INTERVIEW

契約書レビューを通して争いの少ない社会を実現する(株式会社リセ)

[藤田美樹リセ代表取締役 × Angel Bridge 河西]

2024.08.02

リセは、放置すればリスクになりかねない条文を一瞬で洗い出し、代替案を提示する契約書レビュー支援サービス「LeCHECK」を提供するリーガルテック企業。AI技術と各分野の弁護士監修による優れたサービスがユーザーから高い評価を得ています。今回は長年弁護士として活躍し、国内最大規模の大手法律事務所のパートナーとして数々の企業間紛争を手がけてこられた経験を持つ代表の藤田美樹氏にご登場いただき、スタートアップを起業した経緯やAngel Bridgeとの関わりなどを伺います。
藤田 美樹 株式会社リセ 代表取締役
  • 藤田美樹 株式会社リセ 代表取締役社長・弁護士 東京大学法学部卒業、Duke大学ロースクール卒業(LLM) 司法試験合格。司法修習を経て、2001年西村総合法律事務所(現・西村あさひ法律事務所)入所。米国留学、NY州法律事務所勤務を経て、2013年パートナー就任。2018年に退所し、株式会社リセを設立する。
河西 佑太郎 Angel Bridge株式会社 パートナー
  • 河西 佑太郎 Angel Bridge株式会社 パートナー ゴールドマン・サックス証券投資銀行部門、ベインキャピタル、ユニゾン・キャピタルを経て、2015年Angel Bridgeを設立し、現在に至る。東京大学大学院農学系研究科修士修了(遺伝子工学)、シカゴ大学MBA修了。

 

中堅・中小企業にフォーカスした契約書レビューサービス

——リセの事業について聞かせてください。どのような課題を解決する会社ですか?

藤田:リセを起業するまで、私は弁護士として数々の企業間紛争の解決に従事していました。この経験を踏まえ、立ち上げたサービスが、弁護士の知見とAI技術を掛け合わせた契約書レビューサービスの「LeCHECK(リチェック)」です。LeCHECKが想定する主なユーザーは、弁護士に契約書のレビューを依頼するのが費用の問題から難しい一方、不利な契約が会社に与えるダメージが大きくなりがちな中堅・中小の法務部門のみなさんです。AIの力で中堅・中小企業を不利な契約から守り、正当な企業活動を法的に支えるのが、われわれのミッションです。

——法律や契約に関するサービスは参入障壁が高そうに感じます。実際のところはいかがでしょうか?

藤田:リーガルテック領域にはさまざまなサービスが存在しますが、そのなかでも契約書の内容を精査し、注意すべきポイントを喚起するレビューサービスは、比較的参入障壁が高いサービスといえます。なぜなら、経験豊富な弁護士に依頼するのと同等の品質でレビューがされる必要があるからです。また、LeCHECKは中堅・中小向けに特化したサービスなので、専門の法務組織を持っていることも多い大企業向けのサービス以上のホスピタリティを提供することを意識しています。弁護士クオリティの信頼性に加え、法務知識が不足していても使いこなせるユーザビリティの両面が求められるのも、参入障壁を高くしている要因のひとつといえます。

——中堅・中小企業向けサービスならではの難しさはありますか?

藤田:中堅・中小企業の法務担当者の多くは、他の業務と兼任しているケースが多く、必ずしも契約や法務について詳しい方ばかりではありません。こうした現実を踏まえると、単に確認すべき項目を明示するだけでは機能としては不十分です。指摘すべき項目を網羅するのはもちろん、付帯する関連項目に関しても漏れなく分析を行い、具体的に何をどうすべきかを明示してこそ、中堅・中小企業を支えるサービスだと胸を張れるわけですが、実は言葉で表すより、実現するのはかなり難しいことなんです。

——どのような点が難しいのでしょう?

藤田:LeCHECKはAIを使っていると申し上げましたが、コメント生成にはAIを使わず、指摘すべき問題箇所の抽出と弁護士によるコメントをつき合わせるのに活用しています。注意すべき項目を見つけ、的確なコメントを表示するだけでも大変なのですが、ひとつの項目から分岐を重ね、留意すべき項目を洗い出すだけでなくさらなる分析を行うため、的確なコメントを表示するだけでも計算量は膨大な数に上ります。最初は指摘箇所とコメントのマッチング精度にかなり苦戦を強いられました。仮に8割の精度が出せたとしても、2割外せば契約書レビューの役割を果たしているとはいえません。その点が非常に難しかったですね。

——どうやって精度を高めていったのですか?

藤田:精度を出すには、膨大な数の契約書に基づき学習させつつ、ひたすらチューニングを重ねる以外に方法はありません。満足いくレベルに達するまでには、かなりの時間を要しましたが、その苦労を乗り越えたからこそ、競争優位性を確立できたのも事実です。現在、多くのお客様に喜んでいただけているのは、地道なチューニングの賜物だと考えています。

プロダクトにフィットした経歴と明確なビジョンに惹かれ投資を決断

——Angel Bridgeとの出会いはどのような形ではじまったのでしょうか?

藤田:2021年の秋だったと思います。Facebook Messengerでご連絡をいただいたのが最初でした。

河西:そうでしたね。最初、当社のディレクターである八尾からご連絡を差し上げたのですが、ちょうどシリーズAの調達を終えられた直後で、資金需要は当面ないというお話でしたが、それ以来、定期的な意見交換をするようになりました。

藤田:本格的なお付き合いがはじまったのは、2023年の年明けからですね。その年の夏を目処にシリーズBの資金調達を実施することになり、改めてこちらからご連絡を差し上げてから、頻繁にやりとりするようになりました。

——シリーズBに向けて不安だったことは?

藤田:当時はスタートアップの資金調達市場が芳しくなく、どのような評価を受けるか少し不安はありました。ただ、業績自体は好調でしたし、サービスの品質にも手応えを感じていたので「ここで存在感を示さなければ」という思いに迷いはありませんでした。

——藤田さんのお話を聞いていかがでしたか?

河西:最初にご連絡を差し上げた当時から、リーガルテックは残された数少ない有望なHorizontal SaaS領域だと思っていたので、お声がけしました。そのなかでもとくにリセに着目したのは、18年にわたる弁護士としての勤務経験をお持ちの藤田さんのご経歴に加え、契約書レビューサービスのなかでも中堅・中小企業に特化したサービスという立ち位置に興味を持ったからです。藤田さんは、激務で知られるトップファームでパートナーを務めていたほどの方。しかも4人のお子さんを育てる母親としての顔もお持ちです。そんな方が敢えてスタートアップを創業されたのであれば、魂を込めてプロダクトを開発しているはずですし、必ずや成功されると確信しました。

——即断即決だったのですか?

河西:たまたま、競合となる契約書レビューサービスが大型調達を実施した直後だったので、投資の意思決定において二の足を踏むようなタイミングでもありました。しかし、詳しく見ていくと、顧客ターゲットも異なりますし、サービス設計が非常に的確かつ目指すべき目標についても明確なビジョンを描いていらしたので、投資すること自体に不安や迷いはありませんでした。プロダクト開発の指揮を執っている藤田さんご自身のポテンシャルもさることながら、日本有数の弁護士の方々とも協力関係を築かれており、お金では買えない無形の資産をお持ちです。確信に加えて期待が高まりました。

藤田:そういっていただけて光栄です。お声がけしてから2カ月足らずでご判断いただけるとは思っていませんでしたから、そのスピード感に驚くと同時に期待の高さを感じずにはいられませんでした。

経験豊富な弁護士がスタートアップ起業家に転身した理由

——改めてお伺いします。そもそもなぜ弁護士からスタートアップ起業家に転身しようと思われたのですか?

藤田:パートナー時代に、海外のリーガルテック企業から営業を受け、テクノロジーで法曹の世界が変わると確信したのが一番のきっかけでした。せっかく時代が変わるタイミングに立ち会えるなら、変える側に立ちたいと思ったんです。弁護士時代から、中堅・中小企業が置かれている状況をなんとかしたいという思いもありましたから、何としてもこのチャンスをものにしたいと思いました。

——飛び込んでみていかがでしたか?

藤田:テクノロジーについて詳しいわけでもありませんし、起業や経営経験もありませんから、「なぜそんなリスクを冒す必要があるのか」と、心配してくださる方は少なくありませんでした。その一方で、テック領域に詳しい方々や、スタートアップ界隈のみなさんからは「やるならいましかない」といってくださる方が多かったのも確かです。理解者や協力者のみなさんに支えていただきながら、なんとかここまで辿り着けました。

河西:私もVCというスタートアップを経営しているのでよくわかります。まずやってみなければ状況を変えられませんからね。

藤田:そうですね。朝令暮改を恐れず、状況に応じて常に見直しを図る気持ちがなければスタートアップの経営はできません。数々の失敗を繰り返してようやくその境地に達することができたように思います。

事業戦略への的確な助言と公私にわたる交流が支えに

——その後、Angel Bridgeからはどのような支援を受けていますか?

藤田:主に事業戦略について相談に乗っていただく機会が多いですね。自社の状況とビジネスを取り巻く環境を踏まえ、いまアクセルを踏むべきか、それともいったんブレーキを踏むべきか判断するにあたっては、できるだけご意見を頂戴するようにしています。Angel Bridgeさんには河西さんを筆頭にプロフェッショナルファーム出身の方々が揃っており、当然のことながらスタートアップ投資経験も豊富です。しかもご相談しやすいよう気遣ってもいただけるので、その点でとても助かっています。

——Angel Bridgeの特徴を感じることはありますか?

藤田:Angel Bridgeさんは、より身近な存在ですね。おそらく、投資先を集めた勉強会やバーベキューなどのイベントなどを通じて、交流の場を設けていただけているからでしょうね。Angel Bridgeのみなさんや、投資先の起業家の方々と親しくさせていただきながら、ときに楽しく、ときに膝を詰めて話せる機会をいただけるのは、ひと味違う点だと思います。

河西:こうした機会を設けることによって、起業家コミュニティが生まれ、先輩起業家からのアドバイスが得られたり、相互扶助の雰囲気が生まれたりするのではないかと思ってはじめた取り組みなので、そういっていただけるのは嬉しいですね。企画しがいがあります。

 ——藤田さんはこれから、社会にどのような価値を届けたいと思われますか?

藤田:企業活動において契約書は非常に重要な役割を担っています。契約書レビューサービスを通じて、中堅・中小企業が争いに巻き込まれたり、本来主張できたはずの権利を失ったりするような不幸をなくしたいですね。こうした社会に一日も早くなるようこれからも貢献するつもりです。

——これからAngel Bridgeに期待することがあれば教えてください。

藤田:すでに十分過ぎるほどのご支援をいただいているので、これ以上望むことはありません。これからも、多角的な視点で物事を判断したいときに、いつでも気軽に相談できるような存在でいていただけたら嬉しく思います。

河西:われわれとしても、いつでも困ったとき最初にご相談いただけるような身近な伴走者でありたいと思っています。いつでもお声がけください。

藤田:心強いお言葉、ありがとうございます。日頃から身近に接している方でなければできない相談もあるので、それを引き受けてくださっているAngel Bridgeさんはかけがえのない存在です。これからも引き続きよろしくお願いいたします。

——最後にスタートアップ経営や起業に関心をお持ちの読者にアドバイスをいただけますか?

藤田:これまで、ブランドもなければ実績もない状態からビジネスを立ち上げる難しさを何度感じたかわかりません。それでも諦めずに続けることで、少しずつサービスがよくなり、率先して仕事を拾ってくれる社員にも恵まれ、サービスを使ってくださるお客様も増えていきました。すべてが整った世界に留まったままだったら、そうした経験はできなかったでしょう。そう思うと思い切って挑戦してよかったと思いますね。「やり直しはいつだってできる」。そう思えば、きっと壁は乗り越えられるはずです。もし心の底から解決したい社会課題があるなら、その気持ちが熱いうちにぜひ挑戦してほしいですね。

河西:藤田さんのような優秀な方が、スタートアップの世界に入ることが増えれば、きっと日本経済も好転するはずです。不退転の覚悟で挑戦される起業家を支援するのがわれわれの仕事。ぜひリスクを恐れずチャレンジしていただきたいですね。われわれはそんなみなさんを全力で支えるつもりです。藤田さん、本日はお話を聞かせていただきありがとうございました。これからもよろしくお願いいたします。

藤田:こちらこそよろしくお願いいたします。

 

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