2023.06.14 INVESTMENT

今回は、ファーメランタという、合成生物学的手法を用いて、植物希少成分の微生物発酵生産を研究開発している投資先についてご紹介したいと思います。

合成生物学とは、組織・細胞・遺伝子といった生物の構成要素を組み合わせて代謝経路や遺伝子配列などを再設計し、新しい生物システムを人工的に構築する学問分野のことを指します。ファーメランタはこの合成生物学的手法を用いた植物由来化学品の微生物発酵生産を研究開発しており、次世代のサプライチェーンを構築することを通じて人類および地球の健康増進に貢献することを目指す企業です。

植物由来化学品とは、植物の代謝産物(一次代謝産物/二次代謝産物)を活用した化学品です。そのうち、二次代謝産物は生物種独自の特異的な生理活性を有する化合物で、モルヒネやステビアの原料もこれに当たります。これらの物質は構成が複雑なため、化学合成は難しく、従来は植物抽出による生産が中心となっていました。しかしながら植物抽出には、植物の成長に時間・コストがかかり、技術的にも難しい、という課題があります。今回ご紹介するファーメランタは、従来の生産方法が抱えている課題を解決し、より一層効率的な生産を実現する革新的な技術を持っているバイオテックベンチャーです。

ファーメランタ

微生物発酵

化学品の生産には化学合成・植物抽出・微生物発酵、と大きく分けて3つのアプローチがあります。化学合成は安価に大量生産することが可能ですが、複雑な物質の生産には向いていない、という課題があります。一方で、植物抽出は複雑な物質の抽出が可能ですが、天候などに左右されるため安定供給が難しく、コストが高い、という課題があります。

そこで、ファーメランタは第3のアプローチである微生物発酵を用いています。遺伝子組み換えなどの合成生物学的手法と微生物発酵を組み合わせることによって、安価に純度の高い物質を生産することができ、本来自然界に存在していなかった新規物質も生産可能になります。従来、複雑な植物二次代謝産物は植物抽出で生産されていましたが、近年の技術発展に伴って微生物発酵による生産が可能になり、生産方法のシフトが起きつつあります。

微生物発酵

植物二次代謝産物を原料とする鎮痛剤

植物二次代謝産物は治療用薬物として、主に、がん・関節炎・片頭痛・てんかんなど、現代医療での治療が困難な病気に鎮痛剤として幅広く使用されています。ファーメランタが初期的なターゲット領域に据えて研究開発しているカンナビノイド・テバインもこの鎮痛剤の医薬品成分にあたります。

植物二次代謝産物を原料とする鎮痛剤

近年、植物二次代謝産物を原料とする鎮痛剤市場は、承認数増加と事業者の参入によって成長が見込まれています。その市場規模は2022年から2028年にかけてCAGR8.5%で成長し、2028年には600億ドルに達すると予測され、注目を集めています。

実際に、カンナビノイド(医薬品、化粧品、健康食品、サプリメントなどにカンナビジオール(CBD)という成分が広く使用される)においては、従来の植物抽出による生産方法から、微生物発酵に急速にシフトしていくと予想されています。

植物二次代謝産物を原料とする鎮痛剤
※縦軸はカンナビノイドの生産量全体のうち微生物発酵によるものの割合(%)

カンナビノイドの微生物発酵による生産に関しては、規制緩和の動きや市場の急成長を見越して、既に多くのバイオプレイヤーが参入しています。しかし、足元ではまだ商用化フェーズに達するプレイヤーはほとんど存在していない状況であり、ブルーオーシャンが広がっています。

技術

ファーメランタは、先述のように様々なバイオプレイヤーが存在する中でも、独自の技術を確立しています。その技術とは、多数の遺伝子編集を施した大腸菌に糖類を与えて目的の物質である植物二次代謝産物を生産させる、というものです。

具体的には、効率的に植物二次代謝産物を生成する大腸菌の遺伝子設計(図①)、20以上の外来遺伝子を1菌体に導入して適切に発現させることを可能とする多段階遺伝子導入技術(図②)、目的物質の生産効率を向上させるための遺伝子の発現バランスの最適化(図③)、タンパク質過剰発現耐性菌株の作出(図④)など、ユニークな要素技術を確立しています。
ゲノムや菌の最適化によって、従来の植物抽出の数倍の生産量を達成することも理論的には実現可能であり、医薬品や健康食品などの原料を従来よりも低コストで供給することに大きな期待が寄せられています。

技術

競合状況

ファーメランタは現在、テバイン・カンナビノイドの生産を中心に研究開発を行っています。合成生物学を用いて微生物発酵生産を行うバイオプレーヤーはいくつか存在していますが、そのほとんどが香料など比較的簡単な物質の生産に限られます。現状、高い技術力を要するテバインの生産を試みている競合は、アメリカのAntheia社のみです。

競合状況
※植物二次代謝産物を対象とするプラットフォーマーで複雑な化合物に着手しているのはファーメランタとAntheia社の2社のみ

Antheia社は合成生物学を使用して、酵母から植物二次代謝産物を生産する技術を開発しています。Antheia社は約$140Mという巨額の調達を行い、先行研究を進めていますが、未だ商業的生産の実現には至っていません。一方でファーメランタは、酵母ではなく大腸菌を用いることで、より効率的に生産することに成功しており、多数の外来遺伝子の導入実績もあります。ファーメランタの研究開発の進捗次第では競合優位性を確立してシェアを取れる可能性があり、この巨大な市場において、業界トッププレーヤーの地位を築くことも期待できます。

経営陣

これまで説明してきた通り、本領域は先行事例が少なく、高い技術力が必要とされる難しい領域です。しかし、Angel Bridgeはファーメランタの経営陣について理解を深め、このチームならばこのような困難な領域に切り込んでいけると考えています。

まず、柊崎CEOは、バークレイズ証券やドイツ銀行の投資銀行部門でキャリアを積んでおり、ファイナンスに強みを持っています。NEDO SSA(研究開発型スタートアップ支援)のフェローであり、研究開発型ベンチャーの支援経験もあります。さらに、リファレンスからは物事を徹底的に理解しようとするタイプであり、実際に文系出身者ながら本領域について独学で学び、南CSOと中川CTOを巻き込んで起業に至った経緯が分かりました。このように柊崎CEOはビジネスマンでありながらも研究者とうまくコミュニケーションが取れる経営者ではないかと考えました。

また、南CSOは石川県立大学の助教授であり、合成生物学及び代謝工学分野を15年以上研究しているパイオニアです。世界的に権威のあるNature Communicationsに執筆論文が2回掲載された経験もあり、海外でも認められつつある期待の研究者です。

中川CTOも同じく石川県立大学の講師であり、大腸菌の分子生物学におけるスペシャリストです。世界で初めて植物アルカロイドの発酵生産に成功し、掲載論文が論文評価サイトであるFaculty of 1000に選出された経験もあります。

このように、優秀なビジネスマンと世界レベルの技術力のある研究者から構成される、ポテンシャルの高い経営チームもファーメランタの強みです。

おわりに

微生物発酵による植物二次代謝産物を原料とする鎮痛剤の生産は、巨大な市場が広がっている一方で、未だ商業生産に成功した事例はなく、高い技術力が求められる難しい分野です。しかし、Angel Bridgeはファーメランタの技術力、経営チームを鑑み、本領域でグローバルに戦える稀有な企業であると評価しました。

繰り返しになりますが、Angel Bridgeは社会に大きなインパクトをもたらすために、あえて難しいことに挑戦していくベンチャーこそ応援しがいがあると考えており、こういった領域に果敢に取り組むベンチャーを応援したいと考えています。事業戦略の壁打ちや資金調達のご相談など、お気軽にご連絡ください!

2023.05.31 INTERVIEW

デジタル化を通じて集客とオペレーションの改善に取り組む

ミツモアの事業内容を聞かせてください。

吉村:ミツモアは2つのサービスを提供しています。1つは各界のプロに見積もりを依頼できるサービス「ミツモア」、そしてもう1つが「MeetsOne」という現場事業者向けのオペレーション改善サービスです。

具体的にどのような課題を解決する事業、サービスなのでしょうか?

吉村:現場事業者の多くは、個人事業主や小規模事業者が多く、いまだに電話、ファックス、紙によるコミュニケーションに頼っていることが少なくありません。利用者にしてみれば、庭木の剪定や家のリフォームなど、1日でも早く解決したい問題があるのに、依頼から発注までに2週間程度待たされることも多い上に、信頼できる業者を見つけるのも大変です。一方、現場事業者にしてみれば、見積書提出後のフォローや既存顧客に対する定期的なケアまで手が回らず、営業機会の損失を重ねるケースが珍しくありませんでした。しかしミツモアなら、事前に入力していただいた詳細な価格表に基づいて、24時間いつでも1分程度で見積もり出すことができ、MeetsOneなら、ITに不慣れな方でも簡単に業務効率化を通じ営業力強化が図れます。私たちが提供しているのは、集客とオペレーションのデジタル化によって旧態依然とした業務を改善し、稼げる仕組みを提供するサービスなんです。

競合状況はいかがですか?

吉村:ミツモアが得意としているのは、ある程度相場が明らかなサービスと利用者のマッチングではなく、本来なら現地調査や詳細な打ち合わせなどを経なければ、金額の目安さえわからない個別性の高い依頼です。確かにプロに仕事を依頼するサービスや事業者の業務効率化を支援するサービスはほかにも存在しますが、業務フローが複雑であるがゆえに、長らく古いプロセスが温存されてきてしまった領域をソフトウェアの力で改善するという意味において、真正面からぶつかり合う競合はほぼないという認識です。

デジタル化を通じて集客とオペレーションの改善に取り組む

プロフェッショナルファームからシード期のスタートアップへ

幼少期から社会に関心のあるお子さんだったと聞いています。社会人になるまでどんな生活をされていたのでしょう?

吉村:生まれも育ちも奈良で、いま振り返るとちょっと恥ずかしいんですけれど、教育制度に一言もの申したくて文科省にパブリックコメントを送ったりするような「意識高い系」の小学生でしたね(笑)。子どものころから家族揃ってテレビのニュースを観たり、新聞を読む機会が多かったので、自然と社会への関心が高くなったんだと思います。将来の夢は、割と素朴に「国公立大学に進学して公務員になれたら」と思うくらいで、はっきりとした目標があったわけではありません。ただ、何らかの形で社会に貢献したいという気持ちはその当時からあった気がします。

その後、京都大学法学部に進学され、卒業後はマッキンゼーに入られました。どんな心境だったのですか?

吉村:大学時代に鯖江市の地域活性化活動に携わったときに、これから戦略コンサルタントになるという方にお会いして、コンサルティングファームに興味を持ちました。コンサルティングの世界について、自分なりにいろいろと調べてみると、公務員や官僚より自分の性分に合っていそうな気がしましたし、民間のほうがかえって面白い仕事ができるかもしれないと思って受けたところ、運良く入社できました。

マッキンゼー時代に得たこと、学んだことについて教えてください。

吉村:マッキンゼーに在籍していた4年半弱の間に学んだことは数知れません。社会人としてのイロハにはじまり、時間あたりの価値を最大化するために何を考え、何をどうすべきか、プロとして必要なことをすべてを教えてもらいました。学んだのは具体的な方法論や手法だけではありません。「戦略とは何か」「論理的に考えるとはどういうことか」「課題解決のためにどんな問いを立てるべきか」といった、抽象度の高い思考力も鍛えられました。優秀で意欲的な人たちに囲まれ、成果を出すために必要なすべてを実践の場で体系的に学べたのは得難い経験だったと思います。

なぜ、No.1プロフェッショナルファームを自認するマッキンゼーから、スタートアップのミツモアに移られたのでしょう?

吉村:マッキンゼーでは得るものが多かったのですが、さまざまな経営者と接するなかで、当事者として戦略を描き、ビジネスと向き合い成果を出したいと考えるようになりました。実はマッキンゼーを退職後、起業するつもりで準備をしていた時期もあったのですが、残念ながら計画が頓挫してしまったこともあり時間ができたので、シード期のスタートアップの現実を知ろうと思いマッキンゼー時代の先輩に紹介されたミツモアにアルバイト入社しました。

ミツモアのどこに惹かれたのでしょうか?

吉村:当初「3カ月で辞めます」と公言していたのですが、CEOの石川彩子、CTOの柄澤史也の優秀さや裏表のない言動、誠実な人柄に触れ気が変わりました。当時はまだ事業が立ち上がったばかりで、売上も月に数万円程度しかない超アーリーステージです。こうした状況にあっても、石川と柄澤は私利私欲を満たすためではなく、全身全霊で顧客のため世の中のためにベストが尽くそうとしていたんです。当時私は27歳で、この先5年、10年をどこでどう過ごすべきか、キャリアの上でも人生の上でも非常に大事な選択だと考えていたからこそ3カ月で辞めるつもりだったのですが、この人たちとならきっと有意義な時間が共有できると確信したので、ミツモアに腰を落ち着けました。

河西:いま吉村さんが言われた通り、石川さん、柄澤さん、吉村さんをはじめ、ミツモアの経営陣は事業に対する思いの強さや情熱がありながら、論理的に考え、よく話し合い、理に適った決断を下せる非常に希有なチームです。頭の良さに加え気合いと根性が備わっている。そんな印象がありますね。

吉村:河西さんにそう言っていただけて光栄です。きっと2人も喜ぶと思います(笑)。

ハンズオン投資家ならではの心強い一言が救いに

河西さんに聞きます。ミツモアとの出会いを教えてください。

河西:2019年1月ごろだったと思います。あるビジネスイベントで石川さんのプレゼンを拝見して、非常にユニークで将来性のあるサービスだと感じ声を掛けさせていただいたのが最初です。その2週間後には、石川さん、柄澤さん、吉村さんに弊社までご足労いただき、その後も何度か面談を重ねてお話しさせていただいたのですが、最初に受けた印象は変わることなくむしろ確信に変わりました。はじめてお会いしてから1カ月足らずでシリーズAラウンドに参加することを決め、それ以降も継続的にご支援させていただき、2022年8月に実施されたシリーズBラウンドにも参加させていただきました。

ユニークで将来性のあるサービスに惹かれたとのことですが、投資に至った一番の決め手は何だったのでしょうか?

河西:皆さんそれぞれキャラクターは違うんですが、 価値観が一致しており、何があっても諦めない人たちだと感じましたし、あえてニッチを狙わず、見積もりを通じてあらゆるビジネスを支援するという志の大きさも決断を揺るぎないものにしてくれました。ここまで明確な目標があり、情熱に裏打ちされた考え抜く力と実行する意欲があるなら、仮に投資が失敗しても悔いが残らないだろうと感じ投資に踏み切りました。

Angel Bridgeからはどのような支援を受けていますか?

吉村:基本的には月に1度のペースで行っている株主報告会にご出席いただき、主に資金調達や採用の面でのアドバイスやサポートをいただいています。

とくに印象に残っているエピソードがあれば教えてください。

吉村:2021年の暮れにシリーズBの調達準備をはじめたころの話です。当時、株式市場は悪化の一途を辿っており、投資環境はかなり冷え込んでいました。そうした状況下にあっても河西さんは、「最後は俺たちが何とかするから大丈夫」と、私たちの判断に太鼓判を押してくださったんです。私たちの価値観や目指すところに共感していただけているんだと感じずにはいられませんでしたし「そこまで言っていただけるなら諦めず頑張ろう」という気持ちにもなれました。本当に心強かったです。

河西:資金的な面でのお手伝い以外でハンズオン投資家にできることは、実践的なアドバイスと寄り添う気持ちしかありません。ミツモアを最後まで支える覚悟があることをいち早くお伝えすることが皆さんの励みになるのであればと思ってお話ししました。将来性のあるビジネスですし、ガッツのある経営陣が揃っているんですからサポートしないわけにはいきません。当時はそんな心境でしたね。

吉村:シリーズAラウンドの調達の後、ビジネスが伸び悩んだ時期にも何度も相談に乗っていただきましたね。

河西:そうでした。勇気を持って状況を変えていこうとされている姿を見て、きっとトンネルから抜けられると思ったので、とくに不安はありませんでした。実際、新たな施策がうまくいきビジネスが再び成長しはじめたのを見て、このチームなら将来、新たな課題に直面したとしても必ず乗り越えられるだろうなと確信しました。

吉村:ありがとうございます。河西さんの言葉やご支援がどれだけ励みになったかわかりません。

「稼ぐ」仕組みの提供で日本のGDPに貢献する

改めて吉村さんにうかがいます。これからミツモアをどんな会社にしていきたいですか?

吉村:社会を支える労働人口が減りゆくなかで、限られた人数でいかに生産性高く「稼ぎを上げていくか」が、これからの日本にとって大きな課題です。手間や時間が掛かるせいで仕事を頼みたいのに頼めなかった方、また、いくら請求されるかわからず発注に二の足を踏んでいた方々が、ミツモアを通じて心置きなく現場事業者さんに仕事を頼めるような環境を整えていくつもりです。同時にMeetsOneの活用によって、業務の効率化と営業力強化が実現できれば、お客様のビジネスはさらに伸びるはず。これからも「稼ぐ」ための仕組みによって、お客様のビジネス、ひいては日本のGDPに貢献したいと思っています。

河西さんはAngel Bridgeとしてどんな支援を提供したいとお考えですか?

河西:ミツモアは自ら課題解決できる自走型チームなので、こまごまとしたアドバイスよりも、温かく見守ること、寄り添うことが大事だと思っています。ここ一番というタイミングで皆さんが正しい決断が下せるよう、これからもそんなスタンスでサポートしていくつもりです。

最後にスタートアップ経営者やスタートアップに関心を持つ方々にメッセージをお願いします。

吉村:スタートアップは苦労の連続です。気合いと根性で乗り越えざるを得ない局面に出くわすこともよくあります。スタートアップに携わるのであれば、どんなビジネスをどのような手段で実現するのかと同じくらい、誰と一緒に成し遂げたいか、よく考えてみることをお勧めしたいですね。良い時期もさることながら、価値観を共有できない人と苦しい時期を共有することはできないからです。これは創業メンバーや社員選びに限らず、投資家選びにも通じる話だと思います。

河西:この記事を読んでくださっている方のなかには、コンサルティングファームなどで活躍中の方も多いでしょう。そうしたプロフェッショナル志向を持つ方にこそ、もっとスタートアップに関心を持っていただきたいというのが私の願いです。ミツモアのような前途有望なスタートアップに優秀な人材が集まれば、吉村さんがおっしゃるように、日本のGDPを増やすことにつながるはず。ミツモアは経営陣も優秀ですしビジネスも有望です。投資家の立場からもお勧めできる会社なので、興味をお持ちの方はぜひアプローチしてみてほしいですね。

 

2023.05.25 INVESTMENT

2023年5月25日に、Angel Bridgeの投資先である、武田薬品工業発ベンチャーの株式会社リボルナバイオサイエンスがシリーズDラウンドにおいて6.7億円の資金調達を発表しました。

今回は、独自の創薬プラットフォームを通じてRNAを標的とする低分子医薬品の研究開発を行う、株式会社リボルナバイオサイエンスへの投資に至った背景について解説します。

RNAを標的とする低分子医薬品は、新たな治療方法として近年多くのグローバルメガファーマも注目している領域です。当該技術によって、従来治療法がなかったRNA機能不全を原因とする難病も治療可能になり、経口摂取でQOLの高い治療も実現できます。
現在難病で苦しむ多くの患者さんやそのご家族が明るい未来を迎えられるように、創薬領域から医療社会に貢献する当社の魅力が伝われば幸いです。

RNA標的低分子医薬品の概要

RNA(リボ核酸)とは、DNAに保持されているタンパク質の情報を媒介し、タンパク質の産生に関わる物質です。

また、低分子医薬品とは分子量がおよそ10,000以下で、大半は化学物質によって生成された医薬品です。経口吸収性に優れており、長年開発が進められてきたことから開発リスクが低く、製造コストも比較的安いことが特徴です。

病気はタンパク質の生成が過不足することによって引き起こされることがありますが、タンパク質そのものではなく、タンパク質の生成に必要なRNAをターゲットとすることで、より効果的に治療できるとされています。これまで、RNAをターゲットとする薬剤は核酸医療薬が主体でしたが、生体内で不安定、かつ標的への伝達が困難であるという課題がありました。
しかし近年、RNAの構造解析や分析技術の発展に伴い、低分子医薬品の簡便さでRNAを直接ターゲットにできるRNA標的低分子医薬品が登場し、フロンティア領域として、大手製薬会社を中心に脚光を浴びています。

RNA標的低分子医薬品の概要

市場規模と動向

RNA標的の低分子医薬品市場は、今後急成長を見込む新しい領域で、グローバルメガファーマの関心も高い有望な領域です。市場規模は2030年までに1兆円となる見込み(Roots Analysis調査より)であり、Roche社、AstraZeneca社やSanofi社など多くのメガファーマが、専門のライセンサー(開発会社)と提携をしています。

市場規模と動向

さらに、Roche社が販売する脊髄性筋萎縮症(SMA)の治療薬であるRisdiplamや、PTC Therapeuticsが販売・製造するデュシェンヌ型筋ジストロフィー(DMD)の治療薬であるTranslaraなど、すでに上市済みの医薬品が2つ存在し、RNA標的の低分子医薬品の効果や安全性は実証されていると考えられます。

市場規模と動向

また、リボルナバイオサイエンスが対象とする疾患治療全体の潜在的な市場規模も十分に大きく、SMA(脊髄性筋萎縮症)だけでも1兆円、FTLD(前頭側頭葉変性症; 世界で400万人)やPD(パーキンソン病; 世界で700万人)などの他の病気も合わせると数兆円と十分大きな市場規模が存在します。

市場規模と動向

技術の概要

リボルナバイオサイエンスは、RNA InsightとRNA Dominoという二つのモジュールからなるスクリーニングプラットフォームを有しています。自然な3次元構造を有するRNAを使用したスクリーニング技術は世界で唯一の技術であり、また転写からタンパク質生成までの過程全てでアプローチが可能なため、全遺伝性疾患を対象にできる唯一のバイオベンチャーです。

技術の概要

RNA Insightは、体内環境下に近い全長3次元のRNAを活用できる世界初のスクリーニング技術です。他社の技術では、スクリーニングの際に断片状のRNAを使用して低分子化合物を結合させていましたが、臨床環境とのギャップが生まれやすく、臨床での成功確率やRNAの選択性が低いという課題がありました。そこでリボルナバイオサイエンスでは、あらかじめ体内環境下に近いスクリーニング環境を構築することで、臨床試験における成功率を高め、効能を高めながら副作用の低減も可能です。

技術の概要

RNA Dominoは、異常なスプライシングを正常化できる低分子化合物をスクリーニングする技術です。患者の細胞を利用したアッセイが特徴で、擬陽性なく直接スプライシング調節作用を持つ低分子化合物を同定可能であり、あらゆるスプライシングパターンに対応可能で、臨床試験での成功確率も高い技術です。

事業の概要

当社の技術は標的となるRNAが特定できれば、異なる疾患に対しても容易に横展開できるため、多くのパイプラインを並行して進めることが可能です。当該技術を生かして、短期的には創薬プラットフォーム型で多くの製薬企業との共同開発を進めていますが、中長期的には自社で開発から販売まで行う自社パイプラインの開発も視野に入れています。

現状、各大手製薬企業との議論も進んでおり、世界で神経科学をリードするバイオテクノロジー技術で革新的な治療薬を生み出し、約6兆円の時価総額を誇るBiogen社とは大型のオプション付きライセンス契約を締結済みです。また、他にも異なる疾患を対象に複数のメガファーマとも議論中です。

現在は技術の実証のために成功確率が比較的高く、開発期間が比較的短い希少疾患を対象としていますが、将来的には患者数の多い遺伝性疾患や高有病率疾患へも拡張し、対象とする市場を拡大していきます。

事業の概要

経営陣

リボルナバイオサイエンスに投資するにあたり、経営チームへの理解も深めました。
富士CEO兼COOは、武田薬品工業にて15年以上の創薬研究に従事しており、特にRNA創薬に関する深い知見とパッションを持った人物です。そのパッションに惹かれ、優秀な経営陣や社員の方々も入社しています。また、ファイナンスの高い専門性を持った小田CFOや、武田薬品の元研究員の方々も複数在籍しており、会社全体としてのRNA関連の研究・技術開発力の高さや、事業開発力の高さも評価しました。

おわりに

RNAを標的とする低分子医薬品はグローバルでも注目度が高く、メガファーマが多数注目している領域です。リボルナバイオサイエンスのコア技術は、従来の方法よりも臨床での実践性に優れるとともに、高いRNA選択性を達成することができ、こうした治療薬の実現性を格段に高める可能性があります。また、富士CEOをはじめ経営陣は創薬に対する熱いパッションを持っており、難易度の高い当該領域で戦っていけると信じています。

Angel Bridgeは社会への大きなインパクトを創出すべく、難解な課題に果敢に挑戦していくベンチャーを応援しています。ぜひ、事業戦略の壁打ちや資金調達のご相談など、お気軽にご連絡ください!

2023.04.21 INVESTMENT

2023年4月18日、Angel Bridgeの投資先であるブルーモ・インベストメント株式会社(以下ブルーモ)がシードラウンドにて8億円の資金調達を発表しました。

ブルーモは、米国株・ETF投資アプリを2023年夏までにローンチする予定です。現在、日本市場ではロボアドバイザーや短期投資向けのネット証券サービスはたくさんありますが、資産形成を目的とした「スマホでも使い易い長期投資のインターフェイス」は存在しません。そこで、ブルーモはこの領域をカバーするプロダクトをリリースすることにしました。

今回は、ブルーモへAngel Bridgeが投資した理由を解説します。

海外でのモバイル投資アプリの動向

近年、海外ではモバイル投資アプリのユニコーン企業が多数誕生しています。2020年末から2021年にかけてはRobinhoodという初心者向けの投資アプリが爆発的に流行り、多くの若者が株式投資を行うきっかけとなりました。Robinhoodは現在も2,300万の口座を持っています。顧客の預金残高で得られる利息、高頻度トレーダーへの注文情報の販売、証拠金貸与が収益となっていたため、取引手数料が無料であることが特徴的です。

アメリカの個人投資活発化のきっかけは、2020年からの巣ごもり需要です。特に若年層はSNS掲示板での情報交換を通じて気軽に投資を行うようになりました。
他にも、M1 Financeがユーザー数100万人、顧客口座残高61億ドル、Public.comが2021年時点でユーザー数300万人以上と代表的な地位をアメリカで占めています。

日本国内の状況と創業の経緯

では日本国内の個人投資の状況はどうでしょうか。日本はアメリカをはじめとする海外に比べて個人投資が浸透していないのが現状です。しかし、ここ最近外部的な要因で投資への関心が高まっています。

2022年5月、岸田首相は「資産所得倍増プラン」を掲げ、「貯蓄から投資へ」という目標へのコミットを示しました。その実現のため、NISAやiDeCoの拡充・改革などが実施され
、非課税期間が無制限になったり、年間投資額が最大360万円までとなることが決まりました。

TwitterやYoutubeなどのSNS上で、投資、特に米国株に関するコンテンツの需要が高まっており、米国株を含むツイート数は年66%のペースで増加しています。
実際、証券口座開設数は急速に加速しており、2011年から2019年までの9年間で500万口座開設であったのに対し、2020年と2021年の2年間で約500万もの口座が開設されました。

このような追い風環境の中、中村CEOは「この日本で生まれつつある新しい資産形成層を支援し、誰もがより良い未来を描ける社会の実現を目指したい」という強い想いを持ってブルーモを創業しました。

ここで日本のモバイル投資アプリ市場について説明します。図の左上は、ウェルスナビを始めとするロボアド領域です。自分で投資銘柄を考えるのではなく、投資スタイルを選ぶと自動的に複数の投資信託を組み合わせて投資を実行してくれます。最近ではマネックス証券や松井証券など既存証券もロボアドを導入し始めています。
図の右下はいわゆるネット証券で、楽天証券やPayPay証券などがあります。自分で個別銘柄を選んで投資を行います。最近利用者が増えてきましたが、まだまだスマホでは操作しにくいものもあったりします。

ここでブルーモは、スマホアプリ特化の証券会社という立ち位置で、米国株に絞ったユーザーインターフェース(UI)が良いアプリをローンチすることにしました。

日本国内の状況と創業の経緯

ブルーモの事業概要

ここからはブルーモの特徴について説明していきます。
ブルーモはスマホに最適化された優れたユーザーインターフェース(UI)と長期資産形成に必要な機能を持つ新しいスマホ証券アプリです。情報収集から取引まで一貫して一つのアプリで対応しており、初心者でも簡単に投資が行えます。

ブルーモの事業概要

ブルーモの特徴的な機能は、3つあります。1つ目はポートフォリオ投資機能で、米国株・ETFで銘柄・比率を指定すれば、その目標比率を達成するように必要な売買を計算して取引を実行してくれます。

ブルーモの事業概要

2つ目はコミュニティ機能で、他人の運用方針を見て自分のポートフォリオを決定したりできます。今までTwitterや掲示板などで情報収集した後に証券サイトで購入していたプロセスが、一つのアプリで完結します。

ブルーモの事業概要

3つ目は教育コンテンツです。ブルーモのアプリ内で、世界経済・米国市場の動きの分かる情報コンテンツが提供されるため、ユーザーは資産状況の確認ついでに情報収集ができます。この機能は「日本の金融リテラシーを高めたい」という中村CEOの熱い思いが表れています。

経営陣

投資を検討するにあたって、経営陣への理解も深めました。

経営陣

CEOの中村氏は、東京大学法学部を卒業後、東京大学経済学部修士を修了。財務省、マッキンゼーなど非常に優秀なキャリアを築いています。また一緒に働いていたメンバーからは、「今まで働いていたマネージャーの中で一番優秀。能力が高く、やると言ったことは必ずやり切る。」という意見も聞きしました。マッキンゼー時代の後輩もメンバーとして連れてきていることから、巻き込み力の高さも持ち合わせていることが分かります。

CTOの小林氏は、東京大学情報理工修士を修了。未踏クリエーター、フリーランスエンジニアを経て、Fintechスタートアップのエメラダで執行役員を務めていました。本事業を進める上で、これ以上ない人材だと考えています。

おわりに

Angel Bridgeは、市場拡大が見込めるモバイル投資の領域において、実績のある優秀な経営陣が取り組む新しい投資アプリであるという点を評価しています。
それに加え、中村CEOの熱い野心にも共感しています。中村CEOは大学時代から日本の個人投資環境について課題感を抱き、このテーマをずっと考えていました。日本は将来的に経済危機に陥るリスクを抱えており、それを感じた個人が海外資産に逃避する結果、「日本人がグローバル投資で資産管理する時代」がやってくると考えています。ブルーモは、今この時代に求められている新しい金融インフラを作り、これまで「政府のもの」「専門家のもの」と思われていた投資を「みんなのもの」にすることを目指しています。
日本を代表する金融インフラを実現してもらいたいと考え、今回投資に至りました。

Angel Bridgeは社会に大きなインパクトをもたらすために、難しいことに果敢に取り組むベンチャーを応援していきたいと考えています!事業の壁打ちや資金調達のご相談など事業の壁打ちや資金調達のご相談など、お気軽にご連絡ください!

2023.03.23 ACADEMY

前回のスタートアップアカデミー#4では、起業家が押さえておくべきIPOに向けた準備についてご紹介しました。スタートアップアカデミー#4

今回は、VCから投資を受けた後に、実際にIPOまでどのような支援をVCから受けるのかをAngel Bridgeの事例に基づいて解説します。

一般的にVCから出資を受けると、そのVCから様々な支援を受けることができます。支援の内容や密度はVCのスタンスにより様々な特色があります。自社によって必要な支援をしてもらえるかどうかという観点で、投資を受ける前に確認しておくと良いでしょう。

Angel Bridgeは投資先企業のハンズオン支援に強い思いを持って積極的に取り組んでいます。
我々のValuesの1つを紹介させてください。

“投資家は起業家のサポーター
起業家は自身の渾身のプロジェクトを主役として進め、投資家はサポーターとしてこれを全力で支援する。投資家は自分自身が経営を出来るとは思ってはならないし、またそうするべきでもない。投資家は起業家を信頼し尊敬する。投資家は数多くのプロジェクトに取り組めることで自身の生み出せる価値を極大化出来ることをその誇りとする。”

VCはあくまでも起業家のサポーターであり、実際に事業を作っているのは経営陣です。そこでAngel Bridgeはアドバイスを押し付けるのではなく支援するという姿勢が正しいと考えています。プロテニスプレイヤーとコーチの関係とイメージすると分かりやすいでしょう。
そしてベンチャー企業が求めている支援は、ステージによって大きく異なります。それゆえ画一的な支援メニューを漫然と押し付けるのではなく、起業家のニーズをしっかり聞いた上でオーダーメイドでハンズオン支援を行っていくことが重要です。例えば、シードではビジネスモデルに対するアドバイスや最初の顧客の紹介、アーリーでは採用支援、シリーズAでは営業やマーケティング、顧客紹介などそれぞれを行います。

次にハンズオン支援の全体像を説明します。Angel Bridgeでは投資先支援メニューを、「組織(ヒト)」「事業(モノ)」「ファイナンス(カネ)」「経営のPDCAサイクル」の4つに分類しています。それぞれについて簡単に説明していきます。

スタートアップアカデミー#5-1

「組織(ヒト)」に関する支援では、経営人材の紹介や評価報酬体系の設計などを行います。特にアーリーステージのベンチャーでは売上規模が小さく組織も少人数のケースが多いため、メンバー一人一人の貢献度が高く、経営陣を含む組織の強化が非常に重要です。その一方で知名度が低い、高い給料が出せない、ネットワークが不足していることなど、優秀な人材を採用することのハードルが高いことも多いです。この部分をVCがしっかりサポートすることは大きなインパクトがあります。

「事業(モノ)」に関する支援では、企業の戦略策定に向けた壁打ちや顧客先の紹介などを行っています。戦略策定では月次定例会を共に行い、事業戦略やIPOや資金調達など様々な経験を生かしたアドバイスをします。顧客先の紹介では、製品・サービスの営業先など、今後の事業拡大に向けて付き合っておきたい企業を紹介します。ベンチャー企業はまだ信頼が不足しており、ネットワークも脆弱で自社でリーチできない部分が多いため、VCが補っていくことが必要でしょう。

「ファイナンス(カネ)」に関する支援では、資本政策の策定や追加の資金調達支援、IPO支援などを行います。資本政策は後から修正が困難であり、資金調達は事業継続・拡大のために極めて重要です。今後の資金調達を「いつ」「誰から」「どのような規模」で行うかについて一緒に考え、実行に向けて、投資家の紹介なども共に行います。IPO準備では、証券会社の紹介やエクイティストーリーの考案などをサポートします。ベンチャー企業は基本的にIPOを一度しか経験しませんが、VCは何度もIPOのサポート経験があるため、ノウハウを共有することができます。

「経営のPDCAサイクル」に関する支援はヒト・モノ・カネをどう回すかといった経営のOS(オペレーティングシステム)のようなものです。取締役会を起点に株主も巻き込んだ年12回の大きなPDCAサイクルを回す体制の構築を支援します。会社の羅針盤となるKPIの設計や見える化と組織としての運営体制を経営陣と共に作り上げていきます。これらは組織が大きくなった時に必要な会社運営の仕組みになります。

ステージごとに取り組みを整理すると、以下のようになります。
シードステージは事業の方向性を議論し、それを元に資金調達の支援を行います。アーリーステージでは集めた資金を使ってCXO人材採用支援を行い、事業を着々と進める体制を整えます。プレIPOステージになると、監査法人や証券会社の選定などのIPO準備を支援します。これらと同時に月一の定例会を行い、経営の見える化を行います。この定例会は取締役会へと発展していきPDCAサイクルが回る体制が自然と出来上がっていきます。

スタートアップアカデミー#5-1

では、それぞれの支援についての詳細を見ていきますが、今回は「組織」に焦点を当てて説明します。

1.「組織」に関する支援について

先ほど、「組織」に関する支援は、経営人材の紹介や評価報酬体系の設計などを行うと述べました。実際にどのような取り組みを行っているのか詳しく説明します。

経営人材の紹介は、どのような人材が足りていないかというところから一緒に考えていきます。定例会で事業計画を構築していくなかで定まっていくことも多いです。
この経営人材の紹介方法は2種類あります。1つ目は知人友人など独自ネットワークの紹介で、転職マーケットに出ていない優秀な人材の獲得が可能になります。Angel Bridgeにはプロファーム出身者が多いため、そのネットワークを生かした人材紹介を行っています。
2つ目は、人材紹介エージェント経由の紹介です。多くのVCは人材エージェントと提携し、情報共有を行っています。Angel Bridgeは長く人材紹介を行う中でネットワークを培ってきており、領域やポジションによって適切な人材紹介会社を選択することができます。さらに投資先企業の魅力を候補者に伝え、応募したいと思ってもらえるよう取り組んでいます。

次に評価報酬体系の設計です。ベンチャー企業での評価報酬体系は採用力にも直結する重要な部分なのでとても重要です。しかし多くのベンチャー企業は初めて評価報酬体系を作るため、作成経験があるVCのサポートがあるとより良いプラクティスをベンチャー企業に提示できるでしょう。またチームメンバーにとって大きな魅力となるストックオプションの設計も同様にサポートします。

数人規模のベンチャーに1人優秀なCXOが入ると企業は大きく変わり、企業価値・事業の成長スピードはとても伸びます。人材紹介は、最もインパクトがある支援の1つです。

2.「組織」支援についてのAngel Bridge実施事例

経営人材の紹介の取り組みとして、「Heartseed」という企業にCOOを紹介した事例を説明します。「Heartseed」は慶応義塾大学発のバイオベンチャーで、iPS細胞による心筋再生医療の実用化を目指しています。

スタートアップアカデミー#5-1

事業拡大に向けてビジネスサイドの優秀な人材が必要だという話になり、COO探しが始まりました。サイエンスも分かり、事業を回す経験もしているという軸で探し、候補として安井さんを紹介しました。CEOの福田さんが直接安井さんに熱意や想いを伝える機会も設定し、Heartseedの魅力を伝えました。

安井さんはAngel Bridge河西の大学時代の友人で、新卒はBain&Company、その後、外資製薬会社で事業開発などを行い、最年少で事業部長になった方です。

Heartseedに入った経緯として以下のように安井さんは話していました。

“安井:以前から、Angel Bridgeの河西さんよりVCや日本発のバイオベンチャー育成の話を聞いていてやりたい事として考えていました。ある出来事をきっかけに、やりたいことは今やらないといけないと思ったんです。そんな時にHeartseedの話を聞き、自分が一番やりたかった革新的な治療法を開発していて、製薬企業の主要な部門の経験を持つ自分が役に立てそうだと感じました。その後CEOの福田と会って丁寧な説明と想いを聞き、これは凄いなと驚きました。そしてこれは何としても世に出したい、と思いました。
(参考記事:660億円ディールの裏側 Heartseed COO安井 × Angel Bridge河西)

スタートアップアカデミー#5-1

安井さんは自分でドライバーズシートに座ってハンドルを握って仕事がしたい、そのような思いが強くなり最終的に転職に至ったようです。しかし、その背景には日頃からAngel Bridge代表の河西が安井さんとバイオベンチャーや今後のキャリアについて話をしていたり、また可能性のあるビジネスに対してきちんと魅力的だと安井さんに思ってもらえるようにCEOのサポートも行っていました。

COO就任後は、ライセンスアウトの締結に向けて尽力し、ノボノルディスクファーマという世界トップクラスの製薬企業と、Heartseed の主要開発品であるHS-001の開発・製造・販売に関する全世界での独占的技術提携・ライセンス契約を締結しました。

HeartseedのCEO福田さんは、安井さんが入ってくれたことによって経営のPDCAサイクルが回り、事業の成長スピードが上がったと述べていました。他にも、Angel BridgeはHeartseedに対してCFO、管理部長、監査役、開発部長などを紹介して採用に至っています。

今回はHeartseedの事例を一例に取り上げました。このようにAngel Bridgeは普段から経営人材と交流を行ったり、20人ほどのヘッドハンターと頻繁に情報を交換するなどして、必要な時にニーズに応じた人材を紹介できるような体制を整えています。

以下にAngel Bridgeが行った紹介の一例を記載します。

スタートアップアカデミー#5-1

今回は特に「組織」に焦点をあてて、VCがどのようにサポートするか説明してきました。自分の会社にはどんなサポートが必要か考えると、自分に合ったVCに出会えるのではないかと思います。そのために、まずはそれぞれのVCを知ることが大切です。最近ではSNSやブログ記事、イベントなどで積極的に情報発信しているVCも多いので、簡単にチェックすることができます。投資先の企業から評判を聞いたり、知人のツテを使うなど情報収集を行いましょう。アプローチ方法としてはツイッターアカウントへのDM・オフィスアワーへの申し込み・HPへの問い合わせ・人づての紹介・イベントへの参加など様々考えられます。後悔のない資金調達ができるよう、最大限活用していきましょう。

2023.03.09 INTERVIEW

国際派技術者が建設テックに参入した理由

ローカスブルーの事業内容をご紹介ください。

宮谷:ローカスブルーは2019年設立のスタートアップです。レーザー測量などで習得した3D点群データをブラウザでクラウド上にアップロードするだけで、地面や建物、樹木、その他の構造物をAIが自動分類。必要な情報のみを取り出し、現場の状況分析などに利用できる「ScanX」をSaaS形式で提供しています。

国際派技術者が建設テックに参入した理由

「ScanX」はどのようなユーザーが利用するサービスなのですか?

宮谷:2020年9月のリリース以来、全国43都道府県の建設会社、土木会社、測量会社などで広くご利用いただいています。国交省が中心となって建設現場のICT化を推進する「i-Construction」の広がりや月額3万円から利用できる敷居の低さ、誰でも簡単に利用できるUIのシンプルさなどを評価いただき、2021年度の「i-Construction大賞」国土交通大臣を受賞できました。

起業のきっかけは?

宮谷:起業を志したのは、イスラエルのスタートアップ時代のことです。イスラエルは18歳になると兵役が課される国。最新のITを活用した軍事技術開発に携わる若者も多く存在します。習得した軍事技術を民間転用したスタートアップを立ち上げる人も多く、同世代の同僚にはすでに2社、3社の起業を経験した人がいるほどでした。私はそれまでフランスのエアバスやシリコンバレーのドローンベンチャーで働いた経験はありましたが、起業経験はありません。やるなら29歳のいまだと思い2019年9月に帰国し翌月起業しました。

なぜ建設業界に参入しようと思われたのですか?

宮谷:当時決めていたのは、前職時代に学んだ3DデータをAI解析する技術を応用したサービスを立ち上げることだけで、最初から建設業界を狙って起業したわけではありません。帰国から半年ほどは、自動運転や製造や損害保険など、可能性のありそうな業界を回ってヒアリングを重ねた結果、建設業界を選びました。計画、調査、設計段階で3Dモデルを活用するi-Constructionへの対応は時代の趨勢です。少子高齢化が著しい建設業界のペインを解消することは社会的意義もあり大きなビジネスも見込めます。そんな理由で建設業界に参入しました。

建設業界経験がないなか、参入障壁を感じたことは?

宮谷:もちろんあります。いまでこそ建設業界に参入するスタートアップは珍しくありませんが、当時はほとんど例がありませんでしたから。「リスクがあるから止めるべき」と、助言をいただいたこともありましたが、見方を変えれば、競合が少ないブルーオーシャンであるとも言えます。3D点群データを処理する既存のソリューションは多機能である一方、利用するためには高額なソフトやハードを買わなければならず、導入できる企業は限られています。しかも操作性は非常に複雑です。一方、私たちには高度なAIエンジンと3D解析技術があり、SaaSを通じて安価に、かつ機能を絞り込みシンプルなUIで提供すれば必ず勝機は巡ってくると信じていました。

参入後の反応は?

宮谷:2020年に製品をリリースした直後こそお客様は10社だけでしたが、その後、クチコミで利用者がどんどん増え、この2年の間に1万現場でご利用いただくまでになりました。

現在の社内体制を聞かせてください。

宮谷:業務委託を含めてメンバーは約30名のメンバーが在籍しています。当初はエンジニアがほとんどでしたが、いまはセールスやマーケティングの数も増え、エンジニアリング側とビジネス側の比率は2:1程度ですね。日本人以外にもフィリピンやインドネシア、ドイツ出身のメンバーが働いており、社内公用語は英語と日本語のバイリンガルで、多国籍なチーム構成になっています。

国際色豊かなメンバーが、歴史ある建設業界のニーズに応えるのは大変なのでは?

宮谷:確かに簡単ではありません。専門的な機能開発にあたっては国交省が出す1,000ページを超えるマニュアルを読み込む必要があったり、建設業界の商慣習や業務知識を身に付けたりする必要がありますからね。ただ、言葉や文化、制度などに依存しないAIエンジンや3D解析技術の開発を担当するメンバーと、日本市場に適応するための開発を担当するメンバーを分ければそれほど大きな問題にはなりません。実際、開発効率を維持できています。

戦略ファーム品質の分析支援に感動

Angel Bridgeとの出会いについて教えてください。

宮谷:当社は2021年7月と2022年12月の2回、プレシリーズAラウンドで出資を募った経験があるのですが、初回のリードインベスターを務めてくださったベンチャーキャピタルの担当者に、Angel Bridgeさんを紹介していただいたのが最初の出会いです。

林:当社でシニアアソシエイトを務める八尾(凌介)が、母校のTA(ティーチングアシスタント)を務めたとき、担当した学生さんが、御社でインターンされていたご縁もありましたよね。

宮谷:そうでした。そこから定期的にお話しするようになり、Angel Bridgeさんの出資先をご紹介いただいたこともありました。Angel Bridgeさんから投資を受けようと思った一番の決め手は、ご紹介いただいた出資先のひとつである見積サービスのミツモアの創業者でありCEOでもある石川彩子さんに「絶対に入ってもらったほうがいいですよ」と強く勧められたからです。

具体的にどんなお話があったのですか?

宮谷:石川さんがおっしゃるには、Angel Bridgeさんはプロフェッショナルファーム出身の方が多く、分析力や戦略立案能力に長けており、必要とあれば商談にも厭わず参加してくれる。出資先に対してこれほど熱意を持って対応してくれるVCはそうはないからと力説され、心を動かされました。

林:投資先の経営者にそんなふうに言っていただけるのは投資家冥利につきます。実際、我々とお付き合いしてみていかがですか?

宮谷:石川さんの言葉通りでした。パートナーの林さんをはじめ、シニアアソシエイトの八尾さん、アソシエイトの三好(洋史)さんに担当していただいて本当に良かったと思っています。

Angel Bridgeからはどんな支援を受けましたか?

宮谷:以前、価格体系を見直すにあたって、何を基準に妥当な価格を決めるべきかわからず悩んでいたとき、Angel Bridgeさんから「価格感度分析をやってみませんか」と提案いただいたことがありました。顧客に送る調査項目のリストアップから分析資料の作成までテキパキと進めてくれたおかげで、私は調査票をお客様に送って結果を聞くだけ(笑)。以前から数値分析に強い方々とは聞いていましたが、そのクオリティの高さはまさに戦略ファーム品質で感動を覚えるほどでした。

林:そう言っていただけるのは嬉しいですね。八尾や三好も喜ぶと思います。

宮谷:こうした業務に直結したご支援に加え、Angel Bridgeさんは定期的に投資先企業の経営者が集う会を主催してくださるのですが、それが個人的にはとてもありがたいなと思っているんです。皆でバーベキューやフットサルに興じた後や「クロスラーニングの会」と呼ばれる勉強会で、経営や組織、プロダクトにまつわる悩みについて語り合うのが楽しく、貴重な学びの機会にもなっているからです。経営者は孤独な存在です。古くからの友人を除けば、本音で話せる仲間は多くありません。毎回参加者は20人くらいで、親しく語り合うにはちょうどいい規模感でもあり、実際、個人的な相談ができる経営者に何人も出会えました。

林:我々としてはご縁をいただいた起業家の皆さんはまさにファミリーだと思っています。でそう言っていただけてとても光栄です。

戦略ファーム品質の分析支援に感動

個人投資家や大手VCにはない魅力を育んでほしい

林さんの目に宮谷さんはどのような経営者に映っていますか?

林:輝かしいご経歴をお持ちなのはプロフィールを見れば一目瞭然ですが、それに胡座をかくことなく顧客やビジネスと真摯に向き合っていらっしゃる点が素晴らしいと思っています。創業当初から地方のお客様のもとにも足繁く通っていらっしゃいましたよね。

宮谷:そうですね。当時は毎日100件もの営業電話を掛け、商談のチャンスがあれば日本全国どこにでも足を運んでいました。エンジニア時代に培った技術力だけでは不十分なのはわかっていましたし、部外者である自分が業界のプロに認めてもらおうと思ったら、相手の懐に飛び込みコミュニケーションを取るしかありません。フランスやアメリカ、イスラエルにいたころから、そうやって人の輪をつなげ、仕事をしてきたので泥臭い営業も苦になりませんでした。

林:技術力の高さとフットワークの軽さ、そしてビジネスに対する情熱、そして明るく親しみやすいお人柄も含め、投資家の目から見て経営者としてのバランスが絶妙だと思います。

宮谷:ありがとうございます。

これから、Angel Bridgeにはどんな支援を期待しますか?

宮谷:ビジネスが大きくなるにつれて戦略や分析面でお力添えをいただく機会は今後増えると思いますが、個人的にはAngel Bridgeさんが持つファミリー感が大好きなので、規模が大きくなってもこの雰囲気を保っていただきたいですね。これは個人投資家や既存の大手VCの皆さんには出せないAngel Bridgeさんならではの価値。これからも経営者同士が密な人間関係を育めるような場作りを大切にしていただけたらとても嬉しく思います。

林:そうですね。宮谷さんが持つプロダクト作りのノウハウや事業の海外展開、グローバル人材の採用に関する知見を必要とする投資先は少なくありません。後輩起業家の良き兄貴分として相談にのってあげていただけたら私どもとしても本望です。

宮谷:もちろんです。お役に立つなら喜んでやらせていただきます。

今後の目標を聞かせてください。

宮谷:建設業界は全国に約40万社あり、私たちのサービスを活用していただけそうな企業はおよそ8万社あります。まずはその市場を確実に獲っていくのが当面の目標です。その次の目標としてはやはり海外展開になるでしょうね。まずは巨大な建設市場があるアジアパシフィック地域を手はじめに、ScanXの拡販に努めていきたいと思っています。今後はテラバイト級のデータを一括処理できる新プロダクト「Deep3」にも力を入れていくので、次回シリーズAラウンドでの資金調達が大きな節目になるでしょう。Angel Bridgeさんからのご支援にも期待しています。

林:もちろんです。引き続き資金面からのご支援もさることながら、営業組織の強化や営業先のご紹介など、できることはまだまだたくさんあると思っています。Angel Bridgeとしても、宮谷さんが適切なタイミングで適切なチャレンジができるよう、息の長いご支援をするつもりです。ぜひ日本発のメガベンチャーになってください。

宮谷:がんばります!

読者の皆さんにメッセージをお願いします。

宮谷:スタートアップで過ごす時間は濃密で、1年もあればどんなことでも起こり得ます。良いことや悪いことが入れ替わり訪れる環境にあっても、情熱を失わず前に進み続けるには、好きだと思えるビジネスに取り組むのが一番です。私はお客様のペインをテクノロジーの力で解決するのが何よりも好きですし、その思いを支えてくださるAngel Bridgeさんのような力強い伴走者もいます。熱意ある者の周囲にはおのずと人が集まり、機会が育まれていくもの。ぜひ一緒にスタートアップ界隈を盛り上げていきましょう!

2023.02.22 INVESTMENT

2022年12月21日、Angel Bridgeの投資先であるローカスブルー株式会社(以下ローカスブルー)がプレシリーズAラウンドにて約4億円の資金調達を発表しました。
https://locusblue.com/information/452/

ローカスブルーは、建設業向けの測量などで用いる3次元データを解析するソフトウェア「ScanX」をSaaSで提供しています。従来は非常に高額なソフトウェアとそれを動かすためのハイスペックPCが必要でしたが、クラウド上で利用できるScanXは、インターネットに接続したPCがあれば低価格で利用ができます。

建設業界で進められている3Dデータの導入

今回は、建設業向け3次元点群データ処理SaaSを提供するローカスブルーへAngel Bridgeが投資した理由を解説します。

建設業界におけるニーズと市場の成長

近年、建設業界において高齢化に伴う人材不足が課題となっており、省人化に向けた動きが活発化してきています。

i-Constructionについて
建設業界におけるニーズと市場の成長
(出典:国土交通省資料)

2016年には国土交通省が建設業のICT化を目指す「i-Construction」という取り組みを打ち出し、建設プロセス全体において3Dデータを活用する動きが加速しています。

2D図面では人間が頭の中で立体形状を想像しなければならないのに対し、3Dモデルは立体を可視化しています。コンピューター上でさまざまな角度から建設段階の構造物の状態を確認することができ、2Dの図面では確認が難しかった問題を発見することが可能です。確認や修正の時間が削減され、工事期間の短縮につながります。

人材不足という深刻なペインの存在、さらに政府による力強い後押によって、3Dデータ市場は大きく成長すると我々は考えています。

3D市場の課題

従来の3Dデータ処理の課題とローカスブルーによる解決

3D市場の課題

従来の3Dデータ処理ソフトウェアは、ライセンス料が非常に高額で、データ容量が重く取り扱いにくいという課題がありました。

ローカスブルーは以下のように顧客の課題を解決しています。
まず、高額なライセンス料の解決です。初期コスト無料、月額3万円から導入可能なSaaSとしての販売を行っており、数百万円ほどする買い切りソフトウェアよりはるかに価格が抑えられます。
次に、幅広い動作環境で使えるようにしました。従来は大規模なデータを処理するためには高性能PCが必要でした。一方、ScanXはユーザーの端末ではなくクラウドを介してデータ処理を行うため、通常のノートPCで動作可能です。
最後にデータの取り扱いのしやすさです。3Dデータは非常に容量が大きく共有困難なためCDやHDDで納品されていました。また施工現場で使用する通常のPCでは開けないことが多くとても不便なものでした。ScanXではデータ容量を軽くすることで、インターネットを介して共有することが可能であり、施工現場へも即座に共有し閲覧することを可能にしました。

このように価格・動作環境・データ共有のしやすさという点で、SaaSならではの強みを活かせているため競合優位性があると考えています。

ローカスブルー事業概要

ローカスブルーは2020年9月にリリースした「ScanX」というソフトウェアをSaaSで提供しています。これは、建設、土木、測量業界をはじめとする企業に3Dデータを解析するものです。

ScanXを活用した3Dデータの流れ

ローカスブルー事業概要
  • ドローンやレーザースキャナーで建設現場の3Dデータ(点群データ)を取得します。
  • 1で得たデータをScanXに取り込むと、3次元モデルが生成されます。
  • 点群をAIで処理することで、地面・樹木・家に自動的に分類され自動的にフィルタリングされます。この精度が非常に高く、ローカスブルーの強みの一つとなっています。
  • データ活用として、樹木抽出、土量計算などができます。
  • 4までに得たデータをもとに、設計・施工をおこなっていきます。

3Dデータでできること

3Dならではの機能としては、地面・樹木・家・車・電線等が自動的に分類されるため、用途によってフィルタリングが可能になります。以下のように樹木を伐採した場合のシミュレーションができます。

ローカスブルー事業概要

林業向けの樹木抽出機能もあります。一本一本の木をフィルタリングできるので、森林管理にとても役立ちます。

ローカスブルー事業概要

経営陣

投資を検討するにあたって、経営陣への理解も深めました。

経営陣

CEOの宮谷氏は、東京大学航空宇宙工学科で東京大学総長賞を受賞。フランスのAirbus社にて勤務後、シリコンバレー、イスラエルのドローンベンチャーで働いていた経験豊富な経営者です。さらに、彼を中心にグローバルなエンジニアチームが集結しています。

優秀かつグローバルな経験が豊富なうえに、リーダーシップをしっかり発揮する面もあり、粘り強く大きな事業をやり切れる人物だと考えました。

このように、①顕在化しているニーズ、②SaaS化の強み、③優秀な経営陣の3点から、Angel Bridgeはローカスブルーに投資することに決めました。

受賞歴と新サービス

Angel Bridgeが投資してから1年半が経ちましたがこの間にローカスブルーで起きたことについて説明します。

まずローカスブルーはいくつかの賞を受賞してきました。そのうちの1つが、令和3年度i-Construction大賞において最優秀賞である「国土交通大臣賞」の受賞です。i-Construction大賞とは、現場の生産性向上を図る「i-Construction」に係る優れた取組を表彰し、ベストプラクティスとして広く紹介し、横展開することにより、i-Construction に係る取組を推進することを目的としたものです。ローカスブルーは大林組、アンドパットと並び、最優秀賞を獲得しました。

受賞歴と新サービス

さらに2022年6月に新バージョン「ScanX Ver.2.0」をリリースしました。
新しく追加された機能の一部を紹介します。

出来形帳票生成機能

設計データと点群データをScanXにアップロードするだけで、国土交通省の土木工事施行管理基準および規格値に準拠した帳票出来形合否判定表を生成できます。

他にもユーザーニーズに合わせて各種機能を順次追加しています。

おわりに

ここまでローカスブルーへの投資理由について解説しました。3Dデータ活用は建設業という巨大産業全体の効率化のカギです。そのコア技術である3次元点群データ処理技術を保有するローカスブルーに投資し、成長をご支援することが社会全体にとても大きなインパクトをもたらすと考えています。

事業を推進する仲間も募集しているのでご関心ある方はぜひチェックしてみてください!
https://locusblue.com/career/

Angel Bridgeは社会に大きなインパクトをもたらすために、難しいことに果敢に取り組むベンチャーを応援していきたいと考えています!事業の壁打ちや資金調達のご相談など事業の壁打ちや資金調達のご相談など、お気軽にご連絡ください!

2023.02.08 INTERVIEW

革新的ゲノム編集技術「UKiS」

Logomixの事業内容を教えてください。

石倉:Logomixは2019年に設立された東京工業大学発バイオベンチャーです。弊社独自の研究開発プラットフォームGeno-Writing™ Platformを提供し、パートナー企業の課題解決につながる高機能細胞を開発するゲノムエンジニアリングカンパニーです。

御社の競争優位性はどこにあるのでしょうか?

石倉:私たちの強みのなかでもっともインパクトがあるコアテクノロジーは、大規模ゲノム改変技術「UKiS(Universal Knock-in System)」です。UKiSは、東京工業大学の相澤康則准教授が確立したゲノム改変技術で、ノーベル賞を受賞したことでも名高い「CRISPR/Cas9」の編集領域が約20塩基なのに対し、UKiSは大規模かつ自由自在にゲノム改変を可能とし(現時点において世界で最も大規模のゲノム配列(100万塩基対))、構造が複雑なゲノムを効率よく設計改変が可能です。これまでのゲノム編集技術を「建物のリフォーム」にたとえるなら、Geno-Writing™ Platformが実現するのは「街ごと作り変える」のようなレベルです。これほど大規模かつ正確なゲノム編集技術は世界を見渡してもほかにありません。

顧客の顔ぶれは?

石倉:現在は主に「医療・ヘルスケア」「バイオマテリアル・化学・エネルギー」「農業・養殖・環境」を対象に事業を展開しています。UKiSはこれまでの常識を超える先端的な技術です。それだけに、当初はこの技術を必要とするビジネスドメインを探すのにとても苦労しました。創業から1年ほどは、医薬、化学メーカーなど日米150社に足を運びヒアリングを重ね、ようやく現行のプロジェクトに絞り込んだ経緯があります。

そもそもなぜバイオベンチャーの立ち上げに関わるようになったのですか?

石倉:もともとは医師になるか、医学研究の道に進もうと考えていたのですが、2000年6月を境に考えが変わりました。当時のクリントン米大統領がホワイトハウスでヒトゲノムの解読作業をほぼ終えたという記者会見を見て「これだ」と思ったからです。その後、GenentechAmgenなど、当時創業30年にも満たなかったバイオベンチャーの時価総額が、名だたる製薬会社より大きいことを知り、すっかりそのダイナミックさに魅了されてしまいました。学部生の途中からは、研究ではなく事業を通して社会実装に直結する仕事をしようと心に決め、以来バイオ、ゲノムの世界を歩み続けています。

共同創業者であり、Geno-Writing™ Platformの生みの親である相澤准教授との出会いについて教えてください。

石倉:2010年以降、長年バイオ領域の成長を支えてきた投資家に加え、ITビジネスで成功した人たちがどんどん投資サイドに入ってきたこともあって、合成生物領域に注目が集まっていました。2017年になると、史上初めて真核生物のゲノムを1から設計し、合成に成功したというニュースを知り「これはスゴいことになるぞ」と。それで、合成生物学の領域で起業するチャンスを模索するようになり、何人もの先端的なゲノム技術を持つアカデミアの方々とお話しするなかで出会ったのが相澤先生です。相澤先生は専門の合成生物学だけでなく、バイオ、化学、医薬などにも詳しく、ご自分の人生を社会課題の解決に費やしたいと信念をお持ちの方。知的好奇心旺盛で気さくで、経営感覚にも長けておられます。ご一緒しませんかと申し出ました。

革新的ゲノム編集技術「UKiS」

Angel Bridgeを選んだ3つの理由

Angel Bridgeとの出会いについて教えてください。

石倉:創業前に在籍していた日本医療機器開発機構時代に一度お会いしたことがあります。確か2018年でしたね。

河西:そうでした。あるとき合成生物学に興味を持ってネットで情報を集めていたとき、たまたま見つけたプレスリリースにLogomixと石倉さんのお名前がありました。ただその時点では確信が持てず、相澤先生にアポイントをいただいてようやく「あのときお会いした石倉さんだったと」(笑)。2021年の夏に再会して、そこから本格的なお付き合いが始まりました。

河西さんから見て石倉さんはどんな起業家だと思いますか?

河西:石倉さんは、バイオ、ゲノム領域におけるシリアルアントレプレナーです。大学発ベンチャーに付き物の大学や研究者との関係構築の難しさをよくご存じで、それを踏まえてビジネスを構築できる希有な方です。その上、相澤先生が確立した技術をどう活かせば、社会的インパクトを残せるかよくわかっていらっしゃる。とても信頼を置ける経営者だと考えています。

石倉:ありがとうございます。相澤先生を含め私たちに共通しているのは、仮説検証プロセスに欠かせない事実に基づいた議論を好むことかも知れません。それだけに意思疎通に齟齬がなく専門的なテーマでも議論が深まりやすく、有意義な時間を共有できる。私たちにとっても、河西さんはビジネスを進める上で欠かせない存在です。

河西:相澤先生もそうなのですが、おふたりともいつお会いしても目がキラキラ輝いているのが印象的だなと思っているんです。それにおふたりとも非常に真面目。以前ご一緒した会食の際「資金調達が完了するまで、飲みません。禁酒中なんです」とおっしゃっていましたよね。それで改めて、真摯な経営者なんだと思いました。小さなエピソードですが、それだけでも信頼に足る方だと感じました。業界の成長性、技術の優位性、ビジネスの将来性もさることながら、私はLogomixを率いるおふたりの輝く目を見て投資を決めたんです。

実際にAngel Bridgeから投資を受けたのはいつですか?

石倉:2022年の1月です。Angel Bridgeさんにリードインベスターになっていただき、ジャフコさんや東大IPCさんほか日米のエンジェル投資家の皆さんから総額5億円調達しました。

なぜAngel Bridgeから投資を受けようと思ったのですか?

石倉:チームとしてのAngel Bridgeの優秀さもありますが、決め手はやはり河西さんの存在です。創業社長として投資先の1社であるHeartseed(ハートシード)の創業期を支えたことからもわかるように、大学発ベンチャーをよく知る事業家であり、医療やバイオ、ゲノムなどディープテックに強い投資家としての実績を考えると、ほかに選択肢はなかったように思います。大きなビジョンに寄り添うだけでなく、現実を踏まえた落とし所を見極めた上で助言してくださるのもありがたく思います。

河西:そう言っていただいて光栄です。いまおっしゃっていただいたように、私はHeartseedの社長を3年務めた経験があるので、研究と事業を両立する難しさや大学との特許契約にまつわる交渉の大変さは身をもって知っています。こうした形で自分の経験を共有できることは、私自身にとっても大きな喜びです。

事業規模10兆円を目指す

出会いから今日まで、Angel Bridgeからどのような支援を受けましたか?

石倉:たとえば、いま事業開発を担ってもらっているメンバーや共同研究先の紹介に始まり、Angel Bridgeさんの投資先を集めた「クロスラーニングの会」で、先輩経営者を紹介してくださるなど、資金のみならず、経営のあり方や組織、制度づくりの要諦など、物心両面で地に足のついたご支援いただいています。いま話に出た特許契約の実務のほか、資本施策についても事業家としてのご自身の経験を踏まえ、中立的立場から助言していただける非常にありがたい存在です。

河西:実はLogomixさんの月次の定例会に出席するのが楽しくて仕方ないんです。理由は、出るたびに事業上の重要事項が大きく前に進んでいるからです。そういう意味でも助言や紹介のしがいがありますし、そもそもディスカッション自体がとても楽しい。石倉さんの視野の広さや経営手腕、相澤先生の専門性とオープンマインドな性格がそう感じさせてくれているのだなとつくづく感じます。

石倉:相澤先生もよく「楽しい」とおっしゃってますよ(笑)。私自身、進捗をちゃんとお伝えしなければと身が引き締まる思いがありつつも、河西さんとの議論を楽しんでいます。

今後の展開を教えてください。

石倉:たとえば冒頭に名前を挙げたGenentechやAmgen、illuminaのような各分野のリーディングカンパニーのような、バイオやゲノムの世界で一目置かれる企業の多くは、総じて単一プロダクトで勝負するというより、多様な課題解決に使えるプラットフォームを打ち出すことで大きな飛躍を遂げています。つまりLogomixがゲノムエンジニアリングでトップを獲ることができれば、彼らと並ぶ事業規模、具体的には時価総額10兆円を目指すことも決して夢ではないということ。まだまだ先は長いですが、少なくともこの世界にはそれだけの可能性があり、私はLogomixにはそれに応えるだけのポテンシャルがあると確信しています。Logomixを世界中の研究者がこぞって訪れてくれるような会社にするのが目標です。

事業規模10兆円を目指す

改めて、Logomixの投資先としての魅力は?

河西:Logomixは数ある大学発ベンチャーのなかでも際立った存在であり、革新的でイノベーティブなゲノム編集技術に加え、研究熱心で技術の社会実装に強い関心を持つ相澤先生とバイオ、ゲノム事業で豊富な経験を持つ石倉さんの強力なタッグも非常に魅力的です。私もLogomixには10兆円規模のビジネスを展開できるポテンシャルがあると確信しているので、これからもその実現に向けて全面的にサポートしていくつもりです。

最後に次代を担う若手起業家にメッセージをお願いします。

石倉:近年、衰退が指摘される日本にも世界で勝てる技術は少なくありません。私が最初に起業した2000年代初頭とは比べものにならないくらいスタートアップコミュニティは成熟していますし、投資サイドにも小さな失敗を経験として評価する機運が高まっているのを感じます。投資市場の停滞が指摘される経済環境ではありますが、もしビジネスで社会課題の解決を志すのであれば、縮こまっている場合ではありません。積極的にチャレンジすべきだと思います。

河西:今後も引き続き、投資先企業と二人三脚でビジネスを育てていくつもりです。とりわけバイオ、ゲノム領域は向こう数年で、5倍、10倍の成長が期待できる数少ない分野。そのなかでもLogomixは世界で勝負できる数少ない日本のバイオベンチャーの1社なのは間違いありません。これからも一緒に知恵を絞って、Logomixの成長を全力で後押ししていきます。

聞き手・構成/武田敏則(グレタケ)

2023.02.08 INVESTMENT

今回は、細胞ゲノムの高機能化技術を提供する東工大発の合成生物学ベンチャーである株式会社Logomixへの投資に至った背景について解説します。

合成生物学とは、組織・細胞・遺伝子といった生物の構成要素を組み合わせて代謝経路や遺伝子配列などを再設計し、新しい生物システムを人工的に構築したりする学問分野です。機能性物質の生産などへの応用があらゆる分野で期待されており、医薬品・燃料・プラスチック・食品添加剤・化粧品原料等の様々なモノを効率的に生産することが可能です。従来は捨てるはずだったものを原料にできたり、存在しなかった物質を優秀な遺伝子から作れたり、ヒト細胞の開発によって新しい創薬アプローチが実現できたり等、既存の生産手法で作っていたものやより優れたものが、合成生物学の技術を用いることで非常に安く効率的に作ることが出来る、大変可能性のある技術です。

それでは今回はAngel BridgeがLogomixに投資する際にどのような点を検討したかについて、ご紹介します。

合成生物学概要

それではまず既存の生産方法と合成生物学を用いた生産方法の比較です。合成生物学を用いた生産方法では、既存の生産プロセスが抱える各種課題の解決に寄与しています。例えばプラスチックを作る際に、従来は化石原料等を用いた化学合成技術を経て生産していましたが、合成生物学の技術を用いることで、サトウキビやトウモロコシなどを食べる優れた細胞を用い、目的生産物をより効率的に環境負荷の少ない形で作ることが出来ます。

合成生物学概要
合成生物学概要

近年の合成生物学の急速な発展の背景にはいくつかのファクターがあります。1つ目は次世代シークエンサー(遺伝子の塩基配列を高速に読み出せる装置)の開発です。次世代シークエンサーが開発されたことで、ゲノム解析の高速化・低コスト化が急速に進展し、解析コストは2000年の10万分の1に低下しました。2つ目はCRISPR-Cas9の開発です。これによりゲノムが自由に書き換えられるようになり低コスト化も進展しました。この技術は2020年にノーベル化学賞を受賞しています。またIT/AI技術の発展によって、ゲノム配列と生物機能の関係の解明も急速に進展しました。

市場

実際に合成生物学市場は急速に発展しており、市場に新たな機会を生み出すことが期待されています。世界の合成生物学市場は2020年時点で約70億ドルであり、2027年には約300億ドルに達すると予想されています。(出所:data bridge market research market analysis study 2020)

海外では世界市場を舞台にしたメガベンチャーが多数出てきており、GinkgoAmyrisといった企業が上場しています。株主としてはKleiner PerkinsKhosla VenturesSoftbankといった大型投資家等も投資をしており、大きな資金が集まる環境となっています。

市場

日本においても、2023年1月に米製薬大手のModernaが日本のバイオスタートアップであるオリシロジェノミクスを8,500万ドルで買収したことが発表しており、注目が集まる領域となっています。

色々なメガベンチャーが出てきていますが、それぞれのベンチャーで特色があります。そもそものDNAを作るようなプレイヤーもいれば、今回のLogomixのような優れた細胞株を作るゲノム編集技術が得意なプレイヤーもいますし、実際にそれらを使って工業的に製品を作るような下流側のプレイヤーもいます。このように米国を中心に多数の合成生物学ベンチャーが勃興し、各ベンチャーの持つ技術を組み合わせたビジネス体系を形成していることが分かります。

市場

サービス概要

Logomixの技術は以下のような4つの技術から構成されています。データベースを活用する中で、どの遺伝子が有用であるかやどの部分が不要であるか等を、Logomixのノウハウやシステムを使うことで効率よく検知し、大規模にゲノムを改変することができる技術となっています。

サービス概要 サービス概要

この中でも特にUKiSという技術がLogomixのコア技術となっています。

今までのゲノム改変技術は、CRISPR-Cas9に代表されるように1箇所だけを好きな塩基に変えることができるという技術でしたが、UKiSは染色体上の大きな領域を好きな塩基配列に変えることができます。一箇所の塩基をピンポイントで変えることができるというのも素晴らしい技術ですが、全体のゲノムを入れ替える中で長い領域を変えられるというのは非常に革新的であり、様々な領域に応用できる可能性を秘めています。

サービス概要

応用例

それではLogomixの技術の応用例についていくつかご紹介させていただきます。

①CO2固定化微生物の開発
従来は水素酸化細菌にパーム油を加えることでプラスチックの工業生産を行っておりますが、Logomixが開発した優秀な人工水素細菌を用いると、CO2と組み合わせることで高機能性バイオ素材等を作ることができます。この技術ではCO2を固定し酸素を出すため、植物のように現在のCO2関連の問題に対しアプローチできるというメリットもあります。
CO2固定化微生物の開発
②独自疾患モデル細胞や治療用細胞開発を用いた創薬支援
神経系は遺伝子の異常によって引き起こされる疾患が非常に多いため、病気の患者と健常者の細胞を比較することで、どの遺伝子が原因かを1つ1つ調べるといったプロセスをせざるを得ないのが従来のやり方です。本来は遺伝子以外も人によって違うためそのノイズを合わせる必要がありますが、従来は一塩基しか変えることが出来ないため、この問題にアプローチできていませんでした。
しかしUKiSの技術では、CRISPR-Cas9単独使用によるゲノム編集よりもより広範囲のゲノム改変が可能であるため、広いゲノム領域での変異や、離れた複数ゲノム部位での変異による疾患のモデル細胞も創出可能です。
また、UKiSの技術を用いることで、誰にでも移植できる細胞であるユニバーサルドナー細胞(UDC)の研究開発を進めています。白血球型抗原(HLA)が不一致であったりHLA遺伝子が欠損していたりする他人の細胞・臓器などを移植した場合、免疫細胞に攻撃・排除される、いわゆる拒絶反応を起こしてしまう事がありますが、UDCはこの免疫拒絶反応が抑えられている細胞で、移植される患者のHLA型に適合させる必要なく移植が可能ですLogomixは免疫拒絶に関係する多くのHLA遺伝子を同時に欠損させることが出来ますが、これは大規模ヒトゲノム改変技術を世界に先駆けて開発したからこそ実現できる手法であり、世界でも前例がないものです。
独自疾患モデル細胞や治療用細胞開発を用いた創薬支援
独自疾患モデル細胞や治療用細胞開発を用いた創薬支援

経営陣

Angel BridgeがLogomixに投資するにあたり、経営チームへの理解を深めました。

まず代表の石倉CEOはバイオ・医療分野でベンチャー3社の創業経験があり、バイオベンチャーの運営やグロースのために必要なスキルセットを持ち合わせています。また相澤CSOは東京工業大学の准教授であり、合成生物学領域において非常に有能な研究者として著名な人物です。

経営陣

このように業界に対する知見/合成生物学分野における高い技術力を持ち合わせており、バイオベンチャーとしては高いバランス感覚のある稀有なチームであると考えました。

おわりに

合成生物学はグローバルで注目度が高く、メガベンチャーが多数生まれている領域です。Logomixのコア技術であるUKiSは、広範囲にわたるゲノム領域を一気に改変することができることから、従来型の一塩基を改変するゲノム編集ではカバーできない領域に応用できる可能性があります。また、バイオベンチャー3社の創業経験がある石倉CEO/合成生物学領域において非常に著名な研究者である相澤CSOは非常にバランスの取れた経営陣であり、この難易度の高い領域で戦っていけると信じています。

繰り返しになりますが、Angel Bridgeは社会に大きなインパクトをもたらすために、あえて難しいことに挑戦していくベンチャーこそ応援しがいがあると考えており、こういった領域に果敢に取り組むベンチャーを応援したいと考えています。事業の壁打ちや資金調達のご相談など、お気軽にご連絡ください!

2023.02.01 INVESTMENT

2023年1月6日、Angel Bridgeの投資先である日本ハイドロパウテック株式会社(以下NHP)ロッテとの資本業務提携を締結したというプレスリリースが発表されました。

今回は、Angel Bridgeが合成樹脂押出技術を食品加工に応用したフードテック企業であるNHPへ投資した理由を解説します。

盛り上がるフードテック市場

盛り上がるフードテック市場

(出典:経済産業省「フードテック振興のアイデア」)

現在、フードテック市場は成長し続けています。経産省によると世界のフードテック市場規模は、24兆円(2020年)から279兆円(2050年)と30年間で10倍以上に急拡大する見込みです。領域も代替肉や昆虫食、陸上養殖、植物工場など多岐にわたります。

この市場急成長の背景としては、食料不足や健康・栄養問題、食料生産による環境問題などのグローバルな社会課題の顕在化があります。これらの課題を解決できる産業としてフードテックが期待されています。

盛り上がるフードテック市場 (出典:2022 AgFunder AgriFoodTech Investment Report)
盛り上がるフードテック市場
盛り上がるフードテック市場

例えば海外では代替肉を開発するBEYOND MEATが評価額$1.4B、代替乳製品を開発するOatlyが評価額$10BでIPOしました。日本国内においても近年はIPOはないものの資金調達は活発化しています。

NHPが事業展開するフードテック市場が巨大かつ今後も成長し続ける可能性が高いという点は彼らに投資を決めた背景の1つです。

NHP事業概要

NHPはCEOである熊澤氏がダイセル化学工業(現(株)ダイセル)で習得した合樹押出技術を食品加工に応用した加水分解技術をもとに事業化した会社です。当初は米を原料とした加水分解物の製造受託を中心に取り組んでいましたが、更なる高付加価値化を目指し、高単価なチョコレートや昆虫食、バイオエタノール等を新たな事業の柱と位置づけてフードテック領域に本格参入しました。

NHP事業概要

合樹押出技術はプラスチックなどの着色、コンパウンドを製造する際に使用される技術であり、食品業界ではスナックの製造に使用されています。押出機内で加水分解を安定的に起こすためには材料に応じてスクリュー形状の変更や温度調整などを行う必要があるため、高いレベルでの知識・ノウハウが要求されます。NHPではCEO熊澤氏とCTO中林氏の高い技術力により、合樹押出技術の食品業界への応用を実現しました。

NHP事業概要

NHPの製法は従来の加水分解製法と違い、高粘度の原料を低い酸素濃度、高温、高圧で剪断加工を行うので、原材料が分子レベルで分解し、炭化もしません。これによって従来よりも効率的に、また高品質な食品を製造することができます。さらに製造の際の環境への負荷も少なくなっています。特に、高品質なチョコレートや昆虫食を作るための技術(無菌化・微細化)が備わっている点は他社との明確な差別点となっています。

他企業との共同開発・業務提携

他企業との共同開発・業務提携

チョコレート・昆虫食・バイオエタノールを事業の柱にしていくにあたり、NHPは各領域でパートナリングを行い、共同研究開発や販路拡大を推進しています。

チョコレート領域ではロッテと資本業務提携契約を締結したことが発表されました。ロッテは現在、サスティナビリティに向けた取り組みに力を入れており、「DO Cacao chocolate」という新ブランドの立ち上げやチョコレート会社の買収など積極的に活動しています。NHPの加水分解技術とロッテの資本力・開発力が合わさることで、さらにチョコレート事業が加速していくことが予想されます。

他にも昆虫食領域では同じくフードテック企業であるエコロギー社との業務提携契約を締結して製造を受託していたり、バイオエタノール領域ではGreen Earth Institute社と業務提携を結び、成長が著しいSAF市場で国産SAFの商用化に向けた取り組みに貢献していたりします。

このように様々な領域でリーディングカンパニーと提携できていることが、NHPの技術力の高さや業界内での評価の高さを表しています。

経営陣

投資を検討するにあたって、経営陣への理解も深めました。

経営陣

CEOの熊澤氏は、ダイセル化学工業で10年以上合樹押出技術についての知識/ノウハウを蓄積し、さらにそれを食品加工に応用するという革新的なアイデアを持った優秀な経営者です。面談を重ねていく中でIPOへの強い思い、そして自身の技術への強い自負が感じられました。

CTOの中林氏も熊澤氏と同じくダイセル化学工業出身です。機械設備導入や工場のオペレーションの指揮を行っています。機械に関する高い知見と経験を持っており、製造のプロフェッショナルとしてNHPを支えています。

COOの杉村氏は証券会社・コンサルティング会社出身のビジネスマンです。ベンチャー企業や新規事業開発支援の経験が長く、事業開発のプロフェッショナルとしてNHPにコミットしています。

このように、革新的なアイデアを持つ熊澤CEOとそれを実現できる優秀でバランスのとれた経営陣で、事業を力強く推進できる点がNHPに投資する理由の1つとなりました。

おわりに

ここまでNHPへの投資理由について解説しました。まとめるとNHPの魅力的な点としては(成長する巨大市場)×(革新的な技術)×(優秀な経営陣)の3点が挙げられ、メガベンチャーになる要素が詰まっていると考えています。今後は海外市場への参入や自社ブランド商品の開発などを目指しており、さらなる成長が期待できます。

Angel Bridgeは社会に大きなインパクトをもたらすために、難しいことに果敢に取り組むベンチャーを応援していきたいと考えています!事業の壁打ちや資金調達のご相談など、お気軽にご連絡ください!

2022.12.22 COLUMN

Angel Bridgeでインターンとして勤務している黒田です。現在京都大学医学部医学科5年生に在籍していますが、2022年1月から1年間休学し、週5日間フルタイムで働いてきました。インターンを卒業するこのタイミングで振り返りも兼ねて、記事を書くことにしました。Angel Bridgeのインターンではどのような業務をするのか、どのようなことを学べるのかについて書いていきたいと思います。VCインターンに興味がある学生の方々の参考になれば幸いです。前任の河野もインターン業務紹介記事を書いているのでそちらも併せてお読みください。Angel Bridgeジュニアアソシエイトの業務紹介|インターンの立場から学べること


Angel Bridgeインターンに応募した経緯

もともと私はスタートアップや起業、VCについて特に関心をもっていたわけではありません。しかし、2021年9月にPayPalがPaidyを3,000億円で買収したというニュースを目にして「0からこんなに価値あるものを作ることができるんだ!」と、驚きました。そして、よくよく調べていくと、スタートアップを興す起業家が社会に大きな価値をもたらしていること、そして彼らを支える投資家が存在することを知りました(もちろん成功した暁には彼らが莫大な利益を得ていることも)。

そして、自分も起業したいと思ったと同時に、将来的な資金調達も見据えた時に投資家の観点でのスタートアップの評価方法も知りたいという気持ちが芽生えました。そこでインターン募集をかけているVCを探したところ、Angel Bridgeを見つけました。Angel Bridgeは少人数組織で密なコミュニケーションが期待でき、またバイオベンチャーに投資している点も医学部生の自分には魅力的でした。早速Twitterで応募したところ、インターンとして働くことが決まりました。

医学部は閉鎖的な世界になりがちで、自ら飛び込まない限り、なかなか外の世界を知ることができません。一方で、思い切って知らない世界に飛び込んでみると思ったより面白い経験ができるもので、興味を持ったことについては深く調べてやってみようと挑戦する姿勢が大切だと思います。

Angel Bridgeでの業務内容

Angel Bridgeで1年間行ってきた業務とそこから学べたことについてソーシング、投資検討、ハンズオン支援、イベント参加の4つに分けてご紹介します。

①ソーシング
ソーシングとは投資案件を発掘する業務です。インターン生はスタートアップのデータベースを用いてリストを作成し、そこから気になった企業と面談のアポを取ります。また、海外で成長しているスタートアップを調査し、それに類似した国内スタートアップを探してみたりもしていました。
ソーシング (実際に使用したデータベースINITIAL: https://initial.inc/
膨大な数の会社を見ることができるので、世の中に存在する様々な市場や事業モデル、最先端の技術を知ることができたり、成功している会社にはどのような共通点があるのかを考察したりと、学べることはたくさんありました。
ソーシングはインターン生でもバリューを発揮しやすい領域だと思います。私は医学部生としてヘルスケア領域のスタートアップに関しては意識的に自分の意見を出すようにし、面談の際はできるだけ的を射た質問をしようと心がけていました。まずは自分の好きな領域、得意な領域からバリューを出そうとする姿勢が大切だと思います。
②投資検討
投資検討に入ると様々な項目について検証を進めます。ビジネスモデル・プロダクトの質・市場環境や経営者の実績・人柄が挙げられます。
こちらの記事で詳しく解説しています)
スタートアップアカデミー#3|VCが投資検討する際に重要視するベンチャー企業のポイントとは?
ここでもインターン生が担当できる業務があります。
具体的には、いただいた経営データの分析や市場/競合調査などを行います。また、顧客インタビューや専門家インタビューにも出席させてもらい議事録を取ったりもしました。
投資検討の過程でどのような項目を検証すべきか、そしてそれらの項目をどのように検証するかを学ぶことができました。これは将来自分が起業する際にも、市場分析や投資家への事業説明など様々なタイミングで必ず活きてくるだろうと考えています。
③ハンズオン支援
Angel Bridgeは投資したスタートアップをハンズオン支援することが特徴のVCです。ヒト・モノ・カネ・経営のPDCAサイクルという4つのカテゴリでハンズオン支援を行っているのですが、私は特にモノ(事業)のところで投資先の企業の意思決定をお手伝いさせていただきました。具体的には、投資先のSaaS企業の経営データの整理・分析や、バイオベンチャーの新規参入のための市場調査をコンサルのプロジェクトのような形で行いました。
ハンズオン支援
ここでは起業家や経営陣の方と一緒にプロジェクトを進めるという経験ができました。その中で、最終的なアウトプットをイメージし作り上げていくプロセスや、社外関係者とコミュニケーションをとる方法、タイムマネジメントなど非常に多くの学びがありました。
④イベント参加
Angel Bridgeでは、投資先の社長、経営陣の方々を交えたBBQやフットサルなどのイベントを開催しています。様々なバックグラウンドを持った社長さん方に直接お話を聞ける機会をいただけたのは、非常によい経験でした。起業しようと思ったきっかけや、会社経営において重要だと考えているポイント、大変だったエピソードなど興味深い話を沢山聞くことができました。
イベント参加 (投資先の社長、経営陣の方々を交えたBBQ)
また、スタートアップのピッチイベントにも参加しました。ここでは様々なスタートアップの話を聞いたり、インターンしている学生と繋がることができたりと、ソーシングとネットワーク構築という両面で役に立ちました。

このようにAngel Bridgeのインターンでは様々な業務を行ってきました。インターンだからとリサーチや資料作成に終始するのではなく、実際に投資検討の議論やハンズオンの現場に入らせてもらったことで、学生ではなかなかできない経験ができたと思います。

インターンでの学び

Angel Bridgeで学んだインターンとして働く上で意識すべき2つのことをご紹介します。どちらも完璧にこなすことは非常に困難で、私自身もっとこうすべきだったと反省する点が山ほどあります。これから社会に出て働く上で意識したいポイントでもあります。

①自分のアウトプットに責任を持ち、コンプリートワークを意識する
インターン生は基本的にキャピタリストから仕事を依頼され、アウトプットを出すことが仕事の中心となります。その際にミスをなくし100%の状態にしようという意識が大切です。もしミスがあるとなると、仕事の依頼者に確認の作業が発生し、全体のタイムマネジメント計画が崩れてしまいます。また、インターン生自身の作業時間も無駄になってしまいます。このようなことが起こらないようにコンプリートワークを意識して繰り返すことで、依頼者からの信頼が蓄積し、より難しく面白い仕事を依頼されるようになります。これがひいてはインターン生自身の成長にもつながります。
しかし、実際に実行するのは難しく、ふと気が抜けると確認を怠って中途半端なアウトプットを出してしまうことがありました。まだまだ無意識でできるレベルには程遠いですが、この意識を持つことが大切だと学べたことは非常に良い経験だったと思います。
②相手の求めていることを想像して、その期待を超えることを意識する
仕事を依頼された際には、依頼者の目的を推察し、それを達成しやすいように工夫してアウトプットを出す必要があります。ここで頭を使わずに指示されたことだけをやっているとただの作業屋になってしまいます。依頼者が細かく指示を出さなくてもよいように、想像力を働かせることで相手の求めていることに応える、もしくは期待を超えようとする意識が大切です。
これもなかなか実行が難しかったです。タスクがたまっていたり、少し工数のかかる依頼になったりするとクオリティが落ちてしまうことがよくありました。今後どのような仕事をするにしても、この意識を持っておきたいと考えています。

他にも仕事をする上で意識すべきことをプロフェッショナルファーム出身のキャピタリストの方々に教えてもらいました。Angel Bridgeメンバーは非常に面倒見がよく、オリエンテーションから仕事のフィードバック、キャリアの相談まで丁寧にコミュニケーションを取ってもらえてとても感謝しています。VCでインターンをしてみたいという学生にとっては最高の環境ではないでしょうか。

また、ここまで真面目な話をしてきましたが、Angel Bridgeでは合宿やゴルフ、飲み会やBBQなど仕事以外でも楽しいイベントがあります(笑)とても和気あいあいとした雰囲気でイベントが行われていることが少しでも伝わりますと幸いです。

インターンでの学び (合宿)
インターンでの学び (ゴルフ)
インターンでの学び (お寿司に連れて行ってもらいました笑)

最後に

この1年を振り返ると、Angel BridgeのVCインターンでは本当にいろいろな経験をさせてもらいました。このインターンで学んだことは今後のキャリアの中でも必ず役に立つだろうと確信しています。

最後に、この記事がVCでのインターンに挑戦しようという学生の後押しになれば非常に嬉しいです。

2022.11.24 TEAM

プロフェッショナルファーム経験をVCへ

プロフェッショナルファーム経験をVCへ
小林さんは毎日どのようなタイムスケジュールで過ごしているのですか?

新規案件の発掘と目利きに6~7割、既存の投資先へのご支援が1割、スポットで対応するファンド管理業務が1割ほどあって、残りの1~2割は社内のオペレーション改善などの業務を行っています。

Angel Bridge入社前はどのようなキャリアを歩んできたのでしょうか?

学生時代はロボットを使って人間の知覚を解明する研究に取り組み、卒業後はマッキンゼーに進みました。6年ほど全社事業戦略策定やオペレーション改善、M&Aを支援した後、VCのSTRIVEを経て、2022年10月からはAngel Bridgeで働いています。

なぜ新卒でマッキンゼーに入社しようと思ったのですか?

30年前と現在の世界の時価総額ランキングを見比べると、かつて日本の産業を支えていた日本企業がほとんど入っておらず、もどかしさを感じていました。優れた技術と優秀な人材を数多く抱えているにもかかわらず、そのポテンシャルをうまく活用できていない状況に危機感を覚え、大学院卒業後のキャリアとして戦略コンサルタントの道を選びました。もちろん、事業会社の中から組織やビジネスを変える道も考えましたが、実質的な権限を得るまでには長い時間が必要です。一方、戦略コンサルタントであればひとつの業種に絞ることなく、若いうちからあらゆる企業の変革に携われます。もともと好奇心が旺盛な性格でもありましたし、人一倍成長意欲も強かったので、マッキンゼーへの入社を決めました。

マッキンゼーではどんな仕事を?

主に製造業や消費財、物流業界のクライアントをメインにご支援していました。在任期間中は、全社戦略や新規事業戦略の策定、コスト削減や営業の効率化などのオペレーション改善、M&Aにあたって企業価値の評価やPMI(M&A後の統合支援)に携わることが多かったですね。

マッキンゼー出身の人はどういったセカンドキャリアを選ぶことが多いのでしょうか?

起業、スタートアップへの転職、PEファンドへの転職がメインでしたが、最近目立ってきているのが、私と同じようにVCを選ぶ方々です。経営やビジネス全般に関する知見に加え、分析力や課題解決力など、コンサルタントに求められる資質が生かせますし、投資の大型化や政府によるスタートアップ支援策の拡充などに伴って、スタートアップ業界全体への資金流入が増えている中、黒子的な存在でもあるVCにも注目が集まってきているのだと思います。

小林さんはなぜマッキンゼーからVCのSTRIVEに進んだのでしょうか?

マッキンゼーでは、マネジャーとしてチームを引っ張り、成果物に責任をもって完遂していく経験もできたので、次のステージに進もうと考えました。その中でもVCを選んだのは、スタートアップ業界から各産業を盛り上げたいという気持ちが強かったからです。学生時代に金融メディアを運営するスタートアップでインターンをしていた当時に感じた、改善のサイクルを回すことで成長が加速する、スピード感を味わいたいという思いもありました。もちろんスタートアップへの参画も検討しましたが、むしろこれまでの経験やスキルを生かすのであれば、VCのほうが適切だと判断し、ハンズオン支援が特徴であるVCのSTRIVEに入りました。

マッキンゼーとSTRIVEで得たものは何ですか?

マッキンゼーでは、コンサルティングスキルや業界知識に加え、ビジネスや社会に対する視座の高さや組織の動かし方、人心掌握のポイントを学びました。またSTRIVEでは、ベンチャーキャピタリストとしての考え方や投資に対する経験、そして起業家の皆さんとのつながりが得られました。いずれも私にとってかけがえのない財産です。両社で得たものは、すべて現在の業務にも生きています。

精鋭が集まる小さなチームで自分を試したかった

なぜ数あるVCの中からAngel Bridgeに決めたのですか?
精鋭が集まる小さなチームで自分を試したかった

STRIVEで会社の方針が変わり転職を検討しはじめたころのことです。マッキンゼー時代の後輩であり、いまはAngel Bridgeの八尾と話をする機会がありました。彼の口からAngel Bridgeは、代表パートナーの河西を筆頭にプロフェッショナルファーム出身者が多く働きやすい環境であること、また少数精鋭で個人の裁量も大きく、大学発ベンチャーやディープテックに強みを持つ、など特色ある投資を行っていることなどを聞き、魅力を感じました。Angel BridgeはSTRIVEよりも設立が遅く、規模も小さいのですが、前途有望なスタートアップへの支援に加え、自社の組織作りにも関与できるのはこのステージのVCでなければできないことで、成長の手応えをつかむには絶好の舞台だと思い、入社を決めました。

Angel Bridge入社後は具体的にどういった業務を担っていますか?

ほかのキャピタリスト同様、投資案件の発掘やハンズオン支援、ファンドの管理業務が中心ですが、まだ入社して間もないこともあって、自社のオペレーション改善にも時間を割いています。まだ設立から日が浅く、非効率な業務の見直しや書類の標準化、ITツールの導入などを通じて効率的な職場環境を整備するのは、投資先候補へのアプローチや既存の支援先に対するサービスの質に直結します。Angel BridgeがVCとしてさらに飛躍するための土台作りの一環として取り組んでいます。

Angel Bridgeのパートナー陣は小林さんにとってどのような存在ですか?

代表パートナーの河西にしても、パートナーの林にしてもVC業界の大先輩です。一方で、お二方とも非常にフランクでオープンな性格ということもあり、意思疎通も図りやすく仕事がしやすいですね。河西は投資の目利き力が高く、特にバイオ領域に強みがあります。一方の林は業界を問わない幅広い知見やとても広い人的ネットワークを備えています。こうした人たちのそばで働けるのは、Angel Bridgeに入って良かったことのひとつです。

ほかにAngel Bridgeに入社して良かったと思うことはありますか?

意志決定のスピードが速く、任せるべきことは任せていただけるので、上司の決裁を待つようなこともありません。また社員同士も仲が良く、投資先の皆さんを交えて一緒にフットサルやバーベキューに興じることもあるほど、アットホームな雰囲気も気に入っています。

今後どんな人と一緒に働いていきたいですか?

Angel Bridgeはメンバーを信じてチャレンジさせてくれる会社なので、自発的に動くことが好きな方には合う環境だと思います。既存のメンバーにはない経験やスキルをお持ちであれば、力を発揮できる領域はさらに広がると思います。Angel Bridgeは成長の真っ最中にあり、フロントに立つベンチャーキャピタリストだけでなく、人事や広報支援などミドルオフィス部門にもポジションがあります。多様性のある方々と一緒に働けたら嬉しいですね。現在スタートアップへの投資や支援を通じて、一緒に価値を創造していける仲間を募集中なので、同じような志を持った方にご応募頂ければと思っています。

覚悟を決めて選んだ道。それを正解にするのが信念

覚悟を決めて選んだ道。それを正解にするのが信念
今後Angel Bridgeで働きながらどんなことを叶えていきたいですか?

ソーシングから初回面談を経て投資が実行に至るまでの期間は順調にいっても1年程度はかかります。まずは自分で手掛けたと言いきれる投資案件を1日も早くまとめるのが当面の目標です。中長期的には、冒頭にも申し上げた通り、製造業などの再興に寄与したいという想いを変わらず持ち続けているので、ぜひAngel Bridgeで大企業に刺激を与えられるようなメガベンチャーの創出に寄与したいと思っています。

小林さんが大切にしている信念を教えてください。

不確実性が高く、変化が速い時代です。意志決定に必要な情報が十分に揃っていなくても、決断を強いられる場面は数多く存在します。一度腹を決めて選んだ道が正しかったと思えるよう、努力を惜しまない生き方をしたいですね。正解を選ぶのに汲々とするのではなく、大局を見据えて決断した選択を正解にしていく。多くの起業家が心に秘めているであろう、その覚悟に寄り添えるベンチャーキャピタリストになるのがこれからの目標です。


Angel Bridge キャピタリスト 募集中

現在Angel Bridgeでは、「起業家のサポーター」として、一緒に世界に誇れるメガベンチャーを生み出せる方を求めています。新しい技術や事業に興味があり、高くて熱い志を持った起業家の方々と伴走して、価値を作り出していきたい方は奮ってご応募下さい。

2022.10.26 INTERVIEW

7回のピボットを経て見つけたサービスの可能性

まずはプレカルの事業内容をご紹介いただけますか?

大須賀:端的に申し上げるとプレカルは薬局のDXを支援する企業です。専任の事務スタッフがいない薬局では、多くの場合、薬剤師自身が事務作業を担っています。プレカルが目指すのは、業務効率化を通じて薬剤師にしかできない、調剤業務や患者さんへの服薬指導に専念していただく環境を整えること。現在はその手始めとして、オンラインによる処方箋の入力代行サービス「precal(プレカル)」を提供しています。

7回のピボットを経て見つけたサービスの可能性

処方箋の入力代行とは、具体的にはどのようなサービスなのですか?

大須賀:受付時にスキャンした処方箋データを遠隔地にいるスタッフがオンラインで受け取り、40項目以上ある処方箋情報をわずか数分で入力。薬局のタブレットに送信するサービスです。健康保険組合などへの請求に必要なレセプトコンピュータへの入力、患者さんの薬歴管理、お薬と同時に患者さんにお渡しする書類の印刷まで、一通りの事務作業が自動化できるので、薬局業務の作業効率化にお役立ていただいています。

precalに類似するサービスはあるのでしょうか?

大須賀:OCRと呼ばれる光学式の自動文字認識技術を活用したサービスは複数ありますが、訓練された専任スタッフに比べると、どうしても認識精度が劣るのが現状です。むろんprecalもOCR技術を一部利用し、入力スピードの向上を図っていますが、最終的なチェックは人間の目を通して精度を担保しているため、入力精度とスピードの両立が可能となっています。

大須賀さんは薬剤師資格をお持ちで、薬局を経営されていたそうですね。なぜサービス開発を手掛けようと思われたのですか?

大須賀:もともとは自分たちで使うシステムを作るために、プログラミングを覚えWebシステムの内製化にチャレンジしたのがきっかけではあったのですが、時間が経つにつれ薬局業界を変えるサービスを提供したいという思いが強まり、薬局経営からサービス開発に鞍替えする決断をしました。

最初から処方箋の入力代行サービスの開発に取り組まれたのですか?

大須賀:サービスの方向性を何度も見直して、ようやく見つけたのが現在の処方箋の入力代行サービスです。サービス開発にあたっては、不足していたビジネス知識を補うため、スタートアップアクセラレーターのOpen Network Lab(以下オンラボ)のプログラムに参加したのですが、なかなか事業の方向を定められませんでした。実際、プログラムへの参加から2、3日後には最初のピボット(路線変更)に踏みきり、都合7回の見直しを経て、ようやくいまのサービスに辿り着きました。

最初はどのような事業を想定されていたのでしょう?

大須賀:プログラムに参加したタイミングでは、薬局の比較サービスを作ろうとしていました。同じ薬でも調剤薬局ごとに価格が違うという事実を逆手に取り、より安く薬を処方してくれる薬局の情報を世間に知らしめれば、多くの方に喜んでいただけるだろうと考えたのですが、メンターの方からいただいたもっともなご指摘で諦めました。事業化の根拠としては浅はかだったと悟ったからです。

どんな指摘だったのですか?

大須賀:そもそも薬局によって薬の値段が違うといってもその差はごくわずかに過ぎません。本当に患者はこのサービスを求めているのか、また、すでに価格を抑えて薬を処方している薬局が果たしてサービスに魅力を感じ利用料を支払ってくれるのか、甚だ疑問というご指摘でした。

その指摘を受けてどうされましたか?

大須賀:これまで私たちがどれだけ、自分たちが作りたいもの、作れるものだけに捕らわれていたのだと思い至り反省しました。それ以来、私たちは薬局のスタッフ、患者さんの双方に必要とされるサービスを見つけるため、100店舗以上の薬局を訪ね歩き、アンケートやヒアリングを通して検証を重ねました。自分たちが立てた仮説や課題設定が正しいかどうかは、想定される利用者の声に耳を傾けるまで分からないと痛感したからです。

処方箋の入力代行にした決め手は何だったのですか?

大須賀:私たちを担当してくれたメンターの方から、オンラボ卒業生でもあるSmartHRさんは11回のピボットを経てようやく進むべき道を見つけたと聞きました。その話のなかで、当事者の方々にサービスの内容をお話して、5人連続で「使いたい」「ほしい」と言っていただけるサービスには見込みがあると聞き、愚直に仮説検証を繰り返した結果、唯一この条件をクリアしたのが処方箋の入力代行だったんです。

謙虚になれたからこそ見つけられた提供価値

サービスの立ち上げにあたってはどんな苦労がありましたか?

大須賀:そもそも、オンラボに参加したばかりのころはスタートアップ界隈では当たり前に使われている言葉すら知らない状態からのスタートでしたから、たとえば「ピボット」とか「グロース」とか言われても何のことかさっぱり分かりません。最初のころはメンターや同期の話にもなかなかついていけず戸惑ったのですが、いまにして思えば自分たちの未熟さを痛感させられた経験が、かえって良い結果につながったのではないかと思うことがあります。

なぜそう思われるのですか?

大須賀:自分たちはビジネスの初心者だと謙虚な気持ちになれたからです。私を含め当時のメンバー全員、薬剤師経験者でしたから、薬局の実務はもちろん、薬剤師の悩みも知り尽くしているつもりでした。しかし実際は、個人経営の薬局で働く薬剤師と大手チェーン店で働く薬剤師では働く環境も業務上の悩みも異なります。つまり同じ薬局というカテゴリーのなかでも、事業のセグメントによってフォーカスすべき課題は違うわけです。井の中の蛙のままでいたらサービスを立ち上げることすら難しかったかもしれないと思うと、最初の戸惑いにも意味があったんだなと思わずにはいられません。

Angel Bridgeとの出会いについて教えてください。

大須賀:確か2021年の1月ごろだったと思います。Angel Bridgeさんにはオンラボさん経由でお声がけいただき、お会いしたのが最初でしたね。

林:そうでした。私たちは日々、データベースやメディアなどを通じて有望な事業家を探しています。ここ数年、店舗DXに取り組むスタートアップが増えていますが、薬局をターゲットにしている起業家はまだ多くありません。代表の大須賀さんご自身、薬剤師資格をお持ちできっと業界のペインにも精通していらっしゃるはず。サービスに秘められたポテンシャルにも興味を惹かれたので面会を申し込みました。

謙虚になれたからこそ見つけられた提供価値

初対面の印象を聞かせてください。

林:印象的だったのは、とても精緻にビジネスを組み立てようとされている姿勢でした。資金調達について考える前に、いまはまだサービスのユニットエコノミクス、つまり事業の経済性に目処を付けなければならない段階なので具体的な話は待ってほしいと言われ、事業に対してとても真摯な起業家だと感じたのを覚えています。

大須賀:お声がけいただいた当時は、まだ安定したサービスを届けるための体制作りの真っ最中で、どうすれば作業効率を上げつつ採算が取れるか試行錯誤していたところでしたから、林さんをはじめAngel Bridgeの皆さんからの示唆に富んだアドバイスは、とてもありがたかったです。

林:そう言っていただけるのは、こちらとしても本望です。投資を実行する直前、改めてprecalのデモを見せてもらったのですが、処方箋の入力がわずか1分程度で終わるのを見て、これが全国に6万店舗ある薬局の大部分に導入されたら、どれだけ大きな社会的インパクトを起こせるのだろうかとさらに期待が膨らみました。日本国内で処方箋の年間発行数はおよそ8.4億枚にのぼるそうですね。

大須賀:その通りです。

林:サービスとしてのprecalはもちろん、プレカルを率いる大須賀さんにもこれだけの大きな市場を相手にするだけのポテンシャルを感じるからこそ、ぜひ資金の面からもプレカルさんを応援すべきだと考え、投資させていただいたんです。

課題検証は泥臭くとも丁寧に取り組む。それが未来を拓くカギ

資金調達以降、Angel Bridgeとはどのようなお付き合いをされていますか?

大須賀:定例ミーティング以外では、Angel Bridgeさんの投資先が集まる異業種勉強会を通じて、先輩起業家の皆さんにお引き合わせいただいたり、正しい経営数字のまとめ方や経営資料作りのイロハをご指導いただいたりするなど、きめ細やかなご支援をいただいています。最近はフットサルやゴルフにお誘いいただくこともあるので、文字通り公私にわたるお付き合いをさせていただいています。

林:大須賀さんは新しいこと、未知の事柄に対しても柔軟に対応してくださいます。打てば響くと言うと僭越ですが、実際、優れた経営者の素養をお持ちの方だと感じるので、こちらとしても提案やお誘いしがいがあるんです。

大須賀:私自身、経営者としてはまだまだだと思っているので、多岐にわたるご支援にはとても感謝しています。おかげさまで、ここ数カ月、定例会の場で以前より議論に集中できるようになったのも林さんをはじめAngel Bridgeさんのサポートがあったからこそ。日々学ばせていただいています。

Angel Bridgeは今後、プレカルにどのような支援を提供されていきますか?

林:引き続き経営面、事業面でのご支援を続けながら今後はドラッグストアチェーンのご紹介など、営業面からも積極的な支援ができたらと思っています。

大須賀:ありがとうございます。ドラッグストアチェーンと接点をお持ちのベンチャーキャピタルは非常に貴重です。いまちょうどプロダクトの大幅なアップデートに取り組んでいるところなので、それに目処が付き次第、改めて営業に力を入れていくつもりです。改めてご支援のほどよろしくお願いします。

林:もちろんです。一緒に頑張って参りましょう。

大須賀さんは、これからプレカルをどんな会社にしていきたいですか?

大須賀:薬局で行われている事務作業は処方箋入力だけではありません。保険請求業務や薬品の在庫管理、スタッフの雇用回りを含めると膨大な数にのぼります。ゆくゆくはこうした煩雑で時間を要する事務作業から薬局を解放したいですし、将来的には薬局内に蓄積されたままになっている処方箋データを活用した新サービスを立ち上げ、社会に還元できたらと思っています。

現時点では、どんな新サービスを構想されているのですか?

大須賀:たとえば薬の処方データと製薬会社が持つデータを掛け合わせれば、これまで有効な治療薬がなかった希少疾患向けの創薬に弾みを付けられるかもしれません。少し先の話になりますが、患者さんに近い立場にある薬局を起点としたデータビジネスの創出を視野に入れつつ、当面はprecalの普及に努めていくつもりです。

林:少子高齢化で勢いの衰えばかりが目立つ日本ですが、そんな時代だからこそプレカルさんのようなスタートアップが求められるのだとつくづく感じます。Angel Bridgeの理想は、資金提供だけでなくハンズオン支援を通じて世界に誇れるメガベンチャーを生み出すこと。プレカルさんとは今後も一緒に夢の実現に向けて頑張っていきたいですね。

課題検証は泥臭くとも丁寧に取り組む。それが未来を拓くカギ

大須賀さん、最後に後進の起業家にメッセージをお願いします。

大須賀:自分たちが成し遂げようとしているビジネスが、本当に世の中の役に立つかどうかは、客観的な事実を積み重ねた先にしかありません。視点を変えながら想定されるユーザーに何度もインタビューしたり、アンケートを取ったりしてようやくその片鱗が見えてくるものだからです。実際、私自身の経験からも検証してみなければ気付けなかったことが少なくありませんでした。価値あるサービスを作りたければ、課題検証は丁寧に取り組む。こればかりは避けられないプロセスだというのが正直な実感です。もちろん林さんのように、ビジネスに精通した投資家や先達の起業家の力を借りるのも有効な手立てなのは間違いありません。ビジネスに優れた知見を持つ方と知り合えたら好機と思い、恐れず自分の考えをぶつけてみるのもお勧めです。泥臭い検証作業を厭わず、有識者からの助言に耳を傾ける気持ち、そして変化を恐れず行動する勇気さえあればきっと道は開ける。私はそう思います。

2022.10.17 ACADEMY

前回のスタートアップアカデミー#3では、VCが投資検討時にベンチャーをどのような視点で見ているのかをご紹介しました。スタートアップアカデミー#3

今回はステージを大きく前に進めて、ベンチャー企業がIPOに向けて準備すべきこと、またその際に陥りがちな落とし穴について解説します。

起業家にとってIPOは初めての経験であることが多いのに対して、多くのVCは投資先のIPOを経験しています。そのため、起業家は経験のあるVCに頼ることで比較的スムーズにIPO準備を進めることができます。Angel Bridgeも投資先ベンチャー企業のIPO準備の際には多方面で手厚い支援を行っています。

まずは全体のプロセスの理解から始めましょう。IPO準備は大きく社内業務と社外業務に分けることができます。社内業務には「IPO準備チームの立ち上げ」「ガバナンス体制の構築」「事業計画構築」「エクイティストーリー構築」が挙げられます。社外業務には「監査法人の選定」「主幹事証券の選定」が挙げられます。IPO準備の期間にはそれぞれの業務を同時並行的に進めていかなければなりません。

スタートアップアカデミー#4 ※Angel Bridge作成

時間軸はIPO申請期をN期として、そこから1期さかのぼるごとにN-1期、N-2期…と数えます。N-1期は直前期と呼ばれ、上場企業と同程度のコーポレート・ガバナンスでの企業運営が求められます。N-2期はN-1期のための準備期間です。この間に内部管理体制を整備し、N-1期に備えなければなりません。そしてそのための体制の土台づくりをN-3期で行います。

では、それぞれの業務についてどのような流れで進めていくのか、そしてその際に陥りがちな落とし穴について解説していきます。
IPO準備チームの立ち上げ
IPO準備にかかる業務は多岐にわたるため、N-3期には「IPO準備チーム」の立ち上げが必要になります。通常はCFOが最高責任者となり、IPOに関する業務の舵取りを行います。IPOにおけるCFOと管理部長の役割は異なっており、求められるスキルは異なります。Angel Bridgeとしてはそれぞれの役職に異なる人物を採用することをお勧めしています。
どちらの選任も非常に重要で、ここでの失敗はIPOの落とし穴となります。適切な人材を選任できなければ、IPOに大きな影響が出てしまいます。多くのベンチャー企業では、最初からCFOや管理部長がいることはないため、新たに採用する必要があります。どちらの役職も非常に専門性が高く、経験豊富なことが不可欠です。それぞれの役職の特性について解説します。
CFO

CFOの役割は社外業務が主となります。証券会社・監査法人とのコミュニケーションや開示資料の作成、資金調達を行います。メガベンチャーを目指すのであれば、CFOを採用するにあたって望ましい経歴として外資系証券会社の投資銀行部門・プライベートエクイティファンドが挙げられます。投資銀行は企業の株式や証券、債券の発行やM&Aの際に支援やアドバイスをすることが主な業務です。企業の資金調達を支援するという点でCFOの業務と深く関連しています。プライベートエクイティファンドでは企業に投資し、さらに投資先企業に入り込んで企業価値を上げるべく支援します。彼ら自身、投資家としての経験があるので、ベンチャー企業に入ってCFOとして資金調達を行う際も投資家の立場を理解して動くことができます。

管理部長

一方の管理部長は社内業務が主となります。IPOに向けて実際に社内の体制を整えていくのが管理部長の役割で、内部統制の整備やガバナンス体制の構築、監査業務を主に行います。監査法人出身で監査業務に精通する人物を採用するのがベストです。

繰り返しになりますが、資金調達、IPOを行うベンチャー企業にとってCFO・管理部長の採用はとても重要です。そのためAngel BridgeではIPO支援の一環として、CFO・管理部長の採用支援を行っています。
ガバナンス体制の構築
IPOするためにはガバナンス体制の構築が必須です。ガバナンス体制は「規程類の整備」「機関設計」「内部監査の実施」の3つに分けられます。今回は「規程類の整備」の中でも特に落とし穴となりやすい「労務規程」と「反社会勢力規程」について触れたいと思います。IPO上問題となる労務リスクの中でも特に未払い残業問題は最重要です。もし、ここで問題が発生した場合は精算までIPO審査が止まってしまいます。次に反社checkですが、経営陣、株主、取引先に至るまで反社会勢力との関係を一切絶たなければなりません。Angel BridgeとしてはIPO準備前から、株主や取引先について反社checkを行う体制を整えておくことをおすすめします。
事業計画構築/予実管理
IPOの際は3~5年先を見据えた中期事業計画が審査の対象となります。この事業計画が信頼されるに足ると証明するためには、適切な予実管理が必須になります。上場企業は決算において予算計画と実績の乖離が大きい場合は、その内容の開示が求められますが、IPO準備企業においてもそれと同等の水準が求められます。ここも落とし穴になりがちで、もし予実対比が大きくかけ離れてしまうと、投資家や市場に悪影響を与える可能性があると考えられ、上場できなくなってしまいます。自社のビジネスモデルや市場、リスクを考えたうえでの適切な予実管理が必要です。
Angel Bridgeは普段から投資先企業と定例会を行い、会社の羅針盤となるKPIの設計や、それを活用してPDCAサイクルを回す体制構築の支援をしています。これは正しく会社の経営をするために必要なことであると同時に、IPO準備の観点でも取締役会の運営や予実管理に結び付いています。
エクイティストーリーの構築
エクイティストーリーとは、投資家に向けて企業の強みや成長戦略をわかりやすく伝えるためのストーリーです。東京証券取引所のグロース市場では以下のような項目の開示が求められます。

エクイティストーリーの構築 出典:経済産業省「スタートアップの成長に向けたファイナンスに関するガイダンス」
優れたエクイティストーリーとは

優れたエクイティストーリーとは、投資家が期待して出資したくなるように事業を魅力的に伝えながら、実現できる説得力を持ったものです。説得力のあるエクイティストーリーを構築することが投資家からの高評価、ひいては高いvaluationにつながります。また、そのようなエクイティストーリーを構築することは経営者自身が自社の強みを自覚し、中長期の成長戦略を考える上でも重要です。

優れたエクイティストーリー構築における重要なポイント

企業によって事業を魅力的に伝えるために強調するポイントは異なりますが、今回は不可欠な3点を挙げたいと思います。一つ目は「参入市場(TAM)が大きいこと」ということ、二つ目は「足元で安定した成長をしている」ということ、そして三つめは「将来的に事業が急成長・グロースする可能性がある」ということです。この3点をはっきり示すことで、投資家も投資しやすくなります。わかりやすい図を用いることも説得力を高めるために必要になります。今回は、実際にAngel BridgeがIPO支援を行った株式会社オンデックを例にとって解説します。オンデックは2020年12月にIPOを果たした、国内中小企業を対象としたM&A仲介事業を行う企業です。Angel BridgeはIPOの約2年前に投資しています。IPO準備時にはエクイティストーリーのブラッシュアップを支援しました。

以下の図ではオンデックの参入する国内M&A市場が大きいこと、そしてそれが将来的に拡張していくことをわかりやすく伝えています。

エクイティストーリーの構築 出典:新株式発行並びに株式売出届出目論見書の訂正事項分 株式会社オンデック

また、中長期の成長戦略として、「大阪ではすでにM&A仲介業者として地位を築いており、堅調な成長をしている」という足元の安定した成長性を示しつつ、「東京やその他全国の国内企業へのターゲットの拡大」と「開発中のM&Aプラットフォーム構築による潜在顧客の獲得」という2点で事業のグロースの可能性を示しました。

エクイティストーリーの構築 出典:株式会社オンデック 2020年11月期決算説明資料

監査法人の選定
IPOには監査法人による監査証明が必須となっています。そしてそれはN-1期(直前期)だけではなくN-2期も必要です。そのためには、N-3期までに監査法人に接触してショートレビューを受けなければいけません。
金融庁の2020年の資料によると、現在IPOを希望する企業は増加傾向にあるのに対して、監査法人の数はそれほど増えていません。このため監査法人側が監査対象とするベンチャーを選定する立場にあり、「IPOを目指したいのに監査法人が見つからない」といういわゆる監査法人難民企業が増えています。このため、IPOを希望する経営者は監査法人へ適切な時期に適切なルートで適切にコミュニケーションすることが大切です。
主幹事証券会社の選定
幹事証券会社はIPOの際に企業が発行する株式を投資家に販売する役割を担います。複数ある証券会社の中でリーダーを務めるのが主幹事証券会社です。主幹事証券会社は投資家への株式の販売だけでなく、IPOスケジュールの策定やIPO申請書類の作成支援、また事業面でのサポートも積極的に行います。原則的には、N-2期に主幹事証券会社を選定します。
選定する際のポイント

一度主幹事証券会社を決めてしまうと簡単には変更できません。Angel Bridgeでは複数の証券会社に提案書をプレゼンしてもらい、それらを比較したうえで決定することをおすすめしています。提案書の見るべきポイントとしては、「アサインされたチーム」と「エクイティストーリー」です。

アサインされたチームの質が良いかどうか、上の役職の人を巻き込めているかなどで証券会社の本気度がわかります。本気度によっては、ファイナンス面だけでなく事業面でのシナジーあるサポートを期待することができ、自社の事業成長にもつなげることができます。

提案されたエクイティストーリーに説得力があるかどうかで、証券会社の事業への理解度がわかります。自社の事業をよく理解している証券会社に、事業内容と成長戦略を適切に投資家に伝えてもらうことは、投資家から高い評価を受ける上で重要です。また、事業への理解度が高い証券会社の方がIPO後のIRやファイナンス支援もより質の高いものを期待できます。

共同主幹事

主幹事を複数の証券会社に引き受けてもらうことを共同主幹事といいます。共同主幹事でのIPOは、IPO準備企業側にとってのメリットが大きく、IPO時の想定時価総額にもよりますが可能であれば共同主幹事にしたほうが良いとAngel Bridgeは考えています。メリットとしては「複数の証券会社の強みを活かすことができる」「複数の証券会社が競い合い、投資家により高く株式を売ろうというインセンティブが働く」という2点が挙げられます。一方でCFOは両社とのやり取りが発生するため業務負担が大きくなってしまうというデメリットもあります。

今回は企業がIPOする際にやるべきことと、その際に陥りがちな落とし穴について解説しました。冒頭でも述べましたが起業家の皆さんにとっては、IPO準備が初めての経験であることが多く、経験が豊富なVCに頼ることが大切です。

Angel BridgeはIPO人材の採用、監査法人の選定、主幹事証券会社の選定、エクイティストーリーの構築など投資先ベンチャー企業のIPOを強力にサポートしています。事業の壁打ちや資金調達のご相談など、お気軽にご連絡ください!

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2022.08.29 ACADEMY

前回の「スタートアップアカデミー#2|独立系VCが考える、起業家がVCを選ぶ上で絶対に押さえておくべきはこれだ!」では、起業家が資金調達時にVCをどのような視点で見ればよいのかをご紹介しました。

スタートアップアカデミー#2|独立系VCが考える、起業家がVCを選ぶ上で絶対に押さえておくべきはこれだ!

今回は、VC側の視点に立ち、ベンチャー企業への投資を決定するまでにどのようなポイントをVCが検討しているのかをご紹介します。

まず前提として、検討対象とするベンチャーのステージによって、検討する項目やそれらの比重が大きく異なります。
例えば、シードのベンチャーでは経営陣を特に重要視します。プロダクトが未完成の場合が多く、ピボットの可能性もあり、経営陣の力が事業を大きく左右するからです。
アーリーステージでは経営陣に加えて、PMF (Product Market Fit) の検証など事業面の比重が高くなります。

スタートアップアカデミー#3 (出所)SPEEDA「ベンチャー企業の資金調達とVC」~一般的な国内VB(ベンチャー企業)の成長スピードとイメージ~

では、具体的にはどのようなポイントを見ているのでしょうか。
ここでは経営陣、業界、事業内容、バリュエーションの4つの観点に分けてご紹介します。

経営陣

経営陣、特にCEOは会社の顔であり、意思決定権を握っているため、レイターステージに至るまで最も重要視されることの多い項目です。

優秀なメンバーを集めてくる能力があるか
経営者とはいえ、会社を成長させていく中でCEO一人でできることには限界があります。そのため、いかに優秀な人を巻き込み、チームを形成することができるかが重要です。さらにIPOを目指すのであれば百人規模の組織をマネージする必要があります。人間としての魅力度やリーダーシップ、そしてそれを裏付ける実績があると説得力が増します。
困難を乗り越えられる論理的思考力があるか
大半のベンチャー企業は事業を拡大していく中でメンバーの離脱や方向性の変更のような様々な壁を乗り越えなくてはなりません。問題が発生したときに柔軟に代替案を施行するなど、改善のサイクルを回すことができる論理的思考力があるかも重要なポイントです。
本事業に強いパッション、コミットメントを持っているか
事業を継続して成長させるには困難が数多く生じるため、経営陣に事業への強い思いがなければ挫折してしまう恐れがあります。困難な状況に直面しても簡単にはあきらめない粘り強さや根性、そしてそれらを裏付けるパッションやコミットメントも重要視されます。
またVCの投資先としてIPOを目指すベンチャーが多く、CEOのIPOへの熱意も重要です。スモールイグジットを前提とする場合は投資決定が難しいと判断するケースも多いです。

上記3つの要素は相互に関連し合う要素ですが、いずれも非常に大切です。Angel Bridgeでは、経営陣に対して個別に話を聞いたり、CEOの前職の同期や既存投資家などにインタビューを行うことで、以上に挙げた事項について理解を深めています。

業界

VCは投資検討しているベンチャー企業が参入する市場をしっかりと把握する必要があります。経営陣や事業が魅力的でも参入市場が魅力的でなければ、会社の成長のアップサイドには限界があります。

市場規模が十分に大きいか
TAM (Total Addressable Market) の大きさが重要です。これはベンチャーが提供するサービスを使ってリーチできるターゲット層の最大の大きさ、つまり需要の大きさを表します。市場が十分に大きければ、成功した時の爆発力が見込めるだけでなく、競合がいても棲み分けて共存できる可能性があると言えます。
Angel Bridgeの投資先のミツモアを例としてご紹介します。ミツモアはローカルサービスを必要とする依頼者とローカルサービス事業者間のマッチングプラットフォームを提供しています。対象とする事業カテゴリが広範囲にわたっているため、集客手数料だけでも3兆円以上の巨大な市場となっています。

(参照:Angel Bridge投資の舞台裏#1 スタートアップアカデミー#2

市場が拡大しているか
市場自体が拡大している場合は、新規参入してシェアを奪えるチャンスがあります。
Angel Bridge投資先のLISUTOを例としてご紹介します。LISUTOはEC事業者向けに自動タグ付けツール「AIタッガー」を提供する会社です。コロナ禍における消費者行動の変化を背景にEC市場は急激に成長しており、今後もさらに拡大していくことが予想されています。BNPL (Buy Now Pay Later) をはじめとしたEC周辺領域はグローバルで見ても注目度が高く、数多くのメガベンチャーが誕生しています。非常に多くの資金が集まっているため様々な業態のサービスが生まれており、LISUTOにとって市場の拡大は大きな追い風となっています。

(参照:Angel Bridge投資の舞台裏#4

世間から注目されており政策等の追い風を受けている業界であるか
注目度の高い業界は資金が集まりやすく、マーケティングもしやすい傾向があります。特に医療系の事業では国が政策等で後押ししてくれることで大きな追い風を受ける場合が多いです。
例として、Angel Bridge投資先のVarinosは産婦人科領域の遺伝子分析サービスを提供しています。昨今ゲノム解析市場は盛り上がっていて、世界でメガベンチャーが多数生まれていますが、日本国内ではまだプレーヤーが少ないです。特に産婦人科領域は市場が大きく、世界的に見ても競合が少ない領域であるため、魅力的な市場となっています。国や自治体が不妊治療に助成金を提供したり、保険適用を開始していることが大きな後押しとなっています。
ベンチャーが取り組むべき領域であるか
市場を獲得するための大きな資金力や大型の設備投資が必要な事業は、ベンチャー企業にとって取り組むことが難しいです。市場を理解し、適切な領域を選択できているかが重要なポイントです。

特に 「1.市場規模が十分に大きいか」 で挙げた「市場規模が十分に大きいか」は重要です。市場規模が大きければ戦い方の選択肢も多く、社会に与えるインパクトも大きいため、メガベンチャーが産まれやすいと言えます。TAMの広がりだけでなく、コアターゲットとして現実的に捉えられるSOMの大きさをしっかり伝えることが必要です。

事業内容

特にアーリーステージでは事業開発がある程度進んでいる段階なので、その事業内容が優れているかどうかも重要視されます。

ペインが深く、適切にアプローチできているか
着目しているペインが深いことと、それを解決するための適切なアプローチが取れていることが非常に重要です。たとえ経営陣が強いパッションを持っていたとしても、取り組むペインが浅かったり、ニーズに応えることができていなかったりすれば、事業を拡大させることは難しいです。
競争優位性のコアが価値のあるものであるか
数多くの企業が生まれている中で市場を勝ち取り、リードする存在となるためには独自性や強みが必要です。競合他社と比較してサービスの優位性が十分にあるかという点や、参入障壁が大きく、他社が簡単に真似できない事業であるかという点を検討します。特にミドルからレイトステージのベンチャーにおいては重要視しています。
例えば、プラットフォームサービスは参入障壁を作りやすい領域と考えています。プラットフォームは事業者が集まれば集まるほどサービスの価値が上がり、ネットワーク効果が期待できるためです。
技術力が十分であるか
ディープテック等の技術系ベンチャーは技術の革新性や技術力の高さが必要とされます。実際にどのステージまでPoCが出来ているのか、技術がどのくらい独自性を持ち、稀有なものなのか等を検討します。そのためには特許や論文で実績が証明されていることが重要です。技術開発を中心とする大学発ベンチャーを成功に導くための秘訣をAngel Bridge業界研究#2にまとめているので、ぜひチェックしてみてください。

スタートアップアカデミー#2

事業内容の中でも特に 「1.ペインが深く、適切にアプローチできているか」 で挙げたペインをしっかり捉えているかどうかが非常に重要です。誰のどんな課題を解決するサービスなのか、その課題がどれほど深刻なものなのかを明確にすることが重要です。Angel Bridgeではサービスのユーザーや業界の知見者にインタビューを行い、実際に利用に至った背景や利用後の満足度、業界におけるニーズの有無を調査しています。

バリュエーション

最後にバリュエーションについてです。類似企業の平均的な企業価値を元に事業計画の蓋然性を考慮してIPO時の価値を算出し、逆算して現在の価値を求めるケースが多いです。この値を元にリスクリターンのバランスが適切であるか検討します。希薄化や次のラウンド以降の設計も考慮し、高すぎず、安すぎないフェアバリューであることが重要です。

Angel Bridgeは「リターンに見合ったリスクは積極的にとる」というValueを掲げています。独自のRisk-Returnプロファイルに基づいて、爆発力のある案件に積極的に投資を行っています。メガベンチャーの可能性がある企業であれば成功確率が10%でも投資をし、成功率を高めるのが我々の役目でもあると考えています。

多くの企業の成長にコミットしてきた経験をもとに、全力でサポート致しますので事業の壁打ちや資金調達のご相談など、お気軽にご連絡ください!
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2022.08.20 INTERVIEW

目指すは食品業界のサプライチェーン改革

Goalsの事業内容を教えてください。

佐崎:飲食店向け業務改善クラウドサービス「HANZO」シリーズの開発を手掛けています。現在は、過去の売上実績、季節や天候を踏まえ、AIが来客数やメニューの注文数を予測し、必要となる食材を自動的に算出する「HANZO 自動発注」や、45日間先まで売上予測を算出し、アルバイトのシフト作成を補助する「HANZO 売上予測」などのサービスを提供中です。在庫チェックや発注作業に伴う時間短縮、食材の廃棄ロスの削減、無駄な人件費を大幅に削減できることに加え、既に構築済みの管理システムとも簡単に連携できることから、外食チェーンを運営するお客様を中心にご利用が進んでいます。

目指すは食品業界のサプライチェーン改革

起業のきっかけは?

佐崎:前職のワークスアプリケーションズで基幹業務システムの開発やプロダクトマネジメントに携わるなかで、原材料を仕入れ、商品を製造、販売するというサプライチェーンの最適化こそが、企業の命運を左右する核心だと気づいたことが起業のきっかけです。せっかく会社を興すなら、社会に貢献するビジネスに取り組みたいという思いもあり、あえて難易度が高い「サプライチェーンの最適化」を事業のテーマに選びました。

なぜ外食業界を対象にしようと思われたのですか?

佐崎:私たちが目指すのは、メーカーや流通業、卸業、飲食店を巻き込んだ食品業界全体の最適化です。この大きな目標を達成するには、まず消費者に一番近い、外食業界の最適化から始め、需要データを得ることが重要と考え、飲食チェーン向けのサービスから取り組み始めました。しかし、最初から食品業界全体の最適化を志していたわけではないんです。

と言いますと?

佐崎:実は、起業してしばらくは、どの業界に参入すべきか判断するため、可能性がありそうだと思える業界をリストアップし、上から順にプロトタイプを試作しては、関係者にお見せしていた時期があるんです。そこで出会った皆さんからのご意見をうかがう過程で、食品業界全体のサプライチェーン改革に取り組む決意を固め、その手始めとして飲食業界向けのサービス開発に着手しました。

河西:ある程度、決め打ちでプロダクト開発に着手するスタートアップが多いなか、候補業界ごとにプロトタイプを作り、参入すべき業界を探られたのは改めて凄いことだと思います。外食業界以外にどんな業界を検討されたのですか?

佐崎:社会に貢献するためにはある程度、市場規模が見込める分野であり、外から見ても業務効率化の余地が広そうな業界に狙いを定めていたので、流通小売業やアパレル業、機械系製造業なども検討しました。

河西:本当に幅広い業界のなかから飲食に絞り込まれたんですね。

佐崎:はい。私も共同創業者でCTOの多田(裕介氏)もソフトウェアエンジニア出身です。手を動かすことには慣れていましたし得意でもあったので、プロトタイプを作っては見せてご意見をうかがう方法が採れました。

河西:私の知る限り、最初からここまで手堅くファクトを積み重ねてサービスを作り込んでいるスタートアップは多くありません。外食業界でいこうと決めるまでに、どのくらい時間をかけましたか?

佐崎:1年弱はかけたと思います。この間、いくつもの企業に足を運びプレゼンやデモを繰り返し、一番手応えがあったのが、外食チェーン店の経営陣でした。

河西:ほかの業界の経営陣とどんな点が違ったのですか?

佐崎:「リスクを負っても試してみたい。一緒にやりましょう」とおっしゃる方がとても多かったんです。飲食業界は一定の市場規模があり、IT化の余地が広く効率化へのニーズが高いことが参入の決め手と申しましたが、でも、それだけでこの領域を選んだわけではありません。数多くの創業経営者の皆さんにお会いし、現状に対する危機感や変革に対する熱い意欲に触れたことが、飲食産業に参入する決め手になりました。それに加え、私の祖父が食品製造業を経営していたり、共同創業者の多田の家族が飲食店を経営していたりと、ふたりの創業者ともにこの業界に縁があり、貢献したいという思いもありました。

河西:なるほど。そういう背景があったんですね。

佐崎:はい。飲食業は生活になくてはならないエッセンシャル業界のひとつであるにもかかわらず、低い利益率のなかで、ギリギリの経営を強いられている企業が少なくありません。人手不足も顕著ですし、最近ではコロナ禍で業界全体が厳しい状況にあります。そんな苦境にあえぐ飲食業で大幅なコスト削減を実現できたら、きっと喜んでいただける。そう確信し参入しました。

初回面談から約1年半後に投資が成就

Angel Bridgeとの出会いについて教えてください。

河西:私どもからお声がけしました。スタートアップが集まるデータベースを検索しているときに、数あるSaaS企業のなかでもドメインの選び方がユニークだと思い、面会を申し出たのが最初でした。

初回面談から約1年半後に投資が成就

佐崎さんにお会いになって、どのような印象を持たれましたか?

河西:2020年11月に初めてお会いしたときの佐崎さんの印象は、事業説明資料やプレゼン内容も万全で、お話振りも非常にロジカルで明快。すべてにおいて準備に手抜かりがなく、細かい数字も正確に押さえていらっしゃっていたので「信頼のおける経営者」というものでした。サービスについての話を聞き終わるころには「きっとこの会社は来る」と確信したのをよく覚えています。

佐崎:それは光栄です(笑)。当時は2回に分けて実施したプレシリーズAの1回目を終えたくらいのタイミングで、資金需要も落ち着いていたのですが、ファイナンスについてはまだまだわからないことだらけ。そこで後学のためにと思いお会いしたのですが、すぐにお会いして良かったと思いましたね。私たちの事業の将来性をとても前向きに評価してくださるだけでなく、今後の事業展開の面で示唆に富んだ提案もいただけたからです。とても有意義な時間を過ごせました。

河西:こちらからも何か価値のある情報をお渡ししないと釣り合わないと感じてしまうほど、素晴らしいプレゼンでしたし、飲食業が抱えているペインをよく理解していると思いました。

佐崎:ありがとうございます。現実の在庫数とAIが弾き出した予測在庫数の乖離を調整するため、お付き合いのある店舗に足繁く通い、何時間も棚卸しをしながら予測モデルを調整していたので、飲食業の大変さが身に染みていたからかもしれません(笑)。研究開発にはかなり力を注ぎましたし、その努力をお客様にも評価していただいていたので、自信を持ってお伝えできたのだと思います。

実際にAngel Bridgeから投資を受けたのはいつですか?

河西:最初にお会いしてから1年ちょっと経った2022年2月のことです。それまでの間、数カ月に1度のペースで情報交換する機会を設けていただいていたので、お声がけいただいたタイミングで迷わず手を挙げました。

佐崎:改めて最新のプロダクトを見ていただいたり、お客様へのインタビューをしていただいたりと、手際よく検討を進めていただいたので、こちらとしても本当に助かりました。この対応の早さは、きっと期待の裏返しに違いないと思い、身の引き締まる思いで契約書にサインしたのを思い出します。シリーズAで託していただいた資金は、引き続き研究開発やお客様と接する部門の拡充に使い、HANZOの拡販に努めていく考えです。

投資後は営業先の紹介と戦略立案の面から貢献

現在、Angel Bridgeとはどのようなお付き合いを?

佐崎:引き続き、経営に関する課題についてご助言いただいているのに加えて、食品業界に豊富な人脈を持っていらっしゃる、パートナーの林さんのご助力で、大手外食チェーンの経営陣にお引き合わせいただくなど、とくに営業支援の面で多大な支援をいただいています。

河西:林からはお客様候補をご紹介させていただき、私からは共有いただいた経営指標をもとにした数値分析や業界分析など、主に経営や営業戦略の面からサポートさせてもらっています。経営のPDCAサイクルを回す上で必要な支援は可能な限り行うというのが私たちの方針です。

佐崎:毎回、大所高所に立った視点でアドバイスしていただけるので、発見や気づきが多く、いつもディスカッションの時間が楽しみです。おかげさまで、当初は和食チェーンを運営するお客様が1社のみという状況でしたが、現在は上場企業を中心に20社ほどのお客様にご利用いただくまでになりました。Angel Bridgeさんのご支援にはとても感謝しています。

お客様の反応はいかがですか?

佐崎:これまで営業時間を終えてから多ければ1時間以上費やしていた発注業務がたった5分で終わるようになった、また入社間もない若手にアルバイトのシフト管理を任せられるようになったなど、うれしい声を耳にする機会が増えています。飲食店は製造業にたとえると、販売店舗内で部品を組み立てるような特殊性をはらんだ業態です。高度な技術、優れた予測モデルが必要な一方、10代の若者から70代の高齢者まで、どなたでも簡単に使える必要もあります。考えるべき要素も多く、すべてを満たす難しさを感じる局面もありますが、それだけに「効果が出た」「導入して良かった」というお声を聞くたびに、飲食領域を選んで良かったと感じます。

河西:飲食業界向けに限ったことではなく、ここまで劇的な効果が出るSaaSサービスはそうはありません。本当に素晴らしいことだと思います。

佐崎:ありがとうございます。

今後の展開を教えてください。

佐崎:まずは外食産業においてHANZOを採用していただく店舗を増やし、それを突破口に「食品業界のサプライチェーンを最適化する」というミッションを実現できるように全力を傾けて取り組む覚悟です。究極の目標は、高度な技術と膨大なデータを最大限に活用した食品産業のサプライチェーン最適化により、Goals を「日本のGDPを0.5%以上押し上げる」くらいの影響力を持つ会社に育てること。一生をかけてでも、取り組む価値がある仕事だと信じています。

河西:Goalsさんには、ぜひ食品業界におけるサプライチェーン改革の旗印になっていただき、1日も早く時価総額1,000億円を超えるユニコーン企業に名乗りを上げていただきたいですね。Angel Bridgeもその実現に向けてできる限り応援をするつもりです。

佐崎:河西さんのご期待に応えられるようがんばります。

投資後は営業先の紹介と戦略立案の面から貢献

最後に次代を担う若手起業家にメッセージをお願いします。

佐崎:未知の分野にチャレンジするのは怖いものですし、不安がつきまといます。しかし、少子高齢化による国力の衰退が既定路線といわれるなかで、いまほど新しいチャレンジが必要なタイミングはありません。もしチャレンジが実を結ばなかったとしても、諦めなければ挽回するチャンスはきっといつか巡ってきます。もし本気で取り組んでみたいこと、実現したいことがあるなら恐れずチャレンジしてほしいですね。そんな人たちがもっと増えてくれたら私たちも心強いですし、一緒に日本を元気にできたらこれほどうれしいことはありません。

聞き手・構成 武田敏則(グレタケ)

2022.07.04 INTERVIEW

透明性の高い金融商品を広めたい

Siiibo証券はどんな事業を行っていますか?

小村:社債に特化したネット証券です。社債の取得勧誘方法には公募と私募があり、現在一般的である公募社債は発行額が数百億円以上という大規模な資金調達に用いられる場合がほとんどです。一方、私募社債は募集対象・方法によってプロ向けの「プロ私募」と少人数に限定した「少人数私募」に分けられます。特にSiiibo証券で取り扱う「少人数私募社債」は、これまで一般に知人や取引先等から資金調達する所謂「縁故債」として利用される等、シンプルで手間も少ないため、中小企業が利用しやすいというメリットがあります。私たちはこの発行・購入の場をウェブ上でプラットフォーム化して提供しています。
社債発行の裾野を拡げて、小規模の企業に対して新たな調達手段を提供することに取り組んでいるのは、社債特化のネット証券という点では弊社のみです。

参入障壁はあるのでしょうか?

小村:少人数私募社債は原則無格付けとなるため、大手企業が自社で参入するハードルは高いと考えており、協業の可能性を模索しております。
ベンチャー企業に関しては第一種金融商品取引業者(証券会社)の登録とその準備のハードルが相当に高いと考えます。実際、私たちも登録までに2年ほどかかりました。システムの仕様・文言等細かな確認が必要ですし、新しい形態なので論点が多かったです。

透明性の高い金融商品を広めたい

小村さんはなぜ起業しようと思ったのですか?

小村:起業自体は大学の学部生時代から行っておりました。当時からグルメサイトの運用等の個人事業をしながら、自分で事業を営むことの難しさと楽しさを感じていました。
債券の領域に着目したのは、新卒で入社したドイツ証券でクレジット商品を扱っていた頃からです。インカムゲインの投資家需要は強くある一方で、供給側となる社債マーケットが日本は小規模で、一定利率が出るよう組成された複雑な仕組債にニーズが集まる等しておりました。お客様が果たして十分に理解をされた上でリスクを取っていただいているのか不明瞭である状況に大きな課題を感じました。
当時から少人数私募社債の仕組みを研究していて、これをウェブ上で提供することでスケールする可能性が高いのではないかと考えプロトタイプを作成する等様々な検証を始めました。しかし、第一種金融商品取引業者の取得は非常にハードルが高いため、フルコミットする必要性を感じ、起業を決めました。

信頼するチームと共に

大学院の同じ研究室出身の宮崎COO、松澤CTOとは、どのような経緯で一緒に事業を進めることになったのですか?

小村:2人とも大学院を出た後も定期的に会って、事業について話した記憶もあります。
松澤はエンジニアとして優秀であるのは勿論、組織づくりや人間性を考えて、起業するならCTOを松澤にしたいと考えていたので、すぐに声を掛けました。
COOの宮崎は総合的に業務全体を統括できるマルチプレーヤを探していた時に、当時マッキンゼーで働いていて、松澤とともに研究室の同期であったこともあってお声がけしました。タイミングもよく、二人とも積極的に参加してくれました。

Angel Bridgeとの出会いを教えてください。

小村:シリーズBの資金調達に向けて動いていた際に、Angel Bridgeの投資先のCEOが社会人時代からの友人で、興味を持ったので紹介してもらいました。とにかく早く検討していただき、迅速に意思決定をしてくださったことが印象的で、起業家フレンドリーだと感じました。

河西:ありがとうございます。偶然、私たちもデータベースを用いたソーシングをしている中で、Siiibo証券にお声がけしようと決めていたんです。ちょうど1週間後くらいにご紹介の連絡があったときは驚きました。

信頼するチームと共に

なぜAngel Bridgeから投資を受けようと思ったのですか?

小村:面談を重ねる中でAngel Bridgeの体制や社員の皆さんから学べることが多く、ぜひ今後もアドバイスをいただきたいと思ったからです。カルチャーフィットも感じていて、感覚や細かな仕事の進め方、コミュニケーションの方法等が合っていると思います。

なぜSiiibo証券へ投資しようと思ったのですか?

河西:もともと私は金融機関出身で私募債への理解はあったのですが、それをネット上で簡単に発行できるという事業がイノベーティブで面白いなと思いました。ニーズという面でも、ローン等ではなく社債の発行によって資金を調達したいというケースが多くあることはベンチャーキャピタルとして日々実感していますし、マーケティング要素のニーズもあると思いました。
さらに、経営チームがバランス含め非常に魅力的だったことも大きな決め手です。個別にインタビューを行う中で信頼できる方々という印象でしたので、ぜひ応援したいと思いました。我々としてもカルチャーフィットを感じていましたね(笑)。

大切なのはプロダクトへの強い思い

河西さんから見て小村さんはどんな起業家だと思いますか?

河西:小村さんは大志が大きい起業家だと思います。社債を世の中に広めていくということに対してのパッションが大きいですし、真面目に取り組んでいる印象ですね。事業を進めていく上で非常に重要な、プロダクトへの強い思いをいつも感じています。

大切なのはプロダクトへの強い思い

資金調達後、Angel Bridgeからはどのような支援を受けましたか?

小村:アーリーから上場に向けて体制を整える中で、河西さんには会議体の運営や事前準備、リクルーティングに関する知見をいただいています。社内に上場まで会社を牽引した経験を持つ人がいないので、とてもありがたいです。
おかげさまで、シリーズBで投資をしていただいてから、さらにしっかりと体制を整えることができていると感じています。

後輩起業家にアドバイスがあれば教えてください?

小村:プロダクトへの思いや自分の作りたい世界観をしっかり持つべきだと思います。
会社を経営していく中で本当に苦しいと感じることもありますし、周囲の起業家の方々からもそういったお話はよく伺います。逆境を乗り切って最後までやりきるためには、やはりCEOの事業に対する強い思いが必要だと感じています。

Siiibo証券の事業を通して、今後どのようなことを実現していきたいですか?

小村:シンプルなものに投資ができる世の中にしたいです。現状、シンプルな商品は株式が中心で投資家様のポートフォリオにおける債券の割合はまだまだ小さいです。私たちは、投資家様に適合した商品をお届けしていくことで、社債という選択肢をより多くの方々に広めていきたいです。
さらに、ベンチャーデットが盛り上がりを見せる中で、発行企業側の市場も開拓していきたいと考えています。今後拡大が予想される、地方の有力な中小企業が外部資本を入れるニーズ等につなげていきたいです。

2022.06.29 INVESTMENT

今回は、Angel Bridgeが飲食店向けの発注業務自動化サービスを提供する、株式会社Goalsへ投資した理由を解説します。

GoalsはAIで需要予測し自動発注を行う、クラウド型サービス「HANZO 自動発注」を提供しています。スマホ画面等で必要な食材が一目でわかる仕組みで、これまで手作業で行われていた飲食店舗での発注業務を自動化します。発注にかかわる時間や食材棚卸に要する時間の削減、結果として人材不足を補い、食材原価率も大幅に改善することができます。
Angel Bridge投資の舞台裏#8
昨今、新型コロナウイルス感染症流行の影響で急速なオンライン化や労働力不足が問題となり、多くの企業で積極的に店舗DX化(デジタルテクノロジーの導入)が進められています。特に飲食店の効率化ニーズは高く、今後市場ポテンシャルはさらに拡大していくことが想定されます。そのような状況の中で、店舗のオペレーションに沿った高い品質のプロダクトを提供するGoalsに可能性を感じ、投資に至りました。

では、Angel Bridgeが具体的にどのような検討を行ったかについてご紹介します。

飲食店の発注業務における課題

まず飲食店の発注業務がどのように行われているのかご説明します。

発注業務には大きく分けて4つのプロセスがあります。

需要予測
過去データなどを基に今後数日間の各メニューの販売数、必要な各食材量を予測し、適正在庫を計算します。
在庫確認
冷蔵庫やストックスペースの食材を全てカウントし、適正在庫と比較して在庫の過多や過小なものがないか、食材の品質が大丈夫か、期限切れを起こしているものがないかなどを確認します。
卸会社ごとの発注量決定
食材ごとに卸先が異なるため、それぞれの発注条件を確認します。例えば、発注から納品までのリードタイムを把握する作業や1個単位なのか10個単位なのか、もしくはグラム単位なのかといった発注単位の確認作業があります。
発注システム入力
決定した発注量を食材ごとにシステムに入力します。

これらの作業は欠品を起こさず適正な食材原価率を維持するために、非常に重要な作業であり、飲食店では毎日多ければ1時間以上かけて実施されていますが、全てアナログな手作業で行われており、需要予測については店長など発注担当者の勘に委ねられている場合が多い現状があります。

そのため発注業務は作業負荷が大きくミスが生じやすいうえ、人材確保の面でも店舗拡大のボトルネックとなっています。
具体的には下図のように、過剰発注により食材の原価率が悪化してしまうことや、店長など熟練者のスキルに一任しているため人材確保が困難であることが大きな課題となっています。
飲食店の発注業務における課題
GoalsではAIによる需要予測と在庫量計算や発注表作成の自動化により、これらのペインを解消するサービスを提供しています。

サービス概要

では、Goalsの提供するサービス内容をご紹介します。

Goalsは自動発注システムHANZOを開発しています。
これまでの発注作業とHANZOでの大きな違いは、人間が手作業で行っていた業務を極限まで自動化し、最終確認のみ人の目で行うという点です。
サービス概要
在庫確認、売上・消費食材の需要予測はすべてAIが行い、メニューの提供数やロスの情報から、残存している在庫量と必要在庫量を自動計算します。卸会社ごとに発注表の案を自動で生成でき、必要に応じて微調整するだけで発注作業が完了するという仕組みです。

これにより、店舗側では発注時間の大幅な削減や発注担当者の労働環境の改善が実現したうえ、会社としても利益率改善や人材不足問題の解消による事業拡大につながっています。実際に多くのユーザーからは予測精度の高さ、他システムとの連携といった点で高い評価を得ています。

さらにHANZOは飲食店の店舗オペレーションに即した細やかな機能開発を行うことで、現場の使い勝手の良いサービスを作り上げています。

①売上予測の自動化
売上予測・消費量予測表の作成
②適正発注案の自動作成
在庫量・売上予測を計算し、発注表を自動作成
確定情報を発注システムに連携
③異常値アラート
過剰・過小発注、発注漏れなどのアラート
④ロス等報告機能
ロス・在庫切れ・小口購買を店舗スタッフが入力報告できる機能(より高い発注精度にも繋がる)
⑤売上予測手修正機能
店舗の現場しか知り得ない需要変動要素も加味し、手修正が可能
⑥納品スケジュール自動計算
仕入れ先の休業日や納品リードタイムを全て加味し最適な納品スケジュールを算出

競合

Goalsの競合についてです。

飲食向け自動発注システムには、自社のネットワーク内で利用するオンプレミス型と、インターネット接続ができる環境であればどこでも利用できるクラウド型の2種類あります。

オンプレミス型の自動発注は多数存在しますが、クラウド型はGoalsが唯一です。オンプレミス型は自社サーバー内でのシステム構築を行うため、導入コストが高いのに比べ、クラウド型は低コストで導入でき、使い勝手が良いというメリットがあります。

さらに需要予測を組み込んだ高度な仕組みは、システムに数億円の投資を行う一部のトップ企業でしか実現できていませんでしたが、Goalsのサービス利用者に最新の機能を提供できるため競争優位であると考えています。

実際に業界を牽引する大手飲食チェーン店での導入実績が多数あり、プロダクトの信頼性が伺えます。

経営陣

投資するにあたり、経営陣の皆様への理解も深めました。

  • 佐崎傑 Goals代表取締役CEO
  • 佐崎傑代表取締役CEOワークスアプリケーションズに新卒入社し、ソフトウェアエンジニア・事業責任者を経験。 同社で各業界リーディングカンパニーのバックエンド業務の改善に携わる中で、企業の仕入・製造・販売を司るサプライチェーン領域の課題解決が日本社会を大きく成長させる可能性を感じ、2018年7月にGoalsを創業。
  • 多田裕介 Goals共同創業者、 CTO
  • 多田裕介Goals共同創業者、 CTOサム・ヒューストン州立大学にてコンピュータサイエンスを専攻。ワークスアプリケーションズからフリークアウト転職後、複数の新規事業立ち上げに参画。2018年7月に、CEO佐崎とGoalsを共同創業し、CTOとしてプロダクト開発全般と新規プロダクトの立ち上げを担当する。

代表取締役の佐崎氏は元々ワークスアプリケーションズ社でエンジニアとして活躍し、最年少のDivision Managerとして数百名の組織を統括したエース社員でした。「産業に深く関わり、明確な価値を提供できるプロダクトを作りたい」という思いから創業しました。
面談を重ねていく中で、ロジカルな思考と強力なやりきり力でチームからの尊敬も熱く、強いリーダーシップの持ち主であることが感じられました。

共同創業の多田CTOは大学時代にコンピューターサイエンスを専攻しており、佐崎氏とは前職から一緒に働いていました。周囲からは「2人には阿吽の呼吸を感じる」といった声も挙がるほどで、強いチームを作っています。

おわりに

最後に、今後の展望ついてご紹介します。

現在は自動発注以外にも、45日先の売上予測や従業員の必要時間を算出する「HANZO 売上予測」など人件費や原価の最適化を実現するさまざまなラインアップを備えています。
ここからより外食企業の商流全体の課題解決を目指すため、原価・人件費・販売の最適化へ向けてプロダクトの強化を図ります。

中長期展開としては、外食企業の食材需要データを用いて食品流通の在庫・物流計画の最適化、食品製造の生産計画の最適化などに対応するプロダクト開発を進め、食品産業全体の生産性向上に貢献できると考えています。

以上のようなプロダクト戦略によって、Goalsがメガベンチャーになる可能性はさらに高くなると考えられます。

これまでGoalsへの投資に至った理由を説明してきましたが、このように社会に大きなインパクトをもたらすために、難しい領域に果敢に取り組むベンチャーをAngel Bridgeは全力で応援していきます!事業や資金調達のご相談など、お気軽にご連絡ください!

2022.06.28 COLUMN

こんにちは!Angel Bridgeインターンの山田と申します。

前々回の「Angel Bridge USベンチャー研究#8」は、EC上で返品された商品の検品・保管を行い、最高値で販売可能なチャネルに出品するOptoroについて紹介しました。
Angel Bridge USベンチャー研究#8

今回は、ECサイト内に高性能な検索アルゴリズムをAPIとして提供することでCVRを向上させるalgoliaについて紹介します。

Angel Bridge USベンチャー研究#9 (参考:EC×APIサービスの全体像)
algolia概要

algoliaは2012年に自然言語処理のエンジニアであったNicolas Dessaigneによって設立されました。2022年までに合計9回の資金調達を行っており、合計調達金額は$334M、評価額は$2.2Bです。

algoliaは「1つ1つのECサイト内にGoogleのような検索アルゴリズムを搭載する」ことをコンセプトに事業を展開しています。

algolia概要

続いて、algoliaのビジネスモデルについて紹介します。

algoliaはEC企業に対して、検索アルゴリズム (algolia SEARCH) とレコメンドアルゴリズム (algolia RECOMMEND) をAPIの形で提供します。

algolia概要

マネタイズはAPIの月額使用料で行っており、料金体系は基本料金+使用量に応じた従量課金となっています。

algolia概要 (参考:algolia料金体系)
解決しているペイン

ECサイト内の検索アルゴリズムの質が低いと、消費者がサイトに立ち寄っても欲しい商品が見つけられず離脱につながってしまうため、検索アルゴリズムの質はCVRに直結する重要な要素です。
しかし、一部の大企業を除いてほとんどのEC事業者には、自社サイト内に高度な検索アルゴリズムを構築できる優秀なエンジニアを雇う余裕がありません。
また、近年はShopifyなどのパッケージを利用してサイトを立ち上げるEC事業者が増加していますが、そうしたパッケージに最初から実装されている検索アルゴリズムも性能が高いとは言えません。

このようにEC事業者にとって、自社サイト内に高度な検索アルゴリズムを手軽に構築できないことは大きなペインとなっていました。

サービス内容

algoliaはわずか5分で実装可能な検索アルゴリズムである「algolia SEARCH」をAPIの形で提供することで、上記の課題を解決します。

また、検索アルゴリズムと連動した商品レコメンドエンジンである「algolia RECOMMEND」もAPIとして提供しており、相乗効果でCVRの向上を実現します。

以下、それぞれのサービスについて見ていきます。

① algolia SEARCH

algolia SEARCHは、あらゆるウェブサイトやアプリケーションにわずか5分で実装可能な高性能の検索アルゴリズムです。

以下、代表的な機能を紹介します。

A. 業界最速の検索処理スピードと自動インデックス作成機能
algolia SEARCHによる一件当たりの検索処理スピードは1~20ミリ秒であり、これは競合他社の200倍のスピードです。
また、API接続をした瞬間から1秒当たり約数千のインデックスを自動で作成する機能を有しており、開発者がインデックスを作成する必要がありません。
インデックス:検索エンジンが使用するデータが保存される場所のこと。ゼロから検索アルゴリズムを構築する場合、自社ECサイト内の全ての商品のインデックスを開発者が作成する必要がある。
B. AIによる同義語の設定機能
サイト内集まった様々な消費者の検索履歴をもとに、AIによって自動で同義語を設定することが可能です。まずは下の画像をご覧ください。
サービス内容(参考:同義語生成のイメージ)
このように、消費者は同じ商品を見つけるために様々な言語や語彙を用いて検索をしますが、すべての消費者のニーズに応えられるように同義語を人の手で設定しておくことはほぼ不可能です。
しかし、algolia SEARCHに搭載されているAIは検索履歴が溜まれば溜まるほど新たな同義語を設定することが可能です。
また英語・日本語・中国語・ドイツ語などあらゆる言語にalgolia SEARCHは対応しているため、「日本語+英語」の並びにも対応することが可能です。
この機能によって、消費者のサイト初回訪問時のCVRを向上させることが可能です。
C. AIによるパーソナライズ機能
algolia SEARCHのAIはパーソナライズ機能も有しています。
下のイメージのように、消費者のサイト内での行動履歴に基づいて、商品を検索した際の表示結果をパーソナライズすることが可能です。この機能によって、消費者の2回目以降のサイト訪問時のCVRを向上させることが可能です。
サービス内容 サービス内容
(参考:パーソナライズの例)
D. レポート機能
algolia SEARCHはサイト内の検索結果を自動でレポートにまとめることが可能です。
サービス内容
サービス内容
(参考:レポート機能)
E. ビジュアルエディタ機能
上記のレポート機能をもとに、簡単なドラッグアンドドロップインターフェイスで商品の表示結果を手動で変更することが可能です。
そして、変更されたことによる売上の変動は上記で紹介したレポート機能で確認することが可能です。
サービス内容
(参考:ドラッグアンドドロップインターフェイスでのサイト編集)
サービス内容
(参考:検索結果のうち関係のないものを手動で非表示にする機能)

以上、algolia SEARCHの代表的な機能をまとめました。この他にも下記のような機能があります。

サービス内容 サービス内容 サービス内容

② algolia RECOMMEND

algolia RECOMMENDはalgolia SEARCHと連携することが可能です。
それによって、個々の消費者のサイト内での行動履歴に基づいて、関連商品やよく一緒に購入される商品のレコメンドを行うことが可能です。

サービス内容 (参考:algolia RECOMMEND)
トラクション

代表的な顧客にはDiorLVMHグループなどの有名ファッションブランドや、オフィス機器を扱うStaplesなどが並びます。

トラクション (参考:algoliaの主要顧客)

実際の導入効果の一例として、LACOSTEではサイト内の商品検索からの売上が150%上昇し、CVRも37%上昇しました。

トラクション (参考:LACOSTEの導入効果)

また、API接続可能なプラットフォームにはShopifyをはじめ以下のものがあります。

トラクション
日本市場

日本でもEC事業者に検索アルゴリズムを提供している企業は既に存在しています。
しかしながら、algoliaのようなユニコーンは存在していません。

この理由は大きく2つ考えられます。
第1の理由として、algoliaはEC事業者に対してだけでなく、SlackやStripeなどのSaaSサービスや様々なメディアサービスに対しても検索アルゴリズムを提供しているのに対して、日本企業のサービスはEC事業者のみを対象としているので、市場の大きさが異なることが挙げられます。
この市場の違いは、algoliaの検索アルゴリズムがECサイトだけでなく、あらゆるサイトやアプリ内で機能するように設計されているという、algoliaの技術力の高さに起因しており、日本企業が簡単に模倣できるものではないと思われます。
続いて第2の理由として、日本におけるEC消費は、検索アルゴリズムをAPI連携することができないAmazonや楽天などのモール型ECに集中していることが挙げられます。
そのため、日本のEC事業者は「検索アルゴリズム自体を高性能にすることで自社の商品を探しやすくする」という戦略ではなく、「自社の商品をいかにしてモールの検索アルゴリズムに最適化するか」というSEO対策を中心に行なっており、algoliaのようなサービスを提供する企業の需要はアメリカほど大きくないと思われます。

以上2つの理由により、日本ではalgoliaのようなEC事業者に検索アルゴリズムを提供するユニコーンは存在していませんが、モール型ECのSEO対策のサービスなど、日本のEC市場に特化した検索アルゴリズムサービスを提供する企業が生まれるのではないかと期待しています。

おわりに

今回はEC領域特化SaaS紹介の第四弾として、EC事業者に高性能な検索アルゴリズムをAPIの形で提供するalgoliaについて紹介しました。
サイト内の検索アルゴリズムの違いによって、CVRが大きく変化するというのは非常に面白いと思いました。
また、日本とアメリカのEC市場の違いから、日本独自のサービスが生まれる可能性もあるため、ECの検索アルゴリズム領域には今後も注目していきたいと思います。

最後になりましたが、Angel BridgeはCVR向上を目的としたEC周辺サービスにも積極的に投資しています。事業の壁打ちや資金調達のご相談など、お気軽にご連絡ください!

2022.06.07 ACADEMY

昨今ベンチャーキャピタル (VC) の数は増加傾向にあり、インターネット上には様々な情報が散乱しています。起業家の皆さんも、どのようにVCを選べばいいのか分からないと感じているのではないでしょうか。良いVCを見つけても、具体的にどのようにアプローチすればよいか分からないこともあると思います。

そこで、前回のスタートアップアカデミー#1|シードベンチャーの資金調達の考え方とは? では資金調達の考え方を解説しましたが、今回は実際にVCを選ぶ過程で必ず押さえておくべきポイントをご紹介していきたいと思います。

資金調達における7つのステップ

まず、資金調達を行う際のプロセスを簡単にご紹介します。

資金調達には大きく分けて以下の7つのステップがあります。

資金調達における7つのステップ

一見とても大変そうですが、あらかじめセオリーを抑えてしまえばほとんどの工程はスムーズに進めることができます。今回フォーカスする「④投資家へのコンタクト」については会社の属性によって取るべき対応が異なります。数多くのVCから自分の事業に合ったところを選択するには、資金以外の面でVCに何を求めるかをまず考えましょう。求めるものは事業内容・ラウンドによっても異なるため、それらに応じて当然お声がけすべきVCも異なります。

国内のVCにはいろいろな属性がある

では、実際に日本にはどのようなVCがあるのでしょうか。

国内のVC・投資家は以下の図のように、投資先の企業のステージや出資母体の違いにより棲み分けされていて、シード特化、独立系、CVC、金融系、グロース系、外資系、機関投資家系等に分類されています。

国内のVCにはいろいろな属性がある

それぞれのVCの特徴をご紹介しましょう。

シード特化VC
シードラウンドにのみ投資を行うVC。投資先が多く、ネットワークが充実しているため、投資を受けることで他の起業家との接点を持つことができます。シードベンチャーとの付き合い方に非常に慣れており、適度な距離間でサポートを得られること、デューデリジェンス(意思決定)も短時間で実施してもらえることなどのメリットがあります。一方でデメリットとしては、投資件数が多いので手厚いハンズオン支援は期待できないこと、次ラウンドで追加の投資が得られない可能性が高いことが挙げられます。
独立系リードVC
リードで投資を行い、ハンズオン支援を行うケースが多いVC。アーリーステージからミドルステージまで連続的に投資を行うことが多く、長期的なお付き合いが期待できます。ちなみにAngel Bridgeはここに分類されます。
シナジーのあるCVC (Corporate Venture Capital)
事業会社が自己資金で運営するVC。投資の際には事業上の提携を前提として求めることが多いです。資金だけでなく自社のリソースを提供してもらえるというメリットがあります。ミドルステージ以降で投資を行い、フォローで投資を行うケースがよく見受けられます。
金融系サイレントVC
銀行、保険会社、証券会社が自己資金で運営するVC。フィンテックなどに多く投資をしており、CVC的な側面もありますが、CVCほど協業を求めておらず基本的に投資後はサイレントになります。リードを取るケースは少ないですが、次のラウンドでの追加投資も期待できます。
グロースVC
ミドル/レイターステージに特化して投資を行うVC。ファンドサイズが大きく、最低ロットが10億円などと決まっていることが多いです。1-3年でIPOを目指すベンチャーが主な対象となります。
外資VC/外資PE/上場株機関投資家系VC
最近はこれらのプレーヤーも日本市場でベンチャー投資を積極化しています。ファンドサイズが非常に大きく、IPO前に大型資金調達を行う際には頼るべき存在です。

以下の図はこれらのVCの属性別投資額割合を表したものです。
投資額で見ると、独立系VCが全体のおよそ3割を占めています。また、2019年から2020年にかけては金融系VCの割合が大きく減少し、CVCが増えていることが分かります。CVCについては、事業会社側の新たな成長ドライバー発掘のニーズの高まりから、年々設立件数・投資額ともに増加が見られ、今後も規模の拡大が見込まれています。

国内のVCにはいろいろな属性がある

VCからの資金調達、どう始める?

いよいよ個々の投資家を検討していきますが、まずは資金調達するVCの構成を決めるところから始めましょう。
調達先は1社に限定せず、2-3社から調達することをお勧めします。1社に絞ってしまうと、そのVCの持つ決定権が大きく、方針が合わない際に継続が困難になってしまいます。逆にVCが多すぎても各種手続きに時間がかかりすぎてしまいます。
それぞれ異なる強みの支援を受けることができるうえ、追加出資が受けられないというリスクを減らすことができるという点で2-3社から投資を受けるのが適切と考えています。

複数の投資家から資金調達する際には、リード投資家、フォロー投資家という概念を理解する必要があります。
リード投資家は基本的に各資金調達ラウンドで最大の投資額を出す投資家のことを指します。投資時にはそのラウンドの投資家を代表して投資条件の交渉や契約書の作成の取りまとめを行います。投資後は投資先との接点も最も多く持ち、株主を代表して最大限支援を行う存在となります。
一方で、フォロー投資家はリード投資家をフォローするという立場で、必要に応じて支援を行います。
リード投資家をまず決定し、そこで合意した条件でフォロー投資家を決めるという流れで調達を進めます。

このようにリード投資家は起業家にとって、パートナーとも呼ぶべき関係性となり、重要な役割を持ちます。リード投資家の選択はとても大きな決断と捉えて、慎重に行うことをお勧めします。

VCのどこを見るべき?

では実際に投資家を選ぶ際に、どのようなポイントを見たらいいのでしょうか。
我々が数々のスタートアップに投資を行ってきた中で、特に抑えておくべきだと感じる4点をご紹介します。

支援の手厚さ
投資家が支援をしてくれるかどうか、見極める必要があります。
投資後に受けることができる支援の内容はどのようなものであるか、きちんと確認しましょう。投資家の話す内容だけでは本当に実行されているか分からないこともあるため、過去の投資先に対してどの程度の支援実績があるのかや、チームの構成については調べておくと参考になると思います。
出資スタイル
投資家との面談の際には、投資金額の目安だけでなく、次のラウンドでの追加出資の意向も聞きましょう。VCによって投資対象のステージが異なるので、次回は出資しない場合や、出資は受けられない代わりに他のVCにつないでもらえる場合など様々なケースが考えられます。ただ、継続的に出資を受けている方が対外的に評価が上がることがある上、新たに資金調達を行う際にかかる時間を短縮し、事業に集中できるなどメリットが大きいのも事実です。長期的に見て自分に合った出資スタイルの投資家を選びましょう。
意思決定のスピード感
実際に投資を受けるまでにどういった手順で、どのくらいの期間がかかるのかはVCによってそれぞれです。スピード感をもって進めたい事業であれば、意思決定の速さは、その後ラウンドを進めていく中でも重要な事項になるので、確認するべきでしょう。
ブランド力
VCのブランドも判断材料になる場合があります。特に海外ではSequoia Capital(セコイアキャピタル)などのネームの良いVCから出資を受けることで、注目度が上がり、他のVCからも投資を受けやすくなることもあります。
相性
投資を受けたVCは株主となり、基本的に上場までの長い期間を共に歩んでいくことになります。経営者のパートナーとして信頼関係を築けることが重要です。ミーティングの場の印象だけでなく、食事をしたり、リファレンスを取ったりすることも相性を確かめるために有効です。

以上を踏まえて、調達ステージ毎の資金調達の意味とどういったVCから調達するべきかをセットで考えると、自分に合ったVCに出会えるのではないかと思います。

まずはそれぞれのVCを知ることが大切です。最近ではどのVCもSNSやブログ記事、イベントなどで積極的に情報発信しているので、簡単にチェックすることができます。投資先の評判を聞いたり、知人のつてを使ったりして情報収集を行いましょう。
アプローチ方法としてはツイッターアカウントへのDM・オフィスアワーへの申し込み・HPへの問い合わせ・人づての紹介・イベントへの参加などたくさん考えられます。後悔のない資金調達ができるよう、最大限活用していきましょう。

Angel Bridgeでは社会に大きなインパクトをもたらすために、あえて難しいことに挑戦していくベンチャーを応援していきたいです。事業の壁打ちや資金調達のご相談など、お気軽にご連絡ください!
ツイッターアカウントではお役立ち記事やイベントの情報発信を行っています。気になる方は、ぜひチェックしてみてください!

2022.05.27 COLUMN

こんにちは!Angel Bridgeインターンの黒田です!

アメリカの未上場Fintech企業についての調査結果をシリーズ化して発信しています。

今回は第8弾として、スマホ投資アプリを提供するpublic.comを紹介します。

public.com

public.com概要

public.comは2019年に連続起業家のLeif Abrahamとフィンテックについて深い知識があるJannick Mallingの二人によって設立されました。2021年までに5回の資金調達を行っており、最新のラウンドでは$1.2Bの評価額で$220Mを調達しています。ユーザー数が300万人を超え、トラクションが順調に伸びていることからfintechの中でも注目すべき企業となっています。

public.com概要

public.comはミッションとして「株式取引の民主化」を掲げています。サービスとしては投資アプリを提供しており、特徴として以下の4つが挙げられます。

  1. ①手数料無料
  2. ②少額から取引可能
  3. ③SNS機能の搭載
  4. ④教育コンテンツの充実

これらは全て投資をよりポップにする機能であり、さらにUI/UXをシンプルにすることでこれまで投資に関わったことのない人でも使いやすいアプリとなっています。

サービス内容

①手数料無料
public.comでは株式の取引手数料だけでなく、銀行出金や入金にかかる手数料も無料で、入金しなければならない最低残高要件もありません。つまり、完全無料でアプリを利用することができます。
では、実際どのように収益を得ているのでしょうか。
public.comは以下の内容を公開しています。
https://public.com/learn/how-does-public-make-money
ここでは、取引の際に支払われる選択制のチップや投資されていない現金残高の利子、証券貸付から収益を得ていること、また今後有料のプレミアム機能を追加することで、サブスクリプションとして課金される可能性があることが書かれています。選択制のチップとはその名の通りで、取引の際にチップを支払うかどうか、またその額を選択することができるシステムになっています。
②少額から取引可能
public.comでは株価に関わらず、「slicing stocks」と呼ばれる任意の金額の株を購入することができます。これまで、本来は全ての人に開かれていたはずの株式市場でも購入単価の高い株は一般の人々には手が出せないという状況でした。しかしpublic.comでは、一株$1,000の株であっても$10分だけ購入するということが可能です。この機能があることで、資金をあまり持たない人でも高価な株を購入できます。
③SNS機能の搭載
public.comではSNS機能が搭載されており、ユーザーがポートフォリオを公開してお互いにフォローしたり、意見を交換したりできます。他人がなぜその株式やETF、暗号通貨を取引しているかを学べることや、興味を持っているテーマ(自動運転やフェムテック、環境問題など)が同じ人のポートフォリオを真似できることが、投資初心者にとって魅力的な機能となっています。
また、フォローしている企業や投資家の動向、IPO情報をすばやく検索確認できる機能もあります。
SNS機能の搭載 SNS機能の搭載
④教育コンテンツの充実
public.comのサイトには投資や株式に関する情報がたくさん載っています。またアプリにも教育機能が盛り込まれており、専門用語をタップすると定義が見られる、株価がなぜそのように動いているか解説してくれる、などの機能があります。
教育コンテンツの充実
教育コンテンツの充実

トラクション

CEOへのインタビューによると2021年2月時点でユーザー数は100万人を突破し、現在は300万人に到達しています。さらに、ユーザー全体の40%が女性で、90%のユーザーがpublic.comで初めて投資を行ったとされています。「株式取引の民主化」をミッションに掲げているpublic.comが、従来の投資家とは異なる層の獲得に注力していることがわかります。

競合

最も大きな競合として挙げられるのはRobinhoodです。2021年7月に時価総額$29Bで上場した企業で、ユーザー数は現在約2,000万人です。public.comと同じく手数料無料のスマホ投資アプリを提供しています。また、少額から始められる点もpublic.comと同様です。

競合

しかし、Robinhoodは投資の手軽さを強調しすぎたあまりに、若者や新規投資家が投資リスクを過少に扱って大きなレバレッジをかけてしまったり、個人投資家による株式市場操作が行われたりするなど問題を起こしてきました。

有名なものでは「GameStop事件」があります。これはヘッジファンドが空売りをしかけていたGameStop社の株に個人投資家が買い注文を殺到させ値を吊り上げることで、ヘッジファンドに莫大な損失を出させた事件です。この買い注文は主にRobinhood上で行われました。この時RobinhoodはGameStop株の購入を制限し、結果として株価の下落によって個人投資家の多くは損失を出しました。これはヘッジファンドが自由に取引できる一方で、個人投資家の株式購入を妨げる措置だとして、ユーザーだけでなく政治家からも批判が殺到しました。

また、Robinhoodは収益の大部分をPFOF (payment for order flow) と呼ばれる仕組みで得ています。これは証券会社(Robinhood)が個人投資家からの注文情報を機関投資家に回し、報酬を受け取るという仕組みです。機関投資家はその情報を分析することで市場での取引精度を上げ、利益を増やします。しかし、この行為が個人投資家に損失を出させているのではないかという批判があり、問題となっています。

一方でpublic.comはこれらの問題が起きないための対策を行っています。顧客には長期的なポートフォリオの構築を推奨しており、実際に90%のユーザーは「自分は主に長期投資を行っている」と回答しています。また、取引できる市場をNYSEやNASDAQなどの主要な取引所に制限し、オプション取引や信用取引口座のような複雑な取引商品を提供しないことで、個人投資家をリスクの高い投資から保護しています。

さらにpublic.comは収益モデルを透明化させるために、ビジネスモデルからPFOFを排除しています。代わりに選択制のチップ制度を導入することでこの問題を解決しています。

日本市場

日本では株式会社スマートプラスの「Stream」、マネックス証券の「ferci」が類似サービスといえるでしょう。どちらも取引の手数料は無料であるうえ、アプリ内でコミュニティを作り、ユーザー同士が交流できます。ほかにもベンチャー企業が出てきており、「投資 x SNS」領域は盛り上がっています。

日本市場日本市場

これには人々が資産形成に興味を持ち始めていることや、コロナ禍での株価の下落により投資機会が増えたことが原因として考えられます。日経新聞の調査によると、資産形成・資産運用の必要性を感じている人は増えています。20代の38%がコロナ禍による株価の下落を「利益を増やすチャンスだと思った」と回答しており、実際に20代の33.1%が「投資総額を増やした」と回答しています。あまり資金をもたない若者が手軽にスマホで投資を始められる手段として、これらのサービスが刺さっているのだと考えられます。

日本市場
日本市場

おわりに

今回の記事ではpublic.comを紹介しました。手軽に投資を始められ、ユーザーがお互いに交流できるサービスが海外だけでなく日本でも盛り上がっていることがわかりました。

最後になりましたが、Angel Bridgeは世の中を大きく変えるフィンテック企業に積極的に投資しています。 事業の壁打ちや資金調達のご相談など、お気軽にご連絡ください!

2022.05.27 INVESTMENT

今回は、Angel Bridgeが処方箋入力代行SaaSを提供する株式会社プレカルへ投資した理由を解説します。

プレカルは薬局向けに、オンライン事務員による処方箋入力代行サービス「プレカル」を提供しています。

Angel Bridge投資の舞台裏#7

処方箋入力は薬局最大の事務作業であり、「処方箋の複雑さ」や「ソフトの難解な操作性」によって薬局の大きな負担になっています。その処方箋入力をなくすため、送信された処方箋の画像を元に遠隔でAIと人力を組み合わせた入力代行を行うプロダクトを開発しています(プレカルホームページより引用)。

労働人口の減少を背景に、店舗運営効率化や利益率向上のための店舗型ビジネスDX化の流れが到来している中、日本に6万店舗存在する薬局における最大の業務課題をAI搭載のOCRとクラウドワーカーの二重チェック体制の構築という新たな方法で解決に導くプレカルに大きな可能性を感じ、投資に至りました。

では、Angel Bridgeが具体的にどのような検討を行ったかについてご紹介します。

薬局業務における課題

薬局業務は
①受付→ ②処方箋入力→ ③薬の準備→ ④薬のお渡し→ ⑤薬歴
という流れで行われます。
中でも処方箋入力は薬局業務において最も時間のかかる事務作業ですが、処方箋の年間発行枚数は8.4億枚と推定されていて、年間1,100億円もの人件費が割かれているのが現状です。

処方箋入力作業は、処方箋をレセプトコンピューターという「レセプト(診療報酬証明書)」を作成するコンピューターシステムに打ち込む作業で、調剤報酬点数の計算に必要です。この点数に応じて薬局が市町村から貰える補助金の金額が決まるため、薬局運営には必要不可欠な作業であり、患者に渡すための、薬の説明が記載された紙の発行にも必要です。

薬局業務における課題

しかし、薬剤師や事務員が処方箋1枚につき40項目ほどを手作業で打ち込まなくてはならないため、1日あたり約4時間もの時間を割かれていることが大きな課題となっています。

サービス概要

では、プレカルのサービス概要をご紹介します。

プレカルは処方箋入力を代行するサービス「プレカル」を提供しています。
従来の処方箋入力代行サービスは、手書きや印刷された文字をイメージスキャナやデジタルカメラによって読み取り、コンピュータが利用できるデジタルの文字コードに変換するOCRという技術を用いて行われてきました。

処方箋には40以上の入力項目があり、フォーマットも病院ごとに異なるため、OCRのみを使った入力代行では精度が90%程度と低いことが課題で、薬剤師が入力内容をチェック、修正する必要があるため、結果として業務負担はあまり改善されませんでした。

一方でプレカルはOCRに加えて、大量のクラウドワーカーによる二重チェック体制を構築することで99%以上の精度での処方箋入力代行を実現しています。

プレカルを活用した実際の処方箋入力フローはこのようになります。

サービス概要

  1. 患者がプレカル受付システムに問診票やお薬手帳の内容を入力
  2. 患者が処方箋をスキャン
  3. OCRとクラウドワーカーの2重チェックによるドラフト作成
  4. RPAを用いたレセコンへの自動入力
  5. 処方箋入力情報や薬の説明書の印刷

患者の来店から処方箋のレセコンへの入力、印刷までの一連の作業において、薬剤師や事務員の業務負担を大幅に軽減することが可能です。

競合

次に競合についてです。

処方箋の入力代行には多くのプレーヤーが存在していますが、それらはOCR技術のみを使ったサービスを提供していて、ご紹介してきた通り精度が低く、十分なペインの解決には至っていません。

競合

一方でOCRとクラウドワーカーによる2重チェック体制を構築しているプレーヤーはプレカルのみとなっています。

1~3分程度の入力時間で99%以上の精度を実現するうえ、クラウドワーカーに訂正されるにつれてAIが学習し、精度が向上するという特長を持つため、実用性が高くニーズは非常に強くなります。
また大量のクラウドワーカーによる素早いチェック体制の構築が必要であり、学習が可能なAIの開発も行わなくてはならないため、参入障壁は高いと考えています。

経営陣

投資を検討するにあたって、経営陣への理解も深めました。

経営陣

代表の大須賀氏は北里大学薬学部卒業後、薬剤師としての勤務経験や薬局設立経験があり、業界に深い知見を持っています。
Angel Bridgeとの一年間に及ぶ定期的なミーティングの中では、大須賀氏の誠実さや事業にひたむきな姿が印象的で、自身で開発から営業までこなせる行動力に富んだ人物であることが分かりました。また周囲へのインタビューでは人望の厚さや、投資家やチームからの信頼も確認することが出来ました。

おわりに

最後に、プレカルの今後の展望について説明します。

処方箋に含まれる情報は患者の健康状態の評価や背景を把握するための大きな価値があるものの、現状では薬局の店舗内でしか管理できておらず、有効活用の大きな余地があります。

プレカルが多数の薬局に普及することで処方箋のデータ数が集まれば、医療ビックデータプラットフォームを構築することが可能になるため、処方箋入力SaaSに留まらない成長可能性が存在すると考えられます。特にプレカルではOCRで処方箋を読み込む際に同時並行でAIによって構造化を行なっているため、薬局ではできない処方箋情報の構造化が可能です。構造化されたデータによって医療機関における薬の需要予測が可能になるため、製薬会社にとって大きな需要が存在するでしょう。

処方箋に含まれる情報は患者の健康状態の評価や背景を把握するための大きな価値があるものの、現状では薬局の店舗内でしか管理できておらず、有効活用の大きな余地があります。

プレカルが多数の薬局に普及することで処方箋のデータ数が集まれば、医療ビックデータプラットフォームを構築することが可能になるため、処方箋入力SaaSに留まらない成長可能性が存在すると考えられます。特にプレカルではOCRで処方箋を読み込む際に同時並行でAIによって構造化を行なっているため、薬局ではできない処方箋情報の構造化が可能です。構造化されたデータによって医療機関における薬の需要予測が可能になるため、製薬会社にとって大きな需要が存在するでしょう。

おわりに

医療ビッグデータ市場は日本の高齢化や医療現場の逼迫などの背景から、毎年平均で11.7%の成長を続けており、2025年には約8,300億円に到達する見込みの巨大市場です。
プレカルは取得できる情報の種類が他社と比べて多いため、アップサイドが狙えるのではないかと考えています。

これまでプレカルへの投資に至った理由を説明してきましたが、このように社会に大きなインパクトをもたらすために、難しい領域に果敢に取り組むベンチャーをAngel Bridgeは全力で応援していきます!事業や資金調達のご相談など、お気軽にご連絡ください!

2022.05.23 INTERVIEW

KYC、コンプライアンスチェックの効率化

事業内容をご説明いただけますか?

飛内:主にKYC(本人確認)とコンプライアンスチェックに関わるデータの提供とコンサルティングサービスを行っています。反社会的勢力等の団体に所属していないか、過去に犯罪や不祥事への関与などがないかなど、主に属性を見てアドバイスを提供しています。
具体的な方法としては、公知情報というインターネット上のメディアや風評などの情報をシステムで定期的に取得して、ノイズを消去し、顧客に必要な情報だけを自動で抽出、整形、解析します。公知情報の取得は30分に1回のペースで24時間、365日行っています。

同様の事業を行っている企業は他にありますか?

飛内:いくつかありますね。一方でKYCやコンプライアンスチェックに関わる情報を提供している企業は、これまで労働集約型で人の手で行うことが中心でしたが、弊社はそれをシステムに置き換えて自動化しています。ヒューマンエラーやチェックスキルといった属人的な作業を均一化でき、さらにコストが格段に下がるといったメリットがあります。

世の中の不幸を減らしたい

世の中の不幸を減らしたい

なぜKYCコンサルティングを創業しようと思ったのですか?

飛内:私は20年以上の間、危機管理会社で企業のリスクマネジメントを行っていました。その中で企業不祥事・事件・事故を数多く見て、このようなことが起きてほしくないと思ったのがきっかけです。
また、これまで労働集約型で行われていたKYCやコンプライアンスチェックに対し、新しい金融サービスであるフィンテックやDX目線を取り入れながら効率化、コストダウンを行う必要性があると感じたため、思い切って新しく会社を立ち上げました。

飛内さんの他にはどのようなメンバーが集まっていますか?

飛内:顧問には伊藤忠の元常務である木村とジャスダック証券取引所の元常務である徳原がいるほか、営業では金融機関出身者やインターネット風評に関わっていた方がいます。
私はブロックチェーン推進協会のリスク管理部会で会長を行っているので、そこで知り合って加入したエンジニアもいます。

Angel Bridgeとの出会いを教えてください。

飛内:2019年に生損保会社のコンサルタントの方に林さんをご紹介していただき、まずお人柄が素敵だと思いました。私は起業したばかりで右も左も分からない状態でしたので、ハンズオンで経営のノウハウを指導してもらえると伺って、さらに魅力を感じました。
特に、アイデアをビジネスとしてどう具現化するかを教えてもらえたところがありがたかったです。当時はシード期でまだまだビジネスが成り立っていないタイミングでしたので、リスクを取っていただいたのではないかと思います。

なぜKYCCに投資しようと思いましたか?

林:社会の非効率化を解消する中で、手続きの電子化という流れが来ると感じていて、リスクを予知する取り組みも電子化されるのであれば、あらゆる場面でサービスが使われるだろうと思いました。また飛内さんのご経験と工夫を電子データベース化すれば、他に類のない高度な仕組みができると思いました。

世の中の不幸を減らしたい

資金調達までにどういったことを検討しましたか?

林:サービスが有用であることは確かでしたので、個人情報保護という課題について飛内さんの取り組みを確認しました。また、グレーヘアのスタートアップなので体力・精神的に大丈夫かという心配はありましたが、飛内さんの十分な覚悟を確認できたので投資に至りました。

資金調達後の歩み

資金調達後、Angel Bridgeからはどんな支援がありましたか?

飛内:定例会を月1回開催していただき、前月や中長期での取り組みについての報告と、それに対するアドバイスをいただいています。不定期でお客さんの紹介・経営上のアドバイスなどもしていただいています。

林:今後は人材紹介も強化していきたいです。

後輩起業家に向けて、起業にあたってアドバイスがあれば教えてください?

飛内:以前、外国人の集まりでピッチをしたことがあるのですが、その時に「日本にもシニアアントレプレナー(起業家)がいることを海外へ知らしめてください!」と言われました。海外にはシニアが経営する企業が日本より多いのですよね。日本は少ないとはいえチャンスはいくらでもあるはずなので、失敗を恐れず、諦めなければ成功するのではないかと思います。

林:人生一回ですから、やりたいことをやるのは大切ですね。

真面目に働く人々に光を当てる

今後どのような会社にしていきたいですか?

飛内:私たちは「KYCを社会インフラ化すること」をミッションとして掲げています。KYCは企業にとって重要なプロセスの一つですから、これまで資金が潤沢な中規模以上の企業でないと利用できなかったのを、小規模の会社まで広げていきたいですね。

真面目に働く人々に光を当てる

また、悪い人って世の中に1割もいなくて、9割以上の方々が家族や社会のために真面目に働いています。私たちは、表向きは悪い人を健全な経済取引から排除するという取り組みを行っていますが、本当に光を当てたいのはこの9割以上の方々で、彼らに社会的受益を得てもらうには何が必要なのかを考えています。具体的には格付けなど、情報に対して新しい価値を付けることが大事だと考えています。SNSでの発信やボランティアとかなども個人の重要な情報の一つです。個人の多面的な評価を日本にも根付かせたいです。

事業を通して社会に届けたいことはありますか?

飛内:企業の事件・事故・不祥事や、そこから生じる二次被害といった不幸ができる限り起こらない社会を作りたいです。
KYCは海外ではポピュラーで、大きなコストをかけて行われており、水準で言うと日本はまだまだ低いです。今後、日本企業がグローバルに進出するためには、海外のKYC先進国と同様の水準が必要です。そのため、私たちはKYCを広く日本社会に根付かせ、より健全な取引を行うことができる環境を構築していきたいと考えています。

2022.04.27 INTERVIEW

ソフトウェアの開発をもっと効率的に

まずMagicPodの事業内容を教えてください。

伊藤:私たちはノーコードでソフトウェアテストを自動化するプラットフォームを作っています。ウェブサイトやモバイルアプリを作る時には、作ったものがきちんと動くかテストをする必要があって、これをソフトウェアテストといいます。ボタンを押してみてエラーが出ないかなど、画面操作により想定通りの動作となっていることを確認していく作業があります。それらの作業はほとんどエンジニアの手作業や目視で行われていて、すごく手間がかかるので、MagicPodではこれを自動化するサービスを開発しています。
私たちが扱うE2E(End to End)テストはシステム全体を通して行うテストで、ユーザーと同じように操作を行って、きちんと動くかを見るものです。テストの中でも一番重要で、ニーズが高いものを自動化することに取り組んでいます。

ノーコードでの自動化ということですが、ノーコードとはどういうものなのですか?

伊藤:これまでソフトウェアの自動化をするには、それぞれの手順についてプログラムを書かなければいけなかったので、専門のスキルを持った自動化エンジニアが必要でした。しかし、ノーコードサービスを使えばプログラムを書かなくても、画面上で項目を選んでいくだけで簡単にテストができます。
世界的にエンジニアが足りない一方でITの需要が増えていて、「プログラムを書かない人でもシステムを作れるようにしよう」というトレンドが来ているので、私たちのサービスにちょうどマッチしているなと感じています。

同じような事業を行っている企業はあるんでしょうか?

伊藤:ノーコードでの同様なシステムを提供している会社は国内、海外にいくつかありますが、これらの会社はウェブサイトでのテストを主に扱っています。一方でMagicPodはウェブサイトとモバイルアプリの両方で使うことができ、その点は他社と比べて非常に大きな強みですね。モバイルアプリは歴史が浅くてノウハウがない上に、変化も多いので、技術としては圧倒的に難しいのです。

伊藤さんはどのような経緯で起業したのですか?

ソフトウェアの開発をもっと効率的に

伊藤:私はもともとワークスアプリケーションズという、会計のERPソフトを作る会社でエンジニアをしていました。エンジニアとして働く中で、ソフトウェアの品質管理がスピード感のある開発をする上で、大きなボトルネックになっていることに気付きました。テストをより効率化して、時間がなくてもシステムの品質を担保できるようにすることが重要だと思って、そこから社内向けのテストツールを作り始めました。ベースのエンジンから自分で設計をして、ひたすら試行錯誤の日々でした。結果、会社全体がそのツールを使うようになって、業務が大きく改善されたんです。この功績を評価していただき、その年は約3,000人の会社で3名ほどしかもらうことができない、社長賞をもらうことができました。
その時に自動化という技術に魅力を感じて、社内だけでなく世界中で使われるような製品を作りたいと思い起業しました。

起業してからはどのように取り組んでいきましたか?

伊藤:日本でテスト自動化というもの自体があまり普及していなかったので、まずは無料で使えるオープンソースのツールについてまとめた本を書きました。市場がそもそもなかったので、作るところから始めました。
普及活動の一環としてコミュニティを作ったり、イベントを企画したりもしましたが、それらのノウハウがなかったのでとても苦労しましたね。頑張って企画した第一回の勉強会のゲストが直前で来られなくなってしまうというアクシデントなんかもありました(笑)。

理想的なツールの作成に挑む

市場を開拓するとなると、大きな壁もたくさんあったと思います。その中で伊藤さんを突き動かしていたのはどういった思いでしたか?

伊藤:世の中には良い技術もテスト自動化の需要もあるのに、なかなかユーザーには使ってもらえないというギャップを埋めたい気持ちが大きかったです。ソフトウェアの品質の問題はみんなが困っていたのですが、なかなか良い解決策がなくて諦めていたんです。自動テストというものもありましたが、もっと使いやすくしないと世界中に使ってもらえるものにはならないと感じていました。
最初は既存のツールを普及しようと考えましたが、やはりノーコードで誰でも簡単に扱えるものでないと取り入れてもらうのが難しく、理想的なツールを自分たちで作りたいと思って「MagicPod」という製品を作り始めましたね。

伊藤さんのほかには、どのようなメンバーがいらっしゃるのですか?

伊藤:会社や製品の方針などについてはテックリードの玉川と主に2人で考えています。玉川はもともと東大の情報学研究科で機械学習の研究をしていて、卒業後は自動化や開発効率化、自動テスト技術の普及活動を行っていました。
運営していた自動テストのコミュニティに顔を出してくれていたのがきっかけで、当時からとても優秀な方だと感じていました。お誘いして最初は断られちゃいましたが、その後無事に加わってくれました。よくぞ来てくれたなと、うれしく思っています。

AngelBridgeとはどのように出会いましたか?

伊藤:もともとシードラウンドではIncubate Fundから出資してもらっていました。当時は製品の出来が悪く、ユーザーもつかず、投資を受けるまでに苦労したのを覚えています。シリーズAの調達のときにパートナーの河西さんがFacebookでメッセージをくださったのがAngel Bridgeとの出会いでしたね。お話するうちに、私たちに足りないファイナンスやビジネスサイドを補完してもらえそうだと感じました。これからラウンドを進めていく中でもスピード感を持って進めていけそうだなと思って、投資を受けることを決めました。

理想的なツールの作成に挑む

河西さんはなぜMagicPodに出資をしようと思ったのですか?

河西:まず伊藤さんの技術力の高さですね。チーム全体を見ても、類い稀な優れた技術を持っているところに惹かれました。特にモバイルアプリでのテストを自動化する技術は、誰に聞いても非常に難しいと言っていて、このチームの技術は相当なものなのだと確信しましたね。
また伊藤さんとお話していく中で、ソフトウェアの品質テストというものが長期にわたってエンジニアの方々にとっての大きなペインであったことが分かって、そこを解決に導いていることにも感銘を受けました。

投資検討を進めていく中でよく覚えているエピソードはありますか?

河西:伊藤さんは京都大学の数学科出身とスーパー優秀な印象だったので、投資するにあったって唯一の心配事として、もしかしたら技術を磨きこむことができれば満足してしまうのではないかと思っていたんです。そこで一度、「IPOへのこだわりはありますか?」と質問したことがあるんですよ。そのときに伊藤さんが、「私は学生時代、ノーベル賞を目指して研究をしていました。今、ベンチャーを始めたからには同じくらいのパッションをもって事業を成功させたいですし、同様にIPOを目指したいです。」とおっしゃっていたのがすごく印象的です。伊藤さんから、技術開発だけでなくベンチャー企業としての成功を追及していきたいという強い気持ちを感じました。起業をするうえで、そういった気持ちはとても大事だと思うんですよね。

伊藤:私もその会話はよく覚えています。お寿司を一緒に食べていたときでしたよね(笑)これまでエンジニアとしては、本や海外での講演、社長賞など、一般的に見るとトップレベルとされる成果を出しました。ただ自分の中ではこれらにあまり満足していなくて、やはり達成感を得るには事業として成功させるしかないなと、起業してからずっと思っていますね。

河西:伊藤さんには秘めたる闘志をいつも感じますね。毎月定例会議を行っていても毎回着実に進歩していますし、ひとつひとつ地道にくじけずにやっていくところがすごいなと思います。

伊藤:私は得意じゃないことをするのが得意なのかもしれないですね(笑)。元来、営業やプレゼンテーション、イベント企画などは一番苦手な分野なんですが、会社のために必要であれば何でも頑張ろうと思っています。

投資実行後、Angel Bridgeからはどんな支援がありましたか?

伊藤:まず月一の定例会では毎回アドバイスをいただいていますね。プロファーム出身のエキスパートからコンサルティングを受けられる機会はとてもありがたく思っています。担当の八尾さんは、実際のお客さんの声を集めて製品に足りないところをフィードバックしてくれるなど、親身にご支援いただいています。最近ではストックオプションの設計を始めているのですが、そこについてもとても良いアドバイスをいただきました。

Angel BridgeはどんなVCだと思いますか?

伊藤:投資を受けてみて感じたのは、とても勢いのあるVCだなと思っています。優秀な方々でありつつ、例えばバーべキューを一緒にしたときはとても愉快な方々だと感じました(笑)。
あと、他の投資先を見ていると、VCとしての目利き力が特に優れているなと思いました。キラリと光るベンチャーを見つけてきて伸ばすのが上手いんじゃないかと思います。

最終的には銀行を目指していく

世界に愛されるプロダクトを

後輩起業家に向けて、起業にあたってアドバイスはありますか?

伊藤:最近は昔と比べて資金調達の選択肢も増えていますし、スタートアップのビジネスをするハードルがかなり下がってきているように感じています。日本でもベンチャービジネスに流れる資金が増え始めていますし、今後数年間は起業のチャンス期間になるかもしれないですね。例えば、会社で10人の部下がいるっていうことは、ある意味10人ぐらいのベンチャーを経営できるノウハウがあるってことだと思うんです。そういったビジネススキルがある人は、ぜひチャレンジしてみるといいんじゃないかなと思います。

MagicPodをどのような会社にしていきたいですか?

伊藤:「MagicPod」を世界中の人が使うサービスにしていきたいですね。特にエンジニア向けのサービスは法律や文化にあまり依存しないので、日本の市場から海外に持っていくのはあまり難しくないんです。そういう面で私たちのサービスは日本のスタートアップの中でもかなりグローバル進出しやすい領域だと思っています。
会社としての在り方でいうと、やっぱりユーザーさんに愛されるようなプロダクトを作る会社であり続けたいと思います。ユーザーの声はすごく大事にしていて、「これ欲しい!」みたいなリクエストをいただいた際はかなり注力して、積極的に機能追加をしています。今後会社が大きくなっても、そういった心を失わないようにしたいですね。

社会に届けたいことはありますか?

伊藤:会社の新しいミッションとして、「ソフトウェア開発の常識を一変させる」ということを掲げたいと考えています。ソフトウェアの開発もテストもですが、本当は面倒くさいなと思いながら我慢してやっていることがたくさんあると思います。私たちはそういう、みんなが当たり前だと思って我慢していることを、自動化やAIといったテクノロジーを使ってどんどん変えていきたいです。ソフトウェア開発というプロセスの中から、楽しくないものをなくして、本当に楽しいことだけをやっていられるような環境にしていきたいと思っています。ソフトウェアに携わる全ての人たちが幸せに、より楽しく開発できるように、技術革新を進めていきたいです。

2022.04.21 COLUMN

こんにちは!Angel Bridgeインターンの山田です。

前々回はアメリカのEC領域特化SaaS紹介の第2弾として、ECでの返品業務を効率化するReturnlyについて紹介しました。

今回は、同じくECの返品領域において、返品された商品の検品・保管から再販までを効率化するOptoroについて紹介します。

参考:EC×APIサービスの全体像

Optoro

Optoro概要

Optoroは2010年に、eBayの出品代行サービスであるE-Spotの元創業者、Tobin Mooreによって設立されました。2021年までに合計10回の資金調達を行っており、合計調達額は$270M、評価額は約$1Bです。

Optoroの最大の特徴は、「返品された商品を検品・保管し、最も高値で売れる二次流通チャネルで再販する」という、返品におけるEC事業者の業務のほぼ全てを効率化するソリューションを展開していることです。

Optoro概要

続いてOptoroのビジネスモデルについて紹介します。

OptoroはEC事業者と提携し、返品された商品の検品・在庫管理と、最高値で売れるチャネルの特定・再販を行います。

Optoro概要

マネタイズは在庫管理の月額費用と、再販の手数料として売上の一部をもらうことで行なっています。

また、前回紹介したReturnlyなどの返品効率化SaaSと連携することで、返品における消費者とのやりとりも効率化することが可能です。

参考:ReturnlyとOptoroの返品における業務範囲イメージ

Optoro概要

解決しているペイン

アメリカのEC小売業の返品率は25% ~ 40%で、2020年の返品額は$500B(約60兆円)にものぼります。加えて、返品された商品のうち毎年約26億kgもの商品が廃棄されており、大きな環境問題となっています。

一部の大企業では、返品された商品を中古商品として再販することで廃棄を減らすという取り組みが行われていますが、ほとんどの中小規模のEC企業は、商品の管理コストや輸送コストの背景から再販しても利益が出ないため、再販を行うことができないというペインを抱えていました。

Optoroのサービス内容

Optoroは自社で倉庫と再販用の二次流通マーケットの両方を抱えることで在庫管理と流通のコストを抑え、中小規模のEC企業でも再販から利益を得られるようにします。

以下、在庫管理と再販のそれぞれの機能について紹介します。

①在庫管理
返品された商品が契約企業から全米にあるOptoroの倉庫に運ばれると、画像認識AI搭載のスキャンシステムによって、返品された商品を瞬時に検品しデータベース化します。
参考:検品を行うスキャナー
Optoroのサービス内容
そして、再販商品として出荷されるまではSmartRTV®テクノロジーによって効率的に在庫管理されます。SmartRTV®はAPIでクライアントの在庫管理システムと連携することも可能です。
参考:Smart RTV®テクノロジーによる在庫のデータベース化
Optoroのサービス内容
②再販
SmartDisposition®テクノロジーによって、倉庫に管理されている商品がどのチャネルで最も高く販売できるかを瞬時に割り出します。
再販される主なチャネルは、Optoroが運営している二次流通マーケットである「BLINQ(BtoC向け)」と「BULQ(BtoB向け)」の二つのチャネルの他、AmazonやeBayなどが挙げられます。
参考:SmartDisposition®テクノロジーによる収益予想と、BULQのイメージ
Optoroのサービス内容 Optoroのサービス内容
また、SmartDisposition®テクノロジーによって再販できないと判断された場合も、廃棄に回すのではなく慈善団体へ寄付を行うことで、できる限り廃棄を減らす取り組みを行なっています。
この場合は再販による利益を得ることができませんが、それでもEC事業者にとっては商品の管理費用や処分費用が浮くため、非常にニーズの高いサービスとなっています。

Optoroを支える技術

Optoroを支える最大の技術は、前述のSmartDisposition®テクノロジーです。

SmartDisposition®テクノロジーには大量の商品情報を用いて学習させたAIが搭載されており、返品された商品をどのチャネルで販売すれば良いかをわずか数秒で判断することが可能です。

この他にも、倉庫で用いるスキャナーには画像認識AIが搭載されており、検品とデータベース化を同時に行うことができる点など、Optoroはロジスティクス企業でありながら高い技術力を有しています。

実際に、現CTOであるDouglas Bemis氏はUber AI Labs*のCTOを務めていた人物であり、その他にも精鋭エンジニアが多数Optoroに在籍しています。
*Uber AI Labs:Geometric IntelligenceをUberが買収して設立された人工知能の研究部門。自動運転技術の開発などを行う。

トラクション

Optoroの提携企業は、以下のような大規模ブランドから中・小規模のブランドまで多岐に渡ります。

参考:代表的なOptoroの提携ブランド

トラクション

日本市場

日本においても返品領域は盛り上がり始めており、前回の記事で紹介したReturnlyのような返品の受付業務を効率化するSaaS企業は日本でも登場しています。

しかし、Optoroのような在庫管理から再販まで返品の領域全般をカバーする企業はまだ現れていません。

この理由として、アメリカでは以前から返品された商品を取り扱う二次流通マーケットが盛んなのに対し、日本ではまだそういったマーケットが盛り上がっていないことが挙げられます。

というのも、初期のOptoroは最高値で販売できる二次流通マーケットを選定して出品するソリューションのみを手掛けており、そこから自社で倉庫を構えたり、運送業者と提携したりすることで現在のビジネスモデルに至るからです。

よって、日本でもまず初めに、返品された商品の二次流通マーケットを手掛ける企業が現れ、市場が盛り上がった後にOptoroのような企業が現れるのではないかと考えられます。

おわりに

今回はEC領域特化SaaS紹介の第三弾として、返品領域全般をカバーするOptoroを紹介しました。「返品された商品の再販を最適化する」という日本にはまだないコンセプトを持っており、日本の返品市場の今後の展開を考察するうえで重要な企業なのではないかと思いました。日本でもOptoroのような企業が現れるのか、それともアメリカには存在しないビジネスモデルの企業が登場するのか、これからもECの返品領域に注目していきたいです。

最後になりましたが、Angel BridgeはCVR・LTV向上を目的としたEC周辺サービスにも積極的に投資しています。 事業の壁打ちや資金調達のご相談など、お気軽にご連絡ください!

2022.04.09 INVESTMENT

Siiibo証券は社債に特化した唯一のネット証券会社です。企業情報の閲覧から社債の購入・管理まですべてオンラインで完結するプラットフォーム「Siiibo」を運営しています。
社債は決まった期間で一定の利息が入る金融商品で、企業が投資家から直接資金調達するための手段です。従来社債の発行には高いハードルがあり、実際に活用できる企業は限られていましたが、Siiibo証券は私募の仕組みを利用することでそのハードルを下げ、未上場企業を含む多くの企業が社債を発行できる環境を作り上げています。
では、Angel BridgeがSiiibo証券に投資する前にどのような検討を行ったかについてご紹介します。

サービス概要

まずSiiibo証券のサービス内容をご紹介します。
Siiibo証券は社債に特化したネット証券会社として、オンラインで簡単に社債を発行・購入できるプラットフォーム「Siiibo」を運営しています。「Siiibo」では発行企業と投資家の間に立ち、IR情報のやり取り、募集、入金、社債発行などを行うサービスを提供中です。 サービス概要 特にSiiibo証券が扱う社債は「少人数私募社債」というもので、広く一般に募集する公募債と異なり、募集先が50人未満に限られます。一方で発行企業、投資家の双方に様々なメリットをもたらします。 サービス概要

発行企業側の主なメリットとして以下の2点があります。

①短期間、低コストでの資金調達が可能
通常の公募社債の発行には格付機関による投資適格の格付けが一般に求められるほか、煩雑なドキュメンテーションが求められます。上場企業で管理部門が整った組織でない限り、現実的には社債を発行することは極めて困難でした。期間としても通常3-4か月程度の準備期間を要します。それに対してSiiibo証券では、私募の仕組みを活用することによって財務諸表の監査意見取得等を含む、数週間~1ヶ月程度の審査を通過すると募集可能となり、格段に低いコスト・業務負担で社債を発行することが可能です。
②調達手段の多角化
これまで社債を検討できなかった未上場企業もSiiibo証券を活用することで調達の手段を多角化することができます。スタートアップがなかなか銀行から融資が引けない中、社債発行というデット性の資金調達手段を得られることの意義は非常に大きいと言えます。
投資家側の主なメリットは以下の5点です

①”社債”という一般的でシンプルな商品
社債はシンプルで透明性の高い商品であるため、ソーシャルレンディングよりも充実した情報開示によって自ら投資判断をすることができます。また未上場企業などの、リスク・リターンの観点から魅力的な案件を見つけることが可能です。
②リターンが分離課税
Siiibo証券で得たリターンはソーシャルレンディングと異なり、総合課税ではなく分離課税になります。確定申告の対象外となり、特に高所得者層からは魅力的なポイントとなっています。
③分散投資に適切
株式はキャピタルゲインを主な目的としているのに対して、社債はインカムゲイン型であるため分散投資先として適しています。ポートフォリオに組み込むことで、より柔軟にリスク・リターンの比率調整が可能です。
④投資家保護の取り組み
Siiibo証券は第一種金融商品取引業者として登録の上、私募社債を取り扱っています。そのため、分別管理や投資者保護基金の加入といった、一種業者に義務付けられる倒産隔離の仕組みが導入されており、投資家を保護する取り組みがなされています。
⑤企業を直接応援できる
自ら社債の発行企業を選び、購入することは直接的にその企業を応援することにつながります。自分が共感する事業に取り組むスタートアップを直接応援できる機会は投資家にとって魅力となります。

これらのメリットが評価され、サービスローンチ以来、実際に株式会社Wells Partners、yup株式会社、五常・アンド・カンパニー株式会社、琉球アスティーダスポーツクラブ株式会社、株式会社ツクルバ、Siiibo証券株式会社といった上場企業を含む6社の社債を発行しています(2022年3月25日時点)

マーケット

次にマーケットについて説明します。
資産運用サービスは昨今注目を集めていますが、ビジネス環境が整うまでには大きな変遷がありました。

2008年maneoにより、日本で初めてとなるソーシャルレンディングが個人融資を中心として開始され、企業融資への転換を経て、一躍成長ジャンルとして注目を集めました。しかし2014年になり、融資先保護のため借り手の詳細情報を隠す匿名化が義務化されたことで、不透明な資金使途の募集が可能になり、複数の会社が行政処分を受けることになりました。

2019年に融資先の匿名化が解除され、再び借り手の詳細情報を開示できるようになったことで、ソーシャルレンディング市場には融資先・資金使途を開示することを特徴として打ち出す透明性の高いプレーヤーが誕生しました。

資産運用サービス全般についてもビジネス環境が整備され、実際に2015年に会社設立後、一気に預かり資産を拡大して2020年に上場を果たしたWealthNaviをはじめとして数々のメガベンチャーが生まれています。

Siiibo証券の詳細な情報開示と高い透明性を重視した仕組みは以上の流れを汲んでおり、ユーザーのニーズにマッチしたものだと考えています。

競合

Siiibo証券の競合についてです。

最近では人々の資産運用意欲の高まりが明確なトレンドとなり、これまでになかった個人向け資産運用サービスが数々登場しました。これらのサービスは仕組みや投資対象によって以下のような棲み分けがなされています。 競合 新たな個人向け資産運用サービスには株式投資型クラウドファンディングやソーシャルレンディング、ロボアドバイザー等があり、それぞれに多くのプレーヤーが存在しています。一方で、私募社債についてはSiiibo証券が唯一のプレーヤーとなっています。

では、私募社債を扱う上での参入障壁にはどのようなものが挙げられるでしょうか。

私たちが考えた大きな障壁は、私募社債を運用するためのプラットフォームの構築です。
私募社債を扱うためには第一種金融商品取引業者としての登録が必要ですが、これはベンチャー企業にとって大きなハードルになります。その上、煩雑な社債発行手続きを簡便にするための仕組み作りには金融規制等に対する深い理解と工数が必要であるため、大企業であっても簡単には参入できないと予想しています。

さらに今後投資家と発行企業を集めることでプラットフォームバリューが高まり、一層の参入障壁を作ることができるのではないかと考えました。

経営陣

Angel BridgeがSiiibo証券に投資するにあたり、経営する皆様への理解を深めました。 経営陣 まず代表の小村氏は東京大学大学院工学系研究科を卒業後、ドイツ証券やBlackRockで社債の取り扱いを経験。「社債というシンプルな金融商品を世に広めたい」という想いから創業されました。

周囲の方々へのインタビューからは、小村氏が枠にとらわれない独自の発想と強い信念をもって本事業に取り組んでいることが分かりました。優良な人材を巻き込む力も強く、Siiibo証券には金融・コンサルタント・エンジニアの第一線で活躍してきた極めて優秀かつ業界知見のあるメンバーが集結しています。特に小村氏と宮崎COO、松澤CTOは大学院の同じ研究室出身であり、とても結束が強いチームです。

おわりに

最後にSiiibo証券の今後の展開について私たち想定していることをお話します。

ご紹介してきた通り、Siiibo証券は少人数私募に特化したサービスを提供していますが、このビジネスにはプロ私募や自己募集などの、より市場の大きい近接領域にも拡大していくポテンシャルがあると考えています。 おわりに 少人数私募では比較的信用力の高い企業と一般投資家をマッチングするために一定の審査・営業コストが必要ですが、プロ私募や自己募集では企業の信用力等の制限が緩和されるので、それらのコストが大きく軽減されることが見込めます。

Angel Bridgeは社会に大きなインパクトをもたらすために、あえて難しいことに挑戦していくベンチャーこそ応援しがいがあると考えており、こういった領域に果敢に取り組むベンチャーを応援していきたいです事業の壁打ちや資金調達のご相談など、お気軽にご連絡ください!

2022.04.01 COLUMN

こんにちは!Angel Bridgeインターンの黒田です。

アメリカの未上場Fintech企業についての調査結果をシリーズ化して発信しています。

今回は第6弾として、子ども向けのデビットカードを提供し、金融教育を支援するGreenlightを紹介します。

Greenlight概要

Greenlightは2014年に連続起業家のJohnson CookとReachable創業者のTimothy Sheehanによって設立されました。2021年までに5回の資金調達を行っており、直近のシリーズDでは時価総額$2.3Bで$260Mを調達しています。リード投資家にはAndreessen Horowitzが入っており、大注目企業となっています。

Greenlight概要

Greenlightは子ども向けのデビットカード、口座アプリを提供しています。子どもはアプリ上でお金を使う、貯める、稼ぐ、投資することができます。親はこれらの行動を細かく管理できるようになっていて、子どもに家事を割り当ててお小遣いを渡したり、お金を使ったときに通知を受け取ったりすることができます。つまり、このアプリを通じて子どもに金融教育を行うことができるわけです。

サービス内容

アプリ内で子どもはお金を「使う」「貯める」「稼ぐ」「投資する」ことができます。
では、それぞれについて解説していきましょう。

①使う
子どもはデビットカードを用いてお店で商品を購入したり、ATMで現金を引き出したりできます。Apple PayとGoogle Payに支払い機能を追加することも可能です。このとき、使った金額の1%がボーナスとして還元されます。
また、親は子どもがお金を使う店舗や現金を引き出すATMを指定できる上、カードが使用されたときは通知を受け取れるようになっていて、過去の使用履歴もすべて確認することができます。
サービス内容
②稼ぐ
親は子どもに家事を割り当て、それに対する報酬金額を設定、送金できます。1回限りの家事や繰り返される家事など、さまざまな設定にカスタマイズすることが可能です。また、お小遣いを設定すると、毎月または毎週自動で子どものアカウントに送金されるので、親がわざわざATMに行く必要がありません。10代で仕事をしている子どもたちは、給料の受け取りをGreenlightのアカウントに設定することもできます。
サービス内容
③貯める
アプリ内で貯金の目標額を設定し、それに向けて貯金することができます。親は子どもの収益の中から何%を貯金に回すかを設定管理できます。また、貯金に対しての利子を設定し、実際に親のアカウントから子どもへ利子分のお金を送ることが可能です。
サービス内容
④投資する
このサービスは2021年に新しく始まったプラン「Greenlight Max」で利用できます。子どもはまず、アプリ内で投資について勉強し調査します。さらに親が承認すれば、実際に1株から株式を購入でき、その銘柄は4000以上になります。AppleやTesla, Amazonなどの銘柄が人気なようです。
サービス内容

これらの機能を通じて実際にお金を動かすことで、子どもは金融について様々なことを学べます。具体的には、節約して貯金することの大切さ、複利の偉大さ、投資する意義などです。また、アプリ内では金融についての動画やクイズなどの教育コンテンツも充実しており、そこでも金融についての知識を得ることができます。

サービス内容

親が細かく管理できることもGreenlightの特徴のひとつです。すべての機能において親は子どもの動向を細かくチェックできるようになっています。万が一カードを紛失してしまっても、カードを即座に止めたり、ATMの引き出しをブロックできたりするので安全性の面でも安心です。また、オンラインゲームサイトなど、あまり多くの金額を使うことが望ましくない特定のサービスでは、カードの利用を制限することもできます。

トラクション

2017年のサービスローンチ以来、5年間でアカウント数は450万、年間収益は$100M以上と素晴らしい成長速度です。月額料金はベーシックプランで$5/月、投資機能がついたGreenlight Maxプランは$9.98/月です。これは一家族分の料金で、子どもは5人まで使えます。送金や決済に手数料をかけるのではなく、アカウントごとの月額課金制なので収益が安定しています。

2020年10月にはJPモルガンとの提携が発表され「Chase First Banking」という子ども向けの銀行口座サービスがリリースされました。

競合

このようなサービスはうまく普及すれば、一つの世代をまるまる自分の金融プラットフォームに取り込めるため、リターンの大きいビジネスだと考えられます。そのため、アメリカ国内だけでなく各国にも同様のサービスを提供する企業は数多く存在します。アメリカ国内ではCurrent, Step, イギリスではgoHenry, RoosterMoney, Revolut, フランスではVybe, Pixpay, Xaalys, Kard, スペインではMitto, メキシコではMozperがいます。下にカオスマップとしてまとめました。

競合

日本市場

日本では、まだ子ども用に特化したファイナンスサービスはありません。この背景として、日本は子どもへの金融教育が諸外国に比べて遅れており、家庭でのお金の教育に関する意識も高くないことが考えられます。金融広報中央委員会の調査によると、金融教育の経験がある人の割合はアメリカ21%に対して日本は7.2%と1/3の低さとなっていて、金融に関する問題の正答率は30か国中22位と低い順位にあります(2020年調査時)。

日本では「お金=汚い」、「投資=危ない、怖い」というイメージが未だ根付いているために、金利が低い昨今でも預金が増え続け、株式や投資信託による資産は全体の15%に及ばないという状況です。

では、このような金融教育サービスは普及しないのかというとそうではないと考えられます。2019年に金融庁が「高齢社会における資産形成・管理」という報告書の中で「老後資金は2000万円不足する」と発表し、国内で大きな議論を呼びました。金融教育の重要性が認識され始め、2022年度からは高校の新指導要領に「資産形成」が追加されました。このような金融リテラシーが低い現状を打破しようという流れに乗ることができれば、金融教育サービスにもメガベンチャ―誕生の可能性があるのではないでしょうか。

おわりに

今回の記事では子ども用のデビットカードと口座アプリを提供するGreenlightを紹介しました。お金に関するすべての動きを網羅していて、サービスを通じて子どもが金融を学べるという素晴らしいサービスでした。日本と海外では金融教育事情が異なるものの、時代の流れから考えると十分に可能性のあるサービスなのではないかという結論でした。

最後になりましたが、Angel Bridgeは世の中を大きく変えるフィンテック企業に積極的に投資しています。 事業の壁打ちや資金調達のご相談など、お気軽にご連絡ください!

2022.04.01 INVESTMENT

今回は、SaaS事業者やEC事業者向けにRevenue Based Financing(以下RBF)を提供する株式会社Fivotへ投資した理由を解説します。

まずRBFとは資金調達を行った企業が投資家に対して、その売上高に応じて返済を行うという資金調達方法です。この手法によって企業は株式を希薄化することなく、またスピード感を持って資金調達を行うことができます。

RBFは先行投資が必要かつ、将来の売上高の見通しが立ちやすいSaaS企業やEC事業者が対象です。これらの企業が成長している現在、RBFの需要もますます大きくなると考えられます。そのような背景から、日本でRBFを提供する数少ないベンチャーの一つであるFivotに可能性を感じ、投資に至りました。

それではAngel BridgeがFivotに投資する際にどのような点を検討したのかについて、ご紹介します。

RBFとは ニーズと市場の成長

RBFとはどのような資金調達方法なのかについては以下の記事で詳しく解説しているので、ぜひご覧ください。
Angel Bridge USベンチャー研究#3資金調達プラットフォームを提供する「Pipe」の事例

簡単にいうと、RBFとは資金調達した企業が毎月の売上高から一定の割合で返済するという仕組みの資金調達方法です。

RBFとは ニーズと市場の成長

RBFでは従来の資金調達方法でベンチャー企業が感じていたペインを解決することができるため、強いニーズがあります。
(下の表を参照)

RBFとは ニーズと市場の成長

環境の変化もRBF市場の成長を加速させています。

まず、RBFの対象となるSaaS企業やEC事業者は増加しています。これらの企業の成長には先行投資が欠かせません。親和性の高いRBFの需要はこれらの企業の成長と共に今後さらに大きくなると予想されます。

また、RBFの特長のひとつとして資金調達までの速さがありますが、これには審査に必要なデータを取得する環境の整備が寄与しています。SquareやStripe, Shopifyなどの決済サービスの普及により、審査に必要な詳細な取引データやKPI(Key Performance Indicator:重要業績評価指標)の取得が容易になったことでRBFが広がっています。

実際に海外ではRBF市場が大きく成長しています。複数のユニコーンが誕生し、2019年には市場規模は9億ドルでしたが、2027年には423億ドルに到達すると予想されています。

RBFとは ニーズと市場の成長

ビジネスモデル

Fivotはまず、RBFを提供するための原資として銀行からの融資を含めた複数のデットファイナンスに加え、現状はVCなどからエクイティ(株主資本)で調達した資金も原資として活用しています。将来的には、ファシリティファイナンスや債権の流動化を活用し、より大規模な流動性調達の手段を実行していくことを予定しています。

次に、調達した資金を原資として、将来の売上高を見通しやすいSaaS企業やEC企業に対してRBFを提供します。この時のRBFの金利と、Fivotの調達金利の差がFivotの利益となります。

ビジネスモデル

競合

日本でRBFを提供するプレイヤーはFivotのほかには1~2社のみです。この領域に先行する競合は存在しておらず、Fivotが先行優位を築くことができると考えています。

ただし近接領域として、既に発生している売掛債権を買い取ることで資金提供を行うファクタリングサービスが存在し、上場企業やスタートアップがひしめく熾烈な競合環境となっています。将来的にはこの領域のプレイヤーがRBF領域に進出してくることも想定されます。しかし、そもそもRBFの市場が大きいため複数社の共存が可能であり、さらに先行優位を築いておくことで一定のシェアを確保できると考えています。

経営陣

Angel BridgeがFivotに投資するにあたり、経営陣への理解を深めました。

代表の安部氏は一橋大学卒業後、メリルリンチ日本証券で経験を積んでいます。投資銀行部門の中でも金融セクターを担当しており、金融や規制に関する知識は深く、銀行を変革することへのパッションと事業領域との強いフィットを感じました。

CFOである佐保氏もメリルリンチ出身です。両者相互の信頼も厚く、性格的には相互補完的な面もあり、このチームなら最後まで事業をやりきることができるだろうと考えています。

また、その他のチームメンバーへのインタビューからもマネジメントの二人がチームに信頼されていること、マネジメント二人の間の信頼関係が強いことを確認することができました。メリルリンチ時代の同僚へのインタビューでは二人の前職での評価の高さ、コンビネーションの良さを確認できました。

経営陣

トラクション

トラクションとしては、すでに多数のRBF実施実績があり、対象企業にはSaaS, D2C企業が含まれていました。また、RBF利用の具体的な相談を受けている企業のパイプラインが大量に積みあがっており、RBFを提供する原資さえあれば急速に拡大できる状況でした。企業がRBFで借り入れる資金の使い道としては採用、商品の仕入れ、広告などが挙げられます。ベンチャー企業の先行投資資金として、RBFには強いニーズがあると考えられます。

おわりに

海外ではすでにポテンシャルが示されているRBFという事業領域、その事業領域とフィットしている経営陣など、Fivotにはメガベンチャーになる要素が詰まっていると考えています。

Angel Bridgeは社会に大きなインパクトをもたらすために、あえて難しいことに挑戦していくベンチャーこそ応援しがいがあると考えており、こういった領域に果敢に取り組むベンチャーを応援していきたいです事業の壁打ちや資金調達のご相談など、お気軽にご連絡ください!

2022.03.24 INTERVIEW

新しい金融手法、RBF

Fivotはどのような事業を行っているのですか?

安部:Fivotは2つの事業を行っていて、法人向け、特にスタートアップに対してデットファイナンスを提供するFlex Capitalというサービスと、個人に対して積み立てにより欲しかったものを購入できるプリペイドカードを使ったサービス、IDAREを提供しています。

RBF (Revenue Based Financing) はどういったプロダクトなのですか?

安部:RBFは端的に言うと、将来発生する売上から支払いをしてもらうというスタイルです。分かりやすい例としては、手元の請求書を第三者に売却して現金を得る手法であるファクタリングというものがあるのですが、これの将来版と考えてください。

ファクタリングは売上が既に成立しているものを1-2か月前倒しで入金してもらえるサービスである一方、RBFでは、まだ売上が成立しておらず、これから発生するであろう将来債権を買い取るものになっています。過去を見ているファクタリングなのか将来を見ているRBFなのかという大きな違いがあります。

日本にFivotのような事業を行っている企業はありますか?

新しい金融手法、RBF

安部:個別にみると類似のサービスを行っている企業はあります。Flex Capitalについては、広くみるとVCや銀行も類似のサービスになりますし、スタートアップでも僕らと似たコンセプトでサービスを提供しようとしている会社もあります。

ただ、RBFは売上に完全に連動した新しいファイナンス手法になっているので、そこに限定していくとほとんど競合はいないのが現状です。欧州、欧米などではある程度確立されてきた手法なのですが、日本では当社が先駆者としてやっています。

IDAREに関しては、プリペイドカードに関連する事業をやっているところはたくさんありますが、残高を積み立てて「貯めること」にフォーカスしたプリペイドカードサービス、特に残高に対してポイントバックがされるのは日本でも当社だけです。

最終的には銀行を目指していく

安部さんがFivotを起業するまでの経緯を教えてください。

安部:私は元々メリルリンチ日本証券(現BofA証券)の投資銀行部門でM&Aのアドバイザリー業務や株式債券の引受業務をやっていて、特に金融法人グループで銀行や保険会社のお客様にサービス提供をしておりました。欧州だと2016年くらいからチャレンジャーバンクという新しいベンチャーが銀行免許をとって銀行サービスを始めることが流行っていたのですが、日本にはそのような流れが来ておらず、新規参入による業界のアップデートに可能性を感じていました。

既存の銀行ではどうしても過去のアセットやしがらみに縛られてしまう部分があるので、身軽にゼロから金融を考え直してサービスを作ることが出来れば、海外のチャレンジャーバンクに匹敵するような新しい金融サービスが作れるのではないかと考えました。新しい金融サービスを日本で自分の手で作りたいという気持ちで起業を決意しました。

河西:チャレンジャーバンクといえば、NuBankが上場して話題になりましたが、安部さんはどう見ていますか?

安部:すごいです、素晴らしいですよね。一方で、ブラジルだからできる部分も多いと思っています。既存の銀行インフラが日本に比べると整っておらず、金利も高く、マージンが取れる市場に対して、モバイルオンリーで個人が簡単に安く使えるサービスなので、こういうものができたらいいなと思いますが、日本だと同じモデルでは不可能と考えています。日本の銀行インフラは便利で整備も行き届いているので、単にモバイルで便利に使える新しい銀行では魅力が弱いと見ています。マーケットの違いはしっかり考えながらやっていかないといけないと思います。

河西:チャレンジャーバンクは色々な形がありますからね。日本だからこそのチャレンジャーバンクもあると思うので、RBFを皮切りに色々な形に広げていけたらいいですよね。

安部:べンチマークしているところにイギリスのOakNorthというチャレンジャーバンクがあるのですが、主に起業家や中小企業へのローンを提供していて、少し金利は高いですが凄いスピードで融資の意思決定をしています。データ処理にはAIを使っていますが、AIだけでなく優秀な人間の目でも判断していることを同時に売りにしています。我々も同様のモデルだと思うので、機械と人間のかけ合わせをきちんとやっていかないといけないなと思っています。

起業にあたり安部さんを突き動かしたものは何でしたか?

最終的には銀行を目指していく

安部:そうですね。アドバイザリー業務は第三者的な立場なので、「何かもっとできることがあるんじゃないか」と歯がゆさを感じていたんです。自分が意思決定者になって、自分が考える「これがあればもっとよくなる」というものを作れたら面白そうだなという気持ちでした。自分が中心に立ってサービスを作りたいという気持ちですね。

起業するにあたって悩みはなかったですか?

安部:悩みはなかったです。あまりリスクも感じていませんでした。万が一うまくいかなくても、得られた経験や能力を生かして新しいものを生み出せる可能性を考えると、むしろチャレンジしないリスクの方が大きいと思いました。

河西:フィンテックって他の分野に比べて起業するのが大変そうですが、不安にはならなかったですか?

安部:不安には思わなかったですね。起業する時はだれしも自信過剰になっている部分があると思うんです(笑)。今考えると当時の自信は実力に対して過剰であったなと思いますが、その時はそういった根拠のない自信がありました。

創業時はどのようなメンバー構成でしたか?

安部:創業時は私とCFOの佐保の2名でした。佐保は前職が一緒でして、一時期は一緒にFIG案件を担当していました。次のキャリアとして新しく金融を作ることを打ち明けた時に「ぜひ一緒にやりましょう」と言ってくれたんです。

河西:CTOの方と2名で起業というのは良く見かけますが、似たようなバックグラウンドで起業するというケースは珍しいようにも思えます。このような意思決定をしたのはなぜでしょうか?

安部:佐保はバックグラウンドは近いのですが、考え方は結構違いますね。僕はどちらかというと突き進むタイプで、佐保は一歩下がって客観的に物事を見て、冷静に意見をくれることが多いです。僕がアクセル、佐保がブレーキといった感じでうまく釣り合いが取れていて相性がいいと思ったのでこの2名で起業をすることにしました

その後、メンバーはどのように増やしていきましたか?

安部:2人ともプログラマーではないので、まずエンジニアを採用しようということになりました。フィンテックはお金を扱うのでプログラムのミスはあり得ません。システムが肝なんです。人づてなどで適した知見がある人を探していました。

そんな時に、とあるエンジニア向けの雑誌を読んでいると、フィンテックに関連する記事を寄稿しているエンジニアが目に留まりました。記事の書きぶりを見て、この人は信頼できるなと思いました。早速Facebookで名前を検索して、ものすごく長文のメッセージを送りました(笑)。そのとき彼は転職する気はないと言っていたのですが、ランチに誘ってひたすら口説き、無事Fivotにジョインしてくれることになりました。

シードラウンドの出資はどのようなVCから受けましたか?

安部:最初はEast Venturesから出資を受けました。次のラウンドでDeepcore、ANOBAKAに新しく入っていただきました。

Angel Bridgeとはどのように出会いましたか?

安部:初めはお問い合わせフォームからメッセージをいただいたのがきっかけです。当時別のVCをリード候補で進めようとしていたところでしたが、お話させてもらうことにしました。
もともとAngel Bridgeを知っていた訳ではないのですが、非常に仲が良い知人も出資を受けていたことが分かって、信頼できそうだなと感じました。話を重ねていく中で、特に河西さんにはスタートアップ向けのデッドファイナンスの将来性や必要性をすごく理解していただけました。投資までの意思決定もめちゃくちゃ早かったですね。この人たちと一緒だったらスピード感をもって進められそうだと思いましたね。

河西:初めてお話してから意思決定までどれくらいかかりましたっけ? すごく早く意思決定したのを覚えてます(笑)。

安部:2週間ぐらいですよ。本当に早くてびっくりしました(笑)。それだけこの事業に対して将来性を感じてくれているんだなと思って、すごく嬉しかったです。経営陣に対する期待も強く感じ、必ず成功させようと思いました。

河西さんは投資にあたってどのようなことを検討しましたか?

最終的には銀行を目指していく

河西:まずRBFというプロダクトがすごくいいなと思いました。ベンチャーがデッドを借りづらい状況の中で、将来発生するであろう売掛債権をディスカウントで買うというやり方があるのに驚きました。最近はStripe、Shopify経由など、売上のデータはいろんなやり方で連携できるので、そのデータをみて素早い意思決定ができるというようになって来ています。アメリカでは既に盛り上がっているので金融商品として定着しうるものであるという感覚を持ちました。ほとんどコンセプトと経営チームだけで意思決定しましたね。安部さん、佐保さん、この2人が真面目に命賭けてやるんだったらいっちょ賭けてみるかと!

河西さんが投資検討を進めていく中でよく覚えているエピソードはありますか?

河西:オフィスがベンチャーっぽくて、非常に好感度が高かったですね。外は古くても中がすごくきれいになっていて。

安部:外見はボロボロなんですが、中はリノベしてあったんですよね。ビルの外観だけみると取引先に驚かれることもあります。

Angel Bridgeからはこれまでどんな支援・取り組みがありましたか?

安部:いろいろご支援いただいていまして、継続的なところで言うと月次定例では毎回アドバイスをいただいています。採用面でも優秀な人材を紹介していただき、ありがたかったです。その中で一番プラスになっているのは、富裕層の方をご紹介いただいて、その方から資金面でのバックファイナンスを一部いただいていることですね。これは事業面の直接のインパクトがある支援なので本当にありがたいです。

Angel BridgeはどんなVCだと思いますか?

安部:支援の濃度が特に高いと感じています。VCによってサポートの方法は様々なのですが、Angel Bridgeさんにはゴルフに誘っていただくなどプライベート含めて密度濃くお世話になっていますね。先日のディナーもすごく盛り上がりましたよね(笑)。

河西:若干飲みすぎましたが楽しかったです(笑)。

最終的には銀行を目指していく

お金で未来の経済を救う

後輩起業家に伝えたい、起業にあたって気を付けるポイントはありますか?

安部:そうですね。反省点として挙げられるのは、あれもこれもやってみたいという気持ちがあったので方向性が定まらなかった時期があったことです。結果的には、仮説を持ってやってみたので少しやった段階でダメなことが分かったのは良かったですね。

ただ、もう少し仮説の数は最初から絞れたかなと思っています。一度に打つ仮説の数を思い切って減らした上で、じっくり1つ1つの検証を進めてもよかったかなと。具体的に言いますと、個人に対しての融資サービスやABL(Asset Based Lending:顧客の流動資産を担保として活用する金融手法)などもやっていたのですが、これらについてはプロダクトとしてのシャープネスをもっと磨くべきだったなと思います。構想段階で進めてしまうと労力含め大変でしたね。

結果論ではあると思います。やらないよりは良かったですが、絞り込みの段階でまだできることがあったなと思います。

Fivotをどんな会社にしていきたいですか?

安部:私たちは既存の金融機関では埋められていないスペースを埋めるための新しい金融を目指しています。そのスペースを埋めなければならないと考える理由として、そもそも金融はお金があれば成長できるのにお金が足りなくて成長できないところにお金を融通するためにあると思っています。特にベンチャーについては、現在はGDPに占める割合は微々たるものですが、今後の経済の新陳代謝や構造変化の中でその割合は増えることが予測されるので、今から資金を融通する仕組みを作っていかないと経済が滞ると感じています。
将来的にFivotがいたから経済が促進されて、色々なベンチャーや成長企業が生まれたと思ってもらえたら本望ですね。

何を社会に届けたいですか?

安部:直接的に社会に何を届けるかと言えばお金になると思うのですが、これを必要な企業に届けることで企業が成長して、消費者に付加価値がより大きく届けられるという循環を実現したいですね。社会の成長を助けることにつながるのではないかと思います。

2022.03.17 INTERVIEW

タグの自動登録で商品を発見されやすく

LISUTOはどのような事業を行っているのですか?

プラテック:我々はAIを使って、ECモールにおける消費者の商品の発見しやすさを自動的に大幅に改善できるソリューションを提供しています。商品のテキスト情報はEC事業者がフリーテキストで自由に作っていますが、そこからAIが商品の属性などを自動的に抽出し、サイトの絞り込み検索のためのタグ情報と自動的に紐づけています。

まず商品の検索方法には、キーワードで検索するパターンと、サイト側から提案された商品の絞り込み(カテゴリー、色、サイズなど)に沿って検索する2種類があります。そして、ECでのショッピングの割合がPCからスマホに移行し画面のスペースが狭くなっている中、文字の入力が面倒なので入力は最低限にし、どんどん条件を絞り商品を見つけたいというニーズが高まっています。

一方で、ECモールには必ず絞り込み検索の機能がありますが、例えばTシャツの色/ネックの形/素材/色/サイズをフリーテキストで書いて検索した商品数と、絞り込み検索のタグで絞り込んだ場合の商品数を比べると、実は絞り込み検索ではフリーテキストで検索した場合の約30%しか商品が出てこないのです。要するに、商品情報の中にはちゃんと情報が入っているのにも関わらず、タグ付けをしていないので7割は絞り込み検索では商品が出てこないということです。リアルのショップでいうと、裏の倉庫にモノがあるのに、ディスプレイされていないのでお客さんはその商品がお店にあるのかないのか分からない状態です。これと同じことがECモールの商品の7割に起こっているのです。

タグの自動登録で商品を発見されやすく

ニーズは高いのになぜ3割しかタグ付けがされていないかというと、単純にタグ付けが非常に大変な作業だからです。ECサイトごとに独自の商品の構造やカテゴリーごとの属性の構造があり、それに対して紐づけを手動でやろうとするとかなりの時間と人力が必要です。そのためなかなかタグ付けまで手が回らないというのが現状としてあります。

そこで、私たちはこの問題を解決するためにAIで完全自動でタグ付けができるサービスを開発しています。例えば100時間かかる作業が1分で終わってしまうぐらいのレベルなので、人力の問題が一気に無くなります。非常にインパクトのあるソリューションだと思っています。

他にLISUTOのような自動タグ付け事業を行っている企業はあるのでしょうか?

プラテック:自動タグ付けをどんなサイトでも使えるシステムとして提供している会社は、私が知る限りLISUTOが日本初であり世界初です。ただ、我々は商品のテキスト情報に注目していますが、画像から商品の情報を抽出して絞り込み検索に使えるようにしているサービスはいくつかあります。

画像の情報からタグを付けるのと、テキストの情報からタグを付けるのは何が違うのですか?

プラテック:まず商品情報のほとんどはテキストの情報にあります。サイズや素材など、写真だけ見てもわからない情報が沢山あり、ファッションに限らず電気製品も写真だけだと違いが分かりません。そのためテキストのほうがタグ付けに対応でき、画像よりはるかにマーケットが大きいのです。また画像はデータが重いですし、技術的にもテキストの方が効率よくできます。LISUTOは画像の情報からタグを付ける技術も実は持っていますが、まずはテキスト情報からのタグ付けに注力しています。

テキスト情報からタグを付ける方が難しいのですか?

プラテック:画像は言語関係なく抽出できますが、テキストからタグを付ける場合はまず言語の分析から始まり、言語から単語を抽出し、それをAIでラーニングさせ構造データと紐づけるというプロセスが必要です。この技術は画像の情報からタグを付けるよりもはるかに難しいです。

タグの自動登録で商品を発見されやすく

また、私たちはその中でも難易度の高い日本語からスタートしています。英語やヨーロッパ言語は単語が分かれているのですが、日本語は単語がつながっており漢字とひらがなもあるので、まずテキストを単語ごとに分けていく必要があり更にハードルが高いです。私たちはこの一番難しい日本語からチャレンジしています。

なぜLISUTOはこのような難しい技術を実現できているのでしょうか?

プラテック:LISUTOは日本のベンチャーですが、私たちの開発の舞台はイスラエルにあります。私はもともと国籍がイスラエルですし、共同創業者のパベルはLISUTOのイスラエルオフィスを統括しています。パベルはもともと世界初の価格比較サイトであるShopping.comのカタログを作っていたシニアマネージャーであり、商品の構造のスーパーエキスパートです。その後Shopping.comがeBayに買収され、eBayがイスラエルに商品のカタログセンターを作った時もパベルが一から立ち上げを担っていました。商品の構造の仕組み等について、彼ほど優れた人は世界に数人しかいないと思います。

ではどこにLISUTOのアドバンテージがあるのかと言いますと、ただテキストデータを抽出するだけであれば広い範囲で色々な会社があると思いますが、我々は各サイトの属性の構造を分析し、かつそれをAIとコンビネーションするところに他の会社が真似できないレベルのノウハウの蓄積があり、具体的なコードに対する紐づけまで出来てしまう点が強みだと考えています。

イスラエルのベンチャーエコシステムを日本へ

なぜ起業をしようと思ったのですか?

プラテック:私はもともとエンジェル投資をしており、その後1990年代後半にVCを設立しました。その時に感じたこととしては、投資も面白いですが、創業者は自分の意志が強いので投資家としてアドバイスをしても結局は創業者の想いの方向に事業は進んで行くということでした。そういった背景から、自分のアイデアで自分自身で事業をしたいという想いが高まりました。

ちょうど私が起業した時は世界中にインターネットが普及し、EC市場が大きくなり始めた時期だったので、ECのポテンシャルをとても感じていました。私は元々日本生まれなので日本への想いが強く、またイスラエルのベンチャーエコシステムを見ている中でこれと同じことを日本でもやりたいなと思い、起業家としてECのサービスを日本で作ろうと強く決心しました。

なぜAIタッガーの事業をやろうと思ったのですか?

プラテック:私はイスラエル人ですが、もともと日本でドメスティックなECの事業をやっていました。そんなある日、eBayという海外向けに商品を出品するサービスからのアプローチがありました。その時、自動的に日本語のデータを構造化し多言語に変換することで、日本語で出品したものを海外向けに販売できるようなソリューションを開発したところ、沢山の商品が海外で売れ始めたんですね。そこでこのソリューションをEC事業者の方に提供するのが良さそうだと思い、LISUTOを設立するきっかけとなりました。そこからビジネスを始めたのですが、やっているうちに分かったことが2つあります。

イスラエルのベンチャーエコシステムを日本へ

1つ目としては、EC事業者の方は皆さん越境ECに興味を持ち始めてはいたものの、やはりまずは日本の目の前のモールの販売がすごく重要で、越境ECもやりたいがまだ手を出せていない状態であるということです。既に国内向けに在庫の管理や出品のシステムを導入しているなかで、海外向けの別のシステムを更に連携させるというのが実はすごくハードルが高く、商談がすぐ決まらないということが分かりました。ベンチャーにとって商談がすぐ決まらないというのは非常に辛かったですね。

しかし同時に分かったこととしては、日本のモールではタグ付けに非常に大きなペインがあり、かつ私たちの技術をそのまま応用できるということです。日本のドメスティックなEC事業者の多数がタグ付けに興味を持っていたので、AIタッガーのようなサービスを開発すればすぐに利用してもらえるということに気づきました。また、今はまだ日本国内でのみサービス展開していますが、eBayのような世界中のどのモールでもそのモール中でタグ付けのニーズがあるので、グローバルのどのEC事業者もターゲットになります。そこで越境ECのサービスからPivotし、現在のAIタッガーの事業に行きついたのです。

グローバルで戦うチームとして

シリーズAまでの出資はどのようなVCや事業会社から調達を受けたのですか?

プラテック:LISUTO設立の段階から、銀行系のファンドや物流会社、倉庫会社の方から出資をいただいていました。また去年佐川急便様と業務提携させていただき、一気にお客様を紹介していただく仕組みを作りました。

なぜAngel Bridgeから投資を受けようと思ったのですか?

プラテック:私は海外のVCを経験していますが、Angel Bridgeはメンバーの方々が優秀で、かつ外資系ファーム経験者やバイリンガルの方が多いため、今後グローバル展開した時も海外の投資家とのコミュニケーションが円滑に取れ、また考え方もグローバルなので海外展開における良いパートナーであると感じました。

なぜLISUTOに投資しようと思ったのですか?

河西:まず我々はLISUTOに出資をする前から、BNPLのようなECのCVRを上げるサービスが非常に面白いと思っていました。またその中でもAIタッガーはペインに対してちゃんと答えているなと思いましたし、この経営陣なら日本発かつ世界初のベンチャーとしてグローバルに戦っていけるのではないかと強く感じました。

グローバルで戦うチームとして

また、プラテックさんが日本語ペラペラなのも驚きました(笑)。お話を聞いてみると、日本で生まれて10歳まで日本で育ち、その後イスラエルに帰ったけれども日本が好きだという話があって、そこまでプラテックさんが日本に思い入れがあるというのがすごく嬉しかったですし、日本に拠点を持っているというのもすごく納得感がありました。

資金調達後にAngel Bridgeとどんな取り組みをしましたか?

プラテック:毎月定例の取締会にご参加いただきながらも、それとは関係なく色々と密にミーティングし、会社の課題や方向性に関してディスカッションをさせていただいていて、期待していた通りのコミュニケーションができているなと感じています。また次の資金調達に関しても、一緒にお話しさせていただきながら進めています。

ニーズの強さとハードルの低さ

越境ECのサービスもかなり作りこんでいらっしゃったので、Pivotするにはとても勇気が必要だったと思いますがどのように決断されたのでしょうか?

ニーズの強さとハードルの低さ

プラテック:越境ECのサービスでやっていたこと自体は間違っていなくて、ただ時期が早かったんだと思っています。私は起業家を何回もやっているので、自分のアイデアがマーケットより早かったケースを何度も経験しています。マーケットより早すぎるのは非常にベンチャーにとって危険なのです。今のままの事業を今のままの計画で続けるのか、それとも同じコア技術を使った3倍の速さで伸ばしていける別の商品を開発するかを何回も合理的に考えた結果、後者の方が現在はニーズが強くすぐに売上が伸びるためPivotしたというのが現実です。

河西:現在のAIタッガーの事業をリリースしてみて、ニーズがやはり強かったというのが決め手になったのでしょうか? 実際今は佐川急便さん含め全社的に取り組み売上も順調に伸びているということで、その決断は正しかったのだと思います。

プラテック:1つ目と2つ目の商品の違いは、1つ目はEC事業者の反応がとても良かったとしても契約にはなかなか繋がりませんでしたが、2つ目は商談してから平均2週間で契約がスタートしていたことです。当日契約がスタートする場合もありましたし、やはりニーズが強くてハードルが低いというこの組み合わせが大事なのだと気づきました。

世界のEC事業者が使えるサービスへ

LISUTOをどんな会社にしていきたいですか?

プラテック:個人的には、私の国籍との組み合わせでLISUTOを日本発のグローバルな会社にするというのが一つの夢です。これからグローバル展開をして世界中のEC事業者が使うサービスになる可能性は十分あると思いますので、世界中のECの販売をお手伝いできるようになることを目指したいです。

私がECを始めたときはまだPCしかなかった時代でしたが、そんな時代から今はスマホの時代になって、5Gが出てきて、誰でもECができる時代へとどんどん変わってきました。また今後更にメタバースなどの新しい変化が訪れ、まだまだECは変わっていくと思っています。文字での検索や画像での検索等色々な検索方法がでてきていますが、どんな場合でも商品の情報と構造は変わらないんです。メタバースで商品を買っても商品は商品で、その情報は変わらない。そうなると商品の発見というニーズは必ずあるわけなので、それに対して我々の技術を発展させ、世界ナンバーワンのプレイヤーになりたいと思っています。

LISUTOの事業を通して何を社会に届けたいですか?

プラテック:コロナ禍になって経済や社会を支えてきた一つの分野はやはりECですよね。どんなに状況が悪くて家から出られなくても、食べ物など必要なものをECで家に届けることが世界中でできている。インターネットとECがなかったらこのパンデミックは今の何百倍も大変だったと思います。ECは絶対必要である上で、それを更に簡単に出来るようにすることが皆さんのQOLの向上に繋がっており、社会にも貢献出来ているのかなと思います。

河西:インターネット領域で日本発の技術が世界に進出した例ってあんまりないじゃないですか。LISUTOの技術であればそれを達成できると思っています。

2022.03.11 COLUMN

こんにちは! Angel Bridgeインターンの山田と申します。
前回はアメリカのEC領域特化SaaS紹介の第1弾として延長保証をAPIで提供するExtendについて紹介しました。
今回は第2弾として、EC事業者に対して返品効率化SaaSを提供するReturnlyを紹介します。

EC事業者に対して返品効率化SaaSを提供する「Returnly」の事例 参考:EC×APIサービスの全体像

Returnly概要

Returnlyは2014年にEduardo Vilarによって設立されました。2020年までに3回の資金調達を行なっており、合計調達額は$30Mです。

そして、2021年4月にBNPLのトップ企業であるAffirmによって$300Mで買収されました。

Returnlyの最大の特徴は、返品が完了する前に顧客にストアクレジット(購入ECサイトでのみ使えるポイント)を前払いで提供し、同時に類似商品のレコメンドをすることで、返品を介してEC事業者に追加の収益をもたらすことができる点です。

Returnly概要

続いてReturnlyのビジネスモデルについて説明します。

Returnlyは配送業者と提携し、消費者からの返品申請を処理するプラットフォームをAPIとしてEC事業者に提供します。

Returnly概要

マネタイズはAPIの使用料と、返品される商品の金額に応じた手数料で行なっています。

補足として、消費者がストアクレジットを用いて商品を購入した場合はReturnlyがストアクレジット分の代金をEC事業者に支払います。ストアクレジットを超える分の代金は消費者が支払う必要があります。

返品が注目される背景

①アメリカの返品率の高さ
Forbesの調査によれば、アメリカのEC小売業の返品率は25- 40%が標準となっており2020年の返品額は$500B(約60兆円)に上ると言われています。
日本の平均返品率は5%程度なので、その分アメリカ企業では返品の業務負担が大きくなっており効率化が求められています。
※Forbes「Many Unhappy Returns: E-commerce’s Achilles Heel」より
②LTV・CVR向上のための施策としての返品
アメリカにおいて顧客は頻繁に返品を行うため、快適な返品体験を顧客に提供することができればLTV向上につながります。
また、フェデックスの調査では返送料無料の返品を実施することでECサイトのCVRが平均1%向上するという結果も出ています。
これらの事実より、返品をECにおけるCVR・LTV向上のための施策と捉える企業が増加しています。

解決しているペイン

①EC事業者側のペイン
返品業務は工数が多く、返品完了までに多くの時間・人手がかかってしまいます。
EC事業者側のペイン
②消費者のペイン
上記の返品業務の手間によって、消費者が商品を返品してから商品の代金が支払われるまでに最大で2~3週間もかかってしまいます。

サービス内容

上記の返品業務にまつわる問題を解決し、顧客に快適な返品体験を提供するためにReturnlyは以下のようなサービスを提供しています。

<事業者に対する機能>

先程紹介した返品業務フローのうちReturnlyが効率化する部分は以下のようになります。

サービス内容

以下それぞれの機能を詳しく見ていきます。

A. 返品申請の自動処理
従来はカスタマーサポート部門が顧客から送られてくる返品申請のフォームと自社の返品ポリシーとを照らし合わせ、返品申請を許可または却下するかを決めていました。
しかし、Returnlyは顧客からの返品申請を自動で処理することができるので業務を大きく減らすことができます。
B. 在庫管理(検品・再販以外)
EC事業者の倉庫のデータベースとReturnlyを連携することで、Returnlyを用いて返品された商品のIDや配送ステータス、検品結果などをReturnly上で一括管理することが可能です。尚、返品された商品の検品や再販などはEC事業者側で行う必要があります。
C. 返金の自動処理
返品申請が承認されるとReturnlyが消費者にストアクレジットを付与してくれるため、返金業務の負担が無くなります。

<消費者に対する機能>

①スムーズな返品申請
消費者はECサイト上に埋め込まれたReturnlyの返品ページから返品申請を行うことが可
能です。過去の購入履歴から商品を選択し、返品理由や商品の状態などいくつかの項目を
記載するだけですぐに完了します。
スムーズな返品申請
参考:返品理由を選ぶ画面
②ストアクレジットの即時付与
返品が承認された場合、返品した商品の代金分のストアクレジットが即座に付与されます。ちなみに、返品申請から承認・ストアクレジット付与までは最短24時間以内に完了します。
そして、消費者はストアクレジットを使用してすぐに新しい商品を買うことが可能です。
スムーズな返品申請
参考:返品承認と同時にストアクレジットで新しい商品を注文する場面
③返品・購入した商品の追跡
返品申請が許可されると、Returnlyと提携している配送業社をECサイト内で手配することが可能です。そして、返品した商品及び上記のストアクレジットで購入した商品の配送状況をECサイト内で確認することもできます。

トラクション

2019年時点でのReturnlyの発表によれば、消費者の90%がストアクレジットを受け取った際に同じECサイトで新しい商品を購入しており、購入した商品の金額は返品した商品の金額に比べて23%ほど高い傾向があったとのことです。

また、提携ブランドはD2Cブランドが中心で200社以上と提携しています。

トラクション 参考:代表的な提携ブランド

API接続できるECプラットフォームはShopifyのみで、その他複数の運送会社や3PL(サードパーティー・ロジスティクス)企業と提携して配送の効率化を実現しています。

トラクション 参考:提携運送会社
トラクション 提携3PL企業
荷主企業や運送会社に代わって効率的な物流戦略や物流システムの構築などを提案し、荷主企業のロジスティクス全体を包括的に請け負う企業のこと

日本市場

日本でのECにおける返品率は5%程度でアメリカの25~45%に比べてかなり低くなっています。この数字の低さは日本人の性質というよりも、返品ポリシーが厳しい企業や、そもそもECで購入した商品の返品を受けつけていない企業が多いためだと思われます。

しかし、2016年からAmazonが出品者に対して返品無料を義務付けていることや、ZARAをはじめ返品無料ポリシーを掲げている海外企業が日本に進出していることから、国内企業でも返品を無料化し、快適な返品体験を顧客に提供することでCVR・LTV向上につなげる動きが生まれつつあります。

そうした背景から、日本でも既に数社が返品効率化SaaSを提供しており、今後更に返品領域は盛り上がっていくのではないかと考えられます。

おわりに

今回はEC領域特化SaaS紹介の第二弾として返品効率化SaaSを手がけるReturnlyを紹介しました。返品を効率化することで顧客のLTV向上を目指すことはもちろん、返品完了前に返金を行うことで、返品を通じて追加の収益を発生させることのできる面白いビジネスモデルだと思いました。また、Returnly自身は返品された商品の検品や再販の効率化は行いませんが、Optoroという企業と提携することで検品や再販の効率化も行っています。

ここで登場したOptoroは、返品された商品の在庫管理から再販まで全てを行う、ネクストユニコーンと称される注目企業です。次回の記事はOptoroについて紹介したいと思います。

最後になりましたが、Angel BridgeはCVR・LTV向上を目的としたEC周辺サービスにも積極的に投資しています。事業の壁打ちや資金調達のご相談など、お気軽にご連絡ください!

2022.03.04 TEAM

理想の未来に向けて挑戦を続ける

理想の未来に向けて挑戦を続ける

三好さんは毎日どのようなタイムスケジュールで過ごしているのですか?

現在はキャピタリストの仕事の全体感を掴むために、投資検討や既存投資先のハンズオンに大半の時間を使っています。投資検討やハンズオンの経験を通じて、ベンチャー企業経営に対する理解がより一層深まっていると実感しています。他には、Angel Bridgeの体制構築にも時間を使っています。まだ入社間もなくフレッシュな視点を持っていることを生かして、取り入れるべき新しい制度や今後の戦略について提案しています。今後はVCやCVC、起業家の方とのネットワーク構築にも積極的に時間を使っていきたいと考えています。

Angel Bridge入社前はどのようなキャリアを歩んできたのでしょうか?

慶應義塾大学経済学部を卒業後、JR西日本で約4年半、Bain&Companyで約2年、キャリアを積んだ後にAngel Bridgeに入社しました。
JR西日本では、最初の2年間で広島駅員、新卒採用、用地管理等を経験しました。2年目の時に社内事業アイデア公募制度に提案したCVCの立ち上げに関するアイデアが最優秀賞を受賞したことをきっかけに、新規事業創出を行うビジネスプロデュース部に異動しました。その後、JR西日本のCVCであるJR西日本イノベーションズへの出向という形で、創設時初期メンバーとしてソーシングからハンズオンまで担当者として一貫して担当していました。
Bain&Companyでは、金融業界や小売業界、家電業界等の様々な業界に対して、コスト削減、収支構造改革、ビジネスDD、等のプロジェクトを経験しました。毎回異なる業界/テーマのプロジェクトでキャッチアップが大変な部分もありましたが、その分新しい学びがあって常に成長出来る環境でした。

なぜ新卒でJR西日本に入社しようと思ったのですか?

JR西日本への入社を決めた理由は大きく2つあります。
1つ目の理由は、日本発のビジネスを創出したかったためです。日本は過疎化や高齢化等の社会課題に他国よりも早く直面している課題先進国ですが、これをチャンスと捉えて、世界に先んじて社会課題を解決するビジネスを創出すれば、世界経済における日本のプレゼンスを向上させることが出来るのではないか、と考えていました。私の入社当時、JR西日本は沿線価値向上や鉄道事業に次ぐ新たな収益源を創出するために新規事業に注力し始めており、意欲さえあれば若手であってもチャンスをつかんで挑戦できる環境がありました。1日当たり500万人の利用客や地域ネットワーク等のJR西日本が持つアセットを有効活用して新規事業を創出したい、という意気込みで入社を決めたことを今でも覚えています。
2つ目の理由は、自分に向いている領域を見つけるのに良い環境であると考えたためです。JR西日本は鉄道事業を主軸にホテルや百貨店、金融等の人々の生活に関わる様々な関連事業に着手していました。まずは、特定の領域に絞らずに自分の視野を広げて興味や適性がある領域を特定していきたいと考えていたため、事業のすそ野が広いJR西日本は魅力的でした。

なぜBain&Companyに転職しようと思ったのですか?

まず、コンサル業界に転職しようと考えた理由は大きく2つあります。
1つ目の理由は、経営課題の解決を通じて企業の成長を支えたいと思ったためです。JR西日本ではグループ会社含めて様々な企業との出会いがありましたが、社会や人々のためになりたいという強い想いや優れた技術/アイデアがあるにも関わらず、思うように成長出来ていない企業がたくさん存在している事を改めて認識しました。経営課題解決のプロフェッショナルとなって、企業が本来持つフルポテンシャルを最大限引き出して成長を支えたいと徐々に思うようになり、コンサルに魅力を感じるようになりました。
2つ目の理由は、コンフォートゾーンから抜け出して成長したいと考えたためです。JR西日本で新規事業開発やハンズオン支援等を行っていましたが、やりたい事とできる事のギャップが大きく、自分のビジネススキルが圧倒的に足りないと感じていました。JR西日本は自分にとって居心地が良い環境だったのですが、それ故に甘えもあると思い、コンサルのような厳しい世界に身を置いて徹底的にマインドセット改革/スキルギャップの解消を行う必要があると考えました。

次に、コンサルの中でもBain&Companyに入社することを選んだ理由は大きく2つあります。
1つ目の理由は、Bain&Companyの価値観や働いている社員に魅力を感じたためです。多彩で優秀な仲間達と根底で価値観を共有しながら働くことが出来るのは理想的な環境だと思いました。
2つ目の理由は、成長環境が整っていると感じたためです。Bain&Companyには、「A Bainie never lets another Bainie fail」という助け合いのカルチャーやPD Chatという制度が確立しており、成長へのコミットメントが高いと感じました。コンサル業界は未経験の中途入社が成果を出すのが難しい世界という話を聞いていたので、なるべくオンボーディングしやすい風土がある会社が良いと考えていました。

Bain&Companyでの経験はVCの業務にどう活きていますか?

投資検討やハンズオン支援等、VCの業務の至る所で活きています。
投資検討における、市場構造や競争環境等のアウトサイドインでの調査、業界知見者へのインタビュー等は、DDのプロジェクトに似ています。また、ハンズオン支援のアプローチはまさしくコンサルティング業務といえると思います。キークエスチョンを特定して、仮説を構築して検証していく、という一連のアプローチはスタートアップに対するハンズオン支援でも共通しています。むしろ限られたリソースの中でスピードが求められるため、スタートアップへの支援は論点をクリアにしてアクションに落としこむことがより一層求められているかと思います。

コンサルを経験して良かったと思うことはありますか?

まず、プロフェッショナルとして働く上での基礎となる土台ができた気がします。ソフト/ハードスキルといったスキル面での学びも大きいですが、特にマインドセットが醸成されたのも大きいですね。マインドセットは机上では学べない要素で、厳しい環境で働くうちに身に刻まれました。
あとは、様々な視点が身についたのも良かったです。あの人だったら何て言うだろう。どこか見落としている部分はないか。等、自分の頭の中に上司が出来た感じです。Angel Bridgeでの仕事でも頭の中の仮想上司に助けられています(笑)。

三好さんはなぜVCに転職しようと思ったのですか?

スタートアップ環境の発展を通じて日本経済の停滞感を打破したいと考えたからです。
平成元年の世界時価総額ランキングでは50位以内に日本企業が32社ランクインしていたのに対して、平成30年の世界時価総額ランキングでは50位以内に日本企業はトヨタ1社のみ。入れ替わってランクインしたのはGAFAをはじめとする企業で、日本が世界経済に遅れを取っていることは明らかです。現在はまだ世界第3位の経済大国に位置していますが、経済成長の勢いは衰えており、中長期的には他国に追い抜かれていくのではないかと危機感を覚えています。
将来の日本経済を牽引していく主役はスタートアップだと考えていますが、現在のスタートアップを取り巻く環境は世界で戦える程の成熟度は持っていません。実際に、世界では1,000社を超える多数のユニコーン企業が生まれていますが、日本のユニコーン企業は数えるほどしか生まれていません。世界と戦えるレベルに日本のスタートアップ環境を発展させていくためのカギとなるのがリスクマネーを提供して、成長支援を行っていくVCだと考えて、転職をすることにしました。

起業家のフルポテンシャルを実現したい

起業家のフルポテンシャルを実現したい

なぜ数あるVCの中からAngel Bridgeに決めたのですか?

最終的に入社を決めた理由は大きく3つあります。
1つ目の理由は、ミッション・ビジョン・バリュー等の企業哲学/文化が自分の価値観と重なったからです。日本からメガベンチャーを生み出すという力強いメッセージに共感しました。実際に全投資メンバーが根底に同じ価値観を持っていて徹底されたカルチャーがあると感じました。
2つ目の理由は、Angel Bridgeがこれから組織を大きくしていく段階で、組織構築という貴重な機会に携わることが出来るためです。JR西日本イノベーションズでも組織立ち上げの際に大きな学びがあり、このタイミングで入社するのはこれ以上ない良い機会だと考えました。
3つ目の理由は、最適な成長環境があると感じたためです。これまで自分が成長できていた環境を振り返ると素晴らしい人達に囲まれる環境がありました。Angel Bridgeはプロフェッショナルバックグラウンドを持ったメンバーで構成されており、切磋琢磨する中で多くのことが学べると考えました。

Angel Bridge入社後は具体的にどういった支援をしましたか?

いくつか支援をさせていただいていますが、具体例としてスキャン・エックス株式会社株式会社BluAgeを挙げて説明します。
スキャン・エックス株式会社には、SaaS事業の新たなサービスプラン設計やプライシングに関する支援を実施しました。他社事例の調査、サーベイ設計/分析等を行って、顧客から求められている機能や顧客の受容価格帯等を分析し、サービスプランやプライシングに関する提案をしました。
株式会社BluAgeには、Canary Cloudの営業体制構築、CS体制構築に関する支援等を実施しました。他社事例調査、営業社員へのインタビュー、顧客データ分析等を通じて課題を特定し、ヘルススコアの設計や営業資料の改定等に関する提案、実行支援をしました。
どちらの支援についてもAngel Bridgeに入社してすぐに取り組んだのですが、コンサルティングでの経験が活きたと思います。

Angel Bridgeのパートナー陣は三好さんにとってどのような存在ですか?

「獅子はわが子を千尋の谷に落とす」ということわざがありますが、お二人(河西)とも親ライオンみたいな感じですね。やってみな、と背中を押しつつ、見守ってもくれる。そんな素晴らしい方ですね。非常に面倒見がよく、リーダーシップに溢れています。
河西と林は強みにしている分野が異なっていて補完関係にあるのも良いですね。河西が事業計画の精査や分析、ファイナンス面の支援を行う一方で、林はネットワークを駆使して業界知見者へのヒアリングや顧客先や提携先のご紹介実行する、といった形で、良いタッグが組めていると思います。お互いをリスペクトしているのがヒシヒシと伝わってくるので、雰囲気も良く一緒に働きやすいです。

Angel Bridgeに入社して良かったと思うことはありますか?

何個も思い浮かんでくるので、難しい質問ですね(笑)。3つに絞って紹介すると、1つ目はアットホームな雰囲気、2つ目は徹底したハンズオン支援、3つ目は成長環境でしょうか。
1つ目について、Angel Bridgeは社内イベントも多く、フラットな関係性が築かれています。合宿へ行ってAngel Bridgeの中長期戦略についてみっちりと議論をしたり、月1-2回程の頻度でランチ会を行ったり、週末にはゴルフに行ったりもしています。最近はゴルフ部が立ち上がり、今後は投資先等も交えて積極的に活動していく予定です。
2つ目について、投資先との信頼関係が構築出来ている理由はひとえにこれまでに徹底したハンズオン支援によって実績を積み重ねてきたためだと考えています。手前味噌にはなりますが、Angel Bridgeほど入り込んでハンズオン支援をする会社は、そこまで多くないのではないでしょうか。投資先がフルポテンシャルを発揮できるように支援するのは、簡単な事ではありませんが、その分達成感や学びも多いです。
3つ目について、先ほど入社理由で話した通り、Angel Bridgeはプロフェッショナルバックグラウンドを持つメンバーで構成されており、学びの多い環境になっています。まだ組織の規模も小さいこともあり、1人1人が行う仕事内容が入社前に想定していた以上に多岐に渡っていて、VCでありながらベンチャー感を感じられる場面が多くあります。

今後どんな人と一緒に働いていきたいですか?

まずは当たり前な部分でもありますが、Angel Bridgeのミッション・ビジョン・バリューに共感する方ですね。少人数の組織ということもあって、同じ方向性を向いて一緒に仕事が出来るかどうかは重要だと思っています。
あとは、素直な心を持った誠実な方ですね。オープンに他の人の意見も取捨選択しながら受け入れられる素直な心を持っている人とは、建設的な議論を通じて一緒に最適解を導き出すことが出来ると考えています。また、キャピタリストはLP投資家からお預かりしたお金をベンチャー企業に投資してリターンを出すことで成り立っている職業で、LP投資家や投資先等のステークホルダーとの信頼関係が不可欠なため、何事にも誠実に向き合うことが出来る人が向いていると考えています。

社会への感謝と恩返しを忘れず、より良い社会を目指して

社会への感謝と恩返しを忘れず、より良い社会を目指して

今後Angel Bridgeで働きながらどんなことを叶えていきたいですか?

ベンチャー企業への投資を通じて、人々のライフスタイルや価値観等が今よりも豊かで自由になる未来を創っていきたいです。特に、夢や熱意を持てるものにまっすぐ向き合い、個性を最大限発揮しながら自分らしく活躍する人を増やしていきたいですね。
あとは、少し壮大に聞こえるかもしれませんが、世界を変える日本発ベンチャーを創出していきたいと考えています。先ほどお話した内容と重複する部分がありますが、世界経済における日本のプレゼンスを向上させていきたいと考えています。
また、自分自身が起業するという道も見えてきました。起業家の話を聞いていると、尊敬の念と同時に自分自身も挑戦したいというやる気が湧いてきます。まだ具体的な起業アイデアを持っていないので当分先かもしれませんが、選択肢としては持ち続けたいと思います。

三好さんが大切にしている信念についてお伺いしたいです。

ノブレス・オブリージュですね。ノブレス・オブリージュはフランス語で「高貴たるものの義務」という意味で、身分の高い者はそれに応じて果たさねばならぬ社会的責任と義務があるという、欧米社会に浸透する基本的な道徳観です。まだまだ本来のノブレス・オブリージュの意味には遠く及んでいませんが、私の中では「自分が受けてきた恩恵を社会に還元する使命」という解釈のもと信念としています。私は幸運にも、自分の努力だけでは到底享受出来ない恩恵を周囲の人や環境から受けてきました。そのため、私には社会を少しでも良くするために自分が受けてきた恩恵を何かしらの形で社会に還元していく使命があると思っています。今後も社会に今まで以上に多くのことを還元していくためにも、更に精進していきたいと思います。

2022.03.03 INVESTMENT

今回は、EC事業者向けに自動タグ付けツール「AIタッガー」を提供している、LISUTO株式会社への投資に至った背景について解説したいと思います。

タグ付けとは、EC事業者が商品にタグを付けることで、ECモールでの商品検索/絞り込みの際に商品を表示させることが出来るというものです。元々EC市場は成長していましたが、コロナ禍における消費者行動の変化を背景に更に急激に成長しています。またBNPL(Buy Now Pay Later)をはじめとしたEC周辺領域はグローバルで注目度が高く、メガベンチャーが多数生まれています。

画像タグ付けは比較的容易に実現可能であり海外にはいくつかのプレイヤーが存在しています。一方で文章タグ付けは高い技術力を必要とし、世界でも成熟したソリューションとして製品化できているプレイヤーはLISUTO以外に存在していません。こういった背景から、日本発でグローバルに市場を取っていける可能性のある領域だと考え、投資に至りました。

それでは今回はAngel BridgeがLISUTOに投資する際にどのような点を検討したかについて、ご紹介します。

市場

EC周辺領域は、EC化率の上昇/提供API機能の増加を背景に急成長しています。EC周辺サービスを提供するグローバルメガベンチャーも多く誕生し、非常に多くの資金が集まっています。この中でもLISUTOは顧客へのリーチ拡大/コンバージョン率向上に取り組んでいます。

市場

国内にEC店舗は2021年時点で約400万店舗(※)存在し、そのうちLISUTOが対象としているモール店舗数は約4割です。さらにそのうちLISUTOが公認を得ている楽天・Yahooショッピングはモール店舗数の約7割を占め、これらのGMVがモールGMV全体の約4割の約8兆円を占めます。※累計登録店舗数、当社試算

市場

EC化の流れは世界共通であり、日本発でもグローバルメガベンチャーを目指せる領域だと考えています。こういった顕在化した市場ニーズやEC周辺領域への注目の高まりを背景としてLISUTOに注目し、投資検討を進めました。

サービス概要

次にLISUTOのサービス内容について説明します。

ECモールではタグを付けることで商品検索・絞り込みの際に商品を表示させることができるため、タグは売上高向上のために非常に重要な情報です。商品検索の際にはユーザーの9割がキーワード検索をしており、また 7割が色・サイズ等で絞込検索をしていることから、商品の関連キーワード/属性のタグが必要であることが分かります。

サービス概要

一方で出品数に比例してタグ付けには膨大な工数とコストがかかるため、特に出品数が多いEC事業者はタグ付けを諦めていました。

サービス概要

そういったペインを解消しているのが、LISUTOが開発している「AIタッガー」です。

サービス概要

AIタッガーを利用すると、EC事業者は既存の業務フローをほとんど変えることなく、より高速で自動タグ付けが可能になります。

自動タグ付け手順

AIタッガーを活用したタグ付け手順は以下の通りです。

商品CSVを準備し、AIタッガーにアップロードした後ECモールにタグ情報を反映することで、EC事業者は既存の業務フローをほとんど変えることなく自動でタグ付けが可能です。

自動タグ付け手順

LISUTOは2021年4月に佐川急便と資本業務提携を締結し、OEM版を佐川急便の商品として販売しています。その結果サービスインが加速し、契約社数が急増しています。

自動タグ付け手順

また、今後は佐川急便同様の戦略的パートナーモデルで海外にも展開し、各地域のECモール向けにAIタッガーを販売していく予定です。2022年前半にはeBayや、オランダ最大のECモールであるBOLへの導入を開始予定です。

競合

次にLISUTOの競合についてです。まず自動タグ付けには、「画像読み取りタグ付け」と「文章読み取りタグ付け」があります。

画像読み取りタグ付けは商品画像からそのまま分析できるため商品CSVの解析は必要ありません。また機械学習を利用して画像から商品を様々なカテゴリーに分類するためのオープンソースなどが公開されているため、比較的容易に実現可能であり多くのプレイヤーが存在しています。一方で、商品画像の解析だけでは読み取れない生産国やサイズなどのデータが欠落してしまったり、画像を読み取らせるオペレーションは業務フローの改変が必要で導入ハードルが高いなどの理由から十分にペインを解決できておらず、実現性は低いのが現状です。

一方で、文章読み取りタグ付けは画像読み取りタグ付けと比較して圧倒的に実現が困難です。

まず、ECモールのカテゴリーを構造化して処理できるデータベース構築と、常に最新の状態を保つ管理システムが必要であり、更にAIによるフリーテキストの自然言語・多言語処理も必要です。共同創業者のパベル氏はEC業界に対する高い専門性と、技術力の両方を持ち合わせているため、この組み合わせが実現できています。

文章読み取りタグ付けでは商品の詳細情報が載っている商品CSVを解析するため、画像読み取りタグ付けでは抽出できない情報も含めて高精度でタグ付けができます。そのため業務フローも変えずに導入でき、運用負担も軽いです。

こういった難易度の高さから、世界でもLISUTO以外に成熟した文章読み取りタグ付けのサービスを提供できているプレイヤーは存在しませんが、文章読み取りタグ付けの実用性は高く、ニーズは非常に強いです。

競合

このような市場環境の中で、LISUTOは画像読み取りタグ付けと文章読み取りタグ付け両方に対応した、ノーコードで非エンジニアでも扱えるツールというユニークなポジションを確立しています。文章タグ付けは画像タグ付けより高度ですが、LISUTOの高い専門性と技術力を持ったチームで必要な技術ハードルを乗り越えることができています。

AIタッガーはEC事業者への導入実績も多数あり、投資検討をするにあたり実際に複数の導入企業にインタビューを行いました。その結果、「毎週200点の新商品のタグ付けに手作業で3-4日かけていたが、AIタッガーを使うことで15分に短縮できた」「18万件の商品のタグ付けに手作業で6年かかると計算していたが、AIタッガーを使うことにより3日で完了した」といった声が多く上がり、自動タグ付けのニーズは強く、LISUTOは高い評価を得ていることがわかりました。

経営陣

Angel BridgeがLISUTOに投資するにあたり、経営する皆様への理解を深めました。

まず代表のニール氏はEC業界で過去にも1度起業経験があり、EC領域に高い専門性と経営者としての経験を持っています。またテルアビブ育ちで日本語・英語・ヘブライ語のトライリンガルであり、グローバル市場を目指して事業を展開できる稀有な人物です。

また共同創業者のパベル氏はeBay、Shopping.comでの部門責任者・シニアマネージャーとしての経験があり、EC業界に対する高い専門性を持つ人物です。

経営陣

二人のバックグラウンドや起業の想いを聞く中で非常に強い覚悟を感じることができました。また、EC領域での起業歴や海外大手EC企業での開発歴があり、経営陣と事業領域の強いフィットがあるということで、こういった難しい領域でも勝っていけるのではないかと感じました。

おわりに

EC周辺領域はグローバルで注目度が高く、メガベンチャーが多数生まれている領域です。文章読み取りタグ付けは高い技術力が必要ですが、LISUTOの経営チームはEC業界への理解が深く、またグローバルなバックグラウンドを持つメンバーが結集しており、この難易度の高い領域で戦っていけると信じています。

繰り返しになりますが、Angel Bridgeは社会に大きなインパクトをもたらすために、あえて難しいことに挑戦していくベンチャーこそ応援しがいがあると考えており、こういった領域に果敢に取り組むベンチャーを応援したいと考えています。事業の壁打ちや資金調達のご相談など、お気軽にご連絡ください!

2022.02.22 COLUMN

こんにちは!Angel Bridgeインターンの黒田です。現在、京都大学医学部の5回生です。

アメリカの未上場Fintech企業についての調査結果をシリーズ化して発信しています。

今回は第4弾として医療費決済サービスを提供するCedarを紹介します。

Cedar概要

Cedarは2016年に元医師であるFlorian Ottoによって創業されました。これまでに4回の資金調達を行なっており、その総調達額は$326Mとなっています。最新の資金調達は2021年3月でその際の評価額は$3.2Bでした。投資家にはAndreesen HorowitzやTiger Global Managementが名を連ねています。

Cedar概要

Cedarのビジネスモデルについて解説します。Cedarは患者と医療機関の間の決済に介入し、双方のペインを解決します。収益は医療機関から手数料としてあげます。

ではCedarは患者と医療機関のどのようなペインを解決しているのでしょうか?

Cedarが解決するペイン

①患者のペイン
患者のペインとしては、支払いがオンラインで行えない、医療費が把握できず支払いプランが立てられない、といったことが挙げられます。
Trends in HealthCare Paymentsのレポートによると、患者の68%はオンラインで医療費を支払いたいと思っているが、実際にそうしている患者は30%にとどまっています。これは医療機関がオンライン決済を提供していない、提供していても使い勝手が悪いということを示しています。
次に医療費を把握できていないという問題です。86%の患者は受診前に費用を知りたいと思っているが、34%の患者は知ることができていないというデータがあります。また、2019年の自己破産の67%が予期しない高額医療費が原因でした。医療費が高くなりがちなアメリカでは医療費の見積もりサービスや支払いプランの提供が求められています。
②医療機関側のペイン
医療機関側のペインとしては、患者への請求をオンラインで行えていない、患者からの集金率が低迷しているといったことが挙げられます。
Trends in HealthCare Paymentsのレポートによると、パンデミックによって遠隔医療の割合が増えてオンライン決済の需要が高まっています。また、請求処理を紙からオンラインにすることで、一回の請求あたり平均$5.4のコストと3分の処理時間が節約できます。
また、アメリカの医療機関では患者からの集金率が低い傾向にあります。年間自己負担額$366Bのうち推定43%が回収できていません。これはパンデミックによって経営にダメージを受けている医療機関にとっては死活問題です。

サービス内容

Cedarのサービスは患者を受診前から受信後までアプリを通してサポートすることでペインを解決します。
受診前には医療費の見積もりを取り、患者に通知します。受診後は患者にオンライン決済を提供し、一括or分割など多様な支払いプランを提示します。また、ライブチャットを使用して患者をリアルタイムサポートします。アプリの操作は非常に直感的で分かりやすくなっています。

それでは医療機関にとってのポイントを解説します。受診前に患者に支払いの見積もりを取り、通知することで医療機関としては患者の来院数増加を見込めます。また、オンライン決済提供で集金率のup、請求コスト削減ができ、更にライブチャットでコールセンターの負担を軽減することができます。

サービス内容

このほかにも医療機関にとって嬉しいサービスがあります。Cedarの決済プラットフォームは既存のすべての電子カルテや決済システムと統合することができます。このため導入コストは少なく済みます。また、決済に関するレポートが作成され、収益サイクルや集金率、チャット履歴などのデータを確認することができます。

トラクション

2020年から21の新しい医療機関と連携を始めており、2021年3月の時点で、その累計は35を超えています。1日にサポートする患者も30万人となっています。

導入医療機関では平均で集金率30%up、患者満足度88%とされています。また、HP上では医療機関のケーススタディが載せられています。Westmed Medical GroupではCedarを導入したところ、集金率が59%から74%に増加し、集金までの平均日数は39日から30日と短くなっています。Cedarのサービスが医療機関のペインをしっかり解決できているのがわかります。

日本とアメリカの市場の違い

日本とアメリカの医療費決済の市場の違いについて解説します。

日本とアメリカの大きな違いは医療保険制度です。

アメリカでは公的医療保険制度は高齢者、障害者、低所得者を対象としたものに限られており、それ以外の人は民間の保険に入ることになります。しかし、その保険料は年々増加しており、無保険者は2018年時点で2,746万人で全体の8.5%となっています。もし無保険者が病気になってしまうと、その自己負担額はとても高額になってしまいます。例えば、一般の初診料は$150~ $300、入院費は1日$2,000~ $3,000です。もし急性虫垂炎になってしまうと$10,000以上の医療費が請求されます。

一方、日本ではアメリカとは違い、国民皆保険制度、高額療養費制度があります。例えば月に100万円の医療費がかかったとしても、日本では国民皆保険によって窓口負担は3割の30万円になります。さらに高額療養費制度によって自己負担額が87,430円まで抑えられるのです。

日本とアメリカの市場の違い 出典: 厚生労働省保健局

この制度があることにより、日本国民は予想外の高額医療費に生活が困窮するという事態がアメリカよりも少なくなります。そのためCedarの提供するような医療費見積もりサービスの需要は少なくなります。

また、年間自己負担額がアメリカ$366Bに対して日本では$45Bと少ないために、日本では集金率がアメリカよりも良くなっています。一人当たり医療費未払い金がアメリカでは一人当たり平均$1,766なのに対して日本では$50~60とかなり少なくなっています。アメリカの医療機関のペインとなっている集金率の低さが日本ではそれほど問題になっていないため、集金率upのためのサービスの需要も少なくなります。

このように、日本ではシンプルな医療機関向けの決済サービスへの需要はアメリカよりは少なくなっていると考えられます。決済サービスだけでなく、他の機能も付加する必要がありそうです。

例として混雑解消機能が挙げられます。日本ではアメリカよりも気軽に病院を受診できるため、病院での混雑が問題となっています。厚生労働省によると日本では3割の患者が病院で1時間以上待たされています。受付を先にオンラインで済ませることができるスマホアプリや、会計のための待機時間を減らす後払いサービスなどは需要があります。

また、医学生として病院で臨床実習を行なっていると病院内コミュニケーションツールが充実していないと感じます。現在、主に使われているPHSはメール機能がなく通話機能のみで、緊急かそうでないかにかかわらず院内でかかってきた電話はすべてその場で取らなければいけません。また、予定調整ツールなども使われておらず、会議などの時刻決定がろくになされていないこともあります。しかし、既存のツールではセキュリティに不安があったり、病院内で使用するには使い勝手が悪いなどの問題点があります。そのため、医療機関向けのセキュリティが担保された院内コミュニケーションツールの需要はあると考えられます。

おわりに

医療費決済サービスを提供するCedarが評価額を伸ばしていることが今回の調査で分かりました。日本とアメリカでは保険制度の違いで決済サービスの需要に差はあるものの、日本の医療機関ならではのペインがあり、それを解決するサービスは必要とされています。そもそも医療現場ではデジタル化が他の分野に比べて遅れており、人手不足による医療従事者の長時間労働問題、働き方改革が深刻な問題となっています。医療機関の負担を軽減できる画期的なサービスを提供するベンチャーの登場はいつでも期待されています。

Angel Bridgeはアナログな病院のDXに取り組むベンチャーに積極的に投資したいと考えています。事業の壁打ちや資金調達のご相談など、お気軽にご連絡ください!

2022.02.05 COLUMN

こんにちは!Angel Bridgeインターンの黒田です。

アメリカの未上場Fintech企業についての調査結果をシリーズ化して発信しています。

今回は第3弾として資金調達プラットフォームを提供するPipeを紹介します!

Pipe概要

Pipeは2019年8月にSkurt創業者のHarry Hurst、Y Combinator出身の連続起業家であるJosh Mangel、同じく Y Combinator出身のZain Allarakhiaの3人によって創設されました。これまでに4度の資金調達を行なっており、その評価額は2021年3月時点で$2Bとなっています。最新のラウンドでは投資家による申し込みが大幅に超過したほどの注目企業です。

Pipe概要

Pipeは企業と投資家に、資金調達のプラットフォームを提供します。この資金調達は一般的な資金調達ではなく、Revenue-Based Financing(以下RBF)と呼ばれる方法を採用しています。

RBFとは

RBFとは、資金調達を行った企業が投資家に対して、その売上高に応じて返済を行うという資金調達方法です。企業は将来の債権をディスカウントして売却することで資金調達します。投資家は「企業の月々の売上のx%を返済に充て、投資額のy倍を返済してもらう」という条件で投資を行います。

例えば、企業が投資家から3,000万円の資金調達をしたとしましょう。このときの条件を「月々の売上の10%を返済に充て、投資額の1.5倍を返済してもらう」とします。この企業のある月の売上が1,000万円であれば100万円を、2,000万円であれば200万円を返済します。そして合計3,000万円×1.5倍の4,500万円を返済すれば返済完了となります。これがRBFの仕組みです。

RBFとは

投資額、売上高に対する返済額の割合、返済額の倍率は、企業のこれまでの売上高やビジネスモデルなどの情報から計算されたリスクに応じて決定されます。

ではRBFのメリットとはなんでしょうか。調達企業、投資家それぞれの目線から見てみましょう。

まず前提として、ベンチャー企業は銀行から融資を受けにくいという問題を抱えています。銀行にとってはベンチャーへの投資はハイリスクだからです。

調達企業にとってのメリットとして、ひとつ目に返済額が売上によって増減するという点が挙げられます。返済額が収入を上回ることもありません。これは創業初期の売上が安定しないスタートアップ企業にとっては大きなメリットとなります。また、担保として個人保証を求められることもありません。

次に株主の持分を希釈化する必要がないことが挙げられます。RBFでは投資家は企業に対して株式を要求しません。このため経営への介入を許したり、発言権の付与を行う必要がありません。一方で、VCなどの投資家はスタートアップへの出資の際に10~30%の株の持分を要求し、5年で10倍程度のリターンを求めます。それに比べるとRBFでは資金調達にかかるコストが相対的に低いのです。

着金までの時間の短さも魅力の一つです。通常、銀行やVCからの資金調達には2、3ヶ月かかります。しかし、Pipeでは収益情報の登録から承認まで48時間、RBFを提供するCLEARCOは投資決定まで24時間と驚きの短さです。

次に投資家にとってのメリットです。投資家はすでに売上が立っており、月々の返済が期待できる企業に投資することができます。これはVCのように資金回収まで数年かかり、またその成否も分からない状況で多額の投資を行うよりはるかにローリスクです。

また、このRBFはSaaS企業ととても相性が良いです。SaaS企業は商品を売りきりではなく、一定期間の使用に対して課金するという形で販売します。このため月々の売上の予想が立ちやすく、RBFとの相性が良いとされています。以下のグラフはSaaS市場規模の2020年からの予想推移とSaaS Capital IndexのValuation Multiplesです。SaaS市場規模は2020年1,138億ドル、2021年の1,307億ドルからCAGR28%で成長し、2028年には7,158億ドルに達すると予想されています。また、SaaS企業のValuation Multiple は高く、市場からも今後の成長が期待されています。このように成長する市場にマッチした投資方法であることも投資家にとってはメリットとなります。

RBFとは出典: FORTUNE BUSINESS INSIGTHS Public SaaS Company Valuation Multiple
RBFとは 出典: SaaS Capital

RBF市場

世界のRBF市場は年々大きくなっています。COVID19により、2020年にはベンチャー企業による資金調達量は減少しました。しかし、現在は世界経済が回復し、ベンチャー企業の資金調達の需要が高まっており、RBFも必要とされるようになっています。

2019年の世界のRBF市場規模は約$900Mとなっており、CAGR62%で2027年には$42Bまで達すると予測されています。この成長には、決済サービスの普及によるデータ取得環境の整備も寄与しています。Stripe、Square、Shopify、Amazonなどの決済サービスと連携することで、容易にSaaS企業の収益情報や取引情報を取得し、投資条件を素早く決定することができます。

RBF市場

Pipeのビジネスモデルと特徴

PipeはRBFによって資金調達を行いたい企業と投資家をプラットフォームでマッチングさせ、両者から手数料(資金調達額の最大1%)をとるというビジネスモデルです。Pipeは自身で貸し付けのリスクを負うことなく、大きくなるRBF市場に参加することができます。

ではどのようなプロセスで企業はPipeのプラットフォームを通して投資家から投資を受けるのでしょうか。例として年間収益が100万円の企業がPipeを通して資金調達をしたとします。Pipeの手数料は1%です。

以下の図の①~⑤が一連のプロセスです。Pipeはこのプロセスを通して両者から合わせて2万円の手数料をもらうということになります。

Pipeのビジネスモデルと特徴

Pipeの特徴として、資金調達までのスピードが挙げられます。Pipeは様々なソフトウェアと連携しており、資金調達を受けたい企業は使用している支払いシステムを同期するだけで収益情報をPipeに登録することができます。そして登録から48時間以内に承認を受け、資金提供を受けることができます。これはPipeの優秀な収益評価アルゴリズムのおかげです。VCからの調達や、銀行からの融資では数週間から数ヶ月かかるところです。素早い資金調達が必要なスタートアップとしては喜ばしいシステムです。また、社員が資金調達のタスクに時間を取られて本来の業務に集中できないスタートアップでありがちな問題も起きることはありません。

SaaS企業は通常、顧客に月契約ではなく年間契約をしてもらい、資金を獲得するために値引きを行います。例えば、通常月額5万円の商品で年契約してもらえば60万円のところを48万円に値引きするのです(この時、値引き率は20%です)。そして、その年間契約によって受け取った資金をもとに売り上げを成長させます。しかし、この値引率が高くなることがあります。Pipeのプラットフォームを使うと、この年間契約より低い値引き率で投資家から資金を受け取ることができます。より多くの成長資金を獲得できるわけです。これは企業の成長をより加速させます。

トラクション

2020年6月の一般公開以来から2021年4月にかけて4,000社以上の企業がPipeの提供するプラットフォームに登録しています。2021年4月時点で取扱額は$1Bを超えて$2Bに向かっており、現在も毎月数千万ドルが取引されています。取引限度額はビジネスモデルや経常利益からアルゴリズムによって計算され、$25K~$100Mとなっています。

また、取引企業にはIntercom (ARR $150M) やDataRobot (ARR $100M) などの有名なテック企業が入っており、信頼されていることがわかります。

日本のRBF

日本でもSaaS市場は成長傾向にあります。2018年からCAGR約13%の成長を維持しており、2025年には約1兆4607億円と2020年の約2倍へと成長する見通しです。また、ソフトウェア市場におけるSaaS比率も高くなると予想されます。

日本のRBF 出典: 富士キメラ総研「ソフトウェアビジネス新市場 2021年版」

SaaS市場の成長からSaaS企業の資金調達の需要が増え、相性の良いRBFの需要も増えていくことが予想されます。

また、デジタルD2C市場の成長も無視できません。SaaSと同様、継続的な収益が見込めるD2CもRBFと相性は良いです。日本のデジタルD2C市場は2019年時点で2兆円であり、2025年までに3兆円に達する見込みです。この市場でも資金調達の需要は増えると予想されます。

また多様な決済サービスの普及も追い風となるでしょう。PipeはStripe、Square、Shopifyなどの決済サービスと連携し、企業の収益や取引データの取得を行うことで、登録から承認まで2日というスピードを実現しています。日本でも同様に、決済サービスの普及は広がっており、RBF事業を行う下地は出来上がりつつあります。

おわりに

今回の記事では資金調達プラットフォームを提供するPipeを深掘りしてみました。

Angel Bridgeは世の中を大きく変えるイノベーションを起こしていきたいと考えています。 事業の壁打ちや資金調達のご相談など、お気軽にご連絡ください!

2022.01.17 COLUMN

こんにちは!Angel Bridgeインターンの黒田です。現在、京都大学医学部医学科5回生です。

これから、アメリカの未上場Fintech企業についての調査結果をシリーズ化して発信していきます。アメリカの成功事例を調査し、それが日本でも応用できないか? 日本とアメリカの注意すべき市場の違いは何か? などの観点から考察していきたいと思います。よろしくお願いします!

今回は第2弾として、住宅ローンを提供するBetterを紹介します。

Fintech市場全体像

KPMGのレポートによると、COVID19パンデミックの影響によって世界のFintech企業への投資額は2019年$215Bから2020年$122Bに下がりましたが、2021年はその流れに反発して上半期だけで$98Bもの投資が行われています。これは目覚ましい回復です。

次に全体と比較をしてみます。2021年第3四半期だけで42社のフィンテック企業がユニコーンになり、これはユニコーン誕生数の3分の1です。また、2021年上半期のVC投資額$294BのうちFintech分野が$52Bを占めています。このように全体と比較してもFintech分野が伸びていることがわかります。

アメリカFintech企業のリストアップにはFintechLiveの出している「The 198 Fintech Unicorns of the 21st Century (July 2021 update)」を参考にしました。このリストから本拠地がアメリカかつ、未上場のものを抽出しています。

未上場Fintechは54社ありました。今回はそれをカオスマップにまとめています。

Fintech市場全体像 *Angel Bridge作成

この中から今回は第一弾として、住宅ローンを提供するBetterを紹介します。

Better概要

Betterは2014年に現CEOのVishal Gargによって設立されました。これまでに5回の資金調達を行っており、その合計調達額は$900Mです。最新の2021年4月のラウンドでは$6Bという高い評価を受けています。最新ラウンドではSoftbank Vision Fundも参加しており、注目企業となっています。そのミッションは「住宅ローンを迅速に、低いコストで、透明化されたプロセスで提供する」となっています。

Better概要

Betterのビジネスモデルについて解説します。住宅購入者に対して住宅ローンを提供し、その住宅ローンを投資家に売却することでマージンを得るというものです。ローンの金利で収益を上げているわけではありません。

Better概要

この投資家には、Fannie MaeやFreddie Macなどの政府支援機関や、機関投資家が含まれます。売却される住宅ローンは証券化され、政府支援機関に元本保証されます。

ローンをすぐに投資家に売却するメリットとして、ローンを回収できないリスクを回避できること、資金不足に陥らず次々と多くの住宅購入者にローンを提供できることが挙げられます。

Betterが解決しているペイン

ではBetterは債務者のどのようなペインを解決する企業なのでしょうか? 現在、住宅ローンを組むときの債務者のペインとして次の二つが挙げられます。

①手数料が高すぎる
通常、住宅を購入するときは購入価格の6~10%が手数料としてかかります。不動産手数料に加えて様々な保険料や鑑定料、ローン手数料などです。
②プロセスが複雑すぎる
住宅ローンを組む際、処理すべき書類が多すぎたり、手続きの完了まで時間がかかりすぎたりするのがペインの一つとしてあげられます。具体的には必要となる書類が500枚以上になる、ローン手続きまで平均で45日かかる、といったことが挙げられます。CEOのVishal GargがBetterを創設したのも、住宅ローンを組もうとした際に散々手続きでトラブルになった挙句組めなかったという原体験がきっかけとなっています。

サービス内容

Betterはテクノロジーを使ってこれらのペインを解決します。
Betterのサービスは大きく分けて4つで、住宅ローン、不動産、タイトル保険、住宅所有保険です。

本記事では、Betterのサービスの中心となっている住宅ローンについて解説します。

手数料は一切無料で住宅ローンを提供する
本来、住宅ローンを組む際は、ローン提供者に対してローン手数料を支払わなければなりません。しかし、Betterは他の住宅ローン提供者が取る手数料の類を一切取りません。
100%オンラインで、事前承認まで3分、ローンクロージングまで平均32日で行える(業界平均は45日)
Betterは独自のワークフローエンジンを持っており、住宅ローンを組む際の手続きの多くを自動化しています。住宅ローン購入者の負担が減り、手続き完了までの時間が短くなっています。
業界水準より低い金利で住宅ローンを提供する
下の図は業界水準とBetterの金利の推移です。常にBetterの金利が下回っているのが分かります。これにより、住宅ローン購入者は平均で$8,200を節約できます。
住宅ローンサービスの詳細 出典:Better Investor Overview May,2021

Betterを支える技術

ではBetterはどのような技術でこれらのサービスを実現しているのでしょうか。

具体的に、二つの技術が挙げられます。一つはワークフローエンジンの「Tinman」、もう一つが「投資家とのマッチングエンジン」です。それぞれ解説します。

①Tinman
TinmanとはBetter独自のワークフローエンジンです。従来はブローカーが人力で行っていた作業を自動で行います。従来は債務者と住宅売却者の情報のやり取りや、債務者とローン提供者の情報のやり取りの間には、ブローカーが介入し、手続きを進めていました。この方法では債務者は書類の確認作業に追われたり、ブローカーに高い手数料を払わなければならなかったりとデメリットがあります。しかしTinmanがこの作業を代替することで債務者の確認作業が減り、ローン組成終了までの時間、人件費を削減できます。図で表すと下のようになります。
Tinman
Tinmanは現在も進化を続けています。エンジニアチームが営業チームからのフィードバックをリアルタイムで受け取り改善するというシステムで、生産性を上げ続けています。
②投資家とのマッチングエンジン
Betterは債務者と物件のデータを取得し、投資家の求める価格や条件を瞬時にマッチングさせるプラットフォームを持っています。大部分の住宅ローンは政府支援機関に売却するのですが、このマッチングエンジンを利用して、投資家に直接売却することで政府支援機関に売却するよりも高く売ることができます。このプラットフォームには年間一兆円以上の需要が集約しています。ローンを組成して売却するまでのプロセスを合理化することで、住宅ローン購入者に対して低金利、手数料無料という形で還元することができています。
これら二つはBetterのエンジニアの高い技術力によって作られ、動かされています。創業当時から最新の技術を取り入れ、Amazon Web Services上にインフラを構築しています。また、独自のコードテスト、コードリリース環境のおかげで、エンジニアによるコードの作成と検証を何度も素早く行うことができる環境となっています。
GoogleからBetterに転職したエンジニアのインタビューによると、Betterでは大企業よりも一人のエンジニアのビジネスへの影響力が大きく、より早く成長できます。また、エンジニアの数に対するプロジェクトの数も多く、様々な技術を使いながら課題を解決しなければなりません。そのような点で、Betterはエンジニアにとっては魅力的な環境となり、優秀な人材が流れているようです。

トラクション

ローン組成額は右肩上がりとなっており、2021年の第一四半期だけで$14Bのローンを提供し、現在は月に$4Bのローンを提供しています。また、収益もそれに応じて増加しています。

トラクション 出典: Better Investor Overview May,2021

日本の住宅ローン市場

次に日本とアメリカの住宅ローン市場の違いについて考察します。以下の二つが挙げられます。

①市場規模が異なる
日本とアメリカでは住宅ローンの市場規模が異なります。2020年に組まれたローン額を比べると、アメリカは$3T、日本は$185B(21兆円)となります。日本で同じようなビジネスを興す際にはこの点に注意する必要があるでしょう。また、下のグラフからわかるように、現在特に住宅ローン市場が伸びているわけではありません。
日本の住宅ローン市場 出典: 住宅金融支援機構 業態別の住宅ローン新規貸出額及び貸出残高の推移
②証券化の文化がアメリカよりも乏しい
アメリカでは70%の住宅ローンが証券化されているのに対し、日本では証券化されているローンは10%程度です。これにより日本では貸し倒れリスクを引き受けられる資金力のある金融機関が住宅ローンを提供するものだという風潮があります。
では日本ではノンバンクが住宅ローンの参入できないかというとそうではありません。住宅ローンを証券化するシステムは存在します。住宅金融支援機構が住宅ローンを買取り、証券にして売却する「フラット35」というシステムがあります。日本の住宅ローンを提供するノンバンクの多くはこのシステムを利用し、貸し倒れリスクを回避しています。しかしこの買い取り量も伸び悩んでおり、証券化の文化が進んでいるとは言い難いです。
日本の住宅ローン市場 出典: 住宅金融支援機構 フラット35利用者調査 2020年度
③アメリカより日本は金利が低い
アメリカでは住宅ローン金利が3~3.5%あるのに対して、日本は1~1.5%と低いことも違いとして挙げられます。これは証券を購入する投資家が得る利益が相対的に少ないことを意味します。また、組成したローンを売却する側としても、売却時に得られるマージンが少なくなります。

おわりに

日本とアメリカの市場の違いを考慮すると日本で住宅ローン事業を行うのはアメリカよりは厳しいかもしれません。しかし、日本ではまだBetterのような、実店舗を持たず完全オンラインで住宅ローンを提供し、かつ、手数料を0にしている企業は存在しません。もしそのような企業が現れて日本の市場の現状を変えてしまえば、面白いと考えています。

Angel Bridgeは世の中を大きく変えるイノベーションを起こしていきたいと考えています。 事業の壁打ちや資金調達のご相談など、お気軽にご連絡ください!

2022.01.07 COLUMN

こんにちは!Angel Bridgeインターンの山田と申します。
現在、海外や日本でSaaSの大型資金調達やIPOが続出しており大きなトレンドとなっていますね。特に、領域特化型のVertical SaaSが盛り上がりをみせています。
そうした背景からアメリカのEC領域特化SaaSの成功事例を調査し、それが日本でも応用できないか?日本とアメリカの注意すべき市場の違いは何か?などの観点から考察していきたいと思います。よろしくお願いします!
今回は第1弾として、延長保証をAPIで提供するExtendをご紹介します。

EC領域特化SaaSの全体像

まず初めに、EC分野のテクノロジー企業に対する投資動向について見ていきます。
BDOグローバルのレポートによると、EC分野のテクノロジー企業への投資額は2019年から2020年の前半にかけてCOVID-19の影響を受けて減少したものの、その後右肩上りに上昇しています。(*左軸参照)

EC領域特化SaaSの全体像 出典:New technology developments stimulate e-commerce investment and growth 14 June 2021 by BDO GLOBAL

次にもう少し詳しく見ていきます。
まず、EC領域特化SaaSは大きく二つに分類することができます。それは、

  1. ①ShopifyのようにEC機能全般を提供する企業
  2. ②ECサイトにAPIを提供することでサイトの機能を拡張する

の二つです。そして今回は②について詳しく見ていきたいと思います。
というのも、APIがビジネスとビジネスを繋ぎ、企業同士がお互いの強みを利用して新たな価値を創出する動きが近年活発になってきているからです。

フィンテック分野のBNPLはその代表例です。BNPLとは「Buy Now Pay Later」の略で、その言葉の通り「今買って後で払う」後払いサービスのことです。与信審査や手数料が発生しないという手軽さから利用者が急増しており、ECサイトに後払い決済機能を有したAPIを接続することで、EC事業者はCVR向上が見込めるのです。2021年9月に、日本でBNPLサービスを手掛ける株式会社PaidyがPayPalに3000億円で買収されたことでも話題になりました。

そして、BNPL以外にもECにAPIを提供するSaaS企業は年々増加しており、2021年現在14社のユニコーンが存在しています。その中でも特に注目な企業をリーチ・コンバージョン・ペイメント・ロジスティクス・カスタマーサポートというカスタマージャーニーに沿った5つのステップに分類してカオスマップを作成しました。

EC領域特化SaaSの全体像

こうして見てみると、半分以上の企業が2021年になってから1億ドル以上の大型資金調達を実施しており、EC領域特化SaaSの盛り上がりが分かりますね。

この中から、今回は第一弾として延長保証をAPIで提供するExtendを紹介します。

Extend概要

Extendは2019年に現CEOのWoodrow Levinによって設立されました。これまで4回の資金調達を行なっており、その合計調達額は$320Mです。
直近のSoftbank Vision Fundも参加した2021年5月のラウンドでは、$260Mを調達し評価額$1.6Bのユニコーンとなっています。Extendのmissionは、CEOのLevinのインタビューによれば「すべての製品にAppleCareをつけること」です。

Extend概要

続いてExtendのビジネスモデルについて説明します。
Extendは独自に保険会社と提携し、EC事業者に対して延長保証を簡単にECサイトに実装できるAPIの形で提供します。

Extend概要

企業は自社の商品と共にExtendの商品を販売するだけでよく、延長保証の運営自体はExtendが全て代行してくれます。マネタイズは消費者から支払われる延長保証の代金で行なっておりAPIの使用料は無料です。

Extendが解決しているペイン

延長保証の有無で顧客のCVRが大きく変わることから、ECにおいて延長保証はマーケティング戦略の一つであるという考えが最近浸透しつつあります。
しかし、以下のようなペインから中小のEC企業では充実した延長保証が提供できない状況が続いており、また顧客にとっても不便が多い状況でした。
Extendは延長保証業界がこれまで抱えていた以下のペインを解決しています。

①企業側にとってのペイン
延長保証のカスタマーサクセスに人員が大量に必要なことや、延長保証の契約料が高額なことから大企業しか延長保証を提供できないこと。
②顧客側にとってのペイン
実際に商品を購入した店舗に行って、煩雑な手続きを経なければ保証内容を受けられないこと。またレシートや書類などを保管しておかなければならないこと。

サービス内容

ExtendはECサイト上に無料で組み込めるAPIの形で延長保証を提供し、これらの課題を解決します。まずはExtendの延長保証提供のプロセスを見ていきましょう。

プロセス1: 消費者は商品と一緒に延長保証を購入
サービス内容
プロセス2: 商品が故障した際はExtend内のチャットで交換申請
サービス内容
プロセス3: 申請が通れば、新品の商品が発送される
サービス内容

このわずか3つのプロセスで保証が完結してしまうのです。
消費者にとっては、従来のように煩雑なプロセスを経ず全てオンライン上で保証が完結し、レシートや書類の管理なども必要ないのでスムーズな保証体験を提供できます。
企業にとっても、APIの使用量は無料であり、カスタマーサポートもExtend側が全て引き受けてくれるので負担ゼロで延長保証が導入できるのです。

Extendを支える技術

ではExtendはどのような技術でこのサービスを実現しているのでしょうか。
その技術として以下の二つが挙げられます。

①AIチャットボット
「Kaley」と名付けられており、機械学習技術によって請求されたクレームの98%を60秒以内に裁定できる機能を有しています。この技術はスムーズな顧客体験を提供すると共に人材削減にも貢献しており、APIの無償提供を可能にしています。
②機械学習を用いた価格設定技術
延長保証の適切な販売価格を設定することは、API使用料でマネタイズしていないExtendにとって生命線です。そのため、Extendは高度なデータエンジニアリング技術を持つメンバーを多数採用しています。例えば、現在ExtendのCRO(最高利益責任者)を務めているRob Pfeiferは、Affirm*の創業メンバーで最高リスク責任者と最高収益責任者を務めていた人物です。
その他にもAffirmで機械学習を用いた価格設定および財務組織で指導的地位をしめていたKevin Tsuiなど、金融バックグラウンドを有した精鋭エンジニアが多数在籍しています。

*Affirmとは2012年創業の「後払い」に特化したフィンテック企業で、これまでに累計10億ドル以上を調達した後、2021年1月に上場を果たしました。上場時の評価額は236億ドル(約2兆4500億円)となっています。

トラクション

現在Peloton、iRobotなどD2Cブランドを中心に150社以上のブランドと提携しています。

トラクション

また、APIを組み込めるECプラットフォームは、Shopify、BigCommerce、Magentoをはじめ30ほどあります。
実際にExtendの導入による収益増加の実績も多数あります。

トラクション

日本の延長保証市場

日本の消費者はアメリカと比較して、D2C企業よりも楽天などのモール型サイトの出品者からの購入が多いという違いがあります(Extendはモール型サイトへのAPI提供は行なっていません)。
しかし、延長保証をAPIの形で提供することへの大きな障壁は無いと思われます。
実際に、日本でも数社が延長保証をAPIで提供するサービスを手掛けており、日本の延長保証業界は今後更に盛り上がると考えられます。

おわりに

今回はEC領域特化SaaS特集の第一弾として、延長保証を提供するExtendを紹介しました。延長保証をAPIの形でECサイトに実装しUX向上を図ることは、アメリカでは既に主流となっており、日本にもその流れが着々と来ています。これからも、アメリカのEC領域特化SaaSの事例をもとに、日本で現在起こっている、もしくは今後起こりうるトレンドを紹介していきたいと思います。

最後になりましたが、Angel BridgeはCVR向上を目的としたEC周辺サービスにも積極的に投資しています。事業の壁打ちや資金調達のご相談など、お気軽にご連絡ください!

2021.09.27 INTERVIEW

海外での移動の不安を取り除きたい

SmartRydeはどのような事業を行っているのですか?

木村:SmartRydeは空港送迎に特化したマーケットプレイスです。地元のタクシー事業者と、オンライン上で取引を行う旅行事業者であるOTA(Online Travel Agency)をマッチングするビジネスを展開しています。

SmartRyde

旅行客のどのようなペインを解決しているのですか?

木村:オンラインで旅行を手配する人は世界的に年々増えており、OTAもそれに伴い増えています。しかし、航空券やホテルなどを別々で予約するのは非効率で手間がかかります。そこで、一つのサイトで航空券・ホテル・現地での移動までセットで予約するという世界観が広がってきており、我々はこの中で現地での移動サービスを提供しています。

Uberなどの事業者ではこのペインは解決できないのでしょうか?

木村:OTAは世界中の旅行商品を扱っていますが、Uberが実際にオペレーションできている国は限定的です。そのなかで、世界中の空港送迎を航空券やホテルとまとめて予約できるというのは、非常にエンドユーザーに対する付加価値が高いと思います。

なぜベンチャー企業であるSmartRydeが世界トップクラスのOTAと提携できるようになったのでしょうか?

木村:一番大きなターニングポイントとなったのは、2018年に中国の大手OTAであるCTripと接点を持ち提携に至ったことです。CTripはグローバルでも非常に名前の通ったOTAですが、そういったOTAとベンチャーが提携しているという実績がトラックレコードになり、ExpediaやBooking.comといった大手OTAとも連携できるようになりました。

どれくらいの数の空港をカバーしているのですか?

木村:現在は700の空港をカバーしています。しかし世界中には約3,500の空港がありまだまだ20%くらいしかカバーできていないので、さらに広げていく予定です。

創業した当初はCOOの朝川が旅行業界でのキャリアを通して培った現地の会社とのネットワークを頼りにしていましたが、去年からビジネスデベロップメントのチームを各国に作り、各地域の担当者が新規の空港・タクシー会社の開拓、そしてリレーションシップの構築もしています。

起業家シェアハウスで生まれた繋がり

なぜSmartRydeを設立しようと思ったのですか?

木村:もともと起業にずっと興味があり、大学2年生の時に大学の近くに起業家のシェアハウスができたというニュースを見て、そこに住むことを決めました。1年ぐらい住んでいたのですが、周りが新しいことにどんどんチャレンジしていくのを見て、自分も何かやりたいと思い起業を決めました。

SmartRyde

なぜこの事業をやろうと思ったのですか?

木村:まず元から旅行が非常に好きで、大学1年目に東南アジアに行きました。その時航空券やホテルはOTAで予約したのですが、空港からの移動はその場で手配し、タクシーに乗りました。しかし、ぼったくられたり全然違うところに連れていかれるなどハプニングが大変多く、こういった現地での移動もユーザーのペインとしてあるのだなと痛感しました。そこで、空港からの移動のハードルをまず下げたいと思い、この事業で起業をするに至りました。

起業時はどんなメンバー構成だったのですか?

木村:元々1人で起業し、そこから人を集めていきました。COOの朝川はシェアハウスで出会ったのですが、25年以上の旅行業界経験を持つこの分野のプロフェッショナルで、ハイヤー会社に強いネットワークがありました。

CFOの池田は外資系の証券会社に勤めていましたが、彼もシェアハウスで出会い、CFOとして参画してもらうことになりました。いろんな経験のあるメンバーにサポートしてもらえる環境がシェアハウスを通じて出来ていたことに気づきました。

現在は他にどんなメンバーが集まっているのですか?

木村:今はカンボジアやタイなど海外にもオフィスを展開しており、ビジネスデベロップメントは基本的に海外オフィスで行っています。海外のメンバーにはまずオペレーション業務からスタートしてもらい、2年ほど経験を積んだ後、営業やマネージャーの部署などよりバリューがある部署に異動し活躍してもらえるような設計にしています。またエンジニアも最近オーストラリア人を採用したりなど、国籍を問わず優秀な人は採用するという方針をもっています。

例えばヨーロッパの人は日本人が行かないような地域にたくさん行きますが、そういった地域は朝川のように海外での経験が長いメンバーや、海外に住んでいるメンバーに聞かないと情報がすぐ入ってきません。SmartRydeにはベネズエラ、インド、アフリカに住んでいるようなメンバーもいるので、そういった情報がスピーディーに手に入り、それをもとにすぐサプライヤーの開拓をしたりOTAを広げることができているのが我々の強みだと思います。

海外に進出するという大きな絵を共に描くこと

Angel Bridgeとはどのように出会ったのですか?

木村:CFOの池田の繋がりでAngel Bridgeを紹介してもらい、オフィスに伺いました。そして最初の河西さんとのミーティングでかなりの質問攻めにあったのを覚えています(笑)。ホワイトボードにビジネスモデルの図を書き、どういうふうに空港を広げていくのかとか、1回目とは思えないくらい白熱した議論をしました。こちらも一生懸命力を出し尽くして、最初のミーティングを終えました。

林:河西は真理の探究がライフワークなので、ビジネスでも真理をとことん探求してしまうんですよね(笑)。

SmartRyde

木村:初めてのミーティングであそこまでの質問攻めにあったことがなく、だいたい初回は簡単に会社紹介をしてその後質問シートをもらうケースがほとんどだったので、とてもびっくりしました。しかし、我々も本質的なご質問をいただくことでビジネスモデルについて深く考える機会になりましたし、投資検討の段階から伴走しているような感覚を勝手に持っていました。

なぜAngel Bridgeから投資を受けようと思ったのですか?

木村:まずキャピタリストの方々皆さんがとても魅力的でした。事務所にお伺いするだけではなく食事にも行ってパーソナルな話もさせてもらいましたが、投資前に食事に行ったのは初めてだったのでとても印象に残っています。親身になって伴走してくれるのではないかというのが当時期待としてありました。

シードアーリーの段階ではリソースがまだ足りていないので、経営者として色々なことをやりながらも困ることが多いです。例えばタイの現地法人をどう展開していくのかが分からず林さんに相談した際は、タイでの経験に長けている方を紹介いただいたりもしました。あらゆる点でご支援いただけることは、Angel Bridgeの良いところだなと思っています。

今でも経営戦略についてアソシエイトの八尾さんにフィードバックをもらったり一緒にディスカッションできているのは非常にありがたいです。

なぜSmartRydeに投資しようと思ったのですか?

林:経営者の木村さんから、凄まじいやり切り力やエネルギーを感じたからです。木村さんがこんなに大きなエンジンをどこに積んでいるんだろうという動機の確認にとても時間がかかりました(笑)。しかしお話ししていくうちに元々スケールの大きな方なのだと分かり、大きな絵を描いているというのを確認し、投資させていただくに至りました。

また、当初から木村さんより年上のメンバーが沢山いらっしゃって、特にCOOの朝川さんのような経歴のある方が木村さんのようなお若い方と組んでやっているのが非常に印象的でした。話していくにつれて、朝川さんは旅行業界でのビジネス経験が長く、その経歴を木村さんとSmartRydeに惜しみなく提供したいと思っている非常に純粋な方だということが分かり、お二人を中心としたチームを心強く思いました。

コロナ禍でもできることを積み上げていく

新型コロナはSmartRydeにとってかなりの逆境だったと思いますが、どう立ち向かったのですか?

木村:新型コロナはSmartRydeにとってすごく影響があり、当時月次で1,400万円くらいだった売り上げがほぼ無くなるというのを2020年4月に経験しました。最初は中国だけだと思っていましたが、それが4月になるとほぼすべての国に旅行者が入国できなくなり、衝撃を受けました。

それからは売上をすぐに伸ばすというよりは、生き残るべく今どういった対策をできるのかを全て洗い出しました。当時進めていたけれども一旦ストップした施策もありますし、コストダウンしたところもありました。あとはどういったタイミングで事業を回復させるかを試行錯誤していきました。

コロナ禍でも毎月Angel Bridgeと定例会をさせてもらい、今の状況は報告しながらも、こういうことをトライしてみたら?など一緒にディスカッションし、心理的にとても助かりました。報告することも少なかったのですが、やっぱり報告や相談が大事だということで定例会を続け、その時にいろんなコミュニケーションをとるなかで、やっぱり親身に支援してもらっているなとつくづく感じました。

SmartRyde

林:一度応援させていただくと決めたら最後までずっと応援しますよ。

木村:起業家としてはこれ以上ないありがたいことだと去年痛感しました。

林:旅行業界は10年に1回鳥インフルエンザなど大変なことが起こる、だからいろんな国にリスクを分散し展開するのだと昔朝川さんがおっしゃっていました。でも今回の新型コロナはリスクの分散を超えてしまった。これは難しい例ですね。

木村:50年以上旅行業界に携わっている人に聞いても、新型コロナはいままでの天変地異とは規模が違うと言われました。だいたいどこかがストップしてもどこかは動いているというのがこれまでの旅行業界でしたが、今回の新型コロナでは全世界がストップしました。だれも経験したことがないことを去年経験したと思っています。

その後に少しずつ希望の光が見えてきたのは去年の秋ぐらいからです。それまでの期間は事業を止めず、広げられるところは今広げるのがいいだろうということで提携しているOTAとタクシー会社を2倍以上に増やしていましたが、こういった強化の取り組みが秋ごろから成果として出てくるようになりました。

林:コロナの中でもできることを積み上げていきましたね。

一番初めに回復の可能性を感じたのはカリブ海です。メキシコのカンクンやドミニカ共和国のプンタカナなどがまず伸び始めました。初めて聞いた地名でしたが、アメリカ人がよく行くリゾート地だと知りました。このエリアは観光産業で成り立っているので、1年以上ストップすると経営が立ち行かなくなり、そこにアメリカ人の入国が緩和されたことで、観光客が増えていました。そのトレンドが掴めたので、カリブ海のニーズをしっかり取ろうと集中的に事業開発をしたことで数字が回復しました。

この経験から、日本人の感覚でビジネスを考えてはいけないなと強く感じました。日本では移動がまだまだストップしていましたが、アメリカ人はアクティブでした。広い視野で物事を考えるのが大事だと痛感しましたね。

今回はコロナ禍での資金調達でしたが、どのように押し進めたのですか?

木村:今回のラウンドでは、リードのAngel Bridge以外にも、金融系やコーポレート、海外のVCにも出資をいただきました。

まずシリーズAの調達をするというタイミングで、Angel Bridgeに調達をやりたいですとご相談したのが去年の12月の定例のミーティングでした。その時にまず事業計画書を作って見せて欲しいと年末年始の宿題を出され、頑張って作りました(笑)。すぐに提出しアドバイスをいただき、ある程度きちんとした資料ができたところで投資家回りをスタートしました。

一番初めは私が以前からお付き合いがあったVCにアプローチしその反応を見てから、優先順位まで細かく分析したVCのリストをAngel Bridgeからいただきました。次のラウンドでどんなVCにアプローチすればいいのかもなかなか分からなかったので、非常に助かりました。また直接色々なVCの紹介もいただき、投資実行まで至ったVCもあったので、Angel Bridgeのご支援があってのシリーズAの調達だったなと振り返ってみて思います。

まだまだ旅行に対しては逆風ですが、SmartRydeの予約が増えているという数字によって旅行業界が回復してきているというのをお示しすることができたのと、アメリカのようにある程度ワクチンが普及すれば旅行が戻るというエビデンスも出てきていたので、外部環境が良くなってきたのは追い風でした。

本気で取り組めるビジネスで起業する

SmartRyde

後輩起業家に伝えたい、起業するにあたって気を付けるべきポイントはありますか?

木村:起業する時、どんなビジネスを立ち上げるか色々考えると思います。その際、考慮することの中で例えばマーケットや市場規模なども大事です。しかしそれ以上に、本当に自分がやりたいことなのかはもっと大事だと思っています。ビジネスをしていると、大なり小なり壁に当たります。その時に、本当にやりたいことであれば、困難な状況でも前を向いてやり切れると思います。起業では継続力こそ一番大事なんじゃないかと思っています。

SmartRydeをどんな会社にしていきたいですか?

木村:グローバルな会社にしていきたいと思っています。それは、サービスやプロダクトに限らずに人材や文化なども含めた真のグローバルな会社です。空港送迎は二ッチなマーケットですが、グローバルでの展開が可能です。さらに、将来的にビジネスを周辺領域に広げていけて、TAMの拡大余地が高いなと感じています。グローバルなビジネス展開をすることで、日本に限らず世界中の優秀な人材がSmartRydeに流れてくる組織を目指していきたいです。

SmartRydeの事業を通して何を社会に届けたいですか?

木村:私たちのミッションは「移動を通じて地域社会の持続的発展に貢献する」です。私たちは、地元の交通事業者が軸の会社です。現在注力をしている空港送迎は、特に観光地のタクシー、ハイヤー、バス事業者にとっては大きな稼ぎ頭になっています。今後私たちのプロダクトを通じて、地元の交通事業者にとってなくてはならない存在になっていきたいと思っています。その先に、移動を通じて地域社会の安心安全な生活や旅を実現することで、地域社会の持続的発展に貢献していきたいと思います。

2021.09.27 INVESTMENT

今回は、AI技術を活用してソフトウェアテストを自動化するクラウドサービス「Magic Pod」を開発・運営している、株式会社MagicPodへの投資に至った背景について解説したいと思います。

ノーコード/ローコードとは、アプリケーションなどの開発やテストを行う際にコードを書かない、もしくは少ないコードでも開発ができるというものです。ノーコード領域はグローバルで注目度が高く、またソフトウェアテストの自動化ニーズも急速に顕在化してきており、今後市場が拡大することが予想されています。

Webブラウザ向けテストは比較的容易に実現可能であり多くのプレイヤーが存在していますが、一方でモバイルアプリのノーコードテスト自動化ツールは高い技術力を必要とし、世界でも成熟したソリューションとして製品化できているプレイヤーはTRIDENT以外に存在していません。こういった背景から、非常に可能性のある領域だと考え、投資に至りました。

それでは今回はAngel BridgeがTRIDENTに投資する際にどのような点を検討したかについて、ご紹介します。

サービス概要

まずTRIDENTのサービス内容について説明します。

エンジニアでない方には馴染みがないかもしれませんが、ソフトウェアテストは開発工程の30%を占める重要な工程であり、その中でTRIDENTが取り組むのはE2E(End to End)テスト領域です。

サービス概要

E2Eテストとはシステム全体が正しく動作することを確認するもので、アプリやWebサービスをバージョンアップした際にはリリース前に必ず実機でのテストをします。具体的には利用者による画面操作により、想定通りの動作となっていることを確認します。特にE2Eテストは多くの場合エンジニアがいちいちスマホやタブレットを何個も用意して手動でリリース前に動作確認しているため、ミスも起こりますし時間もかかります。またローンチ前に毎回手動でテストを行うため、ローンチサイクルを早める上でボトルネックとなります。

E2Eテストを自動でできるエンジニアもいますが数は多くなく、そういったエンジニアを雇っていたとしても、バージョンアップのたびに動作しなくなるためコードのメンテナンスが必要で工数が割かれてしまいます。こういったテスト工数の削減は大きな課題でした。

手動テストはこのように時間も工数もかかり品質面でも問題がありますが、一方でプログラムを書いて自動テストを行うハードルが高く、未だに多くの企業で手動テストが行われています。そういったペインを解消しているのが、TRIDENTが開発している「Magic Pod」でした。

Magic Pod

Magic Podでは、UI変更やiOS⁄AndroidのアップデートにもAIが自動対応しており、ノーコードで専門知識がなくても比較的容易にテストプログラムを構築できます。月々数万円で導入できるため、かなりのコスト削減になります。

テスト作成手順

Magic Podを活用したテスト作成手順は以下の通りです。

AIエンジンがアプリケーションの画面から項目を自動検出するので、ノーコードで非エンジニアでも簡単に自動テストを実装可能です。

テスト作成手順

またテスト対象アプリケーションのUIに変更があった時には、AIが自動でスクリプトを修正しテストスクリプトのメンテナンスの手間を大幅に削減します。

競合

次にTRIDENTの競合についてです。まずソフトウェアテストには、「Webブラウザ向けテスト」と「モバイルアプリ向けテスト」があります。

Webブラウザは更新ペースが比較的遅く、端末による挙動の違いを考慮する必要もないことから、比較的容易に実現可能です。また市場規模もモバイルアプリ向けテストより大きく、そのため多くのプレイヤーが存在しています。

一方で、モバイルアプリのテストはWebと比較して圧倒的に実現が困難です。まず、iOS⁄Androidの更新ペースが速いため、頻繁にテストを実施する必要があります。また、様々なモバイル端末で動作確認する必要性があり、ミスも多くコストもかかります。さらに、ベース技術となるソフトウェア(Appium)が開発されてから歴史が浅く、トラブルが多く安定性に欠けていることも課題です。

また、手元端末では接続状況などの環境要因が不安定で動作が重すぎるという課題が存在し、さらに手元端末へのインストール作業が複雑であることから、クラウド仮想端末の開発も必要になってきます。こういった難易度の高さに加え、市場はWebブラウザに比べると少ないことから、世界でもTRIDENT以外に成熟したノーコードのサービスを提供できているプレイヤーは存在しません。

競合

このような市場環境の中で、TRIDENTはモバイルアプリとWeb両方に対応した、ノーコードで非エンジニアでも扱えるツールというユニークなポジションを確立しています。日本でもトップクラスのエンジニアが複数結集してチームを組成していることから、こういった難易度の高い技術を提供できています。

Magic Podは実際に技術力のある大手IT企業での導入実績も多数あり、投資検討をするにあたり実際に複数の導入企業にインタビューを行いました。その結果、優秀なエンジニアを抱えるベンチャー企業でもテスト自動化のニーズは強く、Magic Podは競合比較でも高い評価を得ていることがわかりました。

導入実績

経営陣

Angel BridgeがTRIDENTに投資するにあたり、経営する皆様への理解を深めました。

まず代表の伊藤氏は、本の執筆やコミュニティでリーダーを務めるなど、テスト自動化領域では名の通った日本でも屈指の技術力を持つ人物です。AIと組み合わせることで自動化ツールを実現できるという発想を得たことから、本領域で本格的な事業拡大を開始しています。また、チーフエンジニアの玉川氏は東京大学情報理工出身のエンジニアで、ソフトウェアテスト自動化領域において著書や講演実績もある著名な人物です。

経営陣

テスト自動化のプロフェッショナルである伊藤氏のもとに日本屈指の技術力を持つエンジニアが結集しており、このようなテクノロジーにエッジを持つ経営陣が結集してチームを組成していることで、こういった難しい領域でも勝っていけるのではないかと感じました。

おわりに

TRIDENTの経営チームは全員がエンジニアで、マーケティングは一切せずにユーザーの声を一生懸命聞いてプロダクトを磨きこんできました。結果としてエンジニアリング力の高いユーザーから高いエンゲージメントを得ています。PMFする前にマーケティングを闇雲に行うのではなく、しっかりユーザーと向き合うことが大事ですし、それが出来ているベンチャーが一番最後に勝つと思います。

繰り返しになりますが、Angel Bridgeは社会に大きなインパクトをもたらすために、あえて難しいことに挑戦していくベンチャーこそ応援しがいがあると考えており、こういった領域に果敢に取り組むベンチャーを応援したいと考えています。事業の壁打ちや資金調達のご相談など、お気軽にご連絡ください!

2021.09.07 COLUMN

みなさんこんにちは、Angel Bridgeでジュニアアソシエイトとしてインターンをしている河野です。現在東京大学大学院医学系研究科の修士2年に在籍しながら、週5日間フルコミットで働いています。今回は、Angel Bridgeというベンチャーキャピタルで約半年間インターンをして学んだことについて書いています。最近VCでも学生インターンの募集が増えてきたので、VCのインターンってどんなことをするの?と疑問に思っている学生の方々の参考になればと思い、記事を書くことを決めました。文章を読んだだけではイマイチぴんとこない部分も多いかもしれませんが、できるだけイメージしやすいよう書いてみたいと思います!


Angel Bridgeの第1号インターン生となった経緯

それではここで、私がAngel Bridgeでインターンを始めることになった経緯について簡単に紹介します。

私はAngel Bridgeで働く前にもLinc’wellというヘルスケア領域のベンチャー企業で2年ほどインターンをしていました。もともと私は東大に入学したころは研究者志望で、国立の研究所にて長期インターンをしていましたが、段々とビジネスサイドにも関わってみたいと思うようになり思い切って応募してみたのがきっかけで、Linc’wellでもインターン1号として働くことになりました。私がジョインした頃はまだメンバーも少なく、毎日がむしゃらに働いていてとても楽しかったです。

Linc’wellはもの凄いスピードで成長しているベンチャーで、働いている中で資金調達の話題が出たり、既存VCについて考える機会もありました。そして、こんなにワクワクするベンチャー企業と関わることができるVCの仕事はさらにワクワクするのでは?と感じるようになりました。

VCはインターンどころか新卒を募集しているところもほとんどないような業界で、なかなかインターンをするのは厳しいのかと考えていました。しかし当時参加していた大学のゼミのTAとして弊社アソシエイトの八尾が参加していることに気づき、ダメもとで連絡してみたところ、無事インターン生1号として働くことが決まりました。

一見新卒やインターン生を募集していないように見える企業でも、ダメもとでアプローチしにいく姿勢が大切だと思いますし、これは学生の特権のような気がします。

Angel Bridgeのカルチャー

日本にはいろいろな母体のVCがありますが、Angel Bridgeは外資系投資銀行・PEファンド出身の河西が2015年に設立したVCです。

Angel Bridgeのキャピタリストは私が加入した当初3名しかおらず、同世代のメンバーももちろんいなかったため内心びくびくしていましたが、勤務初日から1週間かけてとても濃密なオリエンテーションをしていただき、その面倒見の良さにとても驚きました。VCの業務の説明から始まり、1社1社投資先の紹介までしていただいたので、VCについて知識がなかった私にとってはとてもありがたかったです。

また、仕事外でもゴルフに行ったり、宮古島でアウティングをしたりと、とてもアクティブに楽しんでいます(笑)

インターンを通しての学び

それでは本題に入りますが、半年間どのような業務をVCで行ってきたのか、それにより得られた学びについていくつか紹介していきたいと思います。

ソーシング・目利き

まずはベンチャーのソーシング・目利きについてです。ソーシングとは投資先となるベンチャー企業を探すことを指し、その後投資決定に至るまでの検討過程を目利きやデューデリジェンスと言います。

私が働き始めてからはずっとコロナ禍で、オフラインのイベントなどに参加してソーシングをするような機会はなかなかなかったため、リストを使ったソーシングが主でした。具体的には、INITIALのようなデータベースを使って、事業内容や過去調達歴などのテーマで絞りソーシングをしました。

ソーシング活動を経て学べたことは沢山ありますが、その一部をご紹介していきます。

1. 起業家から見えている世界
VCでインターンを始めてまず、日本にはこんなに沢山の起業家がいるんだ!と大変驚きました。起業家の方々は何か強く信じているものや、成し遂げたいことがあって起業されていますし、ソーシングを通した対話の中で大変刺激を受けました。
身の周りに実際に起業している人がいないとなかなか起業のイメージが湧かないと思いますが、VCで働いていると起業をより身近に感じることができます。私自身起業を勧められることはあっても具体的に起業という選択肢を考えたことはありませんでしたが、実際に何人もの起業家の方とお話をすることで、初めて起業という選択肢をリアルにイメージできるようになりました。
また、起業は確かにリスクを伴うかもしれませんが、それ以上に、無事上場しさらに会社を成長させていく時やその過程で得られるもの、見える世界は素晴らしく、リスクを取るに値するのだと起業家へのインタビューなどを通じて感じました。
例えば、自分が作ったものが世に出ていき誰かのためになる瞬間はきっとかけがえのないものですし、同じ志を持ったメンバーがどんどん集まって組織が大きくなっていく感覚や、一緒に多くの困難を乗り越える経験は、やはり実際に起業することでしか得られないのだと思います。
2. ビジネスの本質を見抜く感覚
起業家にコンタクトをとるか否かを決める際の判断基準として、自分の中でいくつか最低限チェックするポイントを決めています。この判断基準はソーシングを重ねるにつれてブラッシュアップされていきましたし、それにつれて判断の精度も上がっていったと思います。
ビジネスの本質を見抜く感覚
また、実際に起業家と初めて話した後投資に至るまでには更にデューデリジェンスをする必要があります。こちらの記事に詳しくまとめていますが、ビジネスモデル・市場環境・競合などのビジネス面と、経営陣の経歴・人柄に至るまで様々な点を短期間で検討します。特にシード段階だとこの中でより経営陣の比重が大きいと思います。
誰しも人生で一度は自分のアイデアをピッチする機会があると思うので、そのビジネスが将来成功するかを現状の情報だけで判断するためにどういったポイントを見られているのか、もしくは見るべきなのか学ぶことができるのは、かなり今後のキャリアに生きてくると思います。
3. ニーズを的確につかみ取り、正しくアピールすること
近年国内のVCが着々とファンドレイズを進めており、起業家にとってはより一層資金調達がしやすい環境になってきていると思います。そのため我々が投資したいと思うベンチャーを見つけたとしても、そのベンチャーにも我々から投資を受けたいと思っていただき選ばれなければいけません。
起業家との対話の中で、彼らがどういったサポートを必要としているのか、また我々がVCとしてどんなバリューを出していけるのかを探っていくことも重要だと学びました。
バリューアップ

投資後のバリューアップの仕方はVCそれぞれだと思いますが、Angel Bridgeは投資先を絞っており、投資後もニーズがあれば積極的に支援ができる体制を整えています。私は以下の図の中でも特に(事業)についてお手伝いをしてきました。

ニーズを的確につかみ取り、正しくアピールすること

4. 自分の立場だからこそ出せるバリューについて試行錯誤すること
VCの立場から支援できることは限られていますが、ずっと同じ事業をやっていると意外と気づきにくいポイントなどを外部の視点から見つけ、起業家とディスカッションするのは非常にやりがいがありました。外部からの視点だからこそ出せるバリューは何なのかを試行錯誤することは、例えばコンサルティングファームで将来活躍したい方などには特に生きてくるかもしれません。
マーケティング
5. ベンチマークとの差異を可視化し、社内で意識を揃えること
VC自体の業務は以上が主ですが、Angel Bridge自体もまだまだメンバーが少なくベンチャー的な側面があるので、より多くの起業家に知ってもらうためのマーケティングが必要でした。起業家の友人にVCのどういった点を見ているかなどをヒアリングし、Angel Bridgeに足りないものを可視化することで、マーケティングを強化するにあたって社内の意識を揃えることができました。
ここでは私が入社してから行ったマーケティング活動についてご紹介します。
・HPの改訂
まずはHPを大きくリニューアルしました。私が入社した頃はまだ秘密組織的にやっており、HPに詳しい情報をあまり載せていませんでした。そのため、会社のMissionからメンバーのページまで全て一から作り直しました。
HPをリニューアルしたことで起業家の方々とのアポイントメントが取りやすくなりましたし、事前にAngel Bridgeについて知っていただいてからお話しすることが可能になりました。
・記事作成
HPの改訂が終わってから、記事の作成も始めました。Angel Bridgeメンバー・投資先メンバーへのインタビュー、投資先の業界研究記事などを中心に書いています。特に、VCが投資意思決定にいたるまでにどういったことを考慮しているかを紹介した記事はかなり閲覧数がつきました。起業家がどんなコンテンツを必要としているのかを探っていくのもとても面白いです。
・Twitterアカウントの始動
今ではほとんどのVCのキャピタリストがTwitterをやっていますし、有力なソーシングルートになってきていると思います。最初はTwiterをやることに少しためらいがあったAngel Bridgeメンバーも、今では積極的にツイートしてくれています(笑)
こういったマーケティング活動を通して、Angel Bridge知ってます!とか、記事読みました!と言ってもらえる瞬間が増えたことは私にとって何よりの喜びでした。社会を良くするために活動している人がどんどん世に出ていくこと、そして組織が大きくなっていく瞬間に、私はやりがいを感じるなとつくづく実感しています。

少人数の組織で働く際に大切な2つの習慣

最後に、少人数の組織で働く際に気をつけるべきであると私が感じた点についてご紹介します。これはシード期のベンチャー等にも当てはまると思いますが、VCはたいてい少ないメンバーでやりくりしていることが多いので、VCでのインターンにも当てはまる重要なポイントだと思います。

6. 細かな目標設定と振り返りを怠らないこと
メンバーが少ないと、共に高めあう同期のような存在はいないですし、上のポジションも年齢が開いていることが多いので、ベンチマークを見失ったり、自分が成長しているか実感しづらかったりすると思います。
このような状況を回避するために、私はインターン初期に自分のリソースのアロケーションと年間達成目標を設定し、さらに月に1回アソシエイトの八尾に1 on 1をしてもらい目標達成度の振り返りや次の1か月の達成目標を設定するようにしていました。客観的な視点からの評価は必ず成長に繋がると思いますし、これを怠るとだんだんだれていってしまうと思います。
少人数の組織でのインターンは裁量権を多く持ちやすい分、色々なことがあいまいになりがちなので、こういった心掛けが非常に大切です。
7. 自分から仕事を見つけにいく姿勢
メンバーが少ないと尚更、待っていれば上司から仕事が降ってくるというような環境は非常に稀だと思います。そのため、常にファンド全体のステータスを把握しておく心構えが必要です。今ここのリソースが足りていなさそう、そろそろこのタスクに着手した方が良さそうといった、自分から常に動きにいく姿勢がかなり重要だと思います。
「なんだかやることなくなったな」という状態は発生するはずがなく、そこには無限にタスクがあるはずです。上司の仕事を奪いにいくぐらいの姿勢でいることがベストです。

最後に

今までAngel Bridgeで半年間働いてきた中で、VCでのインターンは本当に色々なことが学べる最強の環境だと感じました。この半年間は本当に手探りの状態でしたが、これからはさらに自分で試行錯誤しながら学びを深められるのではないかと強く感じています。

ここまでの長文を読んでいただきありがとうございました。VCのインターンに興味を持たれた方は、ぜひAngel Bridgeのインターンに応募してみてください!

2021.08.17 ACADEMY

今回は、起業後に検討することになる資金調達の考え方についてVC目線で解説したいと思います。

設立直後の資本政策はどのように立てるべきか?

資本政策は取り返しがつかないと言われることがあります。株主構成を後から変更することは困難であり、創業初期から計画を立てておくことが必要です。事業の進捗に合わせていつどのようなタイミングでどれくらいの規模の資金調達を行うか、だれに株主になってもらうかを考えます。事業を推進するのに必要な資金とサポートを得ながらも、複数回の資金調達による希薄化を考慮しても経営陣が十分な持ち株比率を維持し、スムーズに会社運営を行える状態を保つことができるような計画を立てましょう。

資金調達の方法は?

ベンチャー企業の資金調達方法には大きく分けて2種類あります。デット調達とエクイティ調達です。まずはこれらの違いについて確認していきます。

Debt vs. Equity Financing: Which One Benefits Your Business the Most
(https://www.fastcapital360.com/blog/debt-vs-equity-financing/)
デット調達
借入による調達のことで、一般的には銀行から事業資金を借りることを指します。デット調達は株式の希薄化をさせずに調達できる点で優れていますが、返済義務がある点はデメリットです。また、特に創業初期においては銀行借入が難しいということも事実です。銀行はお金を貸して、利息を付けて返してもらうことで利益を得ているため、お金を返す能力がある会社にしかお金を貸しません。したがって、どれだけお金を返す能力があるかによってデットで調達できる金額が決まります。創業当初は当然のことながら返済能力を示すことが非常に難しく、借入ができないケースも多いのです。
通常の借り入れとは別枠で、日本政策金融公庫などが運営する創業支援に特化した融資制度もありますので、こちらに応募してみることもオススメです。
エクイティ調達
投資家に株式を新たに発行 する形で行う資金調達で、VCや事業会社やエンジェル投資家が資金の出し手となります。エクイティ調達は返済義務のない資金が得られることや創業初期でもまとまった資金が得られることがメリットですが、株式の希薄化が起こる点がデメリットです。また、上述の通り株主構成は非常に重要かつ取り返しのつかない事項なので、計画性を持って慎重に調達を行うことが必要です。経験のある信頼できる人に相談することがオススメです
INITIAL 2020年 Japan Startup Finance〜国内スタートアップ資金調達動向決定版〜 (https://initial.inc/enterprise/resources/startupfinance2020)
エクイティ調達による調達額は年々増加傾向にありますが、その中でも最もスタンダードなVCからの調達について見ていきます。

VCから資金調達をすることの意味は?

VCから資金調達をすることにはメリットもデメリットも存在します。両方をよく理解したうえでVCから資金調達すべきかどうかを検討することが重要です。

VCから資金調達をすることのメリット
(1) 無担保で返済義務のない成長資金を得ることができる

事業成長に必要な資金を得られることが1つ目の大きなメリットです。創業初期は事業が赤字で、成長資金の融資を金融機関から得ることは困難です。一方で優秀な人を採用し、オフィスを借りて、サーバーを借りて・・・と先行して多くの費用が必要になります。事業は常に競争環境にあり資金調達をして一気に事業成長をさせることは時として成功の必須条件となります。このギャップを埋める資金こそがベンチャー企業の成長性に期待して投資を行うVCマネーです。事業の成長性を訴求することができれば融資では得られない金額の資金を得て、事業を加速させることができます。

(2) 事業成長のサポートを得られる

成長資金を得るだけでなく、その後の事業成長に対して様々な面からサポートを受けられることが2つ目の大きなメリットです。株主となったVCは経営陣と同じ船に乗っています。投資先企業の成功がVCの成功であるため、様々な面で投資先企業のサポートを行います。

VCから資金調達をすることのデメリット
(1) 自由度が失われる

VCが株主となることによって、事業方針の自由度が制限されることはデメリットとして想定されます。例えば急に全く違うビジネスに転換する、事業を辞める、副業を始めるなどはVCに反対されるケースもあります。経営上の大きな意思決定については事前承諾事項として契約書に記載されるケースも多く、VCの株式持ち分比率が低くても起業家が自由に意思決定できない場合があります。気になる場合にはあらかじめ相談しておきましょう。

(2) 情報共有の手間がかかる

VCはファンドに出資しているLP投資家の資金を預かって投資している立場であるため、投資先の状況を把握する責任があります。VCからタイムリーに様々な情報開示が求められるシーンが出てきます。人数が少なく体制が整っていない段階では負担が大きいこともあります。ここについても事前に相談しておくことで負担を軽減できる可能性があります。

これらを理解したうえで適切なタイミングでVCからの調達を受けるのがよいでしょう。創業期の調達手段としては他に金融公庫からの創業融資やエンジェル投資家からの出資が想定されます。創業融資は金額に上限がありますが受けられるものは受けると良いでしょう。エンジェル投資家はもちろん人にもよりますが基本的には良くも悪くも関与は比較的少なく、上記のVCのメリットもデメリットも薄まったようなイメージです。ただし、株主に入る方の風評も含めたバックグラウンドチェックは必須です。

具体的な資本政策の事例

最後に、より具体的にイメージを掴んで不安を払拭していただくために、Angel Bridge投資先のベンチャーがどのような資金調達を行ってきたかを見ていきます。

設立当初は創業融資での調達
3社とも設立当初は創業融資による資金調達を行っています。創業融資にはいくつかの利点があります。借入でありながら返済期間が比較的長期であり利率も低く、期間中は利息のみの支払いで済みます。株式の希薄化も生じず経営の意思決定にも影響がありません。このような点で多くのベンチャー企業が設立時に創業融資を活用しています。使わない手はないと思います。
シード期ではエンジェル投資家やシードVCから調達
初回の資金調達ではエンジェル投資家やシードVCから調達している企業が多いです。これはエンジェル投資家やシードVCがシードベンチャーにしっかりネットワークを張っていることに起因する部分もあります。シード期のベンチャーにとってはアプローチしやすい存在です。
※Angel Bridgeもシード期から投資を行っています。
シード調達のタイミング
シード調達のバリュエーション初回の投資を受ける際の事業ステージとしては最低限機能するプロダクトがあり、既にいくらかのユーザーが存在することが目安です。有料ユーザーを獲得していれば素晴らしいですが、PoC中の無料ユーザーであっても獲得しているかで大きく違います。この状態まで実現してから調達することで、バリュエーションを上げ、起業家の株式希薄化を抑えることができます。
シード調達のバリュエーション
適切なバリュエーションは様々な状況にもよるので一概には言えませんが、目安としてPre1億円から3億円のケースが多いです。A社は社長が戦略コンサル出身で非常に実績があったことと元IT大手のスターエンジニアとの共同創業でPre4億円です。よほど優れた経営陣や、既にユーザーを捉えているというケースであれば3億円を超えるバリュエーションも想定されます。最近はシリアルアントレプレナーの方がいきなり数十億円のバリュエーションで大型の資金調達をされるケースもありますが、多くの方にとってはイレギュラーと捉えたほうが良いでしょう。また、バリュエーションは高ければ高いほど良いと思われがちですが必ずしもそうではありません。一度高いバリュエーションを付けると、その後バリュエーションを下げることはなかなか難しいのが現実です。ダウンラウンドのバリュエーションでの調達となると、それだけで事業がうまくいっていない、資金調達が難航しているというメッセージを外部に出すことになってしまいます。次回以降の資金調達でもしっかりバリュエーションを上げて投資が得られるかどうかも考慮し、高すぎず安すぎず適切なバリュエーションで調達することを目指しましょう。

まとめ

資金調達は事業を成功に導く有効な手段ではありますが、やり直しが難しいため計画的に実行することが重要です。このあたりは特に初回は分からないことも多いと思います。自分で勉強して基礎知識を付けたうえで、経験豊富で信頼できる方に相談することが有効です。VCも相談に乗ってくれます。Angel Bridgeでももちろんサポートいたしますので、ぜひ積極的にオフィスアワーやContact、チームメンバーのSNSからご連絡ください!

2021.08.09 INVESTMENT

「Angel Bridge投資の舞台裏#1」ではVCが投資判断をするにあたって検討する点についてミツモアを例に紹介しましたが、今回はSmartRydeを例にとって解説したいと思います。
「Angel Bridge投資の舞台裏#1」

SmartRydeは空港とホテルを結ぶハイヤーサービスの予約プラットフォームを運営しています。Angel Bridgeは2019年10月にSmartRydeに投資していますが、その後新型コロナウイルスの影響を受けグローバル全体で観光業が落ち込み、SmartRydeも大打撃を受けました。しかし、アメリカの一部地域では往来が自由になったり、ワクチン接種の普及により観光が回復している国が増えてきたことから、SmartRydeの売上も順調に回復してきています。

それでは、今回はAngel BridgeがSmartRydeに投資する前にどのような点を検討したかについて説明します。

サービス概要

まずSmartRydeのサービス内容について説明します。

海外旅行で見知らぬ空港に着いてまずホテルまで行くとき、どこにバスや電車の乗り場があるかわからない、といった経験をされたことのある方は多いのではないでしょうか。バスや電車の次に選択肢となるのはタクシーですが、料金を多く請求されたり、あまり言葉が通じないといったこともありますし、そもそも夜ならタクシーが空港にいないかもしれないという不安があります。そのためホテルを予約したときにハイヤーサービスを予約したいという人は一定数いるでしょう。これは家族旅行だけでなく、ビジネストリップでも需要があります。

SmartRydeでは、こういった空港送迎のハイヤーサービスを簡単に予約できるプラットフォームを運営しています。OTA (Online Travel Agency) で航空券とホテルを予約すると、最後にポップアップとしてハイヤーサービスがレコメンドされ、SmartRydeのハイヤーサービスを予約できるのです。

サービス概要

また、マーケットプレイスとしてはハイヤーのユーザー以外にも、OTA (Online Travel Agency) ・タクシー/ハイヤー事業者それぞれに関しても以下のようなペインを解消することが可能です。

サービス概要

ビジネスモデル

ビジネスモデルは以下の図の通りです。SmartRydeが間に立ち、OTAとハイヤー会社をマッチングしています。売上の70%をハイヤー会社、残りの15%ずつをOTAと 、SmartRydeが収入として得ています。

ビジネスモデル ※2019年投資時点

実はSmartRydeは少し変わったタイプのプラットフォーマーです。典型的なのはTo Cのユーザーと何かを繋ぐプラットフォームですが、SmartRydeはユーザーではなくOTAとハイヤー会社をマッチングします。いずれにしてもプラットフォーマーがマッチングする双方を多数囲い込んでいれば、参入障壁が高くなります。

SmartRydeはCtrip (中国最大のOTA)、Expedia、booking.comなどのグローバルでトップ3に入るOTAを含め、かなりの数のOTAと既に繋がっており、それによりかなりの流入数を獲得しています。また、ハイヤー会社650社と契約しており、さらに現在は世界中で700以上の空港をカバーしています。いわゆるC to Cよりはネットワークエフェクトは弱くなりますが、それでもこれだけのプレイヤーを巻き込めていることで、同様のプラットフォームの他社による再現性は低いと考えています。

利用実績

SmartRydeは既にグローバルなベンチャーです。従業員の半分以上が海外国籍ですし、全体の75%は海外の利用者であり、特に東アジアへの旅行者にリーチできています。利用都市はタイ・バンコクが一番多く、傾向としては特にホノルルやカンクンなどのリゾート地でのニーズが高くなっています。日本発でここまで海外進出しているベンチャーはなかなかいないのではないでしょうか。

利用実績 ※2019年投資時点

競合

次にSmartRydeの競合についてです。

まずライドシェアとの違いについてですが、Uberのようなライドシェアサービスを使いこなせるようなユーザーはSmartRydeのコアターゲットではないと考えています。例えば日本からアメリカやタイに行くような、現地のライドシェアアプリをダウンロードしていないため事前にハイヤーを予約しておきたいという層がSmartRydeのターゲットとなります。また、そもそもハイヤーとライドシェアでは以下のように利用できる空港周りのエリアや、利用するシチュエーションに違いがあるため、直接的な競合ではないでしょう。

競合

他にも中国や欧州などにハイヤー予約サービスは存在しますが、現地限定で展開しており、SmartRydeのように世界横断でサービス提供できているプレイヤーはいません。
旅行のモビリティ領域には、主に中国市場で展開している皇包車などの企業群、欧州市場で展開しているBlacklane、Talixo等が挙げられますが、SmartRydeは移動コンテンツ拡充/事業者向けプロダクトを強化して競合との差別化を図っています。

競合

経営陣

Angel BridgeがSmartRydeに投資するにあたり、経営する皆様への理解を深めました。

まず代表の木村氏は立命館大学卒の学生起業家で、学生時代にSmartRydeを立ち上げています。木村氏はサッカーで全国高校サッカー選手権メンバー入りで達成しており、やり切り力や根性の強さ、フットワークの軽さがかなりある方だと感じました。実際にこれだけの数のOTAを巻き込めたのも、木村氏の胆力と行動力故でしょう。

経営陣

またCOOの朝川氏は25年以上の旅行業界経験を持つこの分野のプロフェッショナルで、ハイヤー会社に強いネットワークがあり、オペレーションをよく理解していました。

このような旅行業界に長いネットワークのある人と、強いやり切り力のある起業家という稀有なコンビネーションは相互補完性があり非常に価値が高いと感じました。

おわりに 〜空港送迎プラットフォームのアップサイド〜

最後に、SmartRydeのビジネスのアップサイドについて我々が想定していることについてお話しします。

このハイヤービジネスが進んでいくと、空港からホテルまでのトラフィックをある程度獲得することができます。つまり、その区間の走行データが蓄積されていくのです。そういったデータは自動運転プレイヤーにとって非常に魅力的に映るでしょう。

また自動運転を最初に導入する際に、いきなり都市圏のあちこちで導入するよりまず空港からホテルまでの決まった区間で運用してみようという話は出てくるはずです。実際にアメリカでも最初はエリアを決めて自動運転が導入されています。このような自動運転の流れから見ても、SmartRydeはとても戦略的価値のある存在になるのではないかというアップサイドを見込んでいます。

例えば米グーグルの親会社アルファベットの自動運転車部門ウェイモは、自動運転による配車サービス「Waymo One」をアリゾナ州フェニックスで数年前から提供開始しておりますし、ウォルトマートやショッピングモール運営のDDRと連携し、自動運転ミニバンで両社の店舗に顧客を送迎する試験サービスも開始しています。このように将来的にSmartRydeが自動運転技術やAI技術を保有するプレーヤーと協業し、将来的に大きな価値を生む可能性は大いにあると考えています。

おわりに 〜空港送迎プラットフォームのアップサイド〜

また、ソフトバンクやトヨタのような大企業が近年多数のライドシェアに投資しているように、将来的にはSmartRydeが大企業からの出資をいただき、日本発のグローバルなハイヤーサービスプラットフォームベンチャーとして成長していく可能性もあると考えています。実際に中国のハイヤービジネスを行うベンチャーもセコイアから投資してもらうというような流れも起こっているので、この実現可能性を追求していきたいと思っております。

このように、SmartRydeにはメガベンチャーになる可能性が十分にあると考え投資をしました。日本発で海外まで攻めていけるようなベンチャーを今後もAngel Bridgeとして支援していきたいと考えています。

繰り返しになりますが、Angel Bridgeは社会に大きなインパクトをもたらすために、あえて難しいことに挑戦していくベンチャーこそ応援しがいがあると考えており、こういった領域に果敢に取り組むベンチャーを応援したいと考えています。事業の壁打ちや資金調達のご相談など、お気軽にご連絡ください!

2021.07.07 INTERVIEW

自分でハンドルを握るということ

Heartseedはどのような事業を行っているのですか?

安井:iPS細胞を使って質の高い心筋細胞を大量に製造し、心臓が悪くなった患者さんの心臓に移植することで、心機能の回復と生命予後の延長を目指しています。
心不全はどんどん進行してしまう疾患で、ステージが進んでしまうと有効な治療法が心臓移植しかありません。しかし心臓移植はドナーが全然足りず、ほとんどの人に対して有効な治療法がない状態です。そのため、有効な治療法を届けるべく再生医療という手法を使って新しい治療法を開発していくこと、そして将来的にはHeartseedが製薬企業のような自前のバリューチェーンを構築して革新的な製品を患者さんに届けることを目標としています。

安井さんはHeartseedに入社するまでどのようなキャリアを歩んでいたのですか?

Heartseed COO安井× Angel Bridge河西

安井:中小企業で働く父親のもとで育ったため、学生時代は不況に強い業界に入社したいと考えていました。鉄道、電力系などが不況に強いですが、製薬業界も不況に強いと思い薬学部に進学しました。また、就活の頃に製薬業界について自分で調べ、またセミナーなどで話を聞くうちに、製薬はグローバルな市場競争で、ほぼ日本人だけの日本の製薬企業は将来的に厳しく、このままでは世界で勝てないのではと思いました。また製薬企業はM&Aが有効なビジネスモデルで、それをコンサルティングファームが支援をしているのを聞いて、コンサルティングファームに入社してから製薬企業に転職したほうが早く経営層に到達できるのではないかと思い、大学院を卒業した後Bain&Companyという米系の戦略コンサルティングファームに入社しました。

その後4年ほど経ってからヤンセンというJ&Jグループの製薬企業に入社し、そして1年後にアッヴィ(当時アボット)という米系の製薬企業に転職しました。アッヴィでは周りの人がすごく優秀で、例えば当時の外国人上司は今Biogenという時価総額5兆円強の製薬企業の日本の社長をしています。同僚も事業開発に必要な主要な企業・薬の売上やMR訪問数などの情報が全部頭に入っていて、病理学の知識もあり英語もペラペラの人ばかりでしたね。休みの日も出社して過去の資料を読み漁るなどして、1年で何とかついていけるようになりました。

どういった経緯でHeartseedに入社したのですか?

安井:2010年に本社のシカゴに出張したとき、たまたま就活同期だった河西さんがシカゴ大のMBAに留学中だったのでキャンパス見学後に食事をしながら色々話をしました。その後、2016年に河西さんと渋谷で食事をしたんです。当時河西さんはAngel Bridgeを設立したばかりで、「バイオベンチャーの経営者とかどう?」とお誘いを受けたのですが、当時はバイオベンチャーの社長として何をやっていいかわからないし、自分にはない、最短のパスで薬の承認を取るための薬事的なスキル・経験がいるのではないか?と思い、転職には至りませんでした。

そしてそのままアッヴィで働いているうちに、大学のサークルの先輩が事故で亡くなったというニュースを見て、大きなショックを受けました。その時、人間はいつ死ぬかわからないし、やりたいことは今やらないといけないと思ったんです。河西さんのVCや日本発のバイオベンチャー育成の話は頭のどこかにいつかやりたいこととして残っていました。そんな時に偶然河西さんからHeartseedの話を聞いたんです。ヘルステックなどではなく自分が一番やりたかった革新的な治療法を開発していて、製薬企業の主要な部門の経験を持つ自分が役に立てそうだと感じました。その後CEOの福田と会って丁寧な説明と想いを聞き、これは凄いなと驚きました。そしてこれは何としても世に出したい、と思いました。

ただ当時の私はリスクをどんどん取って世界に挑戦するというマインドセットではなかったことを未だに覚えています。何か前例、ベストプラクティスを調べるというのが染みついてしまっていたんです。1回目に福田の壮大な話を聞いた後でも、ストーリーは素晴らしいが、あれとかこれどうやるんだろう?ということに頭が向いていました。そこで私は「PMDA(医薬品医療機器総合機構)との相談資料を見たい」と言ったんです。すると福田も、どうぞ見てくれと机の上に分厚い資料を何束も出してくれました。

その時私の中に電流が走りました。普通は入社するかわからない人に見せるわけがない資料ですが、福田のその行動は、やっぱり自分の研究に自信があり、課題があったとしてもこれから何とかするぞという決意だと私は感じ取りました。PMDAの議事録に書いてあることが全部ではないですし、議事録を見てから入る、なんてことは聞いたことがありません。私はつまらないことを言ってしまった、ベンチャーであれば課題があってもそれを一緒に解決するのが仕事ではないかと思いました。自分を変える意味でも、何があっても揺るがない強い信念を持っている福田と是非一緒にやりたいなと思い、入社を決めました。

他にもHeartseedに入社しようと思ったきっかけはありますか?

安井:私はずっと外資系の製薬企業で働いていましたが、日本の相対的なシェアが下がるにつれ、日本法人の発言権は小さくなり、全体の意思決定から遠ざかっているように感じました。自分の力不足もありますが、自分で意思決定が出来ずにやった抗がん剤の最終治験、私はそれに当時全身全霊をかけていましたが、それが失敗するといったこともありました。グローバル経営陣は超優秀でアッヴィは順調に成長していますが、日本での仕事はトラクターの後ろにいて、引っ張ってもらっているように感じていました。日本企業をあきらめた学生のころと違って日本がグローバル本社として、自分でドライバーズシートに座ってハンドルを握って仕事がしたいと思うようになっていました。

世界トップクラスの製薬企業へのライセンスアウト

Heartseed

今回のライセンスアウトはどのような概要なのでしょうか?

安井:ノボノルディスクファーマという、糖尿病に強くデンマークに本社がある世界トップクラスの製薬企業と、Heartseed の主要開発品であるHS-001の開発・製造・販売に関する全世界での独占的技術提携・ライセンス契約を締結しました。日本は共同で事業化します。

ライセンスアウト先としては、時価総額10兆円以上で、TOP20くらいの海外の製薬企業をターゲットに考えていて、そのうちの1つがノボノルディスクでした。ノボノルディスクはいろんなアカデミアのシーズを導入し、自分たちのパワーで早く世界に出せるよう育てていくというビジネスモデルを取っていました。そして、幹細胞(ステムセル)は今後伸ばしていきたい領域なので予算を確保していると話しており、賢い会社だなと思いました。

また、株価の上昇と配当を両方合わせた株主リターンが企業の成績指標として見られていますが、ノボノルディスクはアッヴィと並んでその指標で世界トップでした。キャッシュが豊富で経営陣も優秀で、糖尿病領域だけで終わることはないだろうなと思いました。

その後、2020年1月にサンフランシスコで開催されたJPモルガンのヘルスケアカンファレンスでノボノルディスクの方々と会うことができ、その時のリアクションから「ここにはライセンスアウトできそうだな」と感じました。1年以上にわたる討議を重ねて、今はもう同じチームのような関係になっていますね。

どのようなフローでライセンスアウトを進めていったのですか?

安井:何度も欧米の学会に参加して、メガファーマの凄さは痛感していたので、海外は開発から販売まで全てのバリューチェーンをメガファーマにお任せするというのを前提で計画を立てていました。そのため、とにかく自分たちの開発品に興味を持ってくれて、最終的に承認を取るまでリソースを投入し、その後も売上を最大化するためにマーケティングや営業を頑張ってくれる会社を見つけないといけなかったんです。何社か興味をもってくれる会社が見つかったら、契約のストラクチャー、すなわちどの製品を対象に、どういう地域、バリューチェーンごとの役割分担で契約するか大枠を固めていきました。それと並行し、当社の技術、データに対するデューデリジェンス(DD)を受けました。

DDにおいては、他のどこにも出ていない最先端の技術やデータについて話すので、とにかく欧米人にわかりやすいように、しっかりしたフレームワークに落とし込み、ロジカルに分かりやすく伝えることにしました。また、製薬企業は特許によって競合の参入が防がれていることで、特許が有効な期間に利益を得ています。そのため、特許で守られている技術にのみ高いお金を払ってくれますが、アカデミアでそこまでの特許網を構築するのは非常に難しいんです。医薬品であれば化合物として物質特許が獲得できますが、再生医療だと心筋細胞は体内にあるものなので物質特許は獲得できません。そのため我々は周辺の技術を含め複合的に特許を取得して固めているのですが、その説明をするのも大変でしたし、そもそもまだ人に投与していない、ある意味形がないものを売るのはチャレンジングでした。

Heartseed COO安井× Angel Bridge河西

今回のライセンスアウトはHeartseedにとってどのような意味合いがあるのでしょうか?

安井:まず、我々は常に規格外の会社でありたいと考えています。最近でいえば大谷翔平選手のような。2015年に設立と若い会社ですが、それまでの福田の技術の蓄積は凄いですし、そもそもCEOが慶應医学部の教授というのも異質です。その異質さ、オリジナリティを追求したいところもある一方で、普通の人にわかりやすいような、スタンダードに寄せていくために、例えば今回のような典型的なライセンスアウトをすることも必要だと思っています。
ノボノルディスクほどの大企業にライセンスアウトができたというのは、相当入念なチェックがされたということであり技術面の強力なお墨付きになるので、その後の資金調達やIPOの際にもプラスになるでしょう。

また、患者さんにとっての意味合いももちろんあります。心不全に関しては新しい治療法を探している人が多く、Heartseedもそのような患者さんから電話やメールを沢山いただくので、新しい治療法を待っている患者さんに早く治療を届けないといけないと常に感じています。そのためにも、海外の製薬企業を巻き込んだ方が色々な人の目で見てもらってさらに良いプランで進められるので成功確率が上がりますし、海外のマーケットは現地の人のほうが詳しいので、海外に展開していく成功確率もがっつり上がったと思います。

ライセンスアウトのコツは何だと思いますか?

安井:まずはライセンスアウト候補先を絞り、相手をよく知り、相手に合わせることだと思います。私たちの場合は時価総額10兆円以上の大手製薬企業です。その上で、相手のいろんな立場の人がどう考えるか、大手製薬のいろんな部署の本社メンバーと一緒に仕事をしてきた経験を生かして考えました。またバイオベンチャーは型にはまらない飛び抜けたことをやっているので、相手が理解しやすいフレームワーク、かつ刺さる形に作り上げるのが大切ですね。

また、質疑応答は分担することが多いと思いますが、私は一人に絞るのが良いと思っています。私は海外本社との付き合いの経験が多いので、大体何を聞いてくるか、最初の数単語を聞くだけで分かりました。分担すると、誰がどこまで答えるか顔を見合わせてしまいがちです。よっぽどの専門的なもの以外は答える人を一人に絞って、その人がコントロールする方が確実で、プロフェッショナルに見えると思います。あとは自分たちの交渉力をよくわきまえること、そして当たり前ですが自分たちの提供する資料等には一切妥協せず、言い分には常に正当な理屈を用意することでしょうか。

Angel Bridgeとはどのような関わり方をしてきたのでしょうか?

安井:私はコンサルティングファームを経た後事業会社も経験しましたが、COOはもちろんやったことがありませんでした。資金調達をするとなると、どういったストーリーでどのようなメッセージを伝えるかや、どの順番で投資家にアプローチするかなど重要なポイントが沢山ありましたが、その戦略作りについてかなりアドバイスを貰っていました。
また会社の経営に関しても、河西さんとは経営のPDCAサイクルをしっかり回すということをいつも話していましたし、作りこむところから一緒にやっていました。株主総会や取締役会など他にもやることが沢山ありましたが、論点整理だけでなく細かな進行なども含めて沢山フィードバックして貰いました。河西さんは社外取締役として何社もの取締役会に出ていますし、塩梅がわからないところなども丁寧に教えてくれて本当に助かりましたね。

Heartseed COO安井× Angel Bridge河西

ライセンスアウトにおいては、Angel Bridgeとどのような関わり方をしていたのでしょうか?

安井:河西さんに言われるまでは考えていませんでしたが、ディールハンドリングが重要という点でライセンスアウトもM&Aと似ているなと感じました。相手に嫌われない程度に自己主張し、自分たちの考えを伝えるも、常にあなたたちと一緒にやりたいんだ、という感じの良さを残すのかという点をよく河西さんと議論していました。ライセンスアウトについてはわかっているつもりでしたが、M&Aの経験者からすると違う視点があるのだなと感じましたね。

また、これを出来るのは日本では河西さんくらいしかいないと思いますが、私の作成した資料に目を通して、急所について常に相手の製薬企業目線でフィードバックしてしてくれます。相手目線で作るのが重要と分かっていても、一人で作っているとどうしても相手目線が弱まり、ツルっと飲み込んでもらいにくくなってしまうことがあるのですが、そういうときは河西さんからもれなく指摘が飛んできて大変助かりました。これができるVCが増えると、日本のベンチャー経営のレベルが上がると思います。

河西:本当に戦友ですよね。就活同期として本当に切磋琢磨してきたなとつくづく感じます。

天才的なFounderを全力で支援する

Heartseed COO安井

後輩のコンサル出身者に対しアドバイスはありますか?

安井:アイデアを持っていればCEOになればいいと思いますが、凡人にはCOOが適していると思います(笑)。発想力があり、優れた良いアイデアを出すCEOのアイデアをどう落とし込むかが大事ですね。漫画家と編集者の関係も近いのかもしれません。

BCG出身の北野唯我さんの本に、「天才、秀才、凡人」というフレーズが出てきて、天才は凡人が好きで、凡人は秀才が好きで、秀才は天才が好きというサイクルについて書かれています。コンサルタントは天才的なFounderを支援する方が向いているかもしれないですね。CEOの福田はまさに天才的な発想力、本質を一瞬で理解するセンス、事業感を持っていますので、それを横で支援するのはとてもやりがいのある仕事だと思います。

安井さんはこれ以上ないくらいCOOとして適切な人だと思いますが、なぜここまで至れたのでしょうか?

安井:自分ではまだまだだと思っていますが、慣れてきたのは、現場の実務を一通り理解したこと大きいと思います。入社直後は製薬企業の感覚だったので、ベンチャーとして何をどこまでやればいいか分かっていませんでしたが、社員と話していくうちにこれは後回しだな、など分かるようになりました。会社が設立したときまでさかのぼり、契約書も特許も論文も全部読みました。技術的な課題が何か、業界の歴史と動向をしっかり理解すると考える軸ができました。
また、CEOの頭の中がどうなっているのかを理解するのも非常に重要です。CEOの福田のプレゼン、質問への回答を何度も聞き、議論を重ねていくうちに、だんだんCEOはこう考えるだろうなと分かるようになりましたね。

Heartseedをどんな会社にしていきたいですか?

安井:いまHeartseedはいろんな意味で注目してもらっていると思います。規格外の会社として、メンバー全員がやる気を高く持ち、若さを保ちながらしっかり目標に向かっていきたいです。また、なにかモノを届けるということに妥協は許されないと思っています。これからメンバーが増えていっても、オリジナルさを追求し、患者さんにベストなものを届けていく会社になりたいですね。

2021.07.02 ACADEMY

今回は、起業するにあたり一番初めに考えるであろう市場選定の方法と、共同創業メンバーの探しかたについてのポイントをVC目線で解説したいと思います。

起業する際の市場選定方法

まず起業を考えるとき、どんな領域でビジネスをするかを考えると思います。市場を選定する際に大事なのは市場規模と、起業家と事業領域とのフィットです。

巨大市場
ユニコーンベンチャーを目指すうえで市場規模がある程度大きいことは非常に重要です。市場が大きければ少ないシェアでも大きな売上を作ることができます。一方で市場が大きければ当然狙っている競合も多く競争環境が激しいことがほとんどです。このような市場で勝ち抜くことができればユニコーンを目指すことができます。市場規模の調べ方としては市場規模マップというサイトや業界地図、各種市場レポートが役立ちます。ただし闇雲に大きな市場を目掛けていくのは無謀です。TAM/SAM/SOMの概念についても意識したうえで、まずはアプローチして獲得できる具体的なセグメントを目掛けてプロダクトを作りこみ、Step by stepで対象市場を拡大していくことが正攻法です。

  • *TAM(Total Addressable Market): ある市場の中で獲得できる可能性のある最大の市場規模
  • *SAM(Serviceable Available Market): TAMの中で実際にその製品がアプローチできる市場規模
  • *SOM(Serviceable Obtainable Market): 実際に商品・サービスをもって市場に参入した時に、実際に獲得できる市場規模
狙うべき大きな市場について1つ例を挙げるとすると、インターネット創世記に大きくなったサービス領域に挑んでいくことは面白いと思っています。2000年頃に数多くのインターネットサービスが立ち上がりましたが、当時は最速で事業を立ち上げユーザーを囲い込むことを主眼に置いたビジネスモデルが広がりました。しかしそのようなモデルはユーザー起点で見たときには必ずしも最適な形ではないことが多いのです。構築するのに時間はかかるが本質的にはユーザーにとってより高い価値を提供できるモデルが後発でシェアを巻き取っているのが昨今の状況ではないでしょうか。
ECサイトにおける楽天vsAmazonは分かりやすい好事例だと思います。楽天はモール出店型であり、プラットフォーマーとして出店者に場所を提供しているという構図なので、一気に取扱商品数を増やすことができました。代償としてフォーマットが統一されていないためユーザー視点で商品を探しづらいというペインが存在します。同一商品が様々なショップで異なる説明、異なる価格で売られています。配送料や配送手段もバラバラで比較が困難であると感じたことがある方もいらっしゃるのではないでしょうか。思った以上に配送に時間がかかり、なかなか商品が到着しないケースもあります。
これに対しAmazonは1商品につき1つのページを用意し、自社倉庫や自社配送網のオペレーションを構築することで翌日配送含め購入者と出品者双方の高いUXを実現しています。このサービス構築には時間も工数もかかります。実際にAmazonは日本市場では2000年に本のジャンルのみでオープンしてから2010年までかけてジャンルごとに段階的にオープンしています。時間をかけてでもこれをやり切ったことで今の地位を築いています。同じような理屈で、既に巨大サービスがあるがペインが存在する領域を狙っていくとユニコーンを目指すことができるのではないでしょうか。リクルートが取り組む各サービス領域など、第一世代のITサービスは狙い目かもしれません。
例えばAngel Bridge投資先のBluAgeはSUUMOに迫る不動産賃貸仲介プラットフォームに取り組んでいます。まさにSUUMOは楽天型で地場の不動産仲介会社が情報を掲載する広告モデルなのに対し、BluAgeはAmazon型で自社でデータを一括管理するモデルをとることによってユーザーの利便性を高めると同時に不動産仲介会社の工数も大幅に削減しています。このようなビジネスモデルの違いによって後発でありながら着実にシェアを伸ばしています。
BluAge業界研究記事
起業家と事業領域のフィット
市場選定においてもう1つの大事な要素は、起業家と事業領域のフィットです。ここには2つの観点があります。1つは業界に対するパッションです。これは起業家がやり切れるかどうかに影響しますし、その後のあらゆる場面においてビジョンを語れるかどうかにも関わる重要な点と考えています。ビジョンを語れることは優秀な人材を惹きつける重要な要素です。
CB Insinghts: “The Top 20 Reasons Startups Fail”
もう1つは起業家の知識や能力、人脈と業界とのフィットです。特に業界におけるペインの理解、業界構造の理解は重要です。ベンチャーが失敗する理由として最も多いのが、マーケットニーズがないことだと言われています。ペインを理解してそれを解消するサービスを作り上げられるかどうかが成否を分ける重要な要素となります。B向けサービスであれば前職の事業領域に関する課題へアプローチをする、C向けサービスであれば自分が1ユーザーとして体験して感じた課題へアプローチするなどが該当します。
例えばAngel Bridge投資先のミツモアの石川CEOは事業領域の選定について「私のやりたい事と一致するかというのと同時に、自分がバリューを生み出せそうな分野か、海外の成功事例の中で日本でも成功しそうかという3つの観点で、色々なビジネスをデューディリジェンスしていきました。 その中でも特に泥臭いビジネスの方がバリューが出ると思い、数多くあるサービスの中で見積もりを取るという極端に泥臭いところを選びました。」と述べています。このように石川CEOは自分がパッションを持てる領域かつ自分が価値を発揮できる領域を選択して起業しており、それが今のミツモアの人材獲得力やプロダクトのクオリティの高さに大きく寄与していると考えています。
石川CEOインタビュー記事

どんなメンバーで起業すると成功しやすいか?

Startup Genome Report “A new framework for understanding why startups succeed”(2012年)
2-3名の共同創業の成功確率が高い
まず、単独で創業すべきか誰かと共同創業すべきかという論点があります。この点については共同創業すべきというのが統計的な答えです。共同創業のほうが成功確率は高く、投資も受けやすいからです。上図の調査によると単独創業より2人の共同創業のほうが拡大フェーズに至るまでの期間が3分の1以下で済んでいます。共同創業者は相互の能力を補完し精神的な支えにもなります。事実ほとんどの成功スタートアップには共同創業者がいます。共同創業者がいないことはその起業家の人を巻き込む力や人脈に疑問符が付き、ネガティブな印象を与えてしまう可能性もあります。一方でスタートアップの失敗の原因として上位に上がるのが経営陣内部の課題であるということも事実です。共同創業者は誰でも良いわけではなく、妥協せずに選ぶことは当然のことながら非常に大切です。
Startup Genome Report “A new framework for understanding why startups succeed”(2012年)
共同創業者も多ければよいというものではありません。船頭多くして船山に上るという格言があるように、人数が多ければ意思決定に複雑性が増します。上図のように1人創業だとPivotが難しく、共同創業者が4人以上になるとPivot回数が多くなります。2-3人程度が粘り強く事業を推進するのと柔軟にPivotを検討することのバランスが取れる適切な人数と言えそうです。
ビジネス系とエンジニア系のコンビネーションは最も資金調達できている
また、成功しやすいのはビジネス系とエンジニア系のコンビネーションであると言われています。実際に共同創業者のタイプ別にみた際に、ビジネス系とエンジニア系のコンビネーションはそれ以外の組み合わせより30%程度多くの金額を調達しています。
既に知っている人の中から同じ船に乗れる人を見つけるのが理想的
長期的に同じ船に乗れるかという点において、ストレス環境下で経験を共にしたことがあることも重要です。親しい友人や一緒に仕事をした経験のある人であれば交流会で知り合った程度の人よりも安心して事業を前に進めることができるのではないでしょうか。
共同創業者との関係性は?リーダーは一人がいい
共同創業者とはしっかり役割分担をすることが大切です。特に早い段階で最終的な意思決定者/責任者を一人にしておくことは重要です。アップルのスティーブ・ジョブズとウォズニアック、Microsoftのビル・ゲイツとポール・アレン、Googleのラリー・ペイジとセルゲイ・ブリンもどちらがCEO(または最終意思決定者)であるかを明確に分けていました。これができないと些末なことでもなかなか意思決定ができず、スタートアップにおいて欠かせない迅速な行動が阻害されるリスクがあります。どちらがCEOとして最終意思決定者/責任者となるのか、議論を先延ばしせずにしっかり腹を割って話して決めておくことが必要です。株式の持ち分比率もそれに合わせて差をつけておくことも考慮すべきでしょう。

起業前に検証を進めておくこともオススメ

起業前にもできることはたくさんあります。1つはニーズの検証を行うことです。市場調査や関係者へのヒアリングを行うことで、取り組む事業のニーズがどれほど強いかを確かめたり、アイデアのブラッシュアップをすることができます。もう1つはVCと壁打ちをしてみることです。ベンチャーキャピタリストは数多くのベンチャーを見ています。Angel Bridgeでも年間数百社の話を聞いています。メガベンチャーを目指すのに何が必要か、どんな要素があると成功しやすいか、何を検証すべきかなど少なからずヒントを得ることができるはずです。具体的な創業資金の提供や、次回の資金調達にもつながる可能性もあるので非常におすすめです。

Angel Bridgeは社会に大きなインパクトをもたらすメガベンチャーを創出する志ある起業家を応援したいと考えています。事業の壁打ちや資金調達のご相談など、お気軽にFacebookTwitterでDMください!良ければフォローもよろしくお願いいたします!

2021.06.14 COLUMN

大学発ベンチャーとは、大学の教員、研究者、学生が開発した技術を事業化した企業のことを指す場合が多く、経済産業省は大学発ベンチャーを①研究成果ベンチャー、②共同研究ベンチャー、③技術移転ベンチャー、④学生ベンチャー、⑤関連ベンチャーのいずれかに該当する企業と定義しています。

大学発ベンチャー企業の定義 出典: 令和元年度大学発ベンチャー 実態等調査結果概要- 経済産業省

2014年以来大学発ベンチャーの企業数は毎年増加傾向にあり、特に近年は高い伸び率で推移しています。このように日本で盛り上がりつつある大学発ベンチャーですが、成功するとユニコーンベンチャーになる高い可能性を秘めている一方、経営陣のビジネス面での経験不足や、技術の産業化まで膨大な資金と時間がかかることから、成功まで到達することが非常に難しい分野です。

Angel Bridgeはいくつもの大学発ベンチャーにアーリーステージで投資をし、ハンズオンで支援を行ってきました。今回はこのような大学発ベンチャーと伴走してきた経験から導ける、技術力のある大学発ベンチャーの成功パターンについて解説していきます。

大学発ベンチャー支援事例

技術系/大学発ベンチャーはAngel Bridgeの重点領域であり、全投資先16社のうち技術系ベンチャーに6社(うち大学発ベンチャーに3社)投資を行っています。経験・知見の蓄積により強力なサポートが可能です。
いずれの技術系ベンチャーにも創業初期やシード期から投資をしており、最も困難な立ち上げフェーズをサポートしています。

Heartseed株式会社
慶應義塾大学医学部発。iPS細胞を用いた心筋再生医療による、重症心不全の根本的治療法の技術開発を行う。
バイオス株式会社
慈恵医科大学発。腎臓再生医療の研究開発を行う。
テオリアサイエンス株式会社
東京医科大学発。エクソソームを用いた早期がん診断サービスの提供およびがん治療研究開発を行う。
福島SiC応用技研株式会社
SiC半導体による超小型中性子発生源を用いたがん治療装置開発を行う。
Varinos株式会社
次世代シーケンサーを活用した最先端の遺伝子検査の開発・提供を行う。

※GeneTechはイクジット済みのため省略

Angel Bridgeの投資先カテゴリー

大学発ベンチャー成功のための4つのエッセンス

ここでは今まで大学発ベンチャーの支援を行ってきた経験から考える、大学発ベンチャー成功のための4つのエッセンスについてご紹介します。
一般的に大学発ベンチャーの成功は難易度が高いと考えられていますが、創業期から下記の重要な点を意識して丁寧に作りこんでいくことで飛躍的に成功確率が上がると考えています。

①サイエンスの深み
まず一番大事なのは、技術力がグローバルでトップクラスであることです。
技術系ベンチャーで散見されるのはアカデミアでの十分な実績がなく起業するパターンで、コアとなっているテクノロジーの深みが足りなかったり、単一技術だけの場合は競合優位性を保つことができず、後発企業に追い越されてしまうこともあります。
そのため、成功パターンとしてはアカデミアの論文ベースでトップジャーナルに掲載されていることは大前提ですし、1つのコア技術に加えていくつかの周辺技術含め保有していることが重要になってきます。また、技術の厚みを増すためにも研究開発者である教授を巻き込むことがとても重要です。
②バランスの取れたチーム体制
大学発バイオベンチャーの例を挙げると、創業期は経営陣が教授のみでビジネス人材が足りなかったり、在籍している産学連携本部の大手製薬企業出身者などは臨床開発の知見はあっても、ベンチャーや企業経営への知見が足りないといったことが良くあります。
そのため、早いタイミングでサイエンス(研究者)・臨床開発(製薬会社出身者)・ビジネス(コンサル・投資銀行出身者など)の3タイプの人を巻き込むことが重要です。そのためには創業社長が人間としてバランスが良く、良人材を吸引する巻き込み力があることも必要になってきます。
③研究者のリーダーシップ/コミットメント
大学発ベンチャーの良くあるパターンとして、大学教授が複数持っているシーズ技術の1つを切り出して、外部から社長を呼んできてベンチャーを作るという事例があります。しかしこういった場合は教授のコミットメントが明らかに低く、失敗することが多いです。そのため、社長だけでなく創業者である教授などアカデミアの技術力を持つ人自身が本技術の社会実装に向けてしっかりコミットすることが重要です。
④資金調達力
最後にファイナンス面についてです。
あまり理解せずにステージに見合わない高額なバリュエーションで調達してしまうというケースがありますが、その後の資金が得られず事業が継続できなかったり、次のラウンドで結局ダウンバリュエーションをしないといけないというリスクがあります。そのため、各ステージに合った適切なバリュエーションでの資金調達をすることが重要です。
また技術開発のため多額の資金が必要なわけですが、一度で大きな額を集めようとすると株式の希薄化が進んでしまいますし、そもそもとして大きな金額を集められないのでファイナンスラウンドを細かく分けて資金調達することが望ましいです。例えばHeartseedは設立当初のシード・アーリーステージにおいては1~1.5年おきに調達していますし、徐々に体力がついてきたら1.5~2年ごとに調達するくらいのペースが良いでしょう。
また、政策・薬事承認・社会的な注目などマクロの追い風があることでさらに資金が集まりやすい場合もあるので、その点もしっかり見ておく必要があると思います。
大学発ベンチャー成功のための4つのエッセンス

大学発ベンチャーの成功に対するVCの提供価値

ここまでで大学発ベンチャーの成功の秘訣を語ってきましたが、実際にこれらの四つのエッセンス全てが創業時から揃っていることはほぼないでしょう。そのため、VCがハンズオンで支援し大学発ベンチャーを成功パターンにいち早く持っていくことが必要であると考えています。

①サイエンスの深み、③研究者のリーダーシップ/コミットメントについてはVCが支援することはなかなか難しい部分もありますが、②バランスの取れたチーム体制と④資金調達力はVCが十分価値を出せる部分だと思います。
実際にAngel Bridgeでも投資先の大学発ベンチャーに対しハンズオン支援を行っていますが、特に②バランスの取れたチーム体制と④資金調達力を中心として、経営陣の要望を聞きながら多岐にわたる支援を行っています。
そこで今回は例として、②バランスの取れたチーム体制と④資金調達力についてVCがどういった支援をできるか簡単にご紹介します。

②バランスの取れたチーム体制
前述のように、大学発ベンチャーがスケールしていくためには組織における重要ポジションを採用していくことが必要です。そこでAngel Bridgeでは組織における重要ポジションを独自のネットワークを活用して幅広くご紹介しています。事業ステージに応じて投資先の経営陣と必要な人材像についてディスカッションをした後、候補人材のソーシング、初回スクリーニングとしての面接まで行っています。
以下は過去にAngel Bridgeが投資先に紹介したメンバーの一例です。錚々たるメンバーをご紹介できていると思います。
バランスの取れたチーム体制

 

④資金調達力
大学発ベンチャーは上場までに多額の資金調達が必要になるため、投資実行以降の資金調達ラウンドも強力に支援し、他VCと事業会社から大型の資金調達を実施しています。
例えばiPS細胞を使った心筋再生医療の開発を行うHeartseedは合計82億円、次世代ガン治療装置の開発を行う福島SiCは合計41億円の資金調達を行っており、これらの資金調達を支援しました。
そこで、ここでは資金調達支援のポイントをいくつかご紹介します。
1. 正確に事業の魅力を伝える
まずは言わずもがなですが、どのような事業をやっているかを投資家に分かりやすく正確に伝え、そのうえでアップサイドも含めて魅力的なエクイティストーリーを具体的に描いていくことが必要です。
2. 最適なバリュエーションを設定する
バリュエーションは他類似案件をしっかり調べることで最適値に設定していきます。Heartseedの場合は以下のような業界各社のミドル/レーターステージファイナンスを比較してバリュエーションを設定しました。
最適なバリュエーションを設定する また、想定されるExit時のバリュエーションから時間軸を考慮して逆算し、投資家から見たときに必要とされるリスクに見合ったリターンが出せそうか、バリエーションをダブルチェックすることも忘れてはなりません。
3. ラウンドに適した投資先から資金調達をする
多額の資金が必要になるため、追加増資をしてくれるようなディープポケットの投資家を巻き込むことが必要です。そのためにも、投資家の過去のファイナンス事例を徹底的に調べ上げ、順番にリードになりそうな人から声をかけていきます。この際にどのルートでアクセスするかも重要です。
また、大学発ベンチャーに関わらずですが創業初期は企業としての信頼性に欠ける部分があるので、事業シナジーを訴求することで知名度のある大企業を巻き込み、信頼性を高めて次のラウンドにつなげることもポイントです。
例えばHeartseedではシリーズAでAngel Bridgeが4.5億円増資したのに加え、アステラス製薬のCVCや、メディパル、伊藤忠などの大企業を巻き込んでいます。また、シリーズBで投資頂いたディープポケットのSBI・ニッセイキャピタル・SMBCは、シリーズCでも追加出資を決断し会社を支えてくれました。 ラウンドに適した投資先から資金調達をする

おわりに

日本のアカデミアには世界に通用する優秀な研究者がたくさんいます。研究者の絶え間ない努力によって生み出された最先端技術をここで述べたようなプロセスで正しく社会実装していくことで、グローバルに勝負できる事業体を作っていくことが可能です。
しかしこういった技術を社会実装するのにはかなりの時間と資金を必要としますし、大学教授が経営者として取り組んでいくには困難な面も沢山あります。
そこでAngel Bridgeはそういった最先端技術に積極的に投資をし、大学発ベンチャー支援における豊富な経験と深い知見を基に伴走することで、世の中を大きく変えるイノベーションを起こしていきたいと考えています。
事業の壁打ちや資金調達のご相談など、お気軽にご連絡ください!

2021.06.09 INTERVIEW

部屋探しをワクワクする体験にしたい

カナリーはどのような事業を行っているのですか?

佐々木:不動産領域のDXに取り組んでいます。具体的には賃貸及び売買物件を掲載しているCANARY(カナリー)という部屋探しアプリを運営しながら、不動産仲介会社向けにSaaSのプロダクトも提供しています。
部屋探しをワクワクする体験にしたいという想いから、UXをとにかく追及するようにしています。またそのために不動産業務のDXにも進出し、最終的にユーザーの体験を良くしたいと考えています。

お部屋探しといえばSUUMO(スーモ)のようなサービスが強いですが、CANARYは何が違うのでしょうか?

佐々木:他の部屋探しプラットフォームでは仲介会社が広告として物件情報を載せているのですが、その過程でデータベースを手動で更新しているために情報が古かったり間違っていたりすることが多いんです。また、プラットフォームとしてもSEO強化のためにとにかく物件情報を増やすインセンティブがあり、おとり物件や重複物件などはなかなか削除されず、そのまま掲載されてしまっています。
カナリーは自社でデータベースの管理をしているので、鮮度の高い情報を参照することで最新の情報を掲載できているのが大きな違いになります。

佐々木さんはカナリーを起業するまでどのようなキャリアを歩んでいたのですか?

佐々木:東大の経済学部を卒業した後、ファイナンスに興味があったのでメリルリンチの投資銀行部門で国内外のM&Aや資金調達に2年ほど従事していました。その後ボストンコンサルティンググループに転職した後、起業しました。

なぜ起業しようと思ったのですか?

佐々木:大学の時からいずれ起業したいなと思っていましたし、ボストンコンサルティンググループで働いていた時にやっぱり何か大きいことを早く成し遂げたいと思い、そろそろ起業してもいいかなと思って大学のクラスが同じだったCTOの穐元と共同創業しました。

佐々木拓輝

そろそろ起業しても良いと思ったきっかけは何だったのですか?

佐々木:投資銀行とコンサルは業務の共通する部分もあり、ラーニングカーブがゆるやかになっていく中で、反比例して起業したい熱が高まっていたことが大きいかもしれません。また、まだまだ成長途中ではあったものの、起業してからの方が学ぶことも多いだろうと思い、起業を決めました。

なぜ不動産領域で起業しようと思ったのですか?

佐々木:最初から不動産領域で起業しようと思っていたわけではなく、いろんな事業を見てから決めようと思っていたのですが、調べていくうちに最初に見た不動産が一番面白そうだなと思ったんです。
私も引っ越しを何回か経験したなかで一人のユーザーとして不動産業界はペインが大きそうだなと思っていたので最初に業界を見始めたのですが、どんなマーケットか調べてみると市場規模はすごく大きいですし、なんとなく競合が強く競争が激しく感じますが、仲介会社のヒアリングをするうちに改善余地がたくさんあることが分かりました。競合は広告掲載モデルなので自社でデータを持つことはできず、カナリーが考えているようなビジネスモデルを取ることはできません。さらに今ユーザーのチャネルがwebからアプリに推移していることや、電子契約の解禁などといった法改正も後押しして仲介業務のアナログなオペレーションがデジタル化するという大きな変化が起き始めていたので、これはチャンスなのではと思い不動産業界に決めました。

巨大な競合に立ち向かう

事業を押し進めていく中で逆境はありましたか?

佐々木:営業組織を30人規模まで急速に拡大したときに、パフォーマンスのばらつきやモチベーション低下などの問題が起こりました。その際の営業側の組織改革にはかなり八尾さん(Angel Bridgeアソシエイト)に入ってもらいましたね。営業人員一人一人にヒアリングして何が課題かを見つけるというのは自分でやろうとするとどうしても手間がかかりますし、外部からどう見えるかは大事な視点なので、非常に助かりました。
その後のプロジェクトも一緒に進めていただき、営業の組織体制・昇進制度の改革やマインド作りを手伝ってもらうことでこの課題を解決できました。

カナリーがここまで到達できた秘訣は一言で何だと思いますか?

佐々木:振り返ってみると特別なことをやったというよりは、目の前のやるべきことを淡々とやってきたような気がします。振り返ると上手くいっていたというような感じですね。中長期的な目標は持ちつつも、目先のことをしっかりやる。初めて経験することばかりでしたが、ここについては順応性の高い性格がうまく寄与した気がします。

河西:私はカナリーがSaaSを始めた当初、プラットフォーマーとして賃貸仲介をまずものにしてからでないと、SaaSに手を出すべきではないと思っていました。でも話を聞くうちに、あえて早めにSaaSをやることで既存事業にもつながる部分があるということが分かり始め、佐々木さんはすごく全体が見えているなと思ったんです。
具体的に言うと、賃貸会社向けのSaaSはニーズがあるのでCANARYからの送客も含めて売り込んだら確実にはまるでしょうし、また管理会社のSaaSはCANARYが独自物件を手に入れるためにも必要で、それはまさにこの事業の本質であるCANARYのデータベースを強化することにも繋がります。ここがすごく考えられていて素晴らしいなと思ったんです。
でもこれは創業時に見えていたはずはなくて、事業をやりながら気づいたのだと思うのですが、どういったプロセスでここに行きついたのですか?

BluAge代表佐々木 x Angel Bridge河西

佐々木:視野としては、幅広く業界全体を見ることを意識していました。そして中長期的なあるべき姿を考えていくと、いろんな事業が絡み合って出る付加価値が非常にあるなと思ったんです。またデジタル化という文脈でも、今まで情報が分断されていたものを繋げて境界を無くすことで、競争力になります。
具体的に掘り下げていくと、仲介側へのSaaSは普及するでしょうし、そこに自分たちが進出したらどんな連携ができそうか、また管理側にも進出した時にどんな連携ができそうか、そういった思考実験をしていくとさらに繋がりが見えてきて、リソース的にはきついけれどもどういったタイムラインで進めるのがベストかを考えると、欲張りに早く進めていった方がいいなと思ったんです。

河西:佐々木さんはロジカルに積み上げていくだけでなく、動物的な勘もありますよね。

佐々木:日々の出来事からも発展させて、色々な可能性を考えるようにしています。また事業が順調であっても、危機感を持っていろんなシナリオを想定していますね。
そのせいか筋トレ中もあまり集中できず、ずっと仕事のことを考えているような節もあります(笑)。

佐々木拓輝

なぜAngel Bridgeから投資を受けようと思ったのですか?

佐々木:当初はメンバーのプロファイル的にいかついな、ゴリゴリだなと構えていました(笑)。最初にお話しした数日後にはもう業界に関するディープな質問をいただいて、議論もどんどん進んでいくのでかなりスピード感があるなという印象でした。
我々は会社としてスピード感をすごく大事にしているのですが、その後の意思決定もとても速くポジティブでした。議論の内容も非常に建設的で、様々なテーマにおけるベストプラクティスを知っていることも魅力に感じました。
ディナーもすごく盛り上がりましたね(笑)。会う前の印象よりも人間味がある方々で、投資先に対する支援の姿勢なども心強いなと思い、Angel Bridgeから出資を受けることを決めました。

なぜカナリーに投資しようと思ったのですか?

佐々木拓輝

河西:不動産業界にはSUUMOのような巨大なプラットフォーマーが存在していますが、広告掲載モデルの構造上、おとり物件や重複物件が多いというペインが生まれていました。これに対し、佐々木さんのようにやる気や基礎能力があり、決して叩いても倒れないようなメンツで立ち向かっていくというのが非常に面白いと思いましたね。巨大な競合に対しても、自社のデータベースを綺麗にして提供する、という広告掲載モデルと違う立ち位置でやれば、構造上ある一定のシェアが取れると思いました。
競合に完全に勝てるとは言い切れませんが、おとり物件がないほうがユーザーにとって絶対いいですし、自社でデータベースを持つことでサイトに自社で撮影した綺麗な写真を載せていくといったことは、競合はイノベーションのジレンマで絶対真似できません。こういったことを地道にやっていけば必ずや構造的に競合ができない差が生まれますし、確信を持って成功するなと思いました。
実際に売上は何倍にも成長して結果が出ているので、シリーズBもリードで出資しようと思いましたね。

新しいことを恐れない

河西さんから見て佐々木さんはどんな起業家だと思いますか?

河西:まず佐々木さんは、冷静に周りの人の声を聞いて柔軟に学習を進めることがうまいですよね。投資家に詰められても間をおいてしっかり考えて意思決定ができ、さらにそのジャッジが正しいという、社長として重要な点を抑えられているのが印象的でした。
また佐々木さんのしぶとさや生存力はデューデリジェンスの中でも見えていましたし、ある種の戦友として一緒に戦えると思いましたね。

後輩起業家に伝えたい、起業するにあたって気を付けるべきポイントはありますか?

佐々木:起業すると新しいことに毎日沢山直面します。例えば、私は営業の組織作りやプロダクト開発などの知識はありませんでしたし、やりながら学んでいったことが多いです。起業する時点でいかに物事を知っているかよりも、新しいことが起こったときにしっかり順応できるかどうかが大事だと思いました。

カナリーの事業を通して何を社会に届けたいですか?

佐々木:まずは不動産業界全体を変えるぐらいのインパクトを出したいですね。最近はto Bの業務にも深く入って動きだしていますし、不動産業界に関わる人すべての働き方を変えて、その先の結果としてユーザーのお部屋探し体験もワクワクするものに変わるような、そういった変化に主体的に関わっていきたいです。
また、もちろんベンチャー起業家として誇れるような巨大なIPOを目指したいと思っています。カナリーが会社として大きくなることが不動産業界全体のペインを解消することに繋がると思いますし、まずは目の前の事業から真面目に取り組んでいきたいです。
Angel Bridgeを代表する案件になれるよう頑張ります!

2021.05.31 INVESTMENT

今回は、VCが投資判断をするにあたってどういった点を検討するのかについて、ミツモアを例にとって解説したいと思います。

近年、サービス提供者と利用者をマッチングするスキルシェアサービス提供企業の上場が増えてきており、例えばスキルシェアプラットフォームを提供するココナラが3月にマザーズ上場、ビザスクは2020年3月、ランサーズは2019年の12月にそれぞれ上場しています。実際にこれらのサービスを利用したことがある方も多いのではないでしょうか。このように、スキルシェアサービスは今後もリモートワークや流動的なワークスタイルの広まりによって、さらなる成長が期待できるでしょう。

Angel Bridgeもローカルサービスに特化したマッチングサービスを提供する株式会社ミツモアに2019年に出資し、ハンズオン支援を行っています。上記のようなスキルシェアサービスはマッチングする主体がフリーランスなので副業目的の人が多いですが、ミツモアはそれらとはマッチングする主体が違い、事業者が本業として利用するパターンが多いです。さらに目的が見積もりなので、スキルシェアサービスとは似て非なるということで非常に面白いと思い、検討をしました。

ローカルサービス市場

スキルシェアとは、個人が保有するスキルを資産として捉えて、特定のスキルを必要とする顧客と、そのスキルを保有する提供者をつなぐサービスのことです。上場企業ではビザスク、ランサーズ、クラウドワークス、ココナラなどが当てはまります。この中でもミツモアは特にローカルサービスのマッチングに特化しています。

Angel Bridgeがこのローカルサービスのマッチング市場に注目した理由は、ターゲット市場がかなり大きいことです。
ローカルサービスは集客手数料だけでも3兆円以上の巨大市場であり、取り扱う業種を拡大していくことでさらに収益を上げることができます。実際にこの領域にはいくつものベンチャーが参入しています。

一方で、日本ではローカルサービスは数十兆円規模の市場であるにも関わらず、集客も事務作業も前時代的な方法で行われており、効率化に苦慮している部分が多くあります。こういった旧態依然とした市場環境に関しては、ミツモア代表の石川氏がコンサルタント時代に地方銀行のプロジェクトをやっていたとき、クライアントである中小企業の経営者たちと話す中で深いペインを感じていたそうです。

ベンチャーとしてはもう少しニッチな市場を狙う方が取り掛かりやすいですし定石とされていますが、難しいからこそあえてチャレンジし、この巨大な市場をターゲットとしてプロダクトを磨きこむことで日本へ大きなインパクトを与えたいという石川氏の思いに共感しました。

ビジネスモデル・サービス

それではここでミツモアがどのようなサービスを提供しているのかをご紹介します。

ビジネスモデルとしては、事業者は完全無料で見積もりを出すことができ、提案が成立すれば課金されるような成約課金モデルをとっています。

こういったプラットフォームビジネスは依頼者と事業者双方が増えるに連れてエコシステムが形成されてネットワークエフェクトが効いてくるのが特徴であり、IT系サービスでは一番成功事例の多いモデルです。

先ほども述べた通り、ミツモアはカメラマン/士業のようなローカルサービスの見積もりプラットフォームを提供しています。特にカメラマン/税理士向けが強みですが、カバー領域はハウスクリーニング/リフォーム/庭の手入れなど20以上に及びます。

サイトイメージは以下の通りです。カメラマンからの見積もり事例ですが、撮影場所や予算などの必要情報を入力すると、最短3分で見積もりを受け取ることができ、最短翌日にプロが来ます。最大5名の事業者からの見積もりを比較することが可能です。

投資検討を始めた時期には、以上のカテゴリーの中で既にカメラマン・税理士のカテゴリーが立ち上がり売上も出ていました。このように少なくとも二つのカテゴリーが立ち上がっており、さらにカメラマンと税理士という全然違うタイプだったので、今後も順調に他のカテゴリーも立ち上がっていくだろうと想像できました。

競合

それでは競合について検討したことをご紹介します。
ローカルサービスのマッチング領域においてはオペレーター型のプレーヤーが複数存在し、市場が形成されていることから既にニーズがあるのは分かっていましたし、そのアナログな部分がITに置き換わり便利になっていくというシフトは必ず起こると思いました。例えばよくある引越しの見積もりサイトだと、登録するといろんな業者から電話がかかってきて、ヒアリングをされて見積もりが出てくるという、まだまだアナログなやり方が行われています。

プラットフォーム型にも競合が存在しており、どちらかというとB向けのサービスがミツモアで、他の競合は主婦層をターゲットとしている、といったように色の違いはあります。これらは今後事業領域の境目がなくなっていくと予想されますが、市場も巨大で拡大しているため、ミツモアを含めた何社かはメガプラットフォーマーとして共存ができるのではないかと考えました。

経営陣

Angel BridgeがシリーズAでミツモアに投資するにあたり、経営陣についても理解を深めました。

特にアーリーステージにおいて経営陣は重要です。代表の石川氏は稀に見るハイスペック創業者(桜蔭→東大法学部→ベインアンドカンパニー(5年)→Wharton MBA→米国ITベンチャー)で、MBA時代に起業を強く意識し、国内の中堅事業者の非効率性を打開したいとの想いでミツモアを起業しています。ハイスペック創業者だから必ず成功するとは限りませんが、少なくとも自分でやると決めたことに関しては結果を出してきた人だと言えると思いました。

さらに、共同創業者のCTO柄澤氏も業界トップレベルのエンジニア(東大理学系院→ヤフオク担当/最速で昇格/社内受賞多数)です。創業直後に入社したCXO吉村氏(京大法学部→McKinsey)も良いバランサーであり、その他優秀なWeb/SEOのエンジニアなどを複数巻き込んでいることから、優秀な人材を惹きつける魅力が石川氏にはあるのだと感じました。

さらに、石川氏はVCから調達を受ける前に、著名なエンジェル投資家を何名も巻き込んでいました。これだけエンジェル投資家を集めることができたということは、こういった人たちを巻き込み、かつ継続サポートしてもらえる魅力があるということの証明になりポシティブです。

また社長との面談はもちろんですが、共同創業者、本社の主要メンバーとも一人一人面談を行いました。

このように、代表の石川氏は度重なる困難に素早く打ち勝つだけの地頭の良さ、やり切り力(パッション)、優秀なメンバーを組織できる人間性を持ち合わせているとひしひしと感じ、心から応援していきたいと思い投資を決めました。

おわりに

ローカルサービスの市場規模は30兆円以上と非常に大きいにもかかわらず、いまだにオペレーター型のようにユーザー側にとっても事業者側にとっても生産性の低いモデルが主流となっています。

ベンチャーはニッチな領域から攻めるパターンが多い中で、あえてこういった旧態依然としている巨大市場にチャレンジしていくことは非常に意義深いですし、プロダクトを磨きこんでいくことで社会に大きな価値を見出せると思っています。

繰り返しになりますが、Angel Bridgeは社会に大きなインパクトをもたらすために、あえて難しいことに挑戦していくベンチャーこそ応援しがいがあると考えており、こういった領域に果敢に取り組むベンチャーを応援したいと考えています。事業の壁打ちや資金調達のご相談など、お気軽にご連絡ください!

2021.05.26 INTERVIEW

日本を明日に希望が持てる国へ

ミツモアはどのような事業を行っているのですか?

石川:ミツモアという、見積もりが簡単にとれるプラットフォームを運営しています。ユーザーがミツモアのサイトに訪問して質問に答えていくと、それに対して事業者さんからの見積もりがすぐに最大5件届きます。
事業者側からすると、一度設定を行うだけでその後の見積もり業務が自動化されるので、ミツモア経由のお客様の引き合いに対して、事業者は何の手間もなく受注活動ができて非常に効率的です。

他にも見積もりを行っている競合はありそうですが、どういった点がミツモアの競合優位性なのでしょうか?

石川:まず、弊社ほど全領域をカバーしているプラットフォームはありません。特にカメラマン/税理士向けが強みですが、カバー領域はハウスクリーニング/リフォーム/庭の手入れなど20以上に及びます。

カテゴリ

また、見積りプラットフォームのプロセスをここまで自動化できているサービスは他にはないでしょう。例えばよくある税理士の見積もりサイトだと、登録するといろんな業者から電話がかかってきて、ヒアリングをされて見積もりが出てくるという、まだまだアナログなやり方が行われています。

それに対しミツモアでは、リクエストの内容に基づいて計算をすることで、ベストな選択肢を自動で提案することができます。事業者の全てのデータを持っていて、この人がベストだというのが分かるので、最適な選択肢をお届けできるのです。この点がユーザーにとっての体験の差に繋がっていると思いますし、事業者からすると非常に効率的に営業活動ができることが強みだと思います。

ミツモアを起業するまではどういったキャリアを歩んでいたのですか?

石川:新卒でベイン・アンド・カンパニーという戦略コンサルティング会社に入社した後、自分で将来起業したいなと思い、アメリカでMBAを取りその後シリコンバレーのZazzleというスタートアップで働いていました。

なぜ起業しようと思ったのですか?

石川:日本の将来の見通しの暗さをずっと感じており、どうやったら日本が明るい世界になるのかとコンサル時代からずっと考えていました。特に私は海外で暮らした経験もあったため、海外では給料が上がっていくのが当然で労働生産性も高いですが、日本はG7の中でも最低の労働生産性で平均賃金も伸びていないという状況を見てきました。

自分自身のことだけを考えれば日本経済の中でニッチに戦って満足するという生き方もありましたが、そうではなくマスに対して働きかけその人たちの労働生産性を改善させることで、日本の明るい未来が思い描けるようになりたかったというのが起業のきっかけです。

なぜ起業する前にアメリカに行こうと思ったのですか?

石川:アメリカは起業先進国で、プロダクトを作るときの考え方が洗練されています。そのため日本の基準でモノ作りをするよりは、世界の標準がどこにあるのかを理解してから作った方が、良いものを世の中に提供できると思ったからです。

そこまで石川さんを突き動かすパッションの原動力はどこにあるのでしょうか?

石川:元来負けず嫌いな性格なので、日本が経済的に負けていることが嫌なんだと思います。

幼少期を日本と中国で過ごしたのですが、小さい頃日本は世界中の尊敬を集めていたのに対し、だんだんと後退していっているのを感じていました。
ベインで働いていた頃にもいろんな国を見ていましたが、経済が伸びている国の明るい雰囲気に対し、日本は諦めてしまっている雰囲気を感じました。そうではなく、明日のほうがいい暮らしができると思えた方が幸せだよね、と思ったんです。

より多くの人に影響を与えるビジネスがしたい

起業するにあたって躊躇することはありましたか?

石川:ミツモアの事業をやろうと決めた後は全く躊躇はありませんでした。どちらかと言えば最初はすごく孤独でしたね。3ヶ月間共同創業者が見つからず誰とも話さない時期があり、図書館からの帰り道に強めの音楽を聴いて自分を奮い立たせたりしました(笑)。

どうやってミツモアの事業アイデアに行き着いたのですか?

石川:いわゆる大企業向けの事業ではなく、より多くの人の労働生産性を上げることができるというのを一番のテーマに考えていました。そういった私のやりたい事と一致するかというのと同時に、自分がバリューを生み出せそうな分野か、海外の成功事例の中で日本でも成功しそうかという3つの観点で、色々なビジネスをデューディリジェンスしていきました。
その中でも特に泥臭いビジネスの方がバリューが出ると思い、数多くあるサービスの中で見積もりを取るという極端に泥臭いところを選びました。

どういったメンバーで創業したのですか?

石川:最初はCTOの柄澤と共同で創業しました。柄澤はヤフー出身で、知り合いのエンジニアに最も優秀でやる気があるエンジニアを紹介してくれと頼んで紹介してもらいました。その人はハッカーズバーというエンジニア向けのバーに勤めている人で、そのバーに週2-3回通って「紹介してくれないと帰りません!」と言って遂に紹介してもらったのを覚えています(笑)。柄澤はマスに対してのバリューを追い求めるという考え方が一致していて、彼とだったらこの先もすれ違うことなくやっていけると思いました。
またCXOの吉村は、私のMBA同期から起業したがっているMcKinseyの後輩がいるということで紹介してもらいました。
現在はパートタイムも含め120名ほどまでメンバーを拡大しています。

どうしてここまで魅力的なメンバーを惹きつけることができたのでしょうか?

石川:やはり一番大きいのは、ミツモアが目指している世界観への共感だと思います。

起業当初に色々なベンチャーキャピタル(以下、VC)と話す中で、ニッチを狙ったほうがやりやすいしベンチャーの定石だよと指摘されたり、ベンチャーなのに野望を抱きすぎだということも散々言われていました。私自身としてももう少しニッチなところを攻めたほうがこんなに苦しまなかったと思いますし、成長も早かったと思います。しかし、だからこそプロダクトを磨きこむことで日本へ大きなインパクトを与えられるだろうし、難しいからこそチャレンジしてみたいというメンバーが集まってきたんだと思います。

起業当初何人もの著名なエンジェルからの投資を受けたようですが、なぜそこまでの支援を受けることができたのでしょうか?

石川:著名なエンジェル投資家の方々のインナーサークルがあり、一人から投資を受けると他にも色々な投資家の方に繋いでいただけたというのはありますね。

最初に投資してくれた方は、「石川だったら諦めないし本気でやるだろうから」ということで投資してくれました。起業するとやはり苦しいことが多いので、諦めないかどうかが一番大事だと思います。

また事業への共感もあったと思います。当時AI領域が流行っていたので、AIを選べば簡単に成長できると思うが何故AIに行かないのかと聞かれ、「マスに対して大きいことをしたいんです」ということを説明したら、とてもいいねと共感してもらえました。

なぜAngel Bridgeから投資を受けようと思ったのですか?

石川:もともとシリーズAは2社から投資を受けようと決めていました。1社だけだと万が一上手くいかなかった時のことを思うと不安ですし、逆にあまり増やすとコミュニケーションコストが上がり、事業成長がスローダウンすると思ったからです。

プロダクトを作るときに海外を意識して作っていたので、1社は海外にもプロダクトにも強いという軸でWiLを選びました。

もう1社は本当に辛いときにもそばにいてくれる、一緒に乗り越えてくれる、心理的繋がりが持てるようなVCが良いと思い、それが圧倒的に感じられたAngel Bridgeに決めました。

また、寄り添ってくれるという点の他にも、ファイナンス面での知識が豊富であることもAngel Bridgeを選んだポイントでした。多くの起業家はファイナンスをしたいから起業しているわけではなく、モノづくりをしたくて起業しているのでファイナンスのことはよくわかりません。当時河西さんは投資先の調達のために自分もVC回りをしていると言っていて、私自身調達する時に事業が止まってしまうことがすごく心苦しかったので、次の調達を考えたときに非常に魅力的だと感じました。

寄り添ってくれると感じたのは具体的にはどのような部分でしたか?

石川:まず投資検討のプロセスの進め方が非常に起業家フレンドリーでした。スピードが早いのもそうですし、他のVCとの交渉方法までアドバイスしてくれたので、ここまで寄り添ってくれるVCはなかなかいないなと驚きました。自分自身がVCなのにVCとの交渉の仕方を教えてくれるというのは驚きですよね。

また、次のラウンドはこういう設計でやるといいかもしれないねとか、次のラウンドを見据えて今回の調達はこういう形が良いよねとか将来を見越したアドバイスまでくれて、非常に起業家目線だったことが大きいですね。

河西さんはなぜミツモアに投資を決めたのですか?

河西:まず石川さんをリーダーとしたマネジメントチームが魅力的でしたね。レジュメの見た目だけでなく、メンバー全員にインタビューした時に感じた泥臭くやり切るというパッションに感銘を受けました。

あとはビジネスモデル的な面でいうと、スケールが担保できればネットワークエフェクトが効いてくる典型的なプラットフォームビジネスなのでそこの守りの部分は安心かなと思いました。また、攻めの部分で言うと一つのミツモアブランドで全ての見積もり市場を取りに行くという点が素晴らしいなと思いました。我々はメガベンチャーの創出をモットーに掲げているのでニッチを攻めずにそこにチャレンジしているというのが何よりも共感を持てました。

最後に当時カメラマンと税理士の2つの領域で既にサービスが立ち上がっていたので、今後他領域への展開も順調にできると思えたのも大きかったと思います。

色々他に検討しようと思えばいくらでも出来ましたが、これらのポイントだけを確認して実質的には1週間ほどで投資を決定しましたね。

シリーズAの資金調達後に逆境はありましたか?

石川:プロダクトマーケットフィットしたと思っていたのに、実は完璧にはしていなかったということがありました。イノベーターと一部のアーリーアダプターで止まっていて、マスへの壁を乗り越えられていなかったんです。永遠に越えられない壁を感じ、一番苦しかったですね。

それを乗り越えるために、課金体系を成功報酬型にするなどビジネスモデルやプロダクトを変えてもがき続け、今のモデルにたどり着きようやくマスに受け入れられるようになりました。

資金調達後はAngel Bridgeからどういった支援を受けましたか?

石川:ファイナンス面だけでなく事業面でも沢山ご支援をいただいており、本当にありがたいなと感じています。新しいカテゴリーをやるときは、ほぼ必ずMckinsey出身の八尾さん(Angel Bridgeアソシエイト)にお声がけをしています(笑)。

というのも、カテゴリーが多いので尋常ではない数の市場を理解しないといけないからです。例えば自動車整備業界を1週間で理解するとなるとかなりコンサル的なワークが必要になるので、McKinsey的に客観的に分析できることが非常に助けになります。

日本全体のGDP向上に向けて

ミツモアの事業を通じて今後どのようなことを実現していきたいですか?

石川:ミツモアのゴールは日本の労働生産性が上がってGDPが増えたときだと思っています。ミツモアを使っている会社って他の会社に比べて労働生産性が高いよねという状態が実現され、そうなった時にみんながミツモアを使っていて、それにより日本全体のGDPが向上しているような世界を実現したいです。

今はミツモアというプラットフォームで、集客・見積り自動化・発注したら一瞬でベストチョイスが見つかるというモデルで勝負していますが、将来的にはこれを越えて真に人々の生活に食い込んでいけるようなサービスを作り続けたいと思っています。

2021.05.21 INTERVIEW

治療法が未だ確立されていない心不全に挑む

Heartseedはどのような事業を行っているのですか?

福田:iPS細胞から高純度の心筋細胞を作製し、独自開発した移植デバイスを用いて心臓に移植する重症心不全の全く新しい治療法の技術開発に取り組んでいます。

なぜ心筋再生医療の研究を始めたのですか?

福田:心不全は現在心臓移植が主流な治療法ですが、移植にはドナーが必要ですし、補助人工心臓という機械を入れる治療法も、血栓ができたり感染症が起きるので数年ほどしか入れておくことはできません。本当の意味での病気を治す方法はなく、死と直結しているんです。

そういった背景から心不全の病気を治したいという想いはずっとあったのですが、私が大学を卒業した頃はまだ心不全の領域では遺伝子レベルの研究はされておらず、患者の病態を理解するための研究が中心でした。しかしそのような研究を一生懸命やってもなかなか患者を根本的に治療することはできません。そこで、根本的治療に直結するような遺伝子レベルの研究をしたいと思い、その頃既に遺伝子レベルの研究が行われていたがん領域で一旦研究を進めることに決めました。その後ハーバード大学、ミシガン大学への留学を経て、心不全を心臓移植以外で治療する方法を探すための研究を日本で始めました。

どうやって現在の技術に辿り着いたのですか?

福田:最初は骨髄の細胞を使って研究しました。骨髄の中には、骨を作ったり、軟骨を作るような細胞が存在することがわかっていて、これを用いて研究できるのではないかと思ったんですね。そして4年間かかって論文ができ、骨髄の細胞を使って心臓の細胞を作れることが世界で初めて報告できたんです。
世界各国から関心を集め、沢山の国で臨床研究がすぐ始まってしまいましたが、私は骨髄の細胞から心筋を大量に作るのは難しいと気づき、他の治療法を見つけなければいけないと思いました。

それと同時期にES細胞(受精卵の胚の内部細胞塊を用いてつくられた幹細胞)という、神経細胞や血球細胞など様々な種類の細胞に分化でき、かつほとんど無限に増殖できる細胞が初めて報告されました。そこで私はヒトの ES 細胞を使って心筋を作る試みを始め、5年かかってES細胞でも心筋を作れるようになったのです。

またその頃山中伸弥先生の iPS 細胞(特定の遺伝子を導入することで人工的につくられた多能性幹細胞)に関する研究が世界で初めて報告されたため、iPS 細胞を使って心筋細胞を作るチャレンジもしようと思い再度研究を始め、心筋細胞を効率的に作れるようになったんです。しかしiPS細胞はまだ医療応用されていません。なぜかというと、iPS 細胞から心筋を作ると心筋以外の細胞も沢山残ってしまうというハードルがあったからです。

一番の問題はiPS細胞自体がかなり残ってしまうことで、これを移植すると、iPS細胞は増殖能が強く色々な細胞に分化するので骨や軟骨や脂肪組織ができて腫瘍化してしまうんです。そのため世界中の大企業は iPS 細胞に興味を持ちながらもまだ医療応用できていません。そこで我々は、iPS 細胞・ES 細胞とそれ以外の細胞の違いをはっきりさせることで心筋だけを選別できないかと考えました。

こういった背景があるので、Heartseed が所持している最も優れた特許は、残存するiPS細胞を除去して心筋細胞だけを純化精製できる特許なのです。この論文の引用件数はかなり多く、これはすなわち世界のどこでもこの技術が再現できるということなので、世界的にも高く評価されていて科学的にも間違いがないということの証明になっていると思います。

どうやって心筋細胞だけを精製するのですか?

福田:iPS細胞・ES細胞と心筋細胞の大きな違いとして、iPS細胞・ES細胞はブドウ糖がないと生きていけませんが、心筋はブドウ糖がなくても乳酸があれば生きていけるというエネルギー代謝の違いがあります。そこでブドウ糖を除き乳酸を加えた培養液を作って研究をすると、思った通り心筋細胞だけを生き残らせることに成功したんです。

その後、味の素社と共同開発を進め無事成功し、心筋細胞は安全に作れるだろうということでAMEDという国立の研究開発法人から毎年約2億円の研究費用をいただくようになりました。再生医療の産業化のための研究を続け、産業化のめどが立ったので2015年に Heartseed を立ち上げました。

大手の製薬会社と共同研究を行うという選択肢もありましたが、やはり製薬会社だとどうしても会社の利益も考慮しないといけないので、患者本位の治療を追い求めるならベンチャーが最適だろうと思い、バイオベンチャーを立ち上げるという選択肢を選びました。

創業から共に歩んだ軌跡

河西とどういった経緯で創業することになったのですか?

福田:当時河西さんは Angel Bridge を創業したばかりで、大学発ベンチャーのアーリーステージに投資をしていました。研究室のメンバーと河西さんが同級生だったという繋がりで知り合い、一緒に会社を設立することになりました。

それ以来も河西さんには社外取締役としてサポートをいただきながら、シリーズ AからシリーズCまで順調に資金調達を行い、シリーズBまでで41億円、シリーズ Cでも大きな資金調達をしようと考えています。会社としても順調に成長しており、治験をするための体制づくりを継続して行っています。

どんなメンバーが集まっているのですか?

福田:COOの安井は河西さんの同級生ということもあり2019年にジョインしてくれました。東大薬学部を卒業後、ベイン・アンド・カンパニー、外資系製薬企業を経ています。CMO の金子は慶應の医学部を卒業し4年間臨床を経験した後、外資系製薬企業、さらにサンバイオというバイオベンチャーを経た臨床開発のプロです。他にも製薬会社・メーカー・商社・会計士など様々なバックグラウンドの人が共感してジョインしてくれており現在では40名近い組織となっております。

河西とHeartseedを創業してみてどうでしたか?

福田:まず河西さんの投資ビジネスに関する目利きは非常に優れていると思いましたね。アーリーステージの会社の目利きは外れることが多く、さらにバイオ領域は一般的に成功確率0.5%と言われていて、非常に投資判断が難しい領域です。しかし河西さんだけは、今までやってきた研究の可能性に非常に早い段階から気づいてくれて、そこに累計5.5億円もの多額の投資をしてくれたんです。そこから一気に事業が加速した結果として、今のHeartseedがあるのだと思います。

また資金調達の際の投資家回りの戦略については非常に頼りになりました。様々なVCに対する理解があり、資金調達の際にどういった投資家を株主にすればいいのか、そのために株主のバランスをどうするか等的確なアドバイスをくれます。資金調達に関しては卓越した知識とセンスをもっていらっしゃると思いますね

真の大学発ベンチャーの先駆者へ

今後どういった世界を実現していきたいですか?

福田:今まで心不全の患者に対しては症状を和らげる対症療法しかできず根本的な治療はありませんでしたが、今後心筋細胞を移植することができるようになれば、根本的な治療ができるようになり心不全の患者は激減すると思います。

また今後の世界への展開にむけては、世界中の皆さんを治療できるような細胞を作ることが重要だと考えています。今は山中先生が作った日本人に最適なiPS 細胞を使っていますが、それは必ずしもグローバルでベストな細胞ではありませんし、将来海外展開する際はテーラーメイドの iPS 細胞での治療も提供することが必要です。

例えば車を例にとれば、だれもが購入できる大衆車もあれば、オーダーメイドの高級車もあるでしょう。医療でも同じく、決まった細胞からiPS細胞を作る場合もあれば、患者さん自身の細胞から iPS 細胞を作るというビジネスもあります。そしてそのための技術基盤は既に揃っているのです。

私自身様々なバックグラウンドがあるので、細胞の製造から投与のデバイス作成、戦略作成といった全てに携わることができます。また、血液から iPS 細胞を作る特許や高品質の iPS 細胞をつくる特許も持っているので、あらゆることに対応できるのです。特注のiPS 細胞を作ることができれば、免疫抑制剤を使わなくて良いというのが一番のメリットでしょう。そういったビジネスも併せて両方展開することを目指しています。

そしてこれをいち早く世界中の患者さんに届けるためにも、海外の大手プレイヤーと組むことが非常に重要であると考えており、そちらも着々と準備を進めています。

また、日本の医薬品・医療機器産業がグローバルでかなり遅れをとっていることはあまり知られていないのではないでしょうか。日本は医療先進国だと思われがちですが、実は医薬品医療機器を年間4兆円も国費で輸入している医療後進国なのです。大規模臨床試験までたどりつける製薬企業はとても少なくなっていますし、心不全の薬一つをとっても、全部外資に負けてしまっているんです。

このように日本の医療が危機的な状態の中で、Heartseed が日本発の治療を世界に打ち出して、日本の黒字化に貢献しないといけないと思っています。

そのためにも大学発ベンチャーが増えていくことも必要でしょうか?

福田:そうですね。現状では医学部発のベンチャーで、さらにここまで医学部の教授が直接深く関わっている事例は少ないと思います。

河西:大学に眠る技術を世の中に出していくことは大学のためにも日本のためにもなると思うので、その先陣を切りたいですね。Heartseed が成功事例となることでどんどん他の先生たちも自分たちが起業しようとなってくると効果100倍だなと思っています。

よくあるパターンとして、技術力のあるところにビジネスマンが入ってきて一緒に起業して、先生は研究だけするというのがありますよね。でもそうではなく、研究室の先生が自分の技術を自分で主導して世の中に届けるというのが、本当の意味での大学発ベンチャーだと思っております。

(Heartseed株式会社 取締役/監査役メンバー)

2021.04.27 TEAM

トップファームで培ったバリューアップ支援

トップファームで培ったバリューアップ支援
八尾さんは毎日どのようなタイムスケジュールで過ごしているのですか?

案件の検討状況によって流動的ですが、新しい投資先を探してくるソーシングと投資するかどうかの目利きに50%、既存の投資先の支援に30%の時間を使っています。またAngel Bridgeもベンチャーのようなものなので、残りの20%は会社の価値向上のためのマーケティング活動などに使っていますね。

Angel Bridge入社前はどのようなキャリアを歩んできたのでしょうか?

東京大学大学院工学系研究科技術経営戦略学専攻で統計学などを勉強した後、新卒でマッキンゼー・アンド・カンパニーという戦略コンサルティング会社に入社し、3年ほど働いたのちにAngel Bridgeに転職しました。

なぜ新卒でマッキンゼーに入社しようと思ったのですか?

当時は日本の大企業が倒産しかけているという話がいくつか上がってきた時代で、そんな中で大企業に入っても何の保証にもならないと思いました。それよりも個人として力をつけることが必要だなと強く感じました。早く力を付けたかったので、年功序列ではなくもっと早い段階で責任を持てる環境がいいと思い、外資系企業に絞っていました。
また、大学院の俯瞰経営塾という授業がとても楽しかった事がコンサルを選んだ理由の1つです。この授業は毎週徹夜でグループワークをしてプレゼンするというのを10週間ほど続けるのですが、単位は出ないのにみんなそれに一番熱量を注いでいました(笑)。そのグループワークの中で、議論をつきつめることであったり、人にプレゼンするというのが非常に楽しいなと思い、適性があるのではないかと感じました。
また、環境は自分にとって非常に大事であると考えていて、周りが優秀だと自分も自然と頑張れると思い、面接やインターンシップを通して社員が非常に優秀で尊敬できると思ったマッキンゼーに入社を決めました。

入社後はジャンルを絞らず多様な産業に関わっていましたが、営業の組織改革やファイナンス系のプロジェクトに入ることが多かったですね。

マッキンゼーでの経験はVCの業務にどう生きていますか?

ストレートにVCの業務に生きていると思うのは、やはり投資先のバリューアップ支援ですね。
マッキンゼーは大企業を相手に課題解決をしますが、ベンチャー企業においても課題解決のステップは一緒だと思っています。スピード感、規模感は違いますが、課題を特定してソリューションを出し実行するという進め方は、共通するところがあると思います。

マッキンゼーを経験して良かったと思うことはありますか?

想定していた通りですが、優秀で尊敬できる人が沢山集まっていて、高度で汎用的なビジネススキルを身につける環境として非常に良かったと思います。
また、クライアントに感謝された瞬間にはとてもやりがいを感じましたね。一つ印象的で思い出に残っているのは、3か月ほど常駐していたプロジェクトが終わった時の事です。クライアントに表彰式のようなものを開催していただき、社長や専務、カウンターパートだった部長から花束や表彰状を頂いたんです。そのような場面において、非常にそのプロジェクトをやってよかったと思いましたし、企業を支援して感謝されるということに自分はやりがいを感じる人間なんだなと分かりました。これはVCの業務にも繋がってきますね。

マッキンゼー出身の人はどういったセカンドキャリアを選ぶことが多いのでしょうか?

ベンチャー企業に行く人が多い印象がありますね。アーリーステージのベンチャーからレイトステージのベンチャーまで様々です。他には実際に起業したりする人もいますし、PEファンドやVCを選ぶ人も増えている印象です。

八尾さんはなぜVCに転職しようと思ったのですか?

スタートアップに強い関心があったというのが大きな理由です。自分自身も起業したいと思ったことが過去にあるので、自分でリスクを取って起業している起業家の方々は本当に素晴らしいと思いますし、尊敬の念を持っています。そういった人たちと働くことができる環境が自分にとって魅力的だなと思いました。
また、新しいことにチャレンジして成長したいという想いも強かったです。マッキンゼーでは既にある程度完成したビジネスをさらに良くすることを学んでいましたが、今度はゼロイチのような、何もない状態からスタートするといったステージで学びたいと考えていました。

修羅場の数だけ成長できる

修羅場の数だけ成長できる
なぜ数あるVCの中からAngel Bridgeに決めたのですか?

最初はあまりVCは転職先として検討していなかったのですが、Angel Bridgeの代表パートナーである河西と話して非常に面白いと思い、他のVCはあまり検討せず決めました。
何が良かったかというと、まずメンバーが非常に魅力的でした。一緒に働く人はとても大事だと思いますが、まず代表の河西は一度話して凄く優秀だと思いましたし、面倒見もとても良く、私自身の成長にもコミットしてくれるような印象を持ちました。また、共同創業者の林の包容力・人間力もとてもバランスがとれていたので、この組織で働きたいと強く思いましたね。
さらに、Angel Bridgeが真の意味でスタートアップの支援をしているVCだと思えたことも大きいです。河西と話すなかで、例えば会社を創業する段階から一緒にやるだとか、投資後もかなり時間を割き一つ一つの会社に対しオーダーメイドで支援を提供するというのが、非常にやりがいがあると感じました。ソーシングをして投資をしたら後はあまり関与しないというスタイルのVCもある中で、投資後も一つ一つの会社と伴走し、その結果として社会に価値を見出すというサイクルを大事にしたかったので、そういった想いをもったVCであるということが決定要因として大きかったです。
また、Angel BridgeはVCですがまだまだ少人数なこともあってベンチャー気質であり、色々とやりたいことにチャレンジできるというのも良かったですね。

Angel Bridge入社後は具体的にどういった支援をしましたか?

例えば見積もりプラットフォームを提供しているミツモアを例にとってみると、最初はとあるカテゴリーで成約率が低迷しているという課題があり、成約率を向上させるための施策を考えてほしいというお題をいただきました。その後成約率のデータをexcelでもらい分析し、どういったケースで成約率が低いのかを見ていく中で施策をいくつか出し、CEOの石川さんとディスカッションをして優先順位をつけ、実際にその施策をやってみるという一連のサイクルをお手伝いさせていただきました。
その後も新しいカテゴリーをローンチするときの事業モデルの構築であったり、既存カテゴリーの価格改定のプライシングについて、ミツモア利用者に沢山電話をかけて情報を集めて提案するといった支援も定期的に行っていますね。
また、不動産DXに取り組むBluAgeでは、営業の組織改革を支援していました。これはマッキンゼーでやっていた領域に近かったので経験が活きましたね。
当時BluAgeは不動産の賃貸仲介をする営業員の組織を急激に拡大していたので、人によって売上高がばらついたり離職率が高いなど色々な組織の歪みが生じてしまっていたんです。こういった問題がBluAgeの従業員と話す中で見えてきたので、Angel Bridge側から問題提起をしました。
そこで、私が実際に各営業拠点に足を運び、営業員ひとりひとりと面談し、どういった課題意識を持っているのか、どういうところで悩んでいるのかを丁寧にヒアリングしました。すると沢山課題が見えてきたので、それらを全部取りまとめて施策を20~30個作り、CEOの佐々木さんに提案し、適切な人をアサインして最後まで実行するということを行いました。その結果1人当たりの売上高が20%程度改善しました、組織拡大に耐えられるようなマネジメントの仕組みや、今の組織の根幹となるようなチーム制の組織体制を構築することができたのは非常に良かったなと今振り返ってみて思います。

Angel Bridgeのパートナー陣は八尾さんにとってどのような存在ですか?

まず代表の河西は、ベンチャーキャピタリストとしての師匠だと思っています。
投資家はよくサポーターなどと言われますが、投資家と起業家の間には上下関係はないですし、実に難しい関係性だと思います。そういった関係性の中で、言いづらいことだとしても、会社のためを思って自分が正しいと思うことをしっかり伝えるという姿勢は、見習いたいと常に思っています。
林に関してはもっと広く人生の師匠だと思っています。一番学んでいるのは人間力ですね。VCに転職してからずっと感じていますが、ベンチャーキャピタリストとして人と人とのつながりはとても大切であり、林はその点に関して非常に長けていると思います。
厚い人望があって、例えば林会を開くと100人以上が集まる。そういったところの根幹にあるのはやはり人間力だと思うんですよね。それは林の普段の振る舞いだとかコミュニケーションによるものだと思うのですが、そういったところはベンチャーキャピタリストとしても人間としてもすごく大事なことだと思っていて、いつも学ばせてもらっています。

Angel Bridgeに入社して良かったと思うことはありますか?

まずは、当初必要条件としていた成長環境は思った通りでしたね。
マッキンゼーで働いていた時も思いましたが、人間は修羅場の数だけ成長できると思っています。スタートアップという存在自体が常に修羅場というのもありますし、VCとして複数の投資先を見ているなかで、必ずどこかしらで修羅場があります。常にそういったハードな課題に挑めることがモチベーションになっています。
そしてやはり尊敬している起業家の方々と仕事ができるというのが本当に刺激的ですね。
また、自分がいかに井の中の蛙だったかを認識することができたことも良かったです。今振り返ると、東大もマッキンゼーも同質な人間の集まりだったなと思っていて、家庭環境をとっても思考をとっても、近い人しかいなかったんですね。ですが、VCで働いていると色々なバックグラウンドや想いを持った起業家と話すことができ、世の中にいかに人間の多様性があるのかを認識できたのは非常に良い経験でした。

今後どんな人と一緒に働いていきたいですか?

ベンチャーキャピタル業務を楽しんでできる人ですね。どういう人が楽しめるかというと、色々な起業家と話すというのが業務の大半なので、知的好奇心があって、沢山の人と話すことが得意な人が向いている職業だと思います。

投資から社会への価値創造までやり遂げるということ

投資から社会への価値創造までやり遂げるということ
今後Angel Bridgeで働きながらどんなことを叶えていきたいですか?

まず自分自身としては、一人前のベンチャーキャピタリストになりたいと考えています。そのためにも、自分が信じた起業家に投資して、一緒に伴走して、結果として社会に大きな価値をもたらすという一連の流れを、しっかりやり遂げたいなと思いますね。
Angel Bridgeの投資先は社会に対して価値があるベンチャーばかりなので、世に認知されてプロダクトが広まることに非常に大きな意義があると思っています。
またアメリカと比べると日本のVCはまだまだ黎明期で、未成熟だと思っています。今まさに盛り上がりつつあると思うのですが、自分自身が日本を代表するようなベンチャーキャピタリストとなって、業界全体を牽引するような存在になりたいと考えています。

八尾さんが大切にしている信念についてお伺いしたいです。

私の人生哲学として、「易きになじまず難きにつく」という言葉があります。
大学時代に俯瞰経営塾でAGCの企業研究をする機会があったのですが、そのAGCを創業した岩崎 俊弥氏が作った言葉です。この言葉の通り、簡単な現状に満足して楽な道を歩むよりも、困難で険しい道を敢えて選んで歩んでいくことがとても大事だと思っています。
ともすると楽な方に逃げてなんとなく過ごしてしまいがちですが、あえて険しい道を選んで成長し、チャレンジし続けることで自分自身は成長してきたと思いますし、これからもこのチャレンジ精神を忘れずに、更に世にバリューを産み出していきたいと考えています。

2021.04.22 INTERVIEW

M&Aを通じて、日本の製造業が再度世界を牽引する一役を担いたい

東証マザーズ上場、おめでとうございます!オンデックの事業内容を教えてもらえますか?

久保:端的に言うと、主に中小企業を顧客として、M&Aに関する仲介、アドバイザリーサービスを提供しています。

M&Aセンターなど他にもM&A仲介・アドバイザリーを行う企業はあると思いますが、オンデックにはどういった強みがあるのでしょうか?

久保:まず中小企業向けのM&Aの仲介・アドバイザリーのマーケットには、3つのタイプのプレイヤーが存在すると考えています。①相手を見つけることにリソースの多くをつぎ込むマッチング重視型、②マッチングをweb上で行うことに特化しているデジタル・プラットフォーム型、③M&Aのプロとして事業・税務・法務等のあらゆる観点からのアドバイザリーを重視するコンサルファーム型です。
この中で我々は③のコンサルファーム型に分類されると思っていますが、このタイプは業界ではマイノリティです。マッチングのみを重視し、とにかく案件の数をこなす・早く決めることにリソースを集中した方が、収益はあげやすいので、仲介・アドバイザリーのマーケット全体において、そちらが主流になりつつあるのが現状です。しかし我々としては、マーケットの健全な発展のためには、M&Aのプロとしてのサービスクオリティの向上が必要だと考えており、それを牽引すべく、当社はコンサルティング・クオリティを重視したコンサルファーム型にこだわっています。結果として、これが当社の強みになっていると思っています。
例えば、当社はコンサルタントの約40%が、弁護士や税理士などの専門性の高いメンバーで構成されています。マッチング機能だけでなく、よりクオリティの高いストラクチャ提案等に拘る中で、結果としてそうしたメンバー構成になっていました。

オンデック上場日 (2020/12/29 オンデック上場日)

久保さんはどういった経緯で起業しようと思ったのですか?

久保:私は小学校から大学まで野球にどっぷり浸かっていて、自分が社会人になった時にどのような方向に進むべきかを、あまりイメージしていませんでした。その頃は漠然とソーシャルワーク的な仕事がしたいと思っていたのですが、あまりに無知であったこともあり、ひとまずはいわゆる一般の事業会社に就職をしようと、新卒ではジェーシービーに就職しました。そこで社会人としての基礎を学びつつ、将来について、初めて真剣にいろんなことを考えたのです。
「ソーシャルワーク的なことがしたい」という自分の考えが、どういう思考から来ているのかを掘り下げると、その根源には「機会不平等を正したい」という想いがあることに気が付きました。
世の中には、基礎的な能力が高いにも関わらず、生まれた環境などによって十分な成長の機会や、チャレンジの機会を与えられていない人達がいる。そうした機会の不平等を少しでも無くしていきたい、という欲求が、自分の根底的な動機なのだと理解できたわけです。
しかし、自分なりに調べていくと、海外ではソーシャルワーカーはひとつの職業として確立されていますが、日本ではそれを職業としつつ、十分な生計を立てていくことはなかなか難しいという実態が分かってきました。心理学を学んだり、カウンセリングの資格を取得したり、一時的には警察官になったりもしました(笑)
色々なことにチャレンジしながら、色々な立場・職業の方々の意見を聞いて回り、自分はこの先、どう生きるかを模索していました。そのような時、たまたまご縁があった経済界の重鎮から、「お前は起業しろ」と言われたのです。
「日本は経済立国なので、何をするにも、ビジネスの世界で成功した人が、発言力・実行力を持つことになる。最終的な目標がビジネス以外の何かであったとしても、それを実現するためのお金やネットワークを手に入れることができる。だから、自分が正しいと思うこと、こうあるべきと思うソーシャルワークの理想像があるならば、まずビジネスの世界で成功して、それを実現する力を得た後にやればいい。その方が、社会課題に対してその本質的な解決にアプローチできる可能性が高まるのではないか」そう言われました。それまで起業という考えは皆無であったため、目から鱗でした。なるほど、そういう考え方、選択の方向性があるか、と。
その助言を契機に、「起業する」という方向が明確に固まりました。

共同創業者の舩戸さんとはどういった出会いだったのですか?

久保:私も舩戸も、大学では体育会野球部に所属していました。彼とは別の大学だったものの、リーグが一緒だったので、その頃から顔見知りではありました。とはいえ、知っている、という程度で特別親しいわけではなかったのですが、その後偶然にも、ジェーシービーに同期入社したのです。同期として接点が増え、彼を知るほどにそのキャラクターであったり、人間性がとても信用できたので、ある時、自分が起業する考えであることを伝え、一緒にやるか?と声をかけました。思い切りのいいやつなので、すぐOKしてくれましたね。

なぜM&A仲介の事業をやろうと思ったのですか?

久保:先にお話しした通り、あくまで「起業しよう」という意思決定が先でしたから、具体的にこのビジネスがやりたい、というプランがあったわけではありませんでした。そこで、起業ありきの中で、まずは思いつくままにビジネスプランを考え、舩戸と意見交換する日々が3年ほど続きました。自分たちなりに有望と思えるプランが、5つほどありましたね。最終的に、どのプランを実行に移すかの「選択基準」を決めて、それらの基準に最も合致したM&A事業を選択しました。
「選択基準」は複数ありました。具体的には、「これから伸びていく市場に位置しているか」「あらゆる業種・業界に関われるサービスであるか」「経営陣と直接やりとりできるサービスであるか」などがその選択基準でした。
あくまで「起業」が目的として先にあったので、盲目的に「これをやりたい」というプランがあったわけではなかったことで、客観性を持ってビジネスプランを分析できたことが、ある意味では良かったのかもしれませんね。

100年続く会社へ―オンデック秘話

オンデックの事業を通して何か課題解決したいという気持ちは創業時からあったのですか?

久保:オンデック創業前に商社で働いていた時、日本という国の経済は「ゆっくりと沈んでいっている」と感じることがとても多かったのです。
日本人はとても真面目で勤勉で、そして馬鹿正直で、「モノを作る」ことは上手いものの、金融・投資・プロモーション・収益モデル構築のような要素は不得手。そして良いモノを作るだけでは、現代社会では、いとも簡単に技術は盗まれてしまう。なんせ海外ではビジネスは戦争、みたいな感覚がありますからね。技術を盗むなんて道義にもとる、なんて言っている日本人の感覚は、高尚ではありますがマイノリティであり、あまりに無防備だと思います。
せっかく真面目にいいものを作っても日本は衰退していっている、それをM&Aを通じて、あるいは投資事業を通じてその変革を生む触媒となりたい。これは、創業時から具体化されていた考えではありませんが、M&A事業を通じた様々な経験の中で、明確になってきたビジョンです。近い将来、日本の製造業が再度世界を牽引するようになる一役を担いたいと考えています。

TDBグループとの資本提携、そしてAngel Bridgeと併走して実現した、2年半での上場

なぜ設立から10年以上たって外部資金を入れようと思ったのですか?

久保:創業からしばらくして10人ほどの規模になってきた時に、一定の成長スピードがないと社会に大きなインパクトは与えられない、そしてそもそも組織は生き残れないなと痛感し始めたのです。
我々はコンサルファーム型を志向し、提案力の向上とエグゼキューションのクオリティを追求してやってきましたが、成長スピードを上げるためには、案件を獲得するためのオリジネーション業務の強化が必要になってきました。
そこでまず、日本最大の企業データベースを持つ企業信用調査会社である、帝国データバンクとの関係の構築を目論み、同グループから出資を得るに至りました。

林とはどういった出会いだったのですか?

久保:共通の知人から紹介してもらいました。当時資金の需要はありませんでしたが、一度お会いして情報交換しただけであったにも拘わらず、その後数日で「貴社に出資させてもらいたい」という話があり、その意思決定のスピード感にかなり驚いたことを鮮明に覚えています。

林:久保さんと将来上場したいねという話をしながら、麻布十番のモノマネバーに行ったのが懐かしいですね(笑)。

なぜ上場を目指そうと思ったのですか?

久保:同時期に同業者の上場が相次いだことが大きいですね。我々は、クオリティにこだわってひたすらスキルを磨いてきたことから、M&A検討企業が委託先を決める際のコンペの勝率には、かなりの自信があります。しかし、同業の上場企業が増加するに従って、そもそもコンペのテーブルに乗れないケースが増えていきました。提案やサービスのクオリティにどんなに自信があっても、それを発揮する機会自体が失われてしまえば、何の意味もありません。今はマーケット全体が伸びているから我々も牛歩ながら伸びているけれど、上場の信用力を梃に競合企業がどんどん成長していけば、我々は次第に駆逐されてしまうかもしれない。そうなると、将来ビジョンに到達する前に、マーケットから退場させられてしまうかもしれないと、強い危機感を持つようになりました。これが上場を目指すことを決めた、最も端的な理由です。

なぜAngel Brigeから資金調達を受けようと思ったのですか?

久保:もともと資金を提供するだけのVCを入れる気は全くありませんでした。資金には困っていませんでしたので。ですので、Angel BridgeがいわゆるVCだったとしたら、まったく検討することもなく、お申し出を断っていたと思います。
ただ、メンバーのご経歴をみると、皆さんのご出身がバイアウトファンドであったり投資銀行であったり、これは持っているノウハウが、他のVCとは全然違うなと思いました。我々は将来的に投資事業をやりたいと思っていたので、投資事業の知見があるチームならば組む意味があると思いました。熟慮の末、「上場まで限りの、単なるVC出資ではなく、将来にわたっての資本業務提携という側面を持っていただけるならば受け容れる」と伝えたところ、これまた即決のスピード回答で「OK」ということでしたので、Angel Bridgeから投資を受けることを決めました。

100年続く会社へ―オンデック秘話

オンデックへの投資の決め手は何だったのでしょうか?

林:中小企業で後継者不在の会社がたくさんあることは課題としてずっと感じていました。なので、そういった企業の創業者や従業員の皆さんにとっての最適解を出していく必要があります。オンデックは非常に高度な倫理観をお持ちですし、周りからの評判も良く、人様のために仕事をしていらっしゃるのだなと感じ、そういった企業は必ず伸びる、と思いました。また3年以内に必ず上場します、という久保さんのお言葉も非常に力強かったですね。

久保:実は投資までの意思決定が早すぎて逆に大丈夫かなと疑っていたのですが、提示された契約書が非常に的確で、シンプルな内容であったことで、信用できると確信したことを覚えています。私どものように、日々企業買収や出資の契約に触れていると、その条文から相手の考えや姿勢が透けて見えてきてしまうものです。AngelBridgeさんの契約書は、メンバーの皆さんの誠実な人柄や姿勢が反映されたものでした。

Angel Bridgeから投資をうけてみてどうでしたか?

久保:複雑な投資スキーム等に対する知見・ノウハウのレベルが非常に高く、目論見通り、いや期待以上でしたね。そして案件紹介による売上への大きな直接貢献にもたいへん感謝しています。
また林さんを始めAngel Bridgeのチームは、底抜けに明るい方々の集まりだと思います。特に今回、意思決定からかなり短期間での上場を推し進めました。色々な部分で、急速な変化によるひずみが生まれるのは覚悟の上でしたが、精神的にこたえるタイミングは幾度かありました。そういった時でも、Angel Bridgeの方々はいつも明るく、「いけますよ〜!」とニコニコ笑いかけてくれました。お会いするだけで、勇気付けられることが多々ありました。

林:成約寸前だった大型案件が、金融機関の事情でペンディングになった時もありましたね。業績への影響も小さくなかった。そういったときも我々はオンデックを信じて疑わなかったです。案件を紹介するので一緒にやりましょう、リカバリーしましょうと一緒にチャレンジしました。

久保:もう足を向けては寝れないですね。寝ますけど(笑)。

林:我々が本当にすごいなと思うのは、やはり約束された時期に約束どおり上場されたことですね。我々がその一端でもお力になれていたなら、嬉しいです。

久保:Angel Bridgeがいなかったら、この短期での上場は厳しかったと思います。結局会社経営は、色々な方の支えとパートナーシップの集積だと思っているので、どういったVCや事業会社とご一緒するかはとても大きな要素だと思いますね。

100年続く会社を作りたい

上場してから何か変わったことはありますか?

久保:驚くほどに精神状態は変わらないですが、株主の方など、ステークホルダーはもちろん増えたことに対して、身が引き締まる思いはあります。
結局ビジネスは第三者にどう評価されるかが重要で、どんなにサービスのクオリティを磨いても、評価されないとサービスを利用してもらうことはできませんし、機会そのものをいただけません。より多くの方々に、良い会社だねと言っていただくために、今まで以上に名実ともに成長しないといけないという、良い意味のプレッシャーは感じています。

100年続く会社へ―オンデック秘話

なぜ100年続く会社を作りたいのですか?

久保:真に社会に貢献できるような、大きな影響を社会に提供していこうとするならば、自分一人でやるのは無理だと考えています。もっと言えば、自分の代だけでできることには限りがあると思います。しかし、同じ情熱を持ったチームがあって、その目標や文化が、新たなメンバーや次のチームに脈々と受け継がれていくような組織の素地を作ることができれば、誰かが、我々の夢を、更に大きな形で実現してくれるはずです。100年、というのはあくまでイメージを伝えるための表現ですが、そんな組織を作ることが目標です。

100年後にどんなことが実現されていてほしいですか?

久保:日本に限らず、世界の中で、それぞれの国のそれぞれの得意分野での役割が明確になって、豊かさがフェアにシェアされているといいなと思います。

林:面白いですね。

久保:その時、日本が果たす役割、得意分野は、やはり製造業だと思っています。
ひとくちに「製造業」というと非常に幅広い概念になりますが、中でも特に、「より生産性を高める生産財の生産」は、日本の国民性に合致する、お家芸とも言える分野ではないでしょうか。例えば「燃費のいいエンジン」は、オイルがジャブジャブ採れる産油国では生まれないでしょうし、ファクトリーオートメーションの進化などは、労働力が溢れている国では起こりづらいでしょう。日本ならではの外部環境・内部環境だからこその文化や国民性が、モノづくりにつながっているのだと思うんですよ。日本がそうした分野で世界をリードし、世界における日本の役割が確立していけばいいな、と考えています。
同じように、いろんな国にそれぞれの明確な役割があって、フェアで前向きな相互依存関係ができることが、成熟した社会と言えるのではないかなと思っています。
将来、オンデックが、世界の中の日本のために、何らかの形で力になれれば最高ですね。

2021.03.14 COLUMN

こんにちは、Angel Bridgeの八尾です。「不動産テック」というワード、最近ニュースやメディアで目にすることも多いのではないでしょうか。

引越しの際などに実際に不動産情報サイトで家探しをしたことがある方も多いと思いますが、実際住む家を決めるとなると、ネットの情報だけではなかなか物件の様子が分からなかったり、おとり物件に惑わされたりなど、苦労した経験もあると思います。このように、不動産業界にはまだまだ課題が多いのが現状です。

そこで今注目されているのが“不動産×テクノロジー”の「不動産テック」という分野です。Angel Bridgeも不動産テック領域の株式会社カナリーに2020年に出資し、ハンズオン支援を行なっています。

私たちがなぜカナリーに投資したのか、その背景をこの記事ではお話ししていきます。

不動産テックがなぜ今アツいのか?

不動産テック(Prop Tech、Real Estate Techとも呼ぶ)は、不動産テック協会の定義から、「不動産×テクノロジーの略であり、テクノロジーの力によって、不動産に関わる業界課題や従来の商習慣を変えようとする価値や仕組みのこと」だと解釈できます。

Angel Bridgeがこの不動産テックに注目している理由は3つあります。それは、市場規模が大きいこと、ペインが深いこと、そしてそれを解決する難度が高いことです。

不動産業界の市場が大きいことは自明でしょう。それにも関わらず旧態依然としている部分がまだ多くあり、ユーザーにとっても企業側にとってもペインの多い構造となっています。背景には昔ながらの業界慣習が根強く残っていることもあり、各ステークホルダーとうまく関係を作っていかないと新規参入プレーヤーが冷遇されるような難しい環境でもあります。

Angel Bridgeは、社会に大きなインパクトをもたらすために、あえて難しいことに挑戦していくベンチャーこそ応援しがいがあると考えており、こういった領域に果敢に取り組むベンチャーを応援したいと考えています。

不動産賃貸業界のステークホルダー

不動産テックと一言で言っても領域がかなり幅広いので、今回は不動産テックの中でも賃貸業界に絞って解像度を上げてみます。

不動産賃貸業界には、①物件オーナー ②管理会社 ③仲介会社 ④プラットフォーマーなどの多くのステークホルダーが存在しており、その中でもプラットフォーマーの収益性は高く、スケールするスピードが速いことが特徴です(図1)。

不動産賃貸業界のステークホルダー

既にSUUMOをはじめ、いくつかのプラットフォーマーが存在しており、ユーザーと仲介会社をつなげることで急激に成長してきました(図2)。

不動産業界マップ

プラットフォーマー市場では圧倒的にSUUMOがリードしていますが、スモッカなど後発でも急速に成長しているサービスが存在し、新サービスが一定のシェアを獲得する余地はあると考えられます。

既存プラットフォームのペイン

市場からの評価も高い既存プラットフォーマーですが、実はまだまだたくさんのペインが存在しています。

利用ユーザー視点

利用ユーザー視点では、掲載物件の約半数を占めるおとり物件や、複数の仲介会社との必要以上のやり取りの手間によりユーザー体験は下がっています。これらは一度は体験したことのある方が多いのではないでしょうか(図3)。

既存プラットフォームのペイン 利用ユーザー視点
仲介会社視点

また、これらは仲介会社にとっても非効率な部分が多く、入稿作業による長時間労働や反響取り合いによる低成約率など、労働環境の悪化や低収益化につながっています。

既存サービスとカナリーのビジネスモデルの違い

ここで、Angel Bridgeの投資先であるカナリーが提供するプラットフォーム「CANARY」のビジネスモデルを説明します。

従来のプラットフォーマーはリアルな機能を持たず、ユーザーと不動産仲介会社をつなぐ広告型のビジネスモデルです。このモデルはインターネット上で完結できるためインターネット創世期に立ち上がり一気に事業拡大しました。一方でカナリーのモデルは、プラットフォーマーがリアルと一体となって、ユーザーと不動産物件を直接つなぐビジネスモデルです(図4)。このモデルはリアルの立ち上げが必要な分、事業の拡大には時間がかかります。ただし、一度このモデルを築き上げれば高いサービスレベルが強固な競争優位性を生みます。

CANARYのビジネスモデル

この違いはわかりやすく例えると、楽天とAmazonに似ています。

楽天は在庫を保有せずメーカーや小売業者に出店場所を提供しているだけですが、Amazonは自身が在庫や物流機能を保有し、販売しています。短期勝負なら一気に出品数を増やすことができ、物流等のオペレーションも担わない楽天のような広告型モデルが強いですが、長期目線ではAmazonモデルの方が提供価値が高いと考えています。

SUUMOは楽天のように多数の不動産仲介会社の物件情報を掲載しています。一方でCANARYはAmazonモデルに近く、BluAgeがデータベースを一元管理しユーザーと物件を直接つなぐビジネスモデルです。これにより効率的で質の高いサービスを実現し、前述したようなユーザーと仲介両者のペインを解消しています(図5)。

テクノロジーとリアルの融合モデル

このように、SUUMOとCANARYのビジネスモデルには楽天とAmazonのような大きい違いがあり、後発であっても十分勝てる余地があると考えました。

VCとして投資するにあたり検討したポイント

Angel BridgeがカナリーにVCとして投資するにあたり、事業・経営陣・バリュエーションの主に3点を検討しました。

事業に関しては、上述のようなビジネスモデルの違いからペインが解消されることの仮説があったので、このモデルが成立するのかどうかという点で検証を行いました。大手プラットフォーマーとの登録物件数の比較や、提携不動産会社の方へのヒアリングを行い各ステークホルダーに受け入れられるビジネスモデルだと判断しました。

また、特にアーリーステージにおいて経営陣は重要です。度重なる困難に素早く打ち勝つだけの地頭の良さ、やり切る力(パッション)、優秀なメンバーを組織できる人間性が必要だと思っています。社長との面談はもちろんですが、共同創業者、本社の主要メンバー、既存投資家とも一人一人面談を行い検証しました。最後にバリュエーションの妥当性についての検証ですが、実際のトラクションに基づいたボトムアップアプローチと、上場時の時価総額から期待リターンを逆算して考えるトップダウンアプローチの両面で考えました。

おわりに

不動産テック業界は注目され続けており、上場しているGA technologiesやSREホールディングスも急速に事業拡大し売上高を伸ばしています。IT重説(*1)は既に容認されており、電子契約も徐々に認められる流れにあります。テクノロジーの活用余地は今後さらに広がっていくと考えています。

また不動産テック以外の業界においても、テクノロジーとリアルを融合したモデルが時間をかけて競合優位性を築いています。インターネット創世期に大きくなったサービス領域は、そこに大きな市場があることが明確でありペインが潜んでいることが多いです。SUUMOに代表されるように、リクルートが昔から取り組む領域にはチャンスがあるのではないでしょうか。テクノロジーとリアルの融合により旧型のIT巨人を打ち崩していくことは非常に面白いチャレンジだと思っています。

繰り返しになりますが、Angel Bridgeは社会に大きなインパクトをもたらすために、あえて難しいことに挑戦していくベンチャーこそ応援しがいがあると考えており、こういった領域に果敢に取り組むベンチャーを応援したいと考えています。事業の壁打ちや資金調達のご相談など、お気軽にFacebook、TwitterでDMください!良ければフォローもよろしくお願いいたします!

Angel Bridge 八尾にコンタクトしたい方はプロフィールに掲載しているSNSまでご連絡ください。

(*1) IT重説とは、テレビ会議などのITを活用して行う、賃貸借契約における重要事項説明。

2021.03.10 INTERVIEW

遺伝子検査会社が足りない日本の状況をなんとかしたい、という想いからスタートした子宮内フローラ検査事業

遺伝子検査会社が足りない日本の状況をなんとかしたい、という想いからスタートした子宮内フローラ検査事業

Varinosは現在どういった事業を行なっているのですか?

桜庭:創業当初から続いているのは、腟や子宮から採取した検体を用いて子宮内の菌の種類や割合を調べる、子宮内フローラ検査事業です。子宮内フローラとは子宮や膣内に存在する菌の環境のことであり、女性や胎児を感染症から守り、妊娠や着床率と重要な関わりがあります。
また、検査して子宮内フローラの状態が良くない場合は、子宮内フローラの改善効果があるラクトフェリンをサプリとして摂取することができます。こちらは研究段階から始めましたが、子宮内フローラの改善効果がかなり高く、多くの患者さんにご利用いただいています。

子宮内フローラのためのラクトフェリン

また、体外受精や顕微授精後の胚の染色体や遺伝子を着床前に評価可能な着床前ゲノム検査(PGT-A)も昨年から本格的に始めました。
将来的にはもっと色々なゲノム関連技術を開発したいと考えています。

桜庭さんはずっとアカデミアの世界にいたようですが、どういった経緯で起業しようと思ったのですか?

桜庭:おっしゃる通りもともと私はアカデミアの人間でして、博士課程修了後アメリカで基礎研究を行っていたのですが、その中で自分の人生について考える機会がありました。当時プリスクールに通っていた娘が、「コミュニティヘルパーの格好をして学校にきてください」という宿題をもらってきたんです。
コミュニティヘルパーというのは医師や消防士など地域の人々を助ける職業の人のことなのですが、その時ふと、僕はコミュニティヘルパーじゃないなと思って。基礎研究をしていても誰かが助かるわけではない。一度きりの人生だから、もっと人々に貢献ができる仕事をしたいと思うようになりました。
それならば、日本に帰ったら違うことをしよう、ビジネスサイドでやろうと思い、GeneTechという臨床検査会社にジョインしました。
その後イルミナというゲノム解析技術の会社に転職したのですが、そこで共同創業者の長井さんと出会い、2人で創業することになりました。長井さんと私は2人とも、遺伝子検査会社が足りないこの日本の状況をなんとかしたいという気持ちを抱いていたからです。

Varinos株式会社

次世代シークエンサーというゲノム解析技術は15年ほど前に誕生し、最初は研究用途のみでしたが、この10年で医療応用されてきました。イルミナもがんや遺伝病には力を入れてきましたが、アメリカ、ヨーロッパ、中国などに比べて日本はまだまだ実績が足りておらず、悔しい気持ちをずっと抱いていたんです。
そういった背景があり、自分たちでゲノム検査会社を作るべきではないか?やろうと思えばできるのでは?という話が出てきて、起業するに至りました。

なぜゲノム検査の中でも生殖医療の領域に注力されたのですか?

桜庭:理由は2つあります。1つ目は、前々職で生殖医療に近い領域で仕事をしていたからです。新型出生前診断(NIPT)を日本に導入するプロジェクトをやっていたので、産科の分野や先生方とのネットワークがありました。産科は妊娠した後の話で、生殖医療は妊娠する前の話ですが、ここもゲノムが活躍できる分野で、グローバルでは生殖医療の分野でもゲノム検査が大活躍していました。
しかし、着床前胚染色体異数性検査(PGT-A)は海外では一般的に行われている検査なのに、なかなか日本では実施されていませんでした。患者さんや産科の先生方も含め、やりたいのにできない現状をなんとかしたいという思いから、生殖医療がVarinosとしてのスタート地点になったのです。
2つ目の理由として、ゲノム医療は保険診療との相性が悪いという背景があります。がんなどの領域でのゲノム医療は既に取りざたされていますが、標準治療が終わっている人しか保険診療として受けられないんです。しかし標準治療が終わっているとかなりがんが進行しているので、あまり恩恵がありません。保険診療が絡んでくる領域だとなかなか技術を届けたいところに届けられないんです。しかし産科や生殖医療はほとんど自費診療なので、タイムリーに患者さんに最新技術を届けることができます。
こういった背景から、私たちのようなベンチャーが最新の技術を使って医療領域で勝負するなら生殖医療だろうと思うに至り、ここにまず注力することを決めました。
また我々は生殖医療を軸にしているように見えますが、実はこれはまだまだ第一歩で、ゲノム検査を柱にこれから様々な領域で開発・提供していきたいと考えています。

色々な不妊治療が日本にも存在しますが、Varinosの強みはどこにあるのでしょうか?

桜庭:分かりやすいように車で例えてみると、車を運転できる会社はたくさんありますが、我々は車体さえも作れる、需要があるフィールドで走れる車を自分たちでカスタマイズして作れるのが強みであると考えています。
Varinosは子宮内フローラのように、全く世の中になかった検査を作って、それを提供することができます。ただ単にキットや機械を買って運用しているだけの会社はいくつもありますが、自分達で方法を考えて開発して、検査を実行できる会社は国内にはほとんどありません。
そこが海であれば、海でも走れる車を作るし、凸凹な道であれば、タイヤの大きい車を作る。市販車では行けないようなところに行けるのがVarinosの強みであると考えています。

常に投資先と伴走し最適なタイミングで意思決定をする、Angel Bridgeのハンズオン支援のあり方

常に投資先と伴走し最適なタイミングで意思決定をする、Angel Bridgeのハンズオン支援のあり方

なぜシリーズAでAngel Brigeから資金調達を受けようと思ったのですか?

桜庭:今となっては事業が立ち上がっていますが、シリーズAの資金調達に向けて動き出した当時は設立から7ヶ月後ぐらいで、やっと検査が始まったばかりでした。
その上僕らは当時ストーリーを語るのが下手で、Varinosの事業の本当の価値を当時のVCに伝えられていませんでした。しかしその中でも河西さんは、Varinosの言語化できていない価値まで理解してくれていました。

河西:Angel Bridgeは桜庭さんの前々職のGenetechに投資しており、その頃から桜庭さんのことは知っていたので、桜庭さんが言っていることはとてもよくわかりましたね。

桜庭:生殖医療はベンチャーこそが活躍できる領域であり、河西さんは我々が持っているポテンシャルが実は他社と全然違うということを、会話しながら自ら気づいてくれていたんです。

Varinosへの投資の決め手は何だったのでしょうか?

河西:サイエンスもビジネスも理解できている人はなかなかいませんので、どちらもカバーできている経営陣が素晴らしいなとまず思いました。桜庭さん、長井さんという違うタイプの二人がとてもいいバランスをとっていましたね。
また事業領域としても、現在の日本の少子高齢化社会において、妊娠率を上げていくサービスはニーズがあるのはわかっていましたし、最先端の次世代シークエンサーを駆使して優れた遺伝子検査プロダクトを出すというのは、とても意義の深いビジネスだと感じました。
それをこの二人がやるというのならば、我々としても全力で支援したいと思い、即決で2億円の投資を決めましたね。

創業後、どのような逆境がありましたか?

桜庭:新型コロナウイルスの影響で、2020年の4月に日本生殖医学会から、人工授精、体外受精・胚移植、生殖外科手術などの治療に関しては、延期が可能なものについては延期を考慮するようにという通達が出てしまい、かなり不安でした。
しかし、子宮内フローラ検査は体外受精の前段階の検査だということにすぐ気づき、逆に準備する時間ができたと考えむしろ多く検査したほうがいいと思い立ちました。
そしてこのメッセージを伝えるために、「新型コロナに負けるなキャンペーン」として子宮内フローラ検査を打ち出し、この逆境を乗り越えることができました。

投資を受けた後、Angel Bridgeからどんな支援がありましたか?

桜庭:Angel Bridgeが我々と伴走してくれているというのは、常に感じています。僕も長井さんも経営の素人ですが、それでもいつもリスペクトしてくださり、きちんと我々の考えを尊重してくれながらも助言をくださるので、暖かいですし、とても頼りになります。
また、採用も資金調達も色々なタイミングがあると思いますが、今の所それらのタイミングは外れていないなと思っています。いつやるべきかは将来のことなのでその時はわかりませんが、後から見れば最適な時期にやっているなと思いますね。
例えば億単位の融資を、まだ資金ショートしていない時期に受けていいのか?と疑心暗鬼になりながらAngel Bridgeと一緒にプロセスを進めましたが、当時融資を受けていたからこそ、コロナの後迅速に融資を受けることができたなと今振り返ってみて思います。
また、このステージだと出会えないようなスペックの経営人材を紹介してもらったりなど、予定より良い方向に前倒しにしてもらっていますね。

シリーズBの資金調達にあたり、Angel Bridgeからどういった支援を受けましたか?

桜庭:ステージごとにコンタクトすべきVCや順番があると思うのですが、それらも教えてもらわないとわからなかったですし、誰がリードをとるのかなども、大事なことですが我々は何も知らない中でAngel Bridgeから教えてもらっていました。
また当時は焦ってしまう時期もありましたが、焦らずいろんな人の話を聞けばいいんだよと力づけてもらいました。助言がなければ間違った道に行っていたかもしれませんし、本当に心強かったですね。

河西:こう振り返ってみると、結構一緒に歩んできた感はありますよね(笑)。

Varinosを日本一の遺伝子検査会社に

Varinosを日本一の遺伝子検査会社に

桜庭さんはVarinosをどんな会社にしていきたいですか?

桜庭:最初はM&Aを目指していたのですが、今はIPOを目指す意思決定をしています。
我々の起業当初の目的はゲノム検査を日本に根付かせることでしたが、M&Aなら外資に買われる可能性が高く、ということは日本でこの事業をやりたいという目的とずれてしまう。それならばIPOを目指すしかないよね、というのがここ最近の結論です。
また、IPOをするからには日本で一番の遺伝子検査会社になりたいと思っており、「遺伝子検査といえばVarinosだよね」と言われるようになりたいです。
もちろん海外進出は展開が始まったばかりですが、子宮内フローラ検査だけ切り取って見るともう世界一ですし、グローバルでも日本の検査会社はVarinosだと言ってもらえるよう進化し続けたいと思います。

2021.03.01 TEAM

相手を応援したいという気持ちを大切に

相手を応援したいという気持ちを大切に
林さんは毎日どのようなタイムスケジュールで過ごしているのですか?

Angel Bridgeのパートナーとして、既存投資先への支援、ソーシング活動など、ベンチャーキャピタリストとしての業務を行なっています。

こういったコロナ感染拡大の時期では、直接会うことが叶わない状況がありますよね。

そうですね。以前のように直接会うことは叶わないことが多いですが、ITの恩恵を受けて、いつにも増してたくさんの起業を目指す人たちと会うことができています。

Angel Bridgeが設立されたのは2015年ですが、それ以前は何をされていたのですか?

食品関連の上場企業で取締役を務めたり、エミアル株式会社(emiall)という会社を立ち上げ、個人でいくつかのベンチャー企業にエンジェル投資家として投資を行なっていました。
いつもみんなで笑っているというのが私の究極の目的でして、いつも笑ってニコニコしていようねという意味でこの社名をつけました(笑)。

当時はどういった軸で投資をされていたのですか?

北海道から不退転の決意できた起業家、「人を支える人(介護)」を支える起業家、など、一生懸命事業に打ち込んでいる方に投資をしていました。自分自身が応援したいという気持ちを一番大事にしていましたね。

その中でもRettyは最近上場されたと思いますが、どういった経緯で投資されたのですか?

創業者のお二人にお会いした時に、とても誠実な方々だなと思いました。他にも大手の競合があった中で新しいグルメサイトを作るという強い信念を感じ、すぐに投資を決めました。 誠実で信念を持っている方を応援したいなと、やはりその頃から思っていましたね。2020年の上場を受けて、社会の規範となる経営者、素養のある事業体だなと改めて思いました。そういった想いを私の中に築き上げたのは、大学卒業後20年にわたって勤め上げた、伊藤忠商事での経験だと思っています。

伊藤忠に入社されてからはどういったお仕事をされていたのですか?

鉄鋼貿易部門という部署に所属し日本で4年目を終えた時に、ドイツでの海外駐在の話をいただきました。ドイツではかれこれ9年間働き、鉄鋼貿易、製造業設立・稼働、現地企業買収など様々な業務をやりました。
その後一度日本に戻りましたが、帰国してすぐにまたアメリカに異動届を出しました。やはり海外にいると自分の意思決定の幅が広くとても楽しいので、すぐ戻りたくなってしまって(笑)。
アメリカにいる間にはシカゴ支店長を務めました。とてもダイナミズムのある仕事ができ、かけがえのない経験でした。また、アメリカにいる間に働きながらKellogg経営大学院でMBAも取得しました。考えるより行動するタイプなのであまり深く考えずにMBAに行くことを決めたのですが(笑)、様々な職種や立場の人と関わりを持てたのはとても良い経験でしたね。
私の人生で一番良かった職業の選択は伊藤忠商事に入社したこと、そして二番目に良かった選択は伊藤忠商事を辞めたことだと思っています。こういった非常に躍動感のある事業に参画できているのは、行動力と幅広い視野が求められる伊藤忠での経験があったからこそであり、一方で伊藤忠を辞めたからこそ現在投資に全ての情熱を注げているのだろうなと感じています。

そういった林さんの情熱の根源はどこにあるのですか?

胆力や諦めない心、限界を超えられない自分を直視する厳しさを教えてくれたのは、ハンドボールでした。
中学までは野球をやっていましたが、高校からはハンドボールを始め、大学時代は朝から晩までハンドボールしかない生活でした。相手チームにはオリンピック代表選手も多く、とてもハードワークでしたね(笑)。
試合に出て勝つという喜びや、他のメンバーと気持ちを共有する感動が何ごとにも変えがたく、心身ともに競技に魅了され、時間を費やしていました。

起業家自身が持っている物語を大事にしたい

起業家自身が持っている物語を大事にしたい
なぜ個人で投資を続けるのではなく、VCを創業するという道を選んだのですか?

個人で投資をする際はすべて私の自己責任で行うことができますが、VCの場合は受託者の責任があり、これが自分の規律や行動にも大変強く影響するので、さらに強く責任を全うすることに繋がると思いました。
元々起業家を全力で応援したいという気持ちはずっとありましたが、個人では資力に欠けることを感じる場面も何度かあり、他の方と一緒に投資をするという取り組みの中で河西さんに出会いました。その中で河西さんの知見を元にしたさらに大きな取り組みに賛同し、Angel Bridgeに参画することを決めました。

なぜ河西さんと創業することを決めたのですか?

先ほどの起業家を応援するという話にも繋がりますが、河西さんご自身が非常に誠実で強い信念をお持ちの方だと思っています。この仕事は一心同体で重要なことを決断しなければならないことが多いのですが、一片の迷いもなく共同の決断をできる方です。
また彼がベンチャーを全力で応援する姿勢も非常に素晴らしく、常に見習いたいと思っています。

林さんにとってAngel Bridgeでの仕事は、どのようなものでしょうか?

毎日の取り組みが非常に変化に富んで、刺激的なんですよ。社会や世界を変えていくような起業家の方々と交わることができる、非常に恵まれたポジションだなと思っています。こんなに楽しいことはないですね。
一番、苦手なのは資料を作ることです(笑)。以前、八尾さんのパワーポイントを私が加工して転用したら、「どこかで見た資料ですね」と八尾さんに言われてしまいました(笑)。

お話を聞いていると、林さんは人との繋がりにとてもご興味がありそうですね。

そうなんですよ。コロナ前は2ヶ月に1回の頻度で100人規模の「はやし会」というものを開催していました(笑)。
行動すると何かが広がるなという経験があり、こういった企画をすることでみなさんの中で何か新しいことが始まってくれたらいいなという思いでやっています。

どういう起業家に会った時、応援したいと感じますか?

非常に誠実で、そして自分の考え方を持っている人ですね。たとえば出光佐三氏の創業時から支援している日田重太郎という資産家がいて、その方が3つの条件を出光氏に提示しています。

「信念を曲げないこと、社員を大事にすること、そして自分の支援を他の人に伝えないこと」

我々も起業家を応援する際には、事業そのものはもちろんですが、この人であれば全力で応援したいなど、その人自身が持っている物語を大事にしたいと思っています。
例えば、なかなか投資が難しいと思っていた案件でも、起業家の方がとても熱心で、何度もプレゼンを重ねてくれ、私たちも非常に心を打たれ、投資を決めたベンチャーもありました。そういった経験から本当にたくさんのことを学んでいます。
特に私たちはバイオベンチャーにたくさんの投資をさせていただいていますが、人の人生、命、そして決して会うことのない世界の人たちの健康を願っている、大きなビジョン・使命に答えなければならないと、いつも河西さんと話しています。

起業家にチャレンジングで感動的な人生を

起業家にチャレンジングで感動的な人生を
Angel Bridgeで何を成し遂げたいですか?

Angel Bridgeが投資しているベンチャー企業が、Angel Bridgeとのお付き合いを通じて成長し、そして、それにかかわる全員が幸福で感動的な人生を送って欲しいと思っています。我々はそのような存在でありたいと思っています。
また、河西さんは日本を代表するキャピタリストになる、人格の上に成功される方だと思っているので、それを応援したいと思っています。

林さんが大切にされている信念についてお伺いしたいです。

私の人生哲学として、「人生一寸先は”バラ色”」という言葉があります。何かを途中で諦めたりせずに、形を変えてでも続ければバラ色の世界がきっと来るんですよ。
それが明日かもしれない。たった三年ですごく人の人生は変わるので、もし今日自分の人生がバラ色ではないとしても、努力すればきっとバラ色の人生がすぐ来る。そう信じています。


Angel Bridge 林にコンタクトしたい方はContactこちらからのお問い合わせ、もしくはID)); ?>”>Team に掲載しているSNSまでご連絡ください。

2021.02.01 TEAM

投資家として生きていくという決断

投資家として生きていくという決断
河西さんは毎日どのようなタイムスケジュールで過ごしているのですか?

ソーシング・バリューアップでだいたい半分ずつ時間を使っていますね。コロナ前は投資先に実際に伺ったり出張もしていたりしましたが、今はオンラインで行うことが多いです。

なぜ投資に興味を持つようになったのですか?

もともと両親と祖父が大学の教授でして、アカデミックな環境で育ちました。そのため小学生の頃はノーベル化学賞をとりたいと文集に書いていたほど、真理の探究であったり、物事を深くまで突き詰めたりする世界観が素晴らしいと思っていました。

そういった背景から、バイオテクノロジーで世の中を変えるような研究者になりたかったので、東京大学の農学系研究科に進学し稲の遺伝子組換えの研究をしていました。研究はすごく楽しかったのですが、そういったテクノロジーを世の中に広げること自体への興味が薄い人が多く、だんだん本当に研究者として自分が生きていくべきか、疑問を持つようになりました。

バイオ系のバックグラウンドですが、なぜ投資銀行に入社しようと思ったのですか?

仮説を立て、それを検証するというサイクルが好きだったので、プロフェッショナルファームのように仮説を死ぬほど深掘りして証明していくといったプロセスは、研究対象が稲から会社に変わっただけで思考プロセスは変わっておらず、自分にとても合っているなと思ったからです。

また、自分の本質的な価値をあげたかったので、ゴールドマンサックスのように手に職をつけてどんどんキャリアアップをしていく、組織に根付かない仕事に就きたいと考えていました。

ゴールドマンサックス入社後は、M&AアドバイザリーやIPO・資金調達の支援など様々な業務を経験しましたが、その中でもPEファンドとの仕事が一番面白かったですね。ある会社のある事業部門を買収するべきか、いくらで買うか、といった事をとことん考えるのが好きでした。

なぜその後すぐPE(バイアウトファンド)に転職しようと思ったのですか?

投資銀行はアドバイザーであり意思決定者ではないため、会社を買収するべきか等をとことん突き詰めるPEの方が自分に合っているなと思ったからです。

ゴールドマンサックスで働いていた頃のM&A案件の買い手がベインキャピタルだったので声をかけていただき、入社を決めました。当時はちょうど日本オフィスを開設している段階で7番目のメンバーでしたね。

シカゴ大学MBAに在学中はどのような時間を過ごしたのですか?

もともと学際肌なので、一度海外で勉強したいと思い、金融に強いシカゴ大学のMBAに進学しました。実際行ってみると結構暇でしたので(笑)、自分としての生き方をずっと考えたり、自分が普段どんな点を見て目利きしているのか、どういった会社がいい会社だと考えているかを整理したりすることに時間を費やしていました。

それまでのキャリアを通してずっと投資が楽しいと思っていたので、今後も投資家として生きていこう、そしていつか自分のファンドを作ろうと考えるようになりました。自分の人生と向き合うことができた、非常に貴重な時間だったと思います。

修了後は、PEでの仕事がやはり好きだったのでPEに戻ろうと思いました。江原さんというユニゾンキャピタルの創業者の方がシカゴ大学のMBA出身で、非常に魅力的な方だったのでぜひ一緒に働きたいと思い、ユニゾンキャピタルに入社し4年ほど働きました。

そのような河西さんの経験を通して、現在のAngel Bridgeでの取り組みに生きていることは何でしょうか?

PEのバリューアップをスタンダードにベンチャー企業の支援をすることは、非常に価値があると思っています。

というのも、PEは100%投資先のオーナーであり、かなり会社のバリューアップに時間を割くので、その経験は現在に直接生きており、我々ほど事業に入り込んで、価値向上に命をかけてやる人はなかなかいないのではないでしょうか。

また、PE・上場株投資を経て、VCも経験すると、エクイティ系は全部経験しており企業の成功例や失敗例をたくさん見て来ているので、ステージは違えど目利き力に深みが増すと思っています。そのため、例えその事業が一切周りから評価されていなくても、Angel Bridgeではその事業が良いと思えれば投資できます。

ここまでアクティブなキャリアを歩むことになった、河西さんの情熱の源はどこにあるのでしょうか?

日本に価値貢献をしたいという想いが私の根源にあり、優秀な人ほど日本のために働かないといけないと常に感じています。

優秀な人ほどリスクをとってチャレンジしていくべきだという想いが、こういったキャリアを歩むことに繋がっていると思いますね。

自分の気持ちを100%込めたファンドで勝負したい

自分の気持ちを100%込めたファンドで勝負したい
なぜそれまでのキャリアから一転してVCをやろうと思ったのですか?

PEの仕事は面白いのですが、ある程度出来上がった会社を100から200、場合によっては300にバリューアップするような案件が多いです。

しかし、今の日本においてはそういったバリューアップではなく、ゼロイチをたくさん起こし、未来の日本を作るようなベンチャーを創っていくことこそが必要とされているのではないかと思うようになったからです。

VCを河西さん自身が実際に創業しようと思ったのはなぜですか?

自分の気持ちを100%込めたファンドで勝負したい、テクノロジーで大きな社会課題を解決したいと思ったからです。

創業する前からずっと、大学に眠る技術を切り出してしっかり目利きし、大学の先生と力を合わせて事業化したいという気持ちがありました。日本の大学にはいろんな技術シーズが眠っていますが、ビジネス化に至ることは非常に少ない事を痛感していたからです。

私には今までの経歴からバイオテックの肌感があるので、大学系ベンチャーにリスクマネーを入れ、ハンズオン支援をすることでこれを達成できると思いました。

また現在は大学発ベンチャーだけでなくITベンチャーへの投資も積極的にしております。こういった活動も、大きな社会的課題を解決したいという想いから行なっています。優秀でやる気のある経営チームがリスクを取って新しいものを生み出していこうとする活動こそが今の日本にとって必要であり結果的にGDPへの貢献につながると思っています。

LP投資家はどのような方々なのでしょうか?

創業当初は個人の富裕層からの資金で投資を行っていました。アーリーステージの投資はリスクが高く、グロースするまで時間がかかります。そういった背景から、シード投資の自由度には個人の富裕層の資金が一番フィットすると思ったからです。Angel Bridge自身も徐々にスケールする中で規模感を出すにはやはり機関投資家の資金が必要であると感じるようになり、今では機関投資家からの資金が中心となっております。

共同創業者の林さんとはどういった出会いだったのですか?

林さんは当時エンジェル投資家としてアーリーステージのベンチャーを支援しており、私と同じ目標を持っていたので是非一緒に創業しようということになりました。林さんは人のネットワークにとても長けており、私とタイプが違うので相互補完的に働くと思ったのです。

また林さんと一緒にいると純粋にとても楽しく、今後いろんな山あり谷ありがきっとあるけれども、林さんとなら乗り越えていけると感じました。

自分の気持ちを100%込めたファンドで勝負したい
”Angel Bridge”という社名にはどういった想いが込められているのですか?

エンジェル投資家と起業家の橋渡しをしたい、という思いからこの社名をつけました。

個人の富裕層からお金を預かり、命をかけている起業家に橋渡しをすることは、我々がしっかり事業を目利きすることによって、あるべきところに正しくお金をアロケーションするということであり、それだけでとても大きな価値が生まれると思っています。

またそれだけでなく、投資した資金を有効活用するように起業家と一緒になってバリューアップすることで、最適アロケーションのインパクトを増やせると思っています。

これにより大きな事業がたくさん生まれることは非常に社会的価値がありますし、パッションのある起業家の夢を、私たちは主役ではなくサポーターとして叶えてあげたいと、常に考えています。

河西さんは他にも投資に繋がるような活動をしているのでしょうか?

起業から上場まで経験した12人の東大出身の起業家の方々と、東大創業者の会というファンドを運営しています。東大出身の起業家が増えてきているので、アーリーステージの後輩を支援しようということでファンドを設立しました。現在は10社の東大発ベンチャーに出資・メンタリングを行なっています。

また金融開成会という、開成出身で金融業界に行った人が集まる会の幹事をやっています。マネックスの松本さんや、日銀、金融庁、外資系、ファンド出身者など800人ほどが所属しています。開成に新校舎を作るような真面目な事業の傍、夏に館山に行ってふんどしを巻いて泳いだり、砂浜で騎馬戦をしたり、といった中高生のようなことも未だにやっています(笑)。

“念ずれば花ひらく”、という精神を忘れずに

"念ずれば花ひらく"、という精神を忘れずに
Angel Bridgeの代表を続けるなかで、河西さんが感じている面白みは何ですか?

起業家の方が成長していくのを一緒に見るのが非常に楽しいですね。またそれと同時に、Heartseedのように研究者の方がだんだん夢を叶えて大きくなっていくのを見届けること、そして事業が大きくなっていくのを隣でファンとして見るのも、本当にやりがいがありますね。

今後Angel Bridgeを通して河西さんが成し遂げたい夢はありますか?

投資を通じて日本を豊かにしたい。そのために、独自のテクノロジーで大きな社会課題を解決していくようなユニコーン企業を生み出していきたいですし、そういったパッションのある起業家をこれからも支援したいと思っています。

Angel Bridgeとしては、さらに多くの人を支援し、インパクトを上げるためにファンドサイズは上げていきたいと考えています。

また今後八尾のようなキャピタリストを育て、色々なところでAngel Bridge流のバリューアップが起こると世の中により多くの正のインパクトを出せると考えているので、キャピタリスト育成にも力を入れていきたいです。

河西さんが大切にされている信念についてお伺いしたいです。

私の人生哲学として、「念ずれば花ひらく」という言葉があります。

誰よりも強く念じ、毎日寝る間も惜しんでどうすれば夢が叶えられるかを強く考える。そうすると何かが見えてくるし、やりきるために努力を続けることは馬鹿にならない。

日本再興の切り札はスタートアップにあると私は考えているので、そう思っている起業家の方々を、念ずれば花ひらく精神で支援していきたいと思っています。


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