2024年6月に、Angel Bridgeの投資先である株式会社PeopleX(以下PeopleX社)が、シードラウンドにおいて累計16.1億円の資金調達を発表しました。Angel Bridgeも本ラウンドにおいて出資しています。
PeopleX社は、市場の転換期を迎えるHRTech市場において、会社と従業員の双方にとって望ましい組織の構築のため、「エンプロイーサクセス プラットフォーム」と呼ぶSaaSプロダクト群『PeopleWork』の提供を行うコンパウンドスタートアップです。
この記事では、Angel BridgeがPeopleX社に出資した背景について、HRTech市場を取り巻く環境と、PeopleX社の強みに焦点を当てて解説します。
まず、HRTech市場の全体像を説明します。
日本のHRTech市場は、人材不足やITテクノロジーの急速な発展などを背景に、年平均成長率 32% で市場規模が急拡大していく事が予想されている注目市場です。
この市場は、「育成/定着」「労務管理」「人事/配置」「採用管理」の大きく四つの領域に分類されており、現在PeopleX社がサービスを展開しようとしている「育成/定着」領域は、2030年時点で約1,050億円の市場規模に成長すると予測されています。
従前、他の先進国と比較して、日本企業の人材投資額は著しく低い水準をとっていました。古いデータではありますが、2010年から2014年における、能力開発費が実質GDPに占める割合の5か年平均は、アメリカの約1/20と極めて低い値となっています。
その結果、育成/定着どちらの領域においても、事業部主導で属人的な施策が実施されるのみにとどまってしまい、全社的な取り組みに昇華できていない場合が多く、人事部/事業部/社員のそれぞれにペインが存在した状態のままになってしまっています。
こういった状況もあいまって、日本企業は
と、国際的に極めて悪い評価を受けています。
特に従業員エンゲージメントは、グローバル平均が年々上昇している一方で下降しており、日本のエンゲージメント領域への意識の低さが伺えます。
しかし、以下の様に、日本の労働市場は大きな転換期を迎えており、今後はエンゲージメント領域への関心や投資が従前よりも高まっていくと考えられます。
日本では、「育成/定着」領域における確固たるSaaSプラットフォーマーは未だ確立していません。この流れを捉えることで、Lattice/HiBob/Culture Ampといった海外のユニコーン企業に名を連ねるチャンスが大いにある領域だと判断しています。
本社 | アメリカ | イギリス | オーストラリア |
設立年 | 2015 | 2015 | 2009 |
時価総額 | $3.0 B (2022年1月時点) |
$2.7 B (2023年9月時点) |
$1.5 B (2022年7月時点) |
続いて、PeopleX社の事業についてです。
PeopleX社は、大きな変化を迎えるHR市場で、「エンプロイーサクセス プラットフォーム」と呼ぶSaaSプロダクト群『PeopleWork』をコンパウンドスタートアップとして提供します。
直近で解決していく課題は、従業員のスキルアップとエンゲージメントの向上ですが、今後20近い新規SaaSアプリケーションを早期に展開していく予定のため、共通コンポーネント/基盤開発に注力しています。これは、PeopleX社がベンチマークとして参考にしている、コンパウンドスタートアップのパイオニアであるデカコーン企業、Ripplingと同様の戦略です。
また、管理者だけでなく従業員にも光をあてたものであるため、PeopleX社のプロダクトにはBtoC製品のようなわかりやすく操作性に優れたUI/UX設計がされています。コンパウンドスタートアップにおいて極めて重要な、データの整合性、全体として共通化された技術基盤に加え、UI/UXの洗練さが創業初期から意識されていることで、質の高いプロダクト群となる事が期待されます。
Angel BridgeがPeopleX社に投資するにあたり、創業者である橘CEOへの理解も深めました。
橘CEOは、前職の弁護士ドットコムにて事業責任者として『クラウドサイン』を立ち上げました。そして『クラウドサイン』をARR約60億円にまで押し上げ、弁護士ドットコムを牽引する事業にまで成長させた実績を持つ経営者です。
『クラウドサイン』は下図のように、時価総額300億円を超える国内上場SaaS企業の中でも早い速度でARR60億円に到達しており、現在も対前年比30%で継続して成長しているSaaSです。
また、橘CEOは「日本の働き方の変革」をミッションに約8年間在籍してきた弁護士ドットコムの取締役としての地位を捨てて創業に至っており、本事業に対する高い情熱と覚悟を有している事が伺えます。視座が高く巻き込み力の高い起業家でもあるため、先述したコンパウンドスタートアップ戦略を取る上で重要なCXOクラスの人材採用もうまくいっています。
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市場の転換期を迎えるHRTech市場において高い情熱と覚悟を有しているだけでなく、コンパウンドスタートアップ戦略を着実に進める視座の高さ、また、それを実現するだけの巻き込み力、シード期に16億円という大規模な資金を調達できる能力を持ち合わせている橘CEOは、日本の労働市場を取り巻く環境を一変させる上でこれ以上ない人物であると考えました。
最後に、Angel Bridgeの今回の投資のポイントをまとめます。
1つ目は、転換期を迎えているHRTech市場です。世界的に巨大で成長が予測されている市場である一方、従前、日本企業の人材投資は低く、全社的な取り組みが不足しているため、労働生産性や従業員エンゲージメントの国際評価も低い状況でした。しかし、最近では人的資本の情報開示義務化やリスキリング支援など、政府や企業による人材投資の動きが活発化しており、変革の兆しが見え始めています。日本の「育成/定着」領域には、まだ確固たるSaaSプラットフォーマーが存在していないため、成長余地が大きく、海外のユニコーン企業に並ぶ大きなチャンスがあります。
2つ目は、優れたプロダクト戦略を持ち、最初からコンパウンド型のプロダクト設計をとっている事です。PeopleXは、管理者だけでなく従業員にも光をあてたプロダクトを多面的に提供していく事で会社と従業員の双方にとって望ましい組織のあり方を構築することを目指しています。データの整合性や全体としての統一感から、UI/UXの極めて良好な、完成度の高いプロダクトになる事を確信しています。
3つ目は、優秀な経営者です。創業者である橘CEOは、『クラウドサイン』を通じて日本の判子文化を変革してきた、実績ある経営者です。また、日本の働き方の変革という大きな社会課題の解決に高い使命感を抱いている人物でもあります。実際に、橘CEOの実力やHRTechへの熱い想い、人柄に惹かれ、多くの優秀なメンバーがPeopleX社に集っています。コンパウンドスタートアップ戦略を実現するにあたり、橘CEOの採用力も高く評価しました。
以上の観点から、PeopleX社が、転換期にあたる日本のHRTech市場において変革しつつある日本の「育成/定着」領域において、管理者と従業員の双方に焦点を当てた高品質のプロダクト群を多面的に早期展開することで、日本の従業員エンゲージメント指数の向上に多大な貢献をするとともに、メガベンチャーへと成長する可能性が非常に高いと考え、投資を決定しました。
Angel Bridgeは、社会への大きなインパクトを創出すべく、難解な課題に果敢に挑戦していくベンチャーを応援しています。ぜひ、事業戦略の壁打ちや資金調達のご相談など、お気軽にご連絡ください!