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Angel Bridge投資の舞台裏 #36(株式会社Orbital Lasers)

2026.03.18

20263月に株式会社Orbital Lasers(以下Orbital Lasers社)が、シリーズAラウンドで30.2億円の資金調達を発表しました。Angel Bridgeも本ラウンドにおいて出資しています。

Orbital Lasers社は、スカパーJSATからカーブアウトする形で20241月に設立されたスタートアップです。スカパーJSATと理化学研究所が4年以上に渡って共同研究を行ってきた宇宙用レーザー技術を中核に、地球の3次元観測を行うことができるライダー衛星の開発・実用化に取り組んでいます。また、同じく宇宙用レーザー技術を活用したスペースデブリ除去事業も展開していく計画です。

今回の記事では、Angel BridgeOrbital Lasers社に出資した背景について、特に地球観測業界の動向と課題やOrbital Lasers社の強み、経営陣に焦点を当てて解説します。

  1. 宇宙産業におけるビジネス機会
  2. 地球観測市場の動向と課題
  3. Orbital Lasers社の事業概要と強み
  4. 経営陣
  5. おわりに

1.宇宙産業におけるビジネス機会

宇宙産業には多様なビジネス機会が存在します。その中でも特に衛星・地球観測の領域は、上場宇宙スタートアップが3社(QPS研究所、Synspective、アクセルスペース)存在するなど、比較的立ち上がりが早い分野の一つだと見てとれます。宇宙領域のビジネスは月面への物資輸送・探査(ispace)、スペースデブリの除去(アストロスケール)のような今後宇宙ビジネスが本格化する中で大きな市場拡大を見込むものも多いですが、衛星/地球観測の領域は防衛・安全保障/災害対応/インフラ監視などの観点で既にニーズが顕在化しており、パブリックセクターを中心に強い引き合いが存在することがその理由の一つです。例えば20262月にも防衛省を発注者とした5年間総額2,800億円超の「衛星コンステレーションの整備・運営等事業が発表され、その協力企業として上場宇宙スタートアップであるQPS研究所、Synspective、アクセルスペースの3社が名を連ねています。Angel Bridgeは既に再使用型ロケットの開発を行う将来宇宙輸送システムに投資を行っているように、今後大きな需要を狙える宇宙ビジネスにも注目をしていますが、地球観測は官需の厚みを背景に事業化の確度が比較的高い領域だと言えます。

2. 地球観測市場の動向と課題

地球観測の目的は、防災・災害対応、国土管理、安全保障などにおいて、地球上で「何が起きているか」をデータとして捉え、迅速かつ適切な意思決定につなげることです。従来は光学衛星やSAR衛星などによる2次元観測が中心で、広域を繰り返し把握できる強みを活かして、状況把握や監視の基盤を支えてきました。

一方で近年、必要とされる情報は、位置や面積といった平面的な把握にとどまらず、より定量的な3次元情報へと広がっています。災害対応であれば、土砂移動量(体積)や堤防・ダム・道路などの変形量が、復旧判断や優先順位に直結します。安全保障用途でも、重要インフラの損傷度や地形の傾斜など、高さ・傾斜・体積といった3次元の定量情報が必要となる場面が増えています。結果として地球観測は、「2次元で状況を見える化する」だけでなく、「3次元情報に基づき判断できる状態」を求められるフェーズに移行しつつあります。

図1. 地球観測の市場

現時点で3次元データ取得の主流は、航空ライダーです。高精度の3次元データが得られるため、測量やインフラ点検などで広く活用されてきました。実際に主要プレイヤー各社は航空ライダーを主な事業として数百億円の売上を出しています。一方で航空ライダーは飛行計画・許認可・安全確保など運用の制約が大きく、広域を高頻度で巡回する用途や、災害直後・危険地域での迅速な情報取得には限界が出やすいという課題があります。

そこで注目されている手法が、宇宙から3次元データを取得する衛星ライダーです。レーザーの送受信により距離を計測し、地形や構造物の3次元形状を取得します。将来的には、より広域(面)での計測や、衛星コンステレーション*による高頻度観測を実現することで、データ・プロダクト販売まで含めた事業展開が企図され、ハードウェア単体ではなくデータビジネスとしての拡張余地も有しています。


図2. ライダーサービスの概要


図3. ライダー衛星とは

文部科学省及びJAXAは令和63月の「官民連携による光学観測事業構想について」にて、また防衛省も令和77月の「宇宙領域防衛指針」にてライダー衛星の必要性に言及しています。特に安全保障、防災・災害対応、国土管理などの領域において、従来の航空ライダーだけでは満たしにくい「より広範囲・高頻度・低コスト」での3次元情報取得が求められています。

*衛星コンステレーションとは、多数の人工衛星を地球の周りに配置し、それらを協調させて一つの巨大なネットワークとして機能させる仕組みのことです。これにより、地球全域の網羅的なカバーと高頻度・リアルタイムなデータ取得を実現します。

3. Orbital Lasers社の事業概要と強み

Orbital Lasers社は、世界最高レベルのレーザー研究を行う理化学研究所とスカパーJSATによる共同研究と、それを事業化すべく邁進された福島CEOの熱量によって生まれた、世界最高水準の「高出力・小型・高効率」を実現する宇宙用レーザー技術の開発に取り組むスタートアップスタートアップです。理化学研究所は、米国SLAC、欧州ELI、ドイツDESYなどと並ぶ世界最高レベルの研究基盤を有し、レーザー研究においても世界トップクラスと位置付けられています。Orbital Lasers社は宇宙用レーザーを核に、衛星ライダー事業とスペースデブリ除去事業の2つの事業を展開しています。

図4. Orbital Lasers社の事業概要

2019年に理化学研究所、九州大学、名古屋大学との共同研究を開始し、2020年には理化学研究所内で研究チームを立ち上げるなど、本技術は創業前から4年以上にわたる共同研究の積み重ねによって培われてきました。その過程で確立された宇宙用レーザー技術が、Orbital Lasers社のコアとなっています。同社は、この技術を最大限に活用する前提で事業を設計している点が特徴です。

強み①ハイレベルな独自の技術力

Orbital Lasers社の第一の強みは、理化学研究所の先端研究と、スカパーJSATが培ってきた宇宙事業の知見・実装経験が掛け合わさっている点です。同社は宇宙環境での利用を前提とした高出力レーザー技術の開発を進めており、世界トップクラスの出力と小型化を両立する宇宙用レーザーの開発を目指しています。また、レーザーの送光技術の他にも宇宙でライダー衛星を成立させるために必要な技術要素として、受光技術とバス技術(電源・姿勢制御・通信など)が存在します。受光技術に関しては高解像、高分解能を達成する望遠鏡、センサ技術の開発に取り組み、バス技術に関してはミッションに最適化した技術の確立を推進しています。ライダー衛星の商用化は要素技術の難易度が高く、参入には複数要素の統合が求められます。この統合力そのものが、中長期的に参入障壁になり得る見込みです。

強み②官需による大きなトラクション

第二の強みは、JAXAや防衛省などの官公庁とのプロジェクトを通じて、開発・実証が具体的に前進している点です。官需は要求水準が高く、品質・体制・プロジェクト遂行能力が問われます。単なる売上規模以上に、「厳しい要求水準の相手とプロジェクトを成立させ、前に進めている」という事実が、技術・体制の裏付けになります。ディープテック領域では、需要が明確でも実証と運用の壁で停滞しがちです。そのなかで、官需を起点に実証が進んでいることは、事業の確度を上げる重要なアドバンテージであると言えます。

強み③スカパーJSATの強力なバックアップ

第三の強みは、事業・組織・ファイナンスの各領域において、スカパーJSATによるバックアップが機能していることです。事業面では、観測データの販売チャネル提供や政府系顧客へのアクセスといった営業支援に加え、衛星運用や地上システム構築などの宇宙ビジネスのノウハウを共有しています。組織面では、スカパーJSATのネットワークを活用して村松CFOをはじめとする優秀なビジネス人材や、技術者の獲得を行っています。

競合マッピング

また競合との比較においても、Orbital Lasers社は非常に面白いポジショニングを取っています。地球観測において主流であるSAR・光学衛星は、広域を繰り返し観測できる一方で、取得情報は基本的に2次元にとどまります。高さ・体積・変形量といった3次元の定量情報が求められる用途では、精度面で限界があります。ライダー衛星はレーザーで直接距離を計測することで、3次元の定量情報を取得できる点が本質的な差異です。技術難易度が高く、複数要素の統合が必要であることから、商用展開を目指すプレイヤーは世界的にも限定的であり、この点が同社の競争優位につながると考えています。

4. 経営陣

Orbital Lasers社の魅力は、技術やトラクションのみではありません。難易度の高い宇宙ビジネスの領域においては、技術を理解しつつ、ビジネスとして成立させる経営人材の存在は大きな検討事項でした。

図5. Orbital Lasers社の経営メンバー

福島CEOは、スカパーJSAT14年にわたり衛星運用を経験した後、2019年に社内スタートアッププログラム第1期でレーザーを用いた宇宙ごみ問題解決プロジェクトを立ち上げ、理化学研究所との共同研究を開始しました。2020年には理化学研究所内に宇宙用レーザー研究開発チームを設置し、チームリーダーも兼務しています。そして2024年、スカパーJSATからカーブアウトし、Orbital Lasers社を創業しました。福島CEOは、創業2年で政府の大型契約を勝ち取るビジネス力に加え、謙虚な人柄と強いコミットメントによって、スカパーJSATの強力なバックアップや優秀なメンバーを惹きつけるリーダーシップに優れたCEOです。

村松CFOは、伊藤忠商事・伊藤忠テクノロジーベンチャーズで投資業務やファンド運営に携わった後、経済産業省でスタートアップ支援政策にも関わり、大阪大学ベンチャーキャピタルでも投資先支援等に従事してきました。20244月から参画しており、資本政策や官需案件の推進、組織体制の整備が同時並行で進むディープテックの事業化において、経営面の補完として大きな役割を担っています。

福島CEOのリーダーシップに加え、村松CFOの事業・ファイナンスの実務力や同社の持つ高い技術力が掛け合わさり、政府系案件獲得に不可欠な高い信頼性や継続的な体制づくりを見据えた強固な経営布陣が構築されています。このバランスの取れた組織体制が、投資判断における大きな後押しとなりました。

5. おわりに

地球観測の現場では、災害対応・国土管理・安全保障などの重要領域ほど、高さ・傾斜・体積といった定量的な3次元データが意思決定に直結します。Orbital Lasers社は、理化学研究所とスカパーJSATの研究を起点とする宇宙用レーザー技術を核に、宇宙から3次元データを取得する衛星ライダーの実用化に挑んでいます。また同社の経営陣は、宇宙運用や官需領域で事業を前に進める実行力に加え、投資・資本戦略の実務、さらにスカパーJSATと理化学研究所に根差した最先端のレーザー知見が揃っており、技術と事業化を両輪で回せる体制になっています。投資家の目線としては、スカパーJSATとの連携によるダウンサイドプロテクションがありつつも、宇宙スタートアップ特有のIPO後のアップサイドも見込める魅力的な投資機会です。今後もこの経営陣の下、衛星ライダーの社会実装を軸に事業を一段と拡大し、日本発の宇宙スタートアップとして大きな成長を実現していくことを、Angel Bridgeとして期待しています。

Angel Bridgeは社会への大きなインパクトを創出すべく、難解な課題に果敢に挑戦していくベンチャーを応援しています。ぜひ、事業戦略の壁打ちや資金調達のご相談など、お気軽にご連絡ください!

この記事の監修者

Angel Bridge編集部

Angel Bridge編集部

Angel Bridgeは世の中を大きく変革するメガベンチャーを生み出すことを目指して、シード~アーリーステージから投資を行うベンチャーキャピタルです。プロファーム出身者を中心としたチームでの手厚いハンズオン支援に強みがあり、IT/大学発/ディープテックスタートアップへの投資を行います。

私たちは「起業家のサポーター」として、壮大で破壊力のある事業の創造を全力で応援しています。

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JVCA : (https://jvca.jp/)

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