2025.01.30 COLUMN

こんにちは!Angel Bridgeインターンの生井と申します。

前回の「Angel Bridge USベンチャー記事#9」は、ECサイト内に高性能な検索アルゴリズムをAPIとして提供することでCVRを向上させるalgoliaについて紹介しました。
Angel Bridge USベンチャー研究#9

今回は、後払い決済(BNPL)を提供する世界的にも有名なデカコーン企業Klarnaについて紹介します。

Klarnaの概要

Klarnaは、2005年にスウェーデンのストックホルムで設立されたEC向けの後払い決済(BNPL)サービスを提供する会社です。2024年までに合計34回の資金調達を行っており、合計調達金額は$4.6B、評価額は$14.6Bに及びます。また、2024年11月に米国市場への上場申請を発表し、上場時の時価総額は$15~20Bになると予想されており、FinTechを代表するベンチャー企業の1つです。

Klarnaは、どのようにしてこれほどの成長を遂げることができたのでしょうか。まずは、ビジネスモデルについてご紹介します。

Klarnaが解決するペイン

①消費者側のペイン

消費者のペインとしては、購入時の決済が面倒、クレジットカードが使えない、といったことが挙げられます。

Klarnaが提供しているBNPLは、クレジットカードを持てない若者を主な対象顧客としており、手数料無料の一括払いや分割払いを提供しています。高金利なクレジットカードの分割払いに比べて、審査の簡便性や手数料等が無料であるといった点で消費者フレンドリーであり、「クレジットカードを持てない/持ちたくない」という若者から支持を得てきました。

②マーチャント側のペイン

販売者(マーチャント)側のペインとしては、即日入金ではないことによる資金繰りの悪化や煩雑な支払い手続きによる顧客の取りこぼし(カゴ落ち)が挙げられます。

BNPLは、ユーザー側に対して無利子・手数料ゼロで後払いサービスを提供し、マーチャント側から月額利用料と決済金額に応じた手数料を受け取るビジネスモデルです。マネタイズする方法はクレジットカードと同じですが、手数料が低く、購買費用が即日入金であるという点でマーチャント側にもメリットがあります。加えて、リスクが伴わない分割払い/後払いオプションでユーザー側に対して購入を後押しし、カゴ落ち率を低下させる効果もあり、このことがマーチャントの売上増加に繋がるポイントであり、彼らがBNPLを導入する大きな理由です。

Klarnaが提供するBNPLは、消費者側とマーチャント側の両方に導入メリットがあり、簡便で円滑な取引を実現しています。

サービス内容

Klarnaは、主に3つの分割払い・後払いプランを提供しています。

① 4回払いプラン(Pay in 4)

購入した商品の決済を4回に分割して無利子で支払うことができる支払いプランで、KlarnaアプリやVisaが使えるEC事業者で利用できます。

② 30日以内後払いプラン(Pay Later)

ユーザーが注文を受け取り、30日以内に支払うことで無利子で購入することができるプランです。

③ 即時ファイナンスプラン(Financing)

購入代金を6ヶ月から24ヶ月の分割払いで返済することができる貸付プランで、ユーザーは住所や電話番号などの諸情報を入力するだけで即時に与信枠を利用することができます。

以上3つの決済手段に加えて、支払いプランの管理や配送状況の確認などを全てアプリ「Klarna App」で管理することができます。煩雑な手続きを無くしたシームレスな支払いプロセスがKlarnaの強みだと言えます。

トラクション

Klarnaは、2024年時点で1.5億人のアクティブユーザーを誇り、45ヵ国で60万以上の加盟店と提携しています。2023年の年間売上高は$2,260M、2024年3Q終了時点の年間売上高は$1,847M(前年同期比+23%)、粗利益は$882M(前年同期比+16%)を記録しています。一方で、事業全体としてはまだ赤字であり、AIの活用による人件費の削減や米国市場の開拓を通じて黒字転換を狙います。

Klarnaの競合優位性

Klarnaの成長戦略として、ミレニアル世代やZ世代をはじめとする若者に特化したブランディングが挙げられます。FinTechとしてBNPL市場が立ち上がった2010年頃、BNPLの主要ターゲットはクレジットカードを持たない若者や低所得者でした。Klarnaも例に漏れず若者受けを重視したブランディングに率先して取り組みました。例えば、2019年に打ち出した「Get Smoooth」キャンペーンでは、若者に絶大な人気を誇るラッパーSnoop Dogg氏を起用し、Klarnaのシームレスな決済体験を強調しました。また、加盟店に関しても、ZARA、NIKE、ASOS、Sephoraなど、若者向けのファッションや化粧品ブランドと優先的に提携し、若者が利用しやすい決済環境の整備を進めてきました。

その後、順調にユーザー数を増やしてきたKlarnaは、現在業種を問わず幅広い加盟店との提携を拡大し、マルチプロダクト戦略によるBNPLエコシステムの構築を進めています。例えば、Klarnaは加盟店のオンラインストアを一元的に閲覧・購入できるショッピングアプリや対人決済で利用できるKlarna Cardを提供しています。これらの周辺機能を拡充することで、BNPLを軸としたKlarnaエコシステムを構築し、オンラインとオフラインの両方でシームレスな決済体験を提供しています。

下図は、Klarnaの主な競合を示しています。BNPL業界では、サービス自体の差別化がしずらいため、事業者は地域ごとに加盟店を増やし、UI・UX等の差別化を通じてユーザーを獲得する必要があります。そんな中Klarnaは、ブランディングや独自エコシステムの構築により、欧州を中心に最も多くのアクティブユーザーを獲得しており、スティッキネスの高いサービスを提供しています。

最近の取り組み

Klarnaの共同創業者でCEOを務めるSiemiatkowski氏は、AIの導入に対して極めて積極的な人物として知られています。その一例として、同社は2024年1月にOpenAIと提携して開発したAIアシスタントを発表し、ChatGPTのプラグインをローンチした世界初のFinTech企業となりました。

特筆すべき点はその実績です。KlarnaのAIアシスタントは、導入からわずか1ヶ月で230万件の会話を処理し、同社のカスタマーサポートチャットの約3分の2を占めるほどのインパクトがありました。同社によると、これは約700人分の従業員がこなす仕事量であり、問題解決時間が従来の11分から2分未満に短縮し、問題解決の正確性が向上したことにより再問い合わせが25%減少したと言います。

UI・UXの向上にとどまらず、Klarnaは社内用AIアシスタント「Kiki」の導入やマーケティングにおけるアイデア出し、画像の生成、翻訳作業など、幅広い領域でAIを活用しています。2024年9月には、営業パイプラインと人事業務の管理のために契約していたSalesforceとWorkdayを解約し、自社開発のAIで置き換えることを発表しました。Siemiatkowski CEOは、今後も積極的にSaaS企業との契約を見直し、AI活用によるコスト削減を進める意向を示しています。Klarnaの情報セキュリティガバナンスを懸念する声も上がっている中で、今後どのようにFinTech x AIの領域をリードしていくのか注目したいと思います。

日本のBNPL市場

最後に日本のBNPL市場についてご説明します。日本のBNPL市場も順調に拡大しており、2017~2022年で0.4兆円から1.3兆円までCAGR 24%で成長しました。2027年には、2.4兆円規模へ成長すると予想されており、Paidyや弊社が出資するSmartpayなど、スタートアップが業界を牽引しています。

一方で、日本におけるBNPL普及率は海外と比べてまだ低く、導入率上位10カ国の平均値をベンチマークにすると約4倍の拡大余地があります。クレジットカードの普及率が高い日本や米国において、従来は若者や低所得者がBNPLのコアユーザーでした。しかし、近年では支出管理や現金を残しておきたいニーズが30代以上やクレジットカードを所有する中高所得層にも一定存在しており、BNPLが新たな決済習慣として広まっています。

おわりに

今回は、EC向けの後払い決済(BNPL)サービスを提供するデカコーン企業Klarnaについて紹介しました。2024年11月に米国市場への上場申請を正式に発表し、AIの活用においても世間を賑わせています。クレジットカードの普及率や決済習慣の違いがある中で、今後米国のEC決済市場に浸透させられるか注目していきたいと思います。

最後になりましたが、Angel BridgeはCVR向上を目的としたEC周辺サービスにも積極的に投資しています。事業の壁打ちや資金調達のご相談など、お気軽にご連絡ください!

参考資料

  • 「Klarna Plus soars to 100,000 subscribers in the US」Klarna(URL
  • 「Klarna AI assistant handles two-thirds of customer service chats in its first month」Klarna(URL
  • 「OpenAI お客様の事例 Klarna」OpenAI(URL
  • 「クラーナ、 AI 導入でコスト37%削減Vol.1:効率化とパーソナライズの向上」DIGIDAY編集部(URL
  • 「Klarna-Salesforce-Workday Partnership Called Off Amidst Major Gen-AI Overhaul」Thomas Morgan from SF BEN(URL
  • 「2022年度のEC決済サービス市場は28兆円超、2027年度に49兆円規模へ成長すると予測」矢野経済研究所(URL

2025.01.29 INVESTMENT

2025年1月に株式会社パートナープロップ(以下パートナープロップ社)が、シリーズAの資金調達を発表し、資金調達額が累計8.5億円に到達しました。Angel Bridgeも本ラウンドにおいて出資しています。

パートナープロップ社は、パートナービジネスを成功させるためにパートナー企業の管理・育成を行うSaaSを提供するスタートアップです。

今回の記事では、Angel Bridgeがパートナープロップ社に出資した背景について、特にパートナービジネスを取り巻く環境と、パートナープロップ社の強みに焦点を当てて解説します。

  1. パートナービジネスを取り巻く環境と課題
  2. パートナープロップ社の事業概要と強み
  3. 経営陣
  4. おわりに

1.パートナービジネスを取り巻く環境と課題

パートナービジネスとは、企業が自社の製品やサービスの営業を第三者の企業(パートナー)に委託する顧客獲得手法です。

企業がパートナーを活用する目的として、自社でリーチが難しい顧客に対してアプローチを行うことや、社内のリソースが不足している場合に効率的な営業を行うことが挙げられます。例えば、地方への営業拡大を行う際には、地銀とパートナーシップを組んで地場顧客へのアプローチを行うことで、これまで自社ではアプローチできなかった顧客に対して営業を行うことができます。

パートナービジネスは、BtoB取引の約75%を占めるという試算(※1)もある大きなチャネルであり、SaaSを含むITシステム、人材、メーカーなどの業種で多く活用されています。その背景として、多売モデルでパートナービジネスとの相性が良いことに加え、労働人材の減少による営業人材不足や企業の成長による顧客ターゲットの拡大によって、社外のリソースを利用するニーズが拡大していることが挙げられます。

図1:パートナービジネスを利用する目的と構造

直販セールスの領域は日本でも多くのセールステック企業が出現してDXが進んでいます。しかしパートナービジネスの市場は大きい一方で旧態依然としており、強いペインが残存しています。パートナーの稼働状況が可視化されておらず管理ができないことに加え、適切なインセンティブ設計/商材の学習システムがないために「パートナーが稼働してくれない」という悩みを持った企業が多く、パートナービジネスを活用する企業が多いのにもかかわらず、成功している企業はほとんどいない課題の大きな領域になっています。

図2:パートナービジネスにおける課題

これらのペインを解消するのが、パートナープロップ社が提供するパートナー・リレーションシップ・マネジメント(PRM)ツールです。ベンダーとパートナー間の情報共有や連携促進により、パートナーを適切に稼働させることを目的としています。世界的に見てもPRM市場は高い成長が見込まれており、2028年には157 Billion USD(※2)に達する見込みで、impact.comやImpartnerなどのユニコーン企業も出現しています。

 

図3:グローバルにおけるPRM市場

※1 アクセンチュア「B2BCX – 企業間取引における顧客体験調査2017」

※2 Grand View Research「Partner Relationship Management Market Report, 2021-2028」

2.パートナープロップ社の事業概要と強み

そんなPRM市場にパートナープロップ社はどのように切り込んでいるのでしょうか。続いて、パートナープロップ社の事業概要について説明します。

図4:パートナープロップ社のプロダクト

パートナープロップ社は、パートナー管理・育成を簡単に行えるツールを提供しています。ベンダー/パートナー間での案件状況やパートナー企業の各営業の稼働状況を独自プラットフォームで一括管理し、チャット機能を用いて円滑にコミュニケーションを取ることができます。また、「パートナーを稼働させる」「パートナーを育成する」ための商材のラーニング機能、パートナーへの段階的なインセンティブ付与機能などを搭載しており、競合企業と比較しても高い完成度を誇るプロダクトです。

投資検討の際には、『パートナープロップ』を導入している企業へのインタビューも複数行いました。パートナービジネスを既に実施している企業は「パートナーが稼働してくれない。稼働状況が可視化できずPDCAが回せない」といった課題を抱えており、パートナービジネスを始めたばかりの企業は「パートナービジネスの立ち上げ方がわからない」といった課題を抱えていました。このような課題に対して、『パートナープロップ』を利用することでパートナーと双方向のコミュニケーションが可能となり、さらにはeラーニングによるパートナー育成環境の整備やインセンティブ付与の仕組化を行うことができました。また、導入から一定期間が経過している顧客では毎日のように『パートナープロップ』を使用しているなど使用頻度の高さから顧客の満足度の高さを伺えます。

図5:顧客インタビュー

提供価値が高く、優れたUI・UXを誇るプロダクトが高く評価され、2024年3月のプロダクト正式ローンチから1年弱(2025年1月時点)にも関わらず多数のエンプラ企業や急成長しているベンチャー企業が利用しており、順調にMRRを伸ばしています。

海外で複数のメガベンチャーが生まれており、日本におけるペインも深い市場なので、先行するプレイヤーも複数存在しておりますが、パートナープロップは初期フェーズのスタートアップであるのにも関わらずパートナーの管理に留まらず「パートナーを稼働させること」にフォーカスした完成度の高いプロダクトを提供し、業界のことを熟知したメンバーによる丁寧な営業/CSによってリプレイス商談/コンペでの勝率も非常に高く、シェアを急速に獲得しています。

足元ではSaaS、プラットフォーム、人材、ITシステム企業などのニーズが強いですが、金融、メーカー、営業マーケティング代理店などの顧客も拡大しており、今後このような領域も本格的に開拓することで非常に大きな市場を攻めることができ、更なる成長が期待できます。

3.経営陣

パートナープロップ社には、パートナービジネスの知見が豊富なバランスの良い経営陣が集まっています。

図5:パートナープロップ社の経営陣

井上CEOは、リクルートに営業として入社後、事業企画として『Airペイ』におけるパートナービジネスを立ち上げてパートナー経由の顧客獲得が数10件~約6,500件のフェーズを経験されました。その後最年少でリクルートのSaaS事業である『Air事業』のPdMに異動し、事業立ち上げから全体戦略の策定・推進までを担当されていました。リクルートでのご経験に加え、海外先行企業の徹底的なリサーチなども相まって、パートナービジネスに対して非常に高い解像度をお持ちの「パートナービジネスのエキスパート」ともいえる人物です。投資検討プロセスを通して、高い戦略構築能力と事業に対する熱量も感じさせていただきました。

福森CTOは、スタートアップの1人目エンジニアとして新規プロダクトの開発や開発組織の立ち上げを経験した人物であり、プロダクトのイメージを開発に落とし込んでいく重要な役割を担われています。学生時代からの豊富なエンジニア経験を活かし、パートナープロップ社の強みであるプロダクト開発を支えている中心人物です。

金田COOは、リクルートの営業として金融事業セールス部門の立ち上げにも携わり、通期MVPを受賞されるなどトップセールスとして活躍された人物です。SaaS事業部アライアンスグループではパートナービジネスの立ち上げも経験されています。パートナービジネスへの深い理解と細かな顧客ニーズの吸い上げを踏まえた営業/CSはもちろん、社内コミュニケーションやオペレーションなどCOOとして広範にパートナープロップ社を支えられています。

宮下CISOは、新卒からIoTヘルスケアの研究開発やセキュリティ診断プロジェクトに従事した後、ヤフーに入社し、プラットフォームエンジニアとして全社へのセキュリティプロダクトの導入や運用を担当されていました。パートナープロップ社のプロダクトは多数のパートナーとプロダクトを接続する必要があり、セキュリティが重要ですが、宮下CISOが技術エキスパートとして、高いセキュリティを実現されています。

4.おわりに

パートナービジネスは、BtoB取引の約75%を占める大きなチャネルである一方で、パートナーが稼働しない、パートナーの稼働状況が可視化されていない、パートナーが育成できないなど、複数の強いペインが存在します。

こういった強いペインが存在する中で、パートナープロップ社は事業領域にフィットした優秀な経営陣と完成度が高く、競合優位性の強いプロダクトで市場に切り込んでいます。今後も日本ひいてはアジアのPRM市場を牽引し、Partner Driven Marketingという概念と共に大きな成長を遂げるとAngel Bridgeも確信しています。

Angel Bridgeは社会への大きなインパクトを創出すべく、難解な課題に果敢に挑戦していくベンチャーを応援しています。ぜひ、事業戦略の壁打ちや資金調達のご相談など、お気軽にご連絡ください!