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Angel Bridge投資の舞台裏#27(amptalk株式会社)

2024.12.04

2024年12月にamptalk株式会社(以下amptalk社)が、シリーズAラウンドにおいて総額10億円の資金調達を発表しました。Angel Bridgeも本ラウンドにおいて出資しています。

amptalk社は、セールステック領域のひとつであるセールスイネーブルメントに着目した商談解析SaaSを提供するスタートアップです。

今回の記事では、Angel Bridgeがamptalk社に出資した背景について、特にセールスイネーブルメント市場の動向とamptalk社がその中で発揮する強みに焦点を当てて解説します。

 

  1. セールスイネーブルメント市場の動向と課題
  2. amptalk社の事業概要と強み
  3. 経営陣
  4. おわりに

 

1.セールスイネーブルメント市場の動向と課題

セールスイネーブルメントとは

まず、セールスイネーブルメントについて説明します。企業による営業活動は図1のように「リード生成~商談化」「営業」「契約」「CS(カスタマーサポート)」の4つに分けられ、各領域においてITによる効率化を目指すものがセールステックです。中でもセールスイネーブルメントは、「営業」領域における人材育成やオペレーションを仕組みにしていくアプローチを意味しており、営業の量と質、受注率の向上を目指します。

図1:セールステックの領域分類とアプローチ

いま注目を浴びる理由

近年、セールスイネーブルメントは注目を浴びつつあり、特に海外市場は大きな成長を遂げています。Global Industry Analysis社のレポート(※1)によると、グローバル市場は2023年から2030年にかけて、30億ドルから120億ドルへ拡大するとされ、年率21%ペースで成長する見込みです。海外市場の主要プレイヤーとして、米国のGONG社やClari社、Salesloft社などが台頭しています。こうした急成長を遂げるセールスイネーブルメント領域は、今後日本でも大きく伸びると予想されます。

ではなぜ、セールスイネーブルメントが注目を浴びるようになったのでしょうか。その社会的背景は大きく2つあります。

1つ目は、セールステック市場のトレンド推移です。図2で示すように、2000年代にSFA(Sales Force Automation)やCRM(Customer Relationship Management)ツールを活用した営業活動の可視化が進み、2010年代にはインサイドセールスやCSといったThe model型(※2)の普及による効率的なオペレーションによるリード獲得量の向上、2020年代前半にはセールスBotなどの工数削減やインテントデータを活用した質の高いリードの獲得へと移り変わってきました。そして、質が高く十分な量のリード獲得が可能となった2020年代後半においては、リードを確実に受注につなげるための「受注率の向上」が重要なファクターになると考えています。受注率の向上の実現のためには、「優秀な営業人材」が「ハイレベルな営業」を行う組織を作る必要があり、営業資料最適化・管理に加えてセールスイネーブルメントが着目されているのです。

図2:セールステック市場のトレンド推移

 

2つ目は、コロナ禍で急速に進んだ営業活動のオンライン化です。2020年から世界的に猛威を振るった新型コロナウイルスによりリモートワークが浸透し、商談は急速にオンライン化が進みました。その影響で営業活動全般のデジタル化が進展し、フィジカルな営業同行ができないために営業人材の育成が難しくなったことに加え、オンライン商談は音声データを取得しやすいという特徴も合わさって、商談の音声データを活用した商談解析・トレーニングが積極的に行われるようになりました。パンデミック終息後もこうした流れは続き、欧米を中心とした企業で、セールスイネーブルメントの重要性が叫ばれ導入が進んでいます。

日本では、こうした世界的な潮流に加えて、労働人口の減少や離職率の増加、働き方改革による残業規制などが進展し、より一層セールスイネーブルメントに取り組む緊急性が高まっているとと言えます。

 

※1 https://www.marketresearch.com/Global-Industry-Analysts-v1039/Sales-Enablement-Platforms-36899830/

※2 「The Model」(ザ・モデル)とは、マーケティングから営業、カスタマーサクセスに至るまでの情報を可視化・数値化し、営業効率の最大化を図る、 セールスフォース・ジャパンで活用されてきた営業プロセスモデルhttps://www.salesforce.com/jp/resources/articles/sales/the-model/

 

大企業ほど効果的なセールスイネーブルメントが必要

こうした動向の中、各社効果的なセールスイネーブルメントの実現が求められますが、大企業ほどその重要性と難易度が高くなります。

まず重要性についてです。創業初期の企業であれば、個人の力量に業績が依存しており、営業人材の育成に関する組織的な課題はあまり表出しません。しかし、会社規模の拡大に比例して、マネージャーを複数人置きながら営業人員の育成や組織的な管理といったマネジメント業務が求められます。

続いて難易度についてです。セールスイネーブルメントには営業人員が行う商談情報とその社内共有が必要になります。大企業ほど営業人員数は増加しますが、従来のSFAやCRMツールを用いた組織的な商談管理体制の構築には大きなハードルが存在します。例えば、商談後の情報入力の量や質が社員によってバラついていたり、多忙な業務の中で不十分なものになってしまうという声もあります。また、部門間連携が不十分で、受注率や顧客体験に影響が出ている企業もあります。こうした入力工数や商談のブラックボックス化により、多くの大企業で精度の高い商談管理とそれに基づくセールスイネーブルメントが困難になっています。

図3:企業の規模ごとの営業組織の特徴と課題

 

2.amptalk社の事業概要と強み

今回Angel Bridgeが投資させていただいたamptalk社は、セールスイネーブルメントのための商談解析SaaSを提供する企業です。

提供するプロダクト「amptalk analysis」は3つの大きな強みを持っています。

1つ目は入力工数の大幅削減です。amptalkの大きな提供価値は「営業の育成」ですが、その前段階である「SFA/CRMツールを適切に活用すること」に課題がある企業は多数存在します。amptalkは電話やウェブ、対面のあらゆるタイプの商談で精度が高い書き起こしができます。また会議後にSFA/CRMツールと連携し、商談記録や要約を自動で入力することも可能です。SlackやTeamsとの連携も行うことができ、既存の社内ツールと合わせて一層の業務効率化が進みます。

2つ目は、他社比較で半額以下の価格で提供されており、コストメリットが大きいことです。企業の売上に直結する営業部隊において、ツール価格の安さは魅力的であり、優位性となっています。営業シーンを考えると、コロナ禍以降に急速に商談のオンライン化が進展しZOOM/Teamsなどによる商談が一般化しました。セールスイネーブルメントの領域では自社IP電話を提供するプレイヤーも存在しますが、世の中に高品質で安価なコミュニケーションツールが続々と登場する状況ではむしろ、他のツールと連携することで高品質と低価格を両立しているamptalkのアプローチの方がより適切だと考えています。そしてこの点にこそ、継続的な事業成長を実現する構造的なポテンシャルがあると確信しています。

3つ目は、営業人材のパフォーマンス解析です。商談中の話し方やトピック、質問への切り返しといった営業会話を自動解析し、営業メンバーの型や傾向を可視化することが可能です。顧客はこのデータを活用して、新人やローパフォーマーの営業人材を育成することができます。特に話者分離を精度高く行う技術はハードルが高く、日本語の書き起こしは高い精度を出すのが難しい中、amptalkの書き起こし・解析の精度は競合と比較しても高く、リプレイス商談/コンペでのamptalkの勝率が高いことの大きな要因になっています。

こうした強みにより、従来の営業生産性や人材育成といった大きな課題を乗り越え、営業人員・マネジメント層双方の業務効率化および質の向上に寄与することができます。

図4:amptalk社のプロダクト概要

 

また実際に「amptalk analysis」はマネーフォワード、ラクス、Sansanなどの大手SaaS企業やユーザベース、ビザスクなどのグロースベンチャーに加え、富士通やイトーキなどの大手企業にも導入が進み、ユーザー企業からは「書き起こしの精度が高い」、「ハイパフォーマーの商談をベースに営業パーソン育成ができる」、「amptalkがないと社内が回らない」といった高い評価が寄せられています。

図5:顧客インタビューの結果

 

今後は既にリリースを行っている「amptalk assist」だけでなく、「amptalk analysis」を起点とした様々なプロダクトを創出する”マルチプロダクト構想”を掲げています。amptalkは商談の一次情報である音声データを獲得していることに加え、精度の高い独自AI技術も保有しています。両者を掛け合わせることで競合が模倣することが困難な付加価値の高いプロダクトを創出することが可能です。

 

3.経営陣

Angel Bridgeがamptalk社に投資するにあたり、経営チームへの理解も深めました。

図6:amptalk社の経営陣

 

猪瀬CEOは、旭化成にて営業とマーケティングに従事され、特に営業ではトップの成績を継続的に収めるなど、営業やその現場課題に精通しています。また出向先の米国医療機器メーカーではマネージャーとして活躍されるなど、チームの先頭に立ち売上向上に大きく貢献してきました。ビジョナリーかつ戦略構築力が大変高く、また目標に対するやり切り力と行動力がとても強い方で、営業現場で起きている課題を明確にとらえ、着実にアプローチし「人と人が向き合う時間を最大化する。」というミッションの実現に向けて邁進されています。

また、豊富な開発経験に裏打ちされた技術力とビジネス感度の高さを併せ持ち、システム開発の核を担う鈴木CTOや、機械学習や音声認識のエンジニアリングに特化し自身での起業経験も持つ髙信VPoD、PwC Strategy&を経て外資系VCであるScrum Venturesの日本拠点立ち上げおよび国内投資責任者を務めた黒田VPをはじめ、優秀な経営陣が集います。

組織全体としても、プロダクトの品質のみならず丁寧なCSが高い評価を受けるなど、誠実に事業やクライアントと向き合う姿勢が浸透しており、amptalk社の成長を支えています。

 

4.おわりに

セールスイネーブルメントは国内でも今後大きな成長が見込まれている領域です。SFAやCRMといったセールステックプロダクトの活用が進む中で、商談数や営業人材を多く抱える大企業では、商談管理のブラックボックス化が生じ、十分な営業情報にもとづく適切な営業人材の育成が難しくなってしまうという課題を抱えています。

こうした課題の解決には、高い技術力と実行力が求められますが、猪瀬CEO率いるamptalk社はクライアント企業に寄り添い、質の高いプロダクトの提供を通じて、ヒトが中心となる営業現場でより営業にコミットできる環境を作り出そうとしています。時代の潮流を見極めながら、企業の売上向上に貢献し、セールステックの新たな国内トレンドを必ずやリードする企業になると弊社も期待しており、しっかりと伴走してまいりたいと思います。

Angel Bridgeは社会への大きなインパクトを創出すべく、難解な課題に果敢に挑戦していくベンチャーを応援しています。ぜひ、事業戦略の壁打ちや資金調達のご相談など、お気軽にご連絡ください!

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