伊藤:私たちはノーコードでソフトウェアテストを自動化するプラットフォームを作っています。ウェブサイトやモバイルアプリを作る時には、作ったものがきちんと動くかテストをする必要があって、これをソフトウェアテストといいます。ボタンを押してみてエラーが出ないかなど、画面操作により想定通りの動作となっていることを確認していく作業があります。それらの作業はほとんどエンジニアの手作業や目視で行われていて、すごく手間がかかるので、MagicPodではこれを自動化するサービスを開発しています。
私たちが扱うE2E(End to End)テストはシステム全体を通して行うテストで、ユーザーと同じように操作を行って、きちんと動くかを見るものです。テストの中でも一番重要で、ニーズが高いものを自動化することに取り組んでいます。
伊藤:これまでソフトウェアの自動化をするには、それぞれの手順についてプログラムを書かなければいけなかったので、専門のスキルを持った自動化エンジニアが必要でした。しかし、ノーコードサービスを使えばプログラムを書かなくても、画面上で項目を選んでいくだけで簡単にテストができます。
世界的にエンジニアが足りない一方でITの需要が増えていて、「プログラムを書かない人でもシステムを作れるようにしよう」というトレンドが来ているので、私たちのサービスにちょうどマッチしているなと感じています。
伊藤:ノーコードでの同様なシステムを提供している会社は国内、海外にいくつかありますが、これらの会社はウェブサイトでのテストを主に扱っています。一方でMagicPodはウェブサイトとモバイルアプリの両方で使うことができ、その点は他社と比べて非常に大きな強みですね。モバイルアプリは歴史が浅くてノウハウがない上に、変化も多いので、技術としては圧倒的に難しいのです。
伊藤:私はもともとワークスアプリケーションズという、会計のERPソフトを作る会社でエンジニアをしていました。エンジニアとして働く中で、ソフトウェアの品質管理がスピード感のある開発をする上で、大きなボトルネックになっていることに気付きました。テストをより効率化して、時間がなくてもシステムの品質を担保できるようにすることが重要だと思って、そこから社内向けのテストツールを作り始めました。ベースのエンジンから自分で設計をして、ひたすら試行錯誤の日々でした。結果、会社全体がそのツールを使うようになって、業務が大きく改善されたんです。この功績を評価していただき、その年は約3,000人の会社で3名ほどしかもらうことができない、社長賞をもらうことができました。
その時に自動化という技術に魅力を感じて、社内だけでなく世界中で使われるような製品を作りたいと思い起業しました。
伊藤:日本でテスト自動化というもの自体があまり普及していなかったので、まずは無料で使えるオープンソースのツールについてまとめた本を書きました。市場がそもそもなかったので、作るところから始めました。
普及活動の一環としてコミュニティを作ったり、イベントを企画したりもしましたが、それらのノウハウがなかったのでとても苦労しましたね。頑張って企画した第一回の勉強会のゲストが直前で来られなくなってしまうというアクシデントなんかもありました(笑)。
伊藤:世の中には良い技術もテスト自動化の需要もあるのに、なかなかユーザーには使ってもらえないというギャップを埋めたい気持ちが大きかったです。ソフトウェアの品質の問題はみんなが困っていたのですが、なかなか良い解決策がなくて諦めていたんです。自動テストというものもありましたが、もっと使いやすくしないと世界中に使ってもらえるものにはならないと感じていました。
最初は既存のツールを普及しようと考えましたが、やはりノーコードで誰でも簡単に扱えるものでないと取り入れてもらうのが難しく、理想的なツールを自分たちで作りたいと思って「MagicPod」という製品を作り始めましたね。
伊藤:会社や製品の方針などについてはテックリードの玉川と主に2人で考えています。玉川はもともと東大の情報学研究科で機械学習の研究をしていて、卒業後は自動化や開発効率化、自動テスト技術の普及活動を行っていました。
運営していた自動テストのコミュニティに顔を出してくれていたのがきっかけで、当時からとても優秀な方だと感じていました。お誘いして最初は断られちゃいましたが、その後無事に加わってくれました。よくぞ来てくれたなと、うれしく思っています。
伊藤:もともとシードラウンドではIncubate Fundから出資してもらっていました。当時は製品の出来が悪く、ユーザーもつかず、投資を受けるまでに苦労したのを覚えています。シリーズAの調達のときにパートナーの河西さんがFacebookでメッセージをくださったのがAngel Bridgeとの出会いでしたね。お話するうちに、私たちに足りないファイナンスやビジネスサイドを補完してもらえそうだと感じました。これからラウンドを進めていく中でもスピード感を持って進めていけそうだなと思って、投資を受けることを決めました。
河西:まず伊藤さんの技術力の高さですね。チーム全体を見ても、類い稀な優れた技術を持っているところに惹かれました。特にモバイルアプリでのテストを自動化する技術は、誰に聞いても非常に難しいと言っていて、このチームの技術は相当なものなのだと確信しましたね。
また伊藤さんとお話していく中で、ソフトウェアの品質テストというものが長期にわたってエンジニアの方々にとっての大きなペインであったことが分かって、そこを解決に導いていることにも感銘を受けました。
河西:伊藤さんは京都大学の数学科出身とスーパー優秀な印象だったので、投資するにあったって唯一の心配事として、もしかしたら技術を磨きこむことができれば満足してしまうのではないかと思っていたんです。そこで一度、「IPOへのこだわりはありますか?」と質問したことがあるんですよ。そのときに伊藤さんが、「私は学生時代、ノーベル賞を目指して研究をしていました。今、ベンチャーを始めたからには同じくらいのパッションをもって事業を成功させたいですし、同様にIPOを目指したいです。」とおっしゃっていたのがすごく印象的です。伊藤さんから、技術開発だけでなくベンチャー企業としての成功を追及していきたいという強い気持ちを感じました。起業をするうえで、そういった気持ちはとても大事だと思うんですよね。
伊藤:私もその会話はよく覚えています。お寿司を一緒に食べていたときでしたよね(笑)これまでエンジニアとしては、本や海外での講演、社長賞など、一般的に見るとトップレベルとされる成果を出しました。ただ自分の中ではこれらにあまり満足していなくて、やはり達成感を得るには事業として成功させるしかないなと、起業してからずっと思っていますね。
河西:伊藤さんには秘めたる闘志をいつも感じますね。毎月定例会議を行っていても毎回着実に進歩していますし、ひとつひとつ地道にくじけずにやっていくところがすごいなと思います。
伊藤:私は得意じゃないことをするのが得意なのかもしれないですね(笑)。元来、営業やプレゼンテーション、イベント企画などは一番苦手な分野なんですが、会社のために必要であれば何でも頑張ろうと思っています。
伊藤:まず月一の定例会では毎回アドバイスをいただいていますね。プロファーム出身のエキスパートからコンサルティングを受けられる機会はとてもありがたく思っています。担当の八尾さんは、実際のお客さんの声を集めて製品に足りないところをフィードバックしてくれるなど、親身にご支援いただいています。最近ではストックオプションの設計を始めているのですが、そこについてもとても良いアドバイスをいただきました。
伊藤:投資を受けてみて感じたのは、とても勢いのあるVCだなと思っています。優秀な方々でありつつ、例えばバーべキューを一緒にしたときはとても愉快な方々だと感じました(笑)。
あと、他の投資先を見ていると、VCとしての目利き力が特に優れているなと思いました。キラリと光るベンチャーを見つけてきて伸ばすのが上手いんじゃないかと思います。
伊藤:最近は昔と比べて資金調達の選択肢も増えていますし、スタートアップのビジネスをするハードルがかなり下がってきているように感じています。日本でもベンチャービジネスに流れる資金が増え始めていますし、今後数年間は起業のチャンス期間になるかもしれないですね。例えば、会社で10人の部下がいるっていうことは、ある意味10人ぐらいのベンチャーを経営できるノウハウがあるってことだと思うんです。そういったビジネススキルがある人は、ぜひチャレンジしてみるといいんじゃないかなと思います。
伊藤:「MagicPod」を世界中の人が使うサービスにしていきたいですね。特にエンジニア向けのサービスは法律や文化にあまり依存しないので、日本の市場から海外に持っていくのはあまり難しくないんです。そういう面で私たちのサービスは日本のスタートアップの中でもかなりグローバル進出しやすい領域だと思っています。
会社としての在り方でいうと、やっぱりユーザーさんに愛されるようなプロダクトを作る会社であり続けたいと思います。ユーザーの声はすごく大事にしていて、「これ欲しい!」みたいなリクエストをいただいた際はかなり注力して、積極的に機能追加をしています。今後会社が大きくなっても、そういった心を失わないようにしたいですね。
伊藤:会社の新しいミッションとして、「ソフトウェア開発の常識を一変させる」ということを掲げたいと考えています。ソフトウェアの開発もテストもですが、本当は面倒くさいなと思いながら我慢してやっていることがたくさんあると思います。私たちはそういう、みんなが当たり前だと思って我慢していることを、自動化やAIといったテクノロジーを使ってどんどん変えていきたいです。ソフトウェア開発というプロセスの中から、楽しくないものをなくして、本当に楽しいことだけをやっていられるような環境にしていきたいと思っています。ソフトウェアに携わる全ての人たちが幸せに、より楽しく開発できるように、技術革新を進めていきたいです。