Returnly
COLUMN

Angel Bridge USベンチャー研究#5(Returnly)

EC事業者に対して返品効率化SaaSを提供する「Returnly」の事例

2022.03.11

こんにちは! Angel Bridgeインターンの山田と申します。
前回はアメリカのEC領域特化SaaS紹介の第1弾として延長保証をAPIで提供するExtendについて紹介しました。
今回は第2弾として、EC事業者に対して返品効率化SaaSを提供するReturnlyを紹介します。

EC事業者に対して返品効率化SaaSを提供する「Returnly」の事例 参考:EC×APIサービスの全体像

Returnly概要

Returnlyは2014年にEduardo Vilarによって設立されました。2020年までに3回の資金調達を行なっており、合計調達額は$30Mです。

そして、2021年4月にBNPLのトップ企業であるAffirmによって$300Mで買収されました。

Returnlyの最大の特徴は、返品が完了する前に顧客にストアクレジット(購入ECサイトでのみ使えるポイント)を前払いで提供し、同時に類似商品のレコメンドをすることで、返品を介してEC事業者に追加の収益をもたらすことができる点です。

Returnly概要

続いてReturnlyのビジネスモデルについて説明します。

Returnlyは配送業者と提携し、消費者からの返品申請を処理するプラットフォームをAPIとしてEC事業者に提供します。

Returnly概要

マネタイズはAPIの使用料と、返品される商品の金額に応じた手数料で行なっています。

補足として、消費者がストアクレジットを用いて商品を購入した場合はReturnlyがストアクレジット分の代金をEC事業者に支払います。ストアクレジットを超える分の代金は消費者が支払う必要があります。

返品が注目される背景

①アメリカの返品率の高さ
Forbesの調査によれば、アメリカのEC小売業の返品率は25- 40%が標準となっており2020年の返品額は$500B(約60兆円)に上ると言われています。
日本の平均返品率は5%程度なので、その分アメリカ企業では返品の業務負担が大きくなっており効率化が求められています。
※Forbes「Many Unhappy Returns: E-commerce’s Achilles Heel」より
②LTV・CVR向上のための施策としての返品
アメリカにおいて顧客は頻繁に返品を行うため、快適な返品体験を顧客に提供することができればLTV向上につながります。
また、フェデックスの調査では返送料無料の返品を実施することでECサイトのCVRが平均1%向上するという結果も出ています。
これらの事実より、返品をECにおけるCVR・LTV向上のための施策と捉える企業が増加しています。

解決しているペイン

①EC事業者側のペイン
返品業務は工数が多く、返品完了までに多くの時間・人手がかかってしまいます。
EC事業者側のペイン
②消費者のペイン
上記の返品業務の手間によって、消費者が商品を返品してから商品の代金が支払われるまでに最大で2~3週間もかかってしまいます。

サービス内容

上記の返品業務にまつわる問題を解決し、顧客に快適な返品体験を提供するためにReturnlyは以下のようなサービスを提供しています。

<事業者に対する機能>

先程紹介した返品業務フローのうちReturnlyが効率化する部分は以下のようになります。

サービス内容

以下それぞれの機能を詳しく見ていきます。

A. 返品申請の自動処理
従来はカスタマーサポート部門が顧客から送られてくる返品申請のフォームと自社の返品ポリシーとを照らし合わせ、返品申請を許可または却下するかを決めていました。
しかし、Returnlyは顧客からの返品申請を自動で処理することができるので業務を大きく減らすことができます。
B. 在庫管理(検品・再販以外)
EC事業者の倉庫のデータベースとReturnlyを連携することで、Returnlyを用いて返品された商品のIDや配送ステータス、検品結果などをReturnly上で一括管理することが可能です。尚、返品された商品の検品や再販などはEC事業者側で行う必要があります。
C. 返金の自動処理
返品申請が承認されるとReturnlyが消費者にストアクレジットを付与してくれるため、返金業務の負担が無くなります。

<消費者に対する機能>

①スムーズな返品申請
消費者はECサイト上に埋め込まれたReturnlyの返品ページから返品申請を行うことが可
能です。過去の購入履歴から商品を選択し、返品理由や商品の状態などいくつかの項目を
記載するだけですぐに完了します。
スムーズな返品申請
参考:返品理由を選ぶ画面
②ストアクレジットの即時付与
返品が承認された場合、返品した商品の代金分のストアクレジットが即座に付与されます。ちなみに、返品申請から承認・ストアクレジット付与までは最短24時間以内に完了します。
そして、消費者はストアクレジットを使用してすぐに新しい商品を買うことが可能です。
スムーズな返品申請
参考:返品承認と同時にストアクレジットで新しい商品を注文する場面
③返品・購入した商品の追跡
返品申請が許可されると、Returnlyと提携している配送業社をECサイト内で手配することが可能です。そして、返品した商品及び上記のストアクレジットで購入した商品の配送状況をECサイト内で確認することもできます。

トラクション

2019年時点でのReturnlyの発表によれば、消費者の90%がストアクレジットを受け取った際に同じECサイトで新しい商品を購入しており、購入した商品の金額は返品した商品の金額に比べて23%ほど高い傾向があったとのことです。

また、提携ブランドはD2Cブランドが中心で200社以上と提携しています。

トラクション 参考:代表的な提携ブランド

API接続できるECプラットフォームはShopifyのみで、その他複数の運送会社や3PL(サードパーティー・ロジスティクス)企業と提携して配送の効率化を実現しています。

トラクション 参考:提携運送会社
トラクション 提携3PL企業
荷主企業や運送会社に代わって効率的な物流戦略や物流システムの構築などを提案し、荷主企業のロジスティクス全体を包括的に請け負う企業のこと

日本市場

日本でのECにおける返品率は5%程度でアメリカの25~45%に比べてかなり低くなっています。この数字の低さは日本人の性質というよりも、返品ポリシーが厳しい企業や、そもそもECで購入した商品の返品を受けつけていない企業が多いためだと思われます。

しかし、2016年からAmazonが出品者に対して返品無料を義務付けていることや、ZARAをはじめ返品無料ポリシーを掲げている海外企業が日本に進出していることから、国内企業でも返品を無料化し、快適な返品体験を顧客に提供することでCVR・LTV向上につなげる動きが生まれつつあります。

そうした背景から、日本でも既に数社が返品効率化SaaSを提供しており、今後更に返品領域は盛り上がっていくのではないかと考えられます。

おわりに

今回はEC領域特化SaaS紹介の第二弾として返品効率化SaaSを手がけるReturnlyを紹介しました。返品を効率化することで顧客のLTV向上を目指すことはもちろん、返品完了前に返金を行うことで、返品を通じて追加の収益を発生させることのできる面白いビジネスモデルだと思いました。また、Returnly自身は返品された商品の検品や再販の効率化は行いませんが、Optoroという企業と提携することで検品や再販の効率化も行っています。

ここで登場したOptoroは、返品された商品の在庫管理から再販まで全てを行う、ネクストユニコーンと称される注目企業です。次回の記事はOptoroについて紹介したいと思います。

最後になりましたが、Angel BridgeはCVR・LTV向上を目的としたEC周辺サービスにも積極的に投資しています。事業の壁打ちや資金調達のご相談など、お気軽にご連絡ください!

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