2024.07.09 ACADEMY

今回はスタートアップ企業が活用できる補助金・融資について説明していきます。

スタートアップ支援に対する国の動向

2022年11月に、岸田内閣は日本のスタートアップエコシステムを強化する「スタートアップ育成5か年計画」を掲げました。スタートアップ育成5か年計画では、2027年までの5年間でスタートアップへの投資額を10兆円規模に拡大し、ユニコーンを100社、スタートアップを10万社創出することを目指しています。この目標は岸田内閣の「新しい資本主義」政策の中で、日本経済を牽引していくことを目的として作成されました。

現在のスタートアップの調達手段の中心はエクイティ(株式)です。しかし、他にも手段としては、補助金やデット(融資)なども存在します。国を挙げてスタートアップを創出・成長させようとするマクロ環境が追い風となって、ここ数年ではスタートアップが活用できる補助金や融資の制度が増えつつあります。それぞれ詳しく見ていきましょう。

補助金・融資の違い

企業が受けられる金銭的支援として、主に補助金や融資などがあり、それぞれに違いがあるため注意が必要です。

まず補助金についてです。経産省や国立の機構などが主体となり、事業の成長が期待できる企業にお金を支給します。返済義務はありませんが、その分一定の基準を満たしたうえで採択される必要があり、倍率が高いものも数多く存在します。

次に融資についてですが、こちらは銀行や日本政策金融公庫等の金融機関が提供しているものに加え、各都道府県・自治体が金融機関と連携してお金を貸し付けているものも存在します。返済義務はありますが、条件によっては保証人がいらなかったり、無利子・低利子で借りられたりする制度もあります。また、最近ではエクイティとデット(融資)の両方の性格を持つ「ベンチャーデット(新株予約権付融資)」の利用も広まっています。

今回はスタートアップ向けの補助金と融資に絞り、スタートアップが活用できる制度の中でも代表的なものをご紹介します。


表1 スタートアップの調達手段比較

補助金

まず一例として挙げられるのが、NEDOによる「ディープテック・スタートアップ支援基金(DTSU)」です。

ディープテック企業は一般に技術の確立や事業化・社会実装までに長期の研究開発と大規模な資金を必要とするため、事業化に向けたリスクが高く、従来は積極的な投資対象となっていませんでした。しかし、これらのディープテック企業は国や世界全体で対処すべき経済社会課題解決のポテンシャルが大いにあり、可能性を秘めた革新的なビジネスであるため、徐々に政府が重点的な支援を行うようになったという背景があります。本基金は1,000億円と大規模で、最大6年間で30億円の大型支援が可能な制度であり、自身の会社のフェーズによって、3つの異なる部門のうちの一つに応募することが可能です。

図1 NEDO公式HPよりディープテック・スタートアップ支援基金の説明

また、技術を活かした別の補助金の例として、経産省による「SBIRフェーズ3基金」も挙げられます。こちらは宇宙(宇宙輸送等)、核融合、防災の3つの分野のうちいずれかに取り組んでいるスタートアップが対象で、分野によって受け取れる補助額も変わってきます。

また一般的に想像されるような専門度の高い技術に取り組んでいなくとも、生産性の向上や新製品・サービスの開発のための設備投資等に取り組みたい企業に対し、中小企業庁は「ものづくり補助金」も提供しています。こちらは本来は中小企業が対象ですが、3つ申請枠があるうちの「製品・サービス高付加価値化枠」はスタートアップとの相性が良く、過去にもスタートアップの採択事例もあります。

他にもNEDOが主体となって提供している補助金である「官民による若手研究者発掘支援事業」や「グリーンイノベーション基金事業」、科学技術振興機構が主体である「ディープテック・スタートアップ国際展開プログラム(D-Global)」など、多くの補助金の制度があります。

政府や自治体による補助金のスタートアップ支援の対象は主にロボティクス、バイオ、ヘルスケアといった深い技術力が必要な研究開発型ベンチャーが多いように見えます。しかし、このような研究開発型のベンチャーだけでなく、AIを活用したIT系のスタートアップであっても独自のAI技術の強みの観点などから補助金の対象になる可能性もあります。特に経産省のスタートアップ支援策の検索ページは大いに活用できるものなので、ぜひ応募できるものがないか積極的に確認してみてください!

融資

次に、最近多くの注目を集めているデット(融資)ファイナンスの事例に入っていきます。デットファイナンスは、金利上昇や日本のIPO環境の悪化など、エクイティファイナンスの冷え込みと共に、スタートアップの間でも注目されるようになりました。スタートアップが活用することにより、株式の希薄化がないなどのメリットもあります。

融資は政府系金融機関のみならず、民間の銀行や自治体なども提供しています。

<公的機関による融資>

まずは政府系金融機関による融資をご紹介します。

最初に例として挙げられるのは、日本政策金融公庫による「新創業融資制度」です。2024年4月から、新たに事業を始める人または事業開始後税務申告を2期終えていない人が無担保・無保証人で利用する場合、融資限度額が3,000万円から2倍超の7,200万円まで引き上げられました。女性や若者、シニア、廃業歴などがあり創業に再チャレンジする人、中小会計を適用する人は、通常よりも有利な条件で制度を活用することができます。

また、同じく日本政策金融公庫による「スタートアップ支援資金」では、日本の経済成長及び社会課題の解決を先導することが見込まれるスタートアップの成長を支援しています。

表2 日本公庫のスタートアップ向け融資制度(新旧制度の比較)

さらに東京都など、都道府県レベルでの自治体の機関がスタートアップ向けの融資を提供している場合もあります。例えば東京都創業ネットは、「女性・若者・シニア創業サポート2.0」に取り組んでおり、都内での女性・若者・シニアによる地域に根ざした創業を支援しています。この制度では、信用金庫・信用組合を通じた低金利・無担保の融資が提供される他、地域創業アドバイザーによる経営サポートも受けることが可能です。

他にも政府と民間団体が共同で出資する商工組合中央金庫は、スタートアップ向け融資に積極的です。新事業に取り組んだり、成長分野に進出したりするスタートアップ企業に対し、10億円の融資を実施しています。

各都道府県や、より小さな市区町村レベルでもスタートアップの支援に力を入れているところもありますので、ぜひチェックしてみてください。

<民間機関による融資>

民間の機関を見てみると、近年は大手銀行もスタートアップの融資を強化しています。例えば三井住友銀行は2023年10月よりミドル・レイターのスタートアップに向けた新株予約権付き協調融資(複数の金融機関による融資)を開始しました。また、みずほ銀行は2022年4月より「イノベーション企業審査室」を新設し、事業や成長性をより深く把握し、迅速に融資することを目標としています。足元の業績が赤字の企業でも、経営陣の資質や将来の事業計画の蓋然性、資金繰りなどの「ヒト・モノ・カネ」の観点を総合して返済能力を見極めています。加えて、三菱UFJ銀行は2017年より担保・保証に依存しない融資制度を導入しました。また、りそな銀行は2023年10月よりベンチャーデット(新株予約権付融資)に100億円投じることを宣言し(1件あたり1億円前後が目安)、貸し倒れリスクの高い「アーリー期」も融資対象としています

大手銀行だけでなく、地銀でもスタートアップに力を入れている銀行があります。具体例として、静岡銀行は2021年6月にベンチャーデットに力を入れることを公表し、2027年までにベンチャーデット残高を1,000億円にすることを目標としています(2022年度の30倍)。実際に2023年3月までの1年半で46件、72億円を投じており、赤字企業に対しても融資を行っています。静岡銀行の場合は、県内の事業者とスタートアップとの協業を促進するオープンイノベーションプログラム「TECH BEAT Shizuoka」を開催しており、スタートアップの支援に本気で取り組んでいることが伺えます。

銀行のスタートアップ支援策は政府や自治体の機関と異なり、通常の融資ではなく、ベンチャーデットとして提供していることも多いです。ベンチャーデットは従来の融資に加え、新株予約権(ワラント)が付随します。通常の銀行融資と比べた時の資金調達のハードルを抑えつつ、エクイティよりも株式の希薄化を抑えることができるため、スタートアップにとっては活用しやすい制度となっています。一方で、銀行側にとってはリスクの高い投資を行っているため、利率や返済条件が厳しいケースもあり、利用にあたっては十分に確認する必要があります。

最近では金融機関だけでなく、スタートアップ企業が新しい形の融資を提供しているケースも存在します。Fivotは主にD2CやSaaSなどの事業を行うスタートアップを中心に、レベニュー・ベースド・ファイナンスやベンチャーデットを提供しています。最短30分のデータ連携で審査が完結し、2週間で審査結果がわかるなど、成長企業の資金繰りをサポートし、更なる成長を生み出すためのファイナンスを提供しています。Siiibo証券は従来の公募債よりもオンラインで短期間に社債を発行することができ、クイックな資金調達を可能にする私募社債というファイナンスを提供しています。どちらも新しいファイナンススキームであり、企業の多様な成長を後押しするために非常に有効な手段です。Angel Bridgeとしても非常に注目している企業です。

まとめ

日本政府のスタートアップ支援に対する姿勢が積極的になったこともあり、近年はエクイティ以外にも、補助金やデット(融資)などの、スタートアップに対する多様な支援の制度が拡充されてきました。今回ご紹介したのは数多くある制度のうちの一部の補助金や政府・自治体・民間企業による融資に過ぎませんが、他にも数多くの制度が存在します。起業家の皆さんは、もしかするとご自身の事業領域や活動拠点の所在地(都道府県・自治体など)、属性やバックグラウンドによって有利に受けられる支援もあるかもしれません。本記事が他にも支援制度を探索してみるきっかけづくりになっていれば幸いです。

Angel Bridgeはシード〜アーリー期のスタートアップを中心に投資しているVCであり、手厚いハンズオン支援を特徴としています。今回解説した資本政策についても、投資先起業の経営陣とディスカッションを行い、投資家目線のアドバイスを行ってまいりました。事業戦略の壁打ちや資金調達のご相談などありましたら、お気軽にご連絡ください!

2024.07.01 INTERVIEW

微生物を活用することで、数年かけて抽出していた成分を数日で作り出せる

ファーメランタの事業内容や競合状況を教えてください

柊崎:ファーメランタは微生物を活用して有用な物質を作り出すバイオ系のスタートアップです。医薬品や化粧品、健康食品の原料には植物を栽培して抽出した成分が使われていて、なかには年単位の時間をかけて栽培し抽出する成分もあります。私たちはこうした成分の微生物を活用することで、数日で作り出せる技術の研究開発を行っています。

事業としては大きく2つあります。1つ目は化学メーカーのように成分の製造販売を行うこと、2つ目は企業のニーズに合わせて微生物を設計することです。

弊社は微生物に多数の新たな遺伝子を導入したり、元々もっている遺伝子を潰したりすることで、狙った物質を作り出せる微生物にしていきます。この技術は共同創業者である南と中川が20年近く続けてきた研究によるもので、同じことを実現できる競合は日本にほぼ存在しません。海外には一部競合にあたる会社があるものの、シンプルな化学的構造をもつ成分を対象としているため、弊社のほうがより難易度の高いことを実現しています。

ファーメランタの強みはどこにあるとお考えですか?

柊崎:一番の強みは技術力です。ひとつの細胞に複数の遺伝子を導入することは技術的に難しいですが、弊社は20以上の遺伝子をひとつの細胞に入れる技術力をもっています。

これは研究開発を重ねた結果として実現できたことで、最初は十数個の細胞を入れるのに2年ほど時間がかかっていました。現在では技術的な課題はクリアしていますが、遺伝子を入れた後にうまく遺伝子が発現して機能し、細胞として統合的に制御できるようにするプロセスは非常に難易度が高いです。こうした細胞の培養は、現時点では弊社のラボにある卓上の培養装置で行っています。

コミュニケーションに駆け引きがなく、フェアで気楽なディスカッションができた

Angel Bridgeの存在を知ったのはいつ、どのようなきっかけでしたか?

柊崎:2023年2月に、Angel Bridgeのキャピタリストの方との共通の知人から紹介されたことがきっかけです。

河西:Angel BridgeがLogomix(東工大発の合成生物学スタートアップ)に投資したという告知をFacebookでしたところ、共通の知人が「こんな面白いことをやっている人がいるよ」と柊崎さんの話をしてくれたんです。その話を伺いファーメランタに興味をもったので紹介してもらうことにしました。

Angel Bridgeならびに河西さんにどのような印象を持ちましたか?

柊崎:コミュニケーションに駆け引きがなかったことが印象的でした。投資する側と投資してもらう側は条件面のすり合わせが必要なので、どうしても壁のあるコミュニケーションになりがちですが、Angel Bridgeにはそれが一切なかったのです。また、Angel Bridgeのキャピタリストはプロフェッショナルファームのバックグラウンドをもつ方が多く、私も同じ業界の出身なので話しやすいと感じました。

投資を受けるにあたって期待されたこと、懸念されたことを聞かせください。

柊崎:期待していたことは、コミュニケーションの円滑さと対等な関係性が作れることでした。Angel Bridgeとはフェアでかつ気楽にディスカッションができたため、投資検討のプロセスを通して投資後に協力的な関係を築いていけるイメージが湧き、投資を受けることにしました。

資金調達をするのが初めてだったので、当初はプレッシャーをかけられるのではないかという点を懸念していました。しかし実際にはそんなことはなくAngel Bridgeは寄り添っていただける、温かいVCだと感じています。

世界的に競争力のある技術と、やりきる力をもったビジネス人材がいることが投資の決め手

投資家の立場から、ファーメランタを評価したポイント、投資の決め手を振り返ってください。

河西:ファーメランタは大学発ベンチャーであり、大学にある技術をビジネスとして成功させるスタートアップです。私自身、大学発ベンチャーをこれまで数多く見てきて、成功する企業を見分ける自分なりの見極めポイントをもっています。1つ目はその企業がもつサイエンス、テクノロジーに世界的な競争力があること、2つ目は事業を預かるビジネス人材がサイエンスのことを理解されているだけでなく、事業を推進する能力に長けていることです。

1つ目のサイエンスについては、石川県立大学の南先生、中川先生の20年の研究に優位性があり、世界的な雑誌であるネイチャーコミュニケーションズにも論文が掲載されているなど、レベルの高いものであると感じました。

2つ目のビジネス人材つまり柊崎さんは、これまでサイエンスを専門にされていたわけではありませんが、正しく深くサイエンスを理解されていました。これまでに相当学び、先生方と議論されてきたのだろうと思います。そして、柊崎さんは投資銀行での経験があり、ファイナンスのバックグランドをお持ちです。バイオベンチャーは研究開発のために大きな金額を集める必要があるため、そのバックグランドは大きな武器になると考えました。

実際は、一度目は柊崎さんにお会いし、二度目に先生方にお会いし、三度目にお会いしたときには投資を決めていました。おそらく2週間くらいで投資の意思を固めたので、スピード感のある投資決定でした。

柊崎さんおよび創業メンバーにどのような印象を持たれましたか?

河西:柊崎さんは目がキラキラしていて、まっすぐ生きてこられた人だと思います。世の中はこうあるべきだという考えがあり、その世界観を実現するために何が何でもやりきるんだという強い意志を感じました。大学発ベンチャーは調達すべき金額も大きいので、大変なことは色々とあるでしょう。でも、柊崎さんなら最後までやりきるだろうと思えました。

Angel Bridgeは投資の際に、企業の社長に関してさまざまなレファレンスを取ります。共通の友人などを通じて柊崎さんの話を聞きましたが、さまざまなエピソードを聞いても物事をやりきる力がある人だと思いました。

そして、柊崎さんはお父さんが宮崎県の外食チェーンを一代で築き上げた経営者であり、幼い頃から「将来は自分のビジネスを作りたい、世の中に価値を生み出していきたい」と思っていたことも聞きました。こうしたDNAに刻まれた運命も含め、柊崎さんの強い意志も確認でき、首尾一貫した方であると思いましたね。

また、先生方にお会いしたときに、非常に柊崎さんを信頼していることが伝わってきました。大学発ベンチャーの場合、先生方が自分で経営もできると考えていたりするとビジネス側の人材が疎外されてしまうこともあります。ファーメランタではそういったことは起きないだろうと思いました。

柊崎さんは、経営者であるお父様の影響を受けていますか?

柊崎:影響はありますね。実は、父だけでなく父方・母方の祖父も共に一代で事業を立ち上げている経営者です。ある意味、それが働き方なんだと子供の頃から刻み込まれてきました。ただ、経営者として教育されたというわけではなく、好きなことを好きなようにやりなさいと育てられてきました。

起業家同士の横のつながりを作りやすいAngel Bridge主催のイベント

Angel Bridgeから受けた支援で、とくに印象的だった取り組みを聞かせてください。

柊崎:     Angel Bridgeは起業家同士の横のつながりをつくれるさまざまなイベントを開催されています。例えば、BBQやゴルフ、フットサル、スカッシュなどのイベントです。毎回30〜40名ほどの参加者がいて、Angel Bridgeの関係者が10名ほど、他はスタートアップの経営者です。

また、Angel Bridgeの人脈で銀行から大型の融資を受けることができたのもありがたかったです。助成金を使うことが多いのですが後払いになるので、つなぎで銀行融資を受ける必要があるからです。

河西:ファーメランタが石川県初のベンチャー企業で、北陸銀行を紹介することができたので、エリア的にも相性がよく前向きに話が進みましたよね。

他の取り組みとしては、さまざまなテーマで勉強会を開催しています。投資先の皆さんに集まっていただいて起業家に話してもらう形式です。起業家が集まるので刺激があっていいという声をいただいています。

柊崎さんはAngel Bridgeと他のVCを比較したときどのような違いを感じますか?

柊崎:経営者を信頼してフェアに接していただいています。一番お世話になっているのは河西さんですが、河西さん以外の方とコミュニケーションを取る機会も多くあり、会社全体として関わってくださると感じます。

河西:Angel Bridgeでは、担当者であるか否かによらず、各々ができることを積極的に投資先の皆様に提供し、弊社支援を行っていくという考えです。誰かがイベントを企画したときに「柊崎さんも誘ってみたら」と伝えることや、何かのイベントで柊崎さんと話した社員がまた別のイベントに誘うようなこともあります。

ディープテックのバイオ領域の事業をやりたいという想いがあった

起業はいつ頃から考えていたのでしょうか?

柊崎:中学・高校の頃からぼんやりと起業したいと考えていました。大学生のとき周囲に起業する人がいたこともあって、ビジネスアイデアを考えたことがあります。しかし、どれも世の中が変わるほどのインパクトはありませんでした。

ただ、その頃に今の起業につながる経験をしていました。私はケニアでボランティアをしたことがあり、途上国開発に関心をもっていました。そして、微生物が植物由来の成分をつくり、それがマラリアの薬になったというニュースを聞いたのです。ケニアはマラリアが多く、その薬はケニアにとって大きな助けになるので、すごい技術だと思いました。しかし、自分自身が技術力をもっていないのでビジネスにしようという発想には至りませんでした。

結局、学生起業には限界があると感じて就職することにしました。外資系金融を選んだのはハードな環境だからです。限界まで自分が頑張れる環境に身を置くことで成長したいと考えました。

就職後は食品系の企業と働く機会が多く、発酵工業という大きな産業があることを知りました。そして、技術をもつ人と一緒なら起業できるのではないかと思うようになったんです。

共同創業者である南CSO、中川CTOとの出会いから、起業に至った経緯をお聞かせください。

柊崎:起業する領域をディープテックでかつバイオ領域にしようと決め、共同創業できる研究者を探すためさまざまな関係者に聞きまわりました。そこで、国のプロジェクトであるSBIR制度のプログラムを紹介されたのです。私が参加した農水省生研支援センターによるSBIRは研究シーズの事業化を支援するプロジェクトで、研究者とビジネスパーソンをマッチングする機能があります。SBIRを通じて共同創業者である南、中川と出会いました。

創業したのは出会いから1年ほど経過してからです。先生たちの研究対象は既に市場があるので、製造販売をすることができればビジネスとしても成立します。ただ、うまくいかない場合も想定して、研究費用を出してもらうことができる共同研究先を見つけようと考えました。創業前からさまざまな会社にコンタクトしてディスカッションし、共同研究に進んだものもあります。先生方の技術にニーズがあることも確認ができたため、会社の設立に至りました。

先生方の研究レベルの高さを理解するための知識を、柊崎さんはどのように身につけたのでしょうか?

柊崎:特別な勉強をした感覚はないのですが、関心の高い分野の本や論文を知的好奇心を持って読み、吸収していました。

ディープテックは技術がベースだからこそ、実現できた時のインパクトが大きい

創業後、最もハードだった出来事をお聞かせください。

柊崎:あまりハードだと思っていないのですが、2023年3月頃は資金調達前で従業員もいなかったので、すべてを自分でやる必要があり少しハードだったかもしれません。ただ、自分が本当にやりたいことに取り組み始めたタイミングで、ゼロからイチを生み出していたので、知的好奇心が満たされていて楽しかったという印象です。

共同研究先やクライアントを探すのは大変ではありませんでしたか?

柊崎:弊社の技術はかなり尖っているので、他社では実現が難しいです。そのため営業活動はそこまで大変ではありませんでした。多売するビジネスモデルではないので大きな仕事を獲得していくという感じです。技術や研究開発力を伸ばしていくことが、営業の優位性につながります。

過去のご経験が活きる場面はあるでしょうか? それはどのような場面でしょうか?

柊崎:スタートアップの経営はタスクが非常に多いので、前職で膨大な量のタスクをスピード感をもってこなした経験は役立っています。そして、資金調達や助成金などのお金関連のことがある程度わかるというのも前職の経験が生きている部分です。

ディープテックスタートアップにビジネス人材として参画することの難しさややりがいを教えてください

柊崎:ディープテックはサイエンスがベースになっているビジネスなので、技術が実現できなければ先がないというリスクがあります。しかし、うまくいけば技術は国境を超えますし、尖っている技術であるほど世の中に与えるインパクトも大きいです。そういった意味で、大きな未来に向かっていける点がやりがいです。

経営者として大切にしている信念をお聞かせください。

柊崎:自分がイニシアティブを取って、全責任をもってやりぬくことです。立場上、自分がやっていないことも含めてすべてが自分の責任なので、それを引き受ける覚悟はもっています。会社内で何が起きているかわかっていない状態は危険だと思っているので、細かなところまで緻密に把握することが大切です。

マイクロマネジメントはしていませんが、社内のオペレーションはすべて理解しています。また、共同創業者である先生方とはバックグラウンドが違うのですが、お互いの深い理解が事業にもよい影響をもたらすと考えており、プライベートな話も含めて積極的にコミュニケーションしています。

Angel Bridgeと末長くいい関係でいたい

ファーメランタの今後の展望について教えてください。

柊崎:一番の強みである技術に、お金や人的リソースを投資し大事にしていきたいと考えています。一方、どれだけ技術が優れていても世の中に提供できなければ会社の存在意義がなくなってしまうので、実際にビジネスを生み出していくことにもこだわっています。

植物から抽出されている成分を使用している医薬品には、例えば鎮痛剤や抗がん剤などがあります。鎮痛剤は90%以上が先進国で消費されていると言われていて、価格の高い医薬品は途上国に行き渡りにくいです。弊社の技術によって、より広い地域に届けられるようになればと思っています。

柊崎さんはこれからAngel Bridgeにどのような役割を期待されますか?

柊崎:一回目の資金調達ではまだ会社もシード期で最もリスクのあるフェーズでした。Angel Bridgeはそのような時期にファーメランタ社への投資をコミットいただき、とても感謝しています。ベンチャーキャピタルはスタートアップのフェーズによって分かれている印象がありますが、Angel Bridgeとは長くお付き合いをしたいと考えています。

河西:資金面で言えば、二回目、三回目の投資もしていきたいと考えています。また、柊崎さんの伴走役として、うまくいっているときにはたしなめ、うまくいっていないときは励まし、仲間として柊崎さんの精神的な心の支えでありたいです。

ディープテックは、プロフェッショナルファーム出身者が活躍できる場

ビジネスサイドの人材が、ディープテックスタートアップで活躍するには何が必要でしょうか?

柊崎:ディープテックは基本的なビジネス能力の高い人が活躍できる場であり、故にプロフェッショナルファームで経験を積まれた方が活躍できる場だと思っています。深く技術を理解してどのようにビジネスとして成立させるかを描ければ、オペレーションを実行していくだけです。その点、ビジネスのスキルセットを高いレベルで持たれているプロフェッショナルファーム出身者が得意とするところだと思っています。

スタートアップ志向や起業志向をお持ちの読者にアドバイスやメッセージをお願いします。

柊崎:ディープテックにもっとビジネスサイドの人材が入ってきたらと思います。日本には優れた技術が多いにも関わらず大学の中に埋もれている状況です。あとは経営やオペレーションをまわす人がいれば、ディープテックは国境を越えて大きな社会的インパクトを出せます。大志をもった人がやりたいことを実現できるので、ぜひ恐れず飛び込んでいただきたいです。

河西:柊崎さんに同感です。ディープテックの大学発ベンチャーに優秀なビジネスパーソンが飛び込んできてほしいです。ディープテックは早い段階から世界市場での勝負になるので、大きな事業を作れる可能性があり、ダイナミックな経験ができると思います。