2024.11.28 INTERVIEW

遺伝性希少疾患に的を絞り、RNA創薬に挑むバイオベンチャー

——リボルナバイオサイエンスはどのような事業を手がける会社ですか?

富士:リボルナバイオサイエンスは、タンパク質合成を司るRNA(リボ核酸)を標的とした経口医薬品の創薬研究に取り組むバイオベンチャーです。注射によって投与する高分子医薬品ではなく、経口摂取可能な低分子医薬品でRNAを狙い撃ちできるようになれば、患者さんのQOLは確実に高まります。これまで有効な治療法がなかった遺伝性希少疾患に苦しむ患者さんと、そのご家族の苦痛を少しでも和らげたいという思いで創業しました。

——なぜこれまでの低分子医薬品ではRNAを標的にできなかったのでしょうか?

富士:以前から低分子化合物によるRNA創薬の研究が進められていましたが、製剤化は容易ではありませんでした。2万数千種ある人間の持つRNAは構造が似たり寄ったりで、低分子医薬品では標的となるRNAを見分けることが難しかったからです。

——この課題をクリアして起業された?

はい。私自身、RNAをターゲットにした低分子医薬品開発の黎明期から関わってきました。企業研究者時代にRNAをピンポイントで見分けるスクリーニング技術の確立に目処が立ち、新薬の候補となるリード化合物を見つけられたので、この技術にさらに磨きをかけるべく起業しました。

——なぜ、RNAをターゲットにした低分子医薬品による創薬を目指したのですか?

富士:低分子医薬品と同じく、RNAを標的にした創薬分野に「核酸医薬品」があるのですが、こちらは新しいタイプの薬剤であるため創薬のハードルが非常に高い一方、低分子医薬品の歴史は長く、開発プロセスも確立されています。RNA創薬と低分子医薬品を掛け合わせれば、多くの患者さんに希望を届けられ、かつビジネスとしても大きなインパクトがあると考えました。

研究者から起業家への転身を支えた強い信念の原点とは?

——以前お務めだった大手製薬会社によるカーブアウト(※)プログラムに参加されて起業に至ったと聞きました。創業するにあたって不安はありましたか?

富士:当時は不安よりも「とにかくアイデアを実現させたい」という意気込みが優っていましたね。「この技術が世に出ないはずがない」という自負心もありました。

※カーブアウトとは企業が子会社や自社の事業の一部を切り出し新会社として独立させること

——恵まれた環境に未練はなかったのですか?

富士:研究者なら誰しも、自分の技術を世に出したいという思いがあるものです。私はその思いが人一倍強かったのだと思います。当時勤めていた製薬会社で一度はプロジェクトを立ち上げたものの、事業ポートフォリオの見直しにより研究継続が困難になってしまったため、研究者の独立を支援するカーブアウトプログラムを利用して起業しました。このプログラムに採択していただいたおかげで、資金や環境面でかなり手厚いサポートを受けられました。前職にはとても感謝しています。

——とはいえ研究の成果はあっても経営のご経験はありません。起業のモチベーションはどこから得たのでしょうか?

富士:起業に対して前向きになったのは、2013年にアメリカのサンディエゴにある子会社に出向した経験が大きかったように思います。現地でまず驚いたのは、バイオベンチャーを取り巻く環境の豊かさでした。大手製薬会社や大学、VCを巻き込む一大コミュニティができあがっていたからです。人もお金も日本では考えられないほどダイナミックに動いており、とても刺激を受けました。もうひとつ起業の志を後押ししてくれたことがあります。それはアメリカから帰国後に読んだ、あるイギリス人女性のブログです。この女性は脊髄性筋萎縮症に苦しむ幼い娘さんを抱えておられ、遺伝性疾患で苦しむ人たちを救いたいという思いの原点になりました。こうした出来事が幾重にも重なって起業や経営への不安を払拭してくれたように思います。

4年間の努力が実を結び勝ち取った高い評価と投資機会

——リボルナバイオサイエンスとAngel Bridgeのお付き合いはどのような形ではじまったのでしょうか?

河西:富士さんと最初にお会いしたのは、たしか創業間もない2019年ごろでしたよね。

富士:そうですね。アイデアと夢はありましたが、当時はまだ誇れるような成果も実績もない状態でした。

河西:当時リボルナさんはRNA創薬の基礎技術はお持ちで将来性は感じたものの、今後の創薬市場においてどのようなポジショニングが狙えるのか確信が持てず、投資を見送らせていただいた経緯があります。再会したのはそれから4年後でしたね。

富士:はい。一昨年、改めてお付き合いのある証券会社を介して改めて河西さんに面会を申し出て、お会いできました。

 

——なぜ改めて面会を申し入れたのでしょうか?

富士:河西さんは、大学院で遺伝子工学を修め、バイオをはじめディープテック領域に関して豊富な知見と投資経験をお持ちです。前回お会いしたとき、河西さんから「技術的にはすごく面白いし、可能性も感じるけれどもう少し進捗がほしい」とおっしゃっていただいていたので、この4年でわれわれがどの程度前進したかぜひご報告したいと思い、お声がけしました。

河西:その後リボルナさんは、米バイオジェン社と創薬研究ステージでは国内最大クラスの中枢神経系疾患領域での共同研究契約を結ばれるなど、RNAをターゲットにした低分子医薬品開発は世界的な製薬企業からも注目を集めるようになりました。富士さんの粘り強い努力と先見の明を目の当たりにして、「この人ならきっと最後までやり抜くだろう」と感じ、2023年5月に実施された総額6.7億円の第三者割当増資への参加を決めました。

ほかのVCとは一線を画すAngel Bridgeの魅力

——改めてAngel Bridgeに対してはどのような印象をお持ちですか?

富士:帰国後、さまざまなVCに出会いましたが、Angel BridgeはほかのVCとは一線を画す印象がありますね。技術に対する造詣が深く投資判断までのスピードが速いのは、アメリカのVCに近い印象です。ただ完全にアメリカ的というわけではなく、コミュニケーションを大切にし、関係者と協調する姿勢はむしろ日本的な印象すらあります。

河西:私はAngel Bridgeを創業するまで、長年外資系企業のカルチャーのなかで育ちました。仕事はプロフェッショナルに進めますし、言うべきことをちゃんと言うよう教育されてきましたが、魂はやはり日本人です。自分の主張を押し通そうとするより、立場の異なる人たちの意見を聞きながら合意形成を図る重要性は理解しているつもりなので、ステークホルダー間の関係や機微には敏感かも知れませんね。

富士:経営会議で同席すると感じるのは、VCという立場を超えて、意見を押すべきタイミングと、引くべきタイミングを見極めていらっしゃるのを感じます。もしかすると、投資家と経営者の両面をお持ちだからこそ見えるものがあるのかも知れません。いつも勉強させてもらっています。

河西:そう言っていただけるのはうれしいですね。

 

経営者の見識を育むAngel Bridgeのハンズオン支援

——Angel Bridgeからの支援で印象に残っている取り組みを聞かせてください。

富士:私がすごく楽しみにしているのは、Angel Bridgeの投資先が集まる「クロスラーニングの会」ですね。私はこれまで2回参加しましたが、私を含め参加者のみなさんが「今回は自分のために企画してくれたのではないか?」と感じるほど、スタートアップ起業家にとって身近なテーマを採り上げてくださるので、スタートアップ経営者にとってとてもありがたい機会です。

河西:クロスラーニングの会は、スタートアップが直面する「採用」と「組織構築」と「ファイナンス」の3つの悩みを共有し、解決の糸口をつかんでもらうために企画している勉強会です。そういっていただけるのは運営側としてうれしいですね。

富士:厳しい状況を乗り越えた起業家から、直接、経験談やアドバイスをうかがえるのはとても貴重な機会ですし、業界は違えど同じ悩みを抱える経営者同士、同じ時間を共有できるだけでも励みになります。明日からすぐ実践できるようなヒントもたくさんいただけるので、継続して参加するつもりです。

——ほかに、どのような支援を受けていますか?

富士:私は研究者出身のせいか、どうしても技術的な説明に力を入れてしまいがちなクセがあります。ときに、相手が求めるポイントからずれた回答をしてしまうことがあったのですが、河西さんから「こっちの伝え方の方が相手に刺さりますよ」と改善点を具体的に指摘いただいたことで、以前より円滑にコミュニケーションが図れるようになりました。

河西:立場や役割、フェーズによって物事の捉え方や興味の範疇が異なりますからね。それに私自身、かつて研究者を目指したこともあるので、富士さんの気持ちは痛いほどよくわかるんです。

富士:河西さんの一つひとつの言動には研究に対するリスペクトを感じるので、素直に受け止められるのかも知れません。

河西:経営者が納得しないとことは何事もうまくいきませんし、それはほかの利害関係者も同じです。仮に富士さんが首を縦に振りたくないであろうことでも、客観的に見てやるべきだと思えばそのようにお伝えしますし、その逆も同じです。どんなときもフラットであることを心がけているので、富士さんのように聞く耳を持ってくださる方だとアドバイスのしがいがあります。壁の向こうに、きっと支援してくれる人たちがいる

——改めてこれからの目標を聞かせてください。

富士:日本にもバイオベンチャーが続々と増えていますが、いまのところ医薬品の上市を実現したバイオテック企業はまだありません。日本のバイオベンチャーシーンを盛り上げるためにも、誰もがうなずけるような成功事例が必要です。日本のバイオベンチャーの存在意義を確かなものとするためにも、少しでもはやく優れた医薬品を社会に届けたいと思っています。

 河西:バイオテック領域は最初からグローバル市場を狙える数少ない領域です。リボルナさんにはまずは日本発のグローバルベンチャーとして名乗りを上げてもらい、ゆくゆくは世界的な製薬会社になっていただきたいですね。切に願っています。

富士:そういっていただけて光栄です。これからも河西さんをはじめAngel Bridgeのみなさんには、忖度なく意見していただきたいと思っていますので、今後ともよろしくお願いいたします。

河西:もちろんです!

——最後に環境が整った大企業を卒業しスタートアップを起業したい方にメッセージをお願いします。

富士:もし、どうしても実現したいアイデアがあるなら、それを世に問うことを恐れないでほしいですね。いま勤めている会社では実現できなくても、その信念が正しいのであれば、組織の壁を乗り越えた向こうに、きっと支援してくださる方がいるはずです。ですから諦めず、業界の有識者やオピニオンリーダーに夢や目標を語り続けてください。仮に否定されても落ち込む必要はありません。ブラッシュアップのいいチャンスだからです。諦めない気持ちと続ける勇気を持って取り組めば、きっと道は拓けます。ぜひ頑張って挑戦してください。

河西:バイオベンチャーが成功を収めれば、日本でも後を追う人は必ず増えるはずです。そういう意味でもリボルナさんにはぜひ成功していただきたいと思います。研究者が学術的な賞賛に加え、経済的な恩恵を受けられるようになれば、日本の創薬市場も大きく変わるはずです。頑張ってロールモデルになってください。期待しています。

富士:ありがとうございます。「研究者」が再び日本の子どもの憧れの職業になるよう、これからも努力を続けるつもりです。

 

2024.11.19 INTERVIEW

goooodsは、売り手と買い手をつなぐ卸売プラットフォーム

——goooodsはどのような顧客に対しサービスを提供する企業なのでしょうか?

菅野:端的にいいますと、goooodsは卸売産業にチャレンジしている企業です。具体的には、ユニークで素敵な製品をつくられているメーカーやブランドと、厳選した商品を仕入れ販売する小売店やEC事業者の間を取り持つマーケットプレイス事業に取り組んでいます。

——特徴は?

菅野:マーケットプレイスとして取引の場を設けるだけでなく、与信請求業務などの煩雑で手間のかかる作業を軽減し、取引先管理・受発注業務・書類発行業務まで事業者のみなさんのバックオフィス負担を減らす機能を備えている点です。このほかにもブランドイメージに忠実なウェブページ生成機能の提供や、成功報酬型の料金体系を採用するなど、ネットを介した卸売取引に慣れていないみなさまの不安やお悩みをワンストップで解消できるサービスと自負しています。

——小規模卸売産業の現況についてお聞かせください。

菅野:国内のファッション・雑貨の卸売市場の規模は全体で約38兆円あり、そのうち小規模事業者による取引は約5兆円を占めるといわれています(出典: 経産省; 平成28年経済センサスなど)。しかし、その大半が電話やファックスを通じたやりとりなど非効率的な業務の上に成り立っており、狭義のEC化率はわずか5%程度(出典: 経産省; 令和二年度電子商取引に関する市場調査)に過ぎないとされています。一方、卸売取引のEC化で先行する米国や欧州に目をやると、それぞれのリージョンで複数のプラットフォーマーがしのぎを削っているにもかかわらず、日本にはいまだ業界を牽引するリーダーが存在しない状況です。goooodsは現在、この空白を埋めるべく利用者の獲得と取引拡大に挑んでいます。

——どんなアプローチでマーケットリーダーを目指しますか?

菅野:ここ数年でメーカーが直接消費者に商品を販売する DtoC(Direct to Consumer)が広がり取引環境がかなり整備されました。私たちは、DtoCから卸売で販路を拡げたいブランドと個性的な商品を求める小売店が出会い、新規取引を増やすだけでなく、以前からお付き合いのある取引関係も、goooodsに集約すると便利な状況をつくることで、この分野におけるマーケットリーダーを目指しています。

身近な課題を解決するインパクトの大きなビジネスへの挑戦

——菅野さんはスマートフォン動画広告のFIVEの起業に続き、goooodsが2社目の起業になります。なぜ小規模卸売産業にチャレンジされたのですか?

菅野:最初の起業は、Googleでの広告マーケティングの経験をもとに一定の見通しを立てた上での起業でした。goooodsではまったく経験のない卸売の領域でのチャレンジです。なぜ卸売産業に挑もうと思ったのかといえば、手触りのある身近な課題と、それが解決されたときの裾野が大きい領域に挑戦してみたかったからです。以前に経営していたアドテクノロジー分野は、人間の認知に働きかけるいわば「首から上のビジネス」の領域でしたが、より物理的・身体的な「首から下のビジネス」に挑戦しようと考えました。情報技術は加速度的に発達していきます。その技術の恩恵を受けていない産業にアプローチすることに価値があると思っています。

——変革が期待される産業はたくさんあります。卸売領域に着目したきっかけを教えてください。

菅野:実は妻がハーブティの小売販売業を営んでいるのですが、彼女が慣れない卸売に苦労している姿を見たのがきっかけでした。普段個人のお客様相手に販売しているサイトに、年商を上回る卸売の依頼が舞い込んだことで、受注から納品まで数カ月にわたり悪戦苦闘している姿を目の当たりにして、事業者にとって卸売取引が持つポテンシャルとハードルの高さを知りました。そこから卸売取引の主な手法が昔から変わっていないこと、潜在的な市場規模の大きさ、海外での成功事例を知り、卸売取引で成長したい意欲のある売り手と、ほかにはない商品を求める買い手に卸売の新しいスタンダードを提供したいと思い、この領域にターゲットを絞りました。

——河西さんにうかがいます。goooodsや菅野さんとの出会いのエピソードを聞かせてください。

河西:はじめてお会いしたときの印象は、ビジネスの酸いも甘いも知っている方だと感じました。そもそも菅野さんは、最初の事業を70億円で売却され、売却後も買収先に籍を移して3年間で売上を100億円にまで引き上げた実績の持ち主です。そうした経験を持つ方が、古くからある卸売産業をアップデートするというのですから興味を持たずにはいられませんでした。

菅野:卸売産業には既存のプレイヤーが無数にいるうえ、私自身、新たに学ばなければならないことも多く、簡単に成功できるような甘いビジネスではないことは当初からわかっていました。しかし、業務効率化の立ち後れが目立つ領域であり、きちんとシナリオを描き、立てた仮説を一つひとつ泥臭く証明していけば、必ず勝機が開けるはずと考えて挑戦することにしたんです。

河西:われわれがgoooodsへの投資を決めたのは、菅野さんをはじめ創業メンバーの顔ぶれや実績、海外での成功事例や成功すれば社会的インパクトは計りしれない大きさになると判断したからですが、理由はそれだけではありません。一度の成功に満足せず、新しい領域に果敢にチャレンジしようという姿勢に惹かれた面が少なからずあったのは確かです。とりわけ菅野さんの事業に対するパッションの強さには驚かされました。

——どんなときにそれを感じたのですか?

河西:デューデリジェンスに先立って、当社から菅野さん宛に質問事項をお送りしたときのことです。回答の密度に強い熱意と意欲を感じました。本気でコミットしていなければ出てこないような詳細かつ的確な回答ぶりを見て「この人なら古い業界の慣習を切り崩せる」と確信したのを覚えています。参入障壁が決して低いとはいえない業界ですが、これほどまでのパッションがある方なら夢を託しても後悔はないだろうと思い投資を決めました。

プロフェッショナルでありながら親しみやすいAngel Bridge

——菅野さんはAngel Bridgeに対してどんな印象をお持ちですか?

菅野:お声がけしたVCのなかで一番早くお返事をいただいたのはAngel Bridgeさんでした。そしてAngel Bridgeさんのミーティングでの発言はもちろん、頂戴する資料の質も際立っていました。いま、当社で経営管理用に利用しているKPIシートは、実はデューデリジェンスの過程でAngel Bridgeさんに共有していただいたものをひな形にして使っているんです。Angel Bridgeさんには6.7億円を集めたシリーズAのファーストクローズでリードをとっていただきましたが、それ以降もさまざまな面で手厚いサポートをいただき、とても感謝しています。

——どのようなサポートなのでしょうか?

菅野:目下私たちが課題に感じていることや経営上の悩みに対して、集中的な討議の場を設けていただいたり、マーケットの状況や戦略面での整理をしていただいたりしています。戦略面では膨大なスタートアップ事例を組織的に蓄積したパターン認識と、投資先個別の事業特性や指向性を踏まえたアドバイスをいただけると感じています。実行面での支援では、メガベンチャーのSO付与状況から最適なSO運用方法についてインプットをいただいたり、製品開発面での市場リサーチをご一緒いただいたこともありました。Angel Bridgeさんがユニークなのは、仕事はプロフェッショナルでありながら、親しみやすく相談しやすい雰囲気がある点です。私たちが向き合う卸売産業は、相応の投資があってはじめて打席に立てる難しい領域です。この領域に向き合うにあたってファイナンスだけでなく、プロフェッショナルファームクラスの経営支援を受けられるのは、とてもありがたいことだと思っています。

意欲ある市井の人たちを勇気づけるビジネスを手がけたい

——創業から丸3年が経ちました。これからAngel Bridgeにどんな支援を期待しますか?

菅野:プロダクト戦略やファイナンス戦略の面で、引き続きサポートしていただけたらと思っています。また、現在CFOがいないため、河西さんのファイナンス面での知見は積極的に借りていきたいと思っています。

河西:経営資源を正しい場所に正しくアロケートするのがハンズオン支援を自負するわれわれの仕事です。Angel Bridgeにできるサポートはこれからも最大限提供するつもりなので安心してください。

菅野:ありがとうございます。事業に関わるお客様、社員、投資家はそれぞれのお金や時間を期待をかけて投じてくれています。後世から振り返ったときに、goooodsの仕組みが存在して良かったと関わった全員が思えるような傑出した事業を目指していきます。その道のりの過程では、誠実に説明責任を果たしていくことも重要だと考えています。よろしくお願いします。

河西:もちろんです!

——最後にうかがいます。菅野さんはgoooodsを通じてどんな世界を実現したいですか?

菅野:僕らは「Everyone Entrepreneur」をミッションとして掲げており、これからも意欲ある市井の人たちを支援し勇気づけるようなビジネスを手がけていきたいと考えています。資金繰りの大変さや商売の厳しさを感じることはあっても、常に前を向いて一歩踏み出せるサービスを社会にお届けし、チャレンジしやすい世の中を実現したいと願っています。

河西:今日はとてもいい話をうかがえました。これからも一緒に頑張っていきましょう。

菅野:はい、こちらこそよろしくお願いいたします!

2024.11.12 INVESTMENT

2024年11月に、Angel Bridgeの投資先であるシンプルフォーム株式会社(以下シンプルフォーム社)が、40億円の資金調達を発表しました。Angel BridgeもシリーズBラウンドにおいて出資しています。

シンプルフォーム社は、法人取引における審査を支える情報基盤の提供、運用支援を行うスタートアップです。法人取引における審査体制の構築・運用支援を行うプロフェッショナルサービスをはじめ、金融犯罪防止や業務生産性の向上を支援するプロダクトは金融機関やカード会社などで採用されています。

この記事では、Angel Bridgeがシンプルフォーム社に出資した背景について、法人審査市場を取り巻く環境と、シンプルフォーム社の強みに焦点を当てて解説します。

  1. 法人審査市場の動向と課題
  2. シンプルフォーム社の事業概要
  3. 経営陣
  4. おわりに

1.法人審査市場の動向と課題

まず、法人審査市場の全体像を説明します。

法人審査とは、法人を顧客とする企業が取引先、あるいは提携先の企業について、その実態性や信用度などを審査することを指します。また、その会社自体の審査に加えて、複数の会社の関係性やネットワークも含めた調査も含まれます。また、金融機関など社会基盤を構成する企業は犯罪収益移転防止法(犯収法)等の法律を遵守する必要があり、より厳格な審査が求められます。

法人審査においては、会社そのものだけでなく、社長などの代表者やその会社と関係性のある会社まで調査が必要で、その調査内容や方法も多岐にわたります。また、取引先となる全ての企業に対して調査が必要です。国内には企業が500万社ほど存在します。規模の大きい企業に関しては、調査機関からの情報が使用可能ですが、規模の小さい中小企業、創業間もない企業に関しては探しても情報が少ないのが現状です。

図1 法人審査とは

通常、法人審査は社内外での調査や現地に赴いての実地調査、調査機関への依頼など多様な手法で実施しています。

①社内調査
取引履歴のある企業の場合、営業部や審査部が情報を保管している可能性があります。こうした社内情報を収集して、調査に活用します。
②外部調査
商業登記簿や不動産登記簿といった官公庁で取得できる情報や、インターネットで収集できる情報などをもとに調査を行います。
③直接調査
訪問、電話、FAX、メールといった手段で、取引先の企業を直接調査します。
④依頼調査
信用調査会社など、第三者に調査を依頼します。

また、報道やSNS、インターネット掲示板などでの情報などもチェックする必要があり、1社を調査するだけでも最大で2~3日かかることがあります。また、中小企業は情報がないことも多く、現地に赴いての調査や、外部の第三者への依頼調査は、費用対効果も悪いことが課題となっています。

そのような中で、コロナ禍の影響もあって非対面取引が増加し、詐欺被害額は増えています。20年には詐欺の被害額が約600億円であったのが、23年には1,600億円へと約2.7倍へと急増しました。こうした被害は日本のみならず、海外諸国でも増加傾向にあり、23年のG7安全担当相会合では、初めて組織的詐欺についての議論が行われました。

こうした犯罪や不当な取引で得られた資金は、多数の金融機関を経由して出所をくらませ、犯罪組織やテロ組織に渡り、さらなる活動の資金源となる危険性が高いと言われています。国際的に組織犯罪の脅威が増す中、AML/CFT等をはじめとする金融犯罪対策の重要性が高まっています。国際的にマネロン等対策の中心的な役割を担っている機関から、有効な対策が行われているかについて審査を受け、2021年8月に結果が公表されました。この結果、国内金融機関等は2024年3月末までに、金融庁の示すガイドラインに沿った対応が求められました。リスクの特定・評価のため、顧客情報や口座の利用目的の定期的な確認を行うなど、形式的ではない、審査の実効性を向上させる取り組みが不可欠となります。

一方で、特に審査業務に対する人材不足も課題で、効率化に対するニーズが大きくなっています。また、審査人員の審査に対するばらつきもあり、組織全体としての審査の高度化へのニーズも高まっております。結果として、法人審査市場は年々拡大しており、今後も成長が見込まれます。

2.シンプルフォーム社の事業概要と強み

煩雑で時間がかかるのに加え、情報の少ない中小企業の審査を含めた、審査業務の効率化・高度化を進めるべく、シンプルフォーム社は大手金融機関で求められる高い水準での審査が実現できるプロダクトを複数展開しています。

図2 シンプルフォーム社のプロダクト

特に、国内全法人をカバーする情報の高い網羅性と価値の高い独自データを多数保有していること、それらの情報を統合し短時間で審査レポートを作成できる点がシンプルフォーム社の強みになります。具体的には、全国に散らばる紙データ等を、足で稼いで収集し、実体性の確認を人手をかけて行うことで、価値の高い独自データを有しています。

このような強みを突き詰めることで、シンプルフォーム社にしかできない価値を生み出せており、すでに金融機関の審査現場のオペレーションやシステムに深く組み込まれ、高い価値を実現しています。

現場ではなくてはならない存在になっており、導入前の10倍以上の数をさばけるようになっている顧客も現れています。

顧客に対して高い価値を提供できていることから、足元ではゆうちょ銀行、みずほ銀行をはじめ、ネット銀行や地銀も含めた大手銀行に数多く導入されており、楽天グループ、リクルートやDGファイナンシャルテクノロジーなど、銀行以外の大手顧客にも導入されています。

また、現行のプロダクトに加え、全国500万社に関する独自性の高いデータと生成AI技術を基盤として、新プロダクトを順次展開していくことで市場を拡大することを見込んでいます。

3.経営陣

シンプルフォーム社には、銀行業界での豊富な経験やAIに関して高い技術力を持つ優秀な経営陣が集います。
田代CEOは、DBJ(日本政策投資銀行)に9年間在籍し、銀行やファンドでの経験があり、金融業界に対する知見が深く、法人審査業界に対してファウンダー・マーケット・フィットのある起業家です。また、ビジョナリーでやり切り力が高く、巻き込み力や組織構築力に長けています。金融業界の未来を数十年単位で見据えた上で、業界変革の道のりを描けており、大手銀行の経営陣の方々からも信頼されています。また、「面倒を愛する」という価値観を醸成し、素晴らしいメンバーを集め、強力な組織体制や文化を構築できています。

また、NTTデータの研究開発部門にて人工知能の社会実装研究に従事した経験を持ち、大規模なシステムの構築・運用や、最先端のAI技術に詳しい小間CTOや、DBJにて多数の投資業務に従事し、強固な推進力を持つ中野COO・執行役員など、優れた経営人材が集まっています。また、組織全体としても顧客の業界や現場課題への深い理解や高い技術開発力を有しており、優秀な人材もシンプルフォーム社の強みの源泉の一つとなっています。

図3 シンプルフォーム社の経営チーム

4. おわりに

法人審査市場は、今後成長が見込まれる大きな市場である一方で、いまだアナログ作業が多い業界です。また中小企業に関するデータも十分でないため、生産性の低さやリスクの検知漏れが課題となっています。シンプルフォーム社はこうした課題を的確に捉え、顧客から熱烈な支持を得るプロダクトを開発し、導入や活用支援の事業開発も実現できています。

シンプルフォーム社が全国津々浦々で泥臭くかき集めた独自データは価値が高く、今後の生成AI技術の進展に伴い、さらに強いMOATを実現可能になっています。

また、田代CEOを含めた優秀な経営チームのもと、力強い組織を構築できており、顧客に伴走しながら課題を深く理解した上で、課題解決を粘り強く実現できています。また、AIに関して第一線で研究してきた小間CTOのもと、拡張性・安定性が高い優れたプロダクトを開発できており、これからの新プロダクト開発も加速化が期待されます。

現在は、大手金融機関を中心に導入が進んでおり、審査現場のオペレーションやシステムに深く組み込まれていますが、今後は他業界の法人調査における隣接領域の業務の効率化や、審査の高度化を行うプロダクトを次々と投入することでさらなる成長を見込みます。

その流れの中で、シンプルフォーム社は法人審査を起点に金融をシンプルにし、金融業界から日本全体のGDPの成長に大きく貢献することを目指しています。田代CEO率いる強固で粘り強い組織と独自価値の高いデータを基にした優れたプロダクトにより、必ずや業界変革を成し遂げられると弊社も期待しております。

Angel Bridgeは社会への大きなインパクトを創出すべく、難解な課題に果敢に挑戦していくベンチャーを応援しています。ぜひ、事業戦略の壁打ちや資金調達のご相談など、お気軽にご連絡ください!