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Angel Bridge投資の舞台裏#25(将来宇宙輸送システム株式会社)

2024.09.10

2024年9月に将来宇宙輸送システム株式会社(以下将来宇宙輸送システム社)が、総額3.6億円の資金調達を発表しました。Angel Bridgeも本ラウンドにおいて出資しています。

将来宇宙輸送システム社は、宇宙往還において機体を再使用することで、従来の使い捨て型ロケットよりも低コストで高頻度な打ち上げを可能にする再使用型ロケットを開発するスタートアップです。

今回の記事では、Angel Bridgeが将来宇宙輸送システム社に出資した背景について、特に再使用型ロケットを取り巻く環境と、将来宇宙輸送システム社の強みに焦点を当てて解説します。

  1. 再使用型ロケットの市場動向
  2. 将来宇宙輸送システム社の事業概要と強み
  3. 経営陣
  4. おわりに

1.再使用型ロケットの市場動向

まず、宇宙産業全体の市場動向について説明します。

宇宙産業では冷戦以後、それまでの国家主導での技術開発から民間での技術・サービス開発への移行が徐々に進み、多数のメガベンチャーが誕生し産業を牽引しています。グローバルでは2023年のロケットの打ち上げ本数は2020年比で倍増、宇宙産業全体の市場規模も2023年の約54兆円から2040年に140兆円に達することが見込まれるなど、その市場規模は急速な拡大が見込まれます。

日本でもこれまではJAXAが宇宙開発における中心でしたが、2023年4月のispaceを皮切りに宇宙系スタートアップの上場が相次ぐなど、宇宙領域のスタートアップも複数生まれており、非常に注目度の高い領域となっております。

図1 宇宙産業の市場状況

宇宙産業の拡大に伴って各種サービスを提供するために衛星などの構造物を打ち上げる必要があります。その需要を満たすために、低コスト/高頻度で運用可能なロケットの開発が求められ、その解決手段として再使用型ロケットが近年注目を集めています。

ここからは、再使用型ロケットとその市場動向について説明していきます。

再使用型ロケットとは、機体の一部、又は全てを再使用するロケットのことです。機体の全てを再使用する完全再使用型は技術難度が高いため、現在は1段目のブースターを再使用するロケットの開発が先行しています。

図2 再使用型ロケットのイメージ画像

メリットは以下の2つです。

  • コストの削減

1段目のブースターは打ち上げコストの多くを占める(例えばSpaceXのFalcon9では全体のコストの60%)ため、回収/再使用することで大きなコストダウンが見込めます

  • 高頻度の打ち上げが可能に

使い捨て型よりも製造のリードタイムを短縮できるため、打ち上げ頻度を増やすことができます

開発をリードする米国では再使用型ロケットの技術が確立されつつあり、イーロン・マスクが設立したSpaceXが1段目を再使用する「Falcon9」を2017年に、ジェフ・ベゾスが設立したBlue Originが、軌道投入能力はない観光用であるものの、完全再使用型の「New Shepard」を2015年に打ち上げ成功させました。

特にSpaceXはFalcon9で低コストかつ高頻度な宇宙空間へのアクセスを可能にしたことで、全世界のロケット打ち上げ本数のうち65%のシェアを獲得するまでに成長を遂げました。

日本政府としても、日本企業による同様な宇宙空間へのアクセスの実現を国防、世界規模でのルールメイキングの観点から国策として重要視しており、前述のメリットに鑑みて再使用型ロケットの開発を促す補助金制度の充実や宇宙活動法の改正を行う動きを見せています。

しかし、未だ再使用型ロケットの実用化に成功した日本企業は存在せず、将来宇宙輸送システム社をはじめとした数社が開発を競っている状況です。

2.将来宇宙輸送システム社の事業概要と強み

続いて、将来宇宙輸送システム社の事業について説明します。

図3 将来宇宙輸送システム社の事業概要と強み

将来宇宙輸送システム社は再使用型ロケットの開発を行っており、足元は人工衛星の打ち上げ等に用いる貨物輸送用の1段目再使用型のロケットを開発中です。また、2030年代を実現目標として段階的に有人宇宙輸送/完全再使用型に挑戦していく構想です。

将来宇宙輸送システム社は以下の3つを強みとして開発を進めています。

  • 高い資金調達能力

宇宙ビジネスは開発に莫大な資金が必要であり、CEOの資金調達能力は非常に重要です。将来宇宙輸送システム社のCEOを務める畑田さんは経産省/内閣府にてベンチャー支援や宇宙ビジネスに携わり、その後デジタルハーツプラス(デジタルハーツホールディングスの子会社)の代表取締役も務められた結果、官民双方への豊富な人脈を有しています。
畑田CEOのこれまでの実績や人脈は補助金の獲得に向けてポジティブであり、実際に3段階に分けて審査が行われ、全て採択されれば最大140億円/社の支給が行われる補助金制度の「SBIRフェーズ3」において、将来宇宙輸送システム社は既にフェーズ1に採択されて20億円を調達した他、フェーズ2以降に向けても業界有識者から高評価を獲得しています。また複数のベンチャーキャピタルからのエクイティ調達も成功させており、非常に高い資金調達能力があります。

  • 優れた技術を持つ企業との連携

将来宇宙輸送システム社は全てを自社開発することにこだわらず、プロジェクトリーダーのような立ち位置で優れた技術を持つ企業と連携し、それらを組み合わせる開発手法を採っています。
中でもロケット製造のカギとなるエンジンや機体製造に関しては海外の実績ある企業とも提携を進め、高度かつ効率的な開発を可能にしています。

図4 将来宇宙輸送システム社と連携する主要な企業群

  • IT企業のようにアジャイルな開発手法

将来宇宙輸送システム社は、独自の研究/開発プラットフォームである「P4SD」を構築し、開発速度の向上と開発コストの抑制を実現しています。
このプラットフォームの活用により、将来宇宙輸送システム社は日本初の水素・メタン・酸素の3種類の推進剤を用いた「トリプロペラント方式エンジン」の燃焼試験を企画から3か月で成功(エンジンの燃焼試験は通常は6か月~9か月程度必要)させたほか、飛行解析ソフトウェアを構築し、シミュレーションを活用することで通常は繰り返し実験を行う必要がある飛行実験プロセスの大幅な効率化に成功しています。

以上3つの強みに加え、実際のロケット開発状況も概ね当初の計画通りに進んでいることから、今後の将来宇宙輸送システム社の成長に対して大きな可能性が感じられます。

3.経営陣

Angel Bridgeが将来宇宙輸送システム社に投資するにあたり、経営チームへの理解も深めました。

図5 将来宇宙輸送システム社の経営チーム

代表取締役CEOの畑田さんは京都大学大学院を修了後、経済産業省にてエネルギー政策・事業再生支援・ベンチャー支援等を経験されました。内閣府時代には宇宙開発戦略推進事務局にて宇宙活動法策定等に携わられ、デジタルハーツプラスの代表取締役を経て将来宇宙輸送システム社を起業されています。官民の豊富な人的ネットワークを有し、業界随一のガバメントリレーション能力があるとの話を複数の業界有識者から伺うことができました。また理系のバックグラウンドから技術者とのコミュニケーション力も優れ、高いアントレプレナーシップを併せ持っていることも複数のリファレンスインタビューにて伺いました。投資検討における議論の中でも、何としてでも日本の宇宙産業を立ち上げるという想いの強さ、業界に深く入り込まれているが故の宇宙ビジネスに対する知見の深さを感じることができ、宇宙ベンチャーのCEOとしてこれ以上にない優秀な人物だと確信しています。

野村COOは名古屋市立大学在学中にIT企業を設立してWebサービスの開発をされ、卒業後も複数IT企業のCTOを歴任。現在は将来宇宙輸送システム社のCOOに加え、エンタメ領域を中心に受託開発を行う株式会社エスト・ルージュのCEOを兼任されています。学生時代からの豊富なシステムエンジニアとしての経験を活かし、将来宇宙輸送システム社の強みであるアジャイルな開発手法を支えている中心人物です。

嶋田CBOは早稲田大学商学部卒業後、パナソニック、電通、日本IBM、R/GA等で事業責任者や経営者を経験されました。これらの経験からスタートアップ連携、先端ソリューション創出、新サービス事業創出を得意とし、世界最高峰の広告賞であるカンヌ・ライオンズでの受賞や世界で最も影響力のあるテクノロジーイベントであるCESのInnovation Awardなど幅広く受賞。さらに、クリエイティブやイノベーション分野における審査員、約40か国で開催されるテックカンファレンスでの150回を超える講演、といった実績からもビジネスの領域において希少性の高い人材であることがわかります。

多様なバックグラウンドを持つ経営陣が宇宙産業の立ち上げに高いモチベーションを持って結束し、全体として高いレベルでの経営が実現できていることが将来宇宙輸送システム社の強みの源泉となっています。

4.おわりに

宇宙産業は2040年までに140兆円まで市場拡大が見込まれる巨大産業であり、中でも再使用型ロケットは低コスト/高頻度に宇宙空間にアクセスするためのインフラとして注目が集まる成長産業です。

一方で、海外ではSpaceXやBlue Originに代表されるメガベンチャーが市場を牽引しているものの、日本で実用化した企業は未だ存在せず、日本政府も国策として再使用型ロケットの開発を後押ししている状況です。

こういった強いニーズが存在する中で、将来宇宙輸送システム社は高い資金調達能力や優れた技術を持つ企業との連携、アジャイルな開発手法という3つの強みで高効率に事業を推進し、補助金制度「SBIRフェーズ3」に採択される等、高い評価を受けています。今後もスピード感のある開発を推進し、日本、そして世界の宇宙産業のインフラを担う存在として大きな成長を遂げていけるとAngel Bridgeも確信しています。Angel Bridgeは社会への大きなインパクトを創出すべく、難解な課題に果敢に挑戦していくベンチャーを応援しています。ぜひ、事業戦略の壁打ちや資金調達のご相談など、お気軽にご連絡ください!

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