INTERVIEW

遺伝性希少疾患に悩む患者に希望を届けたい(株式会社リボルナバイオサイエンス)

[富士晃嗣 リボルナバイオサイエンス CEO × Angel Bridge 河西]

2024.11.28

株式会社リボルナバイオサイエンスは、いまだ治療法が確立されていない遺伝性希少疾患に有効な医薬品を創出するために生まれたバイオベンチャーです。創業者の富士晃嗣CEOは国内大手製薬会社出身の研究者。安定した地位を捨て創薬スタートアップに身を投じた経緯やAngel Bridgeとの関わり、さらに今後の展望などについてお話しいただきました。
富士 晃嗣 株式会社リボルナバイオサイエンス 代表取締役 CEO COO
  • 2005年奈良先端科学技術大学にて博士後期課程修了。同年、大手製薬会社に入社し、循環器系疾患・中枢神経系疾患・炎症性疾患などの創薬研究に従事する。2013年から2014年にかけて、米国子会社に派遣。帰国後、希少疾患に対する研究プロジェクトを始動。遺伝性希少疾患に対する治療薬の研究開発を推進するため、2018年株式会社リボルナバイオサイエンスを設立。同年、当社創業代表取締役 CEO COOに就任。
河西 佑太郎 Angel Bridge株式会社 パートナー
  • ゴールドマン・サックス証券投資銀行部門、ベインキャピタル、ユニゾン・キャピタルを経て2015年Angel Bridgeを設立し、現在に至る。東京大学大学院農学系研究科修士修了(遺伝子工学)、シカゴ大学MBA修了。

遺伝性希少疾患に的を絞り、RNA創薬に挑むバイオベンチャー

——リボルナバイオサイエンスはどのような事業を手がける会社ですか?

富士:リボルナバイオサイエンスは、タンパク質合成を司るRNA(リボ核酸)を標的とした経口医薬品の創薬研究に取り組むバイオベンチャーです。注射によって投与する高分子医薬品ではなく、経口摂取可能な低分子医薬品でRNAを狙い撃ちできるようになれば、患者さんのQOLは確実に高まります。これまで有効な治療法がなかった遺伝性希少疾患に苦しむ患者さんと、そのご家族の苦痛を少しでも和らげたいという思いで創業しました。

——なぜこれまでの低分子医薬品ではRNAを標的にできなかったのでしょうか?

富士:以前から低分子化合物によるRNA創薬の研究が進められていましたが、製剤化は容易ではありませんでした。2万数千種ある人間の持つRNAは構造が似たり寄ったりで、低分子医薬品では標的となるRNAを見分けることが難しかったからです。

——この課題をクリアして起業された?

はい。私自身、RNAをターゲットにした低分子医薬品開発の黎明期から関わってきました。企業研究者時代にRNAをピンポイントで見分けるスクリーニング技術の確立に目処が立ち、新薬の候補となるリード化合物を見つけられたので、この技術にさらに磨きをかけるべく起業しました。

——なぜ、RNAをターゲットにした低分子医薬品による創薬を目指したのですか?

富士:低分子医薬品と同じく、RNAを標的にした創薬分野に「核酸医薬品」があるのですが、こちらは新しいタイプの薬剤であるため創薬のハードルが非常に高い一方、低分子医薬品の歴史は長く、開発プロセスも確立されています。RNA創薬と低分子医薬品を掛け合わせれば、多くの患者さんに希望を届けられ、かつビジネスとしても大きなインパクトがあると考えました。

研究者から起業家への転身を支えた強い信念の原点とは?

——以前お務めだった大手製薬会社によるカーブアウト(※)プログラムに参加されて起業に至ったと聞きました。創業するにあたって不安はありましたか?

富士:当時は不安よりも「とにかくアイデアを実現させたい」という意気込みが優っていましたね。「この技術が世に出ないはずがない」という自負心もありました。

※カーブアウトとは企業が子会社や自社の事業の一部を切り出し新会社として独立させること

——恵まれた環境に未練はなかったのですか?

富士:研究者なら誰しも、自分の技術を世に出したいという思いがあるものです。私はその思いが人一倍強かったのだと思います。当時勤めていた製薬会社で一度はプロジェクトを立ち上げたものの、事業ポートフォリオの見直しにより研究継続が困難になってしまったため、研究者の独立を支援するカーブアウトプログラムを利用して起業しました。このプログラムに採択していただいたおかげで、資金や環境面でかなり手厚いサポートを受けられました。前職にはとても感謝しています。

——とはいえ研究の成果はあっても経営のご経験はありません。起業のモチベーションはどこから得たのでしょうか?

富士:起業に対して前向きになったのは、2013年にアメリカのサンディエゴにある子会社に出向した経験が大きかったように思います。現地でまず驚いたのは、バイオベンチャーを取り巻く環境の豊かさでした。大手製薬会社や大学、VCを巻き込む一大コミュニティができあがっていたからです。人もお金も日本では考えられないほどダイナミックに動いており、とても刺激を受けました。もうひとつ起業の志を後押ししてくれたことがあります。それはアメリカから帰国後に読んだ、あるイギリス人女性のブログです。この女性は脊髄性筋萎縮症に苦しむ幼い娘さんを抱えておられ、遺伝性疾患で苦しむ人たちを救いたいという思いの原点になりました。こうした出来事が幾重にも重なって起業や経営への不安を払拭してくれたように思います。

4年間の努力が実を結び勝ち取った高い評価と投資機会

——リボルナバイオサイエンスとAngel Bridgeのお付き合いはどのような形ではじまったのでしょうか?

河西:富士さんと最初にお会いしたのは、たしか創業間もない2019年ごろでしたよね。

富士:そうですね。アイデアと夢はありましたが、当時はまだ誇れるような成果も実績もない状態でした。

河西:当時リボルナさんはRNA創薬の基礎技術はお持ちで将来性は感じたものの、今後の創薬市場においてどのようなポジショニングが狙えるのか確信が持てず、投資を見送らせていただいた経緯があります。再会したのはそれから4年後でしたね。

富士:はい。一昨年、改めてお付き合いのある証券会社を介して改めて河西さんに面会を申し出て、お会いできました。

 

——なぜ改めて面会を申し入れたのでしょうか?

富士:河西さんは、大学院で遺伝子工学を修め、バイオをはじめディープテック領域に関して豊富な知見と投資経験をお持ちです。前回お会いしたとき、河西さんから「技術的にはすごく面白いし、可能性も感じるけれどもう少し進捗がほしい」とおっしゃっていただいていたので、この4年でわれわれがどの程度前進したかぜひご報告したいと思い、お声がけしました。

河西:その後リボルナさんは、米バイオジェン社と創薬研究ステージでは国内最大クラスの中枢神経系疾患領域での共同研究契約を結ばれるなど、RNAをターゲットにした低分子医薬品開発は世界的な製薬企業からも注目を集めるようになりました。富士さんの粘り強い努力と先見の明を目の当たりにして、「この人ならきっと最後までやり抜くだろう」と感じ、2023年5月に実施された総額6.7億円の第三者割当増資への参加を決めました。

ほかのVCとは一線を画すAngel Bridgeの魅力

——改めてAngel Bridgeに対してはどのような印象をお持ちですか?

富士:帰国後、さまざまなVCに出会いましたが、Angel BridgeはほかのVCとは一線を画す印象がありますね。技術に対する造詣が深く投資判断までのスピードが速いのは、アメリカのVCに近い印象です。ただ完全にアメリカ的というわけではなく、コミュニケーションを大切にし、関係者と協調する姿勢はむしろ日本的な印象すらあります。

河西:私はAngel Bridgeを創業するまで、長年外資系企業のカルチャーのなかで育ちました。仕事はプロフェッショナルに進めますし、言うべきことをちゃんと言うよう教育されてきましたが、魂はやはり日本人です。自分の主張を押し通そうとするより、立場の異なる人たちの意見を聞きながら合意形成を図る重要性は理解しているつもりなので、ステークホルダー間の関係や機微には敏感かも知れませんね。

富士:経営会議で同席すると感じるのは、VCという立場を超えて、意見を押すべきタイミングと、引くべきタイミングを見極めていらっしゃるのを感じます。もしかすると、投資家と経営者の両面をお持ちだからこそ見えるものがあるのかも知れません。いつも勉強させてもらっています。

河西:そう言っていただけるのはうれしいですね。

 

経営者の見識を育むAngel Bridgeのハンズオン支援

——Angel Bridgeからの支援で印象に残っている取り組みを聞かせてください。

富士:私がすごく楽しみにしているのは、Angel Bridgeの投資先が集まる「クロスラーニングの会」ですね。私はこれまで2回参加しましたが、私を含め参加者のみなさんが「今回は自分のために企画してくれたのではないか?」と感じるほど、スタートアップ起業家にとって身近なテーマを採り上げてくださるので、スタートアップ経営者にとってとてもありがたい機会です。

河西:クロスラーニングの会は、スタートアップが直面する「採用」と「組織構築」と「ファイナンス」の3つの悩みを共有し、解決の糸口をつかんでもらうために企画している勉強会です。そういっていただけるのは運営側としてうれしいですね。

富士:厳しい状況を乗り越えた起業家から、直接、経験談やアドバイスをうかがえるのはとても貴重な機会ですし、業界は違えど同じ悩みを抱える経営者同士、同じ時間を共有できるだけでも励みになります。明日からすぐ実践できるようなヒントもたくさんいただけるので、継続して参加するつもりです。

——ほかに、どのような支援を受けていますか?

富士:私は研究者出身のせいか、どうしても技術的な説明に力を入れてしまいがちなクセがあります。ときに、相手が求めるポイントからずれた回答をしてしまうことがあったのですが、河西さんから「こっちの伝え方の方が相手に刺さりますよ」と改善点を具体的に指摘いただいたことで、以前より円滑にコミュニケーションが図れるようになりました。

河西:立場や役割、フェーズによって物事の捉え方や興味の範疇が異なりますからね。それに私自身、かつて研究者を目指したこともあるので、富士さんの気持ちは痛いほどよくわかるんです。

富士:河西さんの一つひとつの言動には研究に対するリスペクトを感じるので、素直に受け止められるのかも知れません。

河西:経営者が納得しないとことは何事もうまくいきませんし、それはほかの利害関係者も同じです。仮に富士さんが首を縦に振りたくないであろうことでも、客観的に見てやるべきだと思えばそのようにお伝えしますし、その逆も同じです。どんなときもフラットであることを心がけているので、富士さんのように聞く耳を持ってくださる方だとアドバイスのしがいがあります。壁の向こうに、きっと支援してくれる人たちがいる

——改めてこれからの目標を聞かせてください。

富士:日本にもバイオベンチャーが続々と増えていますが、いまのところ医薬品の上市を実現したバイオテック企業はまだありません。日本のバイオベンチャーシーンを盛り上げるためにも、誰もがうなずけるような成功事例が必要です。日本のバイオベンチャーの存在意義を確かなものとするためにも、少しでもはやく優れた医薬品を社会に届けたいと思っています。

 河西:バイオテック領域は最初からグローバル市場を狙える数少ない領域です。リボルナさんにはまずは日本発のグローバルベンチャーとして名乗りを上げてもらい、ゆくゆくは世界的な製薬会社になっていただきたいですね。切に願っています。

富士:そういっていただけて光栄です。これからも河西さんをはじめAngel Bridgeのみなさんには、忖度なく意見していただきたいと思っていますので、今後ともよろしくお願いいたします。

河西:もちろんです!

——最後に環境が整った大企業を卒業しスタートアップを起業したい方にメッセージをお願いします。

富士:もし、どうしても実現したいアイデアがあるなら、それを世に問うことを恐れないでほしいですね。いま勤めている会社では実現できなくても、その信念が正しいのであれば、組織の壁を乗り越えた向こうに、きっと支援してくださる方がいるはずです。ですから諦めず、業界の有識者やオピニオンリーダーに夢や目標を語り続けてください。仮に否定されても落ち込む必要はありません。ブラッシュアップのいいチャンスだからです。諦めない気持ちと続ける勇気を持って取り組めば、きっと道は拓けます。ぜひ頑張って挑戦してください。

河西:バイオベンチャーが成功を収めれば、日本でも後を追う人は必ず増えるはずです。そういう意味でもリボルナさんにはぜひ成功していただきたいと思います。研究者が学術的な賞賛に加え、経済的な恩恵を受けられるようになれば、日本の創薬市場も大きく変わるはずです。頑張ってロールモデルになってください。期待しています。

富士:ありがとうございます。「研究者」が再び日本の子どもの憧れの職業になるよう、これからも努力を続けるつもりです。

 

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