2023.05.31 INTERVIEW

デジタル化を通じて集客とオペレーションの改善に取り組む

ミツモアの事業内容を聞かせてください。

吉村:ミツモアは2つのサービスを提供しています。1つは各界のプロに見積もりを依頼できるサービス「ミツモア」、そしてもう1つが「MeetsOne」という現場事業者向けのオペレーション改善サービスです。

具体的にどのような課題を解決する事業、サービスなのでしょうか?

吉村:現場事業者の多くは、個人事業主や小規模事業者が多く、いまだに電話、ファックス、紙によるコミュニケーションに頼っていることが少なくありません。利用者にしてみれば、庭木の剪定や家のリフォームなど、1日でも早く解決したい問題があるのに、依頼から発注までに2週間程度待たされることも多い上に、信頼できる業者を見つけるのも大変です。一方、現場事業者にしてみれば、見積書提出後のフォローや既存顧客に対する定期的なケアまで手が回らず、営業機会の損失を重ねるケースが珍しくありませんでした。しかしミツモアなら、事前に入力していただいた詳細な価格表に基づいて、24時間いつでも1分程度で見積もり出すことができ、MeetsOneなら、ITに不慣れな方でも簡単に業務効率化を通じ営業力強化が図れます。私たちが提供しているのは、集客とオペレーションのデジタル化によって旧態依然とした業務を改善し、稼げる仕組みを提供するサービスなんです。

競合状況はいかがですか?

吉村:ミツモアが得意としているのは、ある程度相場が明らかなサービスと利用者のマッチングではなく、本来なら現地調査や詳細な打ち合わせなどを経なければ、金額の目安さえわからない個別性の高い依頼です。確かにプロに仕事を依頼するサービスや事業者の業務効率化を支援するサービスはほかにも存在しますが、業務フローが複雑であるがゆえに、長らく古いプロセスが温存されてきてしまった領域をソフトウェアの力で改善するという意味において、真正面からぶつかり合う競合はほぼないという認識です。

デジタル化を通じて集客とオペレーションの改善に取り組む

プロフェッショナルファームからシード期のスタートアップへ

幼少期から社会に関心のあるお子さんだったと聞いています。社会人になるまでどんな生活をされていたのでしょう?

吉村:生まれも育ちも奈良で、いま振り返るとちょっと恥ずかしいんですけれど、教育制度に一言もの申したくて文科省にパブリックコメントを送ったりするような「意識高い系」の小学生でしたね(笑)。子どものころから家族揃ってテレビのニュースを観たり、新聞を読む機会が多かったので、自然と社会への関心が高くなったんだと思います。将来の夢は、割と素朴に「国公立大学に進学して公務員になれたら」と思うくらいで、はっきりとした目標があったわけではありません。ただ、何らかの形で社会に貢献したいという気持ちはその当時からあった気がします。

その後、京都大学法学部に進学され、卒業後はマッキンゼーに入られました。どんな心境だったのですか?

吉村:大学時代に鯖江市の地域活性化活動に携わったときに、これから戦略コンサルタントになるという方にお会いして、コンサルティングファームに興味を持ちました。コンサルティングの世界について、自分なりにいろいろと調べてみると、公務員や官僚より自分の性分に合っていそうな気がしましたし、民間のほうがかえって面白い仕事ができるかもしれないと思って受けたところ、運良く入社できました。

マッキンゼー時代に得たこと、学んだことについて教えてください。

吉村:マッキンゼーに在籍していた4年半弱の間に学んだことは数知れません。社会人としてのイロハにはじまり、時間あたりの価値を最大化するために何を考え、何をどうすべきか、プロとして必要なことをすべてを教えてもらいました。学んだのは具体的な方法論や手法だけではありません。「戦略とは何か」「論理的に考えるとはどういうことか」「課題解決のためにどんな問いを立てるべきか」といった、抽象度の高い思考力も鍛えられました。優秀で意欲的な人たちに囲まれ、成果を出すために必要なすべてを実践の場で体系的に学べたのは得難い経験だったと思います。

なぜ、No.1プロフェッショナルファームを自認するマッキンゼーから、スタートアップのミツモアに移られたのでしょう?

吉村:マッキンゼーでは得るものが多かったのですが、さまざまな経営者と接するなかで、当事者として戦略を描き、ビジネスと向き合い成果を出したいと考えるようになりました。実はマッキンゼーを退職後、起業するつもりで準備をしていた時期もあったのですが、残念ながら計画が頓挫してしまったこともあり時間ができたので、シード期のスタートアップの現実を知ろうと思いマッキンゼー時代の先輩に紹介されたミツモアにアルバイト入社しました。

ミツモアのどこに惹かれたのでしょうか?

吉村:当初「3カ月で辞めます」と公言していたのですが、CEOの石川彩子、CTOの柄澤史也の優秀さや裏表のない言動、誠実な人柄に触れ気が変わりました。当時はまだ事業が立ち上がったばかりで、売上も月に数万円程度しかない超アーリーステージです。こうした状況にあっても、石川と柄澤は私利私欲を満たすためではなく、全身全霊で顧客のため世の中のためにベストが尽くそうとしていたんです。当時私は27歳で、この先5年、10年をどこでどう過ごすべきか、キャリアの上でも人生の上でも非常に大事な選択だと考えていたからこそ3カ月で辞めるつもりだったのですが、この人たちとならきっと有意義な時間が共有できると確信したので、ミツモアに腰を落ち着けました。

河西:いま吉村さんが言われた通り、石川さん、柄澤さん、吉村さんをはじめ、ミツモアの経営陣は事業に対する思いの強さや情熱がありながら、論理的に考え、よく話し合い、理に適った決断を下せる非常に希有なチームです。頭の良さに加え気合いと根性が備わっている。そんな印象がありますね。

吉村:河西さんにそう言っていただけて光栄です。きっと2人も喜ぶと思います(笑)。

ハンズオン投資家ならではの心強い一言が救いに

河西さんに聞きます。ミツモアとの出会いを教えてください。

河西:2019年1月ごろだったと思います。あるビジネスイベントで石川さんのプレゼンを拝見して、非常にユニークで将来性のあるサービスだと感じ声を掛けさせていただいたのが最初です。その2週間後には、石川さん、柄澤さん、吉村さんに弊社までご足労いただき、その後も何度か面談を重ねてお話しさせていただいたのですが、最初に受けた印象は変わることなくむしろ確信に変わりました。はじめてお会いしてから1カ月足らずでシリーズAラウンドに参加することを決め、それ以降も継続的にご支援させていただき、2022年8月に実施されたシリーズBラウンドにも参加させていただきました。

ユニークで将来性のあるサービスに惹かれたとのことですが、投資に至った一番の決め手は何だったのでしょうか?

河西:皆さんそれぞれキャラクターは違うんですが、 価値観が一致しており、何があっても諦めない人たちだと感じましたし、あえてニッチを狙わず、見積もりを通じてあらゆるビジネスを支援するという志の大きさも決断を揺るぎないものにしてくれました。ここまで明確な目標があり、情熱に裏打ちされた考え抜く力と実行する意欲があるなら、仮に投資が失敗しても悔いが残らないだろうと感じ投資に踏み切りました。

Angel Bridgeからはどのような支援を受けていますか?

吉村:基本的には月に1度のペースで行っている株主報告会にご出席いただき、主に資金調達や採用の面でのアドバイスやサポートをいただいています。

とくに印象に残っているエピソードがあれば教えてください。

吉村:2021年の暮れにシリーズBの調達準備をはじめたころの話です。当時、株式市場は悪化の一途を辿っており、投資環境はかなり冷え込んでいました。そうした状況下にあっても河西さんは、「最後は俺たちが何とかするから大丈夫」と、私たちの判断に太鼓判を押してくださったんです。私たちの価値観や目指すところに共感していただけているんだと感じずにはいられませんでしたし「そこまで言っていただけるなら諦めず頑張ろう」という気持ちにもなれました。本当に心強かったです。

河西:資金的な面でのお手伝い以外でハンズオン投資家にできることは、実践的なアドバイスと寄り添う気持ちしかありません。ミツモアを最後まで支える覚悟があることをいち早くお伝えすることが皆さんの励みになるのであればと思ってお話ししました。将来性のあるビジネスですし、ガッツのある経営陣が揃っているんですからサポートしないわけにはいきません。当時はそんな心境でしたね。

吉村:シリーズAラウンドの調達の後、ビジネスが伸び悩んだ時期にも何度も相談に乗っていただきましたね。

河西:そうでした。勇気を持って状況を変えていこうとされている姿を見て、きっとトンネルから抜けられると思ったので、とくに不安はありませんでした。実際、新たな施策がうまくいきビジネスが再び成長しはじめたのを見て、このチームなら将来、新たな課題に直面したとしても必ず乗り越えられるだろうなと確信しました。

吉村:ありがとうございます。河西さんの言葉やご支援がどれだけ励みになったかわかりません。

「稼ぐ」仕組みの提供で日本のGDPに貢献する

改めて吉村さんにうかがいます。これからミツモアをどんな会社にしていきたいですか?

吉村:社会を支える労働人口が減りゆくなかで、限られた人数でいかに生産性高く「稼ぎを上げていくか」が、これからの日本にとって大きな課題です。手間や時間が掛かるせいで仕事を頼みたいのに頼めなかった方、また、いくら請求されるかわからず発注に二の足を踏んでいた方々が、ミツモアを通じて心置きなく現場事業者さんに仕事を頼めるような環境を整えていくつもりです。同時にMeetsOneの活用によって、業務の効率化と営業力強化が実現できれば、お客様のビジネスはさらに伸びるはず。これからも「稼ぐ」ための仕組みによって、お客様のビジネス、ひいては日本のGDPに貢献したいと思っています。

河西さんはAngel Bridgeとしてどんな支援を提供したいとお考えですか?

河西:ミツモアは自ら課題解決できる自走型チームなので、こまごまとしたアドバイスよりも、温かく見守ること、寄り添うことが大事だと思っています。ここ一番というタイミングで皆さんが正しい決断が下せるよう、これからもそんなスタンスでサポートしていくつもりです。

最後にスタートアップ経営者やスタートアップに関心を持つ方々にメッセージをお願いします。

吉村:スタートアップは苦労の連続です。気合いと根性で乗り越えざるを得ない局面に出くわすこともよくあります。スタートアップに携わるのであれば、どんなビジネスをどのような手段で実現するのかと同じくらい、誰と一緒に成し遂げたいか、よく考えてみることをお勧めしたいですね。良い時期もさることながら、価値観を共有できない人と苦しい時期を共有することはできないからです。これは創業メンバーや社員選びに限らず、投資家選びにも通じる話だと思います。

河西:この記事を読んでくださっている方のなかには、コンサルティングファームなどで活躍中の方も多いでしょう。そうしたプロフェッショナル志向を持つ方にこそ、もっとスタートアップに関心を持っていただきたいというのが私の願いです。ミツモアのような前途有望なスタートアップに優秀な人材が集まれば、吉村さんがおっしゃるように、日本のGDPを増やすことにつながるはず。ミツモアは経営陣も優秀ですしビジネスも有望です。投資家の立場からもお勧めできる会社なので、興味をお持ちの方はぜひアプローチしてみてほしいですね。

 

2023.05.25 INVESTMENT

2023年5月25日に、Angel Bridgeの投資先である、武田薬品工業発ベンチャーの株式会社リボルナバイオサイエンスがシリーズDラウンドにおいて6.7億円の資金調達を発表しました。

今回は、独自の創薬プラットフォームを通じてRNAを標的とする低分子医薬品の研究開発を行う、株式会社リボルナバイオサイエンスへの投資に至った背景について解説します。

RNAを標的とする低分子医薬品は、新たな治療方法として近年多くのグローバルメガファーマも注目している領域です。当該技術によって、従来治療法がなかったRNA機能不全を原因とする難病も治療可能になり、経口摂取でQOLの高い治療も実現できます。
現在難病で苦しむ多くの患者さんやそのご家族が明るい未来を迎えられるように、創薬領域から医療社会に貢献する当社の魅力が伝われば幸いです。

RNA標的低分子医薬品の概要

RNA(リボ核酸)とは、DNAに保持されているタンパク質の情報を媒介し、タンパク質の産生に関わる物質です。

また、低分子医薬品とは分子量がおよそ10,000以下で、大半は化学物質によって生成された医薬品です。経口吸収性に優れており、長年開発が進められてきたことから開発リスクが低く、製造コストも比較的安いことが特徴です。

病気はタンパク質の生成が過不足することによって引き起こされることがありますが、タンパク質そのものではなく、タンパク質の生成に必要なRNAをターゲットとすることで、より効果的に治療できるとされています。これまで、RNAをターゲットとする薬剤は核酸医療薬が主体でしたが、生体内で不安定、かつ標的への伝達が困難であるという課題がありました。
しかし近年、RNAの構造解析や分析技術の発展に伴い、低分子医薬品の簡便さでRNAを直接ターゲットにできるRNA標的低分子医薬品が登場し、フロンティア領域として、大手製薬会社を中心に脚光を浴びています。

RNA標的低分子医薬品の概要

市場規模と動向

RNA標的の低分子医薬品市場は、今後急成長を見込む新しい領域で、グローバルメガファーマの関心も高い有望な領域です。市場規模は2030年までに1兆円となる見込み(Roots Analysis調査より)であり、Roche社、AstraZeneca社やSanofi社など多くのメガファーマが、専門のライセンサー(開発会社)と提携をしています。

市場規模と動向

さらに、Roche社が販売する脊髄性筋萎縮症(SMA)の治療薬であるRisdiplamや、PTC Therapeuticsが販売・製造するデュシェンヌ型筋ジストロフィー(DMD)の治療薬であるTranslaraなど、すでに上市済みの医薬品が2つ存在し、RNA標的の低分子医薬品の効果や安全性は実証されていると考えられます。

市場規模と動向

また、リボルナバイオサイエンスが対象とする疾患治療全体の潜在的な市場規模も十分に大きく、SMA(脊髄性筋萎縮症)だけでも1兆円、FTLD(前頭側頭葉変性症; 世界で400万人)やPD(パーキンソン病; 世界で700万人)などの他の病気も合わせると数兆円と十分大きな市場規模が存在します。

市場規模と動向

技術の概要

リボルナバイオサイエンスは、RNA InsightとRNA Dominoという二つのモジュールからなるスクリーニングプラットフォームを有しています。自然な3次元構造を有するRNAを使用したスクリーニング技術は世界で唯一の技術であり、また転写からタンパク質生成までの過程全てでアプローチが可能なため、全遺伝性疾患を対象にできる唯一のバイオベンチャーです。

技術の概要

RNA Insightは、体内環境下に近い全長3次元のRNAを活用できる世界初のスクリーニング技術です。他社の技術では、スクリーニングの際に断片状のRNAを使用して低分子化合物を結合させていましたが、臨床環境とのギャップが生まれやすく、臨床での成功確率やRNAの選択性が低いという課題がありました。そこでリボルナバイオサイエンスでは、あらかじめ体内環境下に近いスクリーニング環境を構築することで、臨床試験における成功率を高め、効能を高めながら副作用の低減も可能です。

技術の概要

RNA Dominoは、異常なスプライシングを正常化できる低分子化合物をスクリーニングする技術です。患者の細胞を利用したアッセイが特徴で、擬陽性なく直接スプライシング調節作用を持つ低分子化合物を同定可能であり、あらゆるスプライシングパターンに対応可能で、臨床試験での成功確率も高い技術です。

事業の概要

当社の技術は標的となるRNAが特定できれば、異なる疾患に対しても容易に横展開できるため、多くのパイプラインを並行して進めることが可能です。当該技術を生かして、短期的には創薬プラットフォーム型で多くの製薬企業との共同開発を進めていますが、中長期的には自社で開発から販売まで行う自社パイプラインの開発も視野に入れています。

現状、各大手製薬企業との議論も進んでおり、世界で神経科学をリードするバイオテクノロジー技術で革新的な治療薬を生み出し、約6兆円の時価総額を誇るBiogen社とは大型のオプション付きライセンス契約を締結済みです。また、他にも異なる疾患を対象に複数のメガファーマとも議論中です。

現在は技術の実証のために成功確率が比較的高く、開発期間が比較的短い希少疾患を対象としていますが、将来的には患者数の多い遺伝性疾患や高有病率疾患へも拡張し、対象とする市場を拡大していきます。

事業の概要

経営陣

リボルナバイオサイエンスに投資するにあたり、経営チームへの理解も深めました。
富士CEO兼COOは、武田薬品工業にて15年以上の創薬研究に従事しており、特にRNA創薬に関する深い知見とパッションを持った人物です。そのパッションに惹かれ、優秀な経営陣や社員の方々も入社しています。また、ファイナンスの高い専門性を持った小田CFOや、武田薬品の元研究員の方々も複数在籍しており、会社全体としてのRNA関連の研究・技術開発力の高さや、事業開発力の高さも評価しました。

おわりに

RNAを標的とする低分子医薬品はグローバルでも注目度が高く、メガファーマが多数注目している領域です。リボルナバイオサイエンスのコア技術は、従来の方法よりも臨床での実践性に優れるとともに、高いRNA選択性を達成することができ、こうした治療薬の実現性を格段に高める可能性があります。また、富士CEOをはじめ経営陣は創薬に対する熱いパッションを持っており、難易度の高い当該領域で戦っていけると信じています。

Angel Bridgeは社会への大きなインパクトを創出すべく、難解な課題に果敢に挑戦していくベンチャーを応援しています。ぜひ、事業戦略の壁打ちや資金調達のご相談など、お気軽にご連絡ください!