株式会社Logomix

Angel Bridge投資の舞台裏#10(株式会社Logomix)

細胞ゲノムの高機能化技術を提供するバイオベンチャーの事例。
東工大発の合成生物学ベンチャー、株式会社Logomixへ投資に至った背景について解説します。

2023.02.08

今回は、細胞ゲノムの高機能化技術を提供する東工大発の合成生物学ベンチャーである株式会社Logomixへの投資に至った背景について解説します。

合成生物学とは、組織・細胞・遺伝子といった生物の構成要素を組み合わせて代謝経路や遺伝子配列などを再設計し、新しい生物システムを人工的に構築したりする学問分野です。機能性物質の生産などへの応用があらゆる分野で期待されており、医薬品・燃料・プラスチック・食品添加剤・化粧品原料等の様々なモノを効率的に生産することが可能です。従来は捨てるはずだったものを原料にできたり、存在しなかった物質を優秀な遺伝子から作れたり、ヒト細胞の開発によって新しい創薬アプローチが実現できたり等、既存の生産手法で作っていたものやより優れたものが、合成生物学の技術を用いることで非常に安く効率的に作ることが出来る、大変可能性のある技術です。

それでは今回はAngel BridgeがLogomixに投資する際にどのような点を検討したかについて、ご紹介します。

合成生物学概要

それではまず既存の生産方法と合成生物学を用いた生産方法の比較です。合成生物学を用いた生産方法では、既存の生産プロセスが抱える各種課題の解決に寄与しています。例えばプラスチックを作る際に、従来は化石原料等を用いた化学合成技術を経て生産していましたが、合成生物学の技術を用いることで、サトウキビやトウモロコシなどを食べる優れた細胞を用い、目的生産物をより効率的に環境負荷の少ない形で作ることが出来ます。

合成生物学概要
合成生物学概要

近年の合成生物学の急速な発展の背景にはいくつかのファクターがあります。1つ目は次世代シークエンサー(遺伝子の塩基配列を高速に読み出せる装置)の開発です。次世代シークエンサーが開発されたことで、ゲノム解析の高速化・低コスト化が急速に進展し、解析コストは2000年の10万分の1に低下しました。2つ目はCRISPR-Cas9の開発です。これによりゲノムが自由に書き換えられるようになり低コスト化も進展しました。この技術は2020年にノーベル化学賞を受賞しています。またIT/AI技術の発展によって、ゲノム配列と生物機能の関係の解明も急速に進展しました。

市場

実際に合成生物学市場は急速に発展しており、市場に新たな機会を生み出すことが期待されています。世界の合成生物学市場は2020年時点で約70億ドルであり、2027年には約300億ドルに達すると予想されています。(出所:data bridge market research market analysis study 2020)

海外では世界市場を舞台にしたメガベンチャーが多数出てきており、GinkgoAmyrisといった企業が上場しています。株主としてはKleiner PerkinsKhosla VenturesSoftbankといった大型投資家等も投資をしており、大きな資金が集まる環境となっています。

市場

日本においても、2023年1月に米製薬大手のModernaが日本のバイオスタートアップであるオリシロジェノミクスを8,500万ドルで買収したことが発表しており、注目が集まる領域となっています。

色々なメガベンチャーが出てきていますが、それぞれのベンチャーで特色があります。そもそものDNAを作るようなプレイヤーもいれば、今回のLogomixのような優れた細胞株を作るゲノム編集技術が得意なプレイヤーもいますし、実際にそれらを使って工業的に製品を作るような下流側のプレイヤーもいます。このように米国を中心に多数の合成生物学ベンチャーが勃興し、各ベンチャーの持つ技術を組み合わせたビジネス体系を形成していることが分かります。

市場

サービス概要

Logomixの技術は以下のような4つの技術から構成されています。データベースを活用する中で、どの遺伝子が有用であるかやどの部分が不要であるか等を、Logomixのノウハウやシステムを使うことで効率よく検知し、大規模にゲノムを改変することができる技術となっています。

サービス概要 サービス概要

この中でも特にUKiSという技術がLogomixのコア技術となっています。

今までのゲノム改変技術は、CRISPR-Cas9に代表されるように1箇所だけを好きな塩基に変えることができるという技術でしたが、UKiSは染色体上の大きな領域を好きな塩基配列に変えることができます。一箇所の塩基をピンポイントで変えることができるというのも素晴らしい技術ですが、全体のゲノムを入れ替える中で長い領域を変えられるというのは非常に革新的であり、様々な領域に応用できる可能性を秘めています。

サービス概要

応用例

それではLogomixの技術の応用例についていくつかご紹介させていただきます。

①CO2固定化微生物の開発
従来は水素酸化細菌にパーム油を加えることでプラスチックの工業生産を行っておりますが、Logomixが開発した優秀な人工水素細菌を用いると、CO2と組み合わせることで高機能性バイオ素材等を作ることができます。この技術ではCO2を固定し酸素を出すため、植物のように現在のCO2関連の問題に対しアプローチできるというメリットもあります。
CO2固定化微生物の開発
②独自疾患モデル細胞や治療用細胞開発を用いた創薬支援
神経系は遺伝子の異常によって引き起こされる疾患が非常に多いため、病気の患者と健常者の細胞を比較することで、どの遺伝子が原因かを1つ1つ調べるといったプロセスをせざるを得ないのが従来のやり方です。本来は遺伝子以外も人によって違うためそのノイズを合わせる必要がありますが、従来は一塩基しか変えることが出来ないため、この問題にアプローチできていませんでした。
しかしUKiSの技術では、CRISPR-Cas9単独使用によるゲノム編集よりもより広範囲のゲノム改変が可能であるため、広いゲノム領域での変異や、離れた複数ゲノム部位での変異による疾患のモデル細胞も創出可能です。
また、UKiSの技術を用いることで、誰にでも移植できる細胞であるユニバーサルドナー細胞(UDC)の研究開発を進めています。白血球型抗原(HLA)が不一致であったりHLA遺伝子が欠損していたりする他人の細胞・臓器などを移植した場合、免疫細胞に攻撃・排除される、いわゆる拒絶反応を起こしてしまう事がありますが、UDCはこの免疫拒絶反応が抑えられている細胞で、移植される患者のHLA型に適合させる必要なく移植が可能ですLogomixは免疫拒絶に関係する多くのHLA遺伝子を同時に欠損させることが出来ますが、これは大規模ヒトゲノム改変技術を世界に先駆けて開発したからこそ実現できる手法であり、世界でも前例がないものです。
独自疾患モデル細胞や治療用細胞開発を用いた創薬支援
独自疾患モデル細胞や治療用細胞開発を用いた創薬支援

経営陣

Angel BridgeがLogomixに投資するにあたり、経営チームへの理解を深めました。

まず代表の石倉CEOはバイオ・医療分野でベンチャー3社の創業経験があり、バイオベンチャーの運営やグロースのために必要なスキルセットを持ち合わせています。また相澤CSOは東京工業大学の准教授であり、合成生物学領域において非常に有能な研究者として著名な人物です。

経営陣

このように業界に対する知見/合成生物学分野における高い技術力を持ち合わせており、バイオベンチャーとしては高いバランス感覚のある稀有なチームであると考えました。

おわりに

合成生物学はグローバルで注目度が高く、メガベンチャーが多数生まれている領域です。Logomixのコア技術であるUKiSは、広範囲にわたるゲノム領域を一気に改変することができることから、従来型の一塩基を改変するゲノム編集ではカバーできない領域に応用できる可能性があります。また、バイオベンチャー3社の創業経験がある石倉CEO/合成生物学領域において非常に著名な研究者である相澤CSOは非常にバランスの取れた経営陣であり、この難易度の高い領域で戦っていけると信じています。

繰り返しになりますが、Angel Bridgeは社会に大きなインパクトをもたらすために、あえて難しいことに挑戦していくベンチャーこそ応援しがいがあると考えており、こういった領域に果敢に取り組むベンチャーを応援したいと考えています。事業の壁打ちや資金調達のご相談など、お気軽にご連絡ください!

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