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Angel Bridge投資の舞台裏#30(emole株式会社)

2025.03.28

2025年3月にemole株式会社(以下emole社)が、シリーズAの資金調達を発表し、資金調達額が累計11.6億円に到達しました。Angel Bridgeも本ラウンドにおいて出資しています。

emole社は、1話1~3分程度で視聴できる話課金型ショートドラマアプリ「BUMP(バンプ)」を提供するスタートアップです。

この記事では、Angel Bridgeがemole社に出資した背景について、ショートドラマ業界を取り巻く環境と、emole社の強みに焦点を当てて解説します。

  1. ショートドラマ業界の動向
  2. emole社の事業概要と強み
  3. 経営陣
  4. おわりに

1.ショートドラマ業界の動向

ショートドラマは1~3分で視聴できるドラマで、通勤や休憩時間などの隙間時間に手軽に楽しめるよう設計されています。課金形態はマンガアプリと同様で、最初の数話は無料で視聴可能、それ以降は1話ごとに課金(100円程度)する仕組みになっています。タイムパフォーマンスを重視するZ世代を中心に人気を集めており、日本では恋愛ジャンルが多く、海外では幅広いジャンル(恋愛、ミステリー、アクションなど)の作品が存在します。

 図1:ショートドラマについて

近年、ショートドラマ市場は注目を浴びつつあり、特に海外市場は大きな成長を遂げています。YHリサーチによるとグローバル市場は2029年に8.7兆円規模に成長すると見込まれており、国内だけで見ても2026年に1,500億円規模に達すると予測されています。

 

図2:グローバルのショートドラマの市場規模

図3:国内のショートドラマの市場規模

ではなぜ、ショートドラマが注目を浴びるようになったのでしょうか。その社会的背景は大きく2つあります。

1つ目は、ショート映像の登場によりコンテンツを短時間で消費する魅力がユーザーに普及したことです。

  1. ショート動画市場の開拓
    TikTok、YouTube ショート、Instagramリールなどがショート動画の提供を始め、隙間時間でエンタメを消費する魅力がユーザーに拡がりました。
  2. 消費者の行動変化
    再生時間が短いコンテンツの人気が定着してきた中で、タイムパフォーマンスを意識しながらコンテンツを消費するユーザーが増加しました。動画の「倍速視聴」、「切り抜き視聴」、他の作業と並行してコンテンツを視聴する「ながら見」などがZ世代の主流のコンテンツ消費手法となっています。

2つ目は、ショートドラマの低い制作コストや高い収益ポテンシャルを理由に様々なコンテンツプロバイダー(CP)がショートドラマを制作するために市場に参入してきたことです。

  1. 低い制作コスト
    テレビドラマと映画の制作予算は億円単位ですが、ショートドラマは数百万円単位と非常に低予算で作品を制作することが可能です。このため、CPはスポンサーの援助なしで自らの資金でコンテンツを制作することができます。
  2. ヒット作品創出による高い収益ポテンシャル
    CPが自ら出資を行って制作するショートドラマは、スポンサーから援助を受けるテレビドラマや映画と異なり、作品の権利をCP自身が保有することができます。そのため、ヒット作品を生むことが出来れば、CPは大きな収益を得ることが見込めます。

2.emole社の事業概要と強み

今回Angel Bridgeが投資させていただいたemole社は、1話1~3分で視聴できるショートドラマ配信プラットフォーム「BUMP」を提供する企業です。1話100円程度の課金で視聴が可能で、1 タイトル 10〜30話のショートドラマを配信しています。

ショートドラマ市場が国内で立ち上がる前にサービスを2022年12月にリリースしており、emole社はパイオニアとしていち早く国内のショートドラマ市場に参入しています。

「BUMP」は自社で制作した作品と外部のCPが制作した作品をプラットフォーム上で配信しているため、全ての作品を自社制作する必要がありません。プラットフォーマーとして外部作品の掲載も行うことで、全ての作品を自社制作する負担を軽減できることに加え、マンガ等で既にヒットした原作を基に制作された、注目される確度の高い作品の掲載を可能にしています。

作品のジャンルに関して現在は恋愛関連の作品が多く掲載されていますが、一部ミステリーやアクション関連の作品も存在しており、徐々にジャンルの拡充が進んでいます。

図4:「BUMP」の概要

「BUMP」は様々なCPから高い評価を得ており、実際にインタビューを実施したところ、「売上が期待以上」、「海外プラットフォームと比較して作品の質が高い」、「積極的にBUMPと連携したい」といった声が寄せられています。

図5:CPによるBUMPの評価

一部中国発の競合も国内市場に参入していますが、作品がローカライズされていないため国内のユーザーに受け入れられにくい点、カルチャー・言語の壁により国内CPの信頼獲得に苦戦していることを鑑みると、国内ユーザーに特化した良質な作品を提供している「BUMP」は国内No.1ショートドラマプラットフォームに成長する可能性が高いと考えています。

3.経営陣

emole社の経営チームは、全体として高いレベルでの経営や事業の執行ができており、少数精鋭のチームで高い成果を実現しています。

澤村CEOは立教大学経営学部卒業後、個人事業主として独立し、2018年にemole社を創業。大手からスタートアップまで様々なプロダクトの受注開発を行い、その後YouTube番組やミュージックビデオ、短編映画のプロデューサーを務める等、クリエイターの思考を解像度高く理解されています。また、高いビジョンを掲げ、組織を推し進めていく情熱や巻き込み力も併せ持っています。

また、水谷COOは慶応義塾大学商学部卒業後、テレビ朝日に入社。コンテンツビジネス戦略部にて、ドラマ・アニメ・特撮など幅広いコンテンツの制作に従事し、サイバーエージェントに出向した際にはアニメチャンネル責任者を担当。その後REALITY(グリーグループ)でも取締役に就任するなど、コンテンツビジネスに非常に知見が深い人材です。

現経営陣二名がそれぞれの強みを持って補完しあい、全体として高いレベルでの経営が実現できており、emole社の強みの源泉の一つとなっています。

図6:emole社の経営陣

4.おわりに

ショートドラマ市場はタイムパフォーマンスを重視するZ世代を中心に近年大きな躍進を遂げており、2029年にはグローバルで8.7兆円に達すると見込まれている成長市場です。

一方で、日本においては未だ国内大企業の参入が進んでいないことに加え、海外競合も作品のローカライズ化に苦戦している状況です。emole社はパイオニアとしていち早く国内のショートドラマ市場に参入し、作品制作能力の高さと優良なCPを囲い込む力で実績を積み上げ、国内の市場を切り開いてきました。

また、emole社がベンチマークとしているマンガアプリ企業は数千億円規模の時価総額に達しており、資本市場から高い評価を得ています。emole社が国内No.1ショートドラマプラットフォームとしてのポジションを築くことにより日本発のメガベンチャーに成長できる可能性があると考えています。

図7:マンガアプリの資本市場からの評価

今後も優秀な経営陣の元、より一段と事業を拡大し、大きな成長を遂げていけると弊社も期待しております。

Angel Bridgeは社会への大きなインパクトを創出すべく、難解な課題に果敢に挑戦していくベンチャーを応援しています。ぜひ、事業戦略の壁打ちや資金調達のご相談など、お気軽にご連絡ください!

 

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