2025年5月にPLAINER株式会社(以下PLAINER社)が、シリーズAの資金調達を発表し、資金調達額が累計5.7億円に到達しました。Angel Bridgeも本ラウンドにおいてリード投資家として出資しています。
PLAINER社は、シンプルで優れたUI/UXのプロダクトデモをノーコードで作成できるB2B特化のSaaS『PLAINER』を提供する企業です。
今回の記事では、Angel BridgeがPLAINER社に出資した背景について、特にプロダクトデモ市場の発展背景と課題、及びPLAINER社の強みに焦点を当てて解説します。
プロダクトデモとは、プロダクトの魅力や使用方法をユーザーに体験してもらう機会を提供するもので、直感的にプロダクトを理解するための手段として用いられます。プロダクトデモは、従来のカタログや静的な資料と異なり、インタラクティブな体験を提供することで、製品理解を深め、導入意欲を高める効果があります。
近年、SaaS市場の急成長と競争の激化、及びB2B市場における購買プロセスの変化により、プロダクトデモの役割が重要性を増しています。同じカテゴリーのソフトウェアが次々と登場する中、テキストや営業説明だけで自社プロダクトの価値を十分に伝え、競合と差別化することが難しくなっています。こうした背景から、単なる機能紹介ではなく「ユーザーが実際に製品価値を体験できる」プロダクトデモの活用が増えているのです。
加えて、B2B購買プロセスのデジタルシフトもプロダクトデモ市場の発展を後押しする一因になっています。近年は、B2Bの購買の意思決定に関与する人数も増えており、1人の担当者だけを説得してもプロダクトの導入が決まりずらくなっています。これにより、営業が1人に対して商談を行うのではなく、複数の関係者がプロダクトデモに基づいて意思決定を行う営業モデルが主流になりつつあります。また、経済産業省によると2019年に31.7%だったB2B取引におけるEC化率は、2023年には40.0%まで上昇しており、ユーザーが営業を介さずに自ら検討・購買できる環境の整備が、ますます求められるようになっています。これらの理由により、ウェブ上で複数人に対してプロダクトの価値を訴求できるプロダクトデモの必要性が増しています。
一方で、従来のプロダクトデモ手法には、プロダクト更新時の工数やコストの高さ、営業品質のバラつき、導入効果の定量化ができないなど、様々なペインが存在します。
① プロダクト更新の手間とコスト
企業が新機能の追加やUIを変更する度に、デモコンテンツの更新が必要になります。特に、従来のデモ動画やスライド形式のプロダクトデモでは、更新作業が煩雑で制作コストが高いため、最新情報を即時に反映させるのが難しく、結果として実際のプロダクトとデモの内容にズレが生じ、誤った期待を生むリスクがあります。
② 営業プロセスの属人化
従来の対人営業活動は、営業担当者の知識やスキルに依存する形でデモが行われるため、営業の説明内容やクオリティにばらつきが生じます。特に、機能更新の頻度が高いSaaS企業や、複雑なソリューションを提供する企業では、営業チーム全体で一貫した説明を行うことが困難になります。また、社内トレーニングにおいても、標準化されたデモがない場合、新規メンバーの即戦力化が難しくなります。
③ 導入効果の定量化が困難
従来のプロダクトデモでは、「誰が」「どの部分を」「どれだけの時間閲覧したか」という詳細なデータを取得する手段が限られていました。そのため、マーケティング・営業チームが「どの機能に興味を持っているのか」「どのリードがより成約可能性が高いのか」といった情報を基にアプローチを最適化することができませんでした。最近では、ファーストパーティーデータの活用が重要視されており、プロダクトデモの閲覧データを詳細に分析し、営業施策やマーケティング戦略に活かすことが求められています。
図1. 従来のプロダクトデモ手法ペイン
これらのペインを解消するのが、PLAINER社が提供するプロダクトデモをノーコードで作成できるSaaS『PLAINER』です。誰でもノーコードで素早く簡単に、実際のプロダクトを疑似体験できるコンテンツが製作可能になります。グローバル市場においても、プロダクトデモの自動化は急成長領域とされ、北米では「Reprise」「Demostack」「Storylane」などのスタートアップがBain Capital Ventures、Bessemer Venture Partners、Y Combinatorなどの著名VCから大型調達を実施し、市場拡大を進めています。日本国内でも同様のニーズが高まりつつあり、『PLAINER』のようなソリューションが今後の市場成長を牽引することが期待されています。
図2. プロダクトデモ市場の主要海外企業
続いて、PLAINER社の事業概要について説明します。
図3. PLAINER社のプロダクト
PLAINER社は、プロダクトデモをノーコードで作成できるSaaSを提供する企業です。最大の特徴は、プロダクトの画面をキャプチャするだけで、誰でも直感的にデモを制作できる点にあります。これにより、営業やマーケティング担当者がエンジニアのリソースを割くことなく、自らプロダクトデモを作成/運用できるため、技術的な負担を大幅に軽減できます。
また、『PLAINER』ではデモのカスタマイズも柔軟に行うことが可能です。デモのカスタマイズも自由自在で、ガイドの追加、表示されるデータの変更、画像の変更などが簡単に行えるため、プロダクトの新機能追加やUI変更があっても、リアルタイムで最新のデモを提供できるようになります。加えて、アクセス解析機能も備わっており、ユーザーの興味/関心に関するデータを取得することが可能です。このデータを活用することで、営業やマーケティングの精度を向上させ、各ユーザーに合ったより効果的なフォローアップが可能となります。
投資検討の際には、『PLAINER』を導入している企業へのインタビューも複数行いました。各企業は、プロダクトのマーケティングにおいて、「顧客にプロダクトの価値を伝えきれてない」「新機能に合わせてデモ動画を更新できていない」といった課題を抱えていました。このような課題に対して、『PLAINER』を利用することで頻繫なデモの更新が可能になり、定量的にWAU(Weekly Active User)やCVR(Conversion Rate)の向上も確認できました。 企業によっては、デモを活用したオンライン商談の成約率が大幅に改善されたケースもあり、実際の売上向上にも寄与する結果が得られています。
図4. 顧客インタビュー
投資判断にあたっては、『PLAINER』が一過性の便利ツールではなく、現場業務に定着するプロダクトかどうかを重視しました。特に注目したのは、既存ユーザーにおける継続率と拡張性です。
導入済顧客における『PLAINER』の活用状況を分析した際に、導入初期と比較して、アクセス数・アカウント数・コンテンツ数などの指標はいずれも複数倍の水準にまで増加しており、導入部署から他部署への展開や、機能ごとの利用深化が進んでいることが確認できました。
実際に、契約更新を迎えたユーザーの多くにアップセルが実現出来ており、Net Revenue Retention(NRR)は高水準で推移しています。これは、部署横断でのアカウント拡張や、利用用途の拡大によって自然に実現されているものであり、将来的なARPU向上の余地を示唆しています。
加えて、プロダクトのユースケースが、マーケティング・セールスにとどまらず、カスタマーサクセスや社内教育などにも広がっています。こうした用途の広がりから、『PLAINER』は柔軟性の高いプロダクトであり、より幅広い業種・企業群へと展開可能で、市場拡張性が高いと判断しました。
さらに、一部のユーザー企業では、マニュアル代替やオンボーディング支援などへの転用も進んでおり、1社内の複数ユースケースで活用される構図が形成されています。例えば、営業担当者の育成として、自社プロダクトの新機能デモを社内で展開し、新入社員や営業担当者が短期間で製品理解を深められる仕組みを構築しているケースがあります。また、テキストベースのマニュアルでは伝わりづらかった操作説明を、プロダクトデモに置き換えることで、顧客の自己解決率を向上させて、システムの定着化を実現している企業もあります。このように、『PLAINER』は単なるプロダクトデモ作成ツールにとどまらず、営業プロセスの効率化や社内教育、カスタマーサポートの強化にも活用できる柔軟なソリューションとなっています。
図5. 社内の各事業部におけるユースケース
PLAINER社には、事業領域のペインを深く理解し、事業立ち上げ経験に富んだバランスの良い経営陣が集まっています。
図6. PLAINER社の経営陣
小林CEOは、新卒でfreeeに入社し、インサイドセールスチームで50名中トップの成績を残した後、事業戦略の策定から実行まで幅広く担当されていました。その後、モバイル版freeeの事業責任者として、YoY300%以上の成長を達成するなど、事業の立ち上げも経験されています。freee時代にSaaS営業担当者/購買担当者の双方を経験した時に感じたプロダクトの提供価値を正しく理解することが難しいという原体験をもとにPLAINER社を創業されました。小林CEOは、ユーザーのペインを深く理解しており、ファウンダーマーケットフィットしている事業領域において、高い推進力と巻き込み力を発揮しています。
佐野CXOは、新卒で野村総合研究所に戦略コンサルタントとして入社し、大企業向けの新規事業立ち上げ支援や事業戦略策定に従事されました。その後、イグニション・ポイントにて新規事業創出支援やアクセラレータープログラムを担当し、2020年にPLAINER社に参画されました。佐野CXOは、豊富な事業の立ち上げ経験を活かし、PLAINER社では豊富な事業開発経験を活かし、主にプロダクトとUXの向上を担当されてます。
DXの進展やデジタルマーケティングの普及により、企業の営業・マーケティング活動は急速にオンライン化が進んでいます。その中で、製品の魅力をシンプルかつ直感的に訴求する手段として、『PLAINER』のようなプロダクトデモ作成ツールの重要性は飛躍的に高まっています。
PLAINER社は、誰でも簡単にデモを作成/更新できる操作性に加えて、顧客の関心を可視化するアクセス解析機能や、社内の様々な部署で活用できる汎用性を強みとして、市場の開拓を進めています。小林CEOと佐野CXOで構成されファウンダーマーケットフィットした経営陣の下で、大きな成長を遂げるとAngel Bridgeは確信しています。
Angel Bridgeは社会への大きなインパクトを創出すべく、難解な課題に果敢に挑戦していくベンチャーを応援しています。ぜひ、事業戦略の壁打ちや資金調達のご相談など、お気軽にご連絡ください!