佐崎:飲食店向け業務改善クラウドサービス「HANZO」シリーズの開発を手掛けています。現在は、過去の売上実績、季節や天候を踏まえ、AIが来客数やメニューの注文数を予測し、必要となる食材を自動的に算出する「HANZO 自動発注」や、45日間先まで売上予測を算出し、アルバイトのシフト作成を補助する「HANZO 売上予測」などのサービスを提供中です。在庫チェックや発注作業に伴う時間短縮、食材の廃棄ロスの削減、無駄な人件費を大幅に削減できることに加え、既に構築済みの管理システムとも簡単に連携できることから、外食チェーンを運営するお客様を中心にご利用が進んでいます。
佐崎:前職のワークスアプリケーションズで基幹業務システムの開発やプロダクトマネジメントに携わるなかで、原材料を仕入れ、商品を製造、販売するというサプライチェーンの最適化こそが、企業の命運を左右する核心だと気づいたことが起業のきっかけです。せっかく会社を興すなら、社会に貢献するビジネスに取り組みたいという思いもあり、あえて難易度が高い「サプライチェーンの最適化」を事業のテーマに選びました。
佐崎:私たちが目指すのは、メーカーや流通業、卸業、飲食店を巻き込んだ食品業界全体の最適化です。この大きな目標を達成するには、まず消費者に一番近い、外食業界の最適化から始め、需要データを得ることが重要と考え、飲食チェーン向けのサービスから取り組み始めました。しかし、最初から食品業界全体の最適化を志していたわけではないんです。
佐崎:実は、起業してしばらくは、どの業界に参入すべきか判断するため、可能性がありそうだと思える業界をリストアップし、上から順にプロトタイプを試作しては、関係者にお見せしていた時期があるんです。そこで出会った皆さんからのご意見をうかがう過程で、食品業界全体のサプライチェーン改革に取り組む決意を固め、その手始めとして飲食業界向けのサービス開発に着手しました。
河西:ある程度、決め打ちでプロダクト開発に着手するスタートアップが多いなか、候補業界ごとにプロトタイプを作り、参入すべき業界を探られたのは改めて凄いことだと思います。外食業界以外にどんな業界を検討されたのですか?
佐崎:社会に貢献するためにはある程度、市場規模が見込める分野であり、外から見ても業務効率化の余地が広そうな業界に狙いを定めていたので、流通小売業やアパレル業、機械系製造業なども検討しました。
河西:本当に幅広い業界のなかから飲食に絞り込まれたんですね。
佐崎:はい。私も共同創業者でCTOの多田(裕介氏)もソフトウェアエンジニア出身です。手を動かすことには慣れていましたし得意でもあったので、プロトタイプを作っては見せてご意見をうかがう方法が採れました。
河西:私の知る限り、最初からここまで手堅くファクトを積み重ねてサービスを作り込んでいるスタートアップは多くありません。外食業界でいこうと決めるまでに、どのくらい時間をかけましたか?
佐崎:1年弱はかけたと思います。この間、いくつもの企業に足を運びプレゼンやデモを繰り返し、一番手応えがあったのが、外食チェーン店の経営陣でした。
河西:ほかの業界の経営陣とどんな点が違ったのですか?
佐崎:「リスクを負っても試してみたい。一緒にやりましょう」とおっしゃる方がとても多かったんです。飲食業界は一定の市場規模があり、IT化の余地が広く効率化へのニーズが高いことが参入の決め手と申しましたが、でも、それだけでこの領域を選んだわけではありません。数多くの創業経営者の皆さんにお会いし、現状に対する危機感や変革に対する熱い意欲に触れたことが、飲食産業に参入する決め手になりました。それに加え、私の祖父が食品製造業を経営していたり、共同創業者の多田の家族が飲食店を経営していたりと、ふたりの創業者ともにこの業界に縁があり、貢献したいという思いもありました。
河西:なるほど。そういう背景があったんですね。
佐崎:はい。飲食業は生活になくてはならないエッセンシャル業界のひとつであるにもかかわらず、低い利益率のなかで、ギリギリの経営を強いられている企業が少なくありません。人手不足も顕著ですし、最近ではコロナ禍で業界全体が厳しい状況にあります。そんな苦境にあえぐ飲食業で大幅なコスト削減を実現できたら、きっと喜んでいただける。そう確信し参入しました。
河西:私どもからお声がけしました。スタートアップが集まるデータベースを検索しているときに、数あるSaaS企業のなかでもドメインの選び方がユニークだと思い、面会を申し出たのが最初でした。
河西:2020年11月に初めてお会いしたときの佐崎さんの印象は、事業説明資料やプレゼン内容も万全で、お話振りも非常にロジカルで明快。すべてにおいて準備に手抜かりがなく、細かい数字も正確に押さえていらっしゃっていたので「信頼のおける経営者」というものでした。サービスについての話を聞き終わるころには「きっとこの会社は来る」と確信したのをよく覚えています。
佐崎:それは光栄です(笑)。当時は2回に分けて実施したプレシリーズAの1回目を終えたくらいのタイミングで、資金需要も落ち着いていたのですが、ファイナンスについてはまだまだわからないことだらけ。そこで後学のためにと思いお会いしたのですが、すぐにお会いして良かったと思いましたね。私たちの事業の将来性をとても前向きに評価してくださるだけでなく、今後の事業展開の面で示唆に富んだ提案もいただけたからです。とても有意義な時間を過ごせました。
河西:こちらからも何か価値のある情報をお渡ししないと釣り合わないと感じてしまうほど、素晴らしいプレゼンでしたし、飲食業が抱えているペインをよく理解していると思いました。
佐崎:ありがとうございます。現実の在庫数とAIが弾き出した予測在庫数の乖離を調整するため、お付き合いのある店舗に足繁く通い、何時間も棚卸しをしながら予測モデルを調整していたので、飲食業の大変さが身に染みていたからかもしれません(笑)。研究開発にはかなり力を注ぎましたし、その努力をお客様にも評価していただいていたので、自信を持ってお伝えできたのだと思います。
河西:最初にお会いしてから1年ちょっと経った2022年2月のことです。それまでの間、数カ月に1度のペースで情報交換する機会を設けていただいていたので、お声がけいただいたタイミングで迷わず手を挙げました。
佐崎:改めて最新のプロダクトを見ていただいたり、お客様へのインタビューをしていただいたりと、手際よく検討を進めていただいたので、こちらとしても本当に助かりました。この対応の早さは、きっと期待の裏返しに違いないと思い、身の引き締まる思いで契約書にサインしたのを思い出します。シリーズAで託していただいた資金は、引き続き研究開発やお客様と接する部門の拡充に使い、HANZOの拡販に努めていく考えです。
佐崎:引き続き、経営に関する課題についてご助言いただいているのに加えて、食品業界に豊富な人脈を持っていらっしゃる、パートナーの林さんのご助力で、大手外食チェーンの経営陣にお引き合わせいただくなど、とくに営業支援の面で多大な支援をいただいています。
河西:林からはお客様候補をご紹介させていただき、私からは共有いただいた経営指標をもとにした数値分析や業界分析など、主に経営や営業戦略の面からサポートさせてもらっています。経営のPDCAサイクルを回す上で必要な支援は可能な限り行うというのが私たちの方針です。
佐崎:毎回、大所高所に立った視点でアドバイスしていただけるので、発見や気づきが多く、いつもディスカッションの時間が楽しみです。おかげさまで、当初は和食チェーンを運営するお客様が1社のみという状況でしたが、現在は上場企業を中心に20社ほどのお客様にご利用いただくまでになりました。Angel Bridgeさんのご支援にはとても感謝しています。
佐崎:これまで営業時間を終えてから多ければ1時間以上費やしていた発注業務がたった5分で終わるようになった、また入社間もない若手にアルバイトのシフト管理を任せられるようになったなど、うれしい声を耳にする機会が増えています。飲食店は製造業にたとえると、販売店舗内で部品を組み立てるような特殊性をはらんだ業態です。高度な技術、優れた予測モデルが必要な一方、10代の若者から70代の高齢者まで、どなたでも簡単に使える必要もあります。考えるべき要素も多く、すべてを満たす難しさを感じる局面もありますが、それだけに「効果が出た」「導入して良かった」というお声を聞くたびに、飲食領域を選んで良かったと感じます。
河西:飲食業界向けに限ったことではなく、ここまで劇的な効果が出るSaaSサービスはそうはありません。本当に素晴らしいことだと思います。
佐崎:ありがとうございます。
佐崎:まずは外食産業においてHANZOを採用していただく店舗を増やし、それを突破口に「食品業界のサプライチェーンを最適化する」というミッションを実現できるように全力を傾けて取り組む覚悟です。究極の目標は、高度な技術と膨大なデータを最大限に活用した食品産業のサプライチェーン最適化により、Goals を「日本のGDPを0.5%以上押し上げる」くらいの影響力を持つ会社に育てること。一生をかけてでも、取り組む価値がある仕事だと信じています。
河西:Goalsさんには、ぜひ食品業界におけるサプライチェーン改革の旗印になっていただき、1日も早く時価総額1,000億円を超えるユニコーン企業に名乗りを上げていただきたいですね。Angel Bridgeもその実現に向けてできる限り応援をするつもりです。
佐崎:河西さんのご期待に応えられるようがんばります。
佐崎:未知の分野にチャレンジするのは怖いものですし、不安がつきまといます。しかし、少子高齢化による国力の衰退が既定路線といわれるなかで、いまほど新しいチャレンジが必要なタイミングはありません。もしチャレンジが実を結ばなかったとしても、諦めなければ挽回するチャンスはきっといつか巡ってきます。もし本気で取り組んでみたいこと、実現したいことがあるなら恐れずチャレンジしてほしいですね。そんな人たちがもっと増えてくれたら私たちも心強いですし、一緒に日本を元気にできたらこれほどうれしいことはありません。