「Angel Bridge投資の舞台裏#1」ではVCが投資判断をするにあたって検討する点についてミツモアを例に紹介しましたが、今回はSmartRydeを例にとって解説したいと思います。
「Angel Bridge投資の舞台裏#1」
SmartRydeは空港とホテルを結ぶハイヤーサービスの予約プラットフォームを運営しています。Angel Bridgeは2019年10月にSmartRydeに投資していますが、その後新型コロナウイルスの影響を受けグローバル全体で観光業が落ち込み、SmartRydeも大打撃を受けました。しかし、アメリカの一部地域では往来が自由になったり、ワクチン接種の普及により観光が回復している国が増えてきたことから、SmartRydeの売上も順調に回復してきています。
それでは、今回はAngel BridgeがSmartRydeに投資する前にどのような点を検討したかについて説明します。
まずSmartRydeのサービス内容について説明します。
海外旅行で見知らぬ空港に着いてまずホテルまで行くとき、どこにバスや電車の乗り場があるかわからない、といった経験をされたことのある方は多いのではないでしょうか。バスや電車の次に選択肢となるのはタクシーですが、料金を多く請求されたり、あまり言葉が通じないといったこともありますし、そもそも夜ならタクシーが空港にいないかもしれないという不安があります。そのためホテルを予約したときにハイヤーサービスを予約したいという人は一定数いるでしょう。これは家族旅行だけでなく、ビジネストリップでも需要があります。
SmartRydeでは、こういった空港送迎のハイヤーサービスを簡単に予約できるプラットフォームを運営しています。OTA (Online Travel Agency) で航空券とホテルを予約すると、最後にポップアップとしてハイヤーサービスがレコメンドされ、SmartRydeのハイヤーサービスを予約できるのです。
また、マーケットプレイスとしてはハイヤーのユーザー以外にも、OTA (Online Travel Agency) ・タクシー/ハイヤー事業者それぞれに関しても以下のようなペインを解消することが可能です。
ビジネスモデルは以下の図の通りです。SmartRydeが間に立ち、OTAとハイヤー会社をマッチングしています。売上の70%をハイヤー会社、残りの15%ずつをOTAと 、SmartRydeが収入として得ています。
実はSmartRydeは少し変わったタイプのプラットフォーマーです。典型的なのはTo Cのユーザーと何かを繋ぐプラットフォームですが、SmartRydeはユーザーではなくOTAとハイヤー会社をマッチングします。いずれにしてもプラットフォーマーがマッチングする双方を多数囲い込んでいれば、参入障壁が高くなります。
SmartRydeはCtrip (中国最大のOTA)、Expedia、booking.comなどのグローバルでトップ3に入るOTAを含め、かなりの数のOTAと既に繋がっており、それによりかなりの流入数を獲得しています。また、ハイヤー会社650社と契約しており、さらに現在は世界中で700以上の空港をカバーしています。いわゆるC to Cよりはネットワークエフェクトは弱くなりますが、それでもこれだけのプレイヤーを巻き込めていることで、同様のプラットフォームの他社による再現性は低いと考えています。
SmartRydeは既にグローバルなベンチャーです。従業員の半分以上が海外国籍ですし、全体の75%は海外の利用者であり、特に東アジアへの旅行者にリーチできています。利用都市はタイ・バンコクが一番多く、傾向としては特にホノルルやカンクンなどのリゾート地でのニーズが高くなっています。日本発でここまで海外進出しているベンチャーはなかなかいないのではないでしょうか。
次にSmartRydeの競合についてです。
まずライドシェアとの違いについてですが、Uberのようなライドシェアサービスを使いこなせるようなユーザーはSmartRydeのコアターゲットではないと考えています。例えば日本からアメリカやタイに行くような、現地のライドシェアアプリをダウンロードしていないため事前にハイヤーを予約しておきたいという層がSmartRydeのターゲットとなります。また、そもそもハイヤーとライドシェアでは以下のように利用できる空港周りのエリアや、利用するシチュエーションに違いがあるため、直接的な競合ではないでしょう。
他にも中国や欧州などにハイヤー予約サービスは存在しますが、現地限定で展開しており、SmartRydeのように世界横断でサービス提供できているプレイヤーはいません。
旅行のモビリティ領域には、主に中国市場で展開している皇包車などの企業群、欧州市場で展開しているBlacklane、Talixo等が挙げられますが、SmartRydeは移動コンテンツ拡充/事業者向けプロダクトを強化して競合との差別化を図っています。
Angel BridgeがSmartRydeに投資するにあたり、経営する皆様への理解を深めました。
まず代表の木村氏は立命館大学卒の学生起業家で、学生時代にSmartRydeを立ち上げています。木村氏はサッカーで全国高校サッカー選手権メンバー入りで達成しており、やり切り力や根性の強さ、フットワークの軽さがかなりある方だと感じました。実際にこれだけの数のOTAを巻き込めたのも、木村氏の胆力と行動力故でしょう。
またCOOの朝川氏は25年以上の旅行業界経験を持つこの分野のプロフェッショナルで、ハイヤー会社に強いネットワークがあり、オペレーションをよく理解していました。
このような旅行業界に長いネットワークのある人と、強いやり切り力のある起業家という稀有なコンビネーションは相互補完性があり非常に価値が高いと感じました。
最後に、SmartRydeのビジネスのアップサイドについて我々が想定していることについてお話しします。
このハイヤービジネスが進んでいくと、空港からホテルまでのトラフィックをある程度獲得することができます。つまり、その区間の走行データが蓄積されていくのです。そういったデータは自動運転プレイヤーにとって非常に魅力的に映るでしょう。
また自動運転を最初に導入する際に、いきなり都市圏のあちこちで導入するよりまず空港からホテルまでの決まった区間で運用してみようという話は出てくるはずです。実際にアメリカでも最初はエリアを決めて自動運転が導入されています。このような自動運転の流れから見ても、SmartRydeはとても戦略的価値のある存在になるのではないかというアップサイドを見込んでいます。
例えば米グーグルの親会社アルファベットの自動運転車部門ウェイモは、自動運転による配車サービス「Waymo One」をアリゾナ州フェニックスで数年前から提供開始しておりますし、ウォルトマートやショッピングモール運営のDDRと連携し、自動運転ミニバンで両社の店舗に顧客を送迎する試験サービスも開始しています。このように将来的にSmartRydeが自動運転技術やAI技術を保有するプレーヤーと協業し、将来的に大きな価値を生む可能性は大いにあると考えています。
また、ソフトバンクやトヨタのような大企業が近年多数のライドシェアに投資しているように、将来的にはSmartRydeが大企業からの出資をいただき、日本発のグローバルなハイヤーサービスプラットフォームベンチャーとして成長していく可能性もあると考えています。実際に中国のハイヤービジネスを行うベンチャーもセコイアから投資してもらうというような流れも起こっているので、この実現可能性を追求していきたいと思っております。
このように、SmartRydeにはメガベンチャーになる可能性が十分にあると考え投資をしました。日本発で海外まで攻めていけるようなベンチャーを今後もAngel Bridgeとして支援していきたいと考えています。
繰り返しになりますが、Angel Bridgeは社会に大きなインパクトをもたらすために、あえて難しいことに挑戦していくベンチャーこそ応援しがいがあると考えており、こういった領域に果敢に取り組むベンチャーを応援したいと考えています。事業の壁打ちや資金調達のご相談など、お気軽にご連絡ください!