TEAM

小林智裕の投資哲学:誰も気づいていない事業のポテンシャルをいち早く見抜き、新しい産業の創造に寄与したい

【小林 智裕(Angel Bridge株式会社 ディレクター)】

2025.10.16

学生時代はロボティクスとAIを学び、新卒入社から6年間にわたり戦略コンサルタントとして活躍した小林は、ベンチャー企業の可能性を確信しVC業界に転じました。2022年にAngel Bridgeに入社し、現在ディレクターとして活躍する小林に、2社のVCで培った投資哲学や仕事のやりがい、さらに今後の展望について聞いていきます。
小林 智裕 Angel Bridge株式会社 ディレクター
  • 2015年、東京大学大学院情報理工学系研究科修士過程修了後、マッキンゼー・アンド・カンパニー入社。製造業、消費財、物流業界のクライアントを中心に、全社戦略および新規事業戦略、M&A支援、組織・オペレーション改善支援に従事。その後、VCのSTRIVEを経て、2022年10月Angel Bridgeに入社。

ベンチャーの機動力で日本の産業復興を願い戦略コンサルからVCへ

——学生時代はロボティクスとAIの研究をなさっていたそうですね。

大学院時代には、ロボットを通じて人間の認知を解明する研究をしていました。私が学生だった2012年ごろは、ちょうどディープラーニングが急速に発展し、画像認識のレベルが著しく向上し、コンピュータが特徴量を抽出できるようになった時期でもあったので、ロボティクスを学ぶことにしたんです。

——その後、新卒でマッキンゼーに入られました。

バブル崩壊後、日本のお家芸といわれていた製造業に陰りが見えはじめ、いっこうに立ち直る気配が見えなかったのが、戦略コンサル業界を選んだ理由です。かつて世界を席巻していたロボットや半導体、家電製品のシェアが海外企業に奪われ、企業の時価総額ランキングの上位を日本企業が独占していたのが嘘のような状況になっていました。さらに、成長著しいIT業界においても、グローバルで見ると日本企業の存在感は感じられません。こうした状況を少しでも良い方向に変える力になりたかったですし、自分の成長に限界を設けたくなかったので、優秀な人材が集まるマッキンゼーを選びました

——マッキンゼー時代にはどんな仕事を担当されましたか?

当時は、製造業を中心とした幅広い業種、業態のクライアントに対し、事業戦略や新規事業戦略の立案、オペレーション改革、M&AにおけるデューデリジェンスやM&A後のPMI(Post Merger Integration)支援などのプラクティスを提供する機会が多かったですね。

——戦略コンサルとして顧客と対峙するなかで、新たな課題が見えてくるようなことはありましたか?

私が入社する前に前任者が策定に関与したあるクライアントの新規事業戦略を、改めて引き直したいという連絡を頂戴し、私が担当することになりました。プロジェクトの背景を伺うと、最初の提案から3年が過ぎ、この間策定した戦略の実行が進まなかったところに、競合相手が市場参入してきたため、慌てて検討を加速させたいということでした。その当時の経験から、どんなに筋のいいアイデアがあり、それを実現するだけの潤沢なリソースがあっても、実行に移さなければ絵に描いた餅に過ぎず、社会へのインパクトが実現できないことを痛感しました。こうした大企業のスピード感を変えるには、機動力があるベンチャー側から事業を拡大し、大企業と切磋琢磨しあって産業全体を盛り上げる必要がある。そう考えたことがVCに興味を持ったきっかけになりました。自ら事業を推進する道とVCへ進む道を天秤にかけ、最終的に戦略コンサルと地続きのVCに進むことにしたんです。

——前職はVCのSTRIVEだったそうですね。ここではどんな経験を?

投資案件のソーシングやデューデリジェンス、投資後はモニタリングと投資先の支援を一通り担当するなかで、経営や事業への見識を深めつつ、投資先の将来を見通す力や議論する際の論点の置き方、投資先との付き合い方など、ベンチャーキャピタリストとしての基本を学びました。

——戦略コンサルからベンチャーキャピタリストへ転身した感想を聞かせてください。

誰もが満場一致で評価を与えるような事業に投資し、手堅くリターンを狙うのではなく、誰も気づいていないスタートアップのポテンシャルに賭け、結果的に大きなリターンを生み出す可能性があるのがVCの魅力です。実際、新規性の高いビジネスは、その新しさゆえ、直感に反するようなビジネスモデルを採用しているように感じることが少なくありません。しかし、色眼鏡を外して虚心坦懐にファクトやデータを紐解くと、それまで見えなかった可能性が浮かび上がってくることがよくありました。リスクを取ってでも、こうした案件をものにすることで、社会にインパクトを残せるのがVCの醍醐味であり、存在意義なんだと思います。こういった次世代の産業を作りたいという想いからベンチャーキャピタリストへ転身することを決めました。

 

面談内容が高く評価され、リードVCに指名されたことも

——前職で活躍されていたにもかかわらず、なぜAngel Bridgeに転じようと?

新ファンドを立ち上げる見通しが立たなそうだと思ったからです。前職でベンチャー投資のイロハは学んだものの、そのすべてを学ぶには時間が足りませんでした。このまま別の世界に飛び込んでしまったら、ベンチャーキャピタリストとして不完全燃焼のまま終わってしまいます。それで別のVCに転職することにしたんです。

——どんなVCを探していたのでしょう?

条件は大きく4つありました。一つ目は、自分のスキルを活かした目利きが可能になるシリーズAを中心に投資すること。二つ目は、組織的には少数精鋭で若手が活躍しやすい環境があること。三つ目は、共に働く人が優秀で一緒に働きたいと思えること。四つ目は、ハンズオン支援に力を入れているVCです。前職もこの観点で選んで後悔がなかったので、次もこの4つの条件を満たしているVCを目指しました。

——Angel Bridgeとの接点は、どうやって見つけたのですか?

同僚の八尾がマッキンゼー時代の後輩で、彼に誘われて入社することになりました。実のところ、挙げた4つの条件をすべて満たしているVCはあまり見当たらず、その数少ないVCからの誘いだったので受けてみることにしたんです。Angel Bridgeは大学発ベンチャーやディープテック領域にも強く、ハンズオン支援の手厚さでも定評があります。そのような観点を踏まえて、いろいろと悩んだ末に入社することに決めました。

——職場の雰囲気を教えてください。

社員全員、毎日出社していることもあって、前職よりも組織としての活動が多いと感じます。誰がどの案件を担当し、どのようなステータスかを全員で共有しているので、有望な企業や優秀な人材を紹介し合うことも多く、困ったときの相談相手には事欠きません。また、社内の飲み会などイベントが頻度に開催され、メンバー同士の強い絆が育まれています。

——入社からもうすぐ3年が経ちます。成長の手応えを感じた瞬間を教えてください。

前職時代から存じ上げていた、あるシリアルアントレプレナーと面談した際に、事業戦略に関する集中議論をしたことがあります。後に、そのときの論点整理や議論の進め方を高く評価していただき「ぜひリードVCをお任せしたい」とおっしゃっていただいたことがありました。経験豊富なシリアルアントレプレナーからリードVCを任せていただくことは、大変光栄ですし、非常に貴重な機会だと思います。起業家と真摯に向き合い、自分の価値を最大限発揮できる経験となり、ベンチャーキャピタリストとして少しずつ成長できていることを実感しました。

 

IPO市場にも大きな変化が。VCにも対応力が問われる時代に

——改めて、これまでの経験を踏まえ、小林さんはベンチャーキャピタリストとして何を大切にされていますか?

冒頭にも触れた通り、多くの人が気づいていない事業のポテンシャルや、起業家の実力をいち早く見抜くことですね。とくにベンチャーは経営者の実力に結果が左右されます。筋のいい仮説を持っていらっしゃるか、また、業界理解や顧客理解の解像度の高さ、事業に賭ける情熱や最後までやり抜く気概の有無は、数字やデータと同じくらい心血を注いで見極めようと努力しています。経営者の方の評価は投資判断をする上でもっとも力を入れるべきポイントだからです。

——そうした目利き力を磨くために、普段から努力をされていることはありますか?

最近は、生成AIがらみの案件が増えているので、海外の最新情報を収集するだけでなく、自分でもコーディングするなどして、肌感覚でトレンドを押さえることを心がけています。また、製造業、物流、建設、不動産業界などのレガシー産業は、マッキンゼー時代から馴染んでいる世界ですし、課題やその大きさの見極めにおいて、これまでの経験が活かせる領域でもあります。この領域のペインを解消するサービスを手がけている投資先も少なくないので、その動向や展望については常に目を配り、投資判断に活かしています。

——VC業界はいま変革期にあると聞いています。どのような業界展望をお持ちですか?

ひところに比べるとIPO市場は、一時の高揚感が一段落し、やや落ち着いた展開を見せていますが、相変わらず有望なベンチャーには資金が集まりやすい状況が続いています。その一方で、案件の小型化は顕著で、なかなかユニコーンが生まれにくい環境でもあり、あまり楽観できる状況でもありません。また、急速に進化する生成AIの影響によって、SaaSビジネスの隆盛にも陰りが見えはじめており、こちらも予断を許さない状況です。今後はVCも、目利きや支援のレベルを一段も二段も上げなければ生き残りが難しくなると考えています。今後起きうる構造的な変化やトレンドを予測したうえで、新たな勝ち筋を見つけなければならないと考えています。

——こうした状況下で、Angel Bridgeはどんな戦略を?

幸いなことに、日本には研究開発において世界レベルで有望な技術が眠っています。全国を回って掘り起こしに努めることに加え、投資後も引き続きバリューアップ支援に注力し、企業価値を高める努力を重ねていきたいと思います。また、個人的にはVertical AIやAI半導体、セキュリティ分野やその周辺の領域に注目しています。今後は、IPO以外にも、大企業とベンチャーを取り持つM&A案件も増えるかもしれず、弊社のPEファンドや投資銀行出身者によるM&Aのサポートは強みの一つになっていくと考えています。

起業家から信頼され、社会に正のインパクトを残すために

——小林さんは、投資先からどんな存在と認識されたいですか?

起業家が困っているとき、悩んでいるとき、真っ先に連絡したくなるような人でありたいですね。ベンチャーキャピタリストは誰しもそう思っているはずです。ときには、厳しい指摘をすることはあっても、あくまでも同じ船に乗る仲間であり、安心して背中を預けられる存在だと思っていただけるよう、信頼を獲得したいと思っています。

——その信頼を勝ち得るためにどんな努力をされていますか?

起業家のみなさんの時間を必要以上に奪わないよう、密度の濃いコミュニケーションを心がけています。そのためには、まず優先度の高い議題を選り分けなければなりませんし、端的かつ本質を突く質問や提案には準備も必要です。起業家は24時間、365日、自社の経営と向き合っている以上、われわれ投資家も相応の覚悟で臨む必要があるのはいうまでもありません。メリハリのついた支援を通じて、みなさんの貴重な時間を奪わないよう注意しています。

——小林さんは、これからどんなベンチャーキャピタリストを目指しますか?

まずは、われわれの投資が転機になって事業が成長し、社会に大きなインパクトを残せるようなベンチャーキャピタリストになりたいですね。そのためには、将来的なトレンドを予測し、いち早く新産業の芽を見つけ、育て上げられるような力をつける必要があると考えています。あと数年もすると、私がソーシングから手がけた投資先のうち何社かが、IPOに向けた準備を本格化させることになると思います。それらをひとつの契機として、ベンチャーキャピタリストとしてさらなる飛躍を目指すつもりです。

——ありがとうございます。では、最後にこの記事をご覧の読者にメッセージをお願いします。

VCが有望なベンチャーを見つけてから、リターンを得るまでの道のりは決して平坦ではありません。しかし大志を抱き、持てるリソースのすべてを注ぎ込んで奮闘している起業家と将来について語り合える面白さは何ものにも代えがたい魅力があります。知的好奇心が強い人にとってVCほど面白いビジネスはないと思います。

とくにAngel Bridgeは、手厚い支援を通じて、投資先に徹底して伴走するのが持ち味であり強みのVCです。世の中を変えるべく熱い想いを持った起業家の皆様と一緒に、世の中に新たな価値を届けたい、日本発のメガベンチャーの創出に貢献したいと思う方がいれば、ぜひ我々とともに歩めればと思います。

 

この記事の監修者

Angel Bridge編集部

Angel Bridge編集部

Angel Bridgeは世の中を大きく変革するメガベンチャーを生み出すことを目指して、シード~アーリーステージから投資を行うベンチャーキャピタルです。プロファーム出身者を中心としたチームでの手厚いハンズオン支援に強みがあり、IT/大学発/ディープテックスタートアップへの投資を行います。

私たちは「起業家のサポーター」として、壮大で破壊力のある事業の創造を全力で応援しています。

所属
JVCA : (https://jvca.jp/)

MORE RELATED INTERVIEWS | COLUMNS

学生時代はロボティクスとAIを学び、新卒入社から6年間にわたり戦略コンサルタントとして活躍した小林は、ベンチャー企業の可能性を確信しVC業界に転じました。2022年にAngel Bridgeに入社し、現在ディレクターとして活躍する小林に、2社のVCで培った投資哲学や仕事のやりがい、さらに今後の展望について聞いていきます。