業界研究#1
COLUMN

Angel Bridge業界研究#1(株式会社カナリー)

なぜ不動産テック領域が今アツいのか?VCから見た視点

2021.03.14

八尾凌介 Angel Bridgeアソシエイト
  • マッキンゼー・アンド・カンパニーにてSales&Marketingの観点から消費材・物流・製薬などのプロジェクトに関わり、2020年にAngel Bridge入社。 東京大学大学院工学系研究科修士修了。

こんにちは、Angel Bridgeの八尾です。「不動産テック」というワード、最近ニュースやメディアで目にすることも多いのではないでしょうか。

引越しの際などに実際に不動産情報サイトで家探しをしたことがある方も多いと思いますが、実際住む家を決めるとなると、ネットの情報だけではなかなか物件の様子が分からなかったり、おとり物件に惑わされたりなど、苦労した経験もあると思います。このように、不動産業界にはまだまだ課題が多いのが現状です。

そこで今注目されているのが“不動産×テクノロジー”の「不動産テック」という分野です。Angel Bridgeも不動産テック領域の株式会社カナリーに2020年に出資し、ハンズオン支援を行なっています。

私たちがなぜカナリーに投資したのか、その背景をこの記事ではお話ししていきます。

不動産テックがなぜ今アツいのか?

不動産テック(Prop Tech、Real Estate Techとも呼ぶ)は、不動産テック協会の定義から、「不動産×テクノロジーの略であり、テクノロジーの力によって、不動産に関わる業界課題や従来の商習慣を変えようとする価値や仕組みのこと」だと解釈できます。

Angel Bridgeがこの不動産テックに注目している理由は3つあります。それは、市場規模が大きいこと、ペインが深いこと、そしてそれを解決する難度が高いことです。

不動産業界の市場が大きいことは自明でしょう。それにも関わらず旧態依然としている部分がまだ多くあり、ユーザーにとっても企業側にとってもペインの多い構造となっています。背景には昔ながらの業界慣習が根強く残っていることもあり、各ステークホルダーとうまく関係を作っていかないと新規参入プレーヤーが冷遇されるような難しい環境でもあります。

Angel Bridgeは、社会に大きなインパクトをもたらすために、あえて難しいことに挑戦していくベンチャーこそ応援しがいがあると考えており、こういった領域に果敢に取り組むベンチャーを応援したいと考えています。

不動産賃貸業界のステークホルダー

不動産テックと一言で言っても領域がかなり幅広いので、今回は不動産テックの中でも賃貸業界に絞って解像度を上げてみます。

不動産賃貸業界には、①物件オーナー ②管理会社 ③仲介会社 ④プラットフォーマーなどの多くのステークホルダーが存在しており、その中でもプラットフォーマーの収益性は高く、スケールするスピードが速いことが特徴です(図1)。

不動産賃貸業界のステークホルダー

既にSUUMOをはじめ、いくつかのプラットフォーマーが存在しており、ユーザーと仲介会社をつなげることで急激に成長してきました(図2)。

不動産業界マップ

プラットフォーマー市場では圧倒的にSUUMOがリードしていますが、スモッカなど後発でも急速に成長しているサービスが存在し、新サービスが一定のシェアを獲得する余地はあると考えられます。

既存プラットフォームのペイン

市場からの評価も高い既存プラットフォーマーですが、実はまだまだたくさんのペインが存在しています。

利用ユーザー視点

利用ユーザー視点では、掲載物件の約半数を占めるおとり物件や、複数の仲介会社との必要以上のやり取りの手間によりユーザー体験は下がっています。これらは一度は体験したことのある方が多いのではないでしょうか(図3)。

既存プラットフォームのペイン 利用ユーザー視点
仲介会社視点

また、これらは仲介会社にとっても非効率な部分が多く、入稿作業による長時間労働や反響取り合いによる低成約率など、労働環境の悪化や低収益化につながっています。

既存サービスとカナリーのビジネスモデルの違い

ここで、Angel Bridgeの投資先であるカナリーが提供するプラットフォーム「CANARY」のビジネスモデルを説明します。

従来のプラットフォーマーはリアルな機能を持たず、ユーザーと不動産仲介会社をつなぐ広告型のビジネスモデルです。このモデルはインターネット上で完結できるためインターネット創世期に立ち上がり一気に事業拡大しました。一方でカナリーのモデルは、プラットフォーマーがリアルと一体となって、ユーザーと不動産物件を直接つなぐビジネスモデルです(図4)。このモデルはリアルの立ち上げが必要な分、事業の拡大には時間がかかります。ただし、一度このモデルを築き上げれば高いサービスレベルが強固な競争優位性を生みます。

CANARYのビジネスモデル

この違いはわかりやすく例えると、楽天とAmazonに似ています。

楽天は在庫を保有せずメーカーや小売業者に出店場所を提供しているだけですが、Amazonは自身が在庫や物流機能を保有し、販売しています。短期勝負なら一気に出品数を増やすことができ、物流等のオペレーションも担わない楽天のような広告型モデルが強いですが、長期目線ではAmazonモデルの方が提供価値が高いと考えています。

SUUMOは楽天のように多数の不動産仲介会社の物件情報を掲載しています。一方でCANARYはAmazonモデルに近く、BluAgeがデータベースを一元管理しユーザーと物件を直接つなぐビジネスモデルです。これにより効率的で質の高いサービスを実現し、前述したようなユーザーと仲介両者のペインを解消しています(図5)。

テクノロジーとリアルの融合モデル

このように、SUUMOとCANARYのビジネスモデルには楽天とAmazonのような大きい違いがあり、後発であっても十分勝てる余地があると考えました。

VCとして投資するにあたり検討したポイント

Angel BridgeがカナリーにVCとして投資するにあたり、事業・経営陣・バリュエーションの主に3点を検討しました。

事業に関しては、上述のようなビジネスモデルの違いからペインが解消されることの仮説があったので、このモデルが成立するのかどうかという点で検証を行いました。大手プラットフォーマーとの登録物件数の比較や、提携不動産会社の方へのヒアリングを行い各ステークホルダーに受け入れられるビジネスモデルだと判断しました。

また、特にアーリーステージにおいて経営陣は重要です。度重なる困難に素早く打ち勝つだけの地頭の良さ、やり切る力(パッション)、優秀なメンバーを組織できる人間性が必要だと思っています。社長との面談はもちろんですが、共同創業者、本社の主要メンバー、既存投資家とも一人一人面談を行い検証しました。最後にバリュエーションの妥当性についての検証ですが、実際のトラクションに基づいたボトムアップアプローチと、上場時の時価総額から期待リターンを逆算して考えるトップダウンアプローチの両面で考えました。

おわりに

不動産テック業界は注目され続けており、上場しているGA technologiesやSREホールディングスも急速に事業拡大し売上高を伸ばしています。IT重説(*1)は既に容認されており、電子契約も徐々に認められる流れにあります。テクノロジーの活用余地は今後さらに広がっていくと考えています。

また不動産テック以外の業界においても、テクノロジーとリアルを融合したモデルが時間をかけて競合優位性を築いています。インターネット創世期に大きくなったサービス領域は、そこに大きな市場があることが明確でありペインが潜んでいることが多いです。SUUMOに代表されるように、リクルートが昔から取り組む領域にはチャンスがあるのではないでしょうか。テクノロジーとリアルの融合により旧型のIT巨人を打ち崩していくことは非常に面白いチャレンジだと思っています。

繰り返しになりますが、Angel Bridgeは社会に大きなインパクトをもたらすために、あえて難しいことに挑戦していくベンチャーこそ応援しがいがあると考えており、こういった領域に果敢に取り組むベンチャーを応援したいと考えています。事業の壁打ちや資金調達のご相談など、お気軽にFacebook、TwitterでDMください!良ければフォローもよろしくお願いいたします!

Angel Bridge 八尾にコンタクトしたい方はプロフィールに掲載しているSNSまでご連絡ください。

(*1) IT重説とは、テレビ会議などのITを活用して行う、賃貸借契約における重要事項説明。

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