BluAge
INTERVIEW

巨大プラットフォーマーに挑む(株式会社カナリー)

[BluAge代表佐々木 × Angel Bridge河西]

2021.06.09

2020年にシリーズAの資金調達を実施して以来、順調にユーザー数を伸ばしている株式会社BluAge。賃貸及び売買物件を掲載するアプリ「CANARY(カナリー)」を運営しながら、不動産仲介会社向けにSaaSのプロダクトも提供しています。
巨大な競合がいる不動産業界になぜ足を踏み入れたのか、どのように困難を乗り越えてきたのか、そしてBluAgeの目指す世界について、BluAge代表取締役CEOの佐々木氏とAngel Bridge 代表パートナーの河西に聞きました。
佐々木拓輝 株式会社BluAge 代表取締役
  • 東京大学経済学部卒業後、メリルリンチ投資銀行部門にて、国内外のM&Aや資金調達に従事。 その後ボストンコンサルティンググループを経て、2018年4月に株式会社BluAgeを設立。
河西佑太郎 Angel Bridge株式会社 代表パートナー
  • ゴールドマン・サックス証券投資銀行部門、ベインキャピタル、ユニゾン・キャピタルを経て2015年Angel Bridgeを設立し、現在に至る。東京大学大学院農学系研究科修士修了(遺伝子工学)、シカゴ大学MBA修了。

部屋探しをワクワクする体験にしたい

カナリーはどのような事業を行っているのですか?

佐々木:不動産領域のDXに取り組んでいます。具体的には賃貸及び売買物件を掲載しているCANARY(カナリー)という部屋探しアプリを運営しながら、不動産仲介会社向けにSaaSのプロダクトも提供しています。
部屋探しをワクワクする体験にしたいという想いから、UXをとにかく追及するようにしています。またそのために不動産業務のDXにも進出し、最終的にユーザーの体験を良くしたいと考えています。

お部屋探しといえばSUUMO(スーモ)のようなサービスが強いですが、CANARYは何が違うのでしょうか?

佐々木:他の部屋探しプラットフォームでは仲介会社が広告として物件情報を載せているのですが、その過程でデータベースを手動で更新しているために情報が古かったり間違っていたりすることが多いんです。また、プラットフォームとしてもSEO強化のためにとにかく物件情報を増やすインセンティブがあり、おとり物件や重複物件などはなかなか削除されず、そのまま掲載されてしまっています。
カナリーは自社でデータベースの管理をしているので、鮮度の高い情報を参照することで最新の情報を掲載できているのが大きな違いになります。

佐々木さんはカナリーを起業するまでどのようなキャリアを歩んでいたのですか?

佐々木:東大の経済学部を卒業した後、ファイナンスに興味があったのでメリルリンチの投資銀行部門で国内外のM&Aや資金調達に2年ほど従事していました。その後ボストンコンサルティンググループに転職した後、起業しました。

なぜ起業しようと思ったのですか?

佐々木:大学の時からいずれ起業したいなと思っていましたし、ボストンコンサルティンググループで働いていた時にやっぱり何か大きいことを早く成し遂げたいと思い、そろそろ起業してもいいかなと思って大学のクラスが同じだったCTOの穐元と共同創業しました。

佐々木拓輝

そろそろ起業しても良いと思ったきっかけは何だったのですか?

佐々木:投資銀行とコンサルは業務の共通する部分もあり、ラーニングカーブがゆるやかになっていく中で、反比例して起業したい熱が高まっていたことが大きいかもしれません。また、まだまだ成長途中ではあったものの、起業してからの方が学ぶことも多いだろうと思い、起業を決めました。

なぜ不動産領域で起業しようと思ったのですか?

佐々木:最初から不動産領域で起業しようと思っていたわけではなく、いろんな事業を見てから決めようと思っていたのですが、調べていくうちに最初に見た不動産が一番面白そうだなと思ったんです。
私も引っ越しを何回か経験したなかで一人のユーザーとして不動産業界はペインが大きそうだなと思っていたので最初に業界を見始めたのですが、どんなマーケットか調べてみると市場規模はすごく大きいですし、なんとなく競合が強く競争が激しく感じますが、仲介会社のヒアリングをするうちに改善余地がたくさんあることが分かりました。競合は広告掲載モデルなので自社でデータを持つことはできず、カナリーが考えているようなビジネスモデルを取ることはできません。さらに今ユーザーのチャネルがwebからアプリに推移していることや、電子契約の解禁などといった法改正も後押しして仲介業務のアナログなオペレーションがデジタル化するという大きな変化が起き始めていたので、これはチャンスなのではと思い不動産業界に決めました。

巨大な競合に立ち向かう

事業を押し進めていく中で逆境はありましたか?

佐々木:営業組織を30人規模まで急速に拡大したときに、パフォーマンスのばらつきやモチベーション低下などの問題が起こりました。その際の営業側の組織改革にはかなり八尾さん(Angel Bridgeアソシエイト)に入ってもらいましたね。営業人員一人一人にヒアリングして何が課題かを見つけるというのは自分でやろうとするとどうしても手間がかかりますし、外部からどう見えるかは大事な視点なので、非常に助かりました。
その後のプロジェクトも一緒に進めていただき、営業の組織体制・昇進制度の改革やマインド作りを手伝ってもらうことでこの課題を解決できました。

カナリーがここまで到達できた秘訣は一言で何だと思いますか?

佐々木:振り返ってみると特別なことをやったというよりは、目の前のやるべきことを淡々とやってきたような気がします。振り返ると上手くいっていたというような感じですね。中長期的な目標は持ちつつも、目先のことをしっかりやる。初めて経験することばかりでしたが、ここについては順応性の高い性格がうまく寄与した気がします。

河西:私はカナリーがSaaSを始めた当初、プラットフォーマーとして賃貸仲介をまずものにしてからでないと、SaaSに手を出すべきではないと思っていました。でも話を聞くうちに、あえて早めにSaaSをやることで既存事業にもつながる部分があるということが分かり始め、佐々木さんはすごく全体が見えているなと思ったんです。
具体的に言うと、賃貸会社向けのSaaSはニーズがあるのでCANARYからの送客も含めて売り込んだら確実にはまるでしょうし、また管理会社のSaaSはCANARYが独自物件を手に入れるためにも必要で、それはまさにこの事業の本質であるCANARYのデータベースを強化することにも繋がります。ここがすごく考えられていて素晴らしいなと思ったんです。
でもこれは創業時に見えていたはずはなくて、事業をやりながら気づいたのだと思うのですが、どういったプロセスでここに行きついたのですか?

BluAge代表佐々木 x Angel Bridge河西

佐々木:視野としては、幅広く業界全体を見ることを意識していました。そして中長期的なあるべき姿を考えていくと、いろんな事業が絡み合って出る付加価値が非常にあるなと思ったんです。またデジタル化という文脈でも、今まで情報が分断されていたものを繋げて境界を無くすことで、競争力になります。
具体的に掘り下げていくと、仲介側へのSaaSは普及するでしょうし、そこに自分たちが進出したらどんな連携ができそうか、また管理側にも進出した時にどんな連携ができそうか、そういった思考実験をしていくとさらに繋がりが見えてきて、リソース的にはきついけれどもどういったタイムラインで進めるのがベストかを考えると、欲張りに早く進めていった方がいいなと思ったんです。

河西:佐々木さんはロジカルに積み上げていくだけでなく、動物的な勘もありますよね。

佐々木:日々の出来事からも発展させて、色々な可能性を考えるようにしています。また事業が順調であっても、危機感を持っていろんなシナリオを想定していますね。
そのせいか筋トレ中もあまり集中できず、ずっと仕事のことを考えているような節もあります(笑)。

佐々木拓輝

なぜAngel Bridgeから投資を受けようと思ったのですか?

佐々木:当初はメンバーのプロファイル的にいかついな、ゴリゴリだなと構えていました(笑)。最初にお話しした数日後にはもう業界に関するディープな質問をいただいて、議論もどんどん進んでいくのでかなりスピード感があるなという印象でした。
我々は会社としてスピード感をすごく大事にしているのですが、その後の意思決定もとても速くポジティブでした。議論の内容も非常に建設的で、様々なテーマにおけるベストプラクティスを知っていることも魅力に感じました。
ディナーもすごく盛り上がりましたね(笑)。会う前の印象よりも人間味がある方々で、投資先に対する支援の姿勢なども心強いなと思い、Angel Bridgeから出資を受けることを決めました。

なぜカナリーに投資しようと思ったのですか?

佐々木拓輝

河西:不動産業界にはSUUMOのような巨大なプラットフォーマーが存在していますが、広告掲載モデルの構造上、おとり物件や重複物件が多いというペインが生まれていました。これに対し、佐々木さんのようにやる気や基礎能力があり、決して叩いても倒れないようなメンツで立ち向かっていくというのが非常に面白いと思いましたね。巨大な競合に対しても、自社のデータベースを綺麗にして提供する、という広告掲載モデルと違う立ち位置でやれば、構造上ある一定のシェアが取れると思いました。
競合に完全に勝てるとは言い切れませんが、おとり物件がないほうがユーザーにとって絶対いいですし、自社でデータベースを持つことでサイトに自社で撮影した綺麗な写真を載せていくといったことは、競合はイノベーションのジレンマで絶対真似できません。こういったことを地道にやっていけば必ずや構造的に競合ができない差が生まれますし、確信を持って成功するなと思いました。
実際に売上は何倍にも成長して結果が出ているので、シリーズBもリードで出資しようと思いましたね。

新しいことを恐れない

河西さんから見て佐々木さんはどんな起業家だと思いますか?

河西:まず佐々木さんは、冷静に周りの人の声を聞いて柔軟に学習を進めることがうまいですよね。投資家に詰められても間をおいてしっかり考えて意思決定ができ、さらにそのジャッジが正しいという、社長として重要な点を抑えられているのが印象的でした。
また佐々木さんのしぶとさや生存力はデューデリジェンスの中でも見えていましたし、ある種の戦友として一緒に戦えると思いましたね。

後輩起業家に伝えたい、起業するにあたって気を付けるべきポイントはありますか?

佐々木:起業すると新しいことに毎日沢山直面します。例えば、私は営業の組織作りやプロダクト開発などの知識はありませんでしたし、やりながら学んでいったことが多いです。起業する時点でいかに物事を知っているかよりも、新しいことが起こったときにしっかり順応できるかどうかが大事だと思いました。

カナリーの事業を通して何を社会に届けたいですか?

佐々木:まずは不動産業界全体を変えるぐらいのインパクトを出したいですね。最近はto Bの業務にも深く入って動きだしていますし、不動産業界に関わる人すべての働き方を変えて、その先の結果としてユーザーのお部屋探し体験もワクワクするものに変わるような、そういった変化に主体的に関わっていきたいです。
また、もちろんベンチャー起業家として誇れるような巨大なIPOを目指したいと思っています。カナリーが会社として大きくなることが不動産業界全体のペインを解消することに繋がると思いますし、まずは目の前の事業から真面目に取り組んでいきたいです。
Angel Bridgeを代表する案件になれるよう頑張ります!

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