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INTERVIEW

日本一の遺伝子検査会社へ(Varinos株式会社)

[Varinos 桜庭CEO × Angel Bridge 河西]

2021.03.10

2020年9月にシリーズBラウンドで3億円の資金調達を実施したVarinos株式会社。生殖医療および産婦人科領域を中心に女性のヘルスケアを支える新規の臨床検査を開発・提供しています。
Varinos代表取締役の桜庭喜行氏はアカデミア出身。10年間の研究生活の末どういった経緯で起業に至ったのか、Angel Bridgeとどのような歩みがあったのか、生殖医療の未来について、桜庭喜行氏とAngel Bridge 代表パートナーの河西に聞きました。
桜庭喜行 Varinos株式会社 代表取締役
  • 理化学研究所ゲノム科学総合研究センター 、米国セントジュード小児病院、GeneTech株式会社、イルミナ株式会社を経て2017年Varinos株式会社を設立し、現在に至る。埼玉大学大学院 博士後期課程修了。
河西佑太郎 Angel Bridge株式会社 代表パートナー
  • ゴールドマン・サックス証券投資銀行部門、ベインキャピタル、ユニゾン・キャピタルを経て2015年Angel Bridgeを設立し、現在に至る。東京大学大学院農学系研究科修士修了(遺伝子工学)、シカゴ大学MBA修了。

遺伝子検査会社が足りない日本の状況をなんとかしたい、という想いからスタートした子宮内フローラ検査事業

遺伝子検査会社が足りない日本の状況をなんとかしたい、という想いからスタートした子宮内フローラ検査事業

Varinosは現在どういった事業を行なっているのですか?

桜庭:創業当初から続いているのは、腟や子宮から採取した検体を用いて子宮内の菌の種類や割合を調べる、子宮内フローラ検査事業です。子宮内フローラとは子宮や膣内に存在する菌の環境のことであり、女性や胎児を感染症から守り、妊娠や着床率と重要な関わりがあります。
また、検査して子宮内フローラの状態が良くない場合は、子宮内フローラの改善効果があるラクトフェリンをサプリとして摂取することができます。こちらは研究段階から始めましたが、子宮内フローラの改善効果がかなり高く、多くの患者さんにご利用いただいています。

子宮内フローラのためのラクトフェリン

また、体外受精や顕微授精後の胚の染色体や遺伝子を着床前に評価可能な着床前ゲノム検査(PGT-A)も昨年から本格的に始めました。
将来的にはもっと色々なゲノム関連技術を開発したいと考えています。

桜庭さんはずっとアカデミアの世界にいたようですが、どういった経緯で起業しようと思ったのですか?

桜庭:おっしゃる通りもともと私はアカデミアの人間でして、博士課程修了後アメリカで基礎研究を行っていたのですが、その中で自分の人生について考える機会がありました。当時プリスクールに通っていた娘が、「コミュニティヘルパーの格好をして学校にきてください」という宿題をもらってきたんです。
コミュニティヘルパーというのは医師や消防士など地域の人々を助ける職業の人のことなのですが、その時ふと、僕はコミュニティヘルパーじゃないなと思って。基礎研究をしていても誰かが助かるわけではない。一度きりの人生だから、もっと人々に貢献ができる仕事をしたいと思うようになりました。
それならば、日本に帰ったら違うことをしよう、ビジネスサイドでやろうと思い、GeneTechという臨床検査会社にジョインしました。
その後イルミナというゲノム解析技術の会社に転職したのですが、そこで共同創業者の長井さんと出会い、2人で創業することになりました。長井さんと私は2人とも、遺伝子検査会社が足りないこの日本の状況をなんとかしたいという気持ちを抱いていたからです。

Varinos株式会社

次世代シークエンサーというゲノム解析技術は15年ほど前に誕生し、最初は研究用途のみでしたが、この10年で医療応用されてきました。イルミナもがんや遺伝病には力を入れてきましたが、アメリカ、ヨーロッパ、中国などに比べて日本はまだまだ実績が足りておらず、悔しい気持ちをずっと抱いていたんです。
そういった背景があり、自分たちでゲノム検査会社を作るべきではないか?やろうと思えばできるのでは?という話が出てきて、起業するに至りました。

なぜゲノム検査の中でも生殖医療の領域に注力されたのですか?

桜庭:理由は2つあります。1つ目は、前々職で生殖医療に近い領域で仕事をしていたからです。新型出生前診断(NIPT)を日本に導入するプロジェクトをやっていたので、産科の分野や先生方とのネットワークがありました。産科は妊娠した後の話で、生殖医療は妊娠する前の話ですが、ここもゲノムが活躍できる分野で、グローバルでは生殖医療の分野でもゲノム検査が大活躍していました。
しかし、着床前胚染色体異数性検査(PGT-A)は海外では一般的に行われている検査なのに、なかなか日本では実施されていませんでした。患者さんや産科の先生方も含め、やりたいのにできない現状をなんとかしたいという思いから、生殖医療がVarinosとしてのスタート地点になったのです。
2つ目の理由として、ゲノム医療は保険診療との相性が悪いという背景があります。がんなどの領域でのゲノム医療は既に取りざたされていますが、標準治療が終わっている人しか保険診療として受けられないんです。しかし標準治療が終わっているとかなりがんが進行しているので、あまり恩恵がありません。保険診療が絡んでくる領域だとなかなか技術を届けたいところに届けられないんです。しかし産科や生殖医療はほとんど自費診療なので、タイムリーに患者さんに最新技術を届けることができます。
こういった背景から、私たちのようなベンチャーが最新の技術を使って医療領域で勝負するなら生殖医療だろうと思うに至り、ここにまず注力することを決めました。
また我々は生殖医療を軸にしているように見えますが、実はこれはまだまだ第一歩で、ゲノム検査を柱にこれから様々な領域で開発・提供していきたいと考えています。

色々な不妊治療が日本にも存在しますが、Varinosの強みはどこにあるのでしょうか?

桜庭:分かりやすいように車で例えてみると、車を運転できる会社はたくさんありますが、我々は車体さえも作れる、需要があるフィールドで走れる車を自分たちでカスタマイズして作れるのが強みであると考えています。
Varinosは子宮内フローラのように、全く世の中になかった検査を作って、それを提供することができます。ただ単にキットや機械を買って運用しているだけの会社はいくつもありますが、自分達で方法を考えて開発して、検査を実行できる会社は国内にはほとんどありません。
そこが海であれば、海でも走れる車を作るし、凸凹な道であれば、タイヤの大きい車を作る。市販車では行けないようなところに行けるのがVarinosの強みであると考えています。

常に投資先と伴走し最適なタイミングで意思決定をする、Angel Bridgeのハンズオン支援のあり方

常に投資先と伴走し最適なタイミングで意思決定をする、Angel Bridgeのハンズオン支援のあり方

なぜシリーズAでAngel Brigeから資金調達を受けようと思ったのですか?

桜庭:今となっては事業が立ち上がっていますが、シリーズAの資金調達に向けて動き出した当時は設立から7ヶ月後ぐらいで、やっと検査が始まったばかりでした。
その上僕らは当時ストーリーを語るのが下手で、Varinosの事業の本当の価値を当時のVCに伝えられていませんでした。しかしその中でも河西さんは、Varinosの言語化できていない価値まで理解してくれていました。

河西:Angel Bridgeは桜庭さんの前々職のGenetechに投資しており、その頃から桜庭さんのことは知っていたので、桜庭さんが言っていることはとてもよくわかりましたね。

桜庭:生殖医療はベンチャーこそが活躍できる領域であり、河西さんは我々が持っているポテンシャルが実は他社と全然違うということを、会話しながら自ら気づいてくれていたんです。

Varinosへの投資の決め手は何だったのでしょうか?

河西:サイエンスもビジネスも理解できている人はなかなかいませんので、どちらもカバーできている経営陣が素晴らしいなとまず思いました。桜庭さん、長井さんという違うタイプの二人がとてもいいバランスをとっていましたね。
また事業領域としても、現在の日本の少子高齢化社会において、妊娠率を上げていくサービスはニーズがあるのはわかっていましたし、最先端の次世代シークエンサーを駆使して優れた遺伝子検査プロダクトを出すというのは、とても意義の深いビジネスだと感じました。
それをこの二人がやるというのならば、我々としても全力で支援したいと思い、即決で2億円の投資を決めましたね。

創業後、どのような逆境がありましたか?

桜庭:新型コロナウイルスの影響で、2020年の4月に日本生殖医学会から、人工授精、体外受精・胚移植、生殖外科手術などの治療に関しては、延期が可能なものについては延期を考慮するようにという通達が出てしまい、かなり不安でした。
しかし、子宮内フローラ検査は体外受精の前段階の検査だということにすぐ気づき、逆に準備する時間ができたと考えむしろ多く検査したほうがいいと思い立ちました。
そしてこのメッセージを伝えるために、「新型コロナに負けるなキャンペーン」として子宮内フローラ検査を打ち出し、この逆境を乗り越えることができました。

投資を受けた後、Angel Bridgeからどんな支援がありましたか?

桜庭:Angel Bridgeが我々と伴走してくれているというのは、常に感じています。僕も長井さんも経営の素人ですが、それでもいつもリスペクトしてくださり、きちんと我々の考えを尊重してくれながらも助言をくださるので、暖かいですし、とても頼りになります。
また、採用も資金調達も色々なタイミングがあると思いますが、今の所それらのタイミングは外れていないなと思っています。いつやるべきかは将来のことなのでその時はわかりませんが、後から見れば最適な時期にやっているなと思いますね。
例えば億単位の融資を、まだ資金ショートしていない時期に受けていいのか?と疑心暗鬼になりながらAngel Bridgeと一緒にプロセスを進めましたが、当時融資を受けていたからこそ、コロナの後迅速に融資を受けることができたなと今振り返ってみて思います。
また、このステージだと出会えないようなスペックの経営人材を紹介してもらったりなど、予定より良い方向に前倒しにしてもらっていますね。

シリーズBの資金調達にあたり、Angel Bridgeからどういった支援を受けましたか?

桜庭:ステージごとにコンタクトすべきVCや順番があると思うのですが、それらも教えてもらわないとわからなかったですし、誰がリードをとるのかなども、大事なことですが我々は何も知らない中でAngel Bridgeから教えてもらっていました。
また当時は焦ってしまう時期もありましたが、焦らずいろんな人の話を聞けばいいんだよと力づけてもらいました。助言がなければ間違った道に行っていたかもしれませんし、本当に心強かったですね。

河西:こう振り返ってみると、結構一緒に歩んできた感はありますよね(笑)。

Varinosを日本一の遺伝子検査会社に

Varinosを日本一の遺伝子検査会社に

桜庭さんはVarinosをどんな会社にしていきたいですか?

桜庭:最初はM&Aを目指していたのですが、今はIPOを目指す意思決定をしています。
我々の起業当初の目的はゲノム検査を日本に根付かせることでしたが、M&Aなら外資に買われる可能性が高く、ということは日本でこの事業をやりたいという目的とずれてしまう。それならばIPOを目指すしかないよね、というのがここ最近の結論です。
また、IPOをするからには日本で一番の遺伝子検査会社になりたいと思っており、「遺伝子検査といえばVarinosだよね」と言われるようになりたいです。
もちろん海外進出は展開が始まったばかりですが、子宮内フローラ検査だけ切り取って見るともう世界一ですし、グローバルでも日本の検査会社はVarinosだと言ってもらえるよう進化し続けたいと思います。

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