前回のスタートアップアカデミー#4では、起業家が押さえておくべきIPOに向けた準備についてご紹介しました。スタートアップアカデミー#4
今回は、VCから投資を受けた後に、実際にIPOまでどのような支援をVCから受けるのかをAngel Bridgeの事例に基づいて解説します。
一般的にVCから出資を受けると、そのVCから様々な支援を受けることができます。支援の内容や密度はVCのスタンスにより様々な特色があります。自社によって必要な支援をしてもらえるかどうかという観点で、投資を受ける前に確認しておくと良いでしょう。
Angel Bridgeは投資先企業のハンズオン支援に強い思いを持って積極的に取り組んでいます。
我々のValuesの1つを紹介させてください。
“投資家は起業家のサポーター
起業家は自身の渾身のプロジェクトを主役として進め、投資家はサポーターとしてこれを全力で支援する。投資家は自分自身が経営を出来るとは思ってはならないし、またそうするべきでもない。投資家は起業家を信頼し尊敬する。投資家は数多くのプロジェクトに取り組めることで自身の生み出せる価値を極大化出来ることをその誇りとする。”
VCはあくまでも起業家のサポーターであり、実際に事業を作っているのは経営陣です。そこでAngel Bridgeはアドバイスを押し付けるのではなく支援するという姿勢が正しいと考えています。プロテニスプレイヤーとコーチの関係とイメージすると分かりやすいでしょう。
そしてベンチャー企業が求めている支援は、ステージによって大きく異なります。それゆえ画一的な支援メニューを漫然と押し付けるのではなく、起業家のニーズをしっかり聞いた上でオーダーメイドでハンズオン支援を行っていくことが重要です。例えば、シードではビジネスモデルに対するアドバイスや最初の顧客の紹介、アーリーでは採用支援、シリーズAでは営業やマーケティング、顧客紹介などそれぞれを行います。
次にハンズオン支援の全体像を説明します。Angel Bridgeでは投資先支援メニューを、「組織(ヒト)」「事業(モノ)」「ファイナンス(カネ)」「経営のPDCAサイクル」の4つに分類しています。それぞれについて簡単に説明していきます。
「組織(ヒト)」に関する支援では、経営人材の紹介や評価報酬体系の設計などを行います。特にアーリーステージのベンチャーでは売上規模が小さく組織も少人数のケースが多いため、メンバー一人一人の貢献度が高く、経営陣を含む組織の強化が非常に重要です。その一方で知名度が低い、高い給料が出せない、ネットワークが不足していることなど、優秀な人材を採用することのハードルが高いことも多いです。この部分をVCがしっかりサポートすることは大きなインパクトがあります。
「事業(モノ)」に関する支援では、企業の戦略策定に向けた壁打ちや顧客先の紹介などを行っています。戦略策定では月次定例会を共に行い、事業戦略やIPOや資金調達など様々な経験を生かしたアドバイスをします。顧客先の紹介では、製品・サービスの営業先など、今後の事業拡大に向けて付き合っておきたい企業を紹介します。ベンチャー企業はまだ信頼が不足しており、ネットワークも脆弱で自社でリーチできない部分が多いため、VCが補っていくことが必要でしょう。
「ファイナンス(カネ)」に関する支援では、資本政策の策定や追加の資金調達支援、IPO支援などを行います。資本政策は後から修正が困難であり、資金調達は事業継続・拡大のために極めて重要です。今後の資金調達を「いつ」「誰から」「どのような規模」で行うかについて一緒に考え、実行に向けて、投資家の紹介なども共に行います。IPO準備では、証券会社の紹介やエクイティストーリーの考案などをサポートします。ベンチャー企業は基本的にIPOを一度しか経験しませんが、VCは何度もIPOのサポート経験があるため、ノウハウを共有することができます。
「経営のPDCAサイクル」に関する支援はヒト・モノ・カネをどう回すかといった経営のOS(オペレーティングシステム)のようなものです。取締役会を起点に株主も巻き込んだ年12回の大きなPDCAサイクルを回す体制の構築を支援します。会社の羅針盤となるKPIの設計や見える化と組織としての運営体制を経営陣と共に作り上げていきます。これらは組織が大きくなった時に必要な会社運営の仕組みになります。
ステージごとに取り組みを整理すると、以下のようになります。
シードステージは事業の方向性を議論し、それを元に資金調達の支援を行います。アーリーステージでは集めた資金を使ってCXO人材採用支援を行い、事業を着々と進める体制を整えます。プレIPOステージになると、監査法人や証券会社の選定などのIPO準備を支援します。これらと同時に月一の定例会を行い、経営の見える化を行います。この定例会は取締役会へと発展していきPDCAサイクルが回る体制が自然と出来上がっていきます。
では、それぞれの支援についての詳細を見ていきますが、今回は「組織」に焦点を当てて説明します。
先ほど、「組織」に関する支援は、経営人材の紹介や評価報酬体系の設計などを行うと述べました。実際にどのような取り組みを行っているのか詳しく説明します。
経営人材の紹介は、どのような人材が足りていないかというところから一緒に考えていきます。定例会で事業計画を構築していくなかで定まっていくことも多いです。
この経営人材の紹介方法は2種類あります。1つ目は知人友人など独自ネットワークの紹介で、転職マーケットに出ていない優秀な人材の獲得が可能になります。Angel Bridgeにはプロファーム出身者が多いため、そのネットワークを生かした人材紹介を行っています。
2つ目は、人材紹介エージェント経由の紹介です。多くのVCは人材エージェントと提携し、情報共有を行っています。Angel Bridgeは長く人材紹介を行う中でネットワークを培ってきており、領域やポジションによって適切な人材紹介会社を選択することができます。さらに投資先企業の魅力を候補者に伝え、応募したいと思ってもらえるよう取り組んでいます。
次に評価報酬体系の設計です。ベンチャー企業での評価報酬体系は採用力にも直結する重要な部分なのでとても重要です。しかし多くのベンチャー企業は初めて評価報酬体系を作るため、作成経験があるVCのサポートがあるとより良いプラクティスをベンチャー企業に提示できるでしょう。またチームメンバーにとって大きな魅力となるストックオプションの設計も同様にサポートします。
数人規模のベンチャーに1人優秀なCXOが入ると企業は大きく変わり、企業価値・事業の成長スピードはとても伸びます。人材紹介は、最もインパクトがある支援の1つです。
経営人材の紹介の取り組みとして、「Heartseed」という企業にCOOを紹介した事例を説明します。「Heartseed」は慶応義塾大学発のバイオベンチャーで、iPS細胞による心筋再生医療の実用化を目指しています。
事業拡大に向けてビジネスサイドの優秀な人材が必要だという話になり、COO探しが始まりました。サイエンスも分かり、事業を回す経験もしているという軸で探し、候補として安井さんを紹介しました。CEOの福田さんが直接安井さんに熱意や想いを伝える機会も設定し、Heartseedの魅力を伝えました。
安井さんはAngel Bridge河西の大学時代の友人で、新卒はBain&Company、その後、外資製薬会社で事業開発などを行い、最年少で事業部長になった方です。
Heartseedに入った経緯として以下のように安井さんは話していました。
“安井:以前から、Angel Bridgeの河西さんよりVCや日本発のバイオベンチャー育成の話を聞いていてやりたい事として考えていました。ある出来事をきっかけに、やりたいことは今やらないといけないと思ったんです。そんな時にHeartseedの話を聞き、自分が一番やりたかった革新的な治療法を開発していて、製薬企業の主要な部門の経験を持つ自分が役に立てそうだと感じました。その後CEOの福田と会って丁寧な説明と想いを聞き、これは凄いなと驚きました。そしてこれは何としても世に出したい、と思いました。
(参考記事:660億円ディールの裏側 Heartseed COO安井 × Angel Bridge河西)
安井さんは自分でドライバーズシートに座ってハンドルを握って仕事がしたい、そのような思いが強くなり最終的に転職に至ったようです。しかし、その背景には日頃からAngel Bridge代表の河西が安井さんとバイオベンチャーや今後のキャリアについて話をしていたり、また可能性のあるビジネスに対してきちんと魅力的だと安井さんに思ってもらえるようにCEOのサポートも行っていました。
COO就任後は、ライセンスアウトの締結に向けて尽力し、ノボノルディスクファーマという世界トップクラスの製薬企業と、Heartseed の主要開発品であるHS-001の開発・製造・販売に関する全世界での独占的技術提携・ライセンス契約を締結しました。
HeartseedのCEO福田さんは、安井さんが入ってくれたことによって経営のPDCAサイクルが回り、事業の成長スピードが上がったと述べていました。他にも、Angel BridgeはHeartseedに対してCFO、管理部長、監査役、開発部長などを紹介して採用に至っています。
今回はHeartseedの事例を一例に取り上げました。このようにAngel Bridgeは普段から経営人材と交流を行ったり、20人ほどのヘッドハンターと頻繁に情報を交換するなどして、必要な時にニーズに応じた人材を紹介できるような体制を整えています。
以下にAngel Bridgeが行った紹介の一例を記載します。
今回は特に「組織」に焦点をあてて、VCがどのようにサポートするか説明してきました。自分の会社にはどんなサポートが必要か考えると、自分に合ったVCに出会えるのではないかと思います。そのために、まずはそれぞれのVCを知ることが大切です。最近ではSNSやブログ記事、イベントなどで積極的に情報発信しているVCも多いので、簡単にチェックすることができます。投資先の企業から評判を聞いたり、知人のツテを使うなど情報収集を行いましょう。アプローチ方法としてはツイッターアカウントへのDM・オフィスアワーへの申し込み・HPへの問い合わせ・人づての紹介・イベントへの参加など様々考えられます。後悔のない資金調達ができるよう、最大限活用していきましょう。