2024.09.10 INVESTMENT
2024年9月に将来宇宙輸送システム株式会社(以下将来宇宙輸送システム社)が、総額3.6億円の資金調達を発表しました。Angel Bridgeも本ラウンドにおいて出資しています。
将来宇宙輸送システム社は、宇宙往還において機体を再使用することで、従来の使い捨て型ロケットよりも低コストで高頻度な打ち上げを可能にする再使用型ロケットを開発するスタートアップです。
今回の記事では、Angel Bridgeが将来宇宙輸送システム社に出資した背景について、特に再使用型ロケットを取り巻く環境と、将来宇宙輸送システム社の強みに焦点を当てて解説します。
1.再使用型ロケットの市場動向
まず、宇宙産業全体の市場動向について説明します。
宇宙産業では冷戦以後、それまでの国家主導での技術開発から民間での技術・サービス開発への移行が徐々に進み、多数のメガベンチャーが誕生し産業を牽引しています。グローバルでは2023年のロケットの打ち上げ本数は2020年比で倍増、宇宙産業全体の市場規模も2023年の約54兆円から2040年に140兆円に達することが見込まれるなど、その市場規模は急速な拡大が見込まれます。
日本でもこれまではJAXAが宇宙開発における中心でしたが、2023年4月のispaceを皮切りに宇宙系スタートアップの上場が相次ぐなど、宇宙領域のスタートアップも複数生まれており、非常に注目度の高い領域となっております。
図1 宇宙産業の市場状況
宇宙産業の拡大に伴って各種サービスを提供するために衛星などの構造物を打ち上げる必要があります。その需要を満たすために、低コスト/高頻度で運用可能なロケットの開発が求められ、その解決手段として再使用型ロケットが近年注目を集めています。
ここからは、再使用型ロケットとその市場動向について説明していきます。
再使用型ロケットとは、機体の一部、又は全てを再使用するロケットのことです。機体の全てを再使用する完全再使用型は技術難度が高いため、現在は1段目のブースターを再使用するロケットの開発が先行しています。
図2 再使用型ロケットのイメージ画像
メリットは以下の2つです。
- コストの削減
1段目のブースターは打ち上げコストの多くを占める(例えばSpaceXのFalcon9では全体のコストの60%)ため、回収/再使用することで大きなコストダウンが見込めます
- 高頻度の打ち上げが可能に
使い捨て型よりも製造のリードタイムを短縮できるため、打ち上げ頻度を増やすことができます
開発をリードする米国では再使用型ロケットの技術が確立されつつあり、イーロン・マスクが設立したSpaceXが1段目を再使用する「Falcon9」を2017年に、ジェフ・ベゾスが設立したBlue Originが、軌道投入能力はない観光用であるものの、完全再使用型の「New Shepard」を2015年に打ち上げ成功させました。
特にSpaceXはFalcon9で低コストかつ高頻度な宇宙空間へのアクセスを可能にしたことで、全世界のロケット打ち上げ本数のうち65%のシェアを獲得するまでに成長を遂げました。
日本政府としても、日本企業による同様な宇宙空間へのアクセスの実現を国防、世界規模でのルールメイキングの観点から国策として重要視しており、前述のメリットに鑑みて再使用型ロケットの開発を促す補助金制度の充実や宇宙活動法の改正を行う動きを見せています。
しかし、未だ再使用型ロケットの実用化に成功した日本企業は存在せず、将来宇宙輸送システム社をはじめとした数社が開発を競っている状況です。
2.将来宇宙輸送システム社の事業概要と強み
続いて、将来宇宙輸送システム社の事業について説明します。
図3 将来宇宙輸送システム社の事業概要と強み
将来宇宙輸送システム社は再使用型ロケットの開発を行っており、足元は人工衛星の打ち上げ等に用いる貨物輸送用の1段目再使用型のロケットを開発中です。また、2030年代を実現目標として段階的に有人宇宙輸送/完全再使用型に挑戦していく構想です。
将来宇宙輸送システム社は以下の3つを強みとして開発を進めています。
- 高い資金調達能力
宇宙ビジネスは開発に莫大な資金が必要であり、CEOの資金調達能力は非常に重要です。将来宇宙輸送システム社のCEOを務める畑田さんは経産省/内閣府にてベンチャー支援や宇宙ビジネスに携わり、その後デジタルハーツプラス(デジタルハーツホールディングスの子会社)の代表取締役も務められた結果、官民双方への豊富な人脈を有しています。
畑田CEOのこれまでの実績や人脈は補助金の獲得に向けてポジティブであり、実際に3段階に分けて審査が行われ、全て採択されれば最大140億円/社の支給が行われる補助金制度の「SBIRフェーズ3」において、将来宇宙輸送システム社は既にフェーズ1に採択されて20億円を調達した他、フェーズ2以降に向けても業界有識者から高評価を獲得しています。また複数のベンチャーキャピタルからのエクイティ調達も成功させており、非常に高い資金調達能力があります。
- 優れた技術を持つ企業との連携
将来宇宙輸送システム社は全てを自社開発することにこだわらず、プロジェクトリーダーのような立ち位置で優れた技術を持つ企業と連携し、それらを組み合わせる開発手法を採っています。
中でもロケット製造のカギとなるエンジンや機体製造に関しては海外の実績ある企業とも提携を進め、高度かつ効率的な開発を可能にしています。
図4 将来宇宙輸送システム社と連携する主要な企業群
- IT企業のようにアジャイルな開発手法
将来宇宙輸送システム社は、独自の研究/開発プラットフォームである「P4SD」を構築し、開発速度の向上と開発コストの抑制を実現しています。
このプラットフォームの活用により、将来宇宙輸送システム社は日本初の水素・メタン・酸素の3種類の推進剤を用いた「トリプロペラント方式エンジン」の燃焼試験を企画から3か月で成功(エンジンの燃焼試験は通常は6か月~9か月程度必要)させたほか、飛行解析ソフトウェアを構築し、シミュレーションを活用することで通常は繰り返し実験を行う必要がある飛行実験プロセスの大幅な効率化に成功しています。
以上3つの強みに加え、実際のロケット開発状況も概ね当初の計画通りに進んでいることから、今後の将来宇宙輸送システム社の成長に対して大きな可能性が感じられます。
3.経営陣
Angel Bridgeが将来宇宙輸送システム社に投資するにあたり、経営チームへの理解も深めました。
図5 将来宇宙輸送システム社の経営チーム
代表取締役CEOの畑田さんは京都大学大学院を修了後、経済産業省にてエネルギー政策・事業再生支援・ベンチャー支援等を経験されました。内閣府時代には宇宙開発戦略推進事務局にて宇宙活動法策定等に携わられ、デジタルハーツプラスの代表取締役を経て将来宇宙輸送システム社を起業されています。官民の豊富な人的ネットワークを有し、業界随一のガバメントリレーション能力があるとの話を複数の業界有識者から伺うことができました。また理系のバックグラウンドから技術者とのコミュニケーション力も優れ、高いアントレプレナーシップを併せ持っていることも複数のリファレンスインタビューにて伺いました。投資検討における議論の中でも、何としてでも日本の宇宙産業を立ち上げるという想いの強さ、業界に深く入り込まれているが故の宇宙ビジネスに対する知見の深さを感じることができ、宇宙ベンチャーのCEOとしてこれ以上にない優秀な人物だと確信しています。
野村COOは名古屋市立大学在学中にIT企業を設立してWebサービスの開発をされ、卒業後も複数IT企業のCTOを歴任。現在は将来宇宙輸送システム社のCOOに加え、エンタメ領域を中心に受託開発を行う株式会社エスト・ルージュのCEOを兼任されています。学生時代からの豊富なシステムエンジニアとしての経験を活かし、将来宇宙輸送システム社の強みであるアジャイルな開発手法を支えている中心人物です。
嶋田CBOは早稲田大学商学部卒業後、パナソニック、電通、日本IBM、R/GA等で事業責任者や経営者を経験されました。これらの経験からスタートアップ連携、先端ソリューション創出、新サービス事業創出を得意とし、世界最高峰の広告賞であるカンヌ・ライオンズでの受賞や世界で最も影響力のあるテクノロジーイベントであるCESのInnovation Awardなど幅広く受賞。さらに、クリエイティブやイノベーション分野における審査員、約40か国で開催されるテックカンファレンスでの150回を超える講演、といった実績からもビジネスの領域において希少性の高い人材であることがわかります。
多様なバックグラウンドを持つ経営陣が宇宙産業の立ち上げに高いモチベーションを持って結束し、全体として高いレベルでの経営が実現できていることが将来宇宙輸送システム社の強みの源泉となっています。
4.おわりに
宇宙産業は2040年までに140兆円まで市場拡大が見込まれる巨大産業であり、中でも再使用型ロケットは低コスト/高頻度に宇宙空間にアクセスするためのインフラとして注目が集まる成長産業です。
一方で、海外ではSpaceXやBlue Originに代表されるメガベンチャーが市場を牽引しているものの、日本で実用化した企業は未だ存在せず、日本政府も国策として再使用型ロケットの開発を後押ししている状況です。
こういった強いニーズが存在する中で、将来宇宙輸送システム社は高い資金調達能力や優れた技術を持つ企業との連携、アジャイルな開発手法という3つの強みで高効率に事業を推進し、補助金制度「SBIRフェーズ3」に採択される等、高い評価を受けています。今後もスピード感のある開発を推進し、日本、そして世界の宇宙産業のインフラを担う存在として大きな成長を遂げていけるとAngel Bridgeも確信しています。Angel Bridgeは社会への大きなインパクトを創出すべく、難解な課題に果敢に挑戦していくベンチャーを応援しています。ぜひ、事業戦略の壁打ちや資金調達のご相談など、お気軽にご連絡ください!
2024.08.19 INTERVIEW
当事者のペインから生まれたLoglass 経営管理
——ログラスの事業内容を教えてください。どのようなサービスを手がけていますか?
布川:ログラスは2019年に創業した経営管理SaaSを提供するスタートアップです。主力の「Loglass 経営管理」のほか、同じLoglassブランドで「人員計画」「販売計画」「IT投資管理」を提供しています。さらに今年から、経営企画業務の一部を代行する「Loglass サクセス パートナー」というBPO・コンサルティングサービスをスタートさせました。現在は大企業を主なターゲットとし、サービスを提供しています。
——経営管理SaaS事業に参入した経緯を教えてください。
布川:きっかけは、私がSMBC日興証券の投資銀行部門を退職し、GameWithの経営戦略室にて経営管理をひとりで担っていたときの体験がベースとなっています。GameWithは創業4年で株式上場を果たしたこともあり、私が入社した直後は、上場会社にふさわしい経営管理体制が整っていませんでした。ゼロから仕組みを作り、なんとか運用可能な管理体制ができたものの、悩みのタネは尽きませんでした。
——どのような悩みがあったのでしょう?
布川:たとえば経営戦略室が予実管理に使うスプレッドシートを「親シート」、各部門の予算担当者が管理するシートを「子シート」とします。当時、親シートに連動する子シートが数十個あり、誰かが子シートを書き換えてしまうと、履歴を追えない状態でした。これではガバナンスを利かせられません。みなさんどうしているのかと思い、経営企画部門やファイナンス部門で働く人のためのFacebookグループを立ち上げ、聞いてみたところ、大きな企業でも私と同じ悩みを抱えている人がいることがわかりました。その後、国内外の経営管理サービスを利用してみたのですが、どうもしっくりくる製品がありません。それなら自分で作ったほうが早いのではないかと思い、経営管理システムの開発を考えはじめました。
——以前から起業志向があったのですか?
布川:実は大学時代、学生ながら人材系ベンチャーでフルタイム勤務していたころから、ずっと起業に関心がありました。社会に出てからもその気持ちは変わらず、経営管理システム以外の可能性を探った時期もあったのですが、この課題に気づいた自分がサービスを作らなければ、経営企画で働く人たちの悩みは解消されないだろうと思い一念発起して起業しました。
——「しっくりくるサービスがなかった」とおっしゃっていましたが、新規参入の妨げになる障壁があったのでしょうか?
布川:とくにありません。経営管理システムのアメリカの市場規模は約4,000億円といわれるなか、経済規模がアメリカの1/5といわれる日本の市場規模は800億円ほどの市場があってもおかしくないはずです。しかし、いまだ200億円規模に留まっているのは、参入障壁があるからというよりも、エンジニアリングやマーケティング、セールスに一定の資本を投資しサービスを提供する企業が少なかったからだと考えています。市場を分析すればするほど、正しいところに正しく投資をすれば、必ず成功するという確信が高まったので、その可能性に賭けてみることにしました。
強力な経営陣を集めるための秘策
——ログラスの強みはどこにあると思われますか?
布川:プロダクトの質以外の面で申し上げると役員の陣容でしょうね。共同創業者でCTOの坂本龍太はビズリーチやサイバーエージェントでサービスをゼロから立ち上げてきたエンジニアで、技術力もさることながら仲間をインスパイアすることに長けた人物です。また、COOの竹内將人はセキュリティ関連会社の取締役経験者ですし、プロダクトを見ているCBDOの斉藤知明はスタートアップの共同創業経験の持ち主です。ちなみにfreeeやREADYFORでエンジニアとして活躍していたVPoEの伊藤博志は河西さんの新卒時代の同期なんですよね。
河西:そうなんです。奇遇なことにゴールドマン・サックスで同期でした。
——そんなご縁があったんですね。ところで、どうしてこれほどまで優秀な人材を集められたのでしょうか?
布川:採用にコミットし続けたからだと思います。毎朝欠かさず最低1時間、採用に充てると決めていまも実践しているんです。具体的にはFacebookで転職を考えている人はいないか探してみたり、スカウト媒体で見つけた人にスカウトを自ら送ったり、知人や知人のつてで知り合った人に毎朝メッセージを書いたりしています。もはや毎日歯を磨くのと同じ感覚ですね(笑)。その甲斐あって、経営陣の7割はリファラルで獲得できました。もちろん人材エージェントに頼んでもいいのですが、トップが特別な思いを持って声をかけたほうが印象に残るはずですし、心が動くと思うんです。毎日の積み重ねが、ボードメンバーの布陣につながっていると自負しています。
——そもそもAngel Bridgeとログラスの接点はどんなきっかけで生まれたのですか?
河西:3年前のIndustry Co-Creation®(ICC)サミットにいった際、布川さんがピッチイベントに出られていて名刺交換させていただいたのが最初です。それまでは幅広い業界にサービスを提供するHorizontal SaaSは、もう開拓の余地がないくらいやり尽くされていると思っていたのですが、布川さんの話を聞いてこんなに大きな市場が残されたのかと思って興味を惹かれました。
布川:覚えています。その後、しばらく経ってミーティングをすることになり、河西さんのSNSアカウントを拝見していたら、ご友人のなかにぜひ口説き落としたいと思っていた会社社長の名前を見つけたので、ミーティングの議論の後にぜひ紹介してほしいとお願いしました。
河西:そうでした。採用に対する意気込みからもわかる通り、布川さんの経営に対する真摯な姿勢とコミット力の高さをうかがわせる出来事だったので印象に残っています。弁えるべき部分はしっかりと弁えつつ、必要なことはしっかり投資家にリクエストされる姿勢。しかも熱意が伝わってくる。がぜん興味が湧いたのを覚えています。
布川:その節は失礼しました。(笑)
河西:いえいえ(笑)。ちゃんと調べられた上でのご依頼でしたから、逆にうれしいくらいでしたよ。本格的にお付き合いがはじまったのは、今年の2月ごろでしたね。当社のディレクターの八尾が出席した経営者が集まる会に布川さんもいらしていて、シリーズBに向けた実務的なお話が一気に進みました。
布川:はい。個人的には、検討期間がとても短かったのが印象的でした。たしか1カ月半ぐらいでお返事をいただきましたよね。
河西:お話をいただいてから間を置くことなくお返事できたのは、先ほど申し上げた通り、布川さんの着眼点の素晴らしさやビジネスに賭ける熱意に心打たれていたからです。しかも、シリーズBのリード投資家は世界的に著名なSequoia Heritageさんと既存株主のALL STAR SAAS FUNDさんです。VC間の競争も激しくなりそうだったので、いち早く手を挙げました。
人材がハイレベルなAngel Bridgeの魅力
——Angel Bridgeが他のVCと違うところはどんな点ですか?
布川:人材のレベルが間違いなくトップクラスだと思います。河西さんをはじめ、先ほども話に出た八尾さんはもちろん、ほかの方々も含め、これだけ優秀な方がギュッと集まっているファンドはなかなかありません。しかも経歴にたがわず実務レベルが非常に高い。投資検討段階でお送りいただいたディスカッションペーパーを拝見して強く感じました。分析や議論テーマが非常に洗練されていてムダがなかったんです。
河西:何事においてもそうなのですが、Angel Bridgeは、メンバー全員で何度も検討を重ねた上でアウトプットをお出しするが常なので、そこを感じ取っていただけたのはうれしいですね。
布川:その後も、どうしても調べたい競合他社について調査・分析をお願いしたことがあるのですが、即座に「ぜひやらせてください」とおっしゃっていただけたのも印象的でした。投資家の責任範囲の外にあるので断られても仕方ないと思っていたので、正直言って驚きましたね。アウトプットの質は高く、短期間で戦略策定の参考になる貴重な情報と示唆を提供いただけました。投資先を「必ずグロースさせるぞ」という気迫を感じました。
河西:エンタープライズセールスのベストプラクティスやプロダクト多角化戦略についての調査・分析でしたね。すごくやりがいのあるテーマをいただき「われわれが提供できる価値を感じていただくチャンスだ」と思いお引き受けしました。Angel Bridgeにとっても勉強になったので、逆にいいチャンスをいただけたと思っています。
布川:その節は本当にありがとうございました。
リスクを取ったからこそ掴んだ、組織の「勝ちぐせ」
——創業から5年が経ちました。この間、経営者として一番大変だったことを教えてください。
布川:私には、2歳、1歳、0歳の子どもがいるんですが、2人目の子が生まれたときに、仕事と家庭のバランスに悩んだ時期がありました。自分の家族に加え、社員とその家族、投資家のみなさんも含めたらもの凄い数の人生を背負っているわけです。家庭と仕事のどちらかひとつを選ぶのではなく、両立した上で最大のパフォーマンスを発揮するにはどうしたらいいか、悩んでいた時期はそれなりにしんどかったですね。
——どうやって克服を?
布川:妻やメンバーに無理をいって1週間、家庭からも仕事からも離れる時間をもらって何とか持ち直しました。結局変えられるところから変えていくほかないんですよね。いまは、強力な経営チームを構築することができて自分が抱えていた業務の権限移譲が行えていたり、ベビーシッターを利用したり、妻の両親にも家事や育児を手伝ってもらったりしながら、なんとかやりくりしています。家族や会社のみんなには感謝しかありません。
河西:素晴らしい業績の後ろでそんな大変な時期があったんですね。
布川:はい。実はそんなことがあったんです。
——大変な時期を経て今回の資金調達に至ったのですか?
布川:2023年の10月前後のことです。設定した高い目標に対して売上が追いつかず、社内がどんよりした空気に包まれていたちょうどそのころ、米国の著名な機関投資家であるSequoia Heritageさんから「来期の売上を達成できるのであればぜひ投資したい」とオファーをもらい、社内の空気が一変しました。何としても投資を勝ち取るため、売上を着実に積み上げるための戦略を練り「セコイア決戦」と名付け、全社を挙げて取り組みはじめました。しかしその一方でリスクも感じていたんです。
——どんなリスクですか?
布川:売上施策を徹底した際の副作用として考えたのは、カルチャーの希薄化、オペレーションの混乱といった組織崩壊が起こるリスクです。しかし千載一遇のチャンスを逃すわけにはいきません。経営陣と膝を詰めて議論し、もし万全の体制で臨んでダメなら、またゼロから積み上げればいいという結論に達し、あえてリスクを取ることにしました。
河西:それが功を奏して今回の出資につながったわけですね。
布川:そうです。もちろんリカバリープランを考えた上での取り組みでしたが、結果的に事業戦略と関係者の努力が噛み合っていい成果を残すことができました。この決戦を無事乗り切ったことで、会社全体に「勝ちぐせ」がついたように思います。
河西:リスクを取った結果、世界的な投資家を頷かせ、しかも組織の成長も手にしたわけですからね。
布川:そうなんです。以前読んだ、データクラウドのSnowflakeを経営したフランク・スルートマンが書いた「AMP IT UP~最高を超える~」という本にも、基準を上げに上げて組織が壊れそうになったとしても、最後になんとかるというようなことが書かれていたのを思い出し、励みにしました。
日本のGDPにインパクトを与える存在になりたい
——経営者として大事にしているポリシーを教えてください。
布川:子どものころ恩師や親友の死が重なった時期があって、人生は長いようで短いと感じるようになりました。経営哲学というとおこがましいかもしれませんが、その短くて貴重な人生を共に過ごしてくれた社員が、のちに自分の人生を振り返ったときに、ログラスで働いた時間が無駄ではなかったと思ってもらえるような経営を行っていきたいと思っています。まだまだ、経営者として至らない面がありますが、できる限りみなさんと誠心誠意向き合うことをポリシーとしています。
——布川さんはログラスを通じて、どんな社会を実現したいですか?
布川:ログラスは「良い景気を作ろう。」というミッションを掲げ、日々のビジネスに取り組んでいます。多くのみなさんが成長の実感を持って、明るい未来を描けるような社会作りに貢献したいと思っています。具体的にいうと、日本のGDPを押し上げている上位10社にログラスが入っているような状況にしたいですね。
河西:Angel Bridgeも、GDPにインパクトを与えるようなメガベンチャーの創出を目指しているので、とても共感を覚えます。
布川:ありがとうございます。世の中に素晴らしい価値を提供できるような会社であり続けたいと思っています。
——これからAngel Bridgeに期待することは?
布川:河西さん、担当の八尾さんや山口さん、ほかのメンバーのみなさんからは戦略面のサポートに加え事業執行レイヤーの強化、またパートナーの林さんには営業の面で手厚いサポートをいただいているので、今後も引き続きご支援をお願いできたらうれしく思います。
河西:日本経済の再興はスタートアップの成否にかかっています。布川さんがおっしゃったように、ログラスには日本のGDPにインパクトを与えるくらいのスケールになってほしいと願っています。そのための支援なら我々は力を惜しみません。
——最後にスタートアップに興味がある読者にメッセージをお願いします。
布川:スタートアップは数少ない成長分野のひとつです。安定した大企業に飽き足らないのであれば、ぜひThink Bigなスタートアップに挑戦して人生をよりよい方向に変えてほしいですね。もしそれがログラスであればこれに勝る喜びはありません。
2024.08.08 INVESTMENT
2024年8月にペイトナー株式会社(以下ペイトナー社)が、シリーズCラウンドにおいて累計12億円の資金調達を発表しました。Angel Bridgeも本ラウンドにおいて出資しています。
ペイトナー社は、フリーランスや個人事業主向けのオンライン2者間ファクタリングサービス、ならびに請求書処理SaaSを提供するスタートアップです。
今回の記事では、Angel Bridgeがペイトナー社に出資した背景について、特にファクタリング業界を取り巻く環境と、ペイトナー社の強みに焦点を当てて解説します。
1.ファクタリング業界の動向と課題
ファクタリングとは、保有する売掛債権をファクタリング事業者に売却し、現金を調達する資金調達方法です。特に資金繰りに課題を抱える中小企業、フリーランス、個人事業主などによく利用されています。通常、入金まで一か月~数か月かかる売掛債権をすぐに現金化できることが特徴になっています。
フリーランス、個人事業主の資金調達方法としては、ファクタリング以外にも消費者金融からの融資と銀行からの無担保フリーローンがありますが、ファクタリングはそれらの方法に対して以下の3つのメリットがあります。
- 利用金額に総量規制が適用されない
消費者金融や無担保フリーローンは規制上年収の1/3までしか借入出来ませんが、ファクタリングにはその制限がありません。最大で売掛債権の範囲内での資金調達が可能となっています。 - ノンリコース型
ファクタリングの場合、売掛債権が回収不能になった際には利用者はファクタリング事業者に利用金額を支払う義務がありません。 - 期間に応じて手数料が増えない
借入の場合は、借入期間に応じて金利の負担額が上昇しますが、ファクタリングの手数料は契約時から変化しません
図1 個人の資金調達方法
以上の観点からファクタリングは独自価値の高い資金調達手法となっています。
続いて、より詳しくファクタリングの仕組みについて解説していきます。
ファクタリングは大きく分けると、「3者間ファクタリング」と「2者間ファクタリング」の2種類があります。
3者間ファクタリングは、利用者、ファクタリング事業者、取引先企業の3者で契約を結ぶ方法です。取引先の企業も巻き込むため契約に時間がかかる傾向にありますが、売掛金の支払いが取引先の企業から行われ、ファクタリング事業者としては回収の手間や未回収のリスクが減るため、手数料が比較的安めになるケースが一般的です。一方で、利用にあたり取引先企業の調査も必要になり、時間がかかったり、資金繰りが必要なことを取引先に知られてしまうといったデメリットも存在します。
次に2者間ファクタリングですが、こちらは利用者とファクタリング事業者の2者間で契約を結ぶ方法です。取引先の企業を介さないため、最短即日での入金が可能なケースもあり、早急に資金が必要な場合に適しています。また、取引先の企業に通知がされないため、資金繰りに不安があるなどの懸念を与えなくて済むことがメリットです。しかし、回収リスクが高まる観点から回収リスク分を手数料に含める場合が多いことには注意が必要です。
図2 3者間ファクタリングと2者間ファクタリングの取引構造(ペイトナー社HPより引用)
さて、このようなファクタリング市場ですが、今後も大きな成長が見込まれます。主な要因はフリーランス人口の増加です。昨今働き方が多様化する中で、2020年に1,062万人だったフリーランス人口は2022年に1,577万人と2年で1.5倍弱、労働人口全体に占めるフリーランスの割合も22%に上るなど、顕著な増加がみられます。
フリーランスの平均年収の約7割が年収400万円ほど、さらにアンケートで資金繰りに困った経験があると回答した割合が2割に上ることに鑑みると、柔軟に資金調達が可能なファクタリングサービスに対するニーズは堅調に成長していくことを見て取ることができます。これを踏まえて、Angel Bridgeではファクタリング市場規模はおよそ3,275億円に上ると試算しています。特に建設業や運輸業などは業界構造上、コストを先払いする文化が多く、資金繰りのニーズが高い業界で、ファクタリングに対する需要も大きく存在する業界になっています。
図3 フリーランス・個人事業主向けの業界別ファクタリングの市場規模
図4 フリーランスの資金調達ニーズ
また、法規制や原材料高騰による物価高の観点からも追い風が吹いています。
法規制に関しては、1998年債権譲渡特例法の緩和による2者間ファクタリングの解禁、2020年債権譲渡禁止特約の改正により、債権譲渡禁止特約付きの債権の譲渡も可能になるなど、年々緩和傾向です。加えて、原材料も高騰しており、過去10年で資材価格が5%上昇しています。建設業界や運輸業界など、慣習上立替え金額が多い業界は資金繰りが厳しい状況に陥りやすく、ますます資金調達ニーズが高まる可能性があります。
図5 ファクタリング業界の動き
こういった市場環境の変化を受け、ファクタリングを活用した資金調達へのニーズが今後も高まっていくことが予想されます。
2.ペイトナー社の事業概要と強み
続いて、ペイトナー社の事業について説明します。
ペイトナー社は大きく成長が見込まれるファクタリング市場において、フリーランスや個人事業主向けのオンライン2者間ファクタリングサービスを提供しています。特に、もともと対面で行われていた2者間ファクタリングサービスをオンライン化しており、審査の手軽さと現金化までの素早さを実現しています。ペイトナー社では、AIを用いた独自の与信アルゴリズムや審査オペレーションの高度化を強みの源泉として、以下の価値を提供しています。
- 最短10分で現金化
- 提出書類が少なく、審査が簡単
- オンラインで取引が完結し、どこからでも手軽に手続き可能
- 手数料が一律10%で分かりやすい料金体系
図6 プロダクトの特徴
図7 ペイトナー社の競合優位性
また、従来のファクタリングに比べて、審査が手軽であり、実態の審査時間や利用開始時間も競合他社の1/3と早いことから、利用者にとっても利便性が高く、高いリピート率と満足度を誇っています。また、利用実績が増えることによって信頼性が向上し、認知度も高まるため、より利用者が安心して使用できるという観点でも好循環を生み出せるビジネスモデルとなっています。加えて、マーケティングにおけるエキスパートも数多く在籍しており、業界に適したマーケティングによって、ユーザー数を拡大できており、創業以来、累計取扱件数も右肩上がりに成長し続けております。
図8 ペイトナーファクタリングの取扱い件数の推移
さらに、ペイトナー社はこの革新的な手軽さでありながら、未払い率も大手の消費者金融と近い水準に抑えられていることも大きな特徴の一つです。
この手軽さによってプロダクト利用の障壁を低減し、大量の審査データを解析可能にする。それによって審査の精度がさらに高度化し、未払い率が下がっていく、という好循環を回していくことができます。結果として、ユニットエコノミクスも良好な水準を実現できており、投下する運転資本に対して利回りのよい金融事業のモデルとなっています。
このように消費者獲得、及び収益性の観点から規模が拡大すればするほどより強固になっていくビジネスモデルを構築でき、成長に拍車がかかる状況を実現できております。
3.経営陣
ペイトナー社の経営チームは、全体として高いレベルでの経営や事業の執行ができており、少数精鋭のチームで高い成果を実現しています。
阪井CEOは大阪教育大学卒業後、新卒でNTTドコモの法人事業部に入社。その後、コイニー(現STORES)でクレジットカードの決済サービス事業のBizDev.として個人事業主や中小規模の顧客を対象に事業を開発するなど、個人事業主、中小規模の顧客を解像度高く理解されています。また、高いビジョンを掲げて、組織を推進していける力も併せ持っています。
また、野呂COOは 高い論理的思考力や問題解決力を持っており、実現可能性を踏まえて戦略を活動計画へ落とし込む緻密さとそれを実行しきる推進力を持ち合わせています。三浦CTOも、エンジニアとしての経験も豊富なことに加えて、事業開発の経験も持ち合わせるなど事業への理解も高く、希少性の高い人材です。
現経営陣の三名がそれぞれの強みを持って補完しあい、全体として高いレベルでの経営が実現できており、ペイトナー社の強みの源泉の一つとなっています。
図9 ペイトナー社の経営チーム
4.おわりに
ファクタリング業界は、現金化までの時間や利便性を武器に世界的にも利用者数が増えている領域で、フリーランス、個人事業主向けだけでも3,000億円の潜在市場規模を持つ成長市場です。一方で、いまだ審査に時間がかかる、必要な書類が多くて面倒など、手軽かつ早急に資金を手に入れたいニーズに十分対応ができておらず、ペイトナー社はこうした課題を的確に捉え、顧客から強い支持を得るプロダクトの開発に成功しました。
また、優れた与信モデルによって未払率を上手くコントロールすることで、良好な水準でのユニットエコノミクスを実現できており、投下資本に対して利回りのよい事業モデルを構築できています。さらに優れたマーケティング人材を擁し、業界に応じた適切なマーケティングを実施することで、高い認知度を実現できており、これまでの利用実績データやAIを活用した与信モデルを活用することで素早い審査を実現し、利用者に対して高い利便性も提供できています。
結果として、創業6年で累計20万件のファクタリングを取扱い、創業以来右肩上がりの成長を実現できており、リピート率も高く、顧客満足度も高いサービスを実現しています。
資金繰りは事業や生活に関わる根幹であり、ペイトナー社は金融の観点からフリーランス、個人事業主の方々の日々の悩みを解決しています。そういったニーズの強さを的確にとらえ、ペイトナー社は創業以来、右肩上がりの成長をし続けてきました。今後もより一段と事業を拡大し、大きな成長を遂げていけると弊社も期待しております。
Angel Bridgeは社会への大きなインパクトを創出すべく、難解な課題に果敢に挑戦していくベンチャーを応援しています。ぜひ、事業戦略の壁打ちや資金調達のご相談など、お気軽にご連絡ください!
2024.08.02 INTERVIEW
中堅・中小企業にフォーカスした契約書レビューサービス
——リセの事業について聞かせてください。どのような課題を解決する会社ですか?
藤田:リセを起業するまで、私は弁護士として数々の企業間紛争の解決に従事していました。この経験を踏まえ、立ち上げたサービスが、弁護士の知見とAI技術を掛け合わせた契約書レビューサービスの「LeCHECK(リチェック)」です。LeCHECKが想定する主なユーザーは、弁護士に契約書のレビューを依頼するのが費用の問題から難しい一方、不利な契約が会社に与えるダメージが大きくなりがちな中堅・中小の法務部門のみなさんです。AIの力で中堅・中小企業を不利な契約から守り、正当な企業活動を法的に支えるのが、われわれのミッションです。
——法律や契約に関するサービスは参入障壁が高そうに感じます。実際のところはいかがでしょうか?
藤田:リーガルテック領域にはさまざまなサービスが存在しますが、そのなかでも契約書の内容を精査し、注意すべきポイントを喚起するレビューサービスは、比較的参入障壁が高いサービスといえます。なぜなら、経験豊富な弁護士に依頼するのと同等の品質でレビューがされる必要があるからです。また、LeCHECKは中堅・中小向けに特化したサービスなので、専門の法務組織を持っていることも多い大企業向けのサービス以上のホスピタリティを提供することを意識しています。弁護士クオリティの信頼性に加え、法務知識が不足していても使いこなせるユーザビリティの両面が求められるのも、参入障壁を高くしている要因のひとつといえます。
——中堅・中小企業向けサービスならではの難しさはありますか?
藤田:中堅・中小企業の法務担当者の多くは、他の業務と兼任しているケースが多く、必ずしも契約や法務について詳しい方ばかりではありません。こうした現実を踏まえると、単に確認すべき項目を明示するだけでは機能としては不十分です。指摘すべき項目を網羅するのはもちろん、付帯する関連項目に関しても漏れなく分析を行い、具体的に何をどうすべきかを明示してこそ、中堅・中小企業を支えるサービスだと胸を張れるわけですが、実は言葉で表すより、実現するのはかなり難しいことなんです。
——どのような点が難しいのでしょう?
藤田:LeCHECKはAIを使っていると申し上げましたが、コメント生成にはAIを使わず、指摘すべき問題箇所の抽出と弁護士によるコメントをつき合わせるのに活用しています。注意すべき項目を見つけ、的確なコメントを表示するだけでも大変なのですが、ひとつの項目から分岐を重ね、留意すべき項目を洗い出すだけでなくさらなる分析を行うため、的確なコメントを表示するだけでも計算量は膨大な数に上ります。最初は指摘箇所とコメントのマッチング精度にかなり苦戦を強いられました。仮に8割の精度が出せたとしても、2割外せば契約書レビューの役割を果たしているとはいえません。その点が非常に難しかったですね。
——どうやって精度を高めていったのですか?
藤田:精度を出すには、膨大な数の契約書に基づき学習させつつ、ひたすらチューニングを重ねる以外に方法はありません。満足いくレベルに達するまでには、かなりの時間を要しましたが、その苦労を乗り越えたからこそ、競争優位性を確立できたのも事実です。現在、多くのお客様に喜んでいただけているのは、地道なチューニングの賜物だと考えています。
プロダクトにフィットした経歴と明確なビジョンに惹かれ投資を決断
——Angel Bridgeとの出会いはどのような形ではじまったのでしょうか?
藤田:2021年の秋だったと思います。Facebook Messengerでご連絡をいただいたのが最初でした。
河西:そうでしたね。最初、当社のディレクターである八尾からご連絡を差し上げたのですが、ちょうどシリーズAの調達を終えられた直後で、資金需要は当面ないというお話でしたが、それ以来、定期的な意見交換をするようになりました。
藤田:本格的なお付き合いがはじまったのは、2023年の年明けからですね。その年の夏を目処にシリーズBの資金調達を実施することになり、改めてこちらからご連絡を差し上げてから、頻繁にやりとりするようになりました。
——シリーズBに向けて不安だったことは?
藤田:当時はスタートアップの資金調達市場が芳しくなく、どのような評価を受けるか少し不安はありました。ただ、業績自体は好調でしたし、サービスの品質にも手応えを感じていたので「ここで存在感を示さなければ」という思いに迷いはありませんでした。
——藤田さんのお話を聞いていかがでしたか?
河西:最初にご連絡を差し上げた当時から、リーガルテックは残された数少ない有望なHorizontal SaaS領域だと思っていたので、お声がけしました。そのなかでもとくにリセに着目したのは、18年にわたる弁護士としての勤務経験をお持ちの藤田さんのご経歴に加え、契約書レビューサービスのなかでも中堅・中小企業に特化したサービスという立ち位置に興味を持ったからです。藤田さんは、激務で知られるトップファームでパートナーを務めていたほどの方。しかも4人のお子さんを育てる母親としての顔もお持ちです。そんな方が敢えてスタートアップを創業されたのであれば、魂を込めてプロダクトを開発しているはずですし、必ずや成功されると確信しました。
——即断即決だったのですか?
河西:たまたま、競合となる契約書レビューサービスが大型調達を実施した直後だったので、投資の意思決定において二の足を踏むようなタイミングでもありました。しかし、詳しく見ていくと、顧客ターゲットも異なりますし、サービス設計が非常に的確かつ目指すべき目標についても明確なビジョンを描いていらしたので、投資すること自体に不安や迷いはありませんでした。プロダクト開発の指揮を執っている藤田さんご自身のポテンシャルもさることながら、日本有数の弁護士の方々とも協力関係を築かれており、お金では買えない無形の資産をお持ちです。確信に加えて期待が高まりました。
藤田:そういっていただけて光栄です。お声がけしてから2カ月足らずでご判断いただけるとは思っていませんでしたから、そのスピード感に驚くと同時に期待の高さを感じずにはいられませんでした。
経験豊富な弁護士がスタートアップ起業家に転身した理由
——改めてお伺いします。そもそもなぜ弁護士からスタートアップ起業家に転身しようと思われたのですか?
藤田:パートナー時代に、海外のリーガルテック企業から営業を受け、テクノロジーで法曹の世界が変わると確信したのが一番のきっかけでした。せっかく時代が変わるタイミングに立ち会えるなら、変える側に立ちたいと思ったんです。弁護士時代から、中堅・中小企業が置かれている状況をなんとかしたいという思いもありましたから、何としてもこのチャンスをものにしたいと思いました。
——飛び込んでみていかがでしたか?
藤田:テクノロジーについて詳しいわけでもありませんし、起業や経営経験もありませんから、「なぜそんなリスクを冒す必要があるのか」と、心配してくださる方は少なくありませんでした。その一方で、テック領域に詳しい方々や、スタートアップ界隈のみなさんからは「やるならいましかない」といってくださる方が多かったのも確かです。理解者や協力者のみなさんに支えていただきながら、なんとかここまで辿り着けました。
河西:私もVCというスタートアップを経営しているのでよくわかります。まずやってみなければ状況を変えられませんからね。
藤田:そうですね。朝令暮改を恐れず、状況に応じて常に見直しを図る気持ちがなければスタートアップの経営はできません。数々の失敗を繰り返してようやくその境地に達することができたように思います。
事業戦略への的確な助言と公私にわたる交流が支えに
——その後、Angel Bridgeからはどのような支援を受けていますか?
藤田:主に事業戦略について相談に乗っていただく機会が多いですね。自社の状況とビジネスを取り巻く環境を踏まえ、いまアクセルを踏むべきか、それともいったんブレーキを踏むべきか判断するにあたっては、できるだけご意見を頂戴するようにしています。Angel Bridgeさんには河西さんを筆頭にプロフェッショナルファーム出身の方々が揃っており、当然のことながらスタートアップ投資経験も豊富です。しかもご相談しやすいよう気遣ってもいただけるので、その点でとても助かっています。
——Angel Bridgeの特徴を感じることはありますか?
藤田:Angel Bridgeさんは、より身近な存在ですね。おそらく、投資先を集めた勉強会やバーベキューなどのイベントなどを通じて、交流の場を設けていただけているからでしょうね。Angel Bridgeのみなさんや、投資先の起業家の方々と親しくさせていただきながら、ときに楽しく、ときに膝を詰めて話せる機会をいただけるのは、ひと味違う点だと思います。
河西:こうした機会を設けることによって、起業家コミュニティが生まれ、先輩起業家からのアドバイスが得られたり、相互扶助の雰囲気が生まれたりするのではないかと思ってはじめた取り組みなので、そういっていただけるのは嬉しいですね。企画しがいがあります。
——藤田さんはこれから、社会にどのような価値を届けたいと思われますか?
藤田:企業活動において契約書は非常に重要な役割を担っています。契約書レビューサービスを通じて、中堅・中小企業が争いに巻き込まれたり、本来主張できたはずの権利を失ったりするような不幸をなくしたいですね。こうした社会に一日も早くなるようこれからも貢献するつもりです。
——これからAngel Bridgeに期待することがあれば教えてください。
藤田:すでに十分過ぎるほどのご支援をいただいているので、これ以上望むことはありません。これからも、多角的な視点で物事を判断したいときに、いつでも気軽に相談できるような存在でいていただけたら嬉しく思います。
河西:われわれとしても、いつでも困ったとき最初にご相談いただけるような身近な伴走者でありたいと思っています。いつでもお声がけください。
藤田:心強いお言葉、ありがとうございます。日頃から身近に接している方でなければできない相談もあるので、それを引き受けてくださっているAngel Bridgeさんはかけがえのない存在です。これからも引き続きよろしくお願いいたします。
——最後にスタートアップ経営や起業に関心をお持ちの読者にアドバイスをいただけますか?
藤田:これまで、ブランドもなければ実績もない状態からビジネスを立ち上げる難しさを何度感じたかわかりません。それでも諦めずに続けることで、少しずつサービスがよくなり、率先して仕事を拾ってくれる社員にも恵まれ、サービスを使ってくださるお客様も増えていきました。すべてが整った世界に留まったままだったら、そうした経験はできなかったでしょう。そう思うと思い切って挑戦してよかったと思いますね。「やり直しはいつだってできる」。そう思えば、きっと壁は乗り越えられるはずです。もし心の底から解決したい社会課題があるなら、その気持ちが熱いうちにぜひ挑戦してほしいですね。
河西:藤田さんのような優秀な方が、スタートアップの世界に入ることが増えれば、きっと日本経済も好転するはずです。不退転の覚悟で挑戦される起業家を支援するのがわれわれの仕事。ぜひリスクを恐れずチャレンジしていただきたいですね。われわれはそんなみなさんを全力で支えるつもりです。藤田さん、本日はお話を聞かせていただきありがとうございました。これからもよろしくお願いいたします。
藤田:こちらこそよろしくお願いいたします。
2024.08.01 INVESTMENT
2024年7月に株式会社ログラス(以下ログラス社)が、シリーズBラウンドにおいて累計約70億円の資金調達を発表しました。Angel Bridgeも本ラウンドにおいて出資しています。
ログラス社は、経営企画向けのクラウドシステム『Loglass 経営管理』の開発・提供を行うスタートアップです。従来のExcelベースの経営管理は、作業の属人化や人為的なミスの温床となるだけでなく、経営の意思決定を複雑にしていました。ログラス社は、このペインにアプローチするため、データの集計作業を自動化した、誰もが直感的に操作できる経営管理ソリューションを提供しています。
この記事では、Angel Bridgeがログラス社に出資した背景について、経営管理ソリューションを取り巻く環境と、ログラス社の強みに焦点を当てて解説します。
1.経営管理ソリューションの市場構造
まず、経営管理ソリューション市場の全体像を説明します。
企業の経営管理とは、経営目標を達成するために戦略・計画を策定し、その遂行のために社内リソースの管理・調整や設定した経営指標に対する実績のモニタリングを行うことを意味します。従来は経営管理のために活用するツールと言えばExcelでしたが、データの統合コスト・ファイル保守コストの大きさや、タイムリーな経営判断を行いづらいといった課題が存在し、経営企画担当/経営層の双方にとって課題が存在する領域でした。
図1.従来の経営管理のペインとログラス社のアプローチ
そんな市場の中で、データの統合や即時性の高い共有を可能にするソリューションが複数登場しており、導入が進んでいます。経営管理の業務はどの会社でも存在する業務ですが、企業規模によって管理するべきデータの量や複雑性が異なることもあり、市場は業界トップ企業、エンタープライズ〜ミドル、個人事業主や中小企業(SMB)で概ね棲み分けられています。具体的には、業界トップ企業向けのツールは、細分化されたデータ管理や高度な分析機能、各部門の特定のニーズ(管理体系や、勘定科目/明細ベースといったデータの粒度)に対応できるカスタマイズ性など、豊富な機能性に加えて、データ量への高耐久性などが求められます。SMB向けのツールは、高い操作性と導入の簡単さを実現するために、機能を絞って作られていることが多いです。
図2.経営管理ソリューション市場における棲み分け
ログラス社は、上記の分類の中で、主にエンタープライズ〜ミドル企業をメインターゲットにし、必要十分な機能を、操作性の高いUIで提供することで、独自のポジショニングを築いています。
ログラス社がメインターゲットにしているエンタープライズ〜ミドル企業だけでも4.6万社、市場規模にして数千億/年が存在し、Horizontal SaaSである経営管理ソリューションには巨大な市場があることがわかります。
2.ログラス社のプロダクトと高い成長性
ここからは、ログラス社が提供するクラウドシステム『Loglass 経営管理』と、その高い成長性について詳しく説明していきます。
『Loglass 経営管理』は、従来のExcelベースの経営管理で生じていた、手作業での集計によるミスや、管理作業の属人化、といったペインにアプローチしたプロダクトです。あらゆる集計作業を自動化する事でデータ収集時間を最大85%削減するだけでなく、システム上でのバージョン管理や、細かな閲覧権限の設定など、充実した機能を提供しています。
図3.『Loglass 経営管理』の基本機能と特徴
また、収集したデータの加工・分析機能にも優れており、多段階・複雑な配賦ルールへの対応や、複数の分析軸に基づいた予実確認など、「かゆいところに手の届く」システムを実現しています。更には、財務情報やKPIなどの経営の意思決定に必要なデータをダッシュボード上で可視化して管理することも可能であり、まさに、「経営管理に寄り添ったプロダクト」です。
Angel Bridgeにおける投資検討の際には、『Loglass』を導入した複数企業へのインタビューも行いました。Excelやスプレッドシートから『Loglass』に乗り換えることで、大幅な工数の削減・属人化の解消・経営意思決定の精度向上などの効果が出ている様子を定性的に伺うことができました。また定量的にもチャーンレート・NRR・GRRなどの各種指標が非常に優秀な値であり、定性/定量の両面から顧客の満足度の高さを確認することができました。
図4.ユーザー導入事例
このような提供価値の高いプロダクトに加え、元経営企画やコンサル出身のメンバーが多く、顧客の課題解決能力に優れた質の高いカスタマーサクセスなど含めたCXの高さも評価され、結果としてMRRが急速に成長しています。
更に、先述したログラス社のメインターゲットであるエンタープライズ~ミドル企業のみならず、KDDIグループ様、アサヒグループ様、関西電力様などの日本を代表するような業界トップ企業への導入事例も増えていること、2024年の2月にローンチした新規プロダクト『Loglass 人員計画』や『Loglass サクセスパートナー』においても順調にリードが獲得できていることからも、今後のログラス社の成長に対して大きな可能性を感じております。
3. 経営陣
Angel Bridgeがログラス社に投資するにあたり、経営チームへの理解も深めました。
図5.ログラス社経営チーム
代表取締役CEOの布川さんは、慶應義塾大学経済学部を卒業し、SMBC日興証券に入社。PE、総合商社によるM&Aや投資先IPOアドバイザリー業務を担当した後、GameWith経営戦略室にて、IR・投資・経営管理などを担当されていました。事業会社の経営企画での経験から、課題を深く理解し、その解決に情熱を持たれています。複数のリファレンスインタビューからも非常に高いやり抜く力をお持ちであることに加え、組織マネジメント力の高さもお伺いすることができました。
CTOの坂本さんは、中央大学商学部を卒業し、新卒一期生としてビズリーチに入社されました。同社が急成長する中で責任者として新規SaaS事業の開発に携われるなど新規事業を中心に経験されました。その後サイバーエージェントでもエンジニアをされた後、2019年に布川さんとログラス社を共同創業されました。経営管理ドメインの特殊性を理解し、技術的負債を負わずにプロダクトの品質を最初から高く保つなど、新規事業に携わった経験を大いに活用されています。
また、ココン(現GMOサイバーセキュリティ byイエラエ株式会社)のグループCOOとして、約10社のM&AとPMIを主導された経験豊富な竹内COOや、SMBC日興証券の元トップバンカーである伊藤CFO、複数社の創業経験がある斉藤CBDOなど、優れた経営陣が揃っています。
4.おわりに
最後に、Angel Bridgeの今回の投資のポイントをまとめます。
1つ目は、巨大な市場があることです。経営管理ソリューションはHorizontal SaaSであり、巨大な市場が狙えます。その中でも、ログラス社はエンタープライズ〜ミドル企業をコアターゲットにしており、コアターゲットだけでも数千億円/年の市場が存在します。また足元でも業界超トップ企業へのプロダクト導入や、新規プロダクトのリード獲得が順調であり、今後さらに市場を広げていくことが見込めます。
2つ目は、優れた経営管理プロダクトがPMF(プロダクトマーケットフィット)していることです。ログラス社の提供する経営管理プロダクト『Loglass』のトラクションは順調に伸びており、サービス提供開始から4年足らずにも関わらず、CARR、導入企業数、チャーンレートを始めとした各種指標が良好な数字を示しています。ログラス社では「お客様の業務理解をもとにプロダクトを設計する」ことを徹底されており、「経営管理に寄り添った」プロダクトを作り続けていることが数字によって証明されていることがわかります。
3つ目は、直接の競合がいない独自のポジショニングを確立している点です。ログラス社が対象とする経営管理ソリューションの市場は、一見すると多数のプレイヤーが存在しています。しかし、エンタープライズ〜ミドル企業に対して必要十分な機能を使いやすいUI/UXで提供するポジショニングは十分に差別化されています。また一度導入されるとスイッチングが難しく、先行優位が働くプロダクトである点においても競合優位性が高いと認識しています。
最後に優秀な経営チームです。代表の布川さんは、経営管理業務への深い知見をお持ちで、CEOとしてのビジョンを体現する力、問題解決能力、やり抜く力に優れた人物です。さらに、0から1を生み出す仕事に長けた坂本CTOや、他社でもCOO経験のある竹内COO、SMBC日興証券の元トップバンカーである伊藤CFOなどの採用にも成功しており、強い経営チームを構築しています。
以上の観点から、ログラス社が、経営企画向けの経営管理SaaSを中心に「テクノロジーで経営をアップデート」するだけでなく、日本企業、ひいては日本経済全体の成長を支えることで、良い景気を作り出し、ログラス社がメガベンチャーとなる可能性が非常に高いと考え、投資の意思決定をしました。
Angel Bridgeは、社会への大きなインパクトを創出すべく、難解な課題に果敢に挑戦していくベンチャーを応援しています。ぜひ、事業戦略の壁打ちや資金調達のご相談など、お気軽にご連絡ください!
2024.07.09 ACADEMY
今回はスタートアップ企業が活用できる補助金・融資について説明していきます。
スタートアップ支援に対する国の動向
2022年11月に、岸田内閣は日本のスタートアップエコシステムを強化する「スタートアップ育成5か年計画」を掲げました。スタートアップ育成5か年計画では、2027年までの5年間でスタートアップへの投資額を10兆円規模に拡大し、ユニコーンを100社、スタートアップを10万社創出することを目指しています。この目標は岸田内閣の「新しい資本主義」政策の中で、日本経済を牽引していくことを目的として作成されました。
現在のスタートアップの調達手段の中心はエクイティ(株式)です。しかし、他にも手段としては、補助金やデット(融資)なども存在します。国を挙げてスタートアップを創出・成長させようとするマクロ環境が追い風となって、ここ数年ではスタートアップが活用できる補助金や融資の制度が増えつつあります。それぞれ詳しく見ていきましょう。
補助金・融資の違い
企業が受けられる金銭的支援として、主に補助金や融資などがあり、それぞれに違いがあるため注意が必要です。
まず補助金についてです。経産省や国立の機構などが主体となり、事業の成長が期待できる企業にお金を支給します。返済義務はありませんが、その分一定の基準を満たしたうえで採択される必要があり、倍率が高いものも数多く存在します。
次に融資についてですが、こちらは銀行や日本政策金融公庫等の金融機関が提供しているものに加え、各都道府県・自治体が金融機関と連携してお金を貸し付けているものも存在します。返済義務はありますが、条件によっては保証人がいらなかったり、無利子・低利子で借りられたりする制度もあります。また、最近ではエクイティとデット(融資)の両方の性格を持つ「ベンチャーデット(新株予約権付融資)」の利用も広まっています。
今回はスタートアップ向けの補助金と融資に絞り、スタートアップが活用できる制度の中でも代表的なものをご紹介します。
表1 スタートアップの調達手段比較
補助金
まず一例として挙げられるのが、NEDOによる「ディープテック・スタートアップ支援基金(DTSU)」です。
ディープテック企業は一般に技術の確立や事業化・社会実装までに長期の研究開発と大規模な資金を必要とするため、事業化に向けたリスクが高く、従来は積極的な投資対象となっていませんでした。しかし、これらのディープテック企業は国や世界全体で対処すべき経済社会課題解決のポテンシャルが大いにあり、可能性を秘めた革新的なビジネスであるため、徐々に政府が重点的な支援を行うようになったという背景があります。本基金は1,000億円と大規模で、最大6年間で30億円の大型支援が可能な制度であり、自身の会社のフェーズによって、3つの異なる部門のうちの一つに応募することが可能です。
図1 NEDO公式HPよりディープテック・スタートアップ支援基金の説明
また、技術を活かした別の補助金の例として、経産省による「SBIRフェーズ3基金」も挙げられます。こちらは宇宙(宇宙輸送等)、核融合、防災の3つの分野のうちいずれかに取り組んでいるスタートアップが対象で、分野によって受け取れる補助額も変わってきます。
また一般的に想像されるような専門度の高い技術に取り組んでいなくとも、生産性の向上や新製品・サービスの開発のための設備投資等に取り組みたい企業に対し、中小企業庁は「ものづくり補助金」も提供しています。こちらは本来は中小企業が対象ですが、3つ申請枠があるうちの「製品・サービス高付加価値化枠」はスタートアップとの相性が良く、過去にもスタートアップの採択事例もあります。
他にもNEDOが主体となって提供している補助金である「官民による若手研究者発掘支援事業」や「グリーンイノベーション基金事業」、科学技術振興機構が主体である「ディープテック・スタートアップ国際展開プログラム(D-Global)」など、多くの補助金の制度があります。
政府や自治体による補助金のスタートアップ支援の対象は主にロボティクス、バイオ、ヘルスケアといった深い技術力が必要な研究開発型ベンチャーが多いように見えます。しかし、このような研究開発型のベンチャーだけでなく、AIを活用したIT系のスタートアップであっても独自のAI技術の強みの観点などから補助金の対象になる可能性もあります。特に経産省のスタートアップ支援策の検索ページは大いに活用できるものなので、ぜひ応募できるものがないか積極的に確認してみてください!
融資
次に、最近多くの注目を集めているデット(融資)ファイナンスの事例に入っていきます。デットファイナンスは、金利上昇や日本のIPO環境の悪化など、エクイティファイナンスの冷え込みと共に、スタートアップの間でも注目されるようになりました。スタートアップが活用することにより、株式の希薄化がないなどのメリットもあります。
融資は政府系金融機関のみならず、民間の銀行や自治体なども提供しています。
<公的機関による融資>
まずは政府系金融機関による融資をご紹介します。
最初に例として挙げられるのは、日本政策金融公庫による「新創業融資制度」です。2024年4月から、新たに事業を始める人または事業開始後税務申告を2期終えていない人が無担保・無保証人で利用する場合、融資限度額が3,000万円から2倍超の7,200万円まで引き上げられました。女性や若者、シニア、廃業歴などがあり創業に再チャレンジする人、中小会計を適用する人は、通常よりも有利な条件で制度を活用することができます。
また、同じく日本政策金融公庫による「スタートアップ支援資金」では、日本の経済成長及び社会課題の解決を先導することが見込まれるスタートアップの成長を支援しています。
表2 日本公庫のスタートアップ向け融資制度(新旧制度の比較)
さらに東京都など、都道府県レベルでの自治体の機関がスタートアップ向けの融資を提供している場合もあります。例えば東京都創業ネットは、「女性・若者・シニア創業サポート2.0」に取り組んでおり、都内での女性・若者・シニアによる地域に根ざした創業を支援しています。この制度では、信用金庫・信用組合を通じた低金利・無担保の融資が提供される他、地域創業アドバイザーによる経営サポートも受けることが可能です。
他にも政府と民間団体が共同で出資する商工組合中央金庫は、スタートアップ向け融資に積極的です。新事業に取り組んだり、成長分野に進出したりするスタートアップ企業に対し、10億円の融資を実施しています。
各都道府県や、より小さな市区町村レベルでもスタートアップの支援に力を入れているところもありますので、ぜひチェックしてみてください。
<民間機関による融資>
民間の機関を見てみると、近年は大手銀行もスタートアップの融資を強化しています。例えば三井住友銀行は2023年10月よりミドル・レイターのスタートアップに向けた新株予約権付き協調融資(複数の金融機関による融資)を開始しました。また、みずほ銀行は2022年4月より「イノベーション企業審査室」を新設し、事業や成長性をより深く把握し、迅速に融資することを目標としています。足元の業績が赤字の企業でも、経営陣の資質や将来の事業計画の蓋然性、資金繰りなどの「ヒト・モノ・カネ」の観点を総合して返済能力を見極めています。加えて、三菱UFJ銀行は2017年より担保・保証に依存しない融資制度を導入しました。また、りそな銀行は2023年10月よりベンチャーデット(新株予約権付融資)に100億円投じることを宣言し(1件あたり1億円前後が目安)、貸し倒れリスクの高い「アーリー期」も融資対象としています。
大手銀行だけでなく、地銀でもスタートアップに力を入れている銀行があります。具体例として、静岡銀行は2021年6月にベンチャーデットに力を入れることを公表し、2027年までにベンチャーデット残高を1,000億円にすることを目標としています(2022年度の30倍)。実際に2023年3月までの1年半で46件、72億円を投じており、赤字企業に対しても融資を行っています。静岡銀行の場合は、県内の事業者とスタートアップとの協業を促進するオープンイノベーションプログラム「TECH BEAT Shizuoka」を開催しており、スタートアップの支援に本気で取り組んでいることが伺えます。
銀行のスタートアップ支援策は政府や自治体の機関と異なり、通常の融資ではなく、ベンチャーデットとして提供していることも多いです。ベンチャーデットは従来の融資に加え、新株予約権(ワラント)が付随します。通常の銀行融資と比べた時の資金調達のハードルを抑えつつ、エクイティよりも株式の希薄化を抑えることができるため、スタートアップにとっては活用しやすい制度となっています。一方で、銀行側にとってはリスクの高い投資を行っているため、利率や返済条件が厳しいケースもあり、利用にあたっては十分に確認する必要があります。
最近では金融機関だけでなく、スタートアップ企業が新しい形の融資を提供しているケースも存在します。Fivotは主にD2CやSaaSなどの事業を行うスタートアップを中心に、レベニュー・ベースド・ファイナンスやベンチャーデットを提供しています。最短30分のデータ連携で審査が完結し、2週間で審査結果がわかるなど、成長企業の資金繰りをサポートし、更なる成長を生み出すためのファイナンスを提供しています。Siiibo証券は従来の公募債よりもオンラインで短期間に社債を発行することができ、クイックな資金調達を可能にする私募社債というファイナンスを提供しています。どちらも新しいファイナンススキームであり、企業の多様な成長を後押しするために非常に有効な手段です。Angel Bridgeとしても非常に注目している企業です。
まとめ
日本政府のスタートアップ支援に対する姿勢が積極的になったこともあり、近年はエクイティ以外にも、補助金やデット(融資)などの、スタートアップに対する多様な支援の制度が拡充されてきました。今回ご紹介したのは数多くある制度のうちの一部の補助金や政府・自治体・民間企業による融資に過ぎませんが、他にも数多くの制度が存在します。起業家の皆さんは、もしかするとご自身の事業領域や活動拠点の所在地(都道府県・自治体など)、属性やバックグラウンドによって有利に受けられる支援もあるかもしれません。本記事が他にも支援制度を探索してみるきっかけづくりになっていれば幸いです。
Angel Bridgeはシード〜アーリー期のスタートアップを中心に投資しているVCであり、手厚いハンズオン支援を特徴としています。今回解説した資本政策についても、投資先起業の経営陣とディスカッションを行い、投資家目線のアドバイスを行ってまいりました。事業戦略の壁打ちや資金調達のご相談などありましたら、お気軽にご連絡ください!
2024.07.01 INTERVIEW
微生物を活用することで、数年かけて抽出していた成分を数日で作り出せる
ファーメランタの事業内容や競合状況を教えてください
柊崎:ファーメランタは微生物を活用して有用な物質を作り出すバイオ系のスタートアップです。医薬品や化粧品、健康食品の原料には植物を栽培して抽出した成分が使われていて、なかには年単位の時間をかけて栽培し抽出する成分もあります。私たちはこうした成分の微生物を活用することで、数日で作り出せる技術の研究開発を行っています。
事業としては大きく2つあります。1つ目は化学メーカーのように成分の製造販売を行うこと、2つ目は企業のニーズに合わせて微生物を設計することです。
弊社は微生物に多数の新たな遺伝子を導入したり、元々もっている遺伝子を潰したりすることで、狙った物質を作り出せる微生物にしていきます。この技術は共同創業者である南と中川が20年近く続けてきた研究によるもので、同じことを実現できる競合は日本にほぼ存在しません。海外には一部競合にあたる会社があるものの、シンプルな化学的構造をもつ成分を対象としているため、弊社のほうがより難易度の高いことを実現しています。
ファーメランタの強みはどこにあるとお考えですか?
柊崎:一番の強みは技術力です。ひとつの細胞に複数の遺伝子を導入することは技術的に難しいですが、弊社は20以上の遺伝子をひとつの細胞に入れる技術力をもっています。
これは研究開発を重ねた結果として実現できたことで、最初は十数個の細胞を入れるのに2年ほど時間がかかっていました。現在では技術的な課題はクリアしていますが、遺伝子を入れた後にうまく遺伝子が発現して機能し、細胞として統合的に制御できるようにするプロセスは非常に難易度が高いです。こうした細胞の培養は、現時点では弊社のラボにある卓上の培養装置で行っています。
コミュニケーションに駆け引きがなく、フェアで気楽なディスカッションができた
Angel Bridgeの存在を知ったのはいつ、どのようなきっかけでしたか?
柊崎:2023年2月に、Angel Bridgeのキャピタリストの方との共通の知人から紹介されたことがきっかけです。
河西:Angel BridgeがLogomix(東工大発の合成生物学スタートアップ)に投資したという告知をFacebookでしたところ、共通の知人が「こんな面白いことをやっている人がいるよ」と柊崎さんの話をしてくれたんです。その話を伺いファーメランタに興味をもったので紹介してもらうことにしました。
Angel Bridgeならびに河西さんにどのような印象を持ちましたか?
柊崎:コミュニケーションに駆け引きがなかったことが印象的でした。投資する側と投資してもらう側は条件面のすり合わせが必要なので、どうしても壁のあるコミュニケーションになりがちですが、Angel Bridgeにはそれが一切なかったのです。また、Angel Bridgeのキャピタリストはプロフェッショナルファームのバックグラウンドをもつ方が多く、私も同じ業界の出身なので話しやすいと感じました。
投資を受けるにあたって期待されたこと、懸念されたことを聞かせください。
柊崎:期待していたことは、コミュニケーションの円滑さと対等な関係性が作れることでした。Angel Bridgeとはフェアでかつ気楽にディスカッションができたため、投資検討のプロセスを通して投資後に協力的な関係を築いていけるイメージが湧き、投資を受けることにしました。
資金調達をするのが初めてだったので、当初はプレッシャーをかけられるのではないかという点を懸念していました。しかし実際にはそんなことはなくAngel Bridgeは寄り添っていただける、温かいVCだと感じています。
世界的に競争力のある技術と、やりきる力をもったビジネス人材がいることが投資の決め手
投資家の立場から、ファーメランタを評価したポイント、投資の決め手を振り返ってください。
河西:ファーメランタは大学発ベンチャーであり、大学にある技術をビジネスとして成功させるスタートアップです。私自身、大学発ベンチャーをこれまで数多く見てきて、成功する企業を見分ける自分なりの見極めポイントをもっています。1つ目はその企業がもつサイエンス、テクノロジーに世界的な競争力があること、2つ目は事業を預かるビジネス人材がサイエンスのことを理解されているだけでなく、事業を推進する能力に長けていることです。
1つ目のサイエンスについては、石川県立大学の南先生、中川先生の20年の研究に優位性があり、世界的な雑誌であるネイチャーコミュニケーションズにも論文が掲載されているなど、レベルの高いものであると感じました。
2つ目のビジネス人材つまり柊崎さんは、これまでサイエンスを専門にされていたわけではありませんが、正しく深くサイエンスを理解されていました。これまでに相当学び、先生方と議論されてきたのだろうと思います。そして、柊崎さんは投資銀行での経験があり、ファイナンスのバックグランドをお持ちです。バイオベンチャーは研究開発のために大きな金額を集める必要があるため、そのバックグランドは大きな武器になると考えました。
実際は、一度目は柊崎さんにお会いし、二度目に先生方にお会いし、三度目にお会いしたときには投資を決めていました。おそらく2週間くらいで投資の意思を固めたので、スピード感のある投資決定でした。
柊崎さんおよび創業メンバーにどのような印象を持たれましたか?
河西:柊崎さんは目がキラキラしていて、まっすぐ生きてこられた人だと思います。世の中はこうあるべきだという考えがあり、その世界観を実現するために何が何でもやりきるんだという強い意志を感じました。大学発ベンチャーは調達すべき金額も大きいので、大変なことは色々とあるでしょう。でも、柊崎さんなら最後までやりきるだろうと思えました。
Angel Bridgeは投資の際に、企業の社長に関してさまざまなレファレンスを取ります。共通の友人などを通じて柊崎さんの話を聞きましたが、さまざまなエピソードを聞いても物事をやりきる力がある人だと思いました。
そして、柊崎さんはお父さんが宮崎県の外食チェーンを一代で築き上げた経営者であり、幼い頃から「将来は自分のビジネスを作りたい、世の中に価値を生み出していきたい」と思っていたことも聞きました。こうしたDNAに刻まれた運命も含め、柊崎さんの強い意志も確認でき、首尾一貫した方であると思いましたね。
また、先生方にお会いしたときに、非常に柊崎さんを信頼していることが伝わってきました。大学発ベンチャーの場合、先生方が自分で経営もできると考えていたりするとビジネス側の人材が疎外されてしまうこともあります。ファーメランタではそういったことは起きないだろうと思いました。
柊崎さんは、経営者であるお父様の影響を受けていますか?
柊崎:影響はありますね。実は、父だけでなく父方・母方の祖父も共に一代で事業を立ち上げている経営者です。ある意味、それが働き方なんだと子供の頃から刻み込まれてきました。ただ、経営者として教育されたというわけではなく、好きなことを好きなようにやりなさいと育てられてきました。
起業家同士の横のつながりを作りやすいAngel Bridge主催のイベント
Angel Bridgeから受けた支援で、とくに印象的だった取り組みを聞かせてください。
柊崎: Angel Bridgeは起業家同士の横のつながりをつくれるさまざまなイベントを開催されています。例えば、BBQやゴルフ、フットサル、スカッシュなどのイベントです。毎回30〜40名ほどの参加者がいて、Angel Bridgeの関係者が10名ほど、他はスタートアップの経営者です。
また、Angel Bridgeの人脈で銀行から大型の融資を受けることができたのもありがたかったです。助成金を使うことが多いのですが後払いになるので、つなぎで銀行融資を受ける必要があるからです。
河西:ファーメランタが石川県初のベンチャー企業で、北陸銀行を紹介することができたので、エリア的にも相性がよく前向きに話が進みましたよね。
他の取り組みとしては、さまざまなテーマで勉強会を開催しています。投資先の皆さんに集まっていただいて起業家に話してもらう形式です。起業家が集まるので刺激があっていいという声をいただいています。
柊崎さんはAngel Bridgeと他のVCを比較したときどのような違いを感じますか?
柊崎:経営者を信頼してフェアに接していただいています。一番お世話になっているのは河西さんですが、河西さん以外の方とコミュニケーションを取る機会も多くあり、会社全体として関わってくださると感じます。
河西:Angel Bridgeでは、担当者であるか否かによらず、各々ができることを積極的に投資先の皆様に提供し、弊社支援を行っていくという考えです。誰かがイベントを企画したときに「柊崎さんも誘ってみたら」と伝えることや、何かのイベントで柊崎さんと話した社員がまた別のイベントに誘うようなこともあります。
ディープテックのバイオ領域の事業をやりたいという想いがあった
起業はいつ頃から考えていたのでしょうか?
柊崎:中学・高校の頃からぼんやりと起業したいと考えていました。大学生のとき周囲に起業する人がいたこともあって、ビジネスアイデアを考えたことがあります。しかし、どれも世の中が変わるほどのインパクトはありませんでした。
ただ、その頃に今の起業につながる経験をしていました。私はケニアでボランティアをしたことがあり、途上国開発に関心をもっていました。そして、微生物が植物由来の成分をつくり、それがマラリアの薬になったというニュースを聞いたのです。ケニアはマラリアが多く、その薬はケニアにとって大きな助けになるので、すごい技術だと思いました。しかし、自分自身が技術力をもっていないのでビジネスにしようという発想には至りませんでした。
結局、学生起業には限界があると感じて就職することにしました。外資系金融を選んだのはハードな環境だからです。限界まで自分が頑張れる環境に身を置くことで成長したいと考えました。
就職後は食品系の企業と働く機会が多く、発酵工業という大きな産業があることを知りました。そして、技術をもつ人と一緒なら起業できるのではないかと思うようになったんです。
共同創業者である南CSO、中川CTOとの出会いから、起業に至った経緯をお聞かせください。
柊崎:起業する領域をディープテックでかつバイオ領域にしようと決め、共同創業できる研究者を探すためさまざまな関係者に聞きまわりました。そこで、国のプロジェクトであるSBIR制度のプログラムを紹介されたのです。私が参加した農水省生研支援センターによるSBIRは研究シーズの事業化を支援するプロジェクトで、研究者とビジネスパーソンをマッチングする機能があります。SBIRを通じて共同創業者である南、中川と出会いました。
創業したのは出会いから1年ほど経過してからです。先生たちの研究対象は既に市場があるので、製造販売をすることができればビジネスとしても成立します。ただ、うまくいかない場合も想定して、研究費用を出してもらうことができる共同研究先を見つけようと考えました。創業前からさまざまな会社にコンタクトしてディスカッションし、共同研究に進んだものもあります。先生方の技術にニーズがあることも確認ができたため、会社の設立に至りました。
先生方の研究レベルの高さを理解するための知識を、柊崎さんはどのように身につけたのでしょうか?
柊崎:特別な勉強をした感覚はないのですが、関心の高い分野の本や論文を知的好奇心を持って読み、吸収していました。
ディープテックは技術がベースだからこそ、実現できた時のインパクトが大きい
創業後、最もハードだった出来事をお聞かせください。
柊崎:あまりハードだと思っていないのですが、2023年3月頃は資金調達前で従業員もいなかったので、すべてを自分でやる必要があり少しハードだったかもしれません。ただ、自分が本当にやりたいことに取り組み始めたタイミングで、ゼロからイチを生み出していたので、知的好奇心が満たされていて楽しかったという印象です。
共同研究先やクライアントを探すのは大変ではありませんでしたか?
柊崎:弊社の技術はかなり尖っているので、他社では実現が難しいです。そのため営業活動はそこまで大変ではありませんでした。多売するビジネスモデルではないので大きな仕事を獲得していくという感じです。技術や研究開発力を伸ばしていくことが、営業の優位性につながります。
過去のご経験が活きる場面はあるでしょうか? それはどのような場面でしょうか?
柊崎:スタートアップの経営はタスクが非常に多いので、前職で膨大な量のタスクをスピード感をもってこなした経験は役立っています。そして、資金調達や助成金などのお金関連のことがある程度わかるというのも前職の経験が生きている部分です。
ディープテックスタートアップにビジネス人材として参画することの難しさややりがいを教えてください
柊崎:ディープテックはサイエンスがベースになっているビジネスなので、技術が実現できなければ先がないというリスクがあります。しかし、うまくいけば技術は国境を超えますし、尖っている技術であるほど世の中に与えるインパクトも大きいです。そういった意味で、大きな未来に向かっていける点がやりがいです。
経営者として大切にしている信念をお聞かせください。
柊崎:自分がイニシアティブを取って、全責任をもってやりぬくことです。立場上、自分がやっていないことも含めてすべてが自分の責任なので、それを引き受ける覚悟はもっています。会社内で何が起きているかわかっていない状態は危険だと思っているので、細かなところまで緻密に把握することが大切です。
マイクロマネジメントはしていませんが、社内のオペレーションはすべて理解しています。また、共同創業者である先生方とはバックグラウンドが違うのですが、お互いの深い理解が事業にもよい影響をもたらすと考えており、プライベートな話も含めて積極的にコミュニケーションしています。
Angel Bridgeと末長くいい関係でいたい
ファーメランタの今後の展望について教えてください。
柊崎:一番の強みである技術に、お金や人的リソースを投資し大事にしていきたいと考えています。一方、どれだけ技術が優れていても世の中に提供できなければ会社の存在意義がなくなってしまうので、実際にビジネスを生み出していくことにもこだわっています。
植物から抽出されている成分を使用している医薬品には、例えば鎮痛剤や抗がん剤などがあります。鎮痛剤は90%以上が先進国で消費されていると言われていて、価格の高い医薬品は途上国に行き渡りにくいです。弊社の技術によって、より広い地域に届けられるようになればと思っています。
柊崎さんはこれからAngel Bridgeにどのような役割を期待されますか?
柊崎:一回目の資金調達ではまだ会社もシード期で最もリスクのあるフェーズでした。Angel Bridgeはそのような時期にファーメランタ社への投資をコミットいただき、とても感謝しています。ベンチャーキャピタルはスタートアップのフェーズによって分かれている印象がありますが、Angel Bridgeとは長くお付き合いをしたいと考えています。
河西:資金面で言えば、二回目、三回目の投資もしていきたいと考えています。また、柊崎さんの伴走役として、うまくいっているときにはたしなめ、うまくいっていないときは励まし、仲間として柊崎さんの精神的な心の支えでありたいです。
ディープテックは、プロフェッショナルファーム出身者が活躍できる場
ビジネスサイドの人材が、ディープテックスタートアップで活躍するには何が必要でしょうか?
柊崎:ディープテックは基本的なビジネス能力の高い人が活躍できる場であり、故にプロフェッショナルファームで経験を積まれた方が活躍できる場だと思っています。深く技術を理解してどのようにビジネスとして成立させるかを描ければ、オペレーションを実行していくだけです。その点、ビジネスのスキルセットを高いレベルで持たれているプロフェッショナルファーム出身者が得意とするところだと思っています。
スタートアップ志向や起業志向をお持ちの読者にアドバイスやメッセージをお願いします。
柊崎:ディープテックにもっとビジネスサイドの人材が入ってきたらと思います。日本には優れた技術が多いにも関わらず大学の中に埋もれている状況です。あとは経営やオペレーションをまわす人がいれば、ディープテックは国境を越えて大きな社会的インパクトを出せます。大志をもった人がやりたいことを実現できるので、ぜひ恐れず飛び込んでいただきたいです。
河西:柊崎さんに同感です。ディープテックの大学発ベンチャーに優秀なビジネスパーソンが飛び込んできてほしいです。ディープテックは早い段階から世界市場での勝負になるので、大きな事業を作れる可能性があり、ダイナミックな経験ができると思います。
2024.06.03 INVESTMENT
2024年6月に、Angel Bridgeの投資先である株式会社PeopleX(以下PeopleX社)が、シードラウンドにおいて累計16.1億円の資金調達を発表しました。Angel Bridgeも本ラウンドにおいて出資しています。
PeopleX社は、市場の転換期を迎えるHRTech市場において、会社と従業員の双方にとって望ましい組織の構築のため、「エンプロイーサクセス プラットフォーム」と呼ぶSaaSプロダクト群『PeopleWork』の提供を行うコンパウンドスタートアップです。
この記事では、Angel BridgeがPeopleX社に出資した背景について、HRTech市場を取り巻く環境と、PeopleX社の強みに焦点を当てて解説します。
1. HRTech市場の市場構造
まず、HRTech市場の全体像を説明します。
日本のHRTech市場は、人材不足やITテクノロジーの急速な発展などを背景に、年平均成長率 32% で市場規模が急拡大していく事が予想されている注目市場です。
この市場は、「育成/定着」「労務管理」「人事/配置」「採用管理」の大きく四つの領域に分類されており、現在PeopleX社がサービスを展開しようとしている「育成/定着」領域は、2030年時点で約1,050億円の市場規模に成長すると予測されています。
従前、他の先進国と比較して、日本企業の人材投資額は著しく低い水準をとっていました。古いデータではありますが、2010年から2014年における、能力開発費が実質GDPに占める割合の5か年平均は、アメリカの約1/20と極めて低い値となっています。
その結果、育成/定着どちらの領域においても、事業部主導で属人的な施策が実施されるのみにとどまってしまい、全社的な取り組みに昇華できていない場合が多く、人事部/事業部/社員のそれぞれにペインが存在した状態のままになってしまっています。
こういった状況もあいまって、日本企業は
- 時間当たり労働生産性:OECD加盟国38か国中30位
- 従業員エンゲージメント:OECD加盟国38か国中最下位タイ
と、国際的に極めて悪い評価を受けています。
特に従業員エンゲージメントは、グローバル平均が年々上昇している一方で下降しており、日本のエンゲージメント領域への意識の低さが伺えます。
しかし、以下の様に、日本の労働市場は大きな転換期を迎えており、今後はエンゲージメント領域への関心や投資が従前よりも高まっていくと考えられます。
- 上場企業などにおける人的資本の情報開示が義務化されたことなどを背景に、官民を挙げての「人材投資」への機運が高まる
- 中途採用比率は約40%まで高まり、新卒一括採用から中途・キャリア採用へと大きくシフトしている
- 政府が2022年に「個人のリスキリング支援に5年で1兆円を投じる」と表明しており、所得の高い成長分野への転職を促すなど、社会全体で人材の流動性を高める動きがある
日本では、「育成/定着」領域における確固たるSaaSプラットフォーマーは未だ確立していません。この流れを捉えることで、Lattice/HiBob/Culture Ampといった海外のユニコーン企業に名を連ねるチャンスが大いにある領域だと判断しています。
本社 | アメリカ | イギリス | オーストラリア |
設立年 | 2015 | 2015 | 2009 |
時価総額 | $3.0 B (2022年1月時点) |
$2.7 B (2023年9月時点) |
$1.5 B (2022年7月時点) |
2. PeopleX社の事業概要
続いて、PeopleX社の事業についてです。
PeopleX社は、大きな変化を迎えるHR市場で、「エンプロイーサクセス プラットフォーム」と呼ぶSaaSプロダクト群『PeopleWork』をコンパウンドスタートアップとして提供します。
直近で解決していく課題は、従業員のスキルアップとエンゲージメントの向上ですが、今後20近い新規SaaSアプリケーションを早期に展開していく予定のため、共通コンポーネント/基盤開発に注力しています。これは、PeopleX社がベンチマークとして参考にしている、コンパウンドスタートアップのパイオニアであるデカコーン企業、Ripplingと同様の戦略です。
また、管理者だけでなく従業員にも光をあてたものであるため、PeopleX社のプロダクトにはBtoC製品のようなわかりやすく操作性に優れたUI/UX設計がされています。コンパウンドスタートアップにおいて極めて重要な、データの整合性、全体として共通化された技術基盤に加え、UI/UXの洗練さが創業初期から意識されていることで、質の高いプロダクト群となる事が期待されます。
3. 経営者
Angel BridgeがPeopleX社に投資するにあたり、創業者である橘CEOへの理解も深めました。
橘CEOは、前職の弁護士ドットコムにて事業責任者として『クラウドサイン』を立ち上げました。そして『クラウドサイン』をARR約60億円にまで押し上げ、弁護士ドットコムを牽引する事業にまで成長させた実績を持つ経営者です。
『クラウドサイン』は下図のように、時価総額300億円を超える国内上場SaaS企業の中でも早い速度でARR60億円に到達しており、現在も対前年比30%で継続して成長しているSaaSです。
また、橘CEOは「日本の働き方の変革」をミッションに約8年間在籍してきた弁護士ドットコムの取締役としての地位を捨てて創業に至っており、本事業に対する高い情熱と覚悟を有している事が伺えます。視座が高く巻き込み力の高い起業家でもあるため、先述したコンパウンドスタートアップ戦略を取る上で重要なCXOクラスの人材採用もうまくいっています。
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市場の転換期を迎えるHRTech市場において高い情熱と覚悟を有しているだけでなく、コンパウンドスタートアップ戦略を着実に進める視座の高さ、また、それを実現するだけの巻き込み力、シード期に16億円という大規模な資金を調達できる能力を持ち合わせている橘CEOは、日本の労働市場を取り巻く環境を一変させる上でこれ以上ない人物であると考えました。
4. おわりに
最後に、Angel Bridgeの今回の投資のポイントをまとめます。
1つ目は、転換期を迎えているHRTech市場です。世界的に巨大で成長が予測されている市場である一方、従前、日本企業の人材投資は低く、全社的な取り組みが不足しているため、労働生産性や従業員エンゲージメントの国際評価も低い状況でした。しかし、最近では人的資本の情報開示義務化やリスキリング支援など、政府や企業による人材投資の動きが活発化しており、変革の兆しが見え始めています。日本の「育成/定着」領域には、まだ確固たるSaaSプラットフォーマーが存在していないため、成長余地が大きく、海外のユニコーン企業に並ぶ大きなチャンスがあります。
2つ目は、優れたプロダクト戦略を持ち、最初からコンパウンド型のプロダクト設計をとっている事です。PeopleXは、管理者だけでなく従業員にも光をあてたプロダクトを多面的に提供していく事で会社と従業員の双方にとって望ましい組織のあり方を構築することを目指しています。データの整合性や全体としての統一感から、UI/UXの極めて良好な、完成度の高いプロダクトになる事を確信しています。
3つ目は、優秀な経営者です。創業者である橘CEOは、『クラウドサイン』を通じて日本の判子文化を変革してきた、実績ある経営者です。また、日本の働き方の変革という大きな社会課題の解決に高い使命感を抱いている人物でもあります。実際に、橘CEOの実力やHRTechへの熱い想い、人柄に惹かれ、多くの優秀なメンバーがPeopleX社に集っています。コンパウンドスタートアップ戦略を実現するにあたり、橘CEOの採用力も高く評価しました。
以上の観点から、PeopleX社が、転換期にあたる日本のHRTech市場において変革しつつある日本の「育成/定着」領域において、管理者と従業員の双方に焦点を当てた高品質のプロダクト群を多面的に早期展開することで、日本の従業員エンゲージメント指数の向上に多大な貢献をするとともに、メガベンチャーへと成長する可能性が非常に高いと考え、投資を決定しました。
Angel Bridgeは、社会への大きなインパクトを創出すべく、難解な課題に果敢に挑戦していくベンチャーを応援しています。ぜひ、事業戦略の壁打ちや資金調達のご相談など、お気軽にご連絡ください!
2024.05.20 INTERVIEW
気軽に海外株投資ができるスマホアプリを提供
ブルーモ証券の事業内容を教えてください。
中村:ブルーモ証券は、個人向けの投資アプリを提供している会社です。スマートフォンから米国株や海外のETF(投資信託)に投資ができるアプリです。これまでの投資アプリと違うのは、自分で資産運用を考えたい方にとってとにかく使いやすいところ。金融リテラシーが乏しかったり、面倒な手続きが嫌な方でも簡単にはじめられる点が挙げられます。
その「使いやすさ」とは、どんなところに表れているのでしょうか。類似サービスとの違いは?
中村:まず、口座開設の申し込み手続きはおよそ2分で完了します。また口座に入金するだけで、自分で選んだ複数の米国株・ETFに対して両替、買い付けができます。著名な投資家や他のユーザーのポートフォリオをそのままコピーできるので、投資経験が浅い方でも迷わず分散投資を行うことが可能です。当社の「Bloomo」は、海外株による長期分散投資をより多くの人の手に届けるために開発したアプリなので、投資に対する敷居を下げるためにも使いやすさにはこだわりました。
個人投資への注目が集まっています。現在の市況についてはどう見ていらっしゃいますか?
中村:日本ではこれまで金融資産は預金に偏り、投資に対して慎重な方が少なくありませんでした。しかし、過去5年ほどの間に状況は大きく様変わりし、コロナ禍による生活を見直す機運の高まりや金融庁の報告書をきっかけに「老後2,000万円問題」が話題になるなど投資への関心が高まりを見せています。2024年からは新NISAがはじまり、証券口座の年間開設数が大幅に増えており、個人投資サービス全体に非常に強い追い風が吹いている状況です。
経営陣についても教えてください。どんな方が集まっていますか?
中村:CTOを務める小林悟史は、東大のコンピュータサイエンス出身で、オンラインレンディングや株式投資型クラウドファンディングシステムをスクラッチ開発した経験を持つエンジニアです。またバックオフィスの業務責任者を務める吉岡龍弥は、マッキンゼー時代の同僚で証券会社に必要なバックエンドシステムの仕様策定、業務の設計や運用を担ってくれています。私自身は、過去財務省に在籍していたこともあり法規制に明るく、スタンフォードMBAでの留学中に最先端のテクノロジービジネスとデザイン思考を学んだ経験を活かし、経営とプロダクトマネジメント全般を統括しています。スタートアップながらお客様のために最善を尽くせる体制を築けたと自負しています。
Angel Bridgeとの出会いのきっかけは?
中村:創業から間もなく、Angel Bridgeの八尾さんから声がかかったのがきっかけです。八尾さんは私と吉岡と同じくマッキンゼーのご出身で、私たちが起業したのを耳にされた八尾さんから吉岡にアプローチがありお付き合いがはじまりました。その後パートナーの河西さんやほかのメンバーを紹介していただき、いまに至っています。
Angel Bridgeに対する最初の印象はいかがでしたか?
中村:プロフェッショナルファーム出身者が多く、仕事に対するマインドや組織カルチャーが似ており、共通言語が多い印象でした。お声がけいただいた当時は、まだ個人投資家から調達した資金で賄えていたので「すぐにでも」という話にはなりませんでしたが、近い将来、VCから調達する時期がやってくるのはわかっていましたから、それ以降、定期的に連絡を取らせていただいていただくようになりました。
河西さんにうかがいます。中村さんやブルーモ証券への第一印象を聞かせてください。
河西:日本において長期分散投資の有用性を多くの方に広げたいという志の高さに共感を覚えたのと、中村さんの輝かしいキャリアに加え、創業初期にもかかわらず小林さんや吉岡さんをはじめ、非常に優秀なメンバーを迎えられていることに大変驚いたのを覚えています。それがブルーモ証券の第一印象でした。
Enjoy your journey, not outcome.
その後はAngel Bridgeとはどのようなお付き合いをされてきましたか?
中村:最初にお話させていただいてから半年ほど経ったころ、いよいよ本格的に証券会社としての体裁を整えるにあたり、改めて「ぜひ投資していただけないか」とお話しさせていただきました。それから投資を決定いただくまで、わずか2週間ほどだったのがいまも印象に残っています。意志決定のスピードには驚かされました。
河西:はじめてお会いしたときから、ぜひ応援させてもらいたいと思っていましたからね。最初にお目にかかってから半年ほどの間に、第一種金融商品取引業免許の取得に向けたプロセスを踏んでおり、やるべきことを着実に実現していく手堅さも感じたので、迷わず投資を決めることができました。
Angel Bridgeから支援を受けるなかで、どんなところがほかのVCと異なると感じますか?
中村:投資先に対するコミットメント力が半端ないところですね。何としても付加価値を提供したいという強い意欲を感じますし、反応速度が非常に速い上にとにかく泥臭い(笑)。その献身ぶりは目を見張るほどです。
河西:投資先のバリューアップにつながるなら、気合と根性でやり遂げるのがチームとして大事にしていることなので、そのお言葉は大変光栄です。われわれは投資先の応援団。どんなに泥臭いことでも率先してやらせていただきます。
中村:先日も三好さんが気を利かせてくれて、ある採用候補者のリファレンスを取ってくださったのですが、そもそも彼は当社の担当ではないんです。そんなことはほかのVCではありえないこと。そのホスピタリティは、ほかのVCとは一線を画すレベルだと思います。
起業家、経営者としてやりがいを感じる瞬間は?
中村:ひとつは優秀なメンバーがチームにジョインしてくれたときですね。「この人がきてくれたら、きっとこれまでとは違う景色が見られる」と思えるのはうれしいことですし、経営者としてのモチベーションが高まります。もうひとつは、お客さまの存在です。ローンチから間もないスタートアップにお金を預けていただけること自体、私たちに価値を感じてくださっているわけですし「毎朝アプリを開くのが楽しみです」「ほかの方のポートフォリオを見ながら勉強しています」といった前向きな言葉を頂戴すると励まされます。このビジネスにチャレンジしてよかったと感じる瞬間です。
経営者として大切にされている信念を教えてください。
中村:自分たちが本来やろうとしたこと、やりたいことを決してぶらさず、大きな目標に向かって、やるべきことを愚直に取り組むことですね。かつて物理学者のアインシュタインは「Learn from yesterday, live for today, hope for tomorrow. The important thing is not to stop questioning(過去から学び、今日を生き、明日への希望をつなげよう。もっとも大切なことは、問うことをやめないことだ)」と述べており、私も日々の積み重ねが偉業につながると信じています。また、スタンフォード留学中に出会ったシリアル起業家の恩師からは成長企業経営の名物授業で、起業家という仕事について「Enjoy your journey, not outcome(結果ではなく旅路を楽しめ)」といわれ、いまも心に残っています。どちらも、自分の意志で選んだ道を信じ、真摯に経営と向き合い続けることの大切さを教えてくれました。
少子高齢化の一途を辿る日本の若者が希望を持てる社会にしたい
これからブルーモ証券をどんな会社にしたいですか?
中村:当面は、期待が高い新NISA口座の開設に向けた対応や積立投資機能の整備を急ぎつつ、海外株での資産形成に必要な金融機能を順次拡張していくつもりです。長期分散投資を通じて、資産形成のパートナーとして多くの方に認知していただくために、ブルーモ証券をみなさんのご期待に応えるビジネスに成長させたいと思っています。
今後、Angel Bridgeに期待することは?
中村 : 今後も信頼関係を保ちながら同じ夢を見続けられたらいいなと思っています。これからも最高の応援団でいてください。
河西 : もちろん、私たちもそのつもりです。中村さんは苦学の末、Angel Bridgeのオフィスからもほど近い都立日比谷高校を出られ、さらに東大、財務省、マッキンゼーを経て、今日に至るまで、数々の困難に直面されたはずですが、それをものともせずことごとくクリアしてこられた。私たちはそんな中村さんのガッツに期待しているんです。
中村 : ありがとうございます。財務省に入省したのも、その後MBAを経てマッキンゼーに入り、さらにブルーモ証券を創業したのも、少子高齢化の一途を辿る中で日本を若者が希望を持てる社会にしたかったからです。その思いは大学時代から15年以上変わりません。これからもその目標を達成するため最善を尽くすつもりなので、ぜひご支援のほどよろしくお願いいたします。
河西 : もちろんです。
最後に、プロフェッショナルファームご出身者や在職者のなかで、とりわけスタートアップでのキャリアに関心がある読者に対しメッセージをお願いします。
中村 : もし、スタートアップに関心をお持ちなら、健全なメタ認知を持ってチャレンジしてほしいですね。プロフェッショナルファームは待遇もいいし世間からの評価も総じて高い。そのため、どうしても自らの実力を高く見積もりがちです。スタートアップをはじめ、プロフェッショナルファームとは大きく異なる領域にチャレンジするのであれば、その領域で見た場合の自分の市場価値をフェアに見積もり、どうすれば会社の看板なしに実力を発揮できるか、足りない部分があるとしたらそれは何かを把握し補う努力が欠かせません。プライドや世間の評価に惑わされず、正しい決断をするためにもメタ認知を持って立ち向かっていただければと思います。
河西 : 中村さんのように官僚経験者やプロフェッショナルファーム在職者のなかにも、スタートアップで活躍しうる適性を持つ方は大勢いるはずです。こうした方々がスタートアップの世界に参入してくだされば、日本によりよい変化をもたらせると信じています。ぜひチャレンジしていただきたいと切に願っています。中村さん、本日はありがとうございました。
中村 : こちらこそありがとうございました。
2024.05.09 TEAM
グローバルファームからVCへの転身を促したもの
——山口さんは毎日どのようなスケジュールでお仕事をされているのでしょうか?
仕事の割合でいうと、新たな投資先を探すソーシングに3割、新たな投資先を選定するためのデューデリジェンスに5割、残りの時間はWebサイトの更新やSNSアカウントの運用、社内イベントの企画や実行など、自社のブランディングにまつわるマーケティング活動に費やしています。今後、担当する投資先が増えればバリューアップ支援の割合が増えていく見込みです。
——Angel Bridge入社前はどのようなキャリアを歩んできたのでしょうか?
慶應義塾大学にて数理モデルの構築・分析によって意思決定の最適化を行う「オペレーションズリサーチ」という学門を学び、さらに東京大学大学院で国際物流の最適化シミュレーションの研究をした後、ボストン コンサルティング グループ(以下、BCG)に入社しました。Angel Bridgeに入社したのは2024年2月のことです。
——なぜ新卒でBCGに入社しようと思ったのですか?
そもそもコンサルタントを志すようになったのは、大学3年生のころ、海外インターン交流を支援する学生団体の代表を経験したのが最初のきっかけです。学内だけでも100人にもおよぶメンバーを束ね、団体の将来や戦略を考えるうちに、経営戦略立案に興味を持ちました。理系の学生でしたので「制約がある中でどのように効用を最大化するか」という観点で、オペレーションズリサーチや国際物流の最適化の研究を行った後、戦略コンサルタントとして経営戦略の策定に携わることに決めました。数あるコンサルファームの中でもBCGを選んだのは、BCGが日本で一番成功している戦略ファームだからです。経験できる案件の幅が広く、日本を代表する企業のために働くことで、日本経済の成長に貢献できると考えました。
——BCGではどんなお仕事を?
在職中は、消費財・通信・メーカー・PEファンドなどのクライアントに対し、中期成長戦略・新規事業戦略・M&A戦略・ターンアラウンド戦略の策定などを支援するプロジェクトを経験しました。グローバルなプロジェクトメンバーやクライアントの社員様など、バックグラウンドが異なるメンバーと協働し、価値ある成果を出す難しさや醍醐味とともに、定量的に経営を捉え戦略に落とし込む面白さを体験できたのは、いま思い返しても貴重な経験だったと思います。
——かつての同僚で、山口さんと同じようにVCをセカンドキャリアに選ぶ方はいらっしゃいましたか?
身近な先輩のなかにも何人かいらっしゃいます。いまは国を挙げてスタートアップ投資を増やしていこうという流れがありますし、スタートアップへの投資環境が成熟するなかで、コンサルタントとしてスタートアップビジネスに関わる機会も少なくありません。何よりコンサルタントは好奇心旺盛な方が多いので、「コンサルとしては支援しづらいスタートアップビジネスに関わりたい」という方も多く、また投資判断のプロセスや投資後のご支援などで戦略コンサルタントが持つビジネス分析力や戦略立案力に対するニーズが高まっているのも一因だと思います。
——山口さんはどのような思いでVC業界に転身しようと?
学生のころから起業したりスタートアップで活躍する友人が多く、新しい価値を世の中に届けようと努力する人たちを応援したい、強い思いを持って起業に臨んだ経営者をサポートしたいと思うようになりました。スタートアップエコシステムの中でもセカンドキャリアとしてVCを選んだのは、多くの熱量のある起業家と関わりながら、一つの会社だけでなくスタートアップを取り巻くエコシステム全体を盛り上げられたら、きっと日本経済への貢献にもなりますし、投資判断のプロセスや投資後のご支援の中でBCGで培った経験やノウハウを活かせそうだと思ったからです。
アットホームでありながらプロフェッショナルな社風
——数あるVCのなかからAngel Bridgeを選んだ理由は?
実は1号社員でAngel Bridgeに入社した八尾は大学院の学科の先輩にあたり、パートナーの河西についても八尾を通じて面識があったので、以前からAngel Bridgeの社風を知っていたことが、転職を後押ししてくれました。いずれ日本を代表するメガベンチャーを創出するんだという大きなビジョンを掲げつつ、自らも日本を代表するVCになろうという成長意欲の高さにも共感しましたし、Angel Bridgeにはプロフェッショナルファーム出身者が多くカルチャーフィットが期待できそうなのもAngel Bridgeを選んだ理由です。
——入社されていかがですか? 率直な感想を聞かせてください。
実際働いてみて感じるのは、投資先と一緒に知恵を絞り「どうしたらその理想を実現できるか」という観点で、前向きな議論を尽くせるのは非常に楽しいですしやりがいを感じます。それと同時に経営者の思いや人柄に寄り添いながらみなさんのご期待に応える難しさも感じるので、それについては今後の課題になりそうです。Angel Bridgeのメンバーのアウトプットのクオリティの高さや、投資先に対して主体的に貢献しようとするマインド、オーナーシップを持って仕事に取り組む姿勢は想像通りでした。仕事に対する前向きな姿勢と最後までやりきるプロフェッショナルな意識は、すべてのメンバーから感じるところです。
——社風についてはいかがでしょう?
Angel Bridgeはオンもオフもどちらも楽しくやろうという人たちの集まりなので、仕事に全力で取り組む一方で飲み会やバーベキュー、ゴルフなど、社内イベントも盛んです。社員同士はもちろん投資先同士も非常に仲がよく、アットホームな社風だと思います。
——Angel Bridgeのパートナー陣は山口さんにとってどんな存在ですか?
河西は深い知見に基づいた分析力や決断力に学ぶところが多く、林については豊富なビジネス経験に基づいた人脈の広さや人望の厚さで定評があります。2人とも投資先のビジネスはもちろん、起業家の人柄や想いの丈をよく理解した上で、確信を持って投資しているからこそ、迷いなくコミットできるんでしょうね。パートナー自ら投資先に対してここまで多くの時間を割いているVCは、おそらくAngel Bridge以外にないのではと思うほどです。
——投資先との信頼関係を紡ぐためには何が必要だと思いますか?
Angel Bridgeに入って、相手の立場に立ってプロフェッショナルファーム品質の価値を提供し続けることが、信頼を勝ち取る唯一の道だと思うようになりました。それは投資を検討させて頂く段階においても変わりません。経営課題の改善や成長に資する示唆を少しでも出し、起業家のみなさんに喜んでいただけるよう全力を尽くすこと。それがみなさんにAngel Bridgeを選んでいただく強い原動力になるはずです。投資先と手を携え、同じ目的に向かって走るには、常に相手の立場や気持ちに思いをはせ、ロジカルかつハートフルに振る舞うことが欠かせないと考えています。
——山口さんはどんな人と働きたいですか?
Angel Bridgeで活躍するにはオーナーシップの強さが求められます。投資先を支援する上で必要になるのはもちろん、Angel Bridge自身もまたスタートアップフェーズにあるからです。いわれたことだけをしっかりとこなすだけで満足せず、自ら積極的に提案する人が重宝されるのはスタートアップならではでしょう。努力を惜しまず能動的に動ける方とご一緒したいと思います。
起業家の支援を通じてメガベンチャー創出を目指す
——これからAngel Bridgeで成し遂げたい目標を聞かせてください。
一社でも多くスタートアップの成長に寄与するのが当面の目標です。中長期的な目標は、個人の名前で仕事ができるようになることと、投資先のみなさんに「この人と一緒にいると成功できる気がする」という安心感や希望を与えられる存在になりたいですね。その上でメガベンチャーの創出に携われたらこれ以上の喜びはありません。そのためにもこれから多くの経験を通して成長したいと思っています。
——最後に山口さんが大切にしている信念を教えてください。
私自身、尖ったアイデアと実行力を伴った強い信念をお持ちの方を支援するのが好きですし、自分にない感性や能力を持つ方に頼られるのはありがたいことだと感じます。そんな方々に気軽に声をかけていただくには、「何色にも染まる」余地を常に残しておくのは大事なことではないでしょうか。VCである以上、ベンチャーファイナンスの専門家として価値を出すことはもちろんですが、どんなことであっても最初に頼られ、価値を出せる人になりたいです。「何色にも染まる」には、普段からのインプットやそれを基にした思考に加え、人間としての懐の深さが欠かせません。相手の想像を超えるような成果を届けられるようなビジネスパーソンになるためにも、養っていきたい能力だと思います。
2024.04.25 INVESTMENT
2024年4月に株式会社XAION DATA(以下XAION DATA社)は、シードラウンドにおいて累計4.5億円の資金調達を発表しました。Angel Bridgeも本ラウンドにおいて出資しています。
XAION DATA社は、オープンデータを活用したダイレクトリクルーティングSaaSをメインにサービスを提供するテックスタートアップです。オープンデータを活用したビジネスは、海外でZoomInfoをはじめとしたメガベンチャーが複数提供しており、注目度が高い市場です。そこでXAION DATA社はコア技術であるオープンデータ取得/構造化技術を用いた独自データベースを強みとし、HR領域でサービスを展開しています。既にエンタープライズ企業やメガベンチャー企業への導入が進んでおり、今後の期待が大きいスタートアップです。
今回の記事では、Angel BridgeがXAION DATA社に出資した背景について、ダイレクトリクルーティング市場を取り巻く環境とXAION DATA社の強みに焦点を当てて解説します。
1.ダイレクトリクルーティングの市場構造・動向・課題
ダイレクトリクルーティングとは、企業の採用担当者が候補者に直接アプローチをする採用手法です。具体的には、企業はビズリーチやLinkedInなどのプラットフォームを活用しながら、望ましい候補者を自らの手で探しアプローチします。候補者が企業にアプローチをかけるなどの従来の他の採用手法と比べ、企業側の採用工数がかかるものの人材のマッチング精度が高いことが特徴です(図1)。
図1 各人事採用手法の特徴と比較
ダイレクトリクルーティング市場は海外を中心に拡大している巨大市場であり、今後は日本においても急成長することが見込まれています。実際に市場規模は毎年31%で伸びており、足元では市場規模が1,000億円を超えています(図2)。また、足元でプロフェッショナル人材の流動性が高まっており、特に年収の高いミドル/ハイレイヤー人材へのニーズが強いことも理由の一つです(図3)。ミドル/ハイレイヤー人材はリファラルのみで採用が決定することも多いために、既存サービスでは発見することが難しく、能動的にアプローチをかけるダイレクトリクルーティングの必要性が高まりました。実際にビズリーチに続く形でリクルートやオープンワークなどの人材採用サービス各社もダイレクトリクルーティングサービスへ新規参入しています。
図2 急成長するダイレクトリクルーティング市場
しかし、ビズリーチなどの既存サービスにはまだ課題が残っています。既存のサービスでは、若手層などの転職意欲が高い候補者がプラットフォームに登録し、マッチングが行われることから、短期間で採用に繋げられる候補者へのアプローチには適しています。一方で、スペシャリスト人材やミドル/ハイレイヤー人材は既存サービスには少なく、アプローチしにくいというペインが存在しています(図3)。そこでXAION DATA社はこのようなペインを解決すべく、オープンデータを活用して、既存の登録型サービスには登録されておらずアプローチが難しいスペシャリスト人材やミドル/ハイレイヤー人材などの転職潜在層も含めた候補者へのアプローチが可能なサービスを提供しています。このサービスの提供を開始した背景には、2022年10月の職業安定法の改正(オープンデータを採用に利活用する事業に関するルールを整備する内容を含有)があり、時流を捉えたサービスとなっています。XAION DATA社は米国を始めとした海外でのオープンデータの利活用の潮流に着目し、日本における今後の法律改正を睨み、事業を創ってきていました。その結果、2022年10月の法律改正後いち早くサービスを展開しています。また、2023年には、厚生労働省の優良企業者認定制度発足にむけた有識者ヒアリングに招集されるとともに、2024年3月には厚生労働省の定める「優良募集情報等提供事業者認定制度」において、国内初で唯一の4号優良認定事業者に認定される等、リーディングカンパニーとしての立ち位置を確立しています。
図3 ダイレクトリクルーティング業界の課題
以上のように、ダイレクトリクルーティング市場は大きな需要の拡大が予想されておりポテンシャルがあるものの、そのニーズに応えられているプレイヤーは少なく、XAION DATA社にとっては非常に魅力的な市場環境と考えています。
2.XAION DATA社の事業概要
XAION DATA社が提供しているサービス/プロダクトは主に3つあります(図4)。
1つ目はSaaS事業で、足元ではXAION DATA社の独自データベースとAIモデルを活用したダイレクトリクルーティングSaaSである「AUTOHUNT」を提供しています(図5)。SNSやメディアなどのオープンデータから集めた430万人以上の転職潜在層も含めた人材データベース(推定年齢/職歴/学歴/スキルなどの情報を含有)を構築しており、顧客企業の求人情報に合致する候補者の特定とアプローチが可能です。
2つ目は人材紹介事業で、自社独自のデータベースや「AUTOHUNT」を活用した人材紹介支援サービスを顧客に向けて提供しています。
3つ目はソリューション事業で、XAION DATA社の保有データと顧客保有のクローズドデータを掛け合わせ、顧客のニーズに合わせた独自のAI/Dataソリューション(コンサルティングなど)を提供します。
図4 XAION DATA社事業全体像
図5 「AUTOHUNT」プロダクト画面
3.XAION DATA社の競合優位性
ダイレクトリクルーティングサービスを提供している会社は複数社ありますが、その中でも情報が表に出てこない転職潜在層に焦点を当て、ミドル/ハイレイヤー人材にもアプローチが可能なサービスを提供している企業はあまり存在しません。しかし、XAION DATA社はオープンデータを活用しながら転職潜在層を探すという新しくユニークな人材紹介アプローチに取り組んでいます。
XAION DATA社の強みは、大きく分けて2つあります。
1つ目は、圧倒的な技術力の高さです。XAION DATA社は様々なオープンデータを収集/統合する独自アルゴリズムを構築しており、他社でも入手困難なデータにアクセスし、一つのデータベースに統合しています。ユーザーデータや各企業のクローズドデータとの統合や連携も可能なため、オープンデータと掛け合わせることで独自のデータベースを構築することが可能です。他社が模倣して同様のデータベースを構築することは困難なため、参入障壁が非常に高いサービスだといえます。
2つ目は、事業拡張のポテンシャルの高さです。XAION DATA社独自のデータベースは汎用性が高く、このデータベースを活用して足元ではダイレクトリクルーティングSaaSの「AUTOHUNT」を提供しています。今後も独自データベースを基にマーケティング/認証領域などの関連領域においても、様々なプロダクトを提供していくことも期待できます。
4.経営陣
XAION DATA社には高いプロダクト開発力と事業推進力を有する、非常に優秀で強力な経営陣が集まっています。佐藤CEO/石崎CTOは、米国シリコンバレーのAIスタートアップにて採用プロセスと求職プロセスをAIによって効率化/最適化するサービスの責任者として事業展開/開発に従事した経験があり、当事業領域において解像度と開発力の高さを持ち合わせています。また、ゴールドマン・サックス証券の投資銀行部門(IBD)やインベスコ・アセット・マネジメントで活躍してきた金谷CFOをチームに迎え入れており、佐藤CEOがいかに高い巻き込み力を有しているかが伺えます。(図6)。
図6 XAION DATA社経営陣
5.おわりに
最後に、Angel Bridgeの今回の投資のポイントをまとめます。
1つ目は、オープンデータを活用した転職潜在層のダイレクトリクルーティングには巨大な市場ニーズがある点です。企業規模に関わらず、プロフェッショナル人材の採用ニーズは高く、転職潜在層に効果的にアプローチするソリューションは今後急速に伸びていくことが考えられます。一方でオープンデータを活用したダイレクトリクルーティングサービスを提供している企業は少なく、先行者優位を活かして独自のポジショニングを構築することで大きな市場を狙えるポテンシャルがあります。
2つ目は、優秀な経営陣です。米国シリコンバレーのAIスタートアップで経営陣として組織を率いた経験を有しており高いリーダーシップ能力やマネジメント能力を持っている佐藤CEOに加え、オープンデータを収集/統合する独自アルゴリズムを開発するなど高い技術力を有しておりCTOとしてのマネジメント能力も兼ね備える石崎CTO、戦略的な思考力を発揮しながら卓越した営業力でエンタープライズ企業やメガベンチャー企業を獲得する金谷CFOがそれぞれ違う強みを持ち合い、強いコミットメント力で一丸となってこの事業に挑戦していることが最大の武器となっています。
3つ目は、他社には模倣困難な高い技術力を有しており、その技術を用いて構築した独自のデータベースを他の事業領域にも応用できるポテンシャルがある点です。他社が入手困難なデータも含めて広範にオープンデータを収集/統合した独自のデータベースはそれ自体に価値があり、汎用性の高さから足元で提供しているダイレクトリクルーティングSaaS以外にも様々な事業領域でプロダクトを開発して提供していくことが期待できます。
4つ目は、急速に立ち上がるトラクションです。「AUTOHUNT」は正式リリース後、約1年の短期間で複数のエンタープライズ企業やメガベンチャー企業がサービスを導入しており、既に売上高が積み上がってきています。初期からこれだけ多くのエンタープライズ企業やメガベンチャー企業にサービスを導入できるスタートアップはそう多くはありません。XAION DATA社の技術/ビジネス両面でのケイパビリティの高さを示す何よりの証拠です。
以上の観点から、XAION DATA社が新しくユニークなダイレクトリクルーティング市場の開拓を行い、GDP向上に大きく寄与する存在となることを信じ、またその想いに共感し、投資の意思決定をしました。
Angel Bridgeは社会への大きなインパクトを創出すべく、難解な課題に果敢に挑戦していくベンチャーを応援しています。ぜひ、事業戦略の壁打ちや資金調達のご相談など、お気軽にご連絡ください!
2024.04.18 INVESTMENT
2024年4月にAngel Bridgeの投資先である、goooods株式会社(以下goooods社)が6.7億円の資金調達を発表しました。Angel Bridgeも本ラウンドでリード投資家として出資しています。
goooods社は、連続起業家である菅野CEOと松本CPO/CTOら計4名で創業した、雑貨・アパレル、美容品などの業界におけるB to B卸ECプラットフォーム『goooods/グッズ』の提供を行うスタートアップです。
「Everyone, entrepreneur」をミッションとして掲げ、情熱を追い求めてプロダクトを作るブランドオーナーや、小売店の経営者、次のトレンドを発掘するバイヤーなど、自身の情熱を追いかけて日々挑戦する人々を支援しています。
『goooods/グッズ』は、販路拡大や商品発掘で課題を抱えている、主に中小規模のバイヤー(小売店・EC)とセラー(ブランドメーカー)向けのECプラットフォームで、魅力的な商品の発掘や拡販、受発注業務の効率化、資金繰りまでを一貫してサポートします。
『goooods/グッズ』を使用することで、バイヤーの趣向に合わせた全国の魅力的な製品の発掘が容易になり、書類作成や取引・入出金管理などの受発注業務の効率化や資金繰りの改善も可能となります。また、セラー側も業務効率化に加えて、入金漏れの防止や全国や海外への販路拡大も可能になります。
今回の記事では、Angel Bridgeがgoooods社に出資した背景について、巨大かつ生産性改善の余地が大きいB to B卸業界を取り巻く環境と、goooods社の強みに焦点を当てて解説します。
goooods株式会社 | 資金調達特設サイト
今回の資金調達にあわせて『goooods/グッズ』の魅力をお伝えする 特設サイト を開設しています。
プラットフォームの魅力、裏側の技術、導入事例、採用ポジションなどを掲載しておりますので、こちらも併せてご覧ください!
1. B to B卸業界の動向と中小事業者の抱える課題
goooods社が対象とする雑貨・アパレル、美容品などのB to B卸業界の流通総額は全体で38兆円、中小企業の取引のみでも5兆円の規模がある巨大な市場です。その中で卸事業者などの中間業者の収益は15~20%を占めており、中小企業の取引だけでも約1兆円近い収益規模が存在します。
現状、卸業務は対面やメール、FAXを通じた取引が多く、EDIを除くEC化率は11%と拡大余地が大きく残っています。一方で、コロナによってオンライン取引に対する事業者の認知度合いや意識の変化もあり、EC化率は成長基調になっています。(図1)
また、従来の卸業者も各業界で社数が減少傾向にあり、これまで提供してきたきめ細かいサービスが行き届かなくなりつつあります。現状、B to C領域においては生活雑貨・家具、ファッションは20~30%ほどのEC化率である一方で、B to Bでは15%にとどまっており、goooods社が対象とする雑貨、ファッションなどの業界ではEC化率が伸びる余地が十分存在すると考えられます。
図1. B to B卸業界の動向
海外でも同様の課題感から雑貨やアパレルなどを扱うB to B卸EC市場が立ち上がっており、米国ではFAIRE、欧州ではAnkorstoreなど、デカコーン、ユニコーンが誕生しています。両社ともに中小企業向けに雑貨・アパレル商品を対象にECプラットフォームサービスを展開しており、今後日本でも同様のサービスへの需要が高まっていくと想定されます(図2)
図2 海外の類似企業
現状、日本のB to B卸業界では、大企業と中小の事業者で取引におけるシステムの活用状況が異なっています。
大企業では、投資体力やその仕入れの種類・数量の大きさから受発注システムへの投資が進んでおり、EDIと呼ばれる大量かつ、繰り返しの多い受発注を自動的に行えるシステムを用いて受発注業務を効率化しています。
一方で、中小の事業者においては一部の業務に特化した効率化ツールの導入が進む一方で、商品の発掘・販売から受発注、入出金管理までを一貫して行えるプラットフォームが少なく、セラー側とバイヤー側でそれぞれ課題が発生しています。
セラー側の課題
- 受発注業務: 売上向上につながる営業やマーケティングに時間をかけたい一方で、注文処理から発送処理、入金管理の業務に追われ、深夜まで作業する場合もあり
- 入出金管理: また、現状紙やエクセルで取引管理しているため、作業の非効率性に加えて入金漏れが発生し、確認漏れへの不安からバイヤー側への催促もしづらく、売上損失も発生
- 商品拡販: 商品を全国に拡販したいが、営業人員不足や展示会への参加費用や時間をねん出できない。また、こだわりのあるブランドをこだわりを持って陳列・販売してくれる質の高いバイヤーを探すのが難しい
バイヤー側の課題
- 商品発掘: 魅力的なブランドや売場のテイストに合った商品、売れ筋商品を仕入れたいニーズがあるが、展示会での参加には時間や費用が掛かり、またオンラインでは情報が十分でなく、探しきれない
- 受発注業務: 問い合わせや取引条件の交渉が手間。発注・経理作業が手間
- 資金繰り: 発注管理や経理業務に時間がかかる上に、業界構造上前払いが多く、資金繰りにも苦労
各業界の卸事業者の減少を踏まえると、当該課題に対する意識はより大きくなっていくと考えられます。
図3. B to B取引における中小事業者(セラー、バイヤー)の課題
2.プロダクト概要とgoooods社の強み
前述したペインを解決すべく、goooods社は中小事業者を主な対象に、魅力的なブランドのマッチングから受発注DX、資金繰りまでをワンストップで支援するB to B卸ECプラットフォーム『goooods/グッズ』を提供しています。
主な特徴は以下の3つであり、卸業務における各プロセスのペインに対して一貫して解決可能なECプラットフォームを提供しています。
1.エッジのある魅力的なブランドの発掘 / 拡販
バイヤー
- AIを活用し、バイヤーのセンスや店舗のテイストに合うブランドの発掘が可能
- 新規購入ブランドであれば、30日間お試し可能
セラー
- 魅力的なブランドストーリーや豊富な商品説明
- 全国や海外も含めた新しいバイヤーの獲得
2.受発注管理業務の効率化
- 取引先とのコミュニケーションや取引関連書類の発行や管理が一元化でき、付加価値の高い業務(商品発掘、接客やマーケティングなど)に注力可能
- 顧客に応じた取引条件のルール化ができ、条件のきめ細かい設定が可能
3.資金繰り支援
- 支払・入金状況の可視化により、入金や支払い漏れを防止
- バイヤー側は支払い期間を最大60日間まで延伸可能
図4. 『goooods/グッズ』のウェブサイトイメージ
また、goooods社は非常に開発力の高いチームのもと、UI/UXやデザインの優れたプラットフォームを構築できています。加えて、AI/MLを活用したアルゴリズムによって、バイヤーのセンスを元にした商品提案が可能になり、バイヤー側の訪問頻度も非常に高く、根強いユーザーの獲得に成功しています。
ECプラットフォームは、構造的にセラーとバイヤーを獲得するにつれてプラットフォームの価値が高まる事業モデルであり、一度軌道に乗れば急速な成長を実現し、winner-take-allになる可能性を秘めています。実際に海外の類似企業であるFAIRE、Ankorstoreでもネットワーク効果が働き、加速度的な成長を実現しています。
3.経営陣
goooods社には有数のテック企業での経験を持ち、スタートアップの創業からExitまでの経験がある経営陣が集っています。
菅野CEOは、前職FIVE社を2014年に起業し、わずか3年でLINE社に大型売却した優秀な連続起業家です。FIVE社は、現在公開されている2014〜2023年のスタートアップの売却額でも上位に位置するなど、成功したM&Aの一つになっています(図6)。
菅野CEOは、非常にロジカルである上に、創業初期に泥臭く営業に同行するなど、行動力も高い優秀な経営者です。
また、ワークスアプリケーションズや動画DSPスタートアップのリードエンジニアを経てFIVE社を共同創業した松本CPO/CTOや、PwCおよびBooz Allen Hamiltonで戦略コンサルタントとして従事し、Google、Amazonなどのテック企業を経た埜々内 CCOなど。優れた経営陣がそろっています。経営チーム以外のメンバーに関しても、FIVE社のコアメンバーが在籍しており、スタートアップでの経験が豊富なチームとなっています。
図5. goooods社経営チーム
図6. 過去10年間のスタートアップのM&A額上位15社(非公開案件除く)
4.おわりに
B to Bの卸市場は、非効率なオフライン取引、アナログな作業が中心で、EC取引やDXによる生産性の向上余地が大きく残る市場です。また、コロナを契機に、特に中小事業者を中心に商品発掘・販路開拓や受発注効率化、資金繰りに対する課題がますます浮き彫りになりました。上記の課題感からECでの取引や受発注業務のDXは今後加速していくと考えられ、B to Bの取引においても、ECプラットフォームが今後重要性をさらに増していくと考えられます。
goooods社は、LINE社に前職のFIVE社を売却した経験をもつ連続起業家の菅野CEOを筆頭に有数のテック企業やスタートアップでの経験が豊富な経営陣のもと、巨大なB to B卸業界の変革を粘り強く成し遂げていけると、我々も期待しています。
Angel Bridgeは社会への大きなインパクトを創出すべく、難解な課題に果敢に挑戦していくベンチャーを応援しています。
ぜひ、事業戦略の壁打ちや資金調達のご相談など、お気軽にご連絡ください!
2024.04.10 COLUMN
自己紹介
第1弾と第2弾に続き、今回はAngel Bridgeにて2022年12月から2024年1月まで約1年間インターンを経験した、二人のインターン生がインターン体験記事をお送りします。
河村:こんにちは。東京大学法学部4年の河村有里子です。2024年4月から外資系投資銀行に入社予定です。
瀬川:皆さん、こんにちは!瀬川と申します。東京大学経済学部に所属し、同じく2024年4月から外資系投資銀行に入社予定です。
今回は私たちがAngel Bridgeでの1年間のインターンについて、業務内容やインターンを通した学びを共有しようと思います。近年は長期インターンがポピュラーとなっている一方で、インターンがどのような業務内容でどんな学びが得られるのかが見えにくく、不安を持っている方もいらっしゃるのではないかと思います。この記事を通して、Angel Bridgeのインターンについて興味を持っていただけると幸いです。
河村:こんにちは。東京大学法学部4年の河村有里子です。2024年4月から外資系投資銀行に入社予定です。
瀬川:皆さん、こんにちは!瀬川と申します。東京大学経済学部に所属し、同じく2024年4月から外資系投資銀行に入社予定です。
今回は私たちがAngel Bridgeでの1年間のインターンについて、業務内容やインターンを通した学びを共有しようと思います。近年は長期インターンがポピュラーとなっている一方で、インターンがどのような業務内容でどんな学びが得られるのかが見えにくく、不安を持っている方もいらっしゃるのではないかと思います。この記事を通して、Angel Bridgeのインターンについて興味を持っていただけると幸いです。
Angel Bridgeのインターンに応募した経緯
河村
まずAngel Bridgeに応募したきっかけについて話していきたいと思います。
私は、就職後の足腰を鍛える、スタートアップへの理解を深めるという2軸でインターンを探していました。
第一に「就職後の足腰を鍛える」ですが、これはプロファームで仕事をするにあたってのマインドセットを鍛えることが主な目的でした。
そのためには、「優秀なメンバーのいるチーム」で「責任感を持って働くこと」が重要だと考えていました。その点、Angel Bridgeは他の企業と比べて、少数精鋭で戦略コンサルや投資銀行出身の方が多いVCであったこと、インターン生に対する要求水準が高く、良い意味で学生扱いされないように感じたことが、印象的でした。また、過去のインターン生が実際にコンサルファーム等で活躍している話を聞き、ジョインしたいと思うようになりました。
実際に入社してみても、主要な会議に全て参加できたり、タスクベースではなく課題ベースで仕事を依頼されたりと、会社の全体像を把握しながら、自分の頭で考えて業務を遂行する必要があり、まさに期待通りの環境でした。自分が取り組みたい業界や案件があれば、ある程度自由に手を挙げて関わることができた点も良かったです。
第二に「スタートアップへの理解を深める」ことについてです。周囲に起業したり、ベンチャー企業・VCでインターンする人が増え、多くの資金が流入している業界や技術トレンドの話を耳にすることがあり、自分も最先端の領域についての見識を深めたいと思うようになりました。情報の流れが速いスタートアップの世界は、しっかりと内部に入らなければ詳しくなれないと考え、学生生活の残り1年はベンチャーキャピタルで働こうと決意しました。
瀬川
Angel Bridgeのインターンに応募したきっかけはサークルの知人の紹介でした。実際に応募した理由は次の2点です。
第一に既に投資銀行に内定しており、入社前に社会人としての基本的なスキルを身に付けたかったためです。Angel Bridgeは代表パートナーの河西を中心に、プロファーム出身のキャピタリストが在籍しており、プロファームの働き方を学べそうだと感じていました。
第二に以前マーケティング企業でインターンをしていた際に、営業活動でスタートアップの方と話す機会が多く、スタートアップビジネスに興味を持っていたためです。大企業が腰を据えて取り組めないニッチ分野を掘り起こして大きなビジネスに育て上げる過程に興味がありました。様々な業界のスタートアップに触れてみたかったのでVCは最適な環境だと考えました。
インターンを通じて身につけたいことや知りたいことを明確に考えることが、インターンでの学びを最大化する秘訣ではないかと思います。応募を考えている方はインターンを通じて何を学びたいのか考えておくと良いでしょう。
Angel Bridgeでの業務内容
Angel Bridgeのインターンは全ての投資業務に関わっています。
ソーシング
ソーシングとは投資先候補を探すことを指します。具体的にはスタートアップのロングリストを作成し、話を聞いてみたい企業をピックアップします。私たちはインターンとして、ロングリストの作成や企業の評価付けを行いました。初めはビジネスモデルを理解するのに時間がかかり大変でしたが、慣れてくると強弱をつけて情報を見ることができました。
また最新のトレンドを知り、投資に生かすために、高いリターンを出している海外VCの投資先を調べ、業界トレンドや先進的なビジネスモデルの勉強も行います。
他にはスタートアップとの面談にも同行します。インターンの業務としては議事録をとり、社内報告用のメモにまとめます。この際に担当キャピタリストと議論を行いながら、どのような点が評価できるか、一方で懸念点は何かなどを考えます。このような経験を通して、短期間でビジネスモデルの本質を見抜き、まとめる力がつきます。
投資検討
次のステップとして、業界リサーチを行います。キャピタリストから依頼された調査事項を元に、市場環境は魅力的なのか、競合は誰でどのくらい脅威かなどを定性/定量的に調べていきます。
簡易なリサーチやスタートアップの経営陣との議論の中で投資の確度が高まってくると、本格的な投資検討(デューデリジェンス)に入ります。スタートアップの経営陣から貰ったデータを元に、エクセルでKPIを計算し、考察を行います。それらをパワーポイントやワードなどでビジュアライズし、投資会議に向けた論点の整理/検証を進めていきます。
検証の結果、ぜひ投資したいスタートアップに巡り合うと、投資の妥当性を説明するための投資委員会資料を作成します。インターンは担当キャピタリストが作ったストーリーを元に、根拠となる分析やチャートを作成します。市場環境や競合リサーチなど自分が特に注力して調べたスライドは、何を書くべきかについてゼロベースで考え、キャピタリストと議論を行います。
マーケティング
記事作成
ベンチャーキャピタルについての理解を深める記事(スタートアップアカデミー)や、なぜAngel Bridgeが投資したかを説明する記事(投資の舞台裏)を書いています。キャピタリストにベンチャーキャピタルの業務についてインタビューをしながら記事を書くので、ベンチャーキャピタルにおける投資の意思決定への解像度が上がります。
マーケティング数値分析
記事は作成するだけで終わりではなく、どれだけ読まれたのかを分析/改善することでPDCAを回していきます。具体的にはPV数などの各種KPI数値を時系列で取得し、数字が変化した要因は何か検討したり、その要因を踏まえた上で次はどんなテーマで記事を書くのか議論を行ったりしています。
インターンでの学び
仕事への姿勢
自分で仕事を獲得する
主要なMTGに参加し常に会社の全体像を把握できるため、自分で仕事を見つけやすいです。先回りしながら自分ができる業務はないか、面白そうな仕事はないかを見渡していました。
定期的に実施されるキャピタリストとの1on1などで最近注目しているスタートアップ・業界をヒアリングし、自分の興味がある業界であれば、ぜひリサーチやデューデリジェンスに参加したいという意思表示をするよう心がけていました。もちろん会社の為に何ができるのかを考える事は必要ですが、主体的に自分がやりたいことを見つけ、楽しく仕事ができるかも等しく重要だと思っています。
また、自分がイベントで出会った企業の中で、良いと思った企業の投資検討も行いました。それまでにサポートした投資検討での経験を活かし、社内メンバーに企業の概要や投資すべき理由を説明したり、貰ったデータを元にKPIを分析しました。結果的に投資には至りませんでしたが、手探りの中、自分で主導権を握って仕事を進める良い経験になりました。
さらに、面白そうな仕事を探すだけでなく、やるべき仕事に気づくという観点もあります。マーケティングはインターンが主導する場面も多く、それ故に課題に気づくことが多くありました。HPの改変や記事のヘッダー作成など、細かい点をアップデートしていきました。次期のインターンがスムーズに業務を理解できるようなマニュアルの作成など、投資業務の合間に自分が見つけた課題を少しずつ潰していきました。
タイムスケジュール管理 ・マルチタスク
インターン中は常に複数のプロジェクトにジョインしていたため、マルチタスクをこなすスキルが身につきました。仕事の工数を推測し、社員とのタッチポイントを自分からセッティングし、求められるクオリティのものを期限内に出す。当たり前のことですが、複数のプロジェクトに入っていると最初のうちは慣れなくて大変でした。インターンを続ける中で、優先順位の付け方や自分のキャパシティの見極め方が徐々に分かるようになり、マルチタスクができるようになりました。社会人になる上で必須の力なのでAngel Bridgeで鍛えることができてよかったです。
知識
リサーチする中での業界理解
IT企業は複雑な構造をしている業界も多く、パッと見ただけではビジネスモデルの本質が見抜けないことも多々あります。Angel Bridgeのキャピタリストはコンサルティングファーム出身者が多いため、どのような項目を検証すべきかなどの見立てが上手く、短時間で深い示唆を出すことができていました。そのような方のリサーチをサポートすることで、ビジネスモデルのどの部分を見るべきか、どうしたら短時間で検証項目の結論を導き出せるかを学ぶことができました。
起業に関する知識
スタートアップとの面談や社内議論に参加することで、実際に投資家が何を見ているかを知ることができました。また、投資委員会に向けた資料作成やVCファイナンスに関する記事執筆を通してVCファイナンスについて知識を得ることができました。起業に対しての解像度が上がり、将来起業することやスタートアップで働くことへのハードルが下がったように感じます。
その他
ハードスキル
初めにエクセル講座やパワーポイント講座を開催していただいたので、ショートカットをすぐに習得することができました。また業務を通して膨大なエクセルとパワーポイントを作成し、都度フィードバックを受けるので投資銀行やコンサルに就職する方にはとても有用だと思います。
起業家と話す機会
Angel Bridgeでは、BBQやフットサルなど多くの社内イベントがあります。インターン生も毎回参加し、多くの起業家と話します。どういう経緯で起業したか、会社をやっていく中で辛かったことは何かなど、リアルな経験談を気軽に伺うことができます。
優秀な社員やインターン生との交流
Angel Bridgeの社員は優秀でフレンドリーな方ばかりです。社員の方から伺う仕事への思い入れや、プロフェッショナルファーム時代の体験談は今後社会人として働く中で大きな糧になると思います。また、インターン生も意識の高い学生ばかりなので良い刺激をたくさん受けました。
インターンに応募してほしい人
Angel Bridgeのインターンは以下のような人に特におすすめです。
①コンサル・外銀などプロフェッショナルファームに入社予定がある、または目指している方:Angel Bridgeのキャピタリストはプロフェッショナルファームで活躍していた経験を持つ方ばかりです。エクセルやパワーポイントなどのハードスキルから、仕事の進め方やプロフェッショナルとしての心構えなどソフトスキルまで、ビジネスマンとしての素養を磨く素晴らしい機会となるはずです。
②起業・VCを将来のキャリアとして検討している方:Angel Bridgeのインターンでは、他VCに比べ、より投資業務の本質的な部分に関わることができます。インターン生はキャピタリストと共にDDを進め、投資検討のための会議に参加することで投資家としての目線を培うことができます。
③学生時代に本気で取り組めることを探している方:Angel Bridgeのインターンは原則週3以上の出勤がマストとなっております。(試験・旅行の際は事前に申請すれば調節可能です)業務内容も本格的で取り組みがいがあるものばかりなので、インターンに本腰を入れて取り組みたい方におすすめです。
最後に
Angel Bridgeでは本格的にVC業務に関わることができ、優秀なキャピタリストからプロフェッショナルとして働く心構えやスキルを学ぶことができます。エクセル講習など研修プログラムもしっかりとしているため、これまでインターンをしたことが無い方でも安心して応募してくださいね。
また、社員の方は皆さんフレンドリーでランチや飲み会もよく誘ってくれ、1on1などでは親身に相談に乗ってくれます。こうしたAngel Bridgeならではのネットワークもインターンの大きな魅力です。
この記事を読んでAngel bridgeのインターンに興味を持った方はぜひホームページやTwitterから応募してみてください!
2024.04.09 INVESTMENT
2023年9月に、Angel Bridgeの投資先であるクラフトバンク株式会社(以下クラフトバンク社)が、シリーズAラウンドにおいて累計14.2億円の資金調達を発表しました。Angel Bridgeも本ラウンドにおいて出資しています。
クラフトバンク社は、専門工事会社向けの経営管理SaaS 『CraftBank Office』 の提供を行う建設テックスタートアップです。従前、アナログで非効率なツールを組み合わせて行っていた事務作業を一元管理し、スマホで完結するプロダクトを提供しており、職人や経営者の事務作業負担の削減によって、専門工事会社の売上成長を目指します。
建設業界では、高齢化や労働人口の減少に伴う人材不足の深刻化により、長時間労働が常態化しており、改善の困難さから「働き方改革関連法(2019年4月施行)」の適用に5年間の猶予期間が取られていました。
2024年4月より適用が開始された事から、「2024年問題」と称して労働環境の是正が目指されましたが、思うように解決されていないのが現状です。今回の投資が、クラフトバンク社の成長を促進し、建設業界の作業効率化、働き方改革の一助になる事を期待しています。
この記事では、Angel Bridgeがクラフトバンク社に出資した背景について、専門工事会社を取り巻く環境と、クラフトバンク社の強みに焦点を当てて解説します。
建設業界の市場構造
まず、建設業界の全体像を説明します。
建設業界は、下図のように大きなピラミッド構造となっており、実際の工事実務を担うのは、二次請け以下の専門工事会社になります。専門工事会社では、大工や左官などの職人を中心とした10-20人程度の規模の会社が多く存在しています。クラフトバンク社は、この専門工事会社向けに、事務作業の効率化サービスを提供しています。
次に、市場の概要を見ていきましょう。
上図で表されているように、専門工事会社の数は非常に多く、巨大な市場となっています。
建設業の会社数から見ると、コアターゲットとなる会社(個人事業主ではない資本金3,000万円未満の企業)だけでも22万社あり、社会基盤を支えている工事実務は、実は専門工事会社に下支えされています。また、下請完成工事高(国土交通省「建設工事施工統計調査報告」の定義に準拠)の事務作業市場から見ても、事務作業市場の規模は3兆円と、巨大な市場となります。
クラフトバンク社の事業概要
ここからは、クラフトバンク社の事業について詳しく説明していきます。
先ほど見た、巨大な市場における大きなペインは、「事務作業負担が重く、職人・経営者共に本業に集中できないこと」です。多くの工事会社は、アナログで非効率なツールを複数組み合わせて管理せざるを得ず、職人の労働時間のうち31%を事務作業が占めています。
建設業界では、長らく労働環境が厳しく、長時間労働や危険な作業環境、過重労働が懸念されてきました。これに加えて、若手労働者の離職率が高まり、同時に技術者層が高齢化しているため、新たな人材確保が難しく労働力不足が顕著になっています。
政府は、この問題を解決するため、2019年に施行した「働き方改革関連法」において建設業界も対象とし、「時間外労働の規制」を5年の猶予を付けて実施しました。しかし、ほとんどの企業でこれに対応する取り組みが進まず、建設業界はいわゆる「2024年問題」に直面しています。執行猶予の期限である2024年3月末までに、建設業界が働き方改革に本格的に取り組む必要が求められていました。
このような状況下で、事務作業の効率化などを提供するサービスへの需要は高まっており、職人、経営者の双方が本業に専念するための支援が一層必要とされています。クラフトバンク社は、専門工事会社における様々な事務作業(案件管理、見積書・請求書作成、勤怠打刻など)をスマホ完結で一元管理できるサービス『CraftBank Office』を提供しています。事務作業の効率化と業務のスムーズな進行を実現するこのサービスは、2024年問題を解決する一助となるため、そのニーズは高まる一方です。
CraftBank Officeは、現場向けと経営向けにそれぞれ提供されており、優れたUIで職人も使いこなせる上に、クラウドで情報を一元管理できることによって、現場ごとのデータを自動的にレポート化することが可能です。
リリース以来、プロダクトのラインナップも急速に拡大しており、ユーザーの利便性を高めてきました。 CraftBank Officeは、SaaSでありながら、カスタマイズして提供しているという特徴もあります。中小企業が主体となる専門工事会社は、案件管理や見積書・安全書類など、百社百様の書類と業務フローが組まれており、さらに歴史のある企業では数十年前からの自社のオペレーションがなじんでいるという一般的なSaaSには不向きな市場と言えます。
それゆえに、SaaSに合わせて業務フローを変えるのではなく業務フローに準拠した形でSaaSを提供するということに着眼しました。「SaaS」と「カスタマイズ」という一見矛盾するコンセプトを実現するため、CraftBank Officeの開発基盤は実装難易度が高い一方で、ローコードで非エンジニアでもカスタマイズ可能な設計で開発されています。CSがユーザーの業務フローや要望を要件整理した上で各社に合ったプロダクトを提供している点が CraftBank Officeの最大の特徴であり、DXが進んでいなかった専門工事の業界に風穴を開けるカギだと考えています。
投資検討の際には、CraftBank Officeの導入後、活用度合いが高い会社とあまり利用していない会社の両方に複数社ずつインタビューを行いました。初期はPMFの検証のために、専門工事会社以外にも導入が進んでいたこと、それによって適合しにくい業態があることを理解しました。一方で、直近に獲得したユーザーでは優れたUIによる導入のしやすさ、カスタマイズ性の高さが強く評価され、満足度高く利用されていました。
事業の強み
続いて、クラフトバンク社の優位性に関してです。
建設業向けに業務効率化・ソフトウェアを提供している企業という観点では、多くの素晴らしい企業があります。その多くは設計や工事管理を中心とした元請企業を対象としています。近年の建設DX気運の高まりも相まって、元請側の業務効率化は相当進んだと認識しています。
一方で、工事実務を行う専門工事会社は、SMBを中心とした市場ということもあり、なかなか業務効率化が進まなかった市場です。クラフトバンク社は、この市場に着目し、工事会社の現場と経営を中心としたSMB市場にサービスを提供していることから、プロダクトの設計が全く異なります。
米国の市場を見ても、元請け向けのプロダクトと工事会社向けのプロダクトは別のものとして棲み分けがなされており、日本国内においても両者が競合することはなく、今後も棲み分けがなされていくものと考えています。
建設業界向けにソフトウェアを提供している会社という観点では、ANDPAD、SPIDERPLUSなど多くの企業が活躍されていますが、どちらも元請の会社を対象としたツールを提供していることから、クラフトバンク社とは対象としている市場が異なると考えています。
SMB市場に着眼を置いた戦略設計を行っているということから、クラフトバンク社では、オンライン工事マッチング「Craft-bank.com」や全国30都道府県で週2回以上・計100回以上開催しているオフラインイベント「職人酒場」を展開しています。
これにより、地域都市の建設工事会社との強固な繋がりを構築していることは、Webマーケティングが通用しないこの業界でユーザー獲得を進めるにあたって、非常に大きな強みです。
これらの理由から、先行する建設DX企業が将来的に競合する可能性は高くはなく、むしろ連携を図っていくことで建設業界全体の業務効率化が一気に進んでいくものと考えています。
経営陣/メンバー
Angel Bridgeがクラフトバンク社に投資するにあたり、経営チームへの理解も深めました。
Founder/代表取締役の韓さんは、東京大学 大学院 建設学専攻を修了し、リクルートに入社。SUUMO事業・経営企画・国内新規事業を経て非HR領域の東南アジア・欧州展開を主導し、自ら買収ディールを行ったQuandoo GmbHでMDを務めます。その後、内装工事会社・ユニオンテックに経営参画し代表取締役を経験され、そこからIT部門をMBOして設立したのがクラフトバンクという会社です。事業経験、経営経験が豊富で、かつ内装工事会社の当事者として業界にも深く入り込んで解像度高く顧客を理解していることが強みとなっています。
各業界で経験を積んだ強力なメンバーも多数参画しています。CPOの武田さんや、VP Partner Salesの田久保さんといった若い経営陣が事業を主導していることからも、優秀な若手を巻き込む力も持ち合わせていることがわかります。
複雑で参入障壁の高い建設業界において、頭脳明晰で事業推進力が高いのはもちろんのこと、業界の当事者としての経験を併せ持ち、ウェットな関係性を構築し信頼を得ることのできる韓さんは、まさにこの業界にフィットした経営者であり、本事業を進める上でこれ以上ない人物であると考えました。
おわりに
最後に、Angel Bridgeの今回の投資のポイントをまとめます。
1つ目は、巨大な市場があり、その中で独自のターゲット層にアプローチできていることです。建設業界という非常に大きなピラミッド構造の中で、クラフトバンク社は二次請け以下の専門工事会社向けにサービスを展開しています。この層の会社数は多く、コアターゲットとなる会社(22万社)の事務作業市場で3兆円のTAMが存在します。クラフトバンク社は、この層をターゲットとして領域横断型のプロダクトを提供することでポジションを確立しています。2024年問題に代表されるように、建設業における事務作業の効率化ニーズは急増しており、旧態依然とした働き方の変革を求める現場からの声は大きいです。このペインを解決する意義は大きいですし、今後成長が見込まれる魅力的な市場だと考えています。
2つ目は、優れたプロダクトで急速に市場に受け入れられていることです。CraftBank Officeは、SaaSでありながら、カスタマイズして提供しているという特徴があります。これは、簡単に業務フローを変更できない一方で、業務効率化したい専門工事会社の内実に沿った設計になっています。また、プロダクトのカスタマイズはローコードで行えるため、各社へのカスタマイズ工数が各段に少なくなります。こういった使い勝手の良さに加え、充実したCSによるカスタマイズ性の高さによって、DX化の進んでいなかった専門工事の市場に風穴を開けたプロダクト力を、高く評価しました。
3つ目は、優秀な経営チームです。代表の韓さんは、経営者としての豊富な経験に加え、建設工事会社の当事者として経営された経験も持ち合わせています。故に、「職人酒場」のような業界特性にマッチした戦略設計を行い、業界からの信頼を得ることに成功しています。複雑で参入障壁の高い建設業界に、これ以上なくフィットした人物だと判断しました。CPOの武田さんや、VP Partner Salesの田久保さんなどの若手経営陣に韓さんが思い切った権限移譲ができていることも評価しています。組織を俯瞰して考えることのできる優秀な若者が育っていることは、今後組織が拡大していく上での大きな強みとなります。
以上の観点から、クラフトバンク社が専門工事会社向けのSaaSを中心に建設業のDX化を推進し、専門人材活用・生産性向上を果たすとともに、メガベンチャーとなる可能性が非常に高いと考え、投資の意思決定をしました。
Angel Bridgeは、社会への大きなインパクトを創出すべく、難解な課題に果敢に挑戦していくベンチャーを応援しています。ぜひ、事業戦略の壁打ちや資金調達のご相談など、お気軽にご連絡ください!
2024.04.03 INVESTMENT
2024年4月に株式会社GenerativeX(以下GenerativeX)は、シードラウンドにて1.2億円の資金調達を発表しました。Angel Bridgeも本ラウンドにおいて出資しています。
GenerativeXは大企業における生成AI活用に特化したコンサルティングやDX支援を提供するスタートアップです。生成AIの市場は急速に立ち上がっており、生成AIを活用した業務効率化ニーズは大企業も含めて大きいといえます。GenerativeXは生成AIネイティブなプロファームとして、創業1年で各業界のトップ企業と取引を行うなど急速にビジネスを展開しています。
今回の記事では、Angel BridgeがGenerativeXに出資した背景について、企業の生成AI活用を取り巻く環境とGenerativeXの強みに焦点を当てて解説します。
企業の生成AI活用の動向と課題
生成AIとは、学習済みのデータを活用し、文章や画像・音声など様々なコンテンツを作り出すことができる人工知能技術の一種です。精度・スピード・使いやすさが劇的に向上したことで注目が高まり、本領域で多くのユニコーン企業が誕生しています。例えばテキストから画像を生成するStable Diffusionを提供するstability.ai社や、SEOに最適化されたコンテンツなど、高品質な文章作成が可能なサービスを提供するJasper社などが挙げられます。直近では2022年11月にOpenAI社がChatGPT-3.5を公表したことにより、全世界的に生成AIに対する注目度が高まりました。
生成AIは今後も急速な需要の拡大が予想されており、特に大企業においては非常に関心が高い状況です。比較的先進的なITの活用が進むIT系の企業のみならず、銀行や自治体などIT系以外でも既に生成AIを活用した業務効率化の取り組みがはじまっています。社内文書の作成やプログラミングコードの自動生成、営業が用いるセールストークスクリプトのアイデア出しなど幅広い分野での活用が想定されており、各社で生成AIを活用することで得られる効率化について試算がなされています。
しかし、生成AIの活用が十分に進んでいる企業はまだまだ少数派です。既存のDXプレイヤーであるSIerやAI受託開発企業、学生ベンチャーなどでは、生成AIに関するサービス提供価格・スピード・クオリティに課題があり、結果として大企業における生成AIの活用は進んでいません。そこでGenerativeXは既存プレイヤーのこのようなボトルネックを解決すべく、生成AI分野に特化して組織構築を進め、安価でスピーディ、そして高品質なサービスを提供しています(図1)。
図1 既存のAI開発・コンサル企業の課題
以上のように、生成AIを活用した大企業DXは大きなポテンシャルがあるものの、そのニーズに応えられているプレイヤーは少なく、GenerativeXにとっては非常に魅力的な市場環境と考えています。
GenerativeXの事業概要
GenerativeXは生成AIに特化した受託開発やコンサルティングを企業向けに提供しています。環境整備から要件定義、ユースケースの洗い出し、PoC実施、その後の運用改善まで一気通貫したサービスとしてプロジェクトを遂行することで、顧客と長い接点を構築しDXを実現しています。具体的にはプロンプトの研修やDX企画・コンサルティング、そしてPoC開発・検証・システム化のメニューを企業のニーズに合わせて提供しています(図2)。結果としてGenerativeXは創業から1年という短期間で各業界トップクラスの大企業をクライアントに持つに至りました。
図2 GenerativeX提供サービスの特徴
このように事業を成功させつつあるGenerativeXは、生成AIネイティブな組織構築とマーケティングへの積極投資を通して、①安価で安く提供できる機動力、②大企業向けの営業力、③既存ソフトウェアと融合させる技術力、④豊富な導入事例の4つの強みを発揮しています(図3)。
図3 GenerativeXの競合優位性
AI受託開発やコンサルティングを行う会社は複数ありますが、その中でも巨大な市場ニーズが見込まれる生成AI市場に焦点を当て、大企業のニーズに応えられるハイレベルなサービスを提供できる企業はあまり存在しません。その中でも特にGenerativeXは技術とビジネスの両方を理解したメンバーによるプロフェッショナルサービスを提供できる稀有な企業であり、既に大企業への豊富な導入事例があることも相まって、多くのクライアントを獲得しています。
トップ企業からの受託・コンサル型の事業を起点として、今後は各業界・業務に即したSaaSの展開や海外展開、生成AIが広く浸透した後に必要となるインフラを提供していくことも視野に入れています。
経営陣
GenerativeXには技術面とビジネス面の双方の専門性を兼ね備えた、非常に優秀で強力な経営陣が集まっています。荒木CEOは投資銀行出身のビジネスマンでありつつテクノロジーにも明るく自らコードも書きます。さらに、過去に一度スタートアップを起業しており、経験も踏まえ、自分の強みや弱み、ベンチャー運営に対する勘所も押さえられているシリアルアントレプレナーです。共同創業者の上田CSOはコンサルティングファーム出身のビジネスマンでありつつ、直近は松尾研究所の経営企画のコアメンバーとして新規技術の社会実装についての戦略策定や社内事業の改善を経験した人物です。小坂CTOはリタリコやByteDanceなど優秀なエンジニアが揃う組織でのエンジニア経験が豊富な人物です。小坂CTOは荒木CEOの前回起業時も1人目社員として参画しており、荒木CEOのリーダーシップと周りの人の巻き込み力が伺えます。この優秀な経営チームがGenerativeXの強みの源泉となっています。
3人は同じ大学院出身ということもあり、学生時代から10年来の付き合いを経て企業に至っています。非常に優秀なだけではなく強い信頼関係がチームの強みの源泉となっていると考えています。
図4 GenerativeX経営チーム
おわりに
最後に、Angel Bridgeの今回の投資のポイントをまとめます。
1つ目は、優秀な経営チームです。シリアルアントレプレナーならではの強みを持ち、能力の高さと強いリーダーシップを兼ね備えられた荒木CEOに加え、事業戦略の策定経験が豊富な上田CSO、エンジニアとして多数のキャリアを積まれた小坂CTOがそれぞれ違う強みを持ち合い、一丸となって強いコミットメントでこの事業に挑戦していることが最大の武器となっています。これだけ強力なメンバーが創業初期から揃っていることはそう多くはないと思いました。
2つ目は、生成AIを活用した企業のDXには巨大な市場ニーズがある点です。生成AIの市場は足元で急速に立ち上がり、大企業を中心に生成AIを活用した業務効率化などに強いニーズがあります。一方で十分な生成AIの活用が行えている企業は少なく、大きな市場を狙えるチャンスがあります。
3つ目は、急速に立ち上がるトラクションです。創業から1年の短期間で業界トップクラスの大企業から複数案件を受注し、既に一定の売上高を見込んでいます。初期からこれだけ大手企業と取引できるスタートアップはそうはありません。GenerativeXの技術/ビジネス両面でのケイパビリティの高さを示す何よりの証拠だと考えています。
以上の観点から、GenerativeXが大企業の生成AI活用/生産性向上のエネーブラ―となり、GDP向上に大きく寄与する存在となることを信じ、またその想いに共感し、投資の意思決定をしました。
Angel Bridgeは社会への大きなインパクトを創出すべく、難解な課題に果敢に挑戦していくベンチャーを応援しています。ぜひ、事業戦略の壁打ちや資金調達のご相談など、お気軽にご連絡ください!
2024年4月に株式会社GenerativeX(以下GenerativeX)は、シードラウンドにて1.2億円の資金調達を発表しました。Angel Bridgeも本ラウンドにおいて出資しています。
GenerativeXは大企業における生成AI活用に特化したコンサルティングやDX支援を提供するスタートアップです。生成AIの市場は急速に立ち上がっており、生成AIを活用した業務効率化ニーズは大企業も含めて大きいといえます。GenerativeXは生成AIネイティブなプロファームとして、創業1年で各業界のトップ企業と取引を行うなど急速にビジネスを展開しています。
今回の記事では、Angel BridgeがGenerativeXに出資した背景について、企業の生成AI活用を取り巻く環境とGenerativeXの強みに焦点を当てて解説します。
企業の生成AI活用の動向と課題
生成AIとは、学習済みのデータを活用し、文章や画像・音声など様々なコンテンツを作り出すことができる人工知能技術の一種です。精度・スピード・使いやすさが劇的に向上したことで注目が高まり、本領域で多くのユニコーン企業が誕生しています。例えばテキストから画像を生成するStable Diffusionを提供するstability.ai社や、SEOに最適化されたコンテンツなど、高品質な文章作成が可能なサービスを提供するJasper社などが挙げられます。直近では2022年11月にOpenAI社がChatGPT-3.5を公表したことにより、全世界的に生成AIに対する注目度が高まりました。
生成AIは今後も急速な需要の拡大が予想されており、特に大企業においては非常に関心が高い状況です。比較的先進的なITの活用が進むIT系の企業のみならず、銀行や自治体などIT系以外でも既に生成AIを活用した業務効率化の取り組みがはじまっています。社内文書の作成やプログラミングコードの自動生成、営業が用いるセールストークスクリプトのアイデア出しなど幅広い分野での活用が想定されており、各社で生成AIを活用することで得られる効率化について試算がなされています。
しかし、生成AIの活用が十分に進んでいる企業はまだまだ少数派です。既存のDXプレイヤーであるSIerやAI受託開発企業、学生ベンチャーなどでは、生成AIに関するサービス提供価格・スピード・クオリティに課題があり、結果として大企業における生成AIの活用は進んでいません。そこでGenerativeXは既存プレイヤーのこのようなボトルネックを解決すべく、生成AI分野に特化して組織構築を進め、安価でスピーディ、そして高品質なサービスを提供しています(図1)。
図1 既存のAI開発・コンサル企業の課題
以上のように、生成AIを活用した大企業DXは大きなポテンシャルがあるものの、そのニーズに応えられているプレイヤーは少なく、GenerativeXにとっては非常に魅力的な市場環境と考えています。
GenerativeXの事業概要
GenerativeXは生成AIに特化した受託開発やコンサルティングを企業向けに提供しています。環境整備から要件定義、ユースケースの洗い出し、PoC実施、その後の運用改善まで一気通貫したサービスとしてプロジェクトを遂行することで、顧客と長い接点を構築しDXを実現しています。具体的にはプロンプトの研修やDX企画・コンサルティング、そしてPoC開発・検証・システム化のメニューを企業のニーズに合わせて提供しています(図2)。結果としてGenerativeXは創業から1年という短期間で各業界トップクラスの大企業をクライアントに持つに至りました。
図2 GenerativeX提供サービスの特徴
このように事業を成功させつつあるGenerativeXは、生成AIネイティブな組織構築とマーケティングへの積極投資を通して、①安価で安く提供できる機動力、②大企業向けの営業力、③既存ソフトウェアと融合させる技術力、④豊富な導入事例の4つの強みを発揮しています(図3)。
図3 GenerativeXの競合優位性
AI受託開発やコンサルティングを行う会社は複数ありますが、その中でも巨大な市場ニーズが見込まれる生成AI市場に焦点を当て、大企業のニーズに応えられるハイレベルなサービスを提供できる企業はあまり存在しません。その中でも特にGenerativeXは技術とビジネスの両方を理解したメンバーによるプロフェッショナルサービスを提供できる稀有な企業であり、既に大企業への豊富な導入事例があることも相まって、多くのクライアントを獲得しています。
トップ企業からの受託・コンサル型の事業を起点として、今後は各業界・業務に即したSaaSの展開や海外展開、生成AIが広く浸透した後に必要となるインフラを提供していくことも視野に入れています。
経営陣
GenerativeXには技術面とビジネス面の双方の専門性を兼ね備えた、非常に優秀で強力な経営陣が集まっています。荒木CEOは投資銀行出身のビジネスマンでありつつテクノロジーにも明るく自らコードも書きます。さらに、過去に一度スタートアップを起業しており、経験も踏まえ、自分の強みや弱み、ベンチャー運営に対する勘所も押さえられているシリアルアントレプレナーです。共同創業者の上田CSOはコンサルティングファーム出身のビジネスマンでありつつ、直近は松尾研究所の経営企画のコアメンバーとして新規技術の社会実装についての戦略策定や社内事業の改善を経験した人物です。小坂CTOはリタリコやByteDanceなど優秀なエンジニアが揃う組織でのエンジニア経験が豊富な人物です。小坂CTOは荒木CEOの前回起業時も1人目社員として参画しており、荒木CEOのリーダーシップと周りの人の巻き込み力が伺えます。この優秀な経営チームがGenerativeXの強みの源泉となっています。
3人は同じ大学院出身ということもあり、学生時代から10年来の付き合いを経て企業に至っています。非常に優秀なだけではなく強い信頼関係がチームの強みの源泉となっていると考えています。
図4 GenerativeX経営チーム
おわりに
最後に、Angel Bridgeの今回の投資のポイントをまとめます。
1つ目は、優秀な経営チームです。シリアルアントレプレナーならではの強みを持ち、能力の高さと強いリーダーシップを兼ね備えられた荒木CEOに加え、事業戦略の策定経験が豊富な上田CSO、エンジニアとして多数のキャリアを積まれた小坂CTOがそれぞれ違う強みを持ち合い、一丸となって強いコミットメントでこの事業に挑戦していることが最大の武器となっています。これだけ強力なメンバーが創業初期から揃っていることはそう多くはないと思いました。
2つ目は、生成AIを活用した企業のDXには巨大な市場ニーズがある点です。生成AIの市場は足元で急速に立ち上がり、大企業を中心に生成AIを活用した業務効率化などに強いニーズがあります。一方で十分な生成AIの活用が行えている企業は少なく、大きな市場を狙えるチャンスがあります。
3つ目は、急速に立ち上がるトラクションです。創業から1年の短期間で業界トップクラスの大企業から複数案件を受注し、既に一定の売上高を見込んでいます。初期からこれだけ大手企業と取引できるスタートアップはそうはありません。GenerativeXの技術/ビジネス両面でのケイパビリティの高さを示す何よりの証拠だと考えています。
以上の観点から、GenerativeXが大企業の生成AI活用/生産性向上のエネーブラ―となり、GDP向上に大きく寄与する存在となることを信じ、またその想いに共感し、投資の意思決定をしました。
Angel Bridgeは社会への大きなインパクトを創出すべく、難解な課題に果敢に挑戦していくベンチャーを応援しています。ぜひ、事業戦略の壁打ちや資金調達のご相談など、お気軽にご連絡ください!
2024.02.21 INVESTMENT
2024年2月21日にAngel Bridgeの投資先である、株式会社Facilo(以下Facilo社)がシリーズAラウンドにおいて12億円の資金調達を発表しました。Angel Bridgeも本ラウンドにおいて出資しています。
Facilo社は不動産売買仲介会社向けの業務効率化SaaS『Facilo』の提供を行う不動産テックスタートアップです。物件の提案から内見調整、顧客コミュニケーションまでの業務を一貫して効率化できるプロダクトを開発・提供しており、生産性と顧客体験の向上によって不動産売買仲介会社の売上成長を目指します。
今回の記事では、Angel BridgeがFacilo社に出資した背景について、不動産売買の代理・仲介業界を取り巻く環境とFacilo社の強みに焦点を当てて解説します。
不動産売買の代理・仲介業界の動向と課題
土地・住居・商業利用を含む不動産代理・仲介業の市場は、不動産価格の高騰や東京五輪需要により、過去10年で2倍近くに成長し数兆円規模で安定的に推移しています。
不動産代理・仲介業は売買と賃貸に区分されており、さらにその中でも建物と土地に分類され、各々の市場が異なる市場特性を持っています。Facilo社が対象とする売買仲介の領域は約1.2兆円規模であり、最も大きいカテゴリとなっています。
また不動産売買の代理・仲介業界は上位30社程度の大手企業で市場規模の半分以上を占める構造である一方で、Facilo社のプロダクトの対象となりうる中小企業も2万社以上と多く存在しています。(図1)
図 1 不動産売買仲介市場の構造
不動産営業の過酷さ・難しさは人気漫画『正直不動産』などでも描かれており、広く認識されてきました。主な課題としては、長時間労働・残業の慢性化とそれに伴う人材不足が挙げられます。特に長時間労働・残業の慢性化については、パーソル総合研究所の調査において、サービス残業の月平均時間が調査対象の14業種のうちワースト2位(10.3時間)と深刻な状態です。
このような状況に加えて、近年は働き方改革への意識の高まりやコロナの影響もあり、不動産業界においても業務効率化の機運が高まっています。集客の効率化や契約の電子化など、一部の業務においてDX化が進んでおりますが、提案・内見調整業務はまだ生産性が低く、DXによる改善効果が最大化できていない状況です(図2)。
前述した大手企業や中小企業それぞれ同様の課題を抱えており、Facilo社はこうした不動産業界のボトルネックを解決すべく、大手企業にも訴求可能なプロダクトを提供しています。
図 2 不動産売買仲介業界の課題
プロダクト概要
Facilo社は不動産仲介の煩雑な情報を一元化・可視化できるコミュニケーションクラウド「Facilo」を開発・提供しています。
現場課題を深く理解し、それを解決する機能を素早くプロダクトに落としこむことで、ユーザーのエンゲージメントが極めて高く、誰でも使いやすいUI/UXを実現しています。結果として、大手企業ではトライアルから全店導入につながっており、高い付加価値の証左になっています。
主な特徴は以下の4つになります。
図3 コミュニケーションクラウド「Facilo」の特徴
こうした機能により、Faciloは物件の提案から内見調整に至るまでの業務を一貫してサポートします。他社製品では特にCRM(Customer Relationship Management; 顧客関係管理)に主眼が置いてある場合が多いのに対し、Faciloは実際の顧客とのコミュニケーションに焦点を当て、新規顧客への対応も含めたタスクを一気通貫で効率化できる点が特長です。
Faciloは現在大手企業を含む様々な企業で導入されていますが、使用した営業担当者から熱烈な支持を得ています。例えば大手仲介会社のトライアル事例や顧客へのインタビューでは、
「毎日使っており、革新的でかなり便利。業務を効率化できるし、成約も上がると思う。周りも評判がよい。帯替えと内覧予約が特に効果を実感している」
(大手不動産会社、営業担当)
「現場も便利だし、マネージャー機能で活動を見られるのもうれしい。これは正式導入してもらわないと困るから、ちゃんと現場に使わせるようにする」
(大手不動産会社、店長)
など、現場の担当者から管理職に至るまで非常に高い評価を得ています。
こうした評価はFaciloが不動産仲介営業の課題に真に寄り添ったプロダクトであることの証と言えるでしょう。
経営陣
Facilo社には不動産テック業界、及び有数のテック企業での経験が豊富な優秀な経営陣が集います。
特に市川CEOは、数多くの優秀な起業家を輩出しているリクルート出身であり、不動産業界における深い知見や経営経験を持つ、きわめて優秀な経営者です。リクルート時代はSUUMOのプロダクト・経営企画マネージャー・新規事業開発部長として活躍し、米国の不動産テックMovoto社をCFOとして米国4位の不動産ポータルに成長させ、ターンアラウンドまで行いました。
また、Google、サイバーエージェント、SmartNewsでエンジニアとして活躍した梅林CTOや、リクルート入社後、SUUMOを経てGoogleで最年少女性部長を務めた浅岡COOなど、優れた経営人材が揃っています。業界や現場課題の深い理解や機動性の高い優れたプロダクト開発力を有しており、優秀な経営チームがFacilo社の強みの源泉の一つとなっています。
図4 Facilo社経営チーム
おわりに
不動産売買の代理・仲介業は大規模な市場を持ち、また現在も長時間労働や人員不足などの根深い課題を抱えています。Facilo社はこうした課題を的確に捉え、顧客から熱烈な支持を得るプロダクトの開発に成功しました。
現在はエンプラ企業を中心に導入が進んでおり、現状の顧客層だけでも十分な規模になると予想されますが、今後中小企業にも拡大すればさらに大規模な市場を狙えます。また、優秀な経営陣も集い、不動産代理・仲介業界においてさらなる事業拡大に成功し、大きな成長を遂げると期待しています。
Angel Bridgeは社会への大きなインパクトを創出すべく、難解な課題に果敢に挑戦していくベンチャーを応援しています。ぜひ、事業戦略の壁打ちや資金調達のご相談など、お気軽にご連絡ください!
2024年2月21日にAngel Bridgeの投資先である、株式会社Facilo(以下Facilo社)がシリーズAラウンドにおいて12億円の資金調達を発表しました。Angel Bridgeも本ラウンドにおいて出資しています。
Facilo社は不動産売買仲介会社向けの業務効率化SaaS『Facilo』の提供を行う不動産テックスタートアップです。物件の提案から内見調整、顧客コミュニケーションまでの業務を一貫して効率化できるプロダクトを開発・提供しており、生産性と顧客体験の向上によって不動産売買仲介会社の売上成長を目指します。
今回の記事では、Angel BridgeがFacilo社に出資した背景について、不動産売買の代理・仲介業界を取り巻く環境とFacilo社の強みに焦点を当てて解説します。
不動産売買の代理・仲介業界の動向と課題
土地・住居・商業利用を含む不動産代理・仲介業の市場は、不動産価格の高騰や東京五輪需要により、過去10年で2倍近くに成長し数兆円規模で安定的に推移しています。
不動産代理・仲介業は売買と賃貸に区分されており、さらにその中でも建物と土地に分類され、各々の市場が異なる市場特性を持っています。Facilo社が対象とする売買仲介の領域は約1.2兆円規模であり、最も大きいカテゴリとなっています。
また不動産売買の代理・仲介業界は上位30社程度の大手企業で市場規模の半分以上を占める構造である一方で、Facilo社のプロダクトの対象となりうる中小企業も2万社以上と多く存在しています。(図1)
図 1 不動産売買仲介市場の構造
不動産営業の過酷さ・難しさは人気漫画『正直不動産』などでも描かれており、広く認識されてきました。主な課題としては、長時間労働・残業の慢性化とそれに伴う人材不足が挙げられます。特に長時間労働・残業の慢性化については、パーソル総合研究所の調査において、サービス残業の月平均時間が調査対象の14業種のうちワースト2位(10.3時間)と深刻な状態です。
このような状況に加えて、近年は働き方改革への意識の高まりやコロナの影響もあり、不動産業界においても業務効率化の機運が高まっています。集客の効率化や契約の電子化など、一部の業務においてDX化が進んでおりますが、提案・内見調整業務はまだ生産性が低く、DXによる改善効果が最大化できていない状況です(図2)。
前述した大手企業や中小企業それぞれ同様の課題を抱えており、Facilo社はこうした不動産業界のボトルネックを解決すべく、大手企業にも訴求可能なプロダクトを提供しています。
図 2 不動産売買仲介業界の課題
プロダクト概要
Facilo社は不動産仲介の煩雑な情報を一元化・可視化できるコミュニケーションクラウド「Facilo」を開発・提供しています。
現場課題を深く理解し、それを解決する機能を素早くプロダクトに落としこむことで、ユーザーのエンゲージメントが極めて高く、誰でも使いやすいUI/UXを実現しています。結果として、大手企業ではトライアルから全店導入につながっており、高い付加価値の証左になっています。
主な特徴は以下の4つになります。
図3 コミュニケーションクラウド「Facilo」の特徴
こうした機能により、Faciloは物件の提案から内見調整に至るまでの業務を一貫してサポートします。他社製品では特にCRM(Customer Relationship Management; 顧客関係管理)に主眼が置いてある場合が多いのに対し、Faciloは実際の顧客とのコミュニケーションに焦点を当て、新規顧客への対応も含めたタスクを一気通貫で効率化できる点が特長です。
Faciloは現在大手企業を含む様々な企業で導入されていますが、使用した営業担当者から熱烈な支持を得ています。例えば大手仲介会社のトライアル事例や顧客へのインタビューでは、
「毎日使っており、革新的でかなり便利。業務を効率化できるし、成約も上がると思う。周りも評判がよい。帯替えと内覧予約が特に効果を実感している」
(大手不動産会社、営業担当)
「現場も便利だし、マネージャー機能で活動を見られるのもうれしい。これは正式導入してもらわないと困るから、ちゃんと現場に使わせるようにする」
(大手不動産会社、店長)
など、現場の担当者から管理職に至るまで非常に高い評価を得ています。
こうした評価はFaciloが不動産仲介営業の課題に真に寄り添ったプロダクトであることの証と言えるでしょう。
経営陣
Facilo社には不動産テック業界、及び有数のテック企業での経験が豊富な優秀な経営陣が集います。
特に市川CEOは、数多くの優秀な起業家を輩出しているリクルート出身であり、不動産業界における深い知見や経営経験を持つ、きわめて優秀な経営者です。リクルート時代はSUUMOのプロダクト・経営企画マネージャー・新規事業開発部長として活躍し、米国の不動産テックMovoto社をCFOとして米国4位の不動産ポータルに成長させ、ターンアラウンドまで行いました。
また、Google、サイバーエージェント、SmartNewsでエンジニアとして活躍した梅林CTOや、リクルート入社後、SUUMOを経てGoogleで最年少女性部長を務めた浅岡COOなど、優れた経営人材が揃っています。業界や現場課題の深い理解や機動性の高い優れたプロダクト開発力を有しており、優秀な経営チームがFacilo社の強みの源泉の一つとなっています。
図4 Facilo社経営チーム
おわりに
不動産売買の代理・仲介業は大規模な市場を持ち、また現在も長時間労働や人員不足などの根深い課題を抱えています。Facilo社はこうした課題を的確に捉え、顧客から熱烈な支持を得るプロダクトの開発に成功しました。
現在はエンプラ企業を中心に導入が進んでおり、現状の顧客層だけでも十分な規模になると予想されますが、今後中小企業にも拡大すればさらに大規模な市場を狙えます。また、優秀な経営陣も集い、不動産代理・仲介業界においてさらなる事業拡大に成功し、大きな成長を遂げると期待しています。
Angel Bridgeは社会への大きなインパクトを創出すべく、難解な課題に果敢に挑戦していくベンチャーを応援しています。ぜひ、事業戦略の壁打ちや資金調達のご相談など、お気軽にご連絡ください!
2024.02.14 INTERVIEW
前身は内装工事会社のIT部門。MBOを経て生まれたクラフトバンク
クラフトバンクの事業内容を教えてください。
韓:クラフトバンクは主にふたつの事業を手がけています。ひとつは工事マッチングプラットフォーム「クラフトバンク」およびリアルイベント「職人酒場」を通じた元請・協力会社同士の出会いの場の提供、そしてもうひとつが中小建設工事会社向けの経営管理SaaS「クラフトバンクオフィス」の提供です。
サービスの特徴と競合状況はいかがですか?
韓:まず、僕たちの事業の根底にあるのは、日本が世界に誇る建設職人さんや建設工事会社がより儲かる仕組みをつくり、元気にしたいという想いです。ですので、どちらの事業も主なターゲット層を30人以下の建設工事会社(SMB)に絞っています。ここ数年、建設業DXを掲げる素晴らしいスタートアップが続々と誕生していますが、その多くは投資余力があり、人的資源も豊富な比較的大規模な建設会社(元請企業)を対象としたもの。結果的に工事発注者側の業務効率はかなり上がったのですが、その一方で受注側である中小建設工事会社の業務効率化はあまり進んでいません。しかもその多くは慢性化する人手不足や利益率の低さ、工事代金を全額回収するまで長い期間を要するなど、厳しい経営環境にさらされており、効率化の必要性は桁違いです。しかし中小建設工事会社の方々は現場を飛び回っている時間が長く、インターネットをあまり使わない層。なのでどうしても顧客獲得コストが非常に高くなりがちで、エコノミクスが成立しづらい特徴がありました。しかしそうした状況のなかでも、僕らには前身の内装会社から構築してきた工事マッチングプラットフォームがあります。毎月多くの企業が新規登録してくださる圧倒的な集客基盤によりエコノミクスが合う構造を生み出せたんです。このように、そもそも他の建設DX系サービスとは顧客ターゲットがまったく異なるため、競合視しておらずむしろ将来的にはパートナーシップを組む可能性もあると思っています。
そもそもなぜ中小建設工事会社向けに経営管理SaaSを提供することになったのでしょう?
韓:マッチングプラットフォームとしてのクラフトバンクは、もともと内装工事会社のユニオンテックが提供していたサービスでした。仕事柄、個人事業主である職人さんや中小工事会社と深いお付き合いを通じて案件獲得だけでなく、経営の効率化につなげてほしいと考えたのが開発のきっかけです。中小建設工事会社の皆さんも、印刷した紙にペンでチェックを入れるような案件管理が非効率なのは重々承知されていますが、本業が忙しい上、専任者を置く余裕もないのが実情です。そこでマッチングプラットフォームに集まっている2万9000社以上にのぼる顧客基盤を活かし、事務作業の効率化を実現するサービスを構築すれば職人さんの生産性が上がるのではないかと考え、検討をはじめました。
2021年2月にユニオンテックのIT部門をMBOしクラフトバンクを設立し、クラフトバンクオフィスの開発に着手したそうですね。なぜMBOという手段を選ばれたのでしょう?
韓:事業戦略や財務戦略、組織戦略等、いろいろとあるのですが、本質的には2つの理由があります。1つはコロナ禍が襲ったことで、全世界の全産業が急に10年後の世界にタイムスリップしてしたかのように激変してしまったことです。僕たちの市場でいえば、これまで職人さんとは電話や対面でやりとりするのが当たり前でした。しかしコロナ禍を機に多くの職人さんがZoomを使うようになり、レガシー産業にありがちな変化のスピードの遅さが格段にスピードアップし、僕らのようなベンチャー企業の成長戦略と歩調が合うようになったのが1つ。2つ目はサービスの中立性を保つためです。内装業として工事に携わる当事者が、発注者、受注者双方の情報を握ってしまうのはサービスを利用する側にとっての懸念材料になりかねません。遅かれ早かれ、利益相反の恐れが高まるのであれば、名実ともに中立的な立場でサービスを提供しようと考えMBOを選びました。
創業後、どのようなアプローチでユーザー数を広げていかれたのでしょうか?
韓:いわゆるスタートアップ然とした態度だとチャラチャラした印象を持たれてしまいますので、人と人とのつながりやクチコミを重視して認知を広げる戦略を採りました。業界の特徴として、会社同士、個人同士の密なつながりがビジネスの基盤を支えているからです。ですから、派手な打ち出しよりも「使ってみたら意外とよかったよ」「あそこが使っているならウチもやってみるか」と、クチコミでバイラルに広げていったほうが確実に効くだろうと考え、あえて表立ってアピールするのは避けていたほどです。
2023年9月に正式版のリリースを発表したのはなぜですか?
韓:実は正式公開の2年前には、すでにクラフトバンクオフィスのβ版を公開していたのですが、上記の戦略があったことから、むやみやたらにサービスを打ち出すことを避けてきました。この時期に公表に踏み切ったのは、物流業界同様、建設業界にも「2024年問題」の影響が広がることを見越してのことです。2024年問題とは、2024年4月以降、時間外労働に上限規制が加わることによって起こりうるさまざまな問題を指すのですが、ルールが大きく変わる直前に照準を合わせたほうが、需要の掘り起こしや時流に沿った形でサービス展開できると考え、14.2億円にのぼるエクイティ調達の報告と合わせてあのタイミングで発表しました。
シリーズAラウンドでAngel Bridgeをリードインベスターに選んだ理由
Angel Bridgeとの付き合いはいつからですか?
韓:いまお話したシリーズAラウンドで14.2億を調達するにあたって、公にはリードインベスターを引き受けていただいたのが最初のお付き合いになります。
林:数多くの起業家を輩出しているリクルートご出身者が経営するスタートアップをリサーチするなかで韓さんの存在を知りました。共通の知人を介してアプローチさせていただき、最初にお会いしたのは2022年1月でしたね。
韓:はい。当時はβ版のリリースから間もなく、ファイナンスについて考えるよりもプロダクトの磨き込みに注力すべき時期でしたから「すぐに」とはなりませんでしたが、それ以降、定期的にお会いするようになり情報交換するようになりました。
お互いの印象について聞かせてください。
林:オンラインでお話した後、DeNAご出身で執行役員CPOを務めている武田源生さんを交えてお食事にいかせてもらったのですが、ご経歴の素晴らしさもさることながら、非常に戦略的かつ地に足のついた経営をされているのがわかり非常に感銘を受けた覚えがあります。
韓:代表パートナーの河西さんは僕と同年代で、投資銀行やPEファンドなど長年投資畑を歩んでこられており、林さんは伊藤忠商事をはじめ実業での豊富なキャリアをお持ちです。「面白いキャスティングをされるVCだな」というのが第一印象でしたね。しかも、ディレクターの八尾さんを含め、皆さんスマートさとロジカルさはもちろん、偉そうないい方になってしまいますが、後発の独立系VCの立ち位置をご理解されているのか、人柄で優るといいますか、ある種、懐かしさを感じさせる泥臭さのようなものも感じました。フロントに立つ人が柔和に見えるときは、後ろに控えている人はたいてい怖かったりするものなのですが、その点についてはいい意味で裏切られましたね(笑)
Angel Bridgeと正式にお付き合いしようと思われた決め手は?
韓:以前から多くの投資家と薄く広くつながるより、限られた投資家と深く密に付き合うべきだと考えていたので、新規の投資家を迎えるのは実は慎重でした。でも林さんをはじめAngel Bridgeの皆さんと定期的にお会いするうち、起業家Firstのスタンスで親身になって相談に乗ってくださるスタンスが心地よく、前回の投資ラウンドではリードを取っていただくことにしました。
林:しかも光栄なことに新規のVCはわれわれだけでした。
韓:ええ。嬉しいことに既存の株主が引き続きフォローしてくださったので、新規の株主はAngel Bridgeさんだけでした。林さんはすでにお気づきだと思いますが、うちに投資してくださっているVCには共通点があります。すべて独立系なんです。
林:そうですね。
なぜ独立系VCを選ぶのでしょうか?
韓:VCさんを招き入れるというのは多くのケースで不可逆的な判断になるので、特にアーリーフェーズでは「人で選ぶ」のが基本だと思っています。お互いに背中を預け合ってコミットし、成長を喜んでくださる方がいいと思っているからです。独立系VCさんは、大手どころより規模が小さいぶんパートナーが視座高く、よく面倒をみてくださるケースが多いですし、定期異動などを理由に担当者がコロコロ変わることもありません。とくにアーリーフェーズでは事業上の変数が多く、こと株主との関係性においてアンコントローラブルな変数を少なくし事業を伸ばすことに集中すべきだと思っていることもあります。なかでもAngel Bridgeは、短期の収益をうんぬんするより、長期的な視点で僕たちの成長を信じていただいている印象があり、コミットメントのレベルも非常に深い。僕たち経営陣に対するリスペクトと愛を感じるほどです。
林:スタートアップに限らず、どんな企業でも月次や四半期で山谷はあるものですから、それに一喜一憂するより、韓さんが見ている未来を信じようというのがAngel Bridgeの一貫したスタンスです。われわれVCは、経営者に成り代わることはできませんが支えることならできます。ですから韓さんにそう感じていただけるのはとても嬉しいですね。
韓:経営はロジックとアートの融合だといいますが、林さんをはじめ、お世話になっているAngel Bridgeの面々と接していると、自分のなかの「アート」の部分を試されている気がするんです。たとえば、目の前にある材料と道具を使って「韓さんはどう料理するんだろうか?」と、試されながらも温かく見守っていただいている印象がありますね。この高い視座で経営が目指す方向を徐々にクリアにしていく、というのはものすごく健全で、僕自身も成長実感を感じています。
林:韓さんの経営手腕を信頼していますからね。おっしゃるように、常に韓さんの傍らで控えているような気持ちで見守らせていただいています。
Angel Bridgeから、具体的にどのような支援を受けていますか?
韓:林さんからは、まだ創業3年のベンチャーだとなかなか接点を持てない大手建設会社のほか、有力な営業先をご紹介いただいています。また、河西さんには人材採用やファイナンス戦略面からのご支援、八尾さんからはプライシングや顧客分析、CS体制の構築など、さまざまな課題に対して、直接的なご支援をいただいています。Angel Bridgeの皆さんは、常日頃から人脈や知見を惜しみなく共有してくださるので、社員にとってはプロフェッショナルファームや一流企業のトッププレーヤーからOJTで直接手ほどきを受けているようなもの。社員に対する成長機会の提供にもなるので、人材育成面でも価値ある支援だと感じています。
林:そういっていただけると、われわれも励みになります。
韓:Angel Bridgeも新興の独立系VC、僕たちも新興ベンチャーですからケミストリーが合うんでしょうね。当社のことをよくご理解いただいている上に細かな相談事を持ち込みやすく、しかもアウトプットも素晴らしい。非常にありがたい存在です。
中小建設工事会社向けDXマーケットに秘められた知られざる魅力
韓さんはさまざまな経験を経て起業に至りました。ご自分のキャリアについてはどう自己評価されますか?
韓:リクルート時代、6年にわたってCVCとして企業投資や海外企業のM&A、PMIなどにも携わり、相応の知識は身につけられたと思います。でも、ベンチャーを起業して思うのは、当時はまだアマチュアだったなと。あくまでもリクルートという大看板あっての経験だったからです。
林:そうした経験を経られて、リーダーシップスタイルがだいぶ変わったという話を以前うかがいました。
韓:ええ。30代まではどちらかというと横暴でトップダウン気質なタイプでしたし、物事を強引に進めていくのがウリだったのですが、40代に入ってからずいぶん変わりました。その道のプロに任せるべきことは任せようと腹を決め、権限をどんどん委譲するようになったからです。
林:冒頭の話にも出たCPOの武田さんに寄せる信頼感の高さがその表れかも知れません。
韓:はい。彼はまだ27歳ですからね。もしかしたら彼を見つけ、僕にはできない圧倒的なプロダクト基盤を作ってくれていること自体、僕がこの会社にもたらした最大の功績なんじゃないかって思うほどです(笑)。短期的な戦術についてはデジタルネイティブである彼らZ世代に任せ、僕は中長期的な構想やトップリレーションづくりに徹する。いまはそれが理想的な役割分担ではないかと思っています。
Angel Bridgeとして、今後どのような支援を提供されますか?
林:われわれから「こうした支援が必要だろう」と先回りして提案するより、韓さんからの要請があればいつでもお応えできるよう構えを崩さずにいたいと思っています。ですから、ヒトモノカネの側面で必要リソースがあればいつでもおっしゃってください。できる限り手を尽くします。
韓:そう言っていただけて心強いです。目的達成のためにどのファクトを重視すべきか、また誰と話し、何からはじめるべきか、客観的に物事を判断するには複眼的な視点が欠かせません。やはり経営者ひとりだけでは戦略の切れ味を保ち続けることに限界があるので、ぜひとも継続的なご支援に期待を寄せています。
韓さんは今後、クラフトバンクをどのようにしたいとお考えですか?
韓:建設市場は50兆から60兆円の規模があり、建設業に携わる中小企業のもとで働く職人さんの数はおよそ300万人といわれています。そのなかで僕たちのサービスを利用してくださっているユーザーはそのうちわずか0.1%に過ぎません。6年前に内装工事会社としてこの建設業界に転身し、中小建設工事会社の方々に的を絞ったのには理由があります。攻略難易度が高い反面、競合がほぼおらずマーケットが巨大だからです。そんなマーケットにひとつでも鋭い楔を打ち込めれば、いずれ勝機が巡ってくるだろうと考え参入を決めました。
林:困難を乗り越えられる決意があったからこその選択でしょうね。韓さんは、ビジネスパーソンとしての華麗なご経歴に胡座をかくことなく、職人さんの間にも積極的に入り込んでいく人懐っこさもあります。だからこそお話に説得力があるんです。以前、デューデリジェンスの一環で職人酒場に足を運んだ八尾が、現場で韓さんの振る舞いを見て感動していたといっていたのを思い出しました。
韓:ありがとうございます(笑)。この世界に身を投じた当初は「リクルートでグローバルな仕事をしていたのにいきなり国内の内装会社に行くなんて大丈夫か?」といわれたこともありました。でも、職人をリスペクトし、職人の声をひたすら聞き続けてきたからこそ、マッチングプラットフォームを足がかりにSaaSに進出できました。今後も引き続きクラフトバンクの成長のために地に足ついた努力を重ねていきます。
林:人手不足に喘ぐ中小建設工事会社の方々の窮状を救う取り組みは、建設業界全体にとって大きな意味があります。韓さんたちが全力を傾けられるよう、われわれも積極的に支援していくつもりです。
最後にスタートアップでのキャリアに関心がある若手優秀層にメッセージをお願いします。
韓:若いうちからプロフェッショナルファームなどで鍛えられた人は、おそらくどこにいっても通用するでしょうし、重用されるのは間違いないでしょう。皆さんには明るい人生が待っています。仮にキャリアの選択を間違ったとしても、いつでも軌道修正できるはずです。ビジネスはロジックとロマンでできています。プロフェッショナルファームでロジックを突き詰めたのであれば、次は「日本の産業発展」を主語に、ぜひビジネスのロマンを追いかけてほしいですね。当社を含めスタートアップではロジカルシンキングとハードワーク耐性は大歓迎されるはず。自分の武器を存分に活かし、日本の産業発展のために現職ではつかめない成長の手応えを感じていただきたいと思っています。
2024.02.07 ACADEMY
今回は資本政策策定の鉄則について説明していきます。
資本政策とは?創業期から必須!
まず資本政策の意味について見ていきましょう。
資本政策とは、一般的には株式移動、第三者割当増資、組織再編などの手法により、資金調達、資本構成の最適化、インセンティブプラン、創業者利潤、事業承継対策といった目的を実現することです。
引用:PwCコンサルティング 『資本政策コンサルティング』
シード期のスタートアップにとっては、主に資金調達を達成するためのファイナンス面の計画であることが多く、事業計画と照らし合わせて作成します。
事業計画に比べ、創業期の経営者は資本政策の重要性を見逃しがちですが、資本構成は一旦固まると後戻りができないため(不可逆性)、注意が必要です。例えば無計画にエクイティ(株式)での調達を進めた結果、経営陣の意思決定力が弱まり、最悪の場合、退陣に追い込まれる可能性もあります。それとは逆に希薄化を恐れて資金調達に過度に慎重になった結果、急成長を遂げられないケースも考えられます。
こうした事態を避けるためにも、創業段階から資本政策をきちんと作成しておくことは非常に重要です。
資本政策表を書いてみよう
資本政策表作成の鉄則 ①テンプレートに頼るべし
資本政策を考える際には、資本政策表という表を使ってまとめていきます。資本政策表は1から自分で作らなくても、ネット上にテンプレートがたくさん載っているためぜひ活用してください。参考までにプライマルキャピタルの佐々木氏が紹介している資本政策フォーマットを紹介します。
https://medium.com/@hrssk/資本政策表-雛形-を公開します-3f4b5361e29
他にもテンプレートはたくさんあるので様々探してみて、信頼できるものを使用してください。テンプレートを用意したところで早速作成していきましょう。
それでは、各ラウンドの概要を決めていきましょう。具体的には、以下のポイントを押さえることが肝要です。
- 調達時期
- 想定バリュエーション
- 調達金額
- 調達の手段
- 投資家の属性(エンジェル投資家か、VCか、事業会社か)
- 株主構成
資本政策表作成の鉄則 ②調達概要は事業計画と照らし合わせて算出せよ
調達時期、バリュエーション、調達金額については、事業計画と照らし合わせて、いつどのくらい資金が必要なのか算出するのが原則です。目安として、次回ラウンドの調達までの期間は1〜2年が良いとされています。これ以上短期の場合、経営者のリソースが資金調達に取られてしまい、これ以上長期の場合、大型調達が必要となり調達が難しくなります。
また、調達の手段や参加する投資家の属性も事業フェーズによって異なるため、こちらも事業計画を見つつ考えてみましょう。
調達の手段については、デット調達、エクイティ調達に大別できます。デットとエクイティでは性質が大きく異なります。両者のメリットとデメリットを正確に理解したうえで計画を立てることが非常に重要です。詳細は以前執筆したスタートアップアカデミー#1のコラムにて詳しく解説しておりますので、ぜひご覧ください。
また、エクイティ投資の中でもどんな投資家に投資してもらうかということについて検討をする必要があります。事業ステージや事業領域により株主として迎え入れるべき投資家の属性は変わってくるはずです。詳細はスタートアップアカデミー#2のコラムにて解説しているので、ぜひ参考にしてください。
資本政策表作成の鉄則 ③強すぎる外部投資家には注意
特定の外部投資家の持分が大きくなり、会社の意思決定に影響を及ぼすようになると、経営陣が経営のイニシアチブを取りにくくなるだけでなく、他の投資家の意見が反映されにくい状況になってしまいます。
特に次のラウンドの投資家にとって、投資ステージの異なる投資家が大きな力を持っていることは懸念材料になり、次回の調達が難しくなるかもしれません。投資ステージが異なる場合、投資家同士で同じインセンティブ構造にならない可能性があるためです。
例えば、小規模なM&Aでのイグジットを検討する際などは、初期の投資家が利益を確定させたい一方で、最近のラウンドで加わった投資家はより大規模なイグジットを望む状況が考えられます。そのため、投資家は特定の投資家の持分が多すぎる株主構成を警戒します。
調達が困難になった結果、事業の成長が阻害されることのないよう、株主構成には気を配りましょう。
資本政策表作成の鉄則 ④経営陣の持分を担保せよ
経営者の持分が重要な理由は、会社法の規定により、経営陣の意思決定の及ぶ範囲が株式保有率に応じて決まるためです。極端なことを言ってしまえば、経営陣の株式保有率が下がりすぎた場合、会社の決議事項に経営陣の意向が反映されにくくなる恐れがあります。株主構成の目安として以下の指標を抑えましょう。
- 株式(議決権)の50.1%(過半数)
- 取締役・監査役の選任、取締役の解任、役員報酬の決定、剰余金の配当などを単独で決定可能
- 株式(議決権)の3分の1以上
- 募集株式の募集事項の決定等、定款の変更、組織再編行為の承認、事業譲渡の承認、解散に関して、決議を単独で阻止可能
事業が大きくなり、外部株主の割合が増えたとしても1/3以上は保てるとベターです。しかし、業種によってはこれらの水準を超えているケースも多くあります。固執せずあくまで目安として捉えておきましょう。
実際に近年上場したスタートアップのIPO時の株主構成を見てみましょう。2023年3月に1,717億円で上場したカバー株式会社は上場時以下のような構成となっていました。
出典:みんかぶ
創業者でもあり、代表取締役の谷郷氏が個人の持分と代表取締役を務めるバレー株式会社の持分を合わせて約40%を保有しており、取締役CTOの福田氏が約5%を保有しています。経営陣の保有株主は過半数には満たないものの、谷郷氏が3分の1以上を保有しており、重要事項の決定について拒否権を発動できる体制であったことがポイントです。
経営陣の持ち分比率を考える際は、一回の資金調達当たりの希薄化率に注意すると良いでしょう。
「希薄化」とは「通常、新株発行などの増資を行った場合、発行済み株数が増えることにより、1株当たりの価値が低下する」ことです。
引用:SMBC日興証券「初めてでもわかりやすい用語集」
希薄化率の計算は以下のようになります。
希薄化率(%)=新規発行株式の総数÷増資後の発行済株式総数×100
一般的に、希薄化率は20-25%以内に収めるべきとされていますが、急成長を遂げるスタートアップにおいては例外も数多く存在します。以下に二つ例を挙げておきます。
- カバー株式会社
- 株式会社ispace
出典:INITIAL
カバーに関してはシリーズA、Bで大きな希薄化を許しており、シードからアーリーに転換する時期において事業拡大のために思い切った投資をしたことが分かります。一方でispaceはディープテックであることもあり、初期投資が莫大であるためシード〜Aでは大きな希薄化を許したものの、その後は希薄化率を25%に抑えています。このように業種や成長フェーズに応じて希薄化率の目安は多少変わります。
事業計画と資本政策は表裏一体
資本政策表作成の鉄則 ⑤事業計画に合わせて修正せよ
事業計画と資本政策は表裏一体です。事業が進むにつれ、事業計画に変更が生じた場合、資本政策も一緒に見直しましょう。こうした計画がしっかり練られているか、投資家は見ています。
まとめ
最後に資本政策表作成の鉄則をまとめます。
資本政策表作成の鉄則
①テンプレートに頼るべし
②調達概要は事業計画と照らし合わせて算出せよ
③強すぎる外部投資家には注意
④経営陣の持分を担保せよ
⑤事業計画に合わせて修正せよ
資本政策表は事業計画と比較するとどうしても後手後手に回ってしまう経営者も多いです。しかし、スタートアップの原動力が資金にあることを忘れてはなりません。事業計画と資本政策の組み合わせによって、ビジョンは現実の事業となり得、投資家は間違いなくその点を見ているはずです。
さて、事業計画と資本政策を練ったところで、投資家に向けてピッチを行いましょう!
ということで、次回はピッチ資料の作り方、ピッチをする際の注意点について解説予定です。
Angel Bridgeはシード〜アーリー期のスタートアップを中心に投資しているVCであり、手厚いハンズオン支援を特徴としています。今回解説した資本政策についても、投資先起業の経営陣とディスカッションを行い、投資家目線のアドバイスを行ってまいりました。事業戦略の壁打ちや資金調達のご相談などありましたら、お気軽にご連絡ください!
2024.01.16 ACADEMY
今回はシードラウンドの資金調達、特に創業者間契約や事業計画書について説明していきます。
シードラウンドの位置づけ
まずシードラウンドとは、起業して最初の資金調達のことを指します。ビジネスアイデアはあるが、まだ売上が全く立っていない、またはプロダクトがまだ出来ていない状態で行うことも多くあります。
調達資金はIT企業の場合、エンジニアの人件開発費に使われることが多いです。プロトタイプは一人で自己資金のみで行うことも可能ですが、いざプロダクトを本格的に作るとなるとエンジニアを雇う必要があり、その際にシードラウンドとして外部資金調達が必要になります。
シードラウンドのデータ集
2022年に調達したことが判明している1,907社のシードラウンド状況を見ると、調達額の中央値は5,500万円、調達後評価額の中央値は4.1億円でした。
参照:INITIAL Japan Startup Finance 2022
上記水準はシード調達をする際の一つの目安になると思いますが、注意も必要です。一口にシードラウンドと言っても様々な状態があります。プロダクトがあるかどうか、すでに顧客がいるかどうか、チーム組成されているかどうか等でバリュエーションは大きく変動します。
また、ここで注意しておきたいのが、ハイバリュエーション(企業の評価額が高い状態)だから良いという訳では必ずしもないという事です。ハイバリュエーションで調達することは一見会社にとって良い事のように思えますが、将来的な資金調達でのハードルが上がり、新たな資金調達が難しくなる可能性もあります。自社のステージに応じた適切なバリュエーションでの資金調達を目指すことが基本方針となります。
シードラウンドとシリーズAとの比較
シードラウンドの次の資金調達であるシリーズAと違いを比べてみましょう。
シリーズAの資金調達はPMFを達成した状態で行うことが一般的です。つまり、一定数初期のユーザーがいて、提供するサービスがしっかりニーズに応えており、熱量高く使ってくれている状態です。シリーズAで得た資金は開発に加えてこれから一気に拡販していくための資金としてマーケティングや広告宣伝費に使用されることも多いです。
こちらも2022年の中央値では資金調達額は1.6億円程度、調達後評価額は15億円程度となっています。
参照:INITIAL Japan Startup Finance 2022
シードラウンド資金調達のステップ
資金調達のステップは次の5ステップです。
① 事業計画の作成
② 資本政策作成・必要資金の特定
③ ピッチ資料の作成
④ 投資家へのコンタクト・デューデリジェンス対応
⑤ 契約書締結・着金
今回は①について詳しく説明していきます。
シードラウンドの資金調達前に必要な契約書
ここで経営チームの観点から資金調達前に準備することを考えます。メンバー構成ですが2-3名の共同創業でビジネス系とエンジニア系のコンビネーションがより良いとされています。「どんなメンバーで起業すると成功しやすいか」については、過去記事スタートアップアカデミー#0にて詳しく記載しています。
では、いざ共同創業者と起業するとなったとしましょう。最初に忘れてはいけないのは、創業者間契約です。創業時に締結するのが一般的です。ここで締結していない場合でも、資金調達の際に投資家から創業者間契約を締結することを求められる場合があります。
では、なぜ創業者間契約が必要なのでしょうか。起業後状況が変わり、メンバーの方向性の違いが顕在化したり、仲違いすることもあるでしょう。メンバーが会社を途中でやめた時に、そのまま多くの株を持ったままでいられては安定的な会社運営ができません。会社に株を戻してもらい、トラブルを回避するためにあらかじめ創業者間契約を結んでおくことが得策です。
一方で創業初期にとても貢献したメンバーが辞める時、株を全部会社に戻さなければならないのはフェアではないという考え方もあります。そこで創業者間契約にベスティング条項を入れるケースも多くあります。ベスティングとは一般的に「一定期間経過後に権利行使ができる」という条件の事を指します。創業者間契約におけるべスティング条項としては、在籍した期間に応じて退職時にも保有し続けられる株式の割合を設定します。一例として、創業から1年以内に辞めると保有できる株式は0%で辞めると全ての株式を会社に置いていかなければならない。1年経過後から2年までは20%、2年経過後から3年までは40%保有できるというように設定していきます。
また買取価格は、「当初取得時の価額」としておくことが一般的です。これはトラブルになった時に備えて、買取時の価額については一意である必要があるからです。「買取時の時価」のように決めてしまうと、未上場企業の場合値付けが難しく買取が困難を極めます。
初めからどちらかが辞めることを想定した契約を締結するのは気が引ける部分もありますが、いざ辞めることになってからでは議論ができないため、最初から腹を割ってこのあたりの議論をしておくことは非常に重要です。後回しにしていいことはありませんし、このような話ができない関係であれば共同創業のパートナーとしては不安が残るかもしれません。投資家から求められているから、という理由で議論を切り出すのも手かもしれません。
シードラウンド調達前の事業計画書の策定
投資家とコミュニケーションする前に、自社に投資する魅力を投資家にどう伝えるかを考えなければいけません。事業計画の策定はその手段の1つです。重要なのは投資家に事業のポテンシャルを理解してもらうことですから、シードラウンドの段階で精度高く事業計画を立てていなくても問題ありません。
ベンチャーキャピタルは事業計画を見ながら、何年後にどれくらいのバリュエーションでイグジットするかを考えます。そしてそこから逆算して投資のリスクリターンを考えています。日本国内では、M&Aで大きなバリュエーションがになる事例が少ないため(※今後は大きく状況が変わる可能性もありますが)基本的にIPOを目指すベンチャーを投資対象とします。したがって事業計画を策定した際には投資家が魅力的に感じるバリュエーションでのIPOが実現できる数字になっていることが望ましいです。
数字の根拠についてもある程度説得力のあるものになっていることが重要です。売上高、営業利益の分解したときに各KPIの水準が実現可能なものであることは説明できるようにしておきましょう。例えば決済ビジネスの場合、「売上高=顧客数×1顧客あたりの単価×手数料」のようになります。顧客数や手数料が現実離れした数値になっていないかは統計データや先行企業のKPIなどから確認しておくべきでしょう。
それぞれのKPIをどう実現するかの蓋然性あるストーリーを説明できるよう準備しておくことが望ましいです。
VCが投資の際に何を見ているのかについては、過去記事スタートップアカデミー#3にて詳しく記載しています。
まとめ
今回は、シードラウンドの説明、創業者間契約、事業計画書について説明しました。次回もシードラウンドの資金調達で必要な準備についてお話していきます。
VCと言っても投資先企業とのかかわり方は、多種多様です。最近ではSNSやブログ記事、イベントなどで積極的に情報発信しているVCも多いので、簡単にチェックすることができます。投資先の企業から評判を聞いたり、知人のツテを使うなど情報収集を行いましょう。アプローチ方法としてはツイッターアカウントへのDM・オフィスアワーへの申し込み・HPへの問い合わせ・人づての紹介・イベントへの参加など様々考えられます。後悔のない資金調達ができるよう、最大限活用していきましょう。
2024.01.10 INVESTMENT
2024年1月10日、Angel Bridgeの投資先である株式会社リセ(以下リセ)がシリーズBにて18億円の資金調達を発表しました。
リセは、中小規模の事業者向けに契約書レビュー支援AIクラウド「LeCHECK(リチェック)」を提供する企業です。創業者の藤田CEOは西村あさひ法律事務所で国内外の企業間紛争を専門に担当する弁護士でした。当時、中小企業が弁護士にレビューを依頼しないまま不利な契約を締結し、結果として悔しい想いをする場面を多く目の当たりにしたそうです。紛争を事前に防ぐためには適切にリーガルチェックを行う必要がありますが、特に中小企業ではコストの観点からチェックを十分に行わずに締結してしまっているケースも多いことに課題を感じていました。藤田CEOは「契約書をレビューして助言してくれるサービスがあれば、多くの中小企業が救われる。良質な法務サービスを、テックを用いて合理的な価格で提供しよう」という思いから2018年にリセを創業しました。
今回は、リセへAngel Bridgeが投資した理由を解説します。
リーガルテックの市場環境
まずリーガルテックの全体像を説明します。リーガルテックは以下のように分類され、領域ごとにプレイヤーが細分化されています。リセが属するAI契約書レビュー領域は参入ハードルが非常に高く、現状ではサービス提供できているプレイヤーは3社のみです。
AI契約書レビューの参入障壁は弁護士の確保です。精度の向上にはデータ量に加え専門家のマンパワーによる地道なチューニングが鍵となります。リセでは藤田CEO自身が弁護士として第一線で18年経験していることもあり、創業当初から専属の弁護士約30名が磨きこみを継続して実施することができています。条件分岐ごとに回答を作成する作業は地道で骨の折れる作業であり、コミットしてくれる弁護士を確保することは困難です。実際にリセ以外でAI契約書レビューサービスを提供している2社も、母体が弁護士事務所だからこそ実現できており、この参入障壁の高さが魅力の一つと考えました。
次にAI契約書レビューの市場規模を見てみましょう。
エンタープライズ向けにはLegalOn Technologiesがリーガルフォースを提供しており、未上場ながらも時価総額が880億円とメガベンチャーになっています。LegalOn Technologiesがエンタープライズ向けのサービスを高単価で提供しているのに対し、リセは従業員が20人から299人の中堅中小企業をメインターゲットとして使い勝手の良い機能を提供しています。対象企業は日本国内で55万社となっており、メガベンチャーを目指すのに十分な市場規模があると考えています。さらに市場をよく見た時にはエンタープライズと中堅中小企業でニーズが明確に異なり、棲み分けができるという点も魅力の1つとして捉えています。
また、リーガルテック領域において課題となる弁護士法第72条の論点についても精査しました。弁護士法第72条は、非弁護士による法律事務の取扱い等を禁止する法律です。AI契約書レビューサービスがこの弁護士法第72条に抵触する可能性があると指摘があり、適法性に関する議論が2022年になされていました。2022年12月に内閣府のガイドラインで「既存サービスは適法」と認める判断を示す方針であると報じられていました。投資実行時点では各省庁からの発表から、法的問題は十分軽減されている判断でしたが、結果として2023年8月に法務省からガイドラインが出され、正式に適法性が確認されました。
リセの事業概要と高い成長性
ここからはリセの事業について詳しく説明していきます。
上記の機能が基本機能となっています。中小企業の法務部門は法務非専門家も多いため、法務非専門家にとても使い勝手の良いプロダクト設計となっています。よって網羅的にまんべんなく指摘するのではなく、重要箇所や揉めやすい箇所について要点を絞ってコメントしています。単に気づきの指摘を提示するだけではなく、さらに深く分析を行い、顧客が法的知識を持たなくても修正できる範囲まで、内容を複層的に分析し、具体的な修正例まで提示します。このような機能面の特徴によって他社サービスとは棲み分けがなされています。
実際に投資検討の際には競合サービスと比較したうえでリセを選択しているユーザーにも複数インタビューを行いました。業界を問わず少人数の法務部で契約書業務を支援するために導入されています。合理的な価格であることも魅力ですが、機能的にも十分で使いやすく、たとえ価格が同じだとしてもリセを選ぶという、ユーザーからの高い評価を確認しました。中には非専門家の法務部1人で年間700件の契約書を見ているような中堅企業もあり、強いニーズがあることを感じました。
さらに、今後は周辺サービスとの連携も計画しており、会計システムや電子契約サービスなどとAPI接続をすることで利便性が向上する予定です。また連携によって、利便性に加えて顧客基盤の獲得も見込まれており、一気に面を取っていく戦略の実現可能性が高いと考えています。
これらの独自性と市場規模が巨大であることを勘案すると、競合と棲み分けながら今後も事業を拡大していけるのではないかと考えています。
リセは過去の実績データも十分に蓄積しているため、KPIに関しても詳細に分析を行いました。様々な角度からベンチマークと比較し、成長性や収益性の面で非常に高い水準であることを確認しました。急速な成長と安定した実績が投資を決める一因となりました。
また価格設定においてアップセルが見込めるとも考えています。AIレビューの機能面でLeCHECKは現時点で既にリーガルフォースと遜色ないレベルであり、リーガルフォースが単価15-20万円であることを考慮すると、LeCHECKにはアップセルのポテンシャルがあると考えられます。
一方、今後リーガルフォースがLeCHECKと同じSME向けの領域に参入してくる可能性については、自社のARPUを下げるリスクが伴うために低いと判断しました。また継続性の高いサービスのため、LeCHECKが先に面を取ることでSME市場における先行優位を維持することができると考えています。
経営陣
次に経営陣について見ていきましょう。
代表の藤田CEOは、東京大学法学部から西村あさひ法律事務所に入り、パートナー弁護士にまでなっています。ビジネスパーソンとしての能力も高く、非常に高い情熱とエネルギーを持っているというリファレンスを得られました。
リセの三宮取締役も「芯の強さや、物事を進めていく力は並々ならぬものがある。マインドセットとして常にトップにいくという発想を持っている。決めたことは必ず実現させる。」というように藤田CEOを高く評価していました。
他の取締役についても、経営企画、営業、開発と役割分担が明確にされており、各領域で実績を積んだバランスの良いチーム体制となっています。
また藤田CEOをはじめ、複数人の取締役がリセに自ら出資をしていることからも強いコミットメントを感じました。
各メンバーとお話させていただく中で、このチームであれば『争いのない「滑らかな」企業活動の実現』というリセのミッションを実現してくれるに違いないと思い、自信をもって投資の意思決定をしました。
おわりに
最後にAngel Bridgeの今回の投資のポイントを改めてまとめます。
1つ目は巨大な市場があり、その中で独自のポジショニングを取れていることです。すべての中堅中小企業が対象となる事業でありその市場規模が大きいことは想像しやすいところです。実際にメガベンチャーも生まれています。AI契約書レビューは参入障壁が高くプレイヤーが少ない中で、さらにリセは明確に中堅中小企業向けにベストなプロダクトを提供することでポジションを確立し棲み分けがなされています。さらに弁護士法上の懸念が解消されたことも追い風となり今後成長が見込まれる魅力的な市場環境となりました。
2つ目は実際にプロダクトが多くの企業で導入され、各KPIが良好な水準で推移していることです。本記事中では具体的なKPIには触れていませんが、SaaS企業として各KPIを詳細に分析し、またベンチマークとの比較で評価を行いました。定量的にも今後の成長性と収益性が強く見込めると判断しています。
3つ目はやはり優秀な経営チームです。弁護士として経験豊富で強いパッションを持つ藤田CEOに加えて、三宮取締役、古田取締役、寄合取締役がそれぞれ違う強みを持ち合って、強いコミットメントでこの事業に向き合っていることが最大の強みとなっています。
以上のような観点でリセがビジョンを実現し社会に大きなインパクトを与えると共にメガベンチャーとなる可能性が非常に高いと考え、投資の意思決定をしました。
Angel Bridgeは社会に大きなインパクトをもたらすために、難しいことに果敢に取り組むベンチャーを応援しておきたいと考えています!事業の壁打ちや資金調達のご相談など、お気軽にご連絡ください!
2024年1月10日、Angel Bridgeの投資先である株式会社リセ(以下リセ)がシリーズBにて18億円の資金調達を発表しました。
リセは、中小規模の事業者向けに契約書レビュー支援AIクラウド「LeCHECK(リチェック)」を提供する企業です。創業者の藤田CEOは西村あさひ法律事務所で国内外の企業間紛争を専門に担当する弁護士でした。当時、中小企業が弁護士にレビューを依頼しないまま不利な契約を締結し、結果として悔しい想いをする場面を多く目の当たりにしたそうです。紛争を事前に防ぐためには適切にリーガルチェックを行う必要がありますが、特に中小企業ではコストの観点からチェックを十分に行わずに締結してしまっているケースも多いことに課題を感じていました。藤田CEOは「契約書をレビューして助言してくれるサービスがあれば、多くの中小企業が救われる。良質な法務サービスを、テックを用いて合理的な価格で提供しよう」という思いから2018年にリセを創業しました。
今回は、リセへAngel Bridgeが投資した理由を解説します。
リーガルテックの市場環境
まずリーガルテックの全体像を説明します。リーガルテックは以下のように分類され、領域ごとにプレイヤーが細分化されています。リセが属するAI契約書レビュー領域は参入ハードルが非常に高く、現状ではサービス提供できているプレイヤーは3社のみです。
AI契約書レビューの参入障壁は弁護士の確保です。精度の向上にはデータ量に加え専門家のマンパワーによる地道なチューニングが鍵となります。リセでは藤田CEO自身が弁護士として第一線で18年経験していることもあり、創業当初から専属の弁護士約30名が磨きこみを継続して実施することができています。条件分岐ごとに回答を作成する作業は地道で骨の折れる作業であり、コミットしてくれる弁護士を確保することは困難です。実際にリセ以外でAI契約書レビューサービスを提供している2社も、母体が弁護士事務所だからこそ実現できており、この参入障壁の高さが魅力の一つと考えました。
次にAI契約書レビューの市場規模を見てみましょう。
エンタープライズ向けにはLegalOn Technologiesがリーガルフォースを提供しており、未上場ながらも時価総額が880億円とメガベンチャーになっています。LegalOn Technologiesがエンタープライズ向けのサービスを高単価で提供しているのに対し、リセは従業員が20人から299人の中堅中小企業をメインターゲットとして使い勝手の良い機能を提供しています。対象企業は日本国内で55万社となっており、メガベンチャーを目指すのに十分な市場規模があると考えています。さらに市場をよく見た時にはエンタープライズと中堅中小企業でニーズが明確に異なり、棲み分けができるという点も魅力の1つとして捉えています。
また、リーガルテック領域において課題となる弁護士法第72条の論点についても精査しました。弁護士法第72条は、非弁護士による法律事務の取扱い等を禁止する法律です。AI契約書レビューサービスがこの弁護士法第72条に抵触する可能性があると指摘があり、適法性に関する議論が2022年になされていました。2022年12月に内閣府のガイドラインで「既存サービスは適法」と認める判断を示す方針であると報じられていました。投資実行時点では各省庁からの発表から、法的問題は十分軽減されている判断でしたが、結果として2023年8月に法務省からガイドラインが出され、正式に適法性が確認されました。
リセの事業概要と高い成長性
ここからはリセの事業について詳しく説明していきます。
上記の機能が基本機能となっています。中小企業の法務部門は法務非専門家も多いため、法務非専門家にとても使い勝手の良いプロダクト設計となっています。よって網羅的にまんべんなく指摘するのではなく、重要箇所や揉めやすい箇所について要点を絞ってコメントしています。単に気づきの指摘を提示するだけではなく、さらに深く分析を行い、顧客が法的知識を持たなくても修正できる範囲まで、内容を複層的に分析し、具体的な修正例まで提示します。このような機能面の特徴によって他社サービスとは棲み分けがなされています。
実際に投資検討の際には競合サービスと比較したうえでリセを選択しているユーザーにも複数インタビューを行いました。業界を問わず少人数の法務部で契約書業務を支援するために導入されています。合理的な価格であることも魅力ですが、機能的にも十分で使いやすく、たとえ価格が同じだとしてもリセを選ぶという、ユーザーからの高い評価を確認しました。中には非専門家の法務部1人で年間700件の契約書を見ているような中堅企業もあり、強いニーズがあることを感じました。
さらに、今後は周辺サービスとの連携も計画しており、会計システムや電子契約サービスなどとAPI接続をすることで利便性が向上する予定です。また連携によって、利便性に加えて顧客基盤の獲得も見込まれており、一気に面を取っていく戦略の実現可能性が高いと考えています。
これらの独自性と市場規模が巨大であることを勘案すると、競合と棲み分けながら今後も事業を拡大していけるのではないかと考えています。
リセは過去の実績データも十分に蓄積しているため、KPIに関しても詳細に分析を行いました。様々な角度からベンチマークと比較し、成長性や収益性の面で非常に高い水準であることを確認しました。急速な成長と安定した実績が投資を決める一因となりました。
また価格設定においてアップセルが見込めるとも考えています。AIレビューの機能面でLeCHECKは現時点で既にリーガルフォースと遜色ないレベルであり、リーガルフォースが単価15-20万円であることを考慮すると、LeCHECKにはアップセルのポテンシャルがあると考えられます。
一方、今後リーガルフォースがLeCHECKと同じSME向けの領域に参入してくる可能性については、自社のARPUを下げるリスクが伴うために低いと判断しました。また継続性の高いサービスのため、LeCHECKが先に面を取ることでSME市場における先行優位を維持することができると考えています。
経営陣
次に経営陣について見ていきましょう。
代表の藤田CEOは、東京大学法学部から西村あさひ法律事務所に入り、パートナー弁護士にまでなっています。ビジネスパーソンとしての能力も高く、非常に高い情熱とエネルギーを持っているというリファレンスを得られました。
リセの三宮取締役も「芯の強さや、物事を進めていく力は並々ならぬものがある。マインドセットとして常にトップにいくという発想を持っている。決めたことは必ず実現させる。」というように藤田CEOを高く評価していました。
他の取締役についても、経営企画、営業、開発と役割分担が明確にされており、各領域で実績を積んだバランスの良いチーム体制となっています。
また藤田CEOをはじめ、複数人の取締役がリセに自ら出資をしていることからも強いコミットメントを感じました。
各メンバーとお話させていただく中で、このチームであれば『争いのない「滑らかな」企業活動の実現』というリセのミッションを実現してくれるに違いないと思い、自信をもって投資の意思決定をしました。
おわりに
最後にAngel Bridgeの今回の投資のポイントを改めてまとめます。
1つ目は巨大な市場があり、その中で独自のポジショニングを取れていることです。すべての中堅中小企業が対象となる事業でありその市場規模が大きいことは想像しやすいところです。実際にメガベンチャーも生まれています。AI契約書レビューは参入障壁が高くプレイヤーが少ない中で、さらにリセは明確に中堅中小企業向けにベストなプロダクトを提供することでポジションを確立し棲み分けがなされています。さらに弁護士法上の懸念が解消されたことも追い風となり今後成長が見込まれる魅力的な市場環境となりました。
2つ目は実際にプロダクトが多くの企業で導入され、各KPIが良好な水準で推移していることです。本記事中では具体的なKPIには触れていませんが、SaaS企業として各KPIを詳細に分析し、またベンチマークとの比較で評価を行いました。定量的にも今後の成長性と収益性が強く見込めると判断しています。
3つ目はやはり優秀な経営チームです。弁護士として経験豊富で強いパッションを持つ藤田CEOに加えて、三宮取締役、古田取締役、寄合取締役がそれぞれ違う強みを持ち合って、強いコミットメントでこの事業に向き合っていることが最大の強みとなっています。
以上のような観点でリセがビジョンを実現し社会に大きなインパクトを与えると共にメガベンチャーとなる可能性が非常に高いと考え、投資の意思決定をしました。
Angel Bridgeは社会に大きなインパクトをもたらすために、難しいことに果敢に取り組むベンチャーを応援しておきたいと考えています!事業の壁打ちや資金調達のご相談など、お気軽にご連絡ください!
2023.12.18 INTERVIEW
医療現場の効率化を実現する機器管理システムに加え、新たなツールをリリース予定
HITOTSUの事業内容や競合状況を教えてください。
田村:医療業界の旧態依然とした業務を効率化し、医療従事者が本来の仕事に向き合えるプロダクトを展開しています。現在は臨床工学技士が使用する医療機器のデータ管理や点検、修理業務などを管理する『HITOTSU Asset』というクラウド型のシステムを提供しています。
医療機器管理システムの競合は存在しますが、HITOTSUは医療現場に寄り添ったUI・UXが強みです。私自身が臨床工学技士としての実務経験があり、その経験をベースにシステム開発を行っています。クラウド型のサービスであるため、日々システムのupdateをしたり、インターネットを経由してPMDA(独立行政法人 医薬品医療機器総合機構)が発出する回収情報や添付文書にタイムリーかつスムーズにアクセスできたり、外部の取引先などとやり取りができる点も特徴です。
佐藤:2024年1月には、医療施設と外部の企業とのコミュニケーションを効率化するためのコミュニケーションツールをリリース予定です。
本サービスは、病院と取引のあるメーカーや卸の企業、院内の臨床工学技士や看護師、管理課などを巻き込んで、医療現場の業務効率化を進めていきます。こちらのツールにおいては、医療業界に特化した特筆すべき競合プレイヤーはいません。
HITOTSUの強みはどこにあるとお考えですか?
田村:現場から評価いただいているポイントは、システム内に設置したチャットボットから病院側が質問や要望をコメントでき、カスタマーサポートチームがすぐに確認してシステムの改善サイクルに活かしていることです。要望にスムーズに応えることができる開発体制は大きな強みです。
佐藤:根源的な強みは、経営陣が三者三様の強みをもっていることだと思っています。創業者であり取締役会長の田村は医療現場をよく知っている。代表取締役CEOの私はヘルスケア領域での長い経営コンサルティング経験とベンチャー経営に関わった経験がある。もう1名のCTOの宮は、金融機関の基幹システムに携わった経験からセキュリティに強みをもち、UIに優れたサービスを提供する企業でテックリードの経験もある。経営陣3名がそれぞれの強みを活かし、互いを尊重しあっている関係性がHITOTSUのあらゆる強みに繋がっていると思います。
起業の理由は、医療現場の非効率な現状を変えたかったから
田村さんがHITOTSUを創業した経緯を教えてください。
田村:私は大阪の総合病院で臨床工学技士として7年間医療現場に携わったのですが、そのときに、医療従事者や医療機器業界に関わる人々が、非効率な業務によって疲弊している現状を知ったのです。医療機器をExcelや紙で管理していたり、外部とのやり取りは基本的に電話だったりする。医療従事者が本来注力すべきである、患者さんの対応以外の部分に時間を取られていました。
こうした課題は外部からはわからず、臨床工学技士にしか気づけない。それならば課題に気づいた自分が変えていくべきだと考え、HITOTSUの起業に至りました。
事業運営をしていく中で、特に大切にされていることを教えてください。
田村:仲間づくりです。起業したときは私1人しかいない状況から、約1年前に宮・佐藤が次いで入社したことで会社としての屋台骨ができて、開発・事業ともに大きく前進し、他のメンバー達も入社してくれて今や正社員で16名にまで拡大しました。一緒に働く仲間選びは非常に慎重に行いました。
仲間づくりをする上で大事にしてきたのは、HITOTSUがどんな事業をしていて、何を成し遂げたいのかをリアルに伝えることです。
まだその芽は見えないが、将来大きくなる ”匂い” のするアーリースタートアップで経営に携わりたかった
佐藤さんのご経歴や、HITOTSUに入社した経緯を教えてください。
佐藤:大学・修士課程ではアルツハイマー病の研究をしており、ヘルスケアや医療分野に強い興味をもっていました。卒業後は日系の保険会社でアクチュアリー(保険数理の専門職)業務を経験した後、ボストンコンサルティンググループ(以下BCG)に転職。製薬企業、医療機器メーカー、医療機関などへのコンサルティングに従事し、プロジェクトリーダーという所謂マネージャーの経験までさせていただきました。その後、バイオベンチャーにCOOとして入社し、その後CEOを務めました。
そして、そのバイオベンチャー時代に一緒に働いたHITOTSUの古くからの株主に誘われたことをきっかけに、2022年11月にHITOTSUにCOOとしてジョインし、2023年12月14日からCEOを務めることになりました。
HITOTSUに入社するとき、重視したことを教えてください。
佐藤:HITOTSUに入社を決めた理由は三つあります。
一つはスタートアップ経営に携われること。前職のバイオベンチャーでスタートアップ経営の面白さを体感し、自分に適性があると感じたからです。
ミッションとビジョンの実現に向けてチーム一丸となり取り組むこと、スピードとコミットメントとプロダクト愛の三つでエッジを立てて、社会にインパクトを生み出すことが非常に面白いと感じていました。
二つめは片手で数えられるくらいの人数しかいないアーリースタートアップに入社することです。スタートアップは人がすべてなので、早く入社できればその後のメンバーの採用に関われるため、いいチームを作れると考えました。
三つめは、何か将来伸びるのではないかという匂いを感じたからです。HITOTSUは医療現場のデータをもっていて、臨床工学技士さんとの接点がある。この点を生かして、医療現場の声を聞いていけば、今はまだ大きく跳ねる出口が見えていなくても、何か見つけられるのではないかと直感しました。
HITOTSUへの入社は、話を聞いてすぐに決意されたのでしょうか?
佐藤:きっかけは、HITOTSUに投資いただいているベンチャーキャピタルの方から、「プレA資金調達を終えたHITOTSUというヘルスケアスタートアップがCOOを探している」と声掛けいただいたことでした。COOに求める要件は、大きな戦略が描けて、パッションに溢れていること。ヘルスケア領域の経験があればさらに良いとのことでした。「佐藤さんしかいないでしょ?」とお声がけいただき、その日に田村とメッセンジャーで繋がりました。
田村:投資家の方から佐藤の事前情報を聞いたときに「HITOTSUが求めているのは、この人だ」という運命的なものを感じ、ワクワクして面談したのを覚えています。
さっそくその日にオンラインで、医療業界の課題や想いを伝えたところ、非常に盛り上がって1時間半ほど話しました。そこで「今度飲みに行きませんか?」と誘ったんです。
お互いにスケジュールを確認したら当日の夜が二人とも空いていたので、新宿のイタリアンの店で待ち合わせました。CTOの宮もオンラインで参加し、そこでも2時間くらい話し込んだんです。佐藤に対しては、能力はもちろんのこと、この人なら任せられるし、つらい時もやっていけるという印象をもちました。
佐藤:田村の第一印象は、自分が経験した社会課題の解決に全身全霊でエネルギーを注いでいる人だと思いました。課題を感じていても起業というリスクを取れる人はなかなかいません。そこにポンと踏み込む度胸にも惹かれました。
そして、田村がもっていないビジネス経験は私が補える。一緒にやれたら面白いんじゃないかと感じ、HITOTSUへのジョインを決めました。
CEOの交代が、事業を最大化するための最善の選択だった
CEOを田村さんから佐藤さんへと交代する背景を教えてください。
田村:CEO交代という最終着地は、私にもHITOTSUにとっても、非常にいい意思決定でした。私は医療現場の課題を知っているからこそ、解決したいという強い想いがあります。
しかし、事業が広がっていく中で、私が経験のない事業戦略のウェイトがどんどん大きくなり、自分の実行力とのギャップを感じ始めていました。
佐藤とディスカッションを重ねていく中で、「人にはそれぞれ強みがあり、強みを発揮できる場所がそれぞれにある」という言葉を聞いたときに、非常に腹落ちしたと同時に救われた気持ちになりました。
強い使命感をもってこれまでやってきましたが、よく考えればHITOTSUには私以外にも優秀なメンバーがいるわけです。このタイミングで佐藤にCEOというバトンをパスするのがHITOTSUの事業成長を最大化するのに最適であると決意しました。この「事業成長の最大化」というのは経営メンバー3人で合言葉にしているフレーズです。
CEO交代の話があったときに、佐藤さんはどう感じましたか?
佐藤:田村の医療現場での実体験は、今となっては事業戦略の一部なので、田村がキャップになってしまうと会社としての成長も止まってしまいます。会社を非連続的に成長させるためには、CEOを変えるべきだと私も思っていました。
ただ、創業者として自分がやり続けるという意思決定も十分にありえることです。しかし、最終的には事業を最大化するための意思決定をするという合意ができ、CEOを交代することになりました。自分の立場のためでなく、会社が社会課題を解決するために意思決定をした田村は素晴らしいと思いました。
Angel Bridgeの強みは、ファイナンスとベンチャー投資に強いツートップとコンサルファーム出身のメンバー
Angel Bridgeは、他のVCとどのような違いがありますか?
佐藤:投資の検討段階から非常に密なやり取りをさせていただきました。他のベンチャーキャピタルと比較した特徴として、会社の座組が非常にいいと思っています。TOPのお二人がそれぞれファイナンスとベンチャー投資という専門知識をお持ちで、メンバーの方はコンサルファーム出身で、事業戦略や分析に長けています。そのため、土地勘の無い事業でも、この会社は投資に値するかというジャッジを精度高く実行されている印象です。
Angel Bridgeメンバーにどのような印象をお持ちですか?
佐藤:担当の八尾さんは、我々の生命線となるような事業戦略について深く質問してくださって、ディスカッションを通して我々の戦略もブラッシュアップされていきました。コンサルとVCの経験をお持ちであることが非常に心強かったです。また、DDのプロセスで本当にハンズオンで伴走してくれることを感じました。
Angel Bridgeに対して、どのようなことを期待していますか?
佐藤:八尾さんにはスキルセットという貢献をしていただいたので、今後は林さんから業界のキーパーソンを紹介いただき、さまざまな会社さんにアプローチしてパートナーシップを広げていけたらと思っています。もう1つは採用支援ですね。アーリースタートアップは本当に「人が全て」ですので。
業界のエキスパートとプロのビジネスマンという最強のコンビネーション
HITOTSUへ投資するに至った経緯を振り返ってください。
八尾:オンラインでさまざまな会社を調べていたところ、医療機器管理の領域のサービスを展開しているHITOTSUを見つけました。海外で類似の企業を見たことがありポテンシャルを感じて、既存の投資家さん経由でコンタクトをとりました。2023年8月に佐藤さんと面談をして何度かお話しするうちに10月頃から本格的に投資を検討することになりました。
投資に至った大きな柱は経営陣です。やり取りする中で、佐藤さんは非常に優秀な方だと感じました。議論の内容が非常に的確で、質問したときのレスポンスの速さや返答のクオリティが尋常ではありませんでした。将来的な展開まで見据え、本当に深く事業について考えられているのだなと実感しました。
さらに、創業者である田村さんが臨床工学技士を経験した業界のエキスパートである点も大きな強みです。営業の現場において、臨床工学技士を経験された立場として懐に入っていけますし、プロダクトの作りこみの観点でも現場を知り尽くした田村さんの経験が遺憾なく発揮されています。HITOTSUのビジネスモデルにおいては、業界のエキスパートとプロのビジネスマンというコンビネーションは最強だと考えました。
また、事業としての広がりも感じています。祖業である医療機器管理にはじまり、コミュニケーションツールへの展開が実現すれば、その先にはさまざまな事業展開が想像でき、メガベンチャーのポテンシャルを感じました。
さらに、既存プロダクトがユーザーにしっかり評価されている点にも注目しました。導入後に満足度高く使っていただいていることが、コメントや数値面からわかりました。
これらを総合して、中長期的にお付き合いしたい会社であり、非常によい投資になるだろうと考えました。
田村さん、佐藤さんにどのような印象を持たれましたか?
林:私たちは投資の意思決定をするときに食事会をさせていただいています。そのときに佐藤さんの頭脳の明晰さとパッションを感じました。田村さんは地方に行って1日病院10件くらいを訪問し、様々な医療現場から生の声を聞くことを大事にしていて、素晴らしいと思いました。想いがあるから地道な活動を続けられるのだと思います。
八尾:CEO交代という意思決定はなかなかできることではありません。トラブルがあって交代することはあっても、会社の成長のために交代する決断をするという話はあまり聞いたことがありません。こうした意思決定をできる田村さんと任される佐藤さん2人の信頼関係を感じます。投資を決定する場合は経営者が大事だという想いをもっていますが、HITOTSUは素晴らしい経営陣が揃っていることが特筆すべき点です。
医療業界との接点とデータをテコにして、日本の医療の黒字化を目指す
HITOTSUの今後の展望について教えてください。
佐藤:医療機器管理を起点として、医療業界のアナログな業務を変えていきたいと考えています。我々のミッションは「日本の医療を黒字化する」という壮大なものです。しかし、クラウドやデータで医療業界が外部とつながることができれば、実現できるミッションだと考えています。
我々の強みである、医療業界との接点とデータをテコにして、ミッションを実現していきたいです。
Angel Bridgeとしては、今後どのようなサポートをしていきますか?
林:私たちは投資先の会社さまには、ヒト・モノ・カネという点で応援をしています。重要な役割やポジションの方の紹介や、事業面では課題解決のサポート、営業面では営業先や提携先の紹介などをしていきたいです。そして次回のファイナンスなどの準備もお手伝いしていきます。DDの過程でも、医療業界でネットワークをお持ちの方々に話を聞いたうえで、HITOTSUさんに投資を決めました。そういった方々とも連携する機会を提供できればと考えています。
変化を楽しめる、成長志向のあるチームプレイヤーにジョインしてほしい
HITOTSUでは採用を強化していくそうですが、どのような職種や経験の方を求めていますか?
佐藤:現在、正社員は16名ですが、1年後には40名まで拡大したいと考えています。特に求めている職種は三つあります。一つはエンジニアで、メンバーレベルからテックリード、VPoEクラスまで、幅広く募集しています。二つめはプロダクトを統括するプロダクトマネージャー、三つめは経営企画です。現在は私がCEO経営企画・経営管理ロールをやりながら、事業開発・カスタマーサクセスを統括しているため、経営企画・社長室として活躍できるコンサルティング経験のある若手メンバーを求めています。経営の根幹をCEOと共に担っていくポジションのため、さまざまな経験を通じてスキルアップができます。
求める人物像について教えてください。
佐藤:まずはチームプレイヤーであること。そして会社と個人両面での成長を主体的に目指せる人です。現状維持で業務をこなすのではなく成長志向のある人を求めています。そして、アーリースタートアップなので日々刻々と変化する状況を楽しめることも重要です。
HITOTSUは来年1月に新しいプロダクトのリリースを控え、ここから事業や組織がどんどん変化して大きくなっていくフェーズです。2ヶ月単位で違う会社になっていくような状況で今が一番面白い転換点なので、多くのメンバーにジョインしてほしいです。
2023.12.18 INVESTMENT
2023年12月、Angel Bridgeの投資先であるHITOTSU株式会社がA1ラウンドにて2億円の資金調達を発表しました。
HITOTSUは医療機器管理SaaSのHITOTSU AssetとコミュニケーションDXサービスのHITOTSU Linkを提供しております。前者は医療機器管理に関するペインを解決するプロダクトで、クラウドベースで院内のあらゆる機器・資産を一括管理・情報共有し、医療DXを実現します。後者は今回新たにリリースされる新サービスで、臨床工学技士と販売業者やメーカー間のコミュニケーションを効率化するプロダクトです。医療業界に特化したUIにより医療DXを実現します。
今回は、HITOTSUへAngel Bridgeが投資した理由を解説します。
医療機器業界の市場構造
医療機器はメーカーから販売業者を通して医療機関に提供され、医療機関内では臨床工学技士が点検、修理、在庫管理を担っています。メーカー(約600社)や販売業者(2,000社以上)は取り扱う医療機器の種類や地域で細分化され、中規模事業者が多数存在しており、SaaSによる効率化余地の残された市場となっています。
また、HITOTSUが最初のターゲットとしている臨床工学技士は病院内で23,000人が勤務しています。臨床工学技士は生命維持装置を取り扱う医療機器のスペシャリストで、病院内の医療機器やシステムに関して意思決定権を持っているケースも多いです。そんな重要度の高い臨床工学技士だからこそ、業務の効率化やコミュニケーションの接点を増やすことに高いニーズがあると考えています。
医療機器の管理業務における課題
現状は多くの場合アナログで非効率な方法で医療機器を管理しており、病院、臨床工学技士、販売業者それぞれにペインが存在しています。実際にこれらのペインは現場の声として、HITOTSUの導入事例の中で複数の病院から確認したほか、業界エキスパートへのヒアリングを通して販売業者側のペインも確認することができました。
病院のペイン
- 医療機器が院内のどこに何台あるかを把握できていない(把握するのに多くの工数がかかる)
- 医療機器の稼働率に基づいた保有台数の最適化ができていない
臨床工学技士のペイン
- 膨大な紙による事務作業で記入や管理などに工数を取られ業務がひっ迫している
- 販売業者やメーカーとはメール、FAX、口頭伝達など複数の手段でコミュニケーションが発生しており、効率悪化とトラブル発生の原因となっている
販売業者のペイン
- 他社販売業者との差別化として経営改善のアドバイスをしたいができることが少ない
- 臨床工学技士との接点が少なく、関係性を深めることが十分にできていない
HITOTSUはクラウド型の医療機器管理SaaSとコミュニケーションツールを提供しこれらのペインを解消します。
サービス概要
では、HITOTSUの提供するサービス内容をご紹介します。
HITOTSUは現在二つのプロダクトを展開しています。
① 医療機器管理SaaS HITOTSU Asset
医療機器の購買・管理・使用におけるアナログな事務作業を一つのツールで効率化します。特徴は3つあります。特徴1: クラウドならではの利便性
- あらゆる場所・端末からアクセス可能
- 強固なセキュリティ
特徴2: かゆい所に手が届き業務効率を劇的に改善
- 臨床工学技士の視点をもとに開発された豊富な機能
- 徹底的に磨きこんだUI(Chatbotを介した改善要望に基づき年間103回(2022年実績)もの改善活動を実施)
特徴3: 現場にとどまらず経営改善のインパクトを創出
②コミュニケーションDX HITOTSU Link
医療業界特化のコミュニケーションツールを提供し、業界課題である非効率なコミュニケーションを解決します。まずは臨床工学技士と販売業者間のコミュニケーションを効率化します。
特徴は3つあります。
特徴1: 情報共有の効率化
- グループに招待すれば過去のやり取りも閲覧可能で、引継ぎや新人教育に活用可能
- チャット形式のUIや既読機能でコミュニケーションが活発化、言った言わないのトラブルを削減できる
特徴2: 医療機器管理システムとの連携
- HITOTSU Asset 登録の機器管理番号をLink上で入力すると、自動でデータ連携。修理・見積依頼の煩わしさを大幅低減
- Link上でやり取りした電子ファイルが医療機器管理システムHITOTSU Assetにも自動連携
特徴3: 医療業界に特化した病院ならではの機能
業務日報、リマインダー、発注、入館管理など、医療業界フィットしたUIで提供することが可能
これらのプロダクトが本当にニーズに応えられているかどうかという観点で導入実績の精査を行いました。ローンチから間もないとは言え、初期の導入先においてしっかり活用されているかどうかは非常に重要なポイントだと考えています。個社ごとのアクティブ率や、非アクティブな先については背景にある定性的な状況についても詳しく理解を進めました。結果としてしっかりニーズを掴んだプロダクトであることが分かり、検討を進めることができました。
こういったプロダクトは、「業界標準プラットフォームをとれるかどうか」が成否を分けますが、そこに向けて今後の各種戦略が練り込まれており、投資意思決定に至りました。
競合
HITOTSU Assetの競合についてです。
まず下図の低価格だが利便性が低いカテゴリに属するものを見ていきます。
①Excel+紙、自作ソフトを利用するケース
最も多いのがこのケースです。外部コストはゼロに抑えられますが、実際には構築するのに人的コストがかかっているうえに、機能や使い勝手が良くなく、業務効率が低下しています。さらに担当技士の離職時にメンテナンスが困難でリスクが高いです。
②低価格クラウド
低価格のクラウドで提供されているものを活用している病院もあります。基本的には非専業のメーカーが他領域で作成したシステムを転用して提供しており、機能が不足しています。また、クラウド型ではありますが、UIも前時代的で使い勝手も良くないことが多く、安かろう悪かろうの状態になっています。
次に下図の利便性は高いが高価格なカテゴリに属するものを見ていきます。
③オンプレミス型で提供している中価格帯or高価格帯のサービス
オンプレミス型は高価だが使い勝手が悪いというところにペインが存在します。5年で500万-2,000万円の費用が掛かり、初期費用負担が重く、大規模病院でないと導入が難しい規模感です。機能が多すぎる、UIが悪いなどの理由で現場では使いこなせていないケースも多く存在します。
以上のように競合サービスは存在するものの、魅力的なサービスを提供できれば十分勝ち目のある市場だと捉えています。
実際にHITOTSUは低価格と利便性の高さを同時に達成できており、導入病院数も急速に増加しています。
経営陣
Angel BridgeがHITOTSUに投資するにあたり、経営チームへの理解を深めました。佐藤CEOは東京大学総合文化研究科広域科学専攻を修了。三井住友海上、ボストンコンサルティング(医療ヘルスケア領域を主に担当)、バイオベンチャーにてCEOを務めるなど経営経験豊富で、医療領域の知見も持ち合わせる稀有な人材です。また田村会長は臨床工学技士としての原体験を持ち、創業者としてビジョンを掲げてチームを率い、エキスパティーズをプロダクトに注入してきました。
業界のエキスパートである田村会長と経営経験豊富な佐藤CEOのコンビネーションはこの領域で事業展開していくにはこれ以上ない経営チームであると考えました。
まとめ
最後にAngel Bridgeの今回の投資のポイントを改めてまとめます。
1つはやはり経営陣の強みです。Angel BridgeではVertical SaaS業界を突破する秘訣は業界専門家と優れたビジネスマンのコンビネーションだと考えています。Verticalに勝負する上では非常に高い解像度でペインを理解することが重要、かつ営業面でも業界内部の人間であることは強みとなります。これらの観点で業界専門家が経営陣にいることが重要です。一方で業界専門家は必ずしもビジネスに明るいわけではありません。ニッチになってしまいがちなVerticalビジネスモデルで大きな構想を描いて事業を推進していくにはやはり優れたビジネスマンとタッグを組むことが重要だと考えています。HITOTSUはまさにこのコンビネーションが実現されており、非常に魅力的に感じたポイントでした。
2つ目は中長期的に強力なMoatを築けるビジネスモデルです。HITOTSUはVerticalにマルチプロダクトをすごいスピードで出していく構想を持っています。シングルプロダクトのベンチャーと比較して開発や営業などハードルは高いとは思うものの、それぞれの業界プレーヤに刺さるプロダクトを通じて巻き込み、エコシステムを構築し、利便性を一気に向上し・・・というサイクルが回り始めれば、結果としての非常に強い参入障壁を築くことができます。
結果としてHITOTSUには業界スタンダードとして高いペネトレーションを実現し、医療業界に変革をもたらしメガベンチャーとなるポテンシャルがあると考え、投資意思決定をしました。
今後はHITOTSUがビジョンを実現し医療業界にとって欠かせない存在となるために、Angel Bridgeとして全方位でご支援していきます。
Angel Bridgeは社会に大きなインパクトをもたらすために、難しいことに果敢に取り組むベンチャーを応援していきたいと考えています!事業戦略の壁打ちや資金調達のご相談など、お気軽にご連絡ください!
2023年12月、Angel Bridgeの投資先であるHITOTSU株式会社がA1ラウンドにて2億円の資金調達を発表しました。
HITOTSUは医療機器管理SaaSのHITOTSU AssetとコミュニケーションDXサービスのHITOTSU Linkを提供しております。前者は医療機器管理に関するペインを解決するプロダクトで、クラウドベースで院内のあらゆる機器・資産を一括管理・情報共有し、医療DXを実現します。後者は今回新たにリリースされる新サービスで、臨床工学技士と販売業者やメーカー間のコミュニケーションを効率化するプロダクトです。医療業界に特化したUIにより医療DXを実現します。
今回は、HITOTSUへAngel Bridgeが投資した理由を解説します。
医療機器業界の市場構造
医療機器はメーカーから販売業者を通して医療機関に提供され、医療機関内では臨床工学技士が点検、修理、在庫管理を担っています。メーカー(約600社)や販売業者(2,000社以上)は取り扱う医療機器の種類や地域で細分化され、中規模事業者が多数存在しており、SaaSによる効率化余地の残された市場となっています。
医療機器の管理業務における課題
現状は多くの場合アナログで非効率な方法で医療機器を管理しており、病院、臨床工学技士、販売業者それぞれにペインが存在しています。実際にこれらのペインは現場の声として、HITOTSUの導入事例の中で複数の病院から確認したほか、業界エキスパートへのヒアリングを通して販売業者側のペインも確認することができました。
病院のペイン
- 医療機器が院内のどこに何台あるかを把握できていない(把握するのに多くの工数がかかる)
- 医療機器の稼働率に基づいた保有台数の最適化ができていない
臨床工学技士のペイン
- 膨大な紙による事務作業で記入や管理などに工数を取られ業務がひっ迫している
- 販売業者やメーカーとはメール、FAX、口頭伝達など複数の手段でコミュニケーションが発生しており、効率悪化とトラブル発生の原因となっている
販売業者のペイン
- 他社販売業者との差別化として経営改善のアドバイスをしたいができることが少ない
- 臨床工学技士との接点が少なく、関係性を深めることが十分にできていない
HITOTSUはクラウド型の医療機器管理SaaSとコミュニケーションツールを提供しこれらのペインを解消します。
サービス概要
では、HITOTSUの提供するサービス内容をご紹介します。
HITOTSUは現在二つのプロダクトを展開しています。
① 医療機器管理SaaS HITOTSU Asset
- あらゆる場所・端末からアクセス可能
- 強固なセキュリティ
特徴2: かゆい所に手が届き業務効率を劇的に改善
- 臨床工学技士の視点をもとに開発された豊富な機能
- 徹底的に磨きこんだUI(Chatbotを介した改善要望に基づき年間103回(2022年実績)もの改善活動を実施)
特徴3: 現場にとどまらず経営改善のインパクトを創出
②コミュニケーションDX HITOTSU Link
医療業界特化のコミュニケーションツールを提供し、業界課題である非効率なコミュニケーションを解決します。まずは臨床工学技士と販売業者間のコミュニケーションを効率化します。
特徴は3つあります。
特徴1: 情報共有の効率化
- グループに招待すれば過去のやり取りも閲覧可能で、引継ぎや新人教育に活用可能
- チャット形式のUIや既読機能でコミュニケーションが活発化、言った言わないのトラブルを削減できる
特徴2: 医療機器管理システムとの連携
- HITOTSU Asset 登録の機器管理番号をLink上で入力すると、自動でデータ連携。修理・見積依頼の煩わしさを大幅低減
- Link上でやり取りした電子ファイルが医療機器管理システムHITOTSU Assetにも自動連携
特徴3: 医療業界に特化した病院ならではの機能
業務日報、リマインダー、発注、入館管理など、医療業界フィットしたUIで提供することが可能
これらのプロダクトが本当にニーズに応えられているかどうかという観点で導入実績の精査を行いました。ローンチから間もないとは言え、初期の導入先においてしっかり活用されているかどうかは非常に重要なポイントだと考えています。個社ごとのアクティブ率や、非アクティブな先については背景にある定性的な状況についても詳しく理解を進めました。結果としてしっかりニーズを掴んだプロダクトであることが分かり、検討を進めることができました。
こういったプロダクトは、「業界標準プラットフォームをとれるかどうか」が成否を分けますが、そこに向けて今後の各種戦略が練り込まれており、投資意思決定に至りました。
競合
HITOTSU Assetの競合についてです。
まず下図の低価格だが利便性が低いカテゴリに属するものを見ていきます。
①Excel+紙、自作ソフトを利用するケース
最も多いのがこのケースです。外部コストはゼロに抑えられますが、実際には構築するのに人的コストがかかっているうえに、機能や使い勝手が良くなく、業務効率が低下しています。さらに担当技士の離職時にメンテナンスが困難でリスクが高いです。
②低価格クラウド
低価格のクラウドで提供されているものを活用している病院もあります。基本的には非専業のメーカーが他領域で作成したシステムを転用して提供しており、機能が不足しています。また、クラウド型ではありますが、UIも前時代的で使い勝手も良くないことが多く、安かろう悪かろうの状態になっています。
次に下図の利便性は高いが高価格なカテゴリに属するものを見ていきます。
③オンプレミス型で提供している中価格帯or高価格帯のサービス
オンプレミス型は高価だが使い勝手が悪いというところにペインが存在します。5年で500万-2,000万円の費用が掛かり、初期費用負担が重く、大規模病院でないと導入が難しい規模感です。機能が多すぎる、UIが悪いなどの理由で現場では使いこなせていないケースも多く存在します。
以上のように競合サービスは存在するものの、魅力的なサービスを提供できれば十分勝ち目のある市場だと捉えています。
実際にHITOTSUは低価格と利便性の高さを同時に達成できており、導入病院数も急速に増加しています。
経営陣
Angel BridgeがHITOTSUに投資するにあたり、経営チームへの理解を深めました。佐藤CEOは東京大学総合文化研究科広域科学専攻を修了。三井住友海上、ボストンコンサルティング(医療ヘルスケア領域を主に担当)、バイオベンチャーにてCEOを務めるなど経営経験豊富で、医療領域の知見も持ち合わせる稀有な人材です。また田村会長は臨床工学技士としての原体験を持ち、創業者としてビジョンを掲げてチームを率い、エキスパティーズをプロダクトに注入してきました。
業界のエキスパートである田村会長と経営経験豊富な佐藤CEOのコンビネーションはこの領域で事業展開していくにはこれ以上ない経営チームであると考えました。
まとめ
最後にAngel Bridgeの今回の投資のポイントを改めてまとめます。
1つはやはり経営陣の強みです。Angel BridgeではVertical SaaS業界を突破する秘訣は業界専門家と優れたビジネスマンのコンビネーションだと考えています。Verticalに勝負する上では非常に高い解像度でペインを理解することが重要、かつ営業面でも業界内部の人間であることは強みとなります。これらの観点で業界専門家が経営陣にいることが重要です。一方で業界専門家は必ずしもビジネスに明るいわけではありません。ニッチになってしまいがちなVerticalビジネスモデルで大きな構想を描いて事業を推進していくにはやはり優れたビジネスマンとタッグを組むことが重要だと考えています。HITOTSUはまさにこのコンビネーションが実現されており、非常に魅力的に感じたポイントでした。
2つ目は中長期的に強力なMoatを築けるビジネスモデルです。HITOTSUはVerticalにマルチプロダクトをすごいスピードで出していく構想を持っています。シングルプロダクトのベンチャーと比較して開発や営業などハードルは高いとは思うものの、それぞれの業界プレーヤに刺さるプロダクトを通じて巻き込み、エコシステムを構築し、利便性を一気に向上し・・・というサイクルが回り始めれば、結果としての非常に強い参入障壁を築くことができます。
結果としてHITOTSUには業界スタンダードとして高いペネトレーションを実現し、医療業界に変革をもたらしメガベンチャーとなるポテンシャルがあると考え、投資意思決定をしました。
今後はHITOTSUがビジョンを実現し医療業界にとって欠かせない存在となるために、Angel Bridgeとして全方位でご支援していきます。
Angel Bridgeは社会に大きなインパクトをもたらすために、難しいことに果敢に取り組むベンチャーを応援していきたいと考えています!事業戦略の壁打ちや資金調達のご相談など、お気軽にご連絡ください!
2023.11.09 INTERVIEW
ゲノム解析技術がもたらす恩恵を多くの人に届けたい
改めまして、齊藤さんのお言葉でVarinosの事業内容を解説いただけますか?
齊藤:Varinosはゲノム解析技術をもとに各種臨床検査サービスを提供するスタートアップです。現在は不妊治療の一環として行われる子宮内フローラ検査、着床前ゲノム検査、次世代POCゲノム検査のほか、妊娠中や妊娠に備える女性のためのサプリメントの提供も行っています。いずれも不妊治療に費やす時間や経済的負担を減らし、不妊に悩む女性やご家族の苦しみを和らげるために開発したサービスです。
齊藤さんの管掌範囲と職務内容を教えてください。
CSOとCOOを兼務しています。CSOとしての役割は全社戦略や事業戦略の全体像から、各戦略を実現してくための事業プランを策定することで、もう一方のCOOとしての役割ではそれら戦略や事業プランに基づき、組織やオペレーション構築から、プロジェクトマネジメントを含めた実行・運用部分を統括しています。さらに最近、管掌範囲に広報・PRも加わって、戦略策定から実行フェーズまで幅広い業務にコミットしている状況です。
齊藤さんは北大獣医学部を卒業された後、アステラス製薬で臨床開発に携わり、その後、戦略コンサルティングのドリームインキュベータ、医療ITのエムスリー、AI開発のPreferred Networks(以下、プリファード)で活躍されました。これまでどのような基準でキャリアを選択してこられましたか?
齊藤:新卒で入社したアステラス製薬で医薬品の臨床開発と社会人としてのイロハ、特に事業会社的なウェットな仕事の進め方などを学び、次に選んだのが戦略コンサルティングファームのドリームインキュベータでした。製薬企業での仕事は、ビジネスや経営といった企業活動の上流部分とは無縁だったので、まったくの素人から大局的な思考やビジネスの上流設計を身に着けていくには戦略コンサルティングが一番近道だと考えたからです。その後、戦略構築だけでなく、そこで身に着けたスキルや思考力で事業を実際に立ち上げて成長させてみたいと思い、エムスリーとプリファードという分野の異なる事業会社に進みました。いまVarinosにいるのはこれまでの経験を活かして、創業間もないスタートアップをどこまで成長させていけるかにチャレンジしてみたいと思ったからです。
優れたサービス品質とそれを裏付ける確かな技術力
齊藤さんはVarinosのどこに将来性を感じたのでしょう?
齊藤:まずはシンプルにサービスと市場を見たときに、これはきっとうまくやれば勝てると思ったことです。市場の特性や、その市場におけるアンメットニーズと提供するサービスバリューのマッチングが明確で、かつバリューを支える品質と技術力の確かさ全てが揃っているなと。不妊治療における体外受精成功率が残念ながら高いとは言えない状況の中で、Varinosが提供する子宮内フローラ検査にはその課題を解決するという明確なバリューがありました。かつ、超微量の菌量を測定するという難易度の高い解析においても、解析結果が出ない割合はわずか1%程度に過ぎないという高い性能を誇っています。きちんとしたエビデンスがあることや、細かい精度の差が医師や患者さんにとって大きな価値となりうる医療業界の中で、この製品力はこの上ない大きな強みであり、スタートアップでもこの業界で十分戦っていけると確信したので、このサービスの成長に貢献しようと決めました。
入社後、とくに大変だったことについて聞かせてください。
齊藤:そもそも勝ち筋とアプローチ方法に関しては、入社前にある程度想定できていたので、正直、事業面で苦労した記憶はあまりありません。強いて言えば、入社時に、余りにも何も整ってなかったので、これを1から整えていくのは大仕事だなあと思ったことくらいでしょうか。自分は事業活動の中で見出したファクトをベースにPDCAを回して行く事が基本スタンスなのですが、当時は顧客リストも案件管理も整備されておらず、過去のファクトなども洗えない状況でした。そのため、現状を把握し業務プロセスをイチから整えるのはそれなりに手間がかかりましたが、優秀な元同僚に声をかけてVarinosに参画いただき、短期間でインフラを整備できました。また事業面のみならず財務面や経営管理などでも、すぐにでもやるべきことが山積みの状態だったので、自分だけでは手が回らないかも、と思いはじめていた矢先に、河西さんが現CFO兼経営管理本部長の平川を引っ張ってきてくれたんです。おかげでずいぶん気が楽になりましたし、会社活動全体もうまく回るようになりました。河西さんにはいくら感謝しても足りません。本当に助かりました。
河西:齊藤さんと平川さんが入社されてからVarinosの売上が大きく伸びたので、私としてもご紹介した甲斐がありました。齊藤さん、平川さんを往年の時代劇「水戸黄門」にたとえるとすると、CEOの桜庭さんが黄門様で、おふたりは黄門様を支える家臣の助さんと格さんといったところではないでしょうか。どちらも非常に心強い存在です。
齊藤:結果を残すのが私たちのミッションですからそう言っていただけて嬉しいですね。
河西:齊藤さんはさまざまな業界で経験を積まれています。異なる環境下で常に結果を出し続けるため心がけていることはありますか?
齊藤:結果を出すのは、特に現場で数字を上げてくれるフロントメンバーや、バックでサポートいただいてるメンバーの尽力あってのことという前提があっての話ですが、私の立場で心がけているのは、戦略立案はもちろん、結果を出すまでのロードマップやそれらが順調に進んでいるかを評価するためのKPIの作り込みと、実行した際の評価と改善を徹底することですね。勘や楽観的な解釈、妄想と大差ない思い込みなどはできるだけ排除し、常にファクトに基づいて施策や活動を評価し、成功事例は拡大させて、うまくいかないものは改善するなり、切り捨てるなりする。それを成果を出すまで繰り返していくというのが私のやり方です。要は愚直に当たり前のことを当たり前に突き詰めるというだけなのですが。これは決して唯一解ではないと思いますが、少なくともVarinosではこういった取り組みがいまのところ功を奏しているのかなと思います。
河西:確かに。齊藤さんの仕事ぶりを間近で見ているのでよくわかります。
齊藤:ありがとうございます。いまお話しした結果とは、要は売上や利益です。個人的には、当然経営者として追求すべき指標であると同時に、事業活動に対する公正な評価指標だと思ってます。たとえば、自分ではうまくやったつもりでも売上が全然上がってなかったら、その活動成果は意味がないと同時に着目すべき課題がほかにあるという示唆にもなるでしょう。また、逆に何もしてないのに売上が上がってたら未知の外部要因による可能性を示唆しているので、さらに事業をレバレッジさせる成功要因を見つけるきっかけにもなります。このような形で徹底的に知恵を絞って客観的に出てきた数字を評価をして、課題を特定・対処可能なサイズにまで分解して、勝ち筋を見つけ徹底的にやりきることが、成功に繋がる道なのかなと思います。ですからどんなに泥臭いことでも取り組むスタンスは重要でした。
経営者の孤独を癒やす「クロスラーニングの会」
話は遡りますが、おふたりが出会ったのはいつですか?
齊藤:私がプリファードにいたころでしたね。
河西:そうでした。私はVarinosと創業直後からかかわっており、当時からVarinosをサイエンティストの集団として高く評価していました。しかし、サイエンティスト集団であるがゆえ、事業を回しスケールさせる人材が足りないという弱点も抱えていました。そこで以前からお付き合いのあった人材エージェントに相談をもちかけたところ、紹介していただいたのが齊藤さんでした。
齊藤:河西さんにお会いしたころはまだ会社を辞める予定はなかったのですが、はじめてお会いした後も、3カ月に1度くらいのペースで定期的にお会いしてましたね。
河西:ええ。判で押したように定期的にお会いするよう働きかけたのは、齊藤さんが転職したいと思われるタイミングを逃したくなかったからなんです。
齊藤:そうだったんですね。おかげさまでいまの自分にあった環境に巡り合えました。ありがとうございます(笑)
ところで河西さんは、なぜ齊藤さんがVarinosの経営陣にふさわしいと感じたのでしょうか? 白羽の矢を立てた理由を聞かせてください。
河西:齊藤さんは獣医学部出身で獣医師免許もお持ちで、サイエンスもわかるし製薬の経験もおありです。それに加え、戦略コンサルや事業会社で新規事業の立ち上げもある。レジュメをひと目見てこの人が必要だと思いましたね。
齊藤:Varinos以外にも何社か投資先をご紹介いただきましたね。私の目にとりわけ魅力的に映ったのがVarinosでした。
河西:それで早速、桜庭さんに引き合わせたところ意気投合し、その後トントン拍子に話が進み入社が決まりました。齊藤さんは経験も実力も兼ね備えており、かつ当事者意識も強い方です。当時からバランスのよさが際立っていました。桜庭さんとの相性もバッチリでしたしね。齊藤さんがVarinosにジョインされるまで1年半から2年はかかったと思います。ようやく口説き落とせました。
齊藤:エムスリーやプリファードで、イチから事業を立ち上げ、手離れするところまで経験できたので、次はより小さなスタートアップで、自身の管掌範囲を広げて会社の成長にコミットしたいと思っていたんです。将来性のあるアイデアや技術をビジネス化しスケールするようなフェーズが自分の得意領域なので、その点、当時のVarinosの状況にもピッタリ符合していましたね。加えて、当時体外受精は自由診療だったため、医療業界における他の領域に比べて戦略変数が多く、会社規模や累積経験といった点でディスアドバンテージがあったとしても、大企業と戦いうる数少ない領域です。チャレンジしがいがあるテーマだと感じて入社しました。
齊藤さんは、河西さんにどんな印象をお持ちでした?
齊藤:経営者のウェットな部分に触れることを恐れず、暖かく見守るようなケアをしてくださる印象がありますね。「あれやれ」「これやれ」と上からモノを申すようなことがなく、経営者であるわれわれをリスペクトしてくださった上で、必要なケアを提供してくださる方だと思っています。
どんな支援が印象に残っていますか?
齊藤:いろいろありますが、とくに私はAngel Bridgeが投資先を集めて主催している「クロスラーニングの会」がとても気に入っています。
どんなところがお好きなんでしょう?
齊藤:クロスラーニング会はAngel Bridge投資先の経営者が集まり企業運営のノウハウや成功体験、失敗体験をざっくばらんに共有し合う場です。経営者は孤独な存在だとよく言われますが、実際、目の前にある課題に深く入り込めば入り込むほど視野狭窄に陥ってしまいます。でもこうした会合に参加することによって「悩んでいるのは自分だけじゃないんだ」「こんなやり方があるのか」と、実践した人しか語れない説得力のある話が聞ける。視野が開かれるようで、とてもありがたいんですよ。これまで2度参加しましたが、その都度、目から鱗が落ちるような経験をさせてもらいました。
河西:人事制度や評価制度をどうすべきかといったテクニカルな話から、経営者のメンタルケアについてまでいろいろな話題が出ますよね。
齊藤:そうですね。毎回ためになる話が聞けるので、お金をお支払いしたほうがいいのではと思うほどです(笑)。経営者同士が開襟を開いて話せる場ってなかなかありませんから、ぜひこれからも続けてください。
河西:私は投資先も含めてAngel Bridgeファミリーだと思っているので、それは嬉しい言葉ですね。身内同士で学び合えるのは相互扶助につながりますし、もちろん成長意欲を高める刺激にもなりますからね。私も長く続けていくべき取り組みだと思っています。
学び直す気概でスタートアップに飛び込んでほしい
齊藤さんは今後、Varinosをどんな会社にしたいですか?
齊藤:これまでは業界内でのポジショニングの確立を急いでいましたが、その取り組みが一定の評価を得る段階まできたので、今後は海外進出を含め新たな取り組みを加速させます。他の業界同様、医療業界も大きく変わりつつある一方で、まだまだレガシーな側面があるのは否めません。新たな手法やアプローチで業界の常識を打ち破り、Varinosを各界からベンチマークされるような企業にする。それが私の目標です。
河西:私たちとしても、困ったときにはいつでも手を差し伸べるつもりでいるので、これからも常に本音で話し合えるような関係を保っていきましょう。
齊藤:そうですね。これからもよろしくお願いいたします。
最後に、プロフェッショナルファームで積んだ経験をスタートアップで活かしたいと考える方にメッセージをお願いします。どんなことに注意するべきでしょうか?
齊藤:プロフェッショナルファーム経験者は、仕事の進め方や思考のフレームワークが共通するだけに、同質性が高い者同士でやりとりすることに慣れているように感じます。しかし、そのやり方をそっくりそのまま事業会社に持ち込んでも、すぐにはうまくいかないことが多いのではないでしょうか。業界ごとや職種ごとにそれぞれ考え方や仕事の仕方に特質があるからです。とくにスタートアップは成長途上にあり、その点も踏まえた上での環境作りからはじめる必要もあります。大所高所から経営を見渡すのも大事ですが、現場では普段何が起こっているのか、どんなモチベーションで働いているのか、まずはそれを知ることからはじめることをお薦めします。そうして既存のメンバーを巻き込み、スタートを切るのが重要です。個人的にはこれまで身に付けてきた常識を一旦忘れ、学び直すくらいの気概で飛び込むべきだと思います。もしそれだけの覚悟がありやり切れるのであればきっといい成果が残せるのではないでしょうか。
2023.09.08 TEAM
幼少期からドバイで暮らし、カナダ留学を経て投資銀行へ
髙橋さんの仕事内容を教えてください。どんなスケジュールで動いていますか?
仕事の割合でいうと、新規案件の目利きとソーシング活動に6~7割、既存の投資先への支援に1割、社内イベントやマーケティング活動に残りの2~3割を費やしています。1日のスケジュールとしては、朝9時に出社、国内外のスタートアップ動向をチェックした後に、投資先候補の方々との面談や検討案件の目利き、既存の投資先定例会への参加、社内マーケティング作業などを経て、退社するのは18時過ぎになることが多いです。その日にVC業界の交流会や飲み会があれば退社後に参加しますが、特にない日はジムやサウナにいって1日を終えます。
実は日本より海外に住んだ期間が長いようですね?
埼玉県で生まれて、小学校に上がるタイミングで親の仕事の都合でドバイに移住しました。小学校から高校卒業までの12年間をドバイで過ごした後に、カナダのトロント大学に留学しました。カナダには約5年間住んでいたので、日本より圧倒的に長い期間を海外で過ごしていますね(笑)。
投資銀行に入った背景を聞かせてください。
トロント大学に入学して最初の1年は数学と統計学のダブルメジャーを選考していました。しかし卒業後のキャリアがなかなかイメージできず、入学2年目に数学と経済学の要素が揃っていたFinancial Economicsに進路を変更しました。当時学内で実施されていた金融関係のセミナーに参加したところ、ハードワークである一方、若手のうちからM&Aや資金調達などの重要案件に携われる投資銀行の存在を知りました。自分を鍛えるにはもってこいの環境だと思い、サマーインターンでお世話になったBofA証券に入社しました。
BofA証券ではどんな案件にかかわっていたましたか?
入社1年目はいわゆる営業部隊であるカバレッジチームに配属され、再生エネルギー、自動車、テクノロジー業界を対象としたM&Aや資金調達の提案資料の作成や、案件執行のサポートに従事していました。2年目からは実際に案件を執行するM&Aチームの一員として、企業評価を算出するバリュエーション業務などに携わる機会が多かったです。
投資銀行出身者は、どんなセカンドキャリアを選ぶことが多いですか?
プライベートエクイティファンド(PE)やヘッジファンド(HF)など、金融業界におけるバイサイドに転職する人が一番多い印象です。その次に事業会社やスタートアップへ転職する方が多いイメージです。今まではベンチャーキャピタル(VC)に転職する人はあまり多くなかった印象ですが、最近はベンチャーキャピタルに転職する人が増えているように感じます。私が前職からAngel Bridgeに転職した年に、同期を含め数名の方々がベンチャーキャピタルに転職したと聞いています。
髙橋さんはどうしてベンチャーキャピタルに惹かれたのでしょう?
一番のきっかけは前職の同期のひとりがベンチャーキャピタルに転職を決めたことになります。その前まではベンチャーキャピタル業界について詳しくなかったので、積極的に話を聞いて勉強しました。創業間もないスタートアップの将来性を見抜き、リスクをとって投資した企業がメガベンチャーに育っていく姿を間近で見れたら面白いだろうなと。そのダイナミックさや社会的意義の大きさに惹かれました。大企業を相手にすることが大半の投資銀行ではそういった経験はできないと思い、転職を決めました。
信頼関係の構築なくして投資はできない
ベンチャーキャピタルといっても、規模や個性はいろいろです。なぜAngel Bridgeを選んだのですか?
Angel Bridgeの存在を知ったのはヘッドハンターからの紹介です。一度、情報交換しませんかといわれお会いしたのがパートナーの河西でした。話した際に凄く優秀だと思いましたし、何より人柄のよさが際立っていました。その後もパートナーである林を筆頭に、メンバーの皆さんとお目にかかる機会を作っていただき、Angel Bridgeのカルチャーに対して強いフィット感を感じました。皆さんプロフェッショナルファーム出身者で、仕事の進め方やカルチャーに馴染みがありましたし、少数精鋭で個人の裁量が大きいのも魅力的でした。Angel Bridgeはまだ少人数なこともあり、これから組織を大きくしていく段階なので、自社の組織作りにも関与できるのは貴重な経験だと思い、入社を決めました。
入社後、具体的にはどんな仕事に携わっていますか?
シニアアソシエイトの八尾とペアを組んで、既存投資先の支援や新規投資検討案件を通じて、ディールの全体の流れ、投資先の支援方法、検討案件の目利きの方法などについて幅広く学ばせてもらっています。私が自分でソーシング、目利きを行い投資まで至った案件はまだないので、はやく独り立ちできるようになりたいですね。
入社から3ヶ月(取材時)。率直な感想を聞かせてください。
前職とベンチャーキャピタルの一番の違いは、人と話す機会が非常に多いことですね。優れた起業家や有望なベンチャーと出会うには、ピッチイベントに出かけたり、人を介して紹介していただいたりとプロアクティブな行動が欠かせません。私は以前から人と話すのが好きなので、その点はまったく苦になりません。もうひとつ違いを感じるのは仕事のスパンですね。投資銀行時代はM&Aや資金調達(エクイティ、デット)など数ヶ月単位の仕事が多かったので、比較的短期間で案件がクロージングまで至ります。それに比べてベンチャー投資は息の長い仕事です。シード案件だとプロダクトも未完成、売上もゼロの状態から、ビジネスをつくり経営者が自走できるまで伴走します、フェーズやマイルストーンはあっても明確なゴールはありません。同じ金融の世界でも、見ている景色も、大事にしているものもまったく違う印象です。
投資銀行での経験が、いまの仕事に活きていると感じることはありますか?
複数案件を同時にこなしながら限られた期間内にアウトプットを仕上げること、また、開示されている財務数値から対象企業の分析をしてきた経験はとても役立っています。ただその一方で、起業家と一緒に事業戦略を検討したり、定性的な情報を見ただけで起業家やビジネスのポテンシャルを見極めたりする部分については投資銀行で経験してこなかった業務なのでまだまだです。経営や事業に対する解像度はまだそこまで高くないので、引き続き色んな案件を経験して、自分のスキルアップを目指そうと思っています。
いつかメガベンチャーの創出に携わりたい
Angel Bridgeの魅力は?
Angel Bridgeは、社員同士の仲が非常によく、社内イベントを開いて盛り上がることもしばしばです。バーベキューやゴルフ、フットサル、スカッシュなど、投資先を招いたイベントを通じて親睦を深めており、チームワークや団結力は非常に高いです。公私にわたる付き合いを通じて信頼関係を醸成できるのは、前職にはなかった魅力だと思います。Angel Bridgeのメンバーは、それぞれが別の強みをもつプロフェッショナルでありながら、互いに支え合う仲間でもあります。
私が入社した直後にチーム全体で歓迎会を主催してくれたり、誕生日をサプライズで祝ってくれたりもしたので、非常にチームを大事にしてくれているのもAngel Bridgeの魅力です。
髙橋さんにとって、ふたりのパートナーはどんな存在ですか?
人柄、仕事の両面でも尊敬できるロールモデルです。河西は事業の精査や分析に長けており、特にバイオ分野に強いです。面倒見もとても良く、チーム全員が成長できるようにコミットしてくれています。林はあらゆる業界に通じているだけでなく、人間的な魅力に溢れています。厚い人望があり、林が主催する会には業種問わず色々な方々が集まります。お二人とも気さくで話しやすく、自然と人が集まる魅力的な先輩方です。知見や経験、人脈の広さに加え、リーダーシップや面倒見のよさ、チームワークを尊ぶ姿勢——そのどれをとっても学ぶことばかりです。
どんな人と働きたいですか?
好奇心が旺盛でコミュニケーション力が高い人ですね。好機は向こうからやってくるわけではありませんし、どんなに優秀であっても相手から信頼されなければ投資は実現しません。ベンチャーキャピタルは色々な起業家、他ベンチャーキャピタリストなどと話す機会が非常に多いので、そういったコミュニケーションを楽しめる人が向いている職業だと思います。
今後の目標を聞かせてください。
まずは、自分でソーシングした案件を社内で通し、投資実行まで持っていくことが当面の目標です。投資実行後に、自分がかかわったベンチャーの成長に貢献できればと思っています。究極の目標は、自分の英語力や海外人脈を活かし、海外の機関投資家をLPとして巻き込んだり、必要に応じて投資先を海外事業会社や海外VCと繋げたりして、世界に誇るメガベンチャーの創出を実現すること。少し先の話になると思いますが、いつか実現させたいですね。
最後に髙橋さんが大事にしている信念を教えてください。
人生一度きりです。何事に対しても妥協せずやりきることを信念にしています。それをひと言で表すなら「妥協なき人生」になります。
カナダ留学中に、ニューヨークで投資銀行で働きたいと考えた時期がありました。あるとき現役のバンカーに相談しようと思い立ち、LinkedInでピックアップしたバンカーたちに自己紹介とプレゼン資料をメールで送ったことがあります。最終的に300人以上にメールを送り、返事がいただけたのは15人で、実際にニューヨークでお会いできたのは5人でした。結果的にはビザの関係で日本での就職を選びましたが、とても有益なアドバイスをいただけました。これまでにやったことがないことであっても、妥協せずやり抜けば価値あるものが得られる。それを知れただけでもやってよかったと思います。これからも妥協せず貪欲に挑戦し続けるつもりです。
2023.09.05 INTERVIEW
最新の研究成果をいち早く医療現場に届ける
Varinosの事業内容を教えてください。
平川:Varinosは、高速でDNA配列を解読する次世代シークエンサーを用いたゲノム検査サービスを提供するバイオベンチャーです。現在は医療機関から送られてくる検体を自社ラボで解析し、その結果を不妊治療に活かしていただく一方、妊活に役立つサプリメントや検査キットの提供なども行っています。
競合の状況はいかがですか?
平川:現在、海外に類似サービスを手掛けている企業が1社ありますが、いまのところ国内の競合もその1社のみとなります。(2023年8月現在)。
ゲノム検査を手掛ける企業は数多くあります。なぜ競合が少ないのでしょう?
平川:最新の研究成果をもとにしたサービスだから、というのが大きな理由です。それまで無菌とされていた子宮内に細菌叢が存在することがわかったのが2015年で、子宮内の細菌叢に善玉乳酸菌の比率が低い場合、体外受精の成功率が下がるという研究結果を発表されたのが翌年の2016年のことでした。Varinosは2017年2月に創業し、その年の12月に子宮内フローラ検査の実用化に成功しています。最新の研究成果を圧倒的なスピード感で実用化に漕ぎ着けられたのは、創業者である桜庭喜行と長井陽子がゲノム研究のエキスパートであったからです。さらにサービスの実用化をいち早く実現したことにより、検査数はすでに2万検体を突破しており、いち早く先行優位性を獲得できたことも競合の少なさにつながっていると思います。
予備校の恩師の助言で監査法人からベンチャーへ
そもそも平川さんは、なぜ公認会計士になろうと思われたのですか?
平川:高校時代は剣道一筋で、インターハイで8位入賞するくらい入れ込んでいました。当時は剣道の強豪校に進もうと思っていたのですが、推薦を受けられず大学進学を諦めざるを得なかったんです。それで給料のよかった地元のパチンコホールに就職し、5年ほどたったころだったでしょうか。「このままでいいのかと」と考えるようになり、パチンコホールを辞め資格予備校に通い出しました。高校時代に簿記2級を取っていたので、1級を取ってからその先の人生を考えようと思ったんです。予備校に通い出してしばらくたったころ、先生から「予備校でバイトすれば学費が免除になる」と教えてもらい、それなら簿記よりも難しい公認会計士資格を目指そうと思ったのが資格を取るきっかけになりました。
平川さんは、公認会計士試験合格者として監査法人PwCあらたでご活躍後、3社のベンチャー企業を経てVarinosに参画されました。なかでも、2015年から19年まで在籍された不動産テックのGA technologies社では、取締役経営管理本部長としてIPOの実現をリードし、いまや同社は売上高1,000億円を超える大企業です。結果からすると素晴らしい成果だと思いますが、監査法人での安定したキャリアを捨てるのは勇気が必要だったのでは?
平川:安定志向で監査法人に入ったのであればそう感じたかもしれません。でも私の場合、いずれベンチャーにいくつもりで監査法人に入りました。公認会計士の資格を取るために通っていた予備校の先生からの影響です。
予備校の先生から、どんな言葉をかけられたのですか?
平川:公認会計士の知識が活きるのは監査法人だけではないといわれたんです。公認会計士資格を取るには4科目の短答式試験と5つの論文式試験をクリアしなければなりません。会社法に至っては弁護士資格並の知識が求められるのに、監査法人で主に使うのは会計学と監査論のふたつだけ。その先生から、企業のバックオフィスを支えるほうがはるかに公認会計士の実力が磨かれるし、ダイナミックで面白い世界が体験できるといわれて、なるほどなと。事業会社のなかでも組織が小さく、ひとり一人の裁量が大きいベンチャーならさらに面白い経験ができそうだと思いました。
監査法人ではどんなお仕事をされていたのですか?
平川:将来、事業会社のバックオフィスを支えるとしたら、財務会計だけでなく適切な業務プロセスやリスク管理などについても熟知しておく必要があります。そのためメガバンクを顧客とする内部統制の評価支援業務プロジェクトを通じて、ベンチャーでも活かせる知識や経験を育みました。
求めていたのはイノベーションを起こすベンチャー
目指していかれたとはいえ監査法人とベンチャーでは環境がまったく異なりますよね。理想と現実のギャップに苛まれたこともあったのでは?
平川:そうですね。でも、それは入る前からわかっていたことですから、環境が違うことに憤ったり、仕事を選り好みしたりするつもりはありませんでした。CFOは決算書を語るのではなく決算書をつくる責任者です。組織をどう動かせば決算書にいい変化が起こせるか考え実行するのが仕事でもあります。日々の帳簿付けから経費精算、請求書の発行、入金や振込確認など経理実務に加え、営業同行に忙殺された時期もありましたが、それでもあまり苦にせずやりきれたのは、それをやることが組織のなかで必要だと思ったからに過ぎません。たまたま仕事を通じて知り合った公認会計士資格をお持ちのCFOからも「ベンチャーに入ったからには、会社の成長に必要なことは何でもやるべき」といわれていたので、それが当たり前だと思っていたというのもあります。
平川さんは、GA technologiesを皮切りに、その後もキャスターやRecro、そしてVarinosとベンチャーのCFOとしてキャリアを重ねてこられました。平川さんはどんな基準でご自身がコミットするベンチャーを選ばれてきたのですか?
平川:自分では「リノベーションではなく、イノベーションを起こすベンチャー」を選んできたつもりです。世の中を便利にするだけでは飽き足らず、これまでにないものを生み出そうと意気込んでいる企業を支えるのが自分の使命だと思っているので、そうした志がある企業かどうかで判断してきました。
Varinosに参画されたのは改めてIPOを目指したいと思われたからですか?
平川:そうですね。株式上場を経験後、複数のベンチャーで各種規程の策定や運用、M&Aや資金調達などにかかわる機会を得て、CFOとしてのキャリアに厚みを持たせることができました。ここで改めてIPOを達成すれば、これまでの経験を整理できるだけでなく、再現性のある取り組みだったことを証明できます。だからこそ先駆的な取り組みを行っているベンチャーで経験を積んできたわけです。もちろんVarinosを選んだのは、文字通りイノベーティブな事業を手掛けているからにほかなりません。
希有な経歴と実績に惹かれ、贈られたラブコール
Varinosとの出会いについて教えていただけますか?
平川:前職のプロジェクトが一段落したタイミングで、エージェントに相談したところ河西さんを紹介されました。それがVarinosとの出会ったきっかけです。
河西さんはいつからVarinosとお付き合いがあるのですか?
河西:以前から桜庭さんの評判を聞いており、ゲノム解析の領域で起業すると聞き「あの桜庭さんが起業するなら」ということで早々に投資を決め、私自身、いまも社外取締役にも名を連ねています。創業間もなくからのお付き合いですから、もはや身内のような立場です。
そんな経緯もあって、平川さんにお会いすることになったわけですね。
河西:はい。投資先支援の一環として普段からエージェントの皆さんとお付き合いしており、そのなかで平川さんをご紹介いただきました。ご経歴をひと目見るなり「VarinosのCFOにぴったりな人材」だと思いましたね。平川さんは公認会計士試験に合格された経緯もさることながら、創業間もないベンチャーをIPOに導き、1,000億円企業への礎を築かれました。監査法人での経験に加え、ベンチャーにおける財務会計、経理の実務に通じており、しかもIPOを成功させている。CFOとしてはかなり希有な存在といえます。ぜひCEOの桜庭さんと引き合わせたいと思って、私からラブコールを送りました。
平川:私自身、以前から少子高齢化問題を通じて、医療やヘルスケアテック領域に関心があったので、お声がけいただいたときはとてもうれしかったですね。でも、河西さんとお会いするのは正直躊躇しました。東大大学院で遺伝子工学を学ばれ、ゴールドマン・サックスやベインキャピタル、ユニゾン・キャピタルを経て、ご自身でAngel Bridgeを立ち上げた投資の専門家です。とても緊張したのを覚えています。
実際にお会いになっていかがでしたか?
河西:実際にお会いしてみた第一印象は、ご経歴から受ける印象とはまったく違って、とても温和で接しやすい方でした。CFOは数字を管理する能力に長けているだけではダメで、社内外の人たちと健全な人間関係を築けなければ務まりません。その点、平川さんはベンチャーの現実を踏まえた上できちんと理想を追求できる人とお見受けしました。ここまでバランスがいい人材にはそうそう出会えませんから、面談後、桜庭CEOに「ぴったりの方を見つけました!」と、興奮気味にメールを送ったのを覚えています。
平川さんはいかがでしたか?
平川:私も河西さんもご経歴から受ける印象とは違い、すごく話しやすい方だなというのが第一印象でしたね。バイオや資本施策に関する知識が豊富であるにもかかわらず、押し付けがましいことは一切なく、常に私たちの考えや希望を聞いた上で的確なアドバイスをくださいます。その印象はいまも変わりません。だからこそ長くお付き合いできるのでしょうね。
Angel Bridgeにしかできない相談がある
普段、Angel Bridgeとはどんなお付き合いを?
平川:毎月の役員会や定例ミーティングで、さまざまな課題を一緒に検討して頂いています。Angel BridgeがほかのVCと違う点があるとすれば、直近の数字や実績についてだけではなく、不確実性の高い中長期的な戦略や課題などについて、腹を割って話せるところですね。IPOがゴールだと考える投資家が多いなか、その先を見据えて必要な情報や知見を提供してくださるので、Angel Bridgeにしか相談できない相談事は実はたくさんあるんです。先ほど河西さんから「身内」という言葉が出ましたが、まさにおっしゃる通りで、最近も営業資料に手を入れていただいたり、新オフィスへの移転を記念して投資家向けの内覧会を勧めて下さったりと、微に入り細に入りさまざまな面で助けていただいています。
河西さんはどんなことを意識して支援されているのですか?
河西:創業期から一緒に歩んできているので、我が子の成長を見守るような気持ちで接しています。褒めるべき点は褒めますし、耳の痛い話であってもオブラートに包むことなく率直に話せるのは、しっかりとした人間関係が確立されているからです。良いときも悪いときもずっとそばにいるつもりですので、本音で話し合える仲間だと思っています。
平川:私たちもファミリーの一員として迎えてくださっている感覚がありますね。フォーマルなミーティングだけでなく、ゴルフやフットサル、バーベキューなどAngel Bridgeの投資先を交えたイベントも頻繁に企画してくださったり、COO兼CSOの齊籐のように河西さん経由で優秀な人材を紹介してくださったりと、公私にわたるご支援には本当に感謝しています。
河西:Varinosのような将来性のある企業に対し、資金だけでなく人的貢献ができるのは私たちにとってもうれしいことです。今後も引き続き成長の過程で必要なリソースを提供できるよう末永く支援を続けていければと思っています。
VarinosからAngel Bridgeに期待することは?
平川:私自身、IPO後の成長をどう牽引すべきか未知数な部分があるため、河西さんを筆頭にAngel Bridgeの皆さんには、資本施策への助言はもちろん、事業展開やサービスの拡充、さらには組織拡大など、IPOの先の成長を見据えた支援に期待しています。
平川さんご自身はVarinosをどんな会社にしていきたいですか?
平川:子宮内フローラ検査の普及をきっかけに、オーダーメイド医療の発展に貢献していきたいですね。業界のパイオニアとしてしっかり利益を出し、持続可能なビジネスを確立しなければと思っています。個人的には国内外の有望なバイオベンチャーを集め、CVC(コーポレートベンチャーキャピタル)を組成し、この業界を盛り上げられたらと思っています。
監査法人など、プロフェッショナルファームにいらっしゃる方にメッセージをお願いできますか?
平川:ベンチャーはリスクが大きい選択だと思われる方がいるかもしれませんが、それはもはや過去のものになりつつあります。むしろ国家資格という強い武器があるからこそ選択できるキャリアがあるはずです。この世界に興味があるならぜひチャレンジしていただきたいですね。
河西:実際、平川さんのように監査法人からベンチャーをはじめとする成長企業のCFOに転身されるケースが目に付くようになりました。しかしその一方で、志半ばで諦めてしまう方も一定数おられます。ベンチャーで成功するには何が必要ですか?
平川:一番大事なのは変化への対応力でしょう。もちろんプロフェッショナルとして知識や経験を駆使して我を通さなければならない局面はあります。しかし社会情勢の変化に対して大胆な選択を迫られることが多く、朝令暮改すら日常茶飯事なのがベンチャーです。その変化に翻弄されてしまうとツラいでしょうが、変化を受け入れ楽しめる人にとっては、これほどダイナミックで面白い環境はありません。
河西:平川さんを見ていると、自分が決めた役割や肩書きに固執しないことも重要だと感じますね。
平川:おっしゃる通りですね。ベンチャーのCFOはデスクの前にふんぞり返っていては役割は果たせません。企業によって程度の差こそあるでしょうが、泥臭い仕事を厭わない覚悟は必要でしょう。自分の役割の範囲を決めず何でもトライしてやろうという気概をもって、会社の屋台骨を支えるのは難しくもあり、楽しい仕事なのは間違いありません。
2023.07.21 INTERVIEW
2019年創業の社債専門のネット証券会社「Siiibo証券」
Siiibo証券の事業内容を教えてください。
宮崎:Siiibo証券は社債に特化したネット証券会社です。資金調達のために社債を発行する企業と投資家を結ぶオンラインプラットフォームを運営しています。
他の証券会社で扱っている株式や社債との違いは?
宮崎:社債も株式も、企業にとって重要な資金調達の手段ですが、その位置づけは似て非なるものです。株式がエクイティファイナンスの手段であるのに対し、社債はデットファイナンスの一種。とくに私たちが扱っているのは社債のなかでも、不特定多数の投資家から数百億から数千億円規模の資金を集める「公募債」ではなく、49人までの限定された投資家から数千万から数億円規模の資金を募る「私募社債」です。公募債に比べ、手続き面や金銭的コストを抑えられるため、大企業でなくても利用しやすいというメリットがあります。Siiibo証券は、伸び盛りの成長企業に資金調達の手段を提供し、個人投資家には新たな投資先の選択肢を提供するため、2019年に創業されました。
競合状況はいかがですか?
社債に特化したネット証券会社はいまのところ当社のみで、直接的な競合は存在していないと認識しています。ただ、企業の資金調達手段という広い意味の競合では、株式投資型クラウドファンディングやソーシャルレンディング、デットファンド、レベニュー・ベースド・ファイナンスなどが挙げられます。私募社債は、多様化する資金調達手段における選択肢のひとつという位置づけです。
なぜ直接競合が存在しないのですか?
宮崎:まず、私募社債を取り扱うにあたって必要な「第一種金融商品取引業」に登録する難しさが挙げられます。とくに新興FinTech企業にとって事業の先行きが見通しづらいなか、登録要件に定められた自己資本比率規制を満たし、組織体制を整えるのはかなり厳しいハードルです。一方、すでに一種業登録が済んでいる証券会社がなぜ積極的に注力しないかというと、既存の公募債事業に比べて規模の小さい私募債は、短期的には収益の上がりにくいビジネスだから。個人的にはこうした構造が事実上の参入障壁になっていると思います。
なぜ、高いハードルがあるにもかかわらずSiiibo証券は参入障壁を突破できたのでしょう?
宮崎:一言で申し上げれば「やりきると決めたから」ですね。そもそもスタートアップ市場の盛り上がりや、分散投資に対する関心の高まりを見れば、社債の活用はもっと広がってしかるべき。発行企業、投資家の双方にメリットがあるのは明らかですし、テクノロジーを活用すれば、コストを抑えながらも法規制に則った形で、発行企業と投資家をつなぐオペレーションが実現できる。それなら、登録完了までは本業で売上を立てられないというリスクを取ってでもやりきろうという意志があったからこそ、ハードルを乗り越えられたのだと思います。
VCの代表を務める河西さんの目にはSiiibo証券の魅力はどう映りますか?
河西:Siiibo証券は企業と投資家双方のニーズをマッチさせるこれまでにない金融プラットフォームです。これだけスタートアップが増えているにもかかわらず、事実上、一部の企業や投資家にしかアクセスできない私募債の市場をより多くの人たちに開くことになるわけですから、非常に有意義な取り組みだと感じています。社会的にも大きな意味があると感じ投資させていただきました。
マッキンゼーで体得した、スタートアップ経営に欠かせない力
宮崎さんは、東大大学院の工学系研究室を修了し、マッキンゼーを経て、Siiibo証券にジョインされたと聞いています。
宮崎:中学高校時代は天文部に所属しており理系学部を志望していたのですが、興味関心と得意科目が合わず、悩んだ末に法学部に進学しました。入学してはみたもののやはり法学にはあまり興味が持てず。思い切って後期過程で理系に転じ、大学院では、シミュレーションとビッグデータ解析の研究室で計算社会科学を学びました。研究対象は社会、つまり人間の集団行動なので、文系的なテーマに理系のアプローチで取り組めるのを面白そうに感じたこと、またものづくりへの憧れもあったので、ソフトウェアの力で社会に貢献できるかもしれないと思い選んだ研究室でした。ただ、結局職業としてエンジニアは向いていないと感じ、社会に出てからどのような分野で価値を出すことを目指すべきなのか、なかなか方向性が定まりませんでした。
マッキンゼーに入ったのはなぜですか?
宮崎:企業やビジネスを通して人間と向き合うコンサルの世界に興味を持ちましたが、面接で出会った方もクライアントのため、後進の育成のために自己研鑽を怠らない方ばかりで魅力的だったのが一番の理由です。幼い頃から要領がよく、与えられた課題を解くのが得意だった一方、テストでいい点を取るような人生に疑問も感じていたので、企業という人間の社会的行動の中から発生する課題への解決策を導くコンサルタントに惹かれたのだと思います。
マッキンゼー時代に身につけたスキルや経験で、いまの仕事に活きると思われるものは?
宮崎:一筋縄では解けない難題であっても、何度も仮説検証サイクルを回して粘り強くブラッシュアップし続ければ、解決策が見つかることを身を持って体験できたことですね。このほかにも、知見がない状態から情報をキャッチアップする力、不確実な状況のなかでも一度形にする力、トライしてダメでも新しいアプローチを試みるフットワークの軽さや変化に対する耐性、適応力などもマッキンゼーで体得したスキルです。どれもスタートアップの経営にも共通するスキルだと感じます。
河西:調査したり検討したりする時間も大事ですが、実際にやってみなければわからないことが大半です。まさに、仮説を立ててアクションを起こし、もしダメでも諦めず別の道を探るというのはまさに成功するスタートアップのあるべき姿とも重なります。マッキンゼーで素晴らしい経験をされたんですね。
宮崎:はい。ある程度形にできたら走り出して走りながら考えるというのは、スタートアップやコンサルに共通する価値観でありマインドだと思います。
そんな宮崎さんがマッキンゼーのあとに選んだのはSiiibo証券でした。理由を聞かせてください。
宮崎:あるとき大学院時代の同級生で弊社の代表を務める小村(和輝)から「週末だけでも手伝ってほしい」といわれたのが、Siiibo証券に入るきっかけでした。
河西:いずれ入社する心づもりで手伝いはじめたのですか? それとも手伝ううちに徐々に気持ちが変化してお入りになった?
宮崎:それで申し上げると完全に後者ですね。私はどちらかといえばゼネラリストで裏方気質。自分で起業するよりも誰か熱いパッションを持った人を支える立場の方が役立てるだろうなという思いは以前から持っていました。でも小村と違い私には金融のバックグラウンドはありません。小村のやろうとしているビジネスが本当に解くべき課題かどうか最初のうちは判断がつかなかったんです。しばらくの間、仕事の合間を縫ってミーティングの議事をまとめたりタスクの進捗を管理したりするうち、徐々に個人向け社債市場の小ささや、需給の間を取り持つシステムの必要性を痛感して考えが固まりました。
公私にわたるお付き合いで深まる信頼関係
改めて、現在、宮崎さんはSiiibo証券でどんな職務を担っていらっしゃいますか?
宮崎:代表と協力して経営方針の策定にも関われば、採用や社内制度・プレゼン資料作りにも携わりますし、ときには関係当局との対応を行ったり、関連法規を読み込んでエンジニアと一緒にシステムの仕様を考えたりすることもあります。スタートアップのCOO(最高執行責任者)は、社内における最後の砦。それだけに業務範囲は多岐にわたります。今の事業ステージだと、同じCOOでも「チーフ・オペレーティング・オフィサー」というより、何でも屋に近い「チーフ・アザーズ・オフィサー」なのかもしれません。
Angel Bridge との出会いについて教えてください。
宮崎:2021年の夏にお会いしたのが最初でしたね。
河西:はい。Siiibo証券さんのメンバーと私どもの投資先のメンバーに共通の知人がいらして、その紹介でお会いすることになりました。実は面会のお約束をいただく前からSiiibo証券の存在は耳にしており、近々ぜひお会いしたいと思っていたんです。実に絶妙なタイミングでの出会いでした。
宮崎:河西さんは「われわれのことも知っていただきたいので」とおっしゃって、早々にメンバーの皆さんを伴ってオフィスを訪ねてくださいましたよね。お会いした3か月後にはシリーズBラウンド投資にも参加してくださいましたし、意志決定はどのVCよりも早かったのが印象に残っています。
河西:そうでしたね。ネット証券会社をゼロから立ち上げるのは並大抵のことではありません。それにもかかわらず、すでに第一種金融商品取引事業者登録も済ませておられましたし、代表の小村さん、宮崎さんをはじめとした、経営チームの皆さんの優秀さに惹かれました。困難をものともせず課題に真正面から向き合っている姿を見て「決して途中で投げ出すことはない」と、確信しました。これはご支援しないわけにはいきません。そんな気持ちが、意志決定の早さに表れたのだと思います。
Angel Bridgeからはどんな支援を受けていますか?
宮崎:取締役会の運営についてご支援いただいたのが最初です。シリーズAからシリーズBに移るタイミングは、カルチャーや制度を含め、アーリーステージからの脱却が課題になります。河西さんをはじめ、Angel Bridgeの皆さんには、アジェンダの設計、報告すべき内容、KPI、討議すべき課題の優先順位など、他社の事例を交えながら丁寧にレクチャーしていただきました。現在は引き続き定例ミーティングで助言をいただいているほか、代表の小村の相談相手として力強いサポートをしていただいています。
Angel Bridgeが、他のVCと違うと感じる点があれば教えてください。
宮崎:バーベキューやお食事会を開いてくださったり、フィンテック業界以外の起業家を交えた勉強会にお誘いいただいたりと、相互理解を深めることに気を配ってくださってくださるおかげで、私たちのことを人間性を含めて一番よくご存じのVCという印象です。プロフェッショナリズムには信頼できる人間関係が欠かせないと思われているからこそ、公私にわたるコミュニケーションを大切にされているのだと感じます。
河西さんは宮崎さんのお人柄をどう見ていらっしゃいますか?
河西:代表の小村さんがグイグイとビジネスを引っ張っていくタイプに対して、宮崎さんはコミュニケーション能力高く社内の潤滑油のような存在だと思っております。小村さんのアイデアや構想を受け止め、周囲を巻き込みながら着実に実務に落とし込み実行に移していく。そんな実務家でありながら、一方で周囲に気配りができる方。そんな印象を持っています。
宮崎さんは河西さんの人となりを、どんなふうにとらえているんですか?
宮崎:河西さんはバイタリティがあり投資の目利き力がありながら、投資先に対して課題や問題点を指摘するにしても相手にストレスを与えずフランクにアドバイスしてくださるので、不安が先立つことが多いスタートアップの経営陣には良きメンター的な存在です。
「社債といえばSiiibo証券」といわれる会社に
宮崎さんはこれからSiiibo証券を通じて、どんな社会を実現したいですか?
宮崎:貯蓄から投資へと日本人の資産形成のあり方が大きく変わりつつあります。これからも引き続きSiiibo証券を通じて、社債のメリットを広く社会にお伝えしながら、発行企業、投資家双方に有望な資金調達・投資の選択肢を提供したいと思っています。その結果「社債といえばSiiibo証券」といわれるようになれたらうれしいですね。
Angel Bridgeは、これからどんなバックアップを提供されますか?
河西:これまで通り資金面や事業面でのご支援はもちろん、精神的な面からも積極的にサポートを提供しながら、より深いレベルで信頼関係を築ければと思います。宮崎さんがおっしゃるように「社債といえばSiiibo証券」といわれるよう、私たちも助力を惜しまないつもりです。
最後に現在プロフェッショナルファームや投資銀行などにお勤めで、スタートアップに関心をお持ちの読者にメッセージをお願いします。
宮崎:スタートアップに飛び込んだ途端、会社の看板がなくなり、自分の身ひとつで課題と向き合うことになります。きらびやかで華やかなイメージがあるかもしれませんが、むしろ泥臭いことのほうがはるかに多いので、ゼロから学び直す気持ちでチャレンジしたほうがいいように思います。スタートアップは細かい失敗と挫折の連続です。特に経営者としてくじけずやりきるには「この人たちのためなら、どれだけしんどくても頑張れる」と思えるテーマや信頼し合えるメンバーでビジネスをすべきではないでしょうか。もしそんな人と出会えたら、スタートアップにジョインするチャンスかもしれません。
河西:答えが見えない大きな課題に挑むのは、コンサルをはじめプロフェッショナルファームもスタートアップも同じです。取り組むべき課題を見つけたなら、宮崎さんのようにどんどんチャレンジしてほしいですね。Angel Bridgeはこれからもアグレッシブな起業家マインドを持ったビジネスパーソンを応援し続けます。
2023.07.03 ACADEMY
前回のスタートアップアカデミー#5-1では、Angel Bridgeが行うハンズオン支援の「組織」についてご紹介しました。
本記事では、Angel Bridgeが行うハンズオン支援の「事業・ファイナンス・経営のPDCAサイクル」について詳しく説明していきます。
1. 事業支援
「事業(モノ)」に関する支援では、企業の戦略策定に向けた壁打ちと顧客紹介を主に実行しています。
戦略策定の壁打ちでは何をしているのか?
月次定例会の中で戦略策定の議論を行い、事業戦略やIPO、資金調達などの様々な経験を生かしたアドバイスをします。Angel Bridgeのメンバーはコンサル・投資銀行出身者が多く、その経験を活かして経営課題の特定やKPI設計のサポートを行います。
具体例として、価格感度分析を行ったLocusBlueの事例があります。
以前LocusBlueの宮谷CEOにインタビューした時、次のようにおっしゃっていました。
宮谷:以前、価格体系を見直すにあたって、何を基準に妥当な価格を決めるべきかわからず悩んでいたとき、Angel Bridgeさんから「価格感度分析をやってみませんか」と提案いただいたことがありました。顧客に送る調査項目のリストアップから分析資料の作成までテキパキと進めてくれたおかげで、私は調査票をお客様に送って結果を聞くだけ(笑)。以前から数値分析に強い方々とは聞いていましたが、そのクオリティの高さはまさに戦略ファーム品質で感動を覚えるほどでした。
(参考記事:元エアバスの技術者が狙う建設DX [ローカスブルー宮谷聡代表 × Angel Bridge 林])
このような形でAngel Bridgeは戦略策定において投資先企業に対し、豊富な経験を活かしてプロジェクトベースで様々なアドバイスやサポートを提供しています。
顧客先の紹介事例
顧客先の紹介では、製品・サービスの営業先など、今後の事業拡大に役立つ可能性のある企業を紹介します。ベンチャー企業はまだ信頼が不足しており、ネットワークも脆弱で自社でリーチできないケースも多いため、VCが補っていくことが必要でしょう。
Angel Bridgeが行った営業先の紹介の一例として、飲食店DXサービスを手掛けるベンチャー企業であるGoalsの新たな導入先への営業支援が挙げられます。Angel Bridgeでは、自身のネットワークを活用してGoalsに対して飲食店の営業先を紹介しました。数十~数千の店舗を持つチェーン店でも、食材発注システムの内製化は難しくDX化がまだまだ進んではいないというのが現状です。以前Goalsの佐崎CEOにインタビューした時、次のようにおっしゃっていました。
佐崎:経営に関する課題についてご助言いただいているのに加えて、食品業界に豊富な人脈を持っていらっしゃる、パートナーの林さんのご助力で、大手外食チェーンの経営陣にお引き合わせいただくなど、特に営業活動の面で多大な支援をいただいています。
河西:林からはお客様候補をご紹介させていただき、私からは共有いただいた経営指標をもとにした数値分析や業界分析など、主に経営や営業戦略の面からサポートさせてもらっています。経営のPDCAサイクルを回す上で必要な支援は可能な限り行うというのが私たちの方針です。
佐崎:毎回、大所高所に立った視点でアドバイスしていただけるので、発見や気づきが多く、いつもディスカッションの時間が楽しみです。おかげさまで、当初は和食チェーンを運営するお客様が1社のみという状況でしたが、現在は上場企業を中心に20社ほどのお客様にご利用いただくまでになりました。Angel Bridgeさんのご支援にはとても感謝しています。
(参考記事:AIで食品業界の未来を変える [Goals 佐崎CEO× Angel Bridge 河西])
このような形でAngel Bridgeは顧客先支援も積極的に行っています。商談成功のためには、取締役や経営企画室の方に直接アプローチする事が重要となります。スタートアップだけではなかなかアプローチできない経営層の方を多数お繋ぎし、1,000店舗を超す大手飲食チェーン店の成約にも成功しました。MRRでは300万円と大きく売上に貢献しました。
2. ファイナンス
実践的な調達支援
Angel Bridgeは資本政策の策定や追加の資金調達支援も行います。特に、シードアーリー段階で投資を受けたベンチャー企業にとっては、次の成長段階での資金調達計画が重要です。具体的にはベンチャー企業と協力し、適切な資金調達の時期・金額を検討します。事業計画やピッチ資料の作成をサポートしたり、相性が良さそうなVCや事業会社をリストアップし、ベンチャー企業のニーズに合わせてお繋ぎします。
バイオベンチャーのHeartseedがその一例です。次ラウンドの出資先を探すにあたって、まずリード投資家となり得るVCを探しました。特にHeartseedは大規模な資金調達が必要なため、次のラウンドでも投資が可能なディープポケットのVCに優先的にアプローチしました。次に事業シナジーがある事業会社などもHeartseedに紹介し、大手製薬会社、医療機器メーカー、医療系卸売企業から資金調達を行いました。これまで計5回、累計102億円の資金調達に貢献しました。
IPO支援とは何をするのか?
Angel Bridgeは、ベンチャー企業のIPO支援も行っています。ベンチャー企業はIPOの経験がないことが多いため、成功確度を高めるために必要なノウハウやベストプラクティスを提供します。IPOの際には、適切な主幹事証券や監査法人を選ぶことが必要です。そのため、複数の証券会社から提案書をピッチしてもらい、証券会社のチームやエクイティストーリーに基づいて決定します。さらに主幹事証券の決定の手助けに加えて、その後のエクイティストーリーの作成においてもサポートを行います。このようにAngel Bridgeはベンチャー企業のIPOを成功に導くため、幅広い支援を提供しています。
3. 経営のPDCAサイクル
経営のPDCAとは
「経営のPDCAサイクル」に関する支援はヒト・モノ・カネをどう回すかといった経営のOS(オペレーティングシステム)のようなものです。取締役会を起点に株主も巻き込んだ年12回の大きなPDCAサイクルを回す体制の構築を支援します。会社の羅針盤となるKPIの設計や経営の見える化など、組織としての運営体制を経営陣と共に作り上げていきます。
図のように会社内のピラミッド構造に基づいた会議体を設計し、現場と経営陣の間、および経営陣同士のフィードバックを円滑に行うことを促進します。
Angel Bridgeは、このような形で経営のPDCAサイクルを確立するための取り組みを行い、ベンチャー企業の成長を支援しています。
経営のPDCAサイクルはなぜ重要か?
経営のPDCAサイクルは、経営陣が組織を適切に統率し、持続的な成長を実現するために不可欠なツールです。組織の人数の観点から経営のPDCAサイクルの重要性を深掘りしましょう。
組織人数が30人未満のシード期の場合、事業スピードが重視されるため、経営者と従業員の距離は近く従業員は比較的横並びの組織構造をしています。しかし、このままでは人的リソースが制限されるため、組織を大きくしていく必要があります。ここでよく言われるのは、「30人の壁」問題です。なんとなくで上手く従業員をまとめ上げてた経営者の多くは従業員が30人になった時に躓きます。乗り越えるためには、仕組みで支えられた経営へ早期に移行する必要があるのです。
KPIの設定と会議体の設計が適切に行われていると、執行の細部までマイクロマネジメントを行わなくても企業全体の状況が把握できます。社内メンバーに「権限移譲」ができ、経営者が一人で全てを見る必要が無くなるため、今後の成長戦略など特に経営者が取り組むべきことにリソースを注力できます。
さらに、経営のPDCAサイクルが上手く回っていると、IPOを達成した後の株主に対する適切な情報開示も円滑に行うことができます。
4. ステージごとの支援内容
Angel Bridgeはシード期からIPOまで一貫した支援メニューを提供しています。これまでに説明したハンズオン支援を、企業のステージごとに振り返りっていきましょう。
まずシード期は事業戦略の壁打ちを行ったり、実証実験の相手先のご紹介を行います。アーリーステージに差し掛かり、次の資金調達が近づくとそのサポートを行います。さらに調達した資金を使って事業が成長してくると、経営人材採用支援や事業提携先の紹介を行います。ミドル/レイターに入るとIPOに向けての人材採用支援、そして引き続き資金調達支援も行います。IPOが数年後に見えてきた際には、監査法人の選定・主幹事証券会社の選定・エクイティストーリー構築支援も行っていきます。
さらに、これまで行っていた定例会がIPO準備のタイミングになると取締役会へと移行していきます。取締役会に移行してからも経営のPDCAサイクルがより一層回るよう支援します。
このような形で投資したタイミングからIPOまで一貫したサポートをAngel Bridgeは実施しています。
5. まとめ
前回から引き続き、組織、事業、ファイナンス、経営のPDCAサイクルの4つの側面からAngel Bridgeのハンズオン支援を説明してきました。Angel Bridgeは単なる資金提供に留まらず、豊富な経験とネットワークを活かし、ベンチャー企業と共に走り抜けるパートナーとしてサポートしています。
VCと言っても投資先企業とのかかわり方は、多種多様です。最近ではSNSやブログ記事、イベントなどで積極的に情報発信しているVCも多いので、簡単にチェックすることができます。投資先の企業から評判を聞いたり、知人のツテを使うなど情報収集を行いましょう。アプローチ方法としてはツイッターアカウントへのDM・オフィスアワーへの申し込み・HPへの問い合わせ・人づての紹介・イベントへの参加など様々考えられます。後悔のない資金調達ができるよう、最大限活用していきましょう。