INTERVIEW

AIとデータで営業現場の課題解決を目指す(amptalk株式会社)

[猪瀬 竜馬 amptalk CEO × 黒田 健介 amptalk 執行役員 × Angel Bridge 林 × Angel Bridge 小林]

2025.06.18

「人と人が向き合う時間を最大化する。」をミッションに掲げ、商談解析ツール「amptalk analysis(アンプトーク・アナリシス)」やAI商談トレーニングツール「amptalk coach(アンプトーク・コーチ)」など、セールスイネーブルメントツールを提供するamptalk社。同社は2024年12月、第三者割当増資により総額10億円の資金調達を発表し、本格的なグロースに向けた一歩を踏み出しました。今回は同社代表取締役の猪瀬竜馬氏と、執行役員VPを務める黒田健介氏にご登場いただき、Angel Bridgeから受けたハンズオン支援について率直な感想をうかがいます。
猪瀬 竜馬 amptalk株式会社 代表取締役
  • 2010年に早稲田大学卒業後、日系製薬企業にて営業・マーケティングを経験。2017年から2年間米国ペンシルバニア州のヘルスケアカンパニーに出向し、Product Marketing Managerとして、全米500名の営業戦略の策定と、テックツールを用いたデジタルトランスフォーメーションを通じたセールスイネーブルメントに出会う。2018年スペインのie business schoolにてMBAを取得。2020年にamptalkを創業
黒田 健介 amptalk株式会社 執行役員 VP
  • 2016年東京大学法学部卒業後、新卒でPwC Strategy&(旧ブーズ・アンド・カンパニー)に入社。製造業、飲料、製薬、ITなど幅広い業界で中計策定、営業戦略立案、PEファンド等バイサイド向けのBDD案件に従事。その後、米国拠点のVCであるScrum Venturesの日本オフィス立上げに参画し、2021年から国内投資責任者として延べ15社の投資及び投資後の支援を担当。2024年4月amptalkに入社
林 正栄 Angel Bridge株式会社 パートナー
  • 伊藤忠商事にて北米統括シカゴ支店長などを務めた後、1部上場企業取締役、コンサルティング会社代表取締役、エミアル株式会社代表取締役社長などを経て2015年Angel Bridgeを設立し、現在に至る。 慶應義塾大学経済学部卒、ノースウエスタン大学Kellogg MBA修了。
小林 智裕 Angel Bridge株式会社 ディレクター
  • 2015年、東京大学大学院情報理工学系研究科修士修了後、McKinsey & Company入社。製造業、消費財、物流業界のクライアントを中心に、全社および新規事業戦略、M&A支援、組織・オペレーション改善支援に従事。その後、VCのSTRIVEを経て、2022年10月Angel Bridgeに入社。

セールスイネーブルメントで「日本の受注率を上げる」

——amptalkはどのようなサービスを提供する企業なのでしょうか?

猪瀬:端的に申し上げると「日本の受注率を上げる」SaaSを提供する会社です。「受注率を上げる」といってもその方法はいくつもあるわけですが、われわれは「セールスイネーブルメント」領域に特化し、商談解析ツール「amptalk analysis」とAI商談ロープレ「amptalk coach」を通じて、その目的を果たそうとしています。

——「セールスイネーブルメント」が求められる背景を教えてください。

猪瀬:多くの企業がセールス業務の効率化を狙い、SFA(Sales Force Automation)の活用に取り組んでいますが、データ入力など間接業務の増加や、入力データの正確性をいかに担保するかに頭を悩ませているのが実情です。さらに少子高齢化によってセールスの担い手が減り人材の流動化も高まっています。OJTに依存したぶっつけ本番型の人材育成手法では、営業ノウハウの属人化や営業プロセスのブラックボックスの解消はなかなか進みません。こうしたセールスを取り巻く構造的な課題を解決するため、われわれは強靱な営業組織を育てる「セールスイネーブルメント」に着目。音声認識技術や生成AIを活用した商談解析技術とSFAへの自動入力、商談トレーニングによる営業力強化によって「日本の受注率」を高めようとしています。

——事業の状況はいかがですか?

猪瀬:amptalkを創業した2020年はコロナ禍の影響で、商談が一気にリモートにシフトした時期です。この出来事を契機に以前より商談の音声データが格段に収集しやすくなり、分析環境の土台が一気に整いました。その後、生成AIの急速な普及も追い風となり、われわれのプロダクトへの注目度はますます高まっています。現在はさまざまなお客様からお引き合いいただいている状況です。

——セールスイネーブルメントという言葉は、日本でも最近耳にするようになりましたが、一般にはまだ耳馴染みのない言葉です。いつごろからセールスイネーブルメントに関心を持つようになったのですか?

猪瀬:「セールスイネーブルメント」という言葉を知ったのは、前職時代に米国のヘルスケアカンパニーに出向していた2017年のことです。セールスプロセスのDXプロジェクトに携わっていた当時、米国では、営業力強化を謳う「セールスイネーブルメント」の注目度が急速に高まっており、いずれこの波が日本にもやってくると感じました。起業するにあたってセールスイネーブルメントをテーマに選んだのは、日米で営業やマーケティングに携わった経験を生かしたかったのもさることながら、日本では未開拓であり将来性の高さを感じたからです。

——どのような顧客をターゲットにしたサービスですか?

猪瀬:先ほど申し上げた営業現場の課題は、企業の大小を問いません。強いていえば、営業成績が事業成長に与えるインパクトが大きいだけに、大企業の危機感の高さが際立ちます。そのため現在amptalkでは、とくにエンタープライズ企業に重点を置いた顧客開拓を急いでいるところです。

Angel Bridgeは、スマートさと気合いを兼ね備えたVC

——黒田さんは、戦略コンサルタントでの経営支援経験とVCでの投資経験をお持ちだそうですね。

黒田:はい。大学時代は弁護士になるつもりで法学部で学んでいたのですが、過去の判例や既存の法律を拠り所にする法曹の世界よりも、新しい価値が生まれるビジネスの世界に身を置きたくなり、さまざまな業界と接点を持つ戦略コンサルティングファームに入りました。それから仕事を通じ大企業とお付き合いを深めるなかで、ゼロから価値を生み出すスタートアップに関心が向くようになり、米国のVCが日本拠点を開くにあたって、コンサルティングファームからVCに転じました。

——amptalkとはどんな縁で?

黒田:VC時代に計15社の投資案件に携わったのですが、amptalkはそのなかの1社だったんです。

——VC時代からお付き合いのあった投資先に入社されたんですね。なぜamptalkにジョインされたのでしょう?

黒田:amptalkの人、そしてタイミングに惹かれました。経理や人事のようにデータを集めやすいバックオフィス領域と違い、セールス領域はデータの取得と蓄積が非常に難しかったのですが、コロナ禍で状況が一変しました。amptalkは絶妙なタイミングで事業を立ち上げ、国内では未成熟なセールスイネーブルメント領域に果敢にチャレンジしているスタートアップです。もちろんVCの目線から非常に魅力的だったからこそ投資したわけですが、ほかの投資先との兼ね合いもあり、コミットできる時間は限られます。常々、いつか自分もスタートアップの経営に直接携わりたいという思いもありましたから、2023年の夏、猪瀬と会食した際、思い切って当事者として腰を据えたいと申し出て、amptalkの一員になりました。

——amptalkとAngel Bridgeの関わりはどのような形ではじまったのですか?

小林:2023年3月ごろ、有望なスタートアップがリストアップされているデータベースを検索しているときに存在を知り、私からお声がけさせていただきました。セールスイネーブルメントに着目された先見性と、想定されるビジネスインパクトの大きさに興味を惹かれてご連絡を差し上げたんです。

猪瀬:確かメッセンジャー経由でご連絡いただきましたよね。

小林:はい。猪瀬さんとはこの件で初めてお会いしましたが、実は私と黒田さんは大学時代のインターン先が同じだったり、黒田さんの前職時代に投資案件でご一緒したことがあったりと、接点があったんです。

黒田:そうですね。Angel Bridgeさんは、投資先の定例会で的確な質問をされたり議論されたりするのを見ていたので、その当時からとてもスマートな印象を持っていました。いまもその印象は変わりませんが、お付き合いが深まるなかで、起業家の苦労や悩みに寄り添い、親身になってご支援くださる「伴走者」のイメージが加わりました。

猪瀬:私の印象はスマートさと気合いを兼ね備えたVCですね。メンバーのみなさんはすばらしいご経歴をお持ちで、かつ投資先を成長させようという意欲と熱意を強く感じます。そこがAngel Bridgeさんのすばらしさであり、ユニークさだと思います。

林:ありがとうございます。われわれにとって投資先へのハンズオン支援は重要なバリューのひとつですし、起業家のみなさんのご要望があれば、かなり踏み込んで支援するのがAngel Bridgeのスタイルです。「ヘッズ・イン」とでもいうのでしょうか。起業家のみなさんと同じ目線を大切にしながらも、知恵と勇気を持って難しい課題に頭から飛び込んでご支援する。それがAngel Bridgeの強みだと自負しています。

猪瀬:ヘッズ・インですか(笑)。まさにいい得て妙ですね。

林:ありがとうございます(笑)。それほど前のめりになって支援しているつもりですから、この取り組みを評価していただけるのは、われわれにとってとても嬉しいことなんです。

適度な距離感を保ちつつ、踏み込むべきときは踏み込む支援

——2024年12月にシリーズAラウンドで10億円の資金調達を実施されました。これ以降Angel Bridgeからはどのような支援を受けていらっしゃいますか?

猪瀬:日頃からさまざまなご支援をしていただいていますが、主だったところでいうと、林さんには大手企業を中心とした顧客紹介、小林さんには黒田とともに、KPIの設計からレポーティングまでのKPIモニタリングの仕組みづくりにご尽力いただきました。このほかにも毎週のように管理部門や経営管理系の人材をご紹介いただくなど、営業面でのご支援から社内体制の整備まで非常に幅広いご支援をいただいています。

林:私が担当している顧客紹介に関していいますと、猪瀬さんや営業部門の責任者の方を交えてアプローチすべき企業にあたりをつけ、どのポジションの方とお話しすべきかを検討した上でアポイントを取り、商談の場に同席させていただくようにしています。セールスの定着や育成、SFAの活用に苦戦している大企業は少なくありませんから、私としてもご紹介のしがいがあるんです。

猪瀬:私のほうから戦略的にアプローチしたい業界や企業を挙げると、林さんはたいていキーマンをご存じです。そういった意味でも非常に頼りになる存在です。

林:ありがとうございます!

——黒田さんと小林さんが担当されたというKPIモニタリングの仕組みづくりについても教えていただけますか?

黒田:小林さんにお手伝いいただきながら、KPIモニタリングに必要な一連のプロセスを構築しました。当然のことながら、意志決定の精度を高めるには適切なKPIモニタリングの仕組みが大切なのはわかっていたのですが、日々の業務に忙殺されなかなか手が回らなかったので、小林さんにお願いしたわけです。ただ、本当にここまでお願いしていいのかどうか、考える時間が必要でした。

——なぜ、躊躇されたのですか?

黒田:経営の核心に迫る部分を社外に委ねてしまうと、解像度が低いものになるかもしれない懸念と、投資家のみなさんにはできるだけいい姿を見せたいという、スタートアップ特有の欲があったからです。とはいえ背に腹は代えられません。今考えてみれば、その心配は杞憂に過ぎませんでした。小林さんは戦略コンサル出身なので、われわれの事情や状況を理解された上で、努めて丁寧かつ迅速に進めていただき、プロセスもアウトプットも当初の期待をはるかに超えるものになったからです。

小林:ありがとうございます。先ほど林が申し上げたように、ハンズオン支援は投資先のご要望があってはじめて成り立つものです。この件に関しては、黒田さんからのたってのご要望なのはわかっていましたから、かなり気合いを入れて取り組ませてもらいました。とくにこだわったのは、型どおりにこなすのではなく「実効性を担保する」ことです。現在の事業ステージや状況において、私が猪瀬さんや黒田さんの立場だったらどんな指標が見たいか、どういう運用なら無理がないか、自分なりに考え尽くしました。KPIはなんでも見たい気持ちになる一方で運用の手間とのバランスを取ることが重要であり、苦心しました。

黒田:こちらこそありがとうございます。投資家と起業家は同じ船に乗ってはいるとはいえ、ビジネスパートナーである以上、自分たちの内情を詳らかに見せることにはどうしても躊躇が伴います。しかしAngel Bridgeさんは、日頃から親身になってご支援いただいていますし、われわれに不要なプレッシャーやストレスをかけたりしないよう配慮してくださっているからこそ、安心して託すことができました。

猪瀬:KPIモニタリングをつくる過程で、投資家として突っ込みがいのありそうなポイントが、たくさんあったのではないですか?

小林:amptalkさんに限らず、成長過程にあるスタートアップは、人手がいくらあっても足りないのが普通です。重箱の隅をつつくような指摘より、実効性がある重要な取り組みに集中すべきなのは明らかですし、そもそも、われわれが気にするポイントを起業家のみなさんが気づいていないはずがありません。もちろんご相談を受ければ知恵を絞るのを惜しみませんし、重要な課題であればわれわれからも指摘させていただきますが、基本的には起業家のみなさんを信頼すべきだと思っています。

猪瀬:なるほど。ご配慮いただきありがとうございます。実際に普段コミュニケーションを取っている際もAngel Bridgeさんは、投資先との間合いの取り方が絶妙な気がしますね。適度な距離感で接していただいてるからこそ、深い信頼関係が育まれるのだと思います。

林:Angel Bridgeでは、毎年春と夏に行う合宿で、各自が担当する投資先への支援内容をレビューする機会があるのですが、昨年は小林のamptalkさんへのご支援が高く評価されて支援大賞を受賞したんですよ。

猪瀬:そうだったんですか!

黒田:それはうれしいですね!ではぜひ次回もわれわれへの支援で優勝を狙ってください(笑)

小林:はい、ありがとうございます(笑)。ぜひそうなるよう頑張らせていただきます!

セールスイネーブルメントで、日本経済の再生に貢献したい
——猪瀬さん、黒田さんにうかがいます。今後Angel Bridgeに何を望みますか? 

猪瀬:これからも引き続き、顧客紹介と採用、社内体制の強化にご尽力いただければうれしいですね。実は毎月の株主報告資料にAngel Bridgeさんから受けた支援内容を記載しているのですが、すでにその数はどのVCよりも多い状況です。これはみなさんのご期待の表れだと思うので、これまでのご支援に報いるよう、結果を残したいと思っています。

黒田:Angel Bridgeさんは、以前から投資先を集めたイベントなどを通じて、起業家コミュニティづくりにとても積極的です。起業家ならではの悩みを共有し、先輩起業家の体験談に耳を傾ける機会はとても貴重なので、これからも継続していただければと思います。いままではタイミングが合わずなかなか出席できなかったのですが、今後は折に触れて参加するつもりです。

林:改めてうれしいお言葉をありがとうございます。amptalkさんの事業フェーズが上がれば、資本施策のアップデートやIPO準備など、これまでの支援メニューにはなかった課題が増えていくことでしょう。Angel Bridge全員でご支援する所存なので、お困り事や相談事がありましたらいつでもお知らせください。みなさんの期待に添えるようAngel Bridge一丸となって最善を尽くします。

——これからamptalkをどんな組織にしたいですか?

猪瀬:日本はGDPランキングの順位を落とし続けており労働人口も減る一方です。こうした状況に少しでも抗うために、amptalkの各サービスを通じて日本の受注率を高め、お金が回る世の中の一助になりたいですね。現行の「amptalk analysis」、「amptalk coach」に留まらず、営業の課題を解決する新たなプロダクトを生み出していく計画もあります。さまざまなアプローチでセールスイネーブルメントを実現し、営業現場の生産性向上に貢献していきます。

黒田:戦略コンサルタント時代は大企業、VC時代にはスタートアップと数多く交流してきましたが、両者に共通して感じていたのが「営業の課題」でした。営業力はビジネス成長のドライバーであり増幅器です。日本経済が少しでも上向くよう、われわれにできるチャレンジを続けてきます。

——最後に、Angel Bridgeのおふたりからamptalkのおふたりにエールをお願いします。

小林:まさに日本はこれからが正念場。日本が抱えるさまざまな課題を解決するためには、スタートアップ業界を含めたイノベーションを起こすチャレンジが必要なのはいうまでもありません。セールス領域はあらゆる企業で優先度が高い課題でもあるので、amptalkを必要とするすべての企業がセールスイネーブルメントを高度化できるよう、これからも後押しさせていただくことをお約束します。

林:今日のお話を聞いて、改めてVCと投資先は一心同体であるべきだと感じました。これからハードシングスに直面することがあるかもしれませんが、猪瀬さんや黒田さんのような優秀なみなさんなら必ず乗り越えられるはずです。Angel Bridgeとしてもそのための支援は惜しみません。本日はお話を聞かせていただきありがとうございました。今後ともよろしくお願いいたします!

猪瀬・黒田:こちらこそよろしくお願いいたします!

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