INTERVIEW

イノベーションを力強く支えるCFOの魅力(Varinos株式会社)

[平川秀年VarinosCFO × Angel Bridge 河西]

2023.09.05

Varinos(バリノス)は、最新のゲノム解析技術に基づく子宮内フローラ検査や着床前ゲノム検査を通じて、少子化という大きな社会課題と向き合うバイオベンチャーです。Angel Bridgeは、そんなVarinosを創業期から支え、現在も同社の成長を後押ししています。今回ご登場願うのは、VarinosでCFOを務める平川秀年氏です。平川氏に公認会計士になろうと思ったきっかけや、監査法人からベンチャー企業へ転身した背景、さらにVarinosにジョインした理由やAngel Bridgeとの公私にわたる関係について、ざっくばらんに語っていただきました。
平川秀年 Varinos株式会社 取締役CFO
  • 2006年、公認会計士試験合格しPwCあらた有限責任監査法人に入所。現場責任者としてメガバンクでの内部統制評価支援業務に従事。2015年、株式会社GA technologiesに転じ、取締役経営管理本部長として東証マザーズ(当時)への上場を実現。上場後はM&AならびにIRを担当する。2019年、株式会社キャスター取締役CFO、2020年、株式会社RECLO取締役CFOを経て、2021年、Varinos株式会社の取締役CFOに就任。現在に至る。
河西佑太郎 Angel Bridge株式会社 代表パートナー
  • ゴールドマン・サックス証券投資銀行部門、ベインキャピタル、ユニゾン・キャピタルを経て、2015年Angel Bridgeを設立し、現在に至る。
  • 東京大学大学院農学系研究科修士修了(遺伝子工学)、シカゴ大学MBA修了。

最新の研究成果をいち早く医療現場に届ける

Varinosの事業内容を教えてください。

平川:Varinos​は、高速でDNA配列を解読する次世代シークエンサーを用いたゲノム検査サービスを提供するバイオベンチャーです。現在は医療機関から送られてくる検体を自社ラボで解析し、その結果を不妊治療に活かしていただく一方、妊活に役立つサプリメントや検査キットの提供なども行っています。

競合の状況はいかがですか?

平川:現在、海外に類似サービスを手掛けている企業が1社ありますが、いまのところ国内の競合もその1社のみとなります。(2023年8月現在)。

ゲノム検査を手掛ける企業は数多くあります。なぜ競合が少ないのでしょう?

平川:最新の研究成果をもとにしたサービスだから、というのが大きな理由です。それまで無菌とされていた子宮内に細菌叢が存在することがわかったのが2015年で、子宮内の細菌叢に善玉乳酸菌の比率が低い場合、体外受精の成功率が下がるという研究結果を発表されたのが翌年の2016年のことでした。Varinosは2017年2月に創業し、その年の12月に子宮内フローラ検査の実用化に成功しています。最新の研究成果を圧倒的なスピード感で実用化に漕ぎ着けられたのは、創業者である桜庭喜行と長井陽子がゲノム研究のエキスパートであったからです。さらにサービスの実用化をいち早く実現したことにより、検査数はすでに2万検体を突破しており、いち早く先行優位性を獲得できたことも競合の少なさにつながっていると思います。

予備校の恩師の助言で監査法人からベンチャーへ

そもそも平川さんは、なぜ公認会計士になろうと思われたのですか?

平川:高校時代は剣道一筋で、インターハイで8位入賞するくらい入れ込んでいました。当時は剣道の強豪校に進もうと思っていたのですが、推薦を受けられず大学進学を諦めざるを得なかったんです。それで給料のよかった地元のパチンコホールに就職し、5年ほどたったころだったでしょうか。「このままでいいのかと」と考えるようになり、パチンコホールを辞め資格予備校に通い出しました。高校時代に簿記2級を取っていたので、1級を取ってからその先の人生を考えようと思ったんです。予備校に通い出してしばらくたったころ、先生から「予備校でバイトすれば学費が免除になる」と教えてもらい、それなら簿記よりも難しい公認会計士資格を目指そうと思ったのが資格を取るきっかけになりました。

平川さんは、公認会計士試験合格者として監査法人PwCあらたでご活躍後、3社のベンチャー企業を経てVarinosに参画されました。なかでも、2015年から19年まで在籍された不動産テックのGA technologies社では、取締役経営管理本部長としてIPOの実現をリードし、いまや同社は売上高1,000億円を超える大企業です。結果からすると素晴らしい成果だと思いますが、監査法人での安定したキャリアを捨てるのは勇気が必要だったのでは?

平川:安定志向で監査法人に入ったのであればそう感じたかもしれません。でも私の場合、いずれベンチャーにいくつもりで監査法人に入りました。公認会計士の資格を取るために通っていた予備校の先生からの影響です。

予備校の先生から、どんな言葉をかけられたのですか?

平川:公認会計士の知識が活きるのは監査法人だけではないといわれたんです。公認会計士資格を取るには4科目の短答式試験と5つの論文式試験をクリアしなければなりません。会社法に至っては弁護士資格並の知識が求められるのに、監査法人で主に使うのは会計学と監査論のふたつだけ。その先生から、企業のバックオフィスを支えるほうがはるかに公認会計士の実力が磨かれるし、ダイナミックで面白い世界が体験できるといわれて、なるほどなと。事業会社のなかでも組織が小さく、ひとり一人の裁量が大きいベンチャーならさらに面白い経験ができそうだと思いました。

監査法人ではどんなお仕事をされていたのですか?

平川:将来、事業会社のバックオフィスを支えるとしたら、財務会計だけでなく適切な業務プロセスやリスク管理などについても熟知しておく必要があります。そのためメガバンクを顧客とする内部統制の評価支援業務プロジェクトを通じて、ベンチャーでも活かせる知識や経験を育みました。

 

求めていたのはイノベーションを起こすベンチャー

目指していかれたとはいえ監査法人とベンチャーでは環境がまったく異なりますよね。理想と現実のギャップに苛まれたこともあったのでは?

平川:そうですね。でも、それは入る前からわかっていたことですから、環境が違うことに憤ったり、仕事を選り好みしたりするつもりはありませんでした。CFOは決算書を語るのではなく決算書をつくる責任者です。組織をどう動かせば決算書にいい変化が起こせるか考え実行するのが仕事でもあります。日々の帳簿付けから経費精算、請求書の発行、入金や振込確認など経理実務に加え、営業同行に忙殺された時期もありましたが、それでもあまり苦にせずやりきれたのは、それをやることが組織のなかで必要だと思ったからに過ぎません。たまたま仕事を通じて知り合った公認会計士資格をお持ちのCFOからも「ベンチャーに入ったからには、会社の成長に必要なことは何でもやるべき」といわれていたので、それが当たり前だと思っていたというのもあります。

平川さんは、GA technologiesを皮切りに、その後もキャスターやRecro、そしてVarinosとベンチャーのCFOとしてキャリアを重ねてこられました。平川さんはどんな基準でご自身がコミットするベンチャーを選ばれてきたのですか?

平川:自分では「リノベーションではなく、イノベーションを起こすベンチャー」を選んできたつもりです。世の中を便利にするだけでは飽き足らず、これまでにないものを生み出そうと意気込んでいる企業を支えるのが自分の使命だと思っているので、そうした志がある企業かどうかで判断してきました。

Varinosに参画されたのは改めてIPOを目指したいと思われたからですか?

平川:そうですね。株式上場を経験後、複数のベンチャーで各種規程の策定や運用、M&Aや資金調達などにかかわる機会を得て、CFOとしてのキャリアに厚みを持たせることができました。ここで改めてIPOを達成すれば、これまでの経験を整理できるだけでなく、再現性のある取り組みだったことを証明できます。だからこそ先駆的な取り組みを行っているベンチャーで経験を積んできたわけです。もちろんVarinosを選んだのは、文字通りイノベーティブな事業を手掛けているからにほかなりません。

 

希有な経歴と実績に惹かれ、贈られたラブコール

Varinosとの出会いについて教えていただけますか?

平川:前職のプロジェクトが一段落したタイミングで、エージェントに相談したところ河西さんを紹介されました。それがVarinosとの出会ったきっかけです。

河西さんはいつからVarinosとお付き合いがあるのですか?

河西:以前から桜庭さんの評判を聞いており、ゲノム解析の領域で起業すると聞き「あの桜庭さんが起業するなら」ということで早々に投資を決め、私自身、いまも社外取締役にも名を連ねています。創業間もなくからのお付き合いですから、もはや身内のような立場です。

そんな経緯もあって、平川さんにお会いすることになったわけですね。

河西:はい。投資先支援の一環として普段からエージェントの皆さんとお付き合いしており、そのなかで平川さんをご紹介いただきました。ご経歴をひと目見るなり「VarinosのCFOにぴったりな人材」だと思いましたね。平川さんは公認会計士試験に合格された経緯もさることながら、創業間もないベンチャーをIPOに導き、1,000億円企業への礎を築かれました。監査法人での経験に加え、ベンチャーにおける財務会計、経理の実務に通じており、しかもIPOを成功させている。CFOとしてはかなり希有な存在といえます。ぜひCEOの桜庭さんと引き合わせたいと思って、私からラブコールを送りました。

平川:私自身、以前から少子高齢化問題を通じて、医療やヘルスケアテック領域に関心があったので、お声がけいただいたときはとてもうれしかったですね。でも、河西さんとお会いするのは正直躊躇しました。東大大学院で遺伝子工学を学ばれ、ゴールドマン・サックスやベインキャピタル、ユニゾン・キャピタルを経て、ご自身でAngel Bridgeを立ち上げた投資の専門家です。とても緊張したのを覚えています。

実際にお会いになっていかがでしたか?

河西:実際にお会いしてみた第一印象は、ご経歴から受ける印象とはまったく違って、とても温和で接しやすい方でした。CFOは数字を管理する能力に長けているだけではダメで、社内外の人たちと健全な人間関係を築けなければ務まりません。その点、平川さんはベンチャーの現実を踏まえた上できちんと理想を追求できる人とお見受けしました。ここまでバランスがいい人材にはそうそう出会えませんから、面談後、桜庭CEOに「ぴったりの方を見つけました!」と、興奮気味にメールを送ったのを覚えています。

平川さんはいかがでしたか?

平川:私も河西さんもご経歴から受ける印象とは違い、すごく話しやすい方だなというのが第一印象でしたね。バイオや資本施策に関する知識が豊富であるにもかかわらず、押し付けがましいことは一切なく、常に私たちの考えや希望を聞いた上で的確なアドバイスをくださいます。その印象はいまも変わりません。だからこそ長くお付き合いできるのでしょうね。

Angel Bridgeにしかできない相談がある

普段、Angel Bridgeとはどんなお付き合いを?

平川:毎月の役員会や定例ミーティングで、さまざまな課題を一緒に検討して頂いています。Angel BridgeがほかのVCと違う点があるとすれば、直近の数字や実績についてだけではなく、不確実性の高い中長期的な戦略や課題などについて、腹を割って話せるところですね。IPOがゴールだと考える投資家が多いなか、その先を見据えて必要な情報や知見を提供してくださるので、Angel Bridgeにしか相談できない相談事は実はたくさんあるんです。先ほど河西さんから「身内」という言葉が出ましたが、まさにおっしゃる通りで、最近も営業資料に手を入れていただいたり、新オフィスへの移転を記念して投資家向けの内覧会を勧めて下さったりと、微に入り細に入りさまざまな面で助けていただいています。

河西さんはどんなことを意識して支援されているのですか?

河西:創業期から一緒に歩んできているので、我が子の成長を見守るような気持ちで接しています。褒めるべき点は褒めますし、耳の痛い話であってもオブラートに包むことなく率直に話せるのは、しっかりとした人間関係が確立されているからです。良いときも悪いときもずっとそばにいるつもりですので、本音で話し合える仲間だと思っています。

平川:私たちもファミリーの一員として迎えてくださっている感覚がありますね。フォーマルなミーティングだけでなく、ゴルフやフットサル、バーベキューなどAngel Bridgeの投資先を交えたイベントも頻繁に企画してくださったり、COO兼CSOの齊籐のように河西さん経由で優秀な人材を紹介してくださったりと、公私にわたるご支援には本当に感謝しています。

河西:Varinosのような将来性のある企業に対し、資金だけでなく人的貢献ができるのは私たちにとってもうれしいことです。今後も引き続き成長の過程で必要なリソースを提供できるよう末永く支援を続けていければと思っています。

VarinosからAngel Bridgeに期待することは?

平川:私自身、IPO後の成長をどう牽引すべきか未知数な部分があるため、河西さんを筆頭にAngel Bridgeの皆さんには、資本施策への助言はもちろん、事業展開やサービスの拡充、さらには組織拡大など、IPOの先の成長を見据えた支援に期待しています。

平川さんご自身はVarinosをどんな会社にしていきたいですか?

平川:子宮内フローラ検査の普及をきっかけに、オーダーメイド医療の発展に貢献していきたいですね。業界のパイオニアとしてしっかり利益を出し、持続可能なビジネスを確立しなければと思っています。個人的には国内外の有望なバイオベンチャーを集め、CVC(コーポレートベンチャーキャピタル)を組成し、この業界を盛り上げられたらと思っています。

監査法人など、プロフェッショナルファームにいらっしゃる方にメッセージをお願いできますか?

平川:ベンチャーはリスクが大きい選択だと思われる方がいるかもしれませんが、それはもはや過去のものになりつつあります。むしろ国家資格という強い武器があるからこそ選択できるキャリアがあるはずです。この世界に興味があるならぜひチャレンジしていただきたいですね。

河西:実際、平川さんのように監査法人からベンチャーをはじめとする成長企業のCFOに転身されるケースが目に付くようになりました。しかしその一方で、志半ばで諦めてしまう方も一定数おられます。ベンチャーで成功するには何が必要ですか?

平川:一番大事なのは変化への対応力でしょう。もちろんプロフェッショナルとして知識や経験を駆使して我を通さなければならない局面はあります。しかし社会情勢の変化に対して大胆な選択を迫られることが多く、朝令暮改すら日常茶飯事なのがベンチャーです。その変化に翻弄されてしまうとツラいでしょうが、変化を受け入れ楽しめる人にとっては、これほどダイナミックで面白い環境はありません。

河西:平川さんを見ていると、自分が決めた役割や肩書きに固執しないことも重要だと感じますね。

平川:おっしゃる通りですね。ベンチャーのCFOはデスクの前にふんぞり返っていては役割は果たせません。企業によって程度の差こそあるでしょうが、泥臭い仕事を厭わない覚悟は必要でしょう。自分の役割の範囲を決めず何でもトライしてやろうという気概をもって、会社の屋台骨を支えるのは難しくもあり、楽しい仕事なのは間違いありません。

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