当事者のペインから生まれたLoglass 経営管理
——ログラスの事業内容を教えてください。どのようなサービスを手がけていますか?
布川:ログラスは2019年に創業した経営管理SaaSを提供するスタートアップです。主力の「Loglass 経営管理」のほか、同じLoglassブランドで「人員計画」「販売計画」「IT投資管理」を提供しています。さらに今年から、経営企画業務の一部を代行する「Loglass サクセス パートナー」というBPO・コンサルティングサービスをスタートさせました。現在は大企業を主なターゲットとし、サービスを提供しています。
——経営管理SaaS事業に参入した経緯を教えてください。
布川:きっかけは、私がSMBC日興証券の投資銀行部門を退職し、GameWithの経営戦略室にて経営管理をひとりで担っていたときの体験がベースとなっています。GameWithは創業4年で株式上場を果たしたこともあり、私が入社した直後は、上場会社にふさわしい経営管理体制が整っていませんでした。ゼロから仕組みを作り、なんとか運用可能な管理体制ができたものの、悩みのタネは尽きませんでした。
——どのような悩みがあったのでしょう?
布川:たとえば経営戦略室が予実管理に使うスプレッドシートを「親シート」、各部門の予算担当者が管理するシートを「子シート」とします。当時、親シートに連動する子シートが数十個あり、誰かが子シートを書き換えてしまうと、履歴を追えない状態でした。これではガバナンスを利かせられません。みなさんどうしているのかと思い、経営企画部門やファイナンス部門で働く人のためのFacebookグループを立ち上げ、聞いてみたところ、大きな企業でも私と同じ悩みを抱えている人がいることがわかりました。その後、国内外の経営管理サービスを利用してみたのですが、どうもしっくりくる製品がありません。それなら自分で作ったほうが早いのではないかと思い、経営管理システムの開発を考えはじめました。
——以前から起業志向があったのですか?
布川:実は大学時代、学生ながら人材系ベンチャーでフルタイム勤務していたころから、ずっと起業に関心がありました。社会に出てからもその気持ちは変わらず、経営管理システム以外の可能性を探った時期もあったのですが、この課題に気づいた自分がサービスを作らなければ、経営企画で働く人たちの悩みは解消されないだろうと思い一念発起して起業しました。
——「しっくりくるサービスがなかった」とおっしゃっていましたが、新規参入の妨げになる障壁があったのでしょうか?
布川:とくにありません。経営管理システムのアメリカの市場規模は約4,000億円といわれるなか、経済規模がアメリカの1/5といわれる日本の市場規模は800億円ほどの市場があってもおかしくないはずです。しかし、いまだ200億円規模に留まっているのは、参入障壁があるからというよりも、エンジニアリングやマーケティング、セールスに一定の資本を投資しサービスを提供する企業が少なかったからだと考えています。市場を分析すればするほど、正しいところに正しく投資をすれば、必ず成功するという確信が高まったので、その可能性に賭けてみることにしました。
強力な経営陣を集めるための秘策
——ログラスの強みはどこにあると思われますか?
布川:プロダクトの質以外の面で申し上げると役員の陣容でしょうね。共同創業者でCTOの坂本龍太はビズリーチやサイバーエージェントでサービスをゼロから立ち上げてきたエンジニアで、技術力もさることながら仲間をインスパイアすることに長けた人物です。また、COOの竹内將人はセキュリティ関連会社の取締役経験者ですし、プロダクトを見ているCBDOの斉藤知明はスタートアップの共同創業経験の持ち主です。ちなみにfreeeやREADYFORでエンジニアとして活躍していたVPoEの伊藤博志は河西さんの新卒時代の同期なんですよね。
河西:そうなんです。奇遇なことにゴールドマン・サックスで同期でした。
——そんなご縁があったんですね。ところで、どうしてこれほどまで優秀な人材を集められたのでしょうか?
布川:採用にコミットし続けたからだと思います。毎朝欠かさず最低1時間、採用に充てると決めていまも実践しているんです。具体的にはFacebookで転職を考えている人はいないか探してみたり、スカウト媒体で見つけた人にスカウトを自ら送ったり、知人や知人のつてで知り合った人に毎朝メッセージを書いたりしています。もはや毎日歯を磨くのと同じ感覚ですね(笑)。その甲斐あって、経営陣の7割はリファラルで獲得できました。もちろん人材エージェントに頼んでもいいのですが、トップが特別な思いを持って声をかけたほうが印象に残るはずですし、心が動くと思うんです。毎日の積み重ねが、ボードメンバーの布陣につながっていると自負しています。
——そもそもAngel Bridgeとログラスの接点はどんなきっかけで生まれたのですか?
河西:3年前のIndustry Co-Creation®(ICC)サミットにいった際、布川さんがピッチイベントに出られていて名刺交換させていただいたのが最初です。それまでは幅広い業界にサービスを提供するHorizontal SaaSは、もう開拓の余地がないくらいやり尽くされていると思っていたのですが、布川さんの話を聞いてこんなに大きな市場が残されたのかと思って興味を惹かれました。
布川:覚えています。その後、しばらく経ってミーティングをすることになり、河西さんのSNSアカウントを拝見していたら、ご友人のなかにぜひ口説き落としたいと思っていた会社社長の名前を見つけたので、ミーティングの議論の後にぜひ紹介してほしいとお願いしました。
河西:そうでした。採用に対する意気込みからもわかる通り、布川さんの経営に対する真摯な姿勢とコミット力の高さをうかがわせる出来事だったので印象に残っています。弁えるべき部分はしっかりと弁えつつ、必要なことはしっかり投資家にリクエストされる姿勢。しかも熱意が伝わってくる。がぜん興味が湧いたのを覚えています。
布川:その節は失礼しました。(笑)
河西:いえいえ(笑)。ちゃんと調べられた上でのご依頼でしたから、逆にうれしいくらいでしたよ。本格的にお付き合いがはじまったのは、今年の2月ごろでしたね。当社のディレクターの八尾が出席した経営者が集まる会に布川さんもいらしていて、シリーズBに向けた実務的なお話が一気に進みました。
布川:はい。個人的には、検討期間がとても短かったのが印象的でした。たしか1カ月半ぐらいでお返事をいただきましたよね。
河西:お話をいただいてから間を置くことなくお返事できたのは、先ほど申し上げた通り、布川さんの着眼点の素晴らしさやビジネスに賭ける熱意に心打たれていたからです。しかも、シリーズBのリード投資家は世界的に著名なSequoia Heritageさんと既存株主のALL STAR SAAS FUNDさんです。VC間の競争も激しくなりそうだったので、いち早く手を挙げました。
人材がハイレベルなAngel Bridgeの魅力
——Angel Bridgeが他のVCと違うところはどんな点ですか?
布川:人材のレベルが間違いなくトップクラスだと思います。河西さんをはじめ、先ほども話に出た八尾さんはもちろん、ほかの方々も含め、これだけ優秀な方がギュッと集まっているファンドはなかなかありません。しかも経歴にたがわず実務レベルが非常に高い。投資検討段階でお送りいただいたディスカッションペーパーを拝見して強く感じました。分析や議論テーマが非常に洗練されていてムダがなかったんです。
河西:何事においてもそうなのですが、Angel Bridgeは、メンバー全員で何度も検討を重ねた上でアウトプットをお出しするが常なので、そこを感じ取っていただけたのはうれしいですね。
布川:その後も、どうしても調べたい競合他社について調査・分析をお願いしたことがあるのですが、即座に「ぜひやらせてください」とおっしゃっていただけたのも印象的でした。投資家の責任範囲の外にあるので断られても仕方ないと思っていたので、正直言って驚きましたね。アウトプットの質は高く、短期間で戦略策定の参考になる貴重な情報と示唆を提供いただけました。投資先を「必ずグロースさせるぞ」という気迫を感じました。
河西:エンタープライズセールスのベストプラクティスやプロダクト多角化戦略についての調査・分析でしたね。すごくやりがいのあるテーマをいただき「われわれが提供できる価値を感じていただくチャンスだ」と思いお引き受けしました。Angel Bridgeにとっても勉強になったので、逆にいいチャンスをいただけたと思っています。
布川:その節は本当にありがとうございました。
リスクを取ったからこそ掴んだ、組織の「勝ちぐせ」
——創業から5年が経ちました。この間、経営者として一番大変だったことを教えてください。
布川:私には、2歳、1歳、0歳の子どもがいるんですが、2人目の子が生まれたときに、仕事と家庭のバランスに悩んだ時期がありました。自分の家族に加え、社員とその家族、投資家のみなさんも含めたらもの凄い数の人生を背負っているわけです。家庭と仕事のどちらかひとつを選ぶのではなく、両立した上で最大のパフォーマンスを発揮するにはどうしたらいいか、悩んでいた時期はそれなりにしんどかったですね。
——どうやって克服を?
布川:妻やメンバーに無理をいって1週間、家庭からも仕事からも離れる時間をもらって何とか持ち直しました。結局変えられるところから変えていくほかないんですよね。いまは、強力な経営チームを構築することができて自分が抱えていた業務の権限移譲が行えていたり、ベビーシッターを利用したり、妻の両親にも家事や育児を手伝ってもらったりしながら、なんとかやりくりしています。家族や会社のみんなには感謝しかありません。
河西:素晴らしい業績の後ろでそんな大変な時期があったんですね。
布川:はい。実はそんなことがあったんです。
——大変な時期を経て今回の資金調達に至ったのですか?
布川:2023年の10月前後のことです。設定した高い目標に対して売上が追いつかず、社内がどんよりした空気に包まれていたちょうどそのころ、米国の著名な機関投資家であるSequoia Heritageさんから「来期の売上を達成できるのであればぜひ投資したい」とオファーをもらい、社内の空気が一変しました。何としても投資を勝ち取るため、売上を着実に積み上げるための戦略を練り「セコイア決戦」と名付け、全社を挙げて取り組みはじめました。しかしその一方でリスクも感じていたんです。
——どんなリスクですか?
布川:売上施策を徹底した際の副作用として考えたのは、カルチャーの希薄化、オペレーションの混乱といった組織崩壊が起こるリスクです。しかし千載一遇のチャンスを逃すわけにはいきません。経営陣と膝を詰めて議論し、もし万全の体制で臨んでダメなら、またゼロから積み上げればいいという結論に達し、あえてリスクを取ることにしました。
河西:それが功を奏して今回の出資につながったわけですね。
布川:そうです。もちろんリカバリープランを考えた上での取り組みでしたが、結果的に事業戦略と関係者の努力が噛み合っていい成果を残すことができました。この決戦を無事乗り切ったことで、会社全体に「勝ちぐせ」がついたように思います。
河西:リスクを取った結果、世界的な投資家を頷かせ、しかも組織の成長も手にしたわけですからね。
布川:そうなんです。以前読んだ、データクラウドのSnowflakeを経営したフランク・スルートマンが書いた「AMP IT UP~最高を超える~」という本にも、基準を上げに上げて組織が壊れそうになったとしても、最後になんとかるというようなことが書かれていたのを思い出し、励みにしました。
日本のGDPにインパクトを与える存在になりたい
——経営者として大事にしているポリシーを教えてください。
布川:子どものころ恩師や親友の死が重なった時期があって、人生は長いようで短いと感じるようになりました。経営哲学というとおこがましいかもしれませんが、その短くて貴重な人生を共に過ごしてくれた社員が、のちに自分の人生を振り返ったときに、ログラスで働いた時間が無駄ではなかったと思ってもらえるような経営を行っていきたいと思っています。まだまだ、経営者として至らない面がありますが、できる限りみなさんと誠心誠意向き合うことをポリシーとしています。
——布川さんはログラスを通じて、どんな社会を実現したいですか?
布川:ログラスは「良い景気を作ろう。」というミッションを掲げ、日々のビジネスに取り組んでいます。多くのみなさんが成長の実感を持って、明るい未来を描けるような社会作りに貢献したいと思っています。具体的にいうと、日本のGDPを押し上げている上位10社にログラスが入っているような状況にしたいですね。
河西:Angel Bridgeも、GDPにインパクトを与えるようなメガベンチャーの創出を目指しているので、とても共感を覚えます。
布川:ありがとうございます。世の中に素晴らしい価値を提供できるような会社であり続けたいと思っています。
——これからAngel Bridgeに期待することは?
布川:河西さん、担当の八尾さんや山口さん、ほかのメンバーのみなさんからは戦略面のサポートに加え事業執行レイヤーの強化、またパートナーの林さんには営業の面で手厚いサポートをいただいているので、今後も引き続きご支援をお願いできたらうれしく思います。
河西:日本経済の再興はスタートアップの成否にかかっています。布川さんがおっしゃったように、ログラスには日本のGDPにインパクトを与えるくらいのスケールになってほしいと願っています。そのための支援なら我々は力を惜しみません。
——最後にスタートアップに興味がある読者にメッセージをお願いします。
布川:スタートアップは数少ない成長分野のひとつです。安定した大企業に飽き足らないのであれば、ぜひThink Bigなスタートアップに挑戦して人生をよりよい方向に変えてほしいですね。もしそれがログラスであればこれに勝る喜びはありません。