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Angel Bridge投資の舞台裏#34(株式会社Closer)

2025.12.18

2025年12月に株式会社Closer(以下Closer社)が、プレシリーズAの資金調達を発表しました。1stクローズの資金調達額は4.2億円になります。Angel Bridgeも本ラウンドにおいてリード投資家として出資しています。

Closer社は製造業における工場の中小規模製造ラインを簡単に自動化するソフトウェア型のロボットパッケージを提供する企業です。

今回の記事では、Angel BridgeがCloser社に出資した背景について、特に製造業の工場自動化の潮流や現状の課題、及びCloser社の強みに焦点を当てて解説します。

  1. 工場自動化の市場と課題
  2. Closer社の事業概要と強み
  3. チーム
  4. おわりに

 

1. 工場自動化の市場と課題

製造業における工場の自動化は第一次産業革命以降、技術の発展と共に徐々に実現されて来ました。第二次産業革命以降はコンベアラインによる自動的な流れ作業が実現され、現代ではIoT、ビッグデータなどを活用したスマートファクトリー化も進んでいます。一方でこのような自動化が実現されているのは主に自動化の採算が合いやすい大規模製造ラインであり、製品の入れ替わりも頻繁に発生する中小規模の製造ラインは未だに多くの人手での作業が残存している状況です。

特に食品製造業は製造業の中でも中小規模の製造ラインが多いことを背景にロボット導入が進まず生産性が低い業種であり、未だに多くの製造プロセスを手作業で行っている状況です。結果として製造業の業種別で最も多い約120万人¹従業員が働いており、製造が非効率になっています。

このような中小規模の製造ラインの生産性の低さは人手不足や物流2024年問題²背景に改善が求められており、日本政府も食品製造業の中小企業向けに給付金を交付するなど、自動化を促進する流れが活発化しつつあります。

      図1. 食品製造業における工場自動化の現状

また近年はロボット技術にも大きな変化が起こっています。これまではハードウェアを組み合わせてシステム構築を行う「ハードウェア型」のロボットが主流でした。ハードウェア型のロボットはコアの制御技術としてPLC(Programmable Logic Controller)という技術を用いており、柔軟性が低いものの決められた動作を何度も繰り返すような作業に適切でした。従ってハードウェア型のロボットを活用して重厚長大の大規模の製造ラインを構築していましたが、逆に中小規模の製造ラインには適していませんでした。しかし近年AI・機械学習技術の進展や計算資源の低コスト化によって、独自のソフトウェアプラットフォームやOSを活用した「ソフトウェア型のロボット」が生まれており、汎用的で柔軟なシステム構築ができることを強みに、複雑もしくは小規模な製造ラインに適したロボットが開発されています。スタートアップにおいてもMujinやTelexistenceなどは代表的なプレイヤーです。

図2. ロボットの種類(ハードウェア型/ソフトウェア型)

重厚長大な業界をメインに従来のハードウェア型のロボットのニーズも当然残ると思われますが、近年の労働力不足、データ活用技術の進展などを踏まえると、ソフトウェア型ロボットは今後さらに台頭してくると考えています。


注釈
  1. 経済産業省; 工業統計調査(令和2年6月1日時点)
  2. 2024年4月からトラックドライバーに時間外労働の上限規制(年間960時間)が適用されることで、輸送能力が不足し、「モノが運べなくなる」ことが懸念されている問題

2. Closer社の事業概要と強み

続いて、Closer社の事業概要について説明します。

図3. Closer社の事業

Closer社は、ソフトウェア型のロボットパッケージを提供する企業です。大きな特徴は中小規模製造ラインのペインを解消する点にフォーカスしている点です。

①優れたUI/UX

従来のハードウェア型のロボットはロボットの動きを定義するために「ロボットティーチング」という指示を専門的な方法で入力することが必要でした。この手法では専門の技術者が必要ですが、地方の工場ではこのような技術者がいないためにロボットを導入できないことや、専門の技術者であっても入力に8時間程度の時間がかかってしまうことが課題でした。一方でCloser社の製品は初心者の作業員でも3分程度で設定が可能で操作性の高いUI/UXを特徴とします。

② 小型で導入が容易

ソフトウェア型のロボットは性能がハードに依存する割合が小さく、小型でも高いスペックを実現することができます。特に工場の中小製造ラインはスペースが限られており、従来のロボットは導入が困難なケースが多々存在しました。その中でCloser社の製品は小さいスペースにも導入できる小型設計であることに加え、専門知識が不要で導入可能のため、リードタイムを抑えて簡単に導入することができます。

③ 汎用性が高い

従来のロボットは個別の製造ラインに特化して作られるのが一般的ですが、Closer社の製品は汎用性の高いソフトウェア型のロボットであるため、別製造ラインへの移行も容易に実行可能です。特に中小製造ラインは製造する製品が変わることに対応して製造ラインの形状が変わるケースも存在し、汎用性が高いことへのニーズが存在します。

投資検討の際には、Closer社の製品を導入している顧客へのインタビューも行いました。各企業は、工場の人手不足に深刻なペインを抱えており、大型のロボットは導入を試したこともあるものの非常に導入が困難との課題を抱えていました。Closer社の製品はティーチングや操作が容易で、着実に必要人員の削減に繋がることから、非常に高い満足度を実現している様子を伺うことができました。このようなロボットの開発には高度な技術力が必要であり新規の参入には一定高いハードルが存在することに加え、既存の大手ロボット開発会社は既にハードウェア型のロボットの開発に注力しておりリソースを割きづらいという事情で、Closer社のロボットは高い優位性を構築しています。

図4. 顧客インタビュー

投資判断にあたっては、Closer社の製品が競合の製品とどのように棲み分けられているかも確認を行いました。Closer社の製品は競合と比較して確かに柔軟性、導入スピード、UI/UXが優れていることを製品ベースでも比較を行っています。

図5. ポジショニング

今後の展開としては、現在のロボット販売のみの売り切りモデルから発展し、保守・メンテナンスサービスを付加した売り切り+リカーリングモデル、最終的にはソフトウェア型のロボットだからこそ可能である発展的なデータ活用によるリカーリングモデルの強化も十分に見込めると見ています。例えば複数拠点の稼働分析、経営ダッシュボードとの連携などはソフトウェア型のロボットが工場で稼働することで製造に関するデータをストックすることにより実現ができる工場の経営高度化であり、高単価と高粗利を両立し得るビジネスモデルとなるポテンシャルがあります。

通常、ロボットの「モノ売り」だけでは市場から評価されるにあたってかなりの売上をあげる必要がありますが、Closer社が開発するソフトウェア型のロボットはハードウェア型のロボットより粗利が高い傾向にあり、モノ売りでありながらも市場から高く評価されやすいビジネスになっています。モノ売りに加えて、リカーリング性の高い売上を獲得するとそれだけ市場からの評価も高まり、大きなアップサイドも見込めると考えています。

図6. 今後のビジネスモデルの展開

3. チーム

Closer社には、ロボット技術者として非常に優秀な樋口CEOとその下に集う優秀な開発チームが揃っています。

図7. Closerのチーム

樋口CEOは、高専を卒業後に筑波大学大学院に進学され、博士課程に在籍中にCloser社を創業されました。若い経営者ですがロボットエンジニアとしての経歴は長く、小学生時代からロボット競技をはじめられています。長岡高専在学中にはRoboCup世界大会で優勝され、孫正義育英財団、IPA未踏事業に採択されるなど注目の起業家です。筑波大学大学院時代にもロボットの開発を続けられる中で大きな社会課題をロボットで解決するという観点で起業を決意されました。

複数のリファレンスインタビューも行わせていただきましたが、Angel Bridgeとしては樋口CEOの経営者としてのポテンシャルを高く評価させていただきました。大学発ベンチャーの経営者にありがちな失敗要因として、技術に傾倒するあまり素晴らしい製品を作り上げるのですがビジネスとしてはうまくいかないことが挙げられます。一方で樋口CEOはロボットエンジニアとして高い技術をお持ちである点はもちろん、徹底的な顧客視点でロボットを開発され、時には顧客ニーズに合わせてピボットを行う中で事業の成長を作り上げてこられました。顧客に徹底的に寄り添う姿勢は起業家として最も重要なことの一つであり、今後も益々素晴らしい経営者になられるのではと大きな期待をしております。

4. おわりに

工場の自動化が進む中で中小規模の製造ラインは未だに自動化の波に取り残された領域です。一方で、ロボット開発においては、これまでのハードウェア型中心の進化に加え、近年はソフトウェア型のロボットも登場し、多様なニーズに合わせたロボットが出現しつつあります。

Closer社が開発する製品はソフトウェア型のロボットで中小の製造ラインを自動化するものです。操作性が高く、容易に導入できるロボットを開発するためには高度な技術力が必要であり、優秀なロボットエンジニアである樋口CEOだからこそ構築できる強力なチームに支えられています。大規模の製造ラインが概ね自動化されつつある中で、次の自動化のターゲットは中小製造ラインになるのではと考えています。Closer社は確かな技術力と強い市場ニーズを背景に、大きな成長を実現できるとAngel Bridgeは確信しています。

Angel Bridgeは社会への大きなインパクトを創出すべく、難解な課題に果敢に挑戦していくベンチャーを応援しています。ぜひ、事業戦略の壁打ちや資金調達のご相談など、お気軽にご連絡ください!

 

この記事の監修者

Angel Bridge編集部

Angel Bridge編集部

Angel Bridgeは世の中を大きく変革するメガベンチャーを生み出すことを目指して、シード~アーリーステージから投資を行うベンチャーキャピタルです。プロファーム出身者を中心としたチームでの手厚いハンズオン支援に強みがあり、IT/大学発/ディープテックスタートアップへの投資を行います。

私たちは「起業家のサポーター」として、壮大で破壊力のある事業の創造を全力で応援しています。

所属
JVCA : (https://jvca.jp/)

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