEOを田村さんから佐藤さんへと交代する背景を教えてください。
田村:CEO交代という最終着地は、私にもHITOTSUにとっても、非常にいい意思決定でした。私は医療現場の課題を知っているからこそ、解決したいという強い想いがあります。
しかし、事業が広がっていく中で、私が経験のない事業戦略のウェイトがどんどん大きくなり、自分の実行力とのギャップを感じ始めていました。
佐藤とディスカッションを重ねていく中で、「人にはそれぞれ強みがあり、強みを発揮できる場所がそれぞれにある」という言葉を聞いたときに、非常に腹落ちしたと同時に救われた気持ちになりました。
強い使命感をもってこれまでやってきましたが、よく考えればHITOTSUには私以外にも優秀なメンバーがいるわけです。このタイミングで佐藤にCEOというバトンをパスするのがHITOTSUの事業成長を最大化するのに最適であると決意しました。この「事業成長の最大化」というのは経営メンバー3人で合言葉にしているフレーズです。
CEO交代の話があったときに、佐藤さんはどう感じましたか?
佐藤:田村の医療現場での実体験は、今となっては事業戦略の一部なので、田村がキャップになってしまうと会社としての成長も止まってしまいます。会社を非連続的に成長させるためには、CEOを変えるべきだと私も思っていました。
ただ、創業者として自分がやり続けるという意思決定も十分にありえることです。しかし、最終的には事業を最大化するための意思決定をするという合意ができ、CEOを交代することになりました。自分の立場のためでなく、会社が社会課題を解決するために意思決定をした田村は素晴らしいと思いました。
Angel Bridgeの強みは、ファイナンスとベンチャー投資に強いツートップとコンサルファーム出身のメンバー
Angel Bridgeは、他のVCとどのような違いがありますか?
佐藤:投資の検討段階から非常に密なやり取りをさせていただきました。他のベンチャーキャピタルと比較した特徴として、会社の座組が非常にいいと思っています。TOPのお二人がそれぞれファイナンスとベンチャー投資という専門知識をお持ちで、メンバーの方はコンサルファーム出身で、事業戦略や分析に長けています。そのため、土地勘の無い事業でも、この会社は投資に値するかというジャッジを精度高く実行されている印象です。
Angel Bridgeメンバーにどのような印象をお持ちですか?
佐藤:担当の八尾さんは、我々の生命線となるような事業戦略について深く質問してくださって、ディスカッションを通して我々の戦略もブラッシュアップされていきました。コンサルとVCの経験をお持ちであることが非常に心強かったです。また、DDのプロセスで本当にハンズオンで伴走してくれることを感じました。
Angel Bridgeに対して、どのようなことを期待していますか?
佐藤:八尾さんにはスキルセットという貢献をしていただいたので、今後は林さんから業界のキーパーソンを紹介いただき、さまざまな会社さんにアプローチしてパートナーシップを広げていけたらと思っています。もう1つは採用支援ですね。アーリースタートアップは本当に「人が全て」ですので。
業界のエキスパートとプロのビジネスマンという最強のコンビネーション
HITOTSUへ投資するに至った経緯を振り返ってください。
八尾:オンラインでさまざまな会社を調べていたところ、医療機器管理の領域のサービスを展開しているHITOTSUを見つけました。海外で類似の企業を見たことがありポテンシャルを感じて、既存の投資家さん経由でコンタクトをとりました。2023年8月に佐藤さんと面談をして何度かお話しするうちに10月頃から本格的に投資を検討することになりました。
投資に至った大きな柱は経営陣です。やり取りする中で、佐藤さんは非常に優秀な方だと感じました。議論の内容が非常に的確で、質問したときのレスポンスの速さや返答のクオリティが尋常ではありませんでした。将来的な展開まで見据え、本当に深く事業について考えられているのだなと実感しました。
さらに、創業者である田村さんが臨床工学技士を経験した業界のエキスパートである点も大きな強みです。営業の現場において、臨床工学技士を経験された立場として懐に入っていけますし、プロダクトの作りこみの観点でも現場を知り尽くした田村さんの経験が遺憾なく発揮されています。HITOTSUのビジネスモデルにおいては、業界のエキスパートとプロのビジネスマンというコンビネーションは最強だと考えました。
また、事業としての広がりも感じています。祖業である医療機器管理にはじまり、コミュニケーションツールへの展開が実現すれば、その先にはさまざまな事業展開が想像でき、メガベンチャーのポテンシャルを感じました。
さらに、既存プロダクトがユーザーにしっかり評価されている点にも注目しました。導入後に満足度高く使っていただいていることが、コメントや数値面からわかりました。
これらを総合して、中長期的にお付き合いしたい会社であり、非常によい投資になるだろうと考えました。
田村さん、佐藤さんにどのような印象を持たれましたか?
林:私たちは投資の意思決定をするときに食事会をさせていただいています。そのときに佐藤さんの頭脳の明晰さとパッションを感じました。田村さんは地方に行って1日病院10件くらいを訪問し、様々な医療現場から生の声を聞くことを大事にしていて、素晴らしいと思いました。想いがあるから地道な活動を続けられるのだと思います。
八尾:CEO交代という意思決定はなかなかできることではありません。トラブルがあって交代することはあっても、会社の成長のために交代する決断をするという話はあまり聞いたことがありません。こうした意思決定をできる田村さんと任される佐藤さん2人の信頼関係を感じます。投資を決定する場合は経営者が大事だという想いをもっていますが、HITOTSUは素晴らしい経営陣が揃っていることが特筆すべき点です。
医療業界との接点とデータをテコにして、日本の医療の黒字化を目指す
HITOTSUの今後の展望について教えてください。
佐藤:医療機器管理を起点として、医療業界のアナログな業務を変えていきたいと考えています。我々のミッションは「日本の医療を黒字化する」という壮大なものです。しかし、クラウドやデータで医療業界が外部とつながることができれば、実現できるミッションだと考えています。
我々の強みである、医療業界との接点とデータをテコにして、ミッションを実現していきたいです。
Angel Bridgeとしては、今後どのようなサポートをしていきますか?
林:私たちは投資先の会社さまには、ヒト・モノ・カネという点で応援をしています。重要な役割やポジションの方の紹介や、事業面では課題解決のサポート、営業面では営業先や提携先の紹介などをしていきたいです。そして次回のファイナンスなどの準備もお手伝いしていきます。DDの過程でも、医療業界でネットワークをお持ちの方々に話を聞いたうえで、HITOTSUさんに投資を決めました。そういった方々とも連携する機会を提供できればと考えています。
変化を楽しめる、成長志向のあるチームプレイヤーにジョインしてほしい
HITOTSUでは採用を強化していくそうですが、どのような職種や経験の方を求めていますか?
佐藤:現在、正社員は16名ですが、1年後には40名まで拡大したいと考えています。特に求めている職種は三つあります。一つはエンジニアで、メンバーレベルからテックリード、VPoEクラスまで、幅広く募集しています。二つめはプロダクトを統括するプロダクトマネージャー、三つめは経営企画です。現在は私がCEO経営企画・経営管理ロールをやりながら、事業開発・カスタマーサクセスを統括しているため、経営企画・社長室として活躍できるコンサルティング経験のある若手メンバーを求めています。経営の根幹をCEOと共に担っていくポジションのため、さまざまな経験を通じてスキルアップができます。
求める人物像について教えてください。
佐藤:まずはチームプレイヤーであること。そして会社と個人両面での成長を主体的に目指せる人です。現状維持で業務をこなすのではなく成長志向のある人を求めています。そして、アーリースタートアップなので日々刻々と変化する状況を楽しめることも重要です。
HITOTSUは来年1月に新しいプロダクトのリリースを控え、ここから事業や組織がどんどん変化して大きくなっていくフェーズです。2ヶ月単位で違う会社になっていくような状況で今が一番面白い転換点なので、多くのメンバーにジョインしてほしいです。
2023.12.18 INVESTMENT
2023年12月、Angel Bridgeの投資先であるHITOTSU株式会社がA1ラウンドにて2億円の資金調達を発表しました。
HITOTSUは医療機器管理SaaSのHITOTSU AssetとコミュニケーションDXサービスのHITOTSU Linkを提供しております。前者は医療機器管理に関するペインを解決するプロダクトで、クラウドベースで院内のあらゆる機器・資産を一括管理・情報共有し、医療DXを実現します。後者は今回新たにリリースされる新サービスで、臨床工学技士と販売業者やメーカー間のコミュニケーションを効率化するプロダクトです。医療業界に特化したUIにより医療DXを実現します。
今回は、HITOTSUへAngel Bridgeが投資した理由を解説します。
医療機器業界の市場構造
医療機器はメーカーから販売業者を通して医療機関に提供され、医療機関内では臨床工学技士が点検、修理、在庫管理を担っています。メーカー(約600社)や販売業者(2,000社以上)は取り扱う医療機器の種類や地域で細分化され、中規模事業者が多数存在しており、SaaSによる効率化余地の残された市場となっています。
また、HITOTSUが最初のターゲットとしている臨床工学技士は病院内で23,000人が勤務しています。臨床工学技士は生命維持装置を取り扱う医療機器のスペシャリストで、病院内の医療機器やシステムに関して意思決定権を持っているケースも多いです。そんな重要度の高い臨床工学技士だからこそ、業務の効率化やコミュニケーションの接点を増やすことに高いニーズがあると考えています。
医療機器の管理業務における課題
現状は多くの場合アナログで非効率な方法で医療機器を管理しており、病院、臨床工学技士、販売業者それぞれにペインが存在しています。実際にこれらのペインは現場の声として、HITOTSUの導入事例の中で複数の病院から確認したほか、業界エキスパートへのヒアリングを通して販売業者側のペインも確認することができました。
病院のペイン
- 医療機器が院内のどこに何台あるかを把握できていない(把握するのに多くの工数がかかる)
- 医療機器の稼働率に基づいた保有台数の最適化ができていない
臨床工学技士のペイン
- 膨大な紙による事務作業で記入や管理などに工数を取られ業務がひっ迫している
- 販売業者やメーカーとはメール、FAX、口頭伝達など複数の手段でコミュニケーションが発生しており、効率悪化とトラブル発生の原因となっている
販売業者のペイン
- 他社販売業者との差別化として経営改善のアドバイスをしたいができることが少ない
- 臨床工学技士との接点が少なく、関係性を深めることが十分にできていない
HITOTSUはクラウド型の医療機器管理SaaSとコミュニケーションツールを提供しこれらのペインを解消します。
サービス概要
では、HITOTSUの提供するサービス内容をご紹介します。
HITOTSUは現在二つのプロダクトを展開しています。
① 医療機器管理SaaS HITOTSU Asset
医療機器の購買・管理・使用におけるアナログな事務作業を一つのツールで効率化します。特徴は3つあります。特徴1: クラウドならではの利便性
- あらゆる場所・端末からアクセス可能
- 強固なセキュリティ
特徴2: かゆい所に手が届き業務効率を劇的に改善
- 臨床工学技士の視点をもとに開発された豊富な機能
- 徹底的に磨きこんだUI(Chatbotを介した改善要望に基づき年間103回(2022年実績)もの改善活動を実施)
特徴3: 現場にとどまらず経営改善のインパクトを創出
②コミュニケーションDX HITOTSU Link
医療業界特化のコミュニケーションツールを提供し、業界課題である非効率なコミュニケーションを解決します。まずは臨床工学技士と販売業者間のコミュニケーションを効率化します。
特徴は3つあります。
特徴1: 情報共有の効率化
- グループに招待すれば過去のやり取りも閲覧可能で、引継ぎや新人教育に活用可能
- チャット形式のUIや既読機能でコミュニケーションが活発化、言った言わないのトラブルを削減できる
特徴2: 医療機器管理システムとの連携
- HITOTSU Asset 登録の機器管理番号をLink上で入力すると、自動でデータ連携。修理・見積依頼の煩わしさを大幅低減
- Link上でやり取りした電子ファイルが医療機器管理システムHITOTSU Assetにも自動連携
特徴3: 医療業界に特化した病院ならではの機能
業務日報、リマインダー、発注、入館管理など、医療業界フィットしたUIで提供することが可能
これらのプロダクトが本当にニーズに応えられているかどうかという観点で導入実績の精査を行いました。ローンチから間もないとは言え、初期の導入先においてしっかり活用されているかどうかは非常に重要なポイントだと考えています。個社ごとのアクティブ率や、非アクティブな先については背景にある定性的な状況についても詳しく理解を進めました。結果としてしっかりニーズを掴んだプロダクトであることが分かり、検討を進めることができました。
こういったプロダクトは、「業界標準プラットフォームをとれるかどうか」が成否を分けますが、そこに向けて今後の各種戦略が練り込まれており、投資意思決定に至りました。
競合
HITOTSU Assetの競合についてです。
まず下図の低価格だが利便性が低いカテゴリに属するものを見ていきます。
①Excel+紙、自作ソフトを利用するケース
最も多いのがこのケースです。外部コストはゼロに抑えられますが、実際には構築するのに人的コストがかかっているうえに、機能や使い勝手が良くなく、業務効率が低下しています。さらに担当技士の離職時にメンテナンスが困難でリスクが高いです。
②低価格クラウド
低価格のクラウドで提供されているものを活用している病院もあります。基本的には非専業のメーカーが他領域で作成したシステムを転用して提供しており、機能が不足しています。また、クラウド型ではありますが、UIも前時代的で使い勝手も良くないことが多く、安かろう悪かろうの状態になっています。
次に下図の利便性は高いが高価格なカテゴリに属するものを見ていきます。
③オンプレミス型で提供している中価格帯or高価格帯のサービス
オンプレミス型は高価だが使い勝手が悪いというところにペインが存在します。5年で500万-2,000万円の費用が掛かり、初期費用負担が重く、大規模病院でないと導入が難しい規模感です。機能が多すぎる、UIが悪いなどの理由で現場では使いこなせていないケースも多く存在します。
以上のように競合サービスは存在するものの、魅力的なサービスを提供できれば十分勝ち目のある市場だと捉えています。
実際にHITOTSUは低価格と利便性の高さを同時に達成できており、導入病院数も急速に増加しています。
経営陣
Angel BridgeがHITOTSUに投資するにあたり、経営チームへの理解を深めました。佐藤CEOは東京大学総合文化研究科広域科学専攻を修了。三井住友海上、ボストンコンサルティング(医療ヘルスケア領域を主に担当)、バイオベンチャーにてCEOを務めるなど経営経験豊富で、医療領域の知見も持ち合わせる稀有な人材です。また田村会長は臨床工学技士としての原体験を持ち、創業者としてビジョンを掲げてチームを率い、エキスパティーズをプロダクトに注入してきました。
業界のエキスパートである田村会長と経営経験豊富な佐藤CEOのコンビネーションはこの領域で事業展開していくにはこれ以上ない経営チームであると考えました。
まとめ
最後にAngel Bridgeの今回の投資のポイントを改めてまとめます。
1つはやはり経営陣の強みです。Angel BridgeではVertical SaaS業界を突破する秘訣は業界専門家と優れたビジネスマンのコンビネーションだと考えています。Verticalに勝負する上では非常に高い解像度でペインを理解することが重要、かつ営業面でも業界内部の人間であることは強みとなります。これらの観点で業界専門家が経営陣にいることが重要です。一方で業界専門家は必ずしもビジネスに明るいわけではありません。ニッチになってしまいがちなVerticalビジネスモデルで大きな構想を描いて事業を推進していくにはやはり優れたビジネスマンとタッグを組むことが重要だと考えています。HITOTSUはまさにこのコンビネーションが実現されており、非常に魅力的に感じたポイントでした。
2つ目は中長期的に強力なMoatを築けるビジネスモデルです。HITOTSUはVerticalにマルチプロダクトをすごいスピードで出していく構想を持っています。シングルプロダクトのベンチャーと比較して開発や営業などハードルは高いとは思うものの、それぞれの業界プレーヤに刺さるプロダクトを通じて巻き込み、エコシステムを構築し、利便性を一気に向上し・・・というサイクルが回り始めれば、結果としての非常に強い参入障壁を築くことができます。
結果としてHITOTSUには業界スタンダードとして高いペネトレーションを実現し、医療業界に変革をもたらしメガベンチャーとなるポテンシャルがあると考え、投資意思決定をしました。
今後はHITOTSUがビジョンを実現し医療業界にとって欠かせない存在となるために、Angel Bridgeとして全方位でご支援していきます。
Angel Bridgeは社会に大きなインパクトをもたらすために、難しいことに果敢に取り組むベンチャーを応援していきたいと考えています!事業戦略の壁打ちや資金調達のご相談など、お気軽にご連絡ください!
2023年12月、Angel Bridgeの投資先であるHITOTSU株式会社がA1ラウンドにて2億円の資金調達を発表しました。
HITOTSUは医療機器管理SaaSのHITOTSU AssetとコミュニケーションDXサービスのHITOTSU Linkを提供しております。前者は医療機器管理に関するペインを解決するプロダクトで、クラウドベースで院内のあらゆる機器・資産を一括管理・情報共有し、医療DXを実現します。後者は今回新たにリリースされる新サービスで、臨床工学技士と販売業者やメーカー間のコミュニケーションを効率化するプロダクトです。医療業界に特化したUIにより医療DXを実現します。
今回は、HITOTSUへAngel Bridgeが投資した理由を解説します。
医療機器業界の市場構造
医療機器はメーカーから販売業者を通して医療機関に提供され、医療機関内では臨床工学技士が点検、修理、在庫管理を担っています。メーカー(約600社)や販売業者(2,000社以上)は取り扱う医療機器の種類や地域で細分化され、中規模事業者が多数存在しており、SaaSによる効率化余地の残された市場となっています。
医療機器の管理業務における課題
現状は多くの場合アナログで非効率な方法で医療機器を管理しており、病院、臨床工学技士、販売業者それぞれにペインが存在しています。実際にこれらのペインは現場の声として、HITOTSUの導入事例の中で複数の病院から確認したほか、業界エキスパートへのヒアリングを通して販売業者側のペインも確認することができました。
病院のペイン
- 医療機器が院内のどこに何台あるかを把握できていない(把握するのに多くの工数がかかる)
- 医療機器の稼働率に基づいた保有台数の最適化ができていない
臨床工学技士のペイン
- 膨大な紙による事務作業で記入や管理などに工数を取られ業務がひっ迫している
- 販売業者やメーカーとはメール、FAX、口頭伝達など複数の手段でコミュニケーションが発生しており、効率悪化とトラブル発生の原因となっている
販売業者のペイン
- 他社販売業者との差別化として経営改善のアドバイスをしたいができることが少ない
- 臨床工学技士との接点が少なく、関係性を深めることが十分にできていない
HITOTSUはクラウド型の医療機器管理SaaSとコミュニケーションツールを提供しこれらのペインを解消します。
サービス概要
では、HITOTSUの提供するサービス内容をご紹介します。
HITOTSUは現在二つのプロダクトを展開しています。
① 医療機器管理SaaS HITOTSU Asset
- あらゆる場所・端末からアクセス可能
- 強固なセキュリティ
特徴2: かゆい所に手が届き業務効率を劇的に改善
- 臨床工学技士の視点をもとに開発された豊富な機能
- 徹底的に磨きこんだUI(Chatbotを介した改善要望に基づき年間103回(2022年実績)もの改善活動を実施)
特徴3: 現場にとどまらず経営改善のインパクトを創出
②コミュニケーションDX HITOTSU Link
医療業界特化のコミュニケーションツールを提供し、業界課題である非効率なコミュニケーションを解決します。まずは臨床工学技士と販売業者間のコミュニケーションを効率化します。
特徴は3つあります。
特徴1: 情報共有の効率化
- グループに招待すれば過去のやり取りも閲覧可能で、引継ぎや新人教育に活用可能
- チャット形式のUIや既読機能でコミュニケーションが活発化、言った言わないのトラブルを削減できる
特徴2: 医療機器管理システムとの連携
- HITOTSU Asset 登録の機器管理番号をLink上で入力すると、自動でデータ連携。修理・見積依頼の煩わしさを大幅低減
- Link上でやり取りした電子ファイルが医療機器管理システムHITOTSU Assetにも自動連携
特徴3: 医療業界に特化した病院ならではの機能
業務日報、リマインダー、発注、入館管理など、医療業界フィットしたUIで提供することが可能
これらのプロダクトが本当にニーズに応えられているかどうかという観点で導入実績の精査を行いました。ローンチから間もないとは言え、初期の導入先においてしっかり活用されているかどうかは非常に重要なポイントだと考えています。個社ごとのアクティブ率や、非アクティブな先については背景にある定性的な状況についても詳しく理解を進めました。結果としてしっかりニーズを掴んだプロダクトであることが分かり、検討を進めることができました。
こういったプロダクトは、「業界標準プラットフォームをとれるかどうか」が成否を分けますが、そこに向けて今後の各種戦略が練り込まれており、投資意思決定に至りました。
競合
HITOTSU Assetの競合についてです。
まず下図の低価格だが利便性が低いカテゴリに属するものを見ていきます。
①Excel+紙、自作ソフトを利用するケース
最も多いのがこのケースです。外部コストはゼロに抑えられますが、実際には構築するのに人的コストがかかっているうえに、機能や使い勝手が良くなく、業務効率が低下しています。さらに担当技士の離職時にメンテナンスが困難でリスクが高いです。
②低価格クラウド
低価格のクラウドで提供されているものを活用している病院もあります。基本的には非専業のメーカーが他領域で作成したシステムを転用して提供しており、機能が不足しています。また、クラウド型ではありますが、UIも前時代的で使い勝手も良くないことが多く、安かろう悪かろうの状態になっています。
次に下図の利便性は高いが高価格なカテゴリに属するものを見ていきます。
③オンプレミス型で提供している中価格帯or高価格帯のサービス
オンプレミス型は高価だが使い勝手が悪いというところにペインが存在します。5年で500万-2,000万円の費用が掛かり、初期費用負担が重く、大規模病院でないと導入が難しい規模感です。機能が多すぎる、UIが悪いなどの理由で現場では使いこなせていないケースも多く存在します。
以上のように競合サービスは存在するものの、魅力的なサービスを提供できれば十分勝ち目のある市場だと捉えています。
実際にHITOTSUは低価格と利便性の高さを同時に達成できており、導入病院数も急速に増加しています。
経営陣
Angel BridgeがHITOTSUに投資するにあたり、経営チームへの理解を深めました。佐藤CEOは東京大学総合文化研究科広域科学専攻を修了。三井住友海上、ボストンコンサルティング(医療ヘルスケア領域を主に担当)、バイオベンチャーにてCEOを務めるなど経営経験豊富で、医療領域の知見も持ち合わせる稀有な人材です。また田村会長は臨床工学技士としての原体験を持ち、創業者としてビジョンを掲げてチームを率い、エキスパティーズをプロダクトに注入してきました。
業界のエキスパートである田村会長と経営経験豊富な佐藤CEOのコンビネーションはこの領域で事業展開していくにはこれ以上ない経営チームであると考えました。
まとめ
最後にAngel Bridgeの今回の投資のポイントを改めてまとめます。
1つはやはり経営陣の強みです。Angel BridgeではVertical SaaS業界を突破する秘訣は業界専門家と優れたビジネスマンのコンビネーションだと考えています。Verticalに勝負する上では非常に高い解像度でペインを理解することが重要、かつ営業面でも業界内部の人間であることは強みとなります。これらの観点で業界専門家が経営陣にいることが重要です。一方で業界専門家は必ずしもビジネスに明るいわけではありません。ニッチになってしまいがちなVerticalビジネスモデルで大きな構想を描いて事業を推進していくにはやはり優れたビジネスマンとタッグを組むことが重要だと考えています。HITOTSUはまさにこのコンビネーションが実現されており、非常に魅力的に感じたポイントでした。
2つ目は中長期的に強力なMoatを築けるビジネスモデルです。HITOTSUはVerticalにマルチプロダクトをすごいスピードで出していく構想を持っています。シングルプロダクトのベンチャーと比較して開発や営業などハードルは高いとは思うものの、それぞれの業界プレーヤに刺さるプロダクトを通じて巻き込み、エコシステムを構築し、利便性を一気に向上し・・・というサイクルが回り始めれば、結果としての非常に強い参入障壁を築くことができます。
結果としてHITOTSUには業界スタンダードとして高いペネトレーションを実現し、医療業界に変革をもたらしメガベンチャーとなるポテンシャルがあると考え、投資意思決定をしました。
今後はHITOTSUがビジョンを実現し医療業界にとって欠かせない存在となるために、Angel Bridgeとして全方位でご支援していきます。
Angel Bridgeは社会に大きなインパクトをもたらすために、難しいことに果敢に取り組むベンチャーを応援していきたいと考えています!事業戦略の壁打ちや資金調達のご相談など、お気軽にご連絡ください!
2023.11.09 INTERVIEW
ゲノム解析技術がもたらす恩恵を多くの人に届けたい
改めまして、齊藤さんのお言葉でVarinosの事業内容を解説いただけますか?
齊藤:Varinosはゲノム解析技術をもとに各種臨床検査サービスを提供するスタートアップです。現在は不妊治療の一環として行われる子宮内フローラ検査、着床前ゲノム検査、次世代POCゲノム検査のほか、妊娠中や妊娠に備える女性のためのサプリメントの提供も行っています。いずれも不妊治療に費やす時間や経済的負担を減らし、不妊に悩む女性やご家族の苦しみを和らげるために開発したサービスです。
齊藤さんの管掌範囲と職務内容を教えてください。
CSOとCOOを兼務しています。CSOとしての役割は全社戦略や事業戦略の全体像から、各戦略を実現してくための事業プランを策定することで、もう一方のCOOとしての役割ではそれら戦略や事業プランに基づき、組織やオペレーション構築から、プロジェクトマネジメントを含めた実行・運用部分を統括しています。さらに最近、管掌範囲に広報・PRも加わって、戦略策定から実行フェーズまで幅広い業務にコミットしている状況です。
齊藤さんは北大獣医学部を卒業された後、アステラス製薬で臨床開発に携わり、その後、戦略コンサルティングのドリームインキュベータ、医療ITのエムスリー、AI開発のPreferred Networks(以下、プリファード)で活躍されました。これまでどのような基準でキャリアを選択してこられましたか?
齊藤:新卒で入社したアステラス製薬で医薬品の臨床開発と社会人としてのイロハ、特に事業会社的なウェットな仕事の進め方などを学び、次に選んだのが戦略コンサルティングファームのドリームインキュベータでした。製薬企業での仕事は、ビジネスや経営といった企業活動の上流部分とは無縁だったので、まったくの素人から大局的な思考やビジネスの上流設計を身に着けていくには戦略コンサルティングが一番近道だと考えたからです。その後、戦略構築だけでなく、そこで身に着けたスキルや思考力で事業を実際に立ち上げて成長させてみたいと思い、エムスリーとプリファードという分野の異なる事業会社に進みました。いまVarinosにいるのはこれまでの経験を活かして、創業間もないスタートアップをどこまで成長させていけるかにチャレンジしてみたいと思ったからです。
優れたサービス品質とそれを裏付ける確かな技術力
齊藤さんはVarinosのどこに将来性を感じたのでしょう?
齊藤:まずはシンプルにサービスと市場を見たときに、これはきっとうまくやれば勝てると思ったことです。市場の特性や、その市場におけるアンメットニーズと提供するサービスバリューのマッチングが明確で、かつバリューを支える品質と技術力の確かさ全てが揃っているなと。不妊治療における体外受精成功率が残念ながら高いとは言えない状況の中で、Varinosが提供する子宮内フローラ検査にはその課題を解決するという明確なバリューがありました。かつ、超微量の菌量を測定するという難易度の高い解析においても、解析結果が出ない割合はわずか1%程度に過ぎないという高い性能を誇っています。きちんとしたエビデンスがあることや、細かい精度の差が医師や患者さんにとって大きな価値となりうる医療業界の中で、この製品力はこの上ない大きな強みであり、スタートアップでもこの業界で十分戦っていけると確信したので、このサービスの成長に貢献しようと決めました。
入社後、とくに大変だったことについて聞かせてください。
齊藤:そもそも勝ち筋とアプローチ方法に関しては、入社前にある程度想定できていたので、正直、事業面で苦労した記憶はあまりありません。強いて言えば、入社時に、余りにも何も整ってなかったので、これを1から整えていくのは大仕事だなあと思ったことくらいでしょうか。自分は事業活動の中で見出したファクトをベースにPDCAを回して行く事が基本スタンスなのですが、当時は顧客リストも案件管理も整備されておらず、過去のファクトなども洗えない状況でした。そのため、現状を把握し業務プロセスをイチから整えるのはそれなりに手間がかかりましたが、優秀な元同僚に声をかけてVarinosに参画いただき、短期間でインフラを整備できました。また事業面のみならず財務面や経営管理などでも、すぐにでもやるべきことが山積みの状態だったので、自分だけでは手が回らないかも、と思いはじめていた矢先に、河西さんが現CFO兼経営管理本部長の平川を引っ張ってきてくれたんです。おかげでずいぶん気が楽になりましたし、会社活動全体もうまく回るようになりました。河西さんにはいくら感謝しても足りません。本当に助かりました。
河西:齊藤さんと平川さんが入社されてからVarinosの売上が大きく伸びたので、私としてもご紹介した甲斐がありました。齊藤さん、平川さんを往年の時代劇「水戸黄門」にたとえるとすると、CEOの桜庭さんが黄門様で、おふたりは黄門様を支える家臣の助さんと格さんといったところではないでしょうか。どちらも非常に心強い存在です。
齊藤:結果を残すのが私たちのミッションですからそう言っていただけて嬉しいですね。
河西:齊藤さんはさまざまな業界で経験を積まれています。異なる環境下で常に結果を出し続けるため心がけていることはありますか?
齊藤:結果を出すのは、特に現場で数字を上げてくれるフロントメンバーや、バックでサポートいただいてるメンバーの尽力あってのことという前提があっての話ですが、私の立場で心がけているのは、戦略立案はもちろん、結果を出すまでのロードマップやそれらが順調に進んでいるかを評価するためのKPIの作り込みと、実行した際の評価と改善を徹底することですね。勘や楽観的な解釈、妄想と大差ない思い込みなどはできるだけ排除し、常にファクトに基づいて施策や活動を評価し、成功事例は拡大させて、うまくいかないものは改善するなり、切り捨てるなりする。それを成果を出すまで繰り返していくというのが私のやり方です。要は愚直に当たり前のことを当たり前に突き詰めるというだけなのですが。これは決して唯一解ではないと思いますが、少なくともVarinosではこういった取り組みがいまのところ功を奏しているのかなと思います。
河西:確かに。齊藤さんの仕事ぶりを間近で見ているのでよくわかります。
齊藤:ありがとうございます。いまお話しした結果とは、要は売上や利益です。個人的には、当然経営者として追求すべき指標であると同時に、事業活動に対する公正な評価指標だと思ってます。たとえば、自分ではうまくやったつもりでも売上が全然上がってなかったら、その活動成果は意味がないと同時に着目すべき課題がほかにあるという示唆にもなるでしょう。また、逆に何もしてないのに売上が上がってたら未知の外部要因による可能性を示唆しているので、さらに事業をレバレッジさせる成功要因を見つけるきっかけにもなります。このような形で徹底的に知恵を絞って客観的に出てきた数字を評価をして、課題を特定・対処可能なサイズにまで分解して、勝ち筋を見つけ徹底的にやりきることが、成功に繋がる道なのかなと思います。ですからどんなに泥臭いことでも取り組むスタンスは重要でした。
経営者の孤独を癒やす「クロスラーニングの会」
話は遡りますが、おふたりが出会ったのはいつですか?
齊藤:私がプリファードにいたころでしたね。
河西:そうでした。私はVarinosと創業直後からかかわっており、当時からVarinosをサイエンティストの集団として高く評価していました。しかし、サイエンティスト集団であるがゆえ、事業を回しスケールさせる人材が足りないという弱点も抱えていました。そこで以前からお付き合いのあった人材エージェントに相談をもちかけたところ、紹介していただいたのが齊藤さんでした。
齊藤:河西さんにお会いしたころはまだ会社を辞める予定はなかったのですが、はじめてお会いした後も、3カ月に1度くらいのペースで定期的にお会いしてましたね。
河西:ええ。判で押したように定期的にお会いするよう働きかけたのは、齊藤さんが転職したいと思われるタイミングを逃したくなかったからなんです。
齊藤:そうだったんですね。おかげさまでいまの自分にあった環境に巡り合えました。ありがとうございます(笑)
ところで河西さんは、なぜ齊藤さんがVarinosの経営陣にふさわしいと感じたのでしょうか? 白羽の矢を立てた理由を聞かせてください。
河西:齊藤さんは獣医学部出身で獣医師免許もお持ちで、サイエンスもわかるし製薬の経験もおありです。それに加え、戦略コンサルや事業会社で新規事業の立ち上げもある。レジュメをひと目見てこの人が必要だと思いましたね。
齊藤:Varinos以外にも何社か投資先をご紹介いただきましたね。私の目にとりわけ魅力的に映ったのがVarinosでした。
河西:それで早速、桜庭さんに引き合わせたところ意気投合し、その後トントン拍子に話が進み入社が決まりました。齊藤さんは経験も実力も兼ね備えており、かつ当事者意識も強い方です。当時からバランスのよさが際立っていました。桜庭さんとの相性もバッチリでしたしね。齊藤さんがVarinosにジョインされるまで1年半から2年はかかったと思います。ようやく口説き落とせました。
齊藤:エムスリーやプリファードで、イチから事業を立ち上げ、手離れするところまで経験できたので、次はより小さなスタートアップで、自身の管掌範囲を広げて会社の成長にコミットしたいと思っていたんです。将来性のあるアイデアや技術をビジネス化しスケールするようなフェーズが自分の得意領域なので、その点、当時のVarinosの状況にもピッタリ符合していましたね。加えて、当時体外受精は自由診療だったため、医療業界における他の領域に比べて戦略変数が多く、会社規模や累積経験といった点でディスアドバンテージがあったとしても、大企業と戦いうる数少ない領域です。チャレンジしがいがあるテーマだと感じて入社しました。
齊藤さんは、河西さんにどんな印象をお持ちでした?
齊藤:経営者のウェットな部分に触れることを恐れず、暖かく見守るようなケアをしてくださる印象がありますね。「あれやれ」「これやれ」と上からモノを申すようなことがなく、経営者であるわれわれをリスペクトしてくださった上で、必要なケアを提供してくださる方だと思っています。
どんな支援が印象に残っていますか?
齊藤:いろいろありますが、とくに私はAngel Bridgeが投資先を集めて主催している「クロスラーニングの会」がとても気に入っています。
どんなところがお好きなんでしょう?
齊藤:クロスラーニング会はAngel Bridge投資先の経営者が集まり企業運営のノウハウや成功体験、失敗体験をざっくばらんに共有し合う場です。経営者は孤独な存在だとよく言われますが、実際、目の前にある課題に深く入り込めば入り込むほど視野狭窄に陥ってしまいます。でもこうした会合に参加することによって「悩んでいるのは自分だけじゃないんだ」「こんなやり方があるのか」と、実践した人しか語れない説得力のある話が聞ける。視野が開かれるようで、とてもありがたいんですよ。これまで2度参加しましたが、その都度、目から鱗が落ちるような経験をさせてもらいました。
河西:人事制度や評価制度をどうすべきかといったテクニカルな話から、経営者のメンタルケアについてまでいろいろな話題が出ますよね。
齊藤:そうですね。毎回ためになる話が聞けるので、お金をお支払いしたほうがいいのではと思うほどです(笑)。経営者同士が開襟を開いて話せる場ってなかなかありませんから、ぜひこれからも続けてください。
河西:私は投資先も含めてAngel Bridgeファミリーだと思っているので、それは嬉しい言葉ですね。身内同士で学び合えるのは相互扶助につながりますし、もちろん成長意欲を高める刺激にもなりますからね。私も長く続けていくべき取り組みだと思っています。
学び直す気概でスタートアップに飛び込んでほしい
齊藤さんは今後、Varinosをどんな会社にしたいですか?
齊藤:これまでは業界内でのポジショニングの確立を急いでいましたが、その取り組みが一定の評価を得る段階まできたので、今後は海外進出を含め新たな取り組みを加速させます。他の業界同様、医療業界も大きく変わりつつある一方で、まだまだレガシーな側面があるのは否めません。新たな手法やアプローチで業界の常識を打ち破り、Varinosを各界からベンチマークされるような企業にする。それが私の目標です。
河西:私たちとしても、困ったときにはいつでも手を差し伸べるつもりでいるので、これからも常に本音で話し合えるような関係を保っていきましょう。
齊藤:そうですね。これからもよろしくお願いいたします。
最後に、プロフェッショナルファームで積んだ経験をスタートアップで活かしたいと考える方にメッセージをお願いします。どんなことに注意するべきでしょうか?
齊藤:プロフェッショナルファーム経験者は、仕事の進め方や思考のフレームワークが共通するだけに、同質性が高い者同士でやりとりすることに慣れているように感じます。しかし、そのやり方をそっくりそのまま事業会社に持ち込んでも、すぐにはうまくいかないことが多いのではないでしょうか。業界ごとや職種ごとにそれぞれ考え方や仕事の仕方に特質があるからです。とくにスタートアップは成長途上にあり、その点も踏まえた上での環境作りからはじめる必要もあります。大所高所から経営を見渡すのも大事ですが、現場では普段何が起こっているのか、どんなモチベーションで働いているのか、まずはそれを知ることからはじめることをお薦めします。そうして既存のメンバーを巻き込み、スタートを切るのが重要です。個人的にはこれまで身に付けてきた常識を一旦忘れ、学び直すくらいの気概で飛び込むべきだと思います。もしそれだけの覚悟がありやり切れるのであればきっといい成果が残せるのではないでしょうか。
2023.09.08 TEAM
幼少期からドバイで暮らし、カナダ留学を経て投資銀行へ
髙橋さんの仕事内容を教えてください。どんなスケジュールで動いていますか?
仕事の割合でいうと、新規案件の目利きとソーシング活動に6~7割、既存の投資先への支援に1割、社内イベントやマーケティング活動に残りの2~3割を費やしています。1日のスケジュールとしては、朝9時に出社、国内外のスタートアップ動向をチェックした後に、投資先候補の方々との面談や検討案件の目利き、既存の投資先定例会への参加、社内マーケティング作業などを経て、退社するのは18時過ぎになることが多いです。その日にVC業界の交流会や飲み会があれば退社後に参加しますが、特にない日はジムやサウナにいって1日を終えます。
実は日本より海外に住んだ期間が長いようですね?
埼玉県で生まれて、小学校に上がるタイミングで親の仕事の都合でドバイに移住しました。小学校から高校卒業までの12年間をドバイで過ごした後に、カナダのトロント大学に留学しました。カナダには約5年間住んでいたので、日本より圧倒的に長い期間を海外で過ごしていますね(笑)。
投資銀行に入った背景を聞かせてください。
トロント大学に入学して最初の1年は数学と統計学のダブルメジャーを選考していました。しかし卒業後のキャリアがなかなかイメージできず、入学2年目に数学と経済学の要素が揃っていたFinancial Economicsに進路を変更しました。当時学内で実施されていた金融関係のセミナーに参加したところ、ハードワークである一方、若手のうちからM&Aや資金調達などの重要案件に携われる投資銀行の存在を知りました。自分を鍛えるにはもってこいの環境だと思い、サマーインターンでお世話になったBofA証券に入社しました。
BofA証券ではどんな案件にかかわっていたましたか?
入社1年目はいわゆる営業部隊であるカバレッジチームに配属され、再生エネルギー、自動車、テクノロジー業界を対象としたM&Aや資金調達の提案資料の作成や、案件執行のサポートに従事していました。2年目からは実際に案件を執行するM&Aチームの一員として、企業評価を算出するバリュエーション業務などに携わる機会が多かったです。
投資銀行出身者は、どんなセカンドキャリアを選ぶことが多いですか?
プライベートエクイティファンド(PE)やヘッジファンド(HF)など、金融業界におけるバイサイドに転職する人が一番多い印象です。その次に事業会社やスタートアップへ転職する方が多いイメージです。今まではベンチャーキャピタル(VC)に転職する人はあまり多くなかった印象ですが、最近はベンチャーキャピタルに転職する人が増えているように感じます。私が前職からAngel Bridgeに転職した年に、同期を含め数名の方々がベンチャーキャピタルに転職したと聞いています。
髙橋さんはどうしてベンチャーキャピタルに惹かれたのでしょう?
一番のきっかけは前職の同期のひとりがベンチャーキャピタルに転職を決めたことになります。その前まではベンチャーキャピタル業界について詳しくなかったので、積極的に話を聞いて勉強しました。創業間もないスタートアップの将来性を見抜き、リスクをとって投資した企業がメガベンチャーに育っていく姿を間近で見れたら面白いだろうなと。そのダイナミックさや社会的意義の大きさに惹かれました。大企業を相手にすることが大半の投資銀行ではそういった経験はできないと思い、転職を決めました。
信頼関係の構築なくして投資はできない
ベンチャーキャピタルといっても、規模や個性はいろいろです。なぜAngel Bridgeを選んだのですか?
Angel Bridgeの存在を知ったのはヘッドハンターからの紹介です。一度、情報交換しませんかといわれお会いしたのがパートナーの河西でした。話した際に凄く優秀だと思いましたし、何より人柄のよさが際立っていました。その後もパートナーである林を筆頭に、メンバーの皆さんとお目にかかる機会を作っていただき、Angel Bridgeのカルチャーに対して強いフィット感を感じました。皆さんプロフェッショナルファーム出身者で、仕事の進め方やカルチャーに馴染みがありましたし、少数精鋭で個人の裁量が大きいのも魅力的でした。Angel Bridgeはまだ少人数なこともあり、これから組織を大きくしていく段階なので、自社の組織作りにも関与できるのは貴重な経験だと思い、入社を決めました。
入社後、具体的にはどんな仕事に携わっていますか?
シニアアソシエイトの八尾とペアを組んで、既存投資先の支援や新規投資検討案件を通じて、ディールの全体の流れ、投資先の支援方法、検討案件の目利きの方法などについて幅広く学ばせてもらっています。私が自分でソーシング、目利きを行い投資まで至った案件はまだないので、はやく独り立ちできるようになりたいですね。
入社から3ヶ月(取材時)。率直な感想を聞かせてください。
前職とベンチャーキャピタルの一番の違いは、人と話す機会が非常に多いことですね。優れた起業家や有望なベンチャーと出会うには、ピッチイベントに出かけたり、人を介して紹介していただいたりとプロアクティブな行動が欠かせません。私は以前から人と話すのが好きなので、その点はまったく苦になりません。もうひとつ違いを感じるのは仕事のスパンですね。投資銀行時代はM&Aや資金調達(エクイティ、デット)など数ヶ月単位の仕事が多かったので、比較的短期間で案件がクロージングまで至ります。それに比べてベンチャー投資は息の長い仕事です。シード案件だとプロダクトも未完成、売上もゼロの状態から、ビジネスをつくり経営者が自走できるまで伴走します、フェーズやマイルストーンはあっても明確なゴールはありません。同じ金融の世界でも、見ている景色も、大事にしているものもまったく違う印象です。
投資銀行での経験が、いまの仕事に活きていると感じることはありますか?
複数案件を同時にこなしながら限られた期間内にアウトプットを仕上げること、また、開示されている財務数値から対象企業の分析をしてきた経験はとても役立っています。ただその一方で、起業家と一緒に事業戦略を検討したり、定性的な情報を見ただけで起業家やビジネスのポテンシャルを見極めたりする部分については投資銀行で経験してこなかった業務なのでまだまだです。経営や事業に対する解像度はまだそこまで高くないので、引き続き色んな案件を経験して、自分のスキルアップを目指そうと思っています。
いつかメガベンチャーの創出に携わりたい
Angel Bridgeの魅力は?
Angel Bridgeは、社員同士の仲が非常によく、社内イベントを開いて盛り上がることもしばしばです。バーベキューやゴルフ、フットサル、スカッシュなど、投資先を招いたイベントを通じて親睦を深めており、チームワークや団結力は非常に高いです。公私にわたる付き合いを通じて信頼関係を醸成できるのは、前職にはなかった魅力だと思います。Angel Bridgeのメンバーは、それぞれが別の強みをもつプロフェッショナルでありながら、互いに支え合う仲間でもあります。
私が入社した直後にチーム全体で歓迎会を主催してくれたり、誕生日をサプライズで祝ってくれたりもしたので、非常にチームを大事にしてくれているのもAngel Bridgeの魅力です。
髙橋さんにとって、ふたりのパートナーはどんな存在ですか?
人柄、仕事の両面でも尊敬できるロールモデルです。河西は事業の精査や分析に長けており、特にバイオ分野に強いです。面倒見もとても良く、チーム全員が成長できるようにコミットしてくれています。林はあらゆる業界に通じているだけでなく、人間的な魅力に溢れています。厚い人望があり、林が主催する会には業種問わず色々な方々が集まります。お二人とも気さくで話しやすく、自然と人が集まる魅力的な先輩方です。知見や経験、人脈の広さに加え、リーダーシップや面倒見のよさ、チームワークを尊ぶ姿勢——そのどれをとっても学ぶことばかりです。
どんな人と働きたいですか?
好奇心が旺盛でコミュニケーション力が高い人ですね。好機は向こうからやってくるわけではありませんし、どんなに優秀であっても相手から信頼されなければ投資は実現しません。ベンチャーキャピタルは色々な起業家、他ベンチャーキャピタリストなどと話す機会が非常に多いので、そういったコミュニケーションを楽しめる人が向いている職業だと思います。
今後の目標を聞かせてください。
まずは、自分でソーシングした案件を社内で通し、投資実行まで持っていくことが当面の目標です。投資実行後に、自分がかかわったベンチャーの成長に貢献できればと思っています。究極の目標は、自分の英語力や海外人脈を活かし、海外の機関投資家をLPとして巻き込んだり、必要に応じて投資先を海外事業会社や海外VCと繋げたりして、世界に誇るメガベンチャーの創出を実現すること。少し先の話になると思いますが、いつか実現させたいですね。
最後に髙橋さんが大事にしている信念を教えてください。
人生一度きりです。何事に対しても妥協せずやりきることを信念にしています。それをひと言で表すなら「妥協なき人生」になります。
カナダ留学中に、ニューヨークで投資銀行で働きたいと考えた時期がありました。あるとき現役のバンカーに相談しようと思い立ち、LinkedInでピックアップしたバンカーたちに自己紹介とプレゼン資料をメールで送ったことがあります。最終的に300人以上にメールを送り、返事がいただけたのは15人で、実際にニューヨークでお会いできたのは5人でした。結果的にはビザの関係で日本での就職を選びましたが、とても有益なアドバイスをいただけました。これまでにやったことがないことであっても、妥協せずやり抜けば価値あるものが得られる。それを知れただけでもやってよかったと思います。これからも妥協せず貪欲に挑戦し続けるつもりです。
2023.09.05 INTERVIEW
最新の研究成果をいち早く医療現場に届ける
Varinosの事業内容を教えてください。
平川:Varinosは、高速でDNA配列を解読する次世代シークエンサーを用いたゲノム検査サービスを提供するバイオベンチャーです。現在は医療機関から送られてくる検体を自社ラボで解析し、その結果を不妊治療に活かしていただく一方、妊活に役立つサプリメントや検査キットの提供なども行っています。
競合の状況はいかがですか?
平川:現在、海外に類似サービスを手掛けている企業が1社ありますが、いまのところ国内の競合もその1社のみとなります。(2023年8月現在)。
ゲノム検査を手掛ける企業は数多くあります。なぜ競合が少ないのでしょう?
平川:最新の研究成果をもとにしたサービスだから、というのが大きな理由です。それまで無菌とされていた子宮内に細菌叢が存在することがわかったのが2015年で、子宮内の細菌叢に善玉乳酸菌の比率が低い場合、体外受精の成功率が下がるという研究結果を発表されたのが翌年の2016年のことでした。Varinosは2017年2月に創業し、その年の12月に子宮内フローラ検査の実用化に成功しています。最新の研究成果を圧倒的なスピード感で実用化に漕ぎ着けられたのは、創業者である桜庭喜行と長井陽子がゲノム研究のエキスパートであったからです。さらにサービスの実用化をいち早く実現したことにより、検査数はすでに2万検体を突破しており、いち早く先行優位性を獲得できたことも競合の少なさにつながっていると思います。
予備校の恩師の助言で監査法人からベンチャーへ
そもそも平川さんは、なぜ公認会計士になろうと思われたのですか?
平川:高校時代は剣道一筋で、インターハイで8位入賞するくらい入れ込んでいました。当時は剣道の強豪校に進もうと思っていたのですが、推薦を受けられず大学進学を諦めざるを得なかったんです。それで給料のよかった地元のパチンコホールに就職し、5年ほどたったころだったでしょうか。「このままでいいのかと」と考えるようになり、パチンコホールを辞め資格予備校に通い出しました。高校時代に簿記2級を取っていたので、1級を取ってからその先の人生を考えようと思ったんです。予備校に通い出してしばらくたったころ、先生から「予備校でバイトすれば学費が免除になる」と教えてもらい、それなら簿記よりも難しい公認会計士資格を目指そうと思ったのが資格を取るきっかけになりました。
平川さんは、公認会計士試験合格者として監査法人PwCあらたでご活躍後、3社のベンチャー企業を経てVarinosに参画されました。なかでも、2015年から19年まで在籍された不動産テックのGA technologies社では、取締役経営管理本部長としてIPOの実現をリードし、いまや同社は売上高1,000億円を超える大企業です。結果からすると素晴らしい成果だと思いますが、監査法人での安定したキャリアを捨てるのは勇気が必要だったのでは?
平川:安定志向で監査法人に入ったのであればそう感じたかもしれません。でも私の場合、いずれベンチャーにいくつもりで監査法人に入りました。公認会計士の資格を取るために通っていた予備校の先生からの影響です。
予備校の先生から、どんな言葉をかけられたのですか?
平川:公認会計士の知識が活きるのは監査法人だけではないといわれたんです。公認会計士資格を取るには4科目の短答式試験と5つの論文式試験をクリアしなければなりません。会社法に至っては弁護士資格並の知識が求められるのに、監査法人で主に使うのは会計学と監査論のふたつだけ。その先生から、企業のバックオフィスを支えるほうがはるかに公認会計士の実力が磨かれるし、ダイナミックで面白い世界が体験できるといわれて、なるほどなと。事業会社のなかでも組織が小さく、ひとり一人の裁量が大きいベンチャーならさらに面白い経験ができそうだと思いました。
監査法人ではどんなお仕事をされていたのですか?
平川:将来、事業会社のバックオフィスを支えるとしたら、財務会計だけでなく適切な業務プロセスやリスク管理などについても熟知しておく必要があります。そのためメガバンクを顧客とする内部統制の評価支援業務プロジェクトを通じて、ベンチャーでも活かせる知識や経験を育みました。
求めていたのはイノベーションを起こすベンチャー
目指していかれたとはいえ監査法人とベンチャーでは環境がまったく異なりますよね。理想と現実のギャップに苛まれたこともあったのでは?
平川:そうですね。でも、それは入る前からわかっていたことですから、環境が違うことに憤ったり、仕事を選り好みしたりするつもりはありませんでした。CFOは決算書を語るのではなく決算書をつくる責任者です。組織をどう動かせば決算書にいい変化が起こせるか考え実行するのが仕事でもあります。日々の帳簿付けから経費精算、請求書の発行、入金や振込確認など経理実務に加え、営業同行に忙殺された時期もありましたが、それでもあまり苦にせずやりきれたのは、それをやることが組織のなかで必要だと思ったからに過ぎません。たまたま仕事を通じて知り合った公認会計士資格をお持ちのCFOからも「ベンチャーに入ったからには、会社の成長に必要なことは何でもやるべき」といわれていたので、それが当たり前だと思っていたというのもあります。
平川さんは、GA technologiesを皮切りに、その後もキャスターやRecro、そしてVarinosとベンチャーのCFOとしてキャリアを重ねてこられました。平川さんはどんな基準でご自身がコミットするベンチャーを選ばれてきたのですか?
平川:自分では「リノベーションではなく、イノベーションを起こすベンチャー」を選んできたつもりです。世の中を便利にするだけでは飽き足らず、これまでにないものを生み出そうと意気込んでいる企業を支えるのが自分の使命だと思っているので、そうした志がある企業かどうかで判断してきました。
Varinosに参画されたのは改めてIPOを目指したいと思われたからですか?
平川:そうですね。株式上場を経験後、複数のベンチャーで各種規程の策定や運用、M&Aや資金調達などにかかわる機会を得て、CFOとしてのキャリアに厚みを持たせることができました。ここで改めてIPOを達成すれば、これまでの経験を整理できるだけでなく、再現性のある取り組みだったことを証明できます。だからこそ先駆的な取り組みを行っているベンチャーで経験を積んできたわけです。もちろんVarinosを選んだのは、文字通りイノベーティブな事業を手掛けているからにほかなりません。
希有な経歴と実績に惹かれ、贈られたラブコール
Varinosとの出会いについて教えていただけますか?
平川:前職のプロジェクトが一段落したタイミングで、エージェントに相談したところ河西さんを紹介されました。それがVarinosとの出会ったきっかけです。
河西さんはいつからVarinosとお付き合いがあるのですか?
河西:以前から桜庭さんの評判を聞いており、ゲノム解析の領域で起業すると聞き「あの桜庭さんが起業するなら」ということで早々に投資を決め、私自身、いまも社外取締役にも名を連ねています。創業間もなくからのお付き合いですから、もはや身内のような立場です。
そんな経緯もあって、平川さんにお会いすることになったわけですね。
河西:はい。投資先支援の一環として普段からエージェントの皆さんとお付き合いしており、そのなかで平川さんをご紹介いただきました。ご経歴をひと目見るなり「VarinosのCFOにぴったりな人材」だと思いましたね。平川さんは公認会計士試験に合格された経緯もさることながら、創業間もないベンチャーをIPOに導き、1,000億円企業への礎を築かれました。監査法人での経験に加え、ベンチャーにおける財務会計、経理の実務に通じており、しかもIPOを成功させている。CFOとしてはかなり希有な存在といえます。ぜひCEOの桜庭さんと引き合わせたいと思って、私からラブコールを送りました。
平川:私自身、以前から少子高齢化問題を通じて、医療やヘルスケアテック領域に関心があったので、お声がけいただいたときはとてもうれしかったですね。でも、河西さんとお会いするのは正直躊躇しました。東大大学院で遺伝子工学を学ばれ、ゴールドマン・サックスやベインキャピタル、ユニゾン・キャピタルを経て、ご自身でAngel Bridgeを立ち上げた投資の専門家です。とても緊張したのを覚えています。
実際にお会いになっていかがでしたか?
河西:実際にお会いしてみた第一印象は、ご経歴から受ける印象とはまったく違って、とても温和で接しやすい方でした。CFOは数字を管理する能力に長けているだけではダメで、社内外の人たちと健全な人間関係を築けなければ務まりません。その点、平川さんはベンチャーの現実を踏まえた上できちんと理想を追求できる人とお見受けしました。ここまでバランスがいい人材にはそうそう出会えませんから、面談後、桜庭CEOに「ぴったりの方を見つけました!」と、興奮気味にメールを送ったのを覚えています。
平川さんはいかがでしたか?
平川:私も河西さんもご経歴から受ける印象とは違い、すごく話しやすい方だなというのが第一印象でしたね。バイオや資本施策に関する知識が豊富であるにもかかわらず、押し付けがましいことは一切なく、常に私たちの考えや希望を聞いた上で的確なアドバイスをくださいます。その印象はいまも変わりません。だからこそ長くお付き合いできるのでしょうね。
Angel Bridgeにしかできない相談がある
普段、Angel Bridgeとはどんなお付き合いを?
平川:毎月の役員会や定例ミーティングで、さまざまな課題を一緒に検討して頂いています。Angel BridgeがほかのVCと違う点があるとすれば、直近の数字や実績についてだけではなく、不確実性の高い中長期的な戦略や課題などについて、腹を割って話せるところですね。IPOがゴールだと考える投資家が多いなか、その先を見据えて必要な情報や知見を提供してくださるので、Angel Bridgeにしか相談できない相談事は実はたくさんあるんです。先ほど河西さんから「身内」という言葉が出ましたが、まさにおっしゃる通りで、最近も営業資料に手を入れていただいたり、新オフィスへの移転を記念して投資家向けの内覧会を勧めて下さったりと、微に入り細に入りさまざまな面で助けていただいています。
河西さんはどんなことを意識して支援されているのですか?
河西:創業期から一緒に歩んできているので、我が子の成長を見守るような気持ちで接しています。褒めるべき点は褒めますし、耳の痛い話であってもオブラートに包むことなく率直に話せるのは、しっかりとした人間関係が確立されているからです。良いときも悪いときもずっとそばにいるつもりですので、本音で話し合える仲間だと思っています。
平川:私たちもファミリーの一員として迎えてくださっている感覚がありますね。フォーマルなミーティングだけでなく、ゴルフやフットサル、バーベキューなどAngel Bridgeの投資先を交えたイベントも頻繁に企画してくださったり、COO兼CSOの齊籐のように河西さん経由で優秀な人材を紹介してくださったりと、公私にわたるご支援には本当に感謝しています。
河西:Varinosのような将来性のある企業に対し、資金だけでなく人的貢献ができるのは私たちにとってもうれしいことです。今後も引き続き成長の過程で必要なリソースを提供できるよう末永く支援を続けていければと思っています。
VarinosからAngel Bridgeに期待することは?
平川:私自身、IPO後の成長をどう牽引すべきか未知数な部分があるため、河西さんを筆頭にAngel Bridgeの皆さんには、資本施策への助言はもちろん、事業展開やサービスの拡充、さらには組織拡大など、IPOの先の成長を見据えた支援に期待しています。
平川さんご自身はVarinosをどんな会社にしていきたいですか?
平川:子宮内フローラ検査の普及をきっかけに、オーダーメイド医療の発展に貢献していきたいですね。業界のパイオニアとしてしっかり利益を出し、持続可能なビジネスを確立しなければと思っています。個人的には国内外の有望なバイオベンチャーを集め、CVC(コーポレートベンチャーキャピタル)を組成し、この業界を盛り上げられたらと思っています。
監査法人など、プロフェッショナルファームにいらっしゃる方にメッセージをお願いできますか?
平川:ベンチャーはリスクが大きい選択だと思われる方がいるかもしれませんが、それはもはや過去のものになりつつあります。むしろ国家資格という強い武器があるからこそ選択できるキャリアがあるはずです。この世界に興味があるならぜひチャレンジしていただきたいですね。
河西:実際、平川さんのように監査法人からベンチャーをはじめとする成長企業のCFOに転身されるケースが目に付くようになりました。しかしその一方で、志半ばで諦めてしまう方も一定数おられます。ベンチャーで成功するには何が必要ですか?
平川:一番大事なのは変化への対応力でしょう。もちろんプロフェッショナルとして知識や経験を駆使して我を通さなければならない局面はあります。しかし社会情勢の変化に対して大胆な選択を迫られることが多く、朝令暮改すら日常茶飯事なのがベンチャーです。その変化に翻弄されてしまうとツラいでしょうが、変化を受け入れ楽しめる人にとっては、これほどダイナミックで面白い環境はありません。
河西:平川さんを見ていると、自分が決めた役割や肩書きに固執しないことも重要だと感じますね。
平川:おっしゃる通りですね。ベンチャーのCFOはデスクの前にふんぞり返っていては役割は果たせません。企業によって程度の差こそあるでしょうが、泥臭い仕事を厭わない覚悟は必要でしょう。自分の役割の範囲を決めず何でもトライしてやろうという気概をもって、会社の屋台骨を支えるのは難しくもあり、楽しい仕事なのは間違いありません。
2023.07.21 INTERVIEW
2019年創業の社債専門のネット証券会社「Siiibo証券」
Siiibo証券の事業内容を教えてください。
宮崎:Siiibo証券は社債に特化したネット証券会社です。資金調達のために社債を発行する企業と投資家を結ぶオンラインプラットフォームを運営しています。
他の証券会社で扱っている株式や社債との違いは?
宮崎:社債も株式も、企業にとって重要な資金調達の手段ですが、その位置づけは似て非なるものです。株式がエクイティファイナンスの手段であるのに対し、社債はデットファイナンスの一種。とくに私たちが扱っているのは社債のなかでも、不特定多数の投資家から数百億から数千億円規模の資金を集める「公募債」ではなく、49人までの限定された投資家から数千万から数億円規模の資金を募る「私募社債」です。公募債に比べ、手続き面や金銭的コストを抑えられるため、大企業でなくても利用しやすいというメリットがあります。Siiibo証券は、伸び盛りの成長企業に資金調達の手段を提供し、個人投資家には新たな投資先の選択肢を提供するため、2019年に創業されました。
競合状況はいかがですか?
社債に特化したネット証券会社はいまのところ当社のみで、直接的な競合は存在していないと認識しています。ただ、企業の資金調達手段という広い意味の競合では、株式投資型クラウドファンディングやソーシャルレンディング、デットファンド、レベニュー・ベースド・ファイナンスなどが挙げられます。私募社債は、多様化する資金調達手段における選択肢のひとつという位置づけです。
なぜ直接競合が存在しないのですか?
宮崎:まず、私募社債を取り扱うにあたって必要な「第一種金融商品取引業」に登録する難しさが挙げられます。とくに新興FinTech企業にとって事業の先行きが見通しづらいなか、登録要件に定められた自己資本比率規制を満たし、組織体制を整えるのはかなり厳しいハードルです。一方、すでに一種業登録が済んでいる証券会社がなぜ積極的に注力しないかというと、既存の公募債事業に比べて規模の小さい私募債は、短期的には収益の上がりにくいビジネスだから。個人的にはこうした構造が事実上の参入障壁になっていると思います。
なぜ、高いハードルがあるにもかかわらずSiiibo証券は参入障壁を突破できたのでしょう?
宮崎:一言で申し上げれば「やりきると決めたから」ですね。そもそもスタートアップ市場の盛り上がりや、分散投資に対する関心の高まりを見れば、社債の活用はもっと広がってしかるべき。発行企業、投資家の双方にメリットがあるのは明らかですし、テクノロジーを活用すれば、コストを抑えながらも法規制に則った形で、発行企業と投資家をつなぐオペレーションが実現できる。それなら、登録完了までは本業で売上を立てられないというリスクを取ってでもやりきろうという意志があったからこそ、ハードルを乗り越えられたのだと思います。
VCの代表を務める河西さんの目にはSiiibo証券の魅力はどう映りますか?
河西:Siiibo証券は企業と投資家双方のニーズをマッチさせるこれまでにない金融プラットフォームです。これだけスタートアップが増えているにもかかわらず、事実上、一部の企業や投資家にしかアクセスできない私募債の市場をより多くの人たちに開くことになるわけですから、非常に有意義な取り組みだと感じています。社会的にも大きな意味があると感じ投資させていただきました。
マッキンゼーで体得した、スタートアップ経営に欠かせない力
宮崎さんは、東大大学院の工学系研究室を修了し、マッキンゼーを経て、Siiibo証券にジョインされたと聞いています。
宮崎:中学高校時代は天文部に所属しており理系学部を志望していたのですが、興味関心と得意科目が合わず、悩んだ末に法学部に進学しました。入学してはみたもののやはり法学にはあまり興味が持てず。思い切って後期過程で理系に転じ、大学院では、シミュレーションとビッグデータ解析の研究室で計算社会科学を学びました。研究対象は社会、つまり人間の集団行動なので、文系的なテーマに理系のアプローチで取り組めるのを面白そうに感じたこと、またものづくりへの憧れもあったので、ソフトウェアの力で社会に貢献できるかもしれないと思い選んだ研究室でした。ただ、結局職業としてエンジニアは向いていないと感じ、社会に出てからどのような分野で価値を出すことを目指すべきなのか、なかなか方向性が定まりませんでした。
マッキンゼーに入ったのはなぜですか?
宮崎:企業やビジネスを通して人間と向き合うコンサルの世界に興味を持ちましたが、面接で出会った方もクライアントのため、後進の育成のために自己研鑽を怠らない方ばかりで魅力的だったのが一番の理由です。幼い頃から要領がよく、与えられた課題を解くのが得意だった一方、テストでいい点を取るような人生に疑問も感じていたので、企業という人間の社会的行動の中から発生する課題への解決策を導くコンサルタントに惹かれたのだと思います。
マッキンゼー時代に身につけたスキルや経験で、いまの仕事に活きると思われるものは?
宮崎:一筋縄では解けない難題であっても、何度も仮説検証サイクルを回して粘り強くブラッシュアップし続ければ、解決策が見つかることを身を持って体験できたことですね。このほかにも、知見がない状態から情報をキャッチアップする力、不確実な状況のなかでも一度形にする力、トライしてダメでも新しいアプローチを試みるフットワークの軽さや変化に対する耐性、適応力などもマッキンゼーで体得したスキルです。どれもスタートアップの経営にも共通するスキルだと感じます。
河西:調査したり検討したりする時間も大事ですが、実際にやってみなければわからないことが大半です。まさに、仮説を立ててアクションを起こし、もしダメでも諦めず別の道を探るというのはまさに成功するスタートアップのあるべき姿とも重なります。マッキンゼーで素晴らしい経験をされたんですね。
宮崎:はい。ある程度形にできたら走り出して走りながら考えるというのは、スタートアップやコンサルに共通する価値観でありマインドだと思います。
そんな宮崎さんがマッキンゼーのあとに選んだのはSiiibo証券でした。理由を聞かせてください。
宮崎:あるとき大学院時代の同級生で弊社の代表を務める小村(和輝)から「週末だけでも手伝ってほしい」といわれたのが、Siiibo証券に入るきっかけでした。
河西:いずれ入社する心づもりで手伝いはじめたのですか? それとも手伝ううちに徐々に気持ちが変化してお入りになった?
宮崎:それで申し上げると完全に後者ですね。私はどちらかといえばゼネラリストで裏方気質。自分で起業するよりも誰か熱いパッションを持った人を支える立場の方が役立てるだろうなという思いは以前から持っていました。でも小村と違い私には金融のバックグラウンドはありません。小村のやろうとしているビジネスが本当に解くべき課題かどうか最初のうちは判断がつかなかったんです。しばらくの間、仕事の合間を縫ってミーティングの議事をまとめたりタスクの進捗を管理したりするうち、徐々に個人向け社債市場の小ささや、需給の間を取り持つシステムの必要性を痛感して考えが固まりました。
公私にわたるお付き合いで深まる信頼関係
改めて、現在、宮崎さんはSiiibo証券でどんな職務を担っていらっしゃいますか?
宮崎:代表と協力して経営方針の策定にも関われば、採用や社内制度・プレゼン資料作りにも携わりますし、ときには関係当局との対応を行ったり、関連法規を読み込んでエンジニアと一緒にシステムの仕様を考えたりすることもあります。スタートアップのCOO(最高執行責任者)は、社内における最後の砦。それだけに業務範囲は多岐にわたります。今の事業ステージだと、同じCOOでも「チーフ・オペレーティング・オフィサー」というより、何でも屋に近い「チーフ・アザーズ・オフィサー」なのかもしれません。
Angel Bridge との出会いについて教えてください。
宮崎:2021年の夏にお会いしたのが最初でしたね。
河西:はい。Siiibo証券さんのメンバーと私どもの投資先のメンバーに共通の知人がいらして、その紹介でお会いすることになりました。実は面会のお約束をいただく前からSiiibo証券の存在は耳にしており、近々ぜひお会いしたいと思っていたんです。実に絶妙なタイミングでの出会いでした。
宮崎:河西さんは「われわれのことも知っていただきたいので」とおっしゃって、早々にメンバーの皆さんを伴ってオフィスを訪ねてくださいましたよね。お会いした3か月後にはシリーズBラウンド投資にも参加してくださいましたし、意志決定はどのVCよりも早かったのが印象に残っています。
河西:そうでしたね。ネット証券会社をゼロから立ち上げるのは並大抵のことではありません。それにもかかわらず、すでに第一種金融商品取引事業者登録も済ませておられましたし、代表の小村さん、宮崎さんをはじめとした、経営チームの皆さんの優秀さに惹かれました。困難をものともせず課題に真正面から向き合っている姿を見て「決して途中で投げ出すことはない」と、確信しました。これはご支援しないわけにはいきません。そんな気持ちが、意志決定の早さに表れたのだと思います。
Angel Bridgeからはどんな支援を受けていますか?
宮崎:取締役会の運営についてご支援いただいたのが最初です。シリーズAからシリーズBに移るタイミングは、カルチャーや制度を含め、アーリーステージからの脱却が課題になります。河西さんをはじめ、Angel Bridgeの皆さんには、アジェンダの設計、報告すべき内容、KPI、討議すべき課題の優先順位など、他社の事例を交えながら丁寧にレクチャーしていただきました。現在は引き続き定例ミーティングで助言をいただいているほか、代表の小村の相談相手として力強いサポートをしていただいています。
Angel Bridgeが、他のVCと違うと感じる点があれば教えてください。
宮崎:バーベキューやお食事会を開いてくださったり、フィンテック業界以外の起業家を交えた勉強会にお誘いいただいたりと、相互理解を深めることに気を配ってくださってくださるおかげで、私たちのことを人間性を含めて一番よくご存じのVCという印象です。プロフェッショナリズムには信頼できる人間関係が欠かせないと思われているからこそ、公私にわたるコミュニケーションを大切にされているのだと感じます。
河西さんは宮崎さんのお人柄をどう見ていらっしゃいますか?
河西:代表の小村さんがグイグイとビジネスを引っ張っていくタイプに対して、宮崎さんはコミュニケーション能力高く社内の潤滑油のような存在だと思っております。小村さんのアイデアや構想を受け止め、周囲を巻き込みながら着実に実務に落とし込み実行に移していく。そんな実務家でありながら、一方で周囲に気配りができる方。そんな印象を持っています。
宮崎さんは河西さんの人となりを、どんなふうにとらえているんですか?
宮崎:河西さんはバイタリティがあり投資の目利き力がありながら、投資先に対して課題や問題点を指摘するにしても相手にストレスを与えずフランクにアドバイスしてくださるので、不安が先立つことが多いスタートアップの経営陣には良きメンター的な存在です。
「社債といえばSiiibo証券」といわれる会社に
宮崎さんはこれからSiiibo証券を通じて、どんな社会を実現したいですか?
宮崎:貯蓄から投資へと日本人の資産形成のあり方が大きく変わりつつあります。これからも引き続きSiiibo証券を通じて、社債のメリットを広く社会にお伝えしながら、発行企業、投資家双方に有望な資金調達・投資の選択肢を提供したいと思っています。その結果「社債といえばSiiibo証券」といわれるようになれたらうれしいですね。
Angel Bridgeは、これからどんなバックアップを提供されますか?
河西:これまで通り資金面や事業面でのご支援はもちろん、精神的な面からも積極的にサポートを提供しながら、より深いレベルで信頼関係を築ければと思います。宮崎さんがおっしゃるように「社債といえばSiiibo証券」といわれるよう、私たちも助力を惜しまないつもりです。
最後に現在プロフェッショナルファームや投資銀行などにお勤めで、スタートアップに関心をお持ちの読者にメッセージをお願いします。
宮崎:スタートアップに飛び込んだ途端、会社の看板がなくなり、自分の身ひとつで課題と向き合うことになります。きらびやかで華やかなイメージがあるかもしれませんが、むしろ泥臭いことのほうがはるかに多いので、ゼロから学び直す気持ちでチャレンジしたほうがいいように思います。スタートアップは細かい失敗と挫折の連続です。特に経営者としてくじけずやりきるには「この人たちのためなら、どれだけしんどくても頑張れる」と思えるテーマや信頼し合えるメンバーでビジネスをすべきではないでしょうか。もしそんな人と出会えたら、スタートアップにジョインするチャンスかもしれません。
河西:答えが見えない大きな課題に挑むのは、コンサルをはじめプロフェッショナルファームもスタートアップも同じです。取り組むべき課題を見つけたなら、宮崎さんのようにどんどんチャレンジしてほしいですね。Angel Bridgeはこれからもアグレッシブな起業家マインドを持ったビジネスパーソンを応援し続けます。
2023.07.03 ACADEMY
前回のスタートアップアカデミー#5-1では、Angel Bridgeが行うハンズオン支援の「組織」についてご紹介しました。
本記事では、Angel Bridgeが行うハンズオン支援の「事業・ファイナンス・経営のPDCAサイクル」について詳しく説明していきます。
1. 事業支援
「事業(モノ)」に関する支援では、企業の戦略策定に向けた壁打ちと顧客紹介を主に実行しています。
戦略策定の壁打ちでは何をしているのか?
月次定例会の中で戦略策定の議論を行い、事業戦略やIPO、資金調達などの様々な経験を生かしたアドバイスをします。Angel Bridgeのメンバーはコンサル・投資銀行出身者が多く、その経験を活かして経営課題の特定やKPI設計のサポートを行います。
具体例として、価格感度分析を行ったLocusBlueの事例があります。
以前LocusBlueの宮谷CEOにインタビューした時、次のようにおっしゃっていました。
宮谷:以前、価格体系を見直すにあたって、何を基準に妥当な価格を決めるべきかわからず悩んでいたとき、Angel Bridgeさんから「価格感度分析をやってみませんか」と提案いただいたことがありました。顧客に送る調査項目のリストアップから分析資料の作成までテキパキと進めてくれたおかげで、私は調査票をお客様に送って結果を聞くだけ(笑)。以前から数値分析に強い方々とは聞いていましたが、そのクオリティの高さはまさに戦略ファーム品質で感動を覚えるほどでした。
(参考記事:元エアバスの技術者が狙う建設DX [ローカスブルー宮谷聡代表 × Angel Bridge 林])
このような形でAngel Bridgeは戦略策定において投資先企業に対し、豊富な経験を活かしてプロジェクトベースで様々なアドバイスやサポートを提供しています。
顧客先の紹介事例
顧客先の紹介では、製品・サービスの営業先など、今後の事業拡大に役立つ可能性のある企業を紹介します。ベンチャー企業はまだ信頼が不足しており、ネットワークも脆弱で自社でリーチできないケースも多いため、VCが補っていくことが必要でしょう。
Angel Bridgeが行った営業先の紹介の一例として、飲食店DXサービスを手掛けるベンチャー企業であるGoalsの新たな導入先への営業支援が挙げられます。Angel Bridgeでは、自身のネットワークを活用してGoalsに対して飲食店の営業先を紹介しました。数十~数千の店舗を持つチェーン店でも、食材発注システムの内製化は難しくDX化がまだまだ進んではいないというのが現状です。以前Goalsの佐崎CEOにインタビューした時、次のようにおっしゃっていました。
佐崎:経営に関する課題についてご助言いただいているのに加えて、食品業界に豊富な人脈を持っていらっしゃる、パートナーの林さんのご助力で、大手外食チェーンの経営陣にお引き合わせいただくなど、特に営業活動の面で多大な支援をいただいています。
河西:林からはお客様候補をご紹介させていただき、私からは共有いただいた経営指標をもとにした数値分析や業界分析など、主に経営や営業戦略の面からサポートさせてもらっています。経営のPDCAサイクルを回す上で必要な支援は可能な限り行うというのが私たちの方針です。
佐崎:毎回、大所高所に立った視点でアドバイスしていただけるので、発見や気づきが多く、いつもディスカッションの時間が楽しみです。おかげさまで、当初は和食チェーンを運営するお客様が1社のみという状況でしたが、現在は上場企業を中心に20社ほどのお客様にご利用いただくまでになりました。Angel Bridgeさんのご支援にはとても感謝しています。
(参考記事:AIで食品業界の未来を変える [Goals 佐崎CEO× Angel Bridge 河西])
このような形でAngel Bridgeは顧客先支援も積極的に行っています。商談成功のためには、取締役や経営企画室の方に直接アプローチする事が重要となります。スタートアップだけではなかなかアプローチできない経営層の方を多数お繋ぎし、1,000店舗を超す大手飲食チェーン店の成約にも成功しました。MRRでは300万円と大きく売上に貢献しました。
2. ファイナンス
実践的な調達支援
Angel Bridgeは資本政策の策定や追加の資金調達支援も行います。特に、シードアーリー段階で投資を受けたベンチャー企業にとっては、次の成長段階での資金調達計画が重要です。具体的にはベンチャー企業と協力し、適切な資金調達の時期・金額を検討します。事業計画やピッチ資料の作成をサポートしたり、相性が良さそうなVCや事業会社をリストアップし、ベンチャー企業のニーズに合わせてお繋ぎします。
バイオベンチャーのHeartseedがその一例です。次ラウンドの出資先を探すにあたって、まずリード投資家となり得るVCを探しました。特にHeartseedは大規模な資金調達が必要なため、次のラウンドでも投資が可能なディープポケットのVCに優先的にアプローチしました。次に事業シナジーがある事業会社などもHeartseedに紹介し、大手製薬会社、医療機器メーカー、医療系卸売企業から資金調達を行いました。これまで計5回、累計102億円の資金調達に貢献しました。
IPO支援とは何をするのか?
Angel Bridgeは、ベンチャー企業のIPO支援も行っています。ベンチャー企業はIPOの経験がないことが多いため、成功確度を高めるために必要なノウハウやベストプラクティスを提供します。IPOの際には、適切な主幹事証券や監査法人を選ぶことが必要です。そのため、複数の証券会社から提案書をピッチしてもらい、証券会社のチームやエクイティストーリーに基づいて決定します。さらに主幹事証券の決定の手助けに加えて、その後のエクイティストーリーの作成においてもサポートを行います。このようにAngel Bridgeはベンチャー企業のIPOを成功に導くため、幅広い支援を提供しています。
3. 経営のPDCAサイクル
経営のPDCAとは
「経営のPDCAサイクル」に関する支援はヒト・モノ・カネをどう回すかといった経営のOS(オペレーティングシステム)のようなものです。取締役会を起点に株主も巻き込んだ年12回の大きなPDCAサイクルを回す体制の構築を支援します。会社の羅針盤となるKPIの設計や経営の見える化など、組織としての運営体制を経営陣と共に作り上げていきます。
図のように会社内のピラミッド構造に基づいた会議体を設計し、現場と経営陣の間、および経営陣同士のフィードバックを円滑に行うことを促進します。
Angel Bridgeは、このような形で経営のPDCAサイクルを確立するための取り組みを行い、ベンチャー企業の成長を支援しています。
経営のPDCAサイクルはなぜ重要か?
経営のPDCAサイクルは、経営陣が組織を適切に統率し、持続的な成長を実現するために不可欠なツールです。組織の人数の観点から経営のPDCAサイクルの重要性を深掘りしましょう。
組織人数が30人未満のシード期の場合、事業スピードが重視されるため、経営者と従業員の距離は近く従業員は比較的横並びの組織構造をしています。しかし、このままでは人的リソースが制限されるため、組織を大きくしていく必要があります。ここでよく言われるのは、「30人の壁」問題です。なんとなくで上手く従業員をまとめ上げてた経営者の多くは従業員が30人になった時に躓きます。乗り越えるためには、仕組みで支えられた経営へ早期に移行する必要があるのです。
KPIの設定と会議体の設計が適切に行われていると、執行の細部までマイクロマネジメントを行わなくても企業全体の状況が把握できます。社内メンバーに「権限移譲」ができ、経営者が一人で全てを見る必要が無くなるため、今後の成長戦略など特に経営者が取り組むべきことにリソースを注力できます。
さらに、経営のPDCAサイクルが上手く回っていると、IPOを達成した後の株主に対する適切な情報開示も円滑に行うことができます。
4. ステージごとの支援内容
Angel Bridgeはシード期からIPOまで一貫した支援メニューを提供しています。これまでに説明したハンズオン支援を、企業のステージごとに振り返りっていきましょう。
まずシード期は事業戦略の壁打ちを行ったり、実証実験の相手先のご紹介を行います。アーリーステージに差し掛かり、次の資金調達が近づくとそのサポートを行います。さらに調達した資金を使って事業が成長してくると、経営人材採用支援や事業提携先の紹介を行います。ミドル/レイターに入るとIPOに向けての人材採用支援、そして引き続き資金調達支援も行います。IPOが数年後に見えてきた際には、監査法人の選定・主幹事証券会社の選定・エクイティストーリー構築支援も行っていきます。
さらに、これまで行っていた定例会がIPO準備のタイミングになると取締役会へと移行していきます。取締役会に移行してからも経営のPDCAサイクルがより一層回るよう支援します。
このような形で投資したタイミングからIPOまで一貫したサポートをAngel Bridgeは実施しています。
5. まとめ
前回から引き続き、組織、事業、ファイナンス、経営のPDCAサイクルの4つの側面からAngel Bridgeのハンズオン支援を説明してきました。Angel Bridgeは単なる資金提供に留まらず、豊富な経験とネットワークを活かし、ベンチャー企業と共に走り抜けるパートナーとしてサポートしています。
VCと言っても投資先企業とのかかわり方は、多種多様です。最近ではSNSやブログ記事、イベントなどで積極的に情報発信しているVCも多いので、簡単にチェックすることができます。投資先の企業から評判を聞いたり、知人のツテを使うなど情報収集を行いましょう。アプローチ方法としてはツイッターアカウントへのDM・オフィスアワーへの申し込み・HPへの問い合わせ・人づての紹介・イベントへの参加など様々考えられます。後悔のない資金調達ができるよう、最大限活用していきましょう。
2023.06.14 INVESTMENT
今回は、ファーメランタという、合成生物学的手法を用いて、植物希少成分の微生物発酵生産を研究開発している投資先についてご紹介したいと思います。
合成生物学とは、組織・細胞・遺伝子といった生物の構成要素を組み合わせて代謝経路や遺伝子配列などを再設計し、新しい生物システムを人工的に構築する学問分野のことを指します。ファーメランタはこの合成生物学的手法を用いた植物由来化学品の微生物発酵生産を研究開発しており、次世代のサプライチェーンを構築することを通じて人類および地球の健康増進に貢献することを目指す企業です。
植物由来化学品とは、植物の代謝産物(一次代謝産物/二次代謝産物)を活用した化学品です。そのうち、二次代謝産物は生物種独自の特異的な生理活性を有する化合物で、モルヒネやステビアの原料もこれに当たります。これらの物質は構成が複雑なため、化学合成は難しく、従来は植物抽出による生産が中心となっていました。しかしながら植物抽出には、植物の成長に時間・コストがかかり、技術的にも難しい、という課題があります。今回ご紹介するファーメランタは、従来の生産方法が抱えている課題を解決し、より一層効率的な生産を実現する革新的な技術を持っているバイオテックベンチャーです。
微生物発酵
化学品の生産には化学合成・植物抽出・微生物発酵、と大きく分けて3つのアプローチがあります。化学合成は安価に大量生産することが可能ですが、複雑な物質の生産には向いていない、という課題があります。一方で、植物抽出は複雑な物質の抽出が可能ですが、天候などに左右されるため安定供給が難しく、コストが高い、という課題があります。
そこで、ファーメランタは第3のアプローチである微生物発酵を用いています。遺伝子組み換えなどの合成生物学的手法と微生物発酵を組み合わせることによって、安価に純度の高い物質を生産することができ、本来自然界に存在していなかった新規物質も生産可能になります。従来、複雑な植物二次代謝産物は植物抽出で生産されていましたが、近年の技術発展に伴って微生物発酵による生産が可能になり、生産方法のシフトが起きつつあります。
植物二次代謝産物を原料とする鎮痛剤
植物二次代謝産物は治療用薬物として、主に、がん・関節炎・片頭痛・てんかんなど、現代医療での治療が困難な病気に鎮痛剤として幅広く使用されています。ファーメランタが初期的なターゲット領域に据えて研究開発しているカンナビノイド・テバインもこの鎮痛剤の医薬品成分にあたります。
近年、植物二次代謝産物を原料とする鎮痛剤市場は、承認数増加と事業者の参入によって成長が見込まれています。その市場規模は2022年から2028年にかけてCAGR8.5%で成長し、2028年には600億ドルに達すると予測され、注目を集めています。
実際に、カンナビノイド(医薬品、化粧品、健康食品、サプリメントなどにカンナビジオール(CBD)という成分が広く使用される)においては、従来の植物抽出による生産方法から、微生物発酵に急速にシフトしていくと予想されています。
※縦軸はカンナビノイドの生産量全体のうち微生物発酵によるものの割合(%)
カンナビノイドの微生物発酵による生産に関しては、規制緩和の動きや市場の急成長を見越して、既に多くのバイオプレイヤーが参入しています。しかし、足元ではまだ商用化フェーズに達するプレイヤーはほとんど存在していない状況であり、ブルーオーシャンが広がっています。
技術
ファーメランタは、先述のように様々なバイオプレイヤーが存在する中でも、独自の技術を確立しています。その技術とは、多数の遺伝子編集を施した大腸菌に糖類を与えて目的の物質である植物二次代謝産物を生産させる、というものです。
具体的には、効率的に植物二次代謝産物を生成する大腸菌の遺伝子設計(図①)、20以上の外来遺伝子を1菌体に導入して適切に発現させることを可能とする多段階遺伝子導入技術(図②)、目的物質の生産効率を向上させるための遺伝子の発現バランスの最適化(図③)、タンパク質過剰発現耐性菌株の作出(図④)など、ユニークな要素技術を確立しています。
ゲノムや菌の最適化によって、従来の植物抽出の数倍の生産量を達成することも理論的には実現可能であり、医薬品や健康食品などの原料を従来よりも低コストで供給することに大きな期待が寄せられています。
競合状況
ファーメランタは現在、テバイン・カンナビノイドの生産を中心に研究開発を行っています。合成生物学を用いて微生物発酵生産を行うバイオプレーヤーはいくつか存在していますが、そのほとんどが香料など比較的簡単な物質の生産に限られます。現状、高い技術力を要するテバインの生産を試みている競合は、アメリカのAntheia社のみです。
※植物二次代謝産物を対象とするプラットフォーマーで複雑な化合物に着手しているのはファーメランタとAntheia社の2社のみ
Antheia社は合成生物学を使用して、酵母から植物二次代謝産物を生産する技術を開発しています。Antheia社は約$140Mという巨額の調達を行い、先行研究を進めていますが、未だ商業的生産の実現には至っていません。一方でファーメランタは、酵母ではなく大腸菌を用いることで、より効率的に生産することに成功しており、多数の外来遺伝子の導入実績もあります。ファーメランタの研究開発の進捗次第では競合優位性を確立してシェアを取れる可能性があり、この巨大な市場において、業界トッププレーヤーの地位を築くことも期待できます。
経営陣
これまで説明してきた通り、本領域は先行事例が少なく、高い技術力が必要とされる難しい領域です。しかし、Angel Bridgeはファーメランタの経営陣について理解を深め、このチームならばこのような困難な領域に切り込んでいけると考えています。
まず、柊崎CEOは、バークレイズ証券やドイツ銀行の投資銀行部門でキャリアを積んでおり、ファイナンスに強みを持っています。NEDO SSA(研究開発型スタートアップ支援)のフェローであり、研究開発型ベンチャーの支援経験もあります。さらに、リファレンスからは物事を徹底的に理解しようとするタイプであり、実際に文系出身者ながら本領域について独学で学び、南CSOと中川CTOを巻き込んで起業に至った経緯が分かりました。このように柊崎CEOはビジネスマンでありながらも研究者とうまくコミュニケーションが取れる経営者ではないかと考えました。
また、南CSOは石川県立大学の助教授であり、合成生物学及び代謝工学分野を15年以上研究しているパイオニアです。世界的に権威のあるNature Communicationsに執筆論文が2回掲載された経験もあり、海外でも認められつつある期待の研究者です。
中川CTOも同じく石川県立大学の講師であり、大腸菌の分子生物学におけるスペシャリストです。世界で初めて植物アルカロイドの発酵生産に成功し、掲載論文が論文評価サイトであるFaculty of 1000に選出された経験もあります。
このように、優秀なビジネスマンと世界レベルの技術力のある研究者から構成される、ポテンシャルの高い経営チームもファーメランタの強みです。
おわりに
微生物発酵による植物二次代謝産物を原料とする鎮痛剤の生産は、巨大な市場が広がっている一方で、未だ商業生産に成功した事例はなく、高い技術力が求められる難しい分野です。しかし、Angel Bridgeはファーメランタの技術力、経営チームを鑑み、本領域でグローバルに戦える稀有な企業であると評価しました。
繰り返しになりますが、Angel Bridgeは社会に大きなインパクトをもたらすために、あえて難しいことに挑戦していくベンチャーこそ応援しがいがあると考えており、こういった領域に果敢に取り組むベンチャーを応援したいと考えています。事業戦略の壁打ちや資金調達のご相談など、お気軽にご連絡ください!
今回は、ファーメランタという、合成生物学的手法を用いて、植物希少成分の微生物発酵生産を研究開発している投資先についてご紹介したいと思います。
合成生物学とは、組織・細胞・遺伝子といった生物の構成要素を組み合わせて代謝経路や遺伝子配列などを再設計し、新しい生物システムを人工的に構築する学問分野のことを指します。ファーメランタはこの合成生物学的手法を用いた植物由来化学品の微生物発酵生産を研究開発しており、次世代のサプライチェーンを構築することを通じて人類および地球の健康増進に貢献することを目指す企業です。
植物由来化学品とは、植物の代謝産物(一次代謝産物/二次代謝産物)を活用した化学品です。そのうち、二次代謝産物は生物種独自の特異的な生理活性を有する化合物で、モルヒネやステビアの原料もこれに当たります。これらの物質は構成が複雑なため、化学合成は難しく、従来は植物抽出による生産が中心となっていました。しかしながら植物抽出には、植物の成長に時間・コストがかかり、技術的にも難しい、という課題があります。今回ご紹介するファーメランタは、従来の生産方法が抱えている課題を解決し、より一層効率的な生産を実現する革新的な技術を持っているバイオテックベンチャーです。
微生物発酵
化学品の生産には化学合成・植物抽出・微生物発酵、と大きく分けて3つのアプローチがあります。化学合成は安価に大量生産することが可能ですが、複雑な物質の生産には向いていない、という課題があります。一方で、植物抽出は複雑な物質の抽出が可能ですが、天候などに左右されるため安定供給が難しく、コストが高い、という課題があります。
そこで、ファーメランタは第3のアプローチである微生物発酵を用いています。遺伝子組み換えなどの合成生物学的手法と微生物発酵を組み合わせることによって、安価に純度の高い物質を生産することができ、本来自然界に存在していなかった新規物質も生産可能になります。従来、複雑な植物二次代謝産物は植物抽出で生産されていましたが、近年の技術発展に伴って微生物発酵による生産が可能になり、生産方法のシフトが起きつつあります。
植物二次代謝産物を原料とする鎮痛剤
植物二次代謝産物は治療用薬物として、主に、がん・関節炎・片頭痛・てんかんなど、現代医療での治療が困難な病気に鎮痛剤として幅広く使用されています。ファーメランタが初期的なターゲット領域に据えて研究開発しているカンナビノイド・テバインもこの鎮痛剤の医薬品成分にあたります。
近年、植物二次代謝産物を原料とする鎮痛剤市場は、承認数増加と事業者の参入によって成長が見込まれています。その市場規模は2022年から2028年にかけてCAGR8.5%で成長し、2028年には600億ドルに達すると予測され、注目を集めています。
実際に、カンナビノイド(医薬品、化粧品、健康食品、サプリメントなどにカンナビジオール(CBD)という成分が広く使用される)においては、従来の植物抽出による生産方法から、微生物発酵に急速にシフトしていくと予想されています。
※縦軸はカンナビノイドの生産量全体のうち微生物発酵によるものの割合(%)
カンナビノイドの微生物発酵による生産に関しては、規制緩和の動きや市場の急成長を見越して、既に多くのバイオプレイヤーが参入しています。しかし、足元ではまだ商用化フェーズに達するプレイヤーはほとんど存在していない状況であり、ブルーオーシャンが広がっています。
技術
ファーメランタは、先述のように様々なバイオプレイヤーが存在する中でも、独自の技術を確立しています。その技術とは、多数の遺伝子編集を施した大腸菌に糖類を与えて目的の物質である植物二次代謝産物を生産させる、というものです。
具体的には、効率的に植物二次代謝産物を生成する大腸菌の遺伝子設計(図①)、20以上の外来遺伝子を1菌体に導入して適切に発現させることを可能とする多段階遺伝子導入技術(図②)、目的物質の生産効率を向上させるための遺伝子の発現バランスの最適化(図③)、タンパク質過剰発現耐性菌株の作出(図④)など、ユニークな要素技術を確立しています。
ゲノムや菌の最適化によって、従来の植物抽出の数倍の生産量を達成することも理論的には実現可能であり、医薬品や健康食品などの原料を従来よりも低コストで供給することに大きな期待が寄せられています。
競合状況
ファーメランタは現在、テバイン・カンナビノイドの生産を中心に研究開発を行っています。合成生物学を用いて微生物発酵生産を行うバイオプレーヤーはいくつか存在していますが、そのほとんどが香料など比較的簡単な物質の生産に限られます。現状、高い技術力を要するテバインの生産を試みている競合は、アメリカのAntheia社のみです。
※植物二次代謝産物を対象とするプラットフォーマーで複雑な化合物に着手しているのはファーメランタとAntheia社の2社のみ
Antheia社は合成生物学を使用して、酵母から植物二次代謝産物を生産する技術を開発しています。Antheia社は約$140Mという巨額の調達を行い、先行研究を進めていますが、未だ商業的生産の実現には至っていません。一方でファーメランタは、酵母ではなく大腸菌を用いることで、より効率的に生産することに成功しており、多数の外来遺伝子の導入実績もあります。ファーメランタの研究開発の進捗次第では競合優位性を確立してシェアを取れる可能性があり、この巨大な市場において、業界トッププレーヤーの地位を築くことも期待できます。
経営陣
これまで説明してきた通り、本領域は先行事例が少なく、高い技術力が必要とされる難しい領域です。しかし、Angel Bridgeはファーメランタの経営陣について理解を深め、このチームならばこのような困難な領域に切り込んでいけると考えています。
まず、柊崎CEOは、バークレイズ証券やドイツ銀行の投資銀行部門でキャリアを積んでおり、ファイナンスに強みを持っています。NEDO SSA(研究開発型スタートアップ支援)のフェローであり、研究開発型ベンチャーの支援経験もあります。さらに、リファレンスからは物事を徹底的に理解しようとするタイプであり、実際に文系出身者ながら本領域について独学で学び、南CSOと中川CTOを巻き込んで起業に至った経緯が分かりました。このように柊崎CEOはビジネスマンでありながらも研究者とうまくコミュニケーションが取れる経営者ではないかと考えました。
また、南CSOは石川県立大学の助教授であり、合成生物学及び代謝工学分野を15年以上研究しているパイオニアです。世界的に権威のあるNature Communicationsに執筆論文が2回掲載された経験もあり、海外でも認められつつある期待の研究者です。
中川CTOも同じく石川県立大学の講師であり、大腸菌の分子生物学におけるスペシャリストです。世界で初めて植物アルカロイドの発酵生産に成功し、掲載論文が論文評価サイトであるFaculty of 1000に選出された経験もあります。
このように、優秀なビジネスマンと世界レベルの技術力のある研究者から構成される、ポテンシャルの高い経営チームもファーメランタの強みです。
おわりに
微生物発酵による植物二次代謝産物を原料とする鎮痛剤の生産は、巨大な市場が広がっている一方で、未だ商業生産に成功した事例はなく、高い技術力が求められる難しい分野です。しかし、Angel Bridgeはファーメランタの技術力、経営チームを鑑み、本領域でグローバルに戦える稀有な企業であると評価しました。
繰り返しになりますが、Angel Bridgeは社会に大きなインパクトをもたらすために、あえて難しいことに挑戦していくベンチャーこそ応援しがいがあると考えており、こういった領域に果敢に取り組むベンチャーを応援したいと考えています。事業戦略の壁打ちや資金調達のご相談など、お気軽にご連絡ください!
2023.05.31 INTERVIEW
デジタル化を通じて集客とオペレーションの改善に取り組む
ミツモアの事業内容を聞かせてください。
吉村:ミツモアは2つのサービスを提供しています。1つは各界のプロに見積もりを依頼できるサービス「ミツモア」、そしてもう1つが「MeetsOne」という現場事業者向けのオペレーション改善サービスです。
具体的にどのような課題を解決する事業、サービスなのでしょうか?
吉村:現場事業者の多くは、個人事業主や小規模事業者が多く、いまだに電話、ファックス、紙によるコミュニケーションに頼っていることが少なくありません。利用者にしてみれば、庭木の剪定や家のリフォームなど、1日でも早く解決したい問題があるのに、依頼から発注までに2週間程度待たされることも多い上に、信頼できる業者を見つけるのも大変です。一方、現場事業者にしてみれば、見積書提出後のフォローや既存顧客に対する定期的なケアまで手が回らず、営業機会の損失を重ねるケースが珍しくありませんでした。しかしミツモアなら、事前に入力していただいた詳細な価格表に基づいて、24時間いつでも1分程度で見積もり出すことができ、MeetsOneなら、ITに不慣れな方でも簡単に業務効率化を通じ営業力強化が図れます。私たちが提供しているのは、集客とオペレーションのデジタル化によって旧態依然とした業務を改善し、稼げる仕組みを提供するサービスなんです。
競合状況はいかがですか?
吉村:ミツモアが得意としているのは、ある程度相場が明らかなサービスと利用者のマッチングではなく、本来なら現地調査や詳細な打ち合わせなどを経なければ、金額の目安さえわからない個別性の高い依頼です。確かにプロに仕事を依頼するサービスや事業者の業務効率化を支援するサービスはほかにも存在しますが、業務フローが複雑であるがゆえに、長らく古いプロセスが温存されてきてしまった領域をソフトウェアの力で改善するという意味において、真正面からぶつかり合う競合はほぼないという認識です。
プロフェッショナルファームからシード期のスタートアップへ
幼少期から社会に関心のあるお子さんだったと聞いています。社会人になるまでどんな生活をされていたのでしょう?
吉村:生まれも育ちも奈良で、いま振り返るとちょっと恥ずかしいんですけれど、教育制度に一言もの申したくて文科省にパブリックコメントを送ったりするような「意識高い系」の小学生でしたね(笑)。子どものころから家族揃ってテレビのニュースを観たり、新聞を読む機会が多かったので、自然と社会への関心が高くなったんだと思います。将来の夢は、割と素朴に「国公立大学に進学して公務員になれたら」と思うくらいで、はっきりとした目標があったわけではありません。ただ、何らかの形で社会に貢献したいという気持ちはその当時からあった気がします。
その後、京都大学法学部に進学され、卒業後はマッキンゼーに入られました。どんな心境だったのですか?
吉村:大学時代に鯖江市の地域活性化活動に携わったときに、これから戦略コンサルタントになるという方にお会いして、コンサルティングファームに興味を持ちました。コンサルティングの世界について、自分なりにいろいろと調べてみると、公務員や官僚より自分の性分に合っていそうな気がしましたし、民間のほうがかえって面白い仕事ができるかもしれないと思って受けたところ、運良く入社できました。
マッキンゼー時代に得たこと、学んだことについて教えてください。
吉村:マッキンゼーに在籍していた4年半弱の間に学んだことは数知れません。社会人としてのイロハにはじまり、時間あたりの価値を最大化するために何を考え、何をどうすべきか、プロとして必要なことをすべてを教えてもらいました。学んだのは具体的な方法論や手法だけではありません。「戦略とは何か」「論理的に考えるとはどういうことか」「課題解決のためにどんな問いを立てるべきか」といった、抽象度の高い思考力も鍛えられました。優秀で意欲的な人たちに囲まれ、成果を出すために必要なすべてを実践の場で体系的に学べたのは得難い経験だったと思います。
なぜ、No.1プロフェッショナルファームを自認するマッキンゼーから、スタートアップのミツモアに移られたのでしょう?
吉村:マッキンゼーでは得るものが多かったのですが、さまざまな経営者と接するなかで、当事者として戦略を描き、ビジネスと向き合い成果を出したいと考えるようになりました。実はマッキンゼーを退職後、起業するつもりで準備をしていた時期もあったのですが、残念ながら計画が頓挫してしまったこともあり時間ができたので、シード期のスタートアップの現実を知ろうと思いマッキンゼー時代の先輩に紹介されたミツモアにアルバイト入社しました。
ミツモアのどこに惹かれたのでしょうか?
吉村:当初「3カ月で辞めます」と公言していたのですが、CEOの石川彩子、CTOの柄澤史也の優秀さや裏表のない言動、誠実な人柄に触れ気が変わりました。当時はまだ事業が立ち上がったばかりで、売上も月に数万円程度しかない超アーリーステージです。こうした状況にあっても、石川と柄澤は私利私欲を満たすためではなく、全身全霊で顧客のため世の中のためにベストが尽くそうとしていたんです。当時私は27歳で、この先5年、10年をどこでどう過ごすべきか、キャリアの上でも人生の上でも非常に大事な選択だと考えていたからこそ3カ月で辞めるつもりだったのですが、この人たちとならきっと有意義な時間が共有できると確信したので、ミツモアに腰を落ち着けました。
河西:いま吉村さんが言われた通り、石川さん、柄澤さん、吉村さんをはじめ、ミツモアの経営陣は事業に対する思いの強さや情熱がありながら、論理的に考え、よく話し合い、理に適った決断を下せる非常に希有なチームです。頭の良さに加え気合いと根性が備わっている。そんな印象がありますね。
吉村:河西さんにそう言っていただけて光栄です。きっと2人も喜ぶと思います(笑)。
ハンズオン投資家ならではの心強い一言が救いに
河西さんに聞きます。ミツモアとの出会いを教えてください。
河西:2019年1月ごろだったと思います。あるビジネスイベントで石川さんのプレゼンを拝見して、非常にユニークで将来性のあるサービスだと感じ声を掛けさせていただいたのが最初です。その2週間後には、石川さん、柄澤さん、吉村さんに弊社までご足労いただき、その後も何度か面談を重ねてお話しさせていただいたのですが、最初に受けた印象は変わることなくむしろ確信に変わりました。はじめてお会いしてから1カ月足らずでシリーズAラウンドに参加することを決め、それ以降も継続的にご支援させていただき、2022年8月に実施されたシリーズBラウンドにも参加させていただきました。
ユニークで将来性のあるサービスに惹かれたとのことですが、投資に至った一番の決め手は何だったのでしょうか?
河西:皆さんそれぞれキャラクターは違うんですが、 価値観が一致しており、何があっても諦めない人たちだと感じましたし、あえてニッチを狙わず、見積もりを通じてあらゆるビジネスを支援するという志の大きさも決断を揺るぎないものにしてくれました。ここまで明確な目標があり、情熱に裏打ちされた考え抜く力と実行する意欲があるなら、仮に投資が失敗しても悔いが残らないだろうと感じ投資に踏み切りました。
Angel Bridgeからはどのような支援を受けていますか?
吉村:基本的には月に1度のペースで行っている株主報告会にご出席いただき、主に資金調達や採用の面でのアドバイスやサポートをいただいています。
とくに印象に残っているエピソードがあれば教えてください。
吉村:2021年の暮れにシリーズBの調達準備をはじめたころの話です。当時、株式市場は悪化の一途を辿っており、投資環境はかなり冷え込んでいました。そうした状況下にあっても河西さんは、「最後は俺たちが何とかするから大丈夫」と、私たちの判断に太鼓判を押してくださったんです。私たちの価値観や目指すところに共感していただけているんだと感じずにはいられませんでしたし「そこまで言っていただけるなら諦めず頑張ろう」という気持ちにもなれました。本当に心強かったです。
河西:資金的な面でのお手伝い以外でハンズオン投資家にできることは、実践的なアドバイスと寄り添う気持ちしかありません。ミツモアを最後まで支える覚悟があることをいち早くお伝えすることが皆さんの励みになるのであればと思ってお話ししました。将来性のあるビジネスですし、ガッツのある経営陣が揃っているんですからサポートしないわけにはいきません。当時はそんな心境でしたね。
吉村:シリーズAラウンドの調達の後、ビジネスが伸び悩んだ時期にも何度も相談に乗っていただきましたね。
河西:そうでした。勇気を持って状況を変えていこうとされている姿を見て、きっとトンネルから抜けられると思ったので、とくに不安はありませんでした。実際、新たな施策がうまくいきビジネスが再び成長しはじめたのを見て、このチームなら将来、新たな課題に直面したとしても必ず乗り越えられるだろうなと確信しました。
吉村:ありがとうございます。河西さんの言葉やご支援がどれだけ励みになったかわかりません。
「稼ぐ」仕組みの提供で日本のGDPに貢献する
改めて吉村さんにうかがいます。これからミツモアをどんな会社にしていきたいですか?
吉村:社会を支える労働人口が減りゆくなかで、限られた人数でいかに生産性高く「稼ぎを上げていくか」が、これからの日本にとって大きな課題です。手間や時間が掛かるせいで仕事を頼みたいのに頼めなかった方、また、いくら請求されるかわからず発注に二の足を踏んでいた方々が、ミツモアを通じて心置きなく現場事業者さんに仕事を頼めるような環境を整えていくつもりです。同時にMeetsOneの活用によって、業務の効率化と営業力強化が実現できれば、お客様のビジネスはさらに伸びるはず。これからも「稼ぐ」ための仕組みによって、お客様のビジネス、ひいては日本のGDPに貢献したいと思っています。
河西さんはAngel Bridgeとしてどんな支援を提供したいとお考えですか?
河西:ミツモアは自ら課題解決できる自走型チームなので、こまごまとしたアドバイスよりも、温かく見守ること、寄り添うことが大事だと思っています。ここ一番というタイミングで皆さんが正しい決断が下せるよう、これからもそんなスタンスでサポートしていくつもりです。
最後にスタートアップ経営者やスタートアップに関心を持つ方々にメッセージをお願いします。
吉村:スタートアップは苦労の連続です。気合いと根性で乗り越えざるを得ない局面に出くわすこともよくあります。スタートアップに携わるのであれば、どんなビジネスをどのような手段で実現するのかと同じくらい、誰と一緒に成し遂げたいか、よく考えてみることをお勧めしたいですね。良い時期もさることながら、価値観を共有できない人と苦しい時期を共有することはできないからです。これは創業メンバーや社員選びに限らず、投資家選びにも通じる話だと思います。
河西:この記事を読んでくださっている方のなかには、コンサルティングファームなどで活躍中の方も多いでしょう。そうしたプロフェッショナル志向を持つ方にこそ、もっとスタートアップに関心を持っていただきたいというのが私の願いです。ミツモアのような前途有望なスタートアップに優秀な人材が集まれば、吉村さんがおっしゃるように、日本のGDPを増やすことにつながるはず。ミツモアは経営陣も優秀ですしビジネスも有望です。投資家の立場からもお勧めできる会社なので、興味をお持ちの方はぜひアプローチしてみてほしいですね。
2023.05.25 INVESTMENT
2023年5月25日に、Angel Bridgeの投資先である、武田薬品工業発ベンチャーの株式会社リボルナバイオサイエンスがシリーズDラウンドにおいて6.7億円の資金調達を発表しました。
今回は、独自の創薬プラットフォームを通じてRNAを標的とする低分子医薬品の研究開発を行う、株式会社リボルナバイオサイエンスへの投資に至った背景について解説します。
RNAを標的とする低分子医薬品は、新たな治療方法として近年多くのグローバルメガファーマも注目している領域です。当該技術によって、従来治療法がなかったRNA機能不全を原因とする難病も治療可能になり、経口摂取でQOLの高い治療も実現できます。
現在難病で苦しむ多くの患者さんやそのご家族が明るい未来を迎えられるように、創薬領域から医療社会に貢献する当社の魅力が伝われば幸いです。
RNA標的低分子医薬品の概要
RNA(リボ核酸)とは、DNAに保持されているタンパク質の情報を媒介し、タンパク質の産生に関わる物質です。
また、低分子医薬品とは分子量がおよそ10,000以下で、大半は化学物質によって生成された医薬品です。経口吸収性に優れており、長年開発が進められてきたことから開発リスクが低く、製造コストも比較的安いことが特徴です。
病気はタンパク質の生成が過不足することによって引き起こされることがありますが、タンパク質そのものではなく、タンパク質の生成に必要なRNAをターゲットとすることで、より効果的に治療できるとされています。これまで、RNAをターゲットとする薬剤は核酸医療薬が主体でしたが、生体内で不安定、かつ標的への伝達が困難であるという課題がありました。
しかし近年、RNAの構造解析や分析技術の発展に伴い、低分子医薬品の簡便さでRNAを直接ターゲットにできるRNA標的低分子医薬品が登場し、フロンティア領域として、大手製薬会社を中心に脚光を浴びています。
市場規模と動向
RNA標的の低分子医薬品市場は、今後急成長を見込む新しい領域で、グローバルメガファーマの関心も高い有望な領域です。市場規模は2030年までに1兆円となる見込み(Roots Analysis調査より)であり、Roche社、AstraZeneca社やSanofi社など多くのメガファーマが、専門のライセンサー(開発会社)と提携をしています。
さらに、Roche社が販売する脊髄性筋萎縮症(SMA)の治療薬であるRisdiplamや、PTC Therapeuticsが販売・製造するデュシェンヌ型筋ジストロフィー(DMD)の治療薬であるTranslaraなど、すでに上市済みの医薬品が2つ存在し、RNA標的の低分子医薬品の効果や安全性は実証されていると考えられます。
また、リボルナバイオサイエンスが対象とする疾患治療全体の潜在的な市場規模も十分に大きく、SMA(脊髄性筋萎縮症)だけでも1兆円、FTLD(前頭側頭葉変性症; 世界で400万人)やPD(パーキンソン病; 世界で700万人)などの他の病気も合わせると数兆円と十分大きな市場規模が存在します。
技術の概要
リボルナバイオサイエンスは、RNA InsightとRNA Dominoという二つのモジュールからなるスクリーニングプラットフォームを有しています。自然な3次元構造を有するRNAを使用したスクリーニング技術は世界で唯一の技術であり、また転写からタンパク質生成までの過程全てでアプローチが可能なため、全遺伝性疾患を対象にできる唯一のバイオベンチャーです。
RNA Insightは、体内環境下に近い全長3次元のRNAを活用できる世界初のスクリーニング技術です。他社の技術では、スクリーニングの際に断片状のRNAを使用して低分子化合物を結合させていましたが、臨床環境とのギャップが生まれやすく、臨床での成功確率やRNAの選択性が低いという課題がありました。そこでリボルナバイオサイエンスでは、あらかじめ体内環境下に近いスクリーニング環境を構築することで、臨床試験における成功率を高め、効能を高めながら副作用の低減も可能です。
RNA Dominoは、異常なスプライシングを正常化できる低分子化合物をスクリーニングする技術です。患者の細胞を利用したアッセイが特徴で、擬陽性なく直接スプライシング調節作用を持つ低分子化合物を同定可能であり、あらゆるスプライシングパターンに対応可能で、臨床試験での成功確率も高い技術です。
事業の概要
当社の技術は標的となるRNAが特定できれば、異なる疾患に対しても容易に横展開できるため、多くのパイプラインを並行して進めることが可能です。当該技術を生かして、短期的には創薬プラットフォーム型で多くの製薬企業との共同開発を進めていますが、中長期的には自社で開発から販売まで行う自社パイプラインの開発も視野に入れています。
現状、各大手製薬企業との議論も進んでおり、世界で神経科学をリードするバイオテクノロジー技術で革新的な治療薬を生み出し、約6兆円の時価総額を誇るBiogen社とは大型のオプション付きライセンス契約を締結済みです。また、他にも異なる疾患を対象に複数のメガファーマとも議論中です。
現在は技術の実証のために成功確率が比較的高く、開発期間が比較的短い希少疾患を対象としていますが、将来的には患者数の多い遺伝性疾患や高有病率疾患へも拡張し、対象とする市場を拡大していきます。
経営陣
リボルナバイオサイエンスに投資するにあたり、経営チームへの理解も深めました。
富士CEO兼COOは、武田薬品工業にて15年以上の創薬研究に従事しており、特にRNA創薬に関する深い知見とパッションを持った人物です。そのパッションに惹かれ、優秀な経営陣や社員の方々も入社しています。また、ファイナンスの高い専門性を持った小田CFOや、武田薬品の元研究員の方々も複数在籍しており、会社全体としてのRNA関連の研究・技術開発力の高さや、事業開発力の高さも評価しました。
おわりに
RNAを標的とする低分子医薬品はグローバルでも注目度が高く、メガファーマが多数注目している領域です。リボルナバイオサイエンスのコア技術は、従来の方法よりも臨床での実践性に優れるとともに、高いRNA選択性を達成することができ、こうした治療薬の実現性を格段に高める可能性があります。また、富士CEOをはじめ経営陣は創薬に対する熱いパッションを持っており、難易度の高い当該領域で戦っていけると信じています。
Angel Bridgeは社会への大きなインパクトを創出すべく、難解な課題に果敢に挑戦していくベンチャーを応援しています。ぜひ、事業戦略の壁打ちや資金調達のご相談など、お気軽にご連絡ください!
2023年5月25日に、Angel Bridgeの投資先である、武田薬品工業発ベンチャーの株式会社リボルナバイオサイエンスがシリーズDラウンドにおいて6.7億円の資金調達を発表しました。
今回は、独自の創薬プラットフォームを通じてRNAを標的とする低分子医薬品の研究開発を行う、株式会社リボルナバイオサイエンスへの投資に至った背景について解説します。
RNAを標的とする低分子医薬品は、新たな治療方法として近年多くのグローバルメガファーマも注目している領域です。当該技術によって、従来治療法がなかったRNA機能不全を原因とする難病も治療可能になり、経口摂取でQOLの高い治療も実現できます。
現在難病で苦しむ多くの患者さんやそのご家族が明るい未来を迎えられるように、創薬領域から医療社会に貢献する当社の魅力が伝われば幸いです。
RNA標的低分子医薬品の概要
RNA(リボ核酸)とは、DNAに保持されているタンパク質の情報を媒介し、タンパク質の産生に関わる物質です。
また、低分子医薬品とは分子量がおよそ10,000以下で、大半は化学物質によって生成された医薬品です。経口吸収性に優れており、長年開発が進められてきたことから開発リスクが低く、製造コストも比較的安いことが特徴です。
病気はタンパク質の生成が過不足することによって引き起こされることがありますが、タンパク質そのものではなく、タンパク質の生成に必要なRNAをターゲットとすることで、より効果的に治療できるとされています。これまで、RNAをターゲットとする薬剤は核酸医療薬が主体でしたが、生体内で不安定、かつ標的への伝達が困難であるという課題がありました。
しかし近年、RNAの構造解析や分析技術の発展に伴い、低分子医薬品の簡便さでRNAを直接ターゲットにできるRNA標的低分子医薬品が登場し、フロンティア領域として、大手製薬会社を中心に脚光を浴びています。
市場規模と動向
RNA標的の低分子医薬品市場は、今後急成長を見込む新しい領域で、グローバルメガファーマの関心も高い有望な領域です。市場規模は2030年までに1兆円となる見込み(Roots Analysis調査より)であり、Roche社、AstraZeneca社やSanofi社など多くのメガファーマが、専門のライセンサー(開発会社)と提携をしています。
さらに、Roche社が販売する脊髄性筋萎縮症(SMA)の治療薬であるRisdiplamや、PTC Therapeuticsが販売・製造するデュシェンヌ型筋ジストロフィー(DMD)の治療薬であるTranslaraなど、すでに上市済みの医薬品が2つ存在し、RNA標的の低分子医薬品の効果や安全性は実証されていると考えられます。
また、リボルナバイオサイエンスが対象とする疾患治療全体の潜在的な市場規模も十分に大きく、SMA(脊髄性筋萎縮症)だけでも1兆円、FTLD(前頭側頭葉変性症; 世界で400万人)やPD(パーキンソン病; 世界で700万人)などの他の病気も合わせると数兆円と十分大きな市場規模が存在します。
技術の概要
リボルナバイオサイエンスは、RNA InsightとRNA Dominoという二つのモジュールからなるスクリーニングプラットフォームを有しています。自然な3次元構造を有するRNAを使用したスクリーニング技術は世界で唯一の技術であり、また転写からタンパク質生成までの過程全てでアプローチが可能なため、全遺伝性疾患を対象にできる唯一のバイオベンチャーです。
RNA Insightは、体内環境下に近い全長3次元のRNAを活用できる世界初のスクリーニング技術です。他社の技術では、スクリーニングの際に断片状のRNAを使用して低分子化合物を結合させていましたが、臨床環境とのギャップが生まれやすく、臨床での成功確率やRNAの選択性が低いという課題がありました。そこでリボルナバイオサイエンスでは、あらかじめ体内環境下に近いスクリーニング環境を構築することで、臨床試験における成功率を高め、効能を高めながら副作用の低減も可能です。
RNA Dominoは、異常なスプライシングを正常化できる低分子化合物をスクリーニングする技術です。患者の細胞を利用したアッセイが特徴で、擬陽性なく直接スプライシング調節作用を持つ低分子化合物を同定可能であり、あらゆるスプライシングパターンに対応可能で、臨床試験での成功確率も高い技術です。
事業の概要
当社の技術は標的となるRNAが特定できれば、異なる疾患に対しても容易に横展開できるため、多くのパイプラインを並行して進めることが可能です。当該技術を生かして、短期的には創薬プラットフォーム型で多くの製薬企業との共同開発を進めていますが、中長期的には自社で開発から販売まで行う自社パイプラインの開発も視野に入れています。
現状、各大手製薬企業との議論も進んでおり、世界で神経科学をリードするバイオテクノロジー技術で革新的な治療薬を生み出し、約6兆円の時価総額を誇るBiogen社とは大型のオプション付きライセンス契約を締結済みです。また、他にも異なる疾患を対象に複数のメガファーマとも議論中です。
現在は技術の実証のために成功確率が比較的高く、開発期間が比較的短い希少疾患を対象としていますが、将来的には患者数の多い遺伝性疾患や高有病率疾患へも拡張し、対象とする市場を拡大していきます。
経営陣
リボルナバイオサイエンスに投資するにあたり、経営チームへの理解も深めました。
富士CEO兼COOは、武田薬品工業にて15年以上の創薬研究に従事しており、特にRNA創薬に関する深い知見とパッションを持った人物です。そのパッションに惹かれ、優秀な経営陣や社員の方々も入社しています。また、ファイナンスの高い専門性を持った小田CFOや、武田薬品の元研究員の方々も複数在籍しており、会社全体としてのRNA関連の研究・技術開発力の高さや、事業開発力の高さも評価しました。
おわりに
RNAを標的とする低分子医薬品はグローバルでも注目度が高く、メガファーマが多数注目している領域です。リボルナバイオサイエンスのコア技術は、従来の方法よりも臨床での実践性に優れるとともに、高いRNA選択性を達成することができ、こうした治療薬の実現性を格段に高める可能性があります。また、富士CEOをはじめ経営陣は創薬に対する熱いパッションを持っており、難易度の高い当該領域で戦っていけると信じています。
Angel Bridgeは社会への大きなインパクトを創出すべく、難解な課題に果敢に挑戦していくベンチャーを応援しています。ぜひ、事業戦略の壁打ちや資金調達のご相談など、お気軽にご連絡ください!
2023.04.21 INVESTMENT
2023年4月18日、Angel Bridgeの投資先であるブルーモ・インベストメント株式会社(以下ブルーモ)がシードラウンドにて8億円の資金調達を発表しました。
ブルーモは、米国株・ETF投資アプリを2023年夏までにローンチする予定です。現在、日本市場ではロボアドバイザーや短期投資向けのネット証券サービスはたくさんありますが、資産形成を目的とした「スマホでも使い易い長期投資のインターフェイス」は存在しません。そこで、ブルーモはこの領域をカバーするプロダクトをリリースすることにしました。
今回は、ブルーモへAngel Bridgeが投資した理由を解説します。
海外でのモバイル投資アプリの動向
近年、海外ではモバイル投資アプリのユニコーン企業が多数誕生しています。2020年末から2021年にかけてはRobinhoodという初心者向けの投資アプリが爆発的に流行り、多くの若者が株式投資を行うきっかけとなりました。Robinhoodは現在も2,300万の口座を持っています。顧客の預金残高で得られる利息、高頻度トレーダーへの注文情報の販売、証拠金貸与が収益となっていたため、取引手数料が無料であることが特徴的です。
アメリカの個人投資活発化のきっかけは、2020年からの巣ごもり需要です。特に若年層はSNS掲示板での情報交換を通じて気軽に投資を行うようになりました。
他にも、M1 Financeがユーザー数100万人、顧客口座残高61億ドル、Public.comが2021年時点でユーザー数300万人以上と代表的な地位をアメリカで占めています。
日本国内の状況と創業の経緯
では日本国内の個人投資の状況はどうでしょうか。日本はアメリカをはじめとする海外に比べて個人投資が浸透していないのが現状です。しかし、ここ最近外部的な要因で投資への関心が高まっています。
2022年5月、岸田首相は「資産所得倍増プラン」を掲げ、「貯蓄から投資へ」という目標へのコミットを示しました。その実現のため、NISAやiDeCoの拡充・改革などが実施され
、非課税期間が無制限になったり、年間投資額が最大360万円までとなることが決まりました。
TwitterやYoutubeなどのSNS上で、投資、特に米国株に関するコンテンツの需要が高まっており、米国株を含むツイート数は年66%のペースで増加しています。
実際、証券口座開設数は急速に加速しており、2011年から2019年までの9年間で500万口座開設であったのに対し、2020年と2021年の2年間で約500万もの口座が開設されました。
このような追い風環境の中、中村CEOは「この日本で生まれつつある新しい資産形成層を支援し、誰もがより良い未来を描ける社会の実現を目指したい」という強い想いを持ってブルーモを創業しました。
ここで日本のモバイル投資アプリ市場について説明します。図の左上は、ウェルスナビを始めとするロボアド領域です。自分で投資銘柄を考えるのではなく、投資スタイルを選ぶと自動的に複数の投資信託を組み合わせて投資を実行してくれます。最近ではマネックス証券や松井証券など既存証券もロボアドを導入し始めています。
図の右下はいわゆるネット証券で、楽天証券やPayPay証券などがあります。自分で個別銘柄を選んで投資を行います。最近利用者が増えてきましたが、まだまだスマホでは操作しにくいものもあったりします。
ここでブルーモは、スマホアプリ特化の証券会社という立ち位置で、米国株に絞ったユーザーインターフェース(UI)が良いアプリをローンチすることにしました。
ブルーモの事業概要
ここからはブルーモの特徴について説明していきます。
ブルーモはスマホに最適化された優れたユーザーインターフェース(UI)と長期資産形成に必要な機能を持つ新しいスマホ証券アプリです。情報収集から取引まで一貫して一つのアプリで対応しており、初心者でも簡単に投資が行えます。
ブルーモの特徴的な機能は、3つあります。1つ目はポートフォリオ投資機能で、米国株・ETFで銘柄・比率を指定すれば、その目標比率を達成するように必要な売買を計算して取引を実行してくれます。
2つ目はコミュニティ機能で、他人の運用方針を見て自分のポートフォリオを決定したりできます。今までTwitterや掲示板などで情報収集した後に証券サイトで購入していたプロセスが、一つのアプリで完結します。
3つ目は教育コンテンツです。ブルーモのアプリ内で、世界経済・米国市場の動きの分かる情報コンテンツが提供されるため、ユーザーは資産状況の確認ついでに情報収集ができます。この機能は「日本の金融リテラシーを高めたい」という中村CEOの熱い思いが表れています。
経営陣
投資を検討するにあたって、経営陣への理解も深めました。
CEOの中村氏は、東京大学法学部を卒業後、東京大学経済学部修士を修了。財務省、マッキンゼーなど非常に優秀なキャリアを築いています。また一緒に働いていたメンバーからは、「今まで働いていたマネージャーの中で一番優秀。能力が高く、やると言ったことは必ずやり切る。」という意見も聞きしました。マッキンゼー時代の後輩もメンバーとして連れてきていることから、巻き込み力の高さも持ち合わせていることが分かります。
CTOの小林氏は、東京大学情報理工修士を修了。未踏クリエーター、フリーランスエンジニアを経て、Fintechスタートアップのエメラダで執行役員を務めていました。本事業を進める上で、これ以上ない人材だと考えています。
おわりに
Angel Bridgeは、市場拡大が見込めるモバイル投資の領域において、実績のある優秀な経営陣が取り組む新しい投資アプリであるという点を評価しています。
それに加え、中村CEOの熱い野心にも共感しています。中村CEOは大学時代から日本の個人投資環境について課題感を抱き、このテーマをずっと考えていました。日本は将来的に経済危機に陥るリスクを抱えており、それを感じた個人が海外資産に逃避する結果、「日本人がグローバル投資で資産管理する時代」がやってくると考えています。ブルーモは、今この時代に求められている新しい金融インフラを作り、これまで「政府のもの」「専門家のもの」と思われていた投資を「みんなのもの」にすることを目指しています。
日本を代表する金融インフラを実現してもらいたいと考え、今回投資に至りました。
Angel Bridgeは社会に大きなインパクトをもたらすために、難しいことに果敢に取り組むベンチャーを応援していきたいと考えています!事業の壁打ちや資金調達のご相談など事業の壁打ちや資金調達のご相談など、お気軽にご連絡ください!
2023年4月18日、Angel Bridgeの投資先であるブルーモ・インベストメント株式会社(以下ブルーモ)がシードラウンドにて8億円の資金調達を発表しました。
ブルーモは、米国株・ETF投資アプリを2023年夏までにローンチする予定です。現在、日本市場ではロボアドバイザーや短期投資向けのネット証券サービスはたくさんありますが、資産形成を目的とした「スマホでも使い易い長期投資のインターフェイス」は存在しません。そこで、ブルーモはこの領域をカバーするプロダクトをリリースすることにしました。
今回は、ブルーモへAngel Bridgeが投資した理由を解説します。
海外でのモバイル投資アプリの動向
近年、海外ではモバイル投資アプリのユニコーン企業が多数誕生しています。2020年末から2021年にかけてはRobinhoodという初心者向けの投資アプリが爆発的に流行り、多くの若者が株式投資を行うきっかけとなりました。Robinhoodは現在も2,300万の口座を持っています。顧客の預金残高で得られる利息、高頻度トレーダーへの注文情報の販売、証拠金貸与が収益となっていたため、取引手数料が無料であることが特徴的です。
アメリカの個人投資活発化のきっかけは、2020年からの巣ごもり需要です。特に若年層はSNS掲示板での情報交換を通じて気軽に投資を行うようになりました。
他にも、M1 Financeがユーザー数100万人、顧客口座残高61億ドル、Public.comが2021年時点でユーザー数300万人以上と代表的な地位をアメリカで占めています。
日本国内の状況と創業の経緯
では日本国内の個人投資の状況はどうでしょうか。日本はアメリカをはじめとする海外に比べて個人投資が浸透していないのが現状です。しかし、ここ最近外部的な要因で投資への関心が高まっています。
2022年5月、岸田首相は「資産所得倍増プラン」を掲げ、「貯蓄から投資へ」という目標へのコミットを示しました。その実現のため、NISAやiDeCoの拡充・改革などが実施され
、非課税期間が無制限になったり、年間投資額が最大360万円までとなることが決まりました。
TwitterやYoutubeなどのSNS上で、投資、特に米国株に関するコンテンツの需要が高まっており、米国株を含むツイート数は年66%のペースで増加しています。
実際、証券口座開設数は急速に加速しており、2011年から2019年までの9年間で500万口座開設であったのに対し、2020年と2021年の2年間で約500万もの口座が開設されました。
このような追い風環境の中、中村CEOは「この日本で生まれつつある新しい資産形成層を支援し、誰もがより良い未来を描ける社会の実現を目指したい」という強い想いを持ってブルーモを創業しました。
ここで日本のモバイル投資アプリ市場について説明します。図の左上は、ウェルスナビを始めとするロボアド領域です。自分で投資銘柄を考えるのではなく、投資スタイルを選ぶと自動的に複数の投資信託を組み合わせて投資を実行してくれます。最近ではマネックス証券や松井証券など既存証券もロボアドを導入し始めています。
図の右下はいわゆるネット証券で、楽天証券やPayPay証券などがあります。自分で個別銘柄を選んで投資を行います。最近利用者が増えてきましたが、まだまだスマホでは操作しにくいものもあったりします。
ここでブルーモは、スマホアプリ特化の証券会社という立ち位置で、米国株に絞ったユーザーインターフェース(UI)が良いアプリをローンチすることにしました。
ブルーモの事業概要
ここからはブルーモの特徴について説明していきます。
ブルーモはスマホに最適化された優れたユーザーインターフェース(UI)と長期資産形成に必要な機能を持つ新しいスマホ証券アプリです。情報収集から取引まで一貫して一つのアプリで対応しており、初心者でも簡単に投資が行えます。
ブルーモの特徴的な機能は、3つあります。1つ目はポートフォリオ投資機能で、米国株・ETFで銘柄・比率を指定すれば、その目標比率を達成するように必要な売買を計算して取引を実行してくれます。
2つ目はコミュニティ機能で、他人の運用方針を見て自分のポートフォリオを決定したりできます。今までTwitterや掲示板などで情報収集した後に証券サイトで購入していたプロセスが、一つのアプリで完結します。
3つ目は教育コンテンツです。ブルーモのアプリ内で、世界経済・米国市場の動きの分かる情報コンテンツが提供されるため、ユーザーは資産状況の確認ついでに情報収集ができます。この機能は「日本の金融リテラシーを高めたい」という中村CEOの熱い思いが表れています。
経営陣
投資を検討するにあたって、経営陣への理解も深めました。
CEOの中村氏は、東京大学法学部を卒業後、東京大学経済学部修士を修了。財務省、マッキンゼーなど非常に優秀なキャリアを築いています。また一緒に働いていたメンバーからは、「今まで働いていたマネージャーの中で一番優秀。能力が高く、やると言ったことは必ずやり切る。」という意見も聞きしました。マッキンゼー時代の後輩もメンバーとして連れてきていることから、巻き込み力の高さも持ち合わせていることが分かります。
CTOの小林氏は、東京大学情報理工修士を修了。未踏クリエーター、フリーランスエンジニアを経て、Fintechスタートアップのエメラダで執行役員を務めていました。本事業を進める上で、これ以上ない人材だと考えています。
おわりに
Angel Bridgeは、市場拡大が見込めるモバイル投資の領域において、実績のある優秀な経営陣が取り組む新しい投資アプリであるという点を評価しています。
それに加え、中村CEOの熱い野心にも共感しています。中村CEOは大学時代から日本の個人投資環境について課題感を抱き、このテーマをずっと考えていました。日本は将来的に経済危機に陥るリスクを抱えており、それを感じた個人が海外資産に逃避する結果、「日本人がグローバル投資で資産管理する時代」がやってくると考えています。ブルーモは、今この時代に求められている新しい金融インフラを作り、これまで「政府のもの」「専門家のもの」と思われていた投資を「みんなのもの」にすることを目指しています。
日本を代表する金融インフラを実現してもらいたいと考え、今回投資に至りました。
Angel Bridgeは社会に大きなインパクトをもたらすために、難しいことに果敢に取り組むベンチャーを応援していきたいと考えています!事業の壁打ちや資金調達のご相談など事業の壁打ちや資金調達のご相談など、お気軽にご連絡ください!
2023.03.23 ACADEMY
前回のスタートアップアカデミー#4では、起業家が押さえておくべきIPOに向けた準備についてご紹介しました。スタートアップアカデミー#4
今回は、VCから投資を受けた後に、実際にIPOまでどのような支援をVCから受けるのかをAngel Bridgeの事例に基づいて解説します。
一般的にVCから出資を受けると、そのVCから様々な支援を受けることができます。支援の内容や密度はVCのスタンスにより様々な特色があります。自社によって必要な支援をしてもらえるかどうかという観点で、投資を受ける前に確認しておくと良いでしょう。
Angel Bridgeは投資先企業のハンズオン支援に強い思いを持って積極的に取り組んでいます。
我々のValuesの1つを紹介させてください。
“投資家は起業家のサポーター
起業家は自身の渾身のプロジェクトを主役として進め、投資家はサポーターとしてこれを全力で支援する。投資家は自分自身が経営を出来るとは思ってはならないし、またそうするべきでもない。投資家は起業家を信頼し尊敬する。投資家は数多くのプロジェクトに取り組めることで自身の生み出せる価値を極大化出来ることをその誇りとする。”
VCはあくまでも起業家のサポーターであり、実際に事業を作っているのは経営陣です。そこでAngel Bridgeはアドバイスを押し付けるのではなく支援するという姿勢が正しいと考えています。プロテニスプレイヤーとコーチの関係とイメージすると分かりやすいでしょう。
そしてベンチャー企業が求めている支援は、ステージによって大きく異なります。それゆえ画一的な支援メニューを漫然と押し付けるのではなく、起業家のニーズをしっかり聞いた上でオーダーメイドでハンズオン支援を行っていくことが重要です。例えば、シードではビジネスモデルに対するアドバイスや最初の顧客の紹介、アーリーでは採用支援、シリーズAでは営業やマーケティング、顧客紹介などそれぞれを行います。
次にハンズオン支援の全体像を説明します。Angel Bridgeでは投資先支援メニューを、「組織(ヒト)」「事業(モノ)」「ファイナンス(カネ)」「経営のPDCAサイクル」の4つに分類しています。それぞれについて簡単に説明していきます。
「組織(ヒト)」に関する支援では、経営人材の紹介や評価報酬体系の設計などを行います。特にアーリーステージのベンチャーでは売上規模が小さく組織も少人数のケースが多いため、メンバー一人一人の貢献度が高く、経営陣を含む組織の強化が非常に重要です。その一方で知名度が低い、高い給料が出せない、ネットワークが不足していることなど、優秀な人材を採用することのハードルが高いことも多いです。この部分をVCがしっかりサポートすることは大きなインパクトがあります。
「事業(モノ)」に関する支援では、企業の戦略策定に向けた壁打ちや顧客先の紹介などを行っています。戦略策定では月次定例会を共に行い、事業戦略やIPOや資金調達など様々な経験を生かしたアドバイスをします。顧客先の紹介では、製品・サービスの営業先など、今後の事業拡大に向けて付き合っておきたい企業を紹介します。ベンチャー企業はまだ信頼が不足しており、ネットワークも脆弱で自社でリーチできない部分が多いため、VCが補っていくことが必要でしょう。
「ファイナンス(カネ)」に関する支援では、資本政策の策定や追加の資金調達支援、IPO支援などを行います。資本政策は後から修正が困難であり、資金調達は事業継続・拡大のために極めて重要です。今後の資金調達を「いつ」「誰から」「どのような規模」で行うかについて一緒に考え、実行に向けて、投資家の紹介なども共に行います。IPO準備では、証券会社の紹介やエクイティストーリーの考案などをサポートします。ベンチャー企業は基本的にIPOを一度しか経験しませんが、VCは何度もIPOのサポート経験があるため、ノウハウを共有することができます。
「経営のPDCAサイクル」に関する支援はヒト・モノ・カネをどう回すかといった経営のOS(オペレーティングシステム)のようなものです。取締役会を起点に株主も巻き込んだ年12回の大きなPDCAサイクルを回す体制の構築を支援します。会社の羅針盤となるKPIの設計や見える化と組織としての運営体制を経営陣と共に作り上げていきます。これらは組織が大きくなった時に必要な会社運営の仕組みになります。
ステージごとに取り組みを整理すると、以下のようになります。
シードステージは事業の方向性を議論し、それを元に資金調達の支援を行います。アーリーステージでは集めた資金を使ってCXO人材採用支援を行い、事業を着々と進める体制を整えます。プレIPOステージになると、監査法人や証券会社の選定などのIPO準備を支援します。これらと同時に月一の定例会を行い、経営の見える化を行います。この定例会は取締役会へと発展していきPDCAサイクルが回る体制が自然と出来上がっていきます。
では、それぞれの支援についての詳細を見ていきますが、今回は「組織」に焦点を当てて説明します。
1.「組織」に関する支援について
先ほど、「組織」に関する支援は、経営人材の紹介や評価報酬体系の設計などを行うと述べました。実際にどのような取り組みを行っているのか詳しく説明します。
経営人材の紹介は、どのような人材が足りていないかというところから一緒に考えていきます。定例会で事業計画を構築していくなかで定まっていくことも多いです。
この経営人材の紹介方法は2種類あります。1つ目は知人友人など独自ネットワークの紹介で、転職マーケットに出ていない優秀な人材の獲得が可能になります。Angel Bridgeにはプロファーム出身者が多いため、そのネットワークを生かした人材紹介を行っています。
2つ目は、人材紹介エージェント経由の紹介です。多くのVCは人材エージェントと提携し、情報共有を行っています。Angel Bridgeは長く人材紹介を行う中でネットワークを培ってきており、領域やポジションによって適切な人材紹介会社を選択することができます。さらに投資先企業の魅力を候補者に伝え、応募したいと思ってもらえるよう取り組んでいます。
次に評価報酬体系の設計です。ベンチャー企業での評価報酬体系は採用力にも直結する重要な部分なのでとても重要です。しかし多くのベンチャー企業は初めて評価報酬体系を作るため、作成経験があるVCのサポートがあるとより良いプラクティスをベンチャー企業に提示できるでしょう。またチームメンバーにとって大きな魅力となるストックオプションの設計も同様にサポートします。
数人規模のベンチャーに1人優秀なCXOが入ると企業は大きく変わり、企業価値・事業の成長スピードはとても伸びます。人材紹介は、最もインパクトがある支援の1つです。
2.「組織」支援についてのAngel Bridge実施事例
経営人材の紹介の取り組みとして、「Heartseed」という企業にCOOを紹介した事例を説明します。「Heartseed」は慶応義塾大学発のバイオベンチャーで、iPS細胞による心筋再生医療の実用化を目指しています。
事業拡大に向けてビジネスサイドの優秀な人材が必要だという話になり、COO探しが始まりました。サイエンスも分かり、事業を回す経験もしているという軸で探し、候補として安井さんを紹介しました。CEOの福田さんが直接安井さんに熱意や想いを伝える機会も設定し、Heartseedの魅力を伝えました。
安井さんはAngel Bridge河西の大学時代の友人で、新卒はBain&Company、その後、外資製薬会社で事業開発などを行い、最年少で事業部長になった方です。
Heartseedに入った経緯として以下のように安井さんは話していました。
“安井:以前から、Angel Bridgeの河西さんよりVCや日本発のバイオベンチャー育成の話を聞いていてやりたい事として考えていました。ある出来事をきっかけに、やりたいことは今やらないといけないと思ったんです。そんな時にHeartseedの話を聞き、自分が一番やりたかった革新的な治療法を開発していて、製薬企業の主要な部門の経験を持つ自分が役に立てそうだと感じました。その後CEOの福田と会って丁寧な説明と想いを聞き、これは凄いなと驚きました。そしてこれは何としても世に出したい、と思いました。
(参考記事:660億円ディールの裏側 Heartseed COO安井 × Angel Bridge河西)
安井さんは自分でドライバーズシートに座ってハンドルを握って仕事がしたい、そのような思いが強くなり最終的に転職に至ったようです。しかし、その背景には日頃からAngel Bridge代表の河西が安井さんとバイオベンチャーや今後のキャリアについて話をしていたり、また可能性のあるビジネスに対してきちんと魅力的だと安井さんに思ってもらえるようにCEOのサポートも行っていました。
COO就任後は、ライセンスアウトの締結に向けて尽力し、ノボノルディスクファーマという世界トップクラスの製薬企業と、Heartseed の主要開発品であるHS-001の開発・製造・販売に関する全世界での独占的技術提携・ライセンス契約を締結しました。
HeartseedのCEO福田さんは、安井さんが入ってくれたことによって経営のPDCAサイクルが回り、事業の成長スピードが上がったと述べていました。他にも、Angel BridgeはHeartseedに対してCFO、管理部長、監査役、開発部長などを紹介して採用に至っています。
今回はHeartseedの事例を一例に取り上げました。このようにAngel Bridgeは普段から経営人材と交流を行ったり、20人ほどのヘッドハンターと頻繁に情報を交換するなどして、必要な時にニーズに応じた人材を紹介できるような体制を整えています。
以下にAngel Bridgeが行った紹介の一例を記載します。
今回は特に「組織」に焦点をあてて、VCがどのようにサポートするか説明してきました。自分の会社にはどんなサポートが必要か考えると、自分に合ったVCに出会えるのではないかと思います。そのために、まずはそれぞれのVCを知ることが大切です。最近ではSNSやブログ記事、イベントなどで積極的に情報発信しているVCも多いので、簡単にチェックすることができます。投資先の企業から評判を聞いたり、知人のツテを使うなど情報収集を行いましょう。アプローチ方法としてはツイッターアカウントへのDM・オフィスアワーへの申し込み・HPへの問い合わせ・人づての紹介・イベントへの参加など様々考えられます。後悔のない資金調達ができるよう、最大限活用していきましょう。
前回のスタートアップアカデミー#4では、起業家が押さえておくべきIPOに向けた準備についてご紹介しました。スタートアップアカデミー#4
今回は、VCから投資を受けた後に、実際にIPOまでどのような支援をVCから受けるのかをAngel Bridgeの事例に基づいて解説します。
一般的にVCから出資を受けると、そのVCから様々な支援を受けることができます。支援の内容や密度はVCのスタンスにより様々な特色があります。自社によって必要な支援をしてもらえるかどうかという観点で、投資を受ける前に確認しておくと良いでしょう。
Angel Bridgeは投資先企業のハンズオン支援に強い思いを持って積極的に取り組んでいます。
我々のValuesの1つを紹介させてください。
“投資家は起業家のサポーター
起業家は自身の渾身のプロジェクトを主役として進め、投資家はサポーターとしてこれを全力で支援する。投資家は自分自身が経営を出来るとは思ってはならないし、またそうするべきでもない。投資家は起業家を信頼し尊敬する。投資家は数多くのプロジェクトに取り組めることで自身の生み出せる価値を極大化出来ることをその誇りとする。”
VCはあくまでも起業家のサポーターであり、実際に事業を作っているのは経営陣です。そこでAngel Bridgeはアドバイスを押し付けるのではなく支援するという姿勢が正しいと考えています。プロテニスプレイヤーとコーチの関係とイメージすると分かりやすいでしょう。
そしてベンチャー企業が求めている支援は、ステージによって大きく異なります。それゆえ画一的な支援メニューを漫然と押し付けるのではなく、起業家のニーズをしっかり聞いた上でオーダーメイドでハンズオン支援を行っていくことが重要です。例えば、シードではビジネスモデルに対するアドバイスや最初の顧客の紹介、アーリーでは採用支援、シリーズAでは営業やマーケティング、顧客紹介などそれぞれを行います。
次にハンズオン支援の全体像を説明します。Angel Bridgeでは投資先支援メニューを、「組織(ヒト)」「事業(モノ)」「ファイナンス(カネ)」「経営のPDCAサイクル」の4つに分類しています。それぞれについて簡単に説明していきます。
「組織(ヒト)」に関する支援では、経営人材の紹介や評価報酬体系の設計などを行います。特にアーリーステージのベンチャーでは売上規模が小さく組織も少人数のケースが多いため、メンバー一人一人の貢献度が高く、経営陣を含む組織の強化が非常に重要です。その一方で知名度が低い、高い給料が出せない、ネットワークが不足していることなど、優秀な人材を採用することのハードルが高いことも多いです。この部分をVCがしっかりサポートすることは大きなインパクトがあります。
「事業(モノ)」に関する支援では、企業の戦略策定に向けた壁打ちや顧客先の紹介などを行っています。戦略策定では月次定例会を共に行い、事業戦略やIPOや資金調達など様々な経験を生かしたアドバイスをします。顧客先の紹介では、製品・サービスの営業先など、今後の事業拡大に向けて付き合っておきたい企業を紹介します。ベンチャー企業はまだ信頼が不足しており、ネットワークも脆弱で自社でリーチできない部分が多いため、VCが補っていくことが必要でしょう。
「ファイナンス(カネ)」に関する支援では、資本政策の策定や追加の資金調達支援、IPO支援などを行います。資本政策は後から修正が困難であり、資金調達は事業継続・拡大のために極めて重要です。今後の資金調達を「いつ」「誰から」「どのような規模」で行うかについて一緒に考え、実行に向けて、投資家の紹介なども共に行います。IPO準備では、証券会社の紹介やエクイティストーリーの考案などをサポートします。ベンチャー企業は基本的にIPOを一度しか経験しませんが、VCは何度もIPOのサポート経験があるため、ノウハウを共有することができます。
「経営のPDCAサイクル」に関する支援はヒト・モノ・カネをどう回すかといった経営のOS(オペレーティングシステム)のようなものです。取締役会を起点に株主も巻き込んだ年12回の大きなPDCAサイクルを回す体制の構築を支援します。会社の羅針盤となるKPIの設計や見える化と組織としての運営体制を経営陣と共に作り上げていきます。これらは組織が大きくなった時に必要な会社運営の仕組みになります。
ステージごとに取り組みを整理すると、以下のようになります。
シードステージは事業の方向性を議論し、それを元に資金調達の支援を行います。アーリーステージでは集めた資金を使ってCXO人材採用支援を行い、事業を着々と進める体制を整えます。プレIPOステージになると、監査法人や証券会社の選定などのIPO準備を支援します。これらと同時に月一の定例会を行い、経営の見える化を行います。この定例会は取締役会へと発展していきPDCAサイクルが回る体制が自然と出来上がっていきます。
では、それぞれの支援についての詳細を見ていきますが、今回は「組織」に焦点を当てて説明します。
1.「組織」に関する支援について
先ほど、「組織」に関する支援は、経営人材の紹介や評価報酬体系の設計などを行うと述べました。実際にどのような取り組みを行っているのか詳しく説明します。
経営人材の紹介は、どのような人材が足りていないかというところから一緒に考えていきます。定例会で事業計画を構築していくなかで定まっていくことも多いです。
この経営人材の紹介方法は2種類あります。1つ目は知人友人など独自ネットワークの紹介で、転職マーケットに出ていない優秀な人材の獲得が可能になります。Angel Bridgeにはプロファーム出身者が多いため、そのネットワークを生かした人材紹介を行っています。
2つ目は、人材紹介エージェント経由の紹介です。多くのVCは人材エージェントと提携し、情報共有を行っています。Angel Bridgeは長く人材紹介を行う中でネットワークを培ってきており、領域やポジションによって適切な人材紹介会社を選択することができます。さらに投資先企業の魅力を候補者に伝え、応募したいと思ってもらえるよう取り組んでいます。
次に評価報酬体系の設計です。ベンチャー企業での評価報酬体系は採用力にも直結する重要な部分なのでとても重要です。しかし多くのベンチャー企業は初めて評価報酬体系を作るため、作成経験があるVCのサポートがあるとより良いプラクティスをベンチャー企業に提示できるでしょう。またチームメンバーにとって大きな魅力となるストックオプションの設計も同様にサポートします。
数人規模のベンチャーに1人優秀なCXOが入ると企業は大きく変わり、企業価値・事業の成長スピードはとても伸びます。人材紹介は、最もインパクトがある支援の1つです。
2.「組織」支援についてのAngel Bridge実施事例
経営人材の紹介の取り組みとして、「Heartseed」という企業にCOOを紹介した事例を説明します。「Heartseed」は慶応義塾大学発のバイオベンチャーで、iPS細胞による心筋再生医療の実用化を目指しています。
事業拡大に向けてビジネスサイドの優秀な人材が必要だという話になり、COO探しが始まりました。サイエンスも分かり、事業を回す経験もしているという軸で探し、候補として安井さんを紹介しました。CEOの福田さんが直接安井さんに熱意や想いを伝える機会も設定し、Heartseedの魅力を伝えました。
安井さんはAngel Bridge河西の大学時代の友人で、新卒はBain&Company、その後、外資製薬会社で事業開発などを行い、最年少で事業部長になった方です。
Heartseedに入った経緯として以下のように安井さんは話していました。
“安井:以前から、Angel Bridgeの河西さんよりVCや日本発のバイオベンチャー育成の話を聞いていてやりたい事として考えていました。ある出来事をきっかけに、やりたいことは今やらないといけないと思ったんです。そんな時にHeartseedの話を聞き、自分が一番やりたかった革新的な治療法を開発していて、製薬企業の主要な部門の経験を持つ自分が役に立てそうだと感じました。その後CEOの福田と会って丁寧な説明と想いを聞き、これは凄いなと驚きました。そしてこれは何としても世に出したい、と思いました。
(参考記事:660億円ディールの裏側 Heartseed COO安井 × Angel Bridge河西)
安井さんは自分でドライバーズシートに座ってハンドルを握って仕事がしたい、そのような思いが強くなり最終的に転職に至ったようです。しかし、その背景には日頃からAngel Bridge代表の河西が安井さんとバイオベンチャーや今後のキャリアについて話をしていたり、また可能性のあるビジネスに対してきちんと魅力的だと安井さんに思ってもらえるようにCEOのサポートも行っていました。
COO就任後は、ライセンスアウトの締結に向けて尽力し、ノボノルディスクファーマという世界トップクラスの製薬企業と、Heartseed の主要開発品であるHS-001の開発・製造・販売に関する全世界での独占的技術提携・ライセンス契約を締結しました。
HeartseedのCEO福田さんは、安井さんが入ってくれたことによって経営のPDCAサイクルが回り、事業の成長スピードが上がったと述べていました。他にも、Angel BridgeはHeartseedに対してCFO、管理部長、監査役、開発部長などを紹介して採用に至っています。
今回はHeartseedの事例を一例に取り上げました。このようにAngel Bridgeは普段から経営人材と交流を行ったり、20人ほどのヘッドハンターと頻繁に情報を交換するなどして、必要な時にニーズに応じた人材を紹介できるような体制を整えています。
以下にAngel Bridgeが行った紹介の一例を記載します。
今回は特に「組織」に焦点をあてて、VCがどのようにサポートするか説明してきました。自分の会社にはどんなサポートが必要か考えると、自分に合ったVCに出会えるのではないかと思います。そのために、まずはそれぞれのVCを知ることが大切です。最近ではSNSやブログ記事、イベントなどで積極的に情報発信しているVCも多いので、簡単にチェックすることができます。投資先の企業から評判を聞いたり、知人のツテを使うなど情報収集を行いましょう。アプローチ方法としてはツイッターアカウントへのDM・オフィスアワーへの申し込み・HPへの問い合わせ・人づての紹介・イベントへの参加など様々考えられます。後悔のない資金調達ができるよう、最大限活用していきましょう。
2023.03.09 INTERVIEW
国際派技術者が建設テックに参入した理由
ローカスブルーの事業内容をご紹介ください。
宮谷:ローカスブルーは2019年設立のスタートアップです。レーザー測量などで習得した3D点群データをブラウザでクラウド上にアップロードするだけで、地面や建物、樹木、その他の構造物をAIが自動分類。必要な情報のみを取り出し、現場の状況分析などに利用できる「ScanX」をSaaS形式で提供しています。
「ScanX」はどのようなユーザーが利用するサービスなのですか?
宮谷:2020年9月のリリース以来、全国43都道府県の建設会社、土木会社、測量会社などで広くご利用いただいています。国交省が中心となって建設現場のICT化を推進する「i-Construction」の広がりや月額3万円から利用できる敷居の低さ、誰でも簡単に利用できるUIのシンプルさなどを評価いただき、2021年度の「i-Construction大賞」国土交通大臣を受賞できました。
起業のきっかけは?
宮谷:起業を志したのは、イスラエルのスタートアップ時代のことです。イスラエルは18歳になると兵役が課される国。最新のITを活用した軍事技術開発に携わる若者も多く存在します。習得した軍事技術を民間転用したスタートアップを立ち上げる人も多く、同世代の同僚にはすでに2社、3社の起業を経験した人がいるほどでした。私はそれまでフランスのエアバスやシリコンバレーのドローンベンチャーで働いた経験はありましたが、起業経験はありません。やるなら29歳のいまだと思い2019年9月に帰国し翌月起業しました。
なぜ建設業界に参入しようと思われたのですか?
宮谷:当時決めていたのは、前職時代に学んだ3DデータをAI解析する技術を応用したサービスを立ち上げることだけで、最初から建設業界を狙って起業したわけではありません。帰国から半年ほどは、自動運転や製造や損害保険など、可能性のありそうな業界を回ってヒアリングを重ねた結果、建設業界を選びました。計画、調査、設計段階で3Dモデルを活用するi-Constructionへの対応は時代の趨勢です。少子高齢化が著しい建設業界のペインを解消することは社会的意義もあり大きなビジネスも見込めます。そんな理由で建設業界に参入しました。
建設業界経験がないなか、参入障壁を感じたことは?
宮谷:もちろんあります。いまでこそ建設業界に参入するスタートアップは珍しくありませんが、当時はほとんど例がありませんでしたから。「リスクがあるから止めるべき」と、助言をいただいたこともありましたが、見方を変えれば、競合が少ないブルーオーシャンであるとも言えます。3D点群データを処理する既存のソリューションは多機能である一方、利用するためには高額なソフトやハードを買わなければならず、導入できる企業は限られています。しかも操作性は非常に複雑です。一方、私たちには高度なAIエンジンと3D解析技術があり、SaaSを通じて安価に、かつ機能を絞り込みシンプルなUIで提供すれば必ず勝機は巡ってくると信じていました。
参入後の反応は?
宮谷:2020年に製品をリリースした直後こそお客様は10社だけでしたが、その後、クチコミで利用者がどんどん増え、この2年の間に1万現場でご利用いただくまでになりました。
現在の社内体制を聞かせてください。
宮谷:業務委託を含めてメンバーは約30名のメンバーが在籍しています。当初はエンジニアがほとんどでしたが、いまはセールスやマーケティングの数も増え、エンジニアリング側とビジネス側の比率は2:1程度ですね。日本人以外にもフィリピンやインドネシア、ドイツ出身のメンバーが働いており、社内公用語は英語と日本語のバイリンガルで、多国籍なチーム構成になっています。
国際色豊かなメンバーが、歴史ある建設業界のニーズに応えるのは大変なのでは?
宮谷:確かに簡単ではありません。専門的な機能開発にあたっては国交省が出す1,000ページを超えるマニュアルを読み込む必要があったり、建設業界の商慣習や業務知識を身に付けたりする必要がありますからね。ただ、言葉や文化、制度などに依存しないAIエンジンや3D解析技術の開発を担当するメンバーと、日本市場に適応するための開発を担当するメンバーを分ければそれほど大きな問題にはなりません。実際、開発効率を維持できています。
戦略ファーム品質の分析支援に感動
Angel Bridgeとの出会いについて教えてください。
宮谷:当社は2021年7月と2022年12月の2回、プレシリーズAラウンドで出資を募った経験があるのですが、初回のリードインベスターを務めてくださったベンチャーキャピタルの担当者に、Angel Bridgeさんを紹介していただいたのが最初の出会いです。
林:当社でシニアアソシエイトを務める八尾(凌介)が、母校のTA(ティーチングアシスタント)を務めたとき、担当した学生さんが、御社でインターンされていたご縁もありましたよね。
宮谷:そうでした。そこから定期的にお話しするようになり、Angel Bridgeさんの出資先をご紹介いただいたこともありました。Angel Bridgeさんから投資を受けようと思った一番の決め手は、ご紹介いただいた出資先のひとつである見積サービスのミツモアの創業者でありCEOでもある石川彩子さんに「絶対に入ってもらったほうがいいですよ」と強く勧められたからです。
具体的にどんなお話があったのですか?
宮谷:石川さんがおっしゃるには、Angel Bridgeさんはプロフェッショナルファーム出身の方が多く、分析力や戦略立案能力に長けており、必要とあれば商談にも厭わず参加してくれる。出資先に対してこれほど熱意を持って対応してくれるVCはそうはないからと力説され、心を動かされました。
林:投資先の経営者にそんなふうに言っていただけるのは投資家冥利につきます。実際、我々とお付き合いしてみていかがですか?
宮谷:石川さんの言葉通りでした。パートナーの林さんをはじめ、シニアアソシエイトの八尾さん、アソシエイトの三好(洋史)さんに担当していただいて本当に良かったと思っています。
Angel Bridgeからはどんな支援を受けましたか?
宮谷:以前、価格体系を見直すにあたって、何を基準に妥当な価格を決めるべきかわからず悩んでいたとき、Angel Bridgeさんから「価格感度分析をやってみませんか」と提案いただいたことがありました。顧客に送る調査項目のリストアップから分析資料の作成までテキパキと進めてくれたおかげで、私は調査票をお客様に送って結果を聞くだけ(笑)。以前から数値分析に強い方々とは聞いていましたが、そのクオリティの高さはまさに戦略ファーム品質で感動を覚えるほどでした。
林:そう言っていただけるのは嬉しいですね。八尾や三好も喜ぶと思います。
宮谷:こうした業務に直結したご支援に加え、Angel Bridgeさんは定期的に投資先企業の経営者が集う会を主催してくださるのですが、それが個人的にはとてもありがたいなと思っているんです。皆でバーベキューやフットサルに興じた後や「クロスラーニングの会」と呼ばれる勉強会で、経営や組織、プロダクトにまつわる悩みについて語り合うのが楽しく、貴重な学びの機会にもなっているからです。経営者は孤独な存在です。古くからの友人を除けば、本音で話せる仲間は多くありません。毎回参加者は20人くらいで、親しく語り合うにはちょうどいい規模感でもあり、実際、個人的な相談ができる経営者に何人も出会えました。
林:我々としてはご縁をいただいた起業家の皆さんはまさにファミリーだと思っています。でそう言っていただけてとても光栄です。
個人投資家や大手VCにはない魅力を育んでほしい
林さんの目に宮谷さんはどのような経営者に映っていますか?
林:輝かしいご経歴をお持ちなのはプロフィールを見れば一目瞭然ですが、それに胡座をかくことなく顧客やビジネスと真摯に向き合っていらっしゃる点が素晴らしいと思っています。創業当初から地方のお客様のもとにも足繁く通っていらっしゃいましたよね。
宮谷:そうですね。当時は毎日100件もの営業電話を掛け、商談のチャンスがあれば日本全国どこにでも足を運んでいました。エンジニア時代に培った技術力だけでは不十分なのはわかっていましたし、部外者である自分が業界のプロに認めてもらおうと思ったら、相手の懐に飛び込みコミュニケーションを取るしかありません。フランスやアメリカ、イスラエルにいたころから、そうやって人の輪をつなげ、仕事をしてきたので泥臭い営業も苦になりませんでした。
林:技術力の高さとフットワークの軽さ、そしてビジネスに対する情熱、そして明るく親しみやすいお人柄も含め、投資家の目から見て経営者としてのバランスが絶妙だと思います。
宮谷:ありがとうございます。
これから、Angel Bridgeにはどんな支援を期待しますか?
宮谷:ビジネスが大きくなるにつれて戦略や分析面でお力添えをいただく機会は今後増えると思いますが、個人的にはAngel Bridgeさんが持つファミリー感が大好きなので、規模が大きくなってもこの雰囲気を保っていただきたいですね。これは個人投資家や既存の大手VCの皆さんには出せないAngel Bridgeさんならではの価値。これからも経営者同士が密な人間関係を育めるような場作りを大切にしていただけたらとても嬉しく思います。
林:そうですね。宮谷さんが持つプロダクト作りのノウハウや事業の海外展開、グローバル人材の採用に関する知見を必要とする投資先は少なくありません。後輩起業家の良き兄貴分として相談にのってあげていただけたら私どもとしても本望です。
宮谷:もちろんです。お役に立つなら喜んでやらせていただきます。
今後の目標を聞かせてください。
宮谷:建設業界は全国に約40万社あり、私たちのサービスを活用していただけそうな企業はおよそ8万社あります。まずはその市場を確実に獲っていくのが当面の目標です。その次の目標としてはやはり海外展開になるでしょうね。まずは巨大な建設市場があるアジアパシフィック地域を手はじめに、ScanXの拡販に努めていきたいと思っています。今後はテラバイト級のデータを一括処理できる新プロダクト「Deep3」にも力を入れていくので、次回シリーズAラウンドでの資金調達が大きな節目になるでしょう。Angel Bridgeさんからのご支援にも期待しています。
林:もちろんです。引き続き資金面からのご支援もさることながら、営業組織の強化や営業先のご紹介など、できることはまだまだたくさんあると思っています。Angel Bridgeとしても、宮谷さんが適切なタイミングで適切なチャレンジができるよう、息の長いご支援をするつもりです。ぜひ日本発のメガベンチャーになってください。
宮谷:がんばります!
読者の皆さんにメッセージをお願いします。
宮谷:スタートアップで過ごす時間は濃密で、1年もあればどんなことでも起こり得ます。良いことや悪いことが入れ替わり訪れる環境にあっても、情熱を失わず前に進み続けるには、好きだと思えるビジネスに取り組むのが一番です。私はお客様のペインをテクノロジーの力で解決するのが何よりも好きですし、その思いを支えてくださるAngel Bridgeさんのような力強い伴走者もいます。熱意ある者の周囲にはおのずと人が集まり、機会が育まれていくもの。ぜひ一緒にスタートアップ界隈を盛り上げていきましょう!
国際派技術者が建設テックに参入した理由
ローカスブルーの事業内容をご紹介ください。
宮谷:ローカスブルーは2019年設立のスタートアップです。レーザー測量などで習得した3D点群データをブラウザでクラウド上にアップロードするだけで、地面や建物、樹木、その他の構造物をAIが自動分類。必要な情報のみを取り出し、現場の状況分析などに利用できる「ScanX」をSaaS形式で提供しています。
「ScanX」はどのようなユーザーが利用するサービスなのですか?
宮谷:2020年9月のリリース以来、全国43都道府県の建設会社、土木会社、測量会社などで広くご利用いただいています。国交省が中心となって建設現場のICT化を推進する「i-Construction」の広がりや月額3万円から利用できる敷居の低さ、誰でも簡単に利用できるUIのシンプルさなどを評価いただき、2021年度の「i-Construction大賞」国土交通大臣を受賞できました。
起業のきっかけは?
宮谷:起業を志したのは、イスラエルのスタートアップ時代のことです。イスラエルは18歳になると兵役が課される国。最新のITを活用した軍事技術開発に携わる若者も多く存在します。習得した軍事技術を民間転用したスタートアップを立ち上げる人も多く、同世代の同僚にはすでに2社、3社の起業を経験した人がいるほどでした。私はそれまでフランスのエアバスやシリコンバレーのドローンベンチャーで働いた経験はありましたが、起業経験はありません。やるなら29歳のいまだと思い2019年9月に帰国し翌月起業しました。
なぜ建設業界に参入しようと思われたのですか?
宮谷:当時決めていたのは、前職時代に学んだ3DデータをAI解析する技術を応用したサービスを立ち上げることだけで、最初から建設業界を狙って起業したわけではありません。帰国から半年ほどは、自動運転や製造や損害保険など、可能性のありそうな業界を回ってヒアリングを重ねた結果、建設業界を選びました。計画、調査、設計段階で3Dモデルを活用するi-Constructionへの対応は時代の趨勢です。少子高齢化が著しい建設業界のペインを解消することは社会的意義もあり大きなビジネスも見込めます。そんな理由で建設業界に参入しました。
建設業界経験がないなか、参入障壁を感じたことは?
宮谷:もちろんあります。いまでこそ建設業界に参入するスタートアップは珍しくありませんが、当時はほとんど例がありませんでしたから。「リスクがあるから止めるべき」と、助言をいただいたこともありましたが、見方を変えれば、競合が少ないブルーオーシャンであるとも言えます。3D点群データを処理する既存のソリューションは多機能である一方、利用するためには高額なソフトやハードを買わなければならず、導入できる企業は限られています。しかも操作性は非常に複雑です。一方、私たちには高度なAIエンジンと3D解析技術があり、SaaSを通じて安価に、かつ機能を絞り込みシンプルなUIで提供すれば必ず勝機は巡ってくると信じていました。
参入後の反応は?
宮谷:2020年に製品をリリースした直後こそお客様は10社だけでしたが、その後、クチコミで利用者がどんどん増え、この2年の間に1万現場でご利用いただくまでになりました。
現在の社内体制を聞かせてください。
宮谷:業務委託を含めてメンバーは約30名のメンバーが在籍しています。当初はエンジニアがほとんどでしたが、いまはセールスやマーケティングの数も増え、エンジニアリング側とビジネス側の比率は2:1程度ですね。日本人以外にもフィリピンやインドネシア、ドイツ出身のメンバーが働いており、社内公用語は英語と日本語のバイリンガルで、多国籍なチーム構成になっています。
国際色豊かなメンバーが、歴史ある建設業界のニーズに応えるのは大変なのでは?
宮谷:確かに簡単ではありません。専門的な機能開発にあたっては国交省が出す1,000ページを超えるマニュアルを読み込む必要があったり、建設業界の商慣習や業務知識を身に付けたりする必要がありますからね。ただ、言葉や文化、制度などに依存しないAIエンジンや3D解析技術の開発を担当するメンバーと、日本市場に適応するための開発を担当するメンバーを分ければそれほど大きな問題にはなりません。実際、開発効率を維持できています。
戦略ファーム品質の分析支援に感動
Angel Bridgeとの出会いについて教えてください。
宮谷:当社は2021年7月と2022年12月の2回、プレシリーズAラウンドで出資を募った経験があるのですが、初回のリードインベスターを務めてくださったベンチャーキャピタルの担当者に、Angel Bridgeさんを紹介していただいたのが最初の出会いです。
林:当社でシニアアソシエイトを務める八尾(凌介)が、母校のTA(ティーチングアシスタント)を務めたとき、担当した学生さんが、御社でインターンされていたご縁もありましたよね。
宮谷:そうでした。そこから定期的にお話しするようになり、Angel Bridgeさんの出資先をご紹介いただいたこともありました。Angel Bridgeさんから投資を受けようと思った一番の決め手は、ご紹介いただいた出資先のひとつである見積サービスのミツモアの創業者でありCEOでもある石川彩子さんに「絶対に入ってもらったほうがいいですよ」と強く勧められたからです。
具体的にどんなお話があったのですか?
宮谷:石川さんがおっしゃるには、Angel Bridgeさんはプロフェッショナルファーム出身の方が多く、分析力や戦略立案能力に長けており、必要とあれば商談にも厭わず参加してくれる。出資先に対してこれほど熱意を持って対応してくれるVCはそうはないからと力説され、心を動かされました。
林:投資先の経営者にそんなふうに言っていただけるのは投資家冥利につきます。実際、我々とお付き合いしてみていかがですか?
宮谷:石川さんの言葉通りでした。パートナーの林さんをはじめ、シニアアソシエイトの八尾さん、アソシエイトの三好(洋史)さんに担当していただいて本当に良かったと思っています。
Angel Bridgeからはどんな支援を受けましたか?
宮谷:以前、価格体系を見直すにあたって、何を基準に妥当な価格を決めるべきかわからず悩んでいたとき、Angel Bridgeさんから「価格感度分析をやってみませんか」と提案いただいたことがありました。顧客に送る調査項目のリストアップから分析資料の作成までテキパキと進めてくれたおかげで、私は調査票をお客様に送って結果を聞くだけ(笑)。以前から数値分析に強い方々とは聞いていましたが、そのクオリティの高さはまさに戦略ファーム品質で感動を覚えるほどでした。
林:そう言っていただけるのは嬉しいですね。八尾や三好も喜ぶと思います。
宮谷:こうした業務に直結したご支援に加え、Angel Bridgeさんは定期的に投資先企業の経営者が集う会を主催してくださるのですが、それが個人的にはとてもありがたいなと思っているんです。皆でバーベキューやフットサルに興じた後や「クロスラーニングの会」と呼ばれる勉強会で、経営や組織、プロダクトにまつわる悩みについて語り合うのが楽しく、貴重な学びの機会にもなっているからです。経営者は孤独な存在です。古くからの友人を除けば、本音で話せる仲間は多くありません。毎回参加者は20人くらいで、親しく語り合うにはちょうどいい規模感でもあり、実際、個人的な相談ができる経営者に何人も出会えました。
林:我々としてはご縁をいただいた起業家の皆さんはまさにファミリーだと思っています。でそう言っていただけてとても光栄です。
個人投資家や大手VCにはない魅力を育んでほしい
林さんの目に宮谷さんはどのような経営者に映っていますか?
林:輝かしいご経歴をお持ちなのはプロフィールを見れば一目瞭然ですが、それに胡座をかくことなく顧客やビジネスと真摯に向き合っていらっしゃる点が素晴らしいと思っています。創業当初から地方のお客様のもとにも足繁く通っていらっしゃいましたよね。
宮谷:そうですね。当時は毎日100件もの営業電話を掛け、商談のチャンスがあれば日本全国どこにでも足を運んでいました。エンジニア時代に培った技術力だけでは不十分なのはわかっていましたし、部外者である自分が業界のプロに認めてもらおうと思ったら、相手の懐に飛び込みコミュニケーションを取るしかありません。フランスやアメリカ、イスラエルにいたころから、そうやって人の輪をつなげ、仕事をしてきたので泥臭い営業も苦になりませんでした。
林:技術力の高さとフットワークの軽さ、そしてビジネスに対する情熱、そして明るく親しみやすいお人柄も含め、投資家の目から見て経営者としてのバランスが絶妙だと思います。
宮谷:ありがとうございます。
これから、Angel Bridgeにはどんな支援を期待しますか?
宮谷:ビジネスが大きくなるにつれて戦略や分析面でお力添えをいただく機会は今後増えると思いますが、個人的にはAngel Bridgeさんが持つファミリー感が大好きなので、規模が大きくなってもこの雰囲気を保っていただきたいですね。これは個人投資家や既存の大手VCの皆さんには出せないAngel Bridgeさんならではの価値。これからも経営者同士が密な人間関係を育めるような場作りを大切にしていただけたらとても嬉しく思います。
林:そうですね。宮谷さんが持つプロダクト作りのノウハウや事業の海外展開、グローバル人材の採用に関する知見を必要とする投資先は少なくありません。後輩起業家の良き兄貴分として相談にのってあげていただけたら私どもとしても本望です。
宮谷:もちろんです。お役に立つなら喜んでやらせていただきます。
今後の目標を聞かせてください。
宮谷:建設業界は全国に約40万社あり、私たちのサービスを活用していただけそうな企業はおよそ8万社あります。まずはその市場を確実に獲っていくのが当面の目標です。その次の目標としてはやはり海外展開になるでしょうね。まずは巨大な建設市場があるアジアパシフィック地域を手はじめに、ScanXの拡販に努めていきたいと思っています。今後はテラバイト級のデータを一括処理できる新プロダクト「Deep3」にも力を入れていくので、次回シリーズAラウンドでの資金調達が大きな節目になるでしょう。Angel Bridgeさんからのご支援にも期待しています。
林:もちろんです。引き続き資金面からのご支援もさることながら、営業組織の強化や営業先のご紹介など、できることはまだまだたくさんあると思っています。Angel Bridgeとしても、宮谷さんが適切なタイミングで適切なチャレンジができるよう、息の長いご支援をするつもりです。ぜひ日本発のメガベンチャーになってください。
宮谷:がんばります!
読者の皆さんにメッセージをお願いします。
宮谷:スタートアップで過ごす時間は濃密で、1年もあればどんなことでも起こり得ます。良いことや悪いことが入れ替わり訪れる環境にあっても、情熱を失わず前に進み続けるには、好きだと思えるビジネスに取り組むのが一番です。私はお客様のペインをテクノロジーの力で解決するのが何よりも好きですし、その思いを支えてくださるAngel Bridgeさんのような力強い伴走者もいます。熱意ある者の周囲にはおのずと人が集まり、機会が育まれていくもの。ぜひ一緒にスタートアップ界隈を盛り上げていきましょう!
2023.02.22 INVESTMENT
2022年12月21日、Angel Bridgeの投資先であるローカスブルー株式会社(以下ローカスブルー)がプレシリーズAラウンドにて約4億円の資金調達を発表しました。
https://locusblue.com/information/452/
ローカスブルーは、建設業向けの測量などで用いる3次元データを解析するソフトウェア「ScanX」をSaaSで提供しています。従来は非常に高額なソフトウェアとそれを動かすためのハイスペックPCが必要でしたが、クラウド上で利用できるScanXは、インターネットに接続したPCがあれば低価格で利用ができます。
今回は、建設業向け3次元点群データ処理SaaSを提供するローカスブルーへAngel Bridgeが投資した理由を解説します。
建設業界におけるニーズと市場の成長
近年、建設業界において高齢化に伴う人材不足が課題となっており、省人化に向けた動きが活発化してきています。
i-Constructionについて
(出典:国土交通省資料)
2016年には国土交通省が建設業のICT化を目指す「i-Construction」という取り組みを打ち出し、建設プロセス全体において3Dデータを活用する動きが加速しています。
2D図面では人間が頭の中で立体形状を想像しなければならないのに対し、3Dモデルは立体を可視化しています。コンピューター上でさまざまな角度から建設段階の構造物の状態を確認することができ、2Dの図面では確認が難しかった問題を発見することが可能です。確認や修正の時間が削減され、工事期間の短縮につながります。
人材不足という深刻なペインの存在、さらに政府による力強い後押によって、3Dデータ市場は大きく成長すると我々は考えています。
3D市場の課題
従来の3Dデータ処理の課題とローカスブルーによる解決
従来の3Dデータ処理ソフトウェアは、ライセンス料が非常に高額で、データ容量が重く取り扱いにくいという課題がありました。
ローカスブルーは以下のように顧客の課題を解決しています。
まず、高額なライセンス料の解決です。初期コスト無料、月額3万円から導入可能なSaaSとしての販売を行っており、数百万円ほどする買い切りソフトウェアよりはるかに価格が抑えられます。
次に、幅広い動作環境で使えるようにしました。従来は大規模なデータを処理するためには高性能PCが必要でした。一方、ScanXはユーザーの端末ではなくクラウドを介してデータ処理を行うため、通常のノートPCで動作可能です。
最後にデータの取り扱いのしやすさです。3Dデータは非常に容量が大きく共有困難なためCDやHDDで納品されていました。また施工現場で使用する通常のPCでは開けないことが多くとても不便なものでした。ScanXではデータ容量を軽くすることで、インターネットを介して共有することが可能であり、施工現場へも即座に共有し閲覧することを可能にしました。
このように価格・動作環境・データ共有のしやすさという点で、SaaSならではの強みを活かせているため競合優位性があると考えています。
ローカスブルー事業概要
ローカスブルーは2020年9月にリリースした「ScanX」というソフトウェアをSaaSで提供しています。これは、建設、土木、測量業界をはじめとする企業に3Dデータを解析するものです。
ScanXを活用した3Dデータの流れ
- ドローンやレーザースキャナーで建設現場の3Dデータ(点群データ)を取得します。
- 1で得たデータをScanXに取り込むと、3次元モデルが生成されます。
- 点群をAIで処理することで、地面・樹木・家に自動的に分類され自動的にフィルタリングされます。この精度が非常に高く、ローカスブルーの強みの一つとなっています。
- データ活用として、樹木抽出、土量計算などができます。
- 4までに得たデータをもとに、設計・施工をおこなっていきます。
3Dデータでできること
3Dならではの機能としては、地面・樹木・家・車・電線等が自動的に分類されるため、用途によってフィルタリングが可能になります。以下のように樹木を伐採した場合のシミュレーションができます。
林業向けの樹木抽出機能もあります。一本一本の木をフィルタリングできるので、森林管理にとても役立ちます。
経営陣
投資を検討するにあたって、経営陣への理解も深めました。
CEOの宮谷氏は、東京大学航空宇宙工学科で東京大学総長賞を受賞。フランスのAirbus社にて勤務後、シリコンバレー、イスラエルのドローンベンチャーで働いていた経験豊富な経営者です。さらに、彼を中心にグローバルなエンジニアチームが集結しています。
優秀かつグローバルな経験が豊富なうえに、リーダーシップをしっかり発揮する面もあり、粘り強く大きな事業をやり切れる人物だと考えました。
このように、①顕在化しているニーズ、②SaaS化の強み、③優秀な経営陣の3点から、Angel Bridgeはローカスブルーに投資することに決めました。
受賞歴と新サービス
Angel Bridgeが投資してから1年半が経ちましたがこの間にローカスブルーで起きたことについて説明します。
まずローカスブルーはいくつかの賞を受賞してきました。そのうちの1つが、令和3年度i-Construction大賞において最優秀賞である「国土交通大臣賞」の受賞です。i-Construction大賞とは、現場の生産性向上を図る「i-Construction」に係る優れた取組を表彰し、ベストプラクティスとして広く紹介し、横展開することにより、i-Construction に係る取組を推進することを目的としたものです。ローカスブルーは大林組、アンドパットと並び、最優秀賞を獲得しました。
さらに2022年6月に新バージョン「ScanX Ver.2.0」をリリースしました。
新しく追加された機能の一部を紹介します。
出来形帳票生成機能
設計データと点群データをScanXにアップロードするだけで、国土交通省の土木工事施行管理基準および規格値に準拠した帳票出来形合否判定表を生成できます。
他にもユーザーニーズに合わせて各種機能を順次追加しています。
おわりに
ここまでローカスブルーへの投資理由について解説しました。3Dデータ活用は建設業という巨大産業全体の効率化のカギです。そのコア技術である3次元点群データ処理技術を保有するローカスブルーに投資し、成長をご支援することが社会全体にとても大きなインパクトをもたらすと考えています。
事業を推進する仲間も募集しているのでご関心ある方はぜひチェックしてみてください!
https://locusblue.com/career/
Angel Bridgeは社会に大きなインパクトをもたらすために、難しいことに果敢に取り組むベンチャーを応援していきたいと考えています!事業の壁打ちや資金調達のご相談など事業の壁打ちや資金調達のご相談など、お気軽にご連絡ください!
2022年12月21日、Angel Bridgeの投資先であるローカスブルー株式会社(以下ローカスブルー)がプレシリーズAラウンドにて約4億円の資金調達を発表しました。
https://locusblue.com/information/452/
ローカスブルーは、建設業向けの測量などで用いる3次元データを解析するソフトウェア「ScanX」をSaaSで提供しています。従来は非常に高額なソフトウェアとそれを動かすためのハイスペックPCが必要でしたが、クラウド上で利用できるScanXは、インターネットに接続したPCがあれば低価格で利用ができます。
今回は、建設業向け3次元点群データ処理SaaSを提供するローカスブルーへAngel Bridgeが投資した理由を解説します。
建設業界におけるニーズと市場の成長
近年、建設業界において高齢化に伴う人材不足が課題となっており、省人化に向けた動きが活発化してきています。
(出典:国土交通省資料)
2016年には国土交通省が建設業のICT化を目指す「i-Construction」という取り組みを打ち出し、建設プロセス全体において3Dデータを活用する動きが加速しています。
2D図面では人間が頭の中で立体形状を想像しなければならないのに対し、3Dモデルは立体を可視化しています。コンピューター上でさまざまな角度から建設段階の構造物の状態を確認することができ、2Dの図面では確認が難しかった問題を発見することが可能です。確認や修正の時間が削減され、工事期間の短縮につながります。
人材不足という深刻なペインの存在、さらに政府による力強い後押によって、3Dデータ市場は大きく成長すると我々は考えています。
3D市場の課題
従来の3Dデータ処理ソフトウェアは、ライセンス料が非常に高額で、データ容量が重く取り扱いにくいという課題がありました。
ローカスブルーは以下のように顧客の課題を解決しています。
まず、高額なライセンス料の解決です。初期コスト無料、月額3万円から導入可能なSaaSとしての販売を行っており、数百万円ほどする買い切りソフトウェアよりはるかに価格が抑えられます。
次に、幅広い動作環境で使えるようにしました。従来は大規模なデータを処理するためには高性能PCが必要でした。一方、ScanXはユーザーの端末ではなくクラウドを介してデータ処理を行うため、通常のノートPCで動作可能です。
最後にデータの取り扱いのしやすさです。3Dデータは非常に容量が大きく共有困難なためCDやHDDで納品されていました。また施工現場で使用する通常のPCでは開けないことが多くとても不便なものでした。ScanXではデータ容量を軽くすることで、インターネットを介して共有することが可能であり、施工現場へも即座に共有し閲覧することを可能にしました。
このように価格・動作環境・データ共有のしやすさという点で、SaaSならではの強みを活かせているため競合優位性があると考えています。
ローカスブルー事業概要
ローカスブルーは2020年9月にリリースした「ScanX」というソフトウェアをSaaSで提供しています。これは、建設、土木、測量業界をはじめとする企業に3Dデータを解析するものです。
- ドローンやレーザースキャナーで建設現場の3Dデータ(点群データ)を取得します。
- 1で得たデータをScanXに取り込むと、3次元モデルが生成されます。
- 点群をAIで処理することで、地面・樹木・家に自動的に分類され自動的にフィルタリングされます。この精度が非常に高く、ローカスブルーの強みの一つとなっています。
- データ活用として、樹木抽出、土量計算などができます。
- 4までに得たデータをもとに、設計・施工をおこなっていきます。
3Dならではの機能としては、地面・樹木・家・車・電線等が自動的に分類されるため、用途によってフィルタリングが可能になります。以下のように樹木を伐採した場合のシミュレーションができます。
林業向けの樹木抽出機能もあります。一本一本の木をフィルタリングできるので、森林管理にとても役立ちます。
経営陣
投資を検討するにあたって、経営陣への理解も深めました。
CEOの宮谷氏は、東京大学航空宇宙工学科で東京大学総長賞を受賞。フランスのAirbus社にて勤務後、シリコンバレー、イスラエルのドローンベンチャーで働いていた経験豊富な経営者です。さらに、彼を中心にグローバルなエンジニアチームが集結しています。
優秀かつグローバルな経験が豊富なうえに、リーダーシップをしっかり発揮する面もあり、粘り強く大きな事業をやり切れる人物だと考えました。
このように、①顕在化しているニーズ、②SaaS化の強み、③優秀な経営陣の3点から、Angel Bridgeはローカスブルーに投資することに決めました。
受賞歴と新サービス
Angel Bridgeが投資してから1年半が経ちましたがこの間にローカスブルーで起きたことについて説明します。
まずローカスブルーはいくつかの賞を受賞してきました。そのうちの1つが、令和3年度i-Construction大賞において最優秀賞である「国土交通大臣賞」の受賞です。i-Construction大賞とは、現場の生産性向上を図る「i-Construction」に係る優れた取組を表彰し、ベストプラクティスとして広く紹介し、横展開することにより、i-Construction に係る取組を推進することを目的としたものです。ローカスブルーは大林組、アンドパットと並び、最優秀賞を獲得しました。
さらに2022年6月に新バージョン「ScanX Ver.2.0」をリリースしました。
新しく追加された機能の一部を紹介します。
設計データと点群データをScanXにアップロードするだけで、国土交通省の土木工事施行管理基準および規格値に準拠した帳票出来形合否判定表を生成できます。
他にもユーザーニーズに合わせて各種機能を順次追加しています。
おわりに
ここまでローカスブルーへの投資理由について解説しました。3Dデータ活用は建設業という巨大産業全体の効率化のカギです。そのコア技術である3次元点群データ処理技術を保有するローカスブルーに投資し、成長をご支援することが社会全体にとても大きなインパクトをもたらすと考えています。
事業を推進する仲間も募集しているのでご関心ある方はぜひチェックしてみてください!
https://locusblue.com/career/
Angel Bridgeは社会に大きなインパクトをもたらすために、難しいことに果敢に取り組むベンチャーを応援していきたいと考えています!事業の壁打ちや資金調達のご相談など事業の壁打ちや資金調達のご相談など、お気軽にご連絡ください!
2023.02.08 INTERVIEW
革新的ゲノム編集技術「UKiS」
Logomixの事業内容を教えてください。
石倉:Logomixは2019年に設立された東京工業大学発バイオベンチャーです。弊社独自の研究開発プラットフォームGeno-Writing™ Platformを提供し、パートナー企業の課題解決につながる高機能細胞を開発するゲノムエンジニアリングカンパニーです。
御社の競争優位性はどこにあるのでしょうか?
石倉:私たちの強みのなかでもっともインパクトがあるコアテクノロジーは、大規模ゲノム改変技術「UKiS(Universal Knock-in System)」です。UKiSは、東京工業大学の相澤康則准教授が確立したゲノム改変技術で、ノーベル賞を受賞したことでも名高い「CRISPR/Cas9」の編集領域が約20塩基なのに対し、UKiSは大規模かつ自由自在にゲノム改変を可能とし(現時点において世界で最も大規模のゲノム配列(100万塩基対))、構造が複雑なゲノムを効率よく設計改変が可能です。これまでのゲノム編集技術を「建物のリフォーム」にたとえるなら、Geno-Writing™ Platformが実現するのは「街ごと作り変える」のようなレベルです。これほど大規模かつ正確なゲノム編集技術は世界を見渡してもほかにありません。
顧客の顔ぶれは?
石倉:現在は主に「医療・ヘルスケア」「バイオマテリアル・化学・エネルギー」「農業・養殖・環境」を対象に事業を展開しています。UKiSはこれまでの常識を超える先端的な技術です。それだけに、当初はこの技術を必要とするビジネスドメインを探すのにとても苦労しました。創業から1年ほどは、医薬、化学メーカーなど日米150社に足を運びヒアリングを重ね、ようやく現行のプロジェクトに絞り込んだ経緯があります。
そもそもなぜバイオベンチャーの立ち上げに関わるようになったのですか?
石倉:もともとは医師になるか、医学研究の道に進もうと考えていたのですが、2000年6月を境に考えが変わりました。当時のクリントン米大統領がホワイトハウスでヒトゲノムの解読作業をほぼ終えたという記者会見を見て「これだ」と思ったからです。その後、GenentechやAmgenなど、当時創業30年にも満たなかったバイオベンチャーの時価総額が、名だたる製薬会社より大きいことを知り、すっかりそのダイナミックさに魅了されてしまいました。学部生の途中からは、研究ではなく事業を通して社会実装に直結する仕事をしようと心に決め、以来バイオ、ゲノムの世界を歩み続けています。
共同創業者であり、Geno-Writing™ Platformの生みの親である相澤准教授との出会いについて教えてください。
石倉:2010年以降、長年バイオ領域の成長を支えてきた投資家に加え、ITビジネスで成功した人たちがどんどん投資サイドに入ってきたこともあって、合成生物領域に注目が集まっていました。2017年になると、史上初めて真核生物のゲノムを1から設計し、合成に成功したというニュースを知り「これはスゴいことになるぞ」と。それで、合成生物学の領域で起業するチャンスを模索するようになり、何人もの先端的なゲノム技術を持つアカデミアの方々とお話しするなかで出会ったのが相澤先生です。相澤先生は専門の合成生物学だけでなく、バイオ、化学、医薬などにも詳しく、ご自分の人生を社会課題の解決に費やしたいと信念をお持ちの方。知的好奇心旺盛で気さくで、経営感覚にも長けておられます。ご一緒しませんかと申し出ました。
Angel Bridgeを選んだ3つの理由
Angel Bridgeとの出会いについて教えてください。
石倉:創業前に在籍していた日本医療機器開発機構時代に一度お会いしたことがあります。確か2018年でしたね。
河西:そうでした。あるとき合成生物学に興味を持ってネットで情報を集めていたとき、たまたま見つけたプレスリリースにLogomixと石倉さんのお名前がありました。ただその時点では確信が持てず、相澤先生にアポイントをいただいてようやく「あのときお会いした石倉さんだったと」(笑)。2021年の夏に再会して、そこから本格的なお付き合いが始まりました。
河西さんから見て石倉さんはどんな起業家だと思いますか?
河西:石倉さんは、バイオ、ゲノム領域におけるシリアルアントレプレナーです。大学発ベンチャーに付き物の大学や研究者との関係構築の難しさをよくご存じで、それを踏まえてビジネスを構築できる希有な方です。その上、相澤先生が確立した技術をどう活かせば、社会的インパクトを残せるかよくわかっていらっしゃる。とても信頼を置ける経営者だと考えています。
石倉:ありがとうございます。相澤先生を含め私たちに共通しているのは、仮説検証プロセスに欠かせない事実に基づいた議論を好むことかも知れません。それだけに意思疎通に齟齬がなく専門的なテーマでも議論が深まりやすく、有意義な時間を共有できる。私たちにとっても、河西さんはビジネスを進める上で欠かせない存在です。
河西:相澤先生もそうなのですが、おふたりともいつお会いしても目がキラキラ輝いているのが印象的だなと思っているんです。それにおふたりとも非常に真面目。以前ご一緒した会食の際「資金調達が完了するまで、飲みません。禁酒中なんです」とおっしゃっていましたよね。それで改めて、真摯な経営者なんだと思いました。小さなエピソードですが、それだけでも信頼に足る方だと感じました。業界の成長性、技術の優位性、ビジネスの将来性もさることながら、私はLogomixを率いるおふたりの輝く目を見て投資を決めたんです。
実際にAngel Bridgeから投資を受けたのはいつですか?
石倉:2022年の1月です。Angel Bridgeさんにリードインベスターになっていただき、ジャフコさんや東大IPCさんほか日米のエンジェル投資家の皆さんから総額5億円調達しました。
なぜAngel Bridgeから投資を受けようと思ったのですか?
石倉:チームとしてのAngel Bridgeの優秀さもありますが、決め手はやはり河西さんの存在です。創業社長として投資先の1社であるHeartseed(ハートシード)の創業期を支えたことからもわかるように、大学発ベンチャーをよく知る事業家であり、医療やバイオ、ゲノムなどディープテックに強い投資家としての実績を考えると、ほかに選択肢はなかったように思います。大きなビジョンに寄り添うだけでなく、現実を踏まえた落とし所を見極めた上で助言してくださるのもありがたく思います。
河西:そう言っていただいて光栄です。いまおっしゃっていただいたように、私はHeartseedの社長を3年務めた経験があるので、研究と事業を両立する難しさや大学との特許契約にまつわる交渉の大変さは身をもって知っています。こうした形で自分の経験を共有できることは、私自身にとっても大きな喜びです。
事業規模10兆円を目指す
出会いから今日まで、Angel Bridgeからどのような支援を受けましたか?
石倉:たとえば、いま事業開発を担ってもらっているメンバーや共同研究先の紹介に始まり、Angel Bridgeさんの投資先を集めた「クロスラーニングの会」で、先輩経営者を紹介してくださるなど、資金のみならず、経営のあり方や組織、制度づくりの要諦など、物心両面で地に足のついたご支援いただいています。いま話に出た特許契約の実務のほか、資本施策についても事業家としてのご自身の経験を踏まえ、中立的立場から助言していただける非常にありがたい存在です。
河西:実はLogomixさんの月次の定例会に出席するのが楽しくて仕方ないんです。理由は、出るたびに事業上の重要事項が大きく前に進んでいるからです。そういう意味でも助言や紹介のしがいがありますし、そもそもディスカッション自体がとても楽しい。石倉さんの視野の広さや経営手腕、相澤先生の専門性とオープンマインドな性格がそう感じさせてくれているのだなとつくづく感じます。
石倉:相澤先生もよく「楽しい」とおっしゃってますよ(笑)。私自身、進捗をちゃんとお伝えしなければと身が引き締まる思いがありつつも、河西さんとの議論を楽しんでいます。
今後の展開を教えてください。
石倉:たとえば冒頭に名前を挙げたGenentechやAmgen、illuminaのような各分野のリーディングカンパニーのような、バイオやゲノムの世界で一目置かれる企業の多くは、総じて単一プロダクトで勝負するというより、多様な課題解決に使えるプラットフォームを打ち出すことで大きな飛躍を遂げています。つまりLogomixがゲノムエンジニアリングでトップを獲ることができれば、彼らと並ぶ事業規模、具体的には時価総額10兆円を目指すことも決して夢ではないということ。まだまだ先は長いですが、少なくともこの世界にはそれだけの可能性があり、私はLogomixにはそれに応えるだけのポテンシャルがあると確信しています。Logomixを世界中の研究者がこぞって訪れてくれるような会社にするのが目標です。
改めて、Logomixの投資先としての魅力は?
河西:Logomixは数ある大学発ベンチャーのなかでも際立った存在であり、革新的でイノベーティブなゲノム編集技術に加え、研究熱心で技術の社会実装に強い関心を持つ相澤先生とバイオ、ゲノム事業で豊富な経験を持つ石倉さんの強力なタッグも非常に魅力的です。私もLogomixには10兆円規模のビジネスを展開できるポテンシャルがあると確信しているので、これからもその実現に向けて全面的にサポートしていくつもりです。
最後に次代を担う若手起業家にメッセージをお願いします。
石倉:近年、衰退が指摘される日本にも世界で勝てる技術は少なくありません。私が最初に起業した2000年代初頭とは比べものにならないくらいスタートアップコミュニティは成熟していますし、投資サイドにも小さな失敗を経験として評価する機運が高まっているのを感じます。投資市場の停滞が指摘される経済環境ではありますが、もしビジネスで社会課題の解決を志すのであれば、縮こまっている場合ではありません。積極的にチャレンジすべきだと思います。
河西:今後も引き続き、投資先企業と二人三脚でビジネスを育てていくつもりです。とりわけバイオ、ゲノム領域は向こう数年で、5倍、10倍の成長が期待できる数少ない分野。そのなかでもLogomixは世界で勝負できる数少ない日本のバイオベンチャーの1社なのは間違いありません。これからも一緒に知恵を絞って、Logomixの成長を全力で後押ししていきます。
革新的ゲノム編集技術「UKiS」
Logomixの事業内容を教えてください。
石倉:Logomixは2019年に設立された東京工業大学発バイオベンチャーです。弊社独自の研究開発プラットフォームGeno-Writing™ Platformを提供し、パートナー企業の課題解決につながる高機能細胞を開発するゲノムエンジニアリングカンパニーです。
御社の競争優位性はどこにあるのでしょうか?
石倉:私たちの強みのなかでもっともインパクトがあるコアテクノロジーは、大規模ゲノム改変技術「UKiS(Universal Knock-in System)」です。UKiSは、東京工業大学の相澤康則准教授が確立したゲノム改変技術で、ノーベル賞を受賞したことでも名高い「CRISPR/Cas9」の編集領域が約20塩基なのに対し、UKiSは大規模かつ自由自在にゲノム改変を可能とし(現時点において世界で最も大規模のゲノム配列(100万塩基対))、構造が複雑なゲノムを効率よく設計改変が可能です。これまでのゲノム編集技術を「建物のリフォーム」にたとえるなら、Geno-Writing™ Platformが実現するのは「街ごと作り変える」のようなレベルです。これほど大規模かつ正確なゲノム編集技術は世界を見渡してもほかにありません。
顧客の顔ぶれは?
石倉:現在は主に「医療・ヘルスケア」「バイオマテリアル・化学・エネルギー」「農業・養殖・環境」を対象に事業を展開しています。UKiSはこれまでの常識を超える先端的な技術です。それだけに、当初はこの技術を必要とするビジネスドメインを探すのにとても苦労しました。創業から1年ほどは、医薬、化学メーカーなど日米150社に足を運びヒアリングを重ね、ようやく現行のプロジェクトに絞り込んだ経緯があります。
そもそもなぜバイオベンチャーの立ち上げに関わるようになったのですか?
石倉:もともとは医師になるか、医学研究の道に進もうと考えていたのですが、2000年6月を境に考えが変わりました。当時のクリントン米大統領がホワイトハウスでヒトゲノムの解読作業をほぼ終えたという記者会見を見て「これだ」と思ったからです。その後、GenentechやAmgenなど、当時創業30年にも満たなかったバイオベンチャーの時価総額が、名だたる製薬会社より大きいことを知り、すっかりそのダイナミックさに魅了されてしまいました。学部生の途中からは、研究ではなく事業を通して社会実装に直結する仕事をしようと心に決め、以来バイオ、ゲノムの世界を歩み続けています。
共同創業者であり、Geno-Writing™ Platformの生みの親である相澤准教授との出会いについて教えてください。
石倉:2010年以降、長年バイオ領域の成長を支えてきた投資家に加え、ITビジネスで成功した人たちがどんどん投資サイドに入ってきたこともあって、合成生物領域に注目が集まっていました。2017年になると、史上初めて真核生物のゲノムを1から設計し、合成に成功したというニュースを知り「これはスゴいことになるぞ」と。それで、合成生物学の領域で起業するチャンスを模索するようになり、何人もの先端的なゲノム技術を持つアカデミアの方々とお話しするなかで出会ったのが相澤先生です。相澤先生は専門の合成生物学だけでなく、バイオ、化学、医薬などにも詳しく、ご自分の人生を社会課題の解決に費やしたいと信念をお持ちの方。知的好奇心旺盛で気さくで、経営感覚にも長けておられます。ご一緒しませんかと申し出ました。
Angel Bridgeを選んだ3つの理由
Angel Bridgeとの出会いについて教えてください。
石倉:創業前に在籍していた日本医療機器開発機構時代に一度お会いしたことがあります。確か2018年でしたね。
河西:そうでした。あるとき合成生物学に興味を持ってネットで情報を集めていたとき、たまたま見つけたプレスリリースにLogomixと石倉さんのお名前がありました。ただその時点では確信が持てず、相澤先生にアポイントをいただいてようやく「あのときお会いした石倉さんだったと」(笑)。2021年の夏に再会して、そこから本格的なお付き合いが始まりました。
河西さんから見て石倉さんはどんな起業家だと思いますか?
河西:石倉さんは、バイオ、ゲノム領域におけるシリアルアントレプレナーです。大学発ベンチャーに付き物の大学や研究者との関係構築の難しさをよくご存じで、それを踏まえてビジネスを構築できる希有な方です。その上、相澤先生が確立した技術をどう活かせば、社会的インパクトを残せるかよくわかっていらっしゃる。とても信頼を置ける経営者だと考えています。
石倉:ありがとうございます。相澤先生を含め私たちに共通しているのは、仮説検証プロセスに欠かせない事実に基づいた議論を好むことかも知れません。それだけに意思疎通に齟齬がなく専門的なテーマでも議論が深まりやすく、有意義な時間を共有できる。私たちにとっても、河西さんはビジネスを進める上で欠かせない存在です。
河西:相澤先生もそうなのですが、おふたりともいつお会いしても目がキラキラ輝いているのが印象的だなと思っているんです。それにおふたりとも非常に真面目。以前ご一緒した会食の際「資金調達が完了するまで、飲みません。禁酒中なんです」とおっしゃっていましたよね。それで改めて、真摯な経営者なんだと思いました。小さなエピソードですが、それだけでも信頼に足る方だと感じました。業界の成長性、技術の優位性、ビジネスの将来性もさることながら、私はLogomixを率いるおふたりの輝く目を見て投資を決めたんです。
実際にAngel Bridgeから投資を受けたのはいつですか?
石倉:2022年の1月です。Angel Bridgeさんにリードインベスターになっていただき、ジャフコさんや東大IPCさんほか日米のエンジェル投資家の皆さんから総額5億円調達しました。
なぜAngel Bridgeから投資を受けようと思ったのですか?
石倉:チームとしてのAngel Bridgeの優秀さもありますが、決め手はやはり河西さんの存在です。創業社長として投資先の1社であるHeartseed(ハートシード)の創業期を支えたことからもわかるように、大学発ベンチャーをよく知る事業家であり、医療やバイオ、ゲノムなどディープテックに強い投資家としての実績を考えると、ほかに選択肢はなかったように思います。大きなビジョンに寄り添うだけでなく、現実を踏まえた落とし所を見極めた上で助言してくださるのもありがたく思います。
河西:そう言っていただいて光栄です。いまおっしゃっていただいたように、私はHeartseedの社長を3年務めた経験があるので、研究と事業を両立する難しさや大学との特許契約にまつわる交渉の大変さは身をもって知っています。こうした形で自分の経験を共有できることは、私自身にとっても大きな喜びです。
事業規模10兆円を目指す
出会いから今日まで、Angel Bridgeからどのような支援を受けましたか?
石倉:たとえば、いま事業開発を担ってもらっているメンバーや共同研究先の紹介に始まり、Angel Bridgeさんの投資先を集めた「クロスラーニングの会」で、先輩経営者を紹介してくださるなど、資金のみならず、経営のあり方や組織、制度づくりの要諦など、物心両面で地に足のついたご支援いただいています。いま話に出た特許契約の実務のほか、資本施策についても事業家としてのご自身の経験を踏まえ、中立的立場から助言していただける非常にありがたい存在です。
河西:実はLogomixさんの月次の定例会に出席するのが楽しくて仕方ないんです。理由は、出るたびに事業上の重要事項が大きく前に進んでいるからです。そういう意味でも助言や紹介のしがいがありますし、そもそもディスカッション自体がとても楽しい。石倉さんの視野の広さや経営手腕、相澤先生の専門性とオープンマインドな性格がそう感じさせてくれているのだなとつくづく感じます。
石倉:相澤先生もよく「楽しい」とおっしゃってますよ(笑)。私自身、進捗をちゃんとお伝えしなければと身が引き締まる思いがありつつも、河西さんとの議論を楽しんでいます。
今後の展開を教えてください。
石倉:たとえば冒頭に名前を挙げたGenentechやAmgen、illuminaのような各分野のリーディングカンパニーのような、バイオやゲノムの世界で一目置かれる企業の多くは、総じて単一プロダクトで勝負するというより、多様な課題解決に使えるプラットフォームを打ち出すことで大きな飛躍を遂げています。つまりLogomixがゲノムエンジニアリングでトップを獲ることができれば、彼らと並ぶ事業規模、具体的には時価総額10兆円を目指すことも決して夢ではないということ。まだまだ先は長いですが、少なくともこの世界にはそれだけの可能性があり、私はLogomixにはそれに応えるだけのポテンシャルがあると確信しています。Logomixを世界中の研究者がこぞって訪れてくれるような会社にするのが目標です。
改めて、Logomixの投資先としての魅力は?
河西:Logomixは数ある大学発ベンチャーのなかでも際立った存在であり、革新的でイノベーティブなゲノム編集技術に加え、研究熱心で技術の社会実装に強い関心を持つ相澤先生とバイオ、ゲノム事業で豊富な経験を持つ石倉さんの強力なタッグも非常に魅力的です。私もLogomixには10兆円規模のビジネスを展開できるポテンシャルがあると確信しているので、これからもその実現に向けて全面的にサポートしていくつもりです。
最後に次代を担う若手起業家にメッセージをお願いします。
石倉:近年、衰退が指摘される日本にも世界で勝てる技術は少なくありません。私が最初に起業した2000年代初頭とは比べものにならないくらいスタートアップコミュニティは成熟していますし、投資サイドにも小さな失敗を経験として評価する機運が高まっているのを感じます。投資市場の停滞が指摘される経済環境ではありますが、もしビジネスで社会課題の解決を志すのであれば、縮こまっている場合ではありません。積極的にチャレンジすべきだと思います。
河西:今後も引き続き、投資先企業と二人三脚でビジネスを育てていくつもりです。とりわけバイオ、ゲノム領域は向こう数年で、5倍、10倍の成長が期待できる数少ない分野。そのなかでもLogomixは世界で勝負できる数少ない日本のバイオベンチャーの1社なのは間違いありません。これからも一緒に知恵を絞って、Logomixの成長を全力で後押ししていきます。
聞き手・構成/武田敏則(グレタケ)
2023.02.08 INVESTMENT
今回は、細胞ゲノムの高機能化技術を提供する東工大発の合成生物学ベンチャーである株式会社Logomixへの投資に至った背景について解説します。
合成生物学とは、組織・細胞・遺伝子といった生物の構成要素を組み合わせて代謝経路や遺伝子配列などを再設計し、新しい生物システムを人工的に構築したりする学問分野です。機能性物質の生産などへの応用があらゆる分野で期待されており、医薬品・燃料・プラスチック・食品添加剤・化粧品原料等の様々なモノを効率的に生産することが可能です。従来は捨てるはずだったものを原料にできたり、存在しなかった物質を優秀な遺伝子から作れたり、ヒト細胞の開発によって新しい創薬アプローチが実現できたり等、既存の生産手法で作っていたものやより優れたものが、合成生物学の技術を用いることで非常に安く効率的に作ることが出来る、大変可能性のある技術です。
それでは今回はAngel BridgeがLogomixに投資する際にどのような点を検討したかについて、ご紹介します。
合成生物学概要
それではまず既存の生産方法と合成生物学を用いた生産方法の比較です。合成生物学を用いた生産方法では、既存の生産プロセスが抱える各種課題の解決に寄与しています。例えばプラスチックを作る際に、従来は化石原料等を用いた化学合成技術を経て生産していましたが、合成生物学の技術を用いることで、サトウキビやトウモロコシなどを食べる優れた細胞を用い、目的生産物をより効率的に環境負荷の少ない形で作ることが出来ます。
近年の合成生物学の急速な発展の背景にはいくつかのファクターがあります。1つ目は次世代シークエンサー(遺伝子の塩基配列を高速に読み出せる装置)の開発です。次世代シークエンサーが開発されたことで、ゲノム解析の高速化・低コスト化が急速に進展し、解析コストは2000年の10万分の1に低下しました。2つ目はCRISPR-Cas9の開発です。これによりゲノムが自由に書き換えられるようになり低コスト化も進展しました。この技術は2020年にノーベル化学賞を受賞しています。またIT/AI技術の発展によって、ゲノム配列と生物機能の関係の解明も急速に進展しました。
市場
実際に合成生物学市場は急速に発展しており、市場に新たな機会を生み出すことが期待されています。世界の合成生物学市場は2020年時点で約70億ドルであり、2027年には約300億ドルに達すると予想されています。(出所:data bridge market research market analysis study 2020)
海外では世界市場を舞台にしたメガベンチャーが多数出てきており、GinkgoやAmyrisといった企業が上場しています。株主としてはKleiner PerkinsやKhosla Ventures、Softbankといった大型投資家等も投資をしており、大きな資金が集まる環境となっています。
日本においても、2023年1月に米製薬大手のModernaが日本のバイオスタートアップであるオリシロジェノミクスを8,500万ドルで買収したことが発表しており、注目が集まる領域となっています。
色々なメガベンチャーが出てきていますが、それぞれのベンチャーで特色があります。そもそものDNAを作るようなプレイヤーもいれば、今回のLogomixのような優れた細胞株を作るゲノム編集技術が得意なプレイヤーもいますし、実際にそれらを使って工業的に製品を作るような下流側のプレイヤーもいます。このように米国を中心に多数の合成生物学ベンチャーが勃興し、各ベンチャーの持つ技術を組み合わせたビジネス体系を形成していることが分かります。
サービス概要
Logomixの技術は以下のような4つの技術から構成されています。データベースを活用する中で、どの遺伝子が有用であるかやどの部分が不要であるか等を、Logomixのノウハウやシステムを使うことで効率よく検知し、大規模にゲノムを改変することができる技術となっています。
この中でも特にUKiSという技術がLogomixのコア技術となっています。
今までのゲノム改変技術は、CRISPR-Cas9に代表されるように1箇所だけを好きな塩基に変えることができるという技術でしたが、UKiSは染色体上の大きな領域を好きな塩基配列に変えることができます。一箇所の塩基をピンポイントで変えることができるというのも素晴らしい技術ですが、全体のゲノムを入れ替える中で長い領域を変えられるというのは非常に革新的であり、様々な領域に応用できる可能性を秘めています。
応用例
それではLogomixの技術の応用例についていくつかご紹介させていただきます。
- ①CO2固定化微生物の開発
- 従来は水素酸化細菌にパーム油を加えることでプラスチックの工業生産を行っておりますが、Logomixが開発した優秀な人工水素細菌を用いると、CO2と組み合わせることで高機能性バイオ素材等を作ることができます。この技術ではCO2を固定し酸素を出すため、植物のように現在のCO2関連の問題に対しアプローチできるというメリットもあります。
- ②独自疾患モデル細胞や治療用細胞開発を用いた創薬支援
- 神経系は遺伝子の異常によって引き起こされる疾患が非常に多いため、病気の患者と健常者の細胞を比較することで、どの遺伝子が原因かを1つ1つ調べるといったプロセスをせざるを得ないのが従来のやり方です。本来は遺伝子以外も人によって違うためそのノイズを合わせる必要がありますが、従来は一塩基しか変えることが出来ないため、この問題にアプローチできていませんでした。
- しかしUKiSの技術では、CRISPR-Cas9単独使用によるゲノム編集よりもより広範囲のゲノム改変が可能であるため、広いゲノム領域での変異や、離れた複数ゲノム部位での変異による疾患のモデル細胞も創出可能です。
- また、UKiSの技術を用いることで、誰にでも移植できる細胞であるユニバーサルドナー細胞(UDC)の研究開発を進めています。白血球型抗原(HLA)が不一致であったりHLA遺伝子が欠損していたりする他人の細胞・臓器などを移植した場合、免疫細胞に攻撃・排除される、いわゆる拒絶反応を起こしてしまう事がありますが、UDCはこの免疫拒絶反応が抑えられている細胞で、移植される患者のHLA型に適合させる必要なく移植が可能ですLogomixは免疫拒絶に関係する多くのHLA遺伝子を同時に欠損させることが出来ますが、これは大規模ヒトゲノム改変技術を世界に先駆けて開発したからこそ実現できる手法であり、世界でも前例がないものです。
経営陣
Angel BridgeがLogomixに投資するにあたり、経営チームへの理解を深めました。
まず代表の石倉CEOはバイオ・医療分野でベンチャー3社の創業経験があり、バイオベンチャーの運営やグロースのために必要なスキルセットを持ち合わせています。また相澤CSOは東京工業大学の准教授であり、合成生物学領域において非常に有能な研究者として著名な人物です。
このように業界に対する知見/合成生物学分野における高い技術力を持ち合わせており、バイオベンチャーとしては高いバランス感覚のある稀有なチームであると考えました。
おわりに
合成生物学はグローバルで注目度が高く、メガベンチャーが多数生まれている領域です。Logomixのコア技術であるUKiSは、広範囲にわたるゲノム領域を一気に改変することができることから、従来型の一塩基を改変するゲノム編集ではカバーできない領域に応用できる可能性があります。また、バイオベンチャー3社の創業経験がある石倉CEO/合成生物学領域において非常に著名な研究者である相澤CSOは非常にバランスの取れた経営陣であり、この難易度の高い領域で戦っていけると信じています。
繰り返しになりますが、Angel Bridgeは社会に大きなインパクトをもたらすために、あえて難しいことに挑戦していくベンチャーこそ応援しがいがあると考えており、こういった領域に果敢に取り組むベンチャーを応援したいと考えています。事業の壁打ちや資金調達のご相談など、お気軽にご連絡ください!
今回は、細胞ゲノムの高機能化技術を提供する東工大発の合成生物学ベンチャーである株式会社Logomixへの投資に至った背景について解説します。
合成生物学とは、組織・細胞・遺伝子といった生物の構成要素を組み合わせて代謝経路や遺伝子配列などを再設計し、新しい生物システムを人工的に構築したりする学問分野です。機能性物質の生産などへの応用があらゆる分野で期待されており、医薬品・燃料・プラスチック・食品添加剤・化粧品原料等の様々なモノを効率的に生産することが可能です。従来は捨てるはずだったものを原料にできたり、存在しなかった物質を優秀な遺伝子から作れたり、ヒト細胞の開発によって新しい創薬アプローチが実現できたり等、既存の生産手法で作っていたものやより優れたものが、合成生物学の技術を用いることで非常に安く効率的に作ることが出来る、大変可能性のある技術です。
それでは今回はAngel BridgeがLogomixに投資する際にどのような点を検討したかについて、ご紹介します。
合成生物学概要
それではまず既存の生産方法と合成生物学を用いた生産方法の比較です。合成生物学を用いた生産方法では、既存の生産プロセスが抱える各種課題の解決に寄与しています。例えばプラスチックを作る際に、従来は化石原料等を用いた化学合成技術を経て生産していましたが、合成生物学の技術を用いることで、サトウキビやトウモロコシなどを食べる優れた細胞を用い、目的生産物をより効率的に環境負荷の少ない形で作ることが出来ます。
近年の合成生物学の急速な発展の背景にはいくつかのファクターがあります。1つ目は次世代シークエンサー(遺伝子の塩基配列を高速に読み出せる装置)の開発です。次世代シークエンサーが開発されたことで、ゲノム解析の高速化・低コスト化が急速に進展し、解析コストは2000年の10万分の1に低下しました。2つ目はCRISPR-Cas9の開発です。これによりゲノムが自由に書き換えられるようになり低コスト化も進展しました。この技術は2020年にノーベル化学賞を受賞しています。またIT/AI技術の発展によって、ゲノム配列と生物機能の関係の解明も急速に進展しました。
市場
実際に合成生物学市場は急速に発展しており、市場に新たな機会を生み出すことが期待されています。世界の合成生物学市場は2020年時点で約70億ドルであり、2027年には約300億ドルに達すると予想されています。(出所:data bridge market research market analysis study 2020)
海外では世界市場を舞台にしたメガベンチャーが多数出てきており、GinkgoやAmyrisといった企業が上場しています。株主としてはKleiner PerkinsやKhosla Ventures、Softbankといった大型投資家等も投資をしており、大きな資金が集まる環境となっています。
日本においても、2023年1月に米製薬大手のModernaが日本のバイオスタートアップであるオリシロジェノミクスを8,500万ドルで買収したことが発表しており、注目が集まる領域となっています。
色々なメガベンチャーが出てきていますが、それぞれのベンチャーで特色があります。そもそものDNAを作るようなプレイヤーもいれば、今回のLogomixのような優れた細胞株を作るゲノム編集技術が得意なプレイヤーもいますし、実際にそれらを使って工業的に製品を作るような下流側のプレイヤーもいます。このように米国を中心に多数の合成生物学ベンチャーが勃興し、各ベンチャーの持つ技術を組み合わせたビジネス体系を形成していることが分かります。
サービス概要
Logomixの技術は以下のような4つの技術から構成されています。データベースを活用する中で、どの遺伝子が有用であるかやどの部分が不要であるか等を、Logomixのノウハウやシステムを使うことで効率よく検知し、大規模にゲノムを改変することができる技術となっています。
この中でも特にUKiSという技術がLogomixのコア技術となっています。
今までのゲノム改変技術は、CRISPR-Cas9に代表されるように1箇所だけを好きな塩基に変えることができるという技術でしたが、UKiSは染色体上の大きな領域を好きな塩基配列に変えることができます。一箇所の塩基をピンポイントで変えることができるというのも素晴らしい技術ですが、全体のゲノムを入れ替える中で長い領域を変えられるというのは非常に革新的であり、様々な領域に応用できる可能性を秘めています。
応用例
それではLogomixの技術の応用例についていくつかご紹介させていただきます。
- ①CO2固定化微生物の開発
- 従来は水素酸化細菌にパーム油を加えることでプラスチックの工業生産を行っておりますが、Logomixが開発した優秀な人工水素細菌を用いると、CO2と組み合わせることで高機能性バイオ素材等を作ることができます。この技術ではCO2を固定し酸素を出すため、植物のように現在のCO2関連の問題に対しアプローチできるというメリットもあります。
- ②独自疾患モデル細胞や治療用細胞開発を用いた創薬支援
- 神経系は遺伝子の異常によって引き起こされる疾患が非常に多いため、病気の患者と健常者の細胞を比較することで、どの遺伝子が原因かを1つ1つ調べるといったプロセスをせざるを得ないのが従来のやり方です。本来は遺伝子以外も人によって違うためそのノイズを合わせる必要がありますが、従来は一塩基しか変えることが出来ないため、この問題にアプローチできていませんでした。
- しかしUKiSの技術では、CRISPR-Cas9単独使用によるゲノム編集よりもより広範囲のゲノム改変が可能であるため、広いゲノム領域での変異や、離れた複数ゲノム部位での変異による疾患のモデル細胞も創出可能です。
- また、UKiSの技術を用いることで、誰にでも移植できる細胞であるユニバーサルドナー細胞(UDC)の研究開発を進めています。白血球型抗原(HLA)が不一致であったりHLA遺伝子が欠損していたりする他人の細胞・臓器などを移植した場合、免疫細胞に攻撃・排除される、いわゆる拒絶反応を起こしてしまう事がありますが、UDCはこの免疫拒絶反応が抑えられている細胞で、移植される患者のHLA型に適合させる必要なく移植が可能ですLogomixは免疫拒絶に関係する多くのHLA遺伝子を同時に欠損させることが出来ますが、これは大規模ヒトゲノム改変技術を世界に先駆けて開発したからこそ実現できる手法であり、世界でも前例がないものです。
経営陣
Angel BridgeがLogomixに投資するにあたり、経営チームへの理解を深めました。
まず代表の石倉CEOはバイオ・医療分野でベンチャー3社の創業経験があり、バイオベンチャーの運営やグロースのために必要なスキルセットを持ち合わせています。また相澤CSOは東京工業大学の准教授であり、合成生物学領域において非常に有能な研究者として著名な人物です。
このように業界に対する知見/合成生物学分野における高い技術力を持ち合わせており、バイオベンチャーとしては高いバランス感覚のある稀有なチームであると考えました。
おわりに
合成生物学はグローバルで注目度が高く、メガベンチャーが多数生まれている領域です。Logomixのコア技術であるUKiSは、広範囲にわたるゲノム領域を一気に改変することができることから、従来型の一塩基を改変するゲノム編集ではカバーできない領域に応用できる可能性があります。また、バイオベンチャー3社の創業経験がある石倉CEO/合成生物学領域において非常に著名な研究者である相澤CSOは非常にバランスの取れた経営陣であり、この難易度の高い領域で戦っていけると信じています。
繰り返しになりますが、Angel Bridgeは社会に大きなインパクトをもたらすために、あえて難しいことに挑戦していくベンチャーこそ応援しがいがあると考えており、こういった領域に果敢に取り組むベンチャーを応援したいと考えています。事業の壁打ちや資金調達のご相談など、お気軽にご連絡ください!
2023.02.01 INVESTMENT
2023年1月6日、Angel Bridgeの投資先である日本ハイドロパウテック株式会社(以下NHP)がロッテとの資本業務提携を締結したというプレスリリースが発表されました。
今回は、Angel Bridgeが合成樹脂押出技術を食品加工に応用したフードテック企業であるNHPへ投資した理由を解説します。
盛り上がるフードテック市場
(出典:経済産業省「フードテック振興のアイデア」)
現在、フードテック市場は成長し続けています。経産省によると世界のフードテック市場規模は、24兆円(2020年)から279兆円(2050年)と30年間で10倍以上に急拡大する見込みです。領域も代替肉や昆虫食、陸上養殖、植物工場など多岐にわたります。
この市場急成長の背景としては、食料不足や健康・栄養問題、食料生産による環境問題などのグローバルな社会課題の顕在化があります。これらの課題を解決できる産業としてフードテックが期待されています。
(出典:2022 AgFunder AgriFoodTech Investment Report)
例えば海外では代替肉を開発するBEYOND MEATが評価額$1.4B、代替乳製品を開発するOatlyが評価額$10BでIPOしました。日本国内においても近年はIPOはないものの資金調達は活発化しています。
NHPが事業展開するフードテック市場が巨大かつ今後も成長し続ける可能性が高いという点は彼らに投資を決めた背景の1つです。
NHP事業概要
NHPはCEOである熊澤氏がダイセル化学工業(現(株)ダイセル)で習得した合樹押出技術を食品加工に応用した加水分解技術をもとに事業化した会社です。当初は米を原料とした加水分解物の製造受託を中心に取り組んでいましたが、更なる高付加価値化を目指し、高単価なチョコレートや昆虫食、バイオエタノール等を新たな事業の柱と位置づけてフードテック領域に本格参入しました。
合樹押出技術はプラスチックなどの着色、コンパウンドを製造する際に使用される技術であり、食品業界ではスナックの製造に使用されています。押出機内で加水分解を安定的に起こすためには材料に応じてスクリュー形状の変更や温度調整などを行う必要があるため、高いレベルでの知識・ノウハウが要求されます。NHPではCEO熊澤氏とCTO中林氏の高い技術力により、合樹押出技術の食品業界への応用を実現しました。
NHPの製法は従来の加水分解製法と違い、高粘度の原料を低い酸素濃度、高温、高圧で剪断加工を行うので、原材料が分子レベルで分解し、炭化もしません。これによって従来よりも効率的に、また高品質な食品を製造することができます。さらに製造の際の環境への負荷も少なくなっています。特に、高品質なチョコレートや昆虫食を作るための技術(無菌化・微細化)が備わっている点は他社との明確な差別点となっています。
他企業との共同開発・業務提携
チョコレート・昆虫食・バイオエタノールを事業の柱にしていくにあたり、NHPは各領域でパートナリングを行い、共同研究開発や販路拡大を推進しています。
チョコレート領域ではロッテと資本業務提携契約を締結したことが発表されました。ロッテは現在、サスティナビリティに向けた取り組みに力を入れており、「DO Cacao chocolate」という新ブランドの立ち上げやチョコレート会社の買収など積極的に活動しています。NHPの加水分解技術とロッテの資本力・開発力が合わさることで、さらにチョコレート事業が加速していくことが予想されます。
他にも昆虫食領域では同じくフードテック企業であるエコロギー社との業務提携契約を締結して製造を受託していたり、バイオエタノール領域ではGreen Earth Institute社と業務提携を結び、成長が著しいSAF市場で国産SAFの商用化に向けた取り組みに貢献していたりします。
このように様々な領域でリーディングカンパニーと提携できていることが、NHPの技術力の高さや業界内での評価の高さを表しています。
経営陣
投資を検討するにあたって、経営陣への理解も深めました。
CEOの熊澤氏は、ダイセル化学工業で10年以上合樹押出技術についての知識/ノウハウを蓄積し、さらにそれを食品加工に応用するという革新的なアイデアを持った優秀な経営者です。面談を重ねていく中でIPOへの強い思い、そして自身の技術への強い自負が感じられました。
CTOの中林氏も熊澤氏と同じくダイセル化学工業出身です。機械設備導入や工場のオペレーションの指揮を行っています。機械に関する高い知見と経験を持っており、製造のプロフェッショナルとしてNHPを支えています。
COOの杉村氏は証券会社・コンサルティング会社出身のビジネスマンです。ベンチャー企業や新規事業開発支援の経験が長く、事業開発のプロフェッショナルとしてNHPにコミットしています。
このように、革新的なアイデアを持つ熊澤CEOとそれを実現できる優秀でバランスのとれた経営陣で、事業を力強く推進できる点がNHPに投資する理由の1つとなりました。
おわりに
ここまでNHPへの投資理由について解説しました。まとめるとNHPの魅力的な点としては(成長する巨大市場)×(革新的な技術)×(優秀な経営陣)の3点が挙げられ、メガベンチャーになる要素が詰まっていると考えています。今後は海外市場への参入や自社ブランド商品の開発などを目指しており、さらなる成長が期待できます。
Angel Bridgeは社会に大きなインパクトをもたらすために、難しいことに果敢に取り組むベンチャーを応援していきたいと考えています!事業の壁打ちや資金調達のご相談など、お気軽にご連絡ください!
2023年1月6日、Angel Bridgeの投資先である日本ハイドロパウテック株式会社(以下NHP)がロッテとの資本業務提携を締結したというプレスリリースが発表されました。
今回は、Angel Bridgeが合成樹脂押出技術を食品加工に応用したフードテック企業であるNHPへ投資した理由を解説します。
盛り上がるフードテック市場
(出典:経済産業省「フードテック振興のアイデア」)
現在、フードテック市場は成長し続けています。経産省によると世界のフードテック市場規模は、24兆円(2020年)から279兆円(2050年)と30年間で10倍以上に急拡大する見込みです。領域も代替肉や昆虫食、陸上養殖、植物工場など多岐にわたります。
この市場急成長の背景としては、食料不足や健康・栄養問題、食料生産による環境問題などのグローバルな社会課題の顕在化があります。これらの課題を解決できる産業としてフードテックが期待されています。
例えば海外では代替肉を開発するBEYOND MEATが評価額$1.4B、代替乳製品を開発するOatlyが評価額$10BでIPOしました。日本国内においても近年はIPOはないものの資金調達は活発化しています。
NHPが事業展開するフードテック市場が巨大かつ今後も成長し続ける可能性が高いという点は彼らに投資を決めた背景の1つです。
NHP事業概要
NHPはCEOである熊澤氏がダイセル化学工業(現(株)ダイセル)で習得した合樹押出技術を食品加工に応用した加水分解技術をもとに事業化した会社です。当初は米を原料とした加水分解物の製造受託を中心に取り組んでいましたが、更なる高付加価値化を目指し、高単価なチョコレートや昆虫食、バイオエタノール等を新たな事業の柱と位置づけてフードテック領域に本格参入しました。
合樹押出技術はプラスチックなどの着色、コンパウンドを製造する際に使用される技術であり、食品業界ではスナックの製造に使用されています。押出機内で加水分解を安定的に起こすためには材料に応じてスクリュー形状の変更や温度調整などを行う必要があるため、高いレベルでの知識・ノウハウが要求されます。NHPではCEO熊澤氏とCTO中林氏の高い技術力により、合樹押出技術の食品業界への応用を実現しました。
NHPの製法は従来の加水分解製法と違い、高粘度の原料を低い酸素濃度、高温、高圧で剪断加工を行うので、原材料が分子レベルで分解し、炭化もしません。これによって従来よりも効率的に、また高品質な食品を製造することができます。さらに製造の際の環境への負荷も少なくなっています。特に、高品質なチョコレートや昆虫食を作るための技術(無菌化・微細化)が備わっている点は他社との明確な差別点となっています。
他企業との共同開発・業務提携
チョコレート・昆虫食・バイオエタノールを事業の柱にしていくにあたり、NHPは各領域でパートナリングを行い、共同研究開発や販路拡大を推進しています。
チョコレート領域ではロッテと資本業務提携契約を締結したことが発表されました。ロッテは現在、サスティナビリティに向けた取り組みに力を入れており、「DO Cacao chocolate」という新ブランドの立ち上げやチョコレート会社の買収など積極的に活動しています。NHPの加水分解技術とロッテの資本力・開発力が合わさることで、さらにチョコレート事業が加速していくことが予想されます。
他にも昆虫食領域では同じくフードテック企業であるエコロギー社との業務提携契約を締結して製造を受託していたり、バイオエタノール領域ではGreen Earth Institute社と業務提携を結び、成長が著しいSAF市場で国産SAFの商用化に向けた取り組みに貢献していたりします。
このように様々な領域でリーディングカンパニーと提携できていることが、NHPの技術力の高さや業界内での評価の高さを表しています。
経営陣
投資を検討するにあたって、経営陣への理解も深めました。
CEOの熊澤氏は、ダイセル化学工業で10年以上合樹押出技術についての知識/ノウハウを蓄積し、さらにそれを食品加工に応用するという革新的なアイデアを持った優秀な経営者です。面談を重ねていく中でIPOへの強い思い、そして自身の技術への強い自負が感じられました。
CTOの中林氏も熊澤氏と同じくダイセル化学工業出身です。機械設備導入や工場のオペレーションの指揮を行っています。機械に関する高い知見と経験を持っており、製造のプロフェッショナルとしてNHPを支えています。
COOの杉村氏は証券会社・コンサルティング会社出身のビジネスマンです。ベンチャー企業や新規事業開発支援の経験が長く、事業開発のプロフェッショナルとしてNHPにコミットしています。
このように、革新的なアイデアを持つ熊澤CEOとそれを実現できる優秀でバランスのとれた経営陣で、事業を力強く推進できる点がNHPに投資する理由の1つとなりました。
おわりに
ここまでNHPへの投資理由について解説しました。まとめるとNHPの魅力的な点としては(成長する巨大市場)×(革新的な技術)×(優秀な経営陣)の3点が挙げられ、メガベンチャーになる要素が詰まっていると考えています。今後は海外市場への参入や自社ブランド商品の開発などを目指しており、さらなる成長が期待できます。
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