2023年5月25日に、Angel Bridgeの投資先である、武田薬品工業発ベンチャーの株式会社リボルナバイオサイエンスがシリーズDラウンドにおいて6.7億円の資金調達を発表しました。
今回は、独自の創薬プラットフォームを通じてRNAを標的とする低分子医薬品の研究開発を行う、株式会社リボルナバイオサイエンスへの投資に至った背景について解説します。
RNAを標的とする低分子医薬品は、新たな治療方法として近年多くのグローバルメガファーマも注目している領域です。当該技術によって、従来治療法がなかったRNA機能不全を原因とする難病も治療可能になり、経口摂取でQOLの高い治療も実現できます。
現在難病で苦しむ多くの患者さんやそのご家族が明るい未来を迎えられるように、創薬領域から医療社会に貢献する当社の魅力が伝われば幸いです。
RNA(リボ核酸)とは、DNAに保持されているタンパク質の情報を媒介し、タンパク質の産生に関わる物質です。
また、低分子医薬品とは分子量がおよそ10,000以下で、大半は化学物質によって生成された医薬品です。経口吸収性に優れており、長年開発が進められてきたことから開発リスクが低く、製造コストも比較的安いことが特徴です。
病気はタンパク質の生成が過不足することによって引き起こされることがありますが、タンパク質そのものではなく、タンパク質の生成に必要なRNAをターゲットとすることで、より効果的に治療できるとされています。これまで、RNAをターゲットとする薬剤は核酸医療薬が主体でしたが、生体内で不安定、かつ標的への伝達が困難であるという課題がありました。
しかし近年、RNAの構造解析や分析技術の発展に伴い、低分子医薬品の簡便さでRNAを直接ターゲットにできるRNA標的低分子医薬品が登場し、フロンティア領域として、大手製薬会社を中心に脚光を浴びています。
RNA標的の低分子医薬品市場は、今後急成長を見込む新しい領域で、グローバルメガファーマの関心も高い有望な領域です。市場規模は2030年までに1兆円となる見込み(Roots Analysis調査より)であり、Roche社、AstraZeneca社やSanofi社など多くのメガファーマが、専門のライセンサー(開発会社)と提携をしています。
さらに、Roche社が販売する脊髄性筋萎縮症(SMA)の治療薬であるRisdiplamや、PTC Therapeuticsが販売・製造するデュシェンヌ型筋ジストロフィー(DMD)の治療薬であるTranslaraなど、すでに上市済みの医薬品が2つ存在し、RNA標的の低分子医薬品の効果や安全性は実証されていると考えられます。
また、リボルナバイオサイエンスが対象とする疾患治療全体の潜在的な市場規模も十分に大きく、SMA(脊髄性筋萎縮症)だけでも1兆円、FTLD(前頭側頭葉変性症; 世界で400万人)やPD(パーキンソン病; 世界で700万人)などの他の病気も合わせると数兆円と十分大きな市場規模が存在します。
リボルナバイオサイエンスは、RNA InsightとRNA Dominoという二つのモジュールからなるスクリーニングプラットフォームを有しています。自然な3次元構造を有するRNAを使用したスクリーニング技術は世界で唯一の技術であり、また転写からタンパク質生成までの過程全てでアプローチが可能なため、全遺伝性疾患を対象にできる唯一のバイオベンチャーです。
RNA Insightは、体内環境下に近い全長3次元のRNAを活用できる世界初のスクリーニング技術です。他社の技術では、スクリーニングの際に断片状のRNAを使用して低分子化合物を結合させていましたが、臨床環境とのギャップが生まれやすく、臨床での成功確率やRNAの選択性が低いという課題がありました。そこでリボルナバイオサイエンスでは、あらかじめ体内環境下に近いスクリーニング環境を構築することで、臨床試験における成功率を高め、効能を高めながら副作用の低減も可能です。
RNA Dominoは、異常なスプライシングを正常化できる低分子化合物をスクリーニングする技術です。患者の細胞を利用したアッセイが特徴で、擬陽性なく直接スプライシング調節作用を持つ低分子化合物を同定可能であり、あらゆるスプライシングパターンに対応可能で、臨床試験での成功確率も高い技術です。
当社の技術は標的となるRNAが特定できれば、異なる疾患に対しても容易に横展開できるため、多くのパイプラインを並行して進めることが可能です。当該技術を生かして、短期的には創薬プラットフォーム型で多くの製薬企業との共同開発を進めていますが、中長期的には自社で開発から販売まで行う自社パイプラインの開発も視野に入れています。
現状、各大手製薬企業との議論も進んでおり、世界で神経科学をリードするバイオテクノロジー技術で革新的な治療薬を生み出し、約6兆円の時価総額を誇るBiogen社とは大型のオプション付きライセンス契約を締結済みです。また、他にも異なる疾患を対象に複数のメガファーマとも議論中です。
現在は技術の実証のために成功確率が比較的高く、開発期間が比較的短い希少疾患を対象としていますが、将来的には患者数の多い遺伝性疾患や高有病率疾患へも拡張し、対象とする市場を拡大していきます。
リボルナバイオサイエンスに投資するにあたり、経営チームへの理解も深めました。
富士CEO兼COOは、武田薬品工業にて15年以上の創薬研究に従事しており、特にRNA創薬に関する深い知見とパッションを持った人物です。そのパッションに惹かれ、優秀な経営陣や社員の方々も入社しています。また、ファイナンスの高い専門性を持った小田CFOや、武田薬品の元研究員の方々も複数在籍しており、会社全体としてのRNA関連の研究・技術開発力の高さや、事業開発力の高さも評価しました。
RNAを標的とする低分子医薬品はグローバルでも注目度が高く、メガファーマが多数注目している領域です。リボルナバイオサイエンスのコア技術は、従来の方法よりも臨床での実践性に優れるとともに、高いRNA選択性を達成することができ、こうした治療薬の実現性を格段に高める可能性があります。また、富士CEOをはじめ経営陣は創薬に対する熱いパッションを持っており、難易度の高い当該領域で戦っていけると信じています。
Angel Bridgeは社会への大きなインパクトを創出すべく、難解な課題に果敢に挑戦していくベンチャーを応援しています。ぜひ、事業戦略の壁打ちや資金調達のご相談など、お気軽にご連絡ください!