元エアバスの技術者が狙う建設DX [ローカスブルー宮谷聡代表 × Angel Bridge 林]

元エアバスの技術者が狙う建設DX(ローカスブルー株式会社)

[ローカスブルー宮谷聡代表 × Angel Bridge 林]

2023.03.09

レーザースキャナーやドローン、スマートフォンなどで取得した3D点群データをクラウド上で解析できる「ScanX(スキャン・エックス)」を提供するローカスブルー。現在、国内の建設業界に対し、高い精度と使いやすさ、安価な価格を武器にシェアの拡大に努めています。今回は、2022年7月に2度目となるプレシリーズAラウンドで総額約4億円に上る資金調達を実施した同社代表の宮谷聡氏をお迎えし、パートナーの林とともにAngel Bridgeとの出会いや支援内容、今後の展望について語っていただきました。
宮谷聡 ローカスブルー株式会社 代表取締役
  • 2015年3月、東京大学大学院航空宇宙工学専攻修了。在学中に東京大学総長賞受賞。2016年9月、フランスのISAE-SUPAERO(国立宇宙航空学校)修了。同国のAirbus社でテストエンジニアとして勤務後、シリコンバレーのAirware社、イスラエルのAirobotics社などスタートアップでエンジニアとして活躍。2019年10月スキャン・エックス(現ローカスブルー)を創業。現在に至る。
林正栄 Angel Bridgeパートナー
  • 伊藤忠商事にて北米統括シカゴ支店長などを務めた後、1部上場企業取締役、コンサルティング会社代表取締役、エミアル株式会社代表取締役社長などを経て2015年Angel Bridgeを設立し、現在に至る。 慶應義塾大学経済学部卒、ノースウエスタン大学Kellogg MBA修了。

国際派技術者が建設テックに参入した理由

ローカスブルーの事業内容をご紹介ください。

宮谷:ローカスブルーは2019年設立のスタートアップです。レーザー測量などで習得した3D点群データをブラウザでクラウド上にアップロードするだけで、地面や建物、樹木、その他の構造物をAIが自動分類。必要な情報のみを取り出し、現場の状況分析などに利用できる「ScanX」をSaaS形式で提供しています。

国際派技術者が建設テックに参入した理由

「ScanX」はどのようなユーザーが利用するサービスなのですか?

宮谷:2020年9月のリリース以来、全国43都道府県の建設会社、土木会社、測量会社などで広くご利用いただいています。国交省が中心となって建設現場のICT化を推進する「i-Construction」の広がりや月額3万円から利用できる敷居の低さ、誰でも簡単に利用できるUIのシンプルさなどを評価いただき、2021年度の「i-Construction大賞」国土交通大臣を受賞できました。

起業のきっかけは?

宮谷:起業を志したのは、イスラエルのスタートアップ時代のことです。イスラエルは18歳になると兵役が課される国。最新のITを活用した軍事技術開発に携わる若者も多く存在します。習得した軍事技術を民間転用したスタートアップを立ち上げる人も多く、同世代の同僚にはすでに2社、3社の起業を経験した人がいるほどでした。私はそれまでフランスのエアバスやシリコンバレーのドローンベンチャーで働いた経験はありましたが、起業経験はありません。やるなら29歳のいまだと思い2019年9月に帰国し翌月起業しました。

なぜ建設業界に参入しようと思われたのですか?

宮谷:当時決めていたのは、前職時代に学んだ3DデータをAI解析する技術を応用したサービスを立ち上げることだけで、最初から建設業界を狙って起業したわけではありません。帰国から半年ほどは、自動運転や製造や損害保険など、可能性のありそうな業界を回ってヒアリングを重ねた結果、建設業界を選びました。計画、調査、設計段階で3Dモデルを活用するi-Constructionへの対応は時代の趨勢です。少子高齢化が著しい建設業界のペインを解消することは社会的意義もあり大きなビジネスも見込めます。そんな理由で建設業界に参入しました。

建設業界経験がないなか、参入障壁を感じたことは?

宮谷:もちろんあります。いまでこそ建設業界に参入するスタートアップは珍しくありませんが、当時はほとんど例がありませんでしたから。「リスクがあるから止めるべき」と、助言をいただいたこともありましたが、見方を変えれば、競合が少ないブルーオーシャンであるとも言えます。3D点群データを処理する既存のソリューションは多機能である一方、利用するためには高額なソフトやハードを買わなければならず、導入できる企業は限られています。しかも操作性は非常に複雑です。一方、私たちには高度なAIエンジンと3D解析技術があり、SaaSを通じて安価に、かつ機能を絞り込みシンプルなUIで提供すれば必ず勝機は巡ってくると信じていました。

参入後の反応は?

宮谷:2020年に製品をリリースした直後こそお客様は10社だけでしたが、その後、クチコミで利用者がどんどん増え、この2年の間に1万現場でご利用いただくまでになりました。

現在の社内体制を聞かせてください。

宮谷:業務委託を含めてメンバーは約30名のメンバーが在籍しています。当初はエンジニアがほとんどでしたが、いまはセールスやマーケティングの数も増え、エンジニアリング側とビジネス側の比率は2:1程度ですね。日本人以外にもフィリピンやインドネシア、ドイツ出身のメンバーが働いており、社内公用語は英語と日本語のバイリンガルで、多国籍なチーム構成になっています。

国際色豊かなメンバーが、歴史ある建設業界のニーズに応えるのは大変なのでは?

宮谷:確かに簡単ではありません。専門的な機能開発にあたっては国交省が出す1,000ページを超えるマニュアルを読み込む必要があったり、建設業界の商慣習や業務知識を身に付けたりする必要がありますからね。ただ、言葉や文化、制度などに依存しないAIエンジンや3D解析技術の開発を担当するメンバーと、日本市場に適応するための開発を担当するメンバーを分ければそれほど大きな問題にはなりません。実際、開発効率を維持できています。

戦略ファーム品質の分析支援に感動

Angel Bridgeとの出会いについて教えてください。

宮谷:当社は2021年7月と2022年12月の2回、プレシリーズAラウンドで出資を募った経験があるのですが、初回のリードインベスターを務めてくださったベンチャーキャピタルの担当者に、Angel Bridgeさんを紹介していただいたのが最初の出会いです。

林:当社でシニアアソシエイトを務める八尾(凌介)が、母校のTA(ティーチングアシスタント)を務めたとき、担当した学生さんが、御社でインターンされていたご縁もありましたよね。

宮谷:そうでした。そこから定期的にお話しするようになり、Angel Bridgeさんの出資先をご紹介いただいたこともありました。Angel Bridgeさんから投資を受けようと思った一番の決め手は、ご紹介いただいた出資先のひとつである見積サービスのミツモアの創業者でありCEOでもある石川彩子さんに「絶対に入ってもらったほうがいいですよ」と強く勧められたからです。

具体的にどんなお話があったのですか?

宮谷:石川さんがおっしゃるには、Angel Bridgeさんはプロフェッショナルファーム出身の方が多く、分析力や戦略立案能力に長けており、必要とあれば商談にも厭わず参加してくれる。出資先に対してこれほど熱意を持って対応してくれるVCはそうはないからと力説され、心を動かされました。

林:投資先の経営者にそんなふうに言っていただけるのは投資家冥利につきます。実際、我々とお付き合いしてみていかがですか?

宮谷:石川さんの言葉通りでした。パートナーの林さんをはじめ、シニアアソシエイトの八尾さん、アソシエイトの三好(洋史)さんに担当していただいて本当に良かったと思っています。

Angel Bridgeからはどんな支援を受けましたか?

宮谷:以前、価格体系を見直すにあたって、何を基準に妥当な価格を決めるべきかわからず悩んでいたとき、Angel Bridgeさんから「価格感度分析をやってみませんか」と提案いただいたことがありました。顧客に送る調査項目のリストアップから分析資料の作成までテキパキと進めてくれたおかげで、私は調査票をお客様に送って結果を聞くだけ(笑)。以前から数値分析に強い方々とは聞いていましたが、そのクオリティの高さはまさに戦略ファーム品質で感動を覚えるほどでした。

林:そう言っていただけるのは嬉しいですね。八尾や三好も喜ぶと思います。

宮谷:こうした業務に直結したご支援に加え、Angel Bridgeさんは定期的に投資先企業の経営者が集う会を主催してくださるのですが、それが個人的にはとてもありがたいなと思っているんです。皆でバーベキューやフットサルに興じた後や「クロスラーニングの会」と呼ばれる勉強会で、経営や組織、プロダクトにまつわる悩みについて語り合うのが楽しく、貴重な学びの機会にもなっているからです。経営者は孤独な存在です。古くからの友人を除けば、本音で話せる仲間は多くありません。毎回参加者は20人くらいで、親しく語り合うにはちょうどいい規模感でもあり、実際、個人的な相談ができる経営者に何人も出会えました。

林:我々としてはご縁をいただいた起業家の皆さんはまさにファミリーだと思っています。でそう言っていただけてとても光栄です。

戦略ファーム品質の分析支援に感動

個人投資家や大手VCにはない魅力を育んでほしい

林さんの目に宮谷さんはどのような経営者に映っていますか?

林:輝かしいご経歴をお持ちなのはプロフィールを見れば一目瞭然ですが、それに胡座をかくことなく顧客やビジネスと真摯に向き合っていらっしゃる点が素晴らしいと思っています。創業当初から地方のお客様のもとにも足繁く通っていらっしゃいましたよね。

宮谷:そうですね。当時は毎日100件もの営業電話を掛け、商談のチャンスがあれば日本全国どこにでも足を運んでいました。エンジニア時代に培った技術力だけでは不十分なのはわかっていましたし、部外者である自分が業界のプロに認めてもらおうと思ったら、相手の懐に飛び込みコミュニケーションを取るしかありません。フランスやアメリカ、イスラエルにいたころから、そうやって人の輪をつなげ、仕事をしてきたので泥臭い営業も苦になりませんでした。

林:技術力の高さとフットワークの軽さ、そしてビジネスに対する情熱、そして明るく親しみやすいお人柄も含め、投資家の目から見て経営者としてのバランスが絶妙だと思います。

宮谷:ありがとうございます。

これから、Angel Bridgeにはどんな支援を期待しますか?

宮谷:ビジネスが大きくなるにつれて戦略や分析面でお力添えをいただく機会は今後増えると思いますが、個人的にはAngel Bridgeさんが持つファミリー感が大好きなので、規模が大きくなってもこの雰囲気を保っていただきたいですね。これは個人投資家や既存の大手VCの皆さんには出せないAngel Bridgeさんならではの価値。これからも経営者同士が密な人間関係を育めるような場作りを大切にしていただけたらとても嬉しく思います。

林:そうですね。宮谷さんが持つプロダクト作りのノウハウや事業の海外展開、グローバル人材の採用に関する知見を必要とする投資先は少なくありません。後輩起業家の良き兄貴分として相談にのってあげていただけたら私どもとしても本望です。

宮谷:もちろんです。お役に立つなら喜んでやらせていただきます。

今後の目標を聞かせてください。

宮谷:建設業界は全国に約40万社あり、私たちのサービスを活用していただけそうな企業はおよそ8万社あります。まずはその市場を確実に獲っていくのが当面の目標です。その次の目標としてはやはり海外展開になるでしょうね。まずは巨大な建設市場があるアジアパシフィック地域を手はじめに、ScanXの拡販に努めていきたいと思っています。今後はテラバイト級のデータを一括処理できる新プロダクト「Deep3」にも力を入れていくので、次回シリーズAラウンドでの資金調達が大きな節目になるでしょう。Angel Bridgeさんからのご支援にも期待しています。

林:もちろんです。引き続き資金面からのご支援もさることながら、営業組織の強化や営業先のご紹介など、できることはまだまだたくさんあると思っています。Angel Bridgeとしても、宮谷さんが適切なタイミングで適切なチャレンジができるよう、息の長いご支援をするつもりです。ぜひ日本発のメガベンチャーになってください。

宮谷:がんばります!

読者の皆さんにメッセージをお願いします。

宮谷:スタートアップで過ごす時間は濃密で、1年もあればどんなことでも起こり得ます。良いことや悪いことが入れ替わり訪れる環境にあっても、情熱を失わず前に進み続けるには、好きだと思えるビジネスに取り組むのが一番です。私はお客様のペインをテクノロジーの力で解決するのが何よりも好きですし、その思いを支えてくださるAngel Bridgeさんのような力強い伴走者もいます。熱意ある者の周囲にはおのずと人が集まり、機会が育まれていくもの。ぜひ一緒にスタートアップ界隈を盛り上げていきましょう!

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