——「Angel BridgeとはどんなVCですか?」と聞かれたら、どのように答えますか?
ひと言で、といわれたら「コンサルティングファームや投資銀行など、プロフェッショナルファーム出身者からなるハンズオン支援を得意とするVCです」と答えます。
——投資スタイルの特徴は?
投資においてもっとも重要なのは、投資先がポテンシャルを最大限発揮出来ることです。その実現のためにはファクトの分析に基づいた目利き力と、手厚く行き届いた支援が欠かせません。ベンチャー投資を勘や経験に基づく「アート」といわれることもありますが、われわれは投資先を選ぶ際も、投資先を支援する際も、事実や数字の裏付けを重視するため投資を「サイエンス」だと捉えています。
——投資を「サイエンス」だとおっしゃる理由について、もう少し詳しく聞かせていただけますか?
事実や数字によって対象の持つポテンシャルを可視化し、課題解決や目標達成を目指し最善の方策を考え、実践と検証を繰り返しながら真理に近づく。こうした営みはまさに自然科学の研究アプローチそのもの。だからこそわれわれは「ベンチャー投資はサイエンスだ」というのです。
——河西さんは大学院で遺伝子の研究をされた後、投資銀行やPEファンドを経て、2015年にAngel Bridgeを創業されました。そもそもなぜバイオサイエンスの世界から投資の世界へ?
大学院でイネの遺伝子組み換えの研究をしていた人間が「なぜ投資の世界へ?」とよく聞かれますが、私自身は、研究対象が「イネ」から「企業」に変わっただけだと思っているんです。研究職も投資家も真理を追求するのが仕事。むろん分野は違いますが、本質的な部分では重なるところが多いと思っています。
——「真理を探究したい」という思いはどこから?
両親や祖父が大学の教授だったせいか、幼少期から物事を深く考えたり、分析したりするのが好きでした。それもあって研究者を目指し大学院に進学したのですが、アカデミアの世界はビジネスの世界と比べると、純粋な真理の探究の側面が強く、それによって社会を動かす意識があまり強くありません。もちろん例外はあります。ただ、これからの人生について考えたとき、象牙の塔にこもって研究に没頭するより、社会に出て探究した真理を世に還元するほうが自分の性分に合うと思い、金融の世界に足を踏み入れました。
——それで、投資銀行を選ばれた?
はい。企業価値をシビアに算定する姿勢に、研究に通じる論理性や厳密さを感じたからです。また、プロフェッショナルファームも研究者と同様、「個人技」が評価される職業でもあります。自らの手でキャリアを切り拓きたいという思いもあり、この世界に舵を切りました。
——投資銀行に入られた後、PEファンドにいかれたのはなぜですか?
投資銀行の本分は、あくまでも顧客への的確なアドバイスであり、サポートを提供すること。実務を通じて、真理の探究より顧客のために尽くす立場という側面が強いのを投資銀行で知りました。投資銀行からPEファンドに転じることを選んだのは、企業が成長する根拠をファクトに求めつつ、自ら手を汚す覚悟を持って投資先の経営に関与する姿勢に魅力を感じたからです。投資銀行時代にご一緒したPEファンドの方の仕事ぶりを見て「これこそ私がしたかった仕事なのかもしれない」と感じ転職しました。
——その後、PEファンドをもう1社経てAngel Bridgeを創業されました。稀なキャリアパスでは?
そうですね、PEファンド2社で7年間実務を経験した後、VCを立ち上げた日本人は、私が知る限りほかにいないのではないでしょうか。そういう意味でAngel Bridgeは、PEファンド的なアプローチを採る日本で唯一のVCといってもいいのではないかと思います。
——これまでの経験を踏まえれば、PEファンドを立ち上げてもよかったはずです。なぜVCだったのでしょう?
MBA留学から帰国して、日本は経済規模の割にVCの存在感が薄いことに気付きました。少子高齢化が加速するなか、政財界を中心に「日本も新産業を生み出さなければ」という機運が高まりつつあったとはいえ、米国などに比べると、まだまだ世に出る起業家の数が足りません。PEファンドで学んだ理論や手法をVCに持ち込もうと決めたのは、有力なメガベンチャーを世に送り出し日本経済の衰退を食い止めたい、新産業を創出し経済のパイを大きくして、豊かな社会を築きたいという思いからです。
——VCを立ち上げるにあたって周囲の反応はいかがでした?
「PE投資とVC投資はまったく違う。無理では?」と、よくいわれたものです。「成功に必要なノウハウも人脈も違うから」というのがもっぱらの意見でした。もっともな反応だとは思いますが「基本的にエクイティ投資なのは同じ。通用するはずだ」という考えが揺らぐことはなかったですね。もちろん異なる部分がない訳ではありません。しかし、経営者を見て、事業を見て、競合を見て、成長の余地を見極め、企業の価値を最大化するために手を打ち続ける点で、何ら変わるところはありませんでした。
——とはいえ、PE投資とVC投資は似て非なる世界です。ご苦労も多かったのでは?
確かにPE投資は一定の実力と実績を備えた企業を丸ごと買収し、経営改善を通じてさらに伸ばそうとするビジネスに対し、VC投資は立ち上げ間もない企業のポテンシャルを見極め、いち投資家として事業成長を後押しするビジネスです。オーナーシップを発揮するというよりも、経営陣やほかの投資家と手を携えて会社を伸ばす立場なので、似て非なる点があるのも確かです。先に申し上げたように、私は日本経済の衰退を食い止める一助になりたくてVCを立ち上げました。ゼロからコツコツ積み上げられたのは人生を賭ける覚悟を決めたからこそ。「儲かりそうだから」という軽い気持ちで参入していたら、おそらく続けられなかったでしょう。
——ある程度実績がある企業ではなく、立ち上げ間もないベンチャーを分析するのは難しいのでは?
確かに「VCにPEファンド的なアプローチが採れるんですか?」と、よく聞かれるのですが、プレシリーズAに手が届く段階になれば、一定のプロダクトがあり、それを支持する顧客が存在します。市場規模や将来性もファクトを積み上げれば見えてきますし、プロダクトが顧客の心に刺さる理由についても、当事者にインタビューさせていただければ明らかです。確かにシード期のスタートアップになると深掘りできる要素は限られますが、それでも目をこらせばビジネスモデルの妥当性や起業家のポテンシャルを確かめる方法がないわけではありません。お膳立てが整っていなくても、結果を出すためにあらゆる手を尽くす。それがプロの仕事だと思います。
——河西さんもVCを立ち上げた起業家です。だからこそ起業家と通じ合える部分が多いのかもしれません。
そうですね。起業家の心情はよくわかりますし、ゼロから事を成すのが好きな点など、気持ちが通じ合うポイントは多いかもしれません。前職のPEファンドにもベンチャーキャピタル機能はありましたが、対象となるのはあくまでレイターステージのベンチャーでした。いまはシード、アーリーステージのベンチャー経営者と接する機会が多いので、より当事者に近い目線で仕事と向き合えている気がします。
——VC投資を成功させるために重要なポイントは何でしょう。やはり強みとされている「ハンズオン支援」ですか?
投資先を選ぶ「目利き力」と「ハンズオン支援」のどちらが重要かと問われれば、迷わず目利き力だと答えます。おそらく目利き力が成功要因の7割以上を占めるのではないでしょうか。ポテンシャルの乏しい企業にいくら手厚い支援をしたとしても、うまくいく可能性はほぼありません。ハンズオン支援に成長のスピードを上げる効果はあっても、成功確率を高める効果は期待できないからです。
——ハンズオン支援はAngel Bridgeの強みかもしれませんが、だからといって、それありきではないんですね。
はい。もちろん投資先のニーズがあればできる限り手を尽くしますし、不要であれば当然見守り役に徹します。しかし、VCの最大の役割は大型の資金を継続的に供給していくことですから、「何が何でも、すべての投資先を支援します」というスタンスは、投資家のエゴでしかありません。ですから投資先に対しては、日頃から「何かお手伝いできることはありませんか?」と、お声がけし、相談を持ちかけていただいたら、全力で支えるようにしています。VCはどこまでいっても外部の株主ですから、応援団という立場から経営者の夢の実現に向かって全力でサポートしていくというスタンスを忘れてはいけません。
——繰り返し言及されている「目利き力」についてもう少し詳しく聞かせていただけませんか。要素に分解するとどんな力といえるのでしょう?
別の言葉で表現するなら「さまざまな角度から対象を分析する力」になるでしょうね。分析というと、どうしても数字を読み解くことに気を取られがちですが、たとえば「この経営者は途中で投げ出さず最後までやりきる人物か」を見極めるのも分析の範疇に入ります。経営者の経歴や過去の実績を調べるだけでなく、当時の関係者に会って裏を取るのも分析の精度を高めるため。数字はもちろん、数字に表れない要素を加味して分析する力をもって、私は「目利き力」と呼んでいます。
——よく河西さんは、投資先の経営者との対談で「この人にかけて駄目だったら仕方がないと思った」といった意味のことをおっしゃいます。目利き力に力を注いでいるからこそ、おっしゃるセリフなのかもしれませんね。
もちろん最後は「この起業家を何としても応援したい」というエモーショナルな気持ちが大事になりますが、それは、社会に正のインパクトを与えられるビジネスになるという確信があってのこと。投資家の責任として、目利きに力を注ぐべきだという気持ちに変わりありません。Angel BridgeのDDではスタートアップのポテンシャルをシビアに見させていただきますが、だからこそ投資後に全力で応援できるのだと考えています。
——投資先に喜ばれる支援とはどのような取り組みでしょう?
プレシリーズAの前後のスタートアップですと、会社が進むべき方向感を明確にするための「壁打ち」相手になることが多いですね。次に多いのが「資金調達」に関する相談です。たとえば「シリーズAラウンドにあたって、どんなエクイティストーリーを描くべきか」「どんな順番でどの投資家にあたるのが得策か」といった、個別具体的な悩みにお答えする機会が多くなります。シリーズAラウンド投資が終わると、今度は優秀な執行役人材や営業先をご紹介したり、IPOを念頭にシリーズB以降のエクイティをどうするかといった、さらに一段視座を上げた課題に向き合ったりすることになります。
——冒頭、Angel Bridgeは「真理を追究するVC」とおっしゃいました。投資先への支援において大切にしていることは何ですか?
定期的な経営会議や株主報告会を通じて、将来のメガベンチャーに必要不可欠な、経営の「OS」を投資先にインストールすることを心がけています。戦略の立案、戦術の妥当性の検討はもちろん、細かいところではKPIの設定やプロダクトのプライシングなど、その時々の課題に対して適切なアドバイスやアウトプットを提供するだけでなく、われわれが手を下さなくても自走できるよう知見の移転に努めます。投資先の企業価値を上げるために、継続的に必要な資金や知見を惜しまず提供することこそ、ハンズオン支援を謳うVCの提供価値だと信じるからです。
——ありがとうございます。Angel Bridgeは今後どのようなVCになっていくのでしょうか。今後の展望をお聞かせください。
プロの株主として経営会議で議論するような大きな枠組みだけでなく、広報や人事など、執行にまつわる課題解決にも貢献できるよう支援メニューを増やしていきたいですね。投資家として数々の業界、数々の企業を支援してきた経験をもとに、「どの山にどんなルートで登るべきか」といったマクロな戦略から「どんなメンバーを集め、どんな装備で登るべきか」といったミクロな戦術まで、一気通貫で提供できる組織にしたいと思っています。VC投資に情熱を持つ優秀なメンバーが全力で支えます。
——最後にこの記事をお読みの読者にメッセージをお願いします。
私は日本再興の秘訣はスタートアップにしかないと考えております。少子高齢化、右肩下がりというこの状況を打破するには新しい企業がどんどんと生まれてその企業が雇用を生み出し、外貨を稼ぎ、経済をけん引するということが必要です。このような大きな事業を生み出していきたいと考える起業家の方は、是非とも共にその夢を追いかけて行けたらと考えております。また、このような想いに共感しプロフェッショナルファームで培った経験をスタートアップ領域に投じて投資先の成長に貢献したい方、もしわれわれの仕事に興味を持ってくださるなら、ぜひご一報ください。力を合わせ、1社でも多く日本から世界に羽ばたくメガベンチャーを創出していきましょう!