Smartryde
INTERVIEW

コロナ禍を乗り越えた調達(株式会社SmartRyde)

[SmartRyde 木村CEO × Angel Bridge 林]

2021.09.27

コロナ禍を乗り越えシリーズAの資金調達を果たした株式会社SmartRyde。空港とホテルを結ぶハイヤーサービスの予約プラットフォームを運営しています。 どうやってここまで数多くの空港・OTAとの提携を果たしたのか、どのようにコロナ禍と戦ってきたのか、そしてSmartRydeの目指す世界について、SmartRyde代表取締役CEOの木村氏とAngel Bridgeパートナーの林に聞きました。
木村聡太 株式会社SmartRyde代表取締役
  • 立命館大学在学中の2017年3月にディーエルジービー株式会社(現 株式会社SmartRyde)を設立。
林正栄 Angel Bridgeパートナー
  • 伊藤忠商事にて北米統括シカゴ支店長などを務めた後、1部上場企業取締役、コンサルティング会社代表取締役、エミアル株式会社代表取締役社長などを経て2015年Angel Bridgeを設立し、現在に至る。 慶應義塾大学経済学部卒、ノースウエスタン大学Kellogg MBA修了。

海外での移動の不安を取り除きたい

SmartRydeはどのような事業を行っているのですか?

木村:SmartRydeは空港送迎に特化したマーケットプレイスです。地元のタクシー事業者と、オンライン上で取引を行う旅行事業者であるOTA(Online Travel Agency)をマッチングするビジネスを展開しています。

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旅行客のどのようなペインを解決しているのですか?

木村:オンラインで旅行を手配する人は世界的に年々増えており、OTAもそれに伴い増えています。しかし、航空券やホテルなどを別々で予約するのは非効率で手間がかかります。そこで、一つのサイトで航空券・ホテル・現地での移動までセットで予約するという世界観が広がってきており、我々はこの中で現地での移動サービスを提供しています。

Uberなどの事業者ではこのペインは解決できないのでしょうか?

木村:OTAは世界中の旅行商品を扱っていますが、Uberが実際にオペレーションできている国は限定的です。そのなかで、世界中の空港送迎を航空券やホテルとまとめて予約できるというのは、非常にエンドユーザーに対する付加価値が高いと思います。

なぜベンチャー企業であるSmartRydeが世界トップクラスのOTAと提携できるようになったのでしょうか?

木村:一番大きなターニングポイントとなったのは、2018年に中国の大手OTAであるCTripと接点を持ち提携に至ったことです。CTripはグローバルでも非常に名前の通ったOTAですが、そういったOTAとベンチャーが提携しているという実績がトラックレコードになり、ExpediaやBooking.comといった大手OTAとも連携できるようになりました。

どれくらいの数の空港をカバーしているのですか?

木村:現在は700の空港をカバーしています。しかし世界中には約3,500の空港がありまだまだ20%くらいしかカバーできていないので、さらに広げていく予定です。

創業した当初はCOOの朝川が旅行業界でのキャリアを通して培った現地の会社とのネットワークを頼りにしていましたが、去年からビジネスデベロップメントのチームを各国に作り、各地域の担当者が新規の空港・タクシー会社の開拓、そしてリレーションシップの構築もしています。

起業家シェアハウスで生まれた繋がり

なぜSmartRydeを設立しようと思ったのですか?

木村:もともと起業にずっと興味があり、大学2年生の時に大学の近くに起業家のシェアハウスができたというニュースを見て、そこに住むことを決めました。1年ぐらい住んでいたのですが、周りが新しいことにどんどんチャレンジしていくのを見て、自分も何かやりたいと思い起業を決めました。

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なぜこの事業をやろうと思ったのですか?

木村:まず元から旅行が非常に好きで、大学1年目に東南アジアに行きました。その時航空券やホテルはOTAで予約したのですが、空港からの移動はその場で手配し、タクシーに乗りました。しかし、ぼったくられたり全然違うところに連れていかれるなどハプニングが大変多く、こういった現地での移動もユーザーのペインとしてあるのだなと痛感しました。そこで、空港からの移動のハードルをまず下げたいと思い、この事業で起業をするに至りました。

起業時はどんなメンバー構成だったのですか?

木村:元々1人で起業し、そこから人を集めていきました。COOの朝川はシェアハウスで出会ったのですが、25年以上の旅行業界経験を持つこの分野のプロフェッショナルで、ハイヤー会社に強いネットワークがありました。

CFOの池田は外資系の証券会社に勤めていましたが、彼もシェアハウスで出会い、CFOとして参画してもらうことになりました。いろんな経験のあるメンバーにサポートしてもらえる環境がシェアハウスを通じて出来ていたことに気づきました。

現在は他にどんなメンバーが集まっているのですか?

木村:今はカンボジアやタイなど海外にもオフィスを展開しており、ビジネスデベロップメントは基本的に海外オフィスで行っています。海外のメンバーにはまずオペレーション業務からスタートしてもらい、2年ほど経験を積んだ後、営業やマネージャーの部署などよりバリューがある部署に異動し活躍してもらえるような設計にしています。またエンジニアも最近オーストラリア人を採用したりなど、国籍を問わず優秀な人は採用するという方針をもっています。

例えばヨーロッパの人は日本人が行かないような地域にたくさん行きますが、そういった地域は朝川のように海外での経験が長いメンバーや、海外に住んでいるメンバーに聞かないと情報がすぐ入ってきません。SmartRydeにはベネズエラ、インド、アフリカに住んでいるようなメンバーもいるので、そういった情報がスピーディーに手に入り、それをもとにすぐサプライヤーの開拓をしたりOTAを広げることができているのが我々の強みだと思います。

海外に進出するという大きな絵を共に描くこと

Angel Bridgeとはどのように出会ったのですか?

木村:CFOの池田の繋がりでAngel Bridgeを紹介してもらい、オフィスに伺いました。そして最初の河西さんとのミーティングでかなりの質問攻めにあったのを覚えています(笑)。ホワイトボードにビジネスモデルの図を書き、どういうふうに空港を広げていくのかとか、1回目とは思えないくらい白熱した議論をしました。こちらも一生懸命力を出し尽くして、最初のミーティングを終えました。

林:河西は真理の探究がライフワークなので、ビジネスでも真理をとことん探求してしまうんですよね(笑)。

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木村:初めてのミーティングであそこまでの質問攻めにあったことがなく、だいたい初回は簡単に会社紹介をしてその後質問シートをもらうケースがほとんどだったので、とてもびっくりしました。しかし、我々も本質的なご質問をいただくことでビジネスモデルについて深く考える機会になりましたし、投資検討の段階から伴走しているような感覚を勝手に持っていました。

なぜAngel Bridgeから投資を受けようと思ったのですか?

木村:まずキャピタリストの方々皆さんがとても魅力的でした。事務所にお伺いするだけではなく食事にも行ってパーソナルな話もさせてもらいましたが、投資前に食事に行ったのは初めてだったのでとても印象に残っています。親身になって伴走してくれるのではないかというのが当時期待としてありました。

シードアーリーの段階ではリソースがまだ足りていないので、経営者として色々なことをやりながらも困ることが多いです。例えばタイの現地法人をどう展開していくのかが分からず林さんに相談した際は、タイでの経験に長けている方を紹介いただいたりもしました。あらゆる点でご支援いただけることは、Angel Bridgeの良いところだなと思っています。

今でも経営戦略についてアソシエイトの八尾さんにフィードバックをもらったり一緒にディスカッションできているのは非常にありがたいです。

なぜSmartRydeに投資しようと思ったのですか?

林:経営者の木村さんから、凄まじいやり切り力やエネルギーを感じたからです。木村さんがこんなに大きなエンジンをどこに積んでいるんだろうという動機の確認にとても時間がかかりました(笑)。しかしお話ししていくうちに元々スケールの大きな方なのだと分かり、大きな絵を描いているというのを確認し、投資させていただくに至りました。

また、当初から木村さんより年上のメンバーが沢山いらっしゃって、特にCOOの朝川さんのような経歴のある方が木村さんのようなお若い方と組んでやっているのが非常に印象的でした。話していくにつれて、朝川さんは旅行業界でのビジネス経験が長く、その経歴を木村さんとSmartRydeに惜しみなく提供したいと思っている非常に純粋な方だということが分かり、お二人を中心としたチームを心強く思いました。

コロナ禍でもできることを積み上げていく

新型コロナはSmartRydeにとってかなりの逆境だったと思いますが、どう立ち向かったのですか?

木村:新型コロナはSmartRydeにとってすごく影響があり、当時月次で1,400万円くらいだった売り上げがほぼ無くなるというのを2020年4月に経験しました。最初は中国だけだと思っていましたが、それが4月になるとほぼすべての国に旅行者が入国できなくなり、衝撃を受けました。

それからは売上をすぐに伸ばすというよりは、生き残るべく今どういった対策をできるのかを全て洗い出しました。当時進めていたけれども一旦ストップした施策もありますし、コストダウンしたところもありました。あとはどういったタイミングで事業を回復させるかを試行錯誤していきました。

コロナ禍でも毎月Angel Bridgeと定例会をさせてもらい、今の状況は報告しながらも、こういうことをトライしてみたら?など一緒にディスカッションし、心理的にとても助かりました。報告することも少なかったのですが、やっぱり報告や相談が大事だということで定例会を続け、その時にいろんなコミュニケーションをとるなかで、やっぱり親身に支援してもらっているなとつくづく感じました。

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林:一度応援させていただくと決めたら最後までずっと応援しますよ。

木村:起業家としてはこれ以上ないありがたいことだと去年痛感しました。

林:旅行業界は10年に1回鳥インフルエンザなど大変なことが起こる、だからいろんな国にリスクを分散し展開するのだと昔朝川さんがおっしゃっていました。でも今回の新型コロナはリスクの分散を超えてしまった。これは難しい例ですね。

木村:50年以上旅行業界に携わっている人に聞いても、新型コロナはいままでの天変地異とは規模が違うと言われました。だいたいどこかがストップしてもどこかは動いているというのがこれまでの旅行業界でしたが、今回の新型コロナでは全世界がストップしました。だれも経験したことがないことを去年経験したと思っています。

その後に少しずつ希望の光が見えてきたのは去年の秋ぐらいからです。それまでの期間は事業を止めず、広げられるところは今広げるのがいいだろうということで提携しているOTAとタクシー会社を2倍以上に増やしていましたが、こういった強化の取り組みが秋ごろから成果として出てくるようになりました。

林:コロナの中でもできることを積み上げていきましたね。

一番初めに回復の可能性を感じたのはカリブ海です。メキシコのカンクンやドミニカ共和国のプンタカナなどがまず伸び始めました。初めて聞いた地名でしたが、アメリカ人がよく行くリゾート地だと知りました。このエリアは観光産業で成り立っているので、1年以上ストップすると経営が立ち行かなくなり、そこにアメリカ人の入国が緩和されたことで、観光客が増えていました。そのトレンドが掴めたので、カリブ海のニーズをしっかり取ろうと集中的に事業開発をしたことで数字が回復しました。

この経験から、日本人の感覚でビジネスを考えてはいけないなと強く感じました。日本では移動がまだまだストップしていましたが、アメリカ人はアクティブでした。広い視野で物事を考えるのが大事だと痛感しましたね。

今回はコロナ禍での資金調達でしたが、どのように押し進めたのですか?

木村:今回のラウンドでは、リードのAngel Bridge以外にも、金融系やコーポレート、海外のVCにも出資をいただきました。

まずシリーズAの調達をするというタイミングで、Angel Bridgeに調達をやりたいですとご相談したのが去年の12月の定例のミーティングでした。その時にまず事業計画書を作って見せて欲しいと年末年始の宿題を出され、頑張って作りました(笑)。すぐに提出しアドバイスをいただき、ある程度きちんとした資料ができたところで投資家回りをスタートしました。

一番初めは私が以前からお付き合いがあったVCにアプローチしその反応を見てから、優先順位まで細かく分析したVCのリストをAngel Bridgeからいただきました。次のラウンドでどんなVCにアプローチすればいいのかもなかなか分からなかったので、非常に助かりました。また直接色々なVCの紹介もいただき、投資実行まで至ったVCもあったので、Angel Bridgeのご支援があってのシリーズAの調達だったなと振り返ってみて思います。

まだまだ旅行に対しては逆風ですが、SmartRydeの予約が増えているという数字によって旅行業界が回復してきているというのをお示しすることができたのと、アメリカのようにある程度ワクチンが普及すれば旅行が戻るというエビデンスも出てきていたので、外部環境が良くなってきたのは追い風でした。

本気で取り組めるビジネスで起業する

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後輩起業家に伝えたい、起業するにあたって気を付けるべきポイントはありますか?

木村:起業する時、どんなビジネスを立ち上げるか色々考えると思います。その際、考慮することの中で例えばマーケットや市場規模なども大事です。しかしそれ以上に、本当に自分がやりたいことなのかはもっと大事だと思っています。ビジネスをしていると、大なり小なり壁に当たります。その時に、本当にやりたいことであれば、困難な状況でも前を向いてやり切れると思います。起業では継続力こそ一番大事なんじゃないかと思っています。

SmartRydeをどんな会社にしていきたいですか?

木村:グローバルな会社にしていきたいと思っています。それは、サービスやプロダクトに限らずに人材や文化なども含めた真のグローバルな会社です。空港送迎は二ッチなマーケットですが、グローバルでの展開が可能です。さらに、将来的にビジネスを周辺領域に広げていけて、TAMの拡大余地が高いなと感じています。グローバルなビジネス展開をすることで、日本に限らず世界中の優秀な人材がSmartRydeに流れてくる組織を目指していきたいです。

SmartRydeの事業を通して何を社会に届けたいですか?

木村:私たちのミッションは「移動を通じて地域社会の持続的発展に貢献する」です。私たちは、地元の交通事業者が軸の会社です。現在注力をしている空港送迎は、特に観光地のタクシー、ハイヤー、バス事業者にとっては大きな稼ぎ頭になっています。今後私たちのプロダクトを通じて、地元の交通事業者にとってなくてはならない存在になっていきたいと思っています。その先に、移動を通じて地域社会の安心安全な生活や旅を実現することで、地域社会の持続的発展に貢献していきたいと思います。

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