今回は、EC事業者向けに自動タグ付けツール「AIタッガー」を提供している、LISUTO株式会社への投資に至った背景について解説したいと思います。
タグ付けとは、EC事業者が商品にタグを付けることで、ECモールでの商品検索/絞り込みの際に商品を表示させることが出来るというものです。元々EC市場は成長していましたが、コロナ禍における消費者行動の変化を背景に更に急激に成長しています。またBNPL(Buy Now Pay Later)をはじめとしたEC周辺領域はグローバルで注目度が高く、メガベンチャーが多数生まれています。
画像タグ付けは比較的容易に実現可能であり海外にはいくつかのプレイヤーが存在しています。一方で文章タグ付けは高い技術力を必要とし、世界でも成熟したソリューションとして製品化できているプレイヤーはLISUTO以外に存在していません。こういった背景から、日本発でグローバルに市場を取っていける可能性のある領域だと考え、投資に至りました。
それでは今回はAngel BridgeがLISUTOに投資する際にどのような点を検討したかについて、ご紹介します。
EC周辺領域は、EC化率の上昇/提供API機能の増加を背景に急成長しています。EC周辺サービスを提供するグローバルメガベンチャーも多く誕生し、非常に多くの資金が集まっています。この中でもLISUTOは顧客へのリーチ拡大/コンバージョン率向上に取り組んでいます。
国内にEC店舗は2021年時点で約400万店舗(※)存在し、そのうちLISUTOが対象としているモール店舗数は約4割です。さらにそのうちLISUTOが公認を得ている楽天・Yahooショッピングはモール店舗数の約7割を占め、これらのGMVがモールGMV全体の約4割の約8兆円を占めます。※累計登録店舗数、当社試算
EC化の流れは世界共通であり、日本発でもグローバルメガベンチャーを目指せる領域だと考えています。こういった顕在化した市場ニーズやEC周辺領域への注目の高まりを背景としてLISUTOに注目し、投資検討を進めました。
次にLISUTOのサービス内容について説明します。
ECモールではタグを付けることで商品検索・絞り込みの際に商品を表示させることができるため、タグは売上高向上のために非常に重要な情報です。商品検索の際にはユーザーの9割がキーワード検索をしており、また 7割が色・サイズ等で絞込検索をしていることから、商品の関連キーワード/属性のタグが必要であることが分かります。
一方で出品数に比例してタグ付けには膨大な工数とコストがかかるため、特に出品数が多いEC事業者はタグ付けを諦めていました。
そういったペインを解消しているのが、LISUTOが開発している「AIタッガー」です。
AIタッガーを利用すると、EC事業者は既存の業務フローをほとんど変えることなく、より高速で自動タグ付けが可能になります。
AIタッガーを活用したタグ付け手順は以下の通りです。
商品CSVを準備し、AIタッガーにアップロードした後ECモールにタグ情報を反映することで、EC事業者は既存の業務フローをほとんど変えることなく自動でタグ付けが可能です。
LISUTOは2021年4月に佐川急便と資本業務提携を締結し、OEM版を佐川急便の商品として販売しています。その結果サービスインが加速し、契約社数が急増しています。
また、今後は佐川急便同様の戦略的パートナーモデルで海外にも展開し、各地域のECモール向けにAIタッガーを販売していく予定です。2022年前半にはeBayや、オランダ最大のECモールであるBOLへの導入を開始予定です。
次にLISUTOの競合についてです。まず自動タグ付けには、「画像読み取りタグ付け」と「文章読み取りタグ付け」があります。
画像読み取りタグ付けは商品画像からそのまま分析できるため商品CSVの解析は必要ありません。また機械学習を利用して画像から商品を様々なカテゴリーに分類するためのオープンソースなどが公開されているため、比較的容易に実現可能であり多くのプレイヤーが存在しています。一方で、商品画像の解析だけでは読み取れない生産国やサイズなどのデータが欠落してしまったり、画像を読み取らせるオペレーションは業務フローの改変が必要で導入ハードルが高いなどの理由から十分にペインを解決できておらず、実現性は低いのが現状です。
一方で、文章読み取りタグ付けは画像読み取りタグ付けと比較して圧倒的に実現が困難です。
まず、ECモールのカテゴリーを構造化して処理できるデータベース構築と、常に最新の状態を保つ管理システムが必要であり、更にAIによるフリーテキストの自然言語・多言語処理も必要です。共同創業者のパベル氏はEC業界に対する高い専門性と、技術力の両方を持ち合わせているため、この組み合わせが実現できています。
文章読み取りタグ付けでは商品の詳細情報が載っている商品CSVを解析するため、画像読み取りタグ付けでは抽出できない情報も含めて高精度でタグ付けができます。そのため業務フローも変えずに導入でき、運用負担も軽いです。
こういった難易度の高さから、世界でもLISUTO以外に成熟した文章読み取りタグ付けのサービスを提供できているプレイヤーは存在しませんが、文章読み取りタグ付けの実用性は高く、ニーズは非常に強いです。
このような市場環境の中で、LISUTOは画像読み取りタグ付けと文章読み取りタグ付け両方に対応した、ノーコードで非エンジニアでも扱えるツールというユニークなポジションを確立しています。文章タグ付けは画像タグ付けより高度ですが、LISUTOの高い専門性と技術力を持ったチームで必要な技術ハードルを乗り越えることができています。
AIタッガーはEC事業者への導入実績も多数あり、投資検討をするにあたり実際に複数の導入企業にインタビューを行いました。その結果、「毎週200点の新商品のタグ付けに手作業で3-4日かけていたが、AIタッガーを使うことで15分に短縮できた」「18万件の商品のタグ付けに手作業で6年かかると計算していたが、AIタッガーを使うことにより3日で完了した」といった声が多く上がり、自動タグ付けのニーズは強く、LISUTOは高い評価を得ていることがわかりました。
Angel BridgeがLISUTOに投資するにあたり、経営する皆様への理解を深めました。
まず代表のニール氏はEC業界で過去にも1度起業経験があり、EC領域に高い専門性と経営者としての経験を持っています。またテルアビブ育ちで日本語・英語・ヘブライ語のトライリンガルであり、グローバル市場を目指して事業を展開できる稀有な人物です。
また共同創業者のパベル氏はeBay、Shopping.comでの部門責任者・シニアマネージャーとしての経験があり、EC業界に対する高い専門性を持つ人物です。
二人のバックグラウンドや起業の想いを聞く中で非常に強い覚悟を感じることができました。また、EC領域での起業歴や海外大手EC企業での開発歴があり、経営陣と事業領域の強いフィットがあるということで、こういった難しい領域でも勝っていけるのではないかと感じました。
EC周辺領域はグローバルで注目度が高く、メガベンチャーが多数生まれている領域です。文章読み取りタグ付けは高い技術力が必要ですが、LISUTOの経営チームはEC業界への理解が深く、またグローバルなバックグラウンドを持つメンバーが結集しており、この難易度の高い領域で戦っていけると信じています。
繰り返しになりますが、Angel Bridgeは社会に大きなインパクトをもたらすために、あえて難しいことに挑戦していくベンチャーこそ応援しがいがあると考えており、こういった領域に果敢に取り組むベンチャーを応援したいと考えています。事業の壁打ちや資金調達のご相談など、お気軽にご連絡ください!