今回は、VCが投資判断をするにあたってどういった点を検討するのかについて、ミツモアを例にとって解説したいと思います。
近年、サービス提供者と利用者をマッチングするスキルシェアサービス提供企業の上場が増えてきており、例えばスキルシェアプラットフォームを提供するココナラが3月にマザーズ上場、ビザスクは2020年3月、ランサーズは2019年の12月にそれぞれ上場しています。実際にこれらのサービスを利用したことがある方も多いのではないでしょうか。このように、スキルシェアサービスは今後もリモートワークや流動的なワークスタイルの広まりによって、さらなる成長が期待できるでしょう。
Angel Bridgeもローカルサービスに特化したマッチングサービスを提供する株式会社ミツモアに2019年に出資し、ハンズオン支援を行っています。上記のようなスキルシェアサービスはマッチングする主体がフリーランスなので副業目的の人が多いですが、ミツモアはそれらとはマッチングする主体が違い、事業者が本業として利用するパターンが多いです。さらに目的が見積もりなので、スキルシェアサービスとは似て非なるということで非常に面白いと思い、検討をしました。
スキルシェアとは、個人が保有するスキルを資産として捉えて、特定のスキルを必要とする顧客と、そのスキルを保有する提供者をつなぐサービスのことです。上場企業ではビザスク、ランサーズ、クラウドワークス、ココナラなどが当てはまります。この中でもミツモアは特にローカルサービスのマッチングに特化しています。
Angel Bridgeがこのローカルサービスのマッチング市場に注目した理由は、ターゲット市場がかなり大きいことです。
ローカルサービスは集客手数料だけでも3兆円以上の巨大市場であり、取り扱う業種を拡大していくことでさらに収益を上げることができます。実際にこの領域にはいくつものベンチャーが参入しています。
一方で、日本ではローカルサービスは数十兆円規模の市場であるにも関わらず、集客も事務作業も前時代的な方法で行われており、効率化に苦慮している部分が多くあります。こういった旧態依然とした市場環境に関しては、ミツモア代表の石川氏がコンサルタント時代に地方銀行のプロジェクトをやっていたとき、クライアントである中小企業の経営者たちと話す中で深いペインを感じていたそうです。
ベンチャーとしてはもう少しニッチな市場を狙う方が取り掛かりやすいですし定石とされていますが、難しいからこそあえてチャレンジし、この巨大な市場をターゲットとしてプロダクトを磨きこむことで日本へ大きなインパクトを与えたいという石川氏の思いに共感しました。
それではここでミツモアがどのようなサービスを提供しているのかをご紹介します。
ビジネスモデルとしては、事業者は完全無料で見積もりを出すことができ、提案が成立すれば課金されるような成約課金モデルをとっています。
こういったプラットフォームビジネスは依頼者と事業者双方が増えるに連れてエコシステムが形成されてネットワークエフェクトが効いてくるのが特徴であり、IT系サービスでは一番成功事例の多いモデルです。
先ほども述べた通り、ミツモアはカメラマン/士業のようなローカルサービスの見積もりプラットフォームを提供しています。特にカメラマン/税理士向けが強みですが、カバー領域はハウスクリーニング/リフォーム/庭の手入れなど20以上に及びます。
サイトイメージは以下の通りです。カメラマンからの見積もり事例ですが、撮影場所や予算などの必要情報を入力すると、最短3分で見積もりを受け取ることができ、最短翌日にプロが来ます。最大5名の事業者からの見積もりを比較することが可能です。
投資検討を始めた時期には、以上のカテゴリーの中で既にカメラマン・税理士のカテゴリーが立ち上がり売上も出ていました。このように少なくとも二つのカテゴリーが立ち上がっており、さらにカメラマンと税理士という全然違うタイプだったので、今後も順調に他のカテゴリーも立ち上がっていくだろうと想像できました。
それでは競合について検討したことをご紹介します。
ローカルサービスのマッチング領域においてはオペレーター型のプレーヤーが複数存在し、市場が形成されていることから既にニーズがあるのは分かっていましたし、そのアナログな部分がITに置き換わり便利になっていくというシフトは必ず起こると思いました。例えばよくある引越しの見積もりサイトだと、登録するといろんな業者から電話がかかってきて、ヒアリングをされて見積もりが出てくるという、まだまだアナログなやり方が行われています。
プラットフォーム型にも競合が存在しており、どちらかというとB向けのサービスがミツモアで、他の競合は主婦層をターゲットとしている、といったように色の違いはあります。これらは今後事業領域の境目がなくなっていくと予想されますが、市場も巨大で拡大しているため、ミツモアを含めた何社かはメガプラットフォーマーとして共存ができるのではないかと考えました。
Angel BridgeがシリーズAでミツモアに投資するにあたり、経営陣についても理解を深めました。
特にアーリーステージにおいて経営陣は重要です。代表の石川氏は稀に見るハイスペック創業者(桜蔭→東大法学部→ベインアンドカンパニー(5年)→Wharton MBA→米国ITベンチャー)で、MBA時代に起業を強く意識し、国内の中堅事業者の非効率性を打開したいとの想いでミツモアを起業しています。ハイスペック創業者だから必ず成功するとは限りませんが、少なくとも自分でやると決めたことに関しては結果を出してきた人だと言えると思いました。
さらに、共同創業者のCTO柄澤氏も業界トップレベルのエンジニア(東大理学系院→ヤフオク担当/最速で昇格/社内受賞多数)です。創業直後に入社したCXO吉村氏(京大法学部→McKinsey)も良いバランサーであり、その他優秀なWeb/SEOのエンジニアなどを複数巻き込んでいることから、優秀な人材を惹きつける魅力が石川氏にはあるのだと感じました。
さらに、石川氏はVCから調達を受ける前に、著名なエンジェル投資家を何名も巻き込んでいました。これだけエンジェル投資家を集めることができたということは、こういった人たちを巻き込み、かつ継続サポートしてもらえる魅力があるということの証明になりポシティブです。
また社長との面談はもちろんですが、共同創業者、本社の主要メンバーとも一人一人面談を行いました。
このように、代表の石川氏は度重なる困難に素早く打ち勝つだけの地頭の良さ、やり切り力(パッション)、優秀なメンバーを組織できる人間性を持ち合わせているとひしひしと感じ、心から応援していきたいと思い投資を決めました。
ローカルサービスの市場規模は30兆円以上と非常に大きいにもかかわらず、いまだにオペレーター型のようにユーザー側にとっても事業者側にとっても生産性の低いモデルが主流となっています。
ベンチャーはニッチな領域から攻めるパターンが多い中で、あえてこういった旧態依然としている巨大市場にチャレンジしていくことは非常に意義深いですし、プロダクトを磨きこんでいくことで社会に大きな価値を見出せると思っています。
繰り返しになりますが、Angel Bridgeは社会に大きなインパクトをもたらすために、あえて難しいことに挑戦していくベンチャーこそ応援しがいがあると考えており、こういった領域に果敢に取り組むベンチャーを応援したいと考えています。事業の壁打ちや資金調達のご相談など、お気軽にご連絡ください!