INTERVIEW

医療現場の課題解決を通じて、日本の医療の黒字化を成し遂げたい(HITOTSU株式会社)

[佐藤 公彦HITOTSU CEO × 田村 光希HITOTSU 会長 × Angel Bridge 林]

2023.12.18

HITOTSUは、医療機器管理システムを起点に医療業界横断でのDXを目指すスタートアップ企業です。Angel Bridgeは同社の最大の強みを経営陣のコンビネーションであると考え、支援を行っています。同社の経営陣である、臨床工学技士の経験をもつ創業者であり会長の田村氏、戦略コンサルの経験をもちバイオベンチャーのターンアラウンドを実現したCEOの佐藤氏に、HITOTSUの魅力を聞きました。
佐藤 公彦 HITOTSU株式会社 代表取締役社長CEO
  • 1984年生まれ。東京大学および同大学院修士課程にてアルツハイマー病を研究。 三井住友海上火災保険株式会社にてアクチュアリー(保険数理)業務に携わった後、ボストン コンサルティング グループにて製薬企業・ 医療機器メーカー・卸・医療機関等に向けた戦略コンサルティングに7年間従事。 バイオベンチャーCEOを務めた後、バイオベンチャー時代に協業したHITOTSU株主のVCより声をかけられ2022年11月にHITOTSUにCOOとして参画。日本アクチュアリー会準会員。
田村 光希(臨床工学技士) HITOTSU株式会社 取締役会長・創業者
  • 1988年生まれ。医療機器管理のスペシャリスト "臨床工学技士" として、大阪の総合病院にて7年間勤務。医療現場での経験を経て、「臨床工学技士の力で医療機器業界を変革したい」との思いから2020年3月にHITOTSU株式会社を創業。
林 正栄 Angel Bridge株式会社 パートナー
  • 伊藤忠商事にて北米統括シカゴ支店長などを務めた後、1部上場企業取締役、コンサルティング会社代表取締役、エミアル株式会社代表取締役社長などを経て2015年Angel Bridgeを設立し、現在に至る。 慶應義塾大学経済学部卒、ノースウエスタン大学Kellogg MBA修了。
八尾凌介 Angel Bridge株式会社 シニアアソシエイト
  • 大学卒業後McKinsey&Companyを経て2020年Angel Bridgeに入社し、現在に至る。東京大学大学院工学系研究科技術経営戦略学専攻修士修了。

医療現場の効率化を実現する機器管理システムに加え、新たなツールをリリース予定

HITOTSUの事業内容や競合状況を教えてください。

田村:医療業界の旧態依然とした業務を効率化し、医療従事者が本来の仕事に向き合えるプロダクトを展開しています。現在は臨床工学技士が使用する医療機器のデータ管理や点検、修理業務などを管理する『HITOTSU Asset』というクラウド型のシステムを提供しています。
医療機器管理システムの競合は存在しますが、HITOTSUは医療現場に寄り添ったUI・UXが強みです。私自身が臨床工学技士としての実務経験があり、その経験をベースにシステム開発を行っています。クラウド型のサービスであるため、日々システムのupdateをしたり、インターネットを経由してPMDA(独立行政法人 医薬品医療機器総合機構)が発出する回収情報や添付文書にタイムリーかつスムーズにアクセスできたり、外部の取引先などとやり取りができる点も特徴です。

佐藤:2024年1月には、医療施設と外部の企業とのコミュニケーションを効率化するためのコミュニケーションツールをリリース予定です。
本サービスは、病院と取引のあるメーカーや卸の企業、院内の臨床工学技士や看護師、管理課などを巻き込んで、医療現場の業務効率化を進めていきます。こちらのツールにおいては、医療業界に特化した特筆すべき競合プレイヤーはいません。

HITOTSU

HITOTSUの強みはどこにあるとお考えですか?

田村:現場から評価いただいているポイントは、システム内に設置したチャットボットから病院側が質問や要望をコメントでき、カスタマーサポートチームがすぐに確認してシステムの改善サイクルに活かしていることです。要望にスムーズに応えることができる開発体制は大きな強みです。

佐藤:根源的な強みは、経営陣が三者三様の強みをもっていることだと思っています。創業者であり取締役会長の田村は医療現場をよく知っている。代表取締役CEOの私はヘルスケア領域での長い経営コンサルティング経験とベンチャー経営に関わった経験がある。もう1名のCTOの宮は、金融機関の基幹システムに携わった経験からセキュリティに強みをもち、UIに優れたサービスを提供する企業でテックリードの経験もある。経営陣3名がそれぞれの強みを活かし、互いを尊重しあっている関係性がHITOTSUのあらゆる強みに繋がっていると思います。

起業の理由は、医療現場の非効率な現状を変えたかったから

田村さんがHITOTSUを創業した経緯を教えてください。

田村:私は大阪の総合病院で臨床工学技士として7年間医療現場に携わったのですが、そのときに、医療従事者や医療機器業界に関わる人々が、非効率な業務によって疲弊している現状を知ったのです。医療機器をExcelや紙で管理していたり、外部とのやり取りは基本的に電話だったりする。医療従事者が本来注力すべきである、患者さんの対応以外の部分に時間を取られていました。
こうした課題は外部からはわからず、臨床工学技士にしか気づけない。それならば課題に気づいた自分が変えていくべきだと考え、HITOTSUの起業に至りました。

HITOTSU

事業運営をしていく中で、特に大切にされていることを教えてください。

田村:仲間づくりです。起業したときは私1人しかいない状況から、約1年前に宮・佐藤が次いで入社したことで会社としての屋台骨ができて、開発・事業ともに大きく前進し、他のメンバー達も入社してくれて今や正社員で16名にまで拡大しました。一緒に働く仲間選びは非常に慎重に行いました。
仲間づくりをする上で大事にしてきたのは、HITOTSUがどんな事業をしていて、何を成し遂げたいのかをリアルに伝えることです。

まだその芽は見えないが、将来大きくなる ”匂い” のするアーリースタートアップで経営に携わりたかった

佐藤さんのご経歴や、HITOTSUに入社した経緯を教えてください。

佐藤:大学・修士課程ではアルツハイマー病の研究をしており、ヘルスケアや医療分野に強い興味をもっていました。卒業後は日系の保険会社でアクチュアリー(保険数理の専門職)業務を経験した後、ボストンコンサルティンググループ(以下BCG)に転職。製薬企業、医療機器メーカー、医療機関などへのコンサルティングに従事し、プロジェクトリーダーという所謂マネージャーの経験までさせていただきました。その後、バイオベンチャーにCOOとして入社し、その後CEOを務めました。
そして、そのバイオベンチャー時代に一緒に働いたHITOTSUの古くからの株主に誘われたことをきっかけに、2022年11月にHITOTSUにCOOとしてジョインし、2023年12月14日からCEOを務めることになりました。

HITOTSUに入社するとき、重視したことを教えてください。

佐藤:HITOTSUに入社を決めた理由は三つあります。
一つはスタートアップ経営に携われること。前職のバイオベンチャーでスタートアップ経営の面白さを体感し、自分に適性があると感じたからです。
ミッションとビジョンの実現に向けてチーム一丸となり取り組むこと、スピードとコミットメントとプロダクト愛の三つでエッジを立てて、社会にインパクトを生み出すことが非常に面白いと感じていました。
二つめは片手で数えられるくらいの人数しかいないアーリースタートアップに入社することです。スタートアップは人がすべてなので、早く入社できればその後のメンバーの採用に関われるため、いいチームを作れると考えました。
三つめは、何か将来伸びるのではないかという匂いを感じたからです。HITOTSUは医療現場のデータをもっていて、臨床工学技士さんとの接点がある。この点を生かして、医療現場の声を聞いていけば、今はまだ大きく跳ねる出口が見えていなくても、何か見つけられるのではないかと直感しました。

HITOTSUへの入社は、話を聞いてすぐに決意されたのでしょうか?

佐藤:きっかけは、HITOTSUに投資いただいているベンチャーキャピタルの方から、「プレA資金調達を終えたHITOTSUというヘルスケアスタートアップがCOOを探している」と声掛けいただいたことでした。COOに求める要件は、大きな戦略が描けて、パッションに溢れていること。ヘルスケア領域の経験があればさらに良いとのことでした。「佐藤さんしかいないでしょ?」とお声がけいただき、その日に田村とメッセンジャーで繋がりました。

田村:投資家の方から佐藤の事前情報を聞いたときに「HITOTSUが求めているのは、この人だ」という運命的なものを感じ、ワクワクして面談したのを覚えています。
さっそくその日にオンラインで、医療業界の課題や想いを伝えたところ、非常に盛り上がって1時間半ほど話しました。そこで「今度飲みに行きませんか?」と誘ったんです。
お互いにスケジュールを確認したら当日の夜が二人とも空いていたので、新宿のイタリアンの店で待ち合わせました。CTOの宮もオンラインで参加し、そこでも2時間くらい話し込んだんです。佐藤に対しては、能力はもちろんのこと、この人なら任せられるし、つらい時もやっていけるという印象をもちました。

佐藤:田村の第一印象は、自分が経験した社会課題の解決に全身全霊でエネルギーを注いでいる人だと思いました。課題を感じていても起業というリスクを取れる人はなかなかいません。そこにポンと踏み込む度胸にも惹かれました。
そして、田村がもっていないビジネス経験は私が補える。一緒にやれたら面白いんじゃないかと感じ、HITOTSUへのジョインを決めました。

CEOの交代が、事業を最大化するための最善の選択だった

CEOを田村さんから佐藤さんへと交代する背景を教えてください。

田村:CEO交代という最終着地は、私にもHITOTSUにとっても、非常にいい意思決定でした。私は医療現場の課題を知っているからこそ、解決したいという強い想いがあります。
しかし、事業が広がっていく中で、私が経験のない事業戦略のウェイトがどんどん大きくなり、自分の実行力とのギャップを感じ始めていました。
佐藤とディスカッションを重ねていく中で、「人にはそれぞれ強みがあり、強みを発揮できる場所がそれぞれにある」という言葉を聞いたときに、非常に腹落ちしたと同時に救われた気持ちになりました。
強い使命感をもってこれまでやってきましたが、よく考えればHITOTSUには私以外にも優秀なメンバーがいるわけです。このタイミングで佐藤にCEOというバトンをパスするのがHITOTSUの事業成長を最大化するのに最適であると決意しました。この「事業成長の最大化」というのは経営メンバー3人で合言葉にしているフレーズです。

CEO交代の話があったときに、佐藤さんはどう感じましたか?

佐藤:田村の医療現場での実体験は、今となっては事業戦略の一部なので、田村がキャップになってしまうと会社としての成長も止まってしまいます。会社を非連続的に成長させるためには、CEOを変えるべきだと私も思っていました。
ただ、創業者として自分がやり続けるという意思決定も十分にありえることです。しかし、最終的には事業を最大化するための意思決定をするという合意ができ、CEOを交代することになりました。自分の立場のためでなく、会社が社会課題を解決するために意思決定をした田村は素晴らしいと思いました。

Angel Bridgeの強みは、ファイナンスとベンチャー投資に強いツートップとコンサルファーム出身のメンバー

Angel Bridgeは、他のVCとどのような違いがありますか?

佐藤:投資の検討段階から非常に密なやり取りをさせていただきました。他のベンチャーキャピタルと比較した特徴として、会社の座組が非常にいいと思っています。TOPのお二人がそれぞれファイナンスとベンチャー投資という専門知識をお持ちで、メンバーの方はコンサルファーム出身で、事業戦略や分析に長けています。そのため、土地勘の無い事業でも、この会社は投資に値するかというジャッジを精度高く実行されている印象です。

Angel Bridgeメンバーにどのような印象をお持ちですか?

佐藤:担当の八尾さんは、我々の生命線となるような事業戦略について深く質問してくださって、ディスカッションを通して我々の戦略もブラッシュアップされていきました。コンサルとVCの経験をお持ちであることが非常に心強かったです。また、DDのプロセスで本当にハンズオンで伴走してくれることを感じました。

Angel Bridgeに対して、どのようなことを期待していますか?

佐藤:八尾さんにはスキルセットという貢献をしていただいたので、今後は林さんから業界のキーパーソンを紹介いただき、さまざまな会社さんにアプローチしてパートナーシップを広げていけたらと思っています。もう1つは採用支援ですね。アーリースタートアップは本当に「人が全て」ですので。

業界のエキスパートとプロのビジネスマンという最強のコンビネーション

HITOTSUへ投資するに至った経緯を振り返ってください。

八尾:オンラインでさまざまな会社を調べていたところ、医療機器管理の領域のサービスを展開しているHITOTSUを見つけました。海外で類似の企業を見たことがありポテンシャルを感じて、既存の投資家さん経由でコンタクトをとりました。2023年8月に佐藤さんと面談をして何度かお話しするうちに10月頃から本格的に投資を検討することになりました。
投資に至った大きな柱は経営陣です。やり取りする中で、佐藤さんは非常に優秀な方だと感じました。議論の内容が非常に的確で、質問したときのレスポンスの速さや返答のクオリティが尋常ではありませんでした。将来的な展開まで見据え、本当に深く事業について考えられているのだなと実感しました。
さらに、創業者である田村さんが臨床工学技士を経験した業界のエキスパートである点も大きな強みです。営業の現場において、臨床工学技士を経験された立場として懐に入っていけますし、プロダクトの作りこみの観点でも現場を知り尽くした田村さんの経験が遺憾なく発揮されています。HITOTSUのビジネスモデルにおいては、業界のエキスパートとプロのビジネスマンというコンビネーションは最強だと考えました。
また、事業としての広がりも感じています。祖業である医療機器管理にはじまり、コミュニケーションツールへの展開が実現すれば、その先にはさまざまな事業展開が想像でき、メガベンチャーのポテンシャルを感じました。
さらに、既存プロダクトがユーザーにしっかり評価されている点にも注目しました。導入後に満足度高く使っていただいていることが、コメントや数値面からわかりました。
これらを総合して、中長期的にお付き合いしたい会社であり、非常によい投資になるだろうと考えました。

田村さん、佐藤さんにどのような印象を持たれましたか?

林:私たちは投資の意思決定をするときに食事会をさせていただいています。そのときに佐藤さんの頭脳の明晰さとパッションを感じました。田村さんは地方に行って1日病院10件くらいを訪問し、様々な医療現場から生の声を聞くことを大事にしていて、素晴らしいと思いました。想いがあるから地道な活動を続けられるのだと思います。

HITOTSU

八尾:CEO交代という意思決定はなかなかできることではありません。トラブルがあって交代することはあっても、会社の成長のために交代する決断をするという話はあまり聞いたことがありません。こうした意思決定をできる田村さんと任される佐藤さん2人の信頼関係を感じます。投資を決定する場合は経営者が大事だという想いをもっていますが、HITOTSUは素晴らしい経営陣が揃っていることが特筆すべき点です。

HITOTSU

医療業界との接点とデータをテコにして、日本の医療の黒字化を目指す

HITOTSUの今後の展望について教えてください。

佐藤:医療機器管理を起点として、医療業界のアナログな業務を変えていきたいと考えています。我々のミッションは「日本の医療を黒字化する」という壮大なものです。しかし、クラウドやデータで医療業界が外部とつながることができれば、実現できるミッションだと考えています。
我々の強みである、医療業界との接点とデータをテコにして、ミッションを実現していきたいです。

Angel Bridgeとしては、今後どのようなサポートをしていきますか?

林:私たちは投資先の会社さまには、ヒト・モノ・カネという点で応援をしています。重要な役割やポジションの方の紹介や、事業面では課題解決のサポート、営業面では営業先や提携先の紹介などをしていきたいです。そして次回のファイナンスなどの準備もお手伝いしていきます。DDの過程でも、医療業界でネットワークをお持ちの方々に話を聞いたうえで、HITOTSUさんに投資を決めました。そういった方々とも連携する機会を提供できればと考えています。

変化を楽しめる、成長志向のあるチームプレイヤーにジョインしてほしい

HITOTSUでは採用を強化していくそうですが、どのような職種や経験の方を求めていますか?

佐藤:現在、正社員は16名ですが、1年後には40名まで拡大したいと考えています。特に求めている職種は三つあります。一つはエンジニアで、メンバーレベルからテックリード、VPoEクラスまで、幅広く募集しています。二つめはプロダクトを統括するプロダクトマネージャー、三つめは経営企画です。現在は私がCEO経営企画・経営管理ロールをやりながら、事業開発・カスタマーサクセスを統括しているため、経営企画・社長室として活躍できるコンサルティング経験のある若手メンバーを求めています。経営の根幹をCEOと共に担っていくポジションのため、さまざまな経験を通じてスキルアップができます。

求める人物像について教えてください。

佐藤:まずはチームプレイヤーであること。そして会社と個人両面での成長を主体的に目指せる人です。現状維持で業務をこなすのではなく成長志向のある人を求めています。そして、アーリースタートアップなので日々刻々と変化する状況を楽しめることも重要です。
HITOTSUは来年1月に新しいプロダクトのリリースを控え、ここから事業や組織がどんどん変化して大きくなっていくフェーズです。2ヶ月単位で違う会社になっていくような状況で今が一番面白い転換点なので、多くのメンバーにジョインしてほしいです。

HITOTSU

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