Angel Bridge投資の舞台裏#21(株式会社XAION DATA)

オープンデータを活用したダイレクトリクルーティングSaaSを提供する株式会社XAION DATAに投資した理由とは。

2024.04.25

2024年4月に株式会社XAION DATA(以下XAION DATA社)は、シードラウンドにおいて累計4.5億円の資金調達を発表しました。Angel Bridgeも本ラウンドにおいて出資しています。

XAION DATA社は、オープンデータを活用したダイレクトリクルーティングSaaSをメインにサービスを提供するテックスタートアップです。オープンデータを活用したビジネスは、海外でZoomInfoをはじめとしたメガベンチャーが複数提供しており、注目度が高い市場です。そこでXAION DATA社はコア技術であるオープンデータ取得/構造化技術を用いた独自データベースを強みとし、HR領域でサービスを展開しています。既にエンタープライズ企業やメガベンチャー企業への導入が進んでおり、今後の期待が大きいスタートアップです。

今回の記事では、Angel BridgeXAION DATA社に出資した背景について、ダイレクトリクルーティング市場を取り巻く環境とXAION DATA社の強みに焦点を当てて解説します。

1.ダイレクトリクルーティングの市場構造・動向・課題

ダイレクトリクルーティングとは、企業の採用担当者が候補者に直接アプローチをする採用手法です。具体的には、企業はビズリーチやLinkedInなどのプラットフォームを活用しながら、望ましい候補者を自らの手で探しアプローチします。候補者が企業にアプローチをかけるなどの従来の他の採用手法と比べ、企業側の採用工数がかかるものの人材のマッチング精度が高いことが特徴です(図1)。

 

図1 各人事採用手法の特徴と比較

ダイレクトリクルーティング市場は海外を中心に拡大している巨大市場であり、今後は日本においても急成長することが見込まれています。実際に市場規模は毎年31%で伸びており、足元では市場規模が1,000億円を超えています(2)。また、足元でプロフェッショナル人材の流動性が高まっており、特に年収の高いミドル/ハイレイヤー人材へのニーズが強いことも理由の一つです(3)。ミドル/ハイレイヤー人材はリファラルのみで採用が決定することも多いために、既存サービスでは発見することが難しく、能動的にアプローチをかけるダイレクトリクルーティングの必要性が高まりました。実際にビズリーチに続く形でリクルートやオープンワークなどの人材採用サービス各社もダイレクトリクルーティングサービスへ新規参入しています。

 

図2 急成長するダイレクトリクルーティング市場

しかし、ビズリーチなどの既存サービスにはまだ課題が残っています。既存のサービスでは、若手層などの転職意欲が高い候補者がプラットフォームに登録し、マッチングが行われることから、短期間で採用に繋げられる候補者へのアプローチには適しています。一方で、スペシャリスト人材やミドル/ハイレイヤー人材は既存サービスには少なく、アプローチしにくいというペインが存在しています(図3)。そこでXAION DATA社はこのようなペインを解決すべく、オープンデータを活用して、既存の登録型サービスには登録されておらずアプローチが難しいスペシャリスト人材やミドル/ハイレイヤー人材などの転職潜在層も含めた候補者へのアプローチが可能なサービスを提供しています。このサービスの提供を開始した背景には、202210月の職業安定法の改正(オープンデータを採用に利活用する事業に関するルールを整備する内容を含有)があり、時流を捉えたサービスとなっています。XAION DATA社は米国を始めとした海外でのオープンデータの利活用の潮流に着目し、日本における今後の法律改正を睨み、事業を創ってきていました。その結果、202210月の法律改正後いち早くサービスを展開しています。また、2023年には、厚生労働省の優良企業者認定制度発足にむけた有識者ヒアリングに招集されるとともに、2024年3月には厚生労働省の定める「優良募集情報等提供事業者認定制度」において、国内初で唯一の4号優良認定事業者に認定される等、リーディングカンパニーとしての立ち位置を確立しています。

図3 ダイレクトリクルーティング業界の課題

以上のように、ダイレクトリクルーティング市場は大きな需要の拡大が予想されておりポテンシャルがあるものの、そのニーズに応えられているプレイヤーは少なく、XAION DATA社にとっては非常に魅力的な市場環境と考えています。

2.XAION DATA社の事業概要

XAION DATA社が提供しているサービス/プロダクトは主に3つあります(図4)。

1つ目はSaaS事業で、足元ではXAION DATA社の独自データベースとAIモデルを活用したダイレクトリクルーティングSaaSである「AUTOHUNT」を提供しています(図5)。SNSやメディアなどのオープンデータから集めた430万人以上の転職潜在層も含めた人材データベース(推定年齢/職歴/学歴/スキルなどの情報を含有)を構築しており、顧客企業の求人情報に合致する候補者の特定とアプローチが可能です。

2つ目は人材紹介事業で、自社独自のデータベースや「AUTOHUNT」を活用した人材紹介支援サービスを顧客に向けて提供しています。

3つ目はソリューション事業で、XAION DATA社の保有データと顧客保有のクローズドデータを掛け合わせ、顧客のニーズに合わせた独自のAI/Dataソリューション(コンサルティングなど)を提供します。

図4 XAION DATA社事業全体像

 

図5 「AUTOHUNT」プロダクト画面

3.XAION DATA社の競合優位性

ダイレクトリクルーティングサービスを提供している会社は複数社ありますが、その中でも情報が表に出てこない転職潜在層に焦点を当て、ミドル/ハイレイヤー人材にもアプローチが可能なサービスを提供している企業はあまり存在しません。しかし、XAION DATA社はオープンデータを活用しながら転職潜在層を探すという新しくユニークな人材紹介アプローチに取り組んでいます。

XAION DATA社の強みは、大きく分けて2つあります。

1つ目は、圧倒的な技術力の高さです。XAION DATA社は様々なオープンデータを収集/統合する独自アルゴリズムを構築しており、他社でも入手困難なデータにアクセスし、一つのデータベースに統合しています。ユーザーデータや各企業のクローズドデータとの統合や連携も可能なため、オープンデータと掛け合わせることで独自のデータベースを構築することが可能です。他社が模倣して同様のデータベースを構築することは困難なため、参入障壁が非常に高いサービスだといえます。

2つ目は、事業拡張のポテンシャルの高さです。XAION DATA社独自のデータベースは汎用性が高く、このデータベースを活用して足元ではダイレクトリクルーティングSaaSの「AUTOHUNT」を提供しています。今後も独自データベースを基にマーケティング/認証領域などの関連領域においても、様々なプロダクトを提供していくことも期待できます。

4.経営陣

XAION DATA社には高いプロダクト開発力と事業推進力を有する、非常に優秀で強力な経営陣が集まっています。佐藤CEO/石崎CTOは、米国シリコンバレーのAIスタートアップにて採用プロセスと求職プロセスをAIによって効率化/最適化するサービスの責任者として事業展開/開発に従事した経験があり、当事業領域において解像度と開発力の高さを持ち合わせています。また、ゴールドマン・サックス証券の投資銀行部門(IBD)やインベスコ・アセット・マネジメントで活躍してきた金谷CFOをチームに迎え入れており、佐藤CEOがいかに高い巻き込み力を有しているかが伺えます。(図6)。

 

図6 XAION DATA社経営陣

5.おわりに

最後に、Angel Bridgeの今回の投資のポイントをまとめます。

1つ目は、オープンデータを活用した転職潜在層のダイレクトリクルーティングには巨大な市場ニーズがある点です。企業規模に関わらず、プロフェッショナル人材の採用ニーズは高く、転職潜在層に効果的にアプローチするソリューションは今後急速に伸びていくことが考えられます。一方でオープンデータを活用したダイレクトリクルーティングサービスを提供している企業は少なく、先行者優位を活かして独自のポジショニングを構築することで大きな市場を狙えるポテンシャルがあります。

2つ目は、優秀な経営陣です。米国シリコンバレーのAIスタートアップで経営陣として組織を率いた経験を有しており高いリーダーシップ能力やマネジメント能力を持っている佐藤CEOに加え、オープンデータを収集/統合する独自アルゴリズムを開発するなど高い技術力を有しておりCTOとしてのマネジメント能力も兼ね備える石崎CTO、戦略的な思考力を発揮しながら卓越した営業力でエンタープライズ企業やメガベンチャー企業を獲得する金谷CFOがそれぞれ違う強みを持ち合い、強いコミットメント力で一丸となってこの事業に挑戦していることが最大の武器となっています。

3つ目は、他社には模倣困難な高い技術力を有しており、その技術を用いて構築した独自のデータベースを他の事業領域にも応用できるポテンシャルがある点です。他社が入手困難なデータも含めて広範にオープンデータを収集/統合した独自のデータベースはそれ自体に価値があり、汎用性の高さから足元で提供しているダイレクトリクルーティングSaaS以外にも様々な事業領域でプロダクトを開発して提供していくことが期待できます。

4つ目は、急速に立ち上がるトラクションです。「AUTOHUNT」は正式リリース後、約1年の短期間で複数のエンタープライズ企業やメガベンチャー企業がサービスを導入しており、既に売上高が積み上がってきています。初期からこれだけ多くのエンタープライズ企業やメガベンチャー企業にサービスを導入できるスタートアップはそう多くはありません。XAION DATA社の技術/ビジネス両面でのケイパビリティの高さを示す何よりの証拠です。

以上の観点から、XAION DATA社が新しくユニークなダイレクトリクルーティング市場の開拓を行い、GDP向上に大きく寄与する存在となることを信じ、またその想いに共感し、投資の意思決定をしました。

Angel Bridgeは社会への大きなインパクトを創出すべく、難解な課題に果敢に挑戦していくベンチャーを応援しています。ぜひ、事業戦略の壁打ちや資金調達のご相談など、お気軽にご連絡ください!

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